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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『はじまりのうた』 -やり直す勇気をくれる、音楽と物語の力-

Posted on 2018年9月14日2020年2月14日 by cool-jupiter

はじまりのうた 65点
2018年9月12日 レンタルDVD観賞
出演:キーラ・ナイトレイ マーク・ラファロ ヘイリー・スタインフェルド アダム・レヴィーン ジェームズ・コーデン キャサリン・キーナー
監督:ジョン・カーニー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20180914020936j:plain

原題は“Begin Again”、「もう一度始めよう」の意である。もう一度、というところが本作の肝である。

音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)は、かつては敏腕でグラミー賞受賞者もプロデュースしたこともあるほど。しかし、ここ数年はヒットを出せず、酒に溺れ、妻のミリアム(キャサリン・キーナー)とは別居。娘のバイオレット(ヘイリー・スタインフェルド)を月に一度、学校に迎えに行くだけの父親業も失格の男。ある日、娘を職場に連れて行ったものの、あえなくその場で解雇を宣告されてしまう。失意のどん底のダンは、しかし、とあるバーでシンガーソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)の歌と演奏に聴き惚れる。必死の思いで彼女を説得し、ニューヨークの街中を舞台にゲリラレコーディングを敢行していくことで、ダンの周囲も、グレタと恋人のデイヴ(アダム・レヴィーン)にも変化の兆しが見られるようになる。

『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』でも触れたが、アメリカという国は≪セカンド・チャンス≫というものを信じている。本作は、音楽の力を通じで、そのセカンド・チャンスを人々がものにしていくストーリーなのである。燻っていた情熱の残り火を、もう一度完全燃焼させたいと願っているサラリーマンは、日本には大勢ではないにしろ、それなりの数が存在しているはずだ。そんな人にこそぜひ見てほしい作品に仕上がっている。また、娘が難しい年頃になったことで、距離の取り方に難儀するようになった中年の悲哀に対しても、本作は一定の対応方法を提示してくれる。洋楽はちょっと・・・と敬遠してしまうような中年サラリーマンにこそ、観て欲しい映画になっているのだ。

一例を挙げよう。ダンはグレタのギターと歌唱を聴きながら、伴奏のピアノやバイオリンによるアレンジを生き生きと思い描き、歌に命を吹き込むビジョンを抱く。そんな creativity は自分には無縁だと思うサラリーマンも多いだろう。だが待ってほしい。街の中で空き地を見つけて、アパートかオフィスビルが駐車場にならないかと想像を巡らせたことが一切ないという不動産会社や建築・建設会社の社員がいるだろうか。ダンと我々小市民サラリーマンの違いは、スキルや能力ではなく、何らかのポテンシャルに巡り合えた時に、自分を信じられるかどうかである。何らかの可能性ある投資先を見つけられるかどうかではない。小説および映画の『何者』にあった台詞、「どんな芝居でも、企画段階では全部傑作なんだよ」という言葉が思い出される。当たり前といえば当たり前だが、我々はくだらないことよりも素晴らしいものの方を想像しがちだ。その想像を創造につなげていく勇気を持つ人間のなんと少ないことか。そんな小市民たる我々は、ダンとグレタに救われるのだ。

印象的な点をもう一つ。ダンとグレタが互いに素晴らしいと認めるミュージシャン、アーティストを挙げていく酒場のシーンがある。「どんなものを食べているかを言ってみたまえ。君がどんな人間であるのかを言い当ててみせよう」とはジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランの言葉であるが、これは「どんな音楽を聴いているかを言ってみたまえ。君がどんな人間であるのかを言い当ててみせよう」と言い換えることも可能であろう。ダンとグレタは、互いのプレイリストを二股のイヤホンを使ってシェアするが、これなどは我々が互いの本棚や映画のライブラリを見せ合うのに等しい。我々は普段からスーツに身を包み、自分を偽装することに抜け目がない。しかし、自分が普段から聴いている音楽を人にさらけ出すというのは実は非常に勇気がいることだ。もし、この例えがピンと来ないのであれば、あなたのPCやスマホのブラウザのお気に入りを誰かに見せるということだと思ってみてほしい。ダンとグレタの男と女とは一味違う、もっと奥深いところで響き合う関係に感銘を受けるだろう。

それにしてもキーラ・ナイトレイの歌の意外な上手さに pleasantly surprised である。Maroon 5のアダム・レヴィーンが本職の実力と迫力を見せてくれること以上に、彼女の歌う“Like a Fool”に哀愁と力強さが同居することに感動のようなものを覚えた。恋人もしくは元彼がいかに約束を守ってくれなかったかを詰る歌は無数に存在する。Christina Perriの“Jar of Hearts”、Diana Rossの“I’m Still Waiting”など、枚挙に暇がない。それでもJovianがキーラの歌う“Like a Fool”に殊更に魅了されたのは、単にBritish beautyが個人的な好みだからなのだろうか。

いずれにしても、これは素晴らしい作品である。サラリーマンとして、父として、または夫として、とにかく人生に何らかの行き詰まりを感じている男性はここから何らかの「やり直す勇気」を受け取ってほしい。切にそう願う。そうそう、早まってエンドクレジットが始まった途端に再生を止めたり、画面の前から離れたりせず、最後まで観るように。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アメリカ, キーラ・ナイトレイ, ヒューマンドラマ, ヘイリー・スタインフェルド, マーク・ラファロ, 監督:ジョン・カーニー, 配給会社:ポニーキャニオン, 音楽

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