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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 未分類

『 レインマン 』 -旅は人を変える-

Posted on 2022年9月15日 by cool-jupiter

レインマン 85点
2022年9月14日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:ダスティン・ホフマン トム・クルーズ
監督:バリー・レビンソン

 

『 テルマ&ルイーズ 』と同じく、午前十時の映画祭にて鑑賞。同じくロードトリップの傑作。

あらすじ

チャーリー(トム・クルーズ)は、義絶していた父が死んだと聞き、遺産目当てに葬式へと向かった。しかし、300万ドルの遺産は管財人を通じて特定の人物に相続されることに。その人物が、存在すら知らなかった自閉症の兄レイモンド(ダスティン・ホフマン)だと知ったチャーリーは、遺産の半分の相続を法的に主張するために、レイモンドをLAへ連れていこうとするが・・・

ポジティブ・サイド

『 トップガン マーヴェリック 』では年齢を感じさせなかったトム・クルーズだが、本作では流石に若々しさに満ち溢れている(当たり前だ)。同時に、ビジネスも上手くなく、同僚の操縦も下手で、ガールフレンドへの当たりも強い。つまりはクズなわけだが、そんな男が遺産目当てで出向いた父の葬式で、実は兄がいて、しかもその兄がまともなコミュニケーションを取ることができない自閉症の兄との旅路で思いがけない挫折と成長を味わう。

 

こう書くと実にありきたりなプロットというか、純文学の香りすらしてくる。しかし、中身は実にまっとうなエンターテイメントで、いかにもアメリカといった趣のあるヒューマンドラマにしてロードトリップ・ムービーである。

 

イライラして怒鳴り散らすトム・クルーズには若気の無分別という言葉がピッタリ。母は幼くして亡くなり、少年時代に父親に愛情を注がれなかったと固く信じている、まさに愛情不足の典型のような青年だ。そんな男がカネ目当てに自閉症の兄を施設外に無断で連れ出すのだから、応援できるわけがない。しかし、そんなチャーリーを期せずして変えてしまうのが、兄レイモンドである。

 

ダスティン・ホフマンの演技はキレッキレで、ALSなら『 博士と彼女のセオリー 』のエディ・レッドメイン、自閉症なら本作のダスティン・ホフマンを超える演技は不可能だと思わされた。

 

コミュニケーションが成り立っていない状態で延々と話し続けるシーンや、クルマが走りながら話すシーンが非常に多く、どれだけのNGあるいはリテイクがあったのか気になる。前編これ、トム・クルーズとダスティン・ホフマンの演技合戦である。特にホテルの一室で二人がダンスするシーン、そして期せずして二人の距離が大きく変化する瞬間ほど poignant なものは、近年の映画では思いつかなかった。

 

レインマンというタイトルの意味が明らかになる中盤からは至高のヒューマンドラマとなる。旅は人を変える。月並みな真実だが、それを非常に説得力のある形で提示した傑作である。

 

ネガティブ・サイド

一点だけ不満なのが、なぜレイモンドがあれほど心理的にスムーズに施設の外に出られたのかということ。なにか一つだけでも、「この男は、幼かったあの子が成長した姿だ」と彼なりに感じ取る契機というか、ほんのちょっとした気付きのエピソードがあればパーフェクトだったと感じる。

 

総評

文句なしの大傑作。ロードトリップものとしては『 テルマ&ルイーズ 』に勝るとも劣らない。障がい者(ということ語弊があるが)をメインに据えた作品としては『 フォレスト・ガンプ/一期一会 』よりも上だと感じる。若いトム・クルーズが粗削りな演技ながらも、盟友ダスティン・ホフマンに食らいついていく様を見ると、『 トップガン マーヴェリック 』の撮影開始前に、彼が若い俳優たちに彼自身が考案した3か月の特別訓練を課したというプロフェッショナリズムの原点はここにあったのかもしれない、とすら思える。stand the test of time forever な作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

take over 

引き継ぐの意。遺産ではなく、事業や業務を引き継ぐ時に使う。劇中では “I’ll take over from here.” = ここからは私が引き継ごう、となっていた。もちろん、I’ll take over your job. = 僕が君の仕事を引き継ぐよ、のように目的語を取ってもいい。我が業界では、割と頻繁に非常勤講師が代わるので、テイクオーバーはもはや日本語と化している。嘆かわしい限りである。 

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 1980年代, A Rank, アメリカ, ダスティン・ホフマン, トム・クルーズ, ヒューマンドラマ, 監督:バリー・レビンソンLeave a Comment on 『 レインマン 』 -旅は人を変える-

『 岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇 』 -走ってるんじゃない、止まれないんだ-

Posted on 2022年9月9日 by cool-jupiter

岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇 70点
2022年9月7日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:千原浩史 千原せいじ 鈴木紗理奈 北村一輝
監督:三池崇史

大学の後期開講前という超繁忙期のため簡易レビュー。

 

あらすじ

リイチ(千原浩史)は中学を卒業。岸和田の街でテキヤをして生計を立てていた。しかし、恋人のリョーコ(鈴木紗理奈)と別れ、別の女と付き合い始めたことで、リイチは徐々に自分らしさを失い始めて・・・

 

ポジティブ・サイド

ストーリーは『 岸和田少年愚連隊 』の方が面白いと感じるが、リイチとリョーコというキャラクターの掘り下げに関しては本作の方が上回っている。少々ポップな路線を追うようになってしまう前の三池崇史作品ゆえに、暴力的な描写には結構な迫力がある。

