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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 海外

『 サスペクト 哀しき容疑者 』 -追跡者にして逃亡者-

Posted on 2020年8月27日 by cool-jupiter

サスペクト 哀しき容疑者 70点
2020年8月25日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:コン・ユ パク・ヒスン
監督:ウォン・シニョン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200827010057j:plain
 

コン・ユといえば『 トガニ 幼き瞳の告発 』や『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』のような、非肉体系の俳優という印象だったが、本作では『 アジョシ 』のウォンビンに対抗するかのような華麗かつ残虐なアクションにチャレンジして、ある程度の成功を収めたと言える。

 

あらすじ

脱北した元精鋭工作員のドンチョル(コン・ユ)は、愛する妻子を殺害した犯人を追って韓国で運転代行業を営んでいる。ある夜、韓国経済界の実力者でドンチョルも世話になっていたパク会長の殺害現場に居合わせたドンチョルは暗殺者を撃破。しかし、逆に殺人犯としてミン・セフン大佐(パク・ヒスン)に執拗に追われることになる・・・

 

ポジティブ・サイド

まずコン・ユがここまで格闘アクションをこなすのかとびっくりさせられる。『 The Witch 魔女 』の魔女ジャユンかと見紛う体術を見せたりもする。日本で言えば向井理がバリバリの格闘シーンを演じるような感じだろうか。この強烈な違和感がどんどんと消えていく序盤から中盤、そして終盤にかけての疾走感は素晴らしい。節目節目に格闘、カーチェイス、爆発、狙撃をまじえてくるので中だるみを感じることが全くない。

 

特にカーチェイスは韓国の狭く入り組んだ路地を豪快に走破し、そんな馬鹿なという超絶テクニックで階段をクルマで降りたりもする。副題にある哀しき~は『 哀しき獣 』を意識してのことだろう。あちらはタクシー運転手、こちらは運転代行業。運転が上手いのは当たり前なのだ(上手過ぎではないかと思うが・・・)。邦画では『 プラチナデータ 』が、主人公が真犯人を追いかけながら自らも追われるというプロットだったが、二ノ宮演じる科学者がなぜあれだけ運動神経がよく、なおかつ単車の運転に長けているかの説明はゼロ。2010年代前半で、すでに邦画は韓国映画に負けていたのか。クルマのバリケードをある方法で突破するシーンには笑うと同時に感心もした。現実に実行できそうだぞ、と。とにもかくにも、本作のカーチェイスシーンおよびカーアクションは必見である。

 

パク会長殺害のミステリもストーリーを引っ張る重要な要素となる。食糧難ながらも軍拡に勤しむ北朝鮮へ重要な贈り物を携えて尋ねる予定だったというパク会長は、いったい何を手土産にしていたのか。それは朝鮮半島の緊張を高める代物なのか、それとも融和の機運を高める契機になるのか。ドンチョルの逃走とセフンの追撃が単なる個人の因縁ではなく、朝鮮半島の命運をも握っていると感じさせてくれる。ベタではあるが、まさに手に汗握る展開である。

 

ドンチョルとセフンの因果が交わる時に真相が明らかになる。追う者と追われる者の間に秘かに芽生えた奇妙な連帯感も、ベタではあるが胸を熱くしてくれる。シリアス一辺倒ではなく、セフン大佐の部下が要所要所でユーモアを発揮。アクション、ミステリ、サスペンス、ユーモアを実に適度に織り交ぜた韓流アクションの快作である。

 

ネガティブ・サイド

本作の最大の欠点はオリジナリティの欠如である。北朝鮮の元スパイという要素をごっそり取り除けば、かなりの部分は『 ジェイソン・ボーン 』の焼き直しである。また、一見すると細身の優男が実は凄腕の殺人マシーンというのは『 アジョシ 』のチャ・テシクの二番煎じ。そして、断崖絶壁を訓練で登るのは『 ミッション・インポッシブル 』とトム・クルーズ/イーサン・ハント。北朝鮮と韓国の男同士のほのかで奇妙な交流は『 JSA 』が遥かに先行していて、なおかつ優っている。そもそも妻子を殺された男が復讐のために立ち上がるというプロットが古い。小説から映画まで手垢にまみれまくった題材である。どこかで観たことがある構図や人間関係が多いのが本作の残念なところである。

 

細かいところではドンチョルが妻子の仇を前にして、あっさりと逃げられてしまうところ。普通、両足を撃つか何かして逃げられない、もしくは闘いになったときにアドバンテージをとれるようにするのではないかと思うが。まして、銃を持っているという絶対的な距離のアドバンテージを自分から相手の掌の文字を読みたいからと歩いて近づくか?サスペンスフルなシーンではあるが、現実味があるとは言い難かった。

 

ドンチョルの有能さを強調するあまり、北朝鮮が現実以上の脅威に描かれていた。本当にドンチョル級の工作員を養成する機関であれば、あそこまで過酷な訓練は課さないだろう。金の卵であるが孵化する確率は3%というのは馬鹿げている。自分が総書記なら機関のトップを間違いなく更迭する。

 

総評

韓国映画お得意の北朝鮮絡みのアクションであり、ミステリであり、サスペンスであり、ヒューマンドラマである。ハリウッドから直輸入したと思しきシーンのオンパレードであるが、それが見事に韓流のテイストと融合している。またコン・ユという俳優の底力と、彼の潜在能力を余すところなく引き出す脚本、そして監督の演出力にも舌を巻いた。ハリウッドのスパイ映画、アクション映画に飽きてきたという向きにこそ、本作を強くお勧めしたい。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

イーセッキ

セフン大佐が何回口にしたか分からないぐらい「イーセッキ」を連発している。イー=この、セッキ=野郎。イーセッキ=この野郎である。英語だと、You bastard、日本語だと、テメーこの野郎、ぐらいだろうか。『 アウトレイジ 』の韓国語吹き替えだと100回ぐらいイーセッキと聞こえてくるような気がする。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, コン・ユ, パク・ヒスン, 監督:ウォン・シニョン, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 サスペクト 哀しき容疑者 』 -追跡者にして逃亡者-

『 きっと、またあえる 』 -インド発・寮生活の勧め-

Posted on 2020年8月26日2021年2月23日 by cool-jupiter

きっと、またあえる 80点
2020年8月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:スシャント・シン・ラージプート シュラッダー・カプール
監督:ニテーシュ・ティワーリー

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『 ダンガル きっと、つよくなる 』のニテーシュ・ティワーリー監督の最新作。タイトルが『 きっと、うまくいく 』に似ているのは、内容もちょっと似ているから。原題はヒンディーでChhichhore。意味を調べてみたところ、「軽佻浮薄な野郎ども」となるらしい。このあたりを見るに脚本も手掛けたティワーリー監督は、3 idiots = 『 きっと、うまくいく 』のことも意識していたのは間違いない。

 

あらすじ

アニは、受験に失敗した息子がマンション構想階のベランダから転落したという知らせを受け、離婚した元・妻とともに病院に駆けつける。自分を「負け犬」だと卑下する息子に生きる気力を与えるために、アニは負け犬だった自らの大学生時代の思い出を語る。そして、大学時代の親友たちを一人また一人と招き、息子に紹介していく・・・

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ポジティブ・サイド

アニの息子はICU(集中治療室)に入ったと聞いて、不謹慎にも笑ってしまった。Jovianの母校もICU(国際基督教大学)だからである。そして、Jovianは今はもう取り壊されて久しい第一男子寮の出身で、大学の四年間を帰国子女や留学生らと共に二人部屋三人部屋で暮らしていた。つまり、主人公のアニに思いっきり感情移入することができたのだ。

 

