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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 映画

『 入国審査 』 -移住の勧め・・・?-

Posted on 2025年8月4日2025年8月4日 by cool-jupiter

入国審査 70点
2025年8月2日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:アルベルト・アンマン ブルーナ・クッシ
監督:アレハンドロ・ロハス フアン・セバスティアン・バスケス

 

残業weekなので簡易レビュー。

あらすじ

米国移住のためスペインからニューヨークに降り立ったディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)は、乗り継ぎの際に空港職員に別室に誘導される。型通りの質問はやがて拒否権のない尋問へと変わっていき・・・

ポジティブ・サイド

単純なプロット、非常に短い時間、そして非常に限定された空間だけで、極めて濃厚なサスペンスとドラマを生み出すことに成功している。

 

本作の尋問の数々に『 港に灯がともる 』のネガティブ・サイドを思い出した。帰化の経験がある人は少ないだろうが、お国というのはしばしば一線を越えた質問をしてくる。書いてしまうと問題になりかねないので書けないのだが、本作を見て思い出したのが帰化前の法務局のお役人様との面談だったということ、それ自体が日本(そしてたいていの国)の本音を雄弁に物語っていると言えよう。

 

印象的だったのはBGM。BGMの使い方ではなく、いかにBGMを使わずに状況を描写するのか。環境音や空港の放送の声が非常に無機質かつ緊迫感を伴ったものになっていくというのは、非常に得難い経験だった。序盤のちょっとした会話が大きな伏線になっていたりと、脚本も上質。劇場鑑賞を逃しても配信やレンタルでぜひ鑑賞されたし。

 

ネガティブ・サイド

ボールペンはどうなった?

 

エレナは色々と迂闊すぎ。ディエゴはもっと色々と迂闊すぎ。もう少し地に足の着いたキャラクターでも同等のサスペンスは生み出せたのではないかと思う。

 

総評

低予算映画のお手本のような構成。77分という短時間ながら体感では105分ほどのボリューム感があった。アメリカがフォーカスされてはいるが、日本に置き換えて鑑賞してもOK。入管といえばウィシュマ・サンダマリ事件が想起されるが、人権意識に欠けた対応が日常茶飯事になっていることは想像に難くない。参院選できな臭い政党が議席数を大幅に伸ばしたが、出入国管理は厳密に、しかし適正に行ってほしいと切に願う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Third time’s a charm.

三度目の正直の意。一度目の挑戦でうまくいかなくても、粘り強く挑戦し続ければいつかは報われるかもしれない。職場や日常生活で  “Don’t give up yet. They say ‘Third time’s a charm.’” のようにサラッと言えれば英検1級以上だろう。知っているというのは passive knowledge、使えて初めて active knowledge と言える。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 近畿地方のある場所について 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アルベルト・アンマン, サスペンス, スペイン, ブルーナ・クッシ, 監督:アレハンドロ・ロハス, 監督:フアン・セバスティアン・バスケス, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 入国審査 』 -移住の勧め・・・?-

『 BAD GENIUS バッド・ジーニアス 』 -カンニングはやめよう-

Posted on 2025年7月29日2025年7月29日 by cool-jupiter

BAD GENIUS バッド・ジーニアス 60点
2025年7月27日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:カリーナ・リャン
監督:J・C・リー

 

休日出勤&残業weekなので簡易レビュー。

あらすじ

移民の子のリン(カリーナ・リャン)は全米トップクラスの頭脳の持ち主。それにより奨学金を得て、名門高校に入学し、グレースと友人になる。リンは試験に呻吟するグレースをアシストしてしまうが・・・

ポジティブ・サイド

原作の天才ふたりに、移民の子かつ有色人種という味付けをほどこしたのは、いかにもアメリカらしい。さらにそうした天才の頭脳をうまく搾取しようとするのは、やはり白人。しかもとびっきり頭が悪そうな奴ら。製作者たちはよく分かっている。

 

クンタ・キンテを持ち出すことで、黒人コミュニティの中の序列を見せつけ、さらにもう一人の天才バンクの背景についても示唆するという手法は見事だった。ボブ・グリーンの『 マイケル・ジョーダン物語 』で、ジョーダンが『 ルーツ 』について熱く語るシーンが印象に残って、岡山の紀伊国屋で『 ルーツ 』を買ってもらい、読んだ記憶がある。上下巻だったかな。

 

閑話休題。

 

第二次トランプ政権は発足早々に不法(とされる)移民を大量に送還し、留学生数にもキャップを設けようとしているが、たとえばアメリカの大学院レベルで情報学やコンピュータサイエンスを学んでいるのは圧倒的にインド人と中国人が多い。こうした学生を減らしてしまうと、後々にシリコンバレー自体が弱ってしまうことに気付いていない、あるいはその可能性から目を背けているのが彼の国の現状。そうした現状を背景に本作を見れば、最後のリンの決意がかなり独特な色彩を帯びたものとして映ってくるだろう。

 

ネガティブ・サイド

リンがクロスカントリーの実力者であるという設定はどこに行ったのか。まったく無用の設定だった。

 

