Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

月: 2021年4月

『 るろうに剣心 最終章 The Final 』 -原作にもう少しリスペクトを-

Posted on 2021年4月29日 by cool-jupiter

るろうに剣心 最終章The Final 50点
2021年4月24日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:佐藤健 武井咲 新田真剣佑
監督:大友啓史

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210429141247j:plain

コロナで延期が1年延びた作品。過去作を劇場で再公開するという最高のマーケティングで売り出したところで、緊急事態宣言。なんとか公開二日目に鑑賞はしたものの、色々と疑問に思う構成だった。

 

あらすじ

志々雄真実の討伐から2年。平和を謳歌する剣心(佐藤健)や薫(武井咲)に人誅の時が迫る。剣心の義理の弟・雪代縁(新田真剣佑)が、剣心への復讐のために東京に迫ってきていた。剣心は縁を止めるために最後の戦いに挑むが・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210429141305j:plain

ポジティブ・サイド

コスプレ大会は続く。佐藤健も武井咲も前作から変わらぬビジュアルを維持し、江口洋介もかなり老化に抵抗している。左之助役の青木崇高も若々しさを保っているのは見事。弥彦が思ったより大きくなっておらず、しかし確実に背丈が伸び顔つきから幼さもなくなった。変わらぬキャラクター達と確実に流れゆく時が、冒頭で西洋風の結婚をしたカップルを眺める皆の姿から見て取れた。

 

伊勢谷友介の回転剣舞六連や土屋太鳳の回し蹴りなど、アクションのクオリティは高い。度肝を抜かれたのは、縁と左之助の肉弾戦。これまでの左之助の戦いは、戌亥番神や悠久山安慈など、強敵ながらどこかコミカルな相手だった。しかし、縁にひたすらボコられる左之助は、これまでになく痛々しい。元々打たれ強さを身上とするキャラだったが、今回のやられっぷりは観ているだけでこちらまで痛くなってきた。青木崇高の熱演に脱帽。

 

剣心と縁のバトル。BGMのない剣戟。今シリーズで間違いなく初めての演出。これを待っていた。『 アジョシ 』のテシクとラム・ロワンのナイフバトルを彷彿させた。剣と剣が打ち合う音だけが響く戦いは、剣心と縁の対話になっていた。原作漫画での左之助の評価通り、縁が志々雄以上だとは感じられなかった。しかし、剣心を倒さんとする執念は倭刀の音から十分に伝わってきた。新田真剣佑はもともと『 OVER DRIVE 』でかなりの筋肉を見せつけていたが、今作では運動能力の高さも披露した。佐藤と並んで、アクションのできる俳優が二人そろうことで、前作の志々雄と剣心の決闘に勝るとも劣らないバトルが繰り広げられた。両俳優に拍手。

 

ネガティブ・サイド

大友啓史監督はもう少し原作をリスペクトすべき。漫画と映画は異なる媒体で、だからこそ表現できるもの、表現すべきものが異なる。それは当然のこと。本シリーズはキャラクターの再現度を優先して世界観を構築してきており、そのアプローチ自体は否定しない。けれど絶対に守るべき世界観もある。刀が飛び道具や銃火器に優るという世界観だ。四乃森蒼紫をどこまで不遇に扱えば気が済むのか。

 

蒼紫だけではなく刀狩りの張まで・・・ 原作では味のあるキャラクターだったはずが、どうしてこうなった。前々作では十本刀の中では最も優遇されていたはずが、本作では原作と大きく異なる悪党、なおかつ雑魚になりさがってしまった。縁の強さを観る側に印象付けるためのかませ犬的なポジションとしては確かにうってつけかもしれないが、だったら一瞬でもいいので戦闘シーンを見せるべき。または倭刀についての蘊蓄を語らせるべきだろう。

 

最も不遇なのは弥彦だろうか。鯨波兵庫を原作漫画並みに大暴れさせておきながら(屋根の下から撃っているはずなのに、瓦屋根の上に俯角で銃弾が当たっていたが・・・?)、結局は剣心が倒してしまうという安易なストーリー展開はどうなのか。前作でも十本刀相手に見せ場を奪われた弥彦だが、今作でも成長は見せられず。いや、成長させてもらえず。何度でも言うが、漫画『 るろうに剣心 』は、幕末から明治という時代の移り変わりの物語であり、旧時代の人間が新時代の人間にバトンを渡していくという、ある意味では弥彦のビルドゥングスロマンなのだ。製作者たちはそこを読み違えていないか。あるいは、そこをあまりにも軽視していないか。弥彦は『 るろうに剣心 最終章 The Beginning 』の回想には出番はないわけで、これをもって弥彦の物語が終わりにしてしまうというこの映画シリーズには心底がっかりである。

 

最も腑に落ちないのは、縁による人誅の仕上げ。なぜ原作と変えてしまったのか。原作漫画未読かつ映画はすべて復習鑑賞したJovian嫁は本作鑑賞後に「なんで殺さへんかったん?」と一言。至極当然の疑問であろう。連載当時の反響は凄かったし、あのインパクトは大画面でこそ再現すべきだったし、そうすれば蒼紫にも活躍の場が与えられたはず。また完結篇たる次作への最高の cliff hanger になったのではあるまいか。 

 

総評

正直、アクション以外は微妙である。いや、それはシリーズ全体を通じて言えることでもあるのだが、今作に至っては原作からの改変度合いが大きすぎる。改悪になっている。今更何を言っても次作の内容は変わらないが、かくなるうえは The Beginning で人を惨殺しまくる人斬り抜刀斎の超絶アクションと、原作で描かれることのなかった新選組との激突に期待するしかない。 

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

take someone away

文脈にもよるが、誰かを連行する、の意。斎藤が部下たちに「連行しろ」と冒頭で言うが、英語にすると”Take him away.”となる。『 スター・ウォーズ 』の冒頭でダース・ベイダーがトルーパーたちに”Take her away.”と言ってレイア姫を連行させるシーンを思い出せれば、英語マニア兼スター・ウォーズマニアだろう。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, アクション, 佐藤健, 新田真剣佑, 日本, 武井咲, 監督:大友啓史, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 るろうに剣心 最終章 The Final 』 -原作にもう少しリスペクトを-

『 るろうに剣心 伝説の最期編 』 -藤原竜也ワールド全開-

Posted on 2021年4月25日 by cool-jupiter

るろうに剣心 伝説の最期編 70点
2021年4月17日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:佐藤健 武井咲 藤原竜也
監督:大友啓史

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210425031241j:plain
 

前二作は佐藤健の、佐藤健による、佐藤健のためのコスプレ大会という趣が強かったが、本作は藤原竜也に持っていかれた、という印象である。顔まで含む全身包帯姿なので、コスプレ的な再現度で言えば志々雄>剣心になるのは当然だが、演技者・表現者としても藤原竜也>佐藤健を印象付けてくれたように思う。

 

あらすじ

漂着したところをかつての師・比古清十郎に救出された剣心(佐藤健)は、飛天御剣流の奥義の伝授を乞う。師との向き合いから「生きようとする意志」の強さと奥義を手に入れた剣心は、志々雄真実(藤原竜也)とその一派の討伐に向かわんとするが・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210425031256j:plain
 

ポジティブ・サイド

チャンバラ大会ここに極まる。けなしていない。褒めている。一時期のWWEなどは、ここでプロレスしてどんな問題や因縁が解決するのか分からないほどに迷走していたが、ここまで清々しく総てがチャンバラ(と拳)で決まる世界観は潔いとすら言える。延々と続く福山雅治による佐藤健へのシゴキは原作とは全然違うものの、アクション密度を高めるのに大いに貢献した。

 

アクションでは田中泯も頑張ったほうだろう。一部どう見てもスタントマンのシーンも散見されたが、相手である伊勢谷友介の熱の入った演技で最怖の翁として説得力ある戦闘能力を表現できていた。蒼紫の強さを際立たせるためのかませ犬なのだが、それを実写で前期高齢者がこなしてしまうところが素晴らしい。

 

