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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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『 ヴィレッジ 』 -ムラ社会のダークサイド-

Posted on 2023年4月23日 by cool-jupiter

ヴィレッジ 75点
2023年4月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:横浜流星 黒木華
監督:藤井道人

藤井道人監督ということでチケット購入。

 

あらすじ

片山優(横浜流星)は、死んだ父の犯した罪と母親の借金のために、故郷の霞門村で肩身を狭くして生きていた。ある日、ゴミ処理場で働く優は、東京から帰ってきた昔馴染みの美咲(黒木花)と再会することになり・・・

ポジティブ・サイド

能の場面、そして『 三度目の殺人 』を彷彿させる火から始まるオープニングに、剣呑な空気が充満している。

 

村で生きる優の能面のような表情と、その内に封じ込められた激情の対比が序盤と中盤の分かれ目。霞門村のシステムに取り込まれることで豊かな表情を取り戻していく優の姿に、観る側は非常にアンビバレントな気持ちにさせられる。

 

この「閉鎖社会から出ていこうにも出ていけない」あるいは「出ていったはいいものの、結局帰って来るしかなかった」というジレンマは、大都市の人間には分からないのではないか。過去数十年の日本の行政の地方創生戦略が機能したためしがないのは、都市の人間がムラに関する施策を決定するという構図が原因ではないか。地方に交付金やら補助金やらを恵んでやる一方で、ゴミ処理場や原子力発電所などを押し付けるのは大きな間違いだったということは、過去10年を見れば分かることだ。

 

Jovianは霞門村ほどのド田舎に住んだことはないが、それでも30年以上前に住んでいたO県B市ぐらいの田舎だと、同級生だった市長の孫が中学校でむちゃくちゃデカい面していて、教師も腫れ物に触れるような扱いをしていたものだった。その市長の苗字が、本作の村長と同じで笑ってしまった。こういう閉鎖社会の権力者とその一族あるいは取り巻きは、その依って立つ基盤が砂上の楼閣とはいえども、周囲に多大な影響力を行使することはある。その点を藤井道人はよくよく見抜いている、あるいは取材しているなと感じた。

 

横浜流星以外で目立った役者は一ノ瀬ワタル。『 宮本から君へ 』同様の暴力キャラが良く似合う。「この村にはハラスメントなんか存在しねえ」という台詞はリアルだった。仕事で奈良や滋賀のかなりの田舎の学校にまで教えに行くこともあるが、そうしたところはコロナ禍真っただ中でも隣近所の人間とノーマスクで話していることなどザラだった。中央や都市部があーだこーだ言っても、本当の田舎は大昔から何も変わらないものである。

 

環境センターという昼の顔と不法投棄現場という夜の顔が、そのまま村および村民たちの二面性になっているのが興味深い。エンドロール後のラストショットに仮託されているのは、希望なのか絶望なのか。それは是非、自身の目で確かめて頂きたい。

 

ネガティブ・サイド

中村獅童演じる刑事が無能すぎる。杉本哲太演じるヤクザも無能すぎる。ここら辺のキャラにはリアリティが欠けていた。

 

最大のツッコミどころは「そこにそれを捨てるか?」というものと、「なんでそれを破壊しないの?」というもの。後者はクラウドが云々かんぬんというのがあるかもしれないが、前者についてはお粗末すぎる。『 藁にもすがる獣たち 』を見習えと言いたい。

 

総評

『 デイアンドナイト 』と同工異曲の秀作。共同体の伝統を壊そうとする者は排除するか、あるいは共同体に取り込んでしまうのが日本社会のお家芸。つまりはダイバーシティなどというものはお題目に過ぎないのだ。自国の闇をエンタメに仕上げられるのは、問題意識とクリエイター意識の両方を併せ持った人。藤井道人は邦画界に置ける数少ないそのような作り手の一人、かつ第一人者だろう。ぜひ鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

History repeats itself.

歴史は繰り返す、の意。優の父の犯した罪や、村長の「そうやってこの村は続いてきたんだ」という発言が印象的。歴史はいつでもどこでも繰り返されるものだが、日本の地方は特にその傾向が強いようである。History has repeated itself. や Will history repeat itself? のようにも使うことがある。英語中級者なら既に知っている表現だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・ホエール 』
『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』
『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, 日本, 横浜流星, 監督:藤井道人, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:スターサンズ, 黒木華Leave a Comment on 『 ヴィレッジ 』 -ムラ社会のダークサイド-

『 search #サーチ2 』 -珠玉のスリラー-

Posted on 2023年4月21日 by cool-jupiter

search #サーチ2 75点
2023年4月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ストーム・リード
監督:ウィル・メリック ニック・ジョンソン

簡易レビュー。

 

あらすじ

ジューン(ストーム・リード)は、恋人とコロンビア旅行に出かけた母が予定日に帰国しないことから、犯罪に巻き込まれたことを危惧し、連邦警察に連絡する。一方でジューンはSNSや各種ネットの情報を使い独自に母を探そうとするが・・・

