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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: D Rank

『 守護教師 』 -鉄拳は全てを解決する-

Posted on 2021年3月27日 by cool-jupiter

守護教師 55点
2021年3月24日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:マ・ドンソク キム・セロン チン・ソンギュ
監督:イム・ジンスン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210327023940j:plain
 

エヴァの映画やテレビアニメ版ばかりを鑑賞して脳みそが少々疲れた。こういう時は、頭を空っぽにして鑑賞できる映画でリセットしたい。ということで、マ・ドンソクの映画をピックアウト。こちらも『 無双の鉄拳 』と同工異曲のマ・ドンソク映画だった。

 

あらすじ

元ボクシング東洋チャンピオンのギチョル(マ・ドンソク)は、暴力沙汰から連盟から追放されてしまった。そんな彼が見つけた仕事が地方の高校の学生主任。だが、そこは女子高生の家出が異様に多かった。そして教師たち、警察までもがそれを見て見ぬふりをしている。ギチョルは、次第に消えた友人を探すユジン(キム・セロン)と関わっていくことになり・・・

 

ポジティブ・サイド

マ・ドンソクの鉄拳は本作でも健在。けれども、彼の役者としての成長も見える。Jovianの嫁さんが本作のマ・ドンソクを観た瞬間に「これは善人やろ」と一言。ひょうきんなシーンではなかく、ニュートラルな表情をしていたが、確かにそれだけでキャラ属性が伝わってきた。もちろん剛腕もド迫力。普段から絶対ボクシングの練習をしているに違いない。それぐらい重心が低く、また背骨を軸にした左右フックを放っていた。アクションシーンはやられる側と相当綿密に打ち合わせして作っているのだろうなと思わせてくれた。

 

『 アジョシ 』の天才子役ソミを演じたキム・セロンが等身大の女子高生になっていた。多分、『 建築学概論 』のぺ・スジのように、正統派の美少女でありながら我々が怖気をふるうような罵り言葉を口にするコリアン・ビューティーになるのだろう。実際にその片鱗を序盤のヤンキー女子たち相手に発揮していた。つくづく思うが、韓国女子のたくましさには頭が下がる。本邦の女性たちがいわゆる「女性らしさ」から脱却できるのはいつなのか。その意味では『 地獄の花園 』にはちょっとだけ期待している。

 

ストーリーは単純明快だが、社会の闇、権力の闇を描くことを忘れないのが韓国映画の基本的文法である。悪い人間が存在する、ということではなく、悪い人間を生み出す土壌が存在する。それを国の恥、社会の恥だと言って無視する、あるいは隠すことは容易い。だが、それをエンターテインメントの種にして、世界に発信してしまうことには感心する。

 

本作は『 アジョシ 』が本来想定していた中年オヤジによる少女の救出劇の亜種だとして観るとなかなか興味深い。美女と野獣ではないが、美男子が美少女を救うのではなく、むさくるしいオッサンが美少女を救う。そこに教師と生徒という関係を持ってくることで違和感を中和している点も見事だ。マ・ドンソクがサラリーマン社会の論理で縛られてしまうところ、そうしたしがらみを全部振り切っていく終盤の流れはベタながら、誰にとってもそこそこ楽しめるものであることは間違いない。



ネガティブ・サイド

マ・ドンソクのキャラクターがはっきりしない。体育教師なのか、債権回収担当なのか。キャラの面白さはギャップにあるのだから、体育の授業で女子の扱いに手を焼くマ・ドンソクや、取り立ての際に女子高生にマシンガントークをかまされて言い負かされるマ・ドンソクを観てみたかった。そうすれば、その拳を振るう時のギャップがより大きくなる=意外性(我々にとってのではなくユジンら女子高生らにとっての)が大きくなり、物語をもっとダイナミックに動かしやすくなっただろう。

 

遅咲きのスター、チン・ソンギュもやや拍子抜け。『 犯罪都市 』での朝鮮族ギャングのNo.2という役で恐るべき存在感を発揮したのだから、それと同じくらいの迫力を出す役に仕上げるべきだった。あるいは監督がそのように演出するべきだった

 

最後の最後に巨悪をぶん殴れない展開というのもいかがなものか。この黒幕、『 トガニ 幼き瞳の告発 』の黒幕と同じく、めちゃくちゃ気持ち悪い御仁。そして『 トガニ 幼き瞳の告発 』でも、physical punishmentは受けなかった。マ・ドンソクの一番の魅力はその剛腕にあるのだから、ブッ飛ばせる相手はブッ飛ばしてほしいと切に願う。

 

総評

マ・ドンソクの映画である。それだけで分かる人は分かるだろうし、観たくなる人は観たくなるだろう。ただ、個人的には『 無双の鉄拳 』の方が面白かったかな。頭を空っぽにしたいときに向いている作品である。どちらかと言うと、マ・ドンソクのファンよりもキム・セロンのファン向けの作品かもしれない。コリアン・ビューティーはいつ見てもいいものである。

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

オッパ

お兄さん、の意。ただし血縁関係がなくても年上の親しみのある男性に使える語。そこらへんは日本語でも同じである。『 悪人伝 』でヒョン=兄と紹介したが、男性→年上の親しい男性の時はヒョン、女性→年上の親しい男性の時はオッパという具合に体系的に理解したい。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アクション, キム・セロン, チン・ソンギュ, マ・ドンソク, 監督:イム・ジンスン, 配給会社:アルバトロス・フィルム, 韓国Leave a Comment on 『 守護教師 』 -鉄拳は全てを解決する-

『 ビバリウム 』 -それでもマイホーム買いますか?-

Posted on 2021年3月14日 by cool-jupiter

ビバリウム 55点
2021年3月13日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:イモージェン・プーツ ジェシー・アイゼンバーグ
監督:ロルカン・フィネガン

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トレイラーを観ただけで好みの作風と判断。『 エスケープ・ルーム 』や『 迷宮物語 』のような、非現実的な領域に迷い込んでしまう話が好きなのである。

 

あらすじ

教師のジェマ(イモージェン・プーツ)と庭師のトム(ジェシー・アイゼンバーグ)は、二人で住む家を探して不動産屋へ。ヨンダーという郊外の住宅地で内見をするが、住宅地から抜け出せなくなってしまう。そして「育てれば解放する」というメッセージと共に謎の赤ん坊が届けられて・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210314022522j:plain
 

ポジティブ・サイド

冒頭のEstablishing Shotが奮っている。托卵の結果、カッコウの雛は他の卵を落とし、さらには雛も落とし、自分だけぬくぬくと他人(他鳥?)に育ててもらう。このショットが適切かどうかは別にして、それが自然の摂理であるということは強く伝わってきた。

 

育てることになった子どもが上げる奇声の不穏なことと言ったらない。神経を逆撫でする声である。ジェマの台詞に“I’ve never heard such perfect silence”(こんな完璧な静寂、聞いたことがない)というものがあったが、こんな空間でこんな声聞かされたらノイローゼになること必定である。この子(Itと呼ぶべきか)の不気味さを増す要素に、ジェマとトムの言葉をオウム返しする習性が挙げられる。そりゃトムも壊れるわな・・・ 『 光る眼 』や『 アンダー・ザ・スキン 』のような、変則的な侵略SFが好きな向きは本作も問題なく楽しめることだろう。

 

という見方がオーソドックスだろうか。

 

