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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 韓国

『 ビューティー・インサイド 』 -韓流ファンタジーの秀作-

Posted on 2021年5月18日 by cool-jupiter

ビューティー・インサイド 80点
2021年5月15日 Amazon Prime Videoにて鑑賞
出演:ハン・ヒョジュ イ・ドンフィ
監督:ペク

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210518003548j:plain
 

ファンタジーといっても剣と魔法と竜の世界ではない。実験的なラブロマンスと言った方が正しいかもしれない。ハン・ヒョジュの魅力が存分に堪能できるが、それ以上に恋愛や人間関係の本質についての深い考察がある。

 

あらすじ

キム・ウジンは18歳の頃から、寝て起きるたびに顔かたちが変わってしまうようになった。以来、人と会うことができず、交流があるのは母親と親友のサンベク(イ・ドンフィ)だけ。家具のデザイナーとして、ネットを使ってビジネスで生計を立てていた。ある時、家具屋で働くイス(ハン・ヒョジュ)に一目惚れしたウジンは、彼女にふさわしい顔になるのを待って、イスをディナーに誘うが・・・

 

ポジティブ・サイド

ハン・ヒョジュがひたすらに魅力的である。ドラマ『 トンイ 』は全話リアルタイムで観たが、ドラマよりも映画の方が映えるように思う。びっくりするような美人ではないが、いつまでも眺めていたくなる美しさがある。どこか上流階級の匂いを放っているが、嫌味なところが一切ない。Jovianも大昔のガールフレンドに「女の子はいつも不安でいっぱいなんだぞ」と説教されたことがあるが、そうした不安を表す表情も素晴らしいと思う。ハン・ヒョジュを指して清純派女優と評する日本の映画レビューサイトやライターが多いが、何か思い違いをしているように思う。濡れ場を演じないのが清純派ではない。濡れ場を演じても、色気よりも美しさや気高さを感じさせる。清純派とは、そういう女優を指す。その意味では、ハン・ヒョジュは『 ただ君だけ 』でも本作でも証明したように、間違いなく清純派であろう。まあ、濡れ場といっても肝心なところは何も見えない非常にソフトな描写なんだけれどもね。

 

他の主要キャラとしては、ウジンの親友のサンベクがクッソ面白い。邦画のロマンスでは、主人公の男の親友は往々にして物分かりの良い理解者で、非常に清い友情を保っている。だが、このサンベク。中年おばちゃんになってしまったウジンとの会話で、「俺の好きな日本の女優は?」と問い、しかもその答えが「蒼井そら」。笑うしかない。さらに、ウジンとイスのALX事務所でのお寿司デートの現場で、ラブチェアを揺らしながら「やめて、やめて」と日本語で言う。こんなん笑うしかないやん。しかし、この男、バカではない。親友をイスに取られたことの悔しさを隠そうとしない男らしさがある。本物の友情がある。そして、イスに対して本当自分が感じていることを告げるだけの度胸と、イスにどう思われても構わないというだけの度量がある。なぜ邦画はこういう脇役を生み出せないのか。

 

順調に見えたウジンとイスの関係だが、ちょっとしたことをきっかけに綻びが生まれてしまう。だが、ウジンは男というアホな生き物なので、不安な女子であるイスの気持ちが分からない。このあたりのすれ違いには純粋に胸が痛くなる。『 ただ君だけ 』でも、終盤にハン・ヒョジュが主人公に気づかずに行ってしまうという、胸が潰れそうになるシーンがあるが、本作はそれをなぞっている。いや、ある意味では『 ただ君だけ 』以上に辛く悲しい。なぜなら、ウジンには顔がなく、イスもウジンの顔を思い出せないから。触ったり、声を聴いたりしたら認識できるわけではないということがウジンの悲劇性を高めている。

 

しかし、よくよく考えてみれば、我々の顔だって年月とともに変わる。20歳と40歳で全然違う顔になっている者もいれば、40歳と70歳で別人になる者だって珍しくない。人を愛するとは、人を愛することであって顔を愛することではない。『 君の名は。 』で少し述べたが、夫婦とはお互いにしか通じないジェスチャーやパロールを作り上げる過程と言えなくもない。そういう意味で、ウジンとイスの関係は、恋人同士よりも夫婦になってこそ輝くものであるように思う。これは素晴らしい恋愛ファンタジーだ。

 

ネガティブ・サイド

素朴な疑問として、ウジンはどうやって運転免許を取ったのだろうか。18歳で寝るたびに顔が変わってしまうようになったというが、その時は制服を着ていた。つまり高校生だったわけで、車の免許はいつ取ったのだろう。何かそのあたりの描写が欲しかった。

 

終盤でウジンは韓国の外に行ってしまうわけだが、パスポートはどうやって取得したのか。日本ではどんなに早くても申請から受け取りまでは1週間はかかるはず。韓国は1~2日で発行されるのだろうか。仮に同じ顔で受け取れたとしても、渡航先のチェックをどうやって潜り抜けたのだろうか。国内のどこか別の都市で良かったのではないかと思う。

 

総評

韓国映画の極端さが良い方向に出た秀作。超極端な設定ながら、人間関係・男女関係の普遍的な芯は外していないという丁寧なつくり。主役を100人以上が演じながら、違和感を抱かせない演出力。日本ネタや日本語セリフもあるので、韓国映画ファンのみならず、邦画ファンにも堪能してほしい。若いカップルの巣ごもり鑑賞にも適しているし、ベテラン夫婦も大いに楽しめるはずだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

There’s no one here by that name.

「ここにそのような名前の者はおりません」の意。電話での応答にも使える。ついつい with that name と言いたくなってしまうが、こういう場合の前置詞は by である。 go by the name of  ~ =「~という名前で通っている」または go by the nickname of ~ =「~というニックネームで通っている」というような時にも by を使う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, イ・ドンフィ, ハン・ヒョジュ, ファンタジー, ラブロマンス, 監督:ペク, 配給会社:ギャガ・プラス, 韓国Leave a Comment on 『 ビューティー・インサイド 』 -韓流ファンタジーの秀作-

『 ファイティン! 』 -マ・ドンソクの目にも涙-

Posted on 2021年5月11日 by cool-jupiter

ファイティン! 70点
2021年5月9日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:マ・ドンソク ハン・イェリ クォン・ユル
監督:キム・ヨンワン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210511004331j:plain
 

頭のリセットモードを継続するために、マ・ドンソク作品をpick outする。いつも通りにマ・ドンソクが悪人たちに鉄拳制裁を加えていく話かと思いきや、意外にもスポ根、ヒューマン、ファミリーの要素が色濃い作品であった。

 

あらすじ

元アームレスラーのマーク(マ・ドンソク)はクラブの警備員でその日暮らしをしていたが、偶然に出会ったジンギ(クォン・ユル)に勧誘され、韓国でアームレスラーとして出直すことを決断する。帰国後、生家を訪ねたマークは自分の母の娘だというスジン(ハン・イェリ)とその子どもたちに出会う・・・

 

ポジティブ・サイド

アメリカはLAから物語が始まるが、そこでマ・ドンソクがかなり流暢な英語を披露する。元々、アメリカに住んでいたバックグラウンドがあるので当然と言えば当然だが、これぐらいまともな発音なら、アメリカ育ちという設定にも説得力が生まれる。

 

