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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:ツイン

『 ただ悪より救いたまえ 』 -容赦ない韓流アクション-

Posted on 2022年1月4日2022年1月4日 by cool-jupiter

ただ悪より救いたまえ 75点
2022年1月2日 心斎橋シネマートにて鑑賞
出演:ファン・ジョンミン イ・ジョンジェ パク・ジョンミン
監督:ホン・ウォンチャン

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新年の韓国映画鑑賞第一弾。心斎橋の人出は多いが、信頼できる客層のシネマートへ。『 ソワレ 』、『 成れの果て 』という重い映画の鑑賞が続いたので、派手なアクションを観たいと思ったのだが、スカッとするどころか(良い意味で)身も心もボロボロになるような映画だった。

 

あらすじ

暗殺者のインナム(ファン・ジョンミン)は最後の仕事として日本のヤクザ、コレエダを殺害する。しかし、義絶状態にあったコレエダの弟にして狂気の殺人鬼レイ(イ・ジョンジェ)がインナムへの復讐を誓う。インナムはかつての恋人に娘がおり、その娘がタイで誘拐されたことを知り、救出のためタイへ渡る。そしてレイもインナムを追ってタイへ・・・

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ポジティブ・サイド

これは(『 アジョシ 』+『 チェイサー 』+『 哀しき獣 』)を3で割って、そこにホン・ウォンチャン監督のテイストを加えた、韓流ノワールの秀作である。まさに「そこまでやる必要があるのか」である。

アジョシは元々、チェ・ミンシクやソン・ガンホといった本物の中年オジサンを使う予定だったらしいが、イケメン青年ウォンビン(当時)を起用することで思いがけずスタイリッシュな作品に仕上がった。一方で本作はファン・ジョンミンという、中年のオッサンでありながら、ガンホやミンシクといった濃いめのオッサン色ではなく渋みを前面に押し出したアジョシを起用することで、悲哀がより色濃く表現されるようになった。

本作の特徴は国際的なスケールの大きさ。日本、韓国、タイ、そして最終的には中米パナマにまで至り、聞こえてくる言語も日本語、韓国語、中国語、タイ語、英語である。明らかにアジア市場、そして世界市場を視野に入れた作品作りである。主演の二人も片言ながら、日本語、英語を操り、インナムのバディとなるもう一人のジョンミン、ユイはタイ語も流暢に話す。『 PMC ザ・バンカー 』のハ・ジョンウとまでは言わないが、邦画の世界ももっと役者に外国語を喋らせてもいいのではないか。近年だと『 ゲノムハザード ある天才科学者の5日間 』の西島秀俊の韓国語ぐらいしか思いつかない。

閑話休題。本作は優れた過去の韓国映画だけではなく、ハリウッド映画なども下敷きにしている。レイがバンコクで銃器を調達する方法は、まんま『 ターミネーター 』のシュワちゃんだし、最終盤の対決の決着シーンは、まんま『 レオン 』だったりする。ただ、そうした一見するとパクリにしか思えないシーンの数々が韓国色に染め上げられた結果、優れたオマージュとして機能している。

インナムとレイの対決を決して正義と悪にぶつかり合いのように描かないところが良い。インナムへの連絡係(『 パラサイト 半地下の家族 』のリスペクトおじさん!)を牛や豚のように解体していくレイが「俺のおやじは屠殺業者だった」と語るシーンでは、『 血と骨 』のビートたけしが思い起こされたし、日本でもタイでも、殺すと決めた相手は容赦なく殺す姿勢が徹底している。一方のインナムもハサミで拷問相手の指を切り落とすという血も涙もない所業で相手の口を割らせる。ハサミが放つ鈍い光に使い込まれ具合が見て取れ、インナムの暗殺家業の凄惨さが垣間見える。二人が対峙していく過程で、タイという国の裏のビジネス、そこで韓国人が韓国人を搾取するという構図、その中にちゃっかり存在する中国人、ついでに人気の日本人など、これでもかと大都市の闇、人間の闇が暴かれていく。その濃い闇を背景に、暗殺者 vs 殺し屋というどっちもどっちの対決の構図の中に「見知らぬ娘を救うため」という大義と、「兄貴の敵を討つ」という大義がぶつかり合う。単なるドンパチと見せかけて、韓国人の家族観が非常に強く投影された対決になっていく。

廃工場、ホテル、市街地で繰り広げられるインナムとレイの激闘はまさに息を呑むもの。リハーサルとかできたのだろうか。どこまでが実写でどこからがCGだか分からない。戦いの中で人間性を取り戻していくインナムと、どんどんと獣になっていくレイというコントラストが絶妙だ。まさに血みどろの対決に、観ている側は完全に消耗しきってしまう。心地よい疲れでは決してない。しかし、凄いものを観たという感覚を味わえることは間違いない。

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ネガティブ・サイド

主人公インナムには特殊工作員あがりというバックグラウンドがあるので強いことは分かるが、レイの強さの背景がよく分からない。在日韓国人ということは日本育ちなわけで、ヤクザ稼業だけであそこまで刃物や銃火器の扱いに習熟できるものだろうか。豊原功補と義絶していたとはいえ、あれほど強烈な弟が全く知られていなかったというのは無理があるのでは。まあ、銃器については『 アウトレイジ 』でもどこからかマシンガンが調達されたりしているので、あまり突っ込むのは野暮かもしれない。『 哀しき獣 』のキム・ユンソクのように元々強かったと思うようにすべきか。

インナムがバンコクでもずっと黒のスーツを着用しているのは、一種のトレードマークだから仕方ないか。だが、あれでは目立ちすぎて、あっという間に警察に通報されて御用となりそう。プロらしく、密かにバンコクの街に溶け込むという描写が欲しかった。

バトルシーンで頻繁に使われるスローモーションがやや気になった。あまり多用すると、せっかくのアクションが安っぽく見えてしまう。

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総評

ひたすらに疲れる映画体験だった。劇場を出たところでスタッフが「ただいま売店にて”ただ渇きより救いたまえ”を販売中でーす」と案内をしていて、その商魂のたくましさに思わず笑ってしまった。これがなければ家路の間、ずっと重苦しさに支配されていたかもしれない。逆に言うと、それぐらい重い作品。派手なアクションでスカッとした気分になりたいと臨んだが、そんな爽快系の作品では決してない。どちらかというと『 ビースト 』のような悪のオッサン二人の極限の演技対決である。鑑賞の際は自身のメンタルをよくよく事前チェックされたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You had it coming.

