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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 映画

『 幸せへのまわり道 』 -壊れた人間の再生物語-

Posted on 2020年9月9日2021年1月22日 by cool-jupiter

幸せへのまわり道 70点
2020年9月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:トム・ハンクス マシュー・リス
監督:マリエル・ヘラー

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タイトルだけ目にしてチケットを買った。あらすじは英語で少し読んだだけ。予備知識を一切持たずに鑑賞したが、存外に楽しむことができた。

 

あらすじ

ロイド・ボーゲル(マシュー・リス)は辛辣で知られる記者。ある時、子ども向け番組のホスト、フレッド・ロジャース(トム・ハンクス)を取材することになったロイドは、フレッドに逆にインタビューをされてしまう。そして、向き合ってこなかった父への負の感情を露わにされてしまう。だが、そこからロイドとフレッドの奇妙な縁が始まり・・・

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ポジティブ・サイド

冒頭の番組開始のシーンから圧巻のパフォーマンスである。スタジオのセットで踊って歌うトム・ハンクスがゆっくりと腰掛け、視聴者=映画の鑑賞者にゆっくりと語りかける。そして、厚紙細工の家の扉を開けてロイドを紹介する一連のシークエンスはインパクト絶大。あらすじをほとんど知らない状態で観たこともあって、一気に映画世界に引きずり込まれた。

 

ロイドとその妻アンドレア、そして最近になって生まれた赤ん坊と、ロイドは家庭もキャリアも順調だったが、気鋭のジャーナリストがどういうわけか子ども番組のホストを取材するようになるまでの流れもスピーディーだが、荒っぽくはない。順調に見えるロイドも、辛辣な人物評が芳しくない評価を生んでいる。人にきつくあたる人間は往々にして何らかの心の闇を抱えている。そのことを観る側に予感させつつ、フレッドとロイドの邂逅をある意味でとてもまわりくどく、なおかつ直截的に描くヘラー監督。これはなかなかの手練れである。

 

トム・ハンクスの卓越した演技力というか、ソフトな物腰にソフトな語り口で、しかし透徹した視力と言おうか、一気に目の前の人間の本質を鋭く見抜く眼光炯々たる様には圧倒される。インタビューするロイドを遮り、一気に核心を突く質問を発するところには、ヒューマンドラマとは思えないサスペンスがあった。ここから思いがけない友情めいた関係がスタートするのだが、この最悪の出会いから何がどう芽生えるのか。袖振り合うも多生の縁というが、その絶妙な仕掛け、人との出会いを特別に大事にするフレッドの秘密を知りたい人はぜひ観よう。

 

本作のテーマの一つは、怒りの感情のコントロール、それとの付き合い方である。息子が父を憎むというのはよくある話で、男は誰でも程度の差こそあれ、エディプス・コンプレックスの罹患者であり、(文学的な意味での)父殺しを企図しているものだ(父親と腕相撲して勝ったり、父親のクルマを「代わりに運転してくれ」と頼まれたりetc)。父親を許すとができないロイドに、フレッドがレストランで提案するルーティンのシーンは圧倒的な臨場感である。スクリーンのこちら側の我々にも参加しろと言っているのだ。そしてこれこそがヘラー監督の発したいメッセージでもあったのだろう。

 

聖人のごときフレッド・ロジャースが最後に見せる人間味(いや、音と言うべきか)も味わい深い。一人に備わらんことを求むるなかれ。怒りを遷さず、過ちを弐びせず。アメリカ人の物語であるが、東洋人の我々の心にも十分に響く名作である。

 

ネガティブ・サイド 

ロイドと父の和解がやや唐突過ぎるように感じた。姉の結婚式(毎夏の恒例行事らしいが)で息子が父をぶん殴るという事件を起こす割には、父を許すのが早すぎる。もちろん、ミスター・ロジャースのカリスマ性もあるのだろうが、ロイドは小市民の代表選手なのだ。『 母が亡くなった時、僕は遺骨を食べたいと思った。 』で松下奈緒が安田顕を一喝したようなシーンがもう一つ二つ欲しかった。

 

ミスター・ロジャースはアメリカでは知名度抜群とのことだが、ロイド自身の幼少~青年期を振り返るシーン、あるいはレストラン以外でロイドが自身の過去を回想し、そこでのロジャースの言葉に思いを致すようなシーンは撮らなかったのだろうか。撮ったものの編集でカットされたのだろうか。フレッドとロイドの私的な交流に重きを置いている割には深みがなかったのは、上述のようなシーンが欠けていたからだろう。

 

本作はシーンとシーンのつなぎ目にジオラマの街並みが挿入される。ユニークな試みだと思うが、なにか前後のシーンまでが作り物のように感じられた。これは映画媒体のformを評価ではなく個人的な好き嫌いか。

 

総評

予備知識なしで観るのが正解だろう。というか、日本で事前のリサーチなしにミスター・ロジャースを知っているというのは相当のアメリカ通か、帰国子女あるいは現地赴任帰りだろう。けれど心配無用。事前の知識は一切不要。あまりにも典型的な父と息子の確執と和解の物語であるが、そこには思いのほか豊かな奥行きがある。そして彼らの物語がいつしか我が事のように感じられてくる。家族や友人と鑑賞してもよいが、おそらくこれは一人で観るべき映画である。その方がきっとより真価を味わえるから。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン 

a four-letter word

 

劇中では“Fame is a four-letter word.”というように使われていた。「有名(ゆうめい)というのは4文字言葉に過ぎない」という意味だが、この表現はしばしばsh*tやda*nやcr*pやh*llなどの卑罵語を指すことが多い。このあたりのスラングとされる表現を社会的に正しい文脈で使えることができれば、英会話スクールは卒業である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, トム・ハンクス, ヒューマンドラマ, マシュー・リス, 伝記, 監督:マリエル・ヘラー, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 幸せへのまわり道 』 -壊れた人間の再生物語-

『 ジェイン・オースティン 秘められた恋 』 -社会的属性から偏見を取り除くべし-

Posted on 2020年9月7日 by cool-jupiter

ジェイン・オースティン 秘められた恋 70点
2020年9月5日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アン・ハサウェイ ジェームズ・マカヴォイ
監督:ジュリアン・ジャロルド

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商業柄、TOEFL iBTという英語の資格検定を教えることがある。そこで、出てくることがあるのがJane Austen。Official Guidebookにも出てくる。オースティンは一般には『 高慢と偏見 』の作者として知られているのだろう。彼女は『 メアリーの総て 』のメアリー・シェリーよりもさらに一世代前の人物で、まさに女性小説家の始祖の一人と言える。

 

あらすじ 

イギリスはハンプシャーの貧農家に生まれ育ったジェイン(アン・ハサウェイ)。両親は彼女を裕福な名士と結婚させたがっていた。だが、ジェインは財産ではなく愛を結婚に求めていた。良家との縁談も断ってしまうジェインだったが、法律家の卵であるトーマス・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)と出会い・・・

 

ポジティブ・サイド

何よりも目立ったのアメリカ人であるアン・ハサウェイがBritish Englishを流暢に操ること。一般的には『 ブレス しあわせの呼吸 』のアンドリュー・ガーフィールドのように、アメリカ人が英国風の英語を話すのは結構骨が折れる。その逆はそうでもない。アメリカ英語を使いこなす英国人やオーストラリア人の俳優は多い。その意味でアン・ハサウェイの演技は際立つ。また、目の大きさが特徴でもあるハサウェイは、その目の演技でも光っていた。初対面のルフロイから得た最悪の第一印象。朗読会の後に、ルフロイに生まれた静かな怒りの炎がその目の奥で燃え盛り始める瞬間の演技はベテラン女優の風格。当時のハサウェイは20代のはずだが、これは凄いと素直に感じられた。

 