場末のクラブでバウンサーをしているその目が死んでいる。まったく生き生きしていない。しかし、ジンギに出会い、成り行きで腕相撲をすることになった瞬間の表情の変化は、マ・ドンソクの確かな演技力を感じさせる。そこであっさりとクラブを首になってしまうのだが、死んだ目のマークはもういない。心機一転を決意した男の顔になっている。マ・ドンソクはアウトローや警察といった、元々暴力と親和性の高いキャラを演じることが多いが、本作ではアスリート。ワルの目ではなく、アスリートの目になっている。

 

マ・ドンソクが妹のスジンと出会う前に、甥っ子姪っ子と遭遇するシーンも面白い。熊みたいな見た目と評されて小さくなってしまったり、モーテルの電動ベッドでヴヴヴヴヴと揺られてみたり、超高たんぱくなバーガーを手作りしてみたりと、かわいいオッサンになっているシーンが随所に挿入される。確かにこのアメリカ系韓国人は、強面でありながら、どこか子どもがそのままでかくなったような雰囲気を湛えている。このギャップは素晴らしい。マ・ドンソクの新しい顔を見たように思う。もちろん、鉄拳制裁シーンもあるので安心してほしい。

 

本作の肝は主に二つ。一つにはしっかりとスポーツとしてのアームレスリングが描かれていること。トレーニングやテクニックについての描写があるのはありがたい。マイナーなことこの上ない競技であるアームレスリングだが、誰でも出来るし、やったことのある腕相撲である。ちょっとした解説で一気に親しみがわいてくる。

 

もう一つに、家族とは何かということ。ほとんど会ったことがなくても家族なのか。血のつながりがあれば家族なのか。家族とは「家族である」ことよりも「家族になる、家族であろうとする」ものだというテーマを、本作は提示する。韓国映画は『 ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 』でも描かれていたが、養子に出すことも、養子を取ることも、日本より抵抗が薄そうである。そうした養子が、しかし、何の試練も乗り越えることなく家族になれるわけではない。しかし、試練の先には強い家族の絆が生まれる。『 ミナリ 』でも存在感抜群だったハン・イェリが本作でも肝っ玉母さんぶりを見せつける。家族とはその手に掴み取るもの。ベタベタな展開だが、そのように思わせてくれる物語だ。

 

ネガティブ・サイド

教育ママとガリ勉息子のシーンは不要だったかな。お隣では英語力≒就職力だと聞くが、どうせならマ・ドンソクにもっと英語でしゃべらせて、嫌味な親子を撃退してほしかった。中途半端に「英語が上手ですね」ではなく、「げ、自分や息子よりもはるかに英語ができる相手だ」とタジタジになるまでやってほしかった。

 

アームレスリング大会で八百長を持ちかけてくる男の上役も中途半端な英語を話すが、マ・ドンソクとこの男の間で英語のやり取りが欲しかった。ここでも周りを置き去りにして、分かる者にだけ分かる言葉を交わすことで、マ・ドンソクの決意の強さを見せてほしかった。

 

悪役であるはずのパンチという男にラスボス感がない。刑務所の牢名主が元選手としての強さを維持できるだろうか。故意に対戦相手に怪我をさせるスタイルで勝負していては、結果的に真剣勝負ができる=実力を維持できる、という環境を自分で破壊してしまっているように思う。

 

ジンギとマークの間の奇妙な友情が深まっていくシーンが不足していたように思う。マ・ドンソクの食わず嫌いを直してやるのは面白いが、LAのコリア・タウン(Jovianも行ったことがある)と接触しながら生きてきて、韓国料理に抵抗を示すというのは、ちょっと腑に落ちなかった。ジンギは裏社会の人間にボコられているところをマークに助けられる、あるいはマークと一緒にヤクザ相手に殴り合いのケンカをするなどの演出が必要だったのではないか。

 

総評

マ・ドンソクらしさ全開である。個人的にはマブリーという愛称にいまいちピンと来なかったのだが、本作を観て「マ・ドンソク+ラブリー=マブリー」という等式の意味が分かった。友情、努力、勝利、家族。臭すぎる展開ではあるが、ラストのマ・ドンソクの涙に胸を打たれない者がいようか。韓国の容赦ない暴力テイストが苦手だ・・・という人にとっては格好の韓国映画入門になっている。マ・ドンソクのファンならば必見だし、マ・ドンソクを観たことがない人は、本作から観始めると良いだろう。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヤクソク

韓国語でも約束はヤクソクと発音される。これは日本語と韓国語が同じなのではなく、語源となった中国語の読み方が両国で似通っていたというものらしい。この言葉が使われるシーンでは指切りも行われるが、そこでも日韓の指切り文化の違いを見ることができる。つくづく近くて遠い、そして遠くて近い国である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, クォン・ユル, スポーツ, ハン・イェリ, ヒューマンドラマ, マ・ドンソク, 監督:キム・ヨンワン, 配給会社:彩プロ, 韓国Leave a Comment on 『 ファイティン! 』 -マ・ドンソクの目にも涙-

『 ザ・バッド・ガイズ 』 -悪をもって悪を制す-

Posted on 2021年4月16日2021年4月16日 by cool-jupiter

ザ・バッド・ガイズ 60点
2021年4月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マ・ドンソク キム・アジュン
監督:ソン・ヨンホ

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マ・ドンソク出演作ということで迷わずチケットを購入。それなりに楽しめたが、ところどころよく分からない展開も。後から知ったが、テレビドラマの映画化だった。前もってドラマを予習しておくのが吉だろう。

 

あらすじ

囚人護送車が襲撃され、多くの凶悪犯罪者が逃亡した。警察は腕利きの犯罪者で構成される「特殊犯罪捜査課」を使って事態の収拾に乗り出す。その中には「伝説の拳」と呼ばれたパク・ウンチョル(マ・ドンソク)や天才詐欺師のクァク・ノスン(キム・アジュン)もおり・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210416000436j:plain

ポジティブ・サイド

悪が悪を追うという展開であるが、韓国映画における巨悪とは、企業であったり学校であったり警察であったり銀行であったり政府であったりする。なので、本作を劇場鑑賞するぐらいに韓国映画好きな諸賢はあらためてこのことを意識されたし。本作で描かれる「追われる側の悪」はなかなかに衝撃的だからである。

 

韓国版、悪のドリームチームと言うとかなり大げさだが、元警察官の服役囚に暴力団員、詐欺師、それを束ねる老刑事というのは、どことなく『 スーサイド・スクワッド 』的である。または Birds of Prey 的であるとも言える。つまり、より大きな悪が存在するということ。毒を以て毒を制す。悪をもって悪を制す。単純な善悪二元論ではないのだから、ある程度面白いのは保証されている。

 

実際に、マ・ドンソクはいつも通りのマ・ドンソクである。つまり、鉄拳ですべてを解決する男で、殴って殴って殴りまくりである。元警察も女詐欺師も、とにかく自らの肉体を武器にして格闘しまくりである。韓国映画全般に言えることだが、殴ったり蹴ったりの演技、さらにそれを撮影する技術はやはり日本よりもかなり高い。銃撃戦ではなく肉弾戦なので、単純に見ているだけで楽しい。

 

中盤では逃げた囚人の中でもキーマンとなる男を追う展開はナ・ホンジン監督ばりの追跡劇。「逃げる」と「追う」はやはりサスペンスの基本である。『 無双の鉄拳 』で個人的に度肝を抜かれた竜巻旋風脚の(別の)使い手が本作では助っ人で登場。この悪の五人組が大人数を相手に立ち回る様は『 エクストリーム・ジョブ 』の終盤を彷彿とさせた。物語そのものに厚みはないが、爽快感だけは保証できる。

 

