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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: サスペンス

『 目撃者 』 -韓流サスペンスの常道-

Posted on 2021年11月1日 by cool-jupiter

目撃者 65点
2021年10月29日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:イ・ソンミン キム・サンホ クァク・シヤン
監督:チョ・ギュジャン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211101010128j:plain

『 ビースト 』のイ・ソンミンの迫力に気圧されてしまい、もう一度彼を見てみたいと思い、近所のTSUTAYAでレンタル。終盤のプロットに納得がいかないものの、韓国人俳優たちの演技力の高さ、映画人の問題意識の高さが垣間見える一本であった。

 

あらすじ

妻と娘と共に新居のマンションへと移り住んだサラリーマンのサンフン(イ・ソンミン)は、ある夜泥酔した帰宅した。深夜2時、女性の助けを求める声を聴いたサンフンはベランダから殺人現場を目撃してしまう。そして殺人鬼は上を見上げ、サンフンの部屋に明かりがついていることを確認して・・・

 

ポジティブ・サイド

まず大前提として、日本の警察と韓国の警察は違うのだ、ということを認識しておく必要がある。いや、市民の警察に対する信頼度の違いと言うべきか。普通の感覚なら「さっさと110番通報しろ」ということになるが、韓国映画における警察とは無能の象徴である。まったく頼りにならない。そのことが分かっているかどうかで、本作の感想は大きく異なる。本項は、韓国警察=無能という前提に立てる人向けのレビューとなる。

 

まず冒頭のサンフンの仕事っぷりからして小市民である。保険会社の調査員であるが、すべてが事なかれ主義である。こうした姿に「何だこいつは!」と義憤を募らせるか、「ああ、俺も実はこんな風に仕事してるわ」と思えるかで、またもや本作のイメージはがらりと変わる。もちろん、本項は後者向けのレビューである。

 

殺人の現場を目撃してしまう。そして、自分がそれを目撃したということを相手にも知られてしまう。それによって次なるターゲットが自分になってしまう。それは恐怖である。しかし、もっと恐ろしいのは、殺人鬼のターゲットが自分の家族にまで及ぶことだ。本当ならサンフンは妻に告げるべきなのだが、そのこと自体が妻に恐怖を与えるし、また妻がそれによって用心した行動を取っていることが殺人鬼にばれてしまえば、妻や娘に対する危険度が逆に上がってしまう。ここまでのサンフンの苦悩が言葉ではなく、表情と動き、ちょっとした仕草で伝えられる。素晴らしい演技力であり、演出である。そそっかしい人なら、「なにやってんだ、このオッサン」と感じるかもしれないが、本項は visual storytelling を解する人向けである。

 

殺人鬼が神出鬼没で、犯行の動機も何もかもが不明。サンフン以外の目撃者を始末していく。またサンフンとその家族に対してもその毒牙を向けようと動いていく。そこで『 焼肉ドラゴン 』のキム・サンホが人情味あふれる刑事として事件を捜査していく。警察=無能という図式は維持しつつ、そうした組織で奮闘する個人は別。こうしたキャラに感情移入できる中年男性は多いのではないか。この刑事の機転の利いた捜査方法から事態が思わぬ方向へ発展し、無理なくアクションシーンを挿入することにも成功している。この脚本家はなかなかの手練れである。

 

『 殺人鬼から逃げる夜 』ほどではないが、本作も走る走る。また、『 ほえる犬は噛まない 』や『 はちどり 』と同じく、巨大集合住宅における人間関係の希薄化を浮き彫りにした作品である。本作と相性が良いと感じた人はぜひ鑑賞されたし。

 

ネガティブ・サイド

 

以下、ネタバレあり

 

やはり最後の最後に、サンフンが直接殺人鬼と「ケリをつける」という展開は無理がある。殺人鬼を追撃するというのは『 チェイサー 』的だが、あちらは元刑事、こちらは保険会社員。バックグラウンドが違いすぎる。散々追いかけてきた相手を積極的に追うのではなく、もっと不自然さを感じさせない方法でサンフンと殺人鬼を対峙させるプロットはなかったか。

 

マンションの自治会会長的な女性の最後の言葉もおかしい。サンフン一家が売り払って引っ越ししていくマンションを「4億ウォン以下で売らないで」と言ってくる。マンション相場の維持に躍起なのだろうが、目と鼻の先で大規模土砂災害が起きてしまうマンションが、価格を維持できるわけがない。長期的には分からないが、少なくとも短期的な値崩れはどうしようもないし、それをサンフンに転嫁しようとするこのオバちゃんの言動は不可解の一語に尽きる。

 

総評

実に韓国らしい映画。謎の殺人鬼。小市民の主人公。役立たずの警察。それでいてサスペンスは抜群で、社会的なメッセージもズバリと発してくる。Jovianもマンション住まいだが、本作の最後のシーンにはゾクリとさせられた。韓国のみならず、世界の多くの都市部に共通する人間関係の希薄化の怖さの一面を感じさせられた。イ・ソンミンのカメレオン俳優っぷりを堪能されたい向きはぜひ鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

witness

「目撃者」という名詞、「目撃する」という動詞、どちらにも使える。英検1級を目指す人なら、bear withness to ~ という成句を覚えておきたい。「~を証言する」「~証明する」という意味である。Many trophies bear witness to his achievements. = 多くのトロフィーが彼の実績を証明している、のように使う。 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, イ・ソンミン, キム・サンホ, クァク・シヤン, サスペンス, 監督:チョ・ギュジャン, 配給会社:ギャガ, 韓国Leave a Comment on 『 目撃者 』 -韓流サスペンスの常道-

『 コンテイジョン 』 -コロナ”後”への警鐘-

Posted on 2021年10月31日 by cool-jupiter

コンテイジョン 75点
2021年10月28日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:マリオン・コティヤール ローレンス・フィッシュバーン マット・デイモン ジュード・ロウ
監督:スティーブン・ソダーバーグ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211031223409j:plain

コロナは収まりつつあるとはいえ、第六波の到来も予測されている。実際に、世界では全然収まっていない。そんな時は『 アウトブレイク 』の時と同様に、ウィルス感染テーマの作品を鑑賞して、少し未来を想像してみる。

 

あらすじ

ミッチ・エムホフ(マット・デイモン)は、出張帰りの妻ベスが急激な体調不良になったことから病院に急行。しかし、ベスは死亡した。未知のウィルスによるものだった。そのウィルスは世界各地に拡散、パンデミックとなる。アメリカCDCのチーヴァー(ローレンス・フィッシュバーン)はウィルスの正体を突き止め、感染拡大を防止しようと奮闘するが・・・

 