 

千原ジュニアとせいじの二人が岸和田の悪ガキを好演。恋人を捨てて別の女に走る男と、親友の恋人の友達と恋仲になる男という対比が面白い。岸和田少年愚連隊というのは、青春をひとつのテーマにしているが、青春から抜け出せない男と、青春を青春として卒業していく女のコントラストも鮮やかだ。

 

リョーコはやっぱり関西人が演じた方がいい。その意味では鈴木紗理奈は適役。この時点で映画は半分成功したようなもの。

 

関西人キャストでコテコテの関西映画を観るのは、ストレス解消にちょうどいい。ちょっとバイオレンスが過ぎるケンカのシーンと、ショッキングな終盤の展開を除けば、以外に本作の間口は広い。2000年以降生まれの若い世代にも観てほしい。

 

ネガティブ・サイド

フラメンコダンスのシーンは不用。

 

リイチとリョーコの再会のために、重要キャラに退場願うというプロットはちょっと頂けない。前作同様に警察にパクられて・・・は、それはそれで二番煎じか。

 

総評

Jovian妻は大阪の南部出身だが、岸和田駅が高架になる前、つまり本作が映し出す岸和田駅前のような南海沿線の街並みを懐かしく思い出したらしい(ちなみに妻の高校は『 セトウツミ 』の高校)。大阪人なら必見・・・とまでは言わないが、是非見てほしい作品。移ろいゆく人の心と、だんじり祭りに象徴される変わらない岸和田のコントラストを味わってほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Don’t be.

Sorry と言われて、誤る必要はないのにと感じたら、Don’t be. と返そう。Don’t be sorry. の略である。ちなみに劇中でリョーコが言う「謝ったらアカン」というのは、Don’t say that. もしくは You can’t say that. だろうと思う。ニュアンスが全然違うので注意のこと。

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, 北村一輝, 千原せいじ, 千原浩史, 日本, 監督:三池崇史, 配給会社:シネマ・ドゥ・シネマ, 鈴木紗理奈, 青春Leave a Comment on 『 岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇 』 -走ってるんじゃない、止まれないんだ-

『 さかなのこ 』 -Normal is overrated-

Posted on 2022年9月5日 by cool-jupiter

さかなのこ 60点
2022年9月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:のん 磯村勇人 柳楽優弥 井川遥 夏帆
監督:沖田修一

 

『 ダーウィンが来た! 』などに時々出てくるさかなクンの半生を、どういうわけかのんが演じる。

あらすじ

ミー坊(のん)は魚に夢中な女の子。長じてもそれは変わらず、高校では変人扱い。ある時、不良の総長(磯村勇人)に呼び出しを食らったミー坊だったが、何故かそこから学校でカブトガニを育てることにつながり・・・

 

ポジティブ・サイド

とにかく魚好きという気持ちが強く伝わってくる作品。かといって、無邪気に魚を愛でるだけではない。魚を食べまくるし、タコにいたっては基本に忠実に岩に打ち付けて身を柔らかくしたりする。この時点で映画はファンタジーではなく、自伝の様相を帯びてくる。普通はタコをバンバン岩に叩きつける描写など入れないだろう。ここで監督や製作者たちの気合が伝わってきた。

 

のん演じるミー坊が総長たちといつの間にか仲良くなったり、他校の不良とも打ち解けたりの流れがコミカルで楽しい。勉強はできないけれど、魚好きという気持ちは周囲に確実に伝わっていく。周りは大人になっていくし、状況は変化していく。それはとりもなおさず、生き方を変えていくことに他ならない。しかし、ミー坊は変わらない。小学校の同級生がシングルマザーとして転がり込んできても、ミー坊は魚好きであることをやめない。井川遥演じる母親がミー坊の気持ちを常に肯定する、一種の親の鑑になっている。

 

当たり前だが、好きを貫くだけで世の中を渡っていけるほど甘くはない。実際にミー坊の人生にも数々の試練が訪れる。ただ、それを跳ね返すだけの強さがミー坊にあり、またミー坊によって人生を変えられた人間たちの助力もあって、ミー坊はさかなクンになっていく。日本は突き抜けた天才が出てこない国だが、それに対する解答というか、解決策のひとつを本作は示しているかもしれない。

 

さかなクンと言えば、最初は「ご」が「ギョ」になる変なオッサンぐらいに思っていたが、知るにつれてすごい、いや、すギョい人だと認識するようになった。その男性のさかなクンを女性ののんが演じることで、ファンタジー性が生まれている。それによって、本作の持つファンタジックなメッセージ性に逆にリアリティが付与されているように感じた。魚好きが昂じて魚ばかり食べたり、図鑑を読みふけったり、水族館に入り浸ったりというのは、子どもにならよくあること。しかし、それが高校生ぐらいになっても継続するとなると、ちょっとおかしいと感じられるかもしれない。『 女神の見えざる手 』で、フォードがスローンに”Normal is overrated” = 普通がなんだ、と諭すように言うシーンがある。普通でないのなら、それもOK。逆に突き抜けるぐらい different であろうではないか。

ネガティブ・サイド

さかなクン本人が出演する必要はあったのだろうか。いや、別に出演してくれてもよいのだが、変質者もどきである必要性が認められない。また、トレードマークのハコフグの帽子に何らかの神秘性というか、妙な光を放って頭から取れないという描写も不要だった。というか、さかなクンの出演パート全てが不要だった。プロデューサーの職権乱用ではないだろうか。