『 リアム16歳、はじめての学校 』でも紹介した表現。今作では「自分でまいた種だ」というセリフがあったが、それを英訳すると ”You had it coming.” となる。 積極的に使いたい表現ではないが、英会話中級者以上なら知っておきたい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, イ・ジョンジェ, パク・ジョンミン, ファン・ジョンミン, 監督:ホン・ウォンチャン, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 ただ悪より救いたまえ 』 -容赦ない韓流アクション-

『 リトル・ジョー 』 -静謐&ノイズ系ホラー-

Posted on 2021年11月29日2021年11月29日 by cool-jupiter

リトル・ジョー 65点
2021年11月25日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:エミリー・ビーチャム ベン・ウィショー
監督:ジェシカ・ハウスナー

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シネ・リーブル梅田で上映していたが、見逃してしまった作品。こけおどしで溢れる昨今のホラーの中では異色の仕上がりとなった。

 

あらすじ

アリス(エミリー・ビーチャム)は、その匂いを嗅ぐことで多幸感が得られるという「リトル・ジョー」という新種の植物を開発し、息子のジョーにプレゼントにした。しかし、「リトル・ジョー」の花粉を吸ったジョーは普段と少し異なる言動を取り始めた。同じころ、花粉を吸い込んだ助手のクリス(ベン・ウィショー)も、奇妙な振る舞いを見せ始めて・・・

 

ポジティブ・サイド

どこか彼岸花を連想させるリトル・ジョーという植物が、とても妖しげな雰囲気を放っている。それは、全編を通じて独特の色使いと、ノイズとも言えるBGMが、不協和音を奏でながらも、一つのハーモニーとして機能しているからだろう。「赤」の使い方としては、『 シックス・センス 』のシャマランを思わせる。リトル・ジョーという植物の持つ魔力のようなものが、この赤の使い方によって際立つ。少なくとも見る側にとってはそのように映る。オリエンタルなBGM(というか日本人の作曲家なのね)も、リトル・ジョーが画面に映る際のノイズとあいまって、観る側の心をざわつかせる。

 

アリスと息子ジョーの関係の変化も自然である。思春期の息子が母親に隠し事をする、あるいは言動が以前と変わってしまう。それは当たり前のことである。しかし、そこにリトル・ジョーの花粉吸引をまじえることで、独特のスリルが生まれている。また、ベン・ウィショー演じる助手のクリスの変化も興味深い。詳しくはネタバレになってしまうが、ヨーロッパあるいは日本には「リトル・ジョー」を購入する理由がたくさんありそうである。

 

ジョーや、そのガールフレンドの演技はなかなかのものである。瞬きを極力しないというのは演技者の基本だが、それに加えて無表情なのに雄弁な表情ができることに恐れ入った。特にジョーのガールフレンド役の女の子は不気味なこと、この上なかった。アリスが定期的に訪れるカウンセラーも、アリスに傾聴するふりをしながら、実に底浅い心理分析を行い、やはり観る側を苛立たせる。愛犬ベロを失った(というか・・・)同僚ベラの言動のあれこれも、観る側を戸惑わせる。リトル・ジョーは無害なのか、有害なのか。

 

植物が人間を操るということにリアリティを感じられるかどうかが胆だが、実際に植物は多くの動物を操っている。繁殖の時期になると、花粉の飛ばしをよくするために、はなびらを敢えてトカゲ好みの味に変える植物もあるぐらいなのだ。植物の力、そして人間の生物学的かつ社会的・心理的な弱さを知っている人であれば、本作は非常に不愉快かつ興味深いものになるはずだ。『 リトル・ショップ・オブ・ホラーズ 』へのオマージュが盛り込まれているらしいが、Jovianは中学生の時に読んだ『 トリフィド時代 』を思い出した。これもまた本作の持つ英国らしさゆえなのだろう。

 

ネガティブ・サイド

研究所の同僚のベラとその愛犬ベロの関係の変化を、もっとじっくりと描いてほしかった。犬は人間の何万倍、下手したら何億倍の嗅覚性能を誇るのだから、リトル・ジョーの香りや花粉から受ける影響も、(理論的には)もっと大きいはず。ここを丹念に描いておけば、アリスが気付くキャラクターたちの変化と、観る側が気付くキャラクターたちの変化がシンクロする、あるいはギャップを生み出すことできる。それによって、観る側がアリスに「おーい、気付け気付け」のように感じられ、それが更なるサスペンスになっただろう。

 

リトル・ジョーの香りをかいだ人間たちのインタビューを、もう少しじっくり見たかった。This is not the woman I used to know. = これは私が知る女性ではない、というセリフは認知症のパートナーを持つ人間の定番のセリフであるが、具体的に相手のどんなところからそう感じるようになってしまったのかを見せてくれていれば、リトル・ジョーの魔力にもっと説得力が生まれただろうと思う。

 

総評

昨今のホラー、なかんずくアメリカで夏に大量に公開されるものは、観客を怖がらせるのではなく、驚かせている。本作は、迫力こそないものの、神経にじわじわ来る『 ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談 』のような感じである。本作を面白いと感じて、なおかつ活字にアレルギーのない人は、鯨統一郎の『 ヒミコの夏 』も詠まれたし。または恐怖を快楽に変えて人間を操る生物のストーリーならば貴志祐介の『 天使の囀り 』も傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

talk back

「返事をする」、「言い返す」の意。劇中では前者の意味で使われているが、実際のコミュニケーションでは後者の意味、特に「口答えする」という意味合いで使うことが多い。一時期のアップルやIBMには、If you talk back, you’re fired. = 口答えするならクビだ、みたいなスーパーバイザーがたくさんいたことだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, イギリス, エミリー・ビーチャム, オーストリア, スリラー, ドイツ, ベン・ウィショー, ホラー, 監督:ジェシカ・ハウスナー, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『 リトル・ジョー 』 -静謐&ノイズ系ホラー-

『 サムジンカンパニー1995 』 -モデルはサムソンではない-

Posted on 2021年9月8日 by cool-jupiter

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サムジンカンパニー1995 80点
2021年9月4日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:コ・アソン イ・ソム パク・ヘス
監督:イ・ジョンピル

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Jovianは前職では英語・英会話講師、現職では企業・学校向け英語レッスンの教務担当である。今春に本作の紹介記事を読んで「TOEICのスコアアップに奮闘するOLたちの物語」と早合点していたが、どうしてなかなか骨太の社会はエンターテインメントであった。

 

あらすじ

サムジン電子に勤める生産管理のジャヨン(コ・アソン)、マーケティングのユナ(イ・ソム)、会計のボラム(パク・ヘス)は高卒というだけで制服を着せられ、小間使いばかりに従事させられていた。ある日、ジャヨンは近くの河川で魚が大量に死んでいるのを目撃、その後、自社工場から汚染水が排出されているのを目撃する。会社の不正行為に立ち向かおうとするジャヨン達であるが・・・

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ポジティブ・サイド

Jovian妻は大学新卒から東証一部上場企業の事務職であるが、旧態依然たる制服勤務、ファイリング、データ入力などに従事する毎日で、当然分厚いガラスの天井がある職場である。その妻が本作のオープニング映像に痛く感銘を受けていた。詳しくは見てもらえれば分かるのだが、とにかく男の仕事がいかにいい加減で、しかも縁の下の力持ちの存在に全く気が付いていないことが分かるだろう。1990年代の韓国企業を舞台にしたストーリーであるが、これが2021年の東証一部上場企業の中身にそっくりなところがいっぱいあるということに、我々はもっと衝撃を受けねばならない。

 

TOEICスコアが600点に達すれば「代理」になれるというお達しに色めき立つジャヨン達であるが、その一方で目撃してしまった自社工場からの汚染水の放出。これに目をつぶってTOEICスコアと共に栄達を目指すのか、それとも自身の正義感に忠実に行動するのか。このあたりの分かれ目がリアルに感じられた。当然彼女らは後者。持ち前の行動力と、長年の事務作業で培ってきた事務知識と事務処理能力を駆使して『 ミッション・インポッシブル 』的な潜入や調査を行っていく。FAXと電話番号の関係や、電話機の操作、オフィス用品の意外な用途など、知っている人であれば納得できる行動だろうし、知らない人が見れば「すごい!」と素直に感心できるだろう。

 