ポジティブ・サイド

始まりから終わりまで、全てが淡々とした空気で進んでいく。突出したヒーロー然とした人物がおらず、それがリアルさを増している。世界各地で静かに、しかし確実にウィルスが勢力を拡大していく様も淡々と映し出される一方で、現場の右往左往、そしてその奥のWHOやCDC内部の人間の奮闘が描かれている。このCDCやWHOが現実世界でいまいち働いているように見えないのがポイント。実際は悩み苦しむ人間が多くいることが描かれている。本作のウィルスは虚構だが、そこに現実の豚インフルエンザを絡めてくることでリアリティが増している。2009年、日本でも薬局やコンビニからマスクが消えたことを覚えている人は多いだろうし、それこそ2020年春のマスク争奪戦の記憶は誰しもの脳裏に焼き付いていることだろう。そうした記憶を下敷きに本作を見れば、人間はなかなか教訓を学ばないものなのだなと思わされる。

 

ウィルスの起源をリサーチする役割のケイト・ウィンスレットがさっそくウィルス感染し、死亡する。この無情さがいい。日本でもコロナの深刻さ(それを疑問視する向きも多数いるが)が認識されたのは、志村けん死亡のニュースからであったと思う。ウィルスは相手に忖度などしない。一方で、最初から抗体を持っている、あるいは免疫の強さによって影響を受けない者もいるという設定も、SFではお馴染み(『 アンドロメダ病原体 』など)ながら説得力がある。

 

マット・デイモンやローレンス・フィッシュバーン、ケイト・ウィンスレット、グウィネス・パルトロウなどの名のあるスターを起用しながら、誰かが飛び抜けた活躍をするわけでもなく、誰かがとんでもない事件を起こすわけでもない。人間のちょっとした弱さがその人間を悪事に走らせる展開があるが、それもまた自然な展開に思える。

 

パンデミックが進行し、人々が自主的にロックダウンを実施した時に何が起こるのかを、まるでドキュメンタリー作品のようなタッチで映し出していく。ミッチの娘がボーイフレンドとテクストする中で、ステイホーム生活を jail = 牢屋 と表現していたが、これは若者には本当にそのように感じられるのだ。たまたまJovianは大学の教壇に立たせていただいているが、20歳前後の若者にとっての青春の時期というのは、空虚で低生産な時間を過ごすことに定評のある日本のオッサンの日常とは大いに異なるのである。 

 

ジュード・ロウ演じるブロガーが怪しげな情報をふりまいて支持を得るというのも、コロナ、およびコロナに対するワクチンに対するネガキャンでしこたま儲けたという医療従事者や評論家連中の登場を正確に予見していたものとして評価できる。というか、どんな苦難の状況にあっても、それを鉄火場にできる人間は必ず出てくるということか。

 

最後の終幕も苦い余韻がある。結局は人類が自然破壊を推し進めてしまったことがパンデミックをもたらした。現実の新型コロナの起源についても、「突き止めた!」、「発表する!」とトランプ政権時代のアメリカはやたらとかまびすかしかったが、全て大山鳴動ねずみ一匹。真相は案外本作の示す通りなのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

映画なので、ある程度ご都合主義にならざるを得ないのだろうが、現在の我々の目から見てかなり不自然に映る描写がある。最も気になったのはケイト・ウィンスレットのキャラクター。Jovianは看護学校中退の経歴があるので言わせてもらうが、マキシマム・プリコーションどころかスタンダード・プリコーションすら施さずに調査にあたるのは杜撰を通り越して無能ではないだろうか。もちろん、感染してもらわないといけないキャラが防御が万全では話が進まないが、もうちょっとここに説得力が必要だった。

 

また、ジュード・ロウのキャラにR-0、いわゆる基本再生産数について議論を吹っ掛けられたチーヴァーが言葉に詰まってしまうのも不自然だった。SARSや2009年の新型インフル騒動でも、いわゆるスーパー・スプレッダーの存在は報じられていた。R-0が2というのは、単純に2のべき乗で感染者数が増えていくわけではない、クラスター(これについても言及されていた)を潰していくことが最善の対処である、というような旨の反論ができたはずなのだが・

 

総評

コロナ・パンデミックの始まりから猖獗までを見てきた現代人にとって、非常に示唆に富む内容になっている。映画製作者たちの取材力と考察力に裏打ちされた想像力と創造力は大したものだなと心から感心する。第6波、さらにその先(コロナは相撲で言うと関脇とされており、大関や横綱は今後100年でやって来るとされる)に、我々がどう振る舞うべきで、またどう振る舞うべきではないのかについてのヒントが満載である。パンデミックなど社会の擾乱を奇貨とする輩をフォローしないという教訓だけでも学ぶべきだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

be immune to ~

~に免疫がある、の意。普通は医学的な文脈で使われるが、卓球の水谷のように、”I’m immune to criticisim.”のように言ってもいい。「批判の言葉をいくら投げつけてきても、俺には全く効かないぜ」ということである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, SF, アメリカ, サスペンス, マット・デイモン, マリオン・コティヤール, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 コンテイジョン 』 -コロナ”後”への警鐘-

『 ビースト 』 -韓国ノワール健在-

Posted on 2021年10月23日 by cool-jupiter

ビースト 75点
2021年10月23日 心斎橋シネマートにて鑑賞
出演:イ・ソンミン ユ・ジェミョン
監督:イ・ジョンホ

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なんとか妻を説得し、やっと心斎橋への出陣許可を得た。ならばと評価の高い韓国ノワールをチョイス。実に見ごたえのあるサスペンスであった。

 

あらすじ

殺人課の刑事ハンス(イ・ソンミン)とミンテ(ユ・ジェミョン)は、課長への昇任をめぐって競い合っていた。そんな中、インチョンで女子高生の猟奇殺人事件が発生。ハンスは容疑者の男を逮捕し、自白させる。しかし、ミンテはその容疑者が犯人ではないとの確証から男を釈放し、・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211023230213j:plain

ポジティブ・サイド

韓国映画における警察 = 無能、というのは全世界の共通認識だが、本作ではその警察官同士の争いが見どころになっている。と言っても、単にどちらが先に事件を解決するかを競うだけではない。どちらがどれだけ汚い手、常道ではない手段で事件を解決するかの競い合いにもなっている。

 

女子高生の猟奇殺人事件を追う中で、だんだんと物事の意外な側面が見えてくる。誰もが心の中に獣を飼っていて、それが表に出てくるのかもしれない、という女警察官の一言が強烈である。情報屋を飼っていて、場合によってはその情報屋のためにチンピラをボコボコにしたりすることもあるハンスと、手続きを公正に踏んでいくことで、結果として大失態につながってしまうミンテ。この二人の演技合戦で物語は終始進んでいく。

 

『 ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 』の悪徳警察署長の印象が強いユ・ジェミョンが本作でも強烈な存在感を発揮。ルックスで言えば決して二枚目とは言えない俳優だが、ソン・ガンホを初めとして、韓国映画ではこうした土着性の非常に強い顔の俳優が活躍する。殺人課の刑事として腕利きではあるものの、訳アリな男を見事に演じている。

 

