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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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投稿者: cool-jupiter

『 マリの話 』 -Boys be romanticists-

Posted on 2024年3月11日 by cool-jupiter

マリの話 75点
2024年3月9日 シネ・ヌーヴォにて鑑賞
出演:成田結美 ピエール瀧 松田弘子
監督:高野徹

アソシエイト・プロデューサーの一人が大学の卒論ゼミの仲間という本作。その同級生は『 Bird Woman 』にもエキストラで出演していたりする。彼女から鑑賞を依頼されチケット購入。

 

あらすじ

映画監督の杉田(ピエール瀧)は夢の中で理想の女性に出会う。ある夜、自分の夢の中の女性が目の前に現れた。意を決した杉田はその女性マリ(成田結美)に自身の映画への出演を依頼するが・・・

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

本作は上映時間60分という異色のオムニバス構成。そのエピソードの一つ一つが絶妙なバランスで結びついている。上映後の監督あいさつで最初に第4章を独立した一つの作品として仕上げたものの、それだけでは背景が不足するということから、残りの1~3章を作り上げたとのこと。

 

第1章「夢の中の人」ではスランプの映画監督が、夢に見た理想の女優が目の前に現れたところから始まる。監督と女優という距離感が徐々に男と女のそれへと縮まっていくペースが絶妙。高野監督自身「ホン・サンスはかなり意識した」と言っていた通りに、インテリ男が酒の席で美女を口説くシーンはまさにホン・サンス調。ピエール瀧が仕事に行き詰った中年男性のパトスを見事に表現していた。

 

第2章「女優を辞める日」では、女優として活動し始めたマリが監督と本格的な男女の仲になっていく過程が描かれる。といっても生々しいシーンなどはなく、ロマンチックなシーンは海辺のキスぐらい。この章で上手いなと感じたのは、夢か現か幻かを判然とさせない描き方。冴えない中年オヤジが妙齢の美女とベッドインできるか?これもまた夢なのでは?と観る側に思わせるところ。

 

第3章「猫のダンス」はかなり異色。フミコという老女がいなくなった猫を探しているところに、通りかかったマリが手助けをするというもの。そこからいつしか二人は互いの心情を赤裸々に語り始める。この章のラストで描かれるマリとフミコの触れ合いは、まさに二匹の猫のじゃれあい。言葉よりも雄弁に心情を物語る名シーンだった。

 

第4章「マリの映画」は、マリ自身が作成した短編映画。これがマリから杉田への一種のビデオレターになっている。フランスの森で詩を交えて語り合う恋人たち。即物的あるいは身体的にしか女性とつながれない男に比べて、想像力の翼をはためかせる女性という構図のコントラストが映える。

 

上映終了後に監督に「映画監督は、キャラクターを先に考えるのか、それともストーリーを先に考えるのか」と質問させてもらったところ、『今作は第4章から先に作って、そこから残りの章を作った。キャラクターから先に作るかどうかは作家による』という趣旨の答えだった。その後、高野監督のインタビュー記事を見つけたので読んでみると、しっかり「夢の中の人」から構想してるやんけ(笑)と思ってしまった。

 

ロングのワンカットが非常に多く、役者だけではなく録音や撮影のスタッフも相当に監督のわがままに振り回されただろうが、それでもこれだけのクオリティのものが出来上がったのなら納得するだろう。ヨーロッパ風のテイストを前面に出しながら、韓国風でもありつつ。しっかりと日本映画にもなっている。

ネガティブ・サイド

ぶっちゃけキスシーンがイマイチだった。Jovianは『 ロッキー 』で、ロッキーがエイドリアンを自宅に招き入れた時に玄関でするキスのシーンと、『 スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲 』で、ミレニアムファルコン修理時のハン・ソロとレイアのキスシーンが all time best だと思っている。そこまでのインパクトは求めないが、杉田とマリのキスも、もう少しロマンチックにできなかっただろうか。

 

総評

本作を鑑賞してつくづく感じたのは「映画とは自分の美意識」という『 カランコエの花 』の中川駿監督の言葉は本当なのだなということ。高野監督のロマンス観が見事に開陳されている。コンテンツとフォームの両面で非常に上質なので、関西周辺の方は是非シネ・ヌーヴォまでご足労を。TOHOシネマズのような大手はこういう映画こそ一日一回で良いので上映してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

imagination

英語とつづりは同じだが、フランス語の発音はイマジナスィオンに近い。想像力は創造の基本。映画を観て、脚本家や監督がどこからどのように inspiration = アンスピラスィオンを得たのか考察するのも面白いはず。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 デューン 砂の惑星 PART2 』
『 梟ーフクロウー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ピエール瀧, ラブロマンス, 成田結美, 日本, 松田弘子, 監督:高野徹, 配給会社:ドゥヴィネットLeave a Comment on 『 マリの話 』 -Boys be romanticists-

『 落下の解剖学 』 -真実を知るは犬のみ-

Posted on 2024年3月9日2024年3月9日 by cool-jupiter

落下の解剖学 70点
2024年3月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ザンドラ・ヒュラー ミロ・マシャド・グラネール スワン・アルロー
監督:ジュスティーヌ・トリエ