対するはジェームズ・マカヴォイ。Jovianが世界で最も実力を評価している俳優である。常に自信満々で、弁が立つ。まさに法律家の卵という感じだが、その根底には男らしさがある。登場早々にボクシングをしているが、その拳闘の腕を力自慢のためではなく自らが信じる正義のために振るう、つまり自らの信念に準じて行動する様は見ていて気持ちがよい。一方で、どれほど頭脳明晰であろうと男はこと色事に本気になるとアホになるという、男の真理も体現している。

 

この主役二人に共通するのは、時代という抗いようのない外形的な圧力を受けながらも、心の中にはしっかりと個人を持っているところである。過剰とも思えるほどに会釈を繰り返すのは、それがマナーであり社会のコードであるからだが、一方でそうしたしきたりめいたものに抗おうとするのは、まさに地域や時代は違えど、ロミオとジュリエット的である。つまり、観る者の胸を打つ。

 

印象に残るのは舞踏会。反目しながらも惹かれ合いつつあるジェインとトムが踊りながら言葉を交わすシーンは大勢の人間に囲まれているにもかかわらず、とてもロマンチックだ。『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』のレイ・とベン・ソロのような関係を作る、つまり自分たちだけの時空に没入してコミュニケーションを取っているからだ。ロミオとジュリエットよろしく、駆け落ちをしようとするも上手くいかない二人の姿に、言いようのないもどかしさを抱くが、それが時代や社会の違いなのか、それとも自分自身の感性によるものなのかは観る人によって異なるだろう。また男女でもこのあたりの感想は異なって来ると思われる。時間があればRotten Tomatoesあたりのレビューを渉猟してみたい。

 

ラストも泣かせる。『 僕の好きな女の子 』の加藤ではないが、男は自身の恋愛を「名前を付けて保存」する生き物である。そのことを何よりも雄弁に物語るエンディングに、心揺さぶられずにいられようか。このシーンは他の意味でも特に印象的だ。邦画の世界も、メイクアップにこれだけの労力を是非割いてもらいたいと思う。アメリカに逃げられてもいいではないか。第二・第三のカズ・ヒロを生み出そうではないか。

 

ネガティブ・サイド

冒頭の牧師の言葉はあまりにも直接的すぎる。もっと当時の普通の暮らしぶりの中で、女性が個性を発揮することができず、ステレオタイプな役割のみに従事する、あるいはステレオタイプな人格のみを有することが求められる時代と社会だということを、もっと映画的に語る方法はあるはずだ。そうしたシーンを冒頭で一気に見せるか、あるいは牧師の言葉(「女性に機知は無用」云々)は中盤に持ってくるべきだった。

 

『 プライドと偏見 』とのつながりがよく見える、というよりも『 プライドと偏見 』から逆に計算して作られたかのようで、捻りがない。すべてがある意味で予定調和的である。もっと自由に話を盛ってしまっても良かったのではないか。たとえばトムがジェインの作品を評して「(恋愛)経験が不足している」と言い放つが、であるならばトムがリードする形での恋愛の手ほどきや、あるいは同衾するシーンがあってもよかったのではないか。直接そうしたシーンを見せずともよい。『 博士と彼女のセオリー 』でジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)がジョナサンのテントを訪ねたようなシーン、あのような間接的な描写でもってジェインとトムが一夜を共にしたのだな、と観る側に思わせる大胆な演出があってもよかった。

 

最後にジェイン・オースティンという人物の歴史的な役割を総括するシーン、あるいは簡潔な説明が欲しかった。『 ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語 』にも共通するが、作家の残した物語は有名でも、作家自身はそれほど知られていないことはよくあるからである。

 

総評 

2000年代の映画であるが、まったく古くない。LGBTQについて世の中の理解は進みつつあるが、やはり男と女が一番のマジョリティであり、それだけ背負わされる社会的属性も多い。そうした社会的属性の中からいかに“偏見”をなくしていくかが21世紀に生きる我々のミッションの一つだろう。そうした原点を思い起こす意味でも本作は幅広い層にお勧めができると思う。ジェイン・オースティンという人物へのある程度の知識や興味がないと難しいかもしれないが、その場合は『 プライドと偏見 』を鑑賞してみるとよい。そんな時間はないという向きには、カーペンターズの “All You Get From Love Is A Love Song” をお勧めしておきたい。

www.youtube.com

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

S have seen better days

直訳すれば「Sはすでに(今よりも)良い日々を見てきた」=Sは今はすでに盛りを過ぎている、ということ。

 

This part of Osaka has seen better days.

大阪のこのあたりも以前に比べて寂れてしまった。

 

That boxing champion has seen better days.

あのボクシング王者も全盛期は終わったな。

 

という具合に使う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, B Rank, アン・ハサウェイ, イギリス, ジェームズ・マカヴォイ, ラブロマンス, 伝記, 歴史, 監督:ジュリアン・ジャロルド, 配給会社:ヘキサゴン・ピクチャーズ:Leave a Comment on 『 ジェイン・オースティン 秘められた恋 』 -社会的属性から偏見を取り除くべし-

『 ただ君だけ 』 -ハイレベルな典型的韓流ラブロマンス-

Posted on 2020年9月5日 by cool-jupiter

ただ君だけ 75点
2020年9月3日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ソ・ジソブ ハン・ヒョジュ
監督:ソン・イルゴン

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『 君の瞳が問いかけている 』のネタ元。本作も元をたどればチャップリンの『 街の灯 』らしい。初めて観た時は珍妙なボクシングシーンばかりが目立っていたが、最後には『 あしながおじさん 』以上の感動があった。そして、本作『 ただ君だけ 』にも大きな感動が待っていた。

 

あらすじ

かつてボクシングのミドル級国内王者だったチョルミン(ソ・ジソブ)は、ある事件のためジムを飛び出し、ボクシングから離れていた。そしてチョンミルは目が不自由なジョンファ(ハン・ヒョジュ)と出会い、やがて恋に落ちる。だが、ジョンファが視力を失った原因は自分の過去と関係があったとチョンミルは知ってしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

ヒロインのジョンファはどこかで見た顔だと思ったら、テレビドラマ『 トンイ 』の主人公トンイではないか。『 ブラインド 』のキム・ハヌルと同じく、自身の視力だけではなく大切な家族までも失っているというキャラクター。違いは、原因が自分かそうではないか。ただ、それでもこれだけ明るく、気丈に、笑顔で、前向きに振る舞える人間はなかなかいないのではないか。もちろん、視覚障がい者の演技にも抜かりはない。決して合わない目線。音や触れられることへの過剰とも言える反応。指先と手のひらで様々なものの感触を確かめる仕草。簡素な部屋に、床には(ある物を除いて)何も落ちていない。そして、冷蔵庫に詰め込まれた大量の食べ物。ハン・ヒョジュの演技だけではなく大道具や小道具、そして音楽の仕事も完璧である。だが、やはり何と言ってもハン・ヒョジュの魅力だろう。チョンミルとのデートで超ワイド滑り台を滑降した直後の泣き出しそうな声からの笑顔に、心を鷲掴みにされない者などいるだろうか。

 

チョンミルも元ミドル級という設定で、おそらくwalk-around weightは80kgほどだろう。その階級に見合う骨格と黒光りする筋肉にはほれぼれとさせられる。何よりも、必要以上にイケメンでないところが良い。顔を触るジョンファに対して「思っている以上にブサイクだから、目が見えるようになったら気をつけろ」というセリフは完全なるジョークにしても、キラキラと輝く美男子設定でないところに好感が持てる。なによりもジョンファの危機に颯爽と現れたかと思えば、相手を容赦なくぶちのめす野獣性を発揮。さらに相手の口をふさいで指をボキッと折るシーンには震えた。だからといって暴力一辺倒の男では決してない。ジョンファをおんぶして階段を上っている最中にカンチョーをしてくるガキンチョには優しく接してやれる男なのだ。そしてジョンファと心通じ合えたその日に、心躍らせ階段を駆け上がるシーンや借金の取り立てをしていたという裏設定は『 ロッキー 』へのオマージュだろう。

 

設定だけ見れば日陰者同士の連帯の物語なのに、この二人にはそうした悲壮さや暗さがない。いつまでも見守っていたくなる二人なのだが好事魔多し。ジョンファのためにと地下格闘技の世界へと身を投じるチョンミルに悲劇が・・・ この「幸せな二人を引き裂く悲劇」は、韓流の定番中の定番なのだが、なぜにそれがこれほど胸を打つのか。照明やカメラワーク、美術や衣装まで、細部にまでリアリティが行き届いているからだろう。はっきり言ってファンタジーなのだが、それを全く感じさせない監督の演出力は見事の一語に尽きる。そして、その作り物の世界の中でこれ以上ない迫真の演技を披露した主演の二人に幸あれ。

 

ネガティブ・サイド

後半の地下格闘技シーンがグロすぎる。というか、Jovianは割とグロ耐性がある方だと思っているが、目潰しだけはダメなのだ。小学生の頃にレーザーディスクで観た『ブレードランナー 』のルトガー・ハウアーが目潰し攻撃をするシーンで、I became traumatized.

