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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ヒューマンドラマ

『 兎たちの暴走 』 -やや竜頭蛇尾-

Posted on 2023年9月16日 by cool-jupiter

兎たちの暴走 60点
2023年9月9日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:リー・ゲンシー ワン・チエン
監督:シェン・ユー

簡易レビュー。

 

あらすじ

シュイ・チン(リー・ゲンシー)は父と継母、弟と暮らしているが、家に居場所がない。また学校でも本当の友達はいなかった。しかし、ある時、自分を生んですぐに行方をくらませた母チュー・ティン(ワン・チエン)が16年ぶりに帰ってきた。過去のわだかまりをなくしたシュイ・チンは、母に居場所を求めていく。しかし、母にはとある秘密があって・・・

ポジティブ・サイド

高校の校舎および雰囲気が中国映画『 少年の君 』や韓国映画『 不思議の国の数学者 』のそれとよく似ている。学校=一種の監獄という構図が見て取れる。家にも学校にも、本当の居場所がないというシュイ・チンの境遇が映像だけで伝わってきた。

 

元々存在しなかった母親と親子というよりも友情に近い関係性を求めてしまうのもむべなるかな。その過程がアメリカ映画『 レディ・バード 』と対照的で面白かった。

 

色々と荒い面はあるが、主要キャラクターの感情や思考が言葉ではなく振る舞いで表されている。たった一組の母と娘の関係性を描きながら、中国社会の暗い位相が浮き彫りにした手腕は見事。

ネガティブ・サイド

ぴょんぴょんと元気に跳ね回る兎たちが、最後の最後に大暴走・・・なのだが、結末がなんとも尻すぼみ。終わりよければ全て良しと言うが、逆に言えば終わり悪ければ全て悪しになる。邦画『 MOTHER マザー 』のエンディングにも個人的には不満だったが、母たるチュー・ティンがもっと自己犠牲の精神を見せるか、あるいはさらなる暴走をして・・・と、もう一つ先の段階まで踏み込んでエンディングに繋げられなかったか。

総評

中国版の逆『 レディ・バード 』になりきれなかった作品。それでも母と娘の歪な関係の描写に、地域社会や現代中国の閉鎖性が垣間見えてくる。それにしても主役のリー・ゲンシーは良い役者だ。『 少年の君 』のチョウ・ドンユィにも驚かされたが、中国はルックスではなく演技力や監督の演出をそのまま体現できる表現力で役者が選ばれているようだ。粗削りだが、キラリと光るところもある作品。シェン・ユー監督の名前は憶えておきたい。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

元

ユアンと発音する。言わずと知れた中国の通貨単位。劇中で何度か200万元が話題になるが、何と言っているのか聞き取れなかった。2は多分、アールのはず。元はユアンとはっきり聞こえた。リスニングは難しい。が、語学学習は兎にも角にもリスニングから。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アステロイド・シティ 』
『 さらば、わが愛 覇王別姫 』
『 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, ヒューマンドラマ, リー・ゲンシー, ワン・チエン, 中国, 監督:シェン・ユー, 配給会社:アップリンクLeave a Comment on 『 兎たちの暴走 』 -やや竜頭蛇尾-

『 あしたの少女 』 -社会を覆う無責任の構造-

Posted on 2023年9月11日 by cool-jupiter

あしたの少女 70点
2023年9月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:キム・シウン ペ・ドゥナ
監督:チョン・ジュリ

簡易レビュー。

 

あらすじ

高校生のソヒ(キム・シウン)は大手ISPの下請けコールセンターで実習生として働き始める。ソヒはオペレーターとしてストレスフルな仕事を何とかこなしていた。しかし、厳しくも優しかった男性上司が会社の駐車場で自殺したことを知ったソヒは、徐々に精神的に摩耗していき・・・

 

ポジティブ・サイド

キム・シウンがいかにも韓国女子高生という気の強い役を見事に演じている。好きなダンスに真摯に打ち込む姿勢、友達との友情とその友情に徐々に入っていく亀裂、そして徐々に自分を失っていく様など、どれもリアリズムたっぷりに演じていた。こういう役者を抜擢して、妥協のない演出を施すあたりが韓国映画界らしい。邦画はいつになったら追いつけるのか。

 

実習生と聞けば、日本でも技能実習制度を思い起こさずにはいられない。ほっこりするエピソードが報じられることもあるが、過労死が疑われるケースや雇用側の暴力、被用者の逃亡など、ネガティブなニュースの方が圧倒的に多い気がする。それは隣国でも同じらしい。

 

