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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 2020年代

『 ペナルティループ 』 -タイムループものの珍品-

Posted on 2025年2月8日 by cool-jupiter

ペナルティループ 55点
2025年2月3日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:若葉竜也 伊勢谷友介 山下リオ
監督:荒木伸二

 

劇場公開時に見逃してしまったので、近所のTSUTAYAで借りてきて鑑賞。

あらすじ

岩森(若葉竜也)は恋人の唯(山下リオ)を謎の男、溝口(伊勢谷友介)に殺害されてしまう。復讐に燃える岩森は綿密な計画の元、首尾よく溝口を殺害し、死体を遺棄する。しかし、翌朝目が覚めるとなぜか日付が戻っていて溝口も生きている。岩森は謎のタイムループの中、溝口を殺し続けるが・・・

 

ポジティブ・サイド

ネタバレ防止のために白字にするが、

 

『 マトリックス 』

『 エンドレス 繰り返される悪夢 』

『 神回 』

『 レミニセンス 』

『 アーカイヴ 』

『 本心 』

 

のような映画を邦画でやってみました、という感じ。面白いのは『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』のように少しずつ先に進んでいくのではなく、とても奇妙な camaaderie が生まれるところ。これもネタバレ要素なので、敢えて英語で書く。また『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』ではトム・クルーズが殺されまくるが、本作では主人公の側が殺しまくる。これは結構斬新な設定であるように思う。ループの仕組みもタイムリーと言うか、数十年後には実現できそうとは感じる。

 

若葉竜也は『 市子 』や『 嗤う蟲 』と似たような設定ながら、狂気に囚われるそれらの作品とは異なり、ある意味でとてもユーモラスに達観する、諦念する人物を好演。また久しぶりに見る伊勢谷友介も、シリアスさとコミカルさを同居させた演技が光った。

 

ネガティブ・サイド

単純な疑問として、どうやって溝口が下手人だと分かったのか。というか、下手人だと設定できたのかと言うべきか。

 

さらに根本的な疑問として、唯の本心とされている願望が果たして本当なのかどうか。また溝口が主人公と同じようなステータスを与えられているのも疑問。まあ、設定だと言われればそれまでだが。

 

ゲーテの『 ファウスト 』よろしく、今この生を享受せよというメッセージがあるのだろうが、それを言いたいがための最終盤のシーンはかなり強引かつ絵的にも美しいものではなかった。こういう作品は社会性など求めず、『 CUBE 』のようなスパっとした切れ味で終わるべき。具体的には unplug するシーンでエンドロールになだれ込むべきだった。

 

総評

『 人数の町 』同様に、どこかにあるかもしれない世界という設定にはリアリティがあったし、その世界の中身もそれなりにしっかり構築されていた。ただ、その世界の中でキャラを巧みに動かせていたかというと疑問が残る。ただ、タイムループというジャンルに新しい視点を持ち込んだことは確か。伊勢谷友介のファンなら(ショッキングかもしれないが)鑑賞をされたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

keep sb in the loop

人をループの中に保つ、転じて「情報のやり取りの輪の中に誰それを入れる」の意。前の部署では頻繁に使っていたし、聞こえてもいた。まずは職場やクライアントに、”Keep me in the loop, please.” と伝えるところから始めてみようではないか。そういえば、Why am I not in the loop? と定期的に営業スタッフに激怒していた前の部署の中年ブリティッシュは元気にしているだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, D Rank, SF, 伊勢谷友介, 山下リオ, 日本, 監督:荒木伸二, 若葉竜也, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 ペナルティループ 』 -タイムループものの珍品-

『 雪の花 ―ともに在りて― 』 -ワクチン接種のはじまりを描く-

Posted on 2025年2月5日 by cool-jupiter

雪の花 ―ともに在りて― 70点
2025年2月1日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:松坂桃李 芳根京子 役所広司
監督:小泉堯史

 

『 散り椿 』など、時代劇を世に問い続ける小泉監督の最新作。どう考えてもコロナ禍とそのワクチン接種にインスパイアされて出来た作品である。

あらすじ

江戸時代末期、越前の町医者、笠原良策(松坂桃李)はある村に診療に訪れる。しかし、患者たちは痘瘡を患っていた。患者を隔離するしか為す術がない良策は、漢方でなく蘭方に治療法を見出す。そして蘭方医の日野鼎哉(役所広司)に教えを乞うため京の都に向かうが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭から、病を患う村人に対して何もできないという無力感。疱瘡の患者は山あげして、後は運よく生き残る者が出るのを待つのみという絶望感。中世ヨーロッパで何度も流行したペストや、100年前のスペイン風邪もこのようなものだったのだろうか。ある意味で当然だが、最初期のコロナ禍を思い起こさせる。

 

松坂桃李が笠原良策を好演。名を求めず、利を求めず、ただただ人を救いたい、自分に救うことができる人を何としても増やしたいという医者の鑑のような人物をきっちりと描き出した。蘭方への唐突な宗旨替えも、無力感の強さが使命感の強さに転化したものということで説明がついた。

 

種痘の原理は理解できても、それを実施するために越えなければならない政治的な関門がいくつもあるのもコロナ禍との共通点だった。特に種苗を海外から輸入するというのは、そのまんまワクチンの輸入に重なっていた。