 

『 ある閉ざされた雪の山荘で 』は地雷臭がプンプンしていたが、こちらは面白そうだと思ったのでチケット購入。実際にかなり面白かった。

あらすじ

雪山の山荘で視覚障がいを持つダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)は転落死した父親を発見。当初は事故死かと思われたが、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻である作家サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に疑いがかけられて・・・

 

ポジティブ・サイド

少ない登場人物でミステリーやサスペンスを生み出すのはカトリーヌ・アルレーやボワロー=ナルスジャックが得意としたところでフランス小説のお家芸。そうしたエッセンスは本作にも見られる。

 

注目すべきキャラは息子ダニエル、母サンドラ、弁護士のヴァンサン、検事、そして犬のスヌープ。これだけ。法廷以外のパートで夫の死の真相を暗示するようなシーンなどは見当たらなかったので、本作はミステリーではなくドラマとして見るべきだろう。それも上質な法廷ドラマで、その法廷の弁論の中で、夫婦の確執が次々に明らかになっていく。

 

この二人、元々は国際結婚。ドイツ人妻とフランス人の夫が英語でコミュニケーションを取っているが、そこで交わされる会話から、夫と妻のそれぞれが抱えていたストレスが露になっていく。Jovianは正直、夫にかなり感情移入したが、Jovian妻は終始妻サンドラ側に立って見ていたとのこと。何を言ってもネタバレになるのでこれ以上は書けないが、法廷で録音が再生されるシーンがめちゃくちゃ面白いということだけは強調しておきたい。

 

もう一つ本作で注目すべきは犬。犬にここまでの演技ができるとは驚異的の一語に尽きる。特にとあるシーンで臥せったスヌープがいわくありげな上目遣いをするシーンには震えた。『 落下の解剖学 』というタイトルの落下は、第一義的には夫の転落を指すのだろうが、上から下に落ちたものはそれだけなのか。今は上にあって、これから下に落ちることになるものは何であるのか。そうした視点で本作を鑑賞してみてほしい。

 

解剖学というタイトルの言葉通り、人間、就中、夫婦の内面に鋭くメスを入れる秀作である。それ以上に、事実は一つ、真実は複数。では、それらの真実の中から自分はどれを選ぶのか。ある意味で本作は究極のビルドゥングスロマンとも見なしうるのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

序盤が少々退屈。もちろん夫のDIYや妻のインタビューなど、どれも必要なシーンなのだが、ここをもう少し速いテンポで映し出してほしかった。

 

検事が妻の小説のプロットを持ち出して、殺意の証拠にしようとしたのにはさすがにドン引きした。検察を悪に描こうという意図でもあったのだろうか。悪ではなく暗愚というか

 

総評

法廷ものとファミリードラマのハイレベルの融合。日本社会は、特にネット空間で顕著だが、「疑わしきは罰せず」という原則を忘れているように思う。疑わしい=疑われる方が悪いという理屈で、誹謗中傷が行われるのはいかがなものか。本作はある意味で観る者の法感覚を測る格好の題材であると言えるかもしれない。ぜひ夫婦で鑑賞をどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

One for the road

劇中では One more for the road. という使われ方をしていた。松本孝弘の楽曲に ONE FOR THE ROADがある。意味は「場を離れる前の最後の一杯」の意。Jovianのオールタイムベストの小説『 星を継ぐもの 』に下のような描写がある。参考にされたし。

Hunt took a cigarette from his case and lit it. “You know,” he said at last, blowing a stream of smoke slowly toward the glass wall of the dome, “it’s going to be a long voyage to Jupiter. We could get a drink down below—one for the road, as it were.”

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 マリの話 』
『 デューン 砂の惑星 PART2 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ザンドラ・ヒュラー, スワン・アルロー, フランス, ミロ・マシャド・グラネール, 監督:ジュスティーヌ・トリエ, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 落下の解剖学 』 -真実を知るは犬のみ-

『 夜明けのすべて 』 -人は生きた星-

Posted on 2024年3月3日 by cool-jupiter

夜明けのすべて 80点
2024年3月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:上白石萌音 松村北斗 芋生悠
監督:三宅唱

 

『 ケイコ 目を澄ませて 』を三宅唱監督の作品ということでチケット購入。国内作品の年間ベスト候補と言ってよい出来栄えであった。

あらすじ

PMSのせいで感情が不安定になってしまう藤沢(上白石萌音)は、上司への反発や薬の副作用から来る居眠りのため会社を退職する。転職先の栗田科学でも同僚の山添(松村北斗)の無気力な勤務態度に怒りを爆発させてしまうが、彼もパニック障害のため生き辛さを抱えていて・・・

 