 

ある時点からミー坊の人生が大きく開けていくことになるが、それが全て旧友たちの伝手によるものというのは少々いただけない。おそらくターゲットをかなり低年齢にも広げている作品だと思われるが、「がんばっていればともだちがたすけてくれる」(全て平仮名)という甘い観念を植えつけたりはしないだろうか。「好き」を貫くことの素晴らしさと難しさ、「普通」と「普通ではない」の境界。そういった社会の矛盾というか、ちょっとおかしなところを子どもたちと大人、両方に考えてもらえる塩梅にはなっていなかった。

総評

さかなクン出演パートをどう見るかで印象がガラリと変わりそう。さかなクンのファンの子どもたちが「たいほ」や「にんいどうこう」なる言葉を知っているとは思えない。本作はそうした子どもを対象にしていないと考えるには、ミー坊が大人になった後のドラマの数々があまりにも大人向けだ。ただ日本における教育、日本における子育てが、どこかせせこましいものになっていることをやんわりと指摘する作品としては悪くない。のんのファンならチケットを買って損をすることはないだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

normal

普通の意。日本語にもなっている語だが、この形容詞の基になっている norm という語となると、知っている人が激減する。norm = 規範、基準という意味である。normal とは規範通りである、基準に従っているという状態を指す。abnormal が異常と解釈されるのも、norm から離れているからなのだ。

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, C Rank, のん, ヒューマンドラマ, 井川遥, 伝記, 夏帆, 日本, 柳楽優弥, 監督:沖田修一, 磯村勇人, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 さかなのこ 』 -Normal is overrated-

『 清酒造り 』 -清酒の作り手に感謝-

Posted on 2022年9月4日 by cool-jupiter

清酒作り
2022年9月3日 伊丹市立ミュージアム・旧岡田家住宅にて鑑賞

 

点数をつけるべき商業作品ではないが、是非とも近隣の皆様に紹介したい動画だった。『 GENJI FANTASY ネコが光源氏に恋をした 』同様に、誰もレビューしない類の動画だろう。

 

にごり酒と清酒の違いは、酒飲みでなくても分かる。前者は濁っていて、後者は濁っていない。だが、その製法の違いまで知っている人は業界人か、よほどの酒好きだと思われる。本動画ではそこのところを詳しく説明してくれる。それにしても、伊丹が清酒発祥の地とは知らなかった。兵庫県民の大半も知らないのではないだろうか。

 

動画では懇切丁寧に江戸時代の清酒の製法を解説してくれるが、このナレーションの関西弁が実に耳に心地よい。テレビドラマや映画で時々聞こえてくるエセ関西弁ではない。またアニメーションも愛嬌が感じられる。江戸時代の風俗習慣を描いた絵巻の中の人物たちが動くのを見るのは単純に楽しいし、歴史の授業で動画として流すのにも適しているかもしれない。実際にJovian夫婦以外に、高校生っぽい男子二人組も見学に来ていた。

 

本作を観れば、日本酒造り、就中、清酒造りにどれほどの労力が注ぎ込まれているかを知ることができる。そしてその仕事量、そして仕事の丁寧さに圧倒されることだろう。日本のコメ作りとものづくりの中間にある酒造りについて学ぶことのできる、良作であった。

 

そうそう、本作には英語字幕が付されているが、これが素晴らしい出来。情報を詰め込みすぎたり、あるいは固有名詞を無理やりアルファベットにして訳してしまうことが字幕翻訳では多いのだが、本作の英語字幕は非常にコンパクトかつシンプルである。日本のコンテンツを紹介する動画に英語字幕を付けたいという向きは、旧岡田家住宅で本作を鑑賞することをお勧めしたい。関西在住の呑み助の方々も是非一度は伊丹に足を運ばれたい。

 


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『 岸和田少年愚連隊 』 -良い子は真似をしないように-

Posted on 2022年9月4日 by cool-jupiter

岸和田少年愚連隊 70点
2022年9月1日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:矢部浩之 岡村隆史 大河内奈々子 秋野暢子
監督:井筒和幸

『 トップガン マーヴェリック 』が “Bang a Gong (Get It on)” が聞こえてきたことで、タイムスリップした気分になった人は多かったはず。そういえば、この曲が印象的に使われている邦画があったなと思い出し、TSUTAYAで本作を借りてきた。 

 

あらすじ

チュンバ(矢部浩之)と小鉄(岡村隆史)は悪ガキ中学生。仲間たちと一緒に岸和田の町で他校の不良とのケンカに明け暮れる毎日を送っていた。ある時、宿敵サダに小鉄が襲撃され、チュンバも焼きを入れられてしまう。しかし、懲りない二人はサダへの復讐に乗り出して・・・

 

ポジティブ・サイド

最初はVHSで観たと記憶している。1970年代の岸和田のことは知らないが、1980年代の尼崎は覚えているJovianからすれば、実にリアリティに溢れる作品である。

 

漫画および映画『 少年時代 』でも生々しく描かれたように、一世代や二世代前の日本は暴力に溢れていた。それをシリアスに描くのか、それともユーモラスに描くのか。後者が許されてしまうのは、大阪の、特に岸和田という独特なコスモロジーが働く地域を描き出したからこそだろう。

 