その四乃森蒼紫と剣心のバトル(とあえて表現する)も素晴らしい。ワイヤーアクションにはCGには出せない味がある。同時に伊勢谷友介も佐藤健並みのアスリートであると感じた。普段から結構スポーツや格闘技をしている人間の動きに見える。剣心の「神速」は映像的に映えるが、蒼紫の「流水の動き」はある意味で神速よりも表現が難しい。それをところどころで披露しているかのような動きは伊勢谷の発案か、それともfight choreographerの指導の賜物か。

 

船上での宗次郎とのバトル(やはり敢えてこう表現する)も非常に漫画的かつシネマティック。神速vs神速の戦いで、このチャンバラの振付は役者の運動神経および互いの信頼関係を前提としないと成立しなかっただろう。佐藤と神木のケミストリーは『 バクマン。 』から続いているし、この二人の共演はぜひとも他作品で観てみたい。

新月村ではなぜか不在だった斎藤一も、海岸でのバトルでは後輩警察官にかけるそっけない、しかし熱い言葉が印象的。さらに「役人になって武士の誇りを忘れたようだな」という上官へのセリフに、前作および前々作で語られることが一切なかった斎藤一の「悪・即・斬」の哲学が垣間見えて良かった。ここでは漫画の斎藤一らしさが感じられた。劇場公開時は漫画の斎藤にはとても見えなかった江口洋介が、劇場で立て続けに観ると漫画的に見えてくるから不思議だ。原作漫画を未読のJovian嫁は「江口洋介が一番漫画に忠実やと思う」とのこと。確かに思い起こしてみると、『 バットマン 』のマイケル・キートン的、つまり漫画の構図を忠実に再現しようとする意志が感じられた。

 

だが誰が何と言おうと本作の主役は志々雄真実である。つまり藤原竜也なのである。原作の志々雄のどうしようもないほどの強さを見事に実写化。あの包帯衣装は包帯ではなく、多分包帯でグルグル巻きにしたように見せる襦袢?またはラバースーツ?いずれにしろ、他の主要キャラと違って、動きに多少の制限が加わりそうな衣装に見えたし、視界は絶対に悪くなっているはず。それを身に着けたうえであれだけのアクションをこなしたのであれば藤原竜也は本物であろう。同時に衣装係の腕前も賞賛せねばならない。剣心、斎藤、左之助、蒼紫の4人を同時に相手にし、圧倒する様は荒唐無稽ながらも説得力があった。表情も体の動きにも制約がある役ながら、誰よりも原作のキャラを再現できていたように感じたし、最期の断末魔の咆哮と笑い声は原作の漫画のそれ以上だ。伊藤博文その他政府高官の敬礼が藤原竜也への敬礼に見えてしまった。それほどJovianは志々雄真実を演じた藤原竜也に魅了されてしまった。

 

ストーリーよりもキャラとアクションを見たいんだ、という層には文句なしにお勧めができる仕上がりである。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210425031318j:plain
 

ネガティブ・サイド

奥義の伝授、つまり「死んでもいい」が「生きねばならない」に変わる過程の描き方があまりにもアンバランスだ。この部分の冗長さがアクションの密度を高めてはいるものの、ストーリーを余計に冗長で間延びしたものにしてしまっている。福山雅治のキャスティングは悪くはないが、これは漫画ファンや映画ファンを満足させるためではなく、福山雅治ファン向けの映画作りをするためなのか。大友啓史は伊勢谷友介に恨みがあって、なおかつ福山雅治に恩義でもあるのか。本当に福山雅治の見せ場を作りたいなら、原作に近い形で十本刀の精鋭をあっさり撃退させてしまえばよかった。というか十本刀という存在も不要だったようにすら思う。伊勢谷友介も残念至極。さんざん剣心を追跡しながら、戦いになった途端に奥義を使われるまでもなく敗れてしまった。シリーズを通して最もかわいそうなキャラである。

 

志々雄との戦いの決着を決める奥義「天翔龍閃」が結構しょぼい。というか、漫画では乱発されていたのを映画では温存していたためか、インパクトが薄れてしまった。単なるスローモーションではなくスーパースローモーションで処理するか、もしくは高速処理にして音が後から聞こえてくるような演出でも良かった。最終奥義のしょぼさが画竜点睛を欠いてしまっている。

 

志々雄に政治を語らせたり、剣心の処刑の茶番や、甲鉄艦が最終決闘の場になったりといった映画オリジナル展開がすべてノイズ。ただ、アクションを見たいという層の観客に沿った結果だと思えば、そこは許容できるか。

 

総評

良くも悪くも、原作のストーリーをダイジェストにして、チャンバラ活劇をメインにしている。原作に忠実な作品を求める層もいれば、漫画という静止画の連続からは得られないカタルシスを大画面と大音響で味わいたいという層もいる。全員を満足させる作品作りは不可能と割り切って、アクション > ストーリーという割り切った作り方を選択したこと自体は評価したい。漫画ファンを納得させるのは難しいが、映画ファンならば満足できる仕上がりになっている。チャンバラ活劇ファンおよび藤原竜也ファンならば必見であろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You grate on me.

瀬田宗次郎の「イライラするなあ」の私訳。grate on someone で、誰かをいやな気分にさせる、誰かの気に障る、の意味。ちなみにJovianのひとつ前の勤め先の英会話スクールの同僚講師3人(全員英検1級持ち)の誰もこの表現を知らなかった。この表現のレベルが高いのか、Jovianの元同僚のレベルが低かったのか。多分、後者である。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2010年代, B Rank, アクション, 佐藤健, 日本, 武井咲, 監督:大友啓史, 藤原竜也, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 るろうに剣心 伝説の最期編 』 -藤原竜也ワールド全開-

『 ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 』 -怪獣は敵か味方か-

Posted on 2021年4月24日 by cool-jupiter

ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 80点
2021年4月17日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:中山忍 藤谷文子 前田愛 螢雪次朗
監督:金子修介

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210424193114j:plain

平成ガメラ三部作のフィナーレ。梅田ブルク7は good job である。単なる特撮怪獣映画としてだけではなく、怪獣が存在することの意義、怪獣が人類にとってどのような存在なのかにまで踏み込んだ作品として、邦画史に残るべき作品だろう。

 

あらすじ

比良坂綾奈(前田愛)はガメラとギャオスの戦いのせいで両親を亡くして以来、ガメラを憎んでいた。引っ越した先の奈良の洞窟で見つけた謎の生物に「イリス」という名前をつけた彼女は、イリスにガメラを倒してほしいと願うようになる。しかし、イリスは実はギャオスの変異体で、綾奈と融合しようとして・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210424193134j:plain

ポジティブ・サイド

ゴジラであれウルトラマンであれ、街中で大暴れはするものの、人的被害について直接的に描かれることは、非常に稀だった。だからこそ初代『 ゴジラ 』や『 ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃 』は傑作だと言える。特に『 ゴジラ 』で母親が娘に「もうすぐお父さんに会えるのよ」と語りかけ、建物の崩落とともに従容として死んでいく様はトラウマものである。怪獣が大暴れすることによって遺児になってしまった綾奈の姿は、阪神大震災や東日本大震災を下敷きに見ると、また新たな感慨をもたらす。

 

公開当時も今もすごいと感じたのは、渋谷のガメラ。昭和ガメラも平成ガメラも、どこか穏やかさを湛えた顔つきだったガメラが、ギャオスへの憎悪や闘争心を隠そうともしない形相になっていたのは、劇場公開時に大学生だったJovianの心胆を寒からしめた。このガメラの顔つきは個人的にはガメラ史上ナンバーワンで、GMKの白目ゴジラに次ぐ怖さであると確信している。

 

人間パートも悪くない。飼い猫のイリスの名前を謎の卵からかえった生物につけてしまうあたり、陰影のある綾奈というキャラの小女性や孤独、さみしさを間接的に描けている。田舎の閉鎖性も妙にリアルだ。地味に奈良vs京都、つまり仏教vs神道の構図にもなっている。ギャオス/イリスは外来の異種で、ガメラは産土神の謂いなのかもしれない。このあたり、GMKの護国聖獣が日本人を殺しながら日本の国土を守ろうとしたように、怪獣は生物個々の守護者/破壊者ではなく、生態系のバランスを取る存在という解釈にスムーズにつながっていくように思う。

 