後半はソヒの死を捜査する刑事オ・ユジンが主役となる。もっとも観ている側はソヒがどのように追い詰められていったのかをつぶさに見ているわけで、捜査で何の真実が明らかになるのかと思う。そこが本作の味噌で、学校や企業、役所、果ては家庭に至るまで無責任の構造が浸透していたことが明らかになる。これはショッキングだ。しかも、ユジンとソヒの意外な接点も明らかになり、刑事としてのユジンではなく一個人としてユジンも、ソヒの死に激しく揺さぶられることになる。

 

前半と後半の実質的な二部構成と、それぞれの主役である二人の女優の演技に圧倒される。そして物語そのものがもたらす苦みを忘れることは難しい。

 

ネガティブ・サイド

全体的にやや冗長な印象。ソヒのパートを70分、ユジンのパートを50分の合計120分にできなかっただろうか。

 

ソヒの父ちゃんがなんとなく『 焼肉ドラゴン 』のキム・サンホ的で、なんだかなあ・・・ もう少しちゃんと子どものことを見ようぜ、と思わされた。

 

ソヒの親友、ボーイフレンド、別の男の先輩との関係をもう少し丹念に描いてくれていれば、ソヒが特殊な境遇の女の子ではなく、どこにでもいる普通の高校生であるという事実がもっと強調されたと思われる。

 

総評

重厚な映画。『 トガニ 幼き瞳の告発 』のような後味の悪さというか、社会全般への怒りと無力感の両方が強く感じられる。ヘル・コリアなどと揶揄されることが多い韓国だが、日本社会も似たようなもの。韓国映画界は社会の暗部をさらけ出す映画を製作することを恐れないが、日本はどうか。『 福田村事件 』のような気骨のある作品を今後生み出せるだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ソンベ

先輩の意。韓国映画やドラマではよく聞こえてくる。ソンベニム=先輩様という使われ方もあるらしい。「先輩」という概念はあっても、それが実際に言葉として存在するのは日本と韓国ぐらいではないだろうか。中国映画もある程度渉猟して中国語ではどうなのか、いつか調べてみたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 兎たちの暴走 』
『 アステロイド・シティ 』
『 さらば、わが愛 覇王別姫 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, キム・シウン, サスペンス, ヒューマンドラマ, ペ・ドゥナ, 監督:チョン・ジュリ, 配給会社:ライツキューブ, 韓国Leave a Comment on 『 あしたの少女 』 -社会を覆う無責任の構造-

『 春に散る 』 -人間ドラマが中途半端-

Posted on 2023年8月28日 by cool-jupiter

春に散る 35点
2023年8月26日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:佐藤浩市 横浜流星 橋本環奈
監督:瀬々敬久

 

ボクシング映画ということで期待して劇場に赴いた。世間的にはどうか分からないが、個人的には「何じゃこりゃ?」という出来だった。

あらすじ

ボクサーの翔吾(横浜流星)は、偶然出会った元ボクサーの仁一(佐藤浩市)にボクシングを教えてほしいと頼み込む。やがて同居するまでになった二人は東洋太平洋タイトルマッチを実現させるが・・・

ポジティブ・サイド

意外にボクシングパートがしっかりしている。『 ケイコ 目を澄ませて 』のトレーナー役として爪痕を残した松浦慎一郎が今作でも躍動。原作が沢木耕太郎のせいか、実在のボクサーネタがちらほら。試合後に相手と抱き合い「強かったわ」と伝えるシーンの元ネタは薬師寺戦後の辰吉。仁一がボクシングを始めるきっかけになった平手のエピソードも辰吉由来。さらに仁一が言う「強いパンチと効くパンチは違う」というのはアドバイザーの一人、内山高志の言だったはず。チャンピオンがスーパーカーに乗っているというのも薬師寺の逸話。年来のボクシングファンなら色々と楽しめる小ネタが随所にある。

 

が、褒められるのは、そこまでだった・・・

ネガティブ・サイド

すべての人間ドラマのパートが中途半端だったという印象。仁一の家族の物語と、序盤の仁一の翔吾へのつっけんどんな態度が上手く結びついていない。自分が家族と上手く関係を構築できなかったから、ひたむきに自分に向き合おうとする若者に向き合うことに不安と恐怖があった、という描写がほぼ無かった。

 

橋本環奈演じる佳菜子と翔吾のなれそめは何だった?あのすれ違いざまの一瞬?大分の食堂で働いていたというバックグラウンドがあるのであれば、腹をすかせた小学生姉弟に弁当をプレゼントとするのもいいが、試合前の翔吾に効果的な減量食を振る舞ってあげるだとか、減量についてアドバイスする仁一や健三に「その知識はもう古い」と言ってやるといった描写が一切ないままに翔吾と佳菜子が接近していく展開はちょっと説得力に欠ける。

