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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

Posted on 2025年6月4日2025年6月4日 by cool-jupiter

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』 50点
2025年5月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:奥平大兼 出口夏希
監督:中川駿

 

『 君の膵臓をたべたい 』の住野よる原作、『 カランコエの花 』の中川駿監督ということでチケット購入。期待はやや裏切られた感じ。

あらすじ

大塚京(奥平大兼)は三木直子(出口夏希)に恋心を抱いていた。しかし、一方で単なるクラスメイトの男子としてのポジションにも満足していた。しかし、不登校だったとあるクラスメイトが学校に帰ってきたことで、京の周囲の人間関係が少しずつ動き出し始めて・・・

ポジティブ・サイド

はっきりとは覚えていないが、Jovianは保育園の年長ぐらいまでは、自分の気持ちも他人の気持ちも目に見えていた。より正確に言うと、AがBに怒っていると、AからBに赤い光線が走る、CがDに感謝しているとCからDに白い光線が走る、のように見えていた。まあ、イマジナリーフレンドのようなもので、自分だけに見えて、自分だけにリアルに感じられるものだったのだろう。小学校に入学したとたんに一切見えなくなったが、特にそれでショックを受けたような記憶もない。けれど、そうした見方をする子どもがいて、その子がそのまま成長したら・・・という想像は容易。なので、本作のキャラクターたちの「他人の気持ちが視覚化されて見える」という隠し事には素直に共感できた。

 

単に主人公とヒロイン、じゃなかったヒーローの二人の関係だけを追求する物語ではなく、5人組がアンサンブルキャストになっている点が良かった。若さとは省みないことたが、逆に省みすぎてしまうことでもある。青春時代、好きになってしまった相手に猪突猛進した人もいれば、好きになってしまったがゆえにその相手に対して身動きが取れなくなってしまった、なぜなら自分は相手にまったくふさわしくないから、と信じ込んでしまった人もいるだろう。本作は後者の集まりで出来ている。それが心理的な駆け引きではなく、それぞれの隠し事によるものだという点が興味深かった。

 

好きという感情もあれば、その反対に嫌いという感情もある。いや、マザー・テレサ風に言えば好きの反対は無関心か。誰かを嫌いになれるのも、それだけ相手を気に掛けているから。あるキャラがやや屈折した考え方(考え方であり、決して感じ方ではない点に注意)から一歩引いたところにいるのだが、これは古典的でありながらも現代的。『 カランコエの花 』のような価値観は本当に遠くのものになってしまったのだとしみじみ実感する。

ネガティブ・サイド

京のしゃべりがボソボソ、モゴモゴで聞き取りにくかった。監督の演出なのだろうか。はっきりとボソボソしゃべってこそ演技と言える。

 

ヅカにはパラ相手の見せ場はあったものの、一人だけ掘り下げが圧倒的に少なかったのは、原作がそうだからなのか、それとも脚本でそうなってしまったのか、はたまた編集の都合なのか。

 

主人公二人の特殊能力が、特に何もドラマを生まないのが一番の不満。他人の心理がある程度わかってしまう。だからこそ自分を抑えてしまうというのは、個人的には若さよりも老いを感じさせる。

 

ミッキーと京の距離が縮まるのがあまりにも唐突過ぎ。なんなら、不登校だったエルと京の間のドラマこそ盛り上がるべきだった。というか、女子からしたら男子にシャンプーを変えたことに気付いてもらえるというのは、メチャクチャ嬉しいか、メチャクチャ気持ち悪いかの二択。だからこそ、そこを追求するサブプロットがあってしかるべきだった。

 

全体的に5人が非常に閉じた世界に敢えて引きこもっているという印象を受けた。何の変哲もないクラスメイトの女子または男子が「お前らの両想い、バレバレだぜ?」みたいに一瞬だけ割り込んでくれば、もっとリアルになったように思う。

 

総評

羊頭狗肉は言い過ぎかもしれないが、「君の秘密を知ったとき、純度100%の涙が溢れ出す。」という宣伝文句は、看板に偽りありとの誹りは免れない。原作小説はしっかりしているのだろうか。中川駿監督の得意とするウソが下手な若者の像は描き出せている。ただ住野よるのテイストが出ていたかというと疑問。鑑賞するなら期待しすぎず、普通の青春群像劇でも観るか、ぐらいのノリでいた方が良い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

dry up

干上がるという意味以外にも「言葉が出なくなる」という意味もある。He suddenly dried up in the middle of the presentation. =彼はプレゼンの最中に突然黙ってしまった、のように使う。プレゼン中でも商談中でも授業中でも、dry up は怖いものである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 国宝 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, 出口夏希, 奥平大兼, 日本, 監督:中川駿, 配給会社:松竹, 青春Leave a Comment on 『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

『 サブスタンス 』 -エログロ耐性を要する秀作-

Posted on 2025年5月31日2025年6月3日 by cool-jupiter

サブスタンス 75点
2025年5月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:デミ・ムーア マーガレット・クアリー
監督:コラリー・ファルジャ

 

『 金子差入店 』のタイミングが合わなかったので、急遽こちらのチケットを購入。見え見えの展開が続いたが、それでも面白かった。

あらすじ

元人気女優だったエリザベス(デミ・ムーア)は、TVプロデューサーの本音に触れてしまい絶望する。そして、より若く、美しい、完璧な自分を得られるというサブスタンスに手を出してしまう。新しく生まれたスー(マーガレット・クアリー)は栄光を掴んでいく。しかし、サブスタンスの使用に不可欠な厳格なルールを徐々にスーは破り始めて・・・