ポジティブ・サイド

大昔、看護学校でPMSについて習った記憶がある。なぜなら「私、PMSかも」と言い出す女子が大勢いたから。程度の差こそあれ、エストロゲンやらの各種ホルモンのストームが起きれば、それは肉体にも精神にも多大な影響を及ぼす。人類の半分は女性で、女性の10代から50代ぐらいは、誰でもPMS予備軍と言って差し支えない。これを単なる女性特有のイライラやヒステリーで片づけず、れっきとした病気であると真正面から描いた作品は今作が初めてではないだろうか。劇中のモノローグでもあった通り、診断名がつくことでホッとする人も多いはず。

 

同様のことはパニック障害にも当てはまる。Jovianの仕事の大部分は大学等で教える非常勤講師の指導で、間接的にではあるが、毎年のべ数万人(実数だと約12000人)の高校生や大学生に関わっている。近年圧倒的に多いのは、LD、ADHD、鬱病・双極性障害、パニック障害だと感じる。開講直前、あるいは開講直後から3週間ぐらいの間に学校から要配慮申請が届く。パニック障害は一位ではないが、おそらく心理・精神面での配慮だと3位か4位ぐらい。数にすると毎年10人ぐらいだろうか。なので合理的配慮を要すると学校が判断するレベルのパニック障害は10数人に一人。おそらく配慮は必要としないレベルのパニック障害は百数十人に一人ほどの割合で存在すると考えられる。つまり、それほど珍しい病気ではない。

 

主演の二人の自然体の演技は見事だった。同病相憐れむではないが、お互い病気持ちであることを知った藤沢さんのエールを即座に否定する山添君のナチュラルな無礼さ。そして藤沢さんに不用意に髪をバッサリ切られた時の邪気のない反応。このコントラストに、我々は知らず知らずのうちに山添君をパニック障害というフィルターで見ていたことに気付かされる。

 

本作は光と影の使い方が非常に巧みで印象的。栗田科学のオフィス内、街中で自転車に乗る山添君、そして移動式プラネタリウムの中など、人物の心理的な状態が視覚的に表現されている。といっても明るい=明るい精神状態、暗い=暗い精神状態では決してない。むしろ、タイトルの通りに夜明け前の暗さにこそ希望が宿っていることを示してくれていたように感じる。

 

本作に登場する人物は、誰もが目に見えない傷を抱えている、栗田科学の社長然り、山添君の元上司然り。彼らの傷が癒されることはないのだが、しかし彼らが救われることは可能なのだ。それは直接的な救済ではない。むしろ、自分以外の誰かが救われることで自分が救われる。そうしたことを教えてくれる。藤沢さんと山添君の奇妙な関係も、そうした視点から見つめることで理解することができる。

 

本作は観る側の想像力を喚起しようとする。藤沢さんのお母さんが毛糸の手袋を編むのにどれほどの時間がかかったのか。山添君の同僚の大島さんが何故最後に「外で話したい」と言ったのか。ドキュメンタリー制作を行う中学生のダンの母親は、シングルマザーなのか否か。明確な答えは何も提示されない。我々はただ想像するのみである。それこそが本作の発したいメッセージなのではないかと思う。

 

太陽が西の空に沈むことはない。なぜなら太陽は動かず、地球こそが太陽の周りをまわっているからだ。これは厳然たる科学的事実(ただし厳密には太陽も天の川銀河内を超高速で公転しているし、その天の川銀河も超高速で移動しているのだが)。それでも我々は夜空の星々に意味を見出す。信じられないほどの距離を隔てた星々が、信じられないほどの時間をかけて地球に届けた光を見て、我々は星座を見出し、物語を生み出す。それは、どんなに離れた人間同士でも、お互いを照らし、意味ある関係を生み出せるという希望に他ならない。夜だからこそ見える光があるのだ。

 

ネガティブ・サイド

物語冒頭のモノローグの多用はいただけない。藤沢さんというキャラクターの苦悩を、それこそ回想シーンを通じて想像させるべきで、これを真正面から語ってしまったのは何故なのか。

 

個人的には芋生悠の出番がもう少し欲しかったかな。

 

総評

人間の弱さや儚さを映し出すことで、逆説的に人間の強さや優しさを教えてくれる作品。演技・演出、撮影、照明、音楽・音響のすべてがハイレベル。原作小説をかなりアレンジしているそうだが、発しようとするメッセージは同じなはず。他者に向けるまなざしをほんの少し優しくしようと思えた。2024年度のベスト候補の最右翼。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Polaris

北極星の意。元々は stella polaris = 極の星だったが、stellaが省略されて polaris が定着した。ここでソラリスを思い浮かべた人はラテン語の知識またはセンスがある人。これも sol =太陽に、形容詞化の接尾辞 aris がくっついたもの。ただ日常会話では圧倒的に the North Star を使うことが多い。北極星を Polaris と呼ぶのは天文学的な文脈に限られる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 落下の解剖学 』
『 マリの話 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 上白石萌音, 日本, 松村北斗, 監督:三宅唱, 芋生悠, 配給会社:アスミック・エース, 配給会社:バンダイナムコフィルムワークスLeave a Comment on 『 夜明けのすべて 』 -人は生きた星-