 

翔吾の最初のライバルである大塚のトレーナーに三羽ガラスの一人の次郎がつくという展開も意味不明。考えるボクシングを標榜してるんちゃうの?Sweet Science とは呼べないようなボクシングを期待のホープに叩き込むトレーナーを見て、山口智子演じる会長の令子は何を思うのか。いや、何も思っていないのか。

 

仁一の翔吾に対する指導も同じ。「パパ頑張れー」という家族の声援に思わず攻撃の手を緩めるというのは致命的。翔吾が自身のそうした甘さをどう乗り越えるのかに関心を抱いたが、とくにそうした描写はなし。おいおい・・・ さらにシレっと「今度の試合はキドニー・ブローが鍵になる」と指導していたが、それは反則パンチやんけ・・・

 

リングの中はなかなかの臨場感だったが、その他の部分がめちゃくちゃ。だいたい日本タイトルマッチまで行けるボクサーが、ライトクロスの知識を一切持っていないということが信じがたい。それに東洋太平洋タイトルを取った次戦が世界タイトルマッチというのも相当な異例。タイトルマッチが同国人同士で争われることを承認団体は普通あまり喜ばない。世界戦なのだから、指名挑戦者は当たり前として、世界各国のランカーと戦ってナンボというのが一応の建前である。そもそも窪田正孝演じる中西は噛ませ犬としてスーパーフェザー級王者と闘ったのではなかったか。なのに何故フェザー級のベルトをゲットできたのか。不可解極まりない。

 

最後の試合の最終盤のスローモーションは『 アンダードッグ 』のそれよりもさらに酷い出来で、失笑してしまった。中身を全部綿で満たしたグローブで役者の顔面を普通のスピードで殴る、それをスローモーション処理する、といった撮影方法は無理なのだろうか。

 

総評

残念ながら『 レッドシューズ 』と同レベルのチンプンカンプン物語。沢木耕太郎の原作もこうなのだろうか。キャストは豪華でも、肝心のストーリーにリアリティとしっかりしたドラマがなければ面白くなりようもない。邦画が『 百円の恋 』を超えるボクシング映画を生み出すのはいつのことになるのだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

protect

守る、の意。これは主として「危険から守る」という意味。野球の捕手や球審が身に着けるプロテクターを連想しよう。似たような語である defend は「敵から守る」という意味。これはスポーツや戦闘でディフェンスから覚えられるはず。guard はボディガード、ガードレールなど、より具体的なものを守る、あるいは具体的なものから守る場合に使う。翔吾が母親を守りたいと言っていたのは、protect の意味である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 神回 』
『 あしたの少女 』
『 17歳は止まらない 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ヒューマンドラマ, ボクシング, 佐藤浩市, 日本, 横浜流星, 橋本環奈, 監督:瀬々敬久, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 春に散る 』 -人間ドラマが中途半端-

『 658km、陽子の旅 』 -年間ベスト候補-

Posted on 2023年8月9日 by cool-jupiter

658km、陽子の旅 80点
2023年8月6日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:菊地凛子
監督:熊切和嘉

簡易レビュー。

 

あらすじ

陽子(菊地凛子)は従兄弟から父親の死を知らされる。葬儀のために青森に向かうという従兄弟の一家のクルマに同乗させてもらうが、アクシデントにより陽子はSAに取り残されてしまう。なんとか青森に向かうために、陽子はヒッチハイクを試みるが・・・

ポジティブ・サイド

クルマの中という一種の密室で虚飾のない人間の思考や感情が表出される。自分の部屋の中ですべてを完結させてきた陽子にとって心理的にキツイ時間と空間だ。そうして苦しさに耐えかねていたのが、やがて受容できるようになり、最後には自分自身の嘘偽りのない心情を吐露できるようにまでなった。その過程で出会う人々、彼ら彼女らとの関わり方、描き方がとてもリアルだった。

 

本作の特徴は徹底的に傍観者の視点を観客に与え続けること。しかし、ある一つのシーンだけは陽子の視点となる。そこが物語、そして陽子の心理的な転換点。そのシーンを境に陽子を苦しめていた父の亡霊は姿を消す。これは上手い演出だと感じた。

 

終盤のとある車内で、自らの旅について訥々と語る陽子には感動した。

 

引きのショットと孤独感、孤立感を演出しつつ、BGMで陽子の心情を奏でる。2023年のベストの邦画のひとつだ。

 

ネガティブ・サイド

『 スリー・ビルボード 』と同じ。余韻を残す前にもう1分欲しかった。

 