リンが某試験の計算内容を用紙に残してしまうとは、本当に天才か?こんな smoking gun を残してしまうのはあまりにも間抜けだろう。その後の学校生活で要注意人物として教師たちに目を付けられるはずだが。

 

リンがなぜ音楽をそこまで勉強したいのかが、少しわかりにくい。というか説得力に欠けた。母親との大切な思い出であり、辛い現実からの逃避先でもあるのは分かるが、それをカンニングに使おうというのは、いくら子どもとはいえ倫理的にどうなのか。

 

総評

鑑賞後、オリジナルの『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』と同時に『 ルース・エドガー 』も思い起こした。脚本家が同作の監督兼脚本なのか。アメリカ社会の課題をうまく作品世界に落とし込んでいる。日本でもTOEICの不正受験が最近ニュースになったり、少し前には就活・転職時のSPIの替え玉受験もニュースになった。カンニングについて考えるきっかけになる作品だと言える。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Resolvere. Provocatio vincere. 

試験の教室の壁に書かれていた標語。直訳すると To solve. To conquer the challenge. となる。ある程度英語に慣れた人なら、resolvereにresolveが見えるだろうし、provocatioにはprovocationが見えるだろう。興味のある人は etymology dictoinaryで調べるとよい。日本語に訳すなら「(問題を)解くこと。(それは)困難に打ち勝つこと」となるだろうか。これはカンニングの手法およびリンの決断の両方を示唆していることに鑑賞後に気づくことだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 入国審査 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, カリーナ・リャン, クライムドラマ, サスペンス, 監督:J・C・リー, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 BAD GENIUS バッド・ジーニアス 』 -カンニングはやめよう-

『 この夏の星を見る 』 -新たな連帯の形を思い起こす-

Posted on 2025年7月24日2025年7月24日 by cool-jupiter

この夏の星を見る 75点
2025年7月20日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:桜田ひより
監督:山元環

 

簡易レビュー。

あらすじ

宇宙にあこがれを抱く亜紗(桜田ひより)は、高校で天文部に入部。頼れる顧問や先輩、そして志を同じくする同級生たちと出会う。しかし、新型コロナの流行により、彼女たちの活動のみならず、日本中の学校や社会全体が多大な影響を受けてしまい・・・

ポジティブ・サイド

茨城の高校の実話に基づくらしい。うーむ、すごい。天文部というのはユニークだし、手作りで望遠鏡を作ったり、それでスターキャッチコンテストをしたりするというのは本当にロマンがある。

 

茨城、東京、長崎でそれぞれにドラマが進行していく。一見して脈絡のないキャラクターたちの物語が徐々につながっていく構成は素晴らしかった。コロナがもたらした変革に、各種オンラインツールの発達と普及が挙げられる。人と人との物理的な接触が禁じられても、人は交流できるし、遠くにいる誰かは別の誰かを照らす光になれるのだ。そういう意味では2024年の私的邦画ベスト『 夜明けのすべて 』に近いクオリティである。

 

ネガティブ・サイド

黒川想矢はもう少しサッカーの練習をしてから撮影に臨むべきだった。

 

最後の最後に少し萎えた。ドラマチックとロマンチックは両立しうるが、ドラマチックとファンタジックは必ずしも両立しない。supernaturalな力が働いたかのような見せ方は演出過剰だった。

 

総評

天体観測の話だとチラッと耳にしてチケット購入。なかなかの力作だった。『 フロントライン 』と同じく、コロナ禍の記憶が新しい今こそ観るべき価値が高い。外国の映画(特に英語圏のもの)はかなり入念にリサーチした上でチケットを買うことが多いが、邦画は今後は直観にもっと従ってチケット購入してもいいかもしれない。もちろん監督や脚本家の名前ぐらいはチェックすべきだろうが。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

astronomer

天文学者の意。『 インターステラー 』や『 アド・アストラ 』で astra = star だと触れた。astronomyをやっている人だからastronomerというわけである。実はこの単語、アルファベットに分解して並べ替えると moon starer = 月を眺める人になる。スターキャッチは難しくても、お月様は見上げて宇宙に思いを馳せるのは難しいことではない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 入国審査 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, 日本, 桜田ひより, 監督:山元環, 配給会社:東映, 青春Leave a Comment on 『 この夏の星を見る 』 -新たな連帯の形を思い起こす-

『 愛されなくても別に 』 -家族愛という呪縛を断つ-

Posted on 2025年7月22日2025年7月22日 by cool-jupiter

愛されなくても別に 80点
2025年7月19日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:南沙良 馬場ふみか
監督:井樫彩

 

連日の残業につき簡易レビュー。

あらすじ

大学生の宮田(南沙良)は、実家暮らしながらバイトに明け暮れ、学費を自分で払いつつ、家にも金を入れていた。ある時、バイト先の疎遠な同僚の江永(馬場ふみか)の父親が殺人犯であるという噂を耳にした宮田は、江永と距離を縮めていき・・・

ポジティブ・サイド

親のわずかな愛にすがる宮田と、親からの愛を完全に諦めた江永、そして親からの過剰な愛に苦しめられるアクア(本田望結)が皆、非常にリアルだった。

 

我々はつい自分の不幸と他人の不幸を比べたがるが、そんな姿勢を一撃で喝破してくる江永というキャラの奥深さよ。

 

去年まであちこちの大学で非常勤講師をしていたJovianから見ても、宮田というキャラは非常に再現度が高かった。実際にこういう不幸な子はそこここにいるはずだ。

 

『 真っ赤な星 』と同じく寓意に満ちた画作りも冴えている。水槽や浴槽が、池や海との対比になっているのは見事だった。

 

ネガティブ・サイド

宙(コスモ)様のキャラにだけ一貫性を感じなかった。親あるいは家族との距離感に悩む人間をターゲットにしているようだが、宮田を落としかけた話術は江永には通じない。ということはアクアにも通じないのでは?