 

また工場で生産できるワクチンとは異なり、当時は子どもから子どもへ抗原を受け継いでいく必要があり、かつその期間も限定されていたため、吹雪の峠越えをも敢行したようだ。これは映画化に際しての脚色だろうと思っていたシーンが、調べてみると日記に基づく史実だということに度肝を抜かれた。

 

なんとか種苗を入手して解説した種痘所も、流言飛語によって閑古鳥が鳴く始末。しかし、先輩医師の援助や藩への歎願、さらに良いのか悪いのか権力者への根回しなどもあり、ついに藩を挙げての種痘の体制が整う。いつの時代も真偽不明の風説が流布される。そしてその発信元が往々にして既得権益側であるというのも本邦の伝統なのか。そうした旧弊は打破されるべきであるし、実際に過去にも打破されてきたのだという力強いメッセージを受け取ったように思う。

 

少し前に仕事の一環として、このようなレクチャー動画を作ったことがある。センメルヴェイスとナイチンゲール、さらにパスツールについてリサーチしている中でジェンナーも調べた。しかし笠原良策については勉強が及ばなかった。我が目の不明を恥じるとともに、蒙を啓いてくれた小泉監督、原作者の吉村昭氏に感謝したい。

 

ネガティブ・サイド

時々、左から右へワイプで画面が切り替わるのが目障りと言うか、不自然に感じた。

 

四季折々の印象的なショットの数々とは対照的に、良作が旅するシーンでは画角がかなり小さく、旅をしているという感覚があまり共有されなかった。特に最後のシーンは全画面に広がるほどの〇〇を見せるべきではなかったか。それこそが流れの先というものだろう。

 

良策の大立ち回りが非現実的。悪党2~3人を懲らしめる程度なら日ごろの鍛錬の賜物だと納得はできるが、それ以上の大人数となると医者ではなく相当な腕利きの武士になってしまう。

 

芳根京子の男之介っぷりも映画の絵作り以外の意味がなかった。

 

総評

知識を更新することの大切さはいつの時代でも同じ。現代人でもRNAワクチンが何たるかを理解できない、というか免疫機構の概要を理解できない者が多くいるが、100年以上前の人間ならなおさらだろう。そんな中でEBM=Evidence Based Medicineに宗旨替えし、利を求めず名を求めずを貫いた医師がいたことには素直に感動させられた。ぜひ多くの人に観てもらいたいと思える秀作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

vaccinate

ワクチン接種させる、の意味。自身が注射する側でなければ、be vaccinated または get vaccinated という形で使う。政府や自治体が主語なら、The government vaccinated 20 million people last year. のように能動態でも使える。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, 伝記, 役所広司, 日本, 松坂桃李, 歴史, 監督:小泉堯史, 芳根京子, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 雪の花 ―ともに在りて― 』 -ワクチン接種のはじまりを描く-

『 嗤う蟲 』 -村八分の恐怖-

Posted on 2025年2月1日 by cool-jupiter

嗤う蟲 60点
2025年1月31日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:深川麻衣 若葉竜也 田口トモロヲ
監督:城定秀夫

 

『 アルプススタンドのはしの方 』、『 愛なのに 』の城定秀夫が監督ということでチケット購入。

あらすじ

杏奈(深川麻衣)と輝道(若葉竜也)の夫婦は都会から田舎に移住。杏奈はイラストレーターとして、輝道は農家として働いていた。地域の顔役の田久保(田口トモロヲ)をはじめ、村人たちは二人を歓迎するが・・・

ポジティブ・サイド

移住者に対する村の歓待がエスカレートしていく前半、そして村の闇が垣間見える中盤、そしてタイトルの意味がはっきりとする終盤と、非常にテンポよく進んでいく。しかし、細部の描写はかなりねっとりしている。人間関係の力学が都会のそれとはかなり違い、ここまで大袈裟ではないにしろ、ド田舎で似たような状況を目撃してきたJovianは結構なリアリティを感じた。

 

徐々に村のシステムに取り込まれていく夫と、リモートで働く妻のコントラストも際立っていた。そして妻の妊娠と、村を挙げての不穏なまでの歓迎ムードが否が応にも観る側の不安を掻き立てる。そしてその不安は現実として襲い掛かってくる。鑑賞後にJovian妻は開口一番、「田口トモロヲはいつも顔と名前が一致せんわ」と言っていたが、本人が聞けばガッツポーズをするだろう賛辞である。それぐらいキレッキレの演技だったし、杉田かおるの行き過ぎた近所のおばさん感や、片岡礼子の壊れた中年女性感、そして松浦祐也の絶望で暴走した中年男性像など、役者の演技が本作を引き締めていた。

 

タイトルにある蟲の意味は終盤ではっきりする。我々は虫を農薬で殺したり、手でつぶしたり踏みつぶしたりするが、それが中央と地方の構図に非常に似通っていることに慄然とする。特に能登半島の復旧の遅さなどは、地理的な難しさもあるが、それ以上に政治的な力学が要因になっているように思えてならない。エンドクレジット後にも短い映像があるので見逃すことなかれ。それが何のメタファーなのか、というよりも何のメタファーだと解釈するのかで自身の感性や思考が見えてくるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