もちろん、分かりやすい社会的なメッセージも込められている。老刑事が最後に警察のお偉いさんに言い放つセリフは、そのまま日本の政治屋連中に当てはまる。声のでかさに定評のある韓国人だが、『 暗数殺人 』のキム・ユンソクが切々と訥々と思いを語ったように、肝心なところでは静かに話す。このギャップがいいのである。日本の役者も抑えた演技というものを磨いてほしいと感じる、出色の演技だった。

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ネガティブ・サイド

マ・ドンソクの新たな一面というか、若い女性に戸惑ったりする面というのは新鮮でありながら、あまり面白くは感じなかった。このおっさんは基本的には鉄面皮または朴念仁というのが似合う。キム・アジュンは確かに milfy な女優さんであるが、マ・ドンソクの魅力的な一面を引き出すキャラだったかというと疑問符が付く。

 

元がテレビドラマゆえか、ドラマ未鑑賞者からすれば「この人は誰?」という人が、特に序盤にちらほら出てくる。そういった脇のキャラはばっさり省くか、あるいは映画で初めて本作の世界に触れる人向けに簡単に人間関係を俯瞰できるような描写が欲しかった。

 

秦の黒幕の存在がちょっと・・・ 非現実的というか、お隣さんの韓国は何を思ってこの黒幕を設定したのだろうか。いや、別に誰をどう黒幕に設定してくれても構わんのだが、かの国のかの業界には最早そんな力はないわけで・・・ 『 犯罪都市 』を作った韓国が、韓国を皮切りに大陸にまで続く黄金の道を作ってやろうという気宇壮大な犯罪者集団をかの国から持ってくるという発想がちょっと突飛すぎる。

 

最後のバトルもギャグである。もちろん迫力はあるのだが、凄みのある暴力には見えない。むしろ、「そんなアホな」というのが素直な印象である。だいたいこういう自分の手を汚すタイプの悪役でなおかつ腕っぷしも強い奴というのは『 哀しき獣 』のキム・ユンソクみたいな延辺朝鮮族自治州のワルのような印象しかないが。

 

総評

普通に面白い作品である。ただ面白さの質が少々薄い。エンタメ要素の中にさりげなく、しかし確実に社会批判の要素を組み込んでくるのが韓国映画の様式美だが、本作はそこに至るまでの過程が弱い。ストーリーもマ・ドンソクの、文字通りの意味での剛腕頼みで、マ・ドンソク自身のキャラも他のキャラも立ちそうで立たなかった。まあ、ドラマ未鑑賞者の感想なので、このあたりはドラマをよく知っている人の感想とは大いに異なるだろう。爽快感は保証できるが、黒幕が少々アレなのが玉に瑕か・・・

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ワイロ

まいないの文化や伝統がかなり豊かであると思われる韓国で、まさか賄賂という言葉や概念が日本から逆輸入された、あるいは日本統治時代に根付いたとは考えづらいが、韓国語でも賄賂はワイロと言う。『 マルモイ ことばあつめ 』でも観て勉強しようかな。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アクション, キム・アジュン, マ・ドンソク, 監督:ソン・ヨンホ, 配給会社:エスピーオー, 韓国Leave a Comment on 『 ザ・バッド・ガイズ 』 -悪をもって悪を制す-

『 守護教師 』 -鉄拳は全てを解決する-

Posted on 2021年3月27日 by cool-jupiter

守護教師 55点
2021年3月24日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:マ・ドンソク キム・セロン チン・ソンギュ
監督:イム・ジンスン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210327023940j:plain
 

エヴァの映画やテレビアニメ版ばかりを鑑賞して脳みそが少々疲れた。こういう時は、頭を空っぽにして鑑賞できる映画でリセットしたい。ということで、マ・ドンソクの映画をピックアウト。こちらも『 無双の鉄拳 』と同工異曲のマ・ドンソク映画だった。

 

あらすじ

元ボクシング東洋チャンピオンのギチョル(マ・ドンソク)は、暴力沙汰から連盟から追放されてしまった。そんな彼が見つけた仕事が地方の高校の学生主任。だが、そこは女子高生の家出が異様に多かった。そして教師たち、警察までもがそれを見て見ぬふりをしている。ギチョルは、次第に消えた友人を探すユジン(キム・セロン)と関わっていくことになり・・・

 

ポジティブ・サイド

マ・ドンソクの鉄拳は本作でも健在。けれども、彼の役者としての成長も見える。Jovianの嫁さんが本作のマ・ドンソクを観た瞬間に「これは善人やろ」と一言。ひょうきんなシーンではなかく、ニュートラルな表情をしていたが、確かにそれだけでキャラ属性が伝わってきた。もちろん剛腕もド迫力。普段から絶対ボクシングの練習をしているに違いない。それぐらい重心が低く、また背骨を軸にした左右フックを放っていた。アクションシーンはやられる側と相当綿密に打ち合わせして作っているのだろうなと思わせてくれた。

 

『 アジョシ 』の天才子役ソミを演じたキム・セロンが等身大の女子高生になっていた。多分、『 建築学概論 』のぺ・スジのように、正統派の美少女でありながら我々が怖気をふるうような罵り言葉を口にするコリアン・ビューティーになるのだろう。実際にその片鱗を序盤のヤンキー女子たち相手に発揮していた。つくづく思うが、韓国女子のたくましさには頭が下がる。本邦の女性たちがいわゆる「女性らしさ」から脱却できるのはいつなのか。その意味では『 地獄の花園 』にはちょっとだけ期待している。

 

ストーリーは単純明快だが、社会の闇、権力の闇を描くことを忘れないのが韓国映画の基本的文法である。悪い人間が存在する、ということではなく、悪い人間を生み出す土壌が存在する。それを国の恥、社会の恥だと言って無視する、あるいは隠すことは容易い。だが、それをエンターテインメントの種にして、世界に発信してしまうことには感心する。

 

本作は『 アジョシ 』が本来想定していた中年オヤジによる少女の救出劇の亜種だとして観るとなかなか興味深い。美女と野獣ではないが、美男子が美少女を救うのではなく、むさくるしいオッサンが美少女を救う。そこに教師と生徒という関係を持ってくることで違和感を中和している点も見事だ。マ・ドンソクがサラリーマン社会の論理で縛られてしまうところ、そうしたしがらみを全部振り切っていく終盤の流れはベタながら、誰にとってもそこそこ楽しめるものであることは間違いない。



ネガティブ・サイド

マ・ドンソクのキャラクターがはっきりしない。体育教師なのか、債権回収担当なのか。キャラの面白さはギャップにあるのだから、体育の授業で女子の扱いに手を焼くマ・ドンソクや、取り立ての際に女子高生にマシンガントークをかまされて言い負かされるマ・ドンソクを観てみたかった。そうすれば、その拳を振るう時のギャップがより大きくなる=意外性(我々にとってのではなくユジンら女子高生らにとっての)が大きくなり、物語をもっとダイナミックに動かしやすくなっただろう。

 

遅咲きのスター、チン・ソンギュもやや拍子抜け。『 犯罪都市 』での朝鮮族ギャングのNo.2という役で恐るべき存在感を発揮したのだから、それと同じくらいの迫力を出す役に仕上げるべきだった。あるいは監督がそのように演出するべきだった

 

最後の最後に巨悪をぶん殴れない展開というのもいかがなものか。この黒幕、『 トガニ 幼き瞳の告発 』の黒幕と同じく、めちゃくちゃ気持ち悪い御仁。そして『 トガニ 幼き瞳の告発 』でも、physical punishmentは受けなかった。マ・ドンソクの一番の魅力はその剛腕にあるのだから、ブッ飛ばせる相手はブッ飛ばしてほしいと切に願う。