総評

中年女性のロードムービーと侮るなかれ、近年の邦画の中でも出色の出来映え。菊地凛子の渾身の演技の完成度は『 TAR/ター 』のケイト・ブランシェットのそれに勝るとも劣らない。老若男女問わず、多くの映画ファンに観てもらいたい傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

journey

旅を意味する英単語には travel や trip があるが、本作の陽子の旅を意味する語としては journey がふさわしい。travelは移動そのものが強調され、tripはいつもと少し違うところに行く(だからドラッグ体験を指してトリップと言う)ことだが、journeyはその旅を経ることで成長できるような体験を指す。英検1級を目指す、あるいは英語を本格的に教える人は知っておきたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 神回 』
『 セフレの 品格 プライド 』
『 リボルバー・リリー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 監督:熊切和嘉, 菊地凛子, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズLeave a Comment on 『 658km、陽子の旅 』 -年間ベスト候補-

『 リバー、流れないでよ 』 -タイムループものの秀作-

Posted on 2023年7月10日 by cool-jupiter

リバー、流れないでよ 70点
2023年7月2日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:藤谷理子
監督:山口淳太

嫁が観たいというのでチケット購入。『 MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない 』に次ぐタイムループものの秀作だった。

 

あらすじ

京都・貴船の老舗旅館で働くミコト(藤谷理子)は、ある時、自分が特定の2分間を繰り返していることに気づく。そしてそれは自分だけではなく、旅館の他の従業員や宿泊客も同じだった。一同は何とかしてループから抜け出そうと知恵を絞るが・・・

ポジティブ・サイド

タイムループものは小説でも映画でも数多く生み出されてきたが、ループの幅が2分というのは異例の短さではないだろうか。本作は2分という限られた時間のループをひたすら繰り返すことで、「次はどうなる?」、「え、これってどういうこと?」という観る側の思考を次から次に刺激してきて飽きさせない。

 

キャラクターたちの掛け合いも、基本全員が関西人(京都人)なのでノリがいい。高速の会話劇が旅館内部で、時には道路を挟んだ別館まで巻き込んで、従業員たち、そして宿泊客たちも巻き込んで、毎ループごとに少しずつ物語を進めていく。

 

途中で、ループの真相というか原因が明かされ、「まあ、京都やしな」と一瞬納得させられてしまう。だがしかし、真相はそんなものではなかった。正直、デウス・エクス・マキナなのだが、そこに至るまでが面白いので許せてしまう。『 ファウスト 』ならずとも「時よ止まれ」と思うことは誰にでもある。しかし未来は否応なくやって来る。現在とは、それを受け止める準備をすることなのだろう(つまり、本作は京都らしいハイデガー哲学の映画化なのだ)。

 

そうそう、ひとつ感心したのが、ミコトがループの最初に戻った瞬間に野鳥(コガラ)のディーディーディーという鳴き声が聞こえる時と聞こえない時があるが、それが聞こえる時にはミコトは真っ先に他の従業員のところに向かっていく(ように思えた)。だとすると山口監督、相当な手練れである。これから鑑賞する方はコガラの鳴き声にも注意されたし。

 

ネガティブ・サイド

刃傷沙汰になったり、自殺したりと、途中で結構ハラハラする展開になるのだが、ミコトが殺されるルートがありそうと思わせてなかったのは何故?絶対あの作家先生が行き詰っていた原因である、キャラクターの死生観とリンクしてくると思った。鞍馬山で、あの世界観の中で「私は天狗です」とか言ったら、かなりの確率で一回は撃たれると思うのだが。

 

総評

『 四畳半神話大系 』や『 四畳半タイムマシンブルース 』の脚本を担当してきた上田誠が、またしても京都を舞台にした良作を送り届けてくれた。記憶喪失ものとタイムトラベル or タイムループものは、オープニングが抜群に面白く、しかし最後は尻すぼみというパターンが非常に多い。本作もまさにそのパターンにはまっているのは残念。けれど、まあ、そこに至るまでに散々楽しませてくれるから良しとしようではないか。ちなみにJovianはこの夏もしくは秋に嫁さんと貴船旅行に行くことにした。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

break the loop

ループを解く、の意。反対は get stuck in a loop = ループにはまる。近年でも『 パーム・スプリングス 』が製作されたように、タイムループものは定期的に出てくる。なので、映画ファンかつ英語学習者なら、これらの基本的な表現は知っておいていいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 忌怪島 きかいじま 』
『 探偵マリコの生涯で一番悲惨な日 』
『 Pearl パール 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, SF, ヒューマンドラマ, 日本, 監督:山口淳太, 藤谷理子, 配給会社:トリウッドLeave a Comment on 『 リバー、流れないでよ 』 -タイムループものの秀作-