下手をしたら死ぬぐらいのバイオレンスを振るっているのに、矢部と岡村のお笑い芸人ふたりが主演を張ることでそれが不思議と中和されている。殴っては殴り返され、殴り返されたら、さらに殴り返すという、単純明快なプロットで進んでいくのが心地よい。拳での殴り合いから、石ころ、野球のバットから植木鉢まで、生活感ありありのケンカである。よく死なないなと感心するやら呆れるやら。

 

おかん役の秋野暢子と、恋人役の大河内奈々子演じるリョーコが、それぞれチュンバと絶妙な距離感で接している。少年から男になる。しかし、三つ子の魂百まで。ケンカに明け暮れた日々、仲間との鮮烈な青春の思い出は消せない。アホとしか言えない男どものアホとしか言えない生き様を見て笑うしかないが、命を文字通りに燃やすような日々を送ったことがない普通の人間は、そこにちょっぴり嫉妬してしまう。「そんなわけないやろ?」って?それがそうやねん。

 

ナイナイだけではなく、木下ほうかや宮迫博之など、現代ではアウトに近くなってしまった俳優や芸能人が出ていたり、塩見三省や大杉連などの北野武映画の常連、政治家になった山本太郎など、豪華キャストが脇を固めている。邦画ファンならびに南大阪人はぜひ鑑賞しよう。

 

ネガティブ・サイド

ストーリーの単調さが玉に瑕。他校の不良とのケンカだけでなく、悪友のガイラやサイとの淡い友情や、小鉄とチュンバの家族との絡みなども必要だった。特に小鉄とチュンバの仲たがいの直前の、「あんな家行って何すんねん」という台詞に説得力を持たせるために、小鉄がチュンバの家にいるシーンは一瞬だけでも映すべきだったろう。

 

塩見三省演じる中学教師の熱量と高校の先生の無機質さの対比も欲しかった。韓国映画の描く父親像ほどではないが、チュンバや小鉄の屈折した青春の影響は第一に岸和田の街と時代の空気、第二に家族、特に父親との関係が大いに暗示されている。カオルちゃんなど、年長の男性たちの青少年に与える影響にもう少しフォーカスがあってしかるべきだったと感じる。

 

総評

時代の一側面を(どれぐらい正確であるかはさておき)鮮やかに活写した作品である。元大阪府警で生活安全課に長く務めたJovian義父に、1970年代の大阪、特に南部の風俗習慣について尋ねてみたい。そう思わせるパワフルな作品。令和の若者が本作を観ても意味がサッパリ分からないだろうが、燃えるような青春の熱さだけでも伝われば、本作は十分に時代を超えた役割を果たすのだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

go one’s separate ways

別々の道を行く、の意。チュンバが小鉄に言う「なんや、こっからは別々かい」を私訳するなら、Are we going our separate ways from here? となるだろうか。芸能人カップルなどが離婚するときに「これからは別々の道を歩むことになりました」と聞いたら、They will go their separate ways. と脳内英作文をしてみよう。 

 

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Posted in 未分類Tagged 1990年代, B Rank, 大河内奈々子, 岡村隆史, 日本, 監督:井筒和幸, 矢部浩之, 秋野暢子, 配給会社:松竹, 配給会社:松竹富士, 青春Leave a Comment on 『 岸和田少年愚連隊 』 -良い子は真似をしないように-

テアトル梅田閉館を知る

Posted on 2022年8月31日 by cool-jupiter

 

コロナ禍以来、少し足が遠のいてしまっていたが、なんと閉館とは。非常に残念でならない。『 さがす 』、『 成れの果て 』、『 私をくいとめて 』、『 シカゴ7裁判 』など、通好みのする映画というか、大衆に決して迎合しないミニシアターだった。

 

9月のうちにテアトル梅田には最後にもう一度行くつもりである。確か同劇場で初めて鑑賞したのはチャン・ドンゴン主演の『 決闘の大地で 』、次に観たのが『 ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン 』だった。この二作は東京から叔父が遊びに来た時に一緒に観に行ったので、よく覚えている。Jovian父もかなりのシネフィルだが、Jovian叔父はそのさらに上を行くシネフィルである。シネフィルはミニシアターが好きで、逆に言えばミニシアター好きこそがシネフィルなのかもしれない。

 

テアトル梅田にはもう一つ思い入れがある。実はこの映画館、Jovianの前の職場の同僚が転職してきていたのである。『 私をくいとめて 』の上映時、Jovian妻が「あの受付の人、〇〇先生ちゃうん?」と言ってきたが、愚鈍なるJovianは「似てるけど、ちゃうやろ」と返した。ところが、トイレからの帰り、その従業員から「△△さん?」と言われ、びっくり仰天。やはり前の職場の後輩だったではないか。お互いにひとしきり前の職場をくさして、苦笑いしたのを覚えている。

 

Jovianは値は張るが、映画はできるだけ劇場で見たい派である。劇場という場所を存続させたいからだ。Amazon Prime Video にも加入しているが、そちらはほとんど観ない。なるべく近所のTSUTAYAでDVDやBlu rayを借りるのも、レンタルビデオという産業の存続を願うからだ。

 

尼崎市内でも、武庫之荘や園田のTSUTAYAはいつの間にか閉店していたし、鳴り物入りでオープンしたTSUTAYA BOOKSTORE ホームズ尼崎店は、あと数日で閉店。尼崎のTSUTAYAもそうなると残り一店舗。いつか消えてなくなる産業だとしても、なるべく長く残ってほしいとの思いから、AmazonやNetflixではなくTSUTAYAにカネを使っている次第である。

 