『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

Posted on 2024年2月29日 by cool-jupiter

ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 75点
2024年2月25日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:マイウェン ジョニー・デップ バンジャマン・ラベルネ
監督:マイウェン

ルイ15世の公妾ジャンヌ・デュ・バリーを描く。『 ナポレオン 』でも、ジョセフィーヌという女性との関係からナポレオンを描出したが、映画の世界にも文学に続いて本格的な feminist theory による再解釈の波が到来しているのだろうか。

 

あらすじ

ジャンヌ(マイウェン)は美貌と才覚で娼婦として台頭し、ついには国王ルイ15世の公妾としてヴェルサイユ宮殿に入っていく。しかし、国王の寵愛を受けるジャンヌを快く思わぬ宮廷の勢力もおり・・・

ポジティブ・サイド

まずはプロダクションデザインが素晴らしいの一語に尽きる。というか、本作の撮影のために本物のヴェルサイユ宮殿を使ったというのだから、それは素晴らしいに決まっている。

 

キャスティングも当たり。ローティーンの可憐なジャンヌが天使と見まがうハイティーンに成長、そこからベテラン娼婦のマイウェンになった時には一瞬「アレ?」と感じたが、その熟女ジャンヌが宮廷に召し出され、公妾として宮殿に現われた時には、まさに国王最後の愛人という輝きを放っていた。メイクアップアーティストやヘアドレッサーは本当に素晴らしい仕事をしたと思う。

 

ジョニー・デップもすべてフランス語で好演。このベテラン俳優は濃い化粧の時はヒット、素に近い顔だとハズレというイメージが強いが、今作は『 ギルバート・グレイプ 』以来の当たり役・・・は流石に言い過ぎだが、『 ナポレオン 』を演じたホアキン・フェニックスと同等かそれ以上のフランス為政者としてインパクトを残した。

 

ただ、何といっても本作はルイ15世の最側近、そしてジャンヌの戦友とも言うべき羅・ボルドに尽きる。ジャンヌの教育に余念なく、宮廷内の権力闘争や権謀術数からは距離を置き、ただひたむきに王に忠実であり続ける。『 銀河英雄伝説 』のローエングラムになる前のラインハルトをルイ15世とするなら、ラ・ボルドは間違いなくキルヒアイス。この感じ、分かる人には分かるはず。

 

絢爛豪華なヴェルサイユ宮殿を舞台に少人数での濃密なドラマが繰り広げられる、あっという間の2時間。フランス史に詳しければ歴史や伝記として楽しめるし、仮に詳しくなくともロマンスやヒューマンドラマを堪能できるだろう。ぜひ劇場にて鑑賞してほしい。

 

ネガティブ・サイド

閨房の様子がまったく描かれなかったのは何故だろう。別に行為を映せと言っているのではない。王がジャンヌにどのような類の癒しを求めたのかを純粋に知りたいと感じた次第である。たとえばルイ15世がジャンヌを自分から抱きしめるのか、それともジャンヌに膝枕(フランスでもやるのかね?)をしてもらうのかで、王の抱えているストレスや苦悩が見えてくる。そういうシーンをほんの少しでいいので見たかった。

 

総評

一言、良作。歴史・伝記ジャンルの作品であるが、背景知識がなくても充分に楽しめる作りになっている。全編フランス語(一瞬だけラテン語もあるが)なので、フランスらしさを味わうなら『 ナポレオン 』よりも本作だろう。とにかく多くの人に本作を観て、そしてラ・ボルドと彼を演じたバンジャマン・ラベルネのファンになってほしい。

 

Jovian先生のワンポイント仏語レッスン

N’ayez pas peur

発音としては ネ・エ・パ・プー のような感じ。英語にすれば Don’t be afraid = 怖がらないで、である。劇中で2~3回聞こえたかな。20年ぐらい前に熱心にWWEを観ていた頃、フランス人設定のレスラーがデビュー前にCMでしきりに “N’ayez pas peur.” と言っていて、そこに字幕で Don’t be afraid. と出ていたので、それで覚えていた。あの頃はなんでも、いくらでも頭に入ったのだが・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜明けのすべて 』
『 ソウルメイト 』
『 落下の解剖学 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, ジョニー・デップ, フランス, マイウェン, ラブロマンス, 伝記, 歴史, 監督:マイウェン, 配給会社:ロングライドLeave a Comment on 『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

『 犯罪都市 NO WAY OUT 』 -すべては鉄拳で解決-

Posted on 2024年2月25日2024年2月25日 by cool-jupiter

犯罪都市 NO WAY OUT 65点
2024年2月24日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マ・ドンソク イ・ジュニョク 青木崇高
監督:イ・サンヨン

 

『 犯罪都市 』、『 犯罪都市 THE ROUNDUP 』の続編。

あらすじ

ソウル広域捜査隊に異動したマ・ソクト(マ・ドンソク)は、ある転落死事件の原因が麻薬中毒であると知り、捜査を開始する。その新型麻薬の裏には、日本のヤクザ、そしてその麻薬を中国に横流ししようとする勢力も蠢いていた。麻薬を横流しする者を粛清するために、日本からリキ(青木崇高)という暗殺者が韓国に送り込まれてきて・・・

