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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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月: 2021年1月

『 ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 』 -Rise up against all odds-

Posted on 2021年1月11日 by cool-jupiter

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 80点
2021年1月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アクシャイ・クマール ビディヤ・バラン シャルマン・ジョーシー
監督:ジャガン・シャクティ

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昨年2019年夏ごろにNHKの『 地球ドラマチック 』でインドの衛星打ち上げ特集を行っていたのを見て、数学の国がついに天文学にも本腰を入れ出してきたかと感じた。そして本作、インド版『 ドリーム 』がリリース。宇宙開発および映画製作の優等生への仲間入りをさせてもらうぞ、との宣言であるかのようだ。

 

あらすじ

タラ(ビディヤ・バラン)は過程を切り盛りする主婦であり母であり、そしてISRO(インド移駐研究機関)の職員でもある。ロケット発射の際のほんのわずかな確認ミスのために、打ち上げは失敗。それによりタラと責任者のラケーシュ(アクシャイ・クマール)は閑職の火星探査衛星打ち上げプロジェクトに左遷されてしまうのだが・・・

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ポジティブ・サイド

文句なく面白い。その最大の理由は、魅力的なキャラクターにある。実話ベースとはいえ、おそらく登場人物たちは相当にデフォルメされているだろう。けれど、その改変具合が絶妙で、キャラクターの性格や行動がストーリーを違和感なく推し進めていく。映画の冒頭でタラが主婦として母親として奮闘する場面がこれでもかと描写されるが、それがあるからこそ家政・・・ではなく火星到達のための一発逆転のアイデアがタラから出てきたことに納得できるし、そのアイデアの中身に我々はたと膝を打つのである。

 

敵役のNASA帰りのプロジェクトマネージャーによって指名され、三々五々やって来る経験の浅い女性スタッフたちも個性豊かだ。収納や節約、裁縫など、とても宇宙開発や宇宙探査に関係があるとは思えない分野の知恵がどんどんと現場で生まれ、応用されていく展開が子気味よい。そして、そのアイデアをしっかりと受け止め、吟味し、ゴーサインを出す責任者のアクシャイ・クマールの存在感よ。この役者は『 KESARI ケサリ 21人の勇者たち 』でも、威厳ある上官でありながら、部下が上げてくる声を丹念に聞き取る耳を持っていた。そうしたキャラを演じさせるとハマる。まさにキャリアの円熟期なのだろう。本作で共演する多くの若い女優たちとも過去に共演歴があることも、アクシャイ・クマールをして演技中でもカメラOFFでも、現場をリーダーたらしめていたのかもしれない。

 

独り者で趣味もないラケーシュが女性たちの献策を容れていくところに、家父長制の色濃いインド社会へのメッセージを感じた。対照的に、妻として母として科学者・技術者としても活躍するタラが、夫や子ども達との距離を模索する姿には複雑な思いを抱かされる。だが、そこに救いもある。これまでのインド映画は、例えば『 シークレット・スーパースター 』や『 あなたの名前を呼べたなら 』のような、女性の耐える姿に美徳を見出すようなものが多かった。しかし本作ではタラは保守的・因習的な夫やイスラム教(いわゆる異教)に改宗する息子、門限を守らない娘たちと理解し、和解し合っていく。「仕事と家庭とどっちが大事なんだ?」という、問うてはいけない質問に、「両方ともに大事だ」という答えを行動で呈示していく。さらに、タラ以外の女性キャラクターたちも呼応。耐えるだけではなく、とある電車内のシーンでは男性モブキャラたちをボコボコにしていく。これは衝撃的だ。『 猟奇的な彼女 』でも、彼女が男性乗客をひっぱたくシーンがあったが、本作はそれを超えている。インドの新時代の幕開けを目の当たりしたように感じる。

 

探査機の打ち上げ前、そして打ち上げ後も、ベタな手法ではあるが、観客のハラハラドキドキを持続させてくれる。もちろん、歴史的に成功したミッションであることは分かっているが、それでも手に汗握ってしまうのは、それだけ感情移入させられているからだ。『 ドリーム 』のクライマックスでも聞こえてきたが、レーダーコンタクトの瞬間、信号受信の瞬間の安堵のため息が、劇場の数か所から漏れ伝わってきた。

 

「ハリウッド映画よりも少ない予算で我々は火星までたどり着いた」という演説に思わずニヤリ。予算も大切だが、もっと大切なのは創意工夫である。今後のインドの宇宙開発にエールを送りたくなると共に、インド映画界からエールを送られたように感じた。

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ネガティブ・サイド

歌と踊りが少な目である。というか、2シーンしかないし、短い。『 きっと、またあえる 』や『 スラムドッグ$ミリオネア 』のように、エンドクレジットで爆発させてくれるのかと思いきや、それもなし。世界的なマーケットを視野に入れているのは分かるが、インド映画の特徴はやはり絢爛豪華な歌と踊りにあるのだから、そこは忘れてほしくなかった。オペレーション・ルームでサリーを着て踊りまくるMOMの面々を是非とも観たかった。

 

ラケーシュが歌うキャラクターという点にもう少し一貫性が欲しかった。最終盤に思わず歓喜の歌でも歌うのかと思ったら、それもなし。そこが少し残念だった。

 

敵役のNASA帰りの鼻持ちならない男が司るプロジェクトの進行状況なども描写されていれば良かった。ミッション・マンガルの面々がそれを知って、奮励したり、あるいは落胆したりといった様子が見られれば、より人間ドラマの要素が生々しくなっただろう。

 

最後に、映画の中身とは関係ないが、どうしても言いたい。タイトルは普通に『 ミッション・マンガル 』で良いではないか。一体どこの馬の骨が何の権限をもってどういう根拠に基づいて、このようなアホな副題をつけているのか。「崖っぷち」の部分が耳障りだし、「火星打上げ」に至っては完全なる日本語ミスだ。正しくは「火星探査機打ち上げ」または「火星探査機打上げ」だろう。火星という惑星そのものを打ち上げてどうする?誰もこの誤用に気付かなかったというのか?そんな馬鹿な・・・

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総評

『 パッドマン 5億人の女性を救った男 』の主演アクシャイ・クマールとその監督のR・バールキが脚本で参加した本作は、インド映画の娯楽性とインド人の問題意識、そして現代インド社会を如実に反映している。サイエンスに関する知識も必要ない。カップルで観ても良し、家族で観ても良しの秀作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Those were the days.