ポジティブ・サイド

観終わった直後の感想としては、アンソニー・ホプキンス主演の『 マジック 』のように、自分が自分に侵略されるストーリーを、ゲーテの『 ファウスト 』や百田直樹の『 モンスター 』など若さと美への執着で彩りつつ、映像的には『 遊星からの物体X 』、『 プロメテウス 』、『 ザ・フライ 』などのグロ要素も織り交ぜて、最後はスティーヴン・キングの『 キャリー 』でフィニッシュという、色々な作品の文字通りのパッチワークを見せられたという印象。しかし、つまらないことはなく、むしろ非常に面白かった。

 

サブスタンスに手を出してしまうまでのエリザベスの心情は決して言葉では語られない。デミ・ムーアはただ静の演技でそれを描出した。彼女自身のキャリアがエリザベスと同じで、自分でもプロローグ部分では、「そういえばデミ・ムーアって、『 ア・フュー・グッド・メン 』以降は何に出演してたっけ?」となってしまった。

 

若さや美に執着するのは、何も老いた女優だけではない。大学で授業をしている時には「大学生は若くていいなあ」と思うだけだったが、先日たまたま実家で大学の卒業式の時の写真が見つかり、あまりの自分の若々しさに愕然と、そして愕然としてしまった自分にショックを受けた。人間は他人の若さには普通に嫉妬するだけだが、自分自身の若さには異様に激しく嫉妬してしまうらしい。

 

ハリウッドだけではなく男社会全般に根強く蔓延る視線の暴力と、アメリカ的などんぶり勘定の薬の服用習慣、それらの当たり前ではない当たり前を人間のちょっとした妄執とかけあわせることで、オリジナリティには欠けるものの非常に上質なエログロのエンタメに仕上がったのが本作。金曜日のレイトショーで鑑賞したが、意外にというか、それとも予想通りと言うべきなのか、30歳前後ぐらいの女性のお一人様の割合が高かった。それだけ訴求力のあるテーマなのだろう。

ネガティブ・サイド

なぜアメリカ人は成功するとパーティーとセックスに走るのだろうか。いや、それはアメリカに限らず、どこの国の人間でもそうだろうという反論はあろうが、スーはいわばエリザベスの人生2周目。若さを謳歌するためではなく、キャリアに邁進する中でクレイジーになっていく、という展開が見たかった。

 

バイオレンスのシーンでは、いささか荒唐無稽なワイヤーアクションまがいの動きまであり、そこで白けてしまった。普通に若者が老人を力任せにいたぶるだけで十分に痛みは伝わる。

 

総評

観る人を選ぶ作品ではあるが、波長さえ合えばかなり面白いと感じられる作品。エリザベスの苦悩は女性に限定されないし、その懊悩は中高年にしか理解できないものでもない。judgemental という言葉があるが、エリザベスの目に映るプロデューサーの姿に冷や汗をかく男性も多いのではないだろうか。ゲーテやニーチェの言う通り、今という瞬間を肯定することの大切さと、それがいかに困難であるかを教えてくれるエンタメ作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

That’s what I’m talking about.

直訳すれば、それが私が話題にしていることだということだが、実際は目の前の出来事が自分の思い通りに展開した時に言う決まり文句。会議で誰かが我が意を得たりという意見を述べてくれたりしたときに言ってみよう(ただし自分が相手より役職が上の時に限る)。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 金子差入店 』
『 か「」く「」し「」ご「」と「 』

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イギリス, デミ・ムーア, フランス, ホラー, マーガレット・クアリー, 監督:コラリー・ファルジャ, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 サブスタンス 』 -エログロ耐性を要する秀作-

『 ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング 』 -Adios, Luther-

Posted on 2025年5月27日2025年5月27日 by cool-jupiter

ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング 70点
2025年5月24日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:トム・クルーズ
監督:クリストファー・マッカリー

 

トム・クルーズが好き勝手にやるためのシリーズ。前作『 ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE 』のPART TWOではなく、ファイナル・レコニングというサブタイトルが意味深長である。

あらすじ

エンティティの秘密につながる鍵を手にしたイーサン・ハント(トム・クルーズ)だが、核保有国が疑心暗鬼に陥り、アメリカも先制攻撃を辞さないという姿勢に。イーサンはエンティティを使っての世界支配をもくろむガブリエルを追うために、米大統領の呼びかけに応じて・・・

ポジティブ・サイド

かなり丁寧に導入部を描いてくれたおかげで、前編の記憶が割と簡単によみがえってきた。同じように感じた観客は多かったと思われる。

 

前作で少し分かりにくかった脅威が、今作では核保有国全ての核兵器がエンティティに乗っ取られる恐れありという非常に分かりやすいものだった。『 ミッション・インポッシブル フォールアウト 』では世界最大の水源の汚染が目論まれたが。今回はターミネーター並みに分かりやすい破滅のビジョン。

 

とにかくアクションの連続で、イーサンが走って走って走りまくる。トム・クルーズが普段から相当に節制していること、そして映画作りに情熱を注ぎ込んでいることがこれでもかと伝わってくる。地上のみならず、海でも空でも大暴れ。特に空では『 トップガン マーヴェリック 』を超えるアクロバティック飛行を見せてくれた。

 

