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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: スリラー

『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』 -韓国産ゾンビ映画の傑作-

Posted on 2020年5月17日 by cool-jupiter

新感染 ファイナル・エクスプレス 75点
2020年5月16日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:コン・ユ チョン・ユミ マ・ドンソク チェ・ウシク シム・ウンギョン
監督:ヨン・サンホ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200517120849j:plain
 

COVID-19のおかげでゾンビ映画的な世の中が現実化してしまった。だが、いち早くCOVID-19を抑え込んだ(ように現時点では見える)国もある。そう、韓国である。その韓国が生んだ傑作ゾンビ映画を、今というタイミングで見直す意味はきっとあるはずである。

 

あらすじ

ファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)は離婚調停中。一人娘のスアンが釜山に向かうのに随行するため高速鉄道KTXに乗る。その頃、各地では謎のゾンビが出現していた。そして、KTX車内にもゾンビの影が迫って・・・

 

ポジティブ・サイド

『 トガニ 幼き瞳の告発 』のコン・ユが嫌な奴に見える。これはすごいことである。もちろん、そうした人間が変化していく様を描くことが本作の眼目の一つであるが、コン・ユという俳優の高い演技力を大いに堪能できるのが本作の収穫である。子役のスアンと顔立ちが似通っているという点もポイントが高い。親子であるという説得力が生まれ、だからこそコン・ユのダメな父親としての演技が光る。演技力という点ではKTX車内にゾンビウィルスを持ち込むシム・ウンギョンの演技も見逃せない。ゾンビ映画の文法に忠実に乗っ取りながらも、動けるゾンビを新しい形で提示した。特に子泣き爺的に標的にかぶりつく動作は、かまれている女性の火事場の馬鹿力的な描写とあいまって、妙なリアリティがあった。だが、なんといっても娘スアンの魂の泣き声の悲痛さよ。日本でもこれぐらいの金切り声で泣ける子役が欲しい。

 

ゾンビが跋扈する世界の恐ろしさは無論、襲い掛かって来るゾンビにある。だが、それ以上の恐怖は人間同士が疑心暗鬼になることだ。もっと言えば、その人間の本性が露わになることと言ってもいい。主人公のソグが自分と娘だけが助かればいいと身勝手な考えに囚われている中で、周囲の人間も自己中心的になる者、利他的になる者と分断されていく。

その過程の描写がねちっこい。特に必死で最前線を潜り抜けてきた者たちに対して容赦なく浴びせられる罵詈雑言は聞くに堪えない。胸が痛む。まるで現今の日本の医療従事者の家族へのいじめのようではないか。こうした、必死に戦う者への差別的な言動は普遍的に見られるもののはずである。なぜなら世界中のゾンビ映画に共通する文法だからである。クリシェと言えばクリシェであるが、今という時代に見返すといくつも発見がある。

 

ゾンビ発生の原因の一端を主人公ソグが担っていたという設定もなかなか良い。本作は詰まるところ、韓国社会における富裕層と中流層、そして下層社会民の分断を遠回しに批判しているのだ。マネーゲームに興じられるような強者の横暴が、巡り巡って大多数の庶民に多大な迷惑と被害を与えているのだぞ、というのが本作の脚本家と監督のメッセージである。いやはや、これはかなりの傑作である。

 

ネガティブ・サイド

走るゾンビは世界的にもだんだんと描かれるようになってきているが、本作でも健在。だが、上空のヘリコプターから落ちてきたゾンビやどう見ても脚や背骨が損傷しているだろうゾンビまでもが走りまくるのはいかがなものか。腕が異様な方向に曲がったまま走るゾンビは面白かったので、もっと足を引きずるゾンビ、高速で這うゾンビなど、走る以外の方法で迫りくるゾンビも見たかった。これは贅沢か。

 

途中、コン・ユ、マ・ドンソク、チェ・ウシクでパーティーを組むところで何故か上着を抜き出す男たち。いや、皮膚の露出は抑えろ。それに、携帯を使ってのトラップはなかなか良かった。であるならば、各車両に残された荷物を漁って、もっと使えそうなアイテムを探すべきではないか。女性もののカバンにはかなりの確率でスマホが入っているだろうし、旅行客の荷物ならタオル類などもあるだろう。力業以外の知恵の部分がもう少し見たかった。

 

ラストはかなり評価が分かれるところだろう。『 殺人の追憶 』や『 母なる証明 』のように、「え?」と思わせるエンディングの方が結果的によりドラマチックに、よりシネマティックになったのではないだろうか。

 

総評

本邦でも『 カメラを止めるな! 』や『 アイアムヒーロー 』、『 屍人荘の殺人 』など、近年でもゾンビ映画は制作され続けている。おそらくゾンビ映画もしくは未知のウィルス系の作品はメジャーやインディーを問わず今後も世界的な需要があるだろう。そこで日本はどんな作品を世に問うことができるか。本作は邦画が乗り越えるべき一つのハードルを示していると言える。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

クロニカ

「だから」の意味。「パパは自部勝手だ。だからママも逃げたんだよ」というセリフがあったが、話の文脈がはっきりしていると、どんな言葉もインプットしやすい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, コン・ユ, シム・ウンギョン, スリラー, チェ・ウシク, チョン・ユミ, パニック, マ・ドンソク, 監督:ヨン・サンホ, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』 -韓国産ゾンビ映画の傑作-

『 パズル 戦慄のゲーム 』 -韓国製ピエロ映画の失敗作-

Posted on 2020年5月11日 by cool-jupiter

パズル 戦慄のゲーム 30点
2020年5月11日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:チ・スンヒョン
監督:イム・ジンスン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200511220816j:plain
 

近所のTSUTAYAがうるさいぐらいに『 ジョーカー 』と『 IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 』を宣伝している。ひねくれ者のJovianは、だったら別の道化ものを借りてやるぜ、とジャケットだけでレンタルを決めた。

 

あらすじ

広告代理店で順調に出世を重ねるドジュン(チ・スンヒン)だったが、妻と娘は遠くカナダはバンクーバーに暮らしていた。妻に対して猜疑心を抱くドジュンは、偶然に知り合った女性セリョンと怪しげなクラブで一夜の関係を持つ。だが、気が付くとセリョンが殺害されていた。誰が、何の目的で?ほどなくして、ドジュンの携帯に脅迫のメッセージが届き・・・

 

ポジティブ・サイド

同じ駄作は駄作でも『 パズル 』よりは良い出来である。オープニング・シーンが『 聖女 Mad Sister 』と同じで、ハンマーを引きずる主人公の姿なのだが、制作はこちらの方が早いらしい。まさか本作が『 聖女 Mad Sister 』に影響を与えたとは思わないが・・・

 

以外にも色々な形で伏線はフェアに張られている。特に中盤の追走シーンでは、多くの人が「何だこれは?」と違和感を覚えるところがあるが、これは監督の意図したものであることは間違いない。終盤あたりからその「演出」がもっと目に見える形で現れてくる。はっきり言ってクリシェであるが、これはこれで一応受け入れてよいのだろう。

 

