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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:ティ・ジョイ

『 ミスミソウ 』 -いじめられっ子の壮絶なる復讐譚-

Posted on 2021年9月2日 by cool-jupiter

ミスミソウ 75点
2021年8月28日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:山田杏奈 清水尋也 中田青渚
監督:内藤瑛亮

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210902230658j:plain

『 ザ・ハント 』と一緒に借りてきた作品。これまたゲテモノ・グロ・バイオレンス映画。まるで韓国映画かと見紛うほどの復讐物語にして残虐流血描写の数々。邦画もこれぐらいやればできるのである。

 

あらすじ

東京から転校してきた春花(山田杏奈)は、学校で凄絶ないじめを受けていた。春花は唯一の味方であるクラスメイトの相場(清水尋也)を心の支えに耐えていたが、いじめはエスカレートするばかり。そして春花の家族にある事件が起こったことから、春花はいじめっ子たちへの復讐を開始する・・・

 

ポジティブ・サイド

残虐な暴力と流血の描写が素晴らしい。その暴力も発狂した結果の暴力ではなく、どこまでも冷静冷徹に相手を傷つけ痛めつける。Jovianの仕事の一部に「夏でも長袖を着ている子に『暑くないの?』と言わないようにしましょう。傷を隠していることもあるからです」みたいな注意?や研修?もあるが、この主人公は違う。相手にダメージを与えることに躊躇がない。好感度を高めてCMに出たい、といったあざとさを感じない。山田杏奈はまさに異色のヒロインである。これまでのフィルモグラフィーを見ても、普通の女子高生や女子大生役は少ないし、今後もそうした役柄での出演は少なそう。期待ができるし、多くの女優はそうあるべきだと芯から思う。

 

春花の復讐が始まるまでの、学校でのいじめの描写も壮絶である。大人が介入しなければならない場面で、この担任の先生の無能っぷりよ。観る側の絶望はさらに深まり、それゆえに春花の復讐を素直に応援したくなる。『 君が世界のはじまり 』で好演した中田青渚のいじめと、彼女が家で受ける父親からの虐待のコントラストも見事。この学校および生徒に関わる何もかもを一度全てをぶち壊してやるべきではないか、とさえ思わされてしまう。

 

数々の流血描写の中でも内臓ポロリのシーンと除雪車で文字どおりにぐっちゃぐっちゃのミンチにしてしまうシーン。『 デッドプール 』では製氷機で相手をひき殺そうとするシーンがあり、やや消化不良。『 デッドプール2 』ではゴミ収集車の回転板に巻き込こまれて死ぬシーンがあり個人的に満足できたが、この除雪車に巻き込まれて肉片や血がドバドバと飛び散る様は壮観の一言。「邦画もやればできるじゃないか」と言いたい。

 

登場人物が基本的にほとんど全員狂っている本作だからこそ浮き彫りになる世界観がある。表層では、もちろん「いじめは絶対にダメ」ということ。深層では、人間の奥深いところには常に暴力性が潜んでいて、何かのはずみでそれが一挙に立ち現われてくることがあるということ。本作はある意味で最も濃厚なヒューマンドラマを描いたとも言える。

 

清水尋也や大塚れななどの期待の若手も圧巻の演技を見せてくれるし、内藤監督は金太郎飴状態の邦画界でますます異彩を放っている。バイオレンスに耐性がある向きは是非とも鑑賞されたい。

 

ネガティブ・サイド

ほぼ全編通じてニヤニヤしながら鑑賞させてもらったが、「ん?」と眉をひそめざるを得なかったシーンもある。その最大のものはエピローグ。これはまさに蛇足というものだろう。『 トガニ 幼き瞳の告発 』並みに救いのないエンディングの方が個人的には満足できただろうし、その方が物語全体のトーンにも合っていたはず。

 

最後のボウガンはまだしも、春花の周りにちょっとあまりにも都合よく武器になるものが落ちていすぎではなかろうか。もっと咄嗟に身の回りにある物を使う、あるいは普段から身に着けている物、持ち歩いている物を使って、相手を痛めつけて殺すシーンというものを模索してほしかったと思う。

 

総評

間違いなく観る人を選ぶ作品である。刺さる人には刺さるだろうし、途中で観るのを断念する人もいるだろう。韓国映画や北野武映画の持つ血生臭さに抵抗がなければぜひウォッチ・リストに加えられたし。『 キャラクター 』や『 ホムンクルス 』にいまいち満足できなかったという人なら、本作でかなり満たされた気分を味わえるはずだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bully