その過程で明るみになっていく数々の事実。それに関わるサムジン電子社内の複雑な権力構造と人間関係。ジャヨンたちが真実に迫り、それを社会に向けて告発しようと、まさに『 記者たち 畏怖と衝撃の真実 』や『 オフィシャル・シークレット 』のような展開が見えた瞬間に、韓国社会の無情な現実が立ちはだかる。『 トガニ 幼き瞳の告発 』のような胸糞バッドエンドなのか・・・と思わせてからの大逆転劇が愉快・痛快・爽快だ。韓国映画が近代史実を料理すると『 国家が破産する日 』のような展開かつエンディングを普通に作ったりするので油断できない。そうした自国映画の特徴までも伏線にした傑作である。

 

グローバル化、そして英語がキーワードの本作であるが、TOEIC対策のために会社で皆が勉強するという風景がどこか前時代的なのだが、これすらも伏線にしてしまうのだからイ・ジョンピル監督の手腕には恐れ入る。ジェットコースター的な展開の連続で「これはいける!」と思った瞬間からの転落劇や、どん底からの逆転劇が、行きつく間もなく繰り広げられる。社内の意外な人物が敵だったり、あるいは味方だったり、そうした人間たちを相手に虚々実々の駆け引きが行われ、観る側を決して飽きさせない。恋愛要素ゼロで突っ走るという、邦画では絶対に企画時点で却下されそうな脚本で最後まで全力疾走する。2020年代の韓国社会(日本社会も同様だ)の旧弊を公然と非難し、それを呵呵と笑い飛ばす会心の韓流コメディである。

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ネガティブ・サイド

出てくる男性キャラクターが一人を除いてアホ、鈍感、悪人のいずれかである。いや、根っからの悪人というのは少数なのだが、ある意味で自分の愚かしさや行動原理の醜悪さに気づかないアホや鈍感なので、同じ男としていたたまれない気持ちになってしまった。人の振り見て我が振り直せである。まあ、これは減点対象となるところではない。

 

英語クラスで自らに English name をつけるのだが、ジャヨンが自分につけたのはDorothy = ドロシー。「これは『 オズの魔法使 』へのオマージュか」と感じさせたが、特にそういった工夫はなし。Ma belleであるMichelleの過去が名前の意味と合っていただけに、SilviaやDorothyという名前にも、もっと意味を持たせて欲しかった。

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総評

痛快の一語に尽きる傑作である。シリアスでありながらコメディ、コメディでありながらシリアス。エンタメ性と社会性のバランス配分も素晴らしい。TVドラマの『 ショムニ 』のようだというレビューをちらほら見かけるが、全然違うだろう。片や、欲望のままに動いて結果的に会社の利益に。片や、正義感と信念に突き動かされて社会の利益に。本作は韓流『 エリン・ブロコビッチ 』であり『 女神の見えざる手 』であり『 ドリーム 』と評すべきだろう。遅くに上映してくれた塚口サンサン劇場に感謝。多くの方に劇場またはレンタルや配信でご覧いただきたい傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Even a worm will turn.

「一寸の虫にも五分の魂」・・・よりも「なめくじにも角」の方がニュアンス的には近いように思う。作中ではTOEICによく出る英語の格言・諺の一つとして扱われていたが、主人公たちが一貫して見せつける意地を表す言葉にもなっている。TOEICには英語の格言や慣用表現というのはあまり出ないはず。イディオムについては、どちらかと言うとTOEFL ITPを受験しなければならない大学生が知っておくべきか。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, イ・ソム, コ・アソン, コメディ, パク・ヘス, 監督:イ・ジョンピル, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 サムジンカンパニー1995 』 -モデルはサムソンではない-

『 白頭山大噴火 』 -韓流ディザスタームービーの佳作-

Posted on 2021年9月3日 by cool-jupiter

白頭山大噴火 75点
2021年8月29日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:ハ・ジョンウ イ・ビョンホン マ・ドンソク ペ・スジ
監督:イ・ヘジュン キム・ビョンソ

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仕事が多忙を極めているため簡易レビューを。

 

あらすじ

白頭山の巨大噴火を阻止しようと奮闘する者たちの物語。

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ポジティブ・サイド

邦画で火山がフィーチャーされた作品というと『 日本沈没 』ぐらいしか思いつかない。しかも火山がテーマではない。他には火山噴火が導入になっている『 ドラゴンヘッド 』か、あるいは火山噴火が味付けになっている『 火口のふたり 』ぐらいか。ハリウッドはこの分野で傑作から駄作まで一通り作ってきたが、火山大国である日本からではなく韓国から火山噴火映画が出てきた。喜ぶべきか、嘆くべきか。

 

白頭山の噴火というのは、それなりに現実的な設定。しかし、それを食い止める、あるいは噴火の規模を抑えるための策が、地下での核爆発、しかもその核を北朝鮮から奪おうというのだから、荒唐無稽もいいところである。まるで1970~1980年代にかけてブライアン・フリーマントルの謀略小説のようである。あるいは 『 鷲は舞い降りた 』のような不可能ミッションのようである。そんなプロットをとにもかくにも成立させてしまうのは、主演のハ・ジョンウとイ・ビョンホンの力によるところが大きい。

 

ハ・ジョンウの頼りなさげな指揮官と、イ・ビョンホンの不穏極まりないオーラを放つ工作員の対比が、物語に奇妙なユーモアとシリアスさを同居させ、それがいつの間にやら極上のバディ・ムービーへと変貌していく。特にイ・ビョンホンはその演技ボキャブラリーの多彩さを本作でも見せつけて、他を圧倒している。デビューの頃から自慰シーンを見せたり、『 王になった男 』では下品な腰使いに排便シーンも見せてくれたが、今作でも野糞と立小便を披露。同年代である竹野内豊や西島秀俊が同じことをやれるだろうか?まず無理だろう。

 

米中露の政治的な駆け引きと思惑あり、ファミリードラマあり、アクションありと、面白一本鎗志向の中にもリアルな要素と鉄板の感動要素を盛り込んでくるのが韓国映画で、本作もその点ではずれなし。核を本当にぶっ放す映画としては『 アメリカン・アサシン 』や『 PMC ザ・バンカー 』よりも面白い。今夏、劇場でカタルシスを求めるなら、本作で決まりだろう。

 

ネガティブ・サイド

序盤のカーアクションのシーンは不要。CGで注力すべきは、地震による建造物の倒壊であるべきだった。

 

マ・ドンソクのインテリ役には少々違和感があった。ハ・ジョンウの嫁を保護するシーンで、多少は腕力を披露してくれても良かったのではないだろうか。

 

ジェット機が飛べなくなるほど上空に火山灰が舞い散っているのに、北朝鮮国内の、しかも北方の白頭山に近いエリアにほとんど灰が降り積もっていなかったのは多大なる違和感。同日にNHKのサイエンスZEROで『 富士山 噴火の歴史を読み解け 』を観たので、なおさら不自然に感じた。

 

総評

韓国映画の勢いはまだまだ止まらない。北朝鮮が国家として存在している以上、ドラマは無限に生み出せる。羨ましいような羨ましくないような状況だが、それすらもエンタメのネタにしてしまうところは邦画も見習うべきなのだろう。火山の国としても、また核を持たない軍事的な小国という立場からも、日本の映画ファンに幅広く鑑賞してもらいたい佳作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

erupt

噴火する、噴出するの意。ex + rupt = 外に + 破れる というのが語源になったラテン語の意味である。rupt = 破れる だと理解すれば、interruptやbankrupt, disrupt, abruptなどの意味を把握するのは容易だろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, イ・ビョンホン, ハ・ジョンウ, パニック, ペ・スジ, マ・ドンソク, 監督:イ・ヘジュン, 監督:キム・ビョンソ, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 白頭山大噴火 』 -韓流ディザスタームービーの佳作-