 

総評

Jovianの推しである南沙良が主演、そして監督は『 真っ赤な星 』の井樫彩ということでチケットを購入したが、これは大当たり。非常にダークな物語の中で人間のダークサイドを見せつけられるが、そんな中でも人は連帯できるという希望が確かに存在するのだという信念が伝わってくる。2025年の邦画のベスト候補の一作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

scholarship

奨学金の意。get a scholarship または receive a scholarship で「奨学金を得る」という意味になる。複数の奨学金を受け取る場合は、get / receive scholarships と複数形にもなる。成績優秀であれば奨学金を返済不要にするという制度を拡充してほしいと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 桐島です 』
『 入国審査 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 南沙良, 日本, 監督:井樫彩, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ, 青春, 馬場ふみかLeave a Comment on 『 愛されなくても別に 』 -家族愛という呪縛を断つ-

『 ハルビン 』 -歴史的暗殺劇を淡々と描写する-

Posted on 2025年7月18日 by cool-jupiter

ハルビン 60点
2025年7月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヒョンビン リリー・フランキー
監督:ウ・ミンホ

 

伊東博文暗殺劇に興味がわき、チケット購入。残業続きで余裕がないため簡易レビュー。

あらすじ

大韓義軍のアン・ジュングン(ヒョンビン)は日本軍と交戦し、勝利する。しかし、捕虜として解放した将兵がヒョンビン不在の義軍を襲撃。ヒョンビンは大韓義軍の幹部たちからスパイとしての疑惑の目を向けられることになり・・・

ポジティブ・サイド

特に深い説明もなく、いきなり対日本軍のゲリラ戦が始まる。テンポがいい。

 

アン・ジュングンが英雄として祭り上げられていく映画かと思っていたが、実際はその逆。大韓義軍の中でアン・ジュングンがある意味で孤立化し、それでも一軍を率いて前線に立ち続ける姿は英雄というよりは孤高の人だった。この解釈は面白い。

 

リリー・フランキー演じる伊東博文の韓国の統治論は、真理ゆえにまさに韓国人の最も気に食わないところだろう。

 

韓国、ウラジオストク、満州、ハルビンと国際的なスケールで物語が進行していく。その中にスパイも紛れ込み、緊張感が否応なく増していく。アン・ジュングンがコン夫人にロシア語を尋ねたのは史実だろうか。テロリストではなく義士として国際的にも歴史的にも名を遺す名シーンにつながった。

 

ネガティブ・サイド

日本を悪者にしたいのは分かるが、そもそもアン・ジュングンが捕虜を解放しなければよかっただけの話。これはこれでアン・ジュングンの説く平和論につながるのだろうが、劇中でその側面が強調される効果は生まれていなかった。

 

森という軍人さんは頑張ってはいたものの、日本語に難あり。名のある役者は好感度ダウンを恐れて引き受けなかったのだろうが、無名かつ野心のある日本の役者ならオファーを受けたことだろう。ここは日本人の役者を起用すべきだった。

 

アン・ジュングンの周囲にスパイが送り込まれ、それは誰なのかというサスペンスが盛り上がるが、このハラドキ感は長続きしなかった。容疑者が実質一人しかいないからだ。

 

総評

韓国ではヒット、しかし日本では興行的にはさっぱりだろう。ただ、日本も閔妃暗殺やら張作霖爆殺やら色々とやらかしていることを忘れてはならない。閔妃の悲劇的な最期もそのうち映画化されるだろう。選挙前なので政治的なことを言うが、外国とは別に仲良くする必要はない。ただ、敵に回すようなことはすべきではないということ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

トンジ

同志の意。ロシアや一昔前の日本の過激派左翼と同じで、仲間のことは同志と呼ぶのが韓国でも習わしだったようである。韓国の抗日映画は今後も作られると思うので、そうした作品ではトンジという言葉が飛び交うことだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 桐島です 』

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, ヒョンビン, リリー・フランキー, 歴史, 監督:ウ・ミンホ, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 ハルビン 』 -歴史的暗殺劇を淡々と描写する-

『 スーパーマン(2025) 』 -リブート失敗-

Posted on 2025年7月14日2025年7月14日 by cool-jupiter

スーパーマン(2025) 30点
2025年7月12日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:デビッド・コレンスウェット レイチェル・ブロズナハン ニコラス・ホルト
監督:ジェームズ・ガン

 