ポジティブ・サイド

テンポが非常に良いので、スイスイ鑑賞できる。麻薬取引現場での凄惨な殺しの場面で、メインのヴィランをていねいに紹介。場面変わってマ・ドンソクが暴漢たちを次から次にノックアウト。転落死事件の原因に新型麻薬が関わっていると分かれば、すぐに麻薬取引の現場のクラブへ急行。コミカルなキャラを導入しつつ、やっぱり鉄拳ですべて解決。そうこうしていると日本から暗殺者のリキが登場して役者がそろう。

 

末端価格300億ウォンの20kgの新型麻薬を奪った者を追って、警察、ヤクザ、横流し勢力の三つ巴の血で血を洗う闘争が勃発。ソクトの側からのストーリーでコミカルパートを担当、チュ・ソンチョルと青木崇高のパートでバイオレンスを担当。このヴィランたちが最終的にソクトにボコボコにされて、観る側はスカッとする。単純な作りではあるが、これで面白いのだから認めるしかない。

ネガティブ・サイド

前作からのキャラが2~3人減った?ソクトの異動という事情があったにせよ、ホ・ドンウォンやチェ・グィファのキャラ達とは再会したかった。

 

日本刀で襲撃してくる暗殺者というのはシネマティックではあるが、韓国側もなにか刃物で対抗できなかったのか。『 初恋 』にあったような日本刀 vs 偃月刀のようなチャンバラを観てみたかった。

 

総評

トム・クルーズの『 ミッション・インポッシブル 』シリーズと同じで、マ・ドンソクが好き勝手にあれこれやるシリーズになりつつある。東南アジアや中国、日本がコンスタントに登場しているので、シリーズは今後も国際路線で行くのだろう。次作は日本の一条組と韓国暴力団の国際抗争だろうか。M:Iと同じで、ここまで来たらシリーズの行く末を見守るしかない。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヒョン

兄の意味。ただし、日本語と同じく血のつながりがなくても目上、年長の男性に対して使える表現。もう辞めてしまったが、うちの職場にいた韓国系アメリカ人も You can refer to me as Hyeong. と言っていた。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜明けのすべて 』
『 ソウルメイト 』
『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アクション, イ・ジュニョク, ノワール, マ・ドンソク, 監督:イ・サンヨン, 配給会社:ツイン, 青木崇高, 韓国Leave a Comment on 『 犯罪都市 NO WAY OUT 』 -すべては鉄拳で解決-

『 SMILE スマイル 』 ーもう少しキャラに肉付けをー

Posted on 2024年2月25日2024年2月25日 by cool-jupiter

SMILE スマイル 50点
2024年2月22日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ソシー・ベーコン
監督:パーカー・フィン

 

劇場予告編か何かで観て、気になっていた作品。面白さはまあまあといったところ。

あらすじ

精神科医のローズ(ソシー・ベーコン)は、カウンセリングをしようとした患者が奇妙な笑顔を浮かべながら自殺するのを目撃する、それ以降、ローズは奇妙な笑顔を浮かべる人物を目撃するようになり、そして彼女自身も不可解な行動を取ってしまうようになり・・・

 

ポジティブ・サイド

明るいところが怖いという点を売りにした『 ミッドサマー 』の如く、本作は笑顔が恐怖の対象になりうることを示した点でユニーク。

 

何じゃそりゃ?という不可解な死に方、それに不釣り合いな奇妙な笑顔というアンバランスが不快感を催させる。冒頭の5分でこの世界に引き込まれてしまった。

 

この笑顔を見せる怪異の正体が不明で、次々に異なる人間の姿で主人公に迫ってくるというのは『 イット・フォローズ 』的で、個人的には好みである。単なる偶然だが、猫の日に本作を鑑賞して、これほど嫌な気分にさせられるとは、脚本兼監督のパーカー・フィンはやり手である。

 

笑顔の怪異の謎を元カレと共に突き止めようとする中盤以降、謎の自殺の連鎖から逃れた者がいるという情報、そしてその方法が結構えぐい。ただ、そこから論理を突き詰めて、怪異と対決しようというローズの姿勢は精神科医然としていて頼もしい。

 

本作はカメラワークが良い。ローズが同棲中の婚約者と元カレと一緒にいる時のカメラのズームイン、ズームアウトのタイミングでスリルとサスペンスを生み出している。できれば劇場で鑑賞したかったと感じた。

 

ネガティブ・サイド

序盤はかなりジャンプ・スケアが多い。そんなものを使わずとも、カメラワークで充分に恐怖感を生み出せることを証明しているのに、何故に安易な方法に走ってしまうのか。笑顔というのは日常でよく見るものなので、その笑顔が本物なのか、それとも怪異なのかとローズおよび観客を疑心暗鬼にさせるシーンはいくらでも撮れるはず。音響で驚かすのではなく、映像で怖がらせる、あるいは不安がらせてほしい。

 