アクションシーンはなかなかに面白い。何故に普通のリーマンがここまでスラッシャーに変貌するのだと思わせるが、たとえ無意味に思えてもバイオレンスを放り込んでこその韓国映画。『 殺人の告白 』も無意味なアクションだと思えるところに限って、やたらと力が入っていた。

 

ネガティブ・サイド

主人公のhand to hand combatのアクションはまだ許せても、銃を触ったことがないような一般人女性が引き金を引くのが気に入らない。のみならず、ズドンと急所に命中させるところはもっと気に入らない。実弾を撃ったことがある方にはお分かりいただけようが、素人は5m離れれば、まず的には当たらない。十数年前にLAで5mの距離から20発ほど外したJovianが断言する(そういう意味では『 アジョシ 』のラストのガンアクションにはリアリティがあったと改めて妙に納得)。

 

ストーリーの発端となるドジュンの濡れ場のシーンにはエロスが足りない。というか、敢えて嫌な言葉使いをさせてもらえれば商売女なのだから、もっとサービスしろと言いたい。『 オールド・ボーイ 』のミドのまぐわいを100回鑑賞しろと言いたい。脱ぐだけではダメなのだ。脱いだからには色気を感じさせなければならないし、極端に言えば脱ぐ前から色気を発していなければダメだ。それがプロだろう。

 

肝心のオチが正直なところ、あまりにもひどい。二十数年前の『 世にも奇妙な物語 』で見たことがある気がするし、洋の東西を問わずアホほど量産されてきたプロットの焼き増し再生産に過ぎない。そこに新味を加えるべく一捻りを加えてきたが、これは逆効果。このあたりについてはイム・ジンスン監督は『 イニシエーション・ラブ 』を100回鑑賞してみてほしいもの。

 

総評

一言、失敗作である。アクションと流血描写だけはまあまあ楽しい。が、それだけである。ピエロものを観たいのならば『 仮面病棟 』や『 ピエロがお前を嘲笑う 』を観るべし。よほど手持無沙汰な人がちょうど90分を潰したい、という向きにしか本作はお勧めできない。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語会話レッスン

チンチャミアナダ

 

「本当にごめんな」の意である。チンチャは『 母なる証明 』で紹介した言葉で、ミアナダは『 国家が破産する日 』で紹介したミアネの語尾が変化したもの。外国語学習ではある程度ボキャブラリーを蓄えたら、今度はそれを組み合わせる段階に進むべきである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, スリラー, チ・スンヒョン, 監督:イム・ジンスン, 韓国Leave a Comment on 『 パズル 戦慄のゲーム 』 -韓国製ピエロ映画の失敗作-

『 マローボーン家の掟 』 -精緻に作られた変則的スリラー-

Posted on 2020年4月21日 by cool-jupiter

マローボーン家の掟 65点
2020年4月20日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジョージ・マッケイ アニャ・テイラー=ジョイ
監督:セルヒオ・G・サンチェス

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200421164937j:plain
 

アニャ・テイラー=ジョイが出ていたら、とりあえず観る。それがJovianのポリシーである。『 1917 命をかけた伝令 』で堂々たる演技を見せたジョーイ・マッケイも英国紳士然としていて好感が持てる。これはきっと良く出来たクソホラーに違いない。そう思っていたが、どうしてなかなかの佳作であった。

 

あらすじ

辺鄙な街はずれで暮らすマローボーン家。長男のジャック(ジョージ・マッケイ)はアリー(アニャ・テイラー=ジョイ)と恋仲になっていた。しかし、母ローズが亡くなってしまう。兄弟たちはジャックが法的に成人と認めらる21歳になるまで、母の死を秘匿することを誓う。だが、虐待者であり殺人者の父の影が屋敷に迫っていて・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200421165002j:plain
 

ポジティブ・サイド

どこかロン・ウィーズリー/ルパート・グリントを思わせる顔立ちのジョージ・マッケイが輝いている。母代わりに一家を主導する者として、青春のただ中の青年として、そして父親に立ち向かう長兄として、様々な役を一手に引き受けている。『 1917 命をかけた伝令 』でも序盤はあどけなさを残しつつ、中盤のある女性との交流からエンディングまでの流れで一人前の男の顔になっていた。なんとも男前な役者である。

 

本作のテイストを一言で説明するのは難しい。『 ヘレディタリー/継承 』と『 スプリット 』と『 ジョジョ・ラビット 』を足した感じとでも言おうか。ジュブナイルで始まり、サスペンスが盛り上がり、スーパーナチュラル・スリラーのテイストが色濃く現れてくる中盤までは、まさにホラーの王道。このあたりまでは「ああ、やっぱり良く出来たクソホラーだな、こりゃ」と高を括っていた。だが、本作が本当に面白くなるのはここからである。前半~中盤ははっきり言って盛り上がりに欠ける展開だが、全てはあるプロットのためなのである。やはり白字で書くが、『 カメラを止めるな! 』とまでは行かなくとも、『 ブルーアワーにぶっ飛ばす 』ほどにはぶっ飛ばされる。悔しいなあ、こんな演出に引っかかるなんて。しかし、伏線の張り方としては、これは非常にフェアであると言える。物語のどの部分を見返しても、ちゃんと筋が通っている。

 

最終盤は山本弘の短編小説『 屋上にいるもの 』を思い起こさせる。同時に、作中の様々なキャラクターやガジェットがどれもこれも見事なコントラストを成していることにも気づかされる。またまた悔しいなあ、こんな仕掛けに気づかないとは。観終わってDVDプレーヤーのトレーを開けて、また悔しい思いをさせられた。これはジェームズ・アンダースンの小説『 証拠が問題 』を出版した東京創元社の Good job のパクリ見事な模倣、オマージュになっているではないか。借りる時にも気付けなかったのか。アニャ大好き、『 スプリット 』大好きな、このJovianが・・・

 

エンディングも味わい深い。『 ゴーストランドの惨劇 』はとてつもない悲劇だが、ある意味ではこの上なく幸せな状態でもあった。これもまた、一つの愛のカタチなのだろう。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200421165026j:plain
 

ネガティブ・サイド

日本の宣伝広報が言うような、5つの掟というのは、話の本筋でも何でもない。古くは『 ヘルハウス 』、近年では『 パラノーマル・アクティビティ 』や『 インシディアス 』といった屋敷や館に巣食う何かを呼び起こさないようにルールを守る。あるいは、その何かに立ち向かうというストーリーに見せかけているのは何故なのか。羊頭狗肉の誹りを恐れないのか。まあ、ちょっとでも下手な売り出し方をすると、本作の面白いところをスポイルしてしまうという懸念は理解できなくもないが、そこを巧みに宣伝するのが腕の見せ所というものだろう。安易なクソホラーに見せかけたPRは評価できない。

 

アニャ・テイラー=ジョイの出番が少ないし、見せ場もほとんどない。『 ウィッチ 』的な、人里離れた森でジャックら兄弟と不思議な出会い方をしたところでは、「ああ、ここからアニャがロマンスとミステリ/ホラー要素をバランスよく体現していくのだろうな」と予感させて、しかし実際はほとんど退場状態。スリラーやサスペンスの申し子のアニャをもっと効果的に使える脚本や演出があったはずだ。アリーはアリーで、母親から苛烈な仕打ちを受けていてだとか、あるいは以前に付き合った男がとんでもないDV野郎で、ジャックといい雰囲気になっても体が無意識に拒絶してしまうだとか、なにか不安感や緊張感を盛り上げる設定を盛り込めたのに、と感じる。

 

総評

一時期、高齢者の死亡を届け出ずに、年金を不正に受給し続ける世帯がたくさんあったと報じられたことがあった。まあ、今でも日本の津々浦々で起きていることだろう。それにプラスして、世界中の人間が“家に引きこもっている”という現状を下敷きに本作を観ると、なかなかに興味深い。ホラーというよりも、スリラーやサスペンスである。ホラーはちょっと・・・という向きも、ぜひ家に引きこもって観てみよう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I don’t have all day.