ポジティブ・サイド

『 search サーチ 』の続編的な作品。正直なところ、同じ手法でもう一度びっくりさせるのは無理だろうと思っていたが、こちら側のそうした予想を軽く超えてきた。

 

コロナ禍で一気に浸透したZoomやGoogle Meetのおかげで、PC画面上で様々な事象が展開されることに全く違和感を覚えなくなった。前作は今思えば、少々強引な自宅内のショットや音声もあったが、今作のPCカメラ映像や音声には不自然なところは一切ない。

 

人間、誰でも秘密を抱えているもの。本作はPCからあらゆるサービスやサイトに侵入していき、様々なキャラの秘密が次々に明かされていく。『 スマホを落としただけなのに 』とは比較にならないサスペンスだ。

 

そんな中でも現地コロンビアの協力者ハビエルがすごく良い人。ネットの先にこそリアルな人間関係がある。

 

ネガティブ・サイド

大活躍のGoogle様だが、普段使っていないデバイスからアクセスされると本人に通知が行くはずだが。ジューンがあそこまで好き勝手できたことに「Google、仕事しろ」と思ってしまった。

 

いくらコロンビアでも、あそこで発砲するか?ここも納得いかなかった。

 

総評

『 search サーチ 』に負けず劣らずの秀作。form は同じながら、content をガラリと変えてきた。あまり書くとネタバレになってしまうが、前作を見た人ほど製作者側の思惑に引っかかってしまうのではないだろうか。Jovianはかなり早い段階で「ああ、黒幕はこいつだろうな」と目星をつけて大失敗。いやはや、こういう感覚は何度味わっても楽しい。本作から鑑賞して、前作に行くのも可能。今春の見逃すべからざる逸品だ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

itinerary

アイティネラリィと発音する。TOEICに頻出する語で、意味は「旅程表」や「旅行の行き先」のこと。普通に実生活でも使うので、ビジネスパーソンならずとも知っておきたい語彙である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヴィレッジ 』
『 ザ・ホエール 』
『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, サスペンス, ストーム・リード, スリラー, ミステリ, 監督:ウィル・メリック, 監督:ニック・ジョンソン, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 search #サーチ2 』 -珠玉のスリラー-

『 JOMON わたしのヴィーナス 』 -芸術性が光る-

Posted on 2023年4月17日 by cool-jupiter

JOMON 私のヴィーナス 70点
2023年4月15日 シアターセブンにて鑑賞
出演:華月 ブレイク・クロフォード
監督:西川文恵

あらすじ

11歳のちひろ(華月)は、縄文時代の土偶を見つける。それを手にしたちひろは、女神が踊るビジョンを見て・・・

 

ポジティブ・サイド

ブレイク・クロフォードのナレーションがいい。とても心地よく耳に馴染む。Chihiro と何度も何度も呼びかけ、語りかける。女神の声のはずなのに、男性をあてるというのもキャスティングの妙か。日本の土偶に宿った女神が英語を話すということに違和感も覚えない。これは凄い。

 

音楽も重低音が効いていて素晴らしい。

 

Jovianは土偶=植物の擬人化説を支持するが、本作にはその最新の知見を盛り込んだと思しきシーンも見られる。

 

豊饒のイメージの黄色から、闇の中で踊る女神のコントラストが映える。踊りそのものに女神の想いが直接的に表現されていた。『 女神の継承 』なテーマも(ホラー要素抜きで)反映されていて面白い。アジア的な価値観が全面に押し出されているが、海外マーケットでも本作は一定の評価を得られそうに思う。

 

ネガティブ・サイド

ちひろの母親が出てきても良かったのでは?西川監督がそれを演じるというアイデアはなかったか。

 

総評

映画は form と content の両面から評価されるべきだが、本作は form の良さが突出している。音楽も映像も、ダンスとナレーションによる物語進行もユニークだ。映画監督で西川と言えば西川美和だが、今後は西川文恵にも注目すべきだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

The Great Mother

心理学で言うところの「母親的なるもの」の意。太母とも呼ばれる、母なる海や母なる星と言うように、母=女=生産力の象徴である。我が職場には産休を取ってから続々復帰する女性従業員が多いが、男は生物学的に女に完全に負けている生き物であると認めざるを得ない。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ブレイク・クロフォード, 日本, 監督:西川文恵, 短編, 華月, 配給会社:movies label willLeave a Comment on 『 JOMON わたしのヴィーナス 』 -芸術性が光る-

『 シャザム! 神々の怒り 』 -少年から大人へ-

Posted on 2023年3月28日 by cool-jupiter

シャザム! 神々の怒り 70点
2023年3月25日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ザカリー・リーバイ アッシャー・エンジェル
監督:デビッド・F・サンドバーグ

簡易レビュー。

 

あらすじ

普通の少年ビリー・バットソン(アッシャー・エンジェル)古代の神々の力を持つヒーロー・シャザム(ザカリー・リーバイ)に変身する力を使って、兄弟たちと街のピンチを救っていた。そんな中、アトラスの娘たちが、かつて父が奪われた力を奪還するために迫ってきて・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭のカリプソとヘスペラの襲来シーンのシリアスさと、その後のシャザムの面々が崩落していく橋から人々を救出していくシーンのコミカルさのコントラストが素晴らしい。ヒーローたちが力を合わせるのではなく、力を合わせないとヒーローになれないというのがシャザムの親しみやすさ。スパイダーマンと言いながら、中身がボーイであるピーター・パーカーに通じるところがある。