もう一つの見方は、本作はマイホーム購入後の人生をカリカチュアライズしているのではないかというもの。元々、子どもなんていうものはエイリアンみたいなもの。母親の体液をチューチューと啜って成長する生き物、と書けば哺乳類全体がいきなりヤバい生物に感じられるが、事実はそうなのである。親のすねかじりこそがある程度の高等生物の本質なのではないか。

 

本作の子どもの振る舞いを見れば、子育てがどれだけ大変かが分かる。腹が減るたびにギャーギャーと泣き喚き、親の言葉をオウム返しするのも言語を獲得する過程の一部に過ぎない。成長すれば深夜まで訳の分からんテレビを観るのに没頭して、外ではどこで誰と何をやっているのか分からない。Z世代というのは個性を重視すると言われるが、全世界的に観ても今の30代後半以上の世代は、恋愛にせよ仕事にせよ、何らかの「モデル」(その多くは小説や映画、テレビドラマや企業の商品CM)を良い意味でも悪い意味でも押し付けられてきた。ロルカン・フィネガン監督はJovianと同世代。そんな彼が現代の子育て事情を目の当たりにして、「俺たちが何を育てさせられているんだ?」という問題意識に基づいて作ったのが本作なのではないだろうか。

 

ネガティブ・サイド

ストーリーに二転三転がない。グッド・エンドであれ、バッド・エンドであれ、途中で適度に上げたり落としたりするべきだろう。タバコのポイ捨てによって、何か突破口が広がりそうに予感させるが、それをトムがジェマに見せる。それによってわずかな希望が生まれる。あるいは、トムがタバコをポイ捨てして見せるが、芝生に変化なし。ジェマはトムを少し信用できなくなる、といった演出も可能だったはずだ。

 

あと、これはカッコウの托卵とは構図が真逆ではないか?どちらかというと、サムライアリとクロヤマアリの関係に近いと思う。なんらかのミスリードなのかなとも思ったが、そうでもないようだ。人間という生き物の性質と托卵戦略を取る外的侵略種の狭間の物語であることを強調するなら、もう少し別の見せ方もあったように思う。

 

ジェシー・アイゼンバーグの見せ場が少なかった。それこそ得意のマシンガントークをかまして、それを子どもがひたすら真似するというシーンがあれば、子どもの気味の悪さも一層際立ったことだろう。

 

総評

公開直後ということもあり劇場はかなりの入りだったが、特に若いカップルが目立った。はっきり言ってデートムービーには向かない。人によっては本作をホラーに分類するかもしれない。子育て真っ最中の人にもお勧めはしづらい。子育て一段落の世代なら、適度な距離感で鑑賞できるものと思われる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ium

プラネタリウムやアトリウム、シンポジウムなど、iumで終わる英単語は日本語になっているものも多い。意味は「場所」である。サナトリウム=sanatoriumは療養所だし、スタジアム=stadiumはスポーツファンにはお馴染みだろう。ビバリウム=vivariumは「生きる場所」の意味で、辞書的には動植物飼養場となるらしい。「ビバ」と聞いて万歳=Long live!だとつなげて考えられれば、本作のストーリーも腑に落ちるのではないか。語彙素の知識は不可欠とは思わないが、知っておいて損になることはまずない。ちなみにプレステで『 シーマン 』をプレーしていたJovianと同世代または上の世代は、ビバリウムという言葉自体には聞き覚えがあるはず。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アイルランド, イモージェン・プーツ, ジェシー・アイゼンバーグ, スリラー, デンマーク, ベルギー, 監督:ロルカン・フィネガン, 配給会社:パルコLeave a Comment on 『 ビバリウム 』 -それでもマイホーム買いますか?-

『 ラスト・サンライズ 』 -中華SFの凡作-

Posted on 2021年2月25日2021年2月25日 by cool-jupiter

ラスト・サンライズ 50点
2021年2月23日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジャン・ジュエ ジャン・ラン
監督:レン・ウェン

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TSUTAYAの準新作コーナーでたまたま目についたのでレンタル。『 羅小黒戦記~僕が選ぶ未来~ 』のクオリティは期待していなかったが、それでも中国がカンフーもの以外のジャンルにも本格進出しつつあるのだと感じさせてくれた。

 

あらすじ

ヘリオス社が供給する太陽光エネルギーで稼働する中国社会。天文学者スン・ヤン(ジャン・ジュエ)は近傍の恒星の消滅と太陽の明滅減少に懸念を抱いていた。ある朝、突如として太陽が消滅。電力は失われ、都市機能は麻痺。スン・ヤンは隣人チェン・ムー(ジャン・ラン)と共にある場所に向かおうとするが・・・

 

ポジティブ・サイド

太陽に異常が起きるという映画には怪作『 サンシャイン2057 』があるが、他はちょっと思いつかない。火星はいっぱいあるのに。この一点だけでも本作には価値がある。永久不滅の象徴でもある太陽が消える。それも文字通りに忽然と。この出だしは絶対に面白いに違いないと直感したし、事実、面白かった。

 

EVが当たり前の社会で、深圳あたりでは現金の方が珍しくなっていると聞くが、決済もすべて電子マネーな世の中。また『 her 世界でひとつの彼女 』のサマンサを彷彿させるイルサというAIにもニヤリ。近未来の社会を描いているが、そこに確かなリアリティがある。だからこそ、太陽が消えてしまうという荒唐無稽なプロットにもついて行こうという気になれる。

 

本作は正確にはSFではなく、ロードムービーだ。彼女いない歴=年齢の野暮天男スン・ヤンと、家族と微妙な距離関係にあるチェン・ムーの二人が、人類の滅亡が確定した世界で希望を求めて寄り添いながら旅をしていく物語である。どこか『 エンド・オブ・ザ・ワールド 』に似ているか。ロマンスの予感を漂わせながら、微妙な距離を保ち続ける二人というところがアジア的でよろしい。これが凡百のハリウッド映画だと、『 アルマゲドン 』のリヴ・タイラーよろしく、すぐにイチャイチャが始まるのだろうが、そこはさすがに中華映画。節度を守るところが潔い。

 

太陽消滅後の世界の描き方も、政治的・経済的な方面に偏らず、あくまで主役の二人にフォーカスし続ける。そのため、いらぬことを考える必要なくスン・ヤンとチェン・ムーの旅路を見守ることに集中できる。二人が道路わきでカップラーメンをすするシーンがとても印象的だった。そして旅路の果てに夜空に広がる幻想的としか言いようのない映像は、中華映画の黎明期を暗示していたのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

極力、スン・ヤンとチェン・ムー以外を映さないようにしているが、それでも色々なところでボロが出ている。一番「ん?」となるのは、二人の乗る車の影の有無や方向。太陽も月明かりも街路灯もなくなった世界で、車は地面に思いっきり濃い影を落としている。しかも、あるショットでは車の右に影があるのに、次の瞬間には影が左に移動したりしている。無茶苦茶もいいところだ。

 

また太陽の消失から地球の気温が急激に低下した世界にもかかわらず、吐く息が白かったり、白くなかったりしている。『 パブリック 図書館の奇跡 』と同じミスである。だが本作の方がミスの度合いは大きい。外では吐く息が白くならないのに、車に乗り込んだ途端に息が白くなったりするのだから。そんな馬鹿な・・・

 

