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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ジェシカ・チャステイン

『 インターステラー 』 -尻すぼみであること以外はパーフェクト-

Posted on 2023年1月9日 by cool-jupiter

インターステラー 80点
2023年1月7日 WOWOW録画にて鑑賞
出演:マシュー・マコノヒー アン・ハサウェイ ジェシカ・チャステイン
監督:クリストファー・ノーラン

諸事情あってなかなか映画館に行けないので、過去のWOWOW録画DVDを手に取る。中に入っているのは『 インターステラー 』と『 コンタクト 』で、前者を選ぶ。

あらすじ

ダストボウルの大量発生により土壌で作物が育たず、酸素も近い将来に生存不可能なレベルにまで低下することが予想される世界。元パイロットのクーパー(マシュー・マコノヒー)は娘マーフの部屋で起きる奇妙なサインから座標を読み取る。そこではNASAが、人類救済ミッションを密かに進めており、クーパーは土星付近のワームホールを目指すミッションに参加することになる・・・

ポジティブ・サイド

地球滅亡ではなく人類滅亡という設定がいい。しばしば発生する砂嵐は dust bowl =ダストボウルと呼ばれる、1930年代にアメリカとカナダの農業に大打撃を与えたものである。もちろん Jovian はダストボウルを直接に経験した世代ではないが、これはアメリカ近代史ではしょっちゅう触れられるのでよく知っていた。

ワームホールの説明や描写もSF入門レベルにまで dumb down してくれているのも有難い。ワームホールの説明として、紙を折り曲げて二点をくっつけるというのは定番中の定番だが、二次元平面の紙の上の穴(hole)は三次元空間では球(sphere)になるという説明は秀逸だと感じた。

ワームホールの先の別の銀河で訪れる移住先の星々の描写も光っている。ブラックホール近傍の惑星あるいはステーションというのは『 ブラックホール 』でもお馴染みで、それ自体にオリジナリティはない。しかし、ブラックホールの重力圏内と圏外での時間のずれが生むドラマは、ベタながら見応えがあった。

ノーラン監督は初期から「時間」をテーマにした作品作りで知られていて、本作でもそれは一貫している。『 TENET テネット 』で見せた見事な物語の円環的構造は、実は本作でも示されていて、劇場で始めた鑑賞した時、WOWOWで二度目に鑑賞した時、そして今回と、毎回その構造の巧みさに舌を巻く。

本作の最大の功績はTARSかもしれない。R2-D2やBB-8とはまた違った魅力のあるロボットである。コミュニケーションの設定に正直度やユーモアがあったが、これは案外現実世界で似たようなロボットが作られた際、取り入れられる設定かもしれない。また、安易に人型にするのではなく、TARSのような造形の方がモビリティも確保できるだろうなと感じた。

SFにはファンタジーの領域にどっぷり浸かったものと、現実的な科学技術に立脚しつつ、ほんの少しのフィクションを混ぜたものがある。どちらも面白いのだが、本作は数あるSF作品の中でもファンタジーの領域と現実の領域が見事な配分でミックスされていると感じる。ここでいうファンタジーとは「愛」の力。いかなる科学も超越する親子の奇妙な愛の絆は、何度見ても感動させられてしまう。俺もだいぶ単純になってもうたな・・・

ネガティブ・サイド

親子の愛だけに留めておけばよかったのに、なぜアン・ハサウェイ演じるブランド博士をクーパーの love interest にする必要があったのか。ここが解せない。友愛に近い感じで良かったのでは?

そのブランド博士やその他の面々も、人類を救うと言いつつ、移住候補先の星の大地に星条旗の旗を立てるのか?これが英国籍と米国籍を持つクリストファー・ノーランの植民に対する意識の表れなのだろうか?うーむ・・・

天文物理学や生物学の門外漢だが、ガルガンチュアのようなブラックホールが天文単位の距離にあるような複数の惑星は、そもそも移住に向かないのでは?ブランド博士の言う通り、小惑星の衝突などが起きない(ブラックホールがそれらをすべて吸い込むか弾き飛ばす)環境では、生物の創発が喚起されない。地球ですら木星のおかげで天体衝突の確率は1000分の1になっているとされる。微生物や植物すらない環境はテラフォーム不可能な気がするのだが・・・

総評

最後の最後のクーパーの決断が個人的には受け入れがたいが、そこに至るまでの3時間近い物語には圧倒されるばかり。3度目の鑑賞でもそう感じる。ティモシー・シャラメやケイシー・アフレック、マイケル・ケインにジョン・リスゴーなど、若手から超ベテランまでが脇を固める。2010年代のSF映画の秀作の一つであることは間違いない。

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

stella

ラテン語で a star の意味。interstellar は文字通り「星々の間の」、「恒星間の」という意味である。星座を constellation と言うが、色んな星が一緒になってできるのが星座ということである。似たような語に『 アド・アストラ 』の astra がある。これは astrum の複数形の対格で、こちらも意味は星だが、やや誌的な感じがする表現。これの元はギリシャ語のasterで、astronaut や astronomy はここから来ている。アスタリスクを見たら「あ、確かに星だ」と感じてもらえれば幸いである。