対するハンスを演じるイ・ソンミンは初めて見たが、演技力凄すぎ。チームのメンバーから信頼を集める班長の顔と、家庭破綻者の顔、そしてミンテ同様に腕利きでありながら、訳アリな男を怪演した。冒頭から刺青の男を殴って殴って殴りまくるように、腕っぷしもある。相手のわずかな心の隙を突く狡猾な話術もある。終盤に見せる鬼気迫る表情と咆哮は、まさにタイトル通りの獣。『 殺人鬼から逃げる夜 』のウィ・ハジュンにも感じたことだが、よくこれだけ表情を変えられるなと感心を通り越して、怖気をふるってしまう。凄い役者である。

 

全編にわたって血生臭さが漂っており、実際にかなりのグロ描写や暴力描写もある。また、直接的な視覚情報が与えられるわけではないが、音声だけでもかなり精神的にキツイ場面もある。『 悪魔を見た 』のチェ・ミンシクの逃亡先のコテージの男と同じ役者と思しきキャラが本作に登場しており、「そら、こんな奴見たら誰でも犯人と思うやろ」と感じさせられてしまう。クライマックスの凄絶さは、まさにビースト。人間が人間でいられるのは、相手のことも人間であると確信できるから。目の前にいる相手が悪魔なら、自分も悪魔になるしかない。または獣になるしかない。

 

かつてはパートナーだった二人が、いつしか互いに反目するようなってしまう・・・だけなら凡百のバディ・ムービーだが、これは韓国映画。人間の心のダークサイドを極限まで追究しようとする姿勢には、もはや敬意を表すしかない。サスペンスやスリラーというジャンルでは、日本は韓国にはもう勝てない。

 

ネガティブ・サイド

麻薬捜査班から移籍してきた女性警察官が、最初と最後しか出番がなかった。もっとこの新入りを効果的に使って、ハンスとミンテがなぜ反目しあうようになってしまったのかを語らせてほしかった。

 

広域捜査隊と途中で捜査がかぶってしまうが、こんなことは実際にはあるのだろうか。このような展開が実際に起きてしまえば、それすなわち警察上層部の大失敗であるように思う。ここはちょっとリアリティが足りないように感じた。

 

総評

『 暗数殺人 』や『 殺人鬼から逃げる夜 』同様に、観終わってからドッと疲れるタイプの映画である。決して心地よい疲れではない。観た後になにがしかの澱のようなものが胸の中に残り続ける。そんな感覚を与える作品である。主演のおっさん2人の演技のレベルが高すぎて、それだけで2時間超のストーリーをピーンと張りつめた糸のように持たせている。デートムービーにはならないし、夫婦で観るのもキツイ。案外、サラリーマンが一人で鑑賞するのに向いているかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

シバ

韓国英語を観ていると必ず一回は聞こえてくる気がするスラング。意味は「クソ」である。使い方は日本語のクソと同じ。悪態をつきたいときに口に出せばいい。また、そこまで酷いシチュエーションでなくとも「あー、暑いな、クソ。」のような軽い文脈でも使える。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, イ・ソンミン, サスペンス, ユ・ジェミョン, 監督:イ・ジョンホ, 配給会社:キノシネマ, 韓国Leave a Comment on 『 ビースト 』 -韓国ノワール健在-

『 殺人鬼から逃げる夜 』 -韓流スリラーの秀作-

Posted on 2021年10月16日 by cool-jupiter

殺人鬼から逃げる夜 75点
2021年10月14日 TOHOシネマズなんばにて鑑賞
出演:チン・ギジュ ウィ・ハジュン パク・フン キル・ヘヨン
監督:クォン・オスン

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TOHOシネマズ梅田では都合がつかないので、難波まで足を伸ばす。その甲斐があった。これまた韓流スリラーの秀作である。

 

あらすじ

聴覚障がい者のギョンミ(チン・ギジュ)は、ある夜、路地裏からハイヒールを投げて、か細い声で助けを求める女性に遭遇する。その女性を助けようとしたギョンミは殺人鬼(ウィ・ハジュン)に追われることになる。果たしてギョンミは逃げ切ることができるのか・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211016093450j:plain

ポジティブ・サイド

冒頭からただならぬ雰囲気が漂っている。暗い路地。一人で歩く女性。親切そうに声をかけてくる男。テンプレ通りであるが、男がサイコな殺人鬼に変貌する様がとにかく恐ろしい。まるで『 羊たちの沈黙 』と『 悪魔を見た 』のオープニング・シークエンスを足したかのうようである。そして実際そうなのだろう。全編にわたって「面白い」という評価が定まった映画のパッチワークであるように見える。見えるのだが、それがパクリではなくオマージュでもなく、一つの様式美にまで高まっている感すらある。

 

殺人鬼役のウィ・ハジュンはJovian嫁をして「こらイケメンやわ」と言わしめる handsome guy だが、普通に頭のおかしいサイコパス殺人狂。表情の変わりっぷりが常人のそれではない。チェ・ミンシクの弟子だとしか思えない。単なるイケメンで役を得ているのではない。確かな演技力があってこその配役だと実感できる。私見では『 孤狼の血 LEVEL2 』の鈴木亮平の恐ろしさの方が上であるが、ウィ・ハジュンは役者としてのキャリアはまだまだ短いし浅い。それでこれだけのパフォーマンスを見せるのだから、よほど監督の演出が凄かったのか、あるいは鈴木のように役に向き合う時間があったのだろう。

 

ただし主役はギョンミ。こちらも凄い。聴覚障がい者という点で『 ただ君だけ 』のジョンファと重なるが、障がい者=清く正しく弱く、だからこそ美しいなどという描き方は真っ向から拒否している。悪態をつきまくる手話の顧客相手に折れることなく、勤め先の会社の大口取引先の接待で、ギョンミの耳が聞こえないのをいいことに好き勝手言いまくる野郎ども相手にも次々に手話でののしり言葉を浴びせていく。簡単に諦めたり、屈服したりするキャラではないことを、言葉を使わずして雄弁に語っている。ところどころで無音となるシーンを挿入するのは『 クワイエット・プレイス 破られた沈黙 』でもあった演出だが、これによりすぐそこにいるはずの殺人鬼に観る側は気付いているのに、ギョンミが気付いてくれないというもどかしさが、最高級のサスペンスを生み出している。特にギョンミの家に侵入するシーンの恐怖とサスペンスよ。ここでは『 シャイニング 』の有名なシーンへのオマージュが観られるので期待されたし。

 