杏奈と輝道がなぜ田舎移住を決断したのかがよく見えなかった。無農薬に対するこだわりの背景などが描かれていれば、輝道が田久保に屈していくという過程に観る側がもっと杏奈に同調して切歯扼腕できたのにと思う。

 

また移住して2~3年は経過したと思われるが、そのあたりの描写がもう少しあっても良かった。たとえば畑や田んぼの様子だったり、あるいはどんな虫がどんな植物についていたり、あるいは虫がまったく姿を消してしまったりといった描写を要所で入れていれば、それだけで季節の移り変わりを明示できたはず。

 

総評

『 ヴィレッジ 』には及ばないが、『 変な家 』や『 みなに幸あれ 』といった珍品よりは遥かに面白い。今後ますます人口減少が進んで、地方はさらに衰退していく。本作で描かれたような村が生まれてきても驚きはない。同時に都市部でも経済格差や人種・国籍などで「こちら側」と「あちら側」に住民が分断されていく。行き着くところは日本という国家が世界から村八分にされること。製作者の意図ではないだろうが、そんなことまで考えさせられた作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

rural migration

田舎移住の私訳。というか、田舎移住はしばしば rural migration と表現される。あるいは urban-to-rural migration のように、都市から田舎への移住と明確にすることもある。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 雪の花 ―ともに在りて― 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 日本, 深川麻衣, 田口トモロヲ, 監督:城定秀夫, 若葉竜也, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 嗤う蟲 』 -村八分の恐怖-

『 アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 』 -知られざるトランプの師を描く-

Posted on 2025年1月27日 by cool-jupiter

アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 70点
2025年1月25日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:セバスチャン・スタン ジェレミー・ストロング
監督:アリ・アッバシ

 

『 ボーダー 二つの世界 』、『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』のアリ・アッバシ監督が、若き日のドナルド・トランプとその師を描くということでチケット購入。

あらすじ

若きビジネスマンのドナルド・トランプ(セバスチャン・スタン)は、父の営む不動産会社が人種差別の疑いで政府に訴えられていたことから、敏腕弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)に助成を乞う。コーンはトランプに勝利のための3つのルールを教え込んで・・・

ポジティブ・サイド

若き日のドナルド・トランプを描くというだけで興味をそそられる。実際に非常に興味深く観ることができた。

 

まず1980年代のアメリカの経済が、高金利や輸出不振などでボロボロだったことが活写されていたのが新鮮だった。当時の日本がバブル景気を謳歌していたのは、子どもだったJovianも何となく覚えているし、同時代の『 ゴジラvsキングギドラ 』のプロットなどに当時の世界情勢も反映されている。

 

そんな中で若きトランプが父の影から出て、トランプ・タワーの建設に邁進していく様は、ひとつのビルドゥングスロマンのようにも映ったし、悪徳弁護士ロイ・コーンの薫陶を受けて、勤勉なビジネスマンから強欲非道なビジネスマンに変貌していく様は恐ろしくもあった。

 

やはり最も印象に残ったのは、ロイ・コーンの

 

  1. Attack, attack, attack.
  2. Admit nothing and deny everything.
  3. Claim victory and never admit defeat.

 

という勝利への3つのルール。どこかの島国の偏った言論人やネトウヨと呼ばれる人種の行動原理とそっくりではないか。

 

ストーリーはロイ・コーンの助言を基にビジネスを拡大させていくトランプから、中盤以降、トランプの結婚、トランプとロイ・コーンの離反、トランプと兄との確執などが丹念に、しかしテンポよく描かれていく。終盤では、かつての師匠であったロイ・コーンとの再会を果たすトランプだが、彼はもはや強欲非道ではなく、冷酷非情な人間になってしまっていた。

 

本作はトランプを一種の作られた偶像のように描くが、彼を作ったロイ・コーンとのコントラストが面白い。たとえば頭髪と内臓脂肪に対して、師匠のロイ・コーンは禿げ頭を気にせず、運動にもしっかり励むのだが、弟子のトランプはまったく異なるアプローチを選択する。現実のトランプ大統領がスエズ運河やグリーンランド、カナダの領有を主張する理由がなんとなく見えてくる。

 

ロイ・コーンのことは不勉強でよく知らないが、セバスチャン・スタンがどんどんと現実のトランプそっくりになっていくのには笑わされるのと同時に唸らされた。『 バイス 』でチェイニーを演じたクリスチャン・ベールと肩を並べる熱演だった。

 

ネガティブ・サイド

冒頭がニクソンだったのは、前々回の選挙不正疑惑を直接的に批判する意図だろうか。そんな誘導は不要な出来栄えだったと思うのだが。

 

レーガン政権のキャッチフレーズ、Let’s Make America Great Again. の Again の部分が分かりにくかった。序盤の人種差別疑惑から徹底して、自身のそばに有色人種を置かないというトランプの姿をもっと明示的にしていれば、より過激なメッセージになっただろうに。 

 

作中での時間の経過がいまひとつはっきりしなかった。最終盤にトランプの子ども達の姿でも映し出してくれれば、そのあたりも把握しやすくなったと思われる。

 