『 ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結 』のジェームズ・ガンが、DCEU最強の男をリブート。結果は惨憺たるものだった。

あらすじ

普段は新聞記者のクラーク・ケント、しかしその正体はクリプト人のスーパーマン(デビッド・コレンスウェット)は、他国の紛争に未然に介入する。それにより同僚かつ恋人のロイス・レイン(レイチェル・ブロズナハン)からインタビューを受けるが・・・

ポジティブ・サイド

リブートされた世界ということでスーパーマンのオリジンについてスリム化して、ナレーションで終わり。これには別の狙いもあったのだが、『 スパイダーマン 』や『 バットマン 』がリブートされるたびに謎のクモに咬まれたり、両親が射殺されたりといったシーンを見せられるのにはウンザリしていた。誰もが知るヒーローの物語の導入はこれぐらい軽くても構わない。

 

スーパーマンを演じたデビッド・コレンスウェットは、憂いを帯びたカヴィルとは違い、スーパーマンのスーパーな部分ではなくマンの部分を大いに強調したキャラを打ち出した。それはそれでアメリカの今を映し出しているとも言える。世界の警察を公式にやめたアメリカは、その力をどのように振るうべきなのか、あるいは振るわないでいるべきなのか。

 

ミスター・テリフィックは初めて知ったが、なかなか味のあるキャラだと感じた。

ネガティブ・サイド

スーパーマン&ロイス・レイン&ジャスティス・ギャングのノリが、まんま『 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー 』で、ちょっとついていけなかった。ここらへんは波長が合うか合わないかの問題で、作品の良し悪しではなくテイストの問題。

 

しかし、開始1分でスーパーマンの敗北が描かれるのは、まあ良いにしても、その相手がウルトラマンとはこれ如何に?さらに次に送り込まれるレックス・ルーサーからの刺客がKaiju?訳が分からん。その怪獣もジャスティス・ギャングによって意味不明な倒され方をする。ジャスティス・ギャングが強いのか弱いのか、まったく伝わってこない。

 

謎のポータルの先にあるポケット・ユニバースも気に食わない。別の次元が云々をやり始めたら、MCUと同じように franchize fatigue = シリーズ疲れを生み出すのは間違いない。このポケット・ユニバースにはブラックホールに流れ込む反陽子の河があり、「ははあ、反陽子(別に陽電子でも何でもいい)があるということは、ここからウルトラマンを連れてきたのか」と一人で納得していたが、実態はさにあらず。種明かしはされたものの、「それはもうジーン・ハックマンが三作目でやったやろ・・・」という内容。

 

そのレックス・ルーサーもなんか違う。ジーン・ハックマンのようなユーモラスなヴィランでもなく、ジェシー・アイゼンバーグのようなナチュラルに狂った天才型でもなく、どこか特徴に乏しかった。ルーサーの本領はビジネスや政治以上に、サイエンスにあるはずだが、恋人関係やら何やかやを盛り込みすぎて、芯のはっきりしたヴィランになっていなかった。

 

スーパーマン自身の葛藤を描くのは全然かまわないのだが、生みの親か、それとも育ての親かというテーマは『 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス 』のスター・ロードで一度追求した。今回も全く同じテイストでそれをやるというのは、首尾一貫していると見るべきか、それともワンパターンと言うべきか。まあ、後者か。そのスーパーマンは最後の最後に一種の胎内回帰願望というか幼児退行というか、とにかく( ゚Д゚)ハァ?という反応を見せて終わる。ロイス・レインは恋人を手に入れたと思ってはならない。そこにいるのは、頼りになる恋人ではなく、ただのでかい息子である。

 

総評

最初から最後まで訳が分からないままに進み、訳が分からないままに終わった。そんな印象である。アクションも特に目を引くものがなく、ミスター・テリフィック以外に魅力のあるヒーローやメタヒューマンも見当たらない。DCはジャスティス・ギャングではなくジャスティス・リーグの続きを描くべきだった。おそらく次のスーパーマンもリブートになることだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Martian

火星=Marsの形容詞にしてデモニムである。劇中の字幕でルーサーのセリフに火星人が出てくるが、彼はVenusian=金星人と言っていなかっただろうか。ちなみにJovianというのは木星=Jupiterの形容詞にしてデモニムである。なぜJupiterianではないのか。それはラテン語のIuppiter(イウッピテル)が、Iovis, iovi, iovem, ioveと変化することに由来するからである。英語オタクあるいは古代ローマオタク以外には無用の知識である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 ハルビン 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, E Rank, アクション, アメリカ, デビッド・コレンスウェット, ニコラス・ホルト, レイチェル・ブロズナハン, 監督:ジェームズ・ガン, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 スーパーマン(2025) 』 -リブート失敗-

『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

Posted on 2025年7月8日2025年7月8日 by cool-jupiter

フロントライン 60点
2025年7月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:小栗旬 松坂桃李 窪塚洋介 池松壮亮
監督:関根光才

 

看護師の母が絶賛(一部酷評)していた作品ということでチケット購入。

あらすじ

豪華客船のダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナ患者が発生。横浜に停泊する同船内で治療にあたるため、本来は災害派遣されるDMATに白羽の矢が立つことに。リーダーの結城(小栗旬)はチームを招集し、厚労省の役人の立松(松坂桃李)と共に現地に赴くが・・・