頭のおかしさは折り紙付きのこの殺人鬼、なんと善良な一般人のふりをして警察署にまでついてきて、ギョンミとその母を執拗に付け回す。そこにギョンミが目撃した怪我をした女性の兄にして元海兵隊員のジョンタクもやってきて役者がそろう。ここからギョンミが、同じく聴覚障がい者である母と共に恐怖の殺人鬼から逃げまくるのだが、これがまた緊迫感満点。『 チェイサー 』のハ・ジョンウとキム・ユンソク並みに走って走って走りまくる。入り組んだ路地。人気の少ない街はずれ。そこを三者が縦横無尽に走りまくるのだが、冒頭のシーンと同じく、クォン・オスン監督はアクションだけではなく、街のそこかしこに存在する漆黒の闇をねっとりと画面に映し出していく。ポン・ジュノ監督の『 母なる証明 』の事件現場を彷彿させてくれる。この街の闇=人間の心の闇で、これが殺人鬼のものだけではなく、広く現代人が持ってしまっているものだということを終盤の展開で見せつけてくる。人気のない街区でも、光と人にあふれる繁華街でも、ギョンミは社会的には徹底的に弱者であるということを見せつけられてしまう。ここでチン・ギジュが見せる演技は圧倒的である。必死の訴えをワンカットで演じ切るという渾身の演技。テレビドラマ畑出身のようだが、もっと映画にも出てほしいもの。

 

殺人鬼の名前だとか動機だとか、そんなものはどうでもいい。逃げる女性。追う殺人鬼。それを追う被害者の兄。こんな単純なプロットで2時間弱の間、緊張感をまったく途切れさせることなく、それでいて社会的なメッセージまで盛り込んだ作品である。観ない手はない。空いている劇場の空いている時間帯を見計らってチケットを購入されたし。

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ネガティブ・サイド

韓国映画における警察の無能さは全世界の知るところであるが、さすがに事件の目撃者かつ被害者と思しき女性の兄を名乗る者がいれば身分証やら何やら身元確認をするだろう。また別の男と乱闘になって流血沙汰になっているのだから、調書は取るだろう。さすがに現実の韓国警察もそこまで無能ではないはずだ。

 

終盤近くにジョンタクが取る行動もおかしい。いや、取る行動というか、取らなかった行動と言うべきか。携帯を持っているなら、それでしかるべきところに通報せよ。その上で走れ。警察につながって信じてもらえなくても、それはそれで韓国警察の無能さがまた一つ浮き彫りになるだけ。ここだけはもっと常識的な行動をしてほしかった。

 

総評

これが長編デビュー作とは信じられない。が、韓国では『 国家が破産する日 』や『 藁にもすがる獣たち 』のような逸品を長編や商業作品を手がけるのは初めてという監督が作ってしまうので、本作のクオリティにも驚いてはいけないのかもしれない。『 ブラインド 』が『 見えない目撃者 』としてリメイクされたように、本作も日本でリメイクしてほしい。監督は森淳一、脚本は藤井清美で。そう感じさせてくれる、圧巻の出来栄えである。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

シバラマ

『 哭声 コクソン 』でも紹介した表現。韓国語で言うところの”F*** you”である。使ってはいけない韓国語であるが、どういうわけか韓国映画では頻繁に使われている。邦画界も上品な言葉遣いだけではなく、卑罵語をバンバン使った映画を作ってほしい。だからといって、北野武映画のような「てめえ、この野郎、バカヤロー」連発も困りものだが。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, ウィ・ハジュン, キル・ヘヨン, サスペンス, スリラー, チン・ギジュ, パク・フン, 監督:クォン・オスン, 配給会社:ギャガ, 韓国Leave a Comment on 『 殺人鬼から逃げる夜 』 -韓流スリラーの秀作-

『 メインストリーム 』 -その「いいね」は誰のもの?-

Posted on 2021年10月10日 by cool-jupiter

メインストリーム 60点
2021年10月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アンドリュー・ガーフィールド ホーク・マヤ ナット・ウルフ
監督:ジア・コッポラ

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『 沈黙 サイレンス 』や『 ハクソー・リッジ 』のアンドリュー・ガーフィールドが出演していて、コッポラ御大の孫娘が監督。それだけで観てみようという気になる。というわけで人混みを避けてレイトショーへ。

 

あらすじ

バーテンダーをしながらアート製作を志すフランキー(ホーク・マヤ)は、ある日、リンク(アンドリュー・ガーフィールド)という不思議なメッセージを発する青年と出会う。彼を撮った動画をYouTubeにアップしたところ、普段の自分の動画とは違い、バズることに。ライター志望でバーでの仕事仲間のジェイク(ナット・ウルフ)も誘い、フランキーはリンクと共にYouTube動画を作成し、リンクはノーワン・スペシャルとして人気を博していくが・・・

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ポジティブ・サイド

このフランキーという主人公の女性は、現代の典型的な鬱屈した若者像であり、なおかつジア・コッポラ監督自身の投影でもあるのだろう。映像作家を志す若い女性が「これだ!」という男性素材に出会うという点で『 サマーフィルムにのって 』にそっくりだが、フランキーが目指すのは映画ではなくYouTube動画。YouTube動画を作ることをテーマにした映画という意味で、なかなかメタでシュールな作品である。

 

多くの人間が成功を夢見ながら、諦めたり去って行ったりするのがLAという都市の常。そのことは『 ラ・ラ・ランド 』から良く分かる。また仮に売れたとしても、売れ続けられる保証はない。それも『 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 』で描き出されていた。またLAという娯楽産業には裏の顔があり、裏のシステムがあるということは『 アンダー・ザ・シルバーレイク 』が寓話的に暴き出していた。本作はそうしたLAの固有性を背景にして鑑賞する必要がある。

 

一方で、フランキーがプッシュするリンクは何の代わり映えもしないセレブ系YouTuberだが、とあるインフルエンサーとのコラボ動画がバズったことでYouTuber界隈のプロデューサーと契約することになる。そこからブレイクを果たしたリンクたちだが、その過程で大問題を起こしてしまい・・・というのは、実際にありそうな事柄に思える。ペテン師メンタリストのDaiGoの「生活保護受給者は無視しろ、猫の命の方が大事だ」というメッセージおよびそれが巻き起こした動乱と、本質的には同じ流れが本作でも展開される。

 

このあたりはSNSを盛んにやる人は、自分に置き換えて考えてみても面白いだろう。あるいは最近話題になったYahooからヤフコメ民への「誹謗中傷はやめて」というお願い、あるいは自民党の高市早苗が自身の支持者に対して「総裁選の他候補への誹謗中傷はやめて」というお願いに通じるものがある。それらを受けて当事者らはどう反応したか。自分に関係のない事柄をさも自分のコンテンツであるかのように振る舞い、自分そのものがコンテンツである事柄には、さも無関係であるかのように振る舞ったのである。「高市さんも変な支持者がいて大変ですね」と言っているアカウントが、SNS上でとんでもない毒をばらまいていたりしたわけである。

 

本作でリンクが引き起こす騒動とその顛末の本質は、メインストリームというタイトルそのものに意味が込められているように思う。結局のところ、現代の、特にSNS上には、個人としての意見や主張などは存在しえないのかもしれない。あるのは、以下のメインストリームに迎合するかだけ。作家の八切止夫は「人間関係は一にかかっていかに相手を誤解させるか」と喝破した。合成あるいは編集したセルフィーをアップする。それはメインストリームに対するアピールに他ならない。本作の最後のリンクをアピールを聞いて、どう思うか。どう思ったところで、そのコンテンツを消費してしまったあなたは、もはやメインストリームの一部なのだ。