ストーリーの肝はGC=General Championshipで、球技からカバディ、そしてチェスなどの10種競技の成績を大学の各寮対抗で2か月かけて競い争うというイベント。これもJovianが現役時代に(今もあるのかな?)存在した男子寮対抗の年2回のサッカー大会(岡田杯)と年1回のラグビー大会(細木杯)と、規模こそ違えど中身はそっくり。しかも、GCでの成績が振るわないのを何とか好転させるためにアニやセクサ、マミーらの多士済々の面々が自分の大好きなものを断つ、と決断するところが面白い。なぜなら我が第一男子寮にも上記のイベントごとに「オナ禁週間」が設けられていたからだ。古き良き時代という表現は好きではないが、確かにあれは古き良き日々だった。

 

酒やたばこ、母親への電話、エロ本&AV鑑賞など、様々なものを断っていく4号寮の面々だが、主人公のアニは、後に妻になり、現在猛烈にアプローチ中のマヤ(シュラッダー・カプール)との連絡・接触を断つという荒行に出る。Jovianが一年生の時に全く同じことをやっていたSという4年生の先輩がいて、実際のサッカーの試合でも決勝点を決めていた。とにかく、大学で寮生活をしたことがある者が観れば、心に突き刺さりまくり、思い出がよみがえりまくるのだ。アホなことをやっているものだと軽蔑することなかれ。我々のオナ禁も彼らの好きなもの断ちも、相手ではなく自分に負けないという気概を涵養するためのものなのだ。それこそがアニが自殺未遂を図った息子に伝えたいメッセージなのだ。

 

物語そのものの面白さもかなりのものだが、社会派としての一面も併せ持っている。過去と現在が交錯していく作品として『 サニー 永遠の仲間たち 』という傑作が思い起こされるが、この作品も韓国の血みどろの民主化運動が背景にあった。現在の繁栄は先人の流した血の上に成立しているのだというメッセージである。本作『 きっと、またあえる 』の社会的なメッセージは何か。それは、負け犬は一か所に集めろ、出来る奴も一か所に集めて、それを外部に見せろという姿勢への批判である。3号寮のライバルがスポーツ万能のアニをスカウトする時に「外国からの留学生は3号寮に集まる。だから、3号寮には特に出来の良い学生を集めるんだ」と語るが、当然アニはこの誘いを毅然と断る。経済成長と国際社会での地位向上の著しいインドへのメッセージだろう。カーストを隠すな、取り繕うなと言っているわけだ。だからといって被差別者に立ち上がれ、体制をぶっ壊せ的なメッセージを発したりはしない。倒すべきは自分の弱い心で、自分で自分に負けてはいけないのだということこそが本作の眼目だ。

 

かといってシリアスになるばかりでもない。寮生活はお下劣で非衛生的で、上下関係も緩く、友情と連帯感にあふれている。そして、GCの様々な競技で劣勢に立たされる4号寮が、アニの策略によって次々に相手を撃破していく過程は卑怯でもありながら、ぎりぎりで合法的な策略でもある。携帯電話が一般に普及していない時代だからこそ、なおかつ女子が極端に少ない工科大学だからこその謀略が炸裂するシーンは、自身の大学生活を思い起こして、笑いを押し殺すのに必死になってしまった。別に寮暮らしの経験がなくとも本作のアニとその仲間のLOSERSの奮闘には、大いに笑えるし涙も出てくることだろう。

 

それにしても『 PK 』のアヌシュカ・シャルマといい、本作のシュラッダー・カプールといい、インドの女優さんの美しさには目が眩むばかりである。

 

『 スラムドッグ$ミリオネア 』のように、エンディングのクレジットシーンの途中から壮大な歌と踊りが展開されるので、よほど膀胱が限界だという人以外は席を立ってはならない。

 

ネガティブ・サイド

ほとんど欠点が見当たらないが、二つだけ。セクサ以外のキャラが現在どのような仕事しているのかが見えてこないのが少し残念。セクサは「ムンバイは物価が高いな」と外国慣れとインドの物価上昇の両方をさりげなくアピールしていたが、こういった描写や演出が他キャラにも欲しかった。

 

もう一つ、LOSERSのTシャツを作る、あるいは着用して写真を撮るシーンが大学時代に欲しかったと思う。

 

総評

大学生時代のアニを演じたスシャント・シン・ラージプートが2020年6月14日に死亡したことが報じられた。本作は彼の遺作の一つとなる。本作のメッセージである「お前は負け犬じゃない」は、彼には届かなかったのか。冥福を祈る。三浦春馬といいラージプートといい、何故に好き好んで鬼籍に入るのか。虎は死んで皮を残すと言うが、その皮の見事さについては、誰かが細々とでも語り継いでいかなければならないだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pressure

名詞なら「圧力」、動詞なら「圧力をかける」の意。しばしば、以下のような形で使う。

 

He’s getting a lot of pressure from his girlfriend to get a decent job.

彼は恋人からまともな仕事に就くようにと多大なプレッシャーを受けている。

 

My wife is always pressuring me to get a promotion and make more money.

うちの嫁さんは俺に出世してもっと金を稼げといつもプレッシャーを与えてくるんだ。

ついでに Rod Stewart の “When We Were The New Boys”も紹介しておきたい。学生時代の友情は unforgettable である。

www.youtube.com

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, インド, シュラッダー・カプール, スシャント・シン・ラージプート, 監督:ニテーシュ・ティワーリー, 配給会社:ファインフィルムズLeave a Comment on 『 きっと、またあえる 』 -インド発・寮生活の勧め-

『 ジェクシー! スマホを変えただけなのに 』 -気軽に笑える安心コメディ-

Posted on 2020年8月25日2021年1月22日 by cool-jupiter

ジェクシー! スマホを変えただけなのに 65点
2020年8月22日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:アダム・ディバイン アレクサンドラ・シップ
監督:ジョン・ルーカス スコット・ムーア 

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監督および脚本は『 ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い 』のジョン・ルーカスとスコット・ムーアのコンビ。となると、大いに笑えてちょっぴり考えさせられるコメディに仕上がっているのは間違いない。日本版の副題は『 スマホを落としただけなのに 』のパロディだが、ホラー要素はないので安心して観に行ってほしい。

 

あらすじ

フィル(アダム・ディバイン)はスマホ依存症。ある時、街中で偶然にケイト(アレクサンドラ・シップ)と知り合うも、直後にアクシデントでスマホが壊れてしまう。新しいスマホを手に入れたフィルは、「あなたの生活向上を支援します」というジェクシーというAIと奇妙な共同生活を始めるのだが・・・

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ポジティブ・サイド

主役のフィルはなんと『 ピッチ・パーフェクト 』と『 ピッチ・パーフェクト2 』のトレブルメーカーズの嫌味な男筆頭のバンパーを演じたアダム・ディバインではないか。ベラーズの面々は男とのある意味でとても不毛な惚れた腫れたの関係から華麗に卒業していったが、こちらは対極的にお一人様を楽しむ優雅な中年男。『 結婚できない男 』の阿部寛とは方向性がまるで違うが、フィルのような独身貴族は全世界で軽く数百万人は存在するのではないか。それほどリアルな人物の造形であり描写である。まず、職業がネット記事のライターというところが笑わせる。誰しも「○○○がオワコンである5つの理由」とか「株で成功する人が共通して持つ3つの習慣」といった、テンプレ感丸出しの記事を読んだことがあるだろう。つまり、常日頃から我々をスマホにくぎ付けにすることに血道を上げる職業人なのだ。この情けないやら有り難いやらの中間の存在のフィルに感情移入できるかどうかが大きなポイント。もしも、「何だ、つまんねー主人公だな」と感じるなら本作はスルーしよう。「なんか親近感がある」と思えれば劇場へ行こう。

 

