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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 海外

『 インターステラー 』 -尻すぼみであること以外はパーフェクト-

Posted on 2023年1月9日 by cool-jupiter

インターステラー 80点
2023年1月7日 WOWOW録画にて鑑賞
出演:マシュー・マコノヒー アン・ハサウェイ ジェシカ・チャステイン
監督:クリストファー・ノーラン

諸事情あってなかなか映画館に行けないので、過去のWOWOW録画DVDを手に取る。中に入っているのは『 インターステラー 』と『 コンタクト 』で、前者を選ぶ。

あらすじ

ダストボウルの大量発生により土壌で作物が育たず、酸素も近い将来に生存不可能なレベルにまで低下することが予想される世界。元パイロットのクーパー(マシュー・マコノヒー)は娘マーフの部屋で起きる奇妙なサインから座標を読み取る。そこではNASAが、人類救済ミッションを密かに進めており、クーパーは土星付近のワームホールを目指すミッションに参加することになる・・・

ポジティブ・サイド

地球滅亡ではなく人類滅亡という設定がいい。しばしば発生する砂嵐は dust bowl =ダストボウルと呼ばれる、1930年代にアメリカとカナダの農業に大打撃を与えたものである。もちろん Jovian はダストボウルを直接に経験した世代ではないが、これはアメリカ近代史ではしょっちゅう触れられるのでよく知っていた。

ワームホールの説明や描写もSF入門レベルにまで dumb down してくれているのも有難い。ワームホールの説明として、紙を折り曲げて二点をくっつけるというのは定番中の定番だが、二次元平面の紙の上の穴(hole)は三次元空間では球(sphere)になるという説明は秀逸だと感じた。

ワームホールの先の別の銀河で訪れる移住先の星々の描写も光っている。ブラックホール近傍の惑星あるいはステーションというのは『 ブラックホール 』でもお馴染みで、それ自体にオリジナリティはない。しかし、ブラックホールの重力圏内と圏外での時間のずれが生むドラマは、ベタながら見応えがあった。

ノーラン監督は初期から「時間」をテーマにした作品作りで知られていて、本作でもそれは一貫している。『 TENET テネット 』で見せた見事な物語の円環的構造は、実は本作でも示されていて、劇場で始めた鑑賞した時、WOWOWで二度目に鑑賞した時、そして今回と、毎回その構造の巧みさに舌を巻く。

本作の最大の功績はTARSかもしれない。R2-D2やBB-8とはまた違った魅力のあるロボットである。コミュニケーションの設定に正直度やユーモアがあったが、これは案外現実世界で似たようなロボットが作られた際、取り入れられる設定かもしれない。また、安易に人型にするのではなく、TARSのような造形の方がモビリティも確保できるだろうなと感じた。

SFにはファンタジーの領域にどっぷり浸かったものと、現実的な科学技術に立脚しつつ、ほんの少しのフィクションを混ぜたものがある。どちらも面白いのだが、本作は数あるSF作品の中でもファンタジーの領域と現実の領域が見事な配分でミックスされていると感じる。ここでいうファンタジーとは「愛」の力。いかなる科学も超越する親子の奇妙な愛の絆は、何度見ても感動させられてしまう。俺もだいぶ単純になってもうたな・・・

ネガティブ・サイド

親子の愛だけに留めておけばよかったのに、なぜアン・ハサウェイ演じるブランド博士をクーパーの love interest にする必要があったのか。ここが解せない。友愛に近い感じで良かったのでは?

そのブランド博士やその他の面々も、人類を救うと言いつつ、移住候補先の星の大地に星条旗の旗を立てるのか?これが英国籍と米国籍を持つクリストファー・ノーランの植民に対する意識の表れなのだろうか?うーむ・・・

天文物理学や生物学の門外漢だが、ガルガンチュアのようなブラックホールが天文単位の距離にあるような複数の惑星は、そもそも移住に向かないのでは?ブランド博士の言う通り、小惑星の衝突などが起きない(ブラックホールがそれらをすべて吸い込むか弾き飛ばす)環境では、生物の創発が喚起されない。地球ですら木星のおかげで天体衝突の確率は1000分の1になっているとされる。微生物や植物すらない環境はテラフォーム不可能な気がするのだが・・・

総評

最後の最後のクーパーの決断が個人的には受け入れがたいが、そこに至るまでの3時間近い物語には圧倒されるばかり。3度目の鑑賞でもそう感じる。ティモシー・シャラメやケイシー・アフレック、マイケル・ケインにジョン・リスゴーなど、若手から超ベテランまでが脇を固める。2010年代のSF映画の秀作の一つであることは間違いない。

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

stella

ラテン語で a star の意味。interstellar は文字通り「星々の間の」、「恒星間の」という意味である。星座を constellation と言うが、色んな星が一緒になってできるのが星座ということである。似たような語に『 アド・アストラ 』の astra がある。これは astrum の複数形の対格で、こちらも意味は星だが、やや誌的な感じがする表現。これの元はギリシャ語のasterで、astronaut や astronomy はここから来ている。アスタリスクを見たら「あ、確かに星だ」と感じてもらえれば幸いである。

次に劇場鑑賞したい映画

『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』
『 ファミリア 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, SF, アメリカ, アン・ハサウェイ, ジェシカ・チャステイン, マシュー・マコノヒー, 監督:クリストファー・ノーラン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 インターステラー 』 -尻すぼみであること以外はパーフェクト-

『 ブレイン・ゲーム 』 -色々な要素を詰め込みすぎ-

Posted on 2023年1月4日 by cool-jupiter

ブレイン・ゲーム 50点
2023年1月2日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジェフリー・ディーン・モーガン アンソニー・ホプキンス アビー・コーニッシュ コリン・ファレル
監督:アルフォンソ・ポヤート

2018年にシネ・リーブル梅田で公開していたのを覚えている。何故かこのタイミングで近所のTSUTAYAで準新作扱いだったので、クーポンを使って割引料金でレンタルしてきた。

 

あらすじ

謎の連続殺人事件を捜査するFBIのジョー(ジェフリー・ディーン・モーガン)とキャサリン(アビー・コーニッシュ)は、予知能力を持つ医師クランシー(アンソニー・ホプキンス)に助力を求める。しかし、捜査を進めるにつれて、クランシーは犯人が自分を上回る予知能力の持ち主であると気付き、捜査から降りると言い出す・・・

 

ポジティブ・サイド

序盤のいくつかの謎めいた殺人事件の現場はなかなかの迫力。異様な死に様を見せる被害者の数々に、『 セブン 』や、アンソニー・ホプキンスつながりで言えば『 羊たちの沈黙 』のような猟奇殺人事件映画の傑作の予感が漂う。カウルズ捜査官も、どことなくスターリング捜査官の雰囲気をたたえている。序盤の捜査開始シーンから真犯人のコリン・ファレル登場シーンまでは結構面白い。

 