新キャラをチームに入れたが、ルーサーとベンジーの御両所がそろっていれば、それだけで満足。続編が作られるかどうかはトム・クルーズのみぞ知る。

ネガティブ・サイド

『 デッドレコニング 』のキャラクターから引き続き登場すべきだったヴァネッサ・カービーが一切姿を見せなかったのは何故なのか。

 

散々イーサンを引っ掻き回したガブリエルの最期が恐ろしいほどに呆気ない。もっと悲惨な死に方をしてほしかった。

 

世界よりもチームを優先してきたイーサンが、チームをベンジーに託すというのは半分は納得できたが、半分は納得できなかった。

 

総評

非現実的なアクションシーンは多々あれど、3時間近い映画で緊張感を持続させながらも一定の満足感を与えてくれる作品に仕上がっているのは間違いない。土曜のレイトショーでもかなりの客の入りで、トム・クルーズの star power を目の当たりにした。『 ミッション・インポッシブル フォールアウト 』を遥かに超える危機を防いだわけで、これでシリーズの幕となっても不思議ではない。シリーズファンならずとも必見と言いたいが、実際はシリーズの予習が必須となっているので、そこは注意のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

in the field

現場で、の意味。フィールドには野原の意味もあれば分野という意味もあるが、このフレーズには現場という意味がある。ちょうど新入社員が研修を終えて部署に配属されつつある時期だが、営業などは商談研修のイロハを終えて、これからOJTが始まるのだろう。ちゃんとした先輩に同行して in the field で商談や交渉の何たるかを学んでほしいものである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 金子差入店 』
『 か「」く「」し「」ご「」と「 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, アメリカ, トム・クルーズ, 監督:クリストファー・マッカリー, 配給会社:東和ピクチャーズLeave a Comment on 『 ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング 』 -Adios, Luther-

『 タイヨウのウタ 』 -アメリカ版リメイクよりも面白い-

Posted on 2025年5月21日 by cool-jupiter

タイヨウのウタ 70点
2025年5月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:チョン・ジソ チャ・ハギョン
監督:チョ・ヨンジュン

 

邦画『 タイヨウのうた 』の、アメリカ版リメイク『 ミッドナイト・サン タイヨウのうた 』に続く韓国リメイク。邦画もアメリカ版もそれなりに面白かったので、本作もチケット購入。

あらすじ

XPを患うミソル(チョン・ジソ)は太陽の下に出られない。いつしか部屋の窓から見るだけのフルーツ販売のミンジュン(チャ・ハギョン)に恋をしていた。ある時、夜中に販売に来ていたミンジュンを追いかけ、思い切って声をかけたミソルだが・・・

ポジティブ・サイド

日本版もアメリカ版も、夜中に一人寂しく外でギターを弾いていた主人公だが、今作ではそもそも主人公のミソルが外に出ないという設定。だからこそ夜中にミンジュンを思い切って追いかけるシーンがよりドラマチックに感じられた。

 

ストリートミュージシャンになるのではなくYouTuberになるというのも現代的かつ現実的。病気を公表すると、自分という人間ではなく病気が注目されてしまう。だから顔出ししないというのも説得力がある。

 

ミンジュンが役者志望というところがコメディ要素にもロマンチック要素にもシリアスな要素にもなっている点が良かった。酒の力を借りてもなかなか真剣な告白ができないミソルが、ポロっと尋ねた質問へのミンジュンの答えも面白い。

 

なかなか距離を詰められないミソルと、思いがけない方向から距離を縮めてくるミンジュン、それをアシストするミソルの父と母が良い感じ。特にお母さんはネットフリックスの韓国ドラマでは母親役の常連。妻のネトフリのビンジウォッチに便乗しているので、それぐらいは分かる。

 

病気が進行するのはどうしようもないこと。これは日本版でもアメリカ版でも同じ。韓国版はアッと驚く速さで物語を進行させてしまう。その間に何があったかは観る側の想像力に委ねられるが、とあるシーンでのミソル父の非常に複雑な表情がすべてを物語っていたように思う。

 

歌い手として生きて、歌い手として死んでいく。典型的なお涙ちょうだいストーリーながら、かなり上手くまとめたなという印象を受けた。

 

ネガティブ・サイド

ミンジュンの父が一切出てこなかったが、編集でカットされたのか、そもそも出番は想定されていなかったのか。

 

ミンジュンは韓国ネットでは相当におもちゃにされるであろう演技をテレビドラマで披露したが、逆にあれで街を歩いても誰にも注目されないというのは解せなかった。また、大物YouTuberと俳優の卵のカップルなのに、デートの際に周囲の目にあまりにも無頓着に思えた。

 

とあるラジオのDJがシレっとすごいことをアナウンスしていたが、韓国では普通のことなのだろうか。

 

総評

腑に落ちない点や深掘りされないサブプロットもあったが、きれいに着地を決めた作品。面白いからリメイクされるわけで、そこに韓国の映画やドラマが得意とする不治の病という要素をつけ加えれば、大失敗にはならない。邦画だと10代の未熟な恋という感じだったが、こっちは20歳過ぎの純情だけれど大人っぽい恋に仕上がっている。若い世代のデートムービーにもいいだろうし、ミソルの両親に感情移入できる要素が満載なのでシニアにもお勧めできる佳作になっている。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