次に劇場鑑賞したい映画

『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』
『 ファミリア 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, SF, アメリカ, アン・ハサウェイ, ジェシカ・チャステイン, マシュー・マコノヒー, 監督:クリストファー・ノーラン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 インターステラー 』 -尻すぼみであること以外はパーフェクト-

『 グッド・ナース 』 -医療とは何かを問う-

Posted on 2022年10月26日 by cool-jupiter

グッド・ナース 65点
2022年10月22日 心斎橋シネマートにて鑑賞
出演:ジェシカ・チャステイン エディ・レッドメイン
監督:トビアス・リンホルム

傑作の誉れ高い『 アナザーラウンド 』の脚本を手掛けたトビアス・リンホルムの監督作品。主演に『 女神の見えざる手 』のジェシカ・チャステインということでチケット購入。

あらすじ

シングルマザーの看護師エイミー(ジェシカ・チャステイン)は心臓病を抱えていたが、健康保険に加入できるまで、まだ数か月の勤務を要していた。そんな時、ベテラン看護師チャーリー(エディ・レッドメイン)がやってくる。二人は意気投合し、チャーリーはエイミーを公私で支えていく。しかし、チャーリーの着任以来、病院では患者の不審死が相次いで・・・

ポジティブ・サイド

dark cinematography が冴える。普通、薄暗い画面というものはあまり歓迎されないが、物語全体を貫く疑念が、本作では暗さという形で全編にわたって視覚的に表現される。夜勤のシーンが多く、当然のように病棟は消灯されている。このことが不自然な暗さへの違和感を緩和している。

 

ジェシカ・チャステインはアクション映画に出演するよりも、サスペンスやヒューマンドラマ方面にもっと出るべき。看護師としての演技は堂に入ったもの。注射前にシリンジをコンコンとやるのは、まさに看護師あるある。最初の心臓発作の際は、患者の体位変換の只中で、急性腰痛症、いわゆるギックリ腰の発症かと勘違いした。2000年代初頭はアメリカでも体圧分散マットはまだ普及していなかったか。様々なシーンでジェシカ・チャステインの見せる多くの所作や立ち居振る舞いは看護師をよくよく研究していて、実にリアルだった。まさに good nurse 。 

 

対するエディ・レッドメインのベテラン看護師ぶりにも説得力があった。死亡した老女の体を丁寧に清拭する様には真面目な職業人で、死者の尊厳を守ろうとする人間らしさも感じられた。エイミーと友情を紡ぎ、エイミーの娘たちにも positive male figure として接する姿は、こちらもまさに good nurse 。しかし、病棟で患者の不審死が続くようになってから、徐々に観客の疑念が大きくなってくる。

 

警察の介入、そして病院の不可解な対応・・・というよりもあからさまな隠蔽工作に慄然とする。警察の捜査にこっそりと協力するエイミーだが、ここでは病院どころか市議会議員や検察までもが事件に対してみて見ぬふり。アメリカの警察が悪というのはお定まりであるが、これはフィクションではなく実話。このあたりから、エイミーとチャーリーの友情に一気にサスペンス要素が盛り込まれてくる。徐々にあらわになるチャーリーの過去、そしてチャーリー自身が語る元妻や子どもとの関係についても、観る側はエイミー同様にますます疑心暗鬼になってくる。

 

エイミーとチャーリーの最後の面会のピーンと張りつめた緊張感は素晴らしい。これ見よがしなBGMもわざとらしいカメラワークもなく、二人の役者の演技合戦に委ねた感じがした。実際、チャーリーの犯行の動機が不明である以上、下手な味付けは不要だろう。脚本家が変に出しゃばらなかったことも奏功している。最後に明かされる事実については衝撃的の一語に尽きる。アメリカのヘルスケア・システムの歪さはある程度知っていたが、ここまでだったとは・・・。まさに事実は小説よりも奇なり。

 

ネガティブ・サイド

エイミーの心筋症は物語を重くするファクターであり、彼女がチャーリーに頼るようになる重要な契機でもある。その病気がドラマ作りにあまり寄与していない。チャーリーへの疑惑が深まるか、というタイミングで心臓の発作が・・・ 娘たちに対しても親身に接してくれるチャーリーを疑うとは何事かという葛藤が・・・のようなシーンがあってもよかったのではないか。

 

チャーリーが取り調べ室でぽつぽつと語り始めるシーンは少し陳腐に感じた。そこに至るまでの過程がこれ以上ないほどにスリリングだったので、ここで拍子抜けしてしまうのは作劇上、誠に惜しいと言わざるを得ない。

 

ほんの少しだけ医学的な知識が必要になるが、最小限の説明すらなし。日本の映画やドラマのように何もかもを台詞で説明するのもどうかと思うが、まったく説明がないのもやや不親切か。

 