『 水は海に向かって流れる 』 -ストーリーに焦点を-

Posted on 2023年6月26日 by cool-jupiter

水は海に向かって流れる 40点
2023年6月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:広瀬すず 大西利空
監督:前田哲

 

簡易レビュー。

あらすじ

高校生の直達(大西利空)は、通学のため叔父・茂道の家に引っ越すことに。しかし最寄り駅に迎えに来たのは、見知らぬ女性・榊さん(広瀬すず)だった。案内された先はシェアハウスで、漫画家の叔父や女装の占い師たちとの奇妙な同居生活が始まった。そんな中で、直達はいつも不機嫌な榊さんと自分の間に思わぬ因縁が存在したことを知り・・・

ポジティブ・サイド

広瀬すずがムーディーな20代女子を演じきった。天真爛漫女子校生役からは確実に脱却しつつあるようだ。中身が未成熟なままに大人になってしまったという難しい役だったが、代表作とは言えないまでも、近年の出演作の中では上位に来る好演だったと思う。

 

北村有起哉のキャラが良い意味で悪い印象を残してくれる。情けない男なのだが、それでも同じ中年のオッサンとしてはこの男を応援せずにはおれない。そんなキャラ。『 終末の探偵 』に続いて応援したくなった。

 

ネガティブ・サイド

主役の脇を固めるキャストも豪華だが、それらが全く活かしきれていない。高良健吾が脱サラして漫画家になっているのは良いとしても、今どきあんな格好で漫画描くか?生瀬勝久の大学教授役というのも単に都合のいい狂言回し。色々なキャラが登場しまくるが、役割が一つしかないか、あるいは全くない。

 

直達が榊さんに惹かれていく必然性を感じさせるシーンや描写が不足している。たとえば女ものの下着を同居の占い師のものだと思って見ていたら榊さんのものだったとか、トイレにある見慣れない置物の正体を知って一人赤面してしまうだとか、15歳のガキンチョらしさが全くなかった。その逆に、何故にその年齢でそこまで老成、達観しているのかという背景の描写もなかった。原作の小説にはおそらく丹念な描写があるのだろうが、本作は映像でそれを物語ることを一切放棄してしまっている。

 

と同時にキャラクターの心情を時に台詞ですべて説明してしまっている。小説なら文字に頼るしかないが、映画でこれはアカンでしょ。最も典型的だったのは直達のクラスメイト、當真あみの演じた楓だろう。そこでそれを台詞にするか?他にも表情や映像で物語るべきシーンがいくつも説明台詞に取って代わられていた。小説を映画にすることは否定しないが、小説を映像化することには反対である。

 

総評

ほとんどのキャラクターの深堀りが上手く行っておらず、主役の二人の複雑な関係が徐々にほぐれていく過程に特に寄与しない。なので、シェアハウスという舞台そのものに魅力も必然性も感じない。直達も鈍さと鋭さの両方が際立つ変な少年で感情移入が難しかった。広瀬すずのファンなら彼女の新境地を楽しめるのだろうが、普通の映画ファンには少々勧め辛い。貯まったポイントの消化を本作でする、というのは一つの手かもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

shared house

日本語で言うところのシェアハウスの意。分詞の前置修飾というやつである。a used car =中古車、a broken pencil =折れた鉛筆、の仲間である。share house という言い方もあるらしいが、shared house の方が遥かに一般的なので、こちらを使おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・フラッシュ 』
『 告白、あるいは完璧な弁護 』
『 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 大西利空, 広瀬すず, 日本, 監督:前田哲, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 水は海に向かって流れる 』 -ストーリーに焦点を-

『 渇水 』 -この流れは変わるのか-

Posted on 2023年6月17日 by cool-jupiter

渇水 75点
2023年6月11日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:生田斗真 磯村勇人 門脇麦 山崎七海 柚穂
監督:高橋正弥

 

簡易レビュー。

 

あらすじ

水道局員の岩切(生田斗真)は、水道料金未納者の自宅を訪れ、日々黙々と停水を執行していた。ある日、とある母子家庭で見かけた恵子(山崎七海)と久美子(柚穂)の姉妹に、別居して暮らしている我が子の姿を見出した岩切は、生き方の流れを変えたいと徐々に思い始め・・・

 

ポジティブ・サイド

生田斗真といえば『 土竜の唄 』シリーズのイメージが強いが、本作のような陰のある男の役も板についてきた。少し年の離れた相棒かつ友人の木田を演じる磯村勇人も等身大の公務員を好演した。

 