総評

実に見応えのある伝記映画だった。藍は青より出でて藍より青しと言うが、アメリカを顧客だとうそぶくロイ・コーンの弟子のトランプが、アメリカを従業員だと捉えるかのように成長していく過程がスリリングだった。もちろん、かなりの脚色がされているのだろうが、事実は往々にして小説よりも奇なり。トランプ流の政治や外交が早くも波紋を呼んでいるが、そうしたニュースの背景を知る一つのきっかけとして本作は十分に機能するのではないだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

apprentice

原題の The Apprentice とは「弟子」「徒弟」「見習い」の意。『 スター・ウォーズ 』のファンなら、ジェダイやシスにおけるマスターとアプレンティスの関係をよくよくご存じのはず。IELTSやTOEFL、英検準1級以上を受験するなら知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, ジェレミー・ストロング, セバスチャン・スタン, 伝記, 監督:アリ・アッバシ, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 』 -知られざるトランプの師を描く-

『 港に灯がともる 』 -生きやすさを求めて-

Posted on 2025年1月21日 by cool-jupiter

港に灯がともる 80点
2025年1月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:富田望生
監督:安達もじり

 

先日、30年目を迎えた阪神淡路大震災と在日韓国人をテーマにした作品ということでチケット購入。

あらすじ

在日3世の金子灯(富田望生)は、震災と国籍に囚われ続ける父と、帰化に前向きな姉や母との間で苦悩した結果、心を病んでしまう。友人の紹介で訪れた診療所で様々な思いを吐露する人々に接することで、灯は少しずつ自分を客観視できるようになり・・・

以下、ややネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

主人公の灯は在日3世、Jovianは帰化した在日3.5世(母が2世、父が3世)なので、主人公の灯の苦悩はよくわかった。一方でJovian妻は劇場が明るくなってからの第一声が「意味わからん」だった。このコントラストよ。

 

Jovianの母方はコテコテの在日だったので、甲本雅裕演じる父の苦悩や、妻より母を優先してしまう気質がなんとなく理解できる。韓国の歴史ドラマを観る人なら、王の間に母親が来ると、王が上座を譲ったりするが、あれがまさに韓国人の気質である。その一方で、在日という”異人性”を捨てて、日本生まれ日本育ちなのだから帰化しようという父以外の家族の気持ちもよく理解できる。主人公の灯はその中間にあって、まさにアイデンティティ・クライシスを経験するところから物語は始まる。

 

父と母の別居の話や、姉の日本人との結婚、また弟は妙な動画に傾倒しつつあるなど、家族の離散の危機をもろに感じ取ってダメージを受けてしまう灯の描写が非常に具体的で切実だ。ただ『 焼肉ドラゴン 』でも描かれていたように、家族とはいずれ離散するもの。灯も最終的にはそのことを受け入れていく。そこに至るまでの数多くの事件が、彼女を弱らせ、また強くもしていく。

 

印象的だったのは診療所での別の在日の患者。彼が言い放つ「常に自分で自分に嘘をついている」という感覚は、在日でなくとも感じたことのある人はいるはず。たとえばJovianの中学時代の同級生は、両親が離婚して苗字が変わってしまったが、学校ではそのまま過ごしていた。しかし、彼が苗字を変えられない自分に対して苦悩していたことを今でもよく覚えている。

 

自身が経験することのなかった震災だが、東日本大震災やコロナ禍、そしてロシアによるウクライナ侵攻と、その結果としての難民問題など、社会問題に触れていくことで灯は成長していく。ロングのワンカットを多用し、灯の表情や立ち居振る舞いから彼女の心情を語らせたのは正解だった。というのも、本作のテーマは想像力とその欠如だからだ。少しずつ他者に思いを馳せられるようになった灯が、ついに父と対話するシーンは『 風の電話 』のクライマックスを思い起こさせた。

 

灯を演じたのは『 チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話 』で毒親に向かって「月に一万だけでいいから寄越せ」と啖呵を切った女子高生。甲本雅裕演じる父との対話シーンは、映画ではなく舞台演劇のような臨場感だった。また渡辺真起子の出演作にはハズレが少ないというジンクスは今作でも健在。ぜひ多くの人に観ていただき、困惑し、そして何かを考え始めるきっかけとしてほしい。

 

ネガティブ・サイド

帰化申請時の法務局の役人との面接をもっとリアルに作れなかったか。いや、お役人さんから「ここでの問答は絶対に秘密にしてください」と言われるのだが、そこは取材すれば語ってくれる人もそれなりにいるはず。ちなみに1990年代半ばだと、いじめ、あるいは本気度の確認なのか、平日の夕方に電話で「明日の朝に法務局に来てください」みたいな対応だったな。そして面談で尋ねられたことが「あなたは●●●を●●できますか」、「あなたは将来〇〇〇〇と◇◇◇しますか」だったな・・・ あほらし。

 

総評

兵庫県民、特に神戸の住人なら、よく知る景色がいっぱいなので、ぜひご当地映画として観てほしいと思う。Jovianも近いうちに『 リバー、流れないでよ 』以来の聖地巡礼として、丸五市場にも行ってみようと思う。街にも職場にも学校にも、なんか目に見えて外国人が増えてきたなと感じる人は本作を観て、想像しようとしてみてほしい。その想像が正しくある必要などない。求められるのは想像しようという姿勢だけである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

naturalize

「帰化する」の意。She is a naturalized citizen of the United States. = 彼女は合衆国への帰化人です、のように使う。今後十年、日本の各地で様々な『 マイスモールランド 』が現れ、その後の十年で日本への帰化者が増えることだろう。その先は・・・推して知るべし。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 富田望生, 日本, 監督:安達もじり, 配給会社:太秦Leave a Comment on 『 港に灯がともる 』 -生きやすさを求めて-