倉田と朝倉の世界観/怪獣観にもなかなか考えさせられる。地球の意思が、増えすぎた人間の数を減らそうとしているという考え方はコロナ禍の今を見越していたようにすら感じられる。世界各地で大量発生するコロナと世界各地で大量発生するギャオスが重なって感じられた人は多いことだろう。イリスがギャオスの変異体であるというのも、変異株によって大打撃を受けている兵庫・大阪地域のJovianには、考えさせられるものがある。

 

そのイリスの造形の荘厳さは『 ガメラ2 レギオン襲来 』のレギオンを超えると思う。やはり同時代の『 新世紀エヴァンゲリオン 』に使徒として出現してもおかしくない造形美である。ふわりと雲の上に姿を現すイリスの姿は禍々しく、同時に神々しい。ウネウネ系の触手で年端もいかない少女と融合しようとするところは、当時は特に何も感じなかったように記憶しているが、今の目で見ると気持ち悪いことこの上ない。そんな邪神イリスがガメラと激闘を繰り広げ、京都駅ビルという伝統と進歩の象徴を破壊するシーンは、『 モスラ 』における国会議事堂を彷彿させる。ガメラという子どもの味方であったはずの怪獣の破壊者としての側面にフォーカスし、シリアスなドラマでありながらも特撮怪獣映画の醍醐味も保っている。前作では緑色の血しぶきをまき散らしながら飛んでいく様が衝撃的だったが、今作ではそれを上回るグロ描写もあり、小片少女向けの作品には仕上がっていない。怪獣映画としてだけではなく邦画というジャンルにおいても、平成ではかなり上位の作品でありシリーズであると感じる。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210424193150j:plain

ネガティブ・サイド

人間パートが綾奈の物語に集中しすぎで、中山忍、藤谷文子らの出番というか存在意義が少々弱い。中山忍は鳥類学者・生物学者としての見識を披瀝して倉田や朝倉に対抗すべきだったし、藤谷文子も怪獣と心通わせることがどういったものなのかについて、眠っている綾奈に切々と語りかけるようなシーンが欲しかったと思う。螢雪次朗の見せ場も少なかった。

 

前作、前々作と比べて、ポリティカル・サスペンスとしての要素が薄れてしまった。嫌味な審議官がコミック・リリーフになってしまったのは少々残念だった。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210424193207j:plain



総評

『 ゴジラvsコング 』が無事に国内でオンタイムに公開されるのかどうか怪しくなってきたが、怪獣映画の人気やその需要は間違いなく高まっている。本作では玄武(ガメラ)と朱雀(イリス)の戦いが描かれた。白虎と青龍はいずこ。敵としても味方としても登場できる余地が残っている。『 ゴジラvsガメラ 』を実現させる制作者及びスポンサーは現れてくれないものか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a natural enemy

天敵の意。増えすぎた人口を減らすためにギャオスが存在するという仮説は、なかなかに示唆的である。2020年、コロナ対策に社会経済活動を停止させた結果、インドや中国、ロシアやアメリカで空気や水が一時的にせよ浄化されたという報道があったことは記憶に新しい。コロナは地球が生み出した人類の natural enemy なのかもしれない。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 国内, 映画Tagged 1990年代, A Rank, 中山忍, 前田愛, 怪獣映画, 日本, 監督:金子修介, 藤谷文子, 螢雪次朗, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 』 -怪獣は敵か味方か-

『 BLUE ブルー 』 -生涯一ボクサー-

Posted on 2021年4月19日 by cool-jupiter

BLUE ブルー 70点
2021年4月17日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:松山ケンイチ 東出昌大 木村文乃 柄本時生
監督:吉田恵輔

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210419030904j:plain

『 銀の匙 Silver Spoon 』の吉田恵輔が監督および脚本も務めた作品。『 アンダードッグ 』と同じく、ボクサーの影の部分を直視している点に好感が持てる。Jovianはボクシングは多分1000試合ぐらい観ているが、吉田監督も結構なボクシング通なのではないかと感じた。生涯一書生をもじって生涯一捕手と言ったのは故・野村克也だが、生涯一ボクサーという生き方があってもよいだろう。

 

あらすじ

瓜田(松山ケンイチ)はボクシングへの愛情と情熱は人一倍だが、負けてばかりのプロボクサー。後輩の小川(東出昌大)は日本タイトルマッチを射程に入れ、小川の女友達の千佳(木村文乃)とも結婚を視野に入れた交際をしていた。そんな時、ボクシングをやってる感を出したいという楢崎(柄本時生)がジムに入門をしてきて・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210419030922j:plain

ポジティブ・サイド

松山ケンイチの役への没入感が素晴らしい。ボクシングジムにはこういう人が結構な確率でいる。ボクシングはマイナー過ぎて例えば難しいが、元楽天監督の平石洋介タイプとでも言おうか、選手としてはイマイチでも野球への情熱や競技を勉強する心、同門の仲間とのコミュニケーション能力がずば抜けて高いタイプと言えば伝わるだろうか。縁の下の力持ちで、ジムの風景に溶け込んでいる。いても気が付かないが、いなくなると気が付くタイプ。こういうボクサーはちらほらとだが確実に存在している。日本の9割のボクシングジムの経営は、昼間にやってくるボクササイズのおばちゃんたちによって支えられているが、そんなおばちゃん連中を邪険に扱う会長も、あの年代ならリアルに存在している。なんだかんだでこのジムが成り立っているのは瓜田のおかげなんだなということが理解できる。

 

では、なぜそんな好青年の瓜田がボクシングを始めたのか?そして、負け数ばかりを積み重ねながらもボクシングを続けているのか?その事情が紐解かれていく過程は、心温まる友情物語でもありながら、人間の心のダークサイドが垣間見える展開でもある。このあたりが本作を単なるスポコン友情物語ではなく、リアルな人間ドラマにしている要因である。松山ケンイチの演技力のなせる業である。

 

ボクシングシーンもかなり研究されているなという印象。ボクシング映画における試合のシーンは、どれもこれも現実なら即TKOになっている、あるいはタオルが投入されるような描写が多い。本作も例外ではない。では、どこに感銘を受けたかというと、瓜田と小川の二人だけの作戦会議および練習シーン。瓜田がアッパーを推奨する中で、小川は左フックを提案する。この左フックはおそらくモリソンvsラドックでのモリソンの左フックのパクリ、または井上vsマロニーでの井上の左フックのパクリだろう(ここでいうパクリとは、そこから多大なるインスピレーションを得たものという意味である)。吉田監督がボクシング通であると断言できる根拠がここにある。興味のある向きはYouTubeなどで検索されたし。

 

この二人プラス千佳だけでも成立するストーリーに、柄本演じる楢崎が入ってくること瓜田という男の光と影の部分がより鮮明になっている。ボクシングはある程度練習すると本当に強くなれるし、本当に強くなったと実感すると、もうやめるにやめられないものだ。ヘタレの楢崎がだんだんと強さを手に入れていくサブプロットは、そのまま瓜田が過去にたどった道だと思えるし、楢崎が味わった試合の充実感は、それこそ瓜田が味わった充実感と同じものだったはずだ。ボクサーという生き物は、栄光も金も勝利も求める生き物だ。けれど本当に求めているのは完全燃焼すること。『 あしたのジョー 』風に言えば、真っ白に燃え尽きることだ。楢崎の充実の表情からはそれが如実に伝わってきたし、敗戦後に部屋でひとりコンビニ弁当をほうばる瓜田からは、燃え尽きることができなかった自分への悔恨の念が溢れていた。このコントラストの鮮やかさよ。

 

主人公が栄に浴さないタイプのボクシング映画としては、近年の邦画では『 アンダードッグ 』と双璧である。生きる意味、自分が何者で何をすべきかが問い直されつつある時代だからこそ、多くの映画ファンに見てもらいたいと思う。

 

ネガティブ・サイド

ボクサーはどうしても脳へのダメージが避けられないが、小川にパンチドランカー症状を出すのが性急に過ぎたと思う。日常生活でも仕事でもあれだけ小さなミスやら物忘れを繰り返していて、ジムで会長その他のトレーナーやボクサーが気が付かないというのは腑に落ちない。もしくは、瓜田がジムで小川の異変に気づいていながら、あえてそれに目をつぶるなどの描写があれば良かったのだが。

