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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ヒューマンドラマ

『 君の声を聴かせて 』 -王道の恋愛映画かつ家族映画-

Posted on 2025年10月7日 by cool-jupiter

君の声を聴かせて 70点
2025年10月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ホン・ギョン ノ・ユンソ キム・ミンジュ
監督:チョ・ソンホ

 

『 あの夏、僕たちが好きだったソナへ 』と同じく、台湾映画の韓国リメイク。そうとは知らずにチケット購入したが、かなり面白かった。

あらすじ

ヨンジュン(ホン・ギョン)は定職に就かず、実家の弁当屋を嫌々手伝っていた。ある日、配達先のプールでろうあ者の水泳選手ガウル(キム・ミンジュ)を世話する姉のヨルム(ノ・ユンソ)に一目惚れして・・・

 

ポジティブ・サイド

哲学専攻ゆえに就職に難儀するというのは、宗教学専攻ゆえ同様の経験をしたことがあるJovianにはいたく共感できた。自分がある程度、社会不適合者であるという自覚は当然あったが、いかなる分野であれ学問をそれなりに収めてきた人間を冷遇する社会は息苦しいではないか。

 

本作はしかし、ヨンジュンに手話を授けていた。手話を学んだ理由も終盤に明かされるが、純朴青年そのものという感じでほっとする。プールサイドで見かけた美女の妹に速攻で姉の名前を聞きに行くという行動がキモいと感じられないのは、彼のピュアさが垣間見えるからか。

 

互いにソウル在住の26歳だとは思えないほどのスローな関係の進展に全くやきもきしない。それは本作が恋愛映画ではなく家族の物語だから。ヨンジュンの両親は、本当なら息子を家からたたき出してもおかしくないのに、優しく見守る。ヨルムとガウルの両親も、木の上に立って見るの例えではないが、遠くから娘を信じて見守っている。

 

本作にはとある仕掛けがあり、気付く人は最初の10分で気付くだろう。普通の人でも中盤で、どんなに鈍い人でも終盤には分かるはず。たとえば『 マローボーン家の掟 』のように、登場人物同士の・・・おっと、これ以上は興ざめになる。しかし、本作が優れているのは、その仕掛けが分かっていても楽しめる構成にある。両片思いの変則バージョンとでも言おうか。

 

全編ほとんど手話で、しかもその手話のほとんどが韓国ローカルの手話。したがって、日本の手話を解する人なら、たとえば『 ケイコ 目を澄ませて 』のカフェでの会話シーンが理解できただろう。しかし、本作は無理。だが、どういうわけか通じるように感じられるのだ。それは、手話を使うヨンジュン、ヨルム、ガウルがとても表情豊かだから。しかも、それが演技ではなく、本当に恋する男女が互いの心を図らずもさらけ出しているかの如く。いや、それも監督の演出、役者の演技なのだが、観ている側が「いい演技だなあ」ではなく、「いいやつだなあ」、「かわいい子だな」と素直に思えるキャラクター像を作り上げている。本質は家族の物語なのだが、ラブロマンスとしても非常に味わい深い作品に仕上がっている。

 

ネガティブ・サイド

クレームおばさんが実際にペナルティを食らうシーンが5秒でいいから欲しかった。

 

クラブのシーンはとある伏線なのだが、その伏線は別のシーンでも張られていて足りていた。個人的にはもっと『 ベイビー・ドライバー 』でジョーが骨伝導スピーカーで音楽を楽しんだような、もっと少人数で屋内で音楽を楽しむようなシーンが欲しかった。

 

とある事件をきっかけに姉妹がギクシャクする展開になるが、この前のシーンから姉妹の間の思いのズレに関する描写を小出しにしていってくれていれば、ガウルの涙の訴えがもっとドラマチックになったのではないだろうか。

 

総評

エンタメとして普通に面白く、ロマンスとしてもさわやかで、ヒューマンドラマとしても申し分ない出来栄え。デートムービーに最適だが、中高年カップルが息子や娘が交際相手を連れてくる現代的シミュレーション物語として鑑賞するのもいい。スルーしていた『 ぼくが生きてる、ふたつの世界 』や、小説が面白かった『 レインツリーの国 』あたりを鑑賞してみたくなった。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

チャンカンマン

ちょっと待って、の意。これもパリパリ=早く早く、と並んで非常によく聞こえてくる表現、かつパリパリ同様に2回連続で発話されることが多い。ドラマや映画で必ずと言っていいほど聞こえてくるので、ぜひ耳を澄ませてみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, キム・ミンジュ, ノ・ユンソ, ヒューマンドラマ, ホン・ギョン, ラブロマンス, 監督:チョ・ソンホ, 配給会社:KDDI, 配給会社:日活, 韓国Leave a Comment on 『 君の声を聴かせて 』 -王道の恋愛映画かつ家族映画-

『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

Posted on 2025年9月25日2025年9月25日 by cool-jupiter

蔵のある街 75点
2025年9月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中島瑠菜 山時聡真
監督:平松恵美子

 