クライマックスの幻想的な夜空は美しいが、科学的にどうなっているのか。真っ暗な球体が夜空に浮かんでいて、それが一目で木星と金星だと、どのようにして認識できるのか。というか、内惑星の金星と外惑星の木星が地球から見て同一方向に並ぶのは、数日では不可能だろう。惑星と惑星の間の距離を甘く考えすぎだ。わずか数日で木星が地球の側までやって来る(あるいは地球が木星に引き寄せられる)のも同様の理由で非科学的に過ぎる。『 アド・アストラ 』と同じミスだ。また、実際に木星が地球からあの大きさに目視できる距離にあれば、地球などは完全に木星のロシュ限界を超えている。つまりはボロボロに引き裂かれてしまうはず・・・

 

総評

政治的・経済的な混乱の描写は最小限にとどめたので、そのあたりのパニック描写は矛盾をきたすほどではない。しかし、科学的に考えてしまうとドツボにハマる。なので、ハードコアなSF小説やSF映画ファンには決して勧められない。ロードムービーの変化球ながらも、奥手な男と勝ち気な女子という王道的なロマンスのジャンル混合作品として観るのが吉だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

tomorrow

言わずと知れた「明日」の意。中学生や高校生がこの単語をつづる時、しばしばtommorowと書いたり、tommorrowと書いたりする。tomorrowはtoとmorrowに分解できる。Morrowというのは「次の日」の意味で、これはmorningとも語源を同じくしている。日本語でも朝(あさ)と書いて朝(あした)と読むことがあるのが面白いところ。morningにはmが一つしかないと分かれば、tomorrowにもmは一つだと分かる。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, ジャン・ジュエ, ジャン・ラン, ロマンス, 中国, 監督:レン・ウェン, 配給会社:竹書房Leave a Comment on 『 ラスト・サンライズ 』 -中華SFの凡作-

『 ファーストラヴ 』 -窪塚洋介に惚れろ-

Posted on 2021年2月15日 by cool-jupiter

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ファーストラヴ 50点
2021年2月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:北川景子 中村倫也 芳根京子 窪塚洋介
監督:堤幸彦

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原作は島本理央の同名小説で、『 望み 』の堤幸彦監督作品。俳優陣に旬の役者をそろえたが、その役者たちの奮闘と監督による演出や編集がかみ合っていないと感じられるシーンが多かったのが残念。

 

あらすじ

公認心理士の真壁由紀(北川景子)は、父親を刺殺した容疑者、聖山環菜(芳根京子)を取材する。真相を究明しようとする由紀と国選弁護人にして義理の弟の庵野迦葉(中村倫也)は、二転三転する環菜の供述に翻弄されていく。環菜の過去を探る過程で、由紀は封印した自身の心の闇に向き合うことになり・・・

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以下、ネタバレに類する記述あり

 

ポジティブ・サイド

俳優陣の演技合戦が堪能できる。主演の北川景子はここ数年で最もコンスタントに売れている女優で、わざとらしさが残るものの、その演技も円熟味を増してきた。本作でも20歳ぐらいの大学生を(おそらくデジタル・ディエイジング無しに)演じ切った。仕事に燃えるキャリアウーマン、使命感に燃えるプロフェッショナル、夫と仲睦まじい妻といった成熟した女性と、男性恐怖症の大学生を同時に演じるというのは、かなりのチャレンジだったはず。だが、見事にその大仕事をやり遂げた。特に夫の腕の中で改悛と安堵の涙に濡れるシーンは本作の白眉の一つ。

 

芳根京子も圧巻の演技。凄惨な登場シーンから、ちょっと不思議ちゃんを思わせる最初の接見。そこから闇を心の奥底に隠した女子大生の顔を小出しにしていき、ある一点で心のbreaking pointを迎えるシーンは圧倒的だった。環菜の初恋には、触れざるべきものがあるのだと思わせるに十分な壊れっぷり。この役者は若いに似合わず、追い込めば追い込むほど実力を発揮できる役者なのではないか。法廷での弁論シーンも印象的。裁判官に正対して語りながら、その目は裁判官を見ていない。弱く、それでいて守られることのなかった自分に向き合っている。そのことがもたらす辛さや痛みが観る側にも如実に伝わってくる。芳根のキャリアの中でも最高に近い演技になったと思う。

 

最も印象に残ったのは、なんと窪塚洋介。堤幸彦監督作品の常連ながら、外連味のある役柄ばかりを演じていたという印象があったが、本作で過去のそうしたイメージを一気に払拭してしまった。忍耐力、包容力、理解力、共感力、家事家政能力。男が持つべき(などと書くとセクシズムに聞こえかねないが、これはロマンチシズムであると解されたい)能力を全て備えた男を好演した。Jovianの嫁さんも窪塚演じる我聞にいたく感じ入っていた。男としてどうかと思わざるを得ない野郎どもでいっぱいの本作の中で、窪塚洋介は一人で主要キャラクターたちのバランスメイカーとして有効に機能した。

 

物語(プロット)も、謎が提示され、その謎を解く。それによって新たな謎が生まれ、そのことが由紀の過去と不思議なフラクタル構造を成していることで、ミステリ要素とサスペンス要素を巧みに融合させている。単なるラブロマンスではなく、サスペンス色強めの愛の物語として、大学生以上の年齢の男女にお勧めできる。

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ネガティブ・サイド

物語(ストーリーテリング)の面でアンバランスになっているとの印象を受けた。由紀が環菜を同一視していく過程に説得力がない。確かによく似た境遇の二人ではあるが、由紀と環菜で決定的に異なるのは、由紀は父親から直接的にも間接的にも虐待はされていないということ。そして、由紀の性体験に関するトラウマは環菜のそれの比ではないということ。正直なところ、なにが由紀をそこまで環菜の取材および真相究明に駆り立てるのかが分からなかった。『 さんかく窓の外側は夜 』や『 名も無き世界のエンドロール 』も映像化に際してかなり原作が改変されているようだが、本作もやはり原作には映像化しづらいエピソードがあるのだろう。事実、「あなたは母親に愛されなかったからセックス依存症になった」という由紀の指摘は、やや的外れに感じた。「母親に虐待されたから、暴力的なセックスをするようになった」という分析なら理解できる。また、由紀は環菜のような“笑うこと”、“自分で自分を傷つけること”といった防衛機制を作り上げていない。そこからどのように自分自身のファーストラヴにたどり着いたのかが見事なまでに抜け落ちている。原作におそらくあったであろう、そうしたエピソードこそ映像化にトライしないと、単に映画人が小説からネタだけ頂戴しているだけに思える。

 

演出もちぐはぐだった。回想シーンを印象的なBGMあるいは歌で飾るのは映画の常とう手段でそれ自体をクリシェだとか悪いものだとは思わない。問題は、同じ手法を短時間の中で連発すること。寿司屋で大将に「お任せで」と言ったら、玉子焼き→エビ→玉子焼き→エビ、と出されたようなものである。また芳根が面談の場で荒れ狂うシーンもスローモーションとBGMで誤魔化してしまった感がある。環菜の心の闇の濃さと深さを見せつけるせっかくの機会を、なぜに陳腐な演出で潰してしまうのだ?