スマホに気を取られて道を歩いていて人にぶつかってしまう。その時、ぶつかった相手ではなく自分のスマホの方を気にかけてしまうフィルに、「人の振り見て我が振り直せ」と感じる人も多いはずだ。だが人間万事塞翁が馬。これがもとでケイトに出会い、ケイトとの出会いがジェクシーとの出会いをもたらしたのだから。ケイト演じるアレクサンドラ・シップのフィルモグラフィーを見て、こちらにもびっくり。なんとあの怪作『 X-MEN:ダーク・フェニックス 』のストームではないか。だが本作ではミュータントではなくいたって普通の人間。というよりもいたって普通の女子である。笑顔がチャーミングで、それでいて野暮なフィルのデートの誘いを快諾。半年ぶりにすね毛を剃ったという女子力ゼロの発言から、小洒落た高級レストランを出て街中のバーへ。あれよあれよの夜中のサイクリング軍団への合流から、深夜の路上の情熱的で扇情的なキス。日本の少女漫画の映画化では絶対に描けないような極めてリアルな大人のデートである。そのすべてに輝きを与えているのは他ならぬケイト。正直、なぜこれで男がいないのかと訝しくなるが・・・おっと、これ以上は劇場で確かめてほしい。

 

スマホと人間の恋愛というと『 her 世界で一つの彼女 』という優れた先行作品がある。あちらは純粋なSFだったが、こちらは純粋なコメディ。そのことを象徴的に表すのが、ジェクシーとフィルのテレホンセックス。言葉で互いを高め合うのではなく、充電用ケーブルのコネクタをスマホ本体に抜き差しするという物理的なセックス。もう笑うしかない。トレイラーで散々映されているから、このぐらいはネタバレにはならないだろう。ジェクシーの魅力は何と言ってもuncontrollableなところ。電源を切ろうにも切らせてくれないし、フィルのプライバシーや口座、SNSにも易々とアクセス。生活を向上させてくれるかどうかはビミョーであるが、フィルを生き生きとさせていることは間違いない。ケイトと自分を比較して「あの女にはポケモンGOもGoogle Mapsもない」と言い放つ。それがフィルにはそれなりに堪える台詞なのだから、情けないやら身につまされるやらで、なんだかんだで笑ってしまう。

 

ストーリーは完全に予定調和で、ランタイムも90分を切るというコンパクトな作りである。脇を固めるキャラも人間味があるし、マイケル・ペーニャは『 アントマン 』並みのマシンガントークで相変わらず笑わせてくれるし、フィルの生活はスマホを片時も手放せない現代人なら、思わず理解してしまったり共感してしまうシーンのオンパレードである。何も考えずに80分笑って、時々はスマホから離れて友人や恋人、家族と語らおう。そんな気にさせてくれるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

スマホショップの老婆は必要だったか。いや、必要だったのは分かるが、何らかのキーパーソンであると見せかけて、これでは・・・。『 ステータス・アップデート 』の不思議なアプリ入りのスマホのように、特定の人物からしか手に入らない特別なスマホとAIという設定の方が良かったのではないか。フィルのようなスマホのヘビーユーザーなら、ジェクシーのことを「なんかヤバいぞ」と感じた瞬間にその場でググるはずだし、新しくできた友人たちにジェクシーというAIを知っているかと尋ねることもできたはずだ。ジェクシー搭載のスマホがありふれたものなのか、それとも希少なのか。そこがはっきりしない点が釈然としなかった。

 

主人公のフィルがジャーナリスト志望という点もストーリーとは密接にリンクしていなかった。ジェクシーに振り回される自分を題材に、【 スマホに振り回されないための10の心得 】みたいな記事を書いてバズる、あるいはマイケル・ペーニャ演じる上司にしこたま怒られる、という展開があっても良かったように思う。そうした経験が肥やしになってこそ、ラストが光り輝くのだろう。

 

細かい点ではあるが、土砂降りの雨のシーンとその後の会社のシーンがつながっていなかた。フィルはびしょ濡れ、オフィスの大きな窓からは陽光が燦々、というのは邦画でもちらほら見られるミスだ。

 

総評

本作は様々な層を楽しませるだろう。高校生以上のカップルや夫婦で楽しんでも良し。もちろん優雅な独身貴族も歓迎だ。そして、あなたがトム・クルーズの大ファンだというなら、本作は決して見逃してはならない。Jovianは何が何でも字幕派だが、本作に関しては日本語吹き替えにも興味がある。誰か吹き替え版の感想を詳細にどこかに書いてくれないかな。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

think outside the box

『 サラブレッド 』でも紹介したフレーズ。マイケル・ペーニャ演じるボスが会議中に言う台詞。意味は「既存の枠組みにとらわれずに考える」である。ビジネスパーソンなら知っておきたいし、実践もしたい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アダム・ディバイン, アメリカ, アレクサンドラ・シップ, コメディ, 監督:ジョン・ルーカス, 監督:スコット・ムーア, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 ジェクシー! スマホを変えただけなのに 』 -気軽に笑える安心コメディ-

『 ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 』 -学生、観るべし-

Posted on 2020年8月23日2021年1月22日 by cool-jupiter

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 75点
2020年8月22日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ビーニー・フェルドスタイン ケイトリン・デバー
監督:オリヴィア・ワイルド

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原題は booksmart 。通常は book smart と離して表記すると思われる。意味はwell-readと同じ、つまり「本をたくさん読んでいて賢い」ということ。しばしば、street smart = 実地に色々と経験してきた、との対比される。ちなみにボクシング業界ではたまに ring smart という表現も使われる。意味は推測の通り「リング上で経験を積んでいて巧妙」ということである。

 

あらすじ

高校の生徒会長モリー(ビーニー・フェルドスタイン)とその親友エイミー(ケイトリン・デバー)は成績優秀。モリーは名門大学への進学が決まっており、エイミーも海外に進学する。だが、同級生たちも名門への進学や大手への就職が決まっていると知ったモリーは、勉強ばかりの高校生活を後悔・卒業前日の夜に盛大に羽目をはずそうと、エイミーと共にパーティー会場を目指そうとするが・・・

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ポジティブ・サイド

プロット自体は陳腐である。どこかイケてない女子が、パーっとはじけようとするという点では『 エイス・グレード 世界いちばんクールな私へ 』に通じる。だが、あちらは中学生で、こちらは高校生。畢竟、下ネタも解禁される。というよりも、下ネタのオンパレードである(それはちょっと言い過ぎか)。パンダのリンリンへのあいさつには笑いを禁じ得なかったし、その他のシーンでも映画館のあちこちから笑い声が漏れていた。本当はこのご時世飛沫を飛ばすような行為はご法度なのだが、そんな意識すら薄れてしまうほど、本作のユーモアには容赦がない。パーティーで意中の相手といい雰囲気になった時の予習に、スマホにイヤホンをしてポルノ動画を食い入るように見つめていると、いきなりそれがBluetooth接続されて大音量で車内に響くというのも現代的だ。似たような失敗を家庭や学校、職場でやらかしたという人がいても全くおかしくない。下ネタだけではない笑いもいっぱいあるので、そこは安心してほしい。そして、セックス未遂シーンもあるので期待してほしい。

 

ニックというスクールカーストの頂点にいる男の主催するパーティーへ向かうはずが、あちらこちらと寄り道させられる、その過程も楽しい。神出鬼没のジジと実は良い奴ジャレッド、同族嫌悪的だが自分たちの写し鏡でもあるジョージとアランの演劇コンビなど、モリーとエイミーの高校の多士済々ぶりが際立つ。目的のニックの叔母宅にたどり着けない二人が、SNSの画像からあれこれと推理していくのは『 Search サーチ 』的で楽しいし、配車サービスだけではなく、図々しくもピザのデリバリー車に便乗しようとするところも微笑ましい(良い子は真似をしないように)。

 

