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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 日本

『 もののけ姫 』 -4Kデジタルリマスター上映-

Posted on 2025年11月13日2025年11月13日 by cool-jupiter

もののけ姫 90点 
2025年11月9日 Tジョイ梅田にて鑑賞 
出演:松田洋治 石田ゆり子 
監督:宮崎駿


4Kデジタルリマスター上映ということで、少々値は張るが迷わずチケットを購入。

あらすじ

東国の勇者アシタカ(松田洋治)は、村を襲ったタタリ神を討ち、呪いをもらってしまった。掟に従い村を去ったアシタカは、呪いを解く術を求めて西国に旅立つ。その旅先で、森を切り拓き、鉄を作るたたら場とそこに生きる人々、そして山犬と共に生きる少女サン(石田ゆり子)と出会う・・・

ポジティブ・サイド

詳細は『 もののけ姫 』を参照のこと。

DolbyCinemaの追加料金600円で、チケット一枚2800円だったが、劇場は半分ぐらいは埋まっていた。しかも若い世代が多い。10代、20代のカップルの姿も。

イーマの6階のトイレ前で妻を待っている間、多くの観客が感想を口にしながらエスカレーターを降りていった。「美輪明宏さんの収録、YouTubeで観たけどすごかった」とか「あの歌手の人、こめよしさん?歌声やばい」とか。『 ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男 』の時も大きな声で感想を述べ合うグループがいたが、傑作を観ると人はどうしても語りたくなってしまうのだろう。

『 羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来 』、『 羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来 』ともに傑作だが、本作はやはりそれよりも上の作品だと感じた。妖精と人間の共存か併存か、森の精と人間の共生か。テーマは似通っているが、その見せ方は全く異なる。人間に師事する妖精のシャオヘイと、山犬を親と慕う人間サンは、人間に対して全く異なるアプローチを見せる。シャオヘイの言う「僕は正しい者の味方だ」というのは強者の論理。サンが言う「アシタカは好きだ。でも人間を許すことはできない。」という矛盾こそが、共生の本質なのではないかと思う。すなわち互いに憎み合い、傷つけ合うことも含めて、共に生きていく。生きることは傷つけ、傷つけられること。しかし、生きていれば何とかなる。なんという矛盾。しかし、なんという真理だろうか。

ネガティブ・サイド

詳細は『 もののけ姫 』を参照のこと。

総評

コロナ禍の折、「一生に一度は、映画館でジブリを」というキャンペーンがあったが、5年に1度はそうした取り組みがあってもいい。午前10時の映画祭みたいに、過去の名作や傑作を大スクリーンと大音響で蘇らせることには大きな意義がある。『 羅小黒戦記 』は中国の力というよりは制作会社の力が飛び抜けているらしいが、そのあたりもジブリと似ている。二作を見比べるのも面白いだろう。Jovianも近々、小黒2の字幕版を観に行く予定である。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

win out

最後に勝つ、の意味。ジコ坊の「馬鹿には勝てん」の私訳として、Fools win out in the end. としてみたい。馬鹿に勝てないのは誰かというよりも、馬鹿が最後に勝つというニュアンスにしてみた。win には win against や win back、win over などの句動詞がある。これらを使えれば英検準1級、使いこなせれば英検1級である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 ミーツ・ザ・ワールド 』
『 ひとつの机、ふたつの制服 』
『 羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来 <字幕版> 』.

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Posted in 国内, 映画Tagged 1990年代, S Rank, アニメ, ファンタジー, 日本, 松田洋治, 監督:宮崎駿, 石田ゆり子, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 もののけ姫 』 -4Kデジタルリマスター上映-

『 爆弾 』 -佐藤二朗のベストアクト-

Posted on 2025年11月2日 by cool-jupiter

爆弾 75点
2025年10月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:佐藤二朗 山田裕貴 渡部篤郎 染谷将太 
監督:永井聡

 

『 死刑にいたる病 』的な面白さを期待してチケット購入。その望みは叶えられた。

あらすじ

酔って暴れた酔っ払いの鈴木田吾作(佐藤二朗)を逮捕、取り調べしていく中で、刑事の等々力(染谷将太)は鈴木の言動に不穏な気配を感じとる。そんな中、鈴木が予言した爆発が実際に起こってしまい・・・

ポジティブ・サイド

東京各地にストーリーそのものは展開するも、大部分は取調室の内部で進行していく。その中で行われる刑事と被疑者の演技対決が心地よい。染谷将太、渡部篤郎、山田裕貴が佐藤二朗に対峙していき、全員が見事に立ち向かいつつ、巧みに佐藤二朗を引き立てた。といっても、佐藤自身も今回の役は『 さがす 』や『 あんのこと 』以上にダークで、自身の代表作になったと自負しているに違いない。

 

意味不明な問答の繰り返しに謎解きと心理戦を織り交ぜていく。それ自体はよくある手法だが、そこから導き出される「心の形」には唸らされた。警察官が家族や友人など、私=プライベートの部分を突かれると弱かったり、あるいは闇落ちしたりするのはハリウッドでは常套手段套手段だが、警察としての使命感や正義感の歪みをストレートに指摘してくる作品は珍しい。小説の映画化とはいえ、それが邦画で達成されたことは素直に喜びたいと思う。

 

いつも何かあれば怒鳴るだけの染谷将太が、非常に陰のあるキャラを演じていたのも好印象。何を考えているのかわからないが、職務上でリスペクトできる相手にはしっかりと向き合うという、一種のプロフェッショナリズムというか、ダンディズムを備えたキャラを演じきった。

 

対照的に、上司を立てつつも本当は自分の方が有能だという自負を隠さない類家というキャラも味わい深かった。「自分以外の人間が馬鹿に見える」という指摘を受けても、それを否定せずに飄々と受け流す。丸メガネをかけても、その炯々たる眼光はいっさい隠せていない。感情移入するには難しいキャラだが、だからこそ観る側は類家と鈴木の対決を文字通りに傍観者として見守るしかない。そこから生まれる謎とサスペンスは近年の邦画の中でも出色。