岡山県倉敷市のご当地映画ということでチケット購入。『 しあわせのマスカット 』が見事に失敗した岡山のご当地ムービー制作が、本作で実現された。

あらすじ

自閉症の兄、きょん君と暮らす紅子(中島瑠菜)は美大へ進学したいという想いを封じ込めていた。ひょんなことから幼馴染の蒼(山時聡真)たちがきょん君と交わした「鶴形山から打ちあがる花火を見せてやる」という実現不可能な約束を、紅子は無責任だと非難する。蒼たちはきょん君との約束を果たすべく、動き出すが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭で家族で見上げる打ち上げ花火のシーンから一転、キャンバスの前で微動だにしない紅子、そこからきょん君の登場と、テーマと主要キャラクターの導入のテンポが小気味いい。蒼と祈一のコンビも邦画の高校生的なお約束、いわゆる二枚目と三枚目のコンビではなく、それぞれに苦悩するキャラクターになっていた。花火大会開催の一因となるきょん君も『 レインマン 』のダスティン・ホフマン的な演技で、自閉症のリアリズムを遺憾なく表現した。

 

世の中には優しい嘘と残酷な嘘があるが、善意でついた嘘が結果的に相手を苦しめることもある。どう責任を取るのか。嘘を本当にするしかない。そこに助け舟を出すのは高橋大輔。関西大学卒なので関西人かと思っていたが、倉敷出身だったのか。正式な署名を100人分集めよ、という無茶な指令を出す。そのためにダメダメ男子高校生が奔走する様は滑稽だ。そこに紅子から思わぬアシスト。イラストには力が宿るのだ。

 

花火大会を開こうと蒼と祈一が奮闘していく中で、倉敷の歴史、そこに生きる人々の気質と仕事・産業、駅前と美観地区の街並みの対比、そして何よりもバラバラになってしまっている紅子の家族の絆の再生の端緒も描かれていく。それは家族が一つになることを必ずしも意味しない。『 焼肉ドラゴン 』のように、旅立ちや独立も家族のあるべき在り方であることを本作は静かに、しかし力強く提示している。

 

ネガティブ・サイド

蒼のサクソフォンの話はどこにいった?演奏で耳目を引き、署名活動につなげるなどの描写は編集でカットされたか。

 

演技力のギャップが色々とありすぎた。主要キャラたちの岡山弁は、まあ大目に見るが、一部の役者はダメダメ。駅前のチンピラやフルート奏者(そもそも役者ではない?)は、別の役者を使えなかったのだろうか(高橋大輔は地元出身なので許す)。

 

橋爪功の出演シーンも不要だったように思う。。

 

総評

倉敷の美観地区を誇張することなく、その特徴をよく映し出している。海側に水島コンビナートがありながら、どこか大正や昭和の趣を残した街並み、しかしそれなりに発展した駅前や洋風の瀟洒な建物もあり、旅情を喚起する。家族の結びつきや恋愛感情を至上としない現実的な人間ドラマだった。ご当地映画の白眉と言える。岡山県民のみならず、多くの人に鑑賞されるべき作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

signature

署名の意。数多く集めれば、効力を発揮することもある。劇中の高橋大輔の「署名を100通集めたら力を貸そう」は “If you get a hundred signatures, then you’ll have my support.” ぐらいだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ブロークン 復讐者の夜 』
『 宝島 』
『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中島瑠菜, 山時聡真, 日本, 監督:平松恵美子, 配給会社:マジックアワー, 青春Leave a Comment on 『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

Posted on 2025年8月15日2025年8月15日 by cool-jupiter

桐島です 75点
2025年8月14日 シアターセブンにて鑑賞
出演:毎熊克哉
監督:高橋伴明

 

『 BOX 袴田事件 命とは 』の高橋伴明監督が逃亡犯・桐島聡を描いた作品ということで、やっとのことでチケット購入。

あらすじ

企業・政府による人民搾取に静かに業を煮やしていた桐島聡(毎熊克哉)は、やがて過激派に属し、爆弾闘争に身を投じていく。しかし、その過程で負傷者を出してしまったことを公開する。また、組織に官憲が迫ったことで逃亡していくが・・・

 

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

誰もが一度は目にしたことがあった桐島聡の指名手配写真。それが2024年1月、病院で見つかり、そのまま死んでいったというニュースはかなりセンセーショナルだった。そんな逃亡犯を毎熊克哉が好演した。

 

『 三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』で描かれた1969年から数年後の1970年代。そこで桐島聡は労働者階級の待遇改善と諸外国民の搾取反対を表明するため、大資本への闘争を続けていた。同作でかつての三島親衛隊員が述べていた、全共闘は市井の中に拡散していったと、いわば負け惜しみ的に語っていたが、その数少ない拡散先に桐島がいたのかと思うと、なんとも複雑な気分になった。事実は小説よりも奇なりという意味でそう感じるということである。事実、『 正体 』は本作によってかなり陳腐化したと言える。

 

桐島は学生運動の延長線上に常に身を置くことで、いきなりガールフレンドから別れを告げられてしまう。デートに選んだ映画のチョイス(『 追憶 』)もまずかったようだ。とある時代の感性を保つことは、別の人間から見れば時代遅れとなる。時代という言葉が大仰かもしれないが、現代でも往々にしてこうした見方の対立は生じている。故・安倍晋三の桜の会疑惑その他は、しばしば支持者から「いつまで終わったニュースをやっているんだ」となるし、そうでない者からすれば「なんで勝手に先に進んでいるんだ」となる。

 

