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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ヒューマンドラマ

『 リバー、流れないでよ 』 -タイムループものの秀作-

Posted on 2023年7月10日 by cool-jupiter

リバー、流れないでよ 70点
2023年7月2日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:藤谷理子
監督:山口淳太

嫁が観たいというのでチケット購入。『 MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない 』に次ぐタイムループものの秀作だった。

 

あらすじ

京都・貴船の老舗旅館で働くミコト(藤谷理子)は、ある時、自分が特定の2分間を繰り返していることに気づく。そしてそれは自分だけではなく、旅館の他の従業員や宿泊客も同じだった。一同は何とかしてループから抜け出そうと知恵を絞るが・・・

ポジティブ・サイド

タイムループものは小説でも映画でも数多く生み出されてきたが、ループの幅が2分というのは異例の短さではないだろうか。本作は2分という限られた時間のループをひたすら繰り返すことで、「次はどうなる?」、「え、これってどういうこと?」という観る側の思考を次から次に刺激してきて飽きさせない。

 

キャラクターたちの掛け合いも、基本全員が関西人(京都人)なのでノリがいい。高速の会話劇が旅館内部で、時には道路を挟んだ別館まで巻き込んで、従業員たち、そして宿泊客たちも巻き込んで、毎ループごとに少しずつ物語を進めていく。

 

途中で、ループの真相というか原因が明かされ、「まあ、京都やしな」と一瞬納得させられてしまう。だがしかし、真相はそんなものではなかった。正直、デウス・エクス・マキナなのだが、そこに至るまでが面白いので許せてしまう。『 ファウスト 』ならずとも「時よ止まれ」と思うことは誰にでもある。しかし未来は否応なくやって来る。現在とは、それを受け止める準備をすることなのだろう(つまり、本作は京都らしいハイデガー哲学の映画化なのだ)。

 

そうそう、ひとつ感心したのが、ミコトがループの最初に戻った瞬間に野鳥(コガラ)のディーディーディーという鳴き声が聞こえる時と聞こえない時があるが、それが聞こえる時にはミコトは真っ先に他の従業員のところに向かっていく(ように思えた)。だとすると山口監督、相当な手練れである。これから鑑賞する方はコガラの鳴き声にも注意されたし。

 

ネガティブ・サイド

刃傷沙汰になったり、自殺したりと、途中で結構ハラハラする展開になるのだが、ミコトが殺されるルートがありそうと思わせてなかったのは何故?絶対あの作家先生が行き詰っていた原因である、キャラクターの死生観とリンクしてくると思った。鞍馬山で、あの世界観の中で「私は天狗です」とか言ったら、かなりの確率で一回は撃たれると思うのだが。

 

総評

『 四畳半神話大系 』や『 四畳半タイムマシンブルース 』の脚本を担当してきた上田誠が、またしても京都を舞台にした良作を送り届けてくれた。記憶喪失ものとタイムトラベル or タイムループものは、オープニングが抜群に面白く、しかし最後は尻すぼみというパターンが非常に多い。本作もまさにそのパターンにはまっているのは残念。けれど、まあ、そこに至るまでに散々楽しませてくれるから良しとしようではないか。ちなみにJovianはこの夏もしくは秋に嫁さんと貴船旅行に行くことにした。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

break the loop

ループを解く、の意。反対は get stuck in a loop = ループにはまる。近年でも『 パーム・スプリングス 』が製作されたように、タイムループものは定期的に出てくる。なので、映画ファンかつ英語学習者なら、これらの基本的な表現は知っておいていいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 忌怪島 きかいじま 』
『 探偵マリコの生涯で一番悲惨な日 』
『 Pearl パール 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, SF, ヒューマンドラマ, 日本, 監督:山口淳太, 藤谷理子, 配給会社:トリウッドLeave a Comment on 『 リバー、流れないでよ 』 -タイムループものの秀作-

『 水は海に向かって流れる 』 -ストーリーに焦点を-

Posted on 2023年6月26日 by cool-jupiter

水は海に向かって流れる 40点
2023年6月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:広瀬すず 大西利空
監督:前田哲

 

簡易レビュー。

あらすじ

高校生の直達(大西利空)は、通学のため叔父・茂道の家に引っ越すことに。しかし最寄り駅に迎えに来たのは、見知らぬ女性・榊さん(広瀬すず)だった。案内された先はシェアハウスで、漫画家の叔父や女装の占い師たちとの奇妙な同居生活が始まった。そんな中で、直達はいつも不機嫌な榊さんと自分の間に思わぬ因縁が存在したことを知り・・・

ポジティブ・サイド

広瀬すずがムーディーな20代女子を演じきった。天真爛漫女子校生役からは確実に脱却しつつあるようだ。中身が未成熟なままに大人になってしまったという難しい役だったが、代表作とは言えないまでも、近年の出演作の中では上位に来る好演だったと思う。

 

