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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 海外

『 INFINI インフィニ 』 -古今のSFとホラーのパッチワーク-

Posted on 2023年11月18日 by cool-jupiter

INFINI インフィニ 30点
2023年11月16日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ダニエル・マクファーソン
監督:シェーン・アベス

 

近所のTSUTAYAで、いかにもC級SFという本作を見かけて、ついつい借りてしまった。予想通り、オリジナリティの欠片もない作品だった。

あらすじ

23世紀。地球は荒廃し、人口の95%は貧困層になり、スリップストリームという瞬間移動技術によって他の惑星に趣き、過酷な環境で働くことを余儀なくされていた。ある時、辺境の惑星でウイット・カーマイケル(ダニエル・マクファーソン)を残して部隊が全滅。スリップストリームで救助に向かった部隊が目にしたのは、奇妙な死体の数々だった・・・

 

ポジティブ・サイド

特殊メイクは結構頑張っている。血と汗と油と埃にまみれた男たちの姿が印象的だった。役者が発狂するシーンが多く、まるで韓国映画のよう。これは褒めている。オーストラリア人の演技へのアプローチはハリウッドとはちょっと異なっているようで、そこが面白い。

 

オーストラリアは元々はイギリスの流刑地だったという歴史を背景に本作を鑑賞すれば、流れ着いた先がどこであれ、そこで逞しく生きていくというオーストラリア人の矜持が見て取れる。

 

ネガティブ・サイド

まるで古今東西のSFスリラーのごった煮的な作品。約2時間の作品だが、体感ではその半分近くのシーンで「ああ、これ〇〇で観たわ」と感じてしまった。本格的なSF映画ファンなら、本作の7~8割のシーンに既視感を覚えるのではないだろうか。

 

パッと思い浮かぶのは『 エイリアン 』に『 遊星からの物体X 』。体内から何かが出てきたことを思わせる遺体となると、どうしても思い起こさずにはいられない。スリップストリームのアイデアは『 スタートレック 』の転送装置そのまんま。そしてスリップストリームする際に生じる顔面ブルブルは『 マトリックス 』から借りてきた演出。終盤の映像と展開も『 アビス 』と『 スフィア 』とそっくり。他にも『 サンシャイン2057 』や『 イベント・ホライゾン 』、また数多くのゾンビ映画、ウィルス蔓延型パニック映画のタイトルがたくさん脳裏に浮かんできた。とてもオマージュでは済まされない量で、正直なところ中盤以降はかなり眠気と格闘していた。

 

総評

典型的な a rainy day DVD だろうか。配信サービスで無料だったら、手持ち無沙汰の雨の日にのんびり鑑賞するぐらいがちょうどいい。そのうちあなたの知らないワゴンセールの世界様で紹介されるのではないだろうかと予測している。つまりはそういう作品であるということである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Identify yourself.

しばしば Who are you? とセットで発話される。主に軍人さんが使うイメージ。直訳すれば「自分の身元を明らかにしろ」ということだが、これに対する反応はほとんどの場合、名前、所属部隊、階級であることが多い。映画だと他には警察が使うぐらいか。しかし、ほとんどの場合は軍人が使うと思っていい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 月 』
『 デシベル 』
『 花腐し 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, SF, オーストラリア, シェーン・アベス, ダニエル・マクファーソン, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズLeave a Comment on 『 INFINI インフィニ 』 -古今のSFとホラーのパッチワーク-

『 ドミノ 』 ーThe less you know, the betterー

Posted on 2023年11月6日2023年11月6日 by cool-jupiter

ドミノ 65点
2023年11月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ベン・アフレック ウィリアム・フィクナー アリシー・ブラガ
監督:ロバート・ロドリゲス

 

本作に関しては、極力何の事前情報も入れずに鑑賞するのが吉である。それにしても『 リゾートバイト 』でも感じたが、日本の配給会社、提供会社はもうちょっと宣伝文句を控えめにできないものか。

あらすじ

娘を誘拐された心の傷を持つ刑事ローク(ベン・アフレック)のもとに、銀行強盗のタレコミが入る。現場で犯人が狙う貸金庫の中からロークは娘の写真と謎のメッセージを発見する。犯人は警察官を操り、屋上から飛び降りて姿を消した。捜査を進めるロークは、謎の占い師ダイアナ(アリシー・ブラガ)から、人間を操るヒプノティックの存在を知らされ・・・

ポジティブ・サイド

本作はアクション映画の大家ロバート・ロドリゲスの新境地かもしれない。『 アリータ バトル・エンジェル 』などで驚きのアクション・シークエンスを演出してきた彼が、今作ではミステリー、サスペンス、スリラーの要素を前面に打ち出してきた。原題の Hypnotic とは「催眠にかかっている」の意。動詞の hypnotize は『 この子は邪悪 』で紹介しているので、興味のある向きは参照されたい。 

 

ベン・アフレックが傷心の刑事を好演しているが、やはりトレイラーから存在感抜群だったウィリアム・フィクナー演じる謎の術師が素晴らしい。キリアン・マーフィーもそうだが、見た目からしてただならぬ妖気というかオーラがあり、一筋縄ではいかないキャラであることが一目でわかる。

 

捜査中に知り合った謎の女ダイアナと共に、謎の催眠術師レヴ・デルレーンを追いかけ、また追いかけられるという中盤の展開はスリリング。しかし、相手は他人に「別の世界」を知覚させてしまう術師。襲い来る群衆に、味方でさえも信用できない状況。緊迫感を煽るBGMと共にサスペンスが盛り上がる。