チョギ

劇中でミソルがミンジュンに話しかける時に何度も口にする台詞。意味は「あの」や「すみません」にあたる。いつか3度目の韓国旅行に行った際には、場末の定食屋で「チョギ、アジュマ、チャ、チュセヨ」=「あの、おばさん、お茶をください」ぐらいは言ってみたいと思っている。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 金子差入店 』
『 か「」く「」し「」ご「」と「 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, チャ・ハギョン, チョン・ジソ, ラブロマンス, 監督:チョ・ヨンジュン, 配給会社:ライツキューブ, 韓国Leave a Comment on 『 タイヨウのウタ 』 -アメリカ版リメイクよりも面白い-

『 サンダーボルツ* 』 -ヒーローとしても人間としてもしょぼい-

Posted on 2025年5月18日2025年5月18日 by cool-jupiter

サンダーボルツ* 40点
2025年5月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:フローレンス・ピュー
監督:ジェイク・シュライアー

 

Friday Nightに何となく鑑賞。かなりビミョーな出来だった。

あらすじ

虚無感に苛まれるエレーナ(フローレンス・ピュー)は、CIA長官ヴァレンティーナから裏稼業に生きていた。足を洗おうと最後の仕事に向かった先で、自分と同じくヒーローではない者たち、そして記憶を失ったボブに出会う。窮地に陥った彼らは団結することを余儀なくされ・・・

ポジティブ・サイド

一応、『 キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド 』の直後の世界らしい。怪物が出現しても、それを食い止めるアベンジャーズはもういない、というところから始まるのは分かりやすい。

 

これまでは正義の対極にあるのは別の正義というテーマを追い求めるところもあったMCUだが、今作は一気に「この世は悪とそれ以上の悪で成り立っている」という命題に振り切った。これは潔い。『 ダークナイト 』では正義の存立のためには悪が不可欠だと喝破されたが、サノス不在、カーンが役者都合により退場となった今、悪の対極に正義を持ってくるのは難しい。なのでヴィランの集団を持ってきたことには必然性が認められる。

 

そのヴィランたちが単なる悪ではなく、それぞれに異なる虚無感やトラウマを抱えているのも、スーパーヒューマンではない人間らしさがある。悪人を作るのは、個人の心性ではなく環境や境遇にある。かつてのスティーブ・ロジャースも、戦争という状況に立ち上がって、キャプテン・アメリカになった。それとある意味同じことがサンダーボルツの面々にも起きていたのである。

 

ネガティブ・サイド

本作には二人のヴィランが存在する。一人はCIA長官のヴァレンティーナ。もう一人は、セントリー計画で生み出されたセントリー。このセントリーの強さがよく分からなかった。サイコキネシスで遠くにあるグラスを割ったと思った次のシーンでは、かつてのアベンジャーズ全員を合わせたよりも強いと称されるのは、さすがに飛躍があり過ぎ。拳の勝負でハルクに打ち勝ったサノスに比べて、全員が生身の人間よりちょっと強い程度のサンダーボルツを圧倒しても、それが脅威だとは思えない。

 

そもそも『 スーサイド・スクワッド 』とコンセプトが同じで、上司が小悪党の女性という点でも同じ。また『 スーサイド・スクワッド 』にはエル・ディアブロが、『 ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結 』ではキング・シャークなど、明らかに人間を超えた強さのキャラがいたが、サンダーボルツにはそうしたキャラはゼロ。この時点でセントリーを倒す方法が精神攻撃しかないことがすぐに分かる。それはそれで各キャラの深掘りというサブプロットとも結びついてはいるものの、爽快感などはまったく無し。エンタメとしては失敗だろう。

 

個人的にはレッド・ガーディアンがうるさすぎて辟易した。元々こういうキャラなのだろうが、単純に不快だった。中心キャラのエレーナの内面もイマイチ。一年間音沙汰のなかった父親に対して不満たらたらだが、だったらほとんど家族として過ごしてこなかった義理の姉の死になぜそれほどの虚無感を抱くのか。キャラに個性はあったが、個性があるからと言ってよいキャラであるとは限らない。

 

総評

本作は結局のところ、次なるヴィラン登場のためのつなぎの作品。MCU的には重要なのだろうが必須とまでは思えない。アクションシーンでも見どころと言えるのはバッキーぐらい。それも一瞬。フライドポテトとゼロのコーラを片手に金曜の夜に鑑賞した。ということは、前々からスケジュールを吟味して土曜や日曜の昼間に見に行くような作品ではないということ。MCUの大ファン以外は配信やレンタルを待つのが吉だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

squeaky clean

手で触るとキュッキュッという音がするほどキレイ、という意味。セサミストリートのエルモが風呂に入って「squeaky clean になった」と言ったり、あるいはコロナ禍にやはりエルモが手洗いをのデモンストレーションをして「手が squeaky clean になった」などとも言っていた。全身が毛でふさふさのエルモがどうやってキュッキュッと音がするほどキレイになれるのか、などと問うてはいけない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 金子差入店 』
『 タイヨウのウタ 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, フローレンス・ピュー, 監督:ジェイク・シュライアー, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 サンダーボルツ* 』 -ヒーローとしても人間としてもしょぼい-

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』 -青春の痛々しさが爆発する-

Posted on 2025年5月14日2025年5月14日 by cool-jupiter

今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 75点
2025年5月10日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:萩原利久 河合優実 伊東蒼
監督:大九明子

 

『 勝手にふるえてろ 』や『 私をくいとめて 』の大九明子監督の作品ということでチケット購入。

 