 

「あの頃が懐かしい」の意。

Those were the days. There was no such thing as consumption tax.

あの頃は良かったなあ。消費税なんか無かったし。

Those were the days. Hardly anybody wore a mask.

あの頃が懐かしい。マスクを着けている人なんかほとんどいなかった。

自分バージョンを色々と英作文してみよう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アクシャイ・クマール, インド, シャルマン・ジョーシー, ビディヤ・バラン, ヒューマンドラマ, 歴史, 監督:ジャガン・シャクティ, 配給会社:アットエンタテインメントLeave a Comment on 『 ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 』 -Rise up against all odds-

『 ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く! 』 -古くて新しい提言書-

Posted on 2021年1月9日 by cool-jupiter

ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く! 75点
2021年1月5日~1月7日にかけて再読了
著者:梅田望夫
発行元:文藝春秋

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コロナ禍において「新しい生活様式」なる言葉が人口に膾炙した。「ニューノーマル」とも「新常態」とも言われるが、実は目新しい概念ではない。時代の転換点において、ニューノーマルという言葉は常に使われてきた。「ニューノーマル」という言葉をいち早く紹介した本書は、給付金の申請がオンラインよりも紙の方が速く処理されるという現代日本に多大な示唆や提言を与えてくれている。

 

あらすじ

第1定理では「アントレプレナーシップ」を、第2定理では「チーム力」を、第3定理では「技術者の眼」を、第4定理では「グーグリネス」を、そして第5定理では「大人の流儀」を紹介する。働き方に悩む人、これから先のキャリアについて考える人にとってのヒントが満載である。

 

ポジティブ・サイド

著者の梅田のキャリアゆえか、彼の著書には一貫して個と組織の在り方、その関係についての考察や提言がなされている。それは本書でも同じである。ただ、梅田自身が語る言葉ではなく、梅田というフィルターがろ過したシリコンバレーの技術者や経営者の言葉であるところに本書の価値がある。Jovianは梅田に私淑しているが、同じように梅田を通じて人生やキャリアについてより深く考えるようになったという人間は多いはずだ。特に、就職氷河期世代、いわゆるロスジェネにその傾向が強い気がする(というのは、Jovianの周りがだいたいそういう世代だからだろうか)。個が組織を作り上げる、あるいは大組織の中で個が輝くという事例を本書は数多く紹介しており、若いビジネスパーソンにも壮年のビジネスパーソンにもお勧めできる内容になっている。

 

以下、いくつか気に入っている言葉を紹介する。

 

第1定理 アントレプレナーシップ

世界がどう発展するかを観察できる職につきなさい。
そうすれば、「ネクスト・ビッグ・シング」が来たときに、
それを確認できる位置にいられるはずだ。 ―――ロジャー・マクナミー

 

ここでいう「ネクスト・ビッグ・シング」とは、破壊的イノベーションを起こすサービスやプロダクトという意味だが、現在の目からするとZoomが最もこれに当てはまるだろうか。製造業であれば「何を作るか」、サービス業であれば「何をand/orどう提供するか」を常に考えるはず。教育業界にいるJovianはコロナ禍において勤め先およびクライアント大学の授業へのZoomやGoogle Meet導入に深く携わる機会があったが、その時に「誰もが教育者になれる時代が来た」と直感した。Zoomで講義を録画する、そしてYouTubeにアップする、というだけではない。自分がPC上で行っている作業の方法をオープンにすることで、一気に業務改善ができる、あるいは他者の業務改善を手助けできるようになる。また、これまでのPCのサポセンなどは電話で顧客に技術的サポートを提供していたが、今後はネットにさえつながっていれば、そしてPCにカメラとマイクが装備されていれば、困っている相手に画面共有してもらえれば、すぐさまソリューションを提示できるようになる。事実、そうなりつつある。コロナ禍で仕事が激減した、自営業を立ち上げるしかない、という人の多くが、何らかのインストラクター職を選ぶものとJovianは見ている。

 

第2定理 チーム力

世界を変えるものも、常に小さく始まる。
理想のプロジェクトチームは、会議もせず、
ランチを取るだけで進んでいく。チームの人数は、
ランチテーブルを囲めるだけに限るべきだ。―――ビル・ジョイ

 

これは本当にそうで、何も世界を変えるような大きな仕事でなくても、普通の人の普通の仕事にも当てはまるはず。Jovianの以前の会社では20人ぐらいで会議をしていて、会議=ただの報告会になっていた。決まった人が決まった順番で、いつも通りの内容(当月の売り上げや来月の見込み額など)を喋るだけ。活発な意見交換や議論などは存在しなかった。今の会社の会議も似たようなところがあるが、その代わりプロジェクトチーム単位(3~4人)になると談論風発する。日本企業における会議体の多さに辟易する人は多いはず。そうした人々に、ビル・ジョイの言は刺さることだろう。

 

第3定理 技術者の眼

技術的な転移(大変化)は、常に勝者と敗者を生む。
勝者とは、より早くその技術を導入できる企業であり、
敗者は、立ち往生し、転換をはかれず、
新たな技術をうまく使いこなせない企業だ。―――エリック・シュミット

 