ミニシアターの上映作品にはハズレが少ない。また観客も生粋の映画ファンばかりなので、劇場マナーもしっかりしている人たちばかりである。コロナ禍になって、なおさらにそう感じるようになった。シネコンだらけで、どこもかしこも漫画や小説の映像化作品ばかり上映するようになっては、映画という総合芸術が本当に終わってしまう。

 

関西の映画ファンにお願いしたい。シネ・リーブル梅田やシネマート心斎橋、塚口サンサン劇場などのミニシアターに年に4回でよいので、足を運んでほしい。春夏秋冬の各季節に1回ずつである。それだけで、おそらく劇場の寿命は10年は延びる。『 トップガン マーヴェリック 』を楽しんだ、劇場鑑賞っていいなと感じてくれた友人や知り合いがいれば、年1回はミニシアターにも行ってみて、と声をかけていただきたい。それによって、劇場の寿命がさらに数年は延びるはずだ。

 

Rest in peace, Theatre Umeda. You will be missed tremendously.

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『 NOPE / ノープ 』 -ジョーダン・ピール世界へようこそ-

Posted on 2022年8月28日 by cool-jupiter

NOPE  / ノープ 70点
2022年8月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ダニエル・カルーヤ キキ・パーマー スティーブン・ユアン ブランドン・ペレア
監督:ジョーダン・ピール

Jovianは矢追純一世代だったので、UFOには一時期かなりハマっていた。そのUFOをジョーダン・ピールが料理するというのだから、観ないわけにはいかない。

 

あらすじ

馬の飼育と調教を生業にするヘイウッド家の父が、謎の死を遂げる。長男OJ(ダニエル・カルーヤ)は、父の死と空に一瞬見えた謎の飛行物体が関連していると確信。妹のエム(キキ・パーマー)と共に、謎の物体をカメラに収めようと考えるが・・・

ポジティブ・サイド

予告や内容紹介の段階では、M・ナイト・シャマランの『 サイン 』のようなストーリーなのかと思った人は多くいそう。実際に似ているところもあったし、そうでないところもあった。いずれにせよ確実なのは、ジョーダン・ピールがまたしても非常にオリジナル作品を送り出してくれたことだ。

 

オープニングのTVショーはまったくもって意味不明。また映画の各段階で馬の名前が画面に大々的に表示される。これもこの段階では意図が見えない。しかし、後々これらが本作のテーマとダイレクトにつながっていることが分かる。

 

ハリウッドのはずれのはずれにある広大な馬の飼育場、その上空の雲の中に得体の知れない存在がいる。そして、それはどうやら人や馬を襲う。この正体不明の存在との闘争・・・ではなく、とにかくこいつを写真や映像にしてビッグになってやろう、というところが現代風で面白い。また、その奇妙なモチベーションに対しても、歴史的な説明が付け加えられているのが興味深い。

 

主人公OJを演じるダニエル・カルーヤは、『 ゲット・アウト 』とはガラリと異なる寡黙な男。しかし馬および野生動物に対する造詣が深く、そのことが物語上で大きな意味を持っている。また馬の調教師であるというバックグラウンドに対しても、歴史的な説明が付け加えられているのは興味深い。映画産業の初期の初期から現代に至るまで、我々は物語(往々にしてそれは事件)をカメラという媒体で撮られ、スクリーンという媒体に映写されるものだと思ってきた。しかし、本当の事件が自分の身にリアルに起きた時、人はどう対応するのか。これが本作の裏テーマなのではないかと思う。

 

徐々に正体を現すUFOと、それをカメラに収めようとするOJとMの兄妹や、奇妙な協力者エンジェル、自身の経験が裏目に出て被害に遭ってしまうジュープなど、それぞれの登場人物が物語に意味と味わいを与えている。個人的に最も印象に残るのは、後半に登場する老カメラマン。常にPCモニターで「あるもの」を見ているのだが、本作ではそれは痛烈な皮肉に見えてくる。UFOで始まり、ハリウッドの新たな神話の誕生で終わる。何を言っているのか分からない?だったら劇場で観るべし。

以下、マイナーなネタバレあり

 

ネガティブ・サイド

序盤から中盤にかけての展開がスリリングだったのに対して、終盤にかけての展開は少しテンポが落ちたと感じる。「あれは何だ?」、「もっとちゃんと見せろ」という中盤までのテンションが、後半にまで持ち越されていない。謎の存在をカメラに収めるというミッションに、途中で別キャラが入り込んでくるからだろう。もしも牧場の倉庫に主導のフィルムカメラが眠っていて「ひいひいひいお爺ちゃん、ありがとう!」という展開であれば、また異なる印象を受けたと思う。

 

これはトレーラーの罪なのだろうが、Mがしきりに “Don’t look, don’t look.” と言いながら歩くシーンは盛大なネタバレだった。

 

UFOが『 ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 』的な変形を見せるのはちょっといただけない。もっと無機質なままで良かったのにと思う。写真に収めるべきは馬に乗ったOJであるべきだったと思う。

 

総評

『 ゲット・アウト 』のような意表を突いたSF的な要素もありながら、常に社会批判も盛り込んでくるのがジョーダン・ピール流。今作でも伝統的な映画業界やパパラッチ、YouTuber を皮肉る一方で、エンターテイメントとしての面白さもしっかり追求できている。ジャンルとしてはSF+ホラーになるのだろうが、このホラー映画は観る人を選ばない。ある意味で、『 ゲット・アウト 』や『 アス 』よりも、本作の方がジョーダン・ピール世界への入門編としては適しているかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Nope