あらすじ

友人がほとんどいない大学生の小西徹(萩原利久)は、ふとしたことから気になっていた桜田花(河合優実)に声をかける。二人は瞬く間に意気投合し、仲を深めていくが・・・

 

 

ポジティブ・サイド

全然キラキラしていない大学生を見ると、つい自分を思い出す・・・というわけでもないが、萩原利久演じる小西は非常に感情移入しやすい。おもいっきり乱暴に彼のキャラを例えるなら、『 新世紀エヴァンゲリオン 』の碇シンジと、ゲーム『 ファイナルファンタジーVIII  』のスコールを足したような奴である。

 

そこに同級生の桜田花と、バイト先の仲間であるさっちゃんが絡み、甘酸っぱい青春の始まりを予感させながら、物語は急遽暗転する。ある程度予想通りだが、緩急のつけ方が上手い。

 

大九明子監督の作品の中ででは、『 勝手にふるえてろ 』の松岡茉優然り、『 私をくいとめて 』能年玲奈然り、とことんまで物語る女性キャラが出てくるものが当たりである。そして本作は当たり。今回物語るのは伊東蒼。表情やしぐさがわざとらしすぎる女の子なのだが、あるシーンでは表情を一切見せずに独白しきるシーンは圧巻の一語に尽きる。『 さがす 』や『 世界の終わりから 』で見せた独特の存在感を、本作でもいかんなく発揮している。

 

本作はところどころで不可思議な映像が挿入されるが、数々の伏線と共にその意味が明らかになる展開には唸らされた。これは脚本の勝利。伏線については、ぜひ目だけではなく耳も済ませてほしい。

ネガティブ・サイド

よくわからない点が二つ。1つはさっちゃんの大学。出町柳が最寄り駅ということは京都大学?あの交差点は、あの交差点やし・・・ 偏見かもしれないが、京大生が銭湯でバイトするというのは現実離れしているような。

 

2つには、洗濯機の埃やら何やらを回収するメッシュの袋。あれを好きな女子の前に持って来ることができる感性にドン引き。いや、その気持ちを否定しているのではなく、なぜこのアイテムを原作者はわざわざ選んだのか。キモイにもほどがある。

 

総評

傑作とまではいかないが良作であるのは間違いない。チケット購入時はスカスカだったのに、当日は完売していた。そして観客の大半が若いカップル。おそらくほとんど全員関大生だったのだろう。表情から満足度の高さが読み取れた。実はJovian妻も関西大学の卒業生で、法学部と文学部があるから法文坂というような蘊蓄を色々と教えてもらった。別に関大生である必要はない。若い世代、あるいはかつての青っちょろい自分が嫌いではないという人にお勧めできる作品に仕上がっている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I know you haven’t the slightest interest in me.

直訳すれば「あなたが私に一切興味がないことを知っている」となる。劇中で非常に印象的なセリフの一つ。普通は you don’t have the slightest interest と言うが、ブリティッシュは割とhave動詞を今でも使うし、アメリカ人でもこのような表現を好む者(作家のマイケル・ルイスなど)もいる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 サンダーボルツ* 』
『 金子差入店 』

 

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Posted in テレビ, 国内Tagged 2020年代, B Rank, ラブロマンス, 伊東蒼, 日本, 河合優実, 監督:大九明子, 萩原利久, 配給会社:日活, 青春Leave a Comment on 『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』 -青春の痛々しさが爆発する-

『 28週後… 』 -初鑑賞-

Posted on 2025年5月12日 by cool-jupiter

28週後… 40点
2025年5月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ロバート・カーライル キャサリン・マコーマック イモージェン・ブーツ ジェレミー・レナー
監督:ファン・カルロス・フレスナディージョ

 

『 28日後… 』の間接的な続編ということでレンタル。今回が初鑑賞となる。

あらすじ

ウィルス発生から28週後。アメリカによるウィルス根絶宣言が出されたロンドンは、一部の街区に住民を呼び戻し始める。そこには子どもとの合流を待つドン(ロバート・カーライル)の姿もあった。しかし、彼はそこにたどり着くまでに妻アリス(キャサリン・マコーマック)を犠牲にしていて・・・

 

ポジティブ・サイド

前作が赤の他人同士の連帯の物語だとすれば、今作は家族の連帯が試されるという物語。それも、細部に注目すれば悲劇だが、巨視的に見ればとんでもないコメディという構成になっている。ここらへんは『 マギー 』などの後発作品にしっかり受け継がれており、新しいテーマを追求できていたと思う。

 

ジェレミー・レナーがスナイパー役だったり、イドリス・エルバが司令官役だったりと、キャストもそれなりに豪華。ドッグアイランドの軍監視の元での日常復帰は、どこかコロナの緊急事態宣言明けを思い起こさせてくれた。

 

『 28日後… 』から『 28週後… 』という流れは、韓国の『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』から『 新 感染半島 ファイナル・ステージ 』とそっくりで、本フランチャイズの影響力を物語っているように思う。

 

ネガティブ・サイド

家族というテーマ以外に、特に目新しいものはなかった。ごく少数の人間が未知の脅威と戦うというプロットが、次作では軍 vs 脅威になるというのは、まんま『 エイリアン 』から『 エイリアン2 』への流れと同じ。

 

前作では明らかにされなかった感染者の餓死までの日数は本作でも明らかにされず。しかし、冒頭の字幕では20週ぐらいかかっていた?ということは、感染者は共食いする?ロンドンが平穏に戻る過程がきわめて不明瞭だった。

 

驚異の感染力のウィルスがなぜか特定の人間には効かないというのは、マイケル・クライトンの古典的小説『 アンドロメダ病原体 』の基本プロットそのまんま。この点でもオリジナリティには欠けていた。

 

イドリス・エルバが「異種間感染しない」と断言していたが、前作でチンパンジーからヒトに移った事実はどこに行った?