総評

これが実話というのだから恐れ入る。エンディングで明かされる数字には震えあがるしかない。近年、エッセンシャル・ワーカーとして看護師という職業への認知がアップデートされているが、元より看護は医行為を含み、医行為は侵襲を伴うものが多い。今も現役看護師であるJovian母は、よく胸骨圧迫で患者さんの肋骨を折っていた(本人談)。

J「それでどうやったん?」
母「アカンかったわ」

みたいな会話は普通だった。チャーリーのような bad nurse を擁護するつもりは毛頭ないが、人間にダメージを与える行為への看護師の心理的閾値が低いのは間違いない。ではどうすればよいのか?その答えが本作である。看護師はペアで働かせるべし。一人でなにもかもさせてはならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

At the end of the day

その日の終わりに、という意味ではない。これは「結局は」、「最終的には」、「つまるところ」のような意味。劇中では

At the end of the day, we are here for you.
結局のところ、我々は皆さんの味方です。

のように使われていた。結論や重要な点を述べる前に、At the end of the day と言うようにしてみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 秘密の森の、その向こう 』
『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 アムステルダム 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, エディ・レッドメイン, サスペンス, ジェシカ・チャステイン, 伝記, 監督:トビアス・リンホルム, 配給会社:NetflixLeave a Comment on 『 グッド・ナース 』 -医療とは何かを問う-

『 AVA/エヴァ 』 -続編は難しいか-

Posted on 2021年4月18日2021年4月18日 by cool-jupiter

AVA/エヴァ 40点
2021年4月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェシカ・チャステイン ジョン・マルコヴィッチ コリン・ファレル ダイアナ・シルヴァース
監督:テイト・テイラー

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『 女神の見えざる手 』のジェシカ・チャステイン主演作。定期的に制作される女性エージェントの物語だが、割と最近の『 ANNA アナ 』と比較すると、二枚は落ちるかなという印象。

 

あらすじ

暗殺者エヴァ(ジェシカ・チャステイン)は、標的を殺す前に「あなたはどんな悪いことをしたの?」と問いかけるようになっていた。ある任務で、事前に与えられた情報が誤っていたことからエヴァは組織への不信感を募らせる。そして標的に問いかけるという行動を問題視していた組織も、サイモン(コリン・ファレル)にエヴァを始末させようとして・・・

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ポジティブ・サイド

ジェシカ・チャステインというだけでチケットを購入を購入した人は多いだろう。Jovianもその一人。彼女の演技力は折り紙付きで、実際に鉄面皮の殺し屋から情緒不安定な女性的な面までを2時間足らずの間に幅広く披露した。大将という対象を暗殺した後に現場から逃走する際に、か弱い女性のふりをして兵士を騙す変わり身の早さ。ひらひらのドレスのままに格闘から銃撃戦までをこなすタフさ。複数言語を流暢に操る頭脳明晰さ。いずれにおいても説得力のある演技が堪能できる。

 

アメリカ映画でしばしば大きな柱として描かれる父親=positive male figureとの間に因縁があり、それが組織の上司であり、また父親代わりでもあるジョン・マルコビッチとの複雑な距離感につながっている。そのマルコヴィッチも年齢不相応のアクションで見せ場を作る。エヴァとサイモンの両方の師匠であることから、片方は父親の補完、もう片方は父親殺しを成し遂げるという因縁多きキャラクター。この好々爺を間に挟むことで、エヴァとサイモンの激突がよりドラマチックになっている。

 

ジェシカ・チャステインのファンならばチケットを買おう。

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ネガティブ・サイド

ジェシカ・チャステインの走りの不格好さはハリソン・フォードに通じるものがある。アクションの迫力はまあまあだが、それも細かいカットを巧みに編集したもの。ジェシカ・チャステイン本人の athleticism 自体はあまり高くなさそう。女優の運動能力という点では『 悪女 AKUJO 』や『 The Witch 魔女 』といった韓国映画に余裕で負けている。銃撃戦の方はまだしも、近接格闘戦になると、カットごとのつながりが妙にぎこちなく映る。fight choreographer の指導がイマイチというのもあるかもしれないが、ジェシカのパンチやキックのすべてに「何か違う」感がずっと付きまとっている。元軍人の現暗殺者というキャラ設定が、アクションのせいで弱くなってしまうのは本末転倒である。

 

暗殺者のプライベートな面を描くのは興味深い試みだが、そこでも『 ANNA アナ 』に負けている。あちらは一人の女性が二人の男を手玉に取ったが、こちらは一人の男を二人の女(それも姉妹!)で取り合うという修羅場展開。暗殺者のプライベートにまで闘争の種は要らんやろ・・・ しかも、その相手の男も職業がギャンブラーって何やねん。恋愛および結婚対象にしたらダメな属性ナンバーワン。8年も暗殺稼業をやっているエヴァが、この男に未練たらたらである理由がさっぱり分からなかった。

 