日照り続きで給水制限あり、断水も視野に入る中、一軒一軒を停水させていく。規則だからと言えばそれまでだが、手洗い所、風呂場、台所、トイレのすべてが使えなくなるわけで、健康で文化的な最低限度の生活を破壊する行為だろう。もちろんカネさえ払えばOKなのだが、借金の取り立ての方がまだ精神衛生を保てるのではないか。

 

そんな心を無にした公務員が、過酷な家庭環境・社会環境で生きることを余儀なくされる幼い姉妹に心動かされ、行動までも変えていく姿を感動的にではなく悲壮感たっぷりに描くところが独特にして秀逸。

 

門脇麦が出ている作品はだいたい面白いという個人的仮説がまた補強された一作。

 

ネガティブ・サイド

岩切の決定的な変わり目を描く滝のシーンで、ギターのBGMは必要だったか?うるさいだけに感じたが。

 

最後の最後がファンタジー展開。誰もが天気予報にかじりついているであろう状況で、あの展開は白けてしまった。

 

総評

着地に失敗した感は否めないが、そこまでの展開はほぼパーフェクト。姉妹二人で生きようとする姿は『 火垂るの墓 』の清太と節子を思い起こさずにはいられなかった。それを乾いた眼差しで見つめる男が、いつしか人間らしさを取り戻していく様は非常に見応えがある。生田斗真ファンならずともチケット購入を推奨したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

tap water

「水道水」の意。TOEICでもたまに出るかな?昔のTOEFL ITPだと、Listening の Part B で結構よく出ていた気がする。The tap is dripping / The faucet is leaking. = 蛇口から水道水がぽたぽた漏れている、という表現は知っておいていいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 水は海に向かって流れる 』
『 M3GAN/ミーガン 』
『 ザ・フラッシュ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 山崎七海, 日本, 柚穂, 生田斗真, 監督:高橋正弥, 磯村勇人, 配給会社:KADOKAWA, 門脇麦Leave a Comment on 『 渇水 』 -この流れは変わるのか-

『 怪物 』 -視点によっては誰もが怪物-

Posted on 2023年6月7日 by cool-jupiter

怪物 75点
2023年6月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太
監督:是枝裕和

 

簡易レビュー。

 

あらすじ

シングルマザーの早織(安藤サクラ)は一人息子の湊(黒川想矢)が、学校の教師にいじめられていると感じ、学校に抗議に出向く。しかし、校長やその他の教師、当事者の保利(永山瑛太)は形式的な謝罪を繰り返すばかりで・・・

 

ポジティブ・サイド

モンスターペアレントという言葉があるが、小中校だけではなく大学でもたまに出てくるから始末に困る。普通、成績の疑義照会というのは学生本人が申請してくるものだが、そこに親が乗り込んできて「こっちは授業料を払ってるんだ!」と主張する。学校や授業を委託された弊社としては粛々とこれはこうであれはああで・・・と対応するしかないが、そもそも親が出てきている時点で納得するはずがない。普通なら親が我が子を叱り飛ばして終わりなのだが、そうならなかった時点でモンペ確定である。

 

夏でもかたくなに長袖を着続ける。教室内でもバンダナや帽子を取らない。講師と目を合わせられない。ペアワークもできない。要配慮学生というのは学校から通知があるからすぐに分かるが、それ以外の教室で授業をしてみて「ん?何だこの子は?」という学生もたまにいる。Jovianは本作を観ていて、自分の授業風景を思い出した。最初から保利先生側で本作を観てしまった。こういう鑑賞者はかなりマイノリティなのではないかと思う。

 

湊と依里の淡い友情、その関係の発展、そして結末。そうしたものすべてを明示しない。ある意味で、観る側に解釈を委ねる、あるいは突きつけると言ってもいいかもしれない。それを心地よいと感じるか、不快に感じるか。それはその人の持つ人間関係の濃さ(あるいは薄さ)によって決まるのかもしれない。



ネガティブ・サイド

一番最初のシーンはばっさりカットしても良かったのでは?冒頭のとある出来事とそれを見つめるキャラクターたちを意識することによって、誰が何に関わっていて、逆に誰が何に関わっていないのかを徐々に明らかにしていく構成だが、最初の部分をトイレに行って見逃したJovian妻と鑑賞後にあれこれ語り合ったところ、Jovian妻の方が明らかに物語の謎に引き込まれ、楽しんでいた。

 

校長も湊を相手に自白する必要はなかったように思う。スーパーでのさりげない行為だけで、キャラクターがどういったものかが十全に分かる。

 

総評

非常に複雑な映画。世の中は白と黒にきれいに分けられる訳ではない。わが師の並木浩一と奥泉光風に言えば「現実は多層である」になるだろうか。人間関係は傍目から見ても分からない。教師と生徒でも、親と子でも、分からない時には分からない。そうした現実の複雑さと、一種の美しさや清々しさを描いた非常に複雑で上質な作品。親子や夫婦で鑑賞すべし。人の見方とはかくも難しい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fix