 

総評

マ・ドンソクの映画である。それだけで分かる人は分かるだろうし、観たくなる人は観たくなるだろう。ただ、個人的には『 無双の鉄拳 』の方が面白かったかな。頭を空っぽにしたいときに向いている作品である。どちらかと言うと、マ・ドンソクのファンよりもキム・セロンのファン向けの作品かもしれない。コリアン・ビューティーはいつ見てもいいものである。

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

オッパ

お兄さん、の意。ただし血縁関係がなくても年上の親しみのある男性に使える語。そこらへんは日本語でも同じである。『 悪人伝 』でヒョン=兄と紹介したが、男性→年上の親しい男性の時はヒョン、女性→年上の親しい男性の時はオッパという具合に体系的に理解したい。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アクション, キム・セロン, チン・ソンギュ, マ・ドンソク, 監督:イム・ジンスン, 配給会社:アルバトロス・フィルム, 韓国Leave a Comment on 『 守護教師 』 -鉄拳は全てを解決する-

『 夏時間 』 -生きることの側面を鮮やかに切り取る-

Posted on 2021年3月23日 by cool-jupiter

夏時間 75点
2021年3月21日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:チェ・ジョンウン パク・スンジュン
監督:ユン・ダンビ

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韓国映画には過渡期が訪れているのかもしれない。容赦の無い暴力描写に、隠すことのない激しい人間の感情。そうしたものをことさらに強調することなく、しかし、心の動きはしっかりと映し出す。昨年、キム・ギドクが死去してしまったが、ギドク映画に影響された世代が、こうしたトレンドが生み出しているのかもしれない。

 

あらすじ

オクジュ(チェ・ジョンウン)とドンジュ(パク・スンジュン)の姉弟は、父と共に祖父の家でひと夏を過ごすことになった。そこに離婚を望む叔母も加わり、奇妙な共同生活が始まった。だが、オクジュは何かしっくりこないものを感じていて・・・

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ポジティブ・サイド

これまた韓国から素晴らしく瑞々しい感性の映画が届けられた。劇的な事件などなくても、劇的な物語は作れるのだ。『 ミナリ 』が異邦人の新天地での物語であったとすれば、本作はある意味での自分探しだ。自分というものが自分でも分からない。そんな時期が誰にでもある/あったはずで、本作はそんな人生の中の刹那のひと時を捉えている。

 

まず目を引くのが俳優陣の演技力の高さ。特に父親の善人さとダメ人間さの同居は、演技とは思えない。自分では必死に頑張っているが、それが報われない。打算や欲得ずくで動いているわけではないので、なおさら悲哀が目立つ。かといって悲壮なばかりではない。子どものために頑張るし、妹のことも思いやる。けれど、人間らしい弱さ、人間らしい冷たさもしっかりと併せ持っている。韓国映画に出てくる父親というのは往々にして暴君の象徴であるが、この父親はどこまでも人間らしい。良い意味でも悪い意味でも、市井のどこにでもいるあなたであり、わたしなのだ。

 

そしてドンジュを演じたWonder Boyのパク・スンジュン。監督の演出に素直に従っているのか、何パターンか撮影した中で出来の良いものを使っているのか。いずれにしても恐ろしいほどの演技力の子役である。なにが凄いかって、子役特有のわざとらしさが一切ないところ。甥っ子や近所の子どもに本当にいそうな感じを全身から醸し出している。特に目を瞠ったのが、姉とのケンカと、その後のなんでもない仲直りのシーン。兄弟姉妹を持つ者なら、この絶妙な距離感が肌で理解できるはずだ。そして、この男の子のけた外れのパフォーマンスの凄さも。

 

それでも最も高い評価を与えたいのはオクジュを演じたチェ・ジョンウン。別に特に目を引く美少女と言うわけではないのだが、『 息もできない 』のヨニや、『 はちどり 』のヨンジ先生のように、物語の後半に入るあたり、おばさんと一緒に洗濯物を干すシーンあたりから急にきれいに見えてくる。下着を干しているからだとか、恋人がいるかどうかといった女子トークをしているからではない。このあたりから、家族との微妙な距離感が浮き彫りになってくるからだ。家族を大事にしたいという思いと、家族を大事にできない、この家族は私を大切にしていないという思いのせめぎ合いのようなもの、つまり心の奥底が見えてくるからだと思う。実際、少々退屈だった前半とは打って変わって、オクジュはここから動き出す。ひと夏のアバンチュールを求めてなどではなく、本当に思春期特有のほんのちょっとしたことのために。それはボーイフレンドとのちょっとした逢瀬だったり、“盗んだバイクで走りだす”的な若気の無分別だったりするわけだが、そこには何も劇的な要素はない。誰もが共感できる身近な行動ばかりだ。物語はそこから加速し、終盤に向かっていくが、そこで初めて我々は序中盤の冗長な家屋内のシーンの意味を知る。

 

前半から中盤にかけてのドラマの無い日常=家の中での何気ない家族の触れ合い(多くの場合それは食事だ)や、祖父のほんのちょっとした時間の過ごし方が、オクジュがずっと感じていたもどかしさと実は通底するものだと悟った瞬間の衝撃よ。一人で広い家に住む祖父に覚える違和感の正体は、そこにいるべき祖父の妻、父の母の不在なのだ。それが父の妻、自分の母の不在と重なってしまうのだ。祖父のとある行為と涙のシーンでは、自分がオクジュと同化してしまったかのような感覚を覚えてしまった。心揺さぶられる最後のオクジュの啼泣に、「おめでとう、オクジュ。君は自分の心を見つけたんだ」とエールを送った。同じように感じる壮年、中年は多いのではないだろうか。この春、見逃すべからざる映画の一本である。

 

ネガティブ・サイド

叔母さんとオクジュの間でもう少し会話が欲しかった。別に「旦那さんとの間に何があったの」のような踏み込んだ会話は必要ないが、叔母さんが選ぶべき男について延々と語る場面で、オクジュの声を聞いてみたかった。

 

食事のシーンがやたらと多かったが、調理のシーンにももう少し尺を割いてほしかった。もちろん、キムチを手でよく揉みこんだり、ラーメンを作ったりはしていたが、料理も結構な家族の共同作業なのだ。ラーメンも姉弟の二人で作ったりとか、あるいはそれぞれに入れたい具が違うといった描写があれば、姉弟としてのリアリティはもっと増したと思う。

 

総評

『 ミナリ 』と不思議な対を成すかのような作品。『 はちどり 』と同じく、少女と家族の物語を瑞々しい感性で切り取った秀作である。本作を観る時には、事件や人間関係の進展のような劇的な要素を求めてはいけない。ドラマとは日常の片隅で静かに繰り広げられており、誰にとってもありふれた物語にこそ、本当に共感できる要素が詰まっているのである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ハラボジ

お祖父さん、の意。日本語でも親の父を「お祖父さん」と言うが、血縁関係のない高齢者を指して「お爺さん」と言うのと同様に、韓国語でも高齢男性を指してハラボジとも言えるらしい。「おじさん」や「おばさん」も多分、同様だろう。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, チェ・ジョンウン, パク・スンジュン, ヒューマンドラマ, 監督:ユン・ダンビ, 配給会社:パンドラ, 韓国Leave a Comment on 『 夏時間 』 -生きることの側面を鮮やかに切り取る-

『 野球少女 』 -もう少し野球の要素に集中を-

Posted on 2021年3月8日 by cool-jupiter

野球少女 65点
2021年3月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:イ・ジュヨン イ・ジュニョク
監督:チェ・ユンテ