説明不要なまでに明快だ。関西の某大学は2020年の春学期にオンラインでリアルタイムに授業を提供する仕組みを作り切れず、ほとんどの科目でGoogle Classroomもしくは大学ポータルサイト上で課題を課して締め切りを伝えて終わり、という暴挙に出た。そして、秋学期にオンライン授業を始めたが、教員や職員に研修が行き届いておらず、頓挫。学生や保護者からクレームの嵐だと聞く。近いうちに関西にも緊急事態宣言が発令されそうだが、そんなことに関係なく、今年度の出願者数は激減していることだろう。これは何も某大学だけのことではない。政府がいくら「テレワークの推進を!」と叫んでも、それができない会社がマジョリティなのだ。上のエリック・シュミットの言葉の「企業」を「国家」に入れ替えれば、極東の島国の姿が見えてきはしまいか。

 

第4定理 グーグリネス

「ニューノーマル」時代における成功とは、タイムマネジメントに尽きる。
この時代における通貨は、時間なのである。―――ロジャー・マクナミー

 

Jovianは本書を初めて読んだ時に、この言葉に大いにインスパイアされた。実際の文脈では「仕事のうちで自分がどこにこだわるべきかを明確にして、そこに時間とエネルギーを投下せよ」という意味なのだが、コロナ禍の今になって読み返せば、さらにその重みを増している。オンライン授業の際、「もっとも通信環境が貧弱な学生に配慮するように」というお達しが文科省からあった。そのため、ほとんどすべての大学では90分授業を60分オンライン、30分オフラインとなった。Jovianの会社は大学に非常勤講師を派遣しているが、講師たちからは「これじゃあ、教科書が全部カバーできない」という悲鳴が聞かれた。重要なのはタイムマネジメント、必要なところ、学生に身に着けてほしいと心底から思う部分の指導に集中してほしい、と誠心誠意に伝えた。それが上手く行ったかどうかは分からないが、今のところクライアント大学からは授業関連のクレームは出ていない。

 

第5定理 大人の流儀

自分がやらない限り世に起こらないことを私はやる。―――ビル・ジョイ

 

なんとも気宇壮大な言である。だが、現実味がある。Googleの圧倒的な成功と普及によって、世の中の情報はかなり整理され、組織化されてきた。極端な言い方をすれば、Google検索に引っかからない情報は存在していないも同然、という世界観が浸透しつつあるとも言える。つまり、事業を始めるにあたってのブルー・オーシャンが見つけやすくなったとも考えられるのだ。Jovianも万が一だが、今の勤め先がコロナ禍で立ちいかなくなったり、最悪潰れてしまった時には、マイナーな英語の資格検定対策専門のオンライン塾でも立ち上げようかと考えている。そうしたスクールというのは、日本ではびっくりするぐらい少ないのである。

 

以上、各章を簡単に紹介したが、いかがだっただろうか。飲食業界、不動産業界、製薬業界など、あらゆる分野の職業人にとってヒントになる言葉、勇気を与えてくれる言葉が見つかると確信できる良書である。

 

ネガティブ・サイド

全体的にオプティミズムに溢れている。それこそ『 シリコンバレー精神 』なのだろうが、日本人、もしくは日本的カルチャーに染まった会社・企業・組織というものは楽天主義ではなかなか動かない。どちらかというと「〇〇〇しないと会社が潰れますよ」、「△△△を持っていないと市場から見放されますよ」というネガティブなメッセージがないと腰を上げない経営者や決裁権者の方が多い。成功者の理念や哲学、言葉を紹介するだけではなく、事業の失敗者の反省の言なども取り入れていれば、よりバランスの良い本になったと思う。もっとも本書のP60~63で述べられているように、シリコンバレーの投資家は全ての投資先から回収していくのではなく、大きく成長した、またさらに将来性の見込める企業から一気に投下資本を回収する仕組みを作っているので、そうした意味での「事業失敗者」は見つけられなかったのかもしれない。ただ、梅田自身が『 ウェブ進化論 』で紹介したことのある、かつての勤務先の社内ベンチャーの失敗の話などを盛り込むこともできたのではないか。

 

第3定理「技術者の眼」の章で紹介されている言葉が、アップル関連の人物の言葉に偏り過ぎている。また、「技術者の眼」というよりも「技術者の目」を紹介する章になっていると感じられる。P142~143の渡辺誠一郎氏の逸話のようなエピソードはまさに「技術者の眼」という感じだが、その他の言葉は「技術者の目」から見た社会や世界、未来という感じが強い。梅田自身はコンサルタントでエンジニアでもプログラマーでもないせいか、この第3章だけは、やや全体から浮いた印象を受ける。

 

総評

本書はウェブ時代における「ニューノーマル」を始めとした様々な概念や言葉を体系的にまとめたもので、コロナ禍においてデジタル・トランスフォーメーションが進みつつある日本で、再読の価値が高まっていると言える。2008年刊行の書籍が2021年においても大きな意味を持つことに日本社会の停滞を感じるが、「個の強さ」を常に強調してきた梅田望夫によって厳選された言葉の数々は、現代日本のビジネスパーソンや学生にとって大きな指針となることは間違いないだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン 

The only way to do great work is to love what you do.

本書(文庫版)のP283にあるスティーブ・ジョブズの言葉。数々のジョブズの名言の中でもとくに有名な、スタンフォード大学の卒業式でのスピーチの一部。“love what you do”の部分は、日本でも多くの英語人が様々に翻訳してきた。ちなみにJovianは「自分の仕事を心底好きになる」と訳して、当時の勤め先の教材にも盛り込んだ。What you do = 普段からしていること ≒ 仕事、となる。ちなみにWhat do you do? =「職業は何ですか?」という紋切り型の説明がしばしばなされるが、これは間違い。正しくは、「今は何をしているのですか?」である。小学生の時の同級生と20年ぶりにばったり出会った時のことを想像してみてほしい。「うわー、久しぶり!今、何やってるの?」と尋ねることだろう。この「今、何やってるの?」こそ、“What do you do?”である。

 

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

I am now slowly phasing over to https://jovianreviews.com. This site will continue to be updated on a regular basis for the time being.