コリン・ファレルの狂信的なまでのサイコパス殺人鬼の演技も堂に入っている。アンソニー・ホプキンスを鼻で笑うような演技はなかなかできない。『 AVA / エヴァ 』でも感じたが、この役者は老人とバトルを繰り広げるのが似合うのかもしれない。その超絶的な予知能力を物語る、とある録画映像の演出も地味ながら素晴らしい。

 

原題の Solace は慰めの意。本作のテーマに mercy killing =安楽死がある。ペインコントロールの上手く行かない末期癌患者は時に「殺してくれ」と叫ぶこともある。その瞬間の苦しみから解放するには死は最も確実かつ手っ取り早い手段だろう。『 いのちの停車場 』や『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』が扱ったトピックでもあるが、本作はさらに一歩踏み込んで、苦痛を感じ始める前に殺すという、屈折した思想を持った犯人像を作り上げた。この安楽死を単なる殺人と切って捨てるのか、それとも救いや慰めの一手段と見るのか。この部分について、ある意味で非常に剣呑な誘いをもって本作は閉じられる。この幕の閉じ方はなんとなく『 CURE キュア 』を思わせてくれた。

 

ネガティブ・サイド

ホプキンスやファレルの持つ超能力の正体がよく分からない。予知能力も物や人に手を触れて発動する場合と、不意に発動する場合がある。さらに、劇中でもたびたびフラッシュバックのように挿入されるビジョンには予知と過去視の両方があって、かなりややこしい。しかも、その能力の発動タイミングもかなり(製作者にとって)恣意的に思える。能力発動の条件があいまいなままストーリーが進むので、どうしてもご都合主義に見えてしまう。カーチェイスの最中および直後などはその最たる例だ。

 

真犯人=ファレルの存在は、あらすじどころかポスタービジュアルやDVDのカバーで明かされてしまっているが、この男の登場がとにかく遅い。1時間40分のストーリーのうち1時間ぐらい過ぎたあたりで登場してくるというのは、脚本のペース配分ミス、あるいは編集ミスだろう。あまりにバランスが悪すぎる。

 

キャスティングも、別にアンソニー・ホプキンスを起用する必要はなかったのでは?まあ、彼自身が製作総指揮に名を連ねているので、それはできない相談か。しかし、それでもクランシー博士とその娘がどうみてもお祖父ちゃんと孫にしか見えないし、妻とも相当な年齢の開きがあるように見えた。60歳ちょっとの別の役者を起用できなかったのか。役者としてのホプキンスは否定しないが『 羊たちの沈黙 』の二番煎じを狙うのは無理。ストーリーそのものは悪くないのだから、自分よりも若い役者を起用し、超知性かつ超能力の犯人を、友情と経験で追い詰めるような素直な物語にしてほしかった。

 

総評

序盤から中盤にかけての面白さは文句なし。ただし、いったんコリン・ファレルが現れてからは「なんじゃ、そりゃ・・・」という展開のオンパレード。超能力対決というのは『 スキャナーズ 』の昔から陸続と生み出されてきたが、本作はその中でも凡庸な部類に入る。ヒューマンドラマのパートにもっと力を入れるか、あるいは犯人と刑事&博士の対決にもっと尺を取れば、もう少し面白さも増したはず。アンソニー・ホプキンスのファンなら鑑賞もありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

precognition

 

予知の意。『 マイノリティ・リポート 』好きならプリコグという言葉を覚えているはず。あれは precognition の派生語、precognitives の省略形だ。cognition というのは取っ付きにくい語だが、この元のラテン語の cognosco は、同じ意味のギリシャ語 gnosis に由来する。gnosis は知識という意味で、ニュースアプリの「グノシー」の社名はまず間違いなくここから来ている。また、診断=diagnosis というのも、gnosis を含んでいる。身体診察や問診を通じて(dia = through)病気を「知る」ということである。

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, アビー・コーニッシュ, アメリカ, アンソニー・ホプキンス, コリン・ファレル, サスペンス, ジェフリー・ディーン・モーガン, 監督:アルフォンソ・ポヤート, 配給会社:ポニーキャニオンLeave a Comment on 『 ブレイン・ゲーム 』 -色々な要素を詰め込みすぎ-

『 ナイト・ウォッチャー 』 -ドンデン返しが少し弱い-

Posted on 2023年1月3日 by cool-jupiter

ナイト・ウォッチャー 60点
2023年1月1日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:タイ・シェリダン アナ・デ・アルマス ジョン・レグイザモ ヘレン・ハント
監督:マイケル・クリストファー

新年一発目は近所のTSUTAYAの準新作コーナーから、『 ザ・メニュー 』のジョン・レグイザモ出演作の本作を pick out 。

 

あらすじ

アスペルガー症候群持ちのバート(タイ・シェリダン)は、ホテル受付の夜間シフトで働いている。彼は秘密裡に客室を盗撮し、人間同士のやりとりから普通のコミュニケーションを学んでいた。ある夜、ホテルで殺人事件が発生。バートのカメラに犯人とその犯行が映っていたが、彼はそれを警察に知らせることができず、逆に第一発見者として警察にマークされてしまう。系列の別ホテルに異動となったバートは、懲りずに盗撮を行うが、そこに謎めいた美女のアンドレア(アナ・デ・アルマス)が客として訪れ・・・

 

ポジティブ・サイド

タイ・シェリダンがアスペルガー役を好演。合わない視線、過剰な答え、あるいは質問に対する返答拒否ともいえる応答、相手の気持ちや会話の流れをぶった切る発話など、まさに言葉の正しい意味でのコミュ障である。客室を盗撮・盗聴して、そこでのやりとりから普通の人のコミュニケーションを研究するというのだから、まさに他人の気持ちが理解できていない。この主人公に感情移入するのはなかなか難しいが、母親やホテルの経営者が良き理解者になってくれているので、観ている側は一定の距離でバートを見守ることができる。

 

序盤の終わり、アナ・デ・アルマス演じるアンドレアの登場からシチュエーションが一気に動く。コミュ障であるバートがいかにしてこの美女と距離を縮めていくのか。このプロセスが、アスペルガーだけではなく、広くコミュ障全般、いや、ある程度青臭い男性全般に当てはまるような描き方をされているので、観ている側(特に男性)はここで一気にバートを応援したくなる。この流れの絶妙さは、是非とも鑑賞の上で確認を!