サイモンの最期が残念過ぎる。何故にわざわざ人気の少ない方向へと逃げるのか。組織に家族の護衛を要請するなら、同じその電話で自分に応援または足を寄こすようにと言えばいいではないか。エヴァ相手に「俺のほうが殺しのキャリアは上だ」みたいなことを言っていたが、とてもそうは思えなかった。終わり良ければ総て良しと言うが、終わりが悪ければ総て悪しとも言えてしまう。その典型例のような悪役だった。

 

『 マー サイコパスの狂気の地下室 』や『 ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 』のダイアナ・シルヴァースの出番が足りない。というか、続編作る気満々の終わり方だが、それならサイモンの娘であるカミールの強さがほんの少しでもいいから伝わるシーンが必要だったが、そんなシーンも演出も無し。ダイアナ・シルヴァースの無駄使いだった。

 

総評

ジェシカ・チャステインのファンにはお勧めできるが、それ以外にはやや難しい。聞けば途中で監督が降板して、テイト・テイラーが引き継いだらしい。『 ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー 』などでも分かるが、監督が途中で代わるのはマイナスがあまりにも大きい。野球やサッカーは監督交代が奏功することがあるが、映画でそれはまずない(そういう意味では『 ボヘミアン・ラプソディ 』は例外的)。なので、物語や映像、キャラの深堀具合などではなく、ひたすらジェシカ・チャステインを鑑賞したい人のための作品であると了承してから李チケットを買うべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

do ~ justice

~を正当に評価する、の意。作中では”Pictures don’t do you justice.” =「写真はあなたを正当に評価していない」=写真はあなたの魅力をしっかりと写し出していない、のように使われていた。昔、YouTubeでアメリカのボクシング試合を見あさっていた時に、”TV does this fight no justice!” = 「テレビではこの試合の迫力が伝わらない!」というアナウンサーの絶叫を聞いたことがある。こういう表現がさらっと使えれば英会話の上級者と言える。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, コリン・ファレル, ジェシカ・チャステイン, ジョン・マルコヴィッチ, ダイアナ・シルヴァース, 監督:テイト・テイラー, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 AVA/エヴァ 』 -続編は難しいか-

『 IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 』 -もっとホラー要素を強化せよ-

Posted on 2019年11月4日2020年4月20日 by cool-jupiter

IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 50点
2019年11月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ビル・スカルスガルド ジェームズ・マカヴォイ ジェシカ・チャステイン 
監督:アンディ・ムスキエティ

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前編の『 IT イット “それ”が見えたら、終わり。 』はまあまあ面白いホラーだった。全編を子ども時代にしてしまうことで、テレビ映画の欠点だった誰が大人になれて、誰が大人になれないのかを、分からないようにしたのは大胆な改変だったが、正解だった。それでは続編の本作はどうか。こちらが行った大胆な改変は、不正解ではないにしろ、正解とは言い難いものである。

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あらすじ

ルーザーズ・クラブがペニー・ワイズ(ビル・スカルスガルド)を撃退してから27年。デリーには再び不穏な気配が迫りつつあった。そして「イット」の再来を確信したマイクは、ビル(ジェームズ・マカヴォイ)やベバリー(ジェシカ・チャステイン)らに連絡を入れる。ルーザーズ・クラブの面々はデリーで再会を果たすが、そこにはメンバーが一人欠けており・・・

 

ポジティブ・サイド

アラフォーになったルーザーズ・クラブの面々がどのように「大人」になったのか、その描写が端的で素晴らしい。お堅い仕事に就いている者もいれば、安定しているとは言えない仕事に就いている者もいる。結婚している者もいれば、独身の者もいる。しかし、誰もハッピーには見えないし、誰も子どもを持っていない。つまりルーザーズは、どこかでまだ大人に成り切れていないのだ。そのことを下手な説明的な台詞を一切入れずに、映像とナチュラルな会話だけで描き切った導入部は、続編の始まり方としては白眉だろう。

 

キャスティングも良い。ジェームズ・マカヴォイやジェシカ・チャステインといった実力派はもちろんのこと、子役らと顔の作りがよく似た大人を適宜に配置できている。特にエディを演じたジェームズ・ランソンは始めはジェイク・ジレンホールに見間違えた。子役と大人役がスムーズにつながることで、観る側も続編に違和感なく入って行くことができる。このキャスティングも成功である。

 

ペニー・ワイズの見せる恐怖の幻影は本作でも様々な形を取るが、個人的に最も印象に残ったのはベバリーが出会い、会話をする老婆。この老婆が画面の隅っこで見せるわずか1秒のアクションが本作で最も恐怖を感じられるシーンであった。惜しむらくは、この老婆をトレイラーに出してしまっていたこと。観る前から「ああ、このお婆さんも幻影なのだ」と分かってしまっていた。それが無ければ、もっと鳥肌が立っただろうにと感じた。誠に惜しい演出である。

 

それなりに怖いと感じたのは、バワーズが見るかつての悪友の姿。一瞬だけ怖かった。またベンが思い出の品、トークンを取りにいく場面で見る幻影もそれなりに恐怖感を催させてくれた。自分の心の最も美しい部分と自分の心の最も弱い部分が重なるところを攻めてくるペニー・ワイズはなかなかの逆心理カウンセラーだなと思わされた。