依里の父親が依里に「俺がお前を治して(直して)やる」と言うが、これを英訳すれば I will fix you. となるだろうか。fix は色々なものを直す/治すのに使えるが、これには性格や性質も含まれる。英語の映画やドラマでは時々 “Fix your character!” =「その性格を直せよ!」という台詞が聞こえてくる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 The Witch 魔女 増殖 』
『 65 シックスティ・ファイブ 』
『 アムリタの饗宴/アラーニェの虫籠 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ヒューマンドラマ, 安藤サクラ, 日本, 柊陽太, 永山瑛太, 監督:是枝裕和, 配給会社:ギャガ, 配給会社:東宝, 黒川想矢Leave a Comment on 『 怪物 』 -視点によっては誰もが怪物-

『 クリード 過去の逆襲 』 -父親殺しに失敗-

Posted on 2023年6月4日 by cool-jupiter

クリード 過去の逆襲 50点
2023年5月28日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マイケル・B・ジョーダン ジョナサン・メジャース テッサ・トンプソン
監督:マイケル・B・ジョーダン

好物のボクシングもの。スタローンが出演しないのが吉と出るか凶と出るか。

 

あらすじ

アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)は世界王者として引退し、家族と共に幸せに暮らしながら、ジムの後輩の面倒を見ていた。ある日、刑務所から出てきた幼なじみのデイム(ジョナサン・メジャース)が現れ、かつての夢だった世界王者を目指したいと言う。負い目のあるアドニスはデイムをジムに招き、世界王者のフェリックスのスパーリングパートナーにするが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 クリード 炎の宿敵 』でドラゴの息子との二度の激闘を経て、これ以上語るべきドラマがあるのかなと思っていたところ、確かにあった。『 クリード チャンプを継ぐ男 』で、引き取られる前のアドニスは荒くれ非行少年だった。ここに物語の鉱脈を見出した脚本家は did a good job だろう。

 

デイムを演じたジョナサン・メジャースのヴィランっぷりが素晴らしかった。『 アントマン&ワスプ クアントマニア 』のカーンには「ギャグかな?」と感じたが、本作では根っからの悪人ではなく正当性のある悪人、執念の悪人を演じきった。監督でもあるジョーダンの演出なのか、本人の役作りなのか。凄みのある演技だった。売れてきたところで、いきなりキャリア終了の危機だが・・・ 

 

デイムがいきなり世界戦というのは荒唐無稽にもほどがあるが、作中で述べられていた通り、『 ロッキー 』自体がそういう荒唐無稽な話だったし、その元ネタであるチャック・ウェプナーの経歴がデイムとよく似ている。色々な意味でクリードの物語ながら、ロッキーへのオマージュも忘れていない。

 

スタローンが出てこない=『 ロッキー 』シリーズからの独立、とも言える。もちろん、権利関係でスタローンが色々と主張していて、残念ながらそこに法的根拠がないことは明白。ならばと、アポロ・クリードの息子たるアドニス・クリードが前二作を通じて、アポロという父を失い、ロッキーという父を得て、さらに本作で自らが父となり、そして精神的・文学的な意味でロッキーという父親を敢えて殺すために、自らの少年時代と決別する、つまり完全に大人になる、というプロットは筋が通っていた。

 

ネガティブ・サイド

フェリックスの線が細すぎて、とてもヘビー級とは思えない。せいぜいスーパーミドル級ぐらいにしか見えない。もっといかにもヘビー級然とした役者をキャスティングできなかったのか。

 

少年時代の過ちに決着をつける必要があるというのは分かるが、デイムに耳を傾けてもらう方法がリングの中で戦うことだけだとは思えない。たとえば、アドニスにメディアの前で過去の罪を自白させるとか、あるいはF・メイウェザーがやっていたようなエキシビション・マッチを提案することもできただろう。それでは一般大衆が納得しない、ということでアドニスの現役復帰というストーリーなら納得できたのだが。

 

二人の対決が観客を置き去りにした、監獄の中での殴り合いになる演出は悪くないと思うが、そこに至るまでのドラマがリングの中にない。アドニスが引退試合でデイムから得た観察力を発揮していたり、あるいはデイムが獄中でもアドニスのすべての試合をつぶさに観ていた、ということが感じられるようなシーンがなかった。そうした二人だけが理解できるボクシングの世界から、観客やセコンドを置いてきぼりにした殴り合いの世界に没入するという流れは構築できなかったのか。

 