 

前半は夜のシーンが多く、終盤は昼のシーンだけという構成は、観る者というよりもジョンファの視力をそのまま構成に反映させたのだろう。問題は、それによってつながりが失われたシーンがいくつかあるということである。最も目立ったのは格闘技にその身を投じたチョンミルが連戦連勝するシーン。家で待つチョンミルはガウンを羽織って軽くウィービングしたりしながらチョンミルの帰りを待つが、ここは本当なら夜または夕方のシーンだろうと思われる。格闘技の試合は夜と相場が決まっているし、洗濯物を取り込むのも夕方か夜だろう。窓から差し込む黄金色の陽光は美しかったが、全体を通してみると違和感を覚えてしまった。

 

総評

これは傑作である。リメイクしたくなるのも無理はない。邦画では『 見えない目撃者 』が韓国映画リメイクの成功例だった。高いハードルではあるが、『 きみの瞳が問いかけている 』にはぜひ本作を超えてほしいと思う。そう思わせてくれるだけの感動的な韓流ラブロマンスである。復習鑑賞するなら今である。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

アジョシ

 

言わずと知れた『 アジョシ 』のアジョシ=おじさんの意。チョンミルは別に中年のおじさんではないが、本作が『 街の灯 』へのオマージュであるならば、この呼び方も納得か。とにかく、韓国語でおじさんはアジョシなのである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, ソ・ジソブ, ハン・ヒョジュ, ラブロマンス, 監督:ソン・イルゴン, 配給会社:コムストック・グループ, 配給会社:ポニーキャニオン, 韓国Leave a Comment on 『 ただ君だけ 』 -ハイレベルな典型的韓流ラブロマンス-

『 糸 』 -壮大なファンタジーだが、残念ながら二番煎じ-

Posted on 2020年9月1日2021年1月22日 by cool-jupiter

糸 60点
2020年8月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:菅田将暉 小松菜奈
監督:瀬々敬久

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傑作と凡作と駄作の全てをコンスタントに放ってくる瀬々敬久監督の最新作。本作は、可もあり不可もある中庸の作品か。

 

あらすじ

漣(菅田将暉)と葵(小松菜奈)は北海道の美瑛で出会ったが、様々な事情から引き離されてしまう。北海道で生きる漣と、東京、沖縄、シンガポールと流れていく葵。二人の運命の糸は果たして交わるのか・・・

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ポジティブ・サイド

小松菜奈が何とも良いオーラを醸し出している。『 ぼくは明日、昨日のきみとデートする 』とは違い、年月の移り変わりとともに確実に年齢を重ねているということを観る側に実感させてくれた。もちろんメイクアップアーティストや衣装の力も大きいことは言うまでもない。子役の子の顔との連続性も感じられた。ほくろが印象的な小松だが、それ以外にも髪型やあごの形など、非常にうまく少女時代と成人時代を結び付けたと思う。

 

『 ディストラクション・ベイビーズ 』でも感じたことだが、小松菜奈はケバイ衣装がよく似合う。同時に『 沈黙 -サイレンス- 』で必死に英語(なぜポルトガル語ではなかったのか?)でお上に訴える少女役で見せたような、また『 閉鎖病棟 それぞれの朝 』で演じたような苦難に耐える役もまたよく似合う。小松菜奈のファンであれば本作はmust watchだろう。

 

本作は平成13年から令和元年までの間の漣と葵の二人の人生を描くという壮大な絵巻である。中学生にして駆け落ちを試みるも失敗。その後、成田凌演じる幼馴染の結婚(相手が葵の友だち)式のために初めて訪れた東京で、葵と8年ぶりの再会を果たすというのは、ベタではあるがリアルだ。その後の二人の運命も数奇としか言いようがない。縦の糸として、つまり北海道の美瑛から動かずに生きることを決意する漣と、横の糸として、つまり各地を転々として葵が、それぞれに出会いと別れを経験し、自らの人生を切り拓いていく様は、その片方だけにフィーチャーしても一本の映画が作れそうなほど濃密である。『 8年越しの花嫁 奇跡の実話 』にインスパイアされたかのような展開には不覚にも涙したし、『 洗骨 』のようなまったりゆったりした沖縄の時間の流れ方には(一瞬だけ)和んだ。

 

シンガポールで成功を掴んだかに見えた葵が、ここでも打ちのめされることになる展開はさすがにこれは現代版『 おしん 』なのか?とも思えたが、ここで小松がとあるカネに手を付け、さらにとあるものを食べながら涙するシーンが極めて印象的だ。『 さよならくちびる 』でも、カレーを食べながら思わず涙してしまうというシーンがあったが、小松菜奈は単純な涙だけではない、シーン全体で心情を表現できる女優に成長しつつあるようだ。

 

様々な紆余曲折を経て、それぞれの人生を歩んでいく漣と葵。運命の糸というのは、果たして存在するのか。存在するとして、その糸と糸が結ばれることはあるのか。劇中で何度か流れる『 糸 』だけではなく、成田凌が熱唱する『 ファイト 』も実に味わい深い。時は令和二年。平成という時代を振り返るには好適の映画である。

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ネガティブ・サイド

スケールは確かに壮大であるが、肝心のストーリーが『 弥生、三月 君を愛した30年 』とかなり重複している、というかはっきり言って二番煎じ見える。特に、幼馴染同士が結ばれることなく、互い違いに絶妙にすれ違っていく様は『 弥生、三月 君を愛した30年 』が先取りしている。そして何よりも成田凌の起用。彼は悪い役者では全くないが、それでも何故にこのようなキャスティングになるのか、首をひねる人は多いだろう。製作者が『 弥生~ 』を意識していなかったはずがないではないか。

 

平成と言えば阪神大震災に東日本大震災だが、実際のニュース映像を使うのはどうなのだろう。特に後者の津波のニュース映像。『 オフィシャル・シークレット 』でも強く感じたが、当時のニュース映像というのはタイムマシンのようなもので、取り扱いには要注意だ。作中の二階堂ふみではないが、大阪生まれ大阪育ちのJovianの嫁さんですら、津波の映像には今でもショックを受けるのだ。

 

細かい粗が随所で目立つ作品でもある。渾身の役作りをした榮倉奈々に対して、菅田将暉のひょろひょろ具合は何なのか。彼も悪い役者ではないが、今回は役作りにそこまで時間をかけられなかったのか。チーズ作りというのは重労働だろう。何百何千リットルもの牛乳を搾り、運び、発酵・凝固させ、チーズの原型を運び出すという過程のごく一部だけしか画面には映し出されなかったが、毎日毎日それだけの労働をしていれば腕や肩、そして胸板は相当に筋肉質になるはずだ。菅田は同世代の役者ではフロントランナーの一人であるが、今作の役作り(≠演技)は残念ながら落第。演技は及第である。

 