「いじめる」という動詞でもあるし、「いじめっ子」という名詞でもある。ボクサーやプロレスラーが時折相手を挑発する際に、”You’re just a bully. Now, try to bully me.”=「お前はただの弱い者いじめだ。俺のことをいじめてみろや」というようなことを言うことがある。どこの国でもいつの時代でも、いじめがダメであることは言うまでもない。

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2010年代, B Rank, スリラー, 中田青渚, 山田杏奈, 日本, 清水尋也, 監督:内藤瑛亮, 配給会社:ティ・ジョイLeave a Comment on 『 ミスミソウ 』 -いじめられっ子の壮絶なる復讐譚-

『 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 』 -壮大なリセット&リビルド作品-

Posted on 2021年5月3日 by cool-jupiter

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 70点
2021年4月27日 Amazon Prime VideoおよびDVDにて鑑賞
出演:緒方恵美 林原めぐみ 宮村優子 坂本真綾
監督:摩砂雪 鶴巻和哉 前田真宏
総監督:庵野秀明

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210503002118j:plain
 

『 シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| 』の再鑑賞前にテレビアニメ版をレンタルしてみたり、旧劇を観直したり、ちょっと別の本を読んだりしているうちに緊急事態宣言。間の悪さを嘆くべきか、政府の無能さを恨むべきか。

 

あらすじ

碇シンジ(緒方恵美)は今やヴィレに属すミサトらやアスカ(宮村優子)によって衛星軌道上からサルベージされる。そして、ヴィレが戦艦ヴンダーを拠点に碇ゲンドウ率いるNERVと戦っていることを知る。その原因が、自身が14年前に引き起こしたニア・サード・インパクトにあると知らされて・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭のスタジオ・ジブリ presents な感じ満々の、いわゆる「火の七日間」のエピソードが怖い。というか心憎い。これまでのいかなる作品でも直接的に描かれることのなかったファースト・インパクトやセカンド・インパクトだったが、このニアサーを間接的かつ変則的に描くのは前世紀と新世紀をつなぐ意味でも効果的だったと思う。『 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 』でも述べた通り、エヴァは前世紀末の破滅思想、終末思想の色濃い世界の産物だった。『 風の谷ナウシカ 』の巨神兵が、現実世界に突如到来するスキットは最高のイントロダクションであると感じた。

 

その後のアスカとマリによる宇宙空間での初号機回収作戦も一大スペクタクル。目の前で繰り広げられる作戦行動が何であるのかを考える暇もなく、進化したアニメーション技術がふんだんに盛り込まれたシークエンスが展開される。そしてアスカによって言及されるシンジの名前。物語作成の文法通りだが、このあたりの盛り上げ方は非常に巧みである。

 

その後に明かされる14年間の真実。カヲル君によるテレビアニメ版と同じ、語りながらも説明はせず、相手に悟らせるスタイルは、通常ならイライラさせられるのかもしれないが、エヴァの世界観とキャラ設定においてはうまく機能している。畢竟、エヴァを観るということは、謎や神秘に触れたいという自分の内なる欲求に応えることなのだろう。劇場鑑賞したとき、そして今回DVDで再鑑賞しても、正直に言って物語そのものの意味は100%は理解できていない。しかし、何か世界の奥深いところに触れているという感覚(錯覚)だけは、1995年から今まで継続している。これは凄いことだと素直に思う。

 

シンジとアスカによるエヴァ同士のバトルは、使徒相手のそれとは違い、どちらに感情移入するのかが難しい。というよりも、どちらにも感情移入したくなる。最後は人間同士の、しかも実は志を同じくする者同士が已むに已まれず戦うというのは、それこそ漫画『 聖闘士星矢 』などでおなじみの展開。それでも手に汗握ってしまうのだから、この手法が強力なのか、庵野の作劇術が巧みなのか、それとも自分が単純だからなのか。おそらく全部だろう。謎解き考察に興味のある向きにはどう映るのかわからないが、エヴァの世界観は忠実に継承されていると言える。

 

ところで、副題の「急」がQである意味は何なのだろうか?最初は急=QuickまたはQuickeningかなと思ったが、あまりにもひねりがなさすぎると感じた。QuestionやQuestの意味も込められているのだろうか。これについてご教授いただける方がいれば、ありがたいです。

 