ポジティブ・サイド

当時のニュースはよく覚えているし、マスコミの論調もよく覚えている。また岩田某がアホな動画をアップしたことも覚えているし、その動画に踊らされたアホなメディアや民衆のこともよく覚えている。そうした喧騒を背景に、静かに戦った医師や看護師を丁寧に描き出していた。

 

まず目についたのは窪塚洋介。野戦病院のリーダーとして、冷静沈着ながらも内に秘めた闘志と使命感を感じさせる医師を好演した。官僚を演じた松坂桃李も印象的だった。杓子定規な役人かと思いきや、意外に話せるし、見た目通りに有能。かなり柔軟な姿勢の持ち主で、必要とあらば法の規定も迂回する。2020年の春は大学関連業務の中でも教務パートを受け持っていたが、物流が滞っていて肝心の教科書が会社にも学校にも普通の書店にも届かなかった。そんな時に文化庁長官が各出版社に「著作権について格別の配慮」を求めた結果、教科書のデータを一時的に使わせてもらえたり、それを複製して配布したり、あるいはZoomなどで画面共有したりすることが可能になった。同じようなことがもっと大きなスケールで医療の現場で起きていたのだなと感慨深かった。

 

閑話休題。医師たちは、メディアやその背後の多くの国民の願い、すなわちコロナを国内に持ち込むなという思いとは別の思いで動いていたことが知れたのは非常に良かった。ここのすれ違いがメディアの暴走を生み、ひいては差別や国民間の分断を生んだことは記憶に新しいところだ。実際、トラックの運転手などはウィルスの運搬人扱いされていた。なんたること・・・

 

船内の状況や近隣(とは言えないところまで含めて)の医療機関との連携が形を成してきたところで、物語は暗転していく。例の動画だ。医療従事者たちが手指消毒を欠かさず、マスクや防護服も着用していたことは分かるし、船にクリーンルームやクリーンフロアが作れるはずがないことも、ちょっと頭を使えば分かる。あるいは取材すれば分かる。メディアはそれをしないし、大衆もそれを調べようとしない。それどころか(もう故人なので名前を出すが)小倉智昭などは「患者がいっぱいなので病院は儲かっている」だの、「ECMOは高額なので利益が出る」だの、めちゃくちゃ言っていたし、それに信じる人間も一定数この目で見た。こうした無責任なメディアを本作は遠回しに、しかし確実に批判している。

 

エッセンシャル・ワーカーたちの戦いに改めて敬意を表する機会を本作は提供してくれる。

 

ネガティブ・サイド

医療従事者のプロフェッショナリズムとプライベートの部分、すなわち彼ら彼女らの私生活、なかんずく家族についての描き方に不満がある。池松壮亮の家族がサブプロットとして描かれていたが、これは蛇足だった。なぜなら本作を鑑賞する多くの人々は、このことを覚えているはずだから。また、後年に見ることになる人々も周囲に話を聞いたり、あるいはネットで調べたりすることができるから。主要人物すべてが、時々メールをしたり、ひそひそ声で電話したりするシーンを映し出し、観客の想像力に訴えかければ事足りたはず。

 

同じく、小栗旬が桜井ユキからあることを尋ねられた際にも、言葉でていねいに答える必要はなかった。単に小栗旬に「具問だな」という表情をさせるだけでよかった。言葉でもって物語るということは、マスコミが言葉でもって一面的、皮相的にニュースを報じるのと構図の上では同じだ。相手の発する言葉を受け止めるのではなく、相手の働きぶりや立ち居振る舞いから読み取ることの重要性を逆説的に訴えかけてほしかった。

 

あとはメイクか。船の中でどんどん髪が乱れ、髭も伸び、頬もこけて、肌つやもなくしていく野戦病院の院長然としていた窪塚洋介とは対照的に、常に小ぎれいに身を整えていた野戦病院の理事長的な小栗旬の対比が痛々しかった。

 

総評

演出にやや問題あり。考えさせる映画ではなく、教える映画のように感じた。当時のニュースで〇〇〇と感じたが、この映画でやっぱり◎◎◎だと感じた、というのでは、既存メディアは信用ならん、SNSは信用できるという思考とパラレルである。このあたりがアメリカや韓国の社会派映画との違いか。とはいえ、エンタメだと割り切って観れば、それなりに楽しめるはず。最後の最後に映し出されるスーパーインポーズに何を思うのかで、本作の評価や印象がかなり変わると思うので、最後を注視してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

listen to one’s chest

胸を聴診するの意。聴診するという医学用語にはauscultateという語があるが、こんなのは英検1級ホルダーでもなかなか知らない(OET受験者は案外知っているが)。劇中でも小栗旬が breathe in, breathe out と呼び掛けていたが、息を吸って吐くところまでがセットである。ちなみに心臓の音は基本的には胸側からしか聴けない。呼吸音は両側から聴ける。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 ハルビン 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, 小栗旬, 日本, 松坂桃李, 歴史, 池松壮亮, 監督:関根光才, 窪塚洋介, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