ローズにはローズのトラウマがあるのだろうが、それでもここまで嫌なキャラに描く必要があったのだろうか。特にFワードの連発には正直辟易した。いや、four-letter word の使用そのものは否定しないが、医師という職業とマッチしていない。加えて、精神科医という仕事のしんどさを丁寧に描くこともしていないせいで、ローズが胸の奥底に抱えている闇のせいだけで嫌な人間になってしまっているように見える。

 

終盤に出てくる怪異が、まんま『 IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 』の中盤に出てくるCGモンスターのパクリ。これはオマージュとは呼べないだろう。

 

ローズの婚約者も、もっとローズに寄り添ってほしかった。ナチュラルに無礼な発言を繰り返して、そらローズも元カレの方に行くわなと感じた。いや、それはプロット上の必然だからしゃーないとしても、トラウマは病気で、その病気は遺伝する発言は行き過ぎ。ドン引きした。

 

元カレの背景も謎。なにが彼をそこまで献身的にさせるのか。主要キャラたちをもう少しだけ深掘りしてほしかった。

 

総評

低予算ホラーだが、スプラッタ映画的なグロシーンもあって、見応えはそれなりにある。笑顔が怖いという新機軸もそれなりに楽しめた。キャラとの波長が合うかどうかは観る人次第だが、序盤と中盤は結構怖いので、ホラー耐性のない人にはお勧めできない。ホラー愛好家には傑作たりえないだろうが、話のタネに鑑賞しておいても損はしないだけのクオリティはある。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

the cold shoulder

冷たい肩ではなく「冷たい態度」の意。しばしば give ~ the cold shoulder で、~に冷たい態度をとる、~にそっけなく接する、のような意味で使われる。My supervisor has been giving me the cold shoulder since I disagreed with her at the meeting. =「会議で異議を述べて以来、上司は私に冷淡な姿勢を取り続けている」のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜明けのすべて 』
『 犯罪都市 NO WAY OUT 』
『 ソウルメイト 』

SMILE/スマイル ブルーレイ+DVD [Blu-ray]

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  • ソシー・ベーコン
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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アメリカ, ソシー・ベーコン, ホラー, 監督:パーカー・フィンLeave a Comment on 『 SMILE スマイル 』 ーもう少しキャラに肉付けをー

『 プラネット・デューン 砂漠の惑星 』 -低予算映画の極み-

Posted on 2024年2月18日 by cool-jupiter

プラネット・デューン 砂漠の惑星 20点
2024年2月18日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:エミリー・キリアン ショーン・ヤング
監督:グレン・キャンベル タミー・クレイン

先週末はJovianがインフルエンザ、今週末はJovian妻がインフルエンザと、とても映画館に行ける状況ではなかった。近所のTSUTAYAでクーポンを使って、クソ映画と知りつつ、リハビリの意味でレンタル。

 

あらすじ

宇宙船パイロットのアストリッド(エミリー・キリアン)はロシア人宇宙飛行士を救出するが、協定外の行動をとったことにより、懲罰として砂漠の惑星で消息を絶った人員の救出を命じられる。一癖あるクルーたちと共に降り立った惑星には、謎の巨大ワームが生息しており・・・

 

ポジティブ・サイド

『 スター・ウォーズ 』やら『 エイリアン 』やら『 トレマーズ 』やら『 デューン/砂の惑星 』に対するオマージュだけは認める。

 

ネガティブ・サイド

この手の低予算映画にありがちだが、とにかくキャラがのべつ幕無しにしゃべっている。映像やBGMで物語るという頭はないらしい。

 

救出ミッションだというのに、ろくな装備もなく、よくよその惑星に降下できるなと感心する。降りた先でも酸素濃度が10%になったりするが、「高い山の上にいるぐらいだから大丈夫」みたいに言うが、そんな中でよく全力疾走できるなと呆れてしまう。また、同じ環境で酸素濃度が5%にも低下するが、それでもキャラたちは「やばい、脱出しよう」などと言ったりするが、普通に死ぬ酸素量だと思われる。仮にもSF作品なのだから、脚本家には最低限の科学知識が求められる。

 

サンドワームが血液中の鉄分を求めるって、サメかな?というか、どうやって血中のヘモグロビンを検知しているのだ?キャラの女性率が高かったが、まさか全員が都合よく生理中だったとか?んなアホな・・・

 

キャラがまったく深堀されない中で、どんどんとキャラに無理やりなドラマとアクションをくっつけていくので、まったく感情移入できないし、ストーリーにも入っていけない。主人公がとにかく嫌なアメリカ人の典型で、これを好きになれというのは無理な注文だ。90分弱とはいえ、よく sit through できたと自分を褒めたい。

 

総評

OpenAI社の Sora が話題だが、割と近い将来(4~5年後?)には、これぐらいのクオリティの映像作品は大学生たちがパソコンだけで作ってしまうのではないだろうか。その意味ではこういう低予算作品は今後お目にかかれなくなる可能性もある。クソな商業作品を鑑賞するとしたら逆に今しかないのだろうか。そんなことを、ふと考えさせられた作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Stay sharp