 

原作小説にもテレビ映画にもなかった要素として、ネイティブ・アメリカンのガジェットを追加してきたのは、アイデアとしては悪くない。事実、オーストラリアのアボリジニの伝承には、どう考えても数万年前のオーストラリアの生態系を指しているとしか考えられない内容があると『 コズミックフロント☆NEXT 』が言っていた。ペニー・ワイズの正体と起源に迫る上で、この着想は悪くなかった。

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ネガティブ・サイド

ホラー映画であるが、怖くない。これは致命的な欠陥である。本作が怖くない最大の理由は、ジャンプスケアの多用にある。もはや様式美と言っていい程にパターン化されたジャンプスケアには、辟易させられる。自分が監督でも、ここでこれをこうしてああするだろう、という展開のオンパレードである。ホラー映画ファンを唸らせるシーンは数えるほどしかない。

 

またビジュアルにも特筆大書すべきところはない。というよりも、どこかで見たような演出やクリーチャーの造形には心底ガッカリさせられた。パッと思いついただけでも『 遊星からの物体X 』や『 スコーピオン・キング 』、『 シャイニング 』に劇中でまさに上映中だった『 エルム街の悪夢 』など。名作へのオマージュだと言えば聞こえは良いが、これが監督や脚本家の想像力の限界なのだろうか。テレビ映画版を超えなければならない、2年前公開の前編を超えなければならない。そうした気概が空回りしたのなら、まだ許せる。しかし、この作り方では最初からモンタージュ的な映画を作ってやろうという風に開き直っていたようにしか感じ取れない。

 

色々とタイミングも悪いのだろう。『 キャプテン・マーベル 』で猫=ヤバい生き物という認識を映画ファンは新たにしたわけであるが、そこへポメラニアンを持って来ても、残念ながら意外性も驚きも恐怖もない。また社会の闇と自分の心の闇の両方に押し出されるようにジョーカーに堕ちて行ったキャラを我々はすでに『 ジョーカー 』に見た。大人の構築した社会の網目から外れた部分で活動する子どもたち、なかんずくルーザーズの面々が自らのトラウマを刺激されながらも、それを乗り越えていく様は勇ましく、美しい。けれども、恐怖が本当の恐怖たり得るのは、それが自分の身に起こってもおかしくない時である。そうした意味で、『 ジョーカー 』は自分の心にある闇を抉り出してくれた。自分は本作にホラー映画要素を過大に期待していたのだろうか。この続編にして完結編は、『 グーニーズ 』や『 スタンド・バイ・ミー 』、『 ぼくらの七日間戦争 』、藤子不二雄Aの漫画『 少年時代 』のように、大人の目から見た子どもたちの奮闘記のように思える。そうした観点から鑑賞すれば本作は佳作である。しかし、ホラー映画としてはダメダメである。

 

原作にある (゚Д゚)ハァ? というベバリー絡みの展開は、本作でも採用されない。R15指定とは何だったのか。また黒人差別の要素を薄める一方で、性的マイノリティ、あるいは性的弱者の要素もカット。テレビ映画版のとあるキャラクターがある秘密を告白するシーンは、大人と子どもを分かつ非常に重要な要素に関することだっただけに、その部分をほのめかすだけでばっさりとカットしてしまった本作には喝である。

 

総評

筋金入りのホラー映画ファンを満足させる、あるいは納得させる作品ではない。それだけは言える。一方で、変則的な青春もの、大人たちによるジュブナイル物語だと思えば、そこそこのクオリティの作品に仕上がっているのではないか。大御所スティーブン・キング作品の映像化は当たり外れが比較的はっきりしている。本作は残念ながら外れ寄りの作品であるというのが私見である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

What did I miss?

 

直訳すれば「自分は何を見逃した?」だが、実際の意味は文脈によって異なる。『 ボヘミアン・ラプソディ 』で、クイーンのメンバーが郊外のスタジオで曲作りをしている時のディスカッションが言い争いに発展していく中、ラミ・マレック演じるフレディが遅れてやって来て開口一番に言う台詞がこれである。会議に遅刻した時には「どこまで話が進みましたか?」、映画や劇や漫才などの途中でトイレなどに言って帰って来た時に、連れに「なんか面白い展開あった?」などと言う時にもこれを使える。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, ジェームズ・マカヴォイ, ジェシカ・チャステイン, ビル・スカルスガルド, ホラー, 監督:アンディ・ムスキエティ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 』 -もっとホラー要素を強化せよ-

『 X-MEN:ダーク・フェニックス 』 -X-MENシリーズ、着地失敗-

Posted on 2019年7月8日2020年4月11日 by cool-jupiter

X-MEN:ダーク・フェニックス 45点
2019年7月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ソフィー・ターナー ジェームズ・マカヴォイ マイケル・ファスベンダー ジェシカ・チャステイン
監督:サイモン・キンバーグ