ネガティブ・サイド

本作を単体で観ると「力を入れるのはそこじゃないだろう」と指摘したくなる。一番そう思わせるのはヴンダーのコクピット内の描写。そこは凝らなくていい、ヱヴァンゲリヲンそのものやキャラクター描写を充実させてくれ。物語を長く続けていくと、どんなクリエイターにもこの傾向が出てくる。漫画『 ベルセルク 』の三浦建太郎しかり。

 

ヴィレ側のキャラの言動に腑に落ちない点が多い。頑なにシンジに「エヴァにだけは乗るな」と言うが、だったら優しく真実を教えてやってもよいのではないか。それに『 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 』ではミサトさんはシンジに「あなた自身のために行きなさい」と言って、背中を押したではないか。その結果としてのニア・サード・インパクトをすべてシンジに押し付けるのはいかがなものか。

 

完全に野暮な突っ込みだとわかっていて言うが、冬月がシンジに「将棋を打てるか?」と尋ねるのは本当に勘弁してほしい。囲碁=打つ、将棋=指す。将棋で打つのは持ち駒だけだ。駒落ちにしても飛車角桂香ならまだしも、飛車角金を落とすとはこれいかに。また、シンジが指した直後に「31手後に詰みだ」と宣告するが、これが本当なら藤井聡太以上の終盤力の持ち主と言うしかない。当時は藤井はまだプロではないから、前世紀の・・・ではなく全盛期の谷川浩司以上か。将棋ファンとしては突っ込みどころ満載の謎シーンだった。スタッフに将棋ファンはゼロだったのだろうか。

 

総評

ものすごい勢いで観るものを物語世界に取り込んでくる作品である。一方で、おそろしいまでに初見殺しでもある。まあ、本作がエヴァ初体験という人はまずいないだろうが、それでもエヴァを長年追い続けた人でも、本作でかなりの数がふるいにかけられたと観て間違いない。それでも『 シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| 』公開時の観客の入りを観ていると「逃げちゃダメだ」と食らいついてくるファン、そして若い世代も多いことに気づいた。そうした意味では、本作は最もエヴァらしいエヴァと評しても良いのではないだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

think ~ moves ahead

将棋、チェスなどをたしなむ人ぐらいしか使わない表現だろうが、そうした愛棋家のためにも紹介しておきたい。「〇手先を読む」の意味である。将棋界には3手の読みという言葉があるが、3手先を読む=think three moves aheadと言う。5手先を読むなら think five moves ahead である。また3手詰めの詰将棋は、a 3-move checkmate prolemと言う。将棋好きなら知っておきたい。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, SF, アニメ, 坂本真綾, 宮村優子, 日本, 林原めぐみ, 監督:前田真宏, 監督:摩砂雪, 監督:鶴巻和哉, 総監督:庵野秀明, 緒方恵美, 配給会社:カラー, 配給会社:ティ・ジョイLeave a Comment on 『 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 』 -壮大なリセット&リビルド作品-

『君が君で君だ』 -この映画に共感する人は犯罪者予備軍か熱心な映画ファンか-

Posted on 2018年7月20日2022年2月20日 by cool-jupiter

君が君で君だ 65点

2018年7月19日 梅田ブルク7にて観賞
出演:池松壮亮 キム・コッピ 満島真之介 大倉孝二 YOU 向井理 高杉真宙 光石研
原作・脚本・監督:松居大悟 

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韓国から日本にやってきたパク・ソンヨン(キム・コッピ)にストーカー行為をする尾崎豊(池松壮亮)、ブラッド・ピット(満島真之介)、坂本龍馬(大倉孝二)の話である。以上、終わり。で、済ませてもよいが、それではあまりに芸が無いし、不親切であるし、記録にもならない。ストーカー映画というジャンルが映画において確立されているかどうかは寡聞にして知らないのだが、小説には傑作がいくつもある。Jovianの印象に強く残っているのは大石圭の『アンダー・ユア・ベッド』と吉村達也の『初恋』である。Amazonの関連商品を見るに、まだ他にもたくさんの未読の傑作がありそうだ。

元々、ブラピが恋人に振られた日に、尾崎とやけくそカラオケをしていた店で働いていたのがソンヨン、通称ソンであった。その夜、繁華街で酔った勢いで誰かれ構わず難癖をつけて行くブラピと尾崎は、女性に絡むチンピラに勢いで特攻する。当然返り討ちにあうわけだが、ソンがビール瓶を割って、男たちを脅かすことで事態は収拾。怪我で流れた血をハンカチで拭ってくれたソンに、二人は一気に恋に落ちる。そこにソンの元彼の坂本龍馬も加わり、ソンの家の裏手のアパートを借り、3人でソンを守る国を建国し、日夜ストーカー行為に励む。そんな奇妙な生活も10年目になっていた・・・