 

中盤に「ほほう」という展開がやってくる。細かいネタバレはご法度だが、本作は一種の記憶喪失もの。タイムトラベルものと記憶喪失ものは序盤から中盤にかけては絶対に面白い・・・のだが、逆に終盤に尻すぼみになってしまうことがほとんど。本作は、そこにさらにもう一捻り二捻りを加えてきたところが秀逸。細かくは言えないが、1990年代の小説『 NIGHT HEAD 』の某敵キャラがヒントである。

 

94分とコンパクトながら、様々なアイデアを巧みに盛り込み、それでも消化不良を起こさせない脚本はお見事。後半の怒涛の伏線回収は作劇術のお手本と言えるかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

映像は確かに凄いが、街がグニャリと折れ曲がっていく光景は『 インセプション 』や『 ドクター・ストレンジ 』で見た。二番煎じは不要である。

 

また催眠術が効かない人間が一定数出るのは、感染パニックもので一定数最初から免疫を持つ者がいるのと同じ。それが特定のキャラクターとなると、どうしても「ははーん、つまりコイツはあれだな」と簡単に邪推できてしまう。もう少し捻りが必要だったろう。感染ものではないが『 トータル・リコール 』などともそっくりだ。

 

ダイアナという能力者が主人公に協力しつつも、敵であるデルレーンが自分よりも強力な能力者で尻込みしながらも何とか抵抗していくというのは『 ブレイン・ゲーム 』にそっくり。ということは「この先に何かあるよね?」と疑うのは理の当然。どんでん返しというのは、予想もしないところからひっくり返す、あるいは予想していた以上にひっくり返すことが求められるが、本作に関しては予想の範囲内だったという印象。

 

総評

どんでん返しがあると思って観てはいけない。本作を楽しむ最大のポイントは公式ホームページなども含めて、事前の情報を極力避けることにある。ということは、こんなレビューを読んでいる時点でアウトである。観るならサッサとチケットを買う。観ないのなら別の映画のチケットを買う。それだけのことである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

construct

ここで紹介したいのは「建築する」「構築する」という動詞ではなく「心理的構成物」という名詞の意味。『 マトリックス 』でエージェント・スミスがネオに向かって戦う意味を ”Is it freedom or truth?! Perhaps peace?! Could it be for love?! Illusions, Mr. Anderson, vagaries of perception! Temporary constructs of a feeble human intellect trying desperately to justify an existence that is without meaning or purpose!” のように問うシーンでも使われている。心理学や哲学を勉強している、あるいは英検1級やTOEFL iBT100、IELTS7.5を目指す人なら知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 月 』
『 トンソン荘事件の記録 』
『 火の鳥 エデンの花 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, アリシー・ブラガ, ウィリアム・フィクナー, スリラー, ベン・アフレック, 監督:ロバート・ロドリゲス, 配給会社:ギャガ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 ドミノ 』 ーThe less you know, the betterー

『 ザ・クリエイター/創造者 』 -イデオロギーではなくテクノロジーを見せろ-

Posted on 2023年10月23日 by cool-jupiter

ザ・クリエイター/創造者 40点
2023年10月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジョン・デビッド・ワシントン マデリン・ユナ・ボイルズ ジェマ・チェン 渡辺謙
監督:ギャレス・エドワーズ

 

AIが現実の仕事や学問に巨大なインパクトを与え始めている中でタイムリーな作品が公開されたと思い、チケット購入。

あらすじ

2055年、LAでAIによる核爆発が勃発。以降、アメリカはAIを排除することを決定。ニューアジア共和国に潜伏する謎のAI開発者ニルマータを捉えるために、潜入捜査官のジョシュア(ジョン・デビッド・ワシントン)は組織の女性マヤ(ジェマ・チャン)に近づき、夫婦となるが・・・

以下、軽微なネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

日本国内でもChatGPTを禁止する大学(上智など)が出てくるなど、大学レベルですらAIに対する対応が割れるのだから、国家となると尚更のはず。中国がGoogleを遮断したりするという実例もある。本作は冒頭からロボットの発達とそこにAIが搭載されて・・・という歴史の if をダイジェストで見せてくれるが、まさに近現代のテクノロジー史の一端を見せられているようで興味深かった。このイントロがあるからこそ、ある意味荒唐無稽もいいところのメインプロットに説得力が生まれている。

 

舞台がアメリカ国外というのも良い。これまでアメリカ映画におけるアメリカ=全世界的な価値観を、本作は踏襲していない。ゾンビ映画でもモンスター・パニックでもパンデミックものでも、アメリカ=世界という等式が成り立つことがほとんどだったが、AIを拒否するアメリカとAIと共存するニューアジア共和国という対比は新鮮だった。

 

こんな感想を抱いたのはごく少数だと思うが、Jovianは途中からジョシュアがモハメド・アリに見えてきた。本作を楽しむ鍵は、ジョシュアにどれだけ感情移入できるかにあると思う。まあ、マイノリティーの意見・感想です。