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Marvel Cinematic Universeが一つの区切りに達したところでMonsterVerseが本格的に指導し始めた。まさに映画の時代の区切りの感がある。そこで『 X-MEN 』シリーズの最終作品が届けられる。はっきり言ってX-MENシリーズは玉石混交である。しかし、All is well that ends well. 最終作品の評価を以ってシリーズ全体を総括することも可能であろう。では本作はどうか。残念ながら、やや駄作であった。

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*以下、ネタばれに類する記述あり

 

あらすじ

ミュータントと人類が共存する時代が到来していた。そこで宇宙探査機の事故が発生する。米政府はX-MENにレスキュー・ミッションを依頼し、プロフェッサーX(ジェームズ・マカヴォイ)は受諾。宇宙空間での救出作戦は成功したかに思えた。しかし、ジーン・グレイ(ソフィー・ターナー)の中には本人も気付かぬ変化が生じており・・・

 

ポジティブ・サイド

トレイラーにもある、列車内のアクションシーンは非常にスリリングである。それは列車という細長い空間内でカメラのアングルが縦横無尽に変化していくからだ。一方通行の戦いを多角的に見る。閉鎖空間内のアクションを堪能するために必要な工夫である。ココはとても楽しめる。

 

マカヴォイやファスベンダーら、英国で最も実力ある俳優たちが共演するのも本シリーズならではである。パトリック・スチュワートとイアン・マッケランも悪くないが、Jovian個人としてはジェームズ・マカヴォイとマイケル・ファスベンダーの方が、プロフェッサーXやマグニートーを表現しているように思うのである。特にチェスのシーンは、『 X-MEN2 』を思い起こさせてくれた。つまり、終わったと言いながらも「俺たちの戦いは終わらない」的なことを感じさせてくれたのである。実際に、続編に色気を出したエンディングを迎えているし、このあたりは『 X-MEN: アポカリプス 』と同じである。History repeats itself. 同時に『 X-MEN: ファースト・ジェネレーション 』の構図でもある。実際にサイクロップスは「自分たちが最後のファースト・ジェネレーション(First Class)だ」と明言する。セカンド・ジェネレーションの存在を力強く示唆する言葉であり、今後はディズニーの元、同じく第二世代のアベンジャーズやファンタスティック・フォーに合流していく伏線であるとも取れる。期待せずに期待したい。

 

ネガティブ・サイド

オリジナリティが無い。これが最初に目につく本作の欠点である。まず、ジーンの変化のきっかけがそのまんま『 ノイズ 』(監督:ランド・ラヴィッチ)である。そして登場する宇宙人がほとんどそのまんま『 サイン 』(監督:M・ナイト・シャマラン)である。また、ジーンの幼少期の悲劇が、これまたほとんどそのまんま『 シャザム! 』のシヴァナの見に起こった事故である。ダーク・フェニックスとなったジーンにクイック・シルバーが立ち向かっていくシーンは、そのまんま『 ジャスティス・リーグ 』におけるスーパーマンに向かっていくフラッシュの構図である。ことほど然様に本作はオリジナリティに欠ける。終盤の列車内バトルの鮮烈さと対照的である。実際に、終盤は監督を変えて最撮影したものらしい。なるほど、と得心する。これまでに製作の面でX-MENに携わってきたキンバーグであるが、監督としての才能は凡庸であった、またはこのような大作のメガホンを取るにはキャリアが浅すぎたと判断せざるを得ない。

 

キャラクターにも一貫性を欠く。これは『 デッドプール 』でも触れられていたが、タイムラインが混乱している。例えば、チャールズ・エグゼビアは『 LOGAN ローガン 』では自らの人生を悔いていた。自らの為した仕事を失敗だったと涙ながらに後悔していた。そのことは、本作の中盤までのチャールズと共通する。しかし、終盤で明らかになる彼の本心とは矛盾するというか、相容れない。また、マグニートーというキャラクターの一貫性にも混乱が見られる。『 X-MEN: ファイナル ディシジョン 』のイアン・マッケランはいとも簡単にミスティークを見捨てたが、本作ではマイケル・ファスベンダーはミスティークの死を知ったことで弔い合戦に参加してくる。ウェイド・ウィルソンの言葉をそのまま借りて言えば、「タイムラインが混乱している」のである。

 

だが最大の弱点はジェシカ・チャステインのキャラであろう。X-MENの世界にX-ファイルが入り込んできた。それがJovianの偽らざる感想である。いや、オリジナリティの欠如だけなら、まだ許せないことはない。問題は、一体全体どのようにしてジェシカ・チャステインという当代随一の女優を、これほど無味乾燥で、物語に何の彩りも添えることのないキャラクターに落としてしまうことができたのか、である。ジェシカ・チャスティンと愉快な仲間たちは、はっきり言って倒されるためだけに存在している。その仲間たちもアクションに華を加えることには役立ったが、物語にスリルやサスペンスを加えることはなかった。というか、このように地球人の皮をかぶる宇宙人と戦うに際してこそ、ミスティークの能力が輝くのではないか。ミスティークの死は、単にミュータントを集める口実にしかならない。紆余曲折を経てミュータントが一堂に会し、宇宙から脅威およびジーン・グレイに立ち向かい、その戦いの最中、ミスティークが非業の死を遂げる。そうした脚本を誰も描くことができなかったのか。それともジェニファー・ローレンスのギャラが高騰してしまうのが不都合だったのか。