 

殺人事件の第一発見者であるバートを第一容疑者として追う刑事が、厳しさと優しさを併せ持っていて、彼の存在もバートの難しいパーソナリティをオーディエンスが理解することを助けている。観ている我々はバートが犯人ではないことを知っていて、しかしバートはそのことを刑事には伝えられず、なおかつ刑事はバートを追わざるを得ないという、観ている側がキャラに感じるジレンマと、キャラがキャラに対して感じるジレンマが複雑に入り組んだプロットは本当にもどかしい。それが観る側をストーリーに引き付ける。最後に「え?」と思わせる展開も待っており、低予算映画としては満足のいくクオリティのサスペンスに仕上がっている。

 

ネガティブ・サイド

バートがどういうきっかけで盗撮・盗聴からコミュニケーションを勉強しようと思い立ったのかが分からない。『 ベイビー・ドライバー 』のベイビーがテレビをザッピングしながら色々なセリフを吸収していくのと同じようなシーンが少し挿入されていれば、バートなりのアスペルガーのコーピングがどういうものなのか理解しやすくなったのだが。

 

アンドレアが語るアスペルガーの弟の話は必要だっただろうか。アスペルガーが転帰して死に至ることは普通はない。こうした一種の障がいを描く映画は、必ずしもその障がいをユニークかつポジティブなものとして描く必要はないが、だからと言って誤った情報、あるいは誤解を与えかねないような描写は慎むべきではないだろうか。

 

最後のドンデン返しがちょっと弱いと感じる。というよりも、やはりアンドレアの弟の話を抜きにクライマックスを構成すべきだったと思う。相手がアスペルガーであろうと普通人であろうと、態度を変えないのがアンドレアの長所であるべきではなかったか。

 

総評

90分と非常にコンパクトな作品で、サスペンス風味でありながら、最後にミステリの様相も帯びる作品。ドンデン返しに少々不可解さも残るが、バートという青年の一種のビルドゥングスロマンだと思えば、納得いくクオリティだと言える。アナ・デ・アルマスのヌードも拝めるので、スケベ映画ファンはそれを目当てに視聴するのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

die from ~

~が原因で死ぬ、の意。

die of 直接的な死因

die from 間接的な死因

と覚えよう。普通は die of cancer =ガンで死亡する、のように of を使うが、劇中では die from love =愛で死ぬ、のように使われていた。

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アナ・デ・アルマス, アメリカ, サスペンス, ジョン・レグイザモ, タイ・シェリダン, ヘレン・ハント, 監督:マイケル・クリストファー, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズLeave a Comment on 『 ナイト・ウォッチャー 』 -ドンデン返しが少し弱い-

2022年総括と2023年展望

Posted on 2022年12月31日2023年12月31日 by cool-jupiter

2022年総括

世界もさすがにコロナに慣れてきた。日本の多くの部分では旧態依然とした政治・社会体制が続いているが、職業や教育の分野がデジタル化が進みつつあるのは悪い傾向ではないと思う。そんな中で映画館もそれなりに健闘できた一年ではないだろうか。

一方で、テアトル梅田が閉館するなど、ミニシアターには厳しい時代が続いている。メガヒットと呼べるような作品も劇場公開されたが、映画館および映画文化を支えるために必要なのはブロックバスターだけではなく、静かに、しかし確実に人の心を動かすような良作、そしてそれを届けてくれる良心的な劇場であると思う。超大作をマサラ上映することでコアな映画ファンをがっちり掴む塚口サンサン劇場のように、作品選びだけではなく、作品を提供するスタイル、劇場体験そのものを売りにするのが今後の劇場のサバイバルにつながっていくのかもしれない。

それでは個人的な各賞の発表をば。

 

2022年最優秀海外映画

『トップガン マーヴェリック 』

延期に次ぐ延期を経て、満を持して劇場公開された本作が最優秀海外映画の栄に浴する。CDやDVDの売り上げは落ちても、コンサートや芝居のチケットは売れている。「モノ消費からコト消費へ」と言われて久しいが、本作は大スクリーンと大音響での映画体験、それがもたらす興奮や高揚感を思い出させてくれた。期せずしてロシアがウクライナに侵攻。ウクライナは逃げるべきか、戦うべきかという議論が日本の識者(とされる人々)の間でもたびたび行われた。それが良いか悪いかは議論が分かれるところだが、平和という状態は軍が膨大なエネルギーを注ぎ込むことで達成され、維持されているということも示した作品だった。

 

次点

『 あなたがここにいてほしい 』

中国映画というと実験的な低予算おバカ映画と、『 シスター 夏のわかれ道 』のような超上質ドラマの二極化が進んでいるという印象を受けた。その中でも本作の完成度は非常に高く、個々人のドラマが社会の発展と相似形を成し、個々人の関係の破綻が社会の矛盾の現れとなっていた。社会性とエンタメを高い次元で融合させているという点、で2021年の『 少年の君 』に近いレベルまで来ていると感じた。

 

次々点

『 RRR 』

ハリウッドのアクション超大作のカーチェイスや銃撃戦、爆発というのは、アクションのためのアクションになっていることが非常に多い。ポップコーンが進むでしょ?というやつである。一方でインド映画、というよりもS・S・ラージャマウリ監督の映画には肉弾アクションは言うに及ばず、銃弾や火薬にまでキャラクターの心情が乗り移ったかのように感じられる。この熱量は劇場鑑賞でしか得られないと思う。まさに鑑賞する映画ではなく体験する映画だ。

 

2022年最優秀国内映画

『 前科者 』

日本も完全に格差社会になってしまった。ここで言う格差とはしばしば経済的なそれである。一度非正規雇用になってしまうと、なかなか正規雇用になれない。同じく、一度犯罪者になってしまうと前科者というレッテルをはがすことができない。「罪を憎んで人を憎まず」という言葉があるが、その罪は人格によるものなのか、環境によるものなのか。本作の発する問いの意味は、今後大きくなることはあっても小さくなることはない。お好み焼きの千房の会長・中井政嗣氏が言う「反省は一人でもできるが、更生は一人ではできない」という言葉の意味を我々は噛みしめる必要があるのではないだろうか。

 

次点

『 マイスモールランド 』

diversity をダイバーシティ、inclusion をインクルージョンとしか訳せないところに日本社会の排他性が垣間見える。クルド人という寄る辺なき民の存在を、ウクライナ難民と重ね合わせずにはいられない。受け入れない者は、受け入れられない覚悟をしなければならない。しかし最初に動くべきは国ではなく、一個人なのだろう。少数の交流が多数になる必要はない。しかし、少数者との交流を妨げる理由もないはずである。

 

次々点

『 死刑にいたる病 』

興行収入10億円と、並みのヒットになってしまった。もしも日本のオーディエンスの嗜好が韓国オーディエンスのそれに近ければ、興収30億も狙えたのではないか。それぐらいにダークな作品。こうした毒のある作品がヒットする土壌を育まない限り、邦画の世界は青春キラキラ漫画の映画化に血道を上げ続けることになってしまう。

 

2022年最優秀海外俳優

チャン・ジンイー

『 あなたがここにいてほしい 』で見せたみずみずしい演技の印象はいまだに鮮烈。幼さ、無邪気さ、切なさ、弱さ、強さ、愛おしさなど、少女から女性に至るまでの様々な段階の属性を一作の中で全て出しきった。

 

次点

N・T・ラーマ・ラオ・Jr. 
ラーム・チャラン

『 RRR 』の主演二人を選出。友情と使命のはざまで翻弄される二人の男の熱き血潮のたぎるアクションとドラマは、この二人の俳優以外ではなし得なかった。

 

