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『図書館戦争 THE LAST MISSION』 -この恐るべき想像のパラレルワールドでいかに生きるか-

Posted on 2018年6月18日2020年2月13日 by cool-jupiter

図書館戦争 THE LAST MISSION 55点

2015年10月18日 大阪ステーションシネマおよびWOWOWにて観賞
出演:岡田准一 榮倉奈々 松坂桃李
監督:佐藤信介

*『図書館戦争』および本作に関するネタバレあり

 子どもたちのために有害図書を追放する。耳障りは確かに良い。だが、例えばごく最近の新幹線内での無差別殺傷事件の犯人が読んでいた本がハイデガーやドストエフスキーだったということに対して、識者からは特に何も聞こえてこない、少なくとも宮崎勤事件の時のような欺瞞と偏見に満ちたようなコメントは。

前作が追求したテーマが思想の対立であったとすれば、今作が追求するテーマは対立を解消するために思想を捨てられるか、ということだ。言い換えれば、命と信念、どちらをより大切に感じるのかということでもある。3秒以内にどちらかを選べ、と言われればたいていの人は「命」を選ぶのではないか。だが、ちょっと待て。人類の歴史、なかんずく戦争という視点から見れば、人間は命よりも大切なものをずいぶんとたくさん見出してきたようである。「命より大切なものがあるというのが戦争を始める口実で、命より大切なものは無いというのが戦争を終える口実」というのは誰の言葉だったか。けだし本質を突いた言葉であろう。本作で図書隊タスクフォースの面々は、本を読む自由、思想の自由、検閲に対抗するための力の存在の必要性のために勇敢に戦う。だが図書隊員の中には、命よりも尊い守るべき価値のあるものに対して疑念を抱くものがいた。そしてそれは元図書隊エリートにして現文科省職員、そして手塚(福士蒼汰)の兄(松坂桃李)の思惑によるもので、彼の次なる狙いの矛先は笠原(榮倉奈々)へと向かい・・・

相変わらず現実の日本社会と乖離した世界が物語世界では展開されている。しかし、笑えないのはその現実離れの度合いではなく、その現実離れが映し出す現実の残酷さ、冷酷さである。前作のフィナーレは、メディア良化委員会と図書隊の戦闘の様子が遂にメディアで大々的に報じられ、国民の関心が検閲を可能にしたメディア良化法に厳しく向けられる可能性を示唆するものだった。だが続編たる今作では、またも国民は図書隊の闘いに無関心であった。そしてそれは現実の日本に生きる我々にも当てはまってしまうことではないのか。国会で議論が尽くされていない自衛隊のイラク・サマワ派兵(派遣ではなく派兵と書くしかない)に関して、また南スーダン派兵に関しても現地で戦闘行為があったことは、もはや隠しようの無い事実である。そしてそのことがどうして斯くの如く長期に隠蔽されてきたのか。それは結局、国民が無関心だったからに他ならない。記者会見でアホのように泣き喚いた兵庫県西宮市の市議会議員が、政務活動費を不正にじゃんじゃん使いまくれたのはなぜか。そして彼以降、メディアや市民が目を光らさせたことで同様の問題が激減したのはなぜか(もちろんその過程で10人以上が辞職せざるを得なかった富山市議会のような自治体も出てきたが)。

大切だと思えることを必死で守ろうとする。それを実行に移せることこそが自由なのではないか。笠原が任務を全うしようと走るのは、自らの思想信条のためではなく、愛する堂上(岡田准一)のためであり、仲間のためであろう。思想と命、どちらを選ぶのが正解なのかではなく、どちらを選ぶにしろ、その選択が自由意思によって為されることが真に大切なのではないかと思う。哲学者のE・カントは自由を「先立つ一切の前提に囚われないこと」と定義した。与えられた選択肢以外を選ぶ者がいてもよいではないか。そうしたテーマ性を感じさせてくれた佳作である。

ひとつ不満に思えるのは、岡田准一と松坂桃李の対面シーン。「直接来い」という岡田の挑発に「兵隊は辞めました」という松坂。もちろんここで観る者は「ははーん、そんなことを言いながらも、最後はこの2人の一騎打ちか」と期待する。しかし、そんな展開は訪れなかった。残念至極である。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, アクション, ラブロマンス, 日本, 松坂桃李, 榮倉奈々, 監督:佐藤信介, 配給会社:東宝

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