Posted in 国内, 書籍Tagged 2000年代, B Rank, 日本, 発行元:文藝春秋, 著者:梅田望夫Leave a Comment on 『 ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く! 』 -古くて新しい提言書-

『 ブラック校則 』 -常識を疑え、行動せよ-

Posted on 2021年1月7日 by cool-jupiter

ブラック校則 70点
2021年1月4日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:モトーラ世理奈 佐藤勝利 高橋海人
監督:菅原伸太郎

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縁あって大阪や奈良の高校で英検やTOEICの対策講座を受け持たせて頂いているが、校則というのは学校によってまちまちである。象徴的なのはスマホの扱いだろう。学校に入った瞬間からスマホ禁止、朝のホームルームでスマホを没収する本作さながらの高校もあれば、休み時間は使用OKの学校、放課後になれば校内でも使用可能な学校など様々である。スマホ使用の是非はさておき、スマホを禁じる校則に納得している高校生には、Jovianはまだお目にかかったことが無い。

 

あらすじ

校門で生徒の髪型や服装のチェックに余念がない教師たちを疑問に感じていた創楽(佐藤勝利)は、希央(モトーラ世理奈)という同級生に一目惚れしてしまう。しかし、希央は栗色の髪を黒く染めるようにと指導されていた。希央には地毛証明書が出せないある事情があったのだ。不登校になった希央を救うため、創楽は親友の中弥(高橋海人)とともに、ブラック校則打破のため立ち上がるが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 風の電話 』で存在感を発揮したモトーラ世理奈が、本作でも変わらぬ存在感を見せつける。別に台詞が多かったり、大仰なアクションを演じるわけではない。その逆で、希央が何か長広舌を振るったり、キャットファイトをしたりするシーンなどは存在しない。ほとんど全編を通じて、ただ静かに場面に溶け込んでいるだけで、これほどの存在感を発揮する10代はそれほど多くないだろう。普段が能面のように無表情なため、ほんのわずかに笑っただけでとびっきりチャーミングに見える。生まれながらの美少女には決して出せない魅力が、モトーラ世理奈にはある。今後さらに数多くの作品に出演してほしいものである。

 

生真面目な創楽と脱力系の中弥のコンビも、若手ジャニーズとは思えない演技力。滝沢がトップになったことでルックスやトーク、歌やダンスよりも演技力重視になってきたのだろうか。青春ドラマにありがちな順調な滑り出し、快調に物事が進んでいくが、しかし・・・という展開にならない。最初こそ勢い良く立ち上がったものの、主役とその親友がはっきり言って優柔不断の役立たずである。これはなかなかにユニークな物語である。この主人公、本当に情けない。エアギターから虚しさのあまり叫び出し、そこをかなり年の離れた妹の口撃でコテンパンにされてしまう。クラスでもカースト上位ではなく、かといって下層でもなく、という位置づけ。本人はかなりのハンサムボーイだが、表情の暗さや立ち居振る舞いが負のオーラを醸し出している。監督の演出か、それとも本人の演技力によるものなのか。モトーラ世理奈に恋焦がれるなら、イケメン高校生ではなく、こうした等身大の高校生でないと駄目だ。そうした意味で、佐藤勝利をキャスティングした時点で本作は半分は成功している。

 

その他にもほっしゃん演じる体罰教師は、Jovianの中学にいた某教師と雰囲気や言動がそっくりで、ちょっと引いた。今でこそ暴力教師、あるいは生徒から教師に対する暴力がカメラに撮られ、すぐにネット上で拡散してしまうが、20年前、30年前は『 ぼくらの七日間戦争 』の大地康雄や倉田保昭の演じた教師、本作の手代木のような教師が実際に存在したのである。本作は現在の10代よりも、30代や40代こそがリアリズムを感じられる作品なのかもしれない。

 

校内でスマホを禁じられ、その他の校則でがんじがらめにされた生徒がどうなるのか。Jovianは落書きとその連鎖に痛く感じ入った。書かれている内容こそ違えど、これはまさに中井拓志の小説『 quarter mo@n 』そっくりではないか。生徒から何かを奪っても、彼ら彼女らはその代替を見つけるものだ。『 quarter mo@n 』はある意味で時代を先取りしすぎた作品である。1999年刊行の書籍だが、ぜひ令和の若者にも読んでもらいたい。こうしたネット黎明期の作品に面白さを感じる向きは奥泉光の『 プラトン学園 』もどうぞ。

 

ダメダメな主人公を軸に、周囲のキャラクターたちも動き出し、圧倒的なパフォーマンスの見られるクライマックスにつながっていく。あるキャラが絞り出す魂の叫びは、『 ブラインドスポッティング 』のクライマックスのラップを彷彿させた。はっきり言って荒唐無稽もいいところのご都合主義的な展開なのだが、それを吹き飛ばすほどのパワーをこのシーンから感じた。最後に訪れるカタルシスも良い。元々、創楽が立ち上がったのは何のため、誰のためだったのか。様々な伏線が最後に一つにつながり、大団円となるラストの爽快感よ。

 

Libertyとfreedomのつづりミスで英語教師のJovianは「ははーん、これはアレだな」とピンと来たが、最後の最後のメッセージもなかなかに秀逸だ。そう、これは高校生に向けられたものではない。現状を是とする思考停止を打破せよ、という作り手のメッセージなのだ。幅広い世代に観てほしいと思える邦画である。

 

ネガティブ・サイド 

ラストに至るまでのサブプロットがとにかく多いし、時間もかかる。だからこそラストの大逆転感が生まれるのだろうが、それでも途中の展開はかなりの中だるみに思える。ここで主人公側に何らかの小さな希望が見える展開、あるいは蹉跌を経験するシーンを挟むべきではなかったか。

 

成海璃子の元カレが云々という背景も不必要ではなかったか。高校という一つの閉じた小宇宙の中で、ブラック校則がどれほどヤバいルールなのかを描き出すことを通じて、「世の中全般に迎合するな、疑え、行動しろ」という激を飛ばすのが本作の狙いのはず。であるなら、ブラック校則以上にネガティブな現実は不要である。

 