次々点

ロバート・パティンソン

『 THE BATMAN ザ・バットマン 』で新たなブルース・ウェインとバットマン像を打ち出したパティンソンを推す。同作のヴィランでジム・キャリーの超絶変態リドラー像を打破したポール・ダノとの接戦を制した。

 

2022年最優秀国内俳優

阿部サダヲ

『 死刑にいたる病 』の怪演で文句なし。近年の邦画の猟奇犯罪者役としては『 ミュージアム 』の妻夫木聡と双璧であると言っていい。目の奥から容易に心の闇をのぞかせるという演技は誰にでもできるというものではない。

 

次点

岸井ゆきの

ボクシング映画には基本的にハズレがないが、その中でも特に異色だった『 ケイコ 目を澄ませて 』の主演を張った岸井ゆきのを選出しないわけにはいかない。安藤サクラの後継者として、日本トップの女優を目指すべし。

 

次々点

森田剛

滅多に映画に出てこない森田剛だが、『 前科者 』の演技には度肝を抜かれた。同じV6の岡田准一とはえらい差がついたように見えるが、ヒューマンドラマをじっくりと演じさせれば森田剛の方が上だろう。

 

2022年最優秀海外監督 

コゴナダ

『 アフター・ヤン 』で見せた、断片的な視覚情報からオーディエンスの想像力を無限に喚起していくという手法には恐れ入った。今後、真似をする監督がプロアマ問わず出てくると予想されるが、コゴナダ監督の領域に達する者は数年は出てこないのは確実である。

 

次点

バンジョン・ピサンタナクーン

タイ映画には馴染みがあまりなかったが、『 女神の継承 』でホラーという分野では邦画を抜き去ったと確信した。少なくとも現時点の日本とタイのこのジャンルの作り手のトップだけを比べるならタイの圧勝だろう。一歩間違えるとギャグになってしまうシーンの数々を恐怖で塗りつぶしたピサンタナクーン監督の剛腕には恐れ入るしかない。

 

次々点

リュ・スンワン

『 モガディシュ 脱出までの14日間 』で韓国の近代史と政治、そしてアクションと人間ドラマの全てを描き切った。その卓越したバランス感覚は賞賛に値する。

 

2022年最優秀国内監督

湯浅政明

『 犬王 』

邦画のミュージカルというのは往々にして大惨事になるものだが、本作は違った。ロックオペラと言っていいほどの硬質な楽曲の数々と二人の男の時を超えた友情が見事にミックスされたミュージカルで、この水準の作品は年に一本生まれれば良い方だろう。

 

次点

安川有果

『 よだかの片想い 』で見せた、音響や音楽を極力使わず、役者のセリフにも頼らず、ひたすら演技で物語っていく手腕を高く評価したい。城定秀夫のライバルになってほしい。

 

次々点

片山慎三

『 さがす 』のダークな展開はまるで韓国スリラーのようだった。社会や人間心理のダークサイドを容赦なく追究しようとする作り手がもっと日本にたくさん現れてほしい。

 

2022年海外クソ映画オブ・ザ・イヤー

『 ジュラシック・ワールド 新たなる支配者 』

伝説的なシリーズの最終作ながら、原点回帰に大失敗。というか、広げまくった風呂敷を畳むつもりがゼロだったという、詐欺にも近い作り方&売り方。popcorn flick として見ても標準以下の駄作。掛けた予算と関わったスタッフを考えれば、クソ映画オブ・ザ・イヤーの栄に浴すのは必然。

 

次点

『 ソー ラブ&サンダー 』

サノスを失ったMCUの迷走を表す一作。キャラの掛け合いだけは見ていられるが、ストーリーはもうどうでもいいかな。

 

次々点

『 ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密 』

ハリポタと違って、このシリーズはワクワクできない。キャラが最初から大人で成長の余地があまりなく、しかもストーリーがしばしば政治的だからだ。シリーズ打ち切りの話も出ているようだが、さもありなん。

 

2022年国内クソ映画オブ・ザ・イヤー

『 大怪獣のあとしまつ 』

よくこんなゴミを作って、なおかつ公開してくれたものだ。世が世なら監督とプロデューサーは市中引き回しの上、打ち首獄門に処されている。

 

次点

『 牛首村 』

牛の首には特に意味はないと劇中で明かされた時点で席を立つべきだった。清水崇はもうホラーを作ってはいけない。

 

次々点

『 貞子DX 』

『 N号棟 』との大接戦を制して本作をクソ映画オブ・ザ・イヤーの次々点に選出。貞子という不世出のキャラクターにとどめを刺した罪はあまりにも重い。

 

2023年展望

2023年に楽しみにしている邦画は『 ヴィレッジ 』と『 跳んで埼玉Ⅱ(仮) 』、期待の洋画は『 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』と『 Magic Mike’s Last Dance 』。逆に不安視している邦画はゴジラの新作、洋画だと『 Creed Ⅲ 』も少し怪しそう。

2023年は韓国映画やインド映画以上に、中国映画の上澄みも更に世界に発信される一年になる気がする。同時に、邦画の製作システムになんらかのブレイクスルーが求められる一年になるのも間違いない。特に大学の90分授業を集中して受けていられないという若年層をどうやって映画館に連れてくるのか。やはり物語としての面白さ以上に劇場体験そのものが付加価値になるような仕組みが求められるのだろう。

コロナ発生から4年目に入ろうとしており、映画の製作や公開に関しても旧に復しつつあるはず。しかし、業界、特に邦画の世界は元に戻るのではなく、前進をしてほしい。オリジナル脚本で作られた作品が優秀作品のトップを占めるという年をそろそろ体験したい。

 

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『 アバター ウェイ・オブ・ウォーター 』 -オリジナリティはどこに?-

Posted on 2022年12月31日2022年12月31日 by cool-jupiter

アバター ウェイ・オブ・ウォーター 50点
2022年12月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:サム・ワーシントン ゾーイ・サルダナ スティーブン・ラング シガニー・ウィーバー
監督:ジェームズ・キャメロン

 

妻が3Dで観たいというのでチケットを購入。

あらすじ

ジェイク(サム・ワーシントン)ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)は子宝にも恵まれ、パンドラの森で幸せに暮らしていた。しかし、クオリッチ(スティーブン・ラング)がアバターとして復活し、ふたたびパンドラに武力制圧に乗り出してきたことで、ジェイクは一家を連れて、海の民メトケイナ族のところに身を寄せるが・・・

ポジティブ・サイド

3Dで鑑賞したが、森の木々や葉の重なりの表現には驚かされた。前作『 アバター 』でジェームズ・キャメロンは「観客をパンドラに連れていくのではない。そこに住んでもらうんだ」と語っていたが、その映像世界への没入感はさらに上がったと言える。海のシーンでもそれは同じ。透き通った水の世界への没入感はすごかった。特にサンゴ礁的な場所で次男ロアクが大ピンチに陥るシーンは、呼吸できない水中ならではの緊迫感とも相まって、まさに息もできないほどだった。

 

