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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 ザ・レポート 』 -愛国とは何かを問う-

Posted on 2020年1月18日2020年8月29日 by cool-jupiter

ザ・レポート 70点
2020年1月17日 Amazon Prime Videoにて鑑賞
出演:アダム・ドライバー
監督:スコット・Z・バーンズ

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遅ればせながらAmazon Prime Videoにsubscribeした。動画配信サービスはNetflixやHuluやUstreamなど、色々あって迷ったが、まずは通販で慣れ親しんだAmazonを選択。余裕が生まれれば、Netflixにも加入してみたいと考えている。まあ、アナログ人間なので、近所のTSUTAYAにも足繫く通い続けるとは思うが。

 

あらすじ

ダニエル・ジョーンズ(アダム・ドライバー)は、米上院議員のファインスタインの下で、CIAの行ってきた拘留および尋問に関する調査を行う。資料の山から判明したのは、CIAが「強化尋問テクニック」と呼ばれる拷問を行っていたということ、そしてその事実がひた隠しにされてきたということだった・・・

 

ポジティブ・サイド

9.11の余波は留まることを知らない。あのテロ事件によって、戦争とは国家間で行われるものではなく、国家ではない集団と国家の間でも起こりうるものだと認識されるようになったからだ。そして、戦争ほど非人道的かつ違法/不法な行為もないと思う。本作は、“戦時下”のアメリカにおける正義と愛国の意味を厳しく問うている。

 

拷問を「強化尋問テクニック」と言い換えるのは詭弁であり詐術である。まるで旧日本軍が撤退を「転進」と、全滅を「玉砕」と言い換えたのと同じである。拷問は拷問で、許されるものではない。戦争を錦の御旗にして暴走するCIAを、我々は本当ならば他山の石とせねばならない。しかし、日本では警察の取り調べすら、なかなか可視化されない。さらに、CIAによる文書やデータの隠蔽、さらには削除が行われていることも示唆されている。どこかの島国は何事も米国の20~30年遅れで行う傾向があるが、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 』で描かれたベトナム戦争時代のアメリカと同じような隠蔽工作が今も堂々と行われていることに唖然とさせられる。

 

真実を追求するのに効果を持たない拷問を、なぜにCIAは継続して行ったのか。そこに愛国心の罠がある。本作の劇中でも、とある女性キャラクターが「私たちは愛する国を守りたいから」拷問・・・ではなく、強化尋問テクニックを使っていると主張する。それに対してアダム・ドライバー演じる主人公ダン・ジョーンズは「僕も同じだ」として、愛国心ゆえにCIAの調査をしていると答える。愛国とは何か。国を愛することである。では、愛するとはどういう営為なのか。CIA局員たちは国家と自分を同一視する。自分の身が可愛い。自分の身を守りたい。偏狭な自己愛である。ダン・ジョーンズの愛国心は異なる。自分の理想とする国家像があり、国家がその姿になっていなければ、国家がそあるべく厳しく働きかける。どちらが健全な愛国心であるかは火を見るよりも明らかである。精神を国家に従属させる輩が昨今の日本の言論空間にも跋扈しているが、愛とは美しいものであり、同時に厳しいものでもあるはずだ。我々はそうした心構えを持たなければならない。心からそう思う。

 

それにしても、『 マーターズ 』とまではいかないが、繰り返される拷問の数々はショッキングである。普通の神経であれば、人間をそこまで痛めつけることに躊躇を覚えるはずである。そうならないのは、CIA側に負い目があるからではないか。すなわち、次のテロの情報が欲しいというのは建前で、9.11を阻止することができなかったという心理的なトラウマを、誰でもいいから痛めつけることで、癒したかったのではないか。『 新聞記者 』で描かれた日本の内調も狂っているが、CIAはもっと狂っている。作中で上院議員に「裏切者として」言及される『 スノーデン 』だが、ダン・ジョーンズはエドワード・スノーデンというよりも、『 JFK 』のジム・ギャリソンである。愛国とは、国の間違いを正す勇気を持つことである。愛国無罪は愛国ではなく、売国である。本作のメッセージを現代日本は真摯に受け止めなければならない。

 

ネガティブ・サイド

『 スノーデン 』でも『 ビリーブ 未来への大逆転 』でも、このようなbiopicの最後には本人が登場するものであるが、本作ではダニエル・ジョーンズその人は登場しない。残念である。しかも、演じるアダム・ドライバーが本人と似ても似つかない。アダム・ドライバーは今、最も旬な俳優であるが、もう少し容姿が似た役者をキャスティングできたのではないか。

 

制作国はイギリスであるが『 アンロック 陰謀のコード 』では主人公はCIA局員にして尋問のスペシャリストである。こうしたエキスパートが現在、CIAにいるのかどうかも知りたかった。退役軍人が歪んだ愛国心を振りかざし、付け焼刃ですらない知識を元に、「強化尋問テクニック」を生み出し、CIAがそれを採用するというのは、歴史の汚点である。その汚点が修正されたのかを我々は知りたいのである。

 

総評

Amazon Prime Videoでしか視聴できないようだが、こういった作品こそ日本の提供会社・配給会社は劇場公開できるように努力すべきである。「アメリカって怖いな」という感想にとどまってはならない。愛国心とは何か。正義とは何か。人権とは何か。問われているのはそれである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

see the light of day

字義どおりに「日の目を見る」の意である。

It’s a shame that his achievement hasn’t seen the light of day.

I’ve waited a long time for my debut book to see the light of day.

のように使う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, Amazon Prime Video, B Rank, アダム・ドライバー, アメリカ, サスペンス, 伝記, 監督:スコット・Z・バーンズ

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