手代木を封じ込めるネタが結局はミチロウと同じく、暴力動画をネタにした恐喝とは・・・ もっとなにか別のアイデアがあってしかるべきだろう。例えば、毎朝回収されるスマホを模型と入れ替えて○○を▲▲している証拠を押さえるとか、または・・・って、これ以上書くと犯罪者予備軍と思われるのでやめておく。たた、体制を打破するために出来るもっと別のことがあったのは確かである。

 

総評

公開当時に劇場鑑賞できなかったことが悔やまれる。校則を社則、教師を上司と読み替えれば、社会人目線でも楽しむ(苦しむ?)ことができるジャニタレが主演かよ、と鼻白む向きにこそお勧めしたい上質な青春ドラマに仕上がっている。モトーラ世理奈の出番こそ少ないが、ファンならば本作は必見であろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

emancipation

freedomとlibertyについては劇中で振れられていたので、ここではemancipationを紹介したい。意味は「解放」であるが、その用例はほとんど「奴隷解放」である。The Emancipation Proclamation = A・リンカーンによる奴隷解放宣言である。他にも、他国の占領や政治的な影響力からの解放についても使われる。英検準1級以上、TOEFL iBT80点以上、IELTS Academicで6.0以上を目指すなら、知っておきたい語彙。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, モトーラ世理奈, 佐藤勝利, 日本, 監督:菅原伸太郎, 配給会社:松竹, 青春, 高橋海人Leave a Comment on 『 ブラック校則 』 -常識を疑え、行動せよ-

『 ソング・トゥ・ソング 』 -すべては監督と波長が合うかどうか-

Posted on 2021年1月4日 by cool-jupiter

ソング・トゥ・ソング 50点
2021年1月2日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ライアン・ゴズリング マイケル・ファスベンダー ナタリー・ポートマン ルーニー・マーラ
監督:テレンス・マリック

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『 ドント・ウォーリー 』や『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』など、通常とは趣が異なる関係の一方を演じさせれば天下一品の女優。ルーニー・マーラ目当てで鑑賞。ライアン・ゴズリングもカナダ人俳優の中ではJovianのfavorite actorだ。
 

あらすじ

シンガーソングライターのBV(ライアン・ゴズリング)は、辣腕プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)と組んで、徐々に頭角を現していく。BVはギタリストのフェイ(ルーニー・マーラ)と恋仲になるが、フェイは以前から秘かにクックと関係を持っていて・・・

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ポジティブ・サイド

ルーニー・マーラとライアン・ゴズリングに加え、マイケル・ファスベンダーとナタリー・ポートマン、そして中盤以降にはケイト・ブランシェット、さらには名のあるスターもさらに数名登場。俳優陣がとにかく豪華だ。俳優たちに加えて、イギーポップらの本物のアーティストも多数登場。彼ら彼女らがコンサートやパーティー。アメリカ各地やメキシコのリゾート地などを巡る画は、どれもこれもが美しい。まるで自分もそのイベントに参加し、旅をしているかのような気分にさせてくれる。

 

彼ら彼女をカメラに収めるはエマニュエル・ルベツキ。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』では全編ワンカットに見える絵を巧みの技で撮り切った。そのルベツキの手腕が今作でも遺憾なく発揮されている。各ショット内の人物と事物のサイズ比や色合いがシネマティックに計算されていて、まるで『 続・夕陽のガンマン 』のようにどのシーンも絵になる、というのは流石に褒めすぎか。それでも、各地の建築や街並み、自然の風景を捉えたショットの数々は目の保養にもってこいである。暗転した劇場の大画面にこそ映える絵だ。

 

アメリカでも日本と同じく、モラトリアムの期間が長くなっているのだろうか。Jovianと同世代であるBVやクックが仕事に精を出すのは当然として、確固とした恋愛観や人生観を持てていないことにどういうわけか安心させられる。ふとした出会いから恋愛面でもビジネス面でもシリアスな人間関係に発展するまでの経過描写が短く、確かに大人になると時間感覚が若い頃よりも格段に速くなるし、仕事も人間関係も深まるのも速ければ冷めるのも速い。そうした青年期以降、壮年期の観客は登場人物とシンクロしやすいだろう。事実、Jovianは最初から最後までライアン・ゴズリング演じるBVに己を重ね合わせていた。出会い、別れ、そして再会する。多くの関係を結んできた、そして多くの関係を壊してしまってきたからこそ、人間関係の本当の機微や価値が分かるようになる。人生の本当の意味や目的が見えるようになる。中年夫婦で観に行くことをお勧めしたい。

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ネガティブ・サイド 

ストーリーはあるにはあるが、とにかく薄い。まるで『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ 』と『 アリー / スター誕生 』を足して5で割ったものから、エロ成分をマイナスしたような作品。いや、一応女性のトップレスが拝めるシーンはあるにはあるが、エロティックでは全然ない(別に脱いでくれた女優さんに他意があるわけではない、念のため)。各シーンの映像美は素晴らしいが、そのシーンに深い意味が認められない。まるで『 フィフティ・シェイズ・フリード 』を観ているようだった。つまり、眠気との勝負である。正直なところ、ルーニー・マーラが小悪魔~魔性の女風の視線や表情を定期的に見せてくれなければ、多分Jovianは2~3回は寝落ちしていたように思う。マーラの魅力に感謝である。

 

タイトルが“Song to song”であるにも関わらず、肝心かなめのキャラクターの心情はナレーションで語ってしまうのはどういう了見なのか。BVがピアノの弾き語りをしながら作曲するシーンが、かろうじて彼の心情を表しているぐらいで、全編これ会話、しかもドラマを盛り上げない雑談で進むとはこれ如何に。テレンス・マリック監督におかれては、映像美にこだわるのもよろしいが、『 はじまりのうた 』や『 カセットテープ・ダイアリーズ 』を観て、音楽で語るとはどういうことかを研究して頂きたいものである。

 