直訳すれば「一日全部を持っているわけではない」=「そんなに暇ではない」=「早くしてくれ」となる。取引先に電話してみたら「確認して、すぐに折り返しますね」と言われた。しかし、30分待っても1時間待っても連絡がない。そういった時に心の中で“C’mon, I don’t have all day.”=おいおい、早くしてくれよ、と呟いてみよう。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, アニャ・テイラー=ジョイ, アメリカ, ジョージ・マッケイ, スペイン, スリラー, 監督:セルヒオ・G・サンチェス, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 マローボーン家の掟 』 -精緻に作られた変則的スリラー-

『 オールド・ボーイ(2014) 』 -迫力がダウンしたリメイク-

Posted on 2020年4月15日 by cool-jupiter

オールド・ボーイ(2014) 50点
2020年4月13日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジョシュ・ブローリン エリザベス・オルセン シャルト・コプリー
監督:スパイク・リー

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『 オールド・ボーイ 』のハリウッド版リメイク。オリジナルとリメイク、両方見比べるのも乙なものである。邦画は韓国映画にいつの間にか置き去りにされてしまったが、ハリウッドはどうか。

 

あらすじ

うだつの上がらないセールスマンのジョセフ・デューセット(ジョシュ・ブローリン)は、いきなり拉致され、監禁されてしまう。そして、閉じ込められた部屋のテレビで、妻が殺害され、その容疑者が自分であることを知る。誰が、いったい何のために・・・ そして20年が過ぎた時、彼は突然解放されて・・・

 

ポジティブ・サイド

エリザベス・オルセンの濡れ場、これに尽きる。眼福であった。

 

で終わったら、レビューでも何でもないので真面目に書く。ジョシュ・ブローリンの起用は正解だった。2018年総括でジョシュ・ブローリンを海外最優秀俳優の次点に挙げさせてもらったが、サノスという史上最強級のヴィランを演じる男は、生身でも相当の強者でなければならない。暴れるのを見ていて違和感がなかった。また、険のある顔もいい。特に目当ての餃子を見つけて、確信を得るためにそれを貪り食う時の表情は、本家チェ・ミンシクに負けていなかった。

 

黒幕役に配するのが、Jovianだけが名作だ傑作だと騒いでいる『 第9地区 』のシャルト・コプリーというのも、趣があっていい。分かりやすい悪役というのはブリティッシュ・イングリッシュを話すか、あるいはロシア語訛りの英語を話すというのが、ハリウッドから決して消えないクリシェである(そのうち中国語訛りの悪役がわんさか登場するだろうが)。韓国版にあった、いつでも死ねるスイッチというやや意味不明なガジェットは削除。その代わりに、ボディガードを女性にすることで、薄っぺらい悪役との印象をさらに濃くすることに成功した。ジョセフに「タイムリミットまでに謎を解け」と迫るのも、小物感があってよい。裏で糸を引いている人間がちっぽけに見えれば見えるほど、計画の壮大さが際立つ。

 

アクション・シーンはなかなかの見ごたえ。街のチンピラではなく、アメフトのプレーヤーたちをなぎ倒していくことで、ジョセフのスーパー・パワーアップをきっちりと説明。オリジナルにあった廊下での大立ち回りは本作にも引き継がれ、金づちを使うアクションの量もアップ(その分、ボクシング要素はダウンしたが)。特に、その直前に『 ボヘミアン・ラプソディ 』で主演を張ったラミ・マレックが頭をカチ割られるシーンは痛快だ。オリジナルにはなかった『 ショーシャンクの空に 』へのオマージュなのか、マレックが最後にかけられる言葉が「モンテ・クリスト伯」というのもなかなか面白い(『 ショーシャンクの空に 』では、”Count of Monte Chrisco”だった笑)。

 

オリジナルとは異なるエンディングも個人的には納得。オリジナルを鑑賞した時に「オ・デスはこうするのでは?」と思った行動をジョセフが取ってくれる。『 パラサイト 半地下の家族 』のソン・ガンホの行動に相通ずるものがある。このあたりのアメリカ流の解釈は気に入った。

 

ネガティブ・サイド

えらくきれいなシロネズミがジョセフの監禁先に現れるが、そこはドブネズミだろう。スパイク・リーのセンスを疑う。また、オリジナルでオ・デスがエアロビのインストラクターや女性歌手に欲情したシーンも、こちらには輸入されず。代わりに定期的に差し入れられる酒を便器に流す日々。このあたりがアメリカの限界か。韓国映画が容赦なく描く人間の決して美しくないが、しかし本質的な面を描くのを巧妙に避けている。また、序盤でジョシュ・ブローリンが上半身裸で鏡の前にたたずむシーンがあるが、それもいらない。そういうシーンを挿入するのなら、痩せてあばらが浮いた体か、あるいはビール腹を見せてくれないと、監禁生活で体を鍛えまくった時とのコントラストが生まれない。このあたりもオリジナルに負けている。

 

またオリジナルの欠点でもあった、シャバに出てきた主人公が周囲の環境や新しいテクノロジーに馴染むのが早すぎるという点も解消あるいは改善されていなかった。20年も運転から遠ざかっていたら、そうそういきなりはクルマを乗りこなせないだろう。

 

クライマックスの迫力も弱い。監禁の真相を知らされたジョセフはとある自傷行為に出るが、イマイチである。躊躇なく相手の靴をベロベロ舐めまわし、情けなく犬になって尻をふりふりするオ・デスの方が遥かに衝撃的だった。

 

サミュエル・L・ジャクソンは・・・ミスキャストだったかな。サノスにへいこらするニック・フューリーに見えたわけではないけれど、この役にここまでの大物を配置する必要はなかった。

 

総評

オリジナルの『 オールド・ボーイ 』に軍配が上がる。ただし、アメリカ流の解釈も悪くはない。ますます日本版リメイクの制作が待たれる。残念ながら日本で長期にわたる拉致監禁事件は定期的に明らかになっている。今こそ日本流の新解釈が期待されるところだ。アメリカ版を先に観た人は韓国版を観よう。両方を観た人はJovianと同じように、日本版リメイク制作の機運を盛り上げようではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Hold still.