 

もっとダイレクトに不満に感じることを言ってしまおう。ミュータントはそもそも共同体や社会、国家におけるマイノリティの象徴だったはずだ。そうした顧みられざる者たちが、異能の存在者として世界に居場所を見つけようとする叙事詩がX-MENだったはずだ。しかし、『 インディペンデンス・デイ 』のウィットモア大統領の演説、“We can’t be consumed by our petty differences anymore.”よろしく、安易に地球外の生命体を登場させることで「我ら皆、地球人にて候」と非常に安易な二項対立の構図に物語を収斂させてしまうことが気に食わない。ダーク・フェニックスは確かにダークな存在ではあるが、彼女が人間社会にもたらした破壊と暴力は、過去のミュータント連中、例えばマグニートーやミスティーク、ナイトクローラーのそれと比べると、一段落ちる。にも関わらず、殊更に彼女を脅威であるかのように煽るので、辛抱強くシリーズに向き合ってきた者としてはどうにも腑に落ちない。まさしく franchise fatigue の悪弊である。

 

総評

言いたいことが色々とあってまとまらないが、これでX-MENが終わりであるというには、余りにもお粗末な締めくくりである。死に際して紅蓮の炎に飛び込み、灰燼の中から復活する不死鳥のように、おそらく本シリーズもいつの日か復活するであろう。その時は練りに練った脚本と斬新な映像演出を期待したい。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SFアクション, アメリカ, ジェームズ・マカヴォイ, ジェシカ・チャステイン, ソフィー・ターナー, マイケル・ファスベンダー, 監督:サイモン・キンバーグ, 配給会社:20世紀フォックス映画Leave a Comment on 『 X-MEN:ダーク・フェニックス 』 -X-MENシリーズ、着地失敗-

女神の見えざる手

Posted on 2018年6月8日2020年2月13日 by cool-jupiter

女神の見えざる手 85点

2017年10月22日 大阪ステーションシネマおよびブルーレイにて観賞
出演:ジェシカ・チャステイン マーク・ストロング クリスティーン・バランスキー
監督:ジョン・マッデン

ロビイスト映画の、これは白眉である。『 シン・ゴジラ 』並みのポリティカル・サスペンスであり、『ア・フュー・グッドメン』のようなスリラーでもある。銃メーカーがロビイング活動を請け負う会社に、女性が銃に対しても抱くイメージを変えてほしいと依頼するところから物語は始まる。銃を持つことで手に入れられる安心、強い母親のイメージ、それらを前面に押し出してほしいという依頼をしかし、ジェシカ・チャステイン演じるエリザベス・スローンは一笑に付す。ここから彼女は所属する大手ロビー会社を退社。マーク・ストロング率いる小さなロビー会社に移籍し、銃規制法案に働きかけていく。

冒頭に、“Lobbying is about foresight. About anticipating your opponent’s moves and devising counter measures. The winner plots one step ahead of the opposition. And plays her trump card just after they play theirs. It’s about making sure you surprise them. And they don’t surprise you.”という独白がある(実際には聴聞会のリハーサルだが)。この台詞の意味をよくよく噛みしめて今後の物語展開を見守って欲しい。予想してほしいではなく、見守って欲しいと願うのは、エリザベスの孤高の強さと弱さをその目に焼き付けてほしいからだ。話の展開を予想して、当たった外れたと一喜一憂することにさほどの意味は無い。少なくともこの映画に関しては。なぜなら、このストーリーの先が読める人は、余程のすれっからしか、さもなければロビイストだからだ。

それにしても、このエリザベス・スローンというキャラクターは異色である。2016~2017年にかけては、特に女性の女性性を大きく覆すような映画が多数公開されてきた(最も分かりやすい例は『ワンダーウーマン』と『ドリーム』か)ように感じるが、その中でも最も輝いているのは、おそらくこの Miss Sloane であろう。敵も味方も欺き、睡眠時間も削り、ストレス解消と言えば男娼を買うことで、勝つためなら法律違反も厭わないその姿勢は、観る者に問いかける。「あなたはここまでやりますか?」と。同時に、「ここまでやって勝った先に、いったい何があるのか?」という問いも必然的に発生する。彼女が求めたのは勝利なのか、それとも自己満足だったのか、それとも安息だったのか。ラストシーンで、彼女の目線の先にある者/物はいったい誰/何であったのか。