会話劇としても盛り上がりに欠ける。『 TENET テネット 』のような難解極まる会話ではなく、非常にカジュアルな会話、表面的な意味しか持たない言葉のやりとりには、いささか閉口させられた。絞り出すような言葉、丁々発止のやりとりなどはほとんど存在しないので、やはりどれだけキャラクターに自分を重ね合わせられるかが肝になる。老親の介護が現実の問題として迫ってきているというのは30代40代あたりなら我が事のように感じられるだろうが、いかんせんキャラクターの多くが音楽業界でセレブ然とした生活を送っているものだから、やはりシンクロするのは難しい。

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総評

鑑賞して評価するには、かなりの文学的素養が求められると思われる。キャラクターがどれもこれも浮世離れしていて、地に足がついていない。大人の人間関係を描いてはいるが、これを見たままに消化吸収して解釈するには、かなりの映画的ボキャブラリーが必要だ。Jovianはその任に堪えない。英語のレビューをこれから渉猟しようとは思うが、それらを読んで自分の感想が変わるとも思えない。チケット購入を検討中の向きは、娯楽作品ではなく映像芸術だと思われたし。劇場ではなく美術館に赴くようなものと心得られたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

take ~ back

~を後ろに持っていく、の意。take back ~ という形でも使われる。テニスや野球をする人なら「テイクバック」という言葉を聞いたことがあるはず。ボールを打つ前にラケットやバットを後ろに引く動作のこと。物体以外にも、コメントや約束を撤回する時にも使われる。

 

The politician never took back her comment regarding LGBT people.

その政治家はLGBTに関する自身のコメントを撤回しなかった。

 

のように使う。take backという句動詞には他にも多様な意味があるが、まずは「後ろに持っていく」、転じて「撤回する」を覚えておこう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, ナタリー・ポートマン, マイケル・ファスベンダー, ライアン・ゴズリング, ルーニー・マーラ, 監督:テレンス・マリック, 配給会社:AMGエンタテインメント, 青春Leave a Comment on 『 ソング・トゥ・ソング 』 -すべては監督と波長が合うかどうか-

『 新 感染半島 ファイナル・ステージ 』 -前作よりも感動度はダウン-

Posted on 2021年1月2日2021年1月11日 by cool-jupiter
『 新 感染半島 ファイナル・ステージ 』 -前作よりも感動度はダウン-

新 感染半島 ファイナル・ステージ 60点
2021年1月1日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:カン・ドンウォン イ・ジョンヒョン
監督:ヨン・サンホ

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『 新 感染 ファイナル・エクスプレス 』の続編。韓国メディアの伝え方やYouTubeのレビューはあまり芳しいものではなかったが、これは前作のクオリティを期待してのことだろう。前作のファンは“Don’t get your hopes up.”を心がけて劇場に赴くべし。

 

あらすじ

KTXでのゾンビ発生から4年。韓国は国家機能が崩壊し、国民は海外へと避難を余儀なくされた。香港に退避した軍人ジョンソク(カン・ドンウォン)は、国外脱出の際に見捨てた民間人や。船で発生したアウトブレイクによって親族を失い、失意の日々を過ごしていた。ある時、彼は「半島に眠っている現金を回収したい」という地元のヤクザ者の依頼を受け、再び故郷の半島に向かうのだが・・・

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ポジティブ・サイド

主演のカン・ドンウォンおよび他キャストの奮闘が光る。軍人を主人公にすることでアクション方向に思いきり舵を切ることができたのだろう。ハリウッド映画並みのガン・アクションにカー・アクションを盛り込んできた。韓国俳優は多くが兵役経験者のためか、銃火器の扱いに非常に長けているように映る。もちろん監督の演出もあるのだろうが、銃を撃つ動作がリアルかつカッコいい。他にもカー・アクションでは生き残りの少女が『 ベイビー・ドライバー 』のベイビーに匹敵するドライビング・テクニックを披露。ゾンビを轢いては吹っ飛ばし、吹っ飛ばしは轢いてという痛快シーンを連続して見せてくれる。ゴア描写はほとんどないのも世界的なマーケットを視野に入れてのことだろうか。

 

首都ソウルの荒廃ぶりもリアル。人間がいなくなれば植物が繁茂してくる描写は『 GODZILLA ゴジラ 』でも使われていた定番の手法とはいえ、今という時代から見てみると、新型コロナウィルスの蔓延防止のために経済活動をストップしたところ、中国やインドで如実に見られたように、空気や水が一気に清浄化されたという事実を思い起こさずにはいられない。

 

ジョンソクが出会うことになる生き残りの家族との因果には胸が潰されそうになった。ひとつの家族の運命が韓国という国家の命運と重ね合わされているのだ。ソウルに侵入する直前の道路の落書き「神は我々を見捨てた」という言葉に、世界有数のキリスト教国の韓国の本音が透けて見える。そこには同時に、人間を救うのは人間なのだという意地のようなものも見え隠れする。

 

対決することになる631部隊の狂いっぷりも見事。チェ・ミンシクを意識したような顔つきと髪型の軍曹がヴィランなのだが、基地でやっていることがめちゃくちゃだ。特に『 マッドマックス/サンダードーム 』に着想を得たと思しき「かくれんぼ」(どこらへんがかくれんぼなのか意味不明だが)は、人間は環境によっていくらでも残虐になれることを物語る。またトラックとクルマによるカー・チェイスシーンはまんま『 マッドマックス 怒りのデスロード 』。そこに大量のゾンビをぶち込んでくるのだから、迫力もスリルも倍増である。

 

生き残り家族の母の奮闘も素晴らしい。「女は弱し、されど母は強し」の格言通りである。こちらも現実世界での兵役経験者なのだろうか。シガニー・ウィーバー演じるリプリーやリンダ・ハミルトン演じるサラ・コナーを彷彿させる戦う女性。銃火器の扱いは手慣れたもので、大型トラックもぶん回す。適度にピンチも招くので、ハラハラドキドキも持続する。

 