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日本プロ野球の歴史上、印象的な韓国人助っ人と言えばソン・ドンヨルだろうか。千葉ロッテマリーンズファンのJovianはイ・スンヨプも忘れがたい。そんな韓国から、プロを目指す野球女子のストーリーが届けられたので、興味津々でチケットを買った。

 

あらすじ

女子高生チュ・スイン(イ・ジュヨン)は、プロ野球選手になることを目標にしていた。しかし時速130kmという速球も「女子にしては」という但し書き付きの評価で、トライアウトも許可されない。そんな時に、独立リーグ出身のチェ・ジンテ(イ・ジュニョク)が新人コーチとしてチームに加わり・・・

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ポジティブ・サイド

野球少女というタイトルではあるが、決して過度に主人公スインの女性性を強調したりはしない。もちろん更衣室が別だとか合宿に行くと個室が必要だから余計に金がかかるだとか、そういう描写や説明はある。しかし、スインが学校や野球部で「女子であること」が明確なハンディキャップになっている描写はない。それをやってしまうと、スインの努力が、韓国野球史上で前例のないことへの挑戦ではなく、学校や部を見返してやることに矮小化してしまう。そこを避けたのは賢明だった。むしろ、スインの友人女子がオーディションで落ちたことを通じて、歌やダンスの練習をどれだけ積み重ねても見た目で拒絶されてしまうという現実を突きつけてくる。これは効果的だった。セクシズムだけではなくルッキズムも含まれる、いや、もっと言えばチャンスを与えてもいい人間とチャンスを与えるまでもない人間がいるという考え方を厳しく批判することになっているからだ。

 

コーチが微妙に負け犬設定なところもいい。これが元プロだとか、元大学野球のスターとか、釈迦人野球で実績を残したという人物だと、観る側も共感しづらい。だがチェ・ジンテは独立リーグ出身。プロに近い世界ではなく、プロからかなり離れたところ出身のコーチだからこそ、自分の果たせなかった夢を追うスインが最初は気に食わなかった。しかし、そんな自分がスインを育成することこそがredemptionになるのではないかと腹を括るシーンはよかった(校庭を30周も走らせるのはどうかと思うが)。その後の「短所はカバーできない、長所を伸ばせ」というアドバイスは適切だったと思う。

 

クライマックスをトライアウトに持ってきたのは正解。本作は『 野球少女 』というタイトルだが、実際に描かれているのは固定観念の打破、機会均等(≠結果の平等)の追求なのだ。スインの目標はトライアウトの合格だが、物語が描き出したいのはトライアウトにこぎつけること。チェ・ユンテ監督がスインの物語と映画の物語を一致させなかったのは英断だと思う。スインが実際にプロ野球選手として活躍できるかは誰にも分からない。というか、むしろその可能性は限りなく低い。球団のお偉いさんの「スインが本当に大変なのはこれからですよ」という言葉が真実だろう。ただ、エンドロールの最後に聞こえてくる鳥の鳴き声に、長かった冬の終わりが予感させられる。それは季節が変わったということだけではなく、一つの新しい時代が到来したということの暗示でもあるのだろう。

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ネガティブ・サイド

もっと野球そのものにフォーカスしてほしかったと思う。スインがナックルを選択するようになったのは当然だが、そのナックルの魔球ぶりをもっと分かりやすく見せてほしかった。日韓のファン、特にJovianとほぼ同世代の本作監督チェ・ユンテならボストン・レッドソックスのティム・ウェイクフィールド投手をテレビでリアルタイムに観ていたはず。その時も捕手はボールをミットのど真ん中ではなく、先っぽや土手でキャッチすることがしばしばあった。トライアウト時に捕手がミットを大きいものに変えるシーンがあったが、同じようにナックルをミットの真ん中でなく先っぽや土手でかろうじて受けているという描写が欲しかった。

 

スインの野球選手としての苦悩の部分の見せ方も弱かったと思う。たとえばスインのリトル・リーグや中学時代の練習や試合の風景を映し出す。そこで得た野球選手としての称賛に「女の子なのに」や「女の子でも」といった枕詞が必ずついてくる。そうした経験をスインがしてきたという説明は、セリフだけではなく実際に映像として見せるべきだった。その方がスインの感じる抑圧感、今風の言葉で言えばガラスの天井の存在を、より強く観る側に印象付けることができたはずだ。

 

他にもそぎ落とせるサブプロットがいくつもあった。最も不要だと感じたのは、父親の資格試験。普通に不合格でした、で充分だった。逮捕劇によって家族にさらなる亀裂と劇的な関係改善が・・・ということもなかった。いったいあれは何だったのか。

 

総評

韓国映画が得意とするドラマチックな物語ではない。演出面でも少々物足りない。しかし、性別を理由に門戸が開放されない職業など、本来は存在しないはず。保守的とされる韓国であるが、よくよく考えれば女性大統領を輩出するなどgender equalityの面では日本の先を行っている。女性のプロ野球選手も案外、日本よりも韓国が先に輩出するかもしれない。日本も負けていてはいられない。スポーツでもその他の分野でも。そんな気にさせてくれる映画である。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

アラッソ

『 ブラインド 』でも紹介した表現。「分かった」の意。韓国映画を観ていると、ほぼ間違いなく出てくる表現。他にもアルゲッソヨ=「分かりました」もよく聞こえる表現だが、こちらは同じ意味でも丁寧な言い方。映画やドラマで語学を学ぶ利点の一つに、人間関係やストーリーの中で学べるということがある。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, C Rank, イ・ジュニョク, イ・ジュヨン, スポーツ, 監督:チェ・ユンテ, 配給会社:ロングライド, 韓国Leave a Comment on 『 野球少女 』 -もう少し野球の要素に集中を-

『 無双の鉄拳 』 -とにかく鉄拳、やっぱり鉄拳-

Posted on 2021年3月6日2021年3月6日 by cool-jupiter

無双の鉄拳 60点
2021年3月3日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:マ・ドンソク ソン・ジヒョ キム・ソンオ キム・ミンジェ
監督:キム・ミンホ

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『 あのこは貴族 』には重苦しい清々しさがあった。そんな作品の後には軽い作品がいい。というわけで、マ・ドンソク主演作を借りてきた。

 

あらすじ

魚卸しのカン・ドンチョル(マ・ドンソク)は儲け話にはすぐに乗ってしまうお人好し。妻ジス(ソン・ジヒョ)の誕生日を盛大に祝おうとした席で、カニに投資したことがバレてしまい、ジスは怒って帰ってしまう。ドンチョルが帰宅すると、しかし、ジスは誘拐されていた。すぐに警察に向かうドンチョルだが、警察は頼りにならない。ドンチョルは弟分と胡散臭い探偵と共にジスの行方を追って・・・

 

ポジティブ・サイド

『 喜劇 愛妻物語 』のような恐妻家ではなく、正しい意味での恐妻家、カン・ドンチョルを強面だが、気は優しくて力持ちなマ・ドンソクが演じる。これだけでストーリーは半分完成している。善良な市民が、カネと、そして妻のために警察やら何やらを振り切って猪突猛進するのを楽しむ作品である。特に巨漢の男に食らわせた逆パイルドライバーには笑ってしまった。なんでもかんでも最後はマ・ドンソクの鉄拳で解決となるのはワンパターンの極みだが、それが結構面白いのだから仕方がない。体作りは大変かもしれないが、マ・ドンソクには一生このスタイルを貫いてほしいもの。

 