『 #彼女が死んだ 』 -社会の闇の一端を覗く-

Posted on 2025年1月19日 by cool-jupiter

#彼女が死んだ 70点
2025年1月18日 kino cinéma 心斎橋にて鑑賞
出演:ピョン・ヨハン シン・ヘソン イエル
監督:キム・セフィ

 

予告編が面白そうだったのでチケット購入。

あらすじ

不動産業を営むク・ジョンテ(ピョン・ヨハン)は顧客から預かった鍵で家に入り込み、最も不要そうなものを失敬するという趣味の持ち主。彼はある時、インフルエンサーとして振る舞うハン・ソラ(シン・ヘソン)に興味を抱く。そのハン・ソラが引っ越しするということで、ジョンテは部屋の鍵を託される。留守を見計らって侵入したジョンテが見たのは、腹部から大量出血してピクリとも動かないソラだった・・・

 

ポジティブ・サイド

不動産屋に対しての信頼がゼロになりそうな冒頭ながら、他人のスマホやSNSを覗き込む主人公ジョンテに対して、徐々にシンクロしてしまうという現代人は多いのではないだろうか。そのような巧みな掴みから、ハン・ソラの死亡シーンの遭遇、そして消えた死体と刻々送られてくる謎めいた脅迫状と、中盤まで怒涛のスピードで展開される疾走感は、まさしく韓国映画。

 

中盤以降、ハン・ソラの見えざる顔が見えてくるあたりから、社会の闇が浮かび上がってくる。そんな中でも、極めて異質な個人として浮かびあってくるのは・・・おっと、ここから先は言ってはいけない。

 

中盤から登場するオ刑事の存在感が素晴らしい。本邦だと『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』で北川景子が長髪をくくりもせずに捜査現場に出向いていたが、無能揃いで知られる韓国警察も、女性刑事となるとリアリティが格段に増す。いかつい顔、長身、肩幅広い、気が強い、結構な武闘派という刑事で、彼女の登場シーンは一か所を除いて全てが絵になっていた。

 

それにしても韓国映画は、女優の発狂シーンを描くのが本当にうまい。人間の感情を視覚的に表現することにかけては韓国の俳優陣は世界でもトップレベルではないだろうか。そしてエンタメ作品ながらも、最後に苦味を残すのも『 目撃者 』同様に、韓国映画のお約束。主演の二人は『 エンドレス 繰り返される悪夢 』でも共演していた。確かに、二人ともうっすらと記憶にあった。

 

ネガティブ・サイド

お客さんから預かっている鍵の保管方法が緩すぎではないだろうか。ダイヤル式の金庫に入れておいてもいいと思うのだが。

 

詳しくは書けない(何故なら詳しく描写されていない)が、現代社会において取り扱いに厳重な注意を要する二つの対象が abuse されていたというのが本作の一つの肝。しかし、その部分の描写が必要最低限を下回っているように見えた。『 トガニ 幼き瞳の告発 』とまでは言わないが、1~2分で良いので、とある対象への虐待シーンは入れてほしかった。

 

とある殺人シーンがあまりにも非合理的。滑車が使われていたわけでもあるまいに、あそこまで物理的な力が作用するか?

 

総評

陰鬱かつ凄惨なサスペンスである。以下、ビミョーにネタバレっぽく言うなら、ビル・S・バリンジャーの小説『 歯と爪 』と、デビッド・フィンチャー監督の映画『 ゴーン・ガール 』、アニーシュ・チャガンティ監督の『 search サーチ 』に韓国テイストを加えたような感じと言えば伝わるだろうか。つまり、古典的・典型的な要素を盛り込みながらも、現代風にアップデートされた作品ということ。観て損はしない一作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Love what you do

スティーブ・ジョブズのスピーチの一節として知られる。当時はこれをどう訳すのかで英語界隈で結構な議論が巻き起こった。loveは愛せ、大好きになれ、惚れ込め、などで良いのだろうが、what you do を果たして仕事と訳してよいのかどうか。文脈的には仕事で問題ない。ただし、 What do you do? = お仕事は何ですか?と暗記するのは間違い。中学の同級生と10年ぶりに再会して、「久しぶり、今は何してるの?」というのが、What do you do?の意味。答えは「大学院に通ってる」かもしれないし、「サラリーマンやってる」かもしれないし、「バイトしながら投資の勉強してる」かもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 港に灯がともる 』
『 怪獣ヤロウ! 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, イエル, サスペンス, シン・ヘソン, ピョン・ヨハン, 監督:キム・セフィ, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 #彼女が死んだ 』 -社会の闇の一端を覗く-

『 FPU 若き勇者たち 』 -中国の国策映画-

Posted on 2025年1月13日 by cool-jupiter

FPU 若き勇者たち 65点
2025年1月10日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ワン・イーボー
監督:リー・タッチウ