最後には作ったような感動的シーンが待っている。Home is home. 住めば都とはよく言ったもの。故郷とは何か。人間とは何か。メッセージ性がそれほどある作品ではないが、観終わった後には多くの爽快感とほんの少しの問いが胸に残るはずだ。

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ネガティブ・サイド

CGがふんだんに使われている。それは良い。問題はCGがCGだと丸わかりしてしまうこと。プレイステーション5ぐらいの画質を実現できているのかもしれないが、長女が運転するクルマを外から見るシーンや終盤の631部隊からの追跡シーンはすべてゲーム画面のように見えてしまう。

 

そもそもの発端である、半島で手付かずのまま眠っている現金を集めて回収してくるというミッション自体が不可解だ。何故にわざわざデカいを音を立てるトラックを運転するのか。それこそ、ドル札が詰まったバッグが20個程度なら、成人4人で何とか運べるだろう。ゾンビが大量に眠っているであろう都市部から抜き足差し足忍び足で離れ、そこから移動の船とランデブーするべきではないだろうか。これなら金の延べ棒がトラックに満載されているという設定にすべきだったろう。

 

ゾンビが前作から何も変わっていないところも不満である。特に前作の冒頭では鹿がゾンビ化しているところが明確に描き出されていた。続編では人間以外の動物のゾンビ(たとえば犬や猫)が登場すると期待するではないか。まあ、それをやっても『 バイオハザード 』シリーズの二番煎じになるのだけれど。実質2日程度の物語だった前作と違い、本作はその4年後。ゾンビがどのように生命活動(?)を維持しているのか、そこは素朴な疑問である。ゾンビがゾンビを食う、あるいはゾンビが植物を食べるなどの描写がほんの数秒で良いのでほしかった。そうしたカットがあれば、半島が4年経ってもゾンビ天国だったことに説明がつく。

 

本作で最大の不満は、人間ドラマの薄さである。『 スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒 』のハン・ソロの台詞“Escape now. Hug later.”と言ってやりたい。「さあ、ここで感動してくださいよ」とばかりにスローモーションになってエピックなBGMが流れるが、そこに至るまでのドラマが薄っぺらいせいで、感動が深まらない。前作の何が素晴らしかったのか。主人公を演じたコン・ユが超絶嫌味なキャラから人間味のあるキャラに変化していくところである。マ・ドンソクが血縁関係のない少女に、まだ生まれてきていない我が子を重ね合わせて奮闘するところである。安全な車両にいるバス会社の重役のクソな人間性が極限状況で露わになったように、人間の心の奥底の本性が見える、そこが変化していくところが面白く、感動を呼んだのだ。本作の感動は、極めて教科書的な手法で生み出されていて、そこがどうにも気に入らない。前作ファンならばより一層そう感じることだろう。

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総評

感染、発症、隔離。ゾンビとウィルスには共通点が非常に多い。制作時にはコロナ禍がここまで世界を覆ってはいなかったはずだ。にもかかわらず、これほどの娯楽作品を届けてくるところに、韓国映画界の底力を見るように思う。一本の独立した作品として頭を空っぽにして鑑賞すれば、存外に楽しめるはずだ。事実、前作を未鑑賞のJovian嫁は最初は「なんで前作を観ていない自分の分までチケット買うんじゃゴルァ!!」だったが、観終わった後は満足していた様子だった。コロナ禍で悶々とした気分を一時的にでも吹っ飛ばしてくれるアクション作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

in 15 minutes

劇中では“We’ll arrive in Incheon Port in 15 minutes.”=「15分後に仁川港に着く」という具合に使われていた。In a few hoursも使われていたかな。in + 数字 + 時間の単位、という形で覚えよう。

 

in 10 minutes =10分後

in 5 days =5日後

in 4 years =4年後

 

である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アクション, イ・ジョンヒョン, カン・ドンウォン, 監督:ヨン・サンホ, 配給会社:ギャガ, 韓国Leave a Comment on 『 新 感染半島 ファイナル・ステージ 』 -前作よりも感動度はダウン-

2020年総括と2021年展望

Posted on 2021年1月1日2021年1月1日 by cool-jupiter

2020年総括

やはりコロナ禍に触れないわけにはいかない。Jovianの実家はかつて焼肉屋であり、O-157と狂牛病によるダメージがいかに痛撃であったのかを身をもって知っている。あの2001年の悲劇と同規模、いやそれ以上の惨禍が、焼肉業界だけではなく飲食業界全体、さらには旅行や映画にも及んだ。新作映画がことごとく公開延期され、海外の有力とされた映画のいくつかは配信に流れた。「ニューノーマル」という言葉が新しい意味を帯びた2020年だったが、2021年についても予断を許さない。

しかし、「一生に一度は、映画館でジブリを。」とのキャッチフレーズで『 風の谷のナウシカ 』や『 もののけ姫 』がリバイバル上映されるなど、温故知新の一年でもあったと思う。9.11以降にハリウッドの作劇術がガラリと変わったように、2020年は映画産業(もちろん、ほとんどあらゆる産業もだが)がガラリと変わった一年として後世の歴史家に記されることだろう。

 

それでは個人的な各賞の発表を。

 

2020年最優秀海外映画

『 シカゴ7裁判 』

アーロン・ソーキンが(コロナとは異なる意味での)時代の節目をその炯眼でもって見通していたとしか思えない。それほど完璧なタイミングでのリリースだったと思う。民主運動とは何か。国家権力とは何か。コロナ以前の世界で最も問われていたテーマを、1960年代から見事に現代につなげてくれた。それもとびっきりのエンターテインメント性を備えて。Netflix映画だが、アカデミー賞を受賞してもまったくおかしくないクオリティの作品であろう。

 

次点

『 ウルフウォーカー 』

とびきりユニークな線画アニメーションで非常に土着的な物語を描きながら、そこに見えてくるのは気高く孤高に生きることを是とする哲学。『 羅小黒戦記~ぼくが選ぶ未来~ 』と次点を争ったが、共存共栄を敢えて志向しない本作の独自性の方を紙一重の差で評価したい。