小松菜奈は残念ながら英語がヘタになってしまった。それは別によい。ただ、言ってもいないことをしゃべらせてはならない。山本美月がこれまた稚拙な英語で“Japan can no longer relay on domestic consumption(demands?)”とインタビューに答えていたが、まずrelay onではなくrely onである。発音が全然違う。また、この文章を素直に訳しても、字幕に出てきた「内需主導」などという訳は出てこない。

 

エンディングで流れる楽曲『 糸 』はオリジナルであるべきだと強く感じた。縦の糸はあなた=漣であるはずが、ヴォーカルが男性になってしまったことでそこが狂ってしまった。それによりエンディングの余韻が壊れてしまったように感じた。うーむ・・・

 

総評

漫画や小説を映像化するのも良いが、邦画はもっとオリジナル作品を生み出すべきである。オリジナルとは完全に独創的という意味ではない。何らかのモチーフを全く新規に再解釈することから生み出された作品も、オリジナル作品と呼べるはずだ。その意味で、本作はオリジナルと言える。B’zの『 Pleasure’91 〜人生の快楽〜』の“僕”と“あいつ”の物語を再解釈する脚本家や監督が現れるのを期待したい。本作に続く邦画の制作と公開を待ちたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

chauffeur

ショウファー、と読む。アクセントは、ショウファーの位置にある。シンガポールの高杉真宙がこれであった。「運転手」の意味だが、driverとは違い、結構なステータスのお抱え運転手を意味する。『 ベイビー・ドライバー 』のベイビーはダイナーでデボラと出会ったときに“Oh, like a chauffeur?”と言われていたし、『 パラサイト 半地下の家族 』のソン・ガンホはdriverではなくchauffeurである。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ラブロマンス, 小松菜奈, 日本, 監督:瀬々敬久, 菅田将暉, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 糸 』 -壮大なファンタジーだが、残念ながら二番煎じ-

『 事故物件 怖い間取り 』 -2020年度クソ映画・オブ・ザ・イヤー決定-

Posted on 2020年9月1日2021年2月23日 by cool-jupiter

事故物件 怖い間取り 5点
2020年8月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:亀梨和也 奈緒
監督:中田秀夫

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『 エミリー・ローズ 』のレビューで本作から地雷臭がすると述べたが、本作は地雷ではない。完全なるゴミである。『 記憶屋 あなたを忘れない 』や『 ヲタクに恋は難しい 』をさらに下回る駄作で、我が映画鑑賞人生においても最低レベルの作品である。

 

あらすじ

売れない漫才コンビのジョナサンズの一人、山野ヤマメ(亀梨和也)はコンビ解散後にひょんなことから「事故物件住みます芸人」に転身することになる。そして、不動産屋で事故物件を紹介してもらい、そこに住み始める。しかし、それ以来、身の回りで怪奇現象が起き始め・・・

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ポジティブ・サイド

ない。

 

いや、奈緒の出演で5点だけは与えておく。

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ネガティブ・サイド

なにから突っ込んでよいのか分からない。どいつもこいつも下手くそな関西弁をしゃべり、何がきっかけで売れたのか分からないまま「事故物件住みます芸人」として人気が出たのか、その経緯も不明。

 

相方との関係も意味不明。ビジネスパートナーなのか戦友なのか、『 火花 』のようにそこを明らかにせんかいな。亀梨は元・相方に実家に帰れといった次の瞬間に、「なんで実家に帰るんだ?」って、アホか。その相方も奈緒演じる梓に「アイツとは縁を切れ」ってなんでやねん。とにかくジョナサンズの二人の関係性がまったく理解できない。だから、この二人が同じ画面内にいてもなんのドラマも生まれない。

 

亀梨は都合4件の事故物件に住むが、そのどれもが怖くも何ともない。すべてがこけおどし、または使い古されたクリシェに過ぎない。特に千葉の4件目はギャグか何かとしか思えない昭和の遊園地の片隅に見られた子供騙しのお化け屋敷状態。キャンキャンとした効果音がうるさかったが、それがなければJovianの失笑が半径10mぐらいの範囲に聞こえてしまっていたことだろう。ラスボス(?)的な存在もギャグである。これが怖いと思えるのは小学校低学年の女子ぐらいだろう。脚本、絵コンテ、撮影、編集のいずれの段階で監督も役者もスタッフも、誰も何も感じなかったのか。そんな姿勢で映画を作っているから、韓国映画やインド映画に大きく水をあけられるのだ。本作はジャパネスク・ホラー完全終了のお知らせということ以上に、邦画の終わりの始まりを告げる作品と受け取るべきなのかもしれない。

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総評

本当なら8月30日に観た『 糸 』のレビューを先にすべきなのだろうが、どうしてもこちらを先に片付けたくなってしまった。とにかく本作は観てはいけない。こんな作品にカネと時間を使ってはならない。我々がかつて敬服した中田秀夫監督はもう死んだ。そう思うしかない。冥福を祈る。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. I need to erase my memory of this film ASAP.

  

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, ホラー, 亀梨和也, 奈緒, 日本, 監督:中田秀夫, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 事故物件 怖い間取り 』 -2020年度クソ映画・オブ・ザ・イヤー決定-

『 青くて痛くて脆い 』 -意識狭い系の青春映画-

Posted on 2020年8月31日2022年9月15日 by cool-jupiter

青くて痛くて脆い 50点
2020年8月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:吉沢亮 杉咲花 岡山天音 松本穂香
監督:狩山俊輔

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『 君の膵臓をたべたい 』は良作だったが、同作のイメージをぶっ壊すと宣言して書いたとされる本作も、まばゆく輝く女の子に憧憬を抱く男の物語という点では目新しいものではなかった。おそらく、高校生や大学生が観れば異なる感想になるのだろうが、おっさんには刺さらなかった。

 

あらすじ

田端楓(吉沢亮)は他人を傷つけたくない、他人に傷つけられたくないという大学一年生。そんな楓が、世界から暴力・貧困・差別をなくそうと願う秋好寿乃(杉咲花)に出会い、彼女に引っ張られ、秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げるが・・・

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ポジティブ・サイド

まさにタイトル通りの男、青臭くて、言動が痛くて、そのくせハートだけは妙に脆いという、誰にとっても思い当たるところのあるキャラクターを吉沢が見事に怪演した。他人に関心がないというのは自意識過剰の裏返しで、他人にどうこう思われるぐらいなら、他人から距離を取ってしまえという思考もまた自意識過剰の裏返しである。おっさんになって自らの過去を振り返れば、「ああ、自分にもそんな時期があったな」と一笑に付すことができるが、10代後半、あるいは20歳前後のまだ何者にもなれていない若者の中には本作の楓に魂を持っていかれるほどの影響を受ける者がいてもおかしくない。それほど吉沢の演技は際立っている。人間の心の非常にダークな部分を隠すことなくさらけ出しているからだ。特に、他人とのつながりを「間に合わせ」と表現するところでは唸らされた。ちょっと愚痴を聞いてほしい相手、ちょっと一緒に酒を飲んでほしい相手、一晩だけ一緒に過ごしてほしい相手(という相手は本編には出ないが)等々の間に合わせ的な人間関係は極めて一般的だが、子どもにはそうではない。それこそ、一瞬一瞬の人間関係が宝石のような価値を持っている。そうした輝きに背を向ける楓というキャラクターの屈折っぷり=闇の深さは、近年の漫画や小説の映画化作品の中でも突出している。

 

また、一種の叙述トリックが仕掛けられているところも野心的だ。なにがどういうトリックなのかには言及できないが、これはなかなかに気の利いた演出である。

 

モアイを潰そうと画策する過程で悪友役の岡山天音も好演。一匹狼の楓に共感してモアイに潜入するも、ミイラ取りがミイラになるの諺通りにモアイにオルグされる様はまあまあ見応えがあった。そのモアイの幽霊部員役の松本穂香が物語を地味に、しかし確実に盛り上げる。無防備に見えて隙が無く、難攻不落に見えて落ちる時はあっさりと陥落。しかし、男の掌の上で踊ることは決してなく、逆に男を手玉に取る悪女の雰囲気すらも醸し出す。『 君が世界のはじまり 』と比較すれば、その演技の幅の広さは同世代(20代前半)では頭一つ抜けている。テンさんこと清水博也も味わい深い。『 愚行録 』や『 屍人荘の殺人 』に出てきそうな大学生と見せかけて・・・というキャラクターである。人は見かけによらない、あるいは人を見かけで判断してはならないという好個の一例である。