 

最終盤の法廷シーンでもBGMがノイズになった。環菜が訥々と、しかし切実に自身の過去および心理を述べるシーンの静かな迫力は『 閉鎖病棟 それぞれの朝 』の小松菜奈のそれに比肩しうる。問題はBGM。完全に不要。「はい、ここで物語が盛り上がっていますよ~」と言わんばかりのBGMが、芳根の渾身の芝居をスポイルしていた。役者の演技はどれも悪くなかったのだから、どうすれば観客にそれが最大限伝わるのかをもっと真剣に模索すべきだ。

 

完全なる邪推なのだが、「髪を切る」というエピソードは原作には存在しないと推測する。『 花束みたいな恋をした 』でも感じたが、男が女の髪に触るというのは、今では普通のことなのだろうか。そこまでは認めてもよい。だが、出会って間もない女性の髪を切るというのは蛮行もいいところだと思うし、本当にそんなことが出来るのは腕と弁の立つ美容師か、究極のオラオラ系のホストぐらいだろう。

 

総評

俳優陣は皆、良い仕事をしている。一方で演出や編集、また原作からの脚本起こしに粗が見られる。原作小説を高く評価する人はスルーすべきかもしれない。北川景子や中村倫也のファンならば観ても損はない。得をするかどうかはファン度による。堤幸彦監督は良作だと駄作を交互に生み出すお方であるが、本作は可もあり不可もある作品に仕上がっている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

souvenir

「お土産」の意。旅先から持って帰って来るものを意味する。決して「夜遅くまで飲んでしまったから、嫁に手土産でも買っていくか」という類のものではない。それはgiftと呼ばれる。Souvenirという語に含まれるvenは、ラテン語で「来る」の意。カエサルの「来た、見た、勝った」=Veni, vidi, viciでお馴染みである。こうした語彙素の知識があれば、event = 出てくるもの = 出来事、prevent = 前に来る = 予防する、revenue = 後ろに来る = 収入、intervene = 間に来る = 介入する、などの様々な語も理詰めで覚えることができる。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, サスペンス, 中村倫也, 北川景子, 日本, 監督:堤幸彦, 窪塚洋介, 芳根京子, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 ファーストラヴ 』 -窪塚洋介に惚れろ-

『 哀愁しんでれら 』 -転落サクセス・ストーリー-

Posted on 2021年2月11日 by cool-jupiter

哀愁しんでれら 50点
2021年2月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:土屋太鳳 田中圭 COCO 山田杏奈
監督:渡部亮平

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なにやらストーリーがさっぱり分からないトレイラーばかりを見せられているうちに、気になってきた作品。土屋太鳳が母親役を演じるということで、新境地が見られるかと思い、劇場へと向かった。

 

あらすじ

市役所で自動相談員として働く小春(土屋太鳳)は、10歳の頃に母親に捨てられたことから、そんな大人にだけはなるまいと誓っていた。祖父の入院、実家の火事などの災難続きなところへ恋人の浮気も発覚。どん底にいた小春は、偶然にもクリニック経営者の大吾(田中圭)を踏切内で助ける。大吾の娘のヒカリにも気に入られた小春はとんとん拍子に大吾と結婚、幸せな生活が始まるが・・・

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ポジティブ・サイド

土屋太鳳の新たな一面が見られる。これまでのどこか受動的なキスではなく扇情的なキス。閨事のはじまりに、事後のピロートークなど、年齢相応の役を演じられるようになってきた。『 累 かさね 』でも鼻持ちならないキャラを演じていたが、本作をもってそうしたキラキラ女子高生および女子大生イメージからは完全に脱却したと言っていいだろう。

 

相手の田中圭も安定感のある演技で応える。さわやか系ではあるが、チンピラから暴力的な刑事まで何でも過不足なく演じられる標準以上の俳優で、今回は哀愁しんでれら相手のプリンス・チャーミング役を好演。白馬に乗った王子様であるが、この王子様は馬刺しを食べる王子様である。

 

役者陣で最も印象的だったのはCOCOという子役。『 コクソン 哭声 』の子役のキム・ファンヒの怪演には及ばないが、それでも最近の子役のパフォーマンスでは白眉。無邪気な小学生の顔ともう一つの顔を見事に演じ分けた。監督の演出と本人の個性がマッチしたのだろう。こういう子どもが『 約束のネバーランド 』にいれば、ミステリーとサスペンスがもっと盛り上がっただろうに。

 

ところどころに人間の根源的な願望というか、見たいものを見るという選択的な意志が働くショットがあり、そこは面白いと感じた。そして、そのビジョンの一つを実現させてしまうラストには笑ってしまった。邦画らしくない邦画で、こうした企画が通り、実現されるのだから、日本の映画界ももう少し見守ろうという気になれる。

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ネガティブ・サイド

土屋太鳳を追い込むなら、もっと徹底的にやるべきだ。男性器をかわいらしく言い換えた言葉も使うが、そこは「あんたの粗末なアレ」とか言うべきだったと思う。序盤と終盤での土屋の変化の落差を印象付けたかったのだろうが、すでにこの時点で小春は不幸のどん底だった。つまり、本音がポロリと漏れやすい状態、思わずきつい言葉を吐いてしまう状態だったわけで、落差を印象付けるなら、ここだった。

 

新居となる家が大きすぎる。『 シンデレラ 』の城のイメージなのだろうが、それなら靴ばかりに不自然にフォーカスするのではなく、小春のバックグラウンドも分かりやすくシンデレラのようにするべきだった。母親に捨てられるというのは辛い体験であるが、その後に家族と共に結構楽しそうに暮らしていては、シンデレラ・ストーリーを成立させにくい。家族によって無意識のうちに抑圧されていたという背景を小春に持たせた方が、荒唐無稽なストーリーにも少しはリアリティが生まれる。

 

その迷い込んでしまった城でも、ホラーのクリシェが多すぎる。薄気味悪いガジェットで埋め尽くされた部屋も既視感ありありだし、気味の悪い肖像画というのもお馴染みのアイテム。シンデレラ・ストーリーを恐ろしいものに見せたいのなら、王子様が怖い人だったという構成ではなく、お城暮らしをするようになったシンデレラが、いつの間にか下々の者を見下すようになっていた、という筋立ての方が説得力があっただろう。山田杏奈演じた小春の妹が大吾にネチネチと嫌味を言われるシーンがあるが、こういった言葉を小春自身が可愛がっていた妹に知らず知らずのうちに浴びせていたという方がサイコな怖さを演出できたと思う。

 

総評

『 パラサイト 半地下の家族 』並みにジャンル・シフトする作品である。だからといって面白さはその域には全然達していない。けれども、邦画が及び腰になっていた領域に果敢に突っ込んでいった点は評価せねばなるまい。ドラマスペシャル『 図書館戦争 BOOK OF MEMORIES 』、『 図書館戦争 THE LAST MISSION 』の二人のreunionを喜べる人であれば、チケットを購入してみてもいいだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

disqualify

失格させる、の意。元々の動詞、qualifyに否定の接頭辞disがくっついたものである。「母親失格です」ならば“You are disqualified as a mother.”となる。他にもunderqualifiedやoverqualifiedなどの語は、外資系で採用に携わっている人はしょっちゅう耳にしていることだろう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, COCO, D Rank, スリラー, 土屋太鳳, 山田杏奈, 日本, 田中圭, 監督:渡部亮平, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 哀愁しんでれら 』 -転落サクセス・ストーリー-

『 THE 焼肉 MOVIE プルコギ 』 -一緒に食べて友達になろう-

Posted on 2021年2月9日 by cool-jupiter

THE 焼肉 MOVIE プルコギ 50点
2021年2月6日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:松田龍平 山田優 井浦新
監督:グ・スーヨン

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『 偶然にも最悪な少年 』のグ・スーヨン監督の作品。焼肉を通じて経済活動の醜さと人間関係の尊さを面白おかしく描いている。2020年の1129(いい肉)の日にテレビ放送されていたが見逃したため、今回レンタルにて鑑賞。

 