 

1回戦、2回戦、3回戦と対決を経るごとに謎が明かされ、そして謎が深まっていく。サスペンスがまったく途切れず、2時間超でもスイスイと鑑賞できた。類家と等々力の二人で続編というか、スピンオフを作ってほしい。そう思えるほど、ストーリーだけではなくキャラの魅力にもあふれた逸品だった。

 

ネガティブ・サイド

警察は事件の話を外でもしないし、家庭内でもしない。もちろん刑事も人の子で、家族には一般的な捜査の手法ぐらいは話すかもしれない。しかし警察という組織がどのような手順で動くのかなどを話すわけがない。

 

そもそも某キャラも家族を想っている描写を見せつつも、やってしまったことは家族を追い詰める行為。こんな警察官いるか?

 

爆弾についても同じで、かなり不自然。爆弾そのもののアイデアはなかなか洒落ているが、それらがあのタイミングであんな風に爆発するわけがない。

 

総評

よくよく考えればおかしい点はいくつもあるものの、謎とサスペンスが矢継ぎ早に提示されていくので、鑑賞中はとにかくストーリーに没頭できる。佐藤二朗は50代にしてキャリアの代表作が生まれたし、山田裕貴は次は経済ヤクザか殺人犯役かな。一部でグロいシーンがあるが、気になる向きはそのシーンだけ片目をつぶればよい。案外、デートムービーに良いかもしれない。恋人あるいは恋人未満の相手と一緒に見たら、間違いなく心拍数が上がるはずだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

go down in history

歴史に名を残す、の意。Jovianの元同僚の英検1級保持者(予備校講師上がり)が知らなかった表現。世間では早くもクリスマスケーキの予約が始まったが、とあるクリスマスソングを英語で歌えば、この表現が出てくる。街中のBGMに耳を澄ませてみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 羅小黒戦記2 』
『 代々木ジョニーの憂鬱な放課後 』
『 ミーツ・ザ・ワールド 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ミステリ, 佐藤二朗, 山田裕貴, 日本, 染谷将太, 渡部篤郎, 監督:永井聡, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 爆弾 』 -佐藤二朗のベストアクト-

『 恋に至る病 』-近年まれにみる駄作-

Posted on 2025年10月28日 by cool-jupiter

恋に至る病 15点
2025年10月25日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山田杏奈 長尾謙杜
監督:廣木隆一

 

『 ミスミソウ 』や『 屍人荘の殺人 』、もしくは『 死刑にいたる病 』のようなテイストを期待していたが、全然違う作品だった。端的に言って残念な出来である。

 

あらすじ

親の転勤のため転校を繰り返してきた望(長尾謙杜)は、隣家の住人で新しい学校のクラスメイトの景(山田杏奈)と出会う。二人の距離は近づいていくが、それを快く思わない人物もいて・・・

ポジティブ・サイド

序盤で景が万物流転やら諸行無常など、理解しているのか怪しい概念を口にするが、サルトルのアンガージュマンの考え方を述べたのにはびっくりした。対象は限られると思うが、哲学専攻の大学生は鑑賞時に耳を澄ましてみよう。

ネガティブ・サイド

キャラクター同士の関係の始まり、その変化や深化がまったくと言っていいほど描けていない。たとえば望がクラスの女子を下の名前で呼んだりする契機を景と絡めて描けば、それも景というキャラの深堀りにつながっただろうに。

 

ブルーモルフォの設定も意味不明。なるほど、ソシャゲでログインボーナスをもらい続けているうちにやめられなくなるということはある。しかし、デイリーミッションをこなしているうちにやめられなくなるというのは、何らかの reward なしには考えられない。そのリワードが何であるのかが暗示すらされないのでは、ブルーモルフォの恐怖が伝わってこない。

 

そのブルーモルフォ絡みの殺人事件でも、クラスメイトばっちりニュース映像に映し出されているのに「クラスターが云々」やら「何でも知ってるね!」やら、アホかな?いや、それが景の人心掌握術だというならいいが、だったらそういうシーンを事前に入れておいてくれ。たとえば額の傷の治りが不安になって、それを女子連中にLineか何かで打ち明けて、取り巻き女子たちも同じような傷を自分でつけて・・・のような描写があれば、クラスが狂っていくスタートとしては悪くなかっただろう。

 

いじめのシーンもえらい中途半端。せっかくのPG12なのだから、もっと陰湿かつ痛みを感じさせる描写が欲しかった。それよりも、根津原の頭が悪すぎて呆れるしかなかった。自分でいじめの証拠を写真にして、それを自分で拡散するとかアホかな。前田敦子演じる刑事も、望に色々尋ねる前に現場(防犯カメラの映像や結婚のような証拠が死ぬほど残っていると思われる)の周辺をくまなく洗え。とことん無能臭を放つ刑事だったな。

 

兎にも角にも望と景の関係の描写があまりにも薄く、足りない。その一方で無駄なシーンが多すぎ。先輩の話とかいらんやろ。その先輩も、あんな小さな凶器であんな凶行は無理。ペーパークラフトではなく、せめて彫刻でも作らせておくべきだった。

 

引きのカメラからのロングのワンカットを多用していて、なにか作劇的な意味があるのかと思ったが特になし。カメラワークには意図を込めるべし。また、イッてしまったキャラは皆、アップで顔を映していたが、そこで瞬きするキャラとしないキャラ、また瞬きしないキャラも耐え切れずに最後に瞬きしてしまうなど、演技・演出の両面で課題を残した。

 