『 28年後… 』 -ツッコミどころ満載-

Posted on 2025年7月2日 by cool-jupiter

28年後… 30点
2025年6月29日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:アルフィー・ウィリアムズ アーロン・テイラー=ジョンソン ジョディ・カマー レイフ・ファインズ
監督:ダニー・ボイル

 

『 28日後… 』と『 28週後… 』の続編ということでチケット購入。

あらすじ

レイジウィルスによってイギリス全土が隔離されて以来、28年。ある島で細々と生き残っていた人々がいた。ジェイミー(アーロン・テイラー=ジョンソン)は12歳の息子スパイク(アルフィー・ウィリアムズ)を連れて、本土のゾンビ刈りに同行させるが・・・

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

新型ゾンビ・・・ではなく感染者が環境に適応しているというのは、それはそれで面白かった。森に生きる感染者と平原で生きる感染者が異なった生態を示していたのは説得力があった。また異種感染しないという『 28週後… 』の設定も引き継がれていたことが確認できた。感染者を生化学的に分析・攻略するシーンもあり、人間が生きるためにはサイエンスが物を言うことを再確認した。

 

アルファというボスゾンビ・・・ではなくボス的感染者はゲーム『 バイオハザード 』のタイラントあるいはネメシスみたいな感じで、割とすんなり受け入れられた。

 

ネガティブ・サイド

いくら前作で米軍が同士討ちもあって壊滅したとはいえ、世界がイギリスをここまで放置するか?いや、本土はいいとして、離島で生き残った人は保護されてしかるべきだろう。それとも、多くのブリティッシュが自認するようにイギリスは嫌われていることを殊更に明示しているのか。

 

島の人々が Tom Jones の Delilah の大合唱をしていたが、いったい時代はいつなのか。仮に2025年だとしても、さすがに60年前の歌を年寄りだけではなくそれなりに若い世代まで歌えるのか?レコードなどの機械はいっさい見当たらなかったが。

 

そもそも何故に安全な島から出て、本土を目指すのか。もちろん医薬品やら衣料品やら日用品やら使える物は色々と見つかるだろうが、28年も経過してしまうとそれも望み薄だろう。だったら男子のイニシエーションなのか?学校はなくても、子どもを軍事教練に駆り出しているシーンがあったが、学校でこそ感染者の実態を教え込むべきだろう。ジェイミーが実地でスパイクに色々と教え込んでいたのは、フィールドワークならありだが、サバイバルでは愚の骨頂。

 

島そのものが天然の要害になっているが、干潮時の防御がなにもないとはこれ如何に。アルファが矢を10本食らっても倒れなかったというデータがあるなら、矢を20本打つとか、あるいはボーガンを作って威力を上げる、トラバサミのような罠を使うなど、色々と対策はあったはず。それが全くなかったというのは28年あれば人間はアホになるということか。

 

感染者の妊娠というのは中盤で明示されていたし、アイデアとしては誰でも思いつく。漫画『 寄生獣 』で似たようなアイデアはすでに出ていたし。問題はその子どもが〇〇〇だということ。胎盤の奇跡とは・・・仮に胎盤がウィルスをシャットアウト(できるわけないが)したとして、普通に分娩時に経産道感染するはず・・・ なので子どもは『 28週後… 』同様に無症候型キャリアで良かった。また、子どもの父親はアルファであると暗示されていたので、それを元に280年後あるいは28世紀後の地球をゾンビ・・・じゃなかった多数の感染者と本当に細々とだけ残った原始人的人類の物語につなげられただろうに。

 

スパイクが医者を求めてドクター・ケルソンのもとを目指すのは分からんでもないが、まともな教育を一切受けていないスパイクがケルソン先生の診察過程や診断内容を理解できたようには到底思えない。にもかかわらず、あの結末を母親だけではなくスパイクが受け入れる?ちょっと考えづらいのだが。

 

というかケルソン先生も感染者に効くモルヒネとかを、どこでどう調達して28年も維持できたのか。医者というよりも薬学者、それも西洋ではなく漢方薬寄りの学者である。トリカブトやらスズランやら、普通に感染者を安全に殺せそうな毒をこの先生なら調合できそうだが、そういうわけでもないらしい。というか、アルファをストップさせたのなら、そこでもっと大量にモルヒネをぶち込んで殺さんかい、と思ってしまう。

 

島民以外の人間の存在も示唆されていたが、それがラストのあいつら?いくらなんでもあの世紀末軍団があんな見せしめ的な行為に走るだろうか。というか、感染者とのバトルで使う武器が貧相で泣けてくる。普通に体液をまき散らす武器および戦い方で、よくこれで生き延びてこれたなと感心した。

 

続編がありそうな雰囲気だが、たとえ制作されても見ない。コレジャナイ感が非常に強い作品だった。

 

総評

当初から各方面のレビューが賛否両論だった。ということは波長が合えば面白く、波長が合わなければ面白くないわけで、こういう丁半を賭けたばくちも時には必要だ。英語レビューでも賞賛はたくさんあるので、本当に監督や脚本家との相性次第だと思う。ひとつ言えるのはデートムービーではないということ。またファミリーで観るのもお勧めできない。カップルあるいはお一人様での鑑賞が無難である。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Memento amare

