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『 クリード 炎の宿敵 』 -家族の離散と再生の輪廻にして傑作ボクシングドラマ-

Posted on 2019年1月18日2019年12月21日 by cool-jupiter

クリード 炎の宿敵 85点
2019年1月12日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:マイケル・B・ジョーダン シルベスター・スタローン テッサ・トンプソン ドルフ・ラングレン フロリアン・“ビッグ・ナスティ”・ムンテアヌ
監督:スティーブン・ケイプル・Jr.

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『 クリード チャンプを継ぐ男 』には、まだまだ追求すべきサブプロットがあった。アドニスのキャリアのその後はもちろん、ロッキーのホジキンリンパ腫、ビアンカのキャリアと聴力の問題、独りになってしまったメアリー・アンなどなど。それらを描きつつも、トレーラーが明かしたある名前に、ファンは騒然となった。運命の決着はいかに。

 

あらすじ

世界タイトルマッチの惜敗から、6連勝で世界ランクを駆け上がったアドニス(マイケル・B・ジョーダン)はついに世界ヘビー級タイトルを獲得する。その勢いのままにビアンカ(テッサ・トンプソン)にプロポーズ。ビアンカもほどなく妊娠し、アドニスは幸せそのものだった。しかし、そこに父アポロの怨敵、イヴァン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の息子、ヴィクター(フロリアン・“ビッグ・ナスティ”・ムンテアヌ)が現れ、アドニスに挑戦を表明する。勝負を受けるべきでないと判断するロッキー(シルベスター・スタローン)からアドニスは離反、ヴィクターとの対決に臨むも・・・

 

ポジティブ・サイド

毎度のことではあるが、ボクシング映画に出演してボクサー役を演じる役者には敬服するしかない。体作りやボクシング的なムーブの習得は生半可な努力では不可能だからだ。わけても本シリーズは、ボクシングのリアリティを特に強く追求する。それは実際にパンチを当てるからではない。ボクサーのメンタリティをよくよく表現しているからだ。そこに、家族を持たなかったアドニスが、家族を得て、そして自分が決して知ることがなかった父という存在に、自分が成ろうとするドラマが織り込まれる。そしてそれは、ロッキーにも当てはまることだ。偉大すぎる父を持つ息子は、反発してカナダに移り住んだ。息子がいながらも、息子に対して上手く接することができないロッキー。父がいないながらも、その父の影を追うアドニス。この父と子の関係に、ドラゴ親子のドラマが重層的に折り重なって来る本作は、ボクシング映画にしてヒューマンドラマでもある。その両者の融合にして極致でもある。『 エイリアン 』がSFとホラーの両ジャンルで頂点を極める作品であるように、本作もマルチ・ジャンルの作品として、一つの到達点に達していると称えたい。

 

冒頭でいきなりWBC世界ヘビー級タイトルマッチに挑むアドニスにクエスチョン・マークが浮かんだファンも多いだろう。前作ではライト・ヘビー級ではなかったか、と。しかし、HBOの実況に前作から引き続きマックス・ケラーマンとジム・ランプリーが登場、そして字幕や画面には出てこなかったが、コメンテーターとしてロイ・ジョーンズ・Jrを迎えていたことに思わずニヤリ。ライト・ヘビー級からヘビー級に“飛び級”して王座を獲得した実在のボクサーをリングサイドに置くことによって、アドニスの体重増と階級アップを説明しようというわけだ。ボクシングファンに向けたファンサービスであると同時に高度なアリバイ作りというわけで、再度ニヤリ。

 