北村有起哉のキャラが良い意味で悪い印象を残してくれる。情けない男なのだが、それでも同じ中年のオッサンとしてはこの男を応援せずにはおれない。そんなキャラ。『 終末の探偵 』に続いて応援したくなった。

 

ネガティブ・サイド

主役の脇を固めるキャストも豪華だが、それらが全く活かしきれていない。高良健吾が脱サラして漫画家になっているのは良いとしても、今どきあんな格好で漫画描くか?生瀬勝久の大学教授役というのも単に都合のいい狂言回し。色々なキャラが登場しまくるが、役割が一つしかないか、あるいは全くない。

 

直達が榊さんに惹かれていく必然性を感じさせるシーンや描写が不足している。たとえば女ものの下着を同居の占い師のものだと思って見ていたら榊さんのものだったとか、トイレにある見慣れない置物の正体を知って一人赤面してしまうだとか、15歳のガキンチョらしさが全くなかった。その逆に、何故にその年齢でそこまで老成、達観しているのかという背景の描写もなかった。原作の小説にはおそらく丹念な描写があるのだろうが、本作は映像でそれを物語ることを一切放棄してしまっている。

 

と同時にキャラクターの心情を時に台詞ですべて説明してしまっている。小説なら文字に頼るしかないが、映画でこれはアカンでしょ。最も典型的だったのは直達のクラスメイト、當真あみの演じた楓だろう。そこでそれを台詞にするか?他にも表情や映像で物語るべきシーンがいくつも説明台詞に取って代わられていた。小説を映画にすることは否定しないが、小説を映像化することには反対である。

 

総評

ほとんどのキャラクターの深堀りが上手く行っておらず、主役の二人の複雑な関係が徐々にほぐれていく過程に特に寄与しない。なので、シェアハウスという舞台そのものに魅力も必然性も感じない。直達も鈍さと鋭さの両方が際立つ変な少年で感情移入が難しかった。広瀬すずのファンなら彼女の新境地を楽しめるのだろうが、普通の映画ファンには少々勧め辛い。貯まったポイントの消化を本作でする、というのは一つの手かもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

shared house

日本語で言うところのシェアハウスの意。分詞の前置修飾というやつである。a used car =中古車、a broken pencil =折れた鉛筆、の仲間である。share house という言い方もあるらしいが、shared house の方が遥かに一般的なので、こちらを使おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・フラッシュ 』
『 告白、あるいは完璧な弁護 』
『 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 大西利空, 広瀬すず, 日本, 監督:前田哲, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 水は海に向かって流れる 』 -ストーリーに焦点を-

『 渇水 』 -この流れは変わるのか-

Posted on 2023年6月17日 by cool-jupiter

渇水 75点
2023年6月11日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:生田斗真 磯村勇人 門脇麦 山崎七海 柚穂
監督:高橋正弥

 

簡易レビュー。

 

あらすじ

水道局員の岩切(生田斗真)は、水道料金未納者の自宅を訪れ、日々黙々と停水を執行していた。ある日、とある母子家庭で見かけた恵子(山崎七海)と久美子(柚穂)の姉妹に、別居して暮らしている我が子の姿を見出した岩切は、生き方の流れを変えたいと徐々に思い始め・・・

 

ポジティブ・サイド

生田斗真といえば『 土竜の唄 』シリーズのイメージが強いが、本作のような陰のある男の役も板についてきた。少し年の離れた相棒かつ友人の木田を演じる磯村勇人も等身大の公務員を好演した。

 

日照り続きで給水制限あり、断水も視野に入る中、一軒一軒を停水させていく。規則だからと言えばそれまでだが、手洗い所、風呂場、台所、トイレのすべてが使えなくなるわけで、健康で文化的な最低限度の生活を破壊する行為だろう。もちろんカネさえ払えばOKなのだが、借金の取り立ての方がまだ精神衛生を保てるのではないか。

 

そんな心を無にした公務員が、過酷な家庭環境・社会環境で生きることを余儀なくされる幼い姉妹に心動かされ、行動までも変えていく姿を感動的にではなく悲壮感たっぷりに描くところが独特にして秀逸。

 

門脇麦が出ている作品はだいたい面白いという個人的仮説がまた補強された一作。

 

ネガティブ・サイド

岩切の決定的な変わり目を描く滝のシーンで、ギターのBGMは必要だったか?うるさいだけに感じたが。

 

最後の最後がファンタジー展開。誰もが天気予報にかじりついているであろう状況で、あの展開は白けてしまった。

 