総評

観ていて苦痛を感じるほどつまらなかった。山田杏奈は好きな役者だが、今回はミスキャスト。血なまぐさい役は似合うが、一種のカリスマ性というか、魔性の女としては弱い。望を演じた役者もアイドルか?セリフ回しが拙すぎる。童顔だけで起用されたのだろうか。中高生ならそれなりに楽しめるのかもしれないが、大人にはきつい。チケット購入の前に、よくよく検討のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

morpho

作中では蝶の名前として言及されるが、これはギリシャ語で「形」の意味。蝶といえば卵→幼虫→さなぎ→成虫と形を変える代表選手である。ちなみに英語学習界隈で時折見られる「語源から単語を覚えよう」で言われる語源とは、ほとんどの場合、実は語源ではない。それらはたいてい接頭辞、語幹、接尾辞で、これらは morpheme = 形態素の仲間である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 ハウス・オブ・ダイナマイト 』
『 羅小黒戦記2 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, サスペンス, 山田杏奈, 日本, 監督:廣木隆一, 配給会社:アスミック・エース, 長尾謙杜Leave a Comment on 『 恋に至る病 』-近年まれにみる駄作-

『 秒速5センチメートル(2025) 』 -男の女々しさを描き出す-

Posted on 2025年10月21日2025年10月21日 by cool-jupiter

秒速5センチメートル 70点
2025年10月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:松村北斗 高畑充希 上田悠斗 白山乃愛
監督:奥山由之

 

妻の「これ観たい」の一言でチケット購入。

あらすじ

プログラマーとして働く遠野貴樹(松村北斗)は、常に過去にとらわれていた。それは東京の小学校に転校してきた篠原明里(白山乃愛)との記憶だった。同じく転校生だった貴樹(上田悠斗)は彼女と交流を深めていく。しかし、明里はまたも引っ越すことになり・・・

ポジティブ・サイド

よくあんな気持ち悪い(思春期男子的に)アニメを実写化しようとしたなと思うが、これがいい感じに仕上がっているのだから大したもの。脚本と監督が原作に必要以上に忠実にならなかったことが成功の要因であるように思う。

 

大人になった貴樹と明里の対称的な日常への向き合い方を淡々と描写していくのが良かった。基本的には貴樹の物語は『 僕の好きな女の子 』で、乃愛の物語は『 ちょっと思い出しただけ 』だと思えばいい。

 

ただし、そこに思春期特有の甘酸っぱさと、ちょっとしたファンタジー要素というか、セカイ系的な要素が混じっている。ひたすら内省的になりがちな貴樹を、上司が適度に現実につなぎとめている。このあたり、松村北斗出演の傑作『 夜明けのすべて 』の上司や彼女未満の同僚との関係性にそっくりで、大人になり切れない男の典型というか、普遍的な在り方の一つなのだろう。

 

では、大人とは何か?この問いが発せられる文脈によって答えは様々だが、思い出に執着することなく、感謝できるようになることではないだろうか。プラネタリウムで見せる貴樹の涙は彼の成長のひとつの証であり、『 君の膵臓をたべたい 』の春樹の涙に匹敵するシーンだったと感じた。

 

電車、ロケット、探査機など、常に境界を越えて移動していくギミックが、貴樹と明里の関係を象徴化している。一度は忘れかけていた存在を、時速5キロメートルで思い出すシーンは印象的だった。確実に前に進む女と一向に前に進めない男の対比。そんな貴樹が遅ればせながらも前に進んでいくことを決意するシーンは白眉。「好きだった」と伝えられるのは、好きではなくなったからではなく、好きだったという気持ちを客観視できるようになったから。切なくもさわやかなビルドゥングスロマンだった。

 

ネガティブ・サイド

ペーシングに難あり。種子島をもう少し圧縮(煙草のエピソードなんかあったか?)したり、本屋でのニアミスを削ったりして、全体を1時間50分にまとめられれば、間延びしているという印象は生まれなかったのでは?

 

上田悠斗→松村北斗は理解できるが、上田悠斗→青木柚と青木柚→松村北斗はつながらない。もっとビジュアル的に適した役者はいなかったのか。白山乃愛→高畑充希も、ちょっと無理があった。

 

総評

矛盾するように聞こえる、かつセクシストにも聞こえかねないが、男が本来的に持つ女々しさを原作アニメ以上に巧みに、しかし控えめに、かつ確実に描出していると感じた。男は「名前を付けて保存」、女は「上書き保存」とはよく言ったもので、そのコントラストをやや冗長ながらもロマンチックに、かつドラマチックに描いている。デートムービーに向くかはわからないが、おっさん世代には刺さるのではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

railroad crossing

踏切の意。物語の中で踏切をフィーチャーしたシーンが2つある。あちら側とこちら側をへだてる象徴で、非常に印象的なシーンである。都市部では高架化あるいは地下化が進んでいるとはいえ、鉄道大国日本にはまだまだたくさんの踏切がある。これを機に覚えておこう。ちなみに横断歩道は pedestrian crossing と言う。併せて覚えよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 ハウス・オブ・ダイナマイト 』
『 恋に至る病 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ラブロマンス, 上田悠斗, 日本, 松村北斗, 白山乃愛, 監督:奥山由之, 配給会社:東宝, 青春, 高畑充希Leave a Comment on 『 秒速5センチメートル(2025) 』 -男の女々しさを描き出す-

『 隠された爪跡 』 -日本人は外国人と共生不可能か-

Posted on 2025年10月13日2025年10月13日 by cool-jupiter

隠された爪痕 75点
2025年10月12日 スペースふうらにて鑑賞
出演:曹仁承
監督:呉充功

 

とある伝手から本作の上映会を知り、スペースふうらへ赴く。鑑賞者は十数名で20代は1名、30代も1名、後は60~70代のシニアだった。

あらすじ

1923年9月1日、関東大震災時の朝鮮人虐殺を、当事者や目撃者の証言によって再構成するドキュメンタリー。

 