後者に属する桐島は労働者階級が資本家に搾取される構図を訴えようと過激派の爆弾闘争に身を投じていくが、そこで人を傷つけることには反対する。仲間は、企業にダメージを与えることを人を傷つけないことの矛盾をアウフヘーベンしていこうと言うが、自己主張の手段に言論ではなく武器を選んでいる時点で、その矛盾を止揚できるはずがない。しかし桐島はある時点から言葉に惹きつけられていく。これは事実なのか脚色なのかわからないが、桐島の人物像を深めつつも、桐島の思想については浅くもしていると感じた。

 

着の身着のままで逃亡した先で、運よく経験不問かつ寮付きの工務店で職を得た桐島は、内田洋を名乗って生活する。生真面目に生活のルーティンを守り、模範的に働き、たまにバーに顔を出しては酒や音楽という世俗の歓楽を享受する。要するに、大多数の小市民と何ら変わりのない生活を送っていく。その一方で、自身の関与した爆破事件について忘れることはできず、またいつでも逃亡できるように警戒を怠ることもないという、ある種の矛盾した生活も送っている。

 

行きつけのバーで知り合った若い歌手に恋心を寄せられても拒絶せざるを得なかったのは逃亡者だったからか。それとも時代遅れの自分がトラウマになっていたからか。奇妙な縁を深めることになった謎の隣人が、犯罪者・逃亡者としての桐島の人間関係にユーモアと緊張感の両方をもたらしていて、甲本雅裕は非常に強いインパクトを残した。

 

在日韓国人の同僚、不法滞在するクルド人就労者、集団的自衛権の容認を国会を経ず閣議で決定した安倍晋三など、国家の歪みを感じさせる事象に対して怒りと悲しみを感じる桐島聡だが、その一方で運転免許試験と教習所は結託していると語ったり、またメタボ検診を製薬会社と厚労省の癒着だと断じたりと、非常に危うい、あるいは偏った正義感の持ち主である点も描かれる。外側のアイデンティティを偽りつつも、内側のアイデンティティは偽れなかったのだろう。その思想が良いものなのか悪いものなのかは軽々に判断すべきでない。しかし、高橋監督は桐島に説教されたと思しき若い同僚に「内田さんが死ぬのはいやっすよ」と言わしめた。それが彼のメッセージなのだろう。

 

後年にかつての反日武装戦線の領袖が出版した詩集を読み耽る桐島は、

 

毎熊克哉が青年から高齢までの桐島を見事に演じきった。今年の主演男優賞は彼と『 国宝 』の吉沢亮の一騎打ちとなるだろう。

 

ネガティブ・サイド

かつての同志の宇賀神が語る「桐島は公安に勝利した」という宣言は、桐島の代弁とは言えないのではないか。桐島は一貫して日雇い労働者に代表される下級労働者の搾取の構造を変えたがっており、そこにいるのが日本人であれ外国人であれ、それは救済の対象だった。桐島の勝利とは労働者の勝利であり、最後まで逃げ切ったことを勝利というのは矛盾に感じた。それこそ遺書でも残しておき、死後に桐島聡という存在が内田洋に成り代わっていたことが明らかになったというのなら話は別だろうが。

 

最後の最後に登場する日本赤軍の生き残り女性の存在が滑稽に映った。というのも作中に登場する安倍晋三は2024年時点では既に暗殺されていたからだ。まさに事実は小説よりも奇なり。

 

総評

ハリソン・フォードの『 逃亡者 』的なアクションなど一切なし。非常に地味なドラマである。しかし、一人の人間の半生を通して、変わっていったものと変わらないものを同時に映し出すという試みは大いに成功している。爆弾テロは論外だが、反体制の闘士を生み出す土壌がかつての日本にはあったということは知るべきだろう。そしてその土壌から誤って芽吹いたのが参政党や日本保守党であることは憂慮していい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pseudonym

偽名の意。pseudoは疑似的な、を意味する接頭辞。nymは名前を意味する接尾辞。偽名と訳されるが、どちらかというとペンネームなどの仮の名前を指す語。一方で false name となると正に偽の名前で、これは犯罪や悪事の際に用いられる名前。これらをちゃんと区別できれば英検準1級以上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 亀は意外と速く泳ぐ 』
『 渇愛 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 歴史, 毎熊克哉, 監督:高橋伴明, 配給会社:渋谷プロダクションLeave a Comment on 『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

『 愛されなくても別に 』 -家族愛という呪縛を断つ-

Posted on 2025年7月22日2025年7月22日 by cool-jupiter

愛されなくても別に 80点
2025年7月19日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:南沙良 馬場ふみか
監督:井樫彩

 

連日の残業につき簡易レビュー。

あらすじ

大学生の宮田(南沙良)は、実家暮らしながらバイトに明け暮れ、学費を自分で払いつつ、家にも金を入れていた。ある時、バイト先の疎遠な同僚の江永(馬場ふみか)の父親が殺人犯であるという噂を耳にした宮田は、江永と距離を縮めていき・・・

ポジティブ・サイド

親のわずかな愛にすがる宮田と、親からの愛を完全に諦めた江永、そして親からの過剰な愛に苦しめられるアクア(本田望結)が皆、非常にリアルだった。

 

我々はつい自分の不幸と他人の不幸を比べたがるが、そんな姿勢を一撃で喝破してくる江永というキャラの奥深さよ。

 

去年まであちこちの大学で非常勤講師をしていたJovianから見ても、宮田というキャラは非常に再現度が高かった。実際にこういう不幸な子はそこここにいるはずだ。

 

『 真っ赤な星 』と同じく寓意に満ちた画作りも冴えている。水槽や浴槽が、池や海との対比になっているのは見事だった。

 

ネガティブ・サイド

宙(コスモ)様のキャラにだけ一貫性を感じなかった。親あるいは家族との距離感に悩む人間をターゲットにしているようだが、宮田を落としかけた話術は江永には通じない。ということはアクアにも通じないのでは?