それにしてもマイケル・B・ジョーダンの演技とボクシングは素晴らしいの一語に尽きる。メディアを前にしてのオープン・ワークアウトでは圧巻のミット打ちを披露するが、このわずか十数秒のために、何十時間、いや百数十時間は費やしてきたのではないか。それは本シリーズのみならず、すべてのボクシング映画出演者にも言えることだが、スタローンや『 サウスポー 』のジェイク・ジレンホールを超えたと評しても良いように思う。ボクサーの苦悩、それは打ちのめされての敗北にあるのではない。その姿を誰がどう見るのか。それが問題なのだ。苦労人・西岡利晃は世界王座防衛の旅に、娘をリングに上げていた。つまり、西岡は自らの雄姿を娘に見せたかったのだろう。では、アドニスは自分の雄姿を誰に見せたかったのか。そして誰に見せられなかったのか。前作のクライマックスで彼は父アポロの姿を想起することでダウンから立ちあがった。今作で彼が絶体絶命のピンチで想起するのは誰なのか。彼が体感した世界とは何だったのか。Jovianはそのシーンで鳥肌が立った。あまりにも的確で、なおかつそれがあまりにもドラマチックで、あまりにもシネマティックでもあったからだ。スティーブン・ケイプル・Jrという新人監督の力量は見事である。ほぼ新人だったライアン・クーグラーを見出したのと同様に、スタローンはこの偉才をどうやって見出したのか。その眼力の確かさには御見逸れしましたと言うしかない。

 

本作が単なるスポーツもの、ボクシングものに留まらないのは、アドニスとロッキーの関係以上に、イヴァン・ドラゴとヴィクター・ドラゴの親子関係に依るところが大きい。あまり細かく述べるとネタばれになるのだが、あの亀田親子を思い出せば分かりやすいのではないか。ボクシングによって挫折を味わった父(亀田父はそもそもプロになれなかったが)が、自らの息子にボクシングを叩き込む。そこに母親の姿は無い。しかし、その母親(ブリジット・ニールセン)が帰って来た。まるで『 レッド・ドラゴン 』で蘇った(という表現は正しくないが)チルトン博士と再会した時のような気持ちになれた。『 ビバリーヒルズ・コップ2 』以来だったか。スタローン・・・ではなく、ドルフ・ラングレンの妻役として華麗にリターンして、息子の心をかき乱す。ドラゴ親子のひたすらに内向きな関係性は亀田親子のそれとよく似ている。亀田史郎は対内藤大助戦で大毅に反則指示を行ったが、イヴァンはヴィクターにどんな指示を送ったか。そこを見て欲しい。そこにイヴァンと亀田史郎の共通点があり、その後の対応に彼らの決定的な相違が現れる。これ以外に納得のいく決着の方法は無かったであろう。

 

ネガティブ・サイド

意外なことにクライマックスを欠点に挙げたい。というのも、ここだけは誰が監督でもこうなるだろうと思える出来だったからだ。ケイプル監督が“Gonna Fly Now” を使ってのビジョンを描いていたのは間違いない。誰でもそうする。Jovianが監督したとしても間違いなくそうする。悔しいのは、それでも心動かされてしまったことだ。本作はアドニスが父を追い、父と重なり、そして文学的な意味での父殺しを果たす物語でもあるのだ。ロッキー映画の公式をぶち壊すぐらいのことをしてほしかった。それほど、陳腐にして完成度の高いクライマックスだった。おそらく、これ以上の物語は必要ない。続編を作るとすれば、それはスタローンの晩節を汚し、マイケル・B・ジョーダンのキャリアの汚点となるようなものになるだろう。

 

もう一つだけ弱点を挙げれば、ニューメキシコのロードワークのシーンが弱い。照りつける太陽、吹きすさぶ砂嵐、飢え、渇き、敗北のビジョン、そうしたものをモンタージュ的にもっと効果的に見せられなかっただろうか。『 ロッキー4 炎の友情 』の、雪原でのロッキーのトレーニングと対象的なところを見せたいという意図があったのだろうが、そこのところの描写に説得力が欠けていたように感じた。

 

総評

大小いろいろと欠点はあるものの、それは観る者が何を期待しているかによる。一つ言えるのは、これにてロッキー、そしてアドニスの物語は終わりであるということ。続編を作ってはならない。『 ロッキー5 最後のドラマ 』は毀誉褒貶の激しい作品だが、個人的には蛇足にして駄作だったと思っている。あれをリメイクする必要はどこにもない。折しもカナダの超人アドニス・ステヴェンソンがあわやリング禍というダメージを負った。アドニス・クリードにグローブを吊るせと言いたいわけではないが、これ以上のストーリーは悲劇にしかならない。ロッキー世界という一大ボクシング叙事詩の閉幕を、ぜひ大画面でその目に焼き付けるべし。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アメリカ, シルベスター・スタローン, スポーツ, ヒューマンドラマ, マイケル・B・ジョーダン, 監督:スティーブン・ケイプル・Jr, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画

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