あらすじ

兄と生き別れた韓国人孤児から成長したタツジ(松田龍平)は北九州のプルコギ食堂で伝説のじっちゃんの下で修行の日々を過ごしていた。そんな時、テレビの焼肉対決番組で破竹の連勝を続ける虎王の経営者トラオ(井浦新)から挑戦があり・・・

 

ポジティブ・サイド

本当においしい店は外観にカネなどかけない。まるで『 焼肉ドラゴン 』のようなたたずまいの店で、従業員も客も笑い合う。コロナ禍の中で見られなくなった“会食”の風景に、こちら側も笑顔になれた。

肉そのものへのフォーカスにも抜かりはない。赤肉と白肉(=いわゆるホルモン)の対比を軸に、トラオとタツジの対決につなげていくが、そこで実際に虎王によって供される肉料理もなかなかのもの。『 フードラック!食運 』が疎かにした、焼肉以外のメニューを本作はしっかりフィーチャー。さらにプルコギ食堂が出すメニューやまかない飯もかなり食欲をそそる。特に豆もやしスープは、ニンニクとわかめのスープほど焼肉料理屋ではメジャーではないが、好きな人は何より好きだという通のメニュー。さすがに在日二世のグ・スーヨン監督である。特に荏胡麻の葉っぱ(ケンニップ)のしょうゆ漬けを持ってきたところに、監督のこだわりを見た。メニューに荏胡麻の葉がある店はそんなに多くないが、実際はありふれた総菜の一種である。これに加えられた隠し味が焼肉対決でも、またタツジの兄探しにも大きな役割を果たしている。

 

プルコギ食堂でも虎王でも、調理場でさりげなく復讐種類の包丁がフレームに収められているところでニヤリ。『 フードラック!食運 』がエンドクレジットの実在の店のショットで初めて映したところを、本作は全編にさりげなく忍び込ませている。焼肉を食べるのが好きな人が作ったのが『 フードラック!食運 』。焼肉という料理そのものを好きな人が作ったのが本作だということが伺える。そのことは、肉の焼き色ではなく、肉と油が熱によって内側で爆ぜる音に耳を澄ますという描写からも明らかである。

 

俳優たちも何気に豪華だ。松田龍平の無表情さは孤児のバックグラウンドを感じさせるし、山田優も若さそのままの健康的な色気を放っている。劇中で死亡してしまった韓老人を演じた田村高廣の遺作となってしまったが、その死の演技は圧巻の一語に尽きる。『 ターミネーター2 』のディレクターズカットで、T-800のプログラムをいじくる時のシュワちゃんの静止演技をはるかに超える長尺ワンカットでまばたき一つしないという超絶的な演技を見せた。名優に合掌。

 

ネガティブ・サイド

津川雅彦をはじめとした焼肉バトルの審査員がボキャ貧もいいところだ。もっと肉の美味さを映像的に分かる形で表現しないと。特に赤身肉の美味さというのは、タンパク質=筋肉の繊維がしっとりとしていて、噛めば肉汁を出しながらすんなり噛み切れるところにある。そういった肉の特徴を、もっと擬音語や擬態語でもって語らないと。「噛むと肉汁がじゅーっと溢れて、それでお肉もサックサクで、のど越しもツルン」みたいな大仰な表現をしてほしかった。

 

タツジが納得いかない出来の肉を皿ご放り投げるシーンには、元焼肉屋ならずとも腹が立った。タツジのキャラクターを描くうえで重要な演出でもないし、「これ、処理しといて」とか「テレビのスタッフさん、食べてください」とでも言えば、横柄ではあるものの食べ物を粗末にしない人間であるというふうに描出できたはず。

 

コメディ調ではあるものの、そのトーンが一貫しない。牛を連れてきて対決をする男にひらすらセロリをかじる男。セクシーギャルを使っての客引きなど、コメディっぽいシーンはふんだんにある。一方で、暴力沙汰も結構あり、これらのシーンは笑えない。このあたりのアンバランスさが本作のトーンから一貫性を奪って、ジャンル不詳にしてしまっている。

 

最も気になったはタイトルにあるプルコギがほぼ出てこないこと。プルコギはどちらかと言うと韓国風すき焼きで、韓国風焼肉とは別物。ちなみにJovianが思い描く、そして韓国で実際に食べた韓国風焼肉とは、鉄板で焼いた豚肉・牛肉を、玉ねぎやニラやニンニクと少量のご飯と共に葉野菜でくるんで食すものを指す。せっかく北九州という韓国に非常に近い土地にフォーカスしているのだから、朝鮮半島由来の料理をもっと登場させてみても良かったのでは?

 

総評

焼肉は比較的安全な外食とされるが、まだまだ不安のある人も多いことだろう。そうした向きが観ると良いかもしれない。井浦新が、この頃はまだARATA名義である。井浦のファンならば是非見よう。もちろん、松田龍平ファンにもお勧めである。誰かと一緒に食べることが難しい今だからこそ、本作の持つ「一緒に食べて友達になろう」というメッセージが、より尊く響いてくる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

grill

「(鉄板や網に乗せて)焼く」の意。日本語では「焼く」は「焼く」だが、英語では他にもburnやbake, broil, roastなど、焼き方によって様々な動詞がある。無理やり丸暗記するのではなく状況と共に、かつビジュアルイメージを持って理解することが、コロケーションの知識を深めていくことにつながる。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2000年代, D Rank, コメディ, 井浦新, 山田優, 日本, 松田龍平, 監督:グ・スーヨン, 配給会社:ファントム・フィルムLeave a Comment on 『 THE 焼肉 MOVIE プルコギ 』 -一緒に食べて友達になろう-

『 シャッフル 』 -サンドラ・ブロックを堪能せよ-

Posted on 2021年2月6日 by cool-jupiter

シャッフル 50点
2021年2月4日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:サンドラ・ブロック
監督:メナン・ヤポ

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緊急事態宣言以後、嫁から尼崎市内から極力出るなとのお達しが出ている。本当は梅田や心斎橋に足を伸ばしたいのだが・・・。一方で映画を観る人は増えているようだ。事実、近所のTSUTAYAは明らかに客が増えている。配信ではなくレンタルというところに日本のデジタル化の遅れを実感するが、それでもVHSからDVD、Blu-rayのカバーボックスの表と裏でキービジュアルやプロットをチェックするのは楽しい。本作もタイトルとカバーのデザインだけでレンタルを決めた。

 

あらすじ

リンダ(サンドラ・ブロック)のもとに保安官が訪れ、夫のジムが交通事故で死亡したと告げる。呆然自失するリンダは翌日、出勤前にリビングでくつろぐ夫と出会う。だが、さらにその翌日、ジムは亡くなっていた。時間の流れがシャッフルされているのか。リンダはジムを救うことができるのか・・・

 

ポジティブ・サイド

高畑京一郎の小説『 タイム・リープ―あしたはきのう 』を映像化すると、このような作品になるのだろう。タイムトラベルやタイムスリップは、それこそ星の数ほど小説でも映画でも使われてきたが、時間をバラバラに経験するというのは珍しい。時間の描写を逆にするのは『 メメント 』などもあり、珍しいものではなくなってきているが、本作のように時間の順序をシャッフルしてしまうというアイデアは秀逸だと思う。このことによって思わぬサスペンスが生まれている。

 