直訳すると、Remember to love となる。Memento は singular の imperative で、amare は to love という英語のto不定詞的な形。合わせて Remeber to love となる。有名な Memento mori は Remember to die だが、ラテン語には形は受動態しかないが意味は能動態という動詞が、loquor, sequor, morior, utorなど、いくつもある。20年以上前の授業の内容でも結構覚えているもので、自分でもびっくりしている。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 フロントライン 』
『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アーロン・テイラー=ジョンソン, アメリカ, アルフィー・ウィリアムズ, イギリス, ジョディ・カマー, ホラー, レイフ・ファインズ, 監督:ダニー・ボイル, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 28年後… 』 -ツッコミどころ満載-

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-

Posted on 2025年6月30日 by cool-jupiter

ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 80点
2025年6月28日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:キム・ゴウン ノ・サンヒョン
監督:イ・オニ

 

なぜか近所の松竹系劇場が土日は本作を上映しない。仕方がないのでTOHOシネマズへ向かう。

あらすじ

ゲイであることを隠しながら生きるフンス(ノ・サンヒョン)は、奔放に生きるジェヒ(キム・ゴウン)と友人になる。互いの恋愛事情には干渉することなく友情を深めていく二人。そして条件付きで同棲することなっていくが・・・

ポジティブ・サイド

男女の友情は成立するのかという問いは古今東西で常に論じられてきたように思う。本作はその命題に対して一定の解を示したと言える。

 

刹那的に生き、恋に恋するタイプのジェヒと、ゲイであることが劣等感になってしまっているフンスが、友人関係になっていく過程が面白い。互いが互いを気に掛けるべき存在であると認識していくが、そこを言葉ではなく表情や動作でじっくりと描いていく。特に、ライターを小道具としてうまく使っていて、あるクラブのシーンでは唸らされた。

 

同居のきっかけにも説得力がある。いや、事件自体は( ゚Д゚)ハァ?というものだが、だからこそジェヒの家にフンスが引っ越してくるのだという話の流れは十分に首肯できるものだった。

 

普通ではない二人が同居しながらも、互いの恋愛事情には決して踏み込んでいかない。その距離感が絶妙だ。そして、それぞれが語り、そして歩んでいくロマンスの道も甘く、しかしほろ苦い。

 

「執着することが愛だというのなら、自分はまだ愛したことがない」というフンスは、大学やクラブで刹那的な情事にかまけていく。一方で、その相手に徐々に依存し、執着していくようになっていくことに無自覚だ。その自分の心境の変化を数年かけてじっくり描き出していく。初恋は実らないというが、失って初めて「自分は執着していたんだな」と思える関係性は、対象が異性であれ同性であれ、美しいにちがいない。

 

「自分らしさがなぜ弱点なのか」というジェヒの恋模様もかなりビター寄りのビタースイートだ。クラブで夜な夜なヒャッハーしつつ、学内でしっかりステディも作る。しかし・・・、この展開は見るに堪えないというか、かなりしんどい。特にある事件で年配女性がジェヒがなじられるが、まさに自分らしさを弱点・欠点扱いされ、さらにそれはジェヒの罪ではないというシーンは本当に胸が痛んだ。

 

大学に馴染めない二人が一般社会でも馴染めるわけがなく、ジェヒは就職先の会社内で職制と序列に適応できず、フンスは就職自体できない。そんな中でも二人の同居生活は続いていく。大都市という人だらけであるがゆえに孤独が強調されてしまう環境で、同病相哀れみ、肝胆相照らす仲の人間がいることがどれだけ心強いことか。

 

母にカミングアウトできないフンスの物語では『 君の名前で僕を呼んで 』がガジェットとして登場する。韓国における映画の影響力と、韓国国民の感受性の高さを感じさせるサブプロットが非常に興味深かった。

 

ジェヒもジェヒでクズ男吸引体質とでも言おうか、まったく報われない関係にばかり身を投じてしまうのが痛々しい。しかし、それを救ってくれるのが、かつて同じようなシチュエーションに駆けつけてくれなかったフンス。このシーンでは正直ちょっとウルっと来てしまった。

 

映画のエンディングでは、劇場のあちこちでお一人様女子たちのすすり泣きが聞こえた。明るくなってから気付いたが、驚きの女子率だった。それも女子同士のペアかお一人様。男女で来ていたのはパッと見でJovian夫妻以外には3組程度だったか。本作が以下に女性に訴求力を持っているのかを垣間見たように思う。

 

ネガティブ・サイド

タバコが意味あるガジェットとして頻繁に用いられるが、フンスとジェヒが二人同時に吸うシーンがなかったのは意外。Jovianは学生時代、仲の良かったドイツ人女子やアルゼンチン人女子とよく一緒にタバコを吸っていたし、彼女たちが帰国する前日には、互いに火をつけたタバコを交換したりもした。間接キスなのだが、そんなことは全く気にならなかった。そんな友情のシーンを見てみたかった。まあ、これは個人的すぎる願望か。

 