ネガティブ・サイド

全体的に意外性がない。死んだと思ったヒロインが実は生きていた、というのは開始10分で分かること。要はそこにたどり着くまでの過程を以下に予想外のものにするかにあるのだが、全体的な世界観が『 ターミネーター 』および『 ターミネーター2 』の裏返しだと感じたし、人間側(というかアメリカ人)の感性も『 アイ、ロボット 』そっくり。結局は技術革新の裏で常に進行するラダイト運動のSF版という感じ。ノマドの外観および内部のデザインやレイアウトも『 エリジウム 』や『 スター・ウォーズ ローグ・ワン 』のビジュアルに酷似している。後者の方は監督が同じだからある意味で当然か。最も意外であるべき、ジョシュアが何故ミッションである最終兵器の破壊ではなく保護を選んだのかという理由についても、『 ブレードランナー2049 』が先行している。

 

舞台のニューアジア共和国というのがハッキリしない。我らが渡辺謙が登場し、やたらと日本語も聞こえてくるから日本?景色からしてラオス、カンボジア、ベトナム?ノマドを見ていると、どうもベトナム戦争時の民間人へのナパーム攻撃を想起させる点からして、やっぱりベトナム?だとするとAIは共産主義?そして最終的に勝利を収めるのも共産主義?イデオロギー的な背景など無しに、純粋にテクノロジーを受容するのか、拒絶するのかというストーリーの方がシンプルで、よりエンターテインメント性を追求できたのではないかと思う。

 

ところで・・・21世紀も半分を大きく過ぎているにもかかわらず、ニューアジア共和国は20世紀半ばの東南アジアのように見えるのは何故なのか?AIやロボットと共存している国家の生活水準があんなに低いはずがないと思うのだが。ただギャレス・エドワーズ監督は『 GODZILLA ゴジラ 』でジャンジラなる珍妙な日本を描いた前科があるからなあ・・・ アジアに対して正しい知識やリスペクトを持っていないように感じられて仕方がなかった。

 

総評

面白いのは面白いのだが、全編どこかで見た構図のパッチワーク。渡辺謙のAIロボも、どこか浮いていた。家族や愛の物語で締め括るのは『 インターステラー 』と同じ。壮大な世代交代のストーリーが、えらく小ぢんまりとまとまってしまったという印象。テクノロジーの話ではなくイデオロギーの話なので、鑑賞するかどうかは自分の嗜好をよくよく確かめて検討すること。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

turn the tide 

「流れを変える」の意。劇中では turn the tide of the war = 戦争を逆転させるのように使われていたと記憶している。日常だと

 

He mentioned the critical evidence and turned the tide of the debate.
彼は決定的なエビデンスに言及して、ディベートの流れを変えた。

 

The sales rep turned the tide of the negotiation by offering the client a big discount.
営業担当は顧客に大幅値引きを提供することで交渉の流れを変えた。

 

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 オクス駅お化け 』
『 リゾート・バイト 』
『 月 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, SF, アメリカ, ジェマ・チェン, ジョン・デビッド・ワシントン, マデリン・ユナ・ボイルズ, 渡辺謙, 監督:ギャレス・エドワーズ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 ザ・クリエイター/創造者 』 -イデオロギーではなくテクノロジーを見せろ-

『 ハント 』 -北のスパイを突き止めろ-

Posted on 2023年10月5日 by cool-jupiter

ハント 75点
2023年10月1日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:イ・ジョンジェ チョン・ウソン
監督:イ・ジョンジェ

 

簡易レビュー。

あらすじ

1980年代。安全企画部の海外班長パク・ピョンホ(イ・ジョンジェ)と国内班長キム・ジョンド(チョン・ウソン)は、機密情報が北朝鮮に漏洩していることを知る。そして組織内にスパイがいると告げられる。パクとキムは互いのチームを探り始めるが・・・

ポジティブ・サイド

1983年という、韓国民主化前夜の時代。その3年前に「光州事件」という、韓国版の天安門事件とも言うべき事態が引き起こされており、アメリカ系韓国人が韓国大統領の訪米に対して抗議のデモを起こすところから物語が始まる。

 

そこで勃発する要人暗殺未遂事件。パクとキムの二人は反目しあいながらも事件を解決。しかし謎のスパイ「トンニム」によって次々に機密情報が漏洩。一息つく暇もなく、二人はトンニムの追跡に乗り出すが成果なし。このあたりの展開の疾走感がたまらない。元々浅からぬ因縁のある二人だが、その過去の語られ方がめちゃくちゃ。まるで昭和の任侠映画のよう。というか時代背景的に昭和か。

 

二人のスペシャリストの対決は、それこそハリウッドでは撮り尽くされた印象があるが、そこに北朝鮮というファクターを混ぜるだけでサスペンスとミステリのレベルが一段上がる。トンニムとは誰か?パクとキムの捜査と虚々実々の駆け引きにぐいぐいと引き込まれる。本作が上手いのは、トンニム探しをゴールとするのではなく、そこから先に更なるクライマックスを持ってくるところ。冷酷非情な諜報員と情に厚い面を併せ持つ二人の男の極限の対決の結末には茫然自失。

 

韓国のみならずアメリカ、日本やタイをも破壊しつくす気か?と思わせる作品。と思いきや、撮影はすべて韓国内で完結したとのこと。国策で映画を作っている国は違いますなあ・・・

 

ネガティブ・サイド

全編を通じてまさにストーリーが疾走するが、説明不足の感も否めない。特に韓国近現代史の知識がある程度ないと、キム班長の苦悩の回想シーンの意味を理解できないだろう。当時の韓国の置かれていた政治的状況をもう少し上手く物語の展開の中で自然に説明できなかっただろうか(Jovian妻はここでつまずいていた)。

 

最終盤の怒涛の展開の中で、韓国の政府組織はどれだけ北朝鮮スパイに跳梁跋扈を許しているのか?というシーンがある。ここだけは、ちょっと北朝鮮の脅威を過大に描き過ぎだと感じた。