ジョセフがあるキャラを拷問にかける時に言うセリフである。「動くな」、「じっとしていろ」の意である。stillというのはなかなかに味わい深い語である。日本語でスチル写真やスチル画像というのは、このstillであり、その原義は「動かない」である。I still love you.=「I love youという状態は動いていない」=「僕はまだ君を愛している」というわけである。「まだ」と辞書に載っていることからyetと混同する人が多いが、still=動かない、というイメージで把握しよう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, エリザベス・オルセン, シャルト・コプリー, ジョシュ・ブローリン, スリラー, 監督:スパイク・リー, 配給会社:ブロードメディア・スタジオLeave a Comment on 『 オールド・ボーイ(2014) 』 -迫力がダウンしたリメイク-

『 オールド・ボーイ 』 -韓国ノワールの面目躍如-

Posted on 2020年4月14日2020年4月15日 by cool-jupiter

オールド・ボーイ 80点
2020年4月12日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:チェ・ミンシク カン・へジョン
監督:パク・チャヌク

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200414233705j:plain
 

心斎橋シネマートで韓国映画を観たいが、それもままならない。ならば近所のTSUTAYAの韓国映画コーナーで面白そうなものを借りてくるだけである。

 

あらすじ

オ・デス(チェ・ミンシク)はある日、突然誘拐され、以来15年間監禁されていた。部屋の壁を何とか削りながら、なんとか自力で脱出を果たせるかという時に、彼は突然解放される。途方に暮れるオ・デスは、しかし、自分を監禁した者への復讐を誓い・・・

 

ポジティブ・サイド

日本の漫画が原作ということだが、この映画のプロットと原作はどれくらい似通っているのだろうか。妥協しないバイオレンス・アクションと度肝を抜かれる展開に、2000年代の韓国映画の底力を見たような気がする。

 

あれよとあれよという間にオ・デスが監禁され、観る側はオ・デスと共に「何故?」「どこ?」「誰?」といった疑問を抱・・・く間もなく、オ・デスは復讐を誓い、ガムシャラに体を鍛え、『 ショーシャンクの空に 』のアンディのごとく、脱出を図る。そしていざ・・・という時に勝手に解放される。ここまでの展開のジェットコースター的なスピードよ。作る側は早くオ・デスを暴れさせたい、観る側は早くオ・デスが大暴れし、監禁された謎が解かれるのを見たい。両者の思いが見事にシンクロする。粗っぽく進行するのと、念入りに描写しながらもそのねちっこさを一切感じさせずスピーディーに進むのは全然違う。前者はアマチュアの仕事、後者はプロの仕事である。

 

シャバに舞い戻ったデスは、町のチンピラとの乱闘からイカの踊り喰いまで、監禁されていたとは思えないほどの健康的な振る舞いを見せる。いや、健康的というよりも、火山が噴火前にマグマをとことん溜め込むかのように、デスは監禁部屋の一室でマグマを内に溜め込んでいたのだ。デスとミドの出会いのシーンは一見して意味不明である。これもあれよあれよという間に話が進み、一気に恋仲になり燃え上がる二人になる。このあたりは昭和や平成初期の任侠映画や、アメリカン・ニューシネマの逃亡物のようである。それにしても、ミドを演じるカン・ヘジョンの何と官能的で魅力的であることか。『 RED 』の夏帆の2度目のラブシーンも艶めかしかったが、デスとのまぐわいは動物的と言おうか、愛情表現や濃密なコミュニケーションではなく、本能的につながってしまったという印象を強く受けた。美しいラブシーンではなく、荒々しいセックス。この演出が後々、二重の意味で効いてくる。一つはデスが自分を「獣にも劣る人間」と語るところ、もう一つは終盤のドンデン返しである。この計算された粗さと荒々しさというのがパク・チャヌク監督の持ち味なのだろうか。

 

アクションも楽しい。見ごたえがある。特に廊下の大立ち回りは、ロングのワンカットになっており、どれだけリハーサルを重ねたのか、心配になるほどの上々のクオリティ。何が素晴らしいかと言えば、ちゃんと主役の息が切れるアクションになっていること。これが例えばランボーやイーサン・ハント、ジェームズ・ボンドなら、息も乱さず雑魚を一掃するが、オ・デスはそうではない。テレビのボクシングを見様見真似で練習し、決して殴り返してこない壁を相手にパンチングを行い、妄想の中でスパーリングをこなしてきたのである。何人かを撃退したところでゼーゼーハァハァである。世間の評判はイマイチだったが、Jovianは同じ理由でシャーリーズ・セロンの『 アトミック・ブロンド 』を高く評価している。いくら主人公が強くても、息は絶対に切れるのである。それにしてもこの廊下の大乱闘の完成度の高さよ。特に、オ・デスが角材を右でガードしてからの左ストレートのカウンターを見舞う様は芸術的だ。

 

アクション以外の映像芸術面でも魅せる。デスが母校を訪ねるシーンも印象的。ホームページに映る校庭、そこで遊んでいる生徒たち、という動画が流れていると思わせて、そこにデスの乗る車が走って来るという映像のつなぎ方には唸らされた。セピア色の後者をかけるかつての自分を追いかけるシーンはベタな演出だが、謎解きの本質に迫る感じがしてグッド。手鏡と窓というガジェットの使い方も印象的である。それにしても、韓国というのは美女でも美少女でもどんどん脱ぐのだなと感心する。青春というのはキラキラと輝いている一方で、ドロドロの性欲に支配されている時期でもある。ついつい勢いでセックスしました、までは行かなくても過激なペッティングをしてしまいました、というのは説得力ある展開である。それもこれも、女優さんが文字通り一肌脱ぐから成立するんだよな。日本の二十歳前後の女優も頑張ってほしい。

 

終盤のドンデン返しは、箱の時点で感づいた。デヴィッド・フィンチャーの『 セブン 』以来、このような展開で箱を見ると中に最悪のものが入っているといやでも想像するようになってしまった。今作でもその予感は正しかった。うーむ、悔しいなあ。なぜ15年なのか。なぜ監禁者はデスを殺さなかったのか。なぜ監禁者は暴れまわるデスを一思いに始末しないのか。ここらあたりをとことん突き詰めて考えれば、人によってはあらすじから結末が読み解けるかもしれない。真相を知ったデスの振る舞いは、演技の域を超えてほとんど発狂した人間のそれである。イカの踊り喰いも、ある意味ではこの行動の前振りだったのか。ラストのデスの表情が物語るものは何か。『 殺人の追憶 』のソン・ガンホのラストの表情と並ぶ、渾身の顔面の演技である。やっていることは『 母なる証明 』の母に通底するものがあるのだが、これが韓国流の父性や母性の解釈なのだろう。人間の弱さや醜さ、汚さから絶対に目をそらさないという強さが、そこにはある。

 

それにしても本作の俳優さんたちは、なぜか日本の俳優に雰囲気がそっくりな人が多い。北村有起哉や中村獅童、千原せいじに水原希子などの顔がパッと浮かんできた。

 