 

年末から始まった謎の感冒症状がなかなか治らない。が、本作は少し気になったのでチケット購入。

あらすじ

反政府武装勢力と政権との内戦が続くアフリカ某国に、国連からの要請でFPUが派遣されることになった。任に当たる中国警察の面々は個々の能力には秀でるものの、チームワークに難があった。その中には若き狙撃手ヤン(ワン・イーボー)の姿もあり・・・

ポジティブ・サイド

アフリカの部族間抗争の延長線上の内戦を描いている。そうした抗争の根っこはほとんどすべて欧米列強のアフリカ支配で、勝手な国境線の取り決めや特定部族の優遇や特定部族の排除の歴史が今につながっている。中国はそうした歴史とは無縁(アフリカでは、という意味。他地域はまた話が別)なので、実際にPKOを行ったり、こうしたプロパガンダ映画を作りたくなるのもむべなるかな。

 

アクションのビルドアップが良い。最初は小競り合い、そこから投石や火炎瓶にエスカレートしていき、そしてスナイパーによる狙撃まで。赴任の Day 1 から打ちのめされるFPUと、そこから徐々に現地住民になじんでいく過程はシンプルながら興味深かった。自衛隊もイラクでこんな感じだったのだろうと想像が膨らんだ。

 

中国語だけでなく、フランス語や英語も飛び交い、近年の韓国映画的でもある。とあるキャラの言う “Justice knows no border.” はまさに cinematic な台詞で、邦画もこれぐらいは頑張ってほしいもの。

 

主役のワン・イーボーと隊長の間に因縁が用意されているのも、ベタではあるがプロットには活きていた。

 

ネガティブ・サイド

『 ボーン・トゥ・フライ 』の隊長や『 熱烈 』のコーチのような、暑苦しいオッサンキャラがいなかった。FPUの隊長が本来そのポジションなのだろうが、ヤンの父親の相棒だったわりには若すぎる。オヤジというよりもアニキというキャラで、隊の中でもプロットの面でも浮いていた。

 

エンドロールが長かった。いや、インド映画だと思えばそれも許容可能だが、メイキング映像と本編の補完映像を同時に流すのはいかがなものか。見せるのならどちらかに統一を。

 

総評

こういうのは往々にして反政府側が善に描かれるものだが、本作はそうではない。中国共産党の国策映画なのだから当たり前といえば当たり前なのだが、それなりに新鮮な視点が提供されていた。ハリウッドのドンパチとは毛色の違うB級アクションだが、深く考えなければ気軽に楽しめる作品に仕上がっている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

presidential house

大統領官邸の意。presidential palaceとも言うが、これは外装・内装ともに煌びやかなものを指す。ちなみに日本の総理官邸は Prime Minister’s office となる。英字新聞には割と出てくる表現である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #彼女が死んだ 』
『 アット・ザ・ベンチ 』
『 港に灯がともる 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, C Rank, アクション, ワン・イーボー, 中国, 監督:リー・タッチウ, 配給会社:ハークLeave a Comment on 『 FPU 若き勇者たち 』 -中国の国策映画-

『 I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ 』 -ナードのビルドゥングスロマン-

Posted on 2024年12月31日2024年12月31日 by cool-jupiter

I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ 70点
2024年12月31日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:アイザイア・レティネン
監督:チャンドラー・レヴァック

 

2024年の締めくくりにテアトル梅田へ。大晦日の夕方でも結構な客の入りだった。

あらすじ

トロント郊外で母親と暮らすローレンス(アイザイア・レティネン)は無類のシネフィルで、NYUで映画を学ぶための学費のため、地元のレンタルビデオ店でアルバイトを始めた。そのために唯一の親友マットとの時間が減り、また高校の卒業式に上映する記録映画の製作にも遅れが出て・・・

 

ポジティブ・サイド

これはおそらく『 ルックバック 』同様に、監督の自伝的な作品なのだろう。コミュニケーションが下手というか、あまりにも直球過ぎるところがナード気質満開で、顔、表情、体型、仕草などとも併せてオタクの典型とも言うべきキャラを生み出した。それが映画オタクで、自分でも学校のプロジェクトで映画を撮っているという導入はパーフェクト。

 

この年齢の若者が時々陥る肥大化した自我の罠に、ローレンスも見事にはまっているのはオッサン視点から面白くもあり、物悲しくもある。今すぐにでも思考を改めないと、そのまま大人になってしまうと矯正が難しいから。ここでバイト先のレンタルビデオ店のマネージャーと母親が中盤以降に大活躍。凡庸ではあるが、元SMAPメンバーのやらかしが報じられる今だからこそ刺さるエピソードも盛り込まれている。

 

ローレンスが家を離れてから見せる成長には、我あらず涙が。『 ライオン・キング

ムファサ 』でタカが犯した失敗を繰り返さなかった。これもやはり母とアラナのおかげか。実家や故郷を離れれば殻を破れるわけではない。自分というものを抑えることで破れる殻もある。10代の時に本作を観てみたかったなとしみじみ思う。

 