 

こうした、一癖ある面々と田端楓と秋好寿乃の織り成す物語は、現役の大学生にこそ堪能してもらいたいと思う。

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ネガティブ・サイド

編集の粗がひどく目立つシーンが多い。秘密結社「モアイ」のイメージ図をバックにした楓と寿乃のスナップショットで、寿乃はオーバーオールを着ているのに出来上がった写真はスエットだけ?になっていなかったか。また、楓目線で寿乃と向き合うショットでも、寿乃の目の角度がおかしい。二人は相当に身長差があり、いくら楓が猫背といっても、向き合って、あごを引いて笑っている寿乃の目がまっすぐ前を見つめるのはありえない。

 

モアイのとあるメンバーが行っている不正行為を内部告発することに葛藤するというのも、傍から見れば滑稽千万である。(老害と化した)ダウンタウンの松本人志が「(東出昌大の)不倫を暴いた週刊誌の記者はどんな気持ちなのか?」という疑問を発していたが、悪事(不倫が悪かどうか、悪だとしてどのような性質で、どの程度の悪なのか、それは措いておく)を暴くことに良心の呵責を感じるとすれば、その悪事が自分にとって近しい人によってなされた時、あるいは告発によって自分の近しい人がダメージを受ける時ぐらいだろう。そういう意味では、自らモアイと寿乃から距離を置いた楓は、距離こそあるものの、つながりを維持しているに等しい。やり方を間違えているのだ。本当にリベンジをしたいのなら、モアイよりも大きい、あるいは秀でた組織を作る、あるいは組織に拠らず個として強く生きていけるように精進することだ。

 

こうした見方はいい年こいたオッサンのものであることは自覚している。寿乃が作ったモアイの目指すところは究極的にはニーチェの言う「超人」であり、サルトルの言う「アンガージュマン」である。なりたい自分になった、作りたい世界を作ったという結果ではなく、その過程そのものに意味があると考える。自分が主体的に動くのと同様に、他者も自分と同じような主体であるのだと認識するところから始まるのだ。本作も2時間かけて楓がそのことを自覚する過程を描いていると受け取れなくもないが、その描写があまりにも稚拙である。創始者や共同創始者が弾き飛ばされるストーリーなど星の数ほど存在する(『 スティーブ・ジョブズ 』など)。本作はどちらかというと、【社会運動はどうやって起こすか】における最初のフォロワーとしての楓にフォーカスできなかったがために、その後の展開すべてが陳腐に見えてしまった。理屈っぽく映画を観てしまう向きには、お勧めできる作りになっていない。

 

総評

良い点、悪い点、それぞれに目立つ。ある一点やある方向には思いっきり振り切れているという印象だが、その一方でディテールには粗が目立つ。あまり深く考えず、若気の無分別の物語に身を任せれば、邦画ではなかなかお目にかかれない一種の暴走型青春サスペンスとして楽しめるのではないだろうか。『 キングダム 』のイケメン吉沢ではなく、『 リバーズ・エッジ 』のような、ちょっと頭がおかしいキャラを演じる吉沢を観たいというファンにこそお勧めしたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

make a difference

変化を生み出す、の意。往々にして「良い変化を生む」の意味で使われる。同質性を重んじる日本語とは異なり、英語圏では他との違い=良いことだという概念がある。これは頭で理解するよりも肌で実感すべきことなのだろう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, サスペンス, 吉沢亮, 岡山天音, 日本, 杉咲花, 松本穂香, 監督:狩山俊輔, 配給会社:東宝, 青春Leave a Comment on 『 青くて痛くて脆い 』 -意識狭い系の青春映画-

『 オフィシャル・シークレット 』 -公と私の関係性を鋭く問う-

Posted on 2020年8月30日2021年1月22日 by cool-jupiter

オフィシャル・シークレット 70点
2020年8月28日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:キーラ・ナイトレイ レイフ・ファインズ マット・スミス
監督:ギャビン・フッド

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原題は“Official Secrets”、本編中では「公務秘密」と訳されている。公文書の改竄が公然と行われ、公務員がそれを苦に自殺までしているというのに、この国(日本)は何も変わらない。だが、それは海の向こうの島国、英国でも同じらしい。10年以上前の実話に基づく本作が、日本社会の「今」をこれほど鋭く抉っているのは、日本がそれだけ英米の後追いをしている証拠なのだろう・・・

 

あらすじ

マンダリンに堪能なキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)は、GCHQで中国関連の盗聴に従事していた。ある日、国連安保理の非常任理事国の担当者たちを盗聴するようにとの通達が部署全体に届く。正当性のない戦争を国連で正当化させるための裏工作だと感じ取ったキャサリンは、そのメールをリークすることを決断するが・・・

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ポジティブ・サイド

イラク戦争そのものについては無数の映画が作られている。政治の側からCIAの闇を暴いた『 ザ・レポート 』や『 バイス 』のように国の権力構造の不正を分析するもの、『 記者たち 衝撃と畏怖の真実 』のように弱小メディアが国家の大嘘を暴くというものまで、アメリカがアメリカ自身を暴く作品が生み出されるようになってきた。もちろん『 ウォードッグス 』のような戦争にちゃっかり寄生する輩を面白おかしく活写する作品も作られており、イラク戦争という大義なき虐殺に関してはアメリカは徐々に正しい距離感を学びつつあるようである。本作はそうしたイラク戦争の不当性をイギリス側から見たという点が新しい。

 

それにしても本作で要所要所に挿入される2003~2004年の実際のニュース映像の生々しさよ。特に盲目的な対米従属路線を突っ走る当時の英国首相のトニー・ブレアを見ると、当時の小泉内閣総理大臣、そして現(元と言うべきか)安倍内閣総理大臣を見るようである。WMD=Weapons of Mass Destruction=大量破壊兵器を「まだ見つかっていないが存在を確信している」というブレアにも頭を抱えてしまうが、「無いものを無いと証明できなかったイラクが悪い」と平然と言ってのけた小泉純一郎を思い出して、五十歩百歩という諺を思い出した。なぜか英国の告発スキャンダルとは思えず、日本映画をイギリス風にリメイクしたのかとすら感じられるのである。

 

イギリス映画ファンならば本作の俳優陣の演技に納得することだろう。特にキーラ・ナイトレイは Career High と言ってよいほどの圧巻のパフォーマンス。表情と口調、立ち居振る舞いでキャラの心情をダイレクトに届けてきた。特に自分こそが告発者だと名乗り出るシーン、そしてクルド系トルコ人の夫とのテレビのチャンネル争いおよび熱の入った口論は途轍もなくリアルに感じられた。彼女の告発内容を記事にする記者を演じるのはマット・スミス。『 新聞記者 』のシム・ウンギョンとは全く異なるテイストのジャーナリストだが、幅広い人脈でスパイ顔負けの取材や情報収集活動を行う敏腕記者で、不正のにおいを感じ取れば、社の方針がどうであれ、とことん突き詰める行動型の記者という点ではシム・ウンギョンそっくり。もしも戦地のイラクに派遣されれば『 プライベート・ウォー 』のメリー・コルビンのような雄々しい従軍記者になるのだろう。キャサリン・ガンの無罪を主張する弁護士を演じるレイフ・ファインズも圧倒的な存在感を放つ。弁護士は社会正義の追求だけではなく、紛争の予防および調停を最も大事にすると言われるが、クライアントの要望に応えることも大きな責務だ。そこで放たれる論理のウルトラCには誰もが腰を抜かすこと請け合いである。事件に巻き込まれた時には、このような弁護士を頼りたい。