直訳すると「鋭いままでいなさい」だが、実際は「気を抜くな」「警戒を続けろ」のような感じ。戦争映画や戦争ゲームでよく聞こえてくる気がするが、別に日常生活や職場でも文脈が正しければ使っても大丈夫である。

例)

The deadline is approaching. Stay sharp, everyone.
締め切りが迫ってきている。みんな、気を抜かないように。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 熱のあとに 』
『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』
『 夜明けのすべて 』

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プラネット・デューン 砂漠の惑星 [DVD]

プラネット・デューン 砂漠の惑星 [DVD]

  • ショーン・ヤング
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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, E Rank, SF, アメリカ, エミリー・キリアン, ショーン・ヤング, 監督:グレン・キャンベル, 監督:タミー・クレインLeave a Comment on 『 プラネット・デューン 砂漠の惑星 』 -低予算映画の極み-

『 哀れなるものたち』 -哀れなる者、汝の名は男-

Posted on 2024年2月7日 by cool-jupiter

哀れなるものたち 70点
2024年2月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:エマ・ストーン ウィレム・デフォー マーク・ラファロ ラミー・ユセフ
監督:ヨルゴス・ランティモス

 

簡易レビュー。

あらすじ

天才脳外科医ゴッドウィン・バクスター博士(ウィレム・デフォー)は、学生のマックス・マッキャンドルス(ラミー・ユセフ)を自宅に招く。マックスはそこで、体は成人女性なのに振る舞いは赤ん坊という不思議な女性、ベラ(エマ・ストーン)に出会う。ゴッドウィンは彼女の観察を手伝うようにマックスに言う。マックスは徐々にベラに惹かれていくが・・・

ポジティブ・サイド

ウィレム・デフォー=ヴィクター・フランケンシュタイン、ベラ=フランケンシュタインの怪物に見えるが、これを現代に置き換えて考えてみると、子育ての難しさを物語る寓話となるのだろうか。蝶よ花よと育てても、ビッチになる時はなる・・・ではなく、ちゃんと愛のあるセックスをしなさいよという教訓を垂れているのだ。

 

モノクロからカラーに変わる演出は『 オズの魔法使 』的で悪くない。あれも言ってみればドロシーのビルドゥングスロマンなわけで、本作も幼女ベラが成熟した女性ベラに成長していく物語だと思えばいい。快適な家に閉じ込める父から離れ、外の世界と性の世界を見せてくれる男、世界の残酷さを見せる男との旅路を経て、独立不羈の女性となっていくベラ。それはまるで一人の女性の生涯と同時に、人類史における女性の自立の歴史を目の当たりにするようでもある。

 

最後は「ははあ、これはアレをこうするんだろうな」と予想した内容とは違ったが、これはこれでブラックユーモアの炉火純青と言えるだろう。嗚呼、哀れなる者、汝の名は男。

 

ネガティブ・サイド

エマ・ストーンの非常に直接的なセックスシーンをどう評価するかは意見が分かれるところ。いや、評価しないという声もあるだろう。Jovianはさすがにちょっと見せすぎだと感じた。エマ・ストーンのトップレスは評価せざるを得ないが、好奇心からのセックスや商売としてのセックスの良し悪しを、事後の男たちの表情などで観る側に想像させることはできなかったか。ダンカンの余裕の表情がベッドの外ではなく、ベッドの上でだんだんと崩れていくのを観てみたかったと思う。

 

総評

日本なら手塚治虫あたりが思いつきそうなプロット。だが日本で映画化は無理そう。『 RED 』で中途半端だった夏帆に頑張ってもらうか、または二階堂ふみあたりに奮闘してもらうか。自分がプロデューサーになったつもりであれこれ考えてしまった。一種のウーマン・リブ奇譚なので、デートムービーにはならない。夫婦での鑑賞ならあり。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Poor thing

原題は Poor Things と複数形だが、通常会話では You poor thing. のような形で、ほぼ単数形で使う。以下は使用例。

X: I dropped my phone and broke it.
Y: You poor thing.

相手に何か不運があったりしたときは、You poor thing. と言おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・ガーディアン 守護者 』
『 熱のあとに 』
『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イギリス, ウィレム・デフォー, エマ・ストーン, ファンタジー, ブラック・コメディ, マーク・ラファロ, ラミー・ユセフ, 監督:ヨルゴス・ランティモス, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 哀れなるものたち』 -哀れなる者、汝の名は男-

『 みなに幸あれ 』 -邦画ホラーの珍品-

Posted on 2024年2月4日 by cool-jupiter

みなに幸あれ 20点
2024年2月3日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:古川琴音
監督:下津優太

簡易レビュー。

 

あらすじ

祖父母の家を久しぶりに訪れた看護学生の孫(古川琴音)は、2階の奥の部屋に何かの存在を感じ取る。やがてその存在が姿を現して・・・

 

以下、軽微なネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

登場人物すべてに等しく名前がないというのは印象的だった。『 グレート・インディアン・キッチン 』でもそうだが、そうした設定では主題がよりいっそう抽象的かつ一般的になり、観る側の想像力を喚起する。