ポジティブ・サイド

『 福田村事件 』では、日本人が日本人を惨殺する過程がつぶさに描かれた。それに先立って、捕縛されていた社会主義者(当然日本人)も警察署内で殺されていった。同国人を誤解あるいは偏見に基づいて殺してしまったことが大きな衝撃であるが、本当に問われるべきは大多数の日本人が極めて少数の朝鮮人を虐殺したこと。そして、それが偶発的に生じた事件ではなく、実は国家が主導した事件である可能性が高いことだ。

 

本作は1983年公開で、実際の撮影はそれよりも数年または十年さかのぼって行われた。仮に1975年だとすれば、関東大震災から53年後、当時20歳でも年齢は73歳。多少薄まったり、あるいは大げさになっているとして、十分に事件は記憶されていると考えられる。本作は在日一世のアボジや、同世代の日本人の証言を生々しく捉え続けている。

 

『 ハルビン 』で伊東博文が「我々は文明をもたらしたのに何故それに感謝せず、反抗するのだ」のように慨嘆していたが、まさにそうした国際的な緊張が背景にある。『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』で、

 

「天は日本人の上にアジア人を造らず欧米人の下に日本人を造らず」というのが福沢の本音

 

だと書いたが、震災によって苦境に立たされた際の国家および国民の不安と不満の矛先を、国家主導で朝鮮人、中国人などのマイノリティに向けたというのが真相だろう。戒厳令発令に至るまでの過程を記した公文書は存在しないが、これも消された可能性が高い。国家がいかに簡単に公文書を改竄・破棄するのかについては、安倍政権を思い起こすだけでいい。自警団は自発的に組織されたと思っていたが、当時の政府が各地に「朝鮮人の攻撃に備えるために自警団を組め」という指令を飛ばした文書はいくつか残っていることから、これは実は国家的なジェノサイドだった疑いも濃厚である。ちなみに虐殺行為に加担した人々のほとんどは不起訴、さらに起訴された人々も大正から昭和への代替わりの際の天皇即位に伴って恩赦されている。状況証拠でしかないが、国家的な犯罪だったことを示唆していると言えよう。

 

東日本大震災や熊本地震でも「井戸に毒」というデマが飛んだが、恐ろしいのはそうした情報を国家やメディアではなく一般人が発することが可能なこと。そして日本人はデマに実はかなり耐性が低いであろうということ(わが兵庫県民の政治およびメディアのリテラシーの低さを見よ!)。

 

当時の関東地方の人口は推計で800万人。在住の朝鮮人は15,000人。そのうちの6,500人が死亡している。比率としては0.18パーセント。しかし半数近くが死亡、これはジェノサイドとみなされても仕方がない。ここに中国人を加えても、せいぜい比率は0.2パーセントだろう。現代日本の人口における外国人比率は3パーセント弱。南海トラフ地震が起きた時、自警団が組まれ、根拠のない情報に基づいて外国人迫害が起きてもおかしくない。だから、あらかじめ排斥しろ、ではアホなカルトの参政党と同じ。他者を同行しようとする前に、まずは自身のリテラシーを上げること。正しい情報を発信しようとする前に、正しくない情報は発信しないという心構えを持つこと。

 

ちなみに・・・実は本作には字幕がついているが、これは初版にはなかったとのこと。在日アボジだったり、当時を証言する日本人だったりは、興奮しているのか混乱しているのか、口調や言葉が結構めちゃくちゃで、リスニングだけの理解では無理があった。もし、どこかで上映会がある場合、主催者に字幕の有無を尋ねるべきである。正直、字幕なしでは理解がおぼつかない。

 

ネガティブ・サイド

荒川河川敷の発掘作業については、エンドクレジット前あるいは後にでも、何らかの注釈は入れられないのだろうか。一種のネタバレになるが、主催者が必ずこの情報を補足してくれるとは限らないので書いてしまうが、当時の荒川河川敷に埋められた朝鮮人の死体は数日後に掘り起こされ燃やされたことが判明している。一種の歴史修正主義者が「遺骨が出ないのだから虐殺はなかった」という主張の材料に本作が使われることを懸念して、ここに書いておく。

 

総評

40年以上前にこんなドキュメンタリーがあったとは知らなかった。調べてみると第七藝術劇場で2023年に本作および続編の『 払い下げられた朝鮮人 』も上映されていた。梅田だけではなく、もっと十三方面にもアンテナを張っておくべきだった。スペースふうらのオーナーによると、また上映会をするかもしれないとのこと。興味のある方々は是非そちらにアンテナを向けられたし。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 シークレット・メロディ 』
『 恋に至る病 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 1980年代, B Rank, ドキュメンタリー, 日本, 曹仁承, 監督:呉充功Leave a Comment on 『 隠された爪跡 』 -日本人は外国人と共生不可能か-

『 ラテン語でわかる英単語 』 -校正と編集に甘さを残す-

Posted on 2025年10月9日2025年10月9日 by cool-jupiter

ラテン語でわかる英単語 50点
2025年10月1日 読書開始(読了時期未定)
著者:ラテン語さん
発行元:株式会社ジャパンタイムズ出版

 

折に触れて小説やら新書を紹介しているが、今回はかなり異色の書籍を紹介したい。

 

概要

「本書は、英検®1級レベルの高い語彙力をつけたい方が効率よく英単語を学習できるように作成したものです」(3ページより抜粋)

 

ポジティブ・サイド

Jovianは英検1級に合格しているが、特段、対策はしなかった。なぜなら(と言っていいかどうか分からないが)ラテン語のバックグラウンドがあったからだ。大学3年生のまるまる一年間、〈ラテン語Ⅰ〉、〈ラテン語Ⅱ〉、〈ラテン語購読〉(わが母校は3学期制なのだ)を受講して、平日には2~3時間、ラテン語を勉強していた。もちろん、20年以上経った今ではかなり忘れてしまっているが、X(旧Twitter)界隈で時々見かける「語源がうんぬんかんぬん」と宣う輩よりは、遥かにetymologyの知識はあると自負している。そのJovianの目から見ても、なかなか面白い語がたくさん取り上げられている。