 

冒頭の裁判開始のシーンは、そのままクライマックスの法廷シーンにつながるが、ここでの検察と判事と弁護士のやりとりは余りにも予想外である。歴史的な(といって2020年からすれば十数年前だが)事実や経緯を知らない者からすれば、この裁判は類まれなる茶番であり、なおかつ壮大なドラマであると言える。この弁護士が構築した論理とそれを証明する手続きについてよくよく考えてみれば、何のことはない、この弁護士とキャサリン・ガンは根っこの部分では同じなのだ。つまり、公私の公=職業人としての使命と、私=個人としての使命が相反した時、「私」を選ぶという点だ。それはプライベートな付き合い云々ではなく、自分の心に何が正しいかを問い続ける姿勢である。重ねて言うが、英国の話なのに日本の話に見えるところが多々ある。現代人必見の一作だろう。

 

ネガティブ・サイド

キャサリン・ガンというキャラクターのバックボーンをもう少し掘り下げる描写があれば、イギリス国内的にも、イギリス国外の映画市場でも、もっと観客を呼び込めたのではないだろうか。キャサリンはアジア滞在歴が長く、特に日本の広島にいたということはもっと強調されてよかったと感じる。また、夫との馴れ初めについても、会話以上の描写があってもよかった。またブッシュやブレアのニュース映像がふんだんに使われているのだから、このキャサリン・ガンの告発事件を報じた本物の新聞記事や本物のニュース映像も見てみたかった。

 

イギリスが歴史的に盗聴で世界の強国の地位を維持してきたという説明もどこかで少しだけ欲しかった。『 イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 』で描かれたエニグマ解読器を独自開発することに成功した英国は、そのことを秘匿。ナチス・ドイツ敗戦後にエニグマを世界各国の諜報に使わせつつ、自らはちゃっかりとそれらの暗号を解読し続けるという詐欺的な行為で世界の指導的地位を固めていたという歴史的事実の延長線上に本作はあるのだ、ということをもっと明確にすべきだった。

 

キャサリン・ガンの言う「国家ではなく国民に仕えている」というセリフは印象的であるが、ドラマチックではない。ここまでストレートに表現する必要はあるのだろうか。GCHQの職員である以上に一個人なのだということを表明するセリフが望まれていたと思う。この部分だけは妙に理屈っぽく感じられ、キャサリンという感情に強く動かされるキャラクターが首尾一貫性を欠いていたように思う。

 

総評

これは傑作である。こうした一個人の奮闘が国家の、そして国際的な欺瞞を暴くという実話がこれほどリアルに物語化された例は少ない。一方で、ブッシュやブレアといった列強のトップの政治家が今も戦争責任を問われずにいるという慄然とさせられる。歴史はわずか20年足らずで風化してしまうのか。今というタイミングで本作が制作されたことそのものが大きなメッセージになっている。すなわち、己の正義を常に問い続けよ、精神は国家に完全従属させるなということである。なんと耳の痛い教訓ではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Whistleblower

『 スノーデン 』でも紹介した表現。日本ではwhistleblowerはだいたい冷や飯を食わされる羽目になるが、そうした社会風土もさすがにそろそろ変わっていかなければならないだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, イギリス, キーラ・ナイトレイ, サスペンス, マット・スミス, レイフ・ファインズ, 伝記, 家督:ギャビン・フッド, 歴史, 配給会社:STAR CHANNEL MOVIES, 配給会社:東北新社Leave a Comment on 『 オフィシャル・シークレット 』 -公と私の関係性を鋭く問う-

『 サスペクト 哀しき容疑者 』 -追跡者にして逃亡者-

Posted on 2020年8月27日 by cool-jupiter

サスペクト 哀しき容疑者 70点
2020年8月25日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:コン・ユ パク・ヒスン
監督:ウォン・シニョン

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コン・ユといえば『 トガニ 幼き瞳の告発 』や『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』のような、非肉体系の俳優という印象だったが、本作では『 アジョシ 』のウォンビンに対抗するかのような華麗かつ残虐なアクションにチャレンジして、ある程度の成功を収めたと言える。

 

あらすじ

脱北した元精鋭工作員のドンチョル(コン・ユ)は、愛する妻子を殺害した犯人を追って韓国で運転代行業を営んでいる。ある夜、韓国経済界の実力者でドンチョルも世話になっていたパク会長の殺害現場に居合わせたドンチョルは暗殺者を撃破。しかし、逆に殺人犯としてミン・セフン大佐(パク・ヒスン)に執拗に追われることになる・・・

 

ポジティブ・サイド

まずコン・ユがここまで格闘アクションをこなすのかとびっくりさせられる。『 The Witch 魔女 』の魔女ジャユンかと見紛う体術を見せたりもする。日本で言えば向井理がバリバリの格闘シーンを演じるような感じだろうか。この強烈な違和感がどんどんと消えていく序盤から中盤、そして終盤にかけての疾走感は素晴らしい。節目節目に格闘、カーチェイス、爆発、狙撃をまじえてくるので中だるみを感じることが全くない。

 

特にカーチェイスは韓国の狭く入り組んだ路地を豪快に走破し、そんな馬鹿なという超絶テクニックで階段をクルマで降りたりもする。副題にある哀しき~は『 哀しき獣 』を意識してのことだろう。あちらはタクシー運転手、こちらは運転代行業。運転が上手いのは当たり前なのだ(上手過ぎではないかと思うが・・・)。邦画では『 プラチナデータ 』が、主人公が真犯人を追いかけながら自らも追われるというプロットだったが、二ノ宮演じる科学者がなぜあれだけ運動神経がよく、なおかつ単車の運転に長けているかの説明はゼロ。2010年代前半で、すでに邦画は韓国映画に負けていたのか。クルマのバリケードをある方法で突破するシーンには笑うと同時に感心もした。現実に実行できそうだぞ、と。とにもかくにも、本作のカーチェイスシーンおよびカーアクションは必見である。

 

パク会長殺害のミステリもストーリーを引っ張る重要な要素となる。食糧難ながらも軍拡に勤しむ北朝鮮へ重要な贈り物を携えて尋ねる予定だったというパク会長は、いったい何を手土産にしていたのか。それは朝鮮半島の緊張を高める代物なのか、それとも融和の機運を高める契機になるのか。ドンチョルの逃走とセフンの追撃が単なる個人の因縁ではなく、朝鮮半島の命運をも握っていると感じさせてくれる。ベタではあるが、まさに手に汗握る展開である。

 

ドンチョルとセフンの因果が交わる時に真相が明らかになる。追う者と追われる者の間に秘かに芽生えた奇妙な連帯感も、ベタではあるが胸を熱くしてくれる。シリアス一辺倒ではなく、セフン大佐の部下が要所要所でユーモアを発揮。アクション、ミステリ、サスペンス、ユーモアを実に適度に織り交ぜた韓流アクションの快作である。

 

ネガティブ・サイド

本作の最大の欠点はオリジナリティの欠如である。北朝鮮の元スパイという要素をごっそり取り除けば、かなりの部分は『 ジェイソン・ボーン 』の焼き直しである。また、一見すると細身の優男が実は凄腕の殺人マシーンというのは『 アジョシ 』のチャ・テシクの二番煎じ。そして、断崖絶壁を訓練で登るのは『 ミッション・インポッシブル 』とトム・クルーズ/イーサン・ハント。北朝鮮と韓国の男同士のほのかで奇妙な交流は『 JSA 』が遥かに先行していて、なおかつ優っている。そもそも妻子を殺された男が復讐のために立ち上がるというプロットが古い。小説から映画まで手垢にまみれまくった題材である。どこかで観たことがある構図や人間関係が多いのが本作の残念なところである。

 

細かいところではドンチョルが妻子の仇を前にして、あっさりと逃げられてしまうところ。普通、両足を撃つか何かして逃げられない、もしくは闘いになったときにアドバンテージをとれるようにするのではないかと思うが。まして、銃を持っているという絶対的な距離のアドバンテージを自分から相手の掌の文字を読みたいからと歩いて近づくか?サスペンスフルなシーンではあるが、現実味があるとは言い難かった。