端正な美人の嫁ジスも、やはり韓国的。韓国映画にはおしとやかな女性はまるで出て来ず、相手に非ありと見れば、どんどんと自分の意見をぶつけてくる。韓国にはさぞかし恐妻家が多いことだろう。確かに映画の中の韓国人夫婦を見ていると、男はDV男やモラハラ男でなければ、愛妻家もとい恐妻家で妻に頭が上がらない奴がほとんどという印象だ。

 

悪の親玉のキム・ソンオは、なんと『 アジョシ 』でさんざん拷問をくらって爆死させられた悪玉兄弟の弟ではないか。ナチュラルに薬モリモリなテンションで部下を小突いていくという小者っぷり。相手を偽善者と見るや、「金をやるからお前の大切なものを寄こせ」という悪徳成金の権化のような男。こういう清々しいまでにクズなキャラだからこそ、我々は「早く誰かコイツをぶちのめせ!」と思わされてしまう。単純ではあるが、悪役は分かりやすく悪であることが望ましいのだ。

 

本作は悪役側のアクションもなかなか魅せる。終盤に出てくる竜巻旋風脚の使い手はかなりの手練れ。韓国の時代劇を見ていると、槍やら剣やらを持っているのにアクションシーンではテコンドー的な回し蹴りをしているが、そういったお決まりの回し蹴りが容赦なくパワーアップ。韓国のステゴロ自慢に実際に入るかもしれないタイプで、この対決は見ごたえがあった。

 

ネガティブ・サイド

子分と探偵のコミックリリーフが中盤以降はやや過剰だった。検事ネタではなく別キャラのネタは使えなかったか。

 

本作の最大の弱点は、カン・ドンチョルの過去のヤバさ、強さが見えないところだ。『 アジョシ 』なら、その必要はない。この若くして世捨て人になった男は何者だ?ということ自体が謎とサスペンスを生み出すからだ。マ・ドンソクは違う。こんな腕と胸板の奴が普通のわけはないのである。問題は、どれくらい普通ではないのか。序盤の魚市場のシーンで子分が「昔の俺たちを見せてやるか」というシーンで、ほんのちょっとヤバい目つきをする、そうした演出が一瞬でもあれば良かったのだが。

 

クライマックスのカーアクションはやり過ぎ。というか、ジープで思いっきり追突をかましているのに、バンパーもへこまず、ヘッドライトも割れず、その他の外装に傷一つないというのはいただけない。ワンショットごとのつながりをしっかりと編集してこその映画だろうに。

 

総評

とにかくマ・ドンソクのアクションとその子分連中のコミックリリーフっぷりを楽しむ作品である。逆に言えば、このキャラクターの内面は?とか、この風景が象徴するものは?などということを考えずにすむわけで、アクションとユーモアだけに注目することができる。まあ、頭を空っぽにして観るべき作品であろう。こういう作品は頭のリフレッシュのために定期的に観なければならないように感じる。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

カバン

『 藁にもすがる獣たち 』でも何度も聞こえてきたが、カバンは韓国語でもカバンである。おそらく日本統治時代にそのままカバンという日本語が韓国語に組み込まれたのだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アクション, キム・ソンオ, キム・ミンジェ, ソン・ジヒョ, マ・ドンソク, 監督:キム・ミンホ, 配給会社:アルバトロス・フィルム, 韓国Leave a Comment on 『 無双の鉄拳 』 -とにかく鉄拳、やっぱり鉄拳-

『 藁にもすがる獣たち 』 -韓国ノワールの秀作-

Posted on 2021年2月28日 by cool-jupiter

藁にもすがる獣たち 75点
2021年2月27日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:チョン・ドヨン チョン・ウソン ペ・ソンウ チョン・マンシク
監督:キム・ヨンフン

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『 ガメラ 大怪獣空中決戦 』をブルク7で観た際に本作の予告編を観て、気になっていた。原作は日本の小説とのことだが、これは相当に脚色されているのだろう。見事なまでに韓国色に染まっている。

 

あらすじ

サウナのロッカーに残されたカバンの中に眠る札束の山。失踪板恋人の残した借金で首が回らない男、家業を潰してしまい、アルバイトで生計を立てる男、夫によるDVから逃れたい女、様々な人間たちが人間性をかなぐり捨ててカネを求めていく先には・・・

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ポジティブ・サイド

日本の原作小説は知らないが、これだけ漫画や小説の実写映画化が花盛りの日本で映画化されず、逆に韓国で映画化されるということは、『 オールド・ボーイ 』と同じくガンガン人が死ぬ、あるいは傷つけられる展開がてんこ盛りだからだろう。実際に本作でも死人が出るし、暴力的な描写もえげつない。スラッシャー・ムービーと見紛うシーンもあるが、そこは直接は映し出されないので安心してほしい。

 

いや、それにしても“獣たち”とは言い得て妙である。人間など、一皮むけば獣なのだ。特に痴情と大金が絡めば尚更である。獣たちが一匹ずつ章ごとに紹介され、彼ら彼女らの物語が独自に展開されていく。そして、最後にはすべてが見事にひとつに収斂していく。これは脚本家の手腕だろう。それとも原作もそうなのか。いずれにしても、映画の面白さの第一は脚本=キャラクターとストーリーなのだ、

 

本作の獣、もといキャラクターたちは誰もかれもが「あ、見たことあるぞ」という役者たちばかり。つまりは実力派俳優ばかり。彼ら彼女らのアンサンブル・キャストは見応え抜群。特にチョン・ドヨンの凛とした美しさとやられたら倍返しの精神は、さすがの一語に尽きる。40代後半に差し掛かろうというのに露天風呂で柔肌を披露。肌も美肌で、服を着ている時でも健康的な魅力と妖しい魔力の両方を同時に放つという魔性の女。石田ゆり子や篠原涼子がチョン・ドヨン並みに攻めてくれれば、邦画の演技・演出レベルも少しは上がるのだが。

 

また『 息もできない 』の良心担当のチョン・マンシクが本作でも信販業者の社長としてカムバック・・・してくれたのは結構だが、これはちょっとイメチェンしすぎではないか。はっきり言ってヤバい人である。もちろん普通のビジネスマンにも『 アウトレイジ 最終章 』の白竜のようなヤバい人はいる。しかし、今回のチョン・マンシクはヤバいの意味が違う。気に入らない相手は銃で撃ち殺すのではなく、包丁で切り刻んでしまう。そして用心棒が肉や内臓を食べてしまう。ムチャクチャである。その用心棒も風貌が凄いのだ。『 殺人の追憶 』の序盤で警察が容疑者連中を雑に取り調べていくシーンでもインパクト抜群の顔面の持ち主がいたが、この用心棒もすごい。いったいどこからこんな個性的な顔の役者を見つけてくるのだろか。

 

大金の入ったヴィトンのカバンを巡って、次から次へとキャラクターたちが入れ代わり立ち代わりで物語をあちらこちらへと無秩序に進めていく様のスピード感よ。同時に、被害者が加害者に、弱者が虐げる側へと簡単に変貌していく様からは、人間の弱さや滑稽さをまざまざと見せつけられた感じがする。

 

本作はストーリー進行にちょっとしたネタが仕込まれている。原作が日本産というところ、章立てで話が進んでいくというところから『 去年の冬、きみと別れ 』を思い浮かべられればVery goodである。Jovianは途中で気が付いたが、登場人物たちの関係や、そのつながりの開陳の仕方、その鮮やかさにすっかり魅了されてしまった。映像芸術の面でも見どころは満載だ。あるキャラの元の商売が刺身屋さん、そして刺身の盛り合わせがチョン・マンシク演じる社長の脅迫シーンのカメラの端に映し出されているのは上手いと思った。キャラのつながりの暗示であると同時に、「切り刻まれて食べられたいのか?」というこれ以上ない脅しの小道具としても機能していた。他にもネオン街からの赤のストロボが、とあるキャラの室内の惨状とキャラクターの心情を如実に表していて、これまた巧みだと感じた。キム・ヨンフン監督はこれが長編の商業映画デビュー作だという。『 はちどり 』のキム・ボラ監督もそうだが、隣国の新人映画監督のレベルはちょっと高過ぎじゃないですかね・・・