No のくだけた言い方。No をクイックに歯切れよく発音すると、語尾に p の音がついてくる。同じことは Yes にも言える。これをインフォーマルに言うと Yep となる。いずれの表現もかなりカジュアルな表現なので、ビジネスの場では使わないようにしたい。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, SF, アメリカ, キキ・パーマー, スティーブン・ユアン, ダニエル・カルーヤ, ブランドン・ペレア, ホラー, 監督:ジョーダン・ピール, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 NOPE / ノープ 』 -ジョーダン・ピール世界へようこそ-

『 女神の継承 』 -古今東西のホラーミックスの怪作-

Posted on 2022年8月12日 by cool-jupiter

女神の継承 75点
2022年8月12日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ナリルヤ・グルモンコルペチ サワニー・ウトーンマ
監督:バンジョン・ピサンタナクーン

 

『 チェイサー 』、『 哭声 コクソン 』のナ・ホンジン監督が原案およびプロデュースを担当。それだけで一筋縄ではいかない映画だとわかる。実際に有名ホラー映画のインターテクスチャリティー満載の作品であった。

 

 

あらすじ

霊媒のニム(サワニー・ウトーンマ)は女神バヤンの依代として、地域住民の悩みや病気の解決の手助けをしていた。彼女の姪のミン(ナリルヤ・グルモンコルペチ)が謎の体調不良に見舞われたことから、ニムは女神バヤンがミンを新たな依代に選んだと考えていたが・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovianは大学で宗教学を専攻していた。より詳しく言えば古代東北アジアの思想、特にアニミズムを勉強していた。なので東南アジアのシャーマニズムについては門外漢ではあるものの、感覚的に理解できることがかなりあった。ただし本作を堪能するために専門知識は必要ない。むしろアジア人=多神教やアニミズムを何となく受け入れている民族であれば、それだけで恐怖が倍増するだろうと感じた。

 

全編通じて『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』的なドキュメンタリー形式で撮影されており、随所に『 カメラを止めるな! 』的な要素もある。序盤のニムへのインタビューや、ニムの霊媒としての仕事ぶりは、ナショジオ的な趣すら感じられた。

 

姪のニムが女神バヤンの新たな継承者の兆候を見せ始めるところから、テレビ番組的な趣は消え、本格ホラーに移行していく。『 エクソシスト 』へのオマージュが散りばめられ、最後には各種ゾンビ映画のごった煮状態に昇華する。

 

その過程で観る側の神経をざわつかせるのは、ニムの変化。最初は体調不良だったのが、子どもに対する乱暴行為、それがエスカレートして大人にも暴言暴行、果てはニムの祈祷に対して緑色の吐しゃ物を出すなど、行為の変化が肉体の変化に起因することを示している。この見せ方は日本のホラーにはあまりないが、もっと取り入れても良いように思う。目が赤く光るとか、口角がありえないほど引きつるといった外見的な描写よりも、血液の色がおかしい、吐しゃ物が異常といった内部の描写に切り込む本作は、かなりの野心作である。

 

いよいよ悪霊祓いとなった時に「はあ?」という事件が発生する。これはなかなかの不意打ちだった。もはやグッドエンドは期待できない中、物語は突き進んでいく。このクライマックスの凄惨さは、映画なのか漫画なのか分からないレベル。一歩間違えればギャグにしか見えないシーンの数々を恐怖映像としてしっかりまとめ上げたピサンタナクーン監督の手腕は見事である。

 

また主演の二人の女優も印象的。ニムはいかにもタイの土着的なおばちゃんで、日本なら沖縄あたりでユタをやっていそうな感じ。ミンを演じたナリルヤ・グルモンコルペチは対照的に、西洋風な面持ちのスレンダー美女。あられもないセックスシーンから、狂乱状態のトップレス披露まで、日本のホラー映画に出てくる女優とは明らかに気合いが違う。各種の動物の形態模写から、血しぶきブシャーの殺戮シーンまで、何でもござれ。ルックスを売りにする日本の若手女優は、ナリルヤの爪の垢を煎じて飲むべきである。

ネガティブ・サイド

ドキュメンタリー風に撮るなら、もっとカメラマンが画面に映ってもいい。あちこちでカメラが切り替わるが、それはそこにカメラ・オペレータがいるから。終盤は撮影者も次々に死んでいくが、中盤あたりから「女神継承」あるいは「悪魔祓いの儀式」をカメラに収める人間たちの存在をもっとアピールしても良いと感じた。『 カメラを止めるな! 』の成功要因の一つに、これは映画を撮っている人たちを撮っている映画、と思い込ませた点がある。実際には、映画を撮っている人たちを撮っている人たちを、さらに撮っている映画だった。そこを強調する仕掛けが本作にあっても良かった。

 

犬が重要なキーワードの本作であるが、その犬の悪霊に憑かれた人間が襲う対象が少々不可解。えーと、その人は犬を〇〇している人だったっけ?むしろ、それを疑問に思っている人だったのでは?