ネガティブ・サイド 

15年ぶりに外の世界で出てきて、いきなり違和感なく携帯電話やパソコンを使うというのは少々疑問だ。この当時の携帯やPCは、『 スティーブ・ジョブズ 』が目指したような“子どもや高齢者でも直感的に使うことができるインターフェース”は実装されていない。テレビでプロダクトを見たからといって、いきなりそのまま使える代物ではない。解放された直後のオ・デスがもっと時の流れに戸惑うシーンが欲しかった。

 

欲を言えば、オ・デスが金づちをメイン・ウェポンに選ぶくだりをもっときっちりと描いてほしかった。DVDのカバーにもなっている、妖しいオーラを放つ不気味な中年が金づちを振りかぶっているという構図のインパクトは非常に大きい。このトレードマークとも言える金づちとデスの結びつきを示す演出が欲しかった。

 

総評

大傑作である。暴力も性も人間の業も、全てひっくるめてパーフェクトに近い。ハリウッドでリメイクされているが、これは日本版のリメイクも作るべきだ。というか、原作漫画は日本産なのだから、日本こそ本作を映画化すべきだ。制作委員会がガタガタうるさいのだろうが、日活あたりが腹をくくって制作費3~4億円ぐらいポンと出してくれないかな。主演は音尾琢真で、監督は三池崇史かなあ。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

アジョシ

「おじさん」の意である。劇中で何度も何度も使われるので、すぐにわかる。英語でも韓国語でもロシア語でも、語学学習で大切なことは“正しい文脈の中で学ぶ”ということである。そうした意味で、映画は語学学習の非常に大きな助けになってくれる。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, A Rank, カン・ヘジョン, スリラー, チェ・ミンシク, 監督:パク・チャヌク, 配給会社:東芝エンタテインメント, 韓国Leave a Comment on 『 オールド・ボーイ 』 -韓国ノワールの面目躍如-

『 エンドレス 繰り返される悪夢 』 -韓流タイム・ループの佳作-

Posted on 2020年4月13日2020年9月20日 by cool-jupiter

エンドレス 繰り返される悪夢 65点
2020年4月11日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:キム・ミョンミン ピョン・ヨハン チョ・ウニョン
監督:チョ・ソンホ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200413221923j:plain
 

COVID-19の感染爆発の重大局面(というかすでに爆発してるでしょ・・・)により映画館はどこも休業。仕方がない。家のテレビでDVDやAmazon Prime Videoを観るしかないのである。家ではどうしても他に気を取られることがある。なので、軽めのシチュエーション・スリラーでも観るか、と本作を借りてきた。

 

あらすじ

外国帰りの心臓血管外科医のジュニョン(キム・ミョンミン)は娘との待ち合わせ場所に急いでいた。しかし、娘は交通事故により死亡。次の瞬間、ジュニョンはソウル到着前の機上の人に戻っていた。再び、娘の元に向かうジュニョンだが、やはり娘は死んでしまう。ループするたびに何とか手を尽くすがジュニョンはどうしても娘を助けられない。だが、そこのもう一人ループしている男、ミンチョル(ピョン・ヨハン)も加わり・・・

 

ポジティブ・サイド 

タイムループものは、タイムトラベルものや記憶喪失ものと並んで、出だしの面白さが保証されているジャンルである。ただし、話のオチをつけるのが難しい。その意味では、本作はかなり健闘している。『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』と同じような展開、つまりだんだんと主人公がタイムループ現象を理解し、理詰めで少しずつ状況を打開していく流れは、説得力がある。

 

序盤のジュニョンの試行錯誤が、観る側が「ここで、こうしてみたら?」というアイデアとかなり一致するのは非常に心地いい。観ていてストレスになるようなアホな行動をジュニョンがとらないのもポイントが高い。成功しないと分かっていても、ジュニョンを応援したくなるのだ。チョ・ソンホ監督、なかなかの手練れである。

 

謎解き要素だけではなく、適度なアクションやカーチェイスもあり、単純に画面を眺めているだけでもそこそこ楽しめる。またネタバレを極力避けて書くが、本作を動かしていく三人の男たちの熱演は、相当数の男性の共感を得ることだろう。ある者は父親として、ある者は夫として、またある者は高い倫理観を備えたプロフェッショナルとして、彼らの物語を見つめるだろう。ヒューマンドラマとしても、一定の水準に達している。

 

ネガティブ・サイド

タイムループ現象に関して論理的な説明を求める向きには不適な作品である。例えば小林泰三の短編『 酔歩する男 』を読んで、「ふざけるな!」と憤慨するようなSFファンは決して本作を観るべきではない。

 

また一部のキャラクターが常軌を逸した行動をとり続けるが、そうした行動の過激さに眉をひそめるような向きにもお勧めはできない。というか、エクストリームさが特色の韓国映画全般に当てはまることだが、大袈裟な事柄を「大袈裟すぎる」として、現実的・理性的な描写を求めるのはお門違いである。

 

結構なゴア(血みどろ)の描写もあるので、耐性のない人は注意のこと。

 

総評

凡百のタイムループものかと思いきや、意外な掘り出し物である。『 殺人の告白 』からアクションシーンを極力減らして日本風に料理した『 22年目の告白 -私が殺人犯です- 』ように、邦画界にはぜひ本作のリメイクにトライしてほしい。その時は『 ブラインド 』を見事に換骨奪胎して『 見えない目撃者 』を作り上げた森純一監督にメガホンを託したい。コロナで引きこもるなら、本作をウォッチ・リストに加えられたし。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ネガ

韓国語で「私が」「僕が」の意味である。韓流ドラマや韓国映画でしょっちゅう聞こえてくるのでご存じの方も多いことだろう。「ネガ+動詞」のパターンを身に着ければ、動詞のボキャブラリーを増やすだけで表現力も増す。語学学習の王道は、一定のパターンに一つずつ習熟していくことである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, キム・ミョンミン, サスペンス, スリラー, チョ・ウニョン, ピョン・ヨハン, ミステリ, 監督:チョ・ソンホ, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 エンドレス 繰り返される悪夢 』 -韓流タイム・ループの佳作-

『 スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼 』 -完全にネタ切れ-

Posted on 2020年3月10日2020年9月26日 by cool-jupiter

スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼 40点
2020年3月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:千葉雄大 成田凌 白石麻衣
監督:中田秀夫

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前作『 スマホを落としただけなのに 』の続編。前作はスマホという文明の利器の闇を描いたという点では意欲的な作品だったが、本作はただのハッキング+シリアル・キラーもの。それも先行する作品のおいしいところばかりを頂戴して、ダメな料理を作ってしまった。

 

あらすじ

刑事の加賀谷(千葉雄大)が天才ハッカーにしてシリアル・キラーの浦野(成田凌)を逮捕して数か月後。浦野が死体を埋めていた山中から新たな死体が発見される。浦野は加賀谷に「それはカリスマ的なブラック・ハッカー、Mの仕業ですよ」と語る。時を同じくして、加賀谷の恋人である美乃里(白石麻衣)に魔の手が忍び寄っていく・・・