総評

着地に失敗した感は否めないが、そこまでの展開はほぼパーフェクト。姉妹二人で生きようとする姿は『 火垂るの墓 』の清太と節子を思い起こさずにはいられなかった。それを乾いた眼差しで見つめる男が、いつしか人間らしさを取り戻していく様は非常に見応えがある。生田斗真ファンならずともチケット購入を推奨したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

tap water

「水道水」の意。TOEICでもたまに出るかな?昔のTOEFL ITPだと、Listening の Part B で結構よく出ていた気がする。The tap is dripping / The faucet is leaking. = 蛇口から水道水がぽたぽた漏れている、という表現は知っておいていいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 水は海に向かって流れる 』
『 M3GAN/ミーガン 』
『 ザ・フラッシュ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 山崎七海, 日本, 柚穂, 生田斗真, 監督:高橋正弥, 磯村勇人, 配給会社:KADOKAWA, 門脇麦Leave a Comment on 『 渇水 』 -この流れは変わるのか-

『 怪物 』 -視点によっては誰もが怪物-

Posted on 2023年6月7日 by cool-jupiter

怪物 75点
2023年6月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太
監督:是枝裕和

 

簡易レビュー。

 

あらすじ

シングルマザーの早織(安藤サクラ)は一人息子の湊(黒川想矢)が、学校の教師にいじめられていると感じ、学校に抗議に出向く。しかし、校長やその他の教師、当事者の保利(永山瑛太)は形式的な謝罪を繰り返すばかりで・・・

 

ポジティブ・サイド

モンスターペアレントという言葉があるが、小中校だけではなく大学でもたまに出てくるから始末に困る。普通、成績の疑義照会というのは学生本人が申請してくるものだが、そこに親が乗り込んできて「こっちは授業料を払ってるんだ!」と主張する。学校や授業を委託された弊社としては粛々とこれはこうであれはああで・・・と対応するしかないが、そもそも親が出てきている時点で納得するはずがない。普通なら親が我が子を叱り飛ばして終わりなのだが、そうならなかった時点でモンペ確定である。

 

夏でもかたくなに長袖を着続ける。教室内でもバンダナや帽子を取らない。講師と目を合わせられない。ペアワークもできない。要配慮学生というのは学校から通知があるからすぐに分かるが、それ以外の教室で授業をしてみて「ん?何だこの子は?」という学生もたまにいる。Jovianは本作を観ていて、自分の授業風景を思い出した。最初から保利先生側で本作を観てしまった。こういう鑑賞者はかなりマイノリティなのではないかと思う。

 

湊と依里の淡い友情、その関係の発展、そして結末。そうしたものすべてを明示しない。ある意味で、観る側に解釈を委ねる、あるいは突きつけると言ってもいいかもしれない。それを心地よいと感じるか、不快に感じるか。それはその人の持つ人間関係の濃さ(あるいは薄さ)によって決まるのかもしれない。



ネガティブ・サイド

一番最初のシーンはばっさりカットしても良かったのでは?冒頭のとある出来事とそれを見つめるキャラクターたちを意識することによって、誰が何に関わっていて、逆に誰が何に関わっていないのかを徐々に明らかにしていく構成だが、最初の部分をトイレに行って見逃したJovian妻と鑑賞後にあれこれ語り合ったところ、Jovian妻の方が明らかに物語の謎に引き込まれ、楽しんでいた。

 

校長も湊を相手に自白する必要はなかったように思う。スーパーでのさりげない行為だけで、キャラクターがどういったものかが十全に分かる。

 

総評

非常に複雑な映画。世の中は白と黒にきれいに分けられる訳ではない。わが師の並木浩一と奥泉光風に言えば「現実は多層である」になるだろうか。人間関係は傍目から見ても分からない。教師と生徒でも、親と子でも、分からない時には分からない。そうした現実の複雑さと、一種の美しさや清々しさを描いた非常に複雑で上質な作品。親子や夫婦で鑑賞すべし。人の見方とはかくも難しい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fix

依里の父親が依里に「俺がお前を治して(直して)やる」と言うが、これを英訳すれば I will fix you. となるだろうか。fix は色々なものを直す/治すのに使えるが、これには性格や性質も含まれる。英語の映画やドラマでは時々 “Fix your character!” =「その性格を直せよ!」という台詞が聞こえてくる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 The Witch 魔女 増殖 』
『 65 シックスティ・ファイブ 』
『 アムリタの饗宴/アラーニェの虫籠 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ヒューマンドラマ, 安藤サクラ, 日本, 柊陽太, 永山瑛太, 監督:是枝裕和, 配給会社:ギャガ, 配給会社:東宝, 黒川想矢Leave a Comment on 『 怪物 』 -視点によっては誰もが怪物-

『 クリード 過去の逆襲 』 -父親殺しに失敗-

Posted on 2023年6月4日 by cool-jupiter

クリード 過去の逆襲 50点
2023年5月28日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マイケル・B・ジョーダン ジョナサン・メジャース テッサ・トンプソン
監督:マイケル・B・ジョーダン

好物のボクシングもの。スタローンが出演しないのが吉と出るか凶と出るか。

 