 

劇中のとある試合でのレフェリーが介入してくるタイミング、およびドクターストップの方法が荒唐無稽であった。あれだけ猛ラッシュをかけていて、そこでドクターチェックを入れるレフェリーなど見たことがないし(レフェリー役に福地使うのはやめようぜ、邦画界よ)、傷を見た瞬間に試合を止めるドクターというのも一度しか見たことがない。その一度も、まぶたが深く切れすぎて眼球が一部だけだが露出してしまっているケースだった。普通はタオルやら何やらでいったん止血して、それでも血が止まらない場合や、またはふさがっている方の目が見えているかどうかをチェックしてからストップの判断をするものだ。よくできたボクシング物語なのにここだけ急に非現実的だった。

 

後はリング禍の描写かな。急性硬膜下血腫だと思うが、プロボクサー未満の二人をスパーリングさせるのに、トレーナーやら会長がまともに注意を払っていないのは、ボクシング関係者が見たら、頭を抱えることだろう。普通、あれだけきれいに顔面に入ったり、あごがきれいにポーンと跳ね上がったら、そこでスパーは絶対に中止だろう。楢崎の因果にリング禍は不要。マウスピースをつけずになめてかかってきた相手の前歯を折るぐらいで良かったのでは?

 

総評

いつの頃からか世の中は勝ち組と負け組に分断されるようになってしまった。経済的な成功や人間関係の充実=勝ち組とされがちな世の中に「それだけが答えではない」と言い放つ作品の登場を心から歓迎したい。ボクシングを知っている人も知らない人も、自分が何をすべきか知っている人も知らない人も、本作からは必ずなにかしらのインスピレーションを得られることだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

retire

引退する、の意。引退させる、という他動詞で使われることもある。ボクサーの多くは引退を余儀なくされる。自分から引退できるボクサーは果報者である。ただし、現役復帰(=unretire)する選手が多いのもボクシングの特徴と言える。元プロ野球&MLB選手だった新庄剛志がトライアウトを受ける前にも英語メディアでは unretire が使われていた。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 木村文乃, 東出昌大, 松山ケンイチ, 柄本時生, 監督:吉田恵輔, 配給会社:ファントム・フィルム, 青春Leave a Comment on 『 BLUE ブルー 』 -生涯一ボクサー-

『 AVA/エヴァ 』 -続編は難しいか-

Posted on 2021年4月18日2021年4月18日 by cool-jupiter

AVA/エヴァ 40点
2021年4月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェシカ・チャステイン ジョン・マルコヴィッチ コリン・ファレル ダイアナ・シルヴァース
監督:テイト・テイラー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210418140402j:plain

『 女神の見えざる手 』のジェシカ・チャステイン主演作。定期的に制作される女性エージェントの物語だが、割と最近の『 ANNA アナ 』と比較すると、二枚は落ちるかなという印象。

 

あらすじ

暗殺者エヴァ(ジェシカ・チャステイン)は、標的を殺す前に「あなたはどんな悪いことをしたの?」と問いかけるようになっていた。ある任務で、事前に与えられた情報が誤っていたことからエヴァは組織への不信感を募らせる。そして標的に問いかけるという行動を問題視していた組織も、サイモン(コリン・ファレル)にエヴァを始末させようとして・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210418140417j:plain

ポジティブ・サイド

ジェシカ・チャステインというだけでチケットを購入を購入した人は多いだろう。Jovianもその一人。彼女の演技力は折り紙付きで、実際に鉄面皮の殺し屋から情緒不安定な女性的な面までを2時間足らずの間に幅広く披露した。大将という対象を暗殺した後に現場から逃走する際に、か弱い女性のふりをして兵士を騙す変わり身の早さ。ひらひらのドレスのままに格闘から銃撃戦までをこなすタフさ。複数言語を流暢に操る頭脳明晰さ。いずれにおいても説得力のある演技が堪能できる。

 

アメリカ映画でしばしば大きな柱として描かれる父親=positive male figureとの間に因縁があり、それが組織の上司であり、また父親代わりでもあるジョン・マルコビッチとの複雑な距離感につながっている。そのマルコヴィッチも年齢不相応のアクションで見せ場を作る。エヴァとサイモンの両方の師匠であることから、片方は父親の補完、もう片方は父親殺しを成し遂げるという因縁多きキャラクター。この好々爺を間に挟むことで、エヴァとサイモンの激突がよりドラマチックになっている。

 

ジェシカ・チャステインのファンならばチケットを買おう。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210418140432j:plain

ネガティブ・サイド

ジェシカ・チャステインの走りの不格好さはハリソン・フォードに通じるものがある。アクションの迫力はまあまあだが、それも細かいカットを巧みに編集したもの。ジェシカ・チャステイン本人の athleticism 自体はあまり高くなさそう。女優の運動能力という点では『 悪女 AKUJO 』や『 The Witch 魔女 』といった韓国映画に余裕で負けている。銃撃戦の方はまだしも、近接格闘戦になると、カットごとのつながりが妙にぎこちなく映る。fight choreographer の指導がイマイチというのもあるかもしれないが、ジェシカのパンチやキックのすべてに「何か違う」感がずっと付きまとっている。元軍人の現暗殺者というキャラ設定が、アクションのせいで弱くなってしまうのは本末転倒である。

 

暗殺者のプライベートな面を描くのは興味深い試みだが、そこでも『 ANNA アナ 』に負けている。あちらは一人の女性が二人の男を手玉に取ったが、こちらは一人の男を二人の女(それも姉妹!)で取り合うという修羅場展開。暗殺者のプライベートにまで闘争の種は要らんやろ・・・ しかも、その相手の男も職業がギャンブラーって何やねん。恋愛および結婚対象にしたらダメな属性ナンバーワン。8年も暗殺稼業をやっているエヴァが、この男に未練たらたらである理由がさっぱり分からなかった。

 

サイモンの最期が残念過ぎる。何故にわざわざ人気の少ない方向へと逃げるのか。組織に家族の護衛を要請するなら、同じその電話で自分に応援または足を寄こすようにと言えばいいではないか。エヴァ相手に「俺のほうが殺しのキャリアは上だ」みたいなことを言っていたが、とてもそうは思えなかった。終わり良ければ総て良しと言うが、終わりが悪ければ総て悪しとも言えてしまう。その典型例のような悪役だった。

 

『 マー サイコパスの狂気の地下室 』や『 ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 』のダイアナ・シルヴァースの出番が足りない。というか、続編作る気満々の終わり方だが、それならサイモンの娘であるカミールの強さがほんの少しでもいいから伝わるシーンが必要だったが、そんなシーンも演出も無し。ダイアナ・シルヴァースの無駄使いだった。

 

総評

ジェシカ・チャステインのファンにはお勧めできるが、それ以外にはやや難しい。聞けば途中で監督が降板して、テイト・テイラーが引き継いだらしい。『 ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー 』などでも分かるが、監督が途中で代わるのはマイナスがあまりにも大きい。野球やサッカーは監督交代が奏功することがあるが、映画でそれはまずない(そういう意味では『 ボヘミアン・ラプソディ 』は例外的)。なので、物語や映像、キャラの深堀具合などではなく、ひたすらジェシカ・チャステインを鑑賞したい人のための作品であると了承してから李チケットを買うべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

do ~ justice

~を正当に評価する、の意。作中では”Pictures don’t do you justice.” =「写真はあなたを正当に評価していない」=写真はあなたの魅力をしっかりと写し出していない、のように使われていた。昔、YouTubeでアメリカのボクシング試合を見あさっていた時に、”TV does this fight no justice!” = 「テレビではこの試合の迫力が伝わらない!」というアナウンサーの絶叫を聞いたことがある。こういう表現がさらっと使えれば英会話の上級者と言える。

 

 にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, コリン・ファレル, ジェシカ・チャステイン, ジョン・マルコヴィッチ, ダイアナ・シルヴァース, 監督:テイト・テイラー, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 AVA/エヴァ 』 -続編は難しいか-

『 太陽は動かない 』 -ドラマ未鑑賞でもOK-

Posted on 2021年4月17日 by cool-jupiter

太陽は動かない 60点
2021年4月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:藤原竜也 竹内涼真 ハン・ヒョジュ 南沙良
監督:羽住英一郎

