ペンギン・レッスン 80点
2026年2月11日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:スティーブ・クーガン ビビアン・エル・ジャバー アルフォンシーナ・カロッチオ ビョルン・グスタフソン
監督:ピーター・カッタネオ
鳥好き、かつ(元)英語講師としてチケット購入。素晴らしい作品だった。

あらすじ
1976年。英語教師のトム(スティーブ・クーガン)は軍政下のアルゼンチンの名門校に赴任する。しかし、クーデターで学校は一週間閉校。その間に訪れたウルグアイで、ひょんなことからペンギンを拾い、学校の寄宿舎に連れ帰ることになってしまい・・・

ポジティブ・サイド
爆発音で始まる不穏な出だしから一転、校長との出会い、奇妙なお手伝いのマリアや風変りのフィンランド人物理教師のタピオとの出会い、そしてウルグアイでの夜のダンスなど、物語は一転コメディ調へ。そしてひょんなことからペンギンを拾い、それをアルゼンチンに連れ帰る流れは完全なるコント。
しかしアルゼンチン国内の情勢は不穏だ。秘密警察的な男たちが跋扈し、市民が問答無用で連れ去られる。まるで戦前・戦中の極東の島国のようだ。子どもたちもそんな変化に敏感で、クラスメイトは親が革命派かどうかでいじめのターゲットを決める。子どもは大人が思う以上に大人を見ているし、社会の動きにも敏感で、悪い意味でそれを模倣してしまうことをあらためて思い知らされる(2020年代前半、高校生や大学生の中にはひろゆきの口調や論理を真似する愚か者が本当に多かった・・・)。
そんな彼らを優しく、かつ厳しく指導するトム。基本的に冷淡でどこか厭世的なトムを取り巻く同僚のタピオのキャラが素晴らしい。トムと同様に喪失体験に苛まれているにもかかわらず、それを感じさせない陽気さがあり、しかし心の奥底に闇が秘められている。そんな心根をさらす相手がペンギンのフアン・サルバドール。ペンギンがよもやのカウンセラーとなるのだ。これは非常に面白いと感じた。また授業をまともに聞かない生徒たちにもフアン・サルバドールは効果抜群。ペンギンを使って英語(というか英文学)の授業を行うトムの大きなバックアップとなる。ペンギンとの関わりを通じて、自分たちの姿を知っていくからだ。
すべてが上手く回転し始めているようで、実は違う。政治的な状況がアルゼンチン人の活動家たちを抑え込んでいく。ドイツのゲシュタポあるいは日本の特高警察もこのようなものだったのだろうと思わされる。トムの周囲の人間も、トム自身もその活動の渦中に巻き込まれていく。そんな中で起こる悲劇。しかし、その直後に起きる奇跡。ペンギンがもたらしたものではないが、ペンギンがきっかけになったことではある。トムの喪失体験が期せずして癒されることになるこの出来事には涙せずにはいられなかった。
以下は英語教育業界よもやま話であるが、すぐに辞めるアメリカ人と異なり、world traveler であるブリティッシュの英語教師という設定はリアルである。実在の人物と出来事に基づいているので当然なのだが、英国は世界各地を植民地化してきた、つまり世界各地で英語教育をしてきた実績があるのだ。トムはこの後、アルゼンチンを去ることになるが、それはフォークランド紛争前夜のこと。人間の愚かな営為を、ペンギンならばどう見つめたのだろうか。

ネガティブ・サイド
魚屋のその後というか、トムがどうやってフアン・サルバドールのえさを調達していたのかが見たかった。そこでトム自身がほんの少しの喪失体験を非常に重く受け止める、そんな自分自身に戸惑うようなシーンが欲しかった。
タピオの出番がもう少しあればと思った。タピオの授業にもフアン・サルバドールが登場するが、そこに至るまでの流れをトムとタピオのほんの少しのやりとりの映像だけでも見せてほしかった。

総評
塚口サンサン劇場は完売だった。Jovianも評判の高さにつられる形でチケットを購入したが、予想以上に濃密な人間ドラマを味わうことができた。同時に軍政下における市民生活についても考えさせられた。共謀罪やスパイ防止法を否定するわけではないが、時の権力者が恣意的に適用範囲を広げるような法律が成立した、あるいは今後制定されそうな今の日本と、50年前のアルゼンチンの空気が似通っていることも意識されたい。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
metaphor
隠喩、すなわち直接的な表現を用いずに何かを表すこと。トムの授業はメタファーに満ちている。たとえばある場面での Because I’m a dictator.=「僕が独裁者だからだ」という台詞もメタ的な隠喩である。
次に劇場鑑賞したい映画
『 マーズ・エクスプレス 』
『 トゥギャザー 』
『 ブゴニア 』
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