あらすじ

アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)は世界王者として引退し、家族と共に幸せに暮らしながら、ジムの後輩の面倒を見ていた。ある日、刑務所から出てきた幼なじみのデイム(ジョナサン・メジャース)が現れ、かつての夢だった世界王者を目指したいと言う。負い目のあるアドニスはデイムをジムに招き、世界王者のフェリックスのスパーリングパートナーにするが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 クリード 炎の宿敵 』でドラゴの息子との二度の激闘を経て、これ以上語るべきドラマがあるのかなと思っていたところ、確かにあった。『 クリード チャンプを継ぐ男 』で、引き取られる前のアドニスは荒くれ非行少年だった。ここに物語の鉱脈を見出した脚本家は did a good job だろう。

 

デイムを演じたジョナサン・メジャースのヴィランっぷりが素晴らしかった。『 アントマン&ワスプ クアントマニア 』のカーンには「ギャグかな?」と感じたが、本作では根っからの悪人ではなく正当性のある悪人、執念の悪人を演じきった。監督でもあるジョーダンの演出なのか、本人の役作りなのか。凄みのある演技だった。売れてきたところで、いきなりキャリア終了の危機だが・・・ 

 

デイムがいきなり世界戦というのは荒唐無稽にもほどがあるが、作中で述べられていた通り、『 ロッキー 』自体がそういう荒唐無稽な話だったし、その元ネタであるチャック・ウェプナーの経歴がデイムとよく似ている。色々な意味でクリードの物語ながら、ロッキーへのオマージュも忘れていない。

 

スタローンが出てこない=『 ロッキー 』シリーズからの独立、とも言える。もちろん、権利関係でスタローンが色々と主張していて、残念ながらそこに法的根拠がないことは明白。ならばと、アポロ・クリードの息子たるアドニス・クリードが前二作を通じて、アポロという父を失い、ロッキーという父を得て、さらに本作で自らが父となり、そして精神的・文学的な意味でロッキーという父親を敢えて殺すために、自らの少年時代と決別する、つまり完全に大人になる、というプロットは筋が通っていた。

 

ネガティブ・サイド

フェリックスの線が細すぎて、とてもヘビー級とは思えない。せいぜいスーパーミドル級ぐらいにしか見えない。もっといかにもヘビー級然とした役者をキャスティングできなかったのか。

 

少年時代の過ちに決着をつける必要があるというのは分かるが、デイムに耳を傾けてもらう方法がリングの中で戦うことだけだとは思えない。たとえば、アドニスにメディアの前で過去の罪を自白させるとか、あるいはF・メイウェザーがやっていたようなエキシビション・マッチを提案することもできただろう。それでは一般大衆が納得しない、ということでアドニスの現役復帰というストーリーなら納得できたのだが。

 

二人の対決が観客を置き去りにした、監獄の中での殴り合いになる演出は悪くないと思うが、そこに至るまでのドラマがリングの中にない。アドニスが引退試合でデイムから得た観察力を発揮していたり、あるいはデイムが獄中でもアドニスのすべての試合をつぶさに観ていた、ということが感じられるようなシーンがなかった。そうした二人だけが理解できるボクシングの世界から、観客やセコンドを置いてきぼりにした殴り合いの世界に没入するという流れは構築できなかったのか。

 

Going the distance を流すのも中途半端。ロッキーには敬意を表しつつも、クリードの物語だということを徹底して欲しかった。

 

総評

面白いと思える部分と、イマイチだなと感じる部分が同居する作品。スタローンが出てこないことで、あらためて『 ロッキー 』というシリーズの重みが感じられた。ただ、マイケル・B・ジョーダン演じるアドニスというキャラの魅力は全く損なわれていないし、『 トップガン マーヴェリック 』のように次世代への継承を大いに予感させる終わり方も悪くない。20年後にアマラがボクサーになって、『 ケイコ 目を澄ませて 』的なドラマを盛り込みつつ、レイラ・アリ vs ジャッキー・フレイジャー、またはレイラ・アリ vs クリスティ・マーティンのような試合を見せてくれるのなら、それはそれで歓迎したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a Creed

学校では「人名には不定冠詞 a はつけない」と教えるが、実はつけることもある。一番よくあるのは a + 名前 = その一族の一人という意味。『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』のカイロ・レン “You are a Palpatine.” がその代表例か。他には「そういう名前の人」という用法。I’m looking for a Ken Smith. = ケン・スミスという人を探しているのですが、のように使う。もう一つは「その名前のような偉大な人」という用法。We need a Steve Jobs now. = 我々には今こそスティーブ・ジョブズのような異能の人が必要だ、のように使う。英語教師を目指す人だけ覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 The Witch 魔女 増殖 』
『 65 シックスティ・ファイブ 』
『 怪物 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, アメリカ, ジョナサン・メジャース, スポーツ, テッサ・トンプソン, ヒューマンドラマ, ボクシング, マイケル・B・ジョーダン, 監督:マイケル・B・ジョーダン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 クリード 過去の逆襲 』 -父親殺しに失敗-