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ネガティブ・サイド

フランキーの満たされなさ、没個性さの描写が足りない。どんなアートを志向していて、どんな映像芸術をこれまでにYouTubeに公開して、どんな反響を得たのか、あるいは得られなかったのか。そのあたりの描写がわずかしかないため、リンクという素材との出会いのインパクトが弱くなっている。

 

そのリンクの思考や行動の原理の描写も弱い。フランキーとの3度目の出会いで彼女のスマホを奪い「他人から承認してもらうのが望みか」と問いかけるまで、彼の言動には思想がない。あるとすれば「スマホを持たない」ということぐらい。スマホを持たないことでスローライフを謳歌している、あるいは人間関係を非常に充実したもの、ストレスフリーなものにしているのであれば、まだ分かる。実際のところは定職を持たない変な奴である。もっとリンクを謎めいた、それでいて理知的な男には描けなかったか。

 

フランキーとリンクのロマンスにも必然性が感じられない。元々はジェイクと付き合っていたフランキーが、不意にリンクと関係を持ってしまう。その方が3人組の崩壊にもドラマ性が生まれるし、リンクというキャラが見せる落差も大きくなる。また、リンク=ノーワン・スペシャルという一種の怪物がだんだんとコントロールできなくなっていったのは、彼自身に原因があるというよりも、バックヤードでオペレーションをしているフランキーやジェイクの非であるとした方が、SNSと対比されるリアルの人間関係の生々しさがより際立ったと思う。

 

総評

普通に面白い作品。ただ、それはこの作品と鑑賞者の間にどれくらいの距離があるのかによるだろう。スマホやSNSに依存した生活を送っている若者であれば、チンプンカンプンかもしれない。逆に、彼ら彼女らの親ぐらいの世代であれば、本作の放つメッセージを読み取る(≠受け取る)ことは容易なのかもしれない。承認欲求とは、承認されたいという思い以上に、承認されることが可能なシステムへの参入の意志なのだ。10代20代よりも、40代50代が観るべき(少なくとも日本では)作品であるように思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

esteem-needs

「承認欲求」または「承認の欲求」と訳されることが多い。近年の日本で急激に人口に膾炙するようになった言葉だが、それだけ他者からの承認欲求に飢えているのだろう。Jovian自身はこの言葉を看護学校時代にマズロー心理学を学んだ際に知った。現代の承認欲求はヘーゲルやマズローの言う”承認”とはかなり意味がずれてきているように思えてならない。他者と承認の関係について考察を深めたいという向きには、Jovianの同級生が上梓した『 ヘーゲルの実践哲学構想 』をどうぞ。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, アンドリュー・ガーフィールド, サスペンス, ナット・ウルフ, ホーク・マヤ, 監督:ジア・コッポラ, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 メインストリーム 』 -その「いいね」は誰のもの?-

『 空白 』 -心の空白は埋められるのか-

Posted on 2021年9月30日 by cool-jupiter

空白 75点
2021年9月25日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:古田新太 松坂桃李
監督:吉田恵輔

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邦画が不得意とする人間の心の闇、暴走のようなものを描く作品ということで、期待してチケットを購入。なかなかの作品であると感じた。

 

あらすじ

女子中学生の花音は万引を店長の青柳(松坂桃李)に見つかってしまう。逃げる花音だが、道路に飛び出したところで事故に遭い、死んでしまう。花音が万引きなどするわけがない信じる父・充(古田新太)は、深層を明らかにすべく、青柳を激しく追及していき・・・

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ポジティブ・サイド

何の変哲もない街の何の変哲もない人間たちに、恐るべきドラマが待っていた。トレイラーで散々交通事故のシーンが流れていくが、あれは実は露払い。その後のシーンと、その結果を渾身の演技で説明・描写する古田新太が光る。

 

この物語で特に強く感銘を受けたのは、善人もおらず、さらには悪人もいないところ。いるのは、それぞれに弱さや欠点を抱えた人間。例えば松坂桃李演じる青柳は、父の死に際にパチンコに興じていて、死に瀕していた父に「電話するなら俺じゃなくて119番だろ」的なことを言い放つ。もちろん、心からそう思っているわけではない。しかし、いくらかは本音だろうし、Jovianもそう思う。古田新太演じるモンスター親父の充は、粗野な性格が災いして、妻には去られ、娘とは没交渉。他にも花音の学校の、人間の弱さや醜さをそのまま体現したような校長や男性教師など、善良な人間というものが見当たらない。それがドラマを非常に生々しくしている。

 

一方、一人だけ異彩を放つ寺島しのぶ演じるスーパーのパートのおばちゃんは、これこそ善意のモンスターで、仕事熱心でボランティア活動にも精を出す。窮地にあるスーパーの危機に、非番の日でもビラ配り。ここまで大げさではなくとも、誰しもこのようなおせっかい好き、世話焼き大好きな人間に出会ったことがあるだろう。そしてこう思ったはずだ、「うざい奴だな」と。まさに『 図書館戦争 』で岡田准一が言う「正論は正しい。しかし正論を武器にするのは正しくない」を地で行くキャラである。寺島しのぶは欠点や弱さを持つ小市民でいっぱいの本作の中で、一人だけで善悪スペクトルの対極を体現し、物語全体のバランスを保っているのはさすがである。

 

本作はメディアの報道についても問題提起をしているところが異色である。ニュースは報じられるだけではなく、作ることもできる。そしてニュースバリューは善良な人間よりも悪人の方が生み出しやすい。『 私は確信する 』や『 ミセス・ノイズィ 』は、メディアがいかに人物像を歪めてしまうのかを描いた作品であるが、本作もそうした社会的なメッセージを放っている。

 

追い詰める充と追い詰められる青柳。二人の関係はどこまでも歪だが、二人が花音の死を悼んでいるということに変わりはない。心に生まれた空白は埋めようにも埋められない。しかし、埋めようと努力することはできる。または埋めるためのピースを探し求めることはできる。それは新しい命かもしれないし、故人の遺品かもしれない。『 スリー・ビルボード 』とまではいかずとも、人は人を赦せるし、人は変わることもできるだと思わせてくれる。間違いなく良作であろう。

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ネガティブ・サイド

花音の死に関わった人物の一人がとんでもないことになるが、その母親の言葉に多大なる違和感を覚えた。謝罪根性とでも言うのだろうか、「悪いのはこちらでございます」的な態度は潔くありながらも、本作の世界観には合わない。小市民だらけの世界に一人だけ聖人君子がいるというのはどうなのか。

 