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ポジティブ・サイド

千葉雄大が前作に引き続き好演。闇を秘めたキャラであると見ていたが、それなりに納得のいくバックグラウンドを持っていた。こういうところでも、日本は律義にアメリカに20年遅れている。しかし、こうしたことがリアルに感じられるのも現代ならではである。最近、自動相談所が小学生女児を親の元に帰してしまったことで悲劇が起きたが、こうしたことは実は全国津々浦々で起こってきたのではないか、そして見過ごされてきたのではないか。そうした我々の疑念が、加賀谷という刑事の背景に逆に説得力を持たせている。

 

白石麻衣、サービスショットをありがとう。

 

役者陣では、成田凌の怪演に尽きる。まあ、ハンニバル・レクターもどき、もといハンニバル・レクター的アドバイザーを体現しようとしているのは十分に伝わってきた。犯罪を楽しむ、いわゆる愉快犯ではなく、社会的な規範にそもそも収まらない異常者のオーラは前作に引き続き健在だった。千葉と成田(というと地名みたいだが)のファンならば、劇場鑑賞もありだろう。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200308192943j:plain
 

ネガティブ・サイド

何というか、ありとあらゆる先行作品を渉猟しまくり、あれやこれやの要素をパッチワークのようにつなぎ合わせたかのような作品という印象を受けた。『 羊たちの沈黙 』のハンニバル・レクターとスターリング捜査官の関係、『 トップガン 』のマーヴェリックの入隊理由、『 ハリー・ポッターと賢者の石 』のスネイプ先生など、さらには高畑京一郎の小説『 クリス・クロス 混沌の魔王 』および『 タイム・リープ あしたはきのう 』の「あとがきがわりに」に登場する江崎新一など、メインキャストの二人、千葉と成田を評すにはクリシェ以外の言葉がなかなか見当たらない。千葉は童顔とのギャップで、成田は持ち前の演技力でなんとかこれらの手あかのつきまくった設定を抑え込もうとしたが、残念ながら成功しなかった。作品全体を通じて感じたのは、スリルでもサスペンスでもなく退屈さである。

 

凶悪な犯罪者が野に放たれたままであるという可能性が高い。そいつを捕まえんと警察も全身全霊で奮闘するが及ばない。獄中の天才犯罪者の力をやむなく借りるしかないのか・・・ こうした描写があればストーリーに説得力も生まれる。だが、本作における警察はアホと無能の集団である。しかも、そうした設定に意味はない。単に観る側にネットやスマホの技術的な解説や悪用方法を説明したいからだけにすぎない。この室長(?)キャラはただただ不愉快だった。無能でアホという点では、浦野の監視についた脳筋的ギャンブル男もどうかしている。浦野の食事に嫌がらせをするから不快なのではない。相手が大量殺人鬼であると分かっていながら油断をするからだ。というよりも、PCを使うのに支障がない程度に、浦野は両手両足は拘束されてしかるべきではないのか。ハンニバル・レクター博士並みというのは大げさだが、それぐらい警戒しなければならない相手のはずである。だいたい、なぜ監視が一人だけなのだ?現実の警察(富田林署除く)がこれを見たら、きっと頭を抱えることだろう(と一市民として信じている)。

 

浦野がMを追う手練手管はそれなりに興味深いものだったが、ブログ解説はいかがなものか。いや、ブログの中身ではなく、ブログ記事執筆者としての加賀谷の写真をいつどうやって撮影したのか。シリアスな事件の捜査中に、笑顔でPCに向かう写真を撮ったというのか。考えづらいことだ。それとも合成・生成なのか。また【 Mに告ぐ 】というメッセージをクリックさせるという罠にはめまいがした。そんなもの、M本人がクリックするわけないだろう。ダークウェブに潜み、あらゆるネット犯罪に精通するカリスマ的ブラックハッカーが聞いて呆れる。そもそも、こいつが怪しいですよというキャラクターをこれ見よがしに登場させるものだから、すれっからしの映画ファンやミステリファンならずとも、Mを名乗る者の正体は容易に分かってしまう。こういうのはもう、スネイプ先生に端を発するお定まりのキャラである。

 

他にも珍妙な日本語も目立った。脳筋ギャンブラーによる、ラーにアクセントを置く“ミラーリング”や、「とりあえずメール送った相手に注意勧告してください」(そこは注意喚起だろう・・・)など。撮影中、最悪でも編集中に誰も気付かないのだろうか?こんなやつらがサイバー犯罪を取り締まっているようでは、邦画の中での日本の夜明けは遠いと慨嘆させられる。

 

後はリアリティか。獄中生活が長い浦野が、毛根まで銀髪というのはどういうことなのか。最近の留置場は髪染めもOKなのだろうか。普通に黒髪でいいだろうに。

 

総評

ミステリやサスペンスものの小説や映画に馴染みがない人ならば、前作と併せて楽しめるのだろうか。ストーリーの根幹の部分は悪くないのだ。ネット社会、PC社会の闇というのは今後広がっていくのは間違いない。だが、そこに至るまでの過程に説得力がない。『 羊たちの沈黙 』とはそこが最大の違いである。続編作る気満々のようだが、原作者、脚本家、監督の三者で相当にプロットを練りこまないことには、さらなる駄作になることは目に見えている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

the most safest

劇中のダークウェブ侵入前にブラウザに上の表現を使った文章が現れていた。the most safestは、もちろん文法的には誤りである。the safestか、またはthe most safeとすべきだろう(後者のような形はどんどん受け入れられつつある eg. the most sharp, the most clearなど)。受援英語で the most 形・副 estと書けば間違いなく×を食らうが、実際にポロっとネイティブが使うことも多い表現である。Jovianの体感だと、the most awesomestという二重最上級が最もよく使われているように思う。受験や大学のエッセイ、ビジネスの場では使わないこと!

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, サスペンス, スリラー, ミステリ, 千葉雄大, 成田凌, 日本, 白石麻衣, 監督:中田秀夫, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼 』 -完全にネタ切れ-

『 ガール・イン・ザ・ミラー 』 -やや変化球な双子スリラー-

Posted on 2020年2月21日2023年2月9日 by cool-jupiter

ガール・イン・ザ・ミラー 50点
2020年2月19日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:インディア・アイズリー ミラ・ソルビノ ジェイソン・アイザックス
監督:アサフ・バーンスタイン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200221204711j:plain

 

ジャケットとタイトル響きだけでTSUTAYAから借りてきた。どう考えても『 ガール・オン・ザ・トレイン 』を模している。パッと見でクソホラーだなと分かるが、Sometimes, I’m in the mood for garbage.