 

総評

こりゃまた血生臭い韓国映画。血の臭いだけではなく、男臭さもムンムンと漂ってくる。『 ビースト 』や『 ただ悪より救いたまえ 』といった、男二匹の対決をテーマにした作品が好きだという向きはチケット購入をためらってはならない。そうそう、中盤に思わぬ大スターが出演して、ケレンミたっぷりの演技を見せてくれる。これは嬉しい不意打ちである。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

インミン

劇中で突如登場する大物俳優がこの言葉を何度も口にする。意味は「人民」である。「人民のため」などと為政者が口にする時は、だいたい嘘をついている時だと思っていい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ほつれる 』
『 まなみ100% 』
『 オクス駅お化け 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, イ・ジョンジェ, チョン・ウソン, 監督:イ・ジョンジェ, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 ハント 』 -北のスパイを突き止めろ-

『 キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 』 -サスペンスの極北-

Posted on 2023年9月25日2023年9月25日 by cool-jupiter

キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 80点
2023年9月24日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:フランキー・フェイソン
監督:デビッド・ミデル

 

妻が「面白そう」というので、チケットを購入。ハズレが少ないシネ・リーブル梅田の上映作品だが、本作は年間ベスト級の面白さだった。

あらすじ

心臓病を抱えるケネス・チェンバレン(フランキー・フェイソン)は、誤って救命救急サービスのアラームを作動させてしまう。それによってケネスの自宅に警察官が急行し、ケネスの安否を確認しようとするが・・・

 

ポジティブ・サイド

舞台はケネスの自宅室内とアパートのホールウェイ。主な登場人物は、ケネスと最初に現場に急行する警察官3名、ライフ・ガード社の女性オペレーター1名、そしてケネスの姪っ子一人と、非常に小規模な作品。しかし、そこに流れる空気の濃密さはそんじょそこらの映画の比ではない。

 

最初は職務に忠実にケネスの安否を確認しようとする警察官たち。しかしケネスが黒人、元海軍兵、さらに精神障害の既往歴ありという属性を知るにつれて、どんどんと過激化していく。黒人ということは犯罪者予備軍ではないか。海軍ということは武器を所有しているのではないか。まるで『 福田村事件 』のように、疑心暗鬼がいつの間にか確認に変わり、法執行官の代表たる警察官がいとも簡単に法を破っていく。そこに至るまでの過程が『 デトロイト 』そっくりだが、『 デトロイト 』では銃声というトリガーがあった。しかし、本作では警察官の暴力性を引き出す契機は何もなし。そのことが観る側に恐怖感を呼び起こす。単に暴力的になっていくから怖いのではない。職務に忠実であろうとする姿勢が、いつの間にか他者を傷つけることを厭わない姿勢に変わっていくことが恐ろしい。そういう意味では本作は『 ヒトラーのための虐殺会議 』に近いものがある。これは極端な例かもしれないが、哲学者ハンナ・アーレントが見抜いたように、人は凡庸な悪にこそ支配されてしまう。その過程をわずか数十分で臨場感たっぷりに描いた点が本作の一番の貢献と言えるかもしれない。

 

ケネスを演じたフランキー・フェイソンの迫真の演技には息を呑むばかり。双極性障害の持ち主にして、軽いPTSD持ちにも見えた。彼の脳裏に去来したであろう様々な体験を一切映像化することなく、観る側にそれをありありと想起させる演技力と監督の手腕は見事の一語に尽きる。ライフ・ガード社のオペレーターの女性の声だけの迫真の演技も印象的。中学校教師上がりの警察官ロッシの個人としての信条が、警察という階級組織の中で簡単に押しつぶされていく様もリアルだった。

 

タイトルの通りに最後にケネスは殺害されてしまうわけだが、その結末には慄然とさせられる。法とは何か。人命とは何か。何が我々を狂わせるのか。何が我々を思考停止に陥らせるのか。本作が示唆する問題はアメリカだけに限定されたものでは決してない。

 

ネガティブ・サイド

エンドロール時に本物のケネスや警察官たちの声が聞こえるが、警察官たちは暴力的というよりも、ケネスをおちょくるような口調だったと感じた。であるならば、そのような口調を再現し、それをケネスが威圧的、高圧的、威嚇的と受け取ってしまう、のような演出を模索できなかったか。あるいは、エンドロールの実在の人物たちの声はすべてカットしてしまうのも一つの選択肢だっただろう。

 

総評

間違いなく年間ベスト候補の一つ。非常に限定的な時間と空間、そして人間関係だけで圧倒的なドラマを生んでいる。大量破壊兵器を持っていないのに、あたかも持っているかのように振る舞ったイラクは空爆されてしかるべきだった。ウクライナ戦争以降、このような言論が耳目に入ってくるが、どう考えてもアメリカの方が悪い。疑わしきは罰せずというのが人類のたどり着いたひとつの結論であるはずだが、個人レベルでも国家レベルでも疑惑を確信に変えて行動してしまうアメリカには決して倣ってはならない。やることなすこと全てアメリカの猿真似の本邦も、本作や『 福田村事件 』を直視しなければならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

make sure

しばしば S1 make sure that S2 + V のような形で使う。意味は、S2がVするとS1が確認する。まあ、これは例文で覚えたほうが早い。

 

She made sure that the door was locked and the windows were closed.
彼女はドアが施錠されていて、窓も閉じられているということを確認した。