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210417130335j:plain

WOWOWドラマの映画版。コロナ禍で公開がかなり遅れたが、当初はスルー予定だった。ハン・ヒョジュと南沙良が出演していると知って、慌ててチケットを購入した。

 

あらすじ

産業機密情報を売るAN通信、そのエージェントである鷹野(藤原竜也)と田岡(竹内涼真)は、次世代エネルギーの開発の秘密をめぐってブルガリアに潜入した同僚を救出するが、心臓に埋め込まれた爆弾が容赦なく爆発。同僚は死亡した。鷹野はその任務を引き継ぎ、各国の企業やエージェントらと渡って行くことになり・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210417130355j:plain

ポジティブ・サイド

冒頭の市原隼人救出のシークエンスは思いっきりハリウッドを意識していてよろしい。窓からど派手に侵入してからの銃撃戦と近接格闘戦から、AN通信というのはハッキングや通信傍受の集団ではなく肉体派の集団ですよ、ということが伝わってくる。藤原竜也はるろ剣でも感じたが、邦画では珍しくかなり体を動かせる役者だ。アクションシーンのワンカットの長さだけでそれを判断するのは早計だが、アクションを体に染みつかせるのは才能と練習の両方が必要だ。ドラマでキャリアを積んだ役者はセリフを覚えるのはうまいが、部隊・・・じゃなかった舞台上がりは体に動きを叩き込ませられるのが強味。藤原竜也にはそうした芯の強さを感じる。

 

心臓に爆弾を埋め込まれているという設定も、実際に医療機器で心臓に埋め込むペースメーカーというものがあるので、割と素直に受け止められる。スパイの世界では死ぬことでしか守れない情報というものもあり、だからこそ『 TENET テネット 』の主人公のように、自分から死を選ぶ姿勢が一流には求められる(別に『 TENET テネット 』の主人公は本当に死ぬわけではない、念のため)。

 

太陽光エネルギーに関する秘密を主軸に物語が進んでいくというのも、現実世界を下敷きしているので、必ずしも万人にとって分かりやすいわけではないが、納得しやすい話である。特に発電、蓄電、送電が分離していながらも独占状態でもある本邦では、この仕組みにメスが入れられつつあり、そうした背景を頭に入れて鑑賞すれば物語世界に入っていきやすくなる。世界各国に血眼になってこの技術の秘密を手に入れたいと願う者たちがいる、逆に言えば、この技術の秘密を何よりも高く買ってくれる相手に売りたいと思う者たちもいるということで、本作がヨーロッパやアジアを股にかけた国際的なスケールで展開されるのは必然なのだ。

 

ハン・ヒョジュが演じた international woman of mystery が素晴らしい。複数言語を操り、くのいち的な手練手管も備えたエージェントで、こんな相手になら騙されてみたいと思わせてくれた。脚線美を見せつけるだけではなく、韓国のお家芸であるテコンドーキックも披露してくれたのはちょっと驚き。アクションができるタイプの役者だとは認識していなかったが、なかなかやりますなあ・・・

 

鷹野という男のバックグラウンドを結構ねちっこく描いてくれているので、ドラマ未鑑賞でも劇中の彼の行動原理が理解できるし、共感もできる。”失われた家族”という裏テーマが作品全体の通奏低音になっていて、鷹野が様々な登場人物たちに複雑なエディプス・コンプレックスを抱いているのが分かる。それを一つひとつ、時には乗り越え、時には囚われしていくのが作品の序盤中盤終盤で逆説的に描かれている。どこか『 ベイビー・ドライバー 』的だと感じられるのだ。続編があれば、ドラマ鑑賞の上、観てみたいと思わせてくれる出来であると感じた。

 

ネガティブ・サイド

よくよく考えれば、爆弾を胸に埋め込むことは裏切りの抑止力になっていないのではないか。定期連絡さえ怠らなければ死ぬことはないわけで、スパイの世界では当たり前のダブルエージェントがAN通信から出てきても全く不思議ではないだろう。このあたりをうまく説明できる描写が欲しかった。

 

スパイの世界で重要な産業機密を巡った話をしているわりには、盗聴などにあまりにも無頓着すぎやしないか。特に鶴見辰吾の自宅での会話など、普通はそんなところでは絶対にやらないだろう。穿ちすぎかもしれないが、「息子の情報」をエサに奥さんに盗聴させることも難しくはないだろう。AN通信という組織でありながら、通信技術に無頓着に思えるシーンが多々あるのは遺憾である。

 

ハン・ヒョジュやピョン・ヨハンら、韓国人俳優が英語や日本語を操るのは国際的なエージェント感が出ていてよい。だが、ハン・ヒョジュの日本語が少したどたどしいかな。そう感じられるのは彼女の名前がAYAKOだから。なぜ普通の韓国人風の名前にしなかったのか。または『 ザ・バッド・ガイズ 』や『 パラサイト 半地下の家族 』みたいにジェシカとかで良かったのでは?

 

字幕にも不満が残った。字幕の出来ではなく表示方法。日本語、英語、韓国語、中国語、さらにはヒンディー(?)まで入り乱れる本作だが、英語はカッコ無し、韓国語は<~~~~>、中国語は≪~~~~≫、ヒンディーは【~~~~】のように使い分けてほしかった。そうすれば、誰がどの国の人間でどういった人物相関にあるのかがもう少しわかりやすくなっただろう。

 

後はJovianが大好きな南沙良の出番が中途半端だったかな。

 

総評

邦画には珍しい壮大なスケールの物語で、日本人キャスト以外にもそれなりのビッグネームが名を連ねているのはWOWOWの力か。警察や公安、自衛隊ではなく会社員が大活躍するという点で、サラリーマンもちょっと勇気づけられる話になっている。普通のテレビ局ではなくWOWOWが絡んでいるためか、邦画的ではなくハリウッド的な作劇になっている。回想シーンと現在のシーン、そして色々な地域を行ったり来たりするところについていければ、それなりに楽しめることだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

That is all there is to it.

それだけのことだ、の意味。文法的に分解して開設するのは面倒なので省略させてもらうが、用例としては

Always listen to your customer. That is all there is to it.

常に顧客に耳を傾けよ。それだけのことだ。

If you want to get promoted, get a TOEIC score of 900. That’s all there is to it. 

昇進したければTOEIC900点を取りなさい。それだけのことだ。

のように使う。ぜひ使いこなそう。 There is nothing to it!

 

 にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, アクション, ハン・ヒョジュ, 南沙良, 日本, 監督:羽住英一郎, 竹内涼真, 藤原竜也, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 太陽は動かない 』 -ドラマ未鑑賞でもOK-

『 ザ・バッド・ガイズ 』 -悪をもって悪を制す-

Posted on 2021年4月16日2021年4月16日 by cool-jupiter

ザ・バッド・ガイズ 60点
2021年4月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マ・ドンソク キム・アジュン
監督:ソン・ヨンホ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210416000420j:plain

マ・ドンソク出演作ということで迷わずチケットを購入。それなりに楽しめたが、ところどころよく分からない展開も。後から知ったが、テレビドラマの映画化だった。前もってドラマを予習しておくのが吉だろう。

 

あらすじ

囚人護送車が襲撃され、多くの凶悪犯罪者が逃亡した。警察は腕利きの犯罪者で構成される「特殊犯罪捜査課」を使って事態の収拾に乗り出す。その中には「伝説の拳」と呼ばれたパク・ウンチョル(マ・ドンソク)や天才詐欺師のクァク・ノスン(キム・アジュン)もおり・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210416000436j:plain

ポジティブ・サイド

悪が悪を追うという展開であるが、韓国映画における巨悪とは、企業であったり学校であったり警察であったり銀行であったり政府であったりする。なので、本作を劇場鑑賞するぐらいに韓国映画好きな諸賢はあらためてこのことを意識されたし。本作で描かれる「追われる側の悪」はなかなかに衝撃的だからである。

 