『 TAR/ター 』 -虚々実々の指揮者の転落-

Posted on 2023年5月31日 by cool-jupiter

TAR/ター 65点
2023年5月27日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ケイト・ブランシェット
監督:トッド・フィールド

『 アイズ・ワイド・シャット 』のトッド・フィールド監督作品。仕事がしばらく繁忙期なので簡易レビュー。

 

あらすじ

ベルリンフィル初の女性首席指揮者となったリディア・ター(ケイト・ブランシェット)は、その地位に見合った数多くの仕事に忙殺されながらも充実した日々を送っていた。しかし、かつての劇団員に関する不穏な情報が入ったことで、彼女のキャリアに曇りが生じ始めて・・・

以下、ネタバレあり

ポジティブ・サイド

ケイト・ブランシェットの演技が光る。キャリアの絶頂からの転落が、公私両面から緻密に描かれており、そのディテールへのこだわりが観る側を引き付ける。

 

途中で加わるロシア人チェリストがなかなかの曲者。一種のスパイなのか、それとも本当にターに心酔する者なのか。そのあたりが虚々実々に描かれていて、ミステリおよびサスペンス要素が大いに盛り上がる。

 

最後の最後がゲーム『 モンスターハンター 』のコンサートなのには笑ってしまった。『 蜜蜂と遠雷 』で触れた通り、Jovianは作曲家の裏谷玲央氏と懇意にさせて頂いているので、モンハンはプレーはしていないが、サントラは買っている。

 

リディア・ターには転落なのかもしれないが、新しい発見の旅への one for the road とも言える展開だろう。ターを英雄的にも悪人としても、一色に染め上げないという両義性に満ちた作品である。

 

ネガティブ・サイド

ピークが序盤のインタビューとジュリアード音楽院でのレクチャーに来ていて、肝心の演奏シーンに来ていない。マーラーでもバーンスタインでも何でもよいので、一曲まるまる聞かせてくれても良かったのではないか。

 

私生活では様々なものがターを蝕んでいくが、メトロノームはやりすぎに思える。こんなもん、犯人1人しかおらんやんけ。それに気付かぬリディア・ターではあるまいに。

 

総評

指揮者ものとしては、個人的には『 セッション 』の方が好きかな。ターという女傑キャラの強烈さだけは『 セッション 』のJ・K・シモンズや『 女神の見えざる手 』のジェシカ・チャステインに匹敵する。ケイト・ブランシェットの演技を存分に堪能すること主目的に鑑賞しよう。

 

Jovian先生のワンポイントドイツ語レッスン

danke

ドイツ語でいうところの thank だが、Danke! となると Thanks! または Thank you! となる。Danke schön! とすれば、Thanks very much! または Thank you very much! である。何語に依らず外国語の語彙学習は「ありがとう」から始めるのが良いように思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 The Witch 魔女 増殖 』
『 65 シックスティ・ファイブ 』
『 クリード 過去の逆襲 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, ケイト・ブランシェット, さすp, ヒューマンドラマ, 監督:トッド・フィールド, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 TAR/ター 』 -虚々実々の指揮者の転落-

『 帰れない山 』 -悠久の山と永遠の友情-

Posted on 2023年5月18日 by cool-jupiter

帰れない山 70点
2023年5月14日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ルカ・マリネッリ アレッサンドロ・ボルギ
監督:フェリックス・バン・ヒュルーニンゲン シャルロッテ・ファンデルメールシュ



山好きの嫁さんが観たいというのでチケット購入。なかなか見応えのある人間ドラマだった。

 

あらすじ

両親とともに山を訪れた少年ピエトロは、同い年の牛飼いの少年ブルーノと出会い、山を二人で巡るうちに無二の親友となる。しかし運命のいたずらで、二人の別れは唐突に訪れた。時は流れ、大人になった二人は、以前のように友情を育んでいくが・・・



ポジティブ・サイド

男二人の物語といっても『 エゴイスト 』のような関係性ではなく、純粋な友情物語。特に都会育ちで山という大自然に魅せられるピエトロと、山育ちで、それでいて都市への憧憬を秘めているブルーノという、非常に対照的な二人の描き方が秀逸だ。自分の親が自分よりも友人の方を褒めてしまう。そうした経験をしたことのある人は存外に多いはず。本作でも、ピエトロとブルーノは互いにリスペクトしながらも、そうした少し危うい友情を育んでいく様がこの上なくリアルだ。

 

二人が大人になって再会するシーンもリアルである。すぐさま再会を喜んで意気投合・・・しない。互いに一瞥をくれるだけ。これは二人が大人になったということ。小学校、中学校の親友と別々の高校に行くことになり、いつの間にやら疎遠になるのは非常にありふれたこと。それは世界が広がるから。しかし、そうした広い世界で、20代後半以降に友人関係に慣れれば、それは子どもの頃の友人とは全く違う意味での友人になれる。ブルーノとピエトロはまさにそれ。大人になった彼ら二人だが、それでも世界を見聞して教養もあるピエトロと、誰よりも山を知っているが俗世の垢にまみれていないブルーノの対比が際立っていく。奥さんに怒鳴りつけられるブルーノには、ひたすらに感情移入してしまった(Jovianもよく浮世離れしていると言われる)。