Going the distance を流すのも中途半端。ロッキーには敬意を表しつつも、クリードの物語だということを徹底して欲しかった。

 

総評

面白いと思える部分と、イマイチだなと感じる部分が同居する作品。スタローンが出てこないことで、あらためて『 ロッキー 』というシリーズの重みが感じられた。ただ、マイケル・B・ジョーダン演じるアドニスというキャラの魅力は全く損なわれていないし、『 トップガン マーヴェリック 』のように次世代への継承を大いに予感させる終わり方も悪くない。20年後にアマラがボクサーになって、『 ケイコ 目を澄ませて 』的なドラマを盛り込みつつ、レイラ・アリ vs ジャッキー・フレイジャー、またはレイラ・アリ vs クリスティ・マーティンのような試合を見せてくれるのなら、それはそれで歓迎したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a Creed

学校では「人名には不定冠詞 a はつけない」と教えるが、実はつけることもある。一番よくあるのは a + 名前 = その一族の一人という意味。『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』のカイロ・レン “You are a Palpatine.” がその代表例か。他には「そういう名前の人」という用法。I’m looking for a Ken Smith. = ケン・スミスという人を探しているのですが、のように使う。もう一つは「その名前のような偉大な人」という用法。We need a Steve Jobs now. = 我々には今こそスティーブ・ジョブズのような異能の人が必要だ、のように使う。英語教師を目指す人だけ覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 The Witch 魔女 増殖 』
『 65 シックスティ・ファイブ 』
『 怪物 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, アメリカ, ジョナサン・メジャース, スポーツ, テッサ・トンプソン, ヒューマンドラマ, ボクシング, マイケル・B・ジョーダン, 監督:マイケル・B・ジョーダン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 クリード 過去の逆襲 』 -父親殺しに失敗-

『 TAR/ター 』 -虚々実々の指揮者の転落-

Posted on 2023年5月31日 by cool-jupiter

TAR/ター 65点
2023年5月27日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ケイト・ブランシェット
監督:トッド・フィールド

『 アイズ・ワイド・シャット 』のトッド・フィールド監督作品。仕事がしばらく繁忙期なので簡易レビュー。

 

あらすじ

ベルリンフィル初の女性首席指揮者となったリディア・ター(ケイト・ブランシェット)は、その地位に見合った数多くの仕事に忙殺されながらも充実した日々を送っていた。しかし、かつての劇団員に関する不穏な情報が入ったことで、彼女のキャリアに曇りが生じ始めて・・・

以下、ネタバレあり

ポジティブ・サイド

ケイト・ブランシェットの演技が光る。キャリアの絶頂からの転落が、公私両面から緻密に描かれており、そのディテールへのこだわりが観る側を引き付ける。

 

途中で加わるロシア人チェリストがなかなかの曲者。一種のスパイなのか、それとも本当にターに心酔する者なのか。そのあたりが虚々実々に描かれていて、ミステリおよびサスペンス要素が大いに盛り上がる。

 

最後の最後がゲーム『 モンスターハンター 』のコンサートなのには笑ってしまった。『 蜜蜂と遠雷 』で触れた通り、Jovianは作曲家の裏谷玲央氏と懇意にさせて頂いているので、モンハンはプレーはしていないが、サントラは買っている。

 

リディア・ターには転落なのかもしれないが、新しい発見の旅への one for the road とも言える展開だろう。ターを英雄的にも悪人としても、一色に染め上げないという両義性に満ちた作品である。

 

ネガティブ・サイド

ピークが序盤のインタビューとジュリアード音楽院でのレクチャーに来ていて、肝心の演奏シーンに来ていない。マーラーでもバーンスタインでも何でもよいので、一曲まるまる聞かせてくれても良かったのではないか。

 

私生活では様々なものがターを蝕んでいくが、メトロノームはやりすぎに思える。こんなもん、犯人1人しかおらんやんけ。それに気付かぬリディア・ターではあるまいに。

 

総評

指揮者ものとしては、個人的には『 セッション 』の方が好きかな。ターという女傑キャラの強烈さだけは『 セッション 』のJ・K・シモンズや『 女神の見えざる手 』のジェシカ・チャステインに匹敵する。ケイト・ブランシェットの演技を存分に堪能すること主目的に鑑賞しよう。

 

Jovian先生のワンポイントドイツ語レッスン

danke

ドイツ語でいうところの thank だが、Danke! となると Thanks! または Thank you! となる。Danke schön! とすれば、Thanks very much! または Thank you very much! である。何語に依らず外国語の語彙学習は「ありがとう」から始めるのが良いように思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 The Witch 魔女 増殖 』
『 65 シックスティ・ファイブ 』
『 クリード 過去の逆襲 』

 

 

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