 

あらすじ

マリア(インディア・アイズリー)はカナダの内向的な高校生。友人はいるが、ベストフレンドというわけではない。プロムに行くような相手もいない。ある時、偶然にも自分には死別した双子の片割れがいると知った時から、マリアは鏡の中にアイラムという自分と同じ姿かたちをした少女を見るようになり・・・

 

ポジティブ・サイド

インディア・アイズリーの、この不思議な美貌よ。母オリビア・ハッセーと同じく期間限定の美なのだと思われるが、いわゆる薄幸の美少女から魔性の女までを見事に演じ分けていた。日本だと小松菜奈の雰囲気が少し近いだろうか。マリアとアイラムの関係は、おそらく日本でJovianだけが名作だ傑作だと騒いでいる月森聖巳の小説『 願い事 』の美音子とエレーヌのようである。ヘレン・マクロイの小説『 暗い鏡の中に 』や高野和明の小説『 K・Nの悲劇 』並みの面白さなので、古本屋などで見つけたら是非購入されたし。

 

Back on track. 双子、特に一卵性のそれは常にアイデアの源泉になるようである。本作ではマリアとアイラムの関係が、実のところ何であるのかは明示されない。それが心地よいのである。アイラムを超自然的な存在と見なすか、それともマリアが自己暗示で作り上げた人格と見るのか。その解釈は受け手に委ねられている。冒頭のエコーのシーン直後のマリアの登校シーンをよくよく観察してみよう。非常に細かい伏線が張られていたことに、後から気づくことだろう。

 

古いスケート場のシーンは良かった。カメラアングルも低く、まさに疾走している感覚を味わうことができ、ホラーの原点である追う者と追われる者の間の緊張感と恐怖が盛り上がった。また、裸体を惜し気もなく晒してくれたインディア・アイズリーに拍手。蒼井優や夏帆も、どうせならこれぐらいやってほしい。クソホラーではなく、ちょっとした変化球スリラーである。雨の日の暇つぶしに最適だろう。

 

ネガティブ・サイド

一部のシーンが不自然につながっている。あるいは、セリフに妙なところがある。だいたい、寝起きにいきなりマリアが完全メイクアップしているというのはどうなのか。父親もその顔を見て「ぐっすり眠れたようだな」はないだろう。せっかくオリビア・ハッセーの娘をキャスティングしながら、これはもったいない。素材の味をもっと素直に引き出してやれば良いのにと思う。

 

スケート練習を父親のクリニックに行くからと断り、「明日ね」とリリーらに約束しながら、次の日の放課後もまた父親のクリニックに行くというのはおかしくないか。Jovianの見間違いだったのだろうか・・・

 

一番の不満は、自分をイジメてくる同級生へのリベンジ方法があまりにも直接的だったことである。途中、誰もいない更衣室におびき寄せるまでは良かった。ああいう男にリベンジするなら、リベンジポルノではないが、脱がせたところに最大の屈辱と苦痛を味わわせてやればよいのだ。せっかく蟹をバリバリとかみ砕くシーンを入れているのだから、いじめっ子の男性自身も噛み切ってやればよかったのだ。それでこそ本物の魔性の女だろうに。

 

総評

タイトルはミステリ映画『 ガール・オン・ザ・トレイン 』をパロって(原題はLook Awayだが)いるものの、中身のテイストはホラー映画『 キャリー 』に近いものがある。ただ、色々な要素がどれもこれも中途半端なのである。逆に言えば、どういったジャンルの作品としても無難にまとまっているとも言える。COVID-19で外出する気にならないという向きは、自宅で鑑賞してはいかがだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a good night’s sleep

劇中では A good night’s sleep is essential. という風に使われていたが、実際には get a good night’s sleep という形で使うことも多い。同僚や部下が目の下にクマを作っていて、夜はぐっすり眠れたか?と言いたくなったら“Did you get a good night’s sleep?”と言おう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, インディア・アイズリー, カナダ, スリラー, 監督:アサフ・バーンスタイン, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 ガール・イン・ザ・ミラー 』 -やや変化球な双子スリラー-

『 シャイニング 』 -サイコ・スリラーの名作-

Posted on 2019年11月20日 by cool-jupiter

シャイニング 80点
2019年11月18日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジャック・ニコルソン シェリー・デュバル ダニー・ロイド
監督:スタンリー・キューブリック

f:id:Jovian-Cinephile1002:20191120231222j:plain

 

期せずして『 レディ・プレーヤー1 』の核心的な部分のプロットを占め、また公開間近の『 ドクター・スリープ 』のprequelである本作を復習鑑賞するなら、今でしょ!というわけでTSUTAYAで借りてきた。というか原作小説が20年も積ん読状態なのだが・・・

 

あらすじ

ジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)は冬季に閉鎖される展望ホテルの管理人の職を得て、妻のウェンディ(シェリー・デュバル)、息子のダニー(ダニー・ロイド)と共にホテルにやってくる。だが、ダニーは「シャイニング」というテレパシー能力と、トニーというイマジナリー・フレンドがいた。そしてホテルでは過去に管理人が正気を失い、家族を斧で斬殺するという事件が起きていた・・・

 

ポジティブ・サイド

オープニングの瞬間から、目に見えない緊張が走っている。それは、仕事を得ようとするジャックの意気込みであったり、あるいはウェンディとダニーの会話であったり、あるいはダニーとトニーの鏡を挟んでの謎めいた対話であったりである。それら全てが不吉なオーラを放っている。このことは狭い室内や車内に家族三人だけというシーンと、巨大な展望ホテル内に大人数のスタッフが働き、客が宿泊しているというシーンと対比させると余計に際立って感じられる。光と影だけではなく、空間や人口密度のコントラストが映えている。

 

何気ない日常の描写の一つひとつが生きている。トランス一家にホテル全体を案内するシーンや、庭園にある迷路を散策するシーン、大広間でひとり仕事に没頭するジャックの絵などが不安を招く。特に玩具の車でホテル内を疾走するダニーの前に現れる双子は、その唐突さ、静寂さ、動きの無さ、そして動きの遅さに人外の気配を感じ取れずにはおれない。

 

そうした中で狂ってしまったジャックの演技は名優ジャック・ニコルソンの真骨頂である。『 バットマン 』におけるジョーカーは「こんな悪党、おらへんやろ」的なキャラであったが、こちらのジャックは「こういう奴はおるかもしれんな」と思わせてくれた。特に、感情の全くこもらない顔と声でダニーに「愛している」と呟くシーン、口角を上げながらも下からねめつけてくるように階段を上って、ウェンディを追い詰めるシーンは称賛に値する。そのウェンディも、余りにも大袈裟すぎる顔芸で恐怖を我々に伝えてくれる。元々大きめな目がさらに見開かれ、悲鳴を上げ続けるしかないクライマックスは、恐怖映画の一つの様式美になっている。

 

そしてダニーを演じたダニー・ロイドは『 シックス・センス 』のハーレイ・ジョエル・オスメント以上の怪演を披露する。個人的には『 エクソシスト 』のリンダ・ブレアに匹敵するパフォーマンスであると感じた。特にトニーと話す時の目つき、顔をやや傾ける仕草、そして人差し指をカクンと折り曲げる動作には、名状しがたい不気味さがある。そして、voice changerを使っているかのようなトニーの声も神経に障るような感覚をもたらす。特に“Redrum”を連呼しながら、反転した文字を書くシークエンスは鳥肌ものである。また、そうした不気味なオーラを放つ子どもが『 アス 』並みの顔芸で驚くのである。これはダイレクトに怖さが伝わる。というか、『 アス 』のこの顔はダニーから来ているのではとすら思えてしまう。

 