 

山小屋を立てるという行為は、一つには山に生きるというマニフェストだろう。もう一つは、その山には帰る場所がある、というメッセージでもあるはずだ。世界に山は数あれど、俺とお前にとっての山とは、ここなんだ。そういうことなのだと思う。

 

それにしても序盤の少年二人が遊ぶ山の美しさに、大人になった二人が対峙する山の厳しさよ。Jovianは新婚旅行で数年前にカナダのバンフに行ったが、ロッキー山脈の氷河は永久不変に見えて、実は年間数センチずつ動いている。同じように山脈も少しずつ削られながらも隆起することで、不変であるように映る。人間関係、就中、友情も様々な変化を経ながらも永続していくのだろう。人間の一生は山の命に比べればとてつもなく短いが、その友情の雄大さや悠久さは山に劣ることはない。

 

ネガティブ・サイド

アスペクト比が4:3だったのは何故だ?通常の2.35:1では不都合があったのだろうか。人間だけを映すなら前者でもいいのだろうが、アルプスの大自然を映し出すには不適切だった。監督あるいは撮影監督にはどのような意図があったのだろう。

 

2時間30分はかなり長く感じた。2時間ちょうどにまとめられなかったか。編集でカットできそうなシーンがいくつかあった。街でのメールチェックのシーンなどはもっと短くするか、あるいはバッサリとカットできただろうと思う。

 

総評

男同士の関係性を描く映画としては『 君の名前で僕を呼んで 』に次ぐかもしれない。大自然の美しさとある意味での残酷さ、その中に垣間見える崇高さを余すところなく映し出した、ヨーロッパらしい作品。デートムービーには向かないが、夫婦でじっくり鑑賞するのはありだろう。

 

Jovian先生のワンポイントイタリア語レッスン

Come stai

コメ・スタイと発音する。意味は How are you? である。おそらく Ciao = チャオと並んで最もポピュラーなイタリア語だろう。知っておいて損はない表現だ。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 放課後アングラーライフ 』
『 高速道路家族 』
『 最後まで行く 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アレッサンドロ・ボルギ, イタリア, ヒューマンドラマ, フランス, ベルギー, ルカ・マリネッリ, 監督:シャルロッテ・ファンデルメールシュ, 監督:フェリックス・バン・ヒュルーニンゲン, 配給会社:セテラ・インターナショナルLeave a Comment on 『 帰れない山 』 -悠久の山と永遠の友情-

『 不思議の国の数学者 』 -韓流ヒューマンドラマ-

Posted on 2023年5月14日2023年5月15日 by cool-jupiter

不思議の国の数学者 75点
2023年5月13日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:キム・ドンフィ チェ・ミンシク チョ・ユンソ
監督:パク・ドンフン

 

『 オールド・ボーイ 』のチェ・ミンシクが数学者に。嫁さんも是非観たいというのでチケット購入。

あらすじ

国内上位1%のみが集まる進学校に特例入学したハン・ジウは、寮の仲間の不祥事を黙秘したことで1か月間の大量処分を受けてしまう。その発端となった脱北者の警備員、通称”人民軍”がひとかどの数学者であることを知ったジウは、彼に数学を教えてほしいと頼み込んで・・・

 

ポジティブ・サイド

中国が『 少年の君 』で常軌を逸した学歴偏重主義の学校生活を描き出していたが、韓国も似たようなものらしい。学校に居場所のない劣等生が、同じく社会に居場所のない脱北者と交流をしていく・・・という単純なプロットではない。疑似的な家族関係の追求あり、南北の社会や思想の在り方の違いの描写ありと、ヒューマンドラマと社会派ドラマを高度に融合させたストーリーになっている。

 

まず主人公ジウの置かれた境遇が切ない。学校に馴染めず、寮にも馴染めず。寮のルームメイトをかばっても、友情ではなくカネが差し出される。経済力と成績はある程度比例するのは日本も韓国も同じなようで、経済力と人間性は必ずしも比例しないのも同じらしい。そんなジウが、ふとしたことから人民軍に数学を教えてほしいと頼み込む。その奇妙な師弟関係が、ジウにとってはある意味で初めての positive male figure、つまりは疑似的な父親を得ることにつながり、人民軍にとっても疑似的な息子を得ることにつながっていく。このあたりの見せ方に韓国と北朝鮮の情勢を絡めており、非常に巧みであると感じた。

 

ヒロイン的な位置に立つボラムも、この二人の関係にちょっとしたスパイスを与えている。割と唐突に告白してくるのだが、変にジウと恋愛関係に入っていかず、主役二人の静かで奇妙な関係を遠くで見守るというポジションだった。ボラム自身も家族に似たような問題を抱えており、韓国社会全体が抱える”父親像”という問題は『 息もできない 』の時から変わっていないのだなという印象を受けた。逆に、そうした問題を常に映画という媒体で世に問い続けるのが韓国映画の強みの一つか。