例えば娘の顔の傷。あるいは洗面所に無造作に放置された錠剤。謎が生まれるたびに、その謎がいつの時点で発生したのかを考えてしまい、引き込まれる。これが例えば『 オフロでGO!!!!! タイムマシンはジェット式 』のような普通のタイムトラベルものだと、現代と過去の違い(たとえば片方の腕の有無)から、過去に何かが起きたと分かる。問題は、時間の流れが一方通行であるため、現代につながる事件の起きる瞬間に対して主人公たちが受け身にならざるを得なかったところ。本作は逆に、待っていれば欲しい情報が得られるわけではない。次から次へと意味不明の展開が起こり、別の曜日になってみて初めて、その意味が分かる。ある意味で『 TENET テネット 』のような構成なのだ。ここが非常に新鮮で面白かった。

 

オチも、この手の時間改変スリラーの中では王道と言えるものだが、後味は悪くない。むしろ、Memento moriの元来の意味に近いCarpe diemという哲学を想起させる。Milfyなサンドラ・ブロックが堪能できる佳作。

 

ネガティブ・サイド

超常現象、あるいは怪奇現象を思わせる演出のすべてがノイズである。カラスの死骸のシーンでは、「あれ、これって『 ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄 』の系統のストーリーなの?」と感じてしまった。妙な演出など不要、ストレートに不可解なシャッフル現象だけを取り上げれば良い。ストーリーの根本にあるのは「何故こうなっているのか」ではなく、「この状況で何をなすべきか」なのだから。

 

ジムの出棺のシーンもめちゃくちゃ。『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』でも、御棺を警察官2人で軽々と運ぶシーンがあったが、プロレスラー並みの力持ちかいな。本作は本作で、男二人で運ぼうとした棺をガタンと落としてしまい、中から首がゴロゴロゴロ、ってそんな馬鹿な。普通は簡単にでも縫い合わせる。その上で縫合部に包帯を巻くのが常道だ。ここでも場に不穏な空気を流したいという園主のためだけに、リアリティが著しく損なわれてしまっている。なんでもかんでも現実に即せと言いたいわけではない、念のため。その作品の持つ世界観と合っていないのだ。

 

世界観にマッチしない最大のノイズと感じたのは、牧師?神父?がリンダに教えを与えるシーン。信仰の本質を突いた鋭い説教だと感じたが、これを最終盤手前に持ってくるのなら、序盤のホラー的な演出はすべてが無意味である。なので、このシーンをバッサリ削るか、あるいはこけおどしシーンを全て切り落として説教のシーンを活かすかである。監督:メナン・ヤポ監督は、このあたりのバランスを見失った。二兎を追う者は一兎をも得ずである。

 

総評 

壮大な謎や陰謀の存在をにおわせるが、その謎解きも無し。けれども『 エミリー・ローズ 』のように謎を解くことに主眼があるのではなく、その謎に立ち向かう人間の姿に美点を見出すならば、なかなかの良作と言えるのではないだろうか。英語でたまにa rainy day DVD=雨の日にちょうど良いDVDと言ったりするが、時代に合わせてa stay-home day DVD=外出自粛日にちょうど良いDVDという言葉を提唱したい。本作は、a stay-home day DVDである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Tell me about it.

『 やっぱり契約破棄していいですか!? 』でも紹介したフレーズ。「言われなくても分かってるさ」、「まったくその通りだ」、「よく分かるよ」という意味である。こうした表現をナチュラルに使えるようになれば、上級者の一歩手前である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, D Rank, アメリカ, サンドラ・ブロック, スリラー, 監督:メナン・ヤポ, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 シャッフル 』 -サンドラ・ブロックを堪能せよ-

『 さんかく窓の外側は夜 』 -ホラーならホラー路線に振り切れ-

Posted on 2021年1月25日 by cool-jupiter

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さんかく窓の外側は夜 45点
2021年1月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:岡田将生 志尊淳 平手友梨奈 滝藤賢一
監督:森ガキ侑大

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『 シン・ゴジラ 』で布告された緊急事態宣言も、現実の日本では二度目の発出。慣れとは怖いものだ。「コロナより怖いのは、私たち人間ね」と言いたくなるニュースがこの半年は多かった。「呪いよりも怖いのは人間なのか?」との問いを立てて本作を鑑賞した。

 

あらすじ

幼いころから幽霊が見えてしまう三角(志尊淳)は、ひょんなことから除霊ができる冷川(岡田将生)の相棒として仕事をすることになる。ある時、冷川の馴染みの刑事・半澤(滝藤賢一)から持ち込まれた事件を捜査しているうちに、ヒウラエリカ(平手友梨奈)という謎の女子高生の存在が浮上し・・・

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ポジティブ・サイド 

完全に偏見なのだが、『 ストレイヤーズ・クロニクル 』および『 秘密 THE TOP SECRET 』が超絶駄作(特に前者)だったため、岡田将生が主役級という作品は避けていた。が、『 星の子 』での演技はなかなかのものだったので、もうそろそろ無意味な偏見から解放されてもよい頃合いと思い、本作を鑑賞。演じやすい=特徴を出しやすいキャラクターという面に救われている面はあるものの、冷川という癖のある男を好演できていた。さわやかなイケメンというのは時と共に消費されつくして次世代に取って代わられるもの。今後は自信満々で鼻持ちならない系のキャラを極めていくのもいいだろう。『 君が君で君だ 』の向井理のようなチンピラ役にも挑戦してもらいたい。

 

除霊する時に、その霊の生前をうかがい知れるイメージを挿入するのは、なかなか親切な演出だと感じた。バディものの変形とはいえ、これほどあからさまに野郎同士の身体接触を決めのシーンとして描くのは、今日の目で見ると違和感というか、逆に新鮮味が感じあれる。

 

呪いや幽霊一辺倒になるのではなく、滝藤賢一演じる「信じない」キャラという存在が物語を引き締めている。J・ピール監督の『 ゲット・アウト 』でも主人公の親友が極めて堅実かつ現実路線の男(ギャグやユーモア担当でもある)だったおかげで、荒唐無稽なストーリーが“現実”と上手く対比された。滝藤演じる半澤刑事は、同じような作用を本作にもたらしている。

 

「簡単な除霊作業」の先に壮大な陰謀が隠されている、という展開も王道でよろしい。超自然的な現象の根本を人知の及ばない領域に求めるのではなく、そうした超自然的な現象をも人間の業の一部に組み込んでしまうというのは現代的である。カルトの存在を真正面から描くという意味では、本作は邦画の中では珍しいと言える。近年では『 スペシャルアクターズ 』や『 星の子 』ぐらいだろうか。本作のシリアスさは、これらの中間ぐらいである。

 

目に見えない存在が人間に害をなす。これまではそうした存在の代表は幽霊だった。今ではウィルスが大きく存在感を増してきており、こうした現実がフィクションである物語の奥行きを深めている。そうした見方をすれば、単なる中途半端なBL物語以上のものとして鑑賞することができる。

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ネガティブ・サイド

最初に劇場で予告編を観た時は、「すわ、オリジナル脚本か?」と思ったのだが、これもやはり漫画原作だった。そのせいか、各エピソードやキャラの背景描写が非常に底浅い、もしくはつながりやまとまりに欠ける。最も気になったのは、志尊淳演じる三角。幼少の頃に同級生が川で幽霊に襲われる(多分、死んだ)という経験がトラウマになっているのではないのか。にもかかわらず、冷川と組んでの最初の除霊作業で自身も水難事故に遭いかけるとか、おかしいだろう。さらに冷川から「霊はたいていは無害」とか説明されて反論もしないのは何故だ?例を見るたびに「うわっ」と驚くのも妙だ。散々見てきたでのははないのか。自身のトラウマ体験と折り合いをつけられずに生きてきたという背景が全く活かされていない。また、逆にラストの母親とのシーンでは空回りになってしまっている。原作の漫画はおそらく大部のエピソードでもってこのあたりの流れを描いているのだろうが、2時間足らずの映画では完全に描写不足。志尊淳の芝居(特に涙のシーン)は全編を通じてかなり良かっただけに、なおのこと物語とキャラと演技者の乖離が悪い意味で目立ってしまった。