『ズーム/見えない参加者 』 -Zoomらしさをもっと前面に出せ-

Posted on 2021年1月16日 by cool-jupiter

ズーム/見えない参加者 30点
2021年1月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヘイリー・ビショップ
監督:ロブ・サベッジ

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Jovianは2017年の秋ごろから当時の仕事およびプライベートでZoomを使っていた。有料版を使い始めたのは2020年からだが、Zoomにはまあまあ詳しい方だと自負している。劇場予告を観て「遂に出るべくして出できたな」と感じた。が、甘かった。これは英国版『 真・鮫島事件 』であった。

 

あらすじ

コロナ禍でロックダウン中の英国で、ヘイリー(ヘイリー・ビショップ)は友人たちとZoom降霊会を開催する。だが、参加者のジェマが実在しない死者の話をしてしまったことで、本来呼び出されるべきではない霊が現れてしまい、ヘイリーたちは数々の怪異に見舞われてしまい・・・

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ポジティブ・サイド

無名に近い俳優たちだらけだが、そのおかげでリアリティが生まれている。『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』でも顕著だったが、こうしたアイデア一発勝負のホラーには有名キャストはノイズとなる。どうしても作り物感が生まれてしまうからだ。彼ら彼女らの話し振りも、なかなかにダーティーで、それが逆に親密さを感じさせる。実際にZoom飲み会をやっている面々というのは、往々にしてこういう関係性なのだろうと思わせる。ヘイリーとジェマの迫真の演技は見ものである。

 

スマホの顔認証や、コンピュータ音声に特有のサーっというホワイトノイズやクリック音もなかなか効果的。下手に大きな効果音を使うよりも、静かな耳慣れた音の方が恐怖感を演出しやすい。これはZoomに慣れた人ほど感じやすいはずだ。

 

科学的な知識の普及と浸透により、超自然的な現象は一時期後退していった。それでも携帯の普及と共に『 着信アリ 』が出てきたように、Zoomに代表されるウェブ会議システムのような新しいテクノロジーが生まれれば、やはりホラー映画がそこから生まれる。凡作ではあるが、暇つぶしにはなる。

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ネガティブ・サイド

全編がZoom上で行われること以外は、凡百のホラー映画と何一つ変わらない。「ここで大きなが音がするぞ」とか「ここでこけおどしのオブジェが出てくるぞ」という予感がことごとく的中する。まるでホラー映画の作り方の教科書を読んだ高校生あたりが作ったかのようにすら感じられる。実際に、細部にこだわらなければ、類似の作品は高校生に手に入るリソースだけでも十分に制作可能だろう。低予算であるならば、それこそアイデアにこだわるべきで、ホラーとして新しい何かを提供しようという製作者側の気概は一切感じ取ることができなかった。

 

いわゆるZoomらしさが一切なかったのは残念で仕方がない。Zoomが他のウェブ会議システムに比べて優っている(優っていた)点は、主に

 

1.お手軽さ

2.画面共有

3・ブレイクアウトルーム

 

だった。もっとこれらの特徴を生かしたホラーを構想すべきだろう。たとえばZoomはその参加の「お手軽さ」ゆえにZoom爆撃と呼ばれる悪質な乱入事件が世界で相次いで行われていた。そうした愉快犯(高校生男女数人がいいだろう)が大学のオンライン授業に爆撃を仕掛けて楽しんでいたところ、ランダムに入力したミーティング・パスコードによって入ってはいけない領域に迷い込んでしまい・・・というようなストーリーである。

 

「画面共有」や、それに類するファイル交換にフィーチャーするなら、例えば画面共有をすると参加者を映すウィンドウが縮小する。そこで共有を解除してギャラリービューに戻してみると、参加者が増えている。それも他人が乱入してきたのではなく、参加者Aと参加者A’が生まれて、自分同士で通話できてしまう。他の参加者は呆然とそれを眺めて・・・というようなプロットも割と簡単に思いつく。

 

ブレイクアウトルームでも恐怖は生み出せる。Jovianは大学の英語の非常勤講師を自身で行っていたり、あるいは派遣元企業の担当者としてそうした講師の授業をオブザーブ(ビデオをマイクもOFF)してフィードバックすることもある。某大学のオンライン授業をオブザーブした際に、ブレイクアウトルームに割り振られたので、学生のペアワークの様子を見学させてもらおうと思ったが、スクリーンネームを適当な6桁の数字にしていたせいで「え、誰これ?なんで6桁なん?学生じゃない?やばいやばい、怖い怖い、誰?」と学生に言われてしまった苦い経験がある。なので舞台を大学にして、オンライン授業でブレイクアウトルームに参加者を割り振るごとに、一人また一人で学生がZoom上からも、そして自宅からも消えていく。あるいはブレイクアウトルームの中だけで起きる怪奇現象があり、ホストも他の参加者もそのことになかなか気づいてくれず・・・といった物語も作ろうと思えば作れるのではないか。

 

Zoomならではの恐怖要素をもっともっと追求した作品は、今後インディーズで、もしくは高校生や大学生の映研やら、サンデー・アート・スクールのプロジェクトなどから生まれてくると思われるが、それに先立って本作はZoomの魅力と魔力を世に発信すべきだった。

 

そうそう、Zoomのギャラリー・ビューでは喋っている人の表示枠が黄色の太線で囲われるが、本作にはそれが無かった。監督および編集者の完全なるミスだろう。

 

最後のメイキング映像は完全なる蛇足。観ずに劇場を後にしてもなんの問題もない。

 

総評

クソホラー映画である。『 search サーチ 』のようなクオリティを期待するとがっかりさせられること必定である。68分(本編後のボーナス映像を除けば、おそらく60分)という短さで、なおかつ1000円でチケットを購入できるので、暇つぶしと割り切れるホラー愛好家のみにお勧めしておく。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

be on lockdown

ロックダウン中である、の意。London is on lockdown.のように使う。どこかのアホな知事が不用意に発話したことから、意味や解釈に誤りが生じた語。決して「都市封鎖」という意味ではない。字義どおりに解釈すれば、都市封鎖=都市へ入ること、そしてその都市から出ることを禁じる措置であって、都市内での人々の移動は自由である。「国境を封鎖する」と聞けば、入国や出国が禁じられるが、国内の移動が制限されるとは誰も受け取らないだろう。Lockdown = 外出制限または移動制限と訳すべきと思う。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, E Rank, イギリス, ヘイリー・ビショップ, ホラー, 監督:ロブ・サベッジ, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『ズーム/見えない参加者 』 -Zoomらしさをもっと前面に出せ-

『 サスペクト 哀しき容疑者 』 -追跡者にして逃亡者-

Posted on 2020年8月27日 by cool-jupiter

サスペクト 哀しき容疑者 70点
2020年8月25日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:コン・ユ パク・ヒスン
監督:ウォン・シニョン

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コン・ユといえば『 トガニ 幼き瞳の告発 』や『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』のような、非肉体系の俳優という印象だったが、本作では『 アジョシ 』のウォンビンに対抗するかのような華麗かつ残虐なアクションにチャレンジして、ある程度の成功を収めたと言える。

 

あらすじ

脱北した元精鋭工作員のドンチョル(コン・ユ)は、愛する妻子を殺害した犯人を追って韓国で運転代行業を営んでいる。ある夜、韓国経済界の実力者でドンチョルも世話になっていたパク会長の殺害現場に居合わせたドンチョルは暗殺者を撃破。しかし、逆に殺人犯としてミン・セフン大佐(パク・ヒスン)に執拗に追われることになる・・・