ストーカーという概念が認知されるようになったのはいつごろだったか。個人的に思いだせるのは、確かテニス選手のマリー・ピアースが元彼だったか父親だったかに付きまとわれていて、警察に相談した。裁判所は男の方に、半径20mだか50mだかに近づいてはならないと命じた、というような話をテニス中継の実況中に聞いた覚えがある。現代ではストーキングは、単に物理的に付きまとうだけではなく、ゴミ漁りや盗聴、無言電話および実際の電話、さらにはSNSでのストーキングなど、その行為のエスカレートする一方のようだ。

尾崎、ブラピ、坂本の三人は、ソンを姫に、そして自らを兵士に譬える。これは上手い比喩だ。軍の格言に「良い兵士とは考えない兵士だ」というものがある。言い得て妙であろう。軍の作戦行動には大抵の場合、損耗が織り込まれている。その現実を頭から追い出せないような者は従軍などできはしない。この三人組も同工異曲である。自分たちの好意を客観視できれば、このような犯罪行為を続けられはしないし、ソンが同居の恋人(高杉真宙)から虐待されるのを盗聴していながら、それを助けず、通報もせず、不気味な祈祷に耽る姿には嫌悪感を抱くしかない。

ことほど然様に狂った男たちを現実に呼び戻せるものは何か。本作のその回答として、カネと暴力を提示する。ソンの恋人が作った借金の取り立てにやって来る。友枝(向井理)とそのボスの星野(YOU)である。2人は彼らの国の入管を経ずに文字通り土足で入り込んでくる。それでも3人組は偏執な愛情を変えることなく、なぜか王子に借金返済の手伝いをさせて下さいとまで申し出る。ここまで来るとコメディだが、彼らの執拗な愛情に純粋さと美しさを見出した借金取りたちにも変化が表れ始める・・・

この映画の結末は賛否両論を巻き起こす。それは間違いない。しかし、純愛派が賛成するわけではないだろうし、否定派が異常な愛情そのものを否定するわけではないだろう。そのことは友枝というキャラクターの「自分は半端でいいっすわ」という台詞とその後の言動に現れる。おそらく中途半端なスタンスを取る、この結末を受け入れることができる自分と受け入れられない自分がいるというモヤモヤ感を良しとできれば、それで良いのではなかろうか。

エンドクレジットは絶対にその目に焼き付けてほしい。こういう効果を狙って松居大悟監督はこのようなキャスティングにしたのだろうか。自分がストーカー被害に遭うことも、自分自身がストーカーになることも、これはどちらも起こりうる。観客という立場からこの物語を眺めていた自分の頭を、監督にガツンと殴られたかのような衝撃を感じるクレジットであった。あのタイミングで、最後にYOUとか表示されたら、「え、俺もこの映画に登場してたの?」みたいになるでしょうよ、そりゃあ。惜しむらくは、“女子高生の頃から20年間同じ女性にストーカー行為をしていた男が逮捕された”というニュースが割と最近あったことで、映画のインパクトが薄まってしまった感は否めない。そういえば福山優治の『そして父になる』も、そんな感じだったな。現実は時に映画よりも奇なり。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, キム・コッピ, ロマンス, 日本, 池松壮亮, 監督:松居大悟, 配給会社:ティ・ジョイLeave a Comment on 『君が君で君だ』 -この映画に共感する人は犯罪者予備軍か熱心な映画ファンか-

『わたしに××しなさい!』 -ポスターのようなシーンは無いから、スケベ視聴者は期待するな-

Posted on 2018年6月25日2020年2月13日 by cool-jupiter

わたしに××しなさい! 50点

2018年6月24日 梅田ブルク7にて観賞
出演:玉城ティナ 小関裕太 佐藤寛太 山田杏奈 金子大地 佐藤寛太
監督:山本透 

f:id:Jovian-Cinephile1002:20180624213244j:plain

*以下、ネタバレに類する記述あり

まず、こんなポスターを作った配給会社の担当者および責任者は記者会見を開いて謝れ。景品表示法違反の疑いがある。というのは冗談だが、別に過激ミッションでも何でもない。単なるこじらせウェブ小説家女子高生(雪菜=玉城ティナ)が、自身の作品に恋愛要素を織り交ぜていくために、自分でも恋愛的な体験をしていくことで、作品の質も上がるだけではなく、当初予想もしていなかった自分自身の変化に戸惑いを感じ初めて・・・という、そこだけ見ればよくある話。むしろ、このストーリーを支えるのは、疑似恋愛の相手役である生徒会長(北見時雨=小関裕太)や、ウェブ小説のライバルである氷雨(=金子大地)、雪菜の従兄弟の霜月晶(=佐藤寛太)、さらには時雨の幼馴染の水野マミ(=山田杏奈)や小説の編集者(=オラキオ)などだ。