ネガティブ・サイド

ローレンスとマットの creative differences をほんの少しで良いので見せてほしかった。「女だけは自分が一番大事にしてきたものの隣にあっさり座る」と喝破したのは柴田ヨクサルだったか。マットにとってのローレン・Pがまさにそれで、そこには説得力があった。しかし、彼女の編集の腕が一切示されなかったので、マットが思い出動画の作成に取り組む姿勢がどう変わったのか分からず、ローレンスと疎遠になってしまう契機がやや不明瞭だった(まあ、決定的なのは jerk off ninety-eight times だろうが)。

 

総評

舞台が2003年ということで、まさにJovianの20代前半、TSUTAYAが日本を席巻していた頃で、デジカメも普及しつつある、まさに映画と普通の人間の距離が近くなっていった時代だった。一方でスマホやSNSなどはなく、人と人とが直接的につながっていた時代でもあった。AIによって文章や画像、音楽や映像ですら手軽に生み出せる時代になったが、そんな時に古き良き時代を思い起こさせてくれる一本だった。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

school night

翌日に学校がある夜、登校日の前夜の意味。映画などでしばしば親が夜更かしする子に 

It’s a school night!
明日は学校でしょ!

と言っている。学校に行った当日の夜ではない点に注意が必要である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #彼女が死んだ 』
『 アット・ザ・ベンチ 』
『 港に灯がともる 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アイザイア・レティネン, カナダ, ビルドゥングスロマン, 監督:チャンドラー・レヴァック, 配給会社:イーニッド・フィルムLeave a Comment on 『 I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ 』 -ナードのビルドゥングスロマン-

『 ライオン・キング:ムファサ 』 -凡庸な前日譚-

Posted on 2024年12月30日 by cool-jupiter

ライオン・キング:ムファサ 50点
2024年12月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アーロン・ピエール ケルビン・ハリソン・Jr
監督:バリー・ジェンキンス

 

『 ライオンキング(2019) 』前日譚ということでチケット購入。

あらすじ

シンバは息子キアラの世話を旧知のラフィキ、ティロン、プンバァに託す。ラフィキはそこで、偉大な王ムファサの物語をキアラに語り掛けて・・・

ポジティブ・サイド

CGの美しさは言わずもがな。風景に至っては、最早一部は実写と見分けがつかない。水のシーンは『 ゴジラ-1.0 』の海のクオリティにも決して劣らない。

 

前日譚ではあるが、前作のキャラも大量に登場。やはりプンバァとティロンが出るだけで『 ライオンキング 』の世界という感じがする。ザズーとムファサの出会いが描かれていたのも個人的にはポイントが高い。

 

ライオンの習性というか、オスの旅立ちとはぐれライオンによるプライドの乗っ取り、まったく赤の他人のオス同士が広大なサバンナでたまたま出会い、パートナーになっていくなど、近年の調査で明らかになりつつあるライオンの実像を盛り込んだストーリー構成も悪くない。

 

随所に「おお、これがあれにつながるのか」というシーンが盛り込まれていて、前作ファンへのサービスも忘れていない。

 

命の輪のつながりを実感させるエンディングは予想通りではあるものの、非常にきれいにまとまった大団円だった。

ネガティブ・サイド

楽曲がどれも弱かった。”He lives in you.” や “Can you feel the love tonight?” は再利用不可能だとしても、せめて “Circle of Life” は聞きたかった。命の輪について劇中で何度も触れるのだから、なおさらそう感じた。

 

若き日のスカーであるタカが色々な意味で可哀そう。Like father, like son.という言葉があるが、父親のオバシのある意味で過保護と歪な愛情がタカを作ったわけで、タカそのものは悪戯好きな、よくいる子どもに過ぎない。また母のエシェもムファサに向ける愛情のいくらかを実子のタカに向けられなかったのか。子どもにとって親から信頼されることと親から愛されることは似て非なるもので、前者よりも後者の方が必要なはず。

 

ムファサもタカに命を救ってもらい、プライドにも(中途半端ながら)加入させてもらったことに一度もありがとうと言っていないところも気になった。タカの傷にしても、なにか辻褄合わせのように見えた。Let’s get in trouble もっと幼少期のムファサとの遊びの中で、ムファサの不注意で、あるいはムファサをかばったことで負った傷という設定にはできなかったか。

 

総評

鑑賞後のJovian妻の第一声は「タカが可哀そう」だった。Jovianもこれに同意する。詳しくは鑑賞してもらうしかないが、このストーリーは賛否の両方を呼ぶと思われる。ただし誰にとっても楽しい場面はあるし、楽曲のレベルも低いわけではない。家族で見に行くにはちょうどいい塩梅の物語とも言える。チケット代を損したという気分にはならないはずだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

steal one’s thunder

直訳すれば雷を盗むだが、実際は「お株を奪う」、「出し抜く」の意。

You’re closing deals with companies A, B, and even C? You’re stealing my thunder!
A社、B社、さらにC社とも契約を結べそうだって?俺の出番を奪わないでくれよ!