 

ポジティブ・サイド

まずコン・ユがここまで格闘アクションをこなすのかとびっくりさせられる。『 The Witch 魔女 』の魔女ジャユンかと見紛う体術を見せたりもする。日本で言えば向井理がバリバリの格闘シーンを演じるような感じだろうか。この強烈な違和感がどんどんと消えていく序盤から中盤、そして終盤にかけての疾走感は素晴らしい。節目節目に格闘、カーチェイス、爆発、狙撃をまじえてくるので中だるみを感じることが全くない。

 

特にカーチェイスは韓国の狭く入り組んだ路地を豪快に走破し、そんな馬鹿なという超絶テクニックで階段をクルマで降りたりもする。副題にある哀しき~は『 哀しき獣 』を意識してのことだろう。あちらはタクシー運転手、こちらは運転代行業。運転が上手いのは当たり前なのだ(上手過ぎではないかと思うが・・・)。邦画では『 プラチナデータ 』が、主人公が真犯人を追いかけながら自らも追われるというプロットだったが、二ノ宮演じる科学者がなぜあれだけ運動神経がよく、なおかつ単車の運転に長けているかの説明はゼロ。2010年代前半で、すでに邦画は韓国映画に負けていたのか。クルマのバリケードをある方法で突破するシーンには笑うと同時に感心もした。現実に実行できそうだぞ、と。とにもかくにも、本作のカーチェイスシーンおよびカーアクションは必見である。

 

パク会長殺害のミステリもストーリーを引っ張る重要な要素となる。食糧難ながらも軍拡に勤しむ北朝鮮へ重要な贈り物を携えて尋ねる予定だったというパク会長は、いったい何を手土産にしていたのか。それは朝鮮半島の緊張を高める代物なのか、それとも融和の機運を高める契機になるのか。ドンチョルの逃走とセフンの追撃が単なる個人の因縁ではなく、朝鮮半島の命運をも握っていると感じさせてくれる。ベタではあるが、まさに手に汗握る展開である。

 

ドンチョルとセフンの因果が交わる時に真相が明らかになる。追う者と追われる者の間に秘かに芽生えた奇妙な連帯感も、ベタではあるが胸を熱くしてくれる。シリアス一辺倒ではなく、セフン大佐の部下が要所要所でユーモアを発揮。アクション、ミステリ、サスペンス、ユーモアを実に適度に織り交ぜた韓流アクションの快作である。

 

ネガティブ・サイド

本作の最大の欠点はオリジナリティの欠如である。北朝鮮の元スパイという要素をごっそり取り除けば、かなりの部分は『 ジェイソン・ボーン 』の焼き直しである。また、一見すると細身の優男が実は凄腕の殺人マシーンというのは『 アジョシ 』のチャ・テシクの二番煎じ。そして、断崖絶壁を訓練で登るのは『 ミッション・インポッシブル 』とトム・クルーズ/イーサン・ハント。北朝鮮と韓国の男同士のほのかで奇妙な交流は『 JSA 』が遥かに先行していて、なおかつ優っている。そもそも妻子を殺された男が復讐のために立ち上がるというプロットが古い。小説から映画まで手垢にまみれまくった題材である。どこかで観たことがある構図や人間関係が多いのが本作の残念なところである。

 

細かいところではドンチョルが妻子の仇を前にして、あっさりと逃げられてしまうところ。普通、両足を撃つか何かして逃げられない、もしくは闘いになったときにアドバンテージをとれるようにするのではないかと思うが。まして、銃を持っているという絶対的な距離のアドバンテージを自分から相手の掌の文字を読みたいからと歩いて近づくか?サスペンスフルなシーンではあるが、現実味があるとは言い難かった。

 

ドンチョルの有能さを強調するあまり、北朝鮮が現実以上の脅威に描かれていた。本当にドンチョル級の工作員を養成する機関であれば、あそこまで過酷な訓練は課さないだろう。金の卵であるが孵化する確率は3%というのは馬鹿げている。自分が総書記なら機関のトップを間違いなく更迭する。

 

総評

韓国映画お得意の北朝鮮絡みのアクションであり、ミステリであり、サスペンスであり、ヒューマンドラマである。ハリウッドから直輸入したと思しきシーンのオンパレードであるが、それが見事に韓流のテイストと融合している。またコン・ユという俳優の底力と、彼の潜在能力を余すところなく引き出す脚本、そして監督の演出力にも舌を巻いた。ハリウッドのスパイ映画、アクション映画に飽きてきたという向きにこそ、本作を強くお勧めしたい。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

イーセッキ

セフン大佐が何回口にしたか分からないぐらい「イーセッキ」を連発している。イー=この、セッキ=野郎。イーセッキ=この野郎である。英語だと、You bastard、日本語だと、テメーこの野郎、ぐらいだろうか。『 アウトレイジ 』の韓国語吹き替えだと100回ぐらいイーセッキと聞こえてくるような気がする。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, コン・ユ, パク・ヒスン, 監督:ウォン・シニョン, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 サスペクト 哀しき容疑者 』 -追跡者にして逃亡者-

『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』 -韓国産ゾンビ映画の傑作-

Posted on 2020年5月17日 by cool-jupiter

新感染 ファイナル・エクスプレス 75点
2020年5月16日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:コン・ユ チョン・ユミ マ・ドンソク チェ・ウシク シム・ウンギョン
監督:ヨン・サンホ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200517120849j:plain
 

COVID-19のおかげでゾンビ映画的な世の中が現実化してしまった。だが、いち早くCOVID-19を抑え込んだ(ように現時点では見える)国もある。そう、韓国である。その韓国が生んだ傑作ゾンビ映画を、今というタイミングで見直す意味はきっとあるはずである。

 

あらすじ

ファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)は離婚調停中。一人娘のスアンが釜山に向かうのに随行するため高速鉄道KTXに乗る。その頃、各地では謎のゾンビが出現していた。そして、KTX車内にもゾンビの影が迫って・・・

 

ポジティブ・サイド

『 トガニ 幼き瞳の告発 』のコン・ユが嫌な奴に見える。これはすごいことである。もちろん、そうした人間が変化していく様を描くことが本作の眼目の一つであるが、コン・ユという俳優の高い演技力を大いに堪能できるのが本作の収穫である。子役のスアンと顔立ちが似通っているという点もポイントが高い。親子であるという説得力が生まれ、だからこそコン・ユのダメな父親としての演技が光る。演技力という点ではKTX車内にゾンビウィルスを持ち込むシム・ウンギョンの演技も見逃せない。ゾンビ映画の文法に忠実に乗っ取りながらも、動けるゾンビを新しい形で提示した。特に子泣き爺的に標的にかぶりつく動作は、かまれている女性の火事場の馬鹿力的な描写とあいまって、妙なリアリティがあった。だが、なんといっても娘スアンの魂の泣き声の悲痛さよ。日本でもこれぐらいの金切り声で泣ける子役が欲しい。

 

ゾンビが跋扈する世界の恐ろしさは無論、襲い掛かって来るゾンビにある。だが、それ以上の恐怖は人間同士が疑心暗鬼になることだ。もっと言えば、その人間の本性が露わになることと言ってもいい。主人公のソグが自分と娘だけが助かればいいと身勝手な考えに囚われている中で、周囲の人間も自己中心的になる者、利他的になる者と分断されていく。