I want to make sure that this assignment is due next month.
この課題は来月が締め切りであると確認したい。

 

のように使う。初級者から上級者まで日常でバンバン使う表現なので、ぜひ覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アリスとテレスのまぼろし工場 』
『 ほつれる 』
『 BAD LANDS バッド・ランズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アメリカ, サスペンス, スリラー, フランキー・フェイソン, 伝記, 監督:デビッド・ミデル, 配給会社:AMGエンタテインメントLeave a Comment on 『 キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 』 -サスペンスの極北-

『 グランツーリスモ 』 -壮大なインフォマーシャル-

Posted on 2023年9月25日 by cool-jupiter

グランツーリスモ 30点
2023年9月23日 TOHOシネマズ伊丹にて鑑賞
出演:アーチー・マデクウィ デビッド・ハーパー オーランド・ブルーム
監督:ニール・ブロムカンプ

鑑賞する気は毛頭なかったが。世評では本作は『 RRR 』や『 トップガン マーヴェリック 』に比肩すると言われている。ならばとチケットを購入。

 

あらすじ

小さな頃からクルマが大好きだったヤン・マーデンポロー(アーチー・マデクウィ)は、PlayStationゲーム『 グランツーリスモ 』で抜群の腕前を誇るゲーマーになっていた。同作のトップゲーマーたちを集めて、現実のレーシング・ドライバーに育成するというGTアカデミーが発足。ヤンも招集されるが、そこで出会ったコーチは、ゲーマーがレーサーになれるわけがないと思っているジャック・ソルター(デビッド・ハーパー)だった・・・

 

ポジティブ・サイド

主人公のヤンのバックグラウンドを丁寧に描いている点には好感を抱いた。元サッカー選手の父にサッカー選手として花開いた弟、憧れの女の子オードリーとの絶妙な距離感など、ゲーマーとしてだけではなく一人の人間としての個別性がしっかり確立されていて、そのことがストーリーの要所要所のイベントとリンクしていく。愛したいのに愛せない父親と憎らしいけれど愛すべきコーチの対比も映える。

 

これが実話(をベースにした物語)だというのだから恐れ入る。VRが教育に徐々に取り入れられていっているが、各種の技能の訓練にシミュレーターがどんどんと使用されるようになっていく、という近未来を予感させてくれたのも、教育業界人の端くれとして thought-provoking だと感じた。

 

日本発のゲームが基になっており、開発者も日本人なので、日本(東京)の描き方に問題はなかった。よくあるハリウッド映画だと床の間に掛け軸のようなトンチンカンな日本家屋ではなく、ネオンサインに彩られたガヤガヤしたアジア的あるいは無国籍な繁華街の雰囲気は良かった。

 

ネガティブ・サイド

『 トップガン マーヴェリック 』や『 RRR 』に並ぶ面白さは感じなかった。もちろん、何を面白いと思うのかは個人の感性なので、そういうレビューをする人はそういう感性の持ち主なのだと納得するしかない。ただ、比較するなら『 トップガン 』の方だろう。複雑な家庭出身の主人公がアカデミー入りを果たし、大きな事故を経ながらも大活躍。新しい仲間を得て、自分の選んだキャリアを全うしようと決意する・・・って、まんま『 トップガン 』のプロットと同じやんけ。さらにエンヤとケニー・Gの楽曲が随所で挿入されるのも、80年代のイケイケ音楽と同時のオールディーズをふんだんに取り入れた『 トップガン 』ともよく似ている。つまり、オリジナリティはない。ニール・ブロムカンプといえば『 第9地区 』や『 エリジウム 』のように、差別や格差といった社会問題をうまくエンタメに昇華する監督だが、今作で彼の持ち味が発揮されたかというと、やや疑問。こういう構成にするなら、エドガー・ライトやジョセフ・コジンスキーの方が明らかに上手だろうと思う。

 

トップガンとの最大の違い、かつ本作の最大の弱点は、ゲームと現実の絶対的な境目である加速やターン時のGフォースをあまり描けていなかったこと、なおかつそのGをどのように克服していったのかという過程が思いっきりすっ飛ばされていたこと。そしてゲームではリセットできても、実際の運転ではリセットは不可能という絶対的な現実を乗り越える過程もなかった。序盤にヤンがパトカーを振り切る運転を見せたが、これなどはコーチのソルターが最も嫌う行動ではないか。現実にこんな anecdote があったとも思えない。映画化にあたっての脚色なのだろうが、個人的には蛇足に感じた。

 

本来描かれるべきゲームと現実の絶対的な相違を克服する過程の代わりに、本作はこれでもかと音楽を売り込んでくる。別にそれはそれで構わないし、それがヤン・マーデンボローという人物を正確に描くには欠かせないのは分かる。問題はそのことがストーリーに特に深みを与えていないこと。GTアカデミーの仲間たちがヤンのヘッドホンからの音漏れで夜中に目を覚ましてしまうシーンがあったが、もしもその後に一度は袂を分かった仲間たちが、ヤンの影響を受けて、自分なりのキラーソングを見つけて活躍するようになった、というひとかけらの描写や説明があれば良かったのだが、それもなし。よくできたミュージック・プロモーション・ビデオだとは言えるが、レーサーとしての成長を描くドラマとしては微妙と言わざるを得ない。

 

最後の最後でとあるプレゼントが大きな役割を果たすが、「おいおい、完全に使いこなしてるやんけ」と突っ込みを入れざるを得なかった。SONYのウォークマンはJovianも愛用しているが、ソルターがブルートゥース接続をするというのがまず想像できないのだが・・・