なんとか目的地にたどり着いた二人。場慣れしていないため舞い上がってしまうが、なんとか上手く馴染めそう。それぞれが意中の相手にアプローチしていく様子には、こちらも素直に応援をしたいという気持ちにさせられる。だが好事魔多し・・・

 

主役の一人のビーニー・フェルドスタイン、どこかで観た顔だと思ったら『 レディ・バード 』のシアーシャ・ローナンの親友か。さらにリサーチをしたら(つまり英語Wikipedia記事を読んだ)、なんとジョナ・ヒルの妹。確かに顔はそっくりだ。

 

様々な高校生の青春模様をわずか一日半に凝縮してしまったのはお見事。終盤の展開をどうまとめるかという難題にも、キャラの特長とフェアな伏線と見事に対処。恋と友情は別もの。だからこそ大ゲンカもできるし仲直りもできる。世界は大きく広がるけれど、それで二人の距離まで広がってしまうわけではない。近年の青春映画としては突出した面白さを誇る快作である。

 

ネガティブ・サイド

字幕にローザ・パークスが出てこないのは何故だ?ルールを破った偉人としていの一番に言及されているのに。同性愛者同士の語らいやまぐわい、黒人美女の担任に言い寄るメキシコ系の生徒まで描写されているのに、ローザ・パークス(『 ハリエット 』のハリエット・タブマンと並んで、20ドル札の文字通りの顔となる候補者だった)が字幕に出てこないというのは翻訳担当者あるい配給会社の字幕校正・編集担当の不始末だと指摘しておきたい。

 

ポルノ大音量事件は大いに笑ったが、Bluetoothでクルマ側からスマホに接続するにはペアリングが必要なはず。劇中のようにスイッチを押した瞬間に同期完了というのはありえない。笑いの瞬間最大風速を狙ったが故の単純ミスだろう。

 

劇中でほとんど時計が出てこないのは賢明だと感じたが、いったいこの卒業前夜の夜の長さはどうなっているのか。ロサンゼルスの6月の日没は20:00頃。モリーがエイミー両親に「エイミーは私の家に泊まる」と言って連れ出した時には外はすでに真っ暗。パーティー会場入りは一体何時だったのだろうか?劇中の時間の経過を推測するに23:00過ぎ?パーティー会場入りまでがドタバタしすぎではなかったか。

 

総評

『 スウィート17モンスター 』と並んで、日本の中学高校生あたりに是非とも観てほしい作品である。エイミーとモリーは当たり前のようにスマホユーザーであるが、二人の会話は徹頭徹尾、対面の口頭である。もちろん世界的パンデミックで#StayHomeが推奨されているが、それでも本作は夏休みの内に劇場で観賞してほしいと思う。多くの児童、生徒、学生が「自分たちの学校生活って何なんだろう?」という疑問を抱いてるに違いないが、その疑問に対する一つの答え(必ずしも模範的な回答ではないが)が本作にはある。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

What’s shaking?

校長先生がエイミーとモリーに出会った瞬間にかけた言葉。“What’s up?”や“What’s going on?”と同じで、「よう」や「調子どう?」という意味である。かなりカジュアルな表現なので、友人相手だけに使うこと。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, ケイトリン・デバー, ビーニー・フェルドスタイン, 監督:オリヴィア・ワイルド, 配給会社:ロングライド, 青春Leave a Comment on 『 ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 』 -学生、観るべし-

『 12モンキーズ 』 -ウィルス&タイムトラベルものの名作-

Posted on 2020年8月23日2021年1月12日 by cool-jupiter

12モンキーズ 80点
2020年8月20日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ブルース・ウィリス マデリーン・ストウ ブラッド・ピット クリストファー・プラマー
監督:テリー・ギリアム

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アホな政治家は「コロナは高温多湿に弱い」と言っていたが、日本は完全に第二波のただ中のようである。こういう時こそ過去のウィルス系の映画を観返すべきだと思う。手洗いは完全に市民に定着したようだが、我々は今こそ本作中でもブラピによって言及されるセンメルワイス医師の功績を再認識しようではないか。

 

あらすじ

2035年、人類はウィルスにより大多数が死滅。生き残った者も地下深くで生活し、地上には動物たちが闊歩している。

 

ポジティブ・サイド

ブルース・ウィリスが良い感じ。『 オールド・ボーイ 』のチェ・ミンシクが生きたタコを貪り食ったが、ブルース・ウィリスも蜘蛛をむしゃむちゃ。シャワーでは尻の割れ目を披露。そして第一次大戦のフランス軍の塹壕では一瞬だが逸物も披露。シリアスな話のはずが、どこかユーモラスだ。そこにクスリ漬けにされたウィリスと、正気ではあるが現代人の目からは狂人に見えるウィリスという二面性。序盤の時間軸とストーリーの虚実が定まらないこの感じが、いかにもテリー・ギリアムのテイスト。

 

ブラピの狂いっぷりもなかなかの見どころ。科学の進歩をテロで食い止めようとする輩は『 トランセンデンス 』などに見られるようにスマートに狂った輩が多い。そうした意味では本作のブラピのストレートな狂いっぷり(こちらも負けじと尻の割れ目を披露)は、文字通りの意味で世紀末的である。ブラピが最も面白いのは、最後の最後に実行する社会擾乱罪だろうか。なるほど、これはなかなか愉快なテロ行為で、なおかつ2020年代の現在でもリアリティがある。ブラピが最も不気味なのは、精神病棟でテレビの録画について滔々と解説するシーンだろうか。大昔に観た時には何も感じなかったが、20年以上ぶりに観返して、背筋がゾッとした。デイヴィッド・ピープルズとジャネット・ピープルズの二人の脚本家は天才ではあるまいか。ウィリスが目にする数々の動物のビジョンや他のデジャヴにも感心させられたが、このテレビ録画のシーンの気味の悪さと意味の深さには唸らされた。

 

ストーリーは軽妙にして重厚、単純にして複雑である。ウィリスもブラピも、人類を救うべく行動しているという点では同じである。重い使命である。そして、地下生活に順応してしまったウィリスの地上生活への憧憬と音楽などの世俗的な娯楽の享受が、とても大きな意味を持っている。人類のため、ではなく、自分のためにと行動するウィリスが次第次第に正気を失っていく様は痛々しい。12モンキーズという謎の軍団の探求のミステリーとサスペンスでぐいぐいと観る者を引き込んでいく。普通に鑑賞してもあっという間の2時間10分であり、再鑑賞すればさらに引き込まれる2時間10分である。

 

ネガティブ・サイド

ウィリスを途中から甲斐甲斐しく支えることになるキャサリンが、割と安易にロマンチックな関係に陥ってしまうのは何故なのか。この手のプロフェッショナルが、患者やクライアントに恋愛感情を抱くのはご法度であり、自身の気持ちをコントロールする術もある程度は体得しているはずだ。そうした人物が、相手が未来人とはいえ、いや未来人だからこそ、適切な距離を保てないというのは腑に落ちなかった。

 

ウィリスのキャラクターが最後まで混乱しっぱなしというのも気にかかった。並外れた記憶力の良さを買われた割には、肝心なところを思い出せないというのはご都合主義的だと感じた。

 

総評

幾重にも張り巡らされた伏線を見返すのも楽しいし、現今のコロナ禍と重ね合わせて人間考察してみるのもよいだろう。まだ観たことがないという若い映画ファンは、配信やレンタルで要チェックである。『 マトリックス 』や『 マイノリティ・リポート 』のようなテイストの作品を好む向きであれば、ぜひ鑑賞されたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ventilation