その過程の描写がねちっこい。特に必死で最前線を潜り抜けてきた者たちに対して容赦なく浴びせられる罵詈雑言は聞くに堪えない。胸が痛む。まるで現今の日本の医療従事者の家族へのいじめのようではないか。こうした、必死に戦う者への差別的な言動は普遍的に見られるもののはずである。なぜなら世界中のゾンビ映画に共通する文法だからである。クリシェと言えばクリシェであるが、今という時代に見返すといくつも発見がある。

 

ゾンビ発生の原因の一端を主人公ソグが担っていたという設定もなかなか良い。本作は詰まるところ、韓国社会における富裕層と中流層、そして下層社会民の分断を遠回しに批判しているのだ。マネーゲームに興じられるような強者の横暴が、巡り巡って大多数の庶民に多大な迷惑と被害を与えているのだぞ、というのが本作の脚本家と監督のメッセージである。いやはや、これはかなりの傑作である。

 

ネガティブ・サイド

走るゾンビは世界的にもだんだんと描かれるようになってきているが、本作でも健在。だが、上空のヘリコプターから落ちてきたゾンビやどう見ても脚や背骨が損傷しているだろうゾンビまでもが走りまくるのはいかがなものか。腕が異様な方向に曲がったまま走るゾンビは面白かったので、もっと足を引きずるゾンビ、高速で這うゾンビなど、走る以外の方法で迫りくるゾンビも見たかった。これは贅沢か。

 

途中、コン・ユ、マ・ドンソク、チェ・ウシクでパーティーを組むところで何故か上着を抜き出す男たち。いや、皮膚の露出は抑えろ。それに、携帯を使ってのトラップはなかなか良かった。であるならば、各車両に残された荷物を漁って、もっと使えそうなアイテムを探すべきではないか。女性もののカバンにはかなりの確率でスマホが入っているだろうし、旅行客の荷物ならタオル類などもあるだろう。力業以外の知恵の部分がもう少し見たかった。

 

ラストはかなり評価が分かれるところだろう。『 殺人の追憶 』や『 母なる証明 』のように、「え?」と思わせるエンディングの方が結果的によりドラマチックに、よりシネマティックになったのではないだろうか。

 

総評

本邦でも『 カメラを止めるな! 』や『 アイアムヒーロー 』、『 屍人荘の殺人 』など、近年でもゾンビ映画は制作され続けている。おそらくゾンビ映画もしくは未知のウィルス系の作品はメジャーやインディーを問わず今後も世界的な需要があるだろう。そこで日本はどんな作品を世に問うことができるか。本作は邦画が乗り越えるべき一つのハードルを示していると言える。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

クロニカ

「だから」の意味。「パパは自部勝手だ。だからママも逃げたんだよ」というセリフがあったが、話の文脈がはっきりしていると、どんな言葉もインプットしやすい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, コン・ユ, シム・ウンギョン, スリラー, チェ・ウシク, チョン・ユミ, パニック, マ・ドンソク, 監督:ヨン・サンホ, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』 -韓国産ゾンビ映画の傑作-

『 バハールの涙 』 -女、命、自由の時代を求めて-

Posted on 2020年3月14日 by cool-jupiter

バハールの涙 70点
2020年3月11日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ゴルシフテ・ファラハニ エマニュエル・ベルコ
監督:エバ・ユッソン

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『 パターソン 』でパターソンの愛妻ローラを演じたゴルシフテ・ファラハニの主演映画。英語、フランス語、ペルシャ語にクルド語まで解すとは、いったいどんな才媛なのだ。本作では一転、武器を取り、女性部隊を率いる勇猛な女性役。日本からこういう女優が出てこないのは何故なのだ?

 

あらすじ

バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)はある日、ISの襲撃を受け、夫は殺され、息子は連れ去られ、自らと妹も拉致され、凌辱された。なんとか脱出したバハールは、女性部隊「太陽の女たち」を結成する。彼女たちを取材するジャーナリストのマチルド(エマニュエル・ベルコ)も、徐々にバハールの信頼を得ていく・・・

 

ポジティブ・サイド

ゴルシフテ・ファラハニの憂いを帯びた表情が何とも言えず良い。閉ざされ冷え切った心の奥底には、しかし、マグマが煮えたぎっている。そんな相反するような属性を併せ持つキャラクターをしっかりと体現した。バハールという女性は架空の存在のようであるが、その存在感は群を抜いている。小説や映画にありがちな、一見すると小市民だが、実は特殊部隊上がりだったとか、幼少から格闘技や暗殺術を叩き込まれていたといったような、ある意味でお定まりの背景を持っていないことが、逆にリアリティを高めている。平塚らいてうは「元始、女性は太陽だった」という言葉を残した。太陽は光と熱の塊であるが、表面よりも内部の方に圧倒的なエネルギーを蓄えている。植物にその無限のエネルギーを分け与え、我々動物はそのおこぼれに頂戴している。バハールをはじめとした「太陽の女性たち」が歌う「女、命、自由の時代」の歌には、名状しがたい力が溢れている。彼女らの歌う「女 命 自由の時代」というのは、それこそ「男 死 束縛の歴史」が続いてきたことへの痛烈な批判である。これを中東だけの事象であると思い込むことなかれ。ほんの1世紀前の極東の島国は、アジア中に死と破壊をもたらす戦争への道を、男だけの論理の世界で突き進んでいったのである。バハールが常に虚無的な表情で銃を手に持っているのは、それだけ目の前の現実に抑圧されているからに他ならない。我々も妻や母が虚無的な表情になっていないか、少しは気を配ろうではないか。

対照的に、エマニュエル・ベルコ演じるマチルドは、明らかに『 プライベート・ウォー 』のメリー・コルビンだろう。ホムスで逝ったコルビンの意思を受け継ぐかのように、マチルドはホムスの爆撃で片目を失明し、それ以来眼帯を巻いている。そのマチルドも、ジャーナリストとしての報道の使命を果たすことや真実を追求するために記者をしているわけではない。コルビンと同じく、市井の名もなき人々との出会いを羅針盤に、彼女は戦地を取材している。「我々は世界のことを考えすぎている」と養老孟司は喝破したが、本当は生身の人間に思いを馳せるべきなのだ。空爆があったとか、災害があった、疫病が流行したというニュースに触れる時、その地域にリアルタイムで生きる人々を想像する力を育むべきなのだ。彼女が自らを突き動かす行動原理を語る時、我々はバハールとマチルドが同志であることを知る。「女は弱し、されど母は強し」とはよく言ったものである。

 

本作は赤と黒が入り混じった光の使い方が印象的である。人間の内部のドロドロとした感情と、「太陽の女たち」を取り巻く現実のダークさ、不透明さを象徴しているかのようである。どこか『 エイリアン2 』を思わせる光の使い方である。

 

良いところなのかどうかは微妙だが、本作を鑑賞するにあたって、中東情勢やイスラム国の台頭、クルド人の歴史などを詳しく知っている必要はない。バハール、そしてコルビン・・・ではなくマチルドという個人の生き様に注目すべし。

 

ネガティブ・サイド

アクションやヒューマンドラマの演出がやや弱い。ストーリーそのものが充分にドラマチックであるからだろうか。ペルシャ絨毯の上に女性たちがどっかと腰を下ろして、各自銃の手入れに余念のない様子は印象的だった。いかにも非日常、緊急事態である。このような何気ない描写の中に感じる違和感=非常時、異常事態のただ中、というものをもっと使ってほしかったと思う。

 

後は石頭の男性司令官を、もうちょっと柔軟に描けなかっただろうか。あれでは融通さに欠けるただの無能、しかも下手をすればへっぴり腰のオッサンにしかならない。女性・母というもののしたたかさを描くために、男性をことさらアホに描く必要はない。男は元来、アホである。だからこそISを作ったり、そこに参加したりするわけである。

 

総評

一言、良作である。派手なドンパチはないが、それでも戦闘の緊迫感は伝わってくるし、なによりもバハールとコルビンの生き様がこの上なく inspirational である。戦争、紛争のニュースに接する時、我々は「あー、なんかやってるな」ぐらいにしか感じないが、それでもそこには生きた人間、死んでいく人間が存在することをこのような映画を通してあらためて知らされた。戦地のスーパーマンではなく、人間として強さの純度を高めた個人の物語であり、非常に現代的な作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You name it.