藤原季節演じるキャラがどうにも中途半端だった。充を腕のいい漁師だが偏屈な職人気質の船乗りで、人付き合いが苦手なタイプであると描きたいのだろうが、これだと人付き合いが苦手というよりも、単なるコミュ障中年である。海では仕事ができる男、狙った獲物は逃がさない頑固一徹タイプの人間だと描写できれば、青柳店長を執拗に追いかける様にも、分かる人にだけ分かる人間味が感じられだろうに。

 

総評

邦画もやればできるじゃないかとという感じである。一方で、トレイラーの作り方に課題を感じた。これから鑑賞される方は、あまり販促物や予告編を観ずに、なるべくまっさらな状態で鑑賞されたし。世の中というものは安易に白と黒に分けられないものだが、善悪や正邪の彼岸にこそ人間らしさがあるのだということを物語る、最近の邦画とは思えない力作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

do the right thing

「正しいことをする」の意。do what is right という表現もよく使われるが、こちらは少々抽象的。親が子に「正しいことをしなさい」とアドバイスするような時には do the right thing と言う。ただし、自分で自分の行いを the right thing だと盲目的に信じるようになっては棄権である。 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ヒューマンドラマ, 古田新太, 日本, 松坂桃李, 監督:吉田恵輔, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:スターサンズLeave a Comment on 『 空白 』 -心の空白は埋められるのか-

『 共謀家族 』 -中国映画の本領発揮-

Posted on 2021年7月27日 by cool-jupiter

共謀家族 75点
2021年7月23日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:シャオ・ヤン タン・ジュオ ジョアン・チェン
監督:サム・クァー

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英語タイトルはSheep without a shepherd、羊飼いなき羊(たち)の意。イエス・キリストを欠いた迷える信者集団の謂いなのだが、本作では単純に父を欠いた家族は無力であるということらしい。

 

あらすじ

中国からタイへの移民であるリー・ウェイジェ(シャオ・ヤン)は小さなネット回線会社を営んでいて、地域にも溶け込んでいた。映画好きで、「映画を1000本見れば、この世に分からないことはない」とも豪語していた。ある日、娘がサマーキャンプで一服盛られ、そのことで脅迫を受ける。脅迫相手を思わぬ形で殺害してしまった娘を守るため、ウェイジェは映画の知識を生かして・・・

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ポジティブ・サイド

オリジナルのインド映画は未鑑賞だが、これを中国でリメイクすることになったのは、中央に対する批判、権威への反抗の意味合いが強かったからだと思われる。ただし、それを中国の都市部でやるとまずい(かつての中国人の教え子によると、中国都市部で「打倒、共産党!」と叫ぶと10分以内に連行されるとのこと)。なので舞台を中国国境に近いタイに持って行ったと思われる。

 

冒頭で鮮やかな推理を披露する警察局長。しかし、推理は的を射ていても、証拠品はでっち上げ。そのことを悪いとも何とも思っていない。なるほど、この人がヴィランなのかとすぐに分かる。なんと『 ラスト・エンペラー 』の皇后様ではないか。母親としての情念から悪魔的なまでの警察局長としての権威を体現している。天海祐希や木村多江でも、こんな演技はできるかどうか。

 

対するウェイジェ役のシャオ・ヤンの存在感も大したもの。パッと見は矢本悠馬と亀田大毅を足して2で割ったような普通のオッサン顔なのだが、そこに家族愛と狡猾さの両方を同居させるという複雑なキャラクター。映画の知識を巧みに援用して、アリバイ工作を行う様は、一見すると何をやっているのか意味不明。しかし、その種明かしがなされてみれば、なるほどと膝を打ってしまった。人間心理の盲点を上手くついたトリックで、北村薫や有栖川有栖が思いつきそう。警察の捜査や取り調べの方法を映画で学んでおり、それに対する対抗策を家族全員に叩き込む様には、日本が忘れて久しい「頼もしい父親像」を見出した。わざとらしいカメラワークや音響、そしてBGMがやたらと自己主張をしてくるが、これらは全て狙ったもの。物語、特にトリック部分の構造と映画の演出が一致しているという憎らしい構成である。

 

1940年代から1960年代ぐらいの日本の横暴警察官を彷彿させるサンクンという警察官のめちゃくちゃぶりが、そのまま中国本土の警察官のイメージを喚起させる。彼の暴れっぷりが逆説的な当局への批判になっているだけではなく、物語の重要な部分を補強してくれているというところもポイントが高い。

 

警察のめちゃくちゃな取り調べとそれに耐えるウェイジェ一家の構図は、決して「中国だから」で済ませてはいけない。共謀罪などという「犯罪を構想しただけ、相談しただけ」で罪になるという法律がまかり通っている現代日本で、いつかどこかで起きるであろう抑圧の絵図であると本作を観ることもできるはずだ。

 

ラストの展開で多少モタモタを感じさせるが、『 ショーシャンクの空に 』へのオマージュのためと考えれば納得できるというもの。

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ネガティブ・サイド

肝腎かなめの長女ピンピンのトラウマ克服過程が一切描かれていない。これは大いに不満である。睡眠薬を使って女を手篭めにするような男は有罪確定である。ぶっ殺したくなるのは当然である。しかし、本当に殺してしまったことで、「こいつは死んで当然」という気持ちと「こんな奴でも殺してしまうのはやりすぎだ」という気持ちの葛藤が一切描かれなかった。これがないと、家族総出で完全犯罪を目論んで、実行していこうとする過程のリアリティが出てこない。

 

父・ウェイジェの cinephile としての描写も甘かった。普段のちょっとした街の人々とのやりとりで色んな名作映画のセリフを引用する(そして、コアな映画ファンは気付くが、町の人は気付かない、など)といった演出が欲しかった。またウェイジェの映画鑑賞数(もちろん配信のみだろうが)1000本以下というのも少々興ざめ。配信だけで1000本観ていたという設定でも良かったはず。

 

総評

一言、面白い。中国映画は今が過渡期なのだろう。韓国と同じく、中国の映画人も今や大卒だらけらしい。看護師歴数十年のJovian母も「専修学校卒の看護師の方が現場ですぐに活躍してくれるが、すぐに成長が頭打ちになる」と言っている。日本の大学も映画学科をもっと作ってほしい。そうしなければ、エンタメ要素と社会的メッセージの両方を併せ持った作品を生み出せるクリエイターを輩出できない。

 

Jovian先生のワンポイントタイ語レッスン

サワディーカップ

タイ語で「こんにちは」の意味。男性が使う。女性の場合は「サワディーカー」となる。あいさつは何か国語で言えてもいい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, シャオ・ヤン, ジョアン・チェン, タン・ジュオ, 中国, 監督:サム・クァー, 配給会社:アーク・フィルムズ, 配給会社:インターフィルムLeave a Comment on 『 共謀家族 』 -中国映画の本領発揮-

『 キャラクター 』 -もっとグロテスクな展開を-

Posted on 2021年7月18日 by cool-jupiter

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キャラクター 65点
2021年7月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:菅田将暉 Fukase 高畑充希 中村獅童 小栗旬
監督:永井聡