 

総評

Jovianの推しである南沙良が主演、そして監督は『 真っ赤な星 』の井樫彩ということでチケットを購入したが、これは大当たり。非常にダークな物語の中で人間のダークサイドを見せつけられるが、そんな中でも人は連帯できるという希望が確かに存在するのだという信念が伝わってくる。2025年の邦画のベスト候補の一作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

scholarship

奨学金の意。get a scholarship または receive a scholarship で「奨学金を得る」という意味になる。複数の奨学金を受け取る場合は、get / receive scholarships と複数形にもなる。成績優秀であれば奨学金を返済不要にするという制度を拡充してほしいと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 桐島です 』
『 入国審査 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 南沙良, 日本, 監督:井樫彩, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ, 青春, 馬場ふみかLeave a Comment on 『 愛されなくても別に 』 -家族愛という呪縛を断つ-

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-

Posted on 2025年6月30日 by cool-jupiter

ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 80点
2025年6月28日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:キム・ゴウン ノ・サンヒョン
監督:イ・オニ

 

なぜか近所の松竹系劇場が土日は本作を上映しない。仕方がないのでTOHOシネマズへ向かう。

あらすじ

ゲイであることを隠しながら生きるフンス(ノ・サンヒョン)は、奔放に生きるジェヒ(キム・ゴウン)と友人になる。互いの恋愛事情には干渉することなく友情を深めていく二人。そして条件付きで同棲することなっていくが・・・

ポジティブ・サイド

男女の友情は成立するのかという問いは古今東西で常に論じられてきたように思う。本作はその命題に対して一定の解を示したと言える。

 

刹那的に生き、恋に恋するタイプのジェヒと、ゲイであることが劣等感になってしまっているフンスが、友人関係になっていく過程が面白い。互いが互いを気に掛けるべき存在であると認識していくが、そこを言葉ではなく表情や動作でじっくりと描いていく。特に、ライターを小道具としてうまく使っていて、あるクラブのシーンでは唸らされた。

 

同居のきっかけにも説得力がある。いや、事件自体は( ゚Д゚)ハァ?というものだが、だからこそジェヒの家にフンスが引っ越してくるのだという話の流れは十分に首肯できるものだった。

 

普通ではない二人が同居しながらも、互いの恋愛事情には決して踏み込んでいかない。その距離感が絶妙だ。そして、それぞれが語り、そして歩んでいくロマンスの道も甘く、しかしほろ苦い。

 

「執着することが愛だというのなら、自分はまだ愛したことがない」というフンスは、大学やクラブで刹那的な情事にかまけていく。一方で、その相手に徐々に依存し、執着していくようになっていくことに無自覚だ。その自分の心境の変化を数年かけてじっくり描き出していく。初恋は実らないというが、失って初めて「自分は執着していたんだな」と思える関係性は、対象が異性であれ同性であれ、美しいにちがいない。

 

「自分らしさがなぜ弱点なのか」というジェヒの恋模様もかなりビター寄りのビタースイートだ。クラブで夜な夜なヒャッハーしつつ、学内でしっかりステディも作る。しかし・・・、この展開は見るに堪えないというか、かなりしんどい。特にある事件で年配女性がジェヒがなじられるが、まさに自分らしさを弱点・欠点扱いされ、さらにそれはジェヒの罪ではないというシーンは本当に胸が痛んだ。

 

大学に馴染めない二人が一般社会でも馴染めるわけがなく、ジェヒは就職先の会社内で職制と序列に適応できず、フンスは就職自体できない。そんな中でも二人の同居生活は続いていく。大都市という人だらけであるがゆえに孤独が強調されてしまう環境で、同病相哀れみ、肝胆相照らす仲の人間がいることがどれだけ心強いことか。

 

母にカミングアウトできないフンスの物語では『 君の名前で僕を呼んで 』がガジェットとして登場する。韓国における映画の影響力と、韓国国民の感受性の高さを感じさせるサブプロットが非常に興味深かった。

 

ジェヒもジェヒでクズ男吸引体質とでも言おうか、まったく報われない関係にばかり身を投じてしまうのが痛々しい。しかし、それを救ってくれるのが、かつて同じようなシチュエーションに駆けつけてくれなかったフンス。このシーンでは正直ちょっとウルっと来てしまった。

 

映画のエンディングでは、劇場のあちこちでお一人様女子たちのすすり泣きが聞こえた。明るくなってから気付いたが、驚きの女子率だった。それも女子同士のペアかお一人様。男女で来ていたのはパッと見でJovian夫妻以外には3組程度だったか。本作が以下に女性に訴求力を持っているのかを垣間見たように思う。