中盤以降のドンパチ満載のアクションは大迫力の一言。『 エイリアン2 』や『 ターミネーター2 』に勝るとも劣らない大スペクタクルで、この水中、水上、船上、船内のバトルの連続だけでご飯が3杯は食べられるほど。CGを駆使したアクションの迫力だけなら『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』や『 アベンジャーズ / エンドゲーム 』よりも間違いなく上だろう。製作費が2億ドル超らしいが、その予算を正しく使ったのだと言える。

 

本作は『 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス 』と同じテーマを追求している。すなわち、父親とは誰かという問いに対する答えを提示しようとしている。GoGでは、産みの親なのか、それとも育ての親なのかという二者択一の問いだったが、本作は父親であろうとしないジェイク、そして父親であることを拒否するクオリッチという対比が非常にユニークだ。これはジェイクとネイティリの子どもたちが直面するアイデンティティ・クライシスにもつながる問題で、This family is our fortress. = 家族こそが砦だ、と言い切るジェイクの弱さにドラマの焦点が当てられている。ナヴィという種族に惹かれたというよりも、ネイティリという個人に惹かれたという印象の強かったジェイクは、ある意味で成長していない。父親であろうとするよりも司令官であろうとする。それがある意味で、すぐに自分の子どもに向かって “Who’s your daddy?!” と説教するアメリカ人的(ジェームズ・キャメロンはカナダ人だが)だ。対するクオリッチは、スパイダーという自分の生物学的な息子をナヴィ後の便利な通訳ぐらいにしか考えていないが、その姿勢が最後に変化する。このコントラストの鮮やかさが本作のドラマ上のハイライトと言える。

 

疑似的な父子の関係を追求は『 トップガン マーヴェリック 』でも見られたが、これはアメリカ人(キャメロンはカナダ人・・・)の好物テーマ。ということは日本人好みのテーマでもあるということ。アクションだけではなくドラマもかなり盛り上がったと感じる。

ネガティブ・サイド

超上空から超大熱量のレーザーで撃ってくる地球人に、「すわ、パンドラに危急存亡の秋か?」と緊張が走るが、元々は鉱物資源の採掘に来たのではないの?貴重な資源にまでダメージを与えそうな超兵器をいきなり使うのはどうなの?と思ったら、今度はパンドラのトゥルカンの脳髄からゲットできる脳漿(?)のようなものが地球人の不老につながる???だからトゥルカンを狩りまくる???アバターを生み出せるほどの科学技術があるなら、その謎の不老物質もラボで生み出せるのでは?このトゥルカン狩りの指揮者がコテコテのブリティッシュ・イングリッシュ・スピーカーで、新天地の富を収奪するのはアメリカ人ではなく英国人という意味不明な印象操作。ジェームズ・キャメロンのアイデンティティーはどうなっているのか。

 

トルーク・マクトという伝説の英雄的なポジションに就きながらも、ジェイクがあっさりとその立場を放棄して、森の民を捨てて、森から離れてしまうのかがよく分からない。いや、それはあんな超兵器を見せられたら逃げるしかないのは分かるが、普通に考えればその宇宙船もサリー一家が逃げる先に移動できるわけで、なぜ海にまで追ってこないのか。単に舞台を海に移したいがためだけに出てきた超兵器なのか。

 

水の映像は文句なしに美麗だが、海という環境、そこに住まう生物に関してはオリジナリティが全く感じられなかった。前作のトルークはまあまあ独特な生物だと感じられたが、今作ではクオリッチもあっさりと乗りこなしてしまったことでプレミア感がダウン。また、代わりに登場する絆を結ぶ相手が思いっきりトビウオ。もっと異星感を出せなかったのか。トゥルカンもまんまクジラで、人とクジラは絆を結べ=クジラを食べるな、とでも主張しているのか。前作の、ヨーロッパ人が新大陸アメリカを発見した的な世界観はまだ許せるが、その新世界にもアメリカ的なルールを持ち込みますというのは頂けない。というか、ジェームズ・キャメロンは何がしたいんや。自分の息子やキリなどの、いわゆる混血児が疎外されてしまう問題を「家族の絆」で乗り越えようというのは理解できないこともないが、動物との関係をどう考えてるの?

 

生物学の専門家ではないJovianの目から見ても、スキムウイング(パンドラのトビウオ)が海面を飛び出て飛ぶようになったには、捕食者から逃れるか、または海面上にエサがあるからだろう。後者の描写はなく、おそらくトゥルカンがスキムウィングの捕食者なのだろうが、だとすれば片方でスキムウィングに乗りつつ、トゥルカンと絆を結ぶメトケイナ族とはいったいどんな二枚舌部族なのか。というか、トゥルカンは魚類なのか哺乳類なのか。というのも体を左右に振る魚式の泳ぎ方と上下に振るクジラ式の泳ぎの両方を見せていたから。クジラと同じく頭のてっぺんから潮を吹く生物が魚だとは考えにくいが、スタッフの誰もこの泳法の違いには気付かなかったのだろうか。

 

総評

3時間超の作品だが、映像体験としては文句なし。アクションに次ぐアクションで尿意を感じる暇もなかった。その一方で、ストーリーとしてはツッコミどころ満載かつオリジナリティに欠ける。『 ポカホンタス 』のアナザーストーリーをあと何回観ればよいのだろうか。次は地下か?それとも雲の上?クオリッチがある意味、不死者になってしまったため、エイワの力によって色々なキャラを復活させないと、今後のドラマは作りにくそう。まあ、そういったあれこれを考察するだけのドラマはしっかりと用意されている。生物学だの文化人類学だのの観点から考えなければ、スリリングな3時間を過ごすことはできる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fortress

「砦」の意。音楽をやっていた人ならフォルテ=強く弾くという用語を知っているだろう。これはラテン語の fortis = strong から来ている。英検準1級レベルであれば、stronghold ≒ fortress というのも知っているはず。戦争映画や戦争ゲームでよく出てくる語なので、そのジャンルのファンなら知っておいて損はない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, D Rank, SFアクション, アメリカ, サム・ワーシントン, シガニー・ウィーバー, スティーブン・ラング, ゾーイ・サルダナ, 監督:ジェームズ・キャメロン, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 アバター ウェイ・オブ・ウォーター 』 -オリジナリティはどこに?-

『 Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック 』 -お下劣ムービーの佳作-

Posted on 2022年12月30日 by cool-jupiter

Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック 70点
2022年12月26日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:マイア・ミッチェル カミラ・モローネ
監督:オーガスティン・フリッゼル

 

A24スタジオの2018年の作品。なぜ今公開なのか分からないが、面白そうだったので、あらすじも見ずにチケット購入。お下劣お馬鹿ムービーの佳作だった。

あらすじ

アンジェラ(マイア・ミッチェル)とジェシー(カミラ・モローネ)は高校をドロップアウトしてルームシェアをして暮らす親友。同じ家にはジェシーの兄も住んでいる。アンジェラはジェシーの誕生日にガルヴェストンのビーチで過ごすために家賃用の金を使ってチケットを買う。その穴埋めのために二人はバイトのシフトを増やすが・・・