「換気」の意。今やいかに rooms with good ventilation / well-ventilated= 風通しの良い部屋を確保するかが、どこのオフィスや学校でも喫緊の課題になっている。知っておくべき語と言えるだろう。ちなみに緊張状態やストレスから起こるとされる「過呼吸」は hyper ventilation と言う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1990年代, A Rank, SF, アメリカ, クリストファー・プラマー, ブラッド・ピット, ブルース・ウィリス, マデリーン・ストウ, 監督:テリー・ギリアム, 配給会社:松竹富士Leave a Comment on 『 12モンキーズ 』 -ウィルス&タイムトラベルものの名作-

『 オズ はじまりの戦い 』 -及第点の前日譚-

Posted on 2020年8月17日2020年8月17日 by cool-jupiter

オズ はじまりの戦い 60点
2020年8月15日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジェームズ・フランコ ミラ・クニス レイチェル・ワイズ ミシェル・ウィリアムズ
監督:サム・ライミ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200817161205j:plain

 

『 オズの魔法使 』の前日譚。オズがいかにして大魔法使いとして、エメラルド・シティーに君臨するようになったのかを描いている。色々と不満な点もあるが、前日譚としては及第点である。

 

あらすじ

「偉大なる男」になることを夢見るカンザスの手品師オズ(ジェームズ・フランコ)は、気球事竜巻に飛ばされてオズの国へとたどり着く。そこではオズという名の魔法使いの到来が予言されていた。大魔法使いだと勘違いされたオズは、東の魔女エヴァノラ(ミラ・クニス)に、邪悪な魔女を倒してほしいと頼まれてしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

あちらこちらに『 オズの魔法使 』へのオマージュが見られる。カンザスはモノトーン、オズの国はカラーというのもそうであるし、カンザスにいる人物、たとえばオズの助手の男性が、オズでは従者の猿になり、車イスの少女が、脚の壊れた陶器の少女になるところもそうだ。ブリキ男やかかし、ライオンにもつながる伏線もある。サム・ライミ監督によるこうしたリスペクト溢れる演出を歓迎したい。

 

ジェームズ・フランコは『 スプリング・ブレイカーズ 』でも感じたことだが、ダメ男や詐欺師を演じることで本領を発揮できるのではないか。はっきり言って序盤から中盤にかけてのオズは全くいけ好かない男なのであるが、それが徐々に変わっていき、なおかつダメさ加減も適度に残す終盤のオズは、なかなか演じられる役者はいないだろう。

 

ミラ・クニスも西の魔女を怪演。口角の上げ下げや眉間にしわをキープする顔面の演技がマーガレット・ハミルトンへのリスペクトであることは明らか。細長い顔のハミルトンと丸っこい顔をクニスでは、そもそもミスキャストだったのではないかと思うが、それを乗り越える熱演を見せる。あのキンキン響く笑い声にも、ノスタルジアを感じた。

 

終盤のオズと西の悪い魔女セオドラとの対決シーンは一大スペクタクルである。オリジナル作品へのリスペクトと、20世紀初頭という時代背景、そして映画という媒体のすべてを一つにまとめた圧巻のクライマックスである。江戸川乱歩が『 魔人ゴング 』で描いた空中に浮かぶ巨大な顔と笑い声というのは、きっとこういうものなのだろう。大乱歩は英語にも堪能だったので、原作の児童文学を読んで、魔人ゴングを構想したのではないかとすら思えた。この巨大な映像と音響に圧倒される魔女や民衆の姿は、そのまま映画という技術に圧倒的な感動を覚えた20世紀前半の人類の姿であり、映画ファンの原型=archetypeなのではあるまいか。

 

全編通じて『 オズの魔法使 』へのオマージュとリスペクトが溢れる作品である。

 

ネガティブ・サイド

細かい部分の粗が目立つ作品である。竜巻の中で気球のゴンドラには鋭利な破片が次々と突き刺さる。だが、オズの国の川に不時着したゴンドラには水が一切浸水しない。また、川の妖精にしこたま噛みつかれたオズのズボンに、ほつれ一つないのは何故なのか。CG処理による弊害が如実に出ている。

 

そのCGの濫用が随所で目立つ。グリンダのシャボン玉はまだ許せる。だが、遠景ならともかく、1~2メートル先の背景すらCGで描いてしまうのはどうなのか。オズの国が実在するのか、それともすべてはドロシーが頭を打った拍子に見た夢なのか。これは今でも議論になるところである。Jovianは夢派であるが、だからといってオズの国の実在は否定しない。エジプトに行ったことがない人間でも、伝聞を基にエジプトの夢を見ることは可能だからだ。本作はオズの国を実在するものとして描いている。であるならば、もっとオーガニックに、オズの国をあれやこれやを実際に手で触れることができるものとして描いて欲しかった。『 シンデレラ 』や『 美女と野獣 』と違い、カンザスやオズという固有名詞で土地を描くからには、その土地の実在性や迫真性をしっかりと担保せねばならないと思う。そして、その手段はCGであるべきではない。クライマックスこそ、ある意味ではCGの先駆的な表現形態であり、そこに至るまでにふんだんにCGを使ってしまうのは逆効果であると感じる。

 

総評

ミュージカルの『 ウィキッド 』とは一味違う解釈で西の悪い魔女の誕生を描いている点が、賛否の分かれるところかもしれない。だが、本作の解釈と描写もそれなりに納得ができるものであるし、終盤のカタルシスも悪くない。レンタルや配信で視聴する前に『 オズの魔法使 』の事前・復習鑑賞は忘れずに。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

(all) rolled into one

センテンスの最後にくっつけて、「すべてが一つにまとまった物/人である」という意味になる。使い方は以下のようになる。

 

He is a lawyer and an entrepreneur rolled into one.

彼は弁護士かつ起業家でもある人物だ。

 

She is a singer, a composer and an actress all rolled into one.

彼女は歌手、作曲家、そして女優をも兼ね備えた人物だ。

 

Learning a foreign language is a pastime, an education, an investment, and an adventure all rolled into one.

外国語を学ぶことは、気晴らし、教育、投資、冒険のすべてが一つになったことである。

 

列挙する事柄が3つ以上になったら、allをつけるようにしよう。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アメリカ, ジェームズ・フランコ, ファンタジー, ミシェル・ウィリアムズ, ミラ・クニス, レイチェル・ワイズ, 監督:サム・ライミ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 オズ はじまりの戦い 』 -及第点の前日譚-

『 ファヒム パリが見た奇跡 』 -日本のありうべき未来が見える-

Posted on 2020年8月16日 by cool-jupiter
『 ファヒム パリが見た奇跡 』 -日本のありうべき未来が見える-

ファヒム パリが見た奇跡 75点
2020年8月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アサド・アーメッド ジェラール・ドパルデュー
監督:ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200816132211j:plain
 

Jovianはチェスの基本的なルールしか知らない。指したことは3~4回だけである。チェスの映画は『 完全なるチェックメイト 』ぐらいしか観ていないし、それに関連して『 完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯 』を読んだぐらいである。フィッシャー=小池重明以上の人格破綻者、と言えば、そこそこディープな将棋ファンには伝わるだろう。それぐらいのチェスの世界の知識でも本作は楽しめるし、むしろチェスの知識がない方が人間ドラマに集中できるかもしれない。

 

あらすじ

ファヒム(アサド・アーメッド)はバングラデシュの天才チェス少年。チェスのグランドマスターに会うという名目で、父に連れられてフランスのパリにやってきた。ファヒムはチェスのクラブに通い、チェスを学び、フランス語を覚え、同世代の子らと友情を育み、シルヴァン(ジェラール・ドパルデュー)とも奇妙な師弟関係を結んでいく。しかし、ファヒムの父の不法滞在が明らかになり、国外退去が時間の問題となってしまい・・・