 

平手友梨奈は『 響き-HIBIKI- 』の主人公役でインパクトを残したが、本作ではさっぱりだった。ミステリアスな雰囲気を出したいのは分かるが、それはその異能性ゆえに周囲から浮いてしまうことで放たれるもの。女子高生と言いながら、学校や同級生の描写がほとんどと言っていいほど存在しない本作では、その属性は不要だったのでは?むしろ『 ジオラマボーイ・パノラマガール 』の神奈川ケンイチのように、学校に行かず日夜街を徘徊して、人間の悪意をばらまいている、あるいは吸収している存在に描いた方が面白かったのではないか。

 

その人間の悪意が“言葉”だという点にも正直なところ拍子抜けさせられた。それも『 白ゆき姫殺人事件 』の二番煎じにもなれていないように見えた。言葉が悪意で、それが呪いとして成就しないのは、それを巧みに利用する者が存在するからだという背景はもっと丁寧に、なおかつ説得力のある方法で描けたはずなのだ。

 

クライマックスの“貯金箱”の描写もチープの一語に尽きる。これ以外にも、バラバラ殺人の被害者のパーツを集めて一つの人体に再構成するというサブプロットで、つなぎ合わされた死体が腐敗していない謎が最後まで説明されないなど、色々な要素を置いてきぼりにしたまま物語が進んでいく。続編制作に色気を持たせる終わり方だが、これだけとっちらかった序章では『 ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 』の二の舞を演じることになるだろう。

 

総評

出演者の演技は総じて悪くない。だが、脚本と演出が破綻してしまっている。コロナ禍という現実を下敷きに本作を観るという醍醐味もあるにはあるが、ストーリーを純粋に楽しむ、キャラクターの背景や経験を追体験するという映画的な楽しみ方は難しい。岡田や志尊のファンにならば勧められるか。Jovianは滝藤賢一目当てだったので、彼のパートだけはまあまあ楽しめた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

cast a curse on ~

~に呪いをかける、の意。普通に考えれば日常生活で使うことはない表現だが。ファンタジーやホラーではたまに聞こえてくる表現。単に“I’ll curse you”または“Curse you”=呪ってやる、とも言うが、日本語でも「呪いをかける」の方が「呪ってやる」よりも本格的に聞こえるように、英語でもcast a curse on ~の方がシリアスに聞こえる。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ホラー, 岡田将生, 平手友梨奈, 志尊淳, 日本, 滝藤賢一, 監督:森ガキ侑大, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 さんかく窓の外側は夜 』 -ホラーならホラー路線に振り切れ-

『 カリキュレーター 』 -平均的なロシアSF-

Posted on 2021年1月17日 by cool-jupiter

カリキュレーター 50点
2021年1月17日 Amazon Prime Videoにて鑑賞
出演:エフゲニー・ミローノフ アンナ・シポスカヤ
監督:ドミトリー・グラチョフ

 

友人の勧めでロシア映画を鑑賞。ロシアと言えば、面白そうなSFを定期的に作っているなという印象があったが、『 惑星ソラリス 』を高校生および大学生時に鑑賞して、いずれも睡魔によって撃沈されたJovianは、以来ソ連・ロシアの映画から遠のいてしまっていた。今年あたり、韓国映画、インド映画に加えてロシア映画も観始めていこうか。

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あらすじ

惑星XT-59は、すべてが「システム」および総統の統治下にあった。この星の犯罪者は、シールドの外の過酷な生態系の果てにある「幸福の島」へ向けて追放される。エルヴィン(エフゲニー・ミローノフ)はクリスティ(アンナ・シポスカヤ)と共に「幸福の島」を目指すが、危険な犯罪者ユスト達から追跡されて・・・

 

ポジティブ・サイド

ロシア的な美意識が様々なオブジェやガジェットから垣間見える。特に小キューブが立方格子上に連なったキューブ状の「システム」や、直方体の頂点から角が生えたような形状の飛行船(これも直方体に変化したりする)など、メカメカした感じではなくミステリアスな雰囲気をたたえるものが多い。

 

XT-59の大地も荒涼とした雰囲気を醸し出している。おそらく一部はCGなのだろうが、灰色の大地に巨岩が点在し、地平線の果てまで見渡せるような景色には、やはり広大なロシアの自然観や世界観が表れているように感じた。

 

クリスティ役の女優さんが眼福だ。フィギュアスケートで見るような妖精のような少女ではなく、成熟したロシアン・ビューティー。ニップレスなし風のタンクトップ姿はサービスか。いったいどんな犯罪をやらかしたのかと思ったが、なるほど、ロシア人女性は怒らせてはいけないらしい。

 

「幸福の島」を目指す旅路は貴志祐介の小説『 クリムゾンの迷宮 』とよく似ている。協力を持ちかける人間、敵対する人間、そして自分たち以外の人間など、サバイバル小説や映画によくある展開が待ち受けていて、良く言えば基本を押さえている。悪く言えば展開が読みやすい。本作はそこに、奇妙な生物を織り交ぜてくることで、別の緊張感を生み出している。特に殺人カビ(というより糸を出す粘菌に見えたが)は実際の宇宙に存在していそうな生命形態で説得力を感じた。

 

エルヴィンが「システム」に仕掛けた罠も『 インディペンデンス・デイ 』的で、これも良く言えば基本的、悪く言えばクリシェ。しかい、そこに同じ囚人のユストや総統の手先が追撃に現れ、「殺したいけど殺せない」というジレンマに陥るところはそれなりにユニークだ。

 

オチもなかなか考えさせられる。Jovianの世代だとソ連邦の崩壊をリアルタイムで体験しているので、抑圧的なシステム(社会主義)の元から解放された人々が屈折した人間心理を発達させてしまうことを知らされている。当然、現代ロシア人もソ連のことをよく覚えているだろう。そうした作り手がこのようなオチをつけるところに、自由の意味を考えずにはいられなくなってしまう。

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ネガティブ・サイド

低予算映画のためか、シーンとシーンのつなぎが貧弱だ。惑星XT-59がどのような自然環境の惑星で、人々はそこでどのような営みに従事し、どのような社会制度や文化を発達させてきたのかを徹頭徹尾映し出してくれない。このため、エルヴィンの置き土産によって「システム」がダウンしてしまうことが、惑星および社会にどのような影響を及ぼすのかが分からない。そこが分からないため、終盤の展開にカタルシスを感じにくい。

 

また、総統も何をしたいのかが意味不明だ。エルヴィンを殺す機会などいくらでもあっただろうに。回りくどく動きすぎて単なる狂言回しになっている。

 

ヒロインのクリスティも行動と感情に一貫性が感じられない。エルヴィンとの距離感の設定が色々とおかしい。最初は無関心、それが嫌悪になり、ある時から好意に変わる。または最初が嫌悪、それが無関心に変わり、いつしか好意に変わっていく。それなら理解できる。しかし、嫌悪と無関心の間をジェットコースター並みに行ったり来たりして、最後に「愛してる」とか言われても、説得力がない。まるで90年代のC級のハリウッド映画だ。

