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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 ビバリウム 』 -それでもマイホーム買いますか?-

Posted on 2021年3月14日 by cool-jupiter

ビバリウム 55点
2021年3月13日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:イモージェン・プーツ ジェシー・アイゼンバーグ
監督:ロルカン・フィネガン

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トレイラーを観ただけで好みの作風と判断。『 エスケープ・ルーム 』や『 迷宮物語 』のような、非現実的な領域に迷い込んでしまう話が好きなのである。

 

あらすじ

教師のジェマ(イモージェン・プーツ)と庭師のトム(ジェシー・アイゼンバーグ)は、二人で住む家を探して不動産屋へ。ヨンダーという郊外の住宅地で内見をするが、住宅地から抜け出せなくなってしまう。そして「育てれば解放する」というメッセージと共に謎の赤ん坊が届けられて・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210314022522j:plain
 

ポジティブ・サイド

冒頭のEstablishing Shotが奮っている。托卵の結果、カッコウの雛は他の卵を落とし、さらには雛も落とし、自分だけぬくぬくと他人(他鳥?)に育ててもらう。このショットが適切かどうかは別にして、それが自然の摂理であるということは強く伝わってきた。

 

育てることになった子どもが上げる奇声の不穏なことと言ったらない。神経を逆撫でする声である。ジェマの台詞に“I’ve never heard such perfect silence”(こんな完璧な静寂、聞いたことがない)というものがあったが、こんな空間でこんな声聞かされたらノイローゼになること必定である。この子(Itと呼ぶべきか)の不気味さを増す要素に、ジェマとトムの言葉をオウム返しする習性が挙げられる。そりゃトムも壊れるわな・・・ 『 光る眼 』や『 アンダー・ザ・スキン 』のような、変則的な侵略SFが好きな向きは本作も問題なく楽しめることだろう。

 

という見方がオーソドックスだろうか。

 

もう一つの見方は、本作はマイホーム購入後の人生をカリカチュアライズしているのではないかというもの。元々、子どもなんていうものはエイリアンみたいなもの。母親の体液をチューチューと啜って成長する生き物、と書けば哺乳類全体がいきなりヤバい生物に感じられるが、事実はそうなのである。親のすねかじりこそがある程度の高等生物の本質なのではないか。

 

本作の子どもの振る舞いを見れば、子育てがどれだけ大変かが分かる。腹が減るたびにギャーギャーと泣き喚き、親の言葉をオウム返しするのも言語を獲得する過程の一部に過ぎない。成長すれば深夜まで訳の分からんテレビを観るのに没頭して、外ではどこで誰と何をやっているのか分からない。Z世代というのは個性を重視すると言われるが、全世界的に観ても今の30代後半以上の世代は、恋愛にせよ仕事にせよ、何らかの「モデル」(その多くは小説や映画、テレビドラマや企業の商品CM)を良い意味でも悪い意味でも押し付けられてきた。ロルカン・フィネガン監督はJovianと同世代。そんな彼が現代の子育て事情を目の当たりにして、「俺たちが何を育てさせられているんだ?」という問題意識に基づいて作ったのが本作なのではないだろうか。

 

ネガティブ・サイド

ストーリーに二転三転がない。グッド・エンドであれ、バッド・エンドであれ、途中で適度に上げたり落としたりするべきだろう。タバコのポイ捨てによって、何か突破口が広がりそうに予感させるが、それをトムがジェマに見せる。それによってわずかな希望が生まれる。あるいは、トムがタバコをポイ捨てして見せるが、芝生に変化なし。ジェマはトムを少し信用できなくなる、といった演出も可能だったはずだ。

 

あと、これはカッコウの托卵とは構図が真逆ではないか?どちらかというと、サムライアリとクロヤマアリの関係に近いと思う。なんらかのミスリードなのかなとも思ったが、そうでもないようだ。人間という生き物の性質と托卵戦略を取る外的侵略種の狭間の物語であることを強調するなら、もう少し別の見せ方もあったように思う。

 

ジェシー・アイゼンバーグの見せ場が少なかった。それこそ得意のマシンガントークをかまして、それを子どもがひたすら真似するというシーンがあれば、子どもの気味の悪さも一層際立ったことだろう。

 

総評

公開直後ということもあり劇場はかなりの入りだったが、特に若いカップルが目立った。はっきり言ってデートムービーには向かない。人によっては本作をホラーに分類するかもしれない。子育て真っ最中の人にもお勧めはしづらい。子育て一段落の世代なら、適度な距離感で鑑賞できるものと思われる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ium

プラネタリウムやアトリウム、シンポジウムなど、iumで終わる英単語は日本語になっているものも多い。意味は「場所」である。サナトリウム=sanatoriumは療養所だし、スタジアム=stadiumはスポーツファンにはお馴染みだろう。ビバリウム=vivariumは「生きる場所」の意味で、辞書的には動植物飼養場となるらしい。「ビバ」と聞いて万歳=Long live!だとつなげて考えられれば、本作のストーリーも腑に落ちるのではないか。語彙素の知識は不可欠とは思わないが、知っておいて損になることはまずない。ちなみにプレステで『 シーマン 』をプレーしていたJovianと同世代または上の世代は、ビバリウムという言葉自体には聞き覚えがあるはず。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アイルランド, イモージェン・プーツ, ジェシー・アイゼンバーグ, スリラー, デンマーク, ベルギー, 監督:ロルカン・フィネガン, 配給会社:パルコ

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