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ポジティブ・サイド

ファヒムを演じたアサド・アーメッドの演技力に鳥肌が立った。『 存在のない子供たち 』の主人公ゼインや『 アジョシ 』のキム・セロンに並ぶ存在感。緊迫した政治状況にあるバングラデシュで屈託なく生きる子どもが、母との別離、外国での暮らし、友情、師弟関係、親子関係、そしてチェスを通じて成長していく様には純粋に胸を打たれた。印象的だったのは、チェスの対局時に一手指すごとに相手を射抜くような目を見せること。将棋の対局では盤上から視線をそらさない者と対戦相手に視線を向ける者の両方がいるが、チェスのでも同様らしい。その目に宿る力強さには名状しがたいものがあった。目は口程に物を言うものである。

 

ファヒムを取り巻く同世代のチェス仲間たちも良い味を出している。特にファヒムにフランス語のスラングを教え込む男の子には、『 IT イット “それ”が見えたら、終わり。 』のリッチー・トージアと共通するものを感じた。下品なスラングを教える/教わるというのは、友情を育む一つの有効な方法である。Jovianも大学の寮で“Hold on a minute, playa.”だとか“Sup, pimp?”などの、今では絶対に使えないようなアレやコレな表現を教えてもらったことを懐かしく思い出した。また、ファヒムが難民センターの子らと意思疎通をしていくシーンでは、ジェスチャーの有効性と文脈理解の重要性の両方が示されている。外国語学習者は、言葉だけではなくもっと“コミュニケーション方法”を学ぶべきだとの自説の意を強くした次第である。

 

Back on track. 本作はファヒムの文学的な意味での「父殺し」の物語でもある。チェスや将棋というのは、だいたい子どもは父親から教わるものだろう。そして、最初はどうやったって経験者には敵わない。だが、長じるにつれて上達し、子どもはだいたい父親を負かすものだ。本作でもファヒムは実の父親をチェスで負かし、そして精神的な父親であるジェラールのトラウマを、彼の代理として打ち消す。単純にチェスの勝ち負けだけでその過程が描かれるのではなく、ファヒムの内面の葛藤や対戦相手との関係、そしてジェラール自身の過去が投影されていることが、本作のクライマックスを大いに盛り上げている。

 

ネガティブ・サイド 

ファヒムの父親の描き方が少々乱暴であるように感じた。バングラデシュでは消防士という非常に堅い仕事に就きながら、フランスではまったくの愚鈍な足手まといになってしまっていた。それは別に構わない。ただ、文化や風俗習慣の違いを素直に受け入れられないのは良いとしても、なにか見せ場の一つや二つは用意できなかったか。たとえば難民センターの消火器の置き場所をもっと適切なところに変更するとか、プロフェッショナルでありながらもその能力を発揮する場や時がない、という描き方もできたはず。そうしたシーンがないため、この父親が善人ではあるが無能であるというふうに映ってしまう。移民が無能なのではなく、環境がそうさせるのだというメッセージを発するべきだったのではないだろうか。

 

難民センターで知り合ったサッカー少年たちのその後はどうなったのだろう。ファヒム親子の土壇場の大逆転劇は確かに感動的であるが、ひとつ間違えれば「フランスは才能ある移民だけしか歓迎しない」というメッセージにもなりうる。今日、政情が不安定という国の多くは、その原因が現在の国連常任理事国のかつての帝国主義的政策に端を発するのだから、フランスは責任ある国家として世界の融和を目指すという立場を表明すべきだったと感じる。

 

総評

色々とフランス社会の描かれ方に不満もあるが、本作は紛れもない良作である。こういうドラマを見せられると、ボビー・フィッシャーを拘留したのは職務に忠実だったと言えるが、精神的に相当ダメージを与えるような処遇をしたとされる日本の出入国管理局について、あらためて考えさせられる。本作はフランス映画として観るよりも、明日の日本社会を描いた作品として観るべきである。『 ルース・エドガー 』のレビューでも述べたが、日本にもファヒムのような天才児が出現または到来する、あるいは将棋界に藤井聡太並みの外国人棋士が生まれても全く不思議はないのである。そうした一種の未来シミュレーションとして本作を鑑賞することも可能である。

 

Jovian先生のワンポイントフランス語レッスン

parfait

英語で言えば“Perfect”、日本語で言えば「完璧」である。ただ、日本語でもそうだが、完璧でなくてもバンバン使う表現である。カナダ人が好んで使う表現だという印象を持っている。実際にカナダに旅行に行った時、どこのウェイターもウェイトレスも、注文を言い終わると“Perfect!”を連発していた。フランス旅行の際に、ホテルやレストランの従業員に一声かける時に使えるかもしれない。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アサド・アーメッド, ジェラール・ドパルデュー, ヒューマンドラマ, フランス, 伝記, 監督:ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル, 配給会社:STAR CHANNEL MOVIES, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 ファヒム パリが見た奇跡 』 -日本のありうべき未来が見える-

『 エミリー・ローズ 』 -法廷サスペンスの変化球-

Posted on 2020年8月15日 by cool-jupiter

エミリー・ローズ 60点
2020年8月14日 レンタルDVDにて鑑
出演:ローラ・リニー トム・ウィルキンソン ジェニファー・カーペンター
監督:スコット・デリクソン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200815175512j:plain
 

夏と言えばサメ映画とホラー映画である。サメの方は『 海底47m 古代マヤの死の迷宮 』でノルマは達成。ホラーの方は地雷臭しか漂ってこないが『 事故物件 怖い間取り 』を劇場鑑賞予定である。TSUTAYAでふと目に入った本作、何と『 やっぱり契約破棄していいですか!? 』のトム・ウィルキンソン出演作ではないか。『 ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談 』のようなテイストかと思ったが、法廷サスペンスだった。

 

あらすじ 

大学生のエミリー・ローズ(ジェニファー・カーペンター)が死亡した。彼女を救おうとエクソシズムを実行したムーア神父(トム・ウィルキンソン)は過失致死の容疑で逮捕拘留される。教区は彼を救うべく、秘密裏に敏腕弁護士のエリン(ローラ・リニー)に弁護を依頼するが・・・

 

ポジティブ・サイド 

これが実在の事件に基づいているということに、まず驚かされる。同時に、どれだけ科学的な知識が増大し普及しても、人間は非科学的な事象を信じる余地を脳と心に残しているのだなと感じる。「悪魔が存在すること」と、「悪魔が存在すると信じること」は、全く別のことである。これは「超自然的な力が存在すること」と「超自然的な力が存在すると信じること」と言い換えてもよい。同時に「科学的に説明がつく」ということと、「科学以外の視点から説明ができる」ということが、背反するのか両立するのかを考えてみるのも面白い。こうすれば本作のテーマを身近に感じられる日本人も多いのではないか。「そんな馬鹿な」と思う向きもあるだろうが、某プロ野球チームの監督が、かつて「手かざし療法」にハマっていたこと、また病魔に侵された某水泳選手にも「手かざし」の噂がついて回るのは何故なのか。末期がん患者本人やその家族が民間療法に頼って死亡、などというニュースも時折報じられるが、こうした一見すると非合理的な事件に法律や科学はどのように切り込んでいけるのか。

 

1970年代ぐらいまでは、狐憑きなどは日本でもまだまだ身近な現象だった。50代以上の年齢層ならば、本作のエミリー・ローズの悪魔付きの描写にはそれなりに説得力を感じるのではないだろうか。また、かなり激しいてんかん発作を見たことがある、という人ならば、検察側の主張するエミリーの疾患に説得力を感じるだろう。Jovianも一度職場で、二度目は路上で見たことがあるが、あれは怖いものである。看護学校に通ったというバックグラウンドがなければ逃げ出していたかもしれない。人がいきなり「キィーーーーーー!」という奇声をあげて、両手両足を不自然な方向に曲げて、その場でバタリと倒れるのだ。てんかんで説明がつくかもしれないが、それがてんかんではなく悪魔憑き、あるいは狐憑きではないと誰が言えるのだろうか。