韓国版、悪のドリームチームと言うとかなり大げさだが、元警察官の服役囚に暴力団員、詐欺師、それを束ねる老刑事というのは、どことなく『 スーサイド・スクワッド 』的である。または Birds of Prey 的であるとも言える。つまり、より大きな悪が存在するということ。毒を以て毒を制す。悪をもって悪を制す。単純な善悪二元論ではないのだから、ある程度面白いのは保証されている。

 

実際に、マ・ドンソクはいつも通りのマ・ドンソクである。つまり、鉄拳ですべてを解決する男で、殴って殴って殴りまくりである。元警察も女詐欺師も、とにかく自らの肉体を武器にして格闘しまくりである。韓国映画全般に言えることだが、殴ったり蹴ったりの演技、さらにそれを撮影する技術はやはり日本よりもかなり高い。銃撃戦ではなく肉弾戦なので、単純に見ているだけで楽しい。

 

中盤では逃げた囚人の中でもキーマンとなる男を追う展開はナ・ホンジン監督ばりの追跡劇。「逃げる」と「追う」はやはりサスペンスの基本である。『 無双の鉄拳 』で個人的に度肝を抜かれた竜巻旋風脚の(別の)使い手が本作では助っ人で登場。この悪の五人組が大人数を相手に立ち回る様は『 エクストリーム・ジョブ 』の終盤を彷彿とさせた。物語そのものに厚みはないが、爽快感だけは保証できる。

 

もちろん、分かりやすい社会的なメッセージも込められている。老刑事が最後に警察のお偉いさんに言い放つセリフは、そのまま日本の政治屋連中に当てはまる。声のでかさに定評のある韓国人だが、『 暗数殺人 』のキム・ユンソクが切々と訥々と思いを語ったように、肝心なところでは静かに話す。このギャップがいいのである。日本の役者も抑えた演技というものを磨いてほしいと感じる、出色の演技だった。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210416000456j:plain

ネガティブ・サイド

マ・ドンソクの新たな一面というか、若い女性に戸惑ったりする面というのは新鮮でありながら、あまり面白くは感じなかった。このおっさんは基本的には鉄面皮または朴念仁というのが似合う。キム・アジュンは確かに milfy な女優さんであるが、マ・ドンソクの魅力的な一面を引き出すキャラだったかというと疑問符が付く。

 

元がテレビドラマゆえか、ドラマ未鑑賞者からすれば「この人は誰?」という人が、特に序盤にちらほら出てくる。そういった脇のキャラはばっさり省くか、あるいは映画で初めて本作の世界に触れる人向けに簡単に人間関係を俯瞰できるような描写が欲しかった。

 

秦の黒幕の存在がちょっと・・・ 非現実的というか、お隣さんの韓国は何を思ってこの黒幕を設定したのだろうか。いや、別に誰をどう黒幕に設定してくれても構わんのだが、かの国のかの業界には最早そんな力はないわけで・・・ 『 犯罪都市 』を作った韓国が、韓国を皮切りに大陸にまで続く黄金の道を作ってやろうという気宇壮大な犯罪者集団をかの国から持ってくるという発想がちょっと突飛すぎる。

 

最後のバトルもギャグである。もちろん迫力はあるのだが、凄みのある暴力には見えない。むしろ、「そんなアホな」というのが素直な印象である。だいたいこういう自分の手を汚すタイプの悪役でなおかつ腕っぷしも強い奴というのは『 哀しき獣 』のキム・ユンソクみたいな延辺朝鮮族自治州のワルのような印象しかないが。

 

総評

普通に面白い作品である。ただ面白さの質が少々薄い。エンタメ要素の中にさりげなく、しかし確実に社会批判の要素を組み込んでくるのが韓国映画の様式美だが、本作はそこに至るまでの過程が弱い。ストーリーもマ・ドンソクの、文字通りの意味での剛腕頼みで、マ・ドンソク自身のキャラも他のキャラも立ちそうで立たなかった。まあ、ドラマ未鑑賞者の感想なので、このあたりはドラマをよく知っている人の感想とは大いに異なるだろう。爽快感は保証できるが、黒幕が少々アレなのが玉に瑕か・・・

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ワイロ

まいないの文化や伝統がかなり豊かであると思われる韓国で、まさか賄賂という言葉や概念が日本から逆輸入された、あるいは日本統治時代に根付いたとは考えづらいが、韓国語でも賄賂はワイロと言う。『 マルモイ ことばあつめ 』でも観て勉強しようかな。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アクション, キム・アジュン, マ・ドンソク, 監督:ソン・ヨンホ, 配給会社:エスピーオー, 韓国Leave a Comment on 『 ザ・バッド・ガイズ 』 -悪をもって悪を制す-

『 パーム・スプリングス 』 -結婚について考えよ-

Posted on 2021年4月14日 by cool-jupiter

パーム・スプリングス 70点
2021年4月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アンディ・サムバーグ クリスティン・ミリオティ J・K・シモンズ
監督:マックス・バーバコウ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210414074659j:plain

無名キャストたちが主演を張りながらも、アメリカではかなりの高評価だったことからチケットを購入。タイムトラベルものやタイムループものは出だしは絶対に面白いのだが、着地に失敗することも多い。本作はちゃんと着地できている。

 

あらすじ

結婚式で出会ったナイルズ(アンディ・サムバーグ)とサラ(クリスティン・ミリオティ)は、二人でロマンチックな雰囲気に。しかし、そこへ謎の老人ロイ(J・K・シモンズ)が現れ、ナイルズにボーガンの矢を放つ。ナイルズは「来るな!」と言い残して、赤い光を放つ洞窟の中に消えていく。ナイルズを追って洞窟に入ったサラは、気が付くとその日の朝に戻っていて・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210414074717j:plain

ポジティブ・サイド

同じ一日を何度も繰り返すという作品には『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』があるが、ある意味ではこちらのナイルズの方があちらのトム・クルーズよりも遥かに深刻で、なおかつ状況を楽しんでいる。冒頭のシークエンスから笑ってしまう。起き抜けにいきなり一戦交えるナイルズとそのガールフレンドのミスティだが、ナイルズはまったく興奮しておらず、ミスティも「時間がないから」と言って、ナイルズに自分で出すように言うが、そのそばで”Shit!”を連発するミスティを見つめるナイルズの表情が様々なことを物語っている。物語の中盤以降にこの顔を思い浮かべれば、アンディ・サムバーグの演技力・表現力の豊かさを称賛できるはずだ。

 

ヒロインのサラは大きな目が特徴的な妙齢の女性。しかし、妹が結婚するというのに本人は独身、家族の態度も何やらよそよそしい。パーティーでも一人で延々と飲むタイプで、社交的には見えない。割とすぐに本人の口から語られることだが、いろいろちょっとアレな人なのだ。この序盤の家族、特に父親の言動をしっかりと覚えておくと、終盤の物語の舞台裏(タイムループ現象の謎ではない)が明らかになる瞬間に役立つ。

 

ナイルズがミスティの浮気に傷心して、それを見たサラがナイルズを癒してやりたくなってしまい・・・という部分だけ見ればよくある三文芝居なのだが、ここの作りが非常によく、二人の盛り上がりにリアリティがある。と同時に、実はこのプロット自体が・・・と、これ以上は書いてはいけないんだった。

 

色々あってループ世界を楽しむ二人の様子を観るのはこちらも楽しくなってくる。実際に自分でもこういう行動をとるだろうな、という大胆な行動をとってくれるのだ。だって死んでもリセットされる(一応痛みは感じるらしい)だけで、どんなリスクだって取り放題なのだから。つまり、二人は二人だけの世界で生きているわけだ。というあたりで愚鈍なJovianは、これが恋愛および結婚生活の象徴であることに気が付いた。恋愛をしているときは無敵な感じがする。そして結婚当初もそうである。しかし、だんだんと二人だけの生活を続けていくと、そこに新鮮味を感じられなくなってくる。そうした時にどうすべきなのか。これはある意味で結婚観を問われる映画である。Jovianは結婚とは「その相手と一緒に年を取っていきたいと思えるかどうか」だと考えている。もちろん、「その相手との間に子を持ちたい」だとか「その相手と一緒に子供を育てたい」、「その相手と一緒に笑いたい」、「その相手と一緒に苦労をしたい」など、これは人の数だけ答えがある問いだ。不正解と言える答えはあるだろうが、唯一の正解などというものは存在しない。