 

たとえば jus = 権利(86ページ)という語がある(個人的には ius と書きたいが)。これが jurisdiction や prejudice、juror や jury の語源であると知れば、一気にそうした方面の語彙が増える、あるいは覚えやすくなるだろう。

 

136ページの via = 道も面白い。ある程度英語力があれば、via Tokyo = 東京経由で、という意味になるのをご存じだろう。あの via である。ここから convey や convoy、また deviate などの語が派生している。

 

140ページの labor も味わい深い。英語でも労働だが、ラテン語でも労働だ。ここから laboratory = 仕事するところ → 実験室 となったり、あるいは elaborate《形容詞》 で「手の込んだ」、中島誠之助風に言うなら「いい仕事をしている」、という意味にもなる。日本語にも定着したコラボ= collaboration にも、しっかりと labor が入っている。

 

179ページの cedere = 行く、もぜひ知っておきたい。これにより exceed = 外に出ていく=超える、precede =(時間的に)先に行く、proceed =(空間的に)先に行く、secede = 脱退・分離独立する、なども容易に把握できる。本書では seccession をアメリカの南部諸州の独立だと紹介しているが、この語は2014年のスコットランド独立住民投票前に英字新聞で盛んに使われていたし、おそらくスペインからのカタルーニャ独立運動などが英語圏で報じられる際にも使われているはず。シネフィル(映画好き)っぽく言わせてもらえば、『 スター・ウォーズ 』の prequel trilogy で戦争が勃発したのは、通商連合が分離主義勢力=secessionist と組んでからだった。

 

語源の知識が英語力を伸ばすかどうかは不明だが、語彙力を伸ばす手助けになるのは間違いない。英検1級を目指す人が、ちょっと目先を変えた単語帳を求めるなら、本書も選択肢に入れていいだろう。

 

ネガティブ・サイド

大きな弱点が2つ。1つは著者の問題で、もう1つは編集・校正の問題。

 

ラテン語由来の英単語の網羅性がやや甘い。gradi を語源とする語としてregress, digress, congress, egress まで挙げておきながら ingress がないのは解せない。

 

manus = 手についても、派生語ではなく語の説明のところに manual = 手引書だと書くだけで、普通の学習者の腹落ち具合はかなり異なってくると思うのだが。なんでもal = 手引書だと書くだけで、普通の学習者の腹落ち具合はかなり異なってくると思うのだが。なんでもかんでも英検1級を基準に考えるべきではないと思う。parare のところで repair を取り上げているのだから、取り上げる英単語の選択が首尾一貫しているとは言い難い。

 

次に編集のミス(それとも著者のミス?)について。255ページのferreについて、「英語のtransfer「輸送する」とtranslate「翻訳する」は、同じ動詞(の違う語幹)が元になっている。つまり、完了形「私は運んだ」はtuli、「運ばれた」という意味になる完了受動分詞はlatusで、どちらもferreと起源が異なる形が使われているのだ」とあるが、起源は両方ともferreで同一である。正しくは『どちらもferreの時制や態が変化してできた異なる語幹(tulやlat)が使われているのだ』となるだろうか。

 

hortusの説明に「226で紹介したcohorsの関連語」とあるが、226とナンバリングされた語のところにも、226ページにもcohorsは記述されていない。これは編集・校正段階のミスだろう。

Jacereのところで、Jacta alea est =「さいは投げられた」としているが、これはAlea iacta est. の間違いではないか。いや、ラテン語は語順には融通無碍だが、歴史的な格言はそのままの語順を保つべきだ。

 

ザーッと軽く流し読みしただけで、これだけ「ん?」という記述が見つかるのだから、熟読するとどうなることやら・・・

 

英語のインデックスはあるが、ラテン語のインデックスがない。何故?

 

総評

英検1級を目指す人には向くかもしれない。あるいは時々存在する英単語マニアには好適か。ラテン語あるいはフランス語学習をある程度済ませた人には向かない。本書がベストセラーあるいはロングセラーになれば、そのうち errata がつくかもしれない。それを期待する意味でも本書を紹介しておく。もっとライトな語源の本がいいという人は GENGOZO でググってみよう。これはかつてのJovianの上司が作った本。たまにメルカリやヤフオクで売られている。間違いがかなり含まれているが、語源と英単語そのものの網羅性は(一応)本書よりも上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

I am now slowly phasing over to https://jovianreviews.com. This site will continue to be updated on a regular basis for the time being.

Posted in 国内, 書籍Tagged 2020年代, D Rank, 学術書, 日本, 発行元:株式会社ジャパンタイムズ出版, 著者:ラテン語さんLeave a Comment on 『 ラテン語でわかる英単語 』 -校正と編集に甘さを残す-

『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

Posted on 2025年9月25日2025年9月25日 by cool-jupiter

蔵のある街 75点
2025年9月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中島瑠菜 山時聡真
監督:平松恵美子

 

岡山県倉敷市のご当地映画ということでチケット購入。『 しあわせのマスカット 』が見事に失敗した岡山のご当地ムービー制作が、本作で実現された。

あらすじ

自閉症の兄、きょん君と暮らす紅子(中島瑠菜)は美大へ進学したいという想いを封じ込めていた。ひょんなことから幼馴染の蒼(山時聡真)たちがきょん君と交わした「鶴形山から打ちあがる花火を見せてやる」という実現不可能な約束を、紅子は無責任だと非難する。蒼たちはきょん君との約束を果たすべく、動き出すが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭で家族で見上げる打ち上げ花火のシーンから一転、キャンバスの前で微動だにしない紅子、そこからきょん君の登場と、テーマと主要キャラクターの導入のテンポが小気味いい。蒼と祈一のコンビも邦画の高校生的なお約束、いわゆる二枚目と三枚目のコンビではなく、それぞれに苦悩するキャラクターになっていた。花火大会開催の一因となるきょん君も『 レインマン 』のダスティン・ホフマン的な演技で、自閉症のリアリズムを遺憾なく表現した。