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ 』
『 #彼女が死んだ 』
『 アット・ザ・ベンチ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アーロン・ピエール, アメリカ, ケルビン・ハリソン・Jr., ミュージカル, 監督:バリー・ジェンキンス, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 ライオン・キング:ムファサ 』 -凡庸な前日譚-

『 はたらく細胞 』 -安易なお涙ちょうだい物語-

Posted on 2024年12月24日 by cool-jupiter

はたらく細胞 45点
2024年12月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:阿部サダヲ 芦田愛菜 永野芽郁 佐藤健
監督:武内英樹

 

かつて医療従事者を志した者として興味本位でチケット購入。

あらすじ

漆崎日胡(芦田愛菜)は、父の茂(阿部サダヲ)と2人暮らし。日胡の献身的な料理などにも関わらず、茂は不摂生を繰り返す。そんな茂の体内の細胞たちは労働環境の悪さに不平不満を募らせており・・・

ポジティブ・サイド

『 テルマエ・ロマエ 』や『 翔んで埼玉 』で見られた武内監督のコメディとパロディの卓越した感覚は本作でもいかんなく発揮されている。USJやディズニーランド的なキラキラな日胡の体内世界と、大阪の新世界をとことん薄暗くしたような茂の体内世界のコントラストが映える。コレステロールで閉塞した血管が昔の大阪の新世界あたりの薄暗い、チープな飲み屋街に重なって見えたところは笑えた。

 

白血球が繰り広げる各種のバトルや、キラーT細胞やNK細胞との働きの違いの描写もエンタメ作品としては十分に合格。赤血球が道に迷ったり、クッパー細胞に食われるところも笑える。

 

ある意味、一番の見どころは肛門の括約筋と便のせめぎ合い。トレーラーでもガッツリ映っていたのでネタバレでもなんでもないだろう。このシークエンスを下品と思うことなかれ。便意との戦いを経験したことのない人間などいないのだから。ここは大いに笑わせてもらった。

 

終盤のとある治療のシーンの映像表現には唸った。たしかに見方によっては cosmic ray に見えないこともない。着想としては素晴らしいと思う。

 

佐藤健が終始るろうに剣心のセルフ・パロディをしているのも楽しめた。

ネガティブ・サイド

色々と誤解を生みかねない、危うい表現があった。茂が便潜血陽性に対して「ただの痔だ」と返すが、その血が痔のみに由来するのか、それとも消化管からの出血を含むのか、それは詳しく検査しないと分からない。医学部志望の日胡ならそれぐらいの反論はできそうだがそれもなし。中年サラリーマンが便潜血陽性=痔だと勘違いしなければいいのだが。

 

新米赤血球と先輩赤血球のやりとりはユーモラスだったが、痔からの出血(?)と共に大便と運命を共にした赤血球の台詞には???だった。便の色はビリルビンの色で、ビリルビンの材料は分解された赤血球だ。「脾臓送りにされちまう」みたいな台詞も聞こえたが、赤血球は何をどうやっても最後はほとんど便と一緒に流される運命なのだ。

 

白血球が赤血球から酸素を受け取るシーンも、それが実際に体内で起きている反応だと受け取る人間もいるかもしれない。事実を大袈裟にカリカチュアライズするのは構わないが、事実ではないことをカリカチュアライズするのには細心の注意が必要だ。後述するが、本作の製作者はそのあたりを特に意識せず、取材や考証を綿密には行っていない。

 

好中球やキラーT細胞にヘルパーT細胞、NK細胞まで出てくるのに、ある意味で免疫の主役とも言えるB細胞が一切出てこなかったのは何故?B細胞の産生する「抗体」こそ、ワクチン接種を経験した多くの人々に最もなじみ深い生体防御能力ではないか。それとも、抗体=一種のミサイルという比喩を、別の物に使ってしまったために、B細胞の出番をすべてカットしたとでも言うのか。

 

ある治療後に患者が帽子をかぶっている。それはいい。ただ、特徴的な眉毛が全部残っているのには頭を抱えた。剃れとは言わん。メイクで何とかできるし、そうすべき。問題は、監督その他のスタッフがこの病気の患者に取材も何もしていないと感じられるところ。

 

最後にあまり言いたくはないが、邦画のダメなところが出てしまった。病気で死にそうになるとか、そういう安易なプロットはいらない。最初は「お、特発性血小板減少性紫斑病か?」と思ったが、まさか leukimia とは・・・ いや、別にそれならそれでいい、リアリティさえしっかりしていれば。そのリアリティがお粗末だったのは大きな減点材料。

 

総評

コロナ以降、免疫に関する一般の知識は確実に向上している。法改正以降、どこか緩んでいた人々の意識も、最近のインフルやコロナの流行で少し引き締まっているのではないか。そんな時期に封切りとなったのは配給側の周到な読みが当たったと言えるのかもしれない。観終わって自分の体内の細胞たちに思いを馳せるきっかけにするには良い映画。ただし、本作で描かれている内容が科学的・生物学的に概ね正しいとは決して受け取ってはならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

neutrophil

ニュートロフィル、つまり好中球を指す。cinephile(発音はシネファイル)が映画好きを指すように中性を好むという意味である。白血球には他にも好酸球や好塩基球があるが、一般に感染症に対して働くのは好中球だと思っておいてよい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 レッド・ワン 』
『 ライオン・キング:ムファサ 』
『 I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, コメディ, 佐藤健, 日本, 永野芽郁, 監督:武内英樹, 芦田愛菜, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画, 阿部サダヲLeave a Comment on 『 はたらく細胞 』 -安易なお涙ちょうだい物語-

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