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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 おと・な・り 』 -音と大人とお隣と音鳴りの物語-

Posted on 2018年10月14日2019年10月31日 by cool-jupiter

おと・な・り 70点
2018年10月11日 レンタルDVD鑑賞
出演:岡田准一 麻生久美子
監督:熊澤尚人

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タイトルはおそらくquadruple entendreになっている。【音】、【大人】、【お隣】、【音鳴り】の4つの意味が考えられる。これは音を鍵にした物語であり、二人の30歳の大人の物語であり、その二人は同じアパートのお隣さん同士であり、音を媒介に人と人とが繋がる物語である。

 

あらすじ 

風景専門の写真家に転向したいのだが、事務所や仕事の状況がそれを許してくれない野島聡(岡田准一)。フランスに留学し、フラワーデザイナーになるという目標に邁進する登川七緒(麻生久美子)。同じアパートに住む隣人同士だが、顔を合わせたことはない。しかし。幸か不幸か、安普請のアパートで互いの生活音や大きな声は筒抜け。二人には奇妙な連帯感が生まれていた・・・

 

ポジティブ・サイド

「基調音」は、『 羊と鋼の森 』のレビューで概説した、サウンドスケープの構成概念である。街行く人の多くがイヤホンで耳をふさぎ、個人の趣味や学びに没入する時代であるが、それでも自分の生活圏やコミュニティ特有の音というものには親しんでいるはずである。おそらく多くの人がお盆や年末年始に帰省することで、それを実感しているものと思われる。例えば都会に住んでいる人が地方の田舎に帰れば、静けさと鳥や虫の鳴き声などに驚き癒され、あるいは田舎の人間が大都市に出てくれば、電車や車の走行音や人々の雑踏に驚き煩わされるかもしれない。基調音は、読んで字のごとく生活のベースに根付いた音なのである。そういう意味では、我々が基調音を最も意識するのは、基調音が存在しない時と言えるであろう。

 

本作で聡が出す声や音、七緒が出す声や音は、互いの生活リズムに深く刻まれている。その基調音が非在の時、もしくはそこに強烈なノイズが混じった時、自分はどう感じるのか。どう動くのか。そんなことを思わず考えさせられてしまう。

 

また30代という、難しい年齢そのものがテーマにもなっている。ステレオタイプな見方を本作は採るが、男は自分のキャリアの方向性について大きな決断を迫られ、女は恋愛や結婚に向けて動くべきなのか、それともキャリアを追求すべきなのかを迫られる。迫られる、という受動態に注目されたい。自分にその選択を迫ってくる主体は誰なのか、何であるのか。それは両親かもしれないし、友人かもしれないし、知人かもしれないし、上司かもしれないし、耳を傾けることを拒否してきた自分の内なる声かもしれない。本作は、その内なる声を、非常に独創的な方法で鑑賞者に聞かせる手法を取る。これは上手い。女性をロマンティックに誘う時には、相手に本音を言わせてはならない。女性を怒らせる時には、相手に喋らせる。個人差はあるだろうが、女性という生き物は確かにこのような性質を有しているようだ。

 

映画というのはリアルを積み重ねて、面白さを追求していく媒体であり芸術だ。そして、我々が最もリアルを感じるのは、キャラクターに共感できた時なのである。そうした意味で本作は30歳前後で人生の岐路に立つ男女に、大きな示唆を与えうる作品である。

 

また、エンディング・クレジットにも注目、いや注耳してほしい。陳腐と言えば陳腐だし、画期と言えば画期的な仕掛けが施されている。レンタルする方は最後までしっかりと鑑賞をしてほしい。

 

ネガティブ・サイド

ペーシングにやや難ありと言わざるを得ない。まるで韓国ドラマを観ているかの如く、「早く出会え、早く気付け」と思わされてしまう。また、そこに至るまでにSHINGOの話を引っ張りすぎている。谷村美月は素晴らしい仕事をしたが、彼女の出演シーンはもう3分は削れただろう。それを岡田准一と麻生久美子のパートに費やして欲しかった。しかし、それを見せずに想像させるのも、一つの手法として認められるべきだろう。音がテーマの本作なら尚更である。なので、このあたりのネガティブな評価は意見が分かれるところだろう。

 

もう一つケチをつけるとするなら、岡田准一のカメラマンとしてのたたずまいが少し弱い。風景専門のカメラマンならば、『 LIFE! 』におけるショーン・ペンのような雰囲気を醸し出して欲しかった。つまり、ベストショットを撮れるまで辛抱強く待ち構える根気と、ベストショットを嗅ぎつける動物的な嗅覚である。もちろん、かつて写真を撮った橋の、度の位置のどの方角かまでしっかりと記憶しているというプロフェッショナリズムは垣間見えたが、もっとカメラマンを演じて切ってほしかった。これも無い物ねだりだろうか。

 

総評

非常に完成度の高いヒューマンドラマに仕上がっている。2009年の作品だが、岡田准一のキャリア自身も投影されていたのではないだろうか。アイドルとしての自分と俳優としての自分。どの道を選択し、究めようとするのか。そのあたりの人生の岐路を役に託して撮影に臨んだのかもしれない。その他、麻生久美子、岡田義徳、市川実日子、森本レオらも素晴らしい仕事した。アラサーに大きな示唆を与えうる映画であるし、キャリアや人間関係にストレスを抱える人の鑑賞にも耐える作品である。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2000年代, B Rank, ラブロマンス, 岡田准一, 日本, 監督:熊澤尚人, 配給会社:ジェイ・ストーム, 麻生久美子

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