 

世の中には優しい嘘と残酷な嘘があるが、善意でついた嘘が結果的に相手を苦しめることもある。どう責任を取るのか。嘘を本当にするしかない。そこに助け舟を出すのは高橋大輔。関西大学卒なので関西人かと思っていたが、倉敷出身だったのか。正式な署名を100人分集めよ、という無茶な指令を出す。そのためにダメダメ男子高校生が奔走する様は滑稽だ。そこに紅子から思わぬアシスト。イラストには力が宿るのだ。

 

花火大会を開こうと蒼と祈一が奮闘していく中で、倉敷の歴史、そこに生きる人々の気質と仕事・産業、駅前と美観地区の街並みの対比、そして何よりもバラバラになってしまっている紅子の家族の絆の再生の端緒も描かれていく。それは家族が一つになることを必ずしも意味しない。『 焼肉ドラゴン 』のように、旅立ちや独立も家族のあるべき在り方であることを本作は静かに、しかし力強く提示している。

 

ネガティブ・サイド

蒼のサクソフォンの話はどこにいった?演奏で耳目を引き、署名活動につなげるなどの描写は編集でカットされたか。

 

演技力のギャップが色々とありすぎた。主要キャラたちの岡山弁は、まあ大目に見るが、一部の役者はダメダメ。駅前のチンピラやフルート奏者(そもそも役者ではない?)は、別の役者を使えなかったのだろうか(高橋大輔は地元出身なので許す)。

 

橋爪功の出演シーンも不要だったように思う。。

 

総評

倉敷の美観地区を誇張することなく、その特徴をよく映し出している。海側に水島コンビナートがありながら、どこか大正や昭和の趣を残した街並み、しかしそれなりに発展した駅前や洋風の瀟洒な建物もあり、旅情を喚起する。家族の結びつきや恋愛感情を至上としない現実的な人間ドラマだった。ご当地映画の白眉と言える。岡山県民のみならず、多くの人に鑑賞されるべき作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

signature

署名の意。数多く集めれば、効力を発揮することもある。劇中の高橋大輔の「署名を100通集めたら力を貸そう」は “If you get a hundred signatures, then you’ll have my support.” ぐらいだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ブロークン 復讐者の夜 』
『 宝島 』
『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中島瑠菜, 山時聡真, 日本, 監督:平松恵美子, 配給会社:マジックアワー, 青春Leave a Comment on 『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

Posted on 2025年9月8日2025年9月8日 by cool-jupiter

8番出口 40点
2025年9月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:二宮和也 河内大和 浅沼成
監督:川村元気

 

鑑賞予定はなかったが、本作のモデル駅がJR大阪天満宮駅だという説に興味を惹かれた。なぜならJovianは毎日同駅の8番出口から会社に向かっているから。というわけでチケット購入。

あらすじ

地下鉄で派遣先へ向かっていた男(二宮和也)は、不思議な空間に迷い込み、出られなくなってしまう。異変がなければ進み、異変があれば引き返し、そして8番出口から出ることという謎のルールに従って、男は前へ進んでいくが・・・

ポジティブ・サイド

なんといっても謎のおじさんを演じた河内大和が抜群の存在感を放っている。あの歩き方、曲がり方、表情の作り方、止まり方、そのすべてがリアル。ここでいうリアルとは、こんなおじさんは絶対に存在しないはずなのに存在してしまっているという意味。

 

ゲームに忠実で、異変のあるべき場所もだいたい同じ(だった気がする)。通路の雰囲気も確かに大阪天満宮駅の8番出口脇から伸びて左に曲がっていくやや上りのスロープの場所とよく似ていた。9番出口を出てちょっと北に進むと某専門学校がある。KOTAKE CREATEはこの学校出身なのかもしれない。

ネガティブ・サイド

最初の5分でストーリーの展開と着地点が見えてしまった。ある程度映画を見慣れている人の多くがそう感じたのではないだろうか。そうしたキャラクターの背景を一切抜きにして、理不尽かつ意味不明なゲームの世界をまず最初に提示する。そして通路のポスターなどを、たとえば病院主催のパパママ教室にするなどして、主人公の葛藤を言葉ではなく主人公の表情やたたずまいから感じ取らせる。そういう演出は不可能だったか。

 

主人公のキャラクターがほとんどそのまま『 グーニーズ 』のマイキーだったり、異変とともに出てくるクリーチャーが古今東西でおなじみの姿だったり、異変の一つが『 シャイニング 』のパクリだったり、とにかくオリジナリティがない。

 

そもそも基のゲームに存在した理不尽なゲームオーバーがない。おじさんがいきなり目の前に迫ってくるという異変に対して背を向けることができずにゲームオーバー、そして → 0番出口 の掲示の前からリスタート・・・のような理不尽さがないと、異変の危険度というか、異変をどれくらい真剣に捉えなければならないかといった真剣度が高まらない。

 

異変を見逃さないということは、逆に言えば我々はそれだけ世の中の変化を見逃している、あるいは世の中の変化を拒んでいるとも言える。それを一つのテーマに挙げるのは結構だが、そのことを主人公が悟るのではなく、まったく別のキャラクターの口から語らせるのは、凡百の邦画がやってしまう安易な方法で、本作もその陥穽にはまってしまっている。やたらけばけばしい女子高生キャラクターは不要だった。もっと言えばおじさんのパートも不要だった。

 

本作は二宮やら小松やらの名のある俳優が出てくるが、それがノイズになっているように感じた。『 侍タイムスリッパー 』や『 最後の乗客 』のように、無名だが実力あるキャストをそろえて撮影してほしかった。そうすれば観ている側も感情移入できるし、代り映えのしない駅のコンコースにもより注意を向けられるようになると思うのだが。