 

無症候キャリアが無造作に処置室に放置されていたが、こんな貴重なサンプルはすぐさま厳重に保管されるはずではないか。米軍もコード・レッドを事前に策定しておくのは構わんが、ワクチン研究のためのサンプルの確保のプロトコルを作る必要性は想定できなかったのか。

 

最大の疑問、つまり感染者は何を材料に感染者と非感染者を区別しているのかは本作でも謎のまま。夜間の襲撃等もあったので視覚だけではありえない。聴覚も喧噪の中で非感染者を選択的に襲ったりしているので、これもありえない。では嗅覚か?だとすると香水やら化粧をつけている女性の方が襲われる率は低そうだが、実際そうなっていない。このあたりのヒントになるような情報がないと、28年後の世界、すなわち28年間、人間がかろうじて生存できるという世界につながることが想像しがたいのだが・・・

 

総評

感染封じ込めの失敗はプロットの都合上仕方ないことではあるが、その過程が非現実的すぎる。家族の絆が軍人の使命感に勝るような展開を構想すべきだった。それでこそジェレミー・レナーの行動にも説得力が出たはず。ここから『 28か月後… 』ではなく『 28年後… 』につながるとすれば、日本やインドネシア、フィリピンのような島国が舞台になるか、あるいは英国の片田舎が舞台になるのだろうか。楽しみなような、不安なような・・・

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

be pleasantly surprised

良い意味で驚かされる、の意味。ネイティブ連中が結構よく使う表現。I did a pop quiz today, and some of the students booed me, but I was pleasantly surprised by the test results. 今日は抜き打ちテストをして、何人かの学生がブー垂れたが、テスト結果には良い意味で驚かされた、のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』
『 新世紀ロマンティクス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, D Rank, イギリス, イモージェン・ブーツ, キャサリン・マコーマック, ジェレミー・レナー, スペイン, ホラー, ロバート・カーライル, 監督:ファン・カルロス・フレスナディージョ, 配給会社:20世紀フォックスLeave a Comment on 『 28週後… 』 -初鑑賞-

『 28日後… 』 -復習再鑑賞-

Posted on 2025年5月7日2025年5月7日 by cool-jupiter

28日後… 60点
2025年5月4日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:キリアン・マーフィー ナオミ・ハリス
監督:ダニー・ボイル

 

『 28年後… 』の復習のために、約20年ぶりに鑑賞。たしか東京で一人暮らししている時に、近所のTSUTAYAで借りた記憶がある。

あらすじ

動物愛護活動家が研究所を襲撃、チンパンジーを脱出させるが、そこから人間を狂暴化させる未知のウィルスが蔓延した。28日後、病院で目覚めたジム(キリアン・マーフィー)は、人っ子一人見当たらないロンドンの街を彷徨するが・・・

 

ポジティブ・サイド

「ゾンビ(実際は違うが)が走るのは反則やろ」と思ったことぐらいしか覚えていなかったが、観ているうちにだんだんと思い出した。人気(ひとけ)の絶えたロンドンをとぼとぼと歩くジムが妙に絵になる。

 

2020年前半のコロナ禍を経た上で本作を再鑑賞すれば、我々が未知の病原菌のキャリアや感染者に対して抱く本質的な恐れの感情は、時代や地域によって変わるものではないということがよく分かる。

 

地球の歴史からすれば人間が存在してきた時間の方が圧倒的に短く、人類が滅んでも、それは地球が平常運転に戻るだけだという考え方は西洋的というよりも東洋的で、個人的にはこの上なく首肯できる。一方で感染の前でも後でも、この世界では人が人を殺す、homo homini lupus あるいはbellum omnium contra omnesな世界であるというイングランド哲学者のホッブス的な観念も開陳されていたのは面白かった。

 

生き残った者たちの連帯の儚さ、そして無秩序の中で秩序を確立しようとする軍人たちとの戦いは、暴力ではなく知力の戦いがメインでそこそこ説得力を感じることができた。

 

ネガティブ・サイド

色々と細かい設定があるのだろうが、それがあまり追究されなかったのは残念。個人的には感染者の認知能力をもっと深掘りしてほしかった。感染者は非感染者を視覚、嗅覚、聴覚の何で区別しているのか。また鏡を効果的に使うシーンでは、感染者には鏡像認知能力が保たれていることがうかがえたが、そうしたシーン(感染者にも一定の知性がある)を序盤もしくは中盤に少し見せてくれていれば、なお良かった。また感染者がどれくらいで餓死するかを観察するのは超がつくほど重要だが、だったら雨水が飲めてしまうような場所に閉じ込めておくのはおかしい。隊の誰も突っ込まなかったのか。

 

最終盤にジムが覚醒するのが、かなり唐突に感じられた。確かに途中で野球バットをぶん回すシーンはあったが、あれをきっかけに軍人相手に大立ち回りができるほどに開き直ったというのは考え難かった。

 

総評

感染ジャンルの中では平均的な面白さか。コロナを経験してから見ると、人間がいかに疑心暗鬼に陥りやすいか、他者を攻撃あるいは排除しやすいかが分かる。平和な時に見ればゾンビものの変化球扱いされるのだろう。映画の評価は時代によって大きく変わりうることを証明する作品の一つ。復習再鑑賞したいという向きも多いはず。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

in a heartbeat

直訳すれば「心臓の一回の鼓動の内に」となる。心臓は1分あたり65~85回ぐらいの鼓動を刻むとされるので、一回の鼓動は1秒以下となる。つまり、「あっという間に」「一瞬で」の意味となる。

A: If you took this job offer, you’d have to move.
この内定を受諾するということは引っ越ししなければなりませんよ。

B: In a heartbeat!
すぐに引っ越します!