ポジティブ・サイド

高校を中退してルームシェアをしている女子二人組が、極貧生活にあえぎながらも17歳の誕生日をリゾートとして名高いビーチで過ごそうとする。パーティーとは無縁の学校生活だったが、最後くらいは思いっきり羽目をはずしたいという『 ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 』と、どこか似ているように感じる。ただし優等生女子二人組と違って、こちらは中退女子の二人組。上品さなどかけらもない。しかし、それがたまらなく面白い。

 

ジェシーのリゾート行きのバカンスを予約したせいで、家賃にまで手を付けてしまったアンジェラだが、バイトのシフトを増やせば何とかなると楽観的。ここまで順調そうに見えるが、同居しているジェシーの兄貴がやらかしたおかげで、家に警察が来る羽目に。そこで二人の部屋から見つかるドラッグの痕跡・・・ あえなく御用になるアンジェラとジェシーだが、ここでのジェシーのとあるやせ我慢が最後の最後まで物語を引っ張るとは・・・

 

無事に拘置所から出られた二人だが、とにかくやることなすこと全てがしっちゃかめっちゃか。無軌道な青春物語らしいと言えばらしい。刹那的にその瞬間だけを楽しめるのは若さの特権。やっていることは犯罪すれすれというか、最後はもろに犯罪なのだが、ここでアンジェラとジェシーを応援してしまうのは、自分もまあまあオッサンになってしまったからだろうか。

 

アホなのは主役の二人だけにとどまらない。ジェシーの兄貴もその友達も馬鹿者揃い。金欠だからと、最後にこの兄貴たちとアンジェラたちがたどり着く結論が同じになるのも笑える。兄貴たちはアホな男子中学生のノリで、アンジェラたちは小悪魔女子校生的。ここから意外な人物の登場で、シチュエーションはクライマックスへ。そこでぶちまけられたものとは・・・

 

10代女子にこれをやらせるオーガスティン・フリッゼル監督に脱帽。そして本作をPG12に指定した映倫のファインプレーも称賛に値する。これがR15やR18だと、中学生や高校生たちが本作を鑑賞できない。賛否両論ある判断だろうが、Jovianは賛である。『 スウィート17モンスター 』と並ぶ、無軌道なお下劣青春映画の佳作だ。

ネガティブ・サイド

アンジェラとジェシーの高校退学の背景を少し知りたかったと思う。また、ジェシーの方は明らかに家庭に問題を抱えていたのが分かったが、アンジェラの背景は見えてこなかった。

 

二人がダイナーで働くシーンをもう少し映し出すべきだった。ダメダメな仕事をしているのは分かったが、その中でも何かひと工夫したり、あるいは気の利いたことをして客からチップを多めにもらったりといったシーンが少しでもあれば、ラストシーンで二人に不安ではなく希望を抱くことができたのにと思う。

 

総評

冒頭からガール二人のお下劣トークから始まるが、この二人のテンションが最初から最後まで落ちない。マシンガントークで全編を突っ切る。その中身もキャピキャピのガールズトークではなく、純情高校生男子が耳にしたら背筋が凍るような下ネタにエロネタに犯罪ネタのオンパレード。こうしたしゃべりを楽しめるなら、本作は当たりのはずだ。デートムービーにはならないだろうが、仲の良い女子二人組で鑑賞すればめちゃくちゃ盛り上がるのでは?

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

True that.

日本語で言うところの「確かに」、「言えてる」のような肯定の相槌表現。スラングで、ネット掲示板などではしばしば True dat. と表記される。ビジネスの場やフォーマルな場では使うべきではないが、友人との日常会話ではバンバン使っていい。

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, カミラ・モローネ, マイア・ミッチェル, 監督:オーガスティン・フリッゼル, 配給会社:REGENTS, 青春Leave a Comment on 『 Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック 』 -お下劣ムービーの佳作-

『 マリー・ミー 』 -中年に刺さるラブコメ-

Posted on 2022年12月25日 by cool-jupiter

マリー・ミー 70点
2022年12月21日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジェニファー・ロペス オーウェン・ウィルソン
監督:カット・コイロ

塚口サンサン劇場で公開されていた時に見逃した作品。近所のTSUTAYAで準新作をレンタルしてきた。

あらすじ

世界的な歌姫であるキャット(ジェニファー・ロペス)と彼女の恋人であり人気ミュージシャンのバスティアンは、”Marry Me” という曲をリリースし、人気絶頂。歌詞そのままに結婚目前というところでバスティアンの浮気が発覚。キャットはライブに来ていて、たまたま Marry Me というボードを抱えるように頼まれていた数学教師チャーリー(オーウェン・ウィルソン)にプロポーズするが・・・

ポジティブ・サイド

ジェニファー・ロペス演じるキャットは、映画の設定上では35歳程度らしいが、ジェニロペ本人は50過ぎ。二十代半ばが高校生を演じることは日本でもアメリカでもよくある話だが、50代が30代を演じるのは珍しい。ジェニロペの forever young な姿はどこまでも charismatic である。歌もダンスもまだまだキレッキレ。まさにスターと呼ぶにふさわしい。今後、シェールのようになっていくのだろう。

対するオーウェン・ウィルソンは『 ミッドナイト・イン・パリ 』と同じく、どこか冴えない男を好演。冴えないといっても、それは風体だけのこと。数学教師としてのプロフェッショナリズム、同僚との良好な関係、娘とのちょっと微妙な距離感など、観客(特に中年男性)が自分を重ね合わせやすいキャラクターだ。

世界的に有名かつ人気の歌姫が普通の姿勢の中年男にプロポーズするというのは荒唐無稽もいいところだが、チャーリーが非常に地に足の着いたキャラであることで説得力ゼロという展開には見えない。一方で、終盤にキャットの思わぬポンコツっぷりも明らかになる。このあたりが序盤のいかにもセレブという生活と非常に鮮やかな対比をなしている。

小市民代表のようなチャーリーも最後にしっかりと教師として、父親としての見せ場を作る。予定調和にも見えるが、カタルシスもしっかりと感じられるエンディングで、Jovianのような中年のオッサンにはしっかりと刺さった。

ネガティブ・サイド

チャーリーは優しさからキャットからの突然のプロポーズをOKする。ここまではまだ分かる。そのチャーリーが本格的にキャットに惚れるまでの仮定の描き方が不十分に感じた。バスティアンに対する嫉妬の心に気が付くのも良いのだが、その前にキャットに惹かれるという説得力あるシーンが一つ二つ欲しかった。

終盤の空港のシーンは面白おかしいのだが、ここでブリティッシュのマネージャーの力を借りるのではなく、それこそ普通に歩いている市井の旅行客に色々と尋ねまくって、自体を打破するというような行動をしてほしかった。