それにしてもジェシカ・チャステインという稀代の女優はここに来て、一気に花開いた感がある。『 ゼロ・ダーク・サーティ 』や『 モリーズ・ゲーム 』でも同工異曲のキャラを演じきったが、『 ヘルプ 心がつなぐストーリー 』では少し抜けたようでいて芯に強さのあるキャラも演じた。『 スノーホワイト 氷の王国 』のような微妙な作品に出演したこともあるが、作品のそのものの完成度の低さが、彼女自身の演技力や存在感を棄損したことは一度もない。希有な女優であると言える。何でもかんでもアメリカ様の後追いをする島国の、政治に危機意識を持つ人、キャリアに対して妥協を許したくない人にはぜひ観てほしい逸品である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アメリカ, サスペンス, ジェシカ・チャステイン, フランス, 監督:ジョン・マッデン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 女神の見えざる手

『 モリーズ・ゲーム 』 -The fact is stranger than fiction-

Posted on 2018年5月23日2020年2月13日 by cool-jupiter

題名:モリーズ・ゲーム 75点
場所:2018年5月21日 東宝シネマズなんばにて観賞
主演:ジェシカ・チャステイン
監督:アーロン・ソーキン

今の日本で最も売れていて最もノッている40代女性の役者はおそらく吉田羊だろう。では今のアメリカで最も売れていて最もノッている40代女性の役者はおそらくジェシカ・チャステインだろう。『ツリー・オブ・ライフ』、『 ヘルプ 心がつなぐストーリー 』、『ゼロ・ダーク・サーティ』、『インターステラー』、『 女神の見えざる手 』などの傑作に貢献する一方で、『 スノーホワイト 氷の王国 』や『 オデッセイ 』といった駄作にも出演してしまった。だがしかし、映画が作品としてパッとしなくとも、チャステイン自身がパッとしなかったということはこれまで決してなかった。今後も無いであろう。

厳格な父の元、幼少の頃から勉強とモーグルに打ち込んできたが、背骨に故障。医師の助言もあり、ここでスキーをあきらめるかと思いきや、あっさり復帰。五輪代表にあと一歩というところに迫る中で不運なアクシデント。「スポーツで最悪なのは五輪で4位になること?マジで?ふざけんな!」で締めくくられる一連の怒涛のナレーションで、主人公モリーの前半生があっさりと描かれる。まさにモーグル的なアップダウンと疾走感で一気に観客を物語世界に引き込む。2017年の私的ベスト『 ベイビー・ドライバー 』の冒頭のカーチェイス・シークエンスに優るとも劣らない見事なイントロである。

モリーがいかにしてロースクール進学を先延ばしし、職を得、そして失い、自分でポーカールームをマネジメントするまでに至ったのか。彼女を突き動かす原動力が何であるのかは物語終盤に明らかになるが、これはある意味で予想されていたこと。しかしその見せ方とタイミングが絶妙だ。ケビン・コスナー演じるモリーの父親は、アメリカ的な父親、つまり家父長制度の長であることを体現する一方で、いわゆる幻想の良き父をも体現するという離れ業をやってのける。スーパーマンのリメイクや『 ドリーム 』などでもそうだったが、父親的なフィギュアで好演を見せ続ける今、まさに円熟期であると言えよう。ネタバレにならない程度に留めて書くならば、この物語はほとんど全て、モリーが父親的存在を殺し、父親的存在を許していく過程を描く話、つまりは父殺しだ。モリーが挑発的な服装と言動を見せつつも、決して性を売り物にしない理由もそこにある。

もう一人のモリーにとっての重要な父親的存在としてイドリス・エルバ演じる弁護士についても言及せねばならない。『 マイティ・ソー 』シリーズ、そして『 ダークタワー 』などで重要な役割を演じてきたが、彼のキャリアの中でもこれは Best Performance である。クライアントであるモリーを時に諭し、時に叱り、時に寄り添い、そして全力で守る。『 ダークタワー 』では我が子を千尋の谷に突き落とすような父親像を打ち出していたが、本作ではモリーの実父を演じたケビン・コスナー以上に、父親としての温かみ、厳しさ、生々しさを観る者に感じさせた。エルバが娘にどのように接しているのか、そしてモリーがそれをどのように受け取っているのか、エルバの登場シーンからはそこにも注目しながらストーリーを堪能してほしい。

モリーが掴み取っていく成功と遭遇する悪意や恐怖、それらが絡まり合い限界点に達する時、父親像の破壊と再創造の瞬間がやってくる。詳しくは述べられないが、ぜひこの父娘の反発と和解を味わってもらいたい。そしてクライマックスの裁判から感動のエンディングへ一気になだれ込んでほしい。そこで初めてモリーが言った「スポーツで最悪なのは五輪で4位になること?マジで?ふざけんな!」の言葉の意味を悟るからだ。そこで受け取るメッセージはきっと観る者を勇気づけるはずだ。2時間20分の長丁場の映画だが、体感では1時間50分ほどだったか。ぜひ多くの人に観てもらいたい作品である。

 

 

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, ジェシカ・チャステイン, ドラマ, 監督:アーロン・ソーキン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 モリーズ・ゲーム 』 -The fact is stranger than fiction-

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