 

タイムループもラブコメ要素も普通といえば普通だが、本作のメッセージは「結婚について真剣に考えてほしい」ということなのだろうと受け取った。もしも独身者や「結婚?しねーよ」と言う人は、絵本の『 100万回生きたねこ 』を読んでから、本作を鑑賞されたし。そうすればナイルズの決断について、より深く共感できるようになるはずである。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210414074735j:plain

ネガティブ・サイド

J・K・シモンズの出番はもっとあってよかった。というか、時々現れて殺しに来ると言いながら、実際にやってくるのは2回だけ。これだけでは拍子抜けだ。もちろん、なぜあんまりやって来ないのかは後から説明されるが、前半で能天気に楽しむナイルズとサラに a change of pace をもたらすために、もう少し高い頻度で殺しに現れてほしい。そうすれば、無意味だと感じてしまうようになる生にも何らかの意味があるはずだと考えるきっかけになったのではないか。

 

素朴な疑問が二つ。一つは、サラがタイムループからの脱出方法を実験するためにヤギを使うのだが、なぜサラはそのヤギがタイムループをしていると知っていたのだろう。あるいは、ヤギを洞窟の赤い光に連れ込んだのだろうか。であれば、その描写はカットしてはいけなかったのではないか。

 

疑問のもう一つは、タイムループの内と外。この終わり方だと、タイムループは実はタイムループではない。あるいは『 アベンジャーズ/エンドゲーム 』のように、時間線=意識線のような時間構造を想定しなければならないが、だとするとサラが独学していた量子力学は・・・まあ、これはタイムトラベルの原理と同じで深く考えてはいけない領域か。

 

総評

余計な登場人物や余計なサブプロットもなく90分でサクッと終わるので非常に観やすい。一部、性的な描写もあるが露骨なものではない(一応、PG12である)ので、高校生ぐらいならデートムービーとして鑑賞することもできそうだし、夫婦で鑑賞すればさらに味わい深くなること間違いなしである。コメディ調でありながら、訴えてくるテーマはシリアス。しかしシリアスさは感じさせず、ライトなノリで最後まで楽しめる。結構な掘り出し物だと思うので、映画ファンならチケットを買われたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

cheat on somebody

日本語でもチートという片仮名で根付いているが、英語ではcheat on somebody = 誰かという相手を裏切って浮気をする、の意味。cheat on Nancyというのはナンシーが浮気相手という意味ではないので注意。この場合、裏切られたのはナンシーである。cheat in an exam=試験でカンニングをする、というのも割と使われる表現である。cheat = 何らかの不正行為を行う、と理解しておこう。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, J・K・シモンズ, アメリカ, アンディ・サムバーグ, クリスティン・ミリオティ, ラブコメディ, ラブロマンス, 監督:マックス・バーバコウ, 配給会社:プレシディオ, 香港Leave a Comment on 『 パーム・スプリングス 』 -結婚について考えよ-

『 るろうに剣心 京都大火編 』 -コスプレ大会がレベルアップ-

Posted on 2021年4月12日 by cool-jupiter

るろうに剣心 京都大火編 65点
2021年4月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:佐藤健 武井咲 藤原竜也
監督:大友啓史

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210412205940j:plain

『 るろうに剣心 』の続編にして、志々雄編の始まり。ここからコスプレもレベルアップし、それに比例するかのようにアクションもレベルアップしていく。ただし、前作同様にストーリーを無理やり詰め込みすぎた弊害が今作でも出ている。

 

あらすじ

明治の世になって幾星霜。しかし、幕末の暗殺者・志々雄真実(藤原竜也)がよみがえり、国盗りを狙っていた。内務卿・大久保利通暗殺の報を受けた緋村剣心(佐藤健)は神谷道場を去って京都へと単身向かうが・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210412205956j:plain

ポジティブ・サイド

なんだかんだで主演を張った佐藤健のatheleticismは大したものだと思う。映画『 バクマン。 』でも、染谷将太を相手にイメージの世界ででかいペンを振るうアクションシーンがあったが、そこで披露したキレキレの動きは健在。節制すれば40代でもアクション俳優として活躍できそうだ。新月村の雑魚敵を大掃除するシーンは、どれだけリハーサルを重ねたのだろうか。また宗次郎との初対決でのチャンバラも、漫画にはないシーンで非常にエキサイティングだった。やはりチャンバラこそが邦画の華。その意味ではるろ剣は邦画の華の中の華と言える。

 

『 バクマン。 』で共演した神木隆之介演じる宗次郎も再現度が高い。神木も見た目とは裏腹に身体能力の高さを誇る役者で、チャンバラだけではなく大久保利通暗殺のシーンでも魅せた。漫画の縮地は実写では描けないが、それでも剣心並みの神速の持ち主であることが十分に伝わる演出だった。あどけなさの残る顔立ちでありながら、剣客として一流という正に漫画的なキャラを、神木という役者が絶妙なタイミングで演じることができたのは僥倖だろう。

 

土屋太鳳演じる巻町操は、年齢的にはちょっと合わないが、それでもアクションで魅せる。伊勢谷友介もかなり鍛えているのか、ワイヤーアクション以外では最も格闘ができていたように見えた。るろうに剣心という複雑な人間模様を備えた漫画を実写映画化するなら、ある程度はアクション一本鎗で行くと割り切ることも重要。その意味ではストーリー進行やキャラの描き方に多少の?マークがついても、とにかくアクションの迫力で押し切るという方針は正解だったと思う。

 

それでも本作のMVPは文句なしに藤原竜也であると感じた。全身から顔面まで包帯でグルグル巻きで、表情がひとつも出せないにもかかわらず、苛立ちや興奮、嘲笑などの多彩な感情を声音と仕草だけで表現しきったのはあっぱれ。試し切り以外のアクションを何もしていないのに、最も強く印象に残るキャラは間違いなく志々雄である。

 

ネガティブ・サイド

コスプレ=キャラの見た目の再現度には何の文句もないが、香川照之が観柳をover the topに演じたように、ここでもcharacter studyを誤った役者がいる。Jovianのお気に入りの滝藤賢一演じる百識の方治がそれだ。超武闘派集団の中で唯一の冷静沈着なインテリキャラのはずが、どうしてこうなった・・・ 大友監督は漫画をどこまで読み込んだのか。

 

四乃森蒼紫についても完全に伊勢谷友介の無駄使い。本来なら前作で鵜堂刃衛のポジションにいるはずだったが、剣心を追って頓珍漢な行動ばかり。左之助や翁とのバトルは見応え十分だが、ストーリーが面白くなったかというと、そうではない。1作目で刃衛と蒼紫。2作目である本作で十本刀の半分くらい、3作目で志々雄を倒すぐらいが本当は望ましかったのではないか。

 

斎藤一が1作目から登場してしまったこともキャラとストーリーの両方を描くという面では失敗だったようだ。強キャラながら肝心なところにいないという印象が勝ってしまう、また左之助が「明治政府とは性が合わねえ」と言いながら、明治政府の要請で京都に向かった剣心を追うというのも納得しがたい。漫画のように赤報隊というバックグラウンドをしっかり描いておけば、明治政府は気に食わないが大多数の農民や庶民を虐げることになる志々雄の支配は認められないという左之助の正義が伝わるのだが。

 

総評

原作漫画に忠実なキャラの行動原理やストーリー展開を期待するとがっかりする。逆に、原作の愛すべき、そして憎むべきキャラクターたちがど派手にチャンバラをやる映画だと割り切って鑑賞しなければならない。アクション自体は非常に上質なので、原作原理主義者でもない限りは、迫力の戦闘シーンの数々に満足できることだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This cuts well.