総評

Jovianは原作は未プレイ。だが、Jovian妻がHIKAKINの配信動画を観ていたのを時々横から眺めてはいた。映画にするならゲームに忠実に作りつつ、オリジナルなアイデアを盛り込んでほしかった。本作は残念ながら原作の再現度もオリジナル要素もどちらも中途半端。駄作とまでは言わないが、面白いとも言えない。貯まっているポイントを消化して無料鑑賞するのはあり。配信やレンタルを待つのもありだ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

anomaly

異変や異常を指す単語。はじめて知ったのは小説『 星を継ぐもの 』の原著 “Inherit the Stars”でだった。解剖学的異常など、医学の分野で使うことが多いが、同小説では月のレゴリスの放射性同位元素の不均衡な分布を指してアノマリーという言葉を使っていた。調べてみたところ、『 8番出口 』の異変も anomaly と訳されている。英語学習者はこれを機に本単語も覚えてみよう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 蔵のある街 』
『 侵蝕 』
『 ブロークン 復讐者の夜 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, スーパーナチュラル・スリラー, ホラー, 二宮和也, 日本, 河内大和, 浅沼成, 監督:川村元気, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

Posted on 2025年8月15日2025年8月15日 by cool-jupiter

桐島です 75点
2025年8月14日 シアターセブンにて鑑賞
出演:毎熊克哉
監督:高橋伴明

 

『 BOX 袴田事件 命とは 』の高橋伴明監督が逃亡犯・桐島聡を描いた作品ということで、やっとのことでチケット購入。

あらすじ

企業・政府による人民搾取に静かに業を煮やしていた桐島聡(毎熊克哉)は、やがて過激派に属し、爆弾闘争に身を投じていく。しかし、その過程で負傷者を出してしまったことを公開する。また、組織に官憲が迫ったことで逃亡していくが・・・

 

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

誰もが一度は目にしたことがあった桐島聡の指名手配写真。それが2024年1月、病院で見つかり、そのまま死んでいったというニュースはかなりセンセーショナルだった。そんな逃亡犯を毎熊克哉が好演した。

 

『 三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』で描かれた1969年から数年後の1970年代。そこで桐島聡は労働者階級の待遇改善と諸外国民の搾取反対を表明するため、大資本への闘争を続けていた。同作でかつての三島親衛隊員が述べていた、全共闘は市井の中に拡散していったと、いわば負け惜しみ的に語っていたが、その数少ない拡散先に桐島がいたのかと思うと、なんとも複雑な気分になった。事実は小説よりも奇なりという意味でそう感じるということである。事実、『 正体 』は本作によってかなり陳腐化したと言える。

 

桐島は学生運動の延長線上に常に身を置くことで、いきなりガールフレンドから別れを告げられてしまう。デートに選んだ映画のチョイス(『 追憶 』)もまずかったようだ。とある時代の感性を保つことは、別の人間から見れば時代遅れとなる。時代という言葉が大仰かもしれないが、現代でも往々にしてこうした見方の対立は生じている。故・安倍晋三の桜の会疑惑その他は、しばしば支持者から「いつまで終わったニュースをやっているんだ」となるし、そうでない者からすれば「なんで勝手に先に進んでいるんだ」となる。

 

後者に属する桐島は労働者階級が資本家に搾取される構図を訴えようと過激派の爆弾闘争に身を投じていくが、そこで人を傷つけることには反対する。仲間は、企業にダメージを与えることを人を傷つけないことの矛盾をアウフヘーベンしていこうと言うが、自己主張の手段に言論ではなく武器を選んでいる時点で、その矛盾を止揚できるはずがない。しかし桐島はある時点から言葉に惹きつけられていく。これは事実なのか脚色なのかわからないが、桐島の人物像を深めつつも、桐島の思想については浅くもしていると感じた。

 

着の身着のままで逃亡した先で、運よく経験不問かつ寮付きの工務店で職を得た桐島は、内田洋を名乗って生活する。生真面目に生活のルーティンを守り、模範的に働き、たまにバーに顔を出しては酒や音楽という世俗の歓楽を享受する。要するに、大多数の小市民と何ら変わりのない生活を送っていく。その一方で、自身の関与した爆破事件について忘れることはできず、またいつでも逃亡できるように警戒を怠ることもないという、ある種の矛盾した生活も送っている。

 

行きつけのバーで知り合った若い歌手に恋心を寄せられても拒絶せざるを得なかったのは逃亡者だったからか。それとも時代遅れの自分がトラウマになっていたからか。奇妙な縁を深めることになった謎の隣人が、犯罪者・逃亡者としての桐島の人間関係にユーモアと緊張感の両方をもたらしていて、甲本雅裕は非常に強いインパクトを残した。

 

在日韓国人の同僚、不法滞在するクルド人就労者、集団的自衛権の容認を国会を経ず閣議で決定した安倍晋三など、国家の歪みを感じさせる事象に対して怒りと悲しみを感じる桐島聡だが、その一方で運転免許試験と教習所は結託していると語ったり、またメタボ検診を製薬会社と厚労省の癒着だと断じたりと、非常に危うい、あるいは偏った正義感の持ち主である点も描かれる。外側のアイデンティティを偽りつつも、内側のアイデンティティは偽れなかったのだろう。その思想が良いものなのか悪いものなのかは軽々に判断すべきでない。しかし、高橋監督は桐島に説教されたと思しき若い同僚に「内田さんが死ぬのはいやっすよ」と言わしめた。それが彼のメッセージなのだろう。

 

後年にかつての反日武装戦線の領袖が出版した詩集を読み耽る桐島は、

 

毎熊克哉が青年から高齢までの桐島を見事に演じきった。今年の主演男優賞は彼と『 国宝 』の吉沢亮の一騎打ちとなるだろう。

 