総評

傑作である。ステレオタイプであることを承知で言うが、男であるJovianがこれほど感銘を受けるのなら、自分らしさというものに苦しめられる女性なら、もっと力強さや励ましや肯定感を与えられるだろう。観客の反応がそれを如実に物語っている。自分らしさを肯定してくれる人が一人でもいれば、そして誰か一人に執着するような人生の一時期があれば、それはきっと不幸な人生にはならないはず。そう思わせてくれる作品だった。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

パリパリ

早く早く、の意。『 ベテラン 凶悪犯罪捜査班 』でも紹介した表現。韓国人のせわしない気質をよく表した、映画やドラマでおなじみの表現。関西人ならこの感覚が肌でわかることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 28年後… 』
『 フロントライン 』
『 この夏の星を見る 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, キム・ゴウン, ノ・サンヒョン, ヒューマンドラマ, 監督:イ・オニ, 配給会社:KDDI, 配給会社:日活, 韓国Leave a Comment on 『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-

『 脱走 』 -南へ向かう理由とは-

Posted on 2025年6月27日2025年6月27日 by cool-jupiter

脱走 65点
2025年6月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:イ・ジェフン リ・ヒョンサン
監督:イ・ジョンピル

 

『 サムジンカンパニー1995 』のイ・ジョンピル監督作品ということでチケット購入。

あらすじ

除隊を目前に控えたギュナム(イ・ジェフン)は密かに脱北を計画していた。しかし、同じく脱北をもくろむ部下に計画を見破られたギュナムは、二人での脱出を提案する。あえなく発見された二人だが、ギュナムは脱出者を発見した英雄として扱われてしまい・・・

ポジティブ・サイド

北と南の反目と融和は数々の韓国映画のテーマだが、脱北する兵士に焦点を当てるのは珍しい。ウクライナでもロシアでもひと頃は脱走兵が盛んにニュースになっていたが、軍から逃げたくなるのは決して珍しいことではないはず。北朝鮮のように先軍政治などといって、国家まるごと軍のようなところなら、それこそ亡命したくなって当たり前。本作はなぜ北から逃げ、南を目指すのかについてユニークな答えを呈示してくれる。

 

除隊してしまっては国境線近くの基地から離れてしまい、38度線を超えるのが難しくなる。雨が降ってしまってはせっかく作った地雷原の地図が無駄になってしまう。様々な制約から、もう今しかないというタイミングでの脱北は緊迫感抜群。そこからのプチドンデン返しと、旧友が追手になって迫ってくる展開も手に汗握る。この旧友がとある特技の持ち主なのだが、それが追跡部隊の司令官として生きているところも見逃せない。逃げる側と追う側の個人的な信念が対照的で分かりやすい。つまるところエーリッヒ・フロムの『 自由からの逃走 』の反対なのだ。世界がナショナリズムに回帰しつつあり、そこにファシズムの萌芽も見られる今、本作は自由について考えるきっかにもなりうる。

 

主人公はどこかで見たことのある顔だと思ったら『 建築学概論 』の気弱男ではないか。本作では部下に優しい上官ながら、相手を欺く際には大胆に振る舞い、対決すべき相手には敢然と立ち向かうという、いくつもの顔を見せた。最後に見せる、とある家族への顔、そして誰もいない中で自分だけに見せる顔と、とにかく多彩な表情を使い分けた。北でも南でも、人間は人間。そして人間である限り、一つの顔しか持てないなどということはない、というのが本作のメッセージの一つなのだと思う。

 

ネガティブ・サイド

ちょっと設定に無理がある。そもそも軍隊は四六時中臨戦態勢なわけで、ギュナムがあんなに夜な夜な集団の寝所、さらには基地すらも抜け出して、地雷原の地図の製作に邁進できるものなのか。その地図も底なし沼でびちゃびちゃのボロボロにはならなかったのか。

 

また、ギュナムの射撃の腕前が笑ってしまうほどに良い。良すぎる。スコープ付きのライフルで照準をしっかり定めて撃つスナイパーよりも軽々と遠方の的に当ててしまうのは、いくらなんでも非現実的すぎる。

 

途中で仲間になった連中の結末を暗示程度でよいので映し出してほしかった。

 

総評

脱北のしんどさがよく分かる一作。成功や自由を夢見ての逃走ではなく、成功の手前の段階、あるいは自由の代償を求めての逃走になっている点がユニーク。韓国も『 ソウルの春 』が続けば、北朝鮮のようになっていたのだろうか。平和日本の今に完敗したくなると共に、平和しか知らない日本に一抹の不安も覚える。倒れても立ち上がれるのが本当の意味での良い社会。本邦はどうか。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヒョン

兄の意味だが、必ずしも血のつながりはなくてもよい。日本語で年長の男性に親しみと敬意をこめて兄貴と呼ぶのと同じこと。そういえば「俺のことはヒョンと呼べ」と言ってくれた韓国系アメリカ人の元同僚は元気にしているだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

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『 28年後… 』
『 フロントライン 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アクション, イ・ジェフン, リ・ヒョンサン, 監督:イ・ジョンピル, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 脱走 』 -南へ向かう理由とは-

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