 

ネガティブ・サイド

タバコが意味あるガジェットとして頻繁に用いられるが、フンスとジェヒが二人同時に吸うシーンがなかったのは意外。Jovianは学生時代、仲の良かったドイツ人女子やアルゼンチン人女子とよく一緒にタバコを吸っていたし、彼女たちが帰国する前日には、互いに火をつけたタバコを交換したりもした。間接キスなのだが、そんなことは全く気にならなかった。そんな友情のシーンを見てみたかった。まあ、これは個人的すぎる願望か。

 

総評

傑作である。ステレオタイプであることを承知で言うが、男であるJovianがこれほど感銘を受けるのなら、自分らしさというものに苦しめられる女性なら、もっと力強さや励ましや肯定感を与えられるだろう。観客の反応がそれを如実に物語っている。自分らしさを肯定してくれる人が一人でもいれば、そして誰か一人に執着するような人生の一時期があれば、それはきっと不幸な人生にはならないはず。そう思わせてくれる作品だった。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

パリパリ

早く早く、の意。『 ベテラン 凶悪犯罪捜査班 』でも紹介した表現。韓国人のせわしない気質をよく表した、映画やドラマでおなじみの表現。関西人ならこの感覚が肌でわかることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 28年後… 』
『 フロントライン 』
『 この夏の星を見る 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, キム・ゴウン, ノ・サンヒョン, ヒューマンドラマ, 監督:イ・オニ, 配給会社:KDDI, 配給会社:日活, 韓国Leave a Comment on 『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-

『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

Posted on 2025年6月15日2025年6月15日 by cool-jupiter

国宝 80点
2025年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:吉沢亮 横浜流星
監督:李相日

 

李相日監督作品ということでチケット購入。3時間が苦にならない重厚長大なドラマだった。長引く風邪と仕事の突発的な事案のため簡易レビュー。

あらすじ

極道の父親を失った喜久雄(吉沢亮)は、歌舞伎役者の家に引き取られ、そこで兄弟同然の仲となり習性のライバルとなる俊介(横浜流星)と出会う。歌舞伎の道に邁進する二人だったが、やがてある出来事が転機となり、袂を分かつようになり・・・

ポジティブ・サイド

喜久雄が任侠の跡取り息子から国宝に成り上がるまでの50年間は見応え抜群。歌舞伎の良し悪しは判断しかねたが、役者が役者を演じることの重みは十分に伝わってきた。

 

順調にキャリアを積み上げてきた喜久雄が、思いがけず転落していく最中で見せた屋上での踊りは『 ジョーカー 』を髣髴させた。

 

本作のテーマは、芸とは才か血かというもの。もちろん、この命題に絶対の答えなどない。ただ本作は、才の極みが血を残すのかどうかについて興味深い視点を提供したとは言える。

 

劇中劇の中でも特に『 曾根崎心中 』が良かった。Jovianの出身地の尼崎は近松門左衛門と縁が深く、近松公園は散歩コースかつ時々縁台将棋にも参加させてもらっている。また、死ぬことになる遊女のお初は、梅田近辺にオフィスを持つ企業のサラリーマンなら、露天神社で一度は目にしたことがあるはず。舞台も大阪だし、大阪人や大阪近辺の人間こそ鑑賞すべき作品である。

ネガティブ・サイド

時代のせいだと言えばそれまでだが、女性キャラがそろいもそろって物語上のガジェットのようだった。なぜそこでその男に惚れる?なぜそこでその男についていく?そんな疑問だらけ。

 

また糖尿病もある意味で大活躍。確かに1980年代、1990年代は40代以上の男性の10人に1人(100人に1人ではない)は糖尿病予備軍だと言われていたが、糖尿病悪化で吐血?会社員ではないが、お前ら年に一度の健康診断ぐらいは自腹で受けろ、と感じた。

総評

ある意味、顔で生きてきた吉沢亮が、遂に本物の代表作を手に入れた。歌舞伎という誰もが知りながら、誰も知らない世界をこれほど活写した作品はこれまでなかったし、これからも出てこないだろう。『 ハルカの陶 』の国宝はあまり国宝らしくなかったが、本作の描く人間国宝は国宝の輝きを放っている。ぜひとも大画面、大音響の劇場で鑑賞を。

 

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Living National Treasure

ナショナル・トレジャーといえばニコラス・ケイジを思い出すが、これに living をつけることで、生きている国宝、すなわち人間国宝を意味する。Jovianが知っている人間国宝は中村吉右衛門以外では桂米朝、金重陶陽、藤原啓ぐらい。皆さんが思い浮かべる Living National Treasure は誰だろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』
『 JUNK WORLD 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 吉沢亮, 日本, 横浜流星, 監督:李相日, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

Posted on 2025年5月6日 by cool-jupiter

うぉっしゅ 65点
2025年5月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中尾有伽 研ナオコ
監督:岡﨑育之介

 

『 異端者の家 』を観るはずが、レイトショーがやっておらず、急遽こちらのチケットを購入。意外にしっかりした作りだった。

あらすじ

ソープで働く加那(中尾有伽)は、母の突然の入院治療のため、遠方の祖母、紀江(研ナオコ)の介護を一週間だけ引き受けることになる。しかし紀江は認知症のため加那のことを覚えておらず、毎回初対面のように振る舞う。そうして昼は介護、夜はソープという加那の奇妙な生活が始まって・・・