 

総評

正直なところ期待外れ。ストーリーも陳腐で細部も突っ込みどころだらけ。しかし、Jovian妻は「まあまあ面白い」とのことだった。さらに鑑賞後のトイレで若い男性二人が「あのゲーム、やりたくなった」と話していたりで、大傑作とは言わないまでも佳作とは言えるかもしれない。どんな作品でも最後は作り手と受け取り手の波長の問題となる。Jovianは無線の音声が印象に残ったので、『 グランツーリスモ 』よりも Ace Combat シリーズをもう一度プレーしてみようかな、と感じた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

podium

表彰台の意。ラテン語では pod = 足、ium=場所である。足の乗る場所なので表彰台となる。pod は ped にもなり、ペダルやペディキュアといった語からも足の意味が読み取れる。英語に自信のある人なら centipede =百足=ムカデ、arthropod =節足動物などを思い起こすかもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 』
『 アリスとテレスのまぼろし工場 』
『 ほつれる 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アーチー・マデクウィ, アメリカ, オーランド・ブルーム, スポーツ, デビッド・ハーパー, 伝記, 監督:ニール・ブロムカンプ, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 グランツーリスモ 』 -壮大なインフォマーシャル-

『 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 』 -ホラー風味たっぷりのミステリ-

Posted on 2023年9月24日 by cool-jupiter

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 65点
2023年9月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ケネス・ブラナー
監督:ケネス・ブラナー

 

簡易レビュー。

あらすじ

ベネチアで楽隠居をしていた名探偵ポアロ(ケネス・ブラナー)の元に旧知の小説家が訪ねてきた。彼女の誘いで交霊会に臨むことになったポアロは、子どもの霊に憑りつかれているという妖しい館へと赴く。見事に霊媒師のトリックを暴いたポアロだが、その霊媒師が何者かに殺害されてしまい・・・

ポジティブ・サイド

情緒あふれる古都ベネチアがいい。『 スパイダーマン ファー・フロム・ホーム 』や『 ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE 』のようにアクションの舞台になるよりも、ミステリの舞台となる方が断然映える。

 

原作をかなりいじくっているが、これは脚本家が良い仕事をした。どれだけオカルト色を強めても、原作はアガサ・クリスティー。つまり絶対にミステリ。なので、観ている側も「この作品のジャンルはホラーなのか、ミステリなのか」と迷うことがない。どんなにスーパーナチュラルな事象に見えても、絶対に合理的な説明がつくはずだ、という確信をもって鑑賞できる。これがカトリーヌ・アルレー原作だとこうはいかない。オカルトの可能性が少しあるからだ。

 

人間模様もかなりドロドロで、怖いのはやはり人間なのだと思わされる。恐怖が最高潮に達した瞬間に、快刀乱麻を断つがごとく炸裂するポアロの名推理。ケネス・ブラナー版ポアロの中では本作は一番面白い。

 

ネガティブ・サイド

霊媒師のトリックを暴く序盤は良かったが、声が変わる謎は放置。ここもスッキリさせてほしかった。

 

とある密室のトリックが少々お粗末。時代が時代だけにしゃーないのだが「物的な証拠は?」と開き直られたら終わり。推理は状況証拠だけではなくちゃんとした物証を基に行ってほしかった。

 

総評

アガサ・クリスティーものとしては『 ねじれた家 』に通じるテイストとミステリ、そしてホラー要素が上手く混ざり合っている。4作目がどうなるかは分からないが、次作も楽しみ。そして5作目に『 アクロイド殺し 』を実現してほしい。高校生だったJovian少年は『 アクロイド殺し 』に衝撃を受けて、そこから江戸川乱歩以外のミステリ作品も読むようになったのだ。ケネス・ブラナー版のポアロの今後に期待。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fall victome to ~ 

~の犠牲・被害者になる、の意味。Many passengers fell victim to the water accident due to the captain’s lack of experience. =船長の経験不足のせいで多くの乗客が水難事故の犠牲になった、のように使う。英検準1級以上を目指すなら知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アステロイド・シティ 』
『 アリスとテレスのまぼろし工場 』
『 ほつれる 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, ケネス・ブラナー, ミステリ, 監督:ケネス・ブラナー, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 』 -ホラー風味たっぷりのミステリ-

『 兎たちの暴走 』 -やや竜頭蛇尾-

Posted on 2023年9月16日 by cool-jupiter

兎たちの暴走 60点
2023年9月9日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:リー・ゲンシー ワン・チエン
監督:シェン・ユー

簡易レビュー。

 

あらすじ

シュイ・チン(リー・ゲンシー)は父と継母、弟と暮らしているが、家に居場所がない。また学校でも本当の友達はいなかった。しかし、ある時、自分を生んですぐに行方をくらませた母チュー・ティン(ワン・チエン)が16年ぶりに帰ってきた。過去のわだかまりをなくしたシュイ・チンは、母に居場所を求めていく。しかし、母にはとある秘密があって・・・

ポジティブ・サイド

高校の校舎および雰囲気が中国映画『 少年の君 』や韓国映画『 不思議の国の数学者 』のそれとよく似ている。学校=一種の監獄という構図が見て取れる。家にも学校にも、本当の居場所がないというシュイ・チンの境遇が映像だけで伝わってきた。

 