序盤の英語とフランス語とクルド語が入り混じっている場面で使われていた。意味は「その他にも色々ある」のような漢字である。実際の使い方についてはこの動画を見てもらえるとよく分かるだろう。こういった何気ない表現を会話やスピーチ、プレゼンの中で自然に使えれば英会話の中級者である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, エマニュエル・ベルコ, ゴルシフテ・ファラハニ, ジョージア, スイス, ヒューマンドラマ, フランス, ベルギー, 監督:エバ・ユッソン, 配給会社:コムストック・グループ, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『 バハールの涙 』 -女、命、自由の時代を求めて-

『 PMC ザ・バンカー 』 -無国籍軍のUnsung War-

Posted on 2020年3月4日2020年9月26日 by cool-jupiter

PMC ザ・バンカー 70点
2020年3月1日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:ハ・ジョンウ イ・ソンギュン
監督:キム・ビョンウ

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原題はTake Point、つまり「最前線に行く」である。韓国と北朝鮮を隔てる38度線の地下で繰り広げられる戦闘を描いている。面白いなと思うのは、米朝首脳会談、その先の米大統領選がストーリーの下敷きになっているところ。2018年制作ということは、企画はその数年前だろう。制作者に先見の明があったのかもしれない。

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あらすじ

傭兵エイハブ(ハ・ジョンウ)は仲間と共に38度線地下のバンカーから北朝鮮の要人を拉致、護送する任務をCIAより受ける。だが現場に現れたのは最高指導者、通称キング。それでも作戦は結構され、簡単に成功・・・したかに見えた。しかし、米中の二超大国の政治的思惑に翻弄され、エイハブは一転、キング暗殺犯に仕立て上げられてしまう。唯一の挽回策は敵だらけのバンカーから生きてキングを脱出させることだけ・・・

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ポジティブ・サイド

大阪ステーションシティシネマで見逃した『 神と共に 』の穴埋めとばかりに、ハ・ジョンウ主演の本作を鑑賞したが、何と渋い役者であることか。太々しさの内に優しさを内包しつつ、それでいて容赦のない傭兵のリーダーを見事に体現した。英語も普通に堪能である。というか、日本の役者でここまで出来るのは平岳大ぐらいか?『 決闘の大地で 』のチャン・ドンゴン、『 マグニフィセント・セブン 』のイ・ビョンホンの100倍ぐらい英語のセリフをしゃべっている。1~2年の学習ではないはず。『 リンダ リンダ リンダ 』のぺ・ドゥナや『 新聞記者  』や『 ブルーアワーにぶっ飛ばす 』のシム・ウンギョン、『 焼肉ドラゴン 』のキム・サンホのように、韓国の役者は日本語も流暢に操る。つまりは、韓国エンタメ界は外国志向なのだ。『 パラサイト 半地下の家族 』は、そのトレンドの一つの帰結であった。日本も続かなければならない。

 

Back on track. 英語が飛び交う本作であるが、韓国映画お得意の血と硝煙と土埃のリアリティは本作でも健在である。日本のガン・アクションというと『 Diner ダイナー 』みたいな周回遅れの演出になったりするが、さすがに(今でも厳密な意味では戦時下の)韓国の作る映画である。本作は銃撃戦の激しさに加えて、独特のカメラアングルも冴える。具体的には小さなボール状の移動式スパイカメラ視点の映像。床にへばりついた視点から壁を這う視点、天井の梁の上からの視点など、通常ではありえないアングルからの映像がスリリングだ。

 

主人公の名前がエイハブだというのも面白い。言わずと知れたメルヴィルの『 白鯨 』のキャプテン・エイハブである。グレゴリー・ペックが不気味に手招きするエンディングが印象的だった。Jovianと同世代なら、漫画『 魁!!男塾 』のキャプテン鱏破布を思い出す人もいるかもしれない。軍人が義手や義足、義眼だったりするのは珍しいことではないが、エイハブが義足になった経緯がクライマックスにしっかりと関連してくる演出が心憎い。このラストのアクションシーンは非常にリアルである。空気抵抗が確かにそこにはあった。韓国の空挺部隊所属軍人がアドバイザーにいるのだろうか。

 

『 パラサイト 半地下の家族 』の金持ち父さんを演じたイ・ソンギュンも医師を熱演。インテリ役が似合うが、それだけではない。泥臭さや汗臭さを放つ演技を全く厭わない本格派でもある。エイハブと互いを「韓国人」、「北朝鮮人」と呼び合う様が滑稽であると同時に、同じ言語を話すにもかかわらず分断された民族であることの悲哀をも表している。朝鮮半島が超大国の代理戦争の舞台となったことは『 スウィング・キッズ 』でも描かれていた。そこで戦う傭兵たちがアメリカへの不法移民たちであるという対比がいい。無国籍軍の男たちが、超大国の兵隊相手に必死の抵抗を見せる。そうした姿に自分を重ね合わせてしまう観客も多いのではないだろうか。

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ネガティブ・サイド

エイハブと奥さんのやりとりは正直なところ不要だった。カネにしか興味がないはずの傭兵が、実は誰よりも熱く仲間思いであるという設定だけで充分である。続編はないはずだが、万が一にも制作されれば、悪役はエイハブの家族を人質にする、あるいはターゲットにするはずである。『 エクスペンダブルズ 』のように、チームのメンバーが家族であるという作りで充分である。

 

序盤のもたもたした展開もマイナスである。特にエイハブが序盤で動けなくなるのが痛い。アクション映画なのに、主人公がアクションをしない。もちろん、エイハブはエイハブで奮闘するのだが、我々が見たいのは銃撃戦や格闘なのである。

 

序盤のポリティカルなあれやこれやの説明もくどかった。CIAエージェントのマックとエイハブの対話も、本当なら緊張感あふれるものであるはずだが、このパートもだらだらしたものに映った。序盤の様々な要素を引き締め、無国籍な傭兵たちとエイハブの関係をもう少し深めておけば、エイハブがユン医師を“仲間”と見なすようになる過程により一層のリアリティと説得力が生まれたと思うのだが。

 

総評

韓国映画の真骨頂である激しいアクションは本作でも健在である。同時に時代を先読みしたかのような導入に、大国・隣国に翻弄される近現代史の悲哀を脚本に上手く落とし込んだ作りになっている。セリフの7割ほどが英語であるのも、アメリカ市場、英語圏市場を見据えてのことだろう。邦画もこれに負けてはならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

It’s every man for himself.