ホラーとしては凡百あるいはそれ以下だが、弟の痙攣シーンはなかなかに味わい深かった。

 

ネガティブ・サイド

雰囲気的に『 リゾートバイト 』そっくり。だが『 リゾートバイト 』が先行ホラーのモチーフに加えてオリジナルのアイデアを盛り込んでいたのに比較すると、本作は先行ホラーのオマージュで終わってしまったという印象。というか、ホラーですらない。

 

冒頭の回想シーンの引きは思いっきり『 アス 』の少女が暗闇で息をのむシーンのパクリ。その後も『 ヘレディタリー/継承 』や『 ミッドサマー 』を思わせるシーンに、Jホラー降霊の暗い廊下に立つ人影など、雰囲気だけは怖いけれど、その実、何も怖くないシーンが続く。監禁老人の存在はまだしも、祖父母の奇行がギャグにしか見えない。

 

自家製味噌とか、想像力を刺激して恐怖心を呼び起こすガジェットは無数にあったのに、それらをまったく有効活用できていなかった。看護師=患者の存在を前提に成り立つ職業という、主人公のアイデンティティを揺るがすような展開もなし。脚本段階で色々と破綻していたか、あるいは編集が下手くそだったか。まあ、その両方だろう。

 

総評

個人的に期待していた映画で、あらすじもトレーラーも何も目にせず臨んで大失敗。総じて大学の映画同好会レベルの作品。本作をお勧めできるのは、珍品が好きだという一部も好事家だけだと思われる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. I need to forget about this movie right now.

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・ガーディアン 守護者 』
『 哀れなるものたち』
『 熱のあとに 』

 

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『 VESPER ヴェスパー 』 -ディストピアSFの標準的な作品-

Posted on 2024年1月27日 by cool-jupiter

VESPER ヴェスパー 60点
2024年1月21日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:ラフィエラ・チャップマン
監督:クリスティーナ・ブオジーテ ブルーノ・サンペル

 

簡易レビュー。

あらすじ

生態系が破壊され、特権階級のみが城塞都市シタデルに暮らし、それ以外の人間はわずかな資源だけを頼りに生きていた。寝たきりの父と暮らす少女ヴェスパー(ラフィエラ・チャップマン)は、ある日、森の中で倒れている女性カメリアを見つけて・・・

ポジティブ・サイド

全編を覆うおどろおどろしい雰囲気は悪くない。昔のドキュメンタリー番組『 フューチャー・イズ・ワイルド 』的だが、危険な植物が繁茂し、菌類が地を覆い、殺人昆虫が跋扈する世界という意味では『 風の谷のナウシカ 』にも近いと感じた。

 

主人公ヴェスパーを演じたラフィエラ・チャップマンの機智とサバイバル能力、そして子どもゆえのフィジカルな弱さとメンタルの弱さが、平板に感じられる物語への絶妙な味付けになっていた。

 

メカメカしいと思っていたガジェットが、実はクローネンバーグの『 クライムズ・オブ・ザ・フューチャー 』ばりにバイオバイオしていたりと、人造人間やら粘菌が登場する世界観とも一致していて良い感じ。

 

最後のシーンの美しさこそ本作のメッセージ。ぜひ vesper とは何を意味するのか、調べてみよう。

 

ネガティブ・サイド

食用可能な植物の種子の喪失およびその対策としての保存はすでに各国で始められている。その植物の再繁殖を一回に限定するという遺伝子操作も不可能ではないだろう。実際に繁殖不可能な子孫を残す蚊をリリースして、マラリアを撲滅しようという計画も以前からある。分からないのは、ヴェスパーがそれだけのバイオテクノロジーの知識を一体どうやって学んだのかということ。カメリアを疑似的な母親だ思い、色々な鳥や動物の鳴き声を教わるシーンから、生物学の基本的なテキストやデータベースにヴェスパーがアクセスできなかったことは明白。だったらどうやって分子生物学を学んだのか、一切説明がつかない。

 

総評

放っておくとこうなりますよ、という非常にディストピアSFらしいSFを味わえた。どこまでいっても壁、そして階級差を作ってしまう人間と、軛から解き放たれた大自然のコントラストが映える作品。静謐な雰囲気の中にもスリルとサスペンスが織り交ぜられている。評価イマイチのようだが、個人的には面白いと感じた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

unlock

劇中で、とある遺伝子に秘められた秘密を解き放つ際に unlock という表現が使われていた。見ての通り、lock = 鍵をかけるが un によって否定されている。つまり、鍵をかけた状態が解放されるという意味となる。ゲームなどでアイテムや能力がアンロックされる、などのようにカタカナでも定着しつつある。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 みなに幸あれ 』
『 ザ・ガーディアン 守護者 』
『 哀れなるものたち 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, SF, フランス, ベルギー, ラフィエラ・チャップマン, リトアニア, 監督:クリスティーナ・ブオジーテ, 監督:ブルーノ・サンペル, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 VESPER ヴェスパー 』 -ディストピアSFの標準的な作品-

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