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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 夜明けのすべて 』 -人は生きた星-

Posted on 2024年3月3日 by cool-jupiter

夜明けのすべて 80点
2024年3月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:上白石萌音 松村北斗 芋生悠
監督:三宅唱

 

『 ケイコ 目を澄ませて 』を三宅唱監督の作品ということでチケット購入。国内作品の年間ベスト候補と言ってよい出来栄えであった。

あらすじ

PMSのせいで感情が不安定になってしまう藤沢(上白石萌音)は、上司への反発や薬の副作用から来る居眠りのため会社を退職する。転職先の栗田科学でも同僚の山添(松村北斗)の無気力な勤務態度に怒りを爆発させてしまうが、彼もパニック障害のため生き辛さを抱えていて・・・

 

ポジティブ・サイド

大昔、看護学校でPMSについて習った記憶がある。なぜなら「私、PMSかも」と言い出す女子が大勢いたから。程度の差こそあれ、エストロゲンやらの各種ホルモンのストームが起きれば、それは肉体にも精神にも多大な影響を及ぼす。人類の半分は女性で、女性の10代から50代ぐらいは、誰でもPMS予備軍と言って差し支えない。これを単なる女性特有のイライラやヒステリーで片づけず、れっきとした病気であると真正面から描いた作品は今作が初めてではないだろうか。劇中のモノローグでもあった通り、診断名がつくことでホッとする人も多いはず。

 

同様のことはパニック障害にも当てはまる。Jovianの仕事の大部分は大学等で教える非常勤講師の指導で、間接的にではあるが、毎年のべ数万人(実数だと約12000人)の高校生や大学生に関わっている。近年圧倒的に多いのは、LD、ADHD、鬱病・双極性障害、パニック障害だと感じる。開講直前、あるいは開講直後から3週間ぐらいの間に学校から要配慮申請が届く。パニック障害は一位ではないが、おそらく心理・精神面での配慮だと3位か4位ぐらい。数にすると毎年10人ぐらいだろうか。なので合理的配慮を要すると学校が判断するレベルのパニック障害は10数人に一人。おそらく配慮は必要としないレベルのパニック障害は百数十人に一人ほどの割合で存在すると考えられる。つまり、それほど珍しい病気ではない。

 

主演の二人の自然体の演技は見事だった。同病相憐れむではないが、お互い病気持ちであることを知った藤沢さんのエールを即座に否定する山添君のナチュラルな無礼さ。そして藤沢さんに不用意に髪をバッサリ切られた時の邪気のない反応。このコントラストに、我々は知らず知らずのうちに山添君をパニック障害というフィルターで見ていたことに気付かされる。

 

本作は光と影の使い方が非常に巧みで印象的。栗田科学のオフィス内、街中で自転車に乗る山添君、そして移動式プラネタリウムの中など、人物の心理的な状態が視覚的に表現されている。といっても明るい=明るい精神状態、暗い=暗い精神状態では決してない。むしろ、タイトルの通りに夜明け前の暗さにこそ希望が宿っていることを示してくれていたように感じる。

 

本作に登場する人物は、誰もが目に見えない傷を抱えている、栗田科学の社長然り、山添君の元上司然り。彼らの傷が癒されることはないのだが、しかし彼らが救われることは可能なのだ。それは直接的な救済ではない。むしろ、自分以外の誰かが救われることで自分が救われる。そうしたことを教えてくれる。藤沢さんと山添君の奇妙な関係も、そうした視点から見つめることで理解することができる。

 

本作は観る側の想像力を喚起しようとする。藤沢さんのお母さんが毛糸の手袋を編むのにどれほどの時間がかかったのか。山添君の同僚の大島さんが何故最後に「外で話したい」と言ったのか。ドキュメンタリー制作を行う中学生のダンの母親は、シングルマザーなのか否か。明確な答えは何も提示されない。我々はただ想像するのみである。それこそが本作の発したいメッセージなのではないかと思う。

 

太陽が西の空に沈むことはない。なぜなら太陽は動かず、地球こそが太陽の周りをまわっているからだ。これは厳然たる科学的事実(ただし厳密には太陽も天の川銀河内を超高速で公転しているし、その天の川銀河も超高速で移動しているのだが)。それでも我々は夜空の星々に意味を見出す。信じられないほどの距離を隔てた星々が、信じられないほどの時間をかけて地球に届けた光を見て、我々は星座を見出し、物語を生み出す。それは、どんなに離れた人間同士でも、お互いを照らし、意味ある関係を生み出せるという希望に他ならない。夜だからこそ見える光があるのだ。

 

ネガティブ・サイド

物語冒頭のモノローグの多用はいただけない。藤沢さんというキャラクターの苦悩を、それこそ回想シーンを通じて想像させるべきで、これを真正面から語ってしまったのは何故なのか。

 

個人的には芋生悠の出番がもう少し欲しかったかな。

 

総評

人間の弱さや儚さを映し出すことで、逆説的に人間の強さや優しさを教えてくれる作品。演技・演出、撮影、照明、音楽・音響のすべてがハイレベル。原作小説をかなりアレンジしているそうだが、発しようとするメッセージは同じなはず。他者に向けるまなざしをほんの少し優しくしようと思えた。2024年度のベスト候補の最右翼。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Polaris

北極星の意。元々は stella polaris = 極の星だったが、stellaが省略されて polaris が定着した。ここでソラリスを思い浮かべた人はラテン語の知識またはセンスがある人。これも sol =太陽に、形容詞化の接尾辞 aris がくっついたもの。ただ日常会話では圧倒的に the North Star を使うことが多い。北極星を Polaris と呼ぶのは天文学的な文脈に限られる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 落下の解剖学 』
『 マリの話 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 上白石萌音, 日本, 松村北斗, 監督:三宅唱, 芋生悠, 配給会社:アスミック・エース, 配給会社:バンダイナムコフィルムワークス

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