 

けれども一番キャラ設定がおかしいのはカリキュレーター=計算機であるエルヴィンだろう。自らをもって数学者を任じるなら、もっと思考や行動に数学という根拠を持たせるべきだ。確率や統計、力学の蘊蓄などをもう少しだけでも披露していれば、カリキュレーターというタイトルロールとしてもっと説得力が持てていたことだろう。口癖が「論理的だ」とか「非論理的だ」だけでは数学者とは言えない。

 

エルヴィンがもっとストレートに「クリスティを救いたいが、自分にはその権限がない。だから自分も囚人になって、過酷な流刑先で守護してやらねば」と奮い立ったという設定の方が、低予算映画として分かりやすい。無理やりロマンスの要素を入れたがために、ロシア的な要素が行きなかったように思われる。もしくは、最初からグローバルに売り出すつもりなら、ハリウッド的な文法で物語を作って、キャラクターや世界観にロシアっぽさを盛り込むべきだろう。全体的なトーンが一貫しないところが目についた。

 

総評

非常に鑑賞しやすい映画である。時間も90分足らずだし、登場人物の数も多くない。さらにストーリーも複雑ではなく、ほぼ一本道である。ロシアの人間ドラマや青春ドラマはどんなものなのかは分からないが、少なくとも『 コズミック フロント☆NEXT 』でコンスタンチン・ツィオルコフスキーに興味を持ったJovianは本作のSF部分をそれなりに楽しめた。もともとバレエなどの舞台芸術や文学の分野に強いロシアである。今後、韓国やインドのように力強い作風の映画を送り出してきてくれることを願いたい。

 

Jovian先生のワンポイントロシア語会話レッスン

スバシーバ

ロシア語で「ありがとう」の意。劇中で何度か聞こえてくる。「ありがとう」は何か国語で言えても損はない。大学時代の寮の仲間のロシア人に「ゼイビシ」なるスラングを教えてもらったことがある。意味は「Fucking good」だったと記憶しているが、ネットで調べてみてもヒットしない。ロシア語に詳しい方からご教授いただけると幸いです。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, アンナ・シポスカヤ, エフゲニー・ミローノフ, ロシア, 監督:ドミトリー・グラチョフ, 配給会社:インターフィルムLeave a Comment on 『 カリキュレーター 』 -平均的なロシアSF-

『 おとなの事情 スマホをのぞいたら 』 -平均的なコメディ-

Posted on 2021年1月15日 by cool-jupiter

おとなの事情 スマホをのぞいたら 55点
2021年1月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:東山紀之 常盤貴子
監督:光野道夫

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原作も、2019年に心斎橋シネマートで公開されていた韓国版リメイクも未鑑賞。ということは新鮮な目で本作を味わえるわけで、期待を胸に劇場へ。そこそこのコメディに仕上がっていた。

 

あらすじ

雇われ店長とその妻、パラリーガルの夫と子だくさんの妻、たたき上げの美容整形外科医の夫とテレビでも活躍する精神科医の妻、そして独身で塾講師の三平(東山紀之)はCAFFE ANGELAに集って晩餐を楽しんでいた。ふとしたことからスマホをテーブルに置き、通話やメールを全員に公開するというゲームを行うことに。そして、着信やメールのたびに、隠されていた秘密や人間関係が露わになっていき・・・

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ポジティブ・サイド

腹筋やらジョギングを欠かさないというマッチョなイメージの東山紀之が非常に良い味を出している。男らしいからではない。5ちゃんの塾講夜話をしげしげと眺めていそうな、どこか浮世離れした塾講師をリアルに体現できていた。

 

パラリーガルの田口浩正も素晴らしい。曲者ぞろいの晩餐会参加者の中でコミックリリーフをほぼ一手に引き受けていた。顔面で演技ができるタイプで、表情がくるくる変わり、心情をダイレクトに伝えられるのが強み。のみならず、土着的な中年日本人顔で、とにかく親近感が湧くのである。東山紀之と絶妙な掛け合いを披露してくれるが、数多くの中年男性映画ファンが感情移入し、なおかつ声援を送るのは、東山ではなく田口だろう。

 

電話の着信やメールやテキストの受診のたびに明かされていく秘密も、まあまあ面白いし、中には心臓が飛び出るかと思うほどのシリアスな通話もあったりする。秘密の大部分は夫婦関係に属するものなので、脛にやましいところがある諸兄は細君を劇場鑑賞のお供に誘わないこと。『 喜劇 愛妻物語 』を本当に喜劇として受け取れる夫婦なら、全く問題ないだろう。

 

役者同士の演技合戦や、テンポの良い進行、ほとんど一か所だけで展開されるし、時間もわずか一晩のこと。『 キサラギ 』を楽しめたという人なら、チケットを買って損はない(『 キサラギ 』の方が面白さという点では上だろうけれど)。

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ネガティブ・サイド

これだけの演技派をそろえたのだから、アンサンブル・キャストに徹してほしかった。明らかに木南晴夏のスクリーン・タイムは短かったように感じる。もちろん、魂の絶叫や意外なところからのメール受信など見せ場はあったが、ゲームの言い出しっぺであるためか、他キャラよりも目立たなかった。

 

鈴木保奈美と益岡徹の夫婦仲の崩壊とそこからの回復は、なんというか非常にシラケるものだった。木南晴夏にも突っ込まれていたが、良い話でも何でもない。そもそも精神科医の妻が、「夫が自分に話してくれないことがある!」と憤慨するのがおかしい。話の内容ではなく、話さないという態度などから鑑別(別に病気ではないが)していくというプロフェッショナルな姿勢が見られなかった。他のキャラが仕事をネタにした話をする、あるいは職務で身に着いた喋りや振る舞いを見せているだけに、鈴木保奈美のキャラだけはもう少し深掘りができたのではないかと思ってしまった。

 

益岡徹が最後に種明かし的に語り始めるパートもノイズだった。おそらくこの部分が日本版リメイクで付け加えられた部分なのだろう。序中盤でちらっと見せられていたガジェットや、各キャラの発する伏線となる台詞を丁寧に説明したくなるのは分かるが、これはミステリではなくシチュエーション・コメディ。もっとスパッと説明するか、あるいは回想シーンにしてしまっても良かった。引っかかるのは「11月下旬に台風が本州、しかも関東にやってきて、建物の3階まで浸水するような大雨を降らせるか?」という疑問である。まあ、深く考えては負けなのだろう。

 

総評

突出した面白さがあるわけではないが、かといってチケット代を損したなどという気分にはならない。Jovianと同世代なら、すっかりmilfyになった常盤貴子目当てで劇場を訪れるのも良いだろう。誰と一緒に観に行くかで感想が変わるかもしれない。そうそう、一つだけアドバイスするが、ファミリーで見に行ってはいけない。直接的なラブシーンなどはないが、気まずくなること請け合いである。子どもが小学生ぐらいなら、質問攻めにされることだろう。タイトル通り、「おとな」が楽しむ作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You’ve got mail.

「あなたはメールを受け取りました」の意。劇中でメールを受信するたびにスマホがこのように喋ってくれる。トム・ハンクスとメグ・ライアンの『 ユー・ガット・メール 』の原題も“You’ve Got Mail”である。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, コメディ, 常盤貴子, 日本, 東山紀之, 監督:光野道夫, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 おとなの事情 スマホをのぞいたら 』 -平均的なコメディ-

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