 

医学の側面からねちねちと攻める検察と、宗教学の面で守勢に回る弁護側。一転、意外な学説を唱える学者の登場や、医師の論理のちょっとした綻びを見逃さずに突くエリンの姿は、法廷もののジェットコースター的展開としても及第点。また、悪魔祓いの儀式を録音したテープを再生するシーンと、その後の検察と弁護側の丁々発止のやり取りは手に汗握る・・・とまでは言わないが、陪審員の評決や裁判官の判決にどのような影響を与えるのかと、固唾をのんで見守ってしまった。そして、数ある法廷ものの中でも、この判決は凄い。どこまでが事実で、どこからが脚色なのかは分からないが、エンターテインメントとしても上々であると感じた。

 

感覚としては高野和明の小説『 K・Nの悲劇 』の読後感に近い。スーパーナチュラル・スリラーと現実的・科学的な説明の間を揺れ動く物語が好きだという人なら、鑑賞しない手はない。

 

ネガティブ・サイド

オープニングからして『 エクソシスト 』へのオマージュというかパクリである。古びた館を見上げる初老の男性。「なるほど、彼がエクソシストなのか」と思わせて、まさかの検視官(medical examiner)というオチ。いきなり観る者をズッコケさせてどうする?

 

たびたび挿入されるエリンやムーア神父の身に迫る怪異のシーンは、どれもこれも単なるジャンプ・スケア以下の迫力。はっきり言ってホラー映画の文法に忠実に作られているとは言い難い(かと言って、忠実に作れば作るほどクリシェ満載となり怖さも面白さも減ってしまうのだが)。法廷の場で軽い幻覚を見たり、あるいはちょっとした金縛りに遭うなどすれば、ムーア神父の言う「闇の力」の存在を少しは感じられたはずだ。または「闇の力云々」には一切言及しないでもよかった。「この法廷は闇の力に覆われている」という神父の発言は蛇足であった。

 

クライマックスの録音テープのシーンでは、再生終了後に陪審員の面々の表情にもっとクローズアップしても良かったのではないだろうか。自分が理性的に悪魔の存在と悪払いの儀式の妥当性を信じられるかどうか。そこが本作の眼目なのだから。

 

総評

ホラー要素が少々あるが、ホラー映画ではない。子ども向けとは決して言えないし、高校生ぐらいでも理解は難しいのではないかと思う。しかし、法とは何か。信仰とは何か。赦しとは何か。そういったテーマについて考えたことがある、もしくは考えてみたいという向きには、本作は格好の材料となる。法律とは人間を縛るものではなく、人間を人間らしくあらしめるために存在しているのだから。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

schizophrenic

カタカナで表記するのは難しいが「スキッツォフレニック」と発音する。意味は「統合失調症の患った」という形容詞的な意味である。疾患や不調は多くの場合、形容詞で表現される。

 

I am diabetic. = 私は糖尿病です。

She is autistic. = 彼女は自閉症なんです。

Are you anemic? = あなたは貧血なのですか?

 

もちろん、have + 名詞で表現することもできるが、英語学習の中級者以上なら、疾患は形容詞で表現するように心がけてみよう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, C Rank, アメリカ, サスペンス, ジェニファー・カーペンター, トム・ウィルキンソン, ホラー, ローラ・リニー, 監督:スコット・デリクソン, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 エミリー・ローズ 』 -法廷サスペンスの変化球-

『 ディック・ロングはなぜ死んだのか 』 -ジャンル不特定の尻すぼみ作品-

Posted on 2020年8月15日2021年1月22日 by cool-jupiter

ディック・ロングはなぜ死んだのか 40点
2020年8月13日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:マイケル・アボット・Jr. バージニア・ニューコム アンドレ・ハイランド
監督:ダニエル・シャイナート

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“A24 presents”と聞くだけで食指が動く、という映画ファンは一定数いるだろう。Jovianもその一人。だが、正直なところ、本作はハズレである。監督のダニエル・シャイナートは『 スイス・アーミー・マン 』ではダニエル・クワンと組んでいたことが奏功していたが、ソロでは作劇のバランスを保つことに苦労するタイプなのだろうか。

 

あらすじ

ジーク(マイケル・アボット・Jr.)とアール(アンドレ・ハイランド)とディック(ダニエル・シャイナート)は、夜な夜なバカ騒ぎしていた。しかし、ある時、ディックがアクシデントにより重傷を負った。ジークとアールはディックを病院前に置いていく。発見されたディックは、しかし、治療の甲斐なく死亡。なぜディックは死んだのか?ジークとアールは、ディックの死因をひた隠しにするが・・・

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ポジティブ・サイド

オープニングのクレジットシーンから笑わせてくれる。マリファナを吸ってハイになったアホな男どもが、愚かな乱痴気騒ぎに興じるのだが、この時の花火のシーンをよくよく脳裏に刻まれたい。意味のないショットではなく、実は深い意味が込められたショットだからだ。

 

また主人公のジークとその娘の間の細かなやりとりについても目と耳をフル活用して、注意を払ってほしい。ディック・ロングの死の真相についてのヒントがそこにある。

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ネガティブ・サイド

トレイラーからは本作のジャンルはコメディであるとの印象を受けたが、実際はそうではなかった。実際はサスペンス風味が強めなミステリで、かつ少々シリアスなヒューマンドラマだった。それ自体は構わない。ジャンルが特定されない、あるいは劇中で次々にジャンルを変えていく映画というのはたくさん存在する。問題はどのジャンルに分類しても、本作はたいして面白くないということだ。

 

コメディ要素は無きに等しい。ディックの死につながる様々な証拠を隠滅しようとジークとアールは奔走するが、そこにスラップスティックさが感じられない。最後の最後に、アホとしか言いようがない行動に出るのだが、そこに至るまでの罪証隠滅の流れに一切笑えるところがないので、最大の見せ場で笑っていいのか、呆れていいのかが分からなくなるのである。

 

サスペンスもイマイチだ。手柄を立てようと意気込む若手と、老成して、どこか達観した感のある女性保安官のコンビがジークとアールの包囲網をじわじわと縮めていくが、そのことがサスペンスを生み出さない。口裏を合わせたり、物事の辻褄を合わせていても、蟻の一穴天下の破れとなる。問題は、いつ、どこで、どのように論理が破綻するかなのだが、そのシーンにもハラハラドキドキがない。ジークの挙動不審が笑えないレベルに達しているからだ。論理の欠陥を突くのは、相手が自信満々の時でないと面白さが半減する。

 

ミステリ、つまりディックの死の真相も盛り上がらない。レイ・ラッセルの小説『 インキュバス 』のような驚きの真相を期待してはいけない。いや、もっと言えば、これは『 モルグ街の殺人 』の変化球ではないか。または漫画『 ゴールデンカムイ 』の、とあるエピソードを思い浮かべてもよい。細かな伏線から、薄々そうだろうなとは感じていたが、やはりそうだった。意外と言えば意外だが、予想通りと言えば予想通りである。男が女房にひた隠しにしようとすることはなにか。そのあたりを考えてみれば、本作はそれなりに面白い。ただし、真相に関する驚きは確実に減じるだろう。

 

総評

極力、トレイラーを観ずに本編を鑑賞することをお勧めする。また、一部の映画情報系サイトやレビューサイトのあらすじ(殺人犯の存在が小さな田舎町を恐怖と混乱のるつぼに変えて・・・)は間違っている。そんな描写は一切存在しない。これはファミリードラマ、それも夫婦のドラマとして観るのが、おそらく最も正しい。That’s how you do this film justice. それでもストーリーのあちらこちらにノイズが混じっているように感じられるだろう。デートムービーには絶対に向かない。年季の入った夫婦以外はカップルで鑑賞する作品ではない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

The shit hits the fan

劇中では“The S has hit the fan”とshitが頭文字だけで表現されていた。直訳すれば、「糞が扇風機にぶつかる」である。結果として、糞が飛び散るわけで、意味は「収集困難な事態になる」である。『 セント・オブ・ウーマン/夢の香り 』でも、アル・パチーノが

“When the shit hits fan, some guys run and some guys stay.”