ポジティブ・サイド

めちゃくちゃ久しぶりに研ナオコを見た気がする。おそらく10年ぶりぐらいか?ナチュラルに老人になっていて、自分自身が年を取ったと実感する。そして研ナオコ演じる紀江の認知症は母方の祖母の認知症とそっくり。祖母も90過ぎてからは会うたびに「誰?どこから来た?仕事は?」と聞いてきたっけか。最初は少なからずショックを受けたが、おふくろからとある話を聞いて納得した。そしてその話とほとんど同じことを劇中でとある人物が語ってくれた。

 

本作で真に迫っていたのは紀江だけではない。他のキャラクター、特に隣家のおばさんと風俗店のボーイは際立っていると感じた。他にもホストに入れ込むソープ嬢仲間や、ソープ業界から足を洗おうという仲間も印象的だった。ああいう業界の人間関係はドライに見えてウェット、ウェットに見えてドライだと想像するが、現実もきっとそうなのだろう。

 

介護の場面でも、入浴介助のシーンだけ生き生きする加那には説得力があったし、介護のあれこれを動画で学ぶのも『 アマチュア 』と同じく現代っぽさを感じさせた。特に薬を飲むことを拒否する高齢者というのは、看護の現場でもあるあるだった。

 

加那がソープ嬢として客に忘れられること、そして孫として祖母に忘れられることの痛みを受け入れる転機は生々しかったし、それだけに説得力があった。会いに来るのを待つというのと、こちらから会いに行くということの違いをこれだけ鮮明に打ち出した作品は、ロマンスものですら珍しいと思う。

 

認知症は認知機能の衰えであって、感情は残るとされている。徘徊老人という言葉は数十年前からあるが、彼ら彼女らがどこに向かっているのかを追究しようとした作品としても本作はユニーク。昔の研ナオコを知っているオールドファンからすれば、一瞬だけだが非常に気分がアゲなショットも用意されている。

 

職業に貴賎なし。スティーブ・ジョブズの言葉を借りれば、Love what you do となるだろうか。自分を肯定できれば、相手も肯定できるのだ。

 

ネガティブ・サイド

ベッドで上半身を持ち上げてからの端座位への移行が、ぶっちゃけ下手くそだった。腕力を使ってはダメ、きゃしゃな女性なら尚更。最初にうまく行かず、そこでプロの指導動画を観る、のような流れであれば自然だった。ちなみに実践的には、自分から遠い方の相手の肩を抱いて少し自分側に引いてやり、その反動で相手を少し押す。そこで生まれた遠心力を使って、相手の尻を起点にサッと回してやるのがコツである。

 

名取さんのご高説は興味深かったものの、介護業が長かったのなら、家族が一番というのは必ずしも現実ではないと分かるはず。たとえば『 博士と彼女のセオリー 』などからも明らかだし、実際にそうだからこそ直接の家族でなくとも介護の貢献が認められた者にも相続権が認められる特別寄与制度も整備された。家族論には色々あるし、それは大いに語られるべきだが、本作のそれは少し的外れに感じられた。

 

総評

ソープと介護という一見して共通点がなさそうなものを見事に結び付けた珍品。だからといって程度が低い作品ではない。サブキャラのサブプロットも無理のない範囲で掘り下げられているし、それが主人公キャラに深みを与えている。セクシーなシーンはあっても、エロいシーンはないので、高校生、大学生のカップルでも鑑賞に支障なし。親が上手に説明できるならという条件付きで、ファミリーで鑑賞するのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Nice to meet you.

はじめまして、の意。初対面の相手には、まずはこれを言おう。SlackやZoomで話したことはあっても、直接に合うのは初めてという場合は、Nice to meet you in person. や Nice to meet you face to face. のように言おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』

 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, コメディ, ヒューマンドラマ, 中尾有伽, 日本, 監督:岡崎育之介, 研ナオコ, 配給会社:ナカチカピクチャーズLeave a Comment on 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

『 銀幕の友 』 -朋あり遠方より来る、亦た楽しからずや-

Posted on 2025年2月23日2025年2月23日 by cool-jupiter

銀幕の友 50点
2025年2月22日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:チョウ・シュン ワン・イーボー
監督:チャン・ダーレイ

 

妻が「短編は配信されないので劇場で観たい」というのでチケット購入。

あらすじ

1990年、北京でのアジア競技大会が終わった頃、チョウ(チョウ・シュン)は中国のとある街の工場労働者向けの映画のチケットを配布していた。そこに旅から帰ってきたというリーが友人を訪ねてきて・・・

 

ポジティブ・サイド

北京に集結したアジア各国の代表たちと今度は広島で会おうと誓う歌が、中国各地に散った同胞および同朋との出会いとパラレルになっている。

 

何気ない街の日常を静かに見つめるという点では男女が逆だが『 パターソン 』に似ていると感じた。非日常から日常に回帰する時、同郷の友の訪問を受ける。何気ない営為がとても尊く、愛おしく感じられる瞬間でもある。

 

皆が一つの目的でそこに集い、一つの体験を同時に共有できるという意味で、映画館は同好の士との出会いの場と言える。実際に『 熱烈 』を通じて劇場で意気投合したマダムたちもいたのである。

 

ネガティブ・サイド

24分で1300円は高い。テアトルさん、一律1000円でも良かったのでは?