ネガティブ・サイド

かつての同志の宇賀神が語る「桐島は公安に勝利した」という宣言は、桐島の代弁とは言えないのではないか。桐島は一貫して日雇い労働者に代表される下級労働者の搾取の構造を変えたがっており、そこにいるのが日本人であれ外国人であれ、それは救済の対象だった。桐島の勝利とは労働者の勝利であり、最後まで逃げ切ったことを勝利というのは矛盾に感じた。それこそ遺書でも残しておき、死後に桐島聡という存在が内田洋に成り代わっていたことが明らかになったというのなら話は別だろうが。

 

最後の最後に登場する日本赤軍の生き残り女性の存在が滑稽に映った。というのも作中に登場する安倍晋三は2024年時点では既に暗殺されていたからだ。まさに事実は小説よりも奇なり。

 

総評

ハリソン・フォードの『 逃亡者 』的なアクションなど一切なし。非常に地味なドラマである。しかし、一人の人間の半生を通して、変わっていったものと変わらないものを同時に映し出すという試みは大いに成功している。爆弾テロは論外だが、反体制の闘士を生み出す土壌がかつての日本にはあったということは知るべきだろう。そしてその土壌から誤って芽吹いたのが参政党や日本保守党であることは憂慮していい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pseudonym

偽名の意。pseudoは疑似的な、を意味する接頭辞。nymは名前を意味する接尾辞。偽名と訳されるが、どちらかというとペンネームなどの仮の名前を指す語。一方で false name となると正に偽の名前で、これは犯罪や悪事の際に用いられる名前。これらをちゃんと区別できれば英検準1級以上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 亀は意外と速く泳ぐ 』
『 渇愛 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 歴史, 毎熊克哉, 監督:高橋伴明, 配給会社:渋谷プロダクションLeave a Comment on 『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

『 近畿地方のある場所について 』 -見るも無残な映画化-

Posted on 2025年8月10日 by cool-jupiter

近畿地方のある場所について 20点
2025年8月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:赤楚衛二 菅野美穂
監督:白石晃士

 

小説『 近畿地方のある場所について 』の映画化ということでチケット購入・・・ではなく、ポイントで無料鑑賞。この判断は結果的に正解だった。

あらすじ

オカルト雑誌の編集長が特集記事の校了を前に失踪した。編集者の小沢(赤楚衛二)は旧知のライターの千紘(菅野美穂)と共に編集長の行方と彼の追っていた対象の謎を探ろうとするが・・・

 

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

首吊り屋敷の和室や子ども部屋は、活字だけでは出せないおどろおどろしさがあった。

 

団地の子供たちの遊びのシーンからは原作同様の不穏さが感じられたし、自分で想起していた真っ白様(小説では真っ白様なのである)のイメージにもマッチしていた。

 

ネガティブ・サイド

小説と異なる構成になるのは仕方がないが、再構成の仕方を派手に間違えている。

 

第一に、原作の有していた断片的なエピソードの数々が少しずつ重なり合っていく過程がすっとばされてしまったこと。第二に、雑誌の読者が編集部に送ってくる多数の気味の悪いエピソードが全カットされてしまったこと。第三に、原作が何度も繰り返す「近畿地方のとある場所についてはこれで終わりです」という不穏なフレーズに代わるシーンあるいはセリフが用意できなかったこと。

 

原作では行方不明なのは小沢だが、まあ、それはいいだろう。問題は編集長。私用PCに仕事の情報を全部詰め込んでいるなどというのは、普通なら懲戒ものだ。というか私用でも会社用でもいいからクラウド使わんかい。脚本家は二重の意味でアホなのだろうか。また編集長の残した膨大なデータのごく一部だけしかないと言いながら、そのどれもが核心に迫るものばかりだというのはご都合主義すぎないか。

 

原作ではじいさんが語るまさるのエピソードをばあさんが語る昔話にしてしまったが、それはもう昔話ではなく怪談。しかも別に怖くない。原作のエピソードを再現しようとすると『 犬鳴村 』の亜種になるので変更したのだろうが、そこは『 福田村事件 』を参考にすればいいだろう。

 

その後、どこかで見たようなシーンや演出のオンパレード。編集長の死に方に脚本家も監督も分かっていないと慨嘆させられた。そこは頭ではなく目を貫くところ。その描写から逃げている時点でホラーとして失格。ほかにも中途半端なシーンのオンパレード。最後も『 NOPE / ノープ 』と『 トゥルース・オア・デア 殺人ゲーム 』のパクリかな。

 

漫画家の芦原妃名子氏が亡くなる前の日テレかどこかのドラマ脚本家たちの座談会で、ひとりが「私は原作者ではなく原作さえあればいい」というような発言をしたとされている。今回の監督および脚本家も似たような意識を持っていたのでは?ヒットした小説がある。それを映画にできる。割のいいビジネスだ。ぐらいにしか感じていなかったのかな。原作者は本作を観て何を思うのだろうか。

 

最後の最後も脱力させられた。エンディング曲がなぜか東京を事細かく描写。近畿地方がテーマちゃうんかい・・・

 

総評

映画化ではなくドラマ化した方がよかったのでは?一話30~45分の全6~8話程度の深夜ドラマにすればよかったのでは?その方が原作の持つ、断片的な情報が徐々に輪郭を成していく過程をもっと上手く描き出せただろう。まあ、夏恒例の糞ホラーのひとつとして割り切ろうではないか。原作を読んだのなら本作の鑑賞は必要なし。本作を観て納得がいかなければ、竜頭蛇尾ではあるが原作を読んでみよう。途中のサスペンスは間違いなく小説の方が上である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

sacrifice

犠牲、身代わりの意味。旧約聖書の昔からあった概念で、最も古く、かつ有名なのはアブラム(後のアブラハム)のイサク献供だろう。本作の陳腐さの大部分はオリジナリティの無さに起因することを記録する意味で、この語を紹介しておきたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 ジュラシック・ワールド/復活の大地 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ホラー, 日本, 監督:白石晃士, 菅野美穂, 赤楚衛二, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 近畿地方のある場所について 』 -見るも無残な映画化-

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