 

次々点

『 シュヴァルの理想宮ある郵便配達員の夢 』

 フランス映画=男女のドロドロの情念とヌードと濡れ場、というJovianの蒙を啓いてくれた作品。

 

2020年最優秀国内映画

『 風の電話 』

コロナによって先行するあらゆる社会問題がかき消された感のある2020年であるが、本作の提示した原発事故の問題および日本社会の分断化、その結果として生じてきた子どもの孤食問題。商業性と芸術性、そして社会性の全てを高い次元で備えた邦画の傑作。

 

次点

『 私をくいとめて 』

能年玲奈の魅力と演技力が爆発した作品。ごくごく限られた人々にしか当てはまらないのかもしれないが、原作小説および映画は聖典として長く読まれ、鑑賞され続けていくことだろう。

 

次々点

『 37セカンズ 』

邦画の世界でタブーとされてきた事柄をこの一作だけで次々に打破した。

 

2020年最優秀海外俳優

オークワフィナ

『 フェアウェル 』で見せた高い演技力で選出に異論無し。アイデンティティを巡る物語の需要は今後高まることはあっても下がることはないだろう。そうした物語が良作と呼べるかどうか、主人公およびメインキャラクターの演技力が及第に達しているかどうかは、本作のオークワフィナが基準になることだろう。

 

次点

スシャント・シン・ラージプート

『 きっと、またあえる 』の大学生役の演技は最高だった。鑑賞後に死去を知って愕然とした。インド映画界のみならず、世界の映画界が一つの宝石を失ってしまった。

 

次々点

チョン・ユミ

『 82年生まれ、キム・ジヨン 』の、まさに憑依されたとしか思えない演技は圧巻だった。

 

2020年最優秀国内俳優

仲野太賀

助演の『 僕の好きな女の子 』と主演の『 泣く子はいねぇが 』の二作品で選出に文句なし。表現者として飛躍を見せた一年だったと言えよう。30歳まで今の成長ペースを保つことができれば、邦画の世界の欠くべからざるピースとなることは間違いない。

 

次点

渡辺真起子

『 風の電話 』の叔母さん、『 37セカンズ 』の母親役で残したインパクトは大きかった。登場時間の短さと観客に与える印象の大きさは必ずしも比例しないことの好例。

 

次々点

水川あさみ

『 喜劇 愛妻物語 』と『 滑走路 』、『 アンダードッグ 』の三作を評価する。『 ミッドナイトスワン 』は2021年にとっておきたい。

 

2020年最優秀海外監督 

キム・ボラ

『 はちどり 』の演出および映像の鮮烈さが強く印象に残っている。М・スコセッシ監督の“The most personal is the most creative”=「最も個人的な事柄が最も創造的な事柄である」という哲学を作劇術のすべてに応用したことから選出。

 

次点

ウッディ・アレン

『 レイニーデイ・イン・ニューヨーク 』の軽妙洒脱なテンポでのストーリーテリングは、ウッディ・アレン以外にはなしえない職人芸である。

 

次々点

ジョン・チェスター

『 ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方 』で証明したドキュメンタリー映画の撮影および編集は一級品。

 

2020年最優秀国内監督

河瀨直美

『 朝が来る 』で鮮やかに、リアルに映し出した夫婦像および家族観は、令和日本のひとつの規範となるに違いない。

 

次点

内山拓也

『 佐々木、イン、マイマイン 』のあまりにも直球過ぎる、そして変化球過ぎる青春ドラマは20代かつ長編デビュー作というタイミングでしか作りえなかったのではないか。

 

次々点

城定秀夫

『 アルプススタンドのはしの方 』で、異色のシチュエーション青春ドラマを作り上げた。

 

海外クソ映画オブ・ザ・イヤー

『 ティーンスピリット 』

音楽うんぬんよりも、主人公のヴァイオレットの抱える問題がどのように解消されていくのかが全く不完全に消化されてしまった。エル・ファニングのキャリアの中でも最低レベルの作品だろう。

 

次点

『 キャッツ 』

 糞のようなCG演出と気持ちの悪い動きに、アレルギーを発症しそうになった。ミュージカルの『 キャッツ 』の持っていた感動を呼ぶポイントを全てスポイルした、完全なる映画化失敗作品の金字塔。

 

次々点

『 ディック・ロングはなぜ死んだのか 』

 

英語レビューでは賛7否3ぐらいだったが、個人的には本作とは全く波長が合わなかった。

 

国内クソ映画オブ・ザ・イヤー

『 事故物件 怖い間取り 』

これで決まりでしょ。観終わった瞬間から決まっていた。これを超えるクソ映画を作れる才能というのは、カンヌや米アカデミーで受賞できるぐらいの才能が必要なのではないか。

 

次点

『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』

 

命の重さをこれほど軽んじた作品は近年ちょっと思いつかない。のみならず警察が常識外れの無能であり、しかも物語のリアリティを担保すべき事物および人物の描写が荒唐無稽もいいところである。クソ映画の教材のような作品である。

 

次々点

『 ヲタクに恋は難しい 』

『 記憶屋 あなたを忘れない 』との壮絶なデッドヒートを制して次々点に選出。これもクソ映画として、大学や専門学校の映像学科で分析の対象になるぐらいしかないでしょ。

 

2021年展望

去年も楽しみにしていた『 ゴジラVSコング 』がまたまた延期。とにかくコロナ禍が収束してくれないことには身動きが取れない。ジブリ作品のリバイバル上映など思わぬ副産物も生まれたが、コロナが業界に与えた影響は計り知れない。

 

アメリカでは今後は映画館で公開とウェブ配信を同時に行っていく流れになりそうだという。映画を暗転した劇場で観賞するという営為に、音響や動く座席、匂い、水しぶきなどの効果も加わるか形で劇場は進化してきた。それが止まるのか、それとも別方向に進化していくのか。

 

何はともあれ、2021年の世界平和を祈りたい。

 

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