新月村の志々雄が試し切り後に言い放つ「よく切れるな」というセリフの私訳。cutというと他動詞で使われることが多いが、自動詞で使われる頻度もそれなりに高い。日本語でも「この車はあまり売れなかった」と自動詞で使うが、英語でも同じように”This car didn’t sell well.”と言う。英語の自動詞と他動詞を適切に使い分けられるようになれば、中級者の中でも上位に近づいてくる。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, アクション, 佐藤健, 日本, 武井咲, 監督:大友啓史, 藤原竜也, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 るろうに剣心 京都大火編 』 -コスプレ大会がレベルアップ-

『 砕け散るところを見せてあげる 』 -青春映画を期待するべからず-

Posted on 2021年4月11日 by cool-jupiter

砕け散るところを見せてあげる 65点
2021年4月10日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中川大志 石井杏奈 井之脇海 清原果耶
監督:SABU

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210411232456j:plain

怪作『 蟹工船 』監督のSABUが竹宮ゆゆこの同名小説を映画化。タイトルからして不穏であるが、割と血生臭い系の映画にばかり出演している石井杏奈がヒロインであることから色々とお察しされたい。

 

あらすじ

高校三年生の濱田清澄(中川大志)は、いじめの対象にされている一年生の蔵本玻璃(石井杏奈)を助ける。初めは拒絶していた玻璃だが、徐々に清澄に心を開き、二人は打ち解けていく。しかし、玻璃は「UFOを撃ち落とさなければならない」という謎の告白をして・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210411232515j:plain

ポジティブ・サイド

石井杏奈の代表作が生まれた。『 ホムンクルス 』のレビューでキャピキャピ映画に出るべしと提案したが、撤回したい。等身大ではなく、一筋縄ではいかない、どこかに闇を抱えた少女路線をしばらく続けるべし。久しぶりに若い女優の「演技」を観たと感じた。体育館での奇声、女子トイレでの吃音交じりのしゃべりに『 志乃ちゃんは自分の名前が言えない 』の南沙良を思い起こさせてくれる演技だった。特にトイレのシーンは圧巻。寒さからくる震えと極度の緊張感と不安感から、自然とどもってしまう感じが演技には思えなかった。そして中盤に華麗なる(外見上の)変身を果たしても、口数の多さから対人的な距離の取り方の下手さがうかがい知れる。つまり、他人との距離が極めて近いか、極めて遠いかという不器用な人間の顔が見えてくる。佳人薄命と言うが、こういう人間に救いの手を差し伸べられるかどうかでその人間の価値が上下するようにすら思えてしまう。それほど周囲から孤立し、それゆえに多くの人を遠ざけ、ほんのわずかな人間だけを引き寄せるという不思議なキャラクターに仕上がった。SABU監督の演出もあるのだろうが、石井杏奈本人のcharacter studyの努力も見逃せない。

 

それを助ける中川大志も今までのキャリアの中ではベストアクトだろう。『 坂道のアポロン 』的な役で1年のいじめっ子たちをぶっ飛ばしてほしいと一瞬だけ感じたが、すぐにそういう役ではないと分かった。どちらかというと『 覚悟はいいかそこの女子。 』に近かった。といっても、甘酸っぱい、青臭いラブストーリーではなく、かといって社会的な貧困問題などを取り上げているわけでもない。極めて個人的な背景と関係を描いた物語である。ヒーローになるという、ともすれば青臭い正義感に駆られた少年という漫画的なキャラクターをリアリティをもって描き出せていた。そう感じさせてくれたのは、いじめられている玻璃にひたすらに寄り添う姿勢からだ。確かにいじめっ子に対して先輩という立場や体格の違いにものを言わせることはたやすい。担任や学年主任にいじめを報告することもできる。しかし、清澄はそうした行動を選択しない。それは彼自身の信念から来ていることで、だからこそ少々不可解に思える行動にもある程度納得することができる。

 

青春邦画には少々珍しく、かなり直截的なメイクアップが使われている。そこは評価したい。美しく見せるだけがメイクではない。痛みを伝えることも、メイクの重要な役割であることが本作を通じてあらためて感じられた。

 

若い二人の関係性の発展にフォーカスした中盤までは必見。終盤でも、一発で撮影できなければやり直しが困難あるいは多大な時間を要するシークエンスが多数あり、それを見事に乗り切った中川と石井、そして多くのスタッフの労力に敬意を表したい。

 

愛とは何か。それは消えないもの、続いていくもの、目に見えなくても実感できるもの。そうした極限的に青臭いメッセージを最終的に送ってくる本作であるが、それを好ましく受け止められるだけの重みが本作にはあった。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210411232533j:plain

ネガティブ・サイド

冒頭の勉強部屋のシーンはもっとうまく作れたはず。それこそ窓の外から撮るとか、または母親目線で、つまり背後から撮るとか、もっと工夫のしようがあった。多分このシーンと直後の全力ダッシュシーンのつながり方で、多くの人が「ん?」となったはず。Jovian嫁はそうだった。ここは「ん?」と思わせてはいけないシーンだろう。

 

清澄と田丸の友情は非常に好ましく、微笑ましくも思えたが、終盤で田丸が清澄に「この線の向こう側に行くな!あの女ではなく俺を選べ!」といったようなセリフを吐いたのには正直ドン引きした。BL要素は不要だし、何よりも普通の男は、男の友情よりも女を選ぼうとしている男の肩を持つものだ。原作がこうなのかな?ここには多大な違和感を覚えた。

 

『 パブリック 図書館の奇跡 』でもあったミスだが、真冬の長野だという設定にもかかわらず登場人物たちの吐く息がまったく白くない。夜でさえも。また清澄と玻璃の帰り道だか車から見えるシーンだったか、思い切り稲穂が首を垂れていた。つまり、撮影時期は10月頃だろう。だったら劇中をそういう時期に設定するか、あるいは夜だけでも白い息を吐くように工夫するか、CG処理でもしてほしかった。特に真冬で凍える時期という設定に一定の意味があるのだから、後者が必要だったのではと強く思う。

 

最後に、これは映画そのものへのfeedbackでもcomplaintでもないのだが、どうしても言わせてほしい。もうトレーラーで物語を全部ばらす愚行からはそろそろ卒業してはどうだろうか。これは邦画だけではなくハリウッドにも当てはまるが、インド映画や韓国映画のトレーラーはもっと巧みに作られている。本作もまったく悪いストーリーではないが、トレーラーがほとんど全部のストーリーを語ってしまっている。本編鑑賞後に観て「ああ、なるほど」と思える構成ではなく、観る前にストーリーの推測ができて、観た後に「トレーラーのまんまやんけ・・・」と頭を抱えてしまう。もう、そういうトレーラー作りや公式サイト作りはやめよう、本当に。

 

総評

冒頭の北村匠海→中川大志のチェンジに違和感を抱いてはならない。それが第一の関門(いや、原作小説ではどうだかわからないが、これは10人中8人ぐらいが素直に飲み込めるはず)。終盤でガラリとトーンが変わるが、それを受け入れられるかどうかが二つ目の関門。そこさえクリアできれば、非常に小さな、それでいて大きなスケールの感動を味わうことができるに違いない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

UFO

ユーフォーではなく、ユー・エフ・オーと読む。unidentified flying objectの頭文字を取ったもの。意味は未確認飛行物体=正体が確認されていない飛んでいる物体、である。Jovianが分詞の形容詞的用法を説明する際に必ず使う語である。過去分詞でも現在分詞でも、それを形容詞的にサッと名詞にくっつけて発話できるようになれば、英語の中級者であると言える。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  

Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, 中川大志, 井之脇海, 日本, 清原果耶, 監督:SABU, 石井杏奈, 配給会社:イオンエンターテイメント, 青春Leave a Comment on 『 砕け散るところを見せてあげる 』 -青春映画を期待するべからず-

投稿ナビゲーション

過去の投稿

最近の投稿

  • 『 ロストケア 』 -題材は良かった-
  • 『 シャザム! 神々の怒り 』 -少年から大人へ-
  • 『 Winny 』 -日本の警察と司法の闇-
  • 『 アビス 』 -海洋SFの佳作-
  • 『 シン・仮面ライダー 』 -庵野色が強すぎる-

最近のコメント

  • 『 すずめの戸締り 』 -もっと尖った作品を- に cool-jupiter より
  • 『 すずめの戸締り 』 -もっと尖った作品を- に じゅん より
  • 『 トップガン マーヴェリック 』 -追いトップガン6回目- に cool-jupiter より
  • 『 トップガン マーヴェリック 』 -追いトップガン6回目- に まるこ より
  • 『 トップガン マーヴェリック 』 -MX4D鑑賞- に cool-jupiter より

アーカイブ

  • 2023年4月
  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme