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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ナタリー・ポートマン

『 ソー ラブ&サンダー 』 -シリーズ疲れが顕著-

Posted on 2022年7月19日 by cool-jupiter

ソー ラブ&サンダー 40点
2022年7月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:クリス・ヘムズワース ナタリー・ポートマン クリスチャン・ベール
監督:タイカ・ワイティティ

元同僚カナダ人が「期待できない。DVDまで待つ」というので、嫁さんと劇場へ。うーむ、MCU全般に言えることだが、franchise fatigue = シリーズ疲れが深刻であるように思う。

 

あらすじ

積極的に闘うことから身を引いたソー(クリス・ヘムズワース)は、神殺しの剣・ネクロソードを持つゴア(クリスチャン・ベール)が銀河の各地の星々で神を殺しまわっていることを知る。遂にゴアと闘うことになったソーの前に、かつての恋人ジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)がムジョルニアを携えて現れ・・・

ポジティブ・サイド

MCU特有のマシンガントークは健在。スター・ロードとソーの掛け合いは面白いし、肥満体からのリカバリーや、自分探しの旅、さらには求められなければ闘わないという、中二病的な思考回路も、ソーというキャラクターに親近感を抱かせる要素になっている。

 

キャプテン・アメリカに奪われ(?)、ヘラに粉砕されたムジョルニアが今作では復活。しかし、持ち主はナタリー・ポートマン。そのナタリー・ポートマンとソーとの、燃え上がりそうで燃え上がらない焼け木杭には、イライラさせられつつも、成熟した大人同士の距離感を教えられた気もする。そう、これはアホな男子のノリのまま生きてきたソーが、一人前の大人になる一種のビルドゥングスロマンなのだ。

 

ソーがストーム・ブレイカーに浮気し、ムジョルニアをほったらかしにしてしまったことを何度も詫びるシーンには笑ってしまう。今の女より昔の女を大切にしようとするとどうなるか、男性諸賢は本作を教訓にされたし。

以下、少々ネタバレあり

 

ネガティブ・サイド

残念ながらアクションに観るべきものなし。ナタリー・ポートマンがマイティ・ソーになっても、アクションそのものはこれまでのソー映画のそれと変わり映えしない。そこで、今回はゼウスの武器であるキンキラキンの変な武器も簒奪。けれど、何をしたところで Marvel 映画のアクションはどん詰まりに来ていると感じる。ひたすらに肉弾戦で全てを破壊するハルクだけは、シリーズがどれだけ進んでも爽快感あるバトルシーンを提供してくれそうだが、ハルクはもうお役御免。

 

閑話休題。本作はタイカ・ワイティティ監督の演出と波長が合うかどうかで、印象がガラリと変わるのだろう。『 ジョジョ・ラビット 』のように、コメディとして始まり、シリアスなヒューマンドラマに変貌していく物語はお手のものなのかもしれないが、コメディとシリアスなドラマを共存させるのは不得手なのかもしれない。熱心な信徒だったゴアが、神そのものの傲岸不遜さに触れて棄教し、自らが神殺しになってしまうというのは、これ以上ないシリアスなドラマのはずだ。特にアメリカからすれば、自らが信じてきた国家観が過去数十年で大きく揺らいできた。湾岸戦争へのアメリカ参戦のきっかけは在米クウェート人のお芝居だったし、『 モーリタニアン 黒塗りの記録 』など、国家による茶番劇はドンドンと明るみに出ている。この「信じていたものに裏切られる」というゴア側の視点が本作では致命的に欠けているように思う。この「何を信じていいのか」という不信感を、「やっぱり信じられるヒーローがいる!」というカタルシスに持っていくための仕掛けが本作にはない。観終わって最も印象に残ったのは、コメディとシリアスのアンバランスな配合具合だった。

 

序盤にプレゼントされる巨大ヤギもギャーギャーうるさい。これはあれか?土着の民族からの贈り物は野蛮極まりないという意識の表れ?このヤギの意味がちょっと分からなかった。

 

Jovianが忘れているだけかもしれないが、序盤に出てきていたジェーンの友達はドラマの人物?『 ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス 』もそうだったが、映画鑑賞の前提にドラマ視聴を持ってこないでほしい。観たいのは映画であって、ドラマではないという層も一定数いることを作り手は意識してほしい(などとディズニーに言っても無駄だとは分かっている)。

 

エンドロール後に次回作が示唆されているが、さすがにもう食傷気味。ソーがヘラクレスとの壮絶な一騎打ちに敗れて、ヴァルハラでジェーンと live happily ever after でシリーズのフィナーレにしてくれてええよ。

 

総評

駄作ではないが、取り立てて褒めるべきところもない作品。少々嫌味な言い方をさせてもらえば、よくできたミュージックビデオのようだ。そして、それで成功したのが『 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー 』だった。が、こちらとしては「それはもう観た」としか感じない。MCU全体に言えることだが、サノスを失ってから、物語の軸がはっきりしない。そろそろこの Marvel というフランチャイズそのものから離脱する頃合いか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

give or take ~

 

直訳すれば「与える、または取る」だが、実際の意味は「誤差は~ぐらいで」、「~ぐらいの増減ありで」のような意味となる。

I think he is about 45 years old, give or take one or two years.
彼は45歳ぐらいだと思う、誤差はあっても1~2歳。

The year’s revenue will be a hundred million yen, give or take a few million yen.
今年の収益予想は1億円で、そこから数百万円増減することもあります。 

のように使う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, クリス・ヘムズワース, クリスチャン・ベール, コメディ, ナタリー・ポートマン, 監督:タイカ・ワイティティ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 ソー ラブ&サンダー 』 -シリーズ疲れが顕著-

『 ソング・トゥ・ソング 』 -すべては監督と波長が合うかどうか-

Posted on 2021年1月4日 by cool-jupiter

ソング・トゥ・ソング 50点
2021年1月2日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ライアン・ゴズリング マイケル・ファスベンダー ナタリー・ポートマン ルーニー・マーラ
監督:テレンス・マリック

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『 ドント・ウォーリー 』や『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』など、通常とは趣が異なる関係の一方を演じさせれば天下一品の女優。ルーニー・マーラ目当てで鑑賞。ライアン・ゴズリングもカナダ人俳優の中ではJovianのfavorite actorだ。
 

あらすじ

シンガーソングライターのBV(ライアン・ゴズリング)は、辣腕プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)と組んで、徐々に頭角を現していく。BVはギタリストのフェイ(ルーニー・マーラ)と恋仲になるが、フェイは以前から秘かにクックと関係を持っていて・・・

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ポジティブ・サイド

ルーニー・マーラとライアン・ゴズリングに加え、マイケル・ファスベンダーとナタリー・ポートマン、そして中盤以降にはケイト・ブランシェット、さらには名のあるスターもさらに数名登場。俳優陣がとにかく豪華だ。俳優たちに加えて、イギーポップらの本物のアーティストも多数登場。彼ら彼女らがコンサートやパーティー。アメリカ各地やメキシコのリゾート地などを巡る画は、どれもこれもが美しい。まるで自分もそのイベントに参加し、旅をしているかのような気分にさせてくれる。

 

彼ら彼女をカメラに収めるはエマニュエル・ルベツキ。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』では全編ワンカットに見える絵を巧みの技で撮り切った。そのルベツキの手腕が今作でも遺憾なく発揮されている。各ショット内の人物と事物のサイズ比や色合いがシネマティックに計算されていて、まるで『 続・夕陽のガンマン 』のようにどのシーンも絵になる、というのは流石に褒めすぎか。それでも、各地の建築や街並み、自然の風景を捉えたショットの数々は目の保養にもってこいである。暗転した劇場の大画面にこそ映える絵だ。

 

アメリカでも日本と同じく、モラトリアムの期間が長くなっているのだろうか。Jovianと同世代であるBVやクックが仕事に精を出すのは当然として、確固とした恋愛観や人生観を持てていないことにどういうわけか安心させられる。ふとした出会いから恋愛面でもビジネス面でもシリアスな人間関係に発展するまでの経過描写が短く、確かに大人になると時間感覚が若い頃よりも格段に速くなるし、仕事も人間関係も深まるのも速ければ冷めるのも速い。そうした青年期以降、壮年期の観客は登場人物とシンクロしやすいだろう。事実、Jovianは最初から最後までライアン・ゴズリング演じるBVに己を重ね合わせていた。出会い、別れ、そして再会する。多くの関係を結んできた、そして多くの関係を壊してしまってきたからこそ、人間関係の本当の機微や価値が分かるようになる。人生の本当の意味や目的が見えるようになる。中年夫婦で観に行くことをお勧めしたい。

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ネガティブ・サイド 

ストーリーはあるにはあるが、とにかく薄い。まるで『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ 』と『 アリー / スター誕生 』を足して5で割ったものから、エロ成分をマイナスしたような作品。いや、一応女性のトップレスが拝めるシーンはあるにはあるが、エロティックでは全然ない(別に脱いでくれた女優さんに他意があるわけではない、念のため)。各シーンの映像美は素晴らしいが、そのシーンに深い意味が認められない。まるで『 フィフティ・シェイズ・フリード 』を観ているようだった。つまり、眠気との勝負である。正直なところ、ルーニー・マーラが小悪魔~魔性の女風の視線や表情を定期的に見せてくれなければ、多分Jovianは2~3回は寝落ちしていたように思う。マーラの魅力に感謝である。

 

タイトルが“Song to song”であるにも関わらず、肝心かなめのキャラクターの心情はナレーションで語ってしまうのはどういう了見なのか。BVがピアノの弾き語りをしながら作曲するシーンが、かろうじて彼の心情を表しているぐらいで、全編これ会話、しかもドラマを盛り上げない雑談で進むとはこれ如何に。テレンス・マリック監督におかれては、映像美にこだわるのもよろしいが、『 はじまりのうた 』や『 カセットテープ・ダイアリーズ 』を観て、音楽で語るとはどういうことかを研究して頂きたいものである。

 

会話劇としても盛り上がりに欠ける。『 TENET テネット 』のような難解極まる会話ではなく、非常にカジュアルな会話、表面的な意味しか持たない言葉のやりとりには、いささか閉口させられた。絞り出すような言葉、丁々発止のやりとりなどはほとんど存在しないので、やはりどれだけキャラクターに自分を重ね合わせられるかが肝になる。老親の介護が現実の問題として迫ってきているというのは30代40代あたりなら我が事のように感じられるだろうが、いかんせんキャラクターの多くが音楽業界でセレブ然とした生活を送っているものだから、やはりシンクロするのは難しい。

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総評

鑑賞して評価するには、かなりの文学的素養が求められると思われる。キャラクターがどれもこれも浮世離れしていて、地に足がついていない。大人の人間関係を描いてはいるが、これを見たままに消化吸収して解釈するには、かなりの映画的ボキャブラリーが必要だ。Jovianはその任に堪えない。英語のレビューをこれから渉猟しようとは思うが、それらを読んで自分の感想が変わるとも思えない。チケット購入を検討中の向きは、娯楽作品ではなく映像芸術だと思われたし。劇場ではなく美術館に赴くようなものと心得られたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

take ~ back

~を後ろに持っていく、の意。take back ~ という形でも使われる。テニスや野球をする人なら「テイクバック」という言葉を聞いたことがあるはず。ボールを打つ前にラケットやバットを後ろに引く動作のこと。物体以外にも、コメントや約束を撤回する時にも使われる。

 

The politician never took back her comment regarding LGBT people.

その政治家はLGBTに関する自身のコメントを撤回しなかった。

 

のように使う。take backという句動詞には他にも多様な意味があるが、まずは「後ろに持っていく」、転じて「撤回する」を覚えておこう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, ナタリー・ポートマン, マイケル・ファスベンダー, ライアン・ゴズリング, ルーニー・マーラ, 監督:テレンス・マリック, 配給会社:AMGエンタテインメント, 青春Leave a Comment on 『 ソング・トゥ・ソング 』 -すべては監督と波長が合うかどうか-

『 アナイアレイション 全滅領域 』 -難解SFの佳作がまた一つ-

Posted on 2019年4月29日2020年1月28日 by cool-jupiter

アナイアレイション 全滅領域 70点
2019年4月28日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ナタリー・ポートマン オスカー・アイザック
監督:アレックス・ガーランド

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『 エクス・マキナ 』のアレックス・ガーランド監督作品で、Netflixオンリーでしか視聴できなかったものが、満を持してDVDその他媒体でavailableになった。ということで、さっそく近所のTSUTAYAに・・・行くと既に全滅であった。仕方なく、電車で数駅先のTSUTAYAで無事に借りてくることができた。

 

あらすじ

シマーと呼ばれる謎の領域が突如、出現した。軍は偵察隊を送り込むも帰還せず。唯一帰ってきたケイン(オスカー・アイザック)は重体。妻の分子生物学者レナ(ナタリー・ポートマン)は、真実を明らかにするため調査隊に志願する。レナ達がシマー内部で見たものは、遺伝子の屈折により、異様に変化した動植物たちだった・・・

 

以下、ネタばれに類する記述あり

ポジティブ・サイド

20世紀最大の科学的発見は、アインシュタインの相対性理論とワトソン、クリック両名による遺伝子の二重らせん構造の発見であろう。『 ジュラシック・パーク 』のイアン・マルコム博士(ジェフ・ゴールドブラム)の言葉を借りるならば、“Genetic power is the most awesome force the planet’s ever seen”なのである。遺伝子の変異により異形のモンスターと化したクリーチャーと戦うだけならば、これまでに何千本と製作されてきた。本作のユニークさは、恩田陸の小説『 月の裏側 』的なところにある。生き物が、その生き物らしさを保持しながらも違う生き物に変化してしまう不気味さ。人間が人間的でありながら人間ではなくなることの不気味さ。そうした雰囲気が全編に漂っている。かなりグロい描写があるので、耐性の無い人は避けた方が無難かもしれない。しかし、本作が最も際立っているのは、クリーチャーの鳴き声だろう。これにはJovianも怖気を振るった。

 

本作は序盤から生物の細胞分裂の話が繰り返される。基本的には細胞が分裂したことで新たに生まれる細胞は、元の細胞と同じである。しかし、そこに何らかのコピーエラーが生じるのが変異であり、シマーはどうやら非自然的な変異を促すものであるということが、映像や語りを通じて伝わってくる。それがリアルタイムで進行するところも恐ろしい。漫画『 テラフォーマーズ 』でも進化を強制する仕組みのようなものが火星に存在することが示唆されているが、あちらは数十年から数百点のスパンの話であるが、本作は調査隊チームのメンバーの身体の変化がリアルタイムで進行する。思わず吐き気を催すような変化もあり、やはりかなり観る人を選ぶ作品であると言えるだろう。

 

終盤に登場する宇宙生物は、おそらくミクロレベルでの遺伝子の振る舞いを生物というマクロレベルの行動に反映させているのであろう。変化は模倣から始まるのだ。『 旧約聖書 』の「 創世記 」にも、“我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう”というImago Dei=神の似姿という思想が見られる。そうか、これは宇宙人による回りくどいパンスペルミア・プロジェクトなのか。レナだけが生き残ることができたのも、他のメンバーには生に執着する理由が薄い一方で、レナは大学の同僚と不倫してセックスに耽るなどの生殖の能力と意思がある(ように見える)。Annihilationという原題の意味するところ、それは既存の遺伝子の緩やかな消滅=新しい遺伝子の繁栄だろうか。レナとケインは、同じく聖書から引くならば、新たなアダムとイブになるのだろうか。何とも不思議なSFを観た。そんな感覚が鑑賞後に長く続く映画である。

ネガティブ・サイド

レナの不倫相手が黒人学者というのは良い。遺伝子のミックス具合がその方が高いからである、であるならば、原作どおりに調査隊チームのメンバーも民族的に多様多彩なメンバーは揃えられなかったのだろうか。

 

また科学者で結成されたチームであるにもかかわらず、目の前にある重要な情報源に飛びつかないのは何故なのか。科学者を科学者たらしめるのは旺盛な好奇心と批判精神のはずである。それらがこのチームのメンバーには決定的に欠けている。先遣隊が残した情報を全て検証することをしないとは・・・ 著しくリアリティに欠ける行為で、個人的には納得がいかなかった。

 

総評 

極めて晦渋な作品である。系統としては『 2001年宇宙の旅 』や『 ブレードランナー 』、『 惑星ソラリス 』に属する、難解SFである。しかし、考察の材料はおそらく全て作品中で呈示されている。Jovianも初見では消化しきれていない部分があることは自覚している。いつかrepeat viewingをして、更に考察を深めて見たいと思う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, SF, アメリカ, イギリス, オスカー・アイザック, ナタリー・ポートマン, 監督:アレックス・ガーランド, 配給会社:Netflix, 配給会社:パラマウント映画Leave a Comment on 『 アナイアレイション 全滅領域 』 -難解SFの佳作がまた一つ-

『 プラネタリウム 』 -アウトサイダーの悲哀を描いた凡作-

Posted on 2018年11月18日2019年11月22日 by cool-jupiter

プラネタリウム 30点
2018年11月13日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ナタリー・ポートマン リリー=ローズ・デップ エマニュエル・サランジェ
監督:レベッカ・ズロトブスキ

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降霊術の歴史は長い。科学の発達と共に霊の領域はどんどんと狭められていっているが、日本でも30歳以上の年齢なら、こっくりさんについて聞いたことがあるはずだし、実際にやってみた人もいるだろう。霊とは、それが無くなった肉親の霊であろうと、見も知らぬ他人の霊であろうと、常に好奇の対象である。しかし、霊とは同時に現世から疎外された者でもある。そして、疎外は生者と死者を分けるだけではなく、生者と生者の間でも起きる事象である。

 

あらすじ

ローラ(ナタリー・ポートマン)とケイト(リリー=ローズ・デップ)のアメリカ人姉妹は、パリで死者を呼び寄せる降霊術を行い、日銭を得ていた。ある時、映画会社役員のコルベン(エマニュエル・サランジェ)は二人の降霊術に感銘を受け、自分でもそれを体験したいと言いだした。二人の呼ぶ霊との交流に感激したコルベンは、姉妹の力を使って映画を撮影しようと考える。時あたかも第二次大戦前夜。異邦人にとっては忍従の時代だった・・・

 

ポジティブ・サイド

ナタリー・ポートマンの美貌とリリー=ローズ・デップの爛熳さについてはくどくどとのべつ必要性は無い。Their blossoming beauty and innocence speak for themselves. である。それ以上にエマニュエル・サランジェの存在感が際立つ。目は口ほどにものを言うというのは往々にして事実(Maybe your smile can lie, but your eyes would give you away in a second.)であるが、それを演技で表現できる役者は存外に少ないのではないか。サランジェはそれができる俳優だ。パリジャン然とした伊達男ばかりがフランスの俳優ではないということを見せつける様は、清々しくもある。本作を観る人の半分以上はナタリー・ポートマンの熱心なファンであろうが、こうした未知のタレントとの出会いがあれば、それだけで20点増しである。

 

ネガティブ・サイド

あまりにもストーリーに起伏がない。いや、姉妹の協力と成功、そこからの失敗と破局的な結末と上がり下がりはするのだが、それがあまりにも典型的というか、妹を霊媒師に設定する意味は特になかった。というか、科学の力で霊の存在を証明するというプロットは、現代人たる我々の目から見て、意義あるものではない。なぜなら科学の発展は世界の神秘の数々を解き明かしていくほどに、科学で説明できないものはストレートにそのまま信じるべし、という信念の持ち主も増加しつつあるからだ。そこまで極端な考えをしないまでも、天文学者や物理学者には無神論はほとんどいないと言われている。1930年代を舞台にすることで、科学的に霊を証明しようとする試みが逆に陳腐化してしまった感は否めない。

 

また、ビジネスの世界を描く必要もあったのだろうか。リュミエール兄弟が産み育てたフランスを舞台にするのだから、あくまで映画という文化・芸術・科学という媒体で姉妹の力と秘密に迫っていくようなプロットで良かった。ただでさえ戦争勃発前の陰鬱な時代に金勘定やら役員の追放やらを見ても感動も興奮もしない。ただ溜息が出るだけである。

 

本作は establishing shot の段階で結末が見えているとも言える。タイトルがプラネタリウムなのだから、汽車が疾走する平原の頭上に広がる無窮の星空がプラネタリウムであることが何を暗示、いや明示するのかを観る者はあまりにもあっさりと悟ってしまう。映画の基本的な文法、技法に則ったものとは言えるが、それが面白さを増すことに資するのかというと甚だ疑問であった。

 

総評

なにやら軸の定まらない映画である。その場に属すことのできないアウトサイダーの悲哀を描き出したいのは分かるが、様々な要素を盛り込もうと欲張ったせいで、何もかもが中途半端になってしまった残念な作品である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, エマニュエル・サランジェ, スリラー, ナタリー・ポートマン, フランス, ベルギー, ミステリ, リリー=ローズ・デップ, 監督:レベッカ・ズロトブスキ, 配給会社:ファントム・フィルムLeave a Comment on 『 プラネタリウム 』 -アウトサイダーの悲哀を描いた凡作-

『 ジャッキー ファーストレディ 最後の使命 』 -JFK夫人の知られざる姿-

Posted on 2018年10月11日2019年8月24日 by cool-jupiter

ジャッキー ファーストレディ 最後の使命 50点
2018年10月9日 レンタルDVD鑑賞
出演:ナタリー・ポートマン
監督:パブロ・ラライン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181011185603j:plain

これは観る人を相当に選ぶ映画である。JFK関連の作品というのは、ある意味でオリバー・ストーン監督の『 JFK 』で完成してしまっているわけで、これを超えるには2028年から暫時に公開される膨大な量の資料を基にした作品が作られるまで待たねばならないだろう。しかし、それもあと10年の辛抱と思うべきなのか、まだ10年も辛抱しなければならないのかと思うべきなのか。

 

あらすじ

1963年11月22日のJFKの暗殺からの4日間を、ジャクリーン・ケネディ・オナシスの視点から独自に描く。非業の死を遂げたケネディの喪に服すに際して、名家であるケネディ家の意向や、大統領警護のシークレット・サービス、ホワイトハウス関連のお歴々、リンドン・B・ジョンソン大統領らの思惑を超えたところで、JFKの死を悼み、悲しみ、国民にその死の衝撃の大きさを物語ることで、逆に彼の生の大きさ、深さ、豊かさを印象付けることに成功した、稀代のファーストレディ。その地位を徐々に喪失していくさまが、自身のアイデンティティ喪失に重なる。だからこそ、夫の死を誰よりも効果的に演出しようと抗う夫人の姿を描く、ユニークな作品。

 

ポジティブ・サイド

まず、主演のナタリー・ポートマンの演技力が光る。1960年代の口調を自分の物として吸収し、使いこなしている。なおかつ、記者に語る時の口調とホワイトハウスで語る口調が明らかに異なるのだ。これは脚本や演出の妙とも言えるが、翻訳・字幕のレベルで再現するのは難しい。なお、吹き替えがどうなっているのかは未鑑賞ゆえ評価を措きたい。これは、たとえば前アメリカ大統領のバラック・オバマが大統領職に立候補した時から大統領就任中まで一貫して、スピーチのレジスター(言語の使用域)を巧みに変えていたことに通じる。例えばオバマは、アメリカ南部の労働者階級が多い地域で演説する際には、”We’re gonna ~” と言い、逆にアメリカ北部の都市地域での演説では、”We are going to ~” と言っていた。作中のジャッキーもこれと同じで、実際の本人もおそらくファーストレディとして口調や立ち居振る舞いは、ジャクリーン一個人のものとは違っていたはずだ。こうした些細かもしれない違いを、ノン・ネイティブであるナタリーがしっかりと把握し、演じていたことは大きなプラス評価につながる。

 

また、ジャッキーが美術品を蒐集していた理由も非常に興味深い。なぜなら、『ゲティ家の身代金』におけるジャン・ポール・ゲティと全く同じ哲学、芸術観を彼女が有していたことが明らかになるからだ。この彼女の直観と、それに基づく卓越した実行力は確かにJFKの名を不滅にした。アメリカ人は、ちょっと教養ある階級であれば歴代の大統領の名前をだいたいは暗唱できるらしい。だが日本に住む我々はどうであろうか?伊藤博文の名前はパッと出てきても、例えば第二次世界大戦への参戦時の総理は東条英機であるとパッと言える人は多いだろうが、敗戦時の総理大臣の名前が出てくるだろうか?そんな歴史に疎い日本人でも、アメリカ史において暗殺された大統領は?と尋ねれば、秒でリンカーンとケネディの名前を出すであろう。もちろん、暗殺というインパクトは要因としては大きい。それでも、世界の歴史において暗殺された人は?と問いの範囲を広げてみても、人々が真っ先に挙げるであろう名前はJFKであると予想される。直近のインパクトとしては、北朝鮮の金正男の方が圧倒的に記憶に残っているはずだが、それでもJFKだろう。その最大の要因をジャッキー夫人に求めることはさほど難くない。そのことを確認することができるのが本作の功績である。

 

ネガティブ・サイド

残念ながら、マイナス点も目立つ。それは、アメリカ史に興味のない人は、ほぼ惹きつけられないだろうということだ。また、アメリカ史に興味のある人は、ある意味でもっと惹きつけないかもしれない。JFK暗殺の真相の一端、もしくは新解釈でも見せてくれるのかと期待してしまうとガッカリすること請け合いである。Jovian自身がまさにそうだった。この分野に関心を持つ人は、トランプ現大統領が検討中の1960年代当時の捜査資料の一般公開の前倒しと共に期待しようではないか。

 

本作の弱点としてもう一つ述べておかねばならないのは、ファーストレディとしてのジャッキーと一人の女性としてのジャッキーの境目が非常に曖昧模糊としている、ということである。もちろん、ファーストレディとしての人格と、その人の人格は別物であるべきだが、某島国のファーストレディが用いた(と疑われている)奇妙な政治力学を目の当たりにした我々からすると、少し釈然としないものが残るのも事実である。これはあくまで実話をベースにしたセミドキュメンタリー風の娯楽映画であるのだから、第一婦人のアッキー、ではなくジャッキーと一個人としてのアッキー、じゃなかったジャッキーを、混然とした形で描く必要はなかったのではないかと思うのである。もちろん、アイデンティティ・クライシスが大きなテーマになっているのだから、そうした内面のせめぎ合いを外面の演技に反映させることは大事だが、そこをもう少し見る者に分かりやすい形に dumb down / water down させることはできなかったか。いや、演技レベルを下げろというわけではないのだが・・・

 

総評

冒頭に評したように、見る者を選ぶ映画である。アクションもなく、サスペンスもない。しかし、響く人には響く映画であろう。内面の悲しみを強さに転化させ、健気に気丈に振る舞う女性の姿から何某かを受け取れる感性があれば、レンタルして来ても損はないだろう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, チリ, ナタリー・ポートマン, ヒューマンドラマ, フランス, 歴史, 監督:パブロ・ラライン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 ジャッキー ファーストレディ 最後の使命 』 -JFK夫人の知られざる姿-

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