総評

タイ映画といえば『 ホームステイ ボクと僕の100日間 』や『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』など、都市部の若者にフォーカスするイメージを持っていたが、それが見事に覆された。ホラーに耐性がない人はスルーのこと。ホラーに耐性がある人はぜひ鑑賞を。古今東西のホラー映画のエッセンスが詰め込まれた、まるで鍋料理のような融通無碍な味わいが得られることだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

medium

原題は The Medium = 霊媒 である。med から mid 、つまり真ん中がイメージできればOK。マスコミをメディアと呼ぶのは、情報伝達の面で政府や芸能界と一般大衆の中間を担っているから。霊媒も超自然的存在と人間をつなぐ中間的存在であることから英語では medium となる。こんな語彙を知っておくべきなのは好事家だけだろうが。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サワニー・ウトーンマ, タイ, ナリルヤ・グルモンコルペチ, ホラー, 監督:バンジョン・ピサンタナクーン, 配給会社:シンカ, 韓国Leave a Comment on 『 女神の継承 』 -古今東西のホラーミックスの怪作-

『 夜は短し歩けよ乙女 』 -Time flies when you’re having fun-

Posted on 2022年8月9日 by cool-jupiter

夜は短し歩けよ乙女 70点
2022年8月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:星野源 花澤香菜
監督:湯浅政明

 

『 四畳半神話大系 』同様に、原作が森見登美彦、監督は湯浅政明。青春の儚さと濃さを幻想的に描く異色のアニメである。

あらすじ

「黒髪の乙女」(花澤香菜)に恋する「先輩」大学生の私(星野源)は、可能な限り偶然を装って黒髪の乙女の目に留まろうと努力を重ねる。しかし、乙女は酒や本を求めて夜の木屋町を徘徊する。私はなんとか彼女の目に留まらんと奮励努力するが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 四畳半神話大系 』とも共通するが、京都の町、それもごくごく狭い範囲の空気をよく伝えている。Jovianはその昔、烏丸御池を勤務地としていたので、あのあたりの地理や空気をそれなりに理解していると自負するが、京都出身ではない湯浅政明監督がこれだけ京都(京都府でも京都市でもない、京都人の脳内地図の赤いエリア)をこれだけアニメで再現できるということに脱帽するしかない。

 

一夜の中で繰り広げられる先輩と乙女の経験する奇想天外なイベントの数々が極彩色で描かれる。はっきり言ってアホとしか言えない出来事のオンパレードなのだが、若さとはそもそも愚かさでもある。そして恋は愚かでないとできない。あるいは恋を人は愚かにする。ナカメ作戦(なるべく 彼女の 目に留まる の頭文字を取った作戦)など愚の骨頂であるが、それを我々が笑えるのは、自分がまさにそうだったからに他ならない。この対象と自分との距離感が森見登美彦作品の特徴である。ハマる人はドハマりするのだ。

 

一夜の出来事というのはもちろん若さのメタファーで、その若さをどのように過ごすのかが本作のテーマである。乙女の時計の進みが遅く、その他のキャラ、特に高齢者の時計が恐るべき速さで時を刻むのは、それだけ過ごしている時間の密度の差があることを意味している。高速で動くと時の進みが遅くなるというのは相対性理論だが、乙女は常に動き回っている。そしてそれを追いかける先輩も。あるいは文系もしくは文系上がりならアンリ・ベルクソンの純粋持続を思い出そう。夜は短しと言いながら、濃密な時間がそこにはある。

 

もちろん衒学的な理屈などこねずとも、本作の面白さは十分に堪能できる。火鍋のシーンの意味不明なまでのテンションや、古本市で聞かれる古本の神の長広舌など、理屈抜きで面白いシーンがたくさんある。原作ではそれぞれ独立していたエピソードを上手く一夜にまとめた脚本の勝利でもある。森見ファンはぜひ観よう。湯浅ファンもぜひ観よう。

 

ネガティブ・サイド

原作もそうなのだが、乙女に対するセクハラ描写は必要なのだろうか。

 

ミュージカルのシークエンスが少しダレていたと感じた。また歌唱のレベルもミュージカルのそれではない。もちろん素人が素人劇をやっているのだが、それでももう少しミュージカルであることそれ自体にエンタメ要素を持たせてほしい。

 

後は星野源の声の演技か。上手い下手ではなく、先輩のイメージに合わなかった。ジョニーの声が『 四畳半神話大系 』と同じなら、先輩の声も浅沼晋太郎で良かった。もしくはジョニーの声優を変えるべきだった。

 

総評

『 四畳半神話大系 』と同じく、森見登美彦の恋愛哲学と湯浅政明の世界観が華麗に融合している。『 四畳半タイムマシンブルース 』も湯浅政明に監督してもらいたかったが、異なるテイストで森見作品を料理してほしいという気持ちもある。何はともあれ、自意識過剰なアホ大学生(別に中学生でも高校生でも社会人でもいい)に感情移入できるなら、青春の濃さと儚さを本作を通じて体験してみよう。オッサンにもお勧めしたい。「ああ、俺もこうやったわ」と青春を振り返ってしまうこと請け合いである。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Ars longa vita brevis.