本作は後の時代の様々な作品に影響を及ぼした。特に狂気に囚われ、斧でドアを破壊して、不気味な笑みをのぞかせる最も有名なショットは数々の作品でオマージュとなり、パロディにもなってきた。ややマイナーな例を挙げるならば、漫画『 ジョジョの奇妙な冒険 』第三部の敵キャラであるアレッシーの「ペロロロロペペロロペロ~ン」のシーンだろう。また、狂ったジャックが酒を煽るバーのシーンはそっくりそのままSF映画『 パッセンジャー 』で再現された。時代を経てもオマージュが捧げられるのも名作の条件である。

 

その他にも、三輪車を追いかけるカメラワーク、庭園の迷路を行くウェンディとダニーを追いかけるカメラワークなど、巨大な空間にごく少数の限られた人間しか存在していないということを明示するようなショットがふんだんに使われていて、観る者に否応なくある種の予感めいたものを感じさせる。また鏡が重要なモチーフを果たすのは古今東西の映像作品のお約束であるが、その技法を徹底的に追求した最初の作品であるとの評価を本作に与えることもできるだろう。

 

ネガティブ・サイド

シャイニングという能力が何であるのかが今一つはっきりしない。それに終盤にさっそうと再登場してくれるハロラン料理長も、なぜ大声を出して呼び掛けるのか。もちろん、シャイニングでコミュニケーションが取れないからこそ声を出しているわけだが、237号室で何かあったと考えないのか。あまりにも無防備で、あまりにも呆気ない死に様であった。

 

全体的にカメラワークが光るのだが、26:09の時点で、小屋の窓に撮影車両が写ってしまっている。DVDにする時に消せなかったのだろうか。完璧主義者スタンリー・キューブリックにしても、こんなことが起こってしまうのか。

 

ジャックが狂気に侵されていく過程の描写が弱い。劇中ではネイティブ・アメリカンの墓地が云々と説明していたが、それでは普段のスタッフや宿泊客が無事であることの理由にはならない。ホテルそのものが邪悪を孕んでいるということを暗示させるようなシーンや演出が序盤で二つ三つ欲しかった。“All work and no play makes Jack a dull boy.”を一心不乱にタイピングし続けるシーンが数秒だけでもあれば尚よかったはずだ

 

総評

悪霊や超自然的な存在は恐怖の源泉である。しかし、本当に怖いのは人間だろう。しかも、「本当に実在するかもしれないアブナイ人間」が一番怖いように思う。自分もそうなってしまうかもしれないという不安が振り払えないからである。トランス一家の面々の素晴らしい演技、迷路状のホテル内部と敷地内の庭園、この世ならざる双子の娘たちの不気味さ。数学てな計算によって最も恐ろしいホラー映画とされたことには個人的には疑問符がつくが、サイコ・スリラーの名作であることは疑いようもない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

grab a bite

 

直訳すれば、「ひと噛みを手で掴む」である。転じて、「軽く食べる」という意味である。マクドナルドのハンバーガーなどを思い浮かべればいい。手にとって、パクっとひと噛みする、あのイメージである。「一口じゃ、食べられねーぞ」という突っ込みは無用である。「一杯行くか」と言って、一杯だけで済む酒飲みはいない。英語でもgo for a drinkといって、酒の一杯で済ませる人はいない。Grab a biteも同じである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1980年代, アメリカ, サスペンス, ジャック・ニコルソン, スリラー, ホラー, 監督:スタンリー・キューブリック, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 シャイニング 』 -サイコ・スリラーの名作-

『 シークレット・チルドレン 禁じられた力 』 -T・シャラメのファン以外は観る必要なし-

Posted on 2019年10月31日2020年4月11日 by cool-jupiter

シークレット・チルドレン 禁じられた力 25点
2019年10月28日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ティモシー・シャラメ キーナン・シプカ
監督:アンドリュー・ドロス・パレルモ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20191031180307j:plain 

傑作『 君の名前で僕を呼んで 』のティモシー・シャラメに、怪作『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』で撮影を務めたアンドリュー・ドロス・パレルモが監督した作品ということで、TSUTAYAで借りてみた。シネ・リーブル梅田での上映をスルーしたのは正解だった。これは、一部の好事家だけが観るべき作品である。

 

あらすじ

ザック(ティモシー・シャラメ)とエヴァ(キーナン・シプカ)の兄妹は、両親と共に人里離れた農地に暮らしている。二人にはテレポーテーション能力があった。父親は妻の病気は子ども達の異能の力に対する神罰であると考えていた。そして、妻の病死を機に父はエヴァを追い出し、ザックを虐待するようになり・・・

 

ポジティブ・サイド

BGMを極力抑え、自然豊かな景色を背景に淡々と繰り広げられる家族の生活は、どこか『 君の名前で僕を呼んで 』に通じるものがある。自然の音を聴かせることで、画面に映っている以上の奥行きを想像できるようになる。基本的な技法であるが、効果的に使っている監督は多数派ではない。

 

一種のクローズド・サークルで展開するサスペンスという点では『 イット・カムズ・アット・ナイト 』にも似ているし、父親が暴力衝動に駆られそうになるという緊張感をゆっくりねっとり盛り上げようとする展開は『 幼な子われらに生まれ 』に通じるところがある。

 

印象に残ったのはそれだけだった。

 

ネガティブ・サイド

父親が子らに与える折檻が、まず怖くない。というか笑える。一見すると身動きが取れないように思えるが、服さえ犠牲にすれば簡単に脱出できるのではないか。それとも、小さい頃から釘と金槌がトラウマになるように躾けられていたのか。いや、そんな描写も演出もなかった。

 

頭のいかれた親父といえば『 シャイニング 』が白眉であるが、こちらの親父もそれなりに怖い。しかし、妻を想う心は一際に強い。だったら、さっさと病院に連れて行け!または医者を呼べ!と何度か思わされてしまった。

 

色々とノイズ的なシーンも多かった。鶏を追いかけるのは『 ロッキー2 』へのオマージュなのかモンタージュなのか。そして、あれだけ自然に囲まれ、農園を営んでいて、鶏が目隠しすると寝てしまうのを知らない妹。本当に野生児なのか。リアリティが欠如している。

 

外の世界で妹が体験することも、特に真新しいことは何もなし。脚本にも問題があるのだろうが、パレルモ氏は、撮影はできても監督は難しいのかもしれない。

 

総評

ティモシー・シャラメのファン以外には観る意味はない。隔離されて暮らす超能力兄弟ならば、映像もされた小説『 NIGHT HEAD 』の方が遥かに面白い。静かな超能力映画を鑑賞したい向きには『 テルマ 』をお勧めしておく次第である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

between you and me

 

「ここだけの話だが」、「これは秘密にしてほしいのだけれど」のようなニュアンスである。This is between you and me, but I am thinking of running in the election. などのように使う。難しいことは何もない表現だが、これを言える、または聴けるということは、その人が信頼に足る人である、あるいは誰かを信頼できているということを意味する。英語の難易度としては初級だが、コミュニケーションの難易度としては上級だろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, アメリカ, キーナン・シプカ, スリラー, ティモシー・シャラメ, 監督:アンドリュー・ドロス・パレルモ, 配給会社:トランスフォーマーLeave a Comment on 『 シークレット・チルドレン 禁じられた力 』 -T・シャラメのファン以外は観る必要なし-

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