 

ドンチョルの有能さを強調するあまり、北朝鮮が現実以上の脅威に描かれていた。本当にドンチョル級の工作員を養成する機関であれば、あそこまで過酷な訓練は課さないだろう。金の卵であるが孵化する確率は3%というのは馬鹿げている。自分が総書記なら機関のトップを間違いなく更迭する。

 

総評

韓国映画お得意の北朝鮮絡みのアクションであり、ミステリであり、サスペンスであり、ヒューマンドラマである。ハリウッドから直輸入したと思しきシーンのオンパレードであるが、それが見事に韓流のテイストと融合している。またコン・ユという俳優の底力と、彼の潜在能力を余すところなく引き出す脚本、そして監督の演出力にも舌を巻いた。ハリウッドのスパイ映画、アクション映画に飽きてきたという向きにこそ、本作を強くお勧めしたい。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

イーセッキ

セフン大佐が何回口にしたか分からないぐらい「イーセッキ」を連発している。イー=この、セッキ=野郎。イーセッキ=この野郎である。英語だと、You bastard、日本語だと、テメーこの野郎、ぐらいだろうか。『 アウトレイジ 』の韓国語吹き替えだと100回ぐらいイーセッキと聞こえてくるような気がする。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, コン・ユ, パク・ヒスン, 監督:ウォン・シニョン, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 サスペクト 哀しき容疑者 』 -追跡者にして逃亡者-

『 きっと、またあえる 』 -インド発・寮生活の勧め-

Posted on 2020年8月26日2021年2月23日 by cool-jupiter

きっと、またあえる 80点
2020年8月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:スシャント・シン・ラージプート シュラッダー・カプール
監督:ニテーシュ・ティワーリー

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『 ダンガル きっと、つよくなる 』のニテーシュ・ティワーリー監督の最新作。タイトルが『 きっと、うまくいく 』に似ているのは、内容もちょっと似ているから。原題はヒンディーでChhichhore。意味を調べてみたところ、「軽佻浮薄な野郎ども」となるらしい。このあたりを見るに脚本も手掛けたティワーリー監督は、3 idiots = 『 きっと、うまくいく 』のことも意識していたのは間違いない。

 

あらすじ

アニは、受験に失敗した息子がマンション構想階のベランダから転落したという知らせを受け、離婚した元・妻とともに病院に駆けつける。自分を「負け犬」だと卑下する息子に生きる気力を与えるために、アニは負け犬だった自らの大学生時代の思い出を語る。そして、大学時代の親友たちを一人また一人と招き、息子に紹介していく・・・

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ポジティブ・サイド

アニの息子はICU(集中治療室)に入ったと聞いて、不謹慎にも笑ってしまった。Jovianの母校もICU(国際基督教大学)だからである。そして、Jovianは今はもう取り壊されて久しい第一男子寮の出身で、大学の四年間を帰国子女や留学生らと共に二人部屋三人部屋で暮らしていた。つまり、主人公のアニに思いっきり感情移入することができたのだ。

 

ストーリーの肝はGC=General Championshipで、球技からカバディ、そしてチェスなどの10種競技の成績を大学の各寮対抗で2か月かけて競い争うというイベント。これもJovianが現役時代に(今もあるのかな?)存在した男子寮対抗の年2回のサッカー大会(岡田杯)と年1回のラグビー大会(細木杯)と、規模こそ違えど中身はそっくり。しかも、GCでの成績が振るわないのを何とか好転させるためにアニやセクサ、マミーらの多士済々の面々が自分の大好きなものを断つ、と決断するところが面白い。なぜなら我が第一男子寮にも上記のイベントごとに「オナ禁週間」が設けられていたからだ。古き良き時代という表現は好きではないが、確かにあれは古き良き日々だった。

 

酒やたばこ、母親への電話、エロ本&AV鑑賞など、様々なものを断っていく4号寮の面々だが、主人公のアニは、後に妻になり、現在猛烈にアプローチ中のマヤ(シュラッダー・カプール)との連絡・接触を断つという荒行に出る。Jovianが一年生の時に全く同じことをやっていたSという4年生の先輩がいて、実際のサッカーの試合でも決勝点を決めていた。とにかく、大学で寮生活をしたことがある者が観れば、心に突き刺さりまくり、思い出がよみがえりまくるのだ。アホなことをやっているものだと軽蔑することなかれ。我々のオナ禁も彼らの好きなもの断ちも、相手ではなく自分に負けないという気概を涵養するためのものなのだ。それこそがアニが自殺未遂を図った息子に伝えたいメッセージなのだ。

 

物語そのものの面白さもかなりのものだが、社会派としての一面も併せ持っている。過去と現在が交錯していく作品として『 サニー 永遠の仲間たち 』という傑作が思い起こされるが、この作品も韓国の血みどろの民主化運動が背景にあった。現在の繁栄は先人の流した血の上に成立しているのだというメッセージである。本作『 きっと、またあえる 』の社会的なメッセージは何か。それは、負け犬は一か所に集めろ、出来る奴も一か所に集めて、それを外部に見せろという姿勢への批判である。3号寮のライバルがスポーツ万能のアニをスカウトする時に「外国からの留学生は3号寮に集まる。だから、3号寮には特に出来の良い学生を集めるんだ」と語るが、当然アニはこの誘いを毅然と断る。経済成長と国際社会での地位向上の著しいインドへのメッセージだろう。カーストを隠すな、取り繕うなと言っているわけだ。だからといって被差別者に立ち上がれ、体制をぶっ壊せ的なメッセージを発したりはしない。倒すべきは自分の弱い心で、自分で自分に負けてはいけないのだということこそが本作の眼目だ。

 

かといってシリアスになるばかりでもない。寮生活はお下劣で非衛生的で、上下関係も緩く、友情と連帯感にあふれている。そして、GCの様々な競技で劣勢に立たされる4号寮が、アニの策略によって次々に相手を撃破していく過程は卑怯でもありながら、ぎりぎりで合法的な策略でもある。携帯電話が一般に普及していない時代だからこそ、なおかつ女子が極端に少ない工科大学だからこその謀略が炸裂するシーンは、自身の大学生活を思い起こして、笑いを押し殺すのに必死になってしまった。別に寮暮らしの経験がなくとも本作のアニとその仲間のLOSERSの奮闘には、大いに笑えるし涙も出てくることだろう。

 

それにしても『 PK 』のアヌシュカ・シャルマといい、本作のシュラッダー・カプールといい、インドの女優さんの美しさには目が眩むばかりである。

 

『 スラムドッグ$ミリオネア 』のように、エンディングのクレジットシーンの途中から壮大な歌と踊りが展開されるので、よほど膀胱が限界だという人以外は席を立ってはならない。

 

ネガティブ・サイド

ほとんど欠点が見当たらないが、二つだけ。セクサ以外のキャラが現在どのような仕事しているのかが見えてこないのが少し残念。セクサは「ムンバイは物価が高いな」と外国慣れとインドの物価上昇の両方をさりげなくアピールしていたが、こういった描写や演出が他キャラにも欲しかった。

 

もう一つ、LOSERSのTシャツを作る、あるいは着用して写真を撮るシーンが大学時代に欲しかったと思う。

 

総評

大学生時代のアニを演じたスシャント・シン・ラージプートが2020年6月14日に死亡したことが報じられた。本作は彼の遺作の一つとなる。本作のメッセージである「お前は負け犬じゃない」は、彼には届かなかったのか。冥福を祈る。三浦春馬といいラージプートといい、何故に好き好んで鬼籍に入るのか。虎は死んで皮を残すと言うが、その皮の見事さについては、誰かが細々とでも語り継いでいかなければならないだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pressure

名詞なら「圧力」、動詞なら「圧力をかける」の意。しばしば、以下のような形で使う。

 

He’s getting a lot of pressure from his girlfriend to get a decent job.