 

悪役が教師というのは、個人的には見ていてキツイ。が、こんな先生は確かにJovianの中学校の理科の先生にもいた。確か人工衛星は無重力空間を回っているみたいな説明に対して、「もっと遠い月は地球の重力で回っている。人工衛星も月も無重力ではなく無重量空間にいると雑誌のニュートンで読んだ」みたいなことを言ったら、えらく怒られた。そしてこれをテストに出すが、正解は無重力。だけどお前は無重量と書け、みたいに言われた。実際にテストに出て、無重量と書いて、✖をもらった記憶がある。ジウが数学教師に敢然と立ち向かったシーンでは30年越しにリベンジを果たしたようで気分がスカッとした。

 

天才であるがゆえの政治的な立ち位置の危うさ、そしてジウとの別離が、チェ・ミンシクの迫真の演技によってこれ以上ないリアリティを獲得している。チェ・ミンシク=強面の悪役のようなイメージがあるが、打ちひしがれる中年を演じても素晴らしい。ジウの窮地に現れて、その弁舌だけで状況をひっくり返したのは『 セント・オブ・ウーマン/夢の香り 』のアル・パチーノを彷彿とさせた。

 

血生臭い韓国映画もいいが、ベタベタなヒューマンドラマもいいなあ。

 

ネガティブ・サイド

円周率が音楽になるというのはアイデアとしては悪くないが、厳密な数学としてはどうなのだろうか。奥泉光の『 鳥類学者のファンタジア 』に似たようなアイデアがあるが、こういうのはファンタジーというジャンルだけに留めておくべきでは?

 

人民軍の通院できないから薬をくれ、という冒頭のシーンは結局何だったのか。持病を抱えていて、それがいつか一気に増悪してしまうのか?と思ったが、そんなことは一切なし。この最初のシーンはカットすべきだった。

 

ボラムとジウは、結局どうなったのよ?

 

総評

『 グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち 』と『 セント・オブ・ウーマン/夢の香り 』を韓流で合成、再解釈したようなストーリー。真新しさこそないが、韓国の家族像、北朝鮮との関係、そして教育への眼差しが盛り込まれた良作。本作を観たらバッハを聞こう、同志諸君。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

アジョシ

おじさんの意。傑作『 アジョシ 』は元々ソン・ガンホあるいはチェ・ミンシクのようなオッサンのキャスティングを予定していたそうだ。韓国映画やドラマではしょっちゅう聞こえてくる言葉なので、知っている人も多いだろう。ちなみにおばちゃんはアジュマである。

次に劇場鑑賞したい映画

『 帰れない山 』
『 放課後アングラーライフ 』
『 高速道路家族 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, キム・ドンフィ, チェ・ミンシク, チョ・ユンソ, ヒューマンドラマ, 監督:パク・ドンフン, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 不思議の国の数学者 』 -韓流ヒューマンドラマ-

『 ザ・ホエール 』 -珠玉の人間ドラマ-

Posted on 2023年5月1日 by cool-jupiter

ザ・ホエール 80点
2023年4月29日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞

出演:ブレンダン・フレイザー セイディー・シンク ホン・チャウ
監督:ダーレン・アロノフスキー

 

元同僚のカナダ人友人の強い勧めで鑑賞。今年の海外映画のベストの一作であることは間違いない。

あらすじ

チャーリー(ブレンダン・フレイザー)は過去のある出来事から、過食に走ってしまい、歩行器なしでは歩けないほどの肥満になってしまった。友人であり看護師のリズ(ホン・チャウ)に支えられながら生活していたが、うっ血性心不全の発作から自らの死期が近いことを悟る。チャーリーは、かつて自らが捨ててしまった娘のエリー(セイディー・シンク)と再会するが・・・

 

ポジティブ・サイド

クジラ=巨体、クジラ=脚がない、クジラ=鯨飲馬食(馬は違うか・・・)のようなイメージをそのまま演じきったブレンダン・フレイザーに拍手。男同士のまぐわうポルノ動画を観ながら、突如心臓発作を起こし、偶然に尋ねてきた宗教勧誘員にエッセイを音読してくれと頼む姿に、一気に物語世界に引き込まれてしまった。

 

チャーリーと親友リズの心地よい関係とその関係の反転、娘エリーとの縮まらない距離感、執拗に宗教に勧誘してくるトーマスとの距離感、そして元妻との間にある断絶と、しかしエリーという娘の存在によってつなぎとめられる絆。2時間の中でチャーリーと彼を取り巻く人間たちのドラマが大きなうねりとなって観る側を飲み込んでいく。

 