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』
『 新世紀ロマンティクス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, C Rank, イギリス, キリアン・マーフィー, ホラー, 監督:ダニー・ボイル, 配給会社:20世紀フォックス映画Leave a Comment on 『 28日後… 』 -復習再鑑賞-

『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-

Posted on 2025年5月6日2025年5月6日 by cool-jupiter

異端者の家 65点
2025年5月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヒュー・グラント ソフィー・サッチャー クロエ・イースト
監督:スコット・ベック ブライアン・ウッズ

 

元・宗教学専攻として是非観てみたかった作品。途中でオチは読めたが、なかなかに楽しめた。

あらすじ

モルモン教のシスターであるバーンズ(ソフィー・サッチャー)とパクストン(クロエ・イースト)は布教のために家々を訪問していた。そんな中、気のいいリード(ヒュー・グラント)は二人の話に興味を示す。妻がパイを焼いているというので、二人は家に入る。しかし、リードは宗教に関する自論を語り始め・・・

 

ポジティブ・サイド

導入部で卑猥な話に興じる若い女子二人。なんのこっちゃと思わせて、思いがけない結論にたどり着くのが面白かった。と同時に、これは実はプロット上のとある伏線でもあるのだった。掴みは完璧である。

 

それなりに生きていれば宗教家の訪問を受けたことのある人もいるだろう。Jovianも若い頃は玄関先でエホバの証人やモルモン教を撃退したことがある。まあ、あれこそが若気の至りというものか。

 

本作は逆に、布教活動する側が訪問先で囚われの身にされてしまう。宗教を説きに来たら、逆に宗教の定義を問われた。うまく答えられずにいると、相手がモノポリーやらポップ・ミュージックやらを例にして、既存の宗教はオリジナルの模倣であると自説を懇々とぶってきた。これは怖い。一つには、その指摘が半分は当たっているから。もう一つには、ミスター・リードを演じるヒュー・グラントが底知れなく薄気味悪いから。

 

この気味の悪さをさらに助長するかのように、キリストの復活を模したイベントまで行われる。この脚本兼監督の二人は、なかなか悪趣味かつ手練れである。

 

外部からの助けが来そうになったり、あるいは二人の問答がリードを揺さぶりそうになったりとサスペンスフルな展開が続く。そして監禁された地下室の奥深くでシスターが見たものとは・・・ このあたりもホラーとスリラーの境目というか、スーパーナチュラルスリラーとスリラーの間を行き来する作劇は興味深かった。

 

ラストはかなり観る側の想像力に働きかけるものになっている。以下、ネタバレなので白字で書く。あの蝶は胡蝶の夢の蝶のシンボルなのか、それとも生まれ変わりの象徴としての蝶なのか。後者だとすれば死んでから卵、幼虫、さなぎ、羽化に要する時間と矛盾するが、魂の転移的に考えれば説明できないことはない。そんな宗教的教義は劇中でも触れられていなかったが。また蝶が指先ではなく手首のところに止まっていたのも何かを示唆しているのか。シスターは「指先」(台詞ではfingertip)と言っていなかったか。またこの蝶は幻だったという解釈の余地もある・・・

 

ネガティブ・サイド

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教をビッグスリーと呼ぶのは構わんが、その他の宗教もぜひ俎上に載せた議論をしてほしかった。それをするときりがないというのは分かるが、新規は模倣の産物だという理論で行くと、結局はユダヤ教が正統性を持ってしまう。その旧約聖書も、たとえば「大雨と言えばノアの方舟」と言われていたが、洪水伝説自体はメソポタミアのギルガメッシュ叙事詩が明らかに先行テクストだし、ヨブ記の天地の描写はまんまギリシャ神話だったりする。ビッグスリー、特にユダヤ教を(ご時世的にも)特別扱いしないでほしかった。

 

また仏教や道教が一切言及されないのはご都合主義ではなかっただろうか。あらゆる収容を研究したと豪語する割にインド以東のアジアの宗教が議論されなかったことについて、なにか理由が欲しかった。シスターが「しかし、仏教のような宗教もあります」と言ったところにリードが「モルモン教徒が仏教を論じるのか?」のように言い返すだけで充分だったろう。

 

総評

日本でも宗教二世という言葉が一般化され、宗教(カルト)によって家族を奪われ、人生を壊された人々の存在がようやく可視化された。また40歳以上であればオウム真理教を思い出せる人も多いはず。しばしば無宗教とされる日本人にとって、宗教とは何かを考えるひとつのきっかけに本作はなれるかもしれない。ちなみに宗教とは、民主化=脱王権によって神話を必要としなくなった人々が、神話の代わりに・・・ おっと、これ以上は一部の宗教学者からクレームをもらうかもしれないので黙っておく。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

With great power comes great responsibility.