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ネガティブ・サイド

いくら韓国の警察が無能だと言っても、まさか刺青で身元確認はしないだろう。わざとらしく髪の毛を切るシーンがあれば「ああ、DNA鑑定だな」とこちらも思う。そうした一瞬の演出が欲しかった。

 

夜中の2~3時に人をクルマで撥ねて、その死体を山まで運び、穴を掘って、そこに埋めて、また街中まで帰って来たのに、まだ夜が明けていないとはこれいかに。その後も延々と夜のシーンが続くという謎の時間軸。ここだけは矛盾があまりにも大きく減点せざるを得ない。

 

韓国のクルマにはエアバッグの装着が義務化されていないのだろうか。クルマで人をドカンと撥ね飛ばしたら、エアバッグが作動しそうだが。といっても、邦画やアメリカ映画でもエアバッグはこういう時は作動しないお約束になっているからね。

 

総評

これぞまさしく韓国ノワールとも言うべき作品である。人がどんどん死ぬので、そのあたりに耐性がない人は観るべきではない。デートムービーにも決して向かない。逆に言えば、デートで観にさえ行かなければ良い。韓国お得意の人間の内面を容赦なく抉り出す、さらけ出す極上エンターテインメント作品である。映画好きならば見逃す手はない。原作小説を読んだという人にも、ぜひ鑑賞してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヨボセヨ

日本語で言うところの「もしもし」である。これも韓国映画や韓流ドラマでお馴染みである。電話の第一声であることが多いが、ドアをノックしながら「ヨボセヨ」と言うこともあるし、相手がボーっとしている時にも「ヨボセヨ」と言える。まさに日本語の「もしもし」である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, チョン・ウソン, チョン・ドヨン, チョン・マンシク, ペ・ソンウ, 監督:キム・ヨンフン, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 藁にもすがる獣たち 』 -韓国ノワールの秀作-

『 ノンストップ 』 -コメディOK、アクションOK-

Posted on 2021年2月20日2021年2月20日 by cool-jupiter

ノンストップ 70点
2021年2月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:オム・ジョンファ パク・ソンウン
監督:イ・チョルハ

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アクション風味の韓国産コメディだと思い、軽い気持ちでチケットを購入。しかし、なかなかどうして、人間ドラマ要素もしっかりしており、適度なドンデン返しもありの佳作。当たり前のことではあるが、韓国が輸出(あるいは日本が輸入)してくる作品というのはハズレが少ない。

 

あらすじ

揚げパン屋を営むミヨン(オム・ジョンファ)はジャンクショップで働く夫ソクファン(パク・ソンウン)と一人娘ナリの3人で、偶然に当選したハワイ旅行のため、機上の人に。しかし、そこには北朝鮮のテロリスト集団も乗り込んでいた。この状況に、ミヨンの隠してきた能力が発揮され・・・

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ポジティブ・サイド

オム・ジョンファの魅力が爆発している。Jovianよりかなり年上だが、若々しさはあちらの方がはるかに上。芝居の一つひとつがとてもエネルギッシュだ。ことあるごとに「オッケー」とジェスチャー付きで言うのだが、その笑顔もとびっきりチャーミング。石田ゆり子とほぼ同年代ながら、石田ゆり子には決して出せない韓国のアジュンマ(韓国語でおばちゃんの意)のオーラも発揮している。そして過去は凄腕の工作員で、その格闘能力や戦術眼は今も健在というギャップ。キャラ属性だけ見ればよくあるタイプだが、その奥行きが深く、幅が広いのだ。

 

夫役のパク・ソンウンも負けていない。はっきり言ってうだつの上がらないダメ夫にしてダメ父親。駄々をこねるかの如く叫びまくる演技に、一瞬役者本人の精神年齢を疑ってしまうが、それだけ迫真の演技になっているということである。邦画や日本のテレビドラマでは、これほどストレートに妻への愛情を表現する男というのはなかなか見られない。

 

この夫に負けず劣らずのコミックリリーフが機内の男性CA。スパイ活劇に憧れを持っており、平常時もピンチの時も、とにかくそこにいるだけで場をしっかりと和ませ、時に大いに笑わせてくれる。もともと三枚目の役者だが、それに輪をかけて顔芸が最高である。とにかく韓国の役者の芝居はエネルギーに満ち溢れており、アホな演技をする時は突き抜けてアホである。なので、こちらも演技力や演出に注目する必要なく、素直にクスクス、ワハハと笑うことができる。

 

笑いだけではなく、社会的な風刺もところどころでしっかり効いている。国会議員が非常時でも横柄な態度を取り、上流階級のマダムは臨月の息子の嫁をハワイに連れていき、そこで出産させようとしている。とある映画監督と映画スターの秘話(あくまでストーリー内での)もこっそりと盛り込まれており、韓国の映画業界そのものをチクリとやりつつ、笑いのネタにもしている。当然、北と南の緊張関係が下敷きにあるので、コミカルな中にもシリアスが、しかしシリアスな中にもコミカルさがある。ハイジャックものというと、どうしてもシリアスな展開にならざるを得ず、そこは本作も例外ではない。敵であるテロリストたちの内部分裂あり、意外な黒幕の登場ありと、序盤のユーモアはどこへやらというハラハラドキドキの終盤から、ちょっとしたドンデン返しの利いたハッピーエンドまで、まさにノンストップだ。

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ネガティブ・サイド

予告の段階でミヨンが元凄腕のエージェントだということは判明しているのだから、序盤のちょっとしたパン作りのシーンに、ミヨンには非凡な身体能力や運動神経が備わっているということを見せる演出が欲しかった。機内のビジネスクラスでマカデミアナッツをピシュンと放る演出は、タイミング的に遅く、また演出としても大仰すぎる。

 

韓国映画で毎回思うのは、北朝鮮のスパイや工作員が有能すぎるということ。まさか本当に『 サスペクト 哀しき容疑者 』のドンチョルのような奴が定期的に出てくるはずもないだろう。

 

冒頭の潜入作戦の時のミヨンをアン・セラ、回想シーンのソクファンの馴れ初めの時のミヨンをオム・ジョンファが演じるというのは、少々無理があると感じた。これならミヨンは全てオム・ジョンファ、その代わりにアン・セラ役の女優のシーン、たとえば機内の映画のアクションシーンや中盤以降のバトルシーンでのアシストなどで増やした方が、一貫性は保たれたと思われる。

 

総評

韓国産の映画の勢いはなかなか衰えない。コメディにしてもヒューマンドラマにしても、役者が振り切れた演技を見せるからだろう。テンポも良く、ユーモアも冴えている。韓国映画の入門としては、本作ぐらいがちょうど良い。高校生や大学生のデートムービーにもなりうるが、やはり本作は中年または熟年カップルにこそ観てもらいたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

OK

そのまま「オーケー」の意味。使い方は日本も韓国も変わらないようだ。ただし、この語が応答ではなく形容詞になると話が変わってくる。この場合、OKというのは「まあまあ」とか「可もなく不可もなく」という意味になる。

 

A: How did you like that restaurant?