娘エリーがとんでもないクソガキなのだが、彼女の取る行動の一つが思いもかけない福音となる。人間、何が救いになるのか分からない。同時に、とあるキャラクターのとある行動がチャーリーを大いに苦しめる。まあ、そらそうなるわな。人間、何が攻撃になるかなんて分からない。

 

虎は死んで皮を残すと言われるように、クジラの死骸は海底で独自の生態系を形成する媒体となる。チャーリーの職業は大学の講師で、時々大学の正課・課外授業を担当するJovianとそっくり。人間が死後に残せるのは言葉。そしてその言葉の力は時に奇跡を起こす。リズの言う “I’ll wait downstairs.” という台詞が非常に寓意的だ。死を迎えんとするチャーリーが起こす奇跡に我あらず涙してしまった。

 

ネガティブ・サイド

宗教批判をするなら、ニューライフではなく、普通のキリスト教のセクトか、あるいはモルモン教(これは一瞬だけ言及されていたか)やエホバの証人の名前を使えばよかったのに。なにか不都合があったのだろうか。

 

総評

主な登場人物は5人。舞台はほとんどすべてチャーリーのアパート内。時間にしてわずか1週間足らず。それでこれだけ濃密な人間ドラマが描けるのだから、やっぱり脚本というのは大事だなと実感。同時にその脚本の文字を映像に昇華させる監督の演出力。そして監督のビジョンを体現する役者と裏方スタッフの努力。『 ザ・メニュー 』で強烈な印象を残したホン・チャウは本作でも素晴らしかった。間違いなく今年のベストの一作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

debt

借金の意。デットと発音する。序盤でリズがチャーリーに Being in debt is better than being dead. =死ぬより借金の方がましよ、と告げるシーンが印象的だった。debt と dead が韻を踏んでいることにも注目したい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』
『 放課後アングラーライフ 』
『 不思議の国の数学者 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, セイディー・シンク, ヒューマンドラマ, ブレンダン・フレイザー, ホン・チャウ, 監督:ダーレン・アロノフスキー, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 ザ・ホエール 』 -珠玉の人間ドラマ-

『 オンナのカタチ ヒトの形をして生まれながらも存在消されしモノの情景 』 -芸術に走りすぎ-

Posted on 2023年4月19日2023年4月19日 by cool-jupiter

オンナのカタチ ヒトの形をして生まれながらも存在消されしモノの情景 50点
2023年4月15日 シアターセブンにて鑑賞
出演:福島拓哉 田中玲
監督:吉村元希

あらすじ

ある夫(福島拓哉)と妻(田中玲)の関係から、オトコのカタチとオンナのカタチについて考えていく・・・

 

ポジティブ・サイド

「見ないで」と女性たちが叫ぶシーンの男性の視線の映し方はリアルだったと思う。男性として白状するが、街中を歩く女性を見る際に何らかの品定め的な目になることは確かにある(毎回ではない)。まあ、イエス・キリストの時代から「情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである」と言われるぐらいなので、オトコの視線そのものに真新しいことはない。(一部の)女性はそうした男を顔ですらなく、目だけで認識するというのは何となく理解できる。男=視線と記号化されたわけだ。

 

最後に歩道で踊るバレリーナからは『 気狂いピエロ 』や『 ジョーカー 』を想起させられた。過剰ともいえる化粧は本心を隠す、あるいは他者からの理解を拒絶する姿勢の表れだろう。往来で無言で踊るバレリーナはシュールで、それゆえにシネマティックだった。

 

ネガティブ・サイド

全編にわたって開陳される吉村監督の思想は、正直なにも新しさがない。全部、栗本薫が『 タナトスの子供たち―過剰適応の生態学 』で喝破していたことである。見せ方はかなり斬新だと感じたが、見せられたものは陳腐だった。

 

オトコのカタチにかなり露骨な性的イメージを押し付けてくるが、これは必要だったか?オンナを記号として消費する視線は明確に拒絶しながら、男性=男性器というイメージを押し付けるのは politically correct なのだろうか。とてもそうは思えないが。

 

総評

物語性もエンタメ性も希薄。芸術に走りすぎだが、これなら映画ではなく舞台でやったらどうか?という出来映え。悪いとは思わないが、演出が映画ではなく舞台になっている。名もなき夫婦の生活の中に搾取され消費される女性像を読み取るのなら、(短編と長編を比較するのは愚だが)『 グレート・インディアン・キッチン 』の方が遥かに映画的かつ啓蒙的。4作の中で本作だけは波長が合わなかったようだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

shape

カタチの私訳。エド・シーランの代表的楽曲 “Shape of You” でも、男女それぞれに特徴的なカタチは shape が訳語にふさわしい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 search #サーチ2 』
『 ヴィレッジ 』
『 ザ・ホエール 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 田中玲, 監督:吉村元希, 短編, 福島拓哉, 配給会社:movies label willLeave a Comment on 『 オンナのカタチ ヒトの形をして生まれながらも存在消されしモノの情景 』 -芸術に走りすぎ-

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