彼は恋人からまともな仕事に就くようにと多大なプレッシャーを受けている。

 

My wife is always pressuring me to get a promotion and make more money.

うちの嫁さんは俺に出世してもっと金を稼げといつもプレッシャーを与えてくるんだ。

ついでに Rod Stewart の “When We Were The New Boys”も紹介しておきたい。学生時代の友情は unforgettable である。

www.youtube.com

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, インド, シュラッダー・カプール, スシャント・シン・ラージプート, 監督:ニテーシュ・ティワーリー, 配給会社:ファインフィルムズLeave a Comment on 『 きっと、またあえる 』 -インド発・寮生活の勧め-

『 ジェクシー! スマホを変えただけなのに 』 -気軽に笑える安心コメディ-

Posted on 2020年8月25日2021年1月22日 by cool-jupiter

ジェクシー! スマホを変えただけなのに 65点
2020年8月22日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:アダム・ディバイン アレクサンドラ・シップ
監督:ジョン・ルーカス スコット・ムーア 

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監督および脚本は『 ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い 』のジョン・ルーカスとスコット・ムーアのコンビ。となると、大いに笑えてちょっぴり考えさせられるコメディに仕上がっているのは間違いない。日本版の副題は『 スマホを落としただけなのに 』のパロディだが、ホラー要素はないので安心して観に行ってほしい。

 

あらすじ

フィル(アダム・ディバイン)はスマホ依存症。ある時、街中で偶然にケイト(アレクサンドラ・シップ)と知り合うも、直後にアクシデントでスマホが壊れてしまう。新しいスマホを手に入れたフィルは、「あなたの生活向上を支援します」というジェクシーというAIと奇妙な共同生活を始めるのだが・・・

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ポジティブ・サイド

主役のフィルはなんと『 ピッチ・パーフェクト 』と『 ピッチ・パーフェクト2 』のトレブルメーカーズの嫌味な男筆頭のバンパーを演じたアダム・ディバインではないか。ベラーズの面々は男とのある意味でとても不毛な惚れた腫れたの関係から華麗に卒業していったが、こちらは対極的にお一人様を楽しむ優雅な中年男。『 結婚できない男 』の阿部寛とは方向性がまるで違うが、フィルのような独身貴族は全世界で軽く数百万人は存在するのではないか。それほどリアルな人物の造形であり描写である。まず、職業がネット記事のライターというところが笑わせる。誰しも「○○○がオワコンである5つの理由」とか「株で成功する人が共通して持つ3つの習慣」といった、テンプレ感丸出しの記事を読んだことがあるだろう。つまり、常日頃から我々をスマホにくぎ付けにすることに血道を上げる職業人なのだ。この情けないやら有り難いやらの中間の存在のフィルに感情移入できるかどうかが大きなポイント。もしも、「何だ、つまんねー主人公だな」と感じるなら本作はスルーしよう。「なんか親近感がある」と思えれば劇場へ行こう。

 

スマホに気を取られて道を歩いていて人にぶつかってしまう。その時、ぶつかった相手ではなく自分のスマホの方を気にかけてしまうフィルに、「人の振り見て我が振り直せ」と感じる人も多いはずだ。だが人間万事塞翁が馬。これがもとでケイトに出会い、ケイトとの出会いがジェクシーとの出会いをもたらしたのだから。ケイト演じるアレクサンドラ・シップのフィルモグラフィーを見て、こちらにもびっくり。なんとあの怪作『 X-MEN:ダーク・フェニックス 』のストームではないか。だが本作ではミュータントではなくいたって普通の人間。というよりもいたって普通の女子である。笑顔がチャーミングで、それでいて野暮なフィルのデートの誘いを快諾。半年ぶりにすね毛を剃ったという女子力ゼロの発言から、小洒落た高級レストランを出て街中のバーへ。あれよあれよの夜中のサイクリング軍団への合流から、深夜の路上の情熱的で扇情的なキス。日本の少女漫画の映画化では絶対に描けないような極めてリアルな大人のデートである。そのすべてに輝きを与えているのは他ならぬケイト。正直、なぜこれで男がいないのかと訝しくなるが・・・おっと、これ以上は劇場で確かめてほしい。

 

スマホと人間の恋愛というと『 her 世界で一つの彼女 』という優れた先行作品がある。あちらは純粋なSFだったが、こちらは純粋なコメディ。そのことを象徴的に表すのが、ジェクシーとフィルのテレホンセックス。言葉で互いを高め合うのではなく、充電用ケーブルのコネクタをスマホ本体に抜き差しするという物理的なセックス。もう笑うしかない。トレイラーで散々映されているから、このぐらいはネタバレにはならないだろう。ジェクシーの魅力は何と言ってもuncontrollableなところ。電源を切ろうにも切らせてくれないし、フィルのプライバシーや口座、SNSにも易々とアクセス。生活を向上させてくれるかどうかはビミョーであるが、フィルを生き生きとさせていることは間違いない。ケイトと自分を比較して「あの女にはポケモンGOもGoogle Mapsもない」と言い放つ。それがフィルにはそれなりに堪える台詞なのだから、情けないやら身につまされるやらで、なんだかんだで笑ってしまう。

 

ストーリーは完全に予定調和で、ランタイムも90分を切るというコンパクトな作りである。脇を固めるキャラも人間味があるし、マイケル・ペーニャは『 アントマン 』並みのマシンガントークで相変わらず笑わせてくれるし、フィルの生活はスマホを片時も手放せない現代人なら、思わず理解してしまったり共感してしまうシーンのオンパレードである。何も考えずに80分笑って、時々はスマホから離れて友人や恋人、家族と語らおう。そんな気にさせてくれるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

スマホショップの老婆は必要だったか。いや、必要だったのは分かるが、何らかのキーパーソンであると見せかけて、これでは・・・。『 ステータス・アップデート 』の不思議なアプリ入りのスマホのように、特定の人物からしか手に入らない特別なスマホとAIという設定の方が良かったのではないか。フィルのようなスマホのヘビーユーザーなら、ジェクシーのことを「なんかヤバいぞ」と感じた瞬間にその場でググるはずだし、新しくできた友人たちにジェクシーというAIを知っているかと尋ねることもできたはずだ。ジェクシー搭載のスマホがありふれたものなのか、それとも希少なのか。そこがはっきりしない点が釈然としなかった。

 

主人公のフィルがジャーナリスト志望という点もストーリーとは密接にリンクしていなかった。ジェクシーに振り回される自分を題材に、【 スマホに振り回されないための10の心得 】みたいな記事を書いてバズる、あるいはマイケル・ペーニャ演じる上司にしこたま怒られる、という展開があっても良かったように思う。そうした経験が肥やしになってこそ、ラストが光り輝くのだろう。

 

細かい点ではあるが、土砂降りの雨のシーンとその後の会社のシーンがつながっていなかた。フィルはびしょ濡れ、オフィスの大きな窓からは陽光が燦々、というのは邦画でもちらほら見られるミスだ。

 

総評

本作は様々な層を楽しませるだろう。高校生以上のカップルや夫婦で楽しんでも良し。もちろん優雅な独身貴族も歓迎だ。そして、あなたがトム・クルーズの大ファンだというなら、本作は決して見逃してはならない。Jovianは何が何でも字幕派だが、本作に関しては日本語吹き替えにも興味がある。誰か吹き替え版の感想を詳細にどこかに書いてくれないかな。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

think outside the box

『 サラブレッド 』でも紹介したフレーズ。マイケル・ペーニャ演じるボスが会議中に言う台詞。意味は「既存の枠組みにとらわれずに考える」である。ビジネスパーソンなら知っておきたいし、実践もしたい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アダム・ディバイン, アメリカ, アレクサンドラ・シップ, コメディ, 監督:ジョン・ルーカス, 監督:スコット・ムーア, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 ジェクシー! スマホを変えただけなのに 』 -気軽に笑える安心コメディ-

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