総評

楽曲がどれもハイレベルで、まさにジェニファー・ロペスの独擅場。上流階級の男と冴えない中年女性の恋愛を描いた『 僕の美しい人だから 』の現代版と言う感じの仕上がり。10代のキラキラ恋愛が陸続と生産される邦画界も、もっと中年の恋愛ラブコメを作ってみたらいいのに。そう思わせてくれるラブコメの秀作。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

give back to ~

~に還元する、という意味。give は98%は他動詞だが、この句動詞は例外。

The successful businessman has created scholarships to give back to his school.
その成功を収めた実業家は母校に還元するために奨学金を創設した。

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, オーウェン・ウィルソン, ジェニファー・ロペス, ラブコメディ, 監督:カット・コイロ, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 マリー・ミー 』 -中年に刺さるラブコメ-

『 テラフォーム 侵略 』 -やや竜頭蛇尾のSF-

Posted on 2022年12月19日 by cool-jupiter

テラフォーム 侵略 50点
2022年12月18日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ニコール・シャルモ ジャック・キャンベル
監督:エディ・アーヤ

近所のTSUTAYAで準新作コーナーにあったので、クーポンを使ってレンタル。典型的なクソB級SFだと思っていたが、どうしてなかなか面白かった。

 

あらすじ

アメリカの片田舎に隕石が落下。周辺の住民およそ1300人全員が犠牲になった。隕石落下地点では有毒ガスが発生。軍は一帯を封鎖する。謎の解明のために宇宙生物学者のローレン(ニコール・シャルモ)が召喚されるが、回収された遺体のうち49名が突如として起き上がった・・・

 

ポジティブ・サイド

侵略ものとしてはなかなか珍しい植物媒介型。Jovian的には小説『 トリフィド時代 』以来のように思える。よくよく考えれば、これは理にかなっている。新天地に最初に降り立つべきは動物ではなく植物。そして植物がガス交換して、それによって大気組成を徐々に変えていくというのは、実際のテラフォーミングの過程とも合致するはず。

 

さらに死体が起き上がるというのもなかなかのホラー。面白いなと感じたのは、死体がゾンビ化して動き回って周囲の生物を襲いまくる、ということがない。逆にどこか虚空の一点を時折見つめるのみ。これはシュールな光景で、これは『 光る眼 』とかからヒントを得ているのかな。物語が進むにつれ、ローレンの過去と今回の侵略がリンクしてくる。このへんは『 メッセージ 』の真似だろう。

 

過去の先行作品のおいしいところを頂いてくるのは別に悪いことではない。問題はしっかりと自分流の味付けができるかどうか。その意味で、本作は割と真面目に科学的な考証を行っている。ああ、そこがそうなるの?という感じで、思わぬ形で過去と現在をつなげてくる。ここはちょっと感心した。

 

ちなみにこれ、元ネタというか、着想は漫画『 風の谷のナウシカ 』から得てるよね。

 

ネガティブ・サイド

序盤にローレンと一緒に出てくる男性科学者はちょっと問答をしただけで、あとは全然役立たず。『 メッセージ 』におけるジェレミー・レナ―的なポジションのはずだろうに。このキャラはばっさりカットしても良かった。 

 

仮説段階とはいえ、異星文明由来の物質を吸い込んだ人間相手に、スタンダード・プリコーションで接近したらダメでしょ。

 

異星人がいよいよ本領発揮してくるという時に、ドラマ『 X-ファイル 』的な演出をするのは少々気になった。映画が映画のオマージュを取り込むのはいいが、ドラマの演出をそのまま使うというのはどうもなあ。

 

最後の最後の展開、必要かな?『 アクセル・フォール 』並みに唐突な終わり方。一応伏線は張ってあるものの、だからどうしたの?としか言えない。

 

総評

『 アド・アストラ 』思弁的なSFが好き、または『 ザ・メッセージ 』のようなB級作品を楽しめるという向きなら、本作もそこそこ楽しめるはず。a rainy day DVD もしくは a stay-at-home day DVD として、ウォッチ・リストに入れておいてもいいかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I’m listening.

直訳すれば「私は聞いている」、字幕では「それで?」だった。普通の会話の中でも割と出てくる表現で、「それで?」や「ということは?」や「つまり?」のように、「あなたの話を聞いている。その続きを話してほしい」を簡潔に表現していると思えばいい。会話に自信がなく、うなずいてばかりの人は、一度 “I’m listening.” を使ってみよう。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ホワイト・ノイズ 』
『 夜、鳥たちが啼く 』
『 ケイコ 目を澄ませて 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, D Rank, SF, アメリカ, オーストラリア, ジャック・キャンベル, ニコール・シャルモ, 監督:エディ・アーヤLeave a Comment on 『 テラフォーム 侵略 』 -やや竜頭蛇尾のSF-

『 グリーン・ナイト 』 -エスクワイアの旅物語-

Posted on 2022年12月19日 by cool-jupiter

グリーン・ナイト 55点
2022年12月17日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:デブ・パテル アリシア・ヴァイキャンダー ジョエル・エドガートン
監督:デビッド・ロウリー

古代や中世のファンタジーは定期的に観たくなる。DQやFFといったゲームで育ったJovian世代なら尚更である。

 

あらすじ

アーサー王の甥であるサー・ガウェイン(デブ・パテル)は、クリスマスの日、円卓の騎士たちが集う王の宴に招かれた。そこに緑の騎士が現れ、自分の首を切り落とす者はいないかという遊び事を持ちかけてきた。ガウェインはその遊び事に乗り、緑の騎士の首を落とす。しかし、騎士はガウェインに「1年後にミドリの礼拝堂へ来い。その時、自分がお前に同じことをする」と言い残し、去っていった・・・

ポジティブ・サイド

中世(といっても古代に近い中世か)の英国の雰囲気が画面全体に溢れている。石造りの建造物はやはりエキゾチックに感じる。ガウェインの旅路の大自然の豊饒さと荒々しさも素晴らしい。

 

ガウェインが行く先々で経験するイベントが非常に王道RPG的。『 アクアマン 』とは違い、これらのイベントが物語の侵攻を助けるのではなく、あくまでもエスクワイア=騎士見習いであるガウェインの成長や内省につながっている。

 

最後にたどり着く緑の礼拝堂で再会する緑の騎士との対話、そこでガウェインの脳裏を駆け巡るビジョンは、まさに騎士としての生き様の成就だったのだろう。そこまでなら普通の中世ファンタジーなのだが、面白いのはガウェインが追い求めた名誉。名誉とは他者からの称賛なしには得られない。しかし、旅路の中で出会う人々は騎士としての名誉を時に傷つけ、時に無理解、無関心を示す。そう、本当の騎士は認められるものではなく、自らそうあろうとする者なのだ。

 

ネガティブ・サイド

ダークファンタジーだからといって、本当に画面を暗くしてどうする。一部、本当に何も見えないシーンがあった。映画ファンが不満たらたらだった『 GODZILLA ゴジラ 』のMUTOとゴジラの夜の決戦シーンよりも暗い。誰が何をやっているのか見えない。何故にこんな画を複数も撮ってしまったのか。

 