大変な事態になった時、逃げる奴もいれば、その場にとどまる奴もいる

と、長広舌を振るってチャーリーを弁護していた。勤め先やクライアント先でまずい状況が発生したら、“The shit has hit the fan …”と心の中でつぶやこう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, アンドレ・ハイランド, バージニア・ニューコム, ブラック・コメディ, マイケル・アボット・Jr., 監督:ダニエル・シャイナート, 配給会社:ファントム・フィルムLeave a Comment on 『 ディック・ロングはなぜ死んだのか 』 -ジャンル不特定の尻すぼみ作品-

『 ほえる犬は噛まない 』 -栴檀は双葉より芳し-

Posted on 2020年8月13日 by cool-jupiter

ほえる犬は噛まない 70点
2020年8月9日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ペ・ドゥナ イ・ソンジェ
監督:ポン・ジュノ

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ポン・ジュノ監督の長編デビュー作。心斎橋シネマートで一時期リバイバル上映していたが、予定が合わず観ることかなわず。本作をポン・ジュノのベストに挙げる人もいる。Jovianは『 母なる証明 』がベストだと思っているが、本作もキラリと光る秀作である。

 

あらすじ

大学の非常勤講師であるユンジュ(イ・ソンジェ)は身重の妻に養われるといううだつの上がらない男。教授のポストをめぐるレースで同僚に後れを取り、イライラしているところで、うるさくほえる犬をマンション地下のクローゼットに発作的に閉じ込めてしまう。同時にマンション管理室に勤めるヒョンナム(ペ・ドゥナ)は、とある少女と共に迷い犬を探すことになり・・・

 

ポジティブ・サイド

ポン・ジュノ映画の大きな特徴の萌芽が、すでに本作でも見られる。その一つは、地下空間である。言わずと知れた『 パラサイト 半地下の家族 』の規制家族による闘争の舞台である地下空間や、『 殺人の追憶 』で容疑者(それも障がい者)を誘導尋問(という名の拷問)にかける場所であったりする。それが本作では犬を食べようとしたり、あるいは別の誰かに犬を食べられる場所である。地下=人目に触れない空間であるが、それは同時に無法地帯であることも示している。そうした領域を積極的に映し出そうとするところに、ポン・ジュノ監督の意志が見て取れる。

 

もう一つは、覗き見る視線である。クローゼットの中から警備員が犬を調理しようとするシーンは、『 母なる証明 』で、母が息子の親友のセックスを除くシーンや、『 殺人の追憶 』の刑事が下着を見て自慰する男を覗き見たり、あるいは「柔らかい手の男」の一挙手一投足をクルマの中からジーっと覗き見る、あの視線と共通するものがある。人間の無防備な瞬間を見つめる視線には、見る側の愉悦と優越、そして「もしも自分が見られる側にまわったら・・・」という不安の種の両方が内包されている。映画という“一方的に見る媒体”を通じて、「見られる」ということを意識させる作品は少ない。どちらかというと『 The Fiction Over the Curtains 』のような実験的な作品こそがそうした手法を取るもので、商業映画でこれをやりつつ娯楽性も確保するというのは、相当な手腕の持ち主でなければできない。まさに栴檀は双葉より芳しである。

 

ストーリーも魅せる。うだつの上がらない大学非常勤講師ユンジュは、大学で教鞭を執りながらも、出世の見込みはなさそう。まるでJovianではないか(といってもJovianが某大学で教えているのは業務委託によるものだが)。ユンジュは犬の失踪および死の直接の犯人でありながら、自分で自分の妻が飼ってきた犬を探す羽目になってしまう展開が面白い。単にコメディとして面白いだけでなく、その裏にあるユンジュの妻の story arc には、既婚男性の、特に共働きは、大いなる感銘を受けることだろう。

 

マンション管理事務所のドジな経理を演じるペ・ドゥナも魅せる。『 リンダ リンダ リンダ 』の頃の小動物的な可愛らしさを見せつつも、その頃よりも更にコケティッシュである。と思ったら、『 リンダ リンダ リンダ 』は2005年制作、本作は2000年制作?OL役と女子高生役の違いはあれど、ペ・ドゥナは可愛い。これは真理である。その可愛い女子が、『 チェイサー 』のキム・ユンソク並みに追走し、『 哀しき獣 』のハ・ジョンウ並みに逃げる様は、シリアスとユーモアを同居させた稀有なシーンである。黄色のパーカーのフードを深々とかぶり、あごひもをキュッと締めたてるてる坊主のような姿が残すインパクトは強烈の一語に尽きる。逃げるユンジュの赤や、追いかけてくるホームレス男性の茶色とのコントラストが映えるのだ。

 

夫婦の在り方や友情。集合団地という無機質に思える居住空間では、人目に触れない地下や屋上や室内で、無数の人間ドラマが展開されている。そして人間ドラマは美しくもアリ醜くもある。『 ほえる犬は噛まない 』というタイトルは主人公の一人ユンジュを遠回しに指すと思われるが、ワーワーギャーギャーうるさかったユンジュが、カーテンをしめて暗転していく教室の窓の向こうを眺める視線に、韓国社会という無形の生き物に、鍋にして食べられてしまった犬の悲哀が映し出されていた。社会の暗部と個人の暗部、それを上回る人間関係の美しさが紡ぎ出された傑作である。

 

ネガティブ・サイド

ぺ・ドゥナの頬のメイクアップがやや過剰だった。特にほろ酔い加減を表現する場面では、それがノイズであるように感じられた。ペ・ドゥナほどのKorean Beautyは、生のままで鑑賞したいではないか。

 

ボイラー・キム氏の小話が少々冗長だった。これほどインパクトのある不気味で、なおかつリアルな小噺を挿入するなら、それをなんらかの形でメインのプロットに組み込む、あるいは影響を及ぼすようなストーリー展開にはできなかったか。

 

ユンジュの大学教授職を巡る一連のストーリーに時間を割きすぎているとも感じた。教授や同僚との飲みのシーンを5分削り、その分をユンジュの妻との生活(閨房という意味ではなく)や、あるいはヒョンナムとの犬探しに時間を使ってほしかった。映画全体のメインのプロットとサブのプロットのバランスが取れていなかった。犬をさらった男が犬を探す羽目に陥るところに本作の面白さがあるのだから、そこをもっと掘り下げてほしかったと思うのである。

 

総評

粗削りではあるが、ポン・ジュノらしさが十分に表現されている。『 ベイビー・ドライバー 』を観た後に『 ショーン・オブ・ザ・デッド 』を観れば、エドガー・ライト監督のらしさが分かるのと同じである。犬食に対して嫌悪感を催す向きにはお勧めしない。しかし、鯨食をぎゃあぎゃあ外野に言われるのがうるさいと感じる人なら、本作の持つユーモアを楽しめることだろう。もちろん、ペ・ドゥナならば必見である。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ペゴパ

『 トガニ 幼き瞳の告白 』でも紹介したフレーズ。意味は「おなか減った」である。どことなく「腹ペコ」と語感が似ているので、覚えやすいだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, B Rank, イ・ソンジェ, ブラック・コメディ, ペ・ドゥナ, 監督:ポン・ジュノ, 配給会社:ファイヤークラッカー, 韓国Leave a Comment on 『 ほえる犬は噛まない 』 -栴檀は双葉より芳し-

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