正式には Ars longa est, vita brevis est.  be動詞に当たる est が省略されているが、古典ラテン語にはよくあること。元々は Art is long, life is short. = 技術は長く、人生は短い = 技術の習得には長い時間がかかるのに、人生は短いという意味だったが、英語では 美術・芸術は長く、人生は短いと解釈されるようになった。『 ゲティ家の身代金 』を観ると、確かにそうなのかもしれないと思わされる。

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2010年代, B Rank, アニメ, ファンタジー, 日本, 星野源, 監督:湯浅政明, 花澤香菜, 配給会社:東宝映像事業部Leave a Comment on 『 夜は短し歩けよ乙女 』 -Time flies when you’re having fun-

『 地獄の花園 』 -アクションをもっと真面目に-

Posted on 2022年7月16日 by cool-jupiter

地獄の花園 50点
2022年7月12日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:永野芽郁 広瀬アリス
監督:関和亮

劇場公開時にはスルーしたが、クーポン使用で近所のTSUTAYAから安く借りてくる。アクションが全体的に中途半端で、メインのキャラも脇役に食われてしまっていた。

 

あらすじ

ごく普通のOLである直子(永野芽郁)の会社では、猛者たちがOL界の覇権を求めて抗争を繰り広げていた。ある日、中途採用された法条蘭(広瀬アリス)と直子はひょんなことから意気投合。しかし、蘭は超武闘派のOLで、あっという間に三富士株式会社のトップに君臨する。以来、周辺企業のトップのOLたちとの抗争が絶えなくなり・・・

 

ポジティブ・サイド

OLの世界には昔も今もお局が存在する。ある意味、男性サラリーマン以上に権謀術数を駆使して権力闘争を繰り広げるのが、OLという生き物である。偏見と言うことなかれ。良くも悪くも、これが日本企業に勤める女性社員のすべてとは言わないまでも、多くに当てはまることなのである(Jovian妻談)。そのOLの生態を一昔前のヤンキー漫画に当てはめて描写したところに本作の面白さがある。

 

菜々緒や大島美幸のOL姿はそれだけで笑ってしまうし、川栄李奈のヤンキーでありながらOL的な気遣いを見せられるというギャップにも、やはり笑ってしまう。このヤンキーOLの仁義なき派閥抗争と、そこに突如現れる新勢力の広瀬アリス、その広瀬アリスの友人となる永野芽郁の掛け合いが物語を動かしていく。

 

他者との抗争=ヤンキー漫画における他校との抗争で、相手の頭を潰せば、そこを丸ごと傘下に加えられるということから、抗争がどんどんと拡大、過激化していく。その途中で出てくるトムソンというのは、やはりサムソンが元ネタだろうか。トヨタですら敵わない財閥にして超巨大企業である。そこの幹部OLを全員男性キャストで固めたのには賛否両論あるだろうが、Jovianはやや賛である。コメディなのだから、これぐらいアホなキャスティングは許容すべきであろう。

 

広瀬アリスの武者修行シーンは笑えるし、最後の最後でこれまでの数々の闘争を、ある意味ですべてなかったことにする価値観の開陳も悪くない。というか、この世界観をそのままに物語を閉じてはいかんだろう。その点で、アホ極まりない物語にも一応の決着がつけられ、話はきれいに閉じていく。頭を空っぽにして観る分には良い映画だろう。

 

ネガティブ・サイド

映画館で観た予告編をうっすらと覚えているが、ハッキリ言ってトレーラーの作り方を間違っている。永野芽郁のアクションシーンは全カットして、広瀬アリスが頂点を目指して闘っていくストーリーだと思わせるようにすべきだった。トレーラーのせいで「実は永野芽郁も強いんでしょ?」と観る側にバラしてしまうのは全く得策ではない。誰がトレーラー作ったの?そして、誰がそれを承認したの?

 

肝心かなめのアクションも迫力不足。ちょっとしたパンチや蹴りのたびにカットして、別アングルから別アクションを映していくカメラワークは、役者の鍛錬不足を何とか目立たないようにしたいという工夫なのだろうが、ここを追求しないことには真の面白さは生まれてこない。『 翔んで埼玉 』がクッソ面白かったのは、埼玉狩りのアクションやGACKTと伊勢谷友介の衝撃のキス、埼玉VS千葉の大軍勢同士の激突など、アホなシーンのリアリティをこれでもかと追求したからである。OL同士の喧嘩でも、もっと役者たちを追い込んでほしかったし、追い込むべきだった。別に『 アジョシ 』や『 悪女 AKUJO 』のようなクオリティは求めていない。ただ、真っ正面から魅せるアクションシーンがひとつぐらいはあってもよかったのではないか。

 

主要キャラであるはずの永野芽郁や広瀬アリスが遠藤憲一に完全に食われていた。もちろん演技合戦の中では『 ボーダーライン 』のベニシオ・デル・トロや『 ジュラシック・パーク 』のジェフ・ゴールドブラムのように、主役を食ってしまう脇役というのは存在する。しかし本作の沿道の悪目立ちは監督の演出力不足によるところが大であると思われる。キャスティングではなくディレクションの問題だろう。

 

総評

日本ならではのアイデアが詰まっているし、日本ならではの弱点も露呈している、何とも評価に困る作品。ということは、一部の人々から高評価を得て、一部の人々からは低評価を得やすい作品ということになる。要は、作り手と観る側の波長が合うかどうかである。男性視点からのOL社会を面白いと思うか、くだらないと思うか。観るかどうかは直感で決めるべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Stop talking shit, you ugly whore!

「寝言こいてんじゃねーよ、ブス!」の私訳。聞いた瞬間の思いつきだが、実際にプロの翻訳者でも、案外こういう訳に落ち着くのではないかと思う。寝言を言う ≒ 馬鹿なことを言うなので、ここでは talk shit とした。悪口を言う、無礼・不愉快なことを言う、の意味である。ちなみに、こんな英語は実生活では絶対に使ってはならない。

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, D Rank, アクション, コメディ, 広瀬アリス, 日本, 永野芽郁, 監督:関和亮, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 地獄の花園 』 -アクションをもっと真面目に-

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