「大いなる力には大いなる責任が伴う」という意味。劇中でシスターが「スパイダーマン 」と呟いた瞬間、「違うぞ、アンクル・ベンの言葉だぞ」と思ったが、実はヴォルテールの言葉だったとは不勉強にして知らなかった。昔、WOWOWで見た『 アンダーカバー・ボス 』でユタ・ジャズのオーナーが

With that promotion comes a raise.

と同じような倒置用法で言っていたのが印象に残っている。探してみたら動画があったので、気になる人は37分59秒から視聴してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』
『 新世紀ロマンティクス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, カナダ, クロエ・イースト, スリラー, ソフィー・サッチャー, ヒュー・グラント, 監督:スコット・ベック, 監督:ブライアン・ウッズ, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-

『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

Posted on 2025年5月6日 by cool-jupiter

うぉっしゅ 65点
2025年5月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中尾有伽 研ナオコ
監督:岡﨑育之介

 

『 異端者の家 』を観るはずが、レイトショーがやっておらず、急遽こちらのチケットを購入。意外にしっかりした作りだった。

あらすじ

ソープで働く加那(中尾有伽)は、母の突然の入院治療のため、遠方の祖母、紀江(研ナオコ)の介護を一週間だけ引き受けることになる。しかし紀江は認知症のため加那のことを覚えておらず、毎回初対面のように振る舞う。そうして昼は介護、夜はソープという加那の奇妙な生活が始まって・・・

ポジティブ・サイド

めちゃくちゃ久しぶりに研ナオコを見た気がする。おそらく10年ぶりぐらいか?ナチュラルに老人になっていて、自分自身が年を取ったと実感する。そして研ナオコ演じる紀江の認知症は母方の祖母の認知症とそっくり。祖母も90過ぎてからは会うたびに「誰?どこから来た?仕事は?」と聞いてきたっけか。最初は少なからずショックを受けたが、おふくろからとある話を聞いて納得した。そしてその話とほとんど同じことを劇中でとある人物が語ってくれた。

 

本作で真に迫っていたのは紀江だけではない。他のキャラクター、特に隣家のおばさんと風俗店のボーイは際立っていると感じた。他にもホストに入れ込むソープ嬢仲間や、ソープ業界から足を洗おうという仲間も印象的だった。ああいう業界の人間関係はドライに見えてウェット、ウェットに見えてドライだと想像するが、現実もきっとそうなのだろう。

 

介護の場面でも、入浴介助のシーンだけ生き生きする加那には説得力があったし、介護のあれこれを動画で学ぶのも『 アマチュア 』と同じく現代っぽさを感じさせた。特に薬を飲むことを拒否する高齢者というのは、看護の現場でもあるあるだった。

 

加那がソープ嬢として客に忘れられること、そして孫として祖母に忘れられることの痛みを受け入れる転機は生々しかったし、それだけに説得力があった。会いに来るのを待つというのと、こちらから会いに行くということの違いをこれだけ鮮明に打ち出した作品は、ロマンスものですら珍しいと思う。

 

認知症は認知機能の衰えであって、感情は残るとされている。徘徊老人という言葉は数十年前からあるが、彼ら彼女らがどこに向かっているのかを追究しようとした作品としても本作はユニーク。昔の研ナオコを知っているオールドファンからすれば、一瞬だけだが非常に気分がアゲなショットも用意されている。

 

職業に貴賎なし。スティーブ・ジョブズの言葉を借りれば、Love what you do となるだろうか。自分を肯定できれば、相手も肯定できるのだ。

 

ネガティブ・サイド

ベッドで上半身を持ち上げてからの端座位への移行が、ぶっちゃけ下手くそだった。腕力を使ってはダメ、きゃしゃな女性なら尚更。最初にうまく行かず、そこでプロの指導動画を観る、のような流れであれば自然だった。ちなみに実践的には、自分から遠い方の相手の肩を抱いて少し自分側に引いてやり、その反動で相手を少し押す。そこで生まれた遠心力を使って、相手の尻を起点にサッと回してやるのがコツである。

 

名取さんのご高説は興味深かったものの、介護業が長かったのなら、家族が一番というのは必ずしも現実ではないと分かるはず。たとえば『 博士と彼女のセオリー 』などからも明らかだし、実際にそうだからこそ直接の家族でなくとも介護の貢献が認められた者にも相続権が認められる特別寄与制度も整備された。家族論には色々あるし、それは大いに語られるべきだが、本作のそれは少し的外れに感じられた。

 

総評

ソープと介護という一見して共通点がなさそうなものを見事に結び付けた珍品。だからといって程度が低い作品ではない。サブキャラのサブプロットも無理のない範囲で掘り下げられているし、それが主人公キャラに深みを与えている。セクシーなシーンはあっても、エロいシーンはないので、高校生、大学生のカップルでも鑑賞に支障なし。親が上手に説明できるならという条件付きで、ファミリーで鑑賞するのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Nice to meet you.

はじめまして、の意。初対面の相手には、まずはこれを言おう。SlackやZoomで話したことはあっても、直接に合うのは初めてという場合は、Nice to meet you in person. や Nice to meet you face to face. のように言おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

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『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』

 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, コメディ, ヒューマンドラマ, 中尾有伽, 日本, 監督:岡崎育之介, 研ナオコ, 配給会社:ナカチカピクチャーズLeave a Comment on 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

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