 

大学関連業務で鼻血が出そうなので簡潔に。

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あらすじ

漫画アシスタントの山城圭吾(菅田将暉)ある夜、一家殺人事件とその犯人を目撃してしまった。、警察には「犯人の顔は見ていない」と述べたが、圭吾はその殺人犯をインスピレーションに「34」という両機サスペンス漫画を描き、人気を博す。しかし、やがて漫画通りの殺人事件が現実に引き起こされ始めて・・・

 

ポジティブ・サイド

『 罪の声 』の刑事と同じく、小栗旬が良い味を出している。背景がどうであれ、共感力はどんな仕事でも必要。警察官ならなおさらだろう。いつの間にか相手の懐に入っているのは、テクニックではなく思いやりだから。『 ミュージアム 』みたいな刑事よりも、こうした刑事像の方がより小栗旬の味を引き出せるように思う。『 ゴジラvs.コング 』では白目むくだけのキャラだったが、ここで少し挽回した。

 

殺人鬼役のFukaseは歌手とのこと。今作で初めて見たが、第一印象は「棋士の佐藤天彦みらいなやつやな」というもの。演技は素人だが、それが奏功している。こうしたソシオパス兼サイコパスみたいな奴は実は市井のどこにでもいる。エヴァンゲリオンの生みの親である庵野に対して「殺す」という脅迫がなされたり、庵野の殺し方を延々と話し合うスレッドなども存在したのである。なんらかの創造物からインスピレーションを得ることは誰にでもある。問題になるのはその程度が大きすぎた時。役者としての背景がない=どんなキャラにも結び付けられることがない人間をキャスティングしたのは正解だった。

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ネガティブ・サイド

いくら漫画が売れたからといって、一年足らずで億ション(賃貸だろうが)に住めるだろうか。というか、住む気になるだろうか。厳重な警備が欲しいのは分かるが、慶敏もしくは管理人付きの物件に住むべきだろう。

 

漫画通りの殺人事件を起こすというのは着想としては面白いが、山道の一家全員殺害と自動車転落などは、一人では不可能であると思う。

 

山城の編集者が最初は真犯人なのかと思った。犯人がプロット製作段階の情報を知りえているとなれば、その情報をリークした者がいるはずだが、そこは掘り下げられず・・・ 漫画『 推しの子 』で、編集者の仕事=売れる漫画を描かせる&売れた漫画を終わらせないことだと述べられていて、なかなかに狂った商売だなと感じた。その線で考えれば、ヒットメーカーとして言及されていたこの編集者が、山城の創作に狂気や毒を交えていっても良かったのかなと思う。

 

総評

それなり凄惨なシーンがあるが、ほとんど全部事後。なのでゴア描写に極端に弱い人でなければ大丈夫だろう。『 見えない目撃者 』の真犯人が意味不明なお題目の元に殺人を行っていたのと同じく、本作の犯人の背景や動機にも疑問が残る。韓国映画界にリメイクしてほしい。そうすれば、殺しの生々しいシーンを見せつけてくれて、なおかつサイコキラーの心情をリアルに描写してくれるはず。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a family of four

四人家族の意。同じように、a group of fourなら4人のグループになる。『 ザ・ファブル 殺さない殺し屋 』で言及された4人組のバンドなら a band of fourとなる。もちろん、数字の部分は適宜にthreeやfiveに変えても良いし、必ずしも a group や a band のように a である必要もない。仕事柄、Jovianは高校生や大学生に、Make five groups of six. =6人で1グループを5つ作りなさい、などの指示をして、グループワークをさせている。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, Fukase, サスペンス, スリラー, 中村獅童, 小栗旬, 日本, 監督:永井聡, 菅田将暉, 配給会社:東宝, 高畑充希Leave a Comment on 『 キャラクター 』 -もっとグロテスクな展開を-

『 クワイエット・プレイス 破られた沈黙 』 -第3作に続くか-

Posted on 2021年6月27日 by cool-jupiter

クワイエット・プレイス 破られた沈黙 75点
2021年6月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:エミリー・ブラント キリアン・マーフィー ミリセント・シモンズ
監督:ジョン・クラシンスキー

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『 クワイエット・プレイス 』の続編。音を立てると化け物がすっ飛んでくるという設定の妙葩今作でも健在。さらにホラーでありながら、見事なファミリードラマにしてビルドゥングスロマンに仕上がっている。

 

あらすじ

エヴリン(エミリー・ブラント)は生まれたばかりの赤ん坊と娘のリーガン(ミリセント・シモンズ)、息子のマーカスと共に新たな家を求めて旅をしていた。そこで偶然にもかつての友人、エメット(キリアン・マーフィー)と出会う。しかし、彼は「生き残っている人間に救う価値などない」と言ってエヴリンへの助力を断る・・・

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ポジティブ・サイド

すべての根源である Day 1 も適度に謎めいていて良い。超巨大宇宙船の全貌を見せないのは、まだまだ続きがあるという予告のようでもある。またリーガン視点(聴点と言うべきか)で物語が描写されるシーンでは、違う意味でのサスペンスが生まれる。音が一切聞こえなくなるため、死角の出来事に対して無防備になってしまう。「志村、うしろー!」的なアレである。単純だが、この演出は効果的だった。

 

エミリー・ブラントが今作でも戦う母親像を好演。『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』や『 ボーダーライン 』のような戦う女性として輝きを放っていたが、今シリーズではそこに母親属性が加わった。それもPolitically correctな理由で戦っているのではなく、生存のために戦っている。しかし、元々強い女性だから生き残っているのではなく、その強さを夫から受け継いだという設定もいい。

 

前作は『 死の谷間 』のように一つの場所、一つのコミュニティでの物語だったのが、今作では世界が一気に広がった。前作で生まれた赤ん坊がいつ泣き出すか分からないというスリルの元だが、泣き声を予防・防止する方法も現実的。ミリセント・シモンズ演じる長女リーガンと頼りない長男マーカスの壮大なるビルドゥングスロマンになっている点にも感銘を受けた。positive male figureがいなくとも家族は大きく育つようにも見えるが、やはりpositive male figureの存在が必要だ。しかし、安易に新しい男を迎えるのではなく、死んだ夫・父親の精神を受け継いでいくという筋立ては、陳腐ながら、なんと説得力があるのか。

 

二ヵ所で同時進行するクライマックスはまさに手に汗握る鳥肌もののスリルとサスペンス。知恵と勇気で怪物に立ち向かうエミリー・ブラントは美しいの一語に尽きるし、雄々しく立ち上がる長男の姿は感涙もの。単純明快にして非常にpredictableな展開であるにも関わらず、ここまで心が揺さぶられるのは何故か。その仕組みを知りたい人は、前作を鑑賞の上、劇場へ赴かれたし。

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ネガティブ・サイド

序盤のところどころでジャンプ・スケアが使われるのが気に入らない。そういうこざかしい演出は不要である。

 

荒廃した世界で怖いのは生き残った人間、というのは映画に限らず創作物の文法に等しいが、それでも今作の生き残り組のワル達にはリアリティがない。いったいあの方法で何を手に入れたいのか。どうせなら『 新 感染半島 ファイナル・ステージ 』並みに怪物を飼って遊んでいるといったぶっ飛んだ描写が観てみたかった。

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総評

『 ZOOM / 見えない参加者 』という珍品も制作される当世だが、ハウリングがいかに耳障りなものであるかを体感した人も多いことだろう。ビデオ会議が極めて一般的になった今という時代に鑑賞することで、逆にリアリティを増している。「音を立てたら超即死」という極めてドギツイ宣伝文句も、「咳やくしゃみをしたらアウト」という現代に重なるところがあり面白い。三作目も作られそうだ。期待して待ちたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

How do you say ~ ?