主人公は『 暗黒女子 』で輝けそうで輝けなかった玉城ティナ(清水富美加に光をかき消されたという印象)。『 あさひなぐ 』の西野七瀬もそうだったが、メガネが似合う女子というのは、一昔前に比べて確実に増えているらしい。それでもこのメガネ女子は、冒頭のクレジットシーンで見事なキャットウォークを披露して、独立不羈で我儘、甘えたい時に甘えて、無視する時は無視しますよ、というキャラクターであることを観る者に予感させてくれる。そして、その期待は裏切られない。

ウェブ小説が好評を博している雪菜は、編集者や読者からの要望もあり、恋愛要素を作品に取り入れようとする。しかし、空想するばかりで実体験の無い自分にはそれはできそうにない。そうか、それなら疑似恋愛体験をして、それを自作に盛り込めばよい、と考える。ここで候補として従兄弟の昌が浮上してくるが、雪菜はあっさりと拒絶。その代わりに、ひょんなことからダークサイドを秘めていた北見時雨の弱みを握り、ミッションと称して、手を握らせたり、ハグさせたりして、その心象風景を小説に取り入れていく。それにより、ライバル作家の氷雨に一歩リードするものの、時雨の幼馴染には何かを感づかれ・・・

というように、どこかで見たり聞いたりしたようなプロットのモンタージュ作品である。それによってある意味、安心して観賞もできるが、興奮させられたり驚かされたりすることも少ない作品である。したがって、観る側の興味は畢竟、役者の演技や作品の演出に移行していく。

まずは主演の玉城ティナ。何度でも言うが、メガネが似合う。そして定番中の定番、女友達がいない。これは安心して見ていられる。女の友情は一定年齢以上の男には共感できないところが多い(理屈である程度の理解はできるのだが、長々と大画面で見せつけられるのは正直キツイ。『 図書館戦争 』での柴崎と笠原の関係ぐらいが清々しくていい)。特徴的なのは容姿だけではない。話し方もだ。当り前だが、活字と発話は異なる。漫画や一部のライトノベルなどでおなじみの手法として、特徴的な語彙を多用する、または語尾を特定の形に統一する、などがある。雪菜の喋りは、この文法に映画的に正しく則っており、メガネ以外のもう一つの特徴としてキャラ立ちに大きく貢献しており、彼女の役者としての力量を見た気がする。

相手役の古関は『 覆面系ノイズ 』では学ランがパツパツで、高校生役はちょっと無理では?という印象を受けたが、ブレザーなら充分に通用する。また終盤では素の顔と仮面の顔を一瞬で入れ替えるシーンがあるが、こんな演技力あったっけ?とも思わされた。どこか坂口健太郎を思わせるルックスもあって、同じぐらいの活躍を期待したい。

その他、三白眼が印象的な佐藤寛太、武田玲奈とキャラもろ被りに思える山田杏奈、普通に出版社もしくは証券会社あたりにいそうな会社員役のオラキオなど、若手を中心に今後に期待を持てるキャストが集まっていた。だからこそ、もっとユニークなテーマを追求してほしかったと思う。「誰かを傷つけたくない」というのは恋愛(に限らず人間関係全般)において、美しいお題目ではあるが、ただ臆病であることを誤魔化したいからこその台詞。そんなことは誰もが分かっている。それを乗り越えるのが青春の、醍醐味であり、ある意味では終わりでもある。実験的なテーマの作品に、ポテンシャルを秘めた若手キャストで挑むからには、監督にも何らかのチャレンジが求められるが、エンディングのあのバレット・タイムは何とかならなかったのだろうか。他にもっと印象的な絵作りはできなかったのか。監督と自分の波長が合わなかっただけなのだが、最後の最後の着地で少しミスってしまった作品、そんな感想を抱いた。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, ラブロマンス, 古関裕太, 日本, 玉城ティナ, 監督:山本透, 配給会社:ティ・ジョイLeave a Comment on 『わたしに××しなさい!』 -ポスターのようなシーンは無いから、スケベ視聴者は期待するな-

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