元々存在しなかった母親と親子というよりも友情に近い関係性を求めてしまうのもむべなるかな。その過程がアメリカ映画『 レディ・バード 』と対照的で面白かった。

 

色々と荒い面はあるが、主要キャラクターの感情や思考が言葉ではなく振る舞いで表されている。たった一組の母と娘の関係性を描きながら、中国社会の暗い位相が浮き彫りにした手腕は見事。

ネガティブ・サイド

ぴょんぴょんと元気に跳ね回る兎たちが、最後の最後に大暴走・・・なのだが、結末がなんとも尻すぼみ。終わりよければ全て良しと言うが、逆に言えば終わり悪ければ全て悪しになる。邦画『 MOTHER マザー 』のエンディングにも個人的には不満だったが、母たるチュー・ティンがもっと自己犠牲の精神を見せるか、あるいはさらなる暴走をして・・・と、もう一つ先の段階まで踏み込んでエンディングに繋げられなかったか。

総評

中国版の逆『 レディ・バード 』になりきれなかった作品。それでも母と娘の歪な関係の描写に、地域社会や現代中国の閉鎖性が垣間見えてくる。それにしても主役のリー・ゲンシーは良い役者だ。『 少年の君 』のチョウ・ドンユィにも驚かされたが、中国はルックスではなく演技力や監督の演出をそのまま体現できる表現力で役者が選ばれているようだ。粗削りだが、キラリと光るところもある作品。シェン・ユー監督の名前は憶えておきたい。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

元

ユアンと発音する。言わずと知れた中国の通貨単位。劇中で何度か200万元が話題になるが、何と言っているのか聞き取れなかった。2は多分、アールのはず。元はユアンとはっきり聞こえた。リスニングは難しい。が、語学学習は兎にも角にもリスニングから。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アステロイド・シティ 』
『 さらば、わが愛 覇王別姫 』
『 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, ヒューマンドラマ, リー・ゲンシー, ワン・チエン, 中国, 監督:シェン・ユー, 配給会社:アップリンクLeave a Comment on 『 兎たちの暴走 』 -やや竜頭蛇尾-

『 あしたの少女 』 -社会を覆う無責任の構造-

Posted on 2023年9月11日 by cool-jupiter

あしたの少女 70点
2023年9月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:キム・シウン ペ・ドゥナ
監督:チョン・ジュリ

簡易レビュー。

 

あらすじ

高校生のソヒ(キム・シウン)は大手ISPの下請けコールセンターで実習生として働き始める。ソヒはオペレーターとしてストレスフルな仕事を何とかこなしていた。しかし、厳しくも優しかった男性上司が会社の駐車場で自殺したことを知ったソヒは、徐々に精神的に摩耗していき・・・

 

ポジティブ・サイド

キム・シウンがいかにも韓国女子高生という気の強い役を見事に演じている。好きなダンスに真摯に打ち込む姿勢、友達との友情とその友情に徐々に入っていく亀裂、そして徐々に自分を失っていく様など、どれもリアリズムたっぷりに演じていた。こういう役者を抜擢して、妥協のない演出を施すあたりが韓国映画界らしい。邦画はいつになったら追いつけるのか。

 

実習生と聞けば、日本でも技能実習制度を思い起こさずにはいられない。ほっこりするエピソードが報じられることもあるが、過労死が疑われるケースや雇用側の暴力、被用者の逃亡など、ネガティブなニュースの方が圧倒的に多い気がする。それは隣国でも同じらしい。

 

後半はソヒの死を捜査する刑事オ・ユジンが主役となる。もっとも観ている側はソヒがどのように追い詰められていったのかをつぶさに見ているわけで、捜査で何の真実が明らかになるのかと思う。そこが本作の味噌で、学校や企業、役所、果ては家庭に至るまで無責任の構造が浸透していたことが明らかになる。これはショッキングだ。しかも、ユジンとソヒの意外な接点も明らかになり、刑事としてのユジンではなく一個人としてユジンも、ソヒの死に激しく揺さぶられることになる。

 

前半と後半の実質的な二部構成と、それぞれの主役である二人の女優の演技に圧倒される。そして物語そのものがもたらす苦みを忘れることは難しい。

 

ネガティブ・サイド

全体的にやや冗長な印象。ソヒのパートを70分、ユジンのパートを50分の合計120分にできなかっただろうか。

 

ソヒの父ちゃんがなんとなく『 焼肉ドラゴン 』のキム・サンホ的で、なんだかなあ・・・ もう少しちゃんと子どものことを見ようぜ、と思わされた。

 

ソヒの親友、ボーイフレンド、別の男の先輩との関係をもう少し丹念に描いてくれていれば、ソヒが特殊な境遇の女の子ではなく、どこにでもいる普通の高校生であるという事実がもっと強調されたと思われる。

 

総評

重厚な映画。『 トガニ 幼き瞳の告発 』のような後味の悪さというか、社会全般への怒りと無力感の両方が強く感じられる。ヘル・コリアなどと揶揄されることが多い韓国だが、日本社会も似たようなもの。韓国映画界は社会の暗部をさらけ出す映画を製作することを恐れないが、日本はどうか。『 福田村事件 』のような気骨のある作品を今後生み出せるだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ソンベ