  あのレストラン、どうだった?

B: It was OK.

  まあまあだったな。

 

X:Did you watch this movie?

  この映画は観た?

Y:Yeah, that was an OK comedy.

  ああ、可もなく不可もないコメディだったよ。

 

などが用例である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, オム・ジョンファ, コメディ, パク・ソンウン, 監督:イ・チョルハ, 配給会社:ファインフィルムズ, 韓国Leave a Comment on 『 ノンストップ 』 -コメディOK、アクションOK-

『 悪魔を見た 』 -悪魔を倒すには悪魔になるしかないのか-

Posted on 2021年1月26日 by cool-jupiter

悪魔を見た 80点
2021年1月23日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:イ・ビョンホン チェ・ミンシク
監督:キム・ジフン

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『 さんかく窓の外側は夜 』がイマイチだったので、だったら人間がとことん怖くなる作品を観たいと思い、本作をレンタル。はっきり言って後悔した。キム・ジフン監督の独自の哲学というのか美学というのか、とにかく恐るべき人間性を見せつけられてしまった。This film is not for the faint of heart.

 

あらすじ

国家情報院捜査官スヒョン(イ・ビョンホン)は婚約者の誕生日も仕事に追われていた。その夜、婚約者は殺人鬼ギョンチョル(チェ・ミンシク)にさらわれ、殺害される。スヒョンは恋人の受けた苦痛を倍にして返してやると誓い、犯人を捜し始めて・・・

 

ポジティブ・サイド

雪降る夜。人里離れた道路。車内には妙齢の美女。これで事件が起きない方がおかしいと思えるほどのオープニングである。携帯電話で語らう仲睦まじい二人の間に突如として割って入るチェ・ミンシク演じるギョンチョルは、登場してから豹変するまでわずか数分。普通、この手のサスペンスやスリラーというのは犯人の残虐性を強調するシーンは中盤まで取っておくものだ。それを序盤から惜し気もなくギョンチョルの異常な攻撃性をまざまざと見せつける。この立ち上がりだけで胸やけがしてくる。

 

復讐相手を突き止めるために警察から容疑者リストを手に入れたスヒョンが、相手を片っ端からぶちのめしていく様は爽快だ。『 デッドプール 』と『 アンダードッグ 二人の男 』ぐらいでしか見たことのなかった顔面へのサッカーボールキックが、実は本作でも放たれている。というか、本作の方が上記二作よりも古い。やはり21世紀のバイオレンス描写の本家本元は韓国なのか。

 

ギョンチョルがとあるキャラクターの頭をハンマーでガツンガツンやるシーンがあるが、これは『 オールド・ボーイ 』へのオマージュだろう。頭を鈍器や棒で殴るシーンのある映画は数多く存在するが、北野武の『 その男、凶暴につき 』で北野武が金属バットで男の頭をから竹割にするシーンと同じだけの痛みが伝わる描写が本作にはてんこ盛りである。観ているだけで痛い。

 

スヒョンがギョンチョルと初めて相まみえるシーンのアクションも見物。稀代の殺人鬼に真正面から立ち向かい、実力で半殺しにしてしまう。半殺しというのも誇張ではなく、気絶した相手の手を大きな石の上に乗せて思い切り踏みつぶしたり、片方のアキレス腱を切ったりと、殴って失神させましたというレベルの暴力ではなく、相手に障がいを残すようなレベルの暴力。

 

この他にもギョンチョルのやっている血みどろの解体作業もおぞましい。『 ミッドサマー 』や『 アンダー・ザ・シルバーレイク 』のような人体破壊描写があるわけではないが、これらの作品にあった「リアルな作り物を壊している」感は本作にはない。その代わりに「その血のりは本当に血のりか。まさか本物ではあるまいな。そこに転がっている胴体は作りものだよな?襦袢だよな?」と確認したくなるような気味の悪さ。

 

スヒョンの同僚がポロっと漏らした一言から、追うスヒョンと逃げるギョンチョルの立場が逆転。安心できるハラハラドキドキが、不安と恐怖のハラハラドキドキに変わる。これによって人間性をなくしていたスヒョンの目に生気がよみがえる。ここまで、とにかく空虚な目、喜怒哀楽の喜と楽を失った目をしていたスヒョンに、人間として気遣いや配慮が見られるようになる。婚約者の家族までが逃亡するギョンチョルの魔の手にかかってしまうからだ。同時に、ギョンチョルを殺す最も残酷な方法についても、この時点で構想が浮かんだのは間違いない。人間を痛めつけるために必要なのは、非人間性なのか、それとも人間性なのか。

 

控えめに言って脚本家のパク・フンジョンと監督のキム・ジフンは頭がおかしい。CTが何かで断層撮影すれば、脳の一部が欠損している、あるいは異様に肥大しているのではないか。頭のおかしい人間が頭のおかしい犯罪を実行する、あるいは人間とは思えない残虐な殺し方をする。そういうのは分かる。ギョンチョルに限らず、映画の世界には頭がイってしまった犯罪者がいっぱいいる。しかし、頭がおかしくないはずの人間が頭のおかしい犯罪を次々に犯し、しかし最後には人間性=愛を思い起こし慟哭するというラストシーンを思い描ける人間というのは、やっぱり頭がおかしいのではないだろうか。スヒョンの凄惨な復讐劇を追体験して、まともな人間にできる所業ではないと思うと共に、自分はそこまで一人の女性を強く強く愛することができるだろうかとも自問してしまった。

 

ネガティブ・サイド

スリラーとしては完全無欠の逸品である。だが、リアリティの面で大きな演出ミスが二つ。

 

一つには、GPS入りカプセル経由で相手の声や周囲の音を聞く際に、コポポポという腸音やドクンドクンという心音がバックに流れておらず、非常にクリアな音が聞こえてきた。これは絶対にありえない。ギョンチョルの排せつ物まで描くほどのリアリズムを追求する本作であれば、そうした細かな部分にまで神経を行き届かせてほしかった。

 

もう一つには、ギョンチョルのムショ仲間のアジトでのセックスシーン。女性側が普通に犯されているだけ。もっと頭のイカれた女性像を打ち出せたはず。たとえば欲求不満のたまっているミンシクを逆に食ってしまうような豪の女性とか。全編に異様に張り詰めた雰囲気が充満する中、このシーンだけが普通に感じられてしまった。

 

総評

20歳ぐらいの時に観た『 タイタス 』でタイタス・アンドロニカスを演じたアンソニー・ホプキンスを観て、「ああ、『 羊たちの沈黙 』的なキャラをまた演じているなあ」と感じたが、本作のスヒョンを演じたイ・ビョンホンの復讐劇は、ある意味で『 タイタス 』を超えている。これほど一人の男の復讐劇に感情移入し、嫌悪感を催し、さらには畏敬の念すら持ってしまうという映画体験は初めてである。生きるとは何か。死ぬとは何か。とにかく、韓国人をパーソナルな意味で敵に回すのは避けた方が賢明である。そんなことを思わせてくれる韓流リベンジ・スリラーの秀作だ。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

イーセッキ

『 アンダードッグ 二人の男 』その他で紹介した「この野郎」という表現。本作でもギョンチョルが何度も何度も口にする。韓国映画で相手を口汚く罵る時には、必ず出てくる表現だと思って間違いない。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, イ・ビョンホン, サスペンス, スリラー, チェ・ミンシク, 監督:キム・ジフン, 配給会社:ブロードメディア・スタジオ, 韓国Leave a Comment on 『 悪魔を見た 』 -悪魔を倒すには悪魔になるしかないのか-

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