「(この状況では)自分の身は自分で守れ」の意である。英語音声の戦争ゲームやWWEのRoyal Rumbleでよく聞こえてくる決まり文句である。おそらく戦争映画でもバンバン使われてきたフレーズであるし、これからもドンドン使われるフレーズのはずである。たしか『 レザボア・ドッグス 』のセリフで聞こえてきた気がする。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, イ・ソンギュン, ハ・ジョンウ, 監督:キム・ビョンウ, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 PMC ザ・バンカー 』 -無国籍軍のUnsung War-

『 KESARI ケサリ 21人の勇者たち 』 -トンデモ史実のトンデモ映像化-

Posted on 2019年12月15日2019年12月19日 by cool-jupiter
『 KESARI ケサリ 21人の勇者たち 』 -トンデモ史実のトンデモ映像化-

KESARI ケサリ 21人の勇者たち 65点
2019年12月14日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アクシャイ・クマール
監督:アヌラーグ・シン

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インド映画を鑑賞する時、たまには頭を空っぽにして『 バーフバリ 』のようなアクションを楽しんでみたいと思う。なので近所のTSUTAYAで本作をピックアウト。真面目に鑑賞してもそれなりに面白く、アクションだけに注目しても、まあまあ面白い作品であった。

 

あらすじ

1897年、英国領インドの北方、パキスタンとアフガニスタンとの国境地帯。イシャル・シン(アクシャイ・クマール)はイスラム教徒パシュトゥーン人の女性への蛮行を見逃せず、命令違反を犯してその女性を救う。そのため僻地の通信基地、サラガリ砦に左遷されてしまう。そこには通信兵21名と調理人1名のみが配属されていた。一方で、パシュトゥーン人は他部族と連合を組み、1万人規模でのインド侵攻を目論んでいて・・・

 

ポジティブ・サイド

21対10,000という荒唐無稽な史実の戦闘に目をつけたのは面白い。日本で言うならば桶狭間の戦いや立花道雪vs島津および北九州豪族連合軍、それらよりもさらに酷い数的不利での戦いである。つまり結末は見えている。後はどう料理するかである。その意味では、いくらでもドラマチックな演出を施すことができる。本作はボリウッドらしく、荒唐無稽なバトルアクションを練り上げた。

 

まず、砦に立てこもる。当たり前である。そして手当たり次第に迫り来る敵を撃つ。戦略も戦術も作戦も、この規模の数的不利では意味を成さない。撃って撃って撃ちまくるしかない。下手に小賢しい作戦を用いない分、シク教徒の矜持が素直に表れていて分かりやすい。パシュトゥーン人も、作戦らしい作戦もなく烏合の衆が、バタバタと倒れていく。アホである。痛快である。まるで『 スター・ウォーズ 』世界のトルーパーの如しである。それでも彼我の戦力差はいかんともしがたく、ついに門扉は破られる。

 

あの時代、あの地域では近接戦闘では銃器を使わないという暗黙のルールがあるのか、ここからは手持ちの獲物でのバトル・シークエンスに突入する。ここでのアクシャイ・クマール演じるイシャル・シンのアクションは、『 マトリックス 』的であり、ゲームの『 三国無双 』や『 戦国無双 』的であり、韓国映画的でもある。特に高くジャンプしてからの回転切りは韓国ドラマや韓国映画で何千何万回と見たアクションである。これについては、 

1.韓国映画がインド映画を真似ている
2.インド映画が韓国映画を真似ている
3.コレオグラファーが共通の学びの土台を持っている
4.偶然の一致である

などが考えられる。インド人の一番の留学先はやはり英国らしいが、韓国人はソウル大学以外のどこで映画や演劇を学ぶのだろうか。それともソウル大学の教授陣が英国などで学んだ背景があるのだろうか。本作を観ながら、そのような比較文化論も考えてしまった。つまりは、日本のゲームや韓国映画的なデタラメなパワーを、インド映画もやはり持っているということである。『 散り椿 』や『 居眠り磐音 』のような、正統的な剣術も悪くないが、『るろうに剣心 京都大火編 』の左之助vs安慈のようなクレイジーなバトルを邦画でもっと見てみたい。そんなふうにも思わされた。

 

イシャルの人間造形も良い。自らの信念を軍の規律よりも優先し、良き家庭人であり、良き地域人であり、厳しい上官であり、部下への思いやりも持ち合わせている。砦では仏頂面を通しているが、ユーモアを解する心もある。そして敵と味方を人道的に区別できる。つまりはヒーローなのである。これが『 パッドマン 5億人の女性を救った男 』その人である。このような男になってみたい。

 

少人数で拠点に立てこもるというと、本能寺の変の際の二条城が思い出される。掘りもあって、武家御城とも称され、武器弾薬もたんまりあったであろう二条城に500人が籠城したにもかかわらず、明智勢1万数千の前に一時間で陥落させられたという史実(?)のシミュレーションを本作を通じて行ってみるのも面白いかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

中盤から終盤にかけてのバトルシーンに比して、序盤のイシャルとパシュトゥーン人との闘いは迫力を欠いていた。冒頭の非常に説明的なナレーションと図示的な映像から、さらにインド、ロシア、英連邦なども絡んでの国際情勢と国境の云々を語って、いきなり観る側の眠気を誘うのだから、それを吹っ飛ばすだけの迫力を伴ったアクションが欲しかった。正直なところ、この冒頭のバトルでは近接での殴り合いやチャンバラにスピードやパワーが不足していた。

 

終盤のバトルでも、いくつか不自然な編集が目に付いた。最も残念だったのは背中から出血しているイシャルの格闘シーン。衣服にまだ赤い血がへばりついているショットと、土ぼこりや泥と混じり合った血が完全に乾いているショットが混在していた。デパルマ・タッチやブレット・タイムで撮影しているものだから、余計にそうしたおかしな点が目立つ。これは非常に大きな減点材料である。

 

イシャルは倒れた敵兵は敵兵ではないという慈悲の哲学に忠実であり、ジュネーブ条約の定める傷病者取り扱いの体現者でもある。その一方で、捕虜の取り扱いに関して信じられないほど非人道的な行為も行っている。これは史実なのだろうか。それとも映画オリジナルの演出なのだろうか。いずれにしろ、Jovianはこれを見て『 ハクソー・リッジ 』のデズモンドと日本兵を思い起こした。いくら戦争とはいえ、やってはいけないこともあるはずだ。これによってイシャルのヒロイズムがいくぶん弱められている。

 

21人の兵士が勲章を贈られ、顕彰されたのは当然であるが、サラガリの戦いの英語版のWikipedia記事によると、one civilian employeeがいたということである。これが料理長かどうかの記述はなかったが、デズモンド・ドス的な活躍を見せた彼にも、エンドクレジットで何らかの言及が欲しかった。

 

総評

インドという国の中だけでも複数の民族、複数の言語、複数の宗教が混在しているのに、そこに更に植民地と属国の関係と他国の他部族、他宗教勢力、さらに国境線も絡めたストーリーというのは、極東の島国の我々にはもはり理解不能である。史実や国際政治、紛争史を学ぼうなどという心構えは一切不要である。単純にボリウッドアクションを楽しむか、という気持ちで鑑賞するのが正しい態度である。これは英雄譚であって、ドキュメンタリー的な何かを期待してはいけない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話

Cock-a-doodle-doo.

鶏の鳴き声、コケッコッコーの英語である。ここからcookという動詞を聴きとるのは、確かに難しいことではない。Cookという動詞とバトルに無理やり関連を見出すなら、俳優のドウェイン・“ザ・ロック”・ジョンソンのWWE(WWFと言うべきか)の“If you smell what the Rock is cooking!”を知っていれば、アメリカのオールドプロレスファンと話す時に盛り上がれるかもしれない。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アクシャイ・クマール, アクション, インド, 歴史, 監督:アヌラーグ・シン, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『 KESARI ケサリ 21人の勇者たち 』 -トンデモ史実のトンデモ映像化-

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