「~はどう言う?」という意味。物語の序盤で何気なく出てくるが、実は非常に重要な伏線になっている個所で使われている表現。How do you say otsukaresama? や、How do you say ittekimasu?というのは英語話者が日本語を習い始めた時に言う定番表現である。What do you call ~? もよく使う。よくこの二つを混同して、What do you say ~?やHow do you call ~?と言ってしまう人がいるので、そこだけは注意のこと。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, エミリー・ブラント, キリアン・マーフィー, サスペンス, ホラー, ミリセント・シモンズ, 監督:ジョン・クラシンスキー, 配給会社:東和ピクチャーズLeave a Comment on 『 クワイエット・プレイス 破られた沈黙 』 -第3作に続くか-

『 映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット 』 -前作よりもパワーダウン-

Posted on 2021年6月15日 by cool-jupiter

映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット 50点
2021年6月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:浜辺美波 高杉真宙 池田エライザ 藤井流星
監督:英勉

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『 映画 賭ケグルイ 』の続編。残念ながら続編はパワーダウン。それは肝腎かなめのギャンブルのパートに緊張感がなかった。今後どうやって大風呂敷をたたんでいくのだろうか。

 

あらすじ

私立百花王学園の生徒会は蛇喰夢子(浜辺美波)を脅威だと捉えていた。そんな中、2年間停学になっていた視鬼神真玄(藤井流星)が夢子への刺客として呼び戻された。しかし、視鬼神の復学は学園と生徒会にさらなる混乱をもたらして・・・

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ポジティブ・サイド

浜辺美波の狂いっぷりが素晴らしい。やはりこの女優は少女漫画的な王道キャラよりも『 センセイ君主 』や本シリーズのキャラのようなぶっ飛んだキャラを演じる方が性に合っている。王道のキャラというのは、 replaceable で expandable なものだ。元々の漫画の構図を忠実に再現している、あるいは監督の演出もあるのだろうが、目や口角での些細な演技が素晴らしい。佐藤健が緋村剣心を自分のものにしているように、浜辺美波も蛇喰夢子というキャラを完全に掌握している。

 

前作でほぼ置物だった池田エライザが躍動してくれたのもよかった。それだけで個人的には満足。特に夢子以上に狂った行動に出る会長のオーラには、視鬼神ならずとも圧倒されてしまう。次作での更なる活躍に期待。

 

多種多様なキャラが複雑な思惑をもって学園内を立ち回っているが、そのあたりの背景の映し出し方が適切。情報が多すぎず、かといって少なすぎず。『 カイジ 』的な世界であり、『 LIAR GAME 』的な世界でもあるが、そのどちらとも異なる独自の空気感が心地よい。

 

今作でフィーチャーされる指名ロシアンルーレットというゲームは前作のポーカーよりも格段に面白そう。単位を億から万に変えて、銃と弾をグラスとウォッカに変えれば、別のロシアンルーレットのできあがり。未成年はダメだが、二十歳以降なら実際にプレーできる。一話も視聴できていないが、テレビドラマ版もいつか観てみたい。というか、漫画もドラマも観ていなくても入っていけるのは有難い。



ネガティブ・サイド

ギャンブル・パートが相変わらず説明過多である。が、それはいい。今作のヴィランの視鬼神真玄なるキャラに魅力が全くない。魅力というのは、別に正のエネルギーでなくともいい。悪のカリスマ、狂気のプリンス。そういったカリスマ性のようなものが全く感じ取れなかった。復学の噂があがった時に新聞部の男が「強いなんてもんじゃない、化物だ」と語っていたが、別に化物でもなんでもないだろう。これなら前作の宮沢氷魚(Jovianの大学の後輩、面識は当然ない)の方がもっと迫力や実力を感じさせた。ロシアンルーレットはスリリングなゲームであるが、普通に考えれば実弾を使うわけがないし、漫画原作の映画化作品で、病気や交通事故以外で人死にが出るわけもない。この時点で指名ロシアンルーレットの恐怖感は消えている。

 

また演じた藤井流星の演技もちょっと酷い。こういう演技を指して chew up the scenery と言う。まるで劣化した藤原竜也 を観るようである。またセリフ回しもあまりに拙く、若手のまあまあ演技ができる連中の中に放り込むと、余計に悪目立ちする。したがって大声で喚き散らすように演技指導するしかないわけだが、それによって余計に悪目立ちする・・・という悪循環。いいかげんジャ〇ーズを起用するのはやめてはいかがか。

 

視鬼神の戦法は卑怯千万だが、これによって物語世界が狭くなってしまった。ギャンブルというのはルールがしっかり決まっており、そのルールの範囲内で争うからこそ、代償が生じることが正当化される。視鬼神のやり方は学園の在り方を根底から覆しかねない。よくこんな脚本が原作者からOKをもらえたなと感心してしまう。

 

高杉真宙と森川葵の謎のミュージカルは不要。というか邦画にミュージカルは要らんよ。歌って踊ってをやりたいなら、オープニングの流れに乗ってやってくれ。

 

総評

ギャンブルに行くまでが長く、なおかつ純粋なギャンブル勝負ではない。これで「賭け狂いましょう!」といわれてもなあ、という感じである。それでもキャラの再現度がかなり高いのは、原作未読でもすぐにわかるし、浜辺美波や池田エライザが躍動する様は見ているだけで楽しい。今作はややダメだったことから、逆にテコ入れされるであろう次作は期待が持てる。そう思おうではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

play Russian roulette

ロシアンルーレットを行う、の意味。当たり前だが、実弾入りの銃でこんなことをしてはならない。どうせやるなら、水入り5つ、ウォッカ入りグラス1つからランダムに選んで一気飲みをするという、よりリスクの少ないロシアンルーレットをお勧めする。ロシア人とこれをやるとめちゃくちゃ盛り上がる(経験者談)。

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, D Rank, サスペンス, 日本, 池田エライザ, 浜辺美波, 監督:英勉, 藤井流星, 配給会社:ギャガ, 高杉真宙Leave a Comment on 『 映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット 』 -前作よりもパワーダウン-

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