先輩の意。韓国映画やドラマではよく聞こえてくる。ソンベニム=先輩様という使われ方もあるらしい。「先輩」という概念はあっても、それが実際に言葉として存在するのは日本と韓国ぐらいではないだろうか。中国映画もある程度渉猟して中国語ではどうなのか、いつか調べてみたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 兎たちの暴走 』
『 アステロイド・シティ 』
『 さらば、わが愛 覇王別姫 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, キム・シウン, サスペンス, ヒューマンドラマ, ペ・ドゥナ, 監督:チョン・ジュリ, 配給会社:ライツキューブ, 韓国Leave a Comment on 『 あしたの少女 』 -社会を覆う無責任の構造-

『 MEG ザ・モンスターズ2 』 -J・ステイサム大暴れ-

Posted on 2023年9月4日 by cool-jupiter

MEG ザ・モンスターズ2 40点
2023年9月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェイソン・ステイサム ウー・ジン ソフィア・ツァイ
監督:ベン・ウィートリー

『 MEG ザ・モンスター 』の続編。もはやサメ映画ではなく低俗B級怪獣映画。いや、ステイサム映画と言った方がいいかもしれない。

 

あらすじ

ジョナス・テイラー(ジェイソン・ステイサム)は、海洋探査研究所マナ・ワンで、子どものメガロドンが飼育されていることを知る。ジョナスはジウミン(ウー・ジン)たちと共にさらなる深海探査に繰り出すが、海上にはテロリストの影が迫っていた。そして、深海にはメガロドン以外の脅威も・・・

ポジティブ・サイド

ホラー映画は、恐怖の正体をなかなか見せないのが常道だが、本作は続編。したがって巨大鮫メガロドンを出し惜しみする必要はなし。実際に冒頭からメグが登場する(飼育されている個体だが)し、深海探査に行くまでの展開もスムーズ。そして潜った先にはやはりメグ。お約束をしっかりと守ってくれる。深海にはメグ以上の恐怖の存在である水圧が存在しており、『 リバイアサン 』冒頭でキャラクター達が軽口で言っていた「水圧でペチャンコにされるぞ」が本作では実現。これには不謹慎ながら、劇場で思わずガッツポーズしそうになった。

 

ある意味で『 ミッション・インポッシブル 』におけるトム・クルーズのように、ジェイソン・ステイサムが好き勝手に暴れ回る。前作ではそこにラブロマンスの要素を加えてきたが、今作はバディを投入。ウージン演じるジウミンが、時にコミック・リリーフに、時にヒーローにと大活躍。チャイウッド映画などと揶揄する向きも散見される本シリーズだが、ジウミンは文句なしに愛すべきキャラ。まさかの第三作製作の暁には、クリフ・カーティスと共に続投は決定的だろう。

ネガティブ・サイド

メガロドンがティラノをガブリというのは、確か原作小説にあった描写のはず。ただ、浅瀬に入ってきた恐竜をパクっと行ったのであって、シャチのように思いっきり海岸の上にまで来ることはなかった。サメなのにサメらしくないふるまいを見せるのはいかがなものか。

 

元々は超巨大鮫の恐怖とそれを倒す爽快感を描くはずだったが、海はやはりだだっ広すぎて、巨大鮫のインパクトが薄れてしまう。なので浅瀬に連れてきて、その巨体と獰猛さを存分に見せつけるべきだが、それは前作でやってしまった。なので、今作はなぜか恐竜とタコを連れてきたが、これは大失敗。水棲生活を何千万年もやってきた恐竜が地上でも活動できるのは信じがたい。いきなり紫外線ガンガンの地上に出てきて、エラ以外で呼吸して、なおかつ地上の気圧にも完全に適応するのは不可能だろう。出すのはサメだけでいい。タコは『 キングコング 』へのオマージュだったのだろうか。メガロドンがタコをガブリというのも極めて非現実的。

 

モンスターだけでもお腹いっぱいなのに、味方の裏切りにテロリストと、本作は軸をどこに定めているのか分からない点が大いにマイナス。正直、ジウミン以外の味方は全員死んでも良かったのでは?とすら感じた。その方がメグやその他の怪物たちとの対決の機運も盛り上がるし、ホラーの要素も強まる。

 

個人的に最も疑問に感じたのは、飼育されていて脱出したメグ。そもそも何故逃げられるような構造の水槽(にしては馬鹿でかいが・・・)に入れてしまうのか。「来い」と「行け」を教えてたとして、それだと水族館の魚ショーと何が違うのか、どうせ続編ではこの個体とまた別のメグがつがいになって、生態系を荒らしまくって、しかし仲違いして、互いに噛みつき合って・・・のような展開になるのだろう。続編製作の種をあらかじめ仕込む作り方ではなく、一作で完結する面白さを映画業界は追求してほしい。

 

総評

まあ、夏恒例のクソホラーならぬクソ鮫映画である。サメ映画というよりもジェイソン・ステイサム映画と言うべきか。ジェイソン・ステイサムが『 アクアマン 』ばりに海で大活躍して巨大鮫を倒していく、というプロットを「面白そう!」と感じるか、「んなアホな・・・」と感じるかは人それぞれ。前者ならチケットを買えばいいし、後者なら静かにスルーすべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

God knows why.

理由は神のみぞ知る、の意味。劇中では People just love him. God knows why. = あいつは人に好かれるね、あんな顔なのに。のように訳されていたように思う。日常で意味が分からないという事象に対して、サラっと使えれば英検1級だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 福田村事件 』
『 ヴァチカンのエクソシスト 』
『 アステロイド・シティ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, ウー・ジン, ジェイソン・ステイサム, ソフィア・ツァイ, 監督:ベン・ウィートリー, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 MEG ザ・モンスターズ2 』 -J・ステイサム大暴れ-

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