肝心のグリーン・ナイトに関する知識をもっと共有してほしかった。緑に関する哲学的な問答が終盤にあるのだが、もっとグリーン・ナイトそのものに関してキャラクターたちに語って欲しかった。『 MEN 同じ顔の男たち 』のグリーン・マンもかなり謎の存在だったが、彼らには何か共通点があるのだろうか。アーサー王の物語なら解説は不要に思うが、英国とグリーン・ナイトやグリーン・マンといった超常的な存在については説明不足に感じた。

 

主演のデブ・パテルは『 ホテル・ムンバイ 』でははまり役だったが、今作では今一つ。この時代のグレート・ブリテン島にインド人はいないはず。デブ・パテルは悪い役者ではないが、このキャスティングが最適だったとは思えない。

 

総評

ある程度アーサー王伝説について知っておく必要がある・・・とまでは言わないが、その知識があることが望ましいのは間違いない。その意味で、間口が広い映画とは言えない。ただ古典的なRPGゲーム程度の知識があれば、ガウェインが行く先で経験するあれやこれやのイベントを楽しむことはできる。GOGのグルートのモデルはグリーン・ナイトなのかな?といったような疑問を楽しみながら鑑賞すればいい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

believe in ~

劇中では “Do you believe in magic?” =「あなたは魔法を信じますか?」という感じに使われていた。

believe ~ = ~を(良いもの、または正しいものだと)信じる
believe in ~ = ~の存在・能力・価値などを信じる

としっかり区別して覚えよう。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ホワイト・ノイズ 』
『 夜、鳥たちが啼く 』
『 ケイコ 目を澄ませて 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アイルランド, アメリカ, アリシア・ヴァイキャンダー, カナダ, ジョエル・エドガートン, デブ・パテル, ファンタジー, 監督:デビッド・ロウリー, 配給会社:トランスフォーマーLeave a Comment on 『 グリーン・ナイト 』 -エスクワイアの旅物語-

『 シン・オクトパス 』 - タコ映画の珍作-

Posted on 2022年12月17日 by cool-jupiter

シン・オクトパス 40点
2022年12月16日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:リウ・ムー キャンディス・ツァオ
監督:フランク・シィァン

『 マーズ・ミッション2042 』のCMで本作を知って、少し興味を持った。近所のTSUTAYAにあったので、クソ映画と知りつつ借りてしまった。

 

あらすじ

海辺で食堂を営むフォン(リウ・ムー)は、漁で珍しいタコを捕獲する。フォンはこのタコを元恋人で科学者のズーモー(キャンディス・ツァオ)に渡す代わりに、縒りを戻すために食事に誘うも、ズーモーは首を縦に振らず、「そのタコは誰にも売るな」と言う。その夜、海から巨大なタコが現れ、フォンの食堂を破壊する。そのドサクサに紛れて、珍しいタコが何者かに奪われてしまう。フォンとズーモーはタコをなんとか奪還しようとするが・・・

 

ポジティブ・サイド

最初に登場する子ダコがえらく可愛い。これが低予算アメリカ映画だと、もっとおどろおどろしい感じになるのだろう。何と言っても devilfish なのだから。しかし中国映画になると、なんか可愛い子ダコになる。このあたり、日本ならゴジラの息子がミニラになるのと共通するものを感じる。

 

タコのCGのレベルもまあまあ。タコは各触腕の根元に脳に匹敵する神経網があり、それぞれの腕がバラバラに動くことで知られている。そのタコの特徴がよく出ていたと感じる。

 

ごく一部の狂ったサメ映画のサメを除けば、海洋モンスターものというのは地上であれば、あるいは陸地であればかなりの程度の安全が確保されるが、タコに関しては陸上でもそれなりに活動できてしまう。そうした水生生物ながら陸にも上がれてしまうタコの脅威もそれなりに描かれている点も好感度が高い。

 

情けないばかりのフォンが、中盤に差し掛かる時点でのとある出来事によって、一皮むける。以後、ズーモーのために無茶を承知で危険を冒していく姿は、ベタではあるが見直した。

 

タコと言えば触腕、触腕と言えば触手ということで、触手を使ったエロいシーンも少しだけあるよ。サメも少しだけ出るので、海洋モンスター・海洋パニック系が好きな人にお勧めしたい。

 

ネガティブ・サイド

シーフードに詳しいはずのフォンが、最初に捕獲した子ダコを見て、特に何も思わず「珍しいやつだから、これをネタにズーモーに会おう」と思うところが解せない。いくらなんでも呑気すぎやしないか。

 

フォンの弟分二人も、海に潜む巨大不明生物が大暴れした翌日に船で海に繰り出すとは、本当に海辺に暮らす人間なのか。いかにも中国という感じの愛すべきおバカキャラがここで退場してしまうのは脚本上どうなのか。それともこの二人はフォンの覚醒を促す人身御供に過ぎないとでも言うのか。納得できん。

 

ゲイル将軍率いるソルジャーの集団は揃いも揃って脳筋集団。タコに構うよりも先に、変異遺伝子の入手場所に向かいなさいよ。なんでわざわざ子ダコを使って、大ダコを呼び寄せて、弾薬を消費して、貴重な兵力を損耗させてしまうのか。まあ、それを言うとドンパチ成分が絶対的に足りなくなるが、大海原でタコの触腕にひたすら撃ちまくる画はなかなかにシュール。ただ個人的には、このタコには得意の擬態能力を駆使して、洞窟の岩壁などから突如触腕がニュルンと現れてくるようなシーンが観たかった。そうすれば、ドンパチだらけのアクションの中にサスペンス要素も織り交ぜられたのではないか。

 

変異遺伝子の研究にドイツが唐突に登場するのもお約束と言えばお約束だが、中国ではダメな理由でもあるのだろうか。日本が731部隊を擁していたぐらいだから、中国にもっとすごい機関や組織がありました・・・でも別に問題ないように思うが。

 

エンディングはそれなりに微笑ましいが、この展開だとまた70年後に大パニックが起こってしまうのでは?

 

大ダコの全体像をもっと映し出して欲しかったが、予算が足りなかったか。

 

総評

個人的に大ダコというと『 ドラえもん のび太の海底鬼岩城 』のイメージが強いのだが、このタコは多分それよりも更にでかい。ただ、タコの特徴はよく掴んでおり、CGも健闘している。主人公のキャラが前半と後半でビックリするぐらい変わってしまうが、これを是と見るか非と見るかは意見が分かれるところだろう。ヒロインのズーモーは正統派の Chinese Beauty なので、フォンが理解しがたいという人は、このキャラを応援しながら鑑賞すべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Full speed ahead

「全速前進」の意。戦争映画で、特に艦船ものでよく聞こえてくる。似たような表現で Full throttle というのもある。これは日本語でもフルスロットルと言うので分かりやすい。たしか『 ジョーズ 』で Full throttle, full throttle! と叫ぶシーンがあった気がする。どちらも覚えておくと洋画の乗り物、特に船舶のシーンを楽しめるようになる。

次に劇場鑑賞したい映画

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『 ケイコ 目を澄ませて 』

 

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