 

かなりのスローペースで、物語らしい物語はない。背景情報だけは間接的に渡すので、そこから物語を自身で構築してくださいというのは、芸術映画にしても無責任すぎ。

 

もう少しパンパン(パンダの大型模型)の搬送シーンでのチョウの視線などにクローズアップしていれば、無くなっていくものへの寂しさとそれを心に刻みつけることの大切さ、そしてそれを追体験させてくれる映画という媒体の尊さのようなものを観る側に感得させやすくなったのではないかと思う。

 

総評

ワン・イーボーのファン以外にはお勧めしない。逆に言えばワン・イーボーのファンなら観る価値はあると言える。30分に満たない短編だというのに座席は4割以上は埋まっていた。パッと見た限り男性客はJovianと最前列のもう一名だけ。その一名もおそらく妻に引っ張り出されたのだろう、と推測する。同病相憐れむ、か。彼とJovianは言葉も視線も交わさなかったが、友になったのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

再見

ザイヂェンと発音する。アクセントは後半のチェン。読んで字のごとく、再び会おうの意。英語なら Good bye もしくは See you again. となる。おそらくニーハオ、シエシエに次いで知られた中国語ではないだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 マルホランド・ドライブ 』
『 幻魔大戦 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, D Rank, チョウ・シュン, ヒューマンドラマ, ワン・イーボー, 中国, 監督:チャン・ダーレイ, 配給会社:彩プロLeave a Comment on 『 銀幕の友 』 -朋あり遠方より来る、亦た楽しからずや-

『 ちひろさん 』 -人の輪の中で孤独に生きる強さ-

Posted on 2025年2月9日 by cool-jupiter

ちひろさん 75点
2025年2月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:有村架純
監督:今泉力哉

 

劇場公開時に観られなかった作品。これも近所のTSUTAYAで借りてきた。

あらすじ

元風俗嬢のちひろ(有村架純)は港町のお弁当屋さんで働いていた。自らの前職について特に隠すこともないちひろ目当てに、弁当屋には大勢の客がやって来ていた。そんなちひろは、客だけではなく寄る辺を持たない小学生や高校生、ホームレスとも親しく交流していき・・・

 

ポジティブ・サイド

野良猫と無邪気にじゃれ合ったり、弁当屋の常連客と談笑したりと、とても無邪気なちひろさん。しかし風俗嬢としての過去も特に隠しておらず、良い意味でも悪い意味でも周囲の耳目を集めている。そんなちひろを有村架純が好演。様々なドラマを生み出していく。

 

駄々っ子の小学生や、ストーカー気質の女子高生などと奇妙な形で縁を深めつつ、思いつめた男性客や元店長との再会など、ちひろの過去も深掘りされていく。ちひろは誰に対してもオープンでフラットな人当たりを見せるが、ところどころで闇を秘めた目つきも見せる。特に母親に関する電話と、海辺の砂を掘るシーンでは心底ゾッとさせられた。この一瞬を切り取ったカメラマンの手腕よ。また名言も明示もされないが、おそらくちひろは前科者。推測できる裏のストーリーとしては『 オアシス 』のようなものだろうか。

 

表のストーリーは『 町田くんの世界 』や山本弘の小説『 詩羽のいる街 』が近い。ちひろさんを中心につながっていく人の輪。その中心にちひろさんがいる。本作がユニークなのは、ちひろさんがつなげた輪に・・・おっと、これ以上は重大なネタバレか。ただ、セックスワーカーは性サービスの提供以上にカウンセラー的な役割を担っているという面が出されていたのには首肯させられた。

 

ふと調べてみたが、日本のセックスワーカーは推計で30万人。日本の人口を1億2千万人と丸めれば、女性は6000万人。20歳から29歳の人口は約700万人。セックスワーカーの人口ボリュームにもう少し幅を持たせれば母数は約1000万人か。雑な計算だが、100人中3人は風俗産業の従事者となる。ちひろさんは身近な存在とは言わないまでも、珍しい存在ではない。人と人とが触れ合う時に大切なのは肩書きではなく人間性。頭ではわかっていても実践するのは本当に難しい。

 

ネガティブ・サイド

エンディングに少し納得がいかない。ちひろのその後を描くんはよいが、もっともっとその後、極端に言えば40代、50代になったちひろを映し出してほしかった。ちひろが本当の意味で救われるのは、孤独と共に生きられるようになることではなく、孤独と共に生きられるようになる誰かを見つける、あるいは自らの孤独をさらに受け継いでくれる誰かを見つけることであるかのように思う。

 

総評

限定された空間、限定された時間、限定された登場人物で織りなす人間ドラマが沁みる。我々はしばしば肩書で人間を判断するが、そうしたものは虚飾とは言わないまでも虚構=フィクション、作り物である。そういった一種の社会的なしがらみの外に出て生きることの難しさや尊さが本作には溢れている。『 前科者 』に次ぐ有村架純の代表作と評して良い秀作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Don’t be afraid, night is on our side.

とても印象に残った「ちひろさん」の台詞の私訳。be on one’s side = 誰々の味方である、の意。大学時代の社会学の授業で「夜とは最も身近な異界」と言った教授がいたが、至言であると思う。夜の街、夜の世界、夜の仕事など、

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 怪獣ヤロウ! 』
『 メイクアガール 』
『 Welcome Back 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 有村架純, 監督:今泉力哉, 配給会社:アスミック・エースLeave a Comment on 『 ちひろさん 』 -人の輪の中で孤独に生きる強さ-

『 港に灯がともる 』 -生きやすさを求めて-

Posted on 2025年1月21日 by cool-jupiter

港に灯がともる 80点
2025年1月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:富田望生
監督:安達もじり

 

先日、30年目を迎えた阪神淡路大震災と在日韓国人をテーマにした作品ということでチケット購入。

あらすじ

在日3世の金子灯(富田望生)は、震災と国籍に囚われ続ける父と、帰化に前向きな姉や母との間で苦悩した結果、心を病んでしまう。友人の紹介で訪れた診療所で様々な思いを吐露する人々に接することで、灯は少しずつ自分を客観視できるようになり・・・

以下、ややネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

主人公の灯は在日3世、Jovianは帰化した在日3.5世(母が2世、父が3世)なので、主人公の灯の苦悩はよくわかった。一方でJovian妻は劇場が明るくなってからの第一声が「意味わからん」だった。このコントラストよ。

 

Jovianの母方はコテコテの在日だったので、甲本雅裕演じる父の苦悩や、妻より母を優先してしまう気質がなんとなく理解できる。韓国の歴史ドラマを観る人なら、王の間に母親が来ると、王が上座を譲ったりするが、あれがまさに韓国人の気質である。その一方で、在日という”異人性”を捨てて、日本生まれ日本育ちなのだから帰化しようという父以外の家族の気持ちもよく理解できる。主人公の灯はその中間にあって、まさにアイデンティティ・クライシスを経験するところから物語は始まる。

 

父と母の別居の話や、姉の日本人との結婚、また弟は妙な動画に傾倒しつつあるなど、家族の離散の危機をもろに感じ取ってダメージを受けてしまう灯の描写が非常に具体的で切実だ。ただ『 焼肉ドラゴン 』でも描かれていたように、家族とはいずれ離散するもの。灯も最終的にはそのことを受け入れていく。そこに至るまでの数多くの事件が、彼女を弱らせ、また強くもしていく。

 

印象的だったのは診療所での別の在日の患者。彼が言い放つ「常に自分で自分に嘘をついている」という感覚は、在日でなくとも感じたことのある人はいるはず。たとえばJovianの中学時代の同級生は、両親が離婚して苗字が変わってしまったが、学校ではそのまま過ごしていた。しかし、彼が苗字を変えられない自分に対して苦悩していたことを今でもよく覚えている。

 

自身が経験することのなかった震災だが、東日本大震災やコロナ禍、そしてロシアによるウクライナ侵攻と、その結果としての難民問題など、社会問題に触れていくことで灯は成長していく。ロングのワンカットを多用し、灯の表情や立ち居振る舞いから彼女の心情を語らせたのは正解だった。というのも、本作のテーマは想像力とその欠如だからだ。少しずつ他者に思いを馳せられるようになった灯が、ついに父と対話するシーンは『 風の電話 』のクライマックスを思い起こさせた。

 

灯を演じたのは『 チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話 』で毒親に向かって「月に一万だけでいいから寄越せ」と啖呵を切った女子高生。甲本雅裕演じる父との対話シーンは、映画ではなく舞台演劇のような臨場感だった。また渡辺真起子の出演作にはハズレが少ないというジンクスは今作でも健在。ぜひ多くの人に観ていただき、困惑し、そして何かを考え始めるきっかけとしてほしい。

 

ネガティブ・サイド

帰化申請時の法務局の役人との面接をもっとリアルに作れなかったか。いや、お役人さんから「ここでの問答は絶対に秘密にしてください」と言われるのだが、そこは取材すれば語ってくれる人もそれなりにいるはず。ちなみに1990年代半ばだと、いじめ、あるいは本気度の確認なのか、平日の夕方に電話で「明日の朝に法務局に来てください」みたいな対応だったな。そして面談で尋ねられたことが「あなたは●●●を●●できますか」、「あなたは将来〇〇〇〇と◇◇◇しますか」だったな・・・ あほらし。

 

総評

兵庫県民、特に神戸の住人なら、よく知る景色がいっぱいなので、ぜひご当地映画として観てほしいと思う。Jovianも近いうちに『 リバー、流れないでよ 』以来の聖地巡礼として、丸五市場にも行ってみようと思う。街にも職場にも学校にも、なんか目に見えて外国人が増えてきたなと感じる人は本作を観て、想像しようとしてみてほしい。その想像が正しくある必要などない。求められるのは想像しようという姿勢だけである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

naturalize

「帰化する」の意。She is a naturalized citizen of the United States. = 彼女は合衆国への帰化人です、のように使う。今後十年、日本の各地で様々な『 マイスモールランド 』が現れ、その後の十年で日本への帰化者が増えることだろう。その先は・・・推して知るべし。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 富田望生, 日本, 監督:安達もじり, 配給会社:太秦Leave a Comment on 『 港に灯がともる 』 -生きやすさを求めて-

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