 

ハリポタから『 アナイアレイション 全滅領域 』まで、これでもかと色んな作品のパクリオマージュを取り入れている。これぐらい開き直ったほうが清々しい。特にスティーブは、昨今急激に注目を集めているChatGPTを彷彿とさせる。次作にも出番はあるはず。

 

少年から大人へ、居心地の良い家から外の世界へという、ビリーの人生の過渡期と、スーパーヒーローとしてのシャザムの活躍と葛藤が良いバランスで描かれている。最終盤に出てくるゲストは、そのBGMを聞いた瞬間に鳥肌が立った。次作も楽しみだ。

 

ネガティブ・サイド

ユニコーンの活躍がもう少し長く見たかった。

 

ラドンの名前を冠するからには、ラドンらしく超音速飛行ぐらいしてくれないと。もっさりとした飛行はいただけない。

 

DCEUへの本格参戦が決まったようだが、最後の最後がインフォマーシャルにしか見えなかった。シリーズがMCU的にならないことを切に祈る。

 

総評

おバカ映画とシリアス映画のバランスが良い塩梅。『 アクアマン 』と並んで、全く暗くないDCヒーローだ。ヒーローものでありながら、ファミリーものでもある。血のつながり以上のものでつながっているファミリーという描写は近年のトレンドだが、そうした物語はMCUよりもDCUの方が巧みかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

breathe down one’s neck

直訳すれば「首に息を吹きかける」だが、転じて「ずっと見張っている」、「じっと監視している」の意。前の職場の同僚アメリカ人が “〇〇 sensei’s always breathing down my neck.” とぼやいていたなあ。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ロストケア 』
『 マッシブ・タレント 』
『 search #サーチ2 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, アッシャー・エンジェル, アメリカ, ザカリー・リーバイ, 監督:デビッド・F・サンドバーグ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 シャザム! 神々の怒り 』 -少年から大人へ-

『 少女は卒業しない 』 -鮮烈な青春の一瞬-

Posted on 2023年3月12日 by cool-jupiter

少女は卒業しない 70点
2023年3月11日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:河合優実 中井友望 小野莉奈 小宮山莉渚
監督:中川駿

簡易レビュー。

 

あらすじ

廃校と取り壊しが決まっている山梨の高校。山城まなみ(河合優実)、作田詩織(中井友望)神田杏子(小宮山莉渚)、後藤由貴(小野莉奈)は、卒業を目前に控えながら、それぞれに秘めた想いをなかなか形にすることができず・・・

ポジティブ・サイド

キャスト全員がアイドルではなく、ちゃんとした役者である。特に印象に残ったのは作田詩織を演じた中井友望。関西のいくつかの大学で教えることがあるが、こういう子は一定数存在する。ペアワークやグループワークを呼び掛けても無言または無反応。ただし、授業の終わりに講師にちょっとした質問だけをしに来る。藤原季節演じる教師が、また良い味を出している。

 

主役はまなみだろうか。『 佐々木、イン、マイマイン 』以来、彼女の出演作は定期的にチェックしているが、本作でも鮮烈なインパクトを残した。表情や声の使い分けが素晴らしい。ちなみに、まなみの想い人の登場シーンに「ん?」と感じたが、これは非常にフェアな演出。

 

最後は不覚にも森崎という男子生徒に二重の意味で泣かされた。二重というのは「その歌声の美しさ」と「その歌声が駿に届いていた」ことを指す。久々に邦画で well up した気がする。

 

ネガティブ・サイド

場面と場面のつなぎが、やや乱暴なところが見受けられた。4組の男女のオムニバス形式なのだから致し方ないとも言えるが、静寂のシーンから大音量シーンに転換するのはいただけない。もう少し各シーンの余韻を大事にしてほしいものである。

 

やや台詞に頼り過ぎかなと感じた。『 ここは退屈迎えに来て 』の成田凌が「ずっと高校生でいたい」というのと同じ独白を由貴がするのは、なんか違うなと感じた。開花する前の桜の木々を物憂げに見つめる。そんな演出は追求できなかったか。

 

総評

青春映画の秀作。タイトルの『 少女は卒業しない 』というのは、少女時代を忘れないということだろう。男は基本的に全員アホであるため、野郎同士が再会すればすぐに少年に戻ってしまう。『 くれなずめ 』が好例だ。本作は逆に、淡い想いに決着をつけて、前に進んでいく少女たちの物語。劇場で上映している間に、ぜひともチケット購入を!

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

commencement

卒業=graduation で覚えている人も多いと思う。ぜひもう一つ、commencementも押さえてほしい。graduationは卒業に至るまでの過程に重点を置くのに対し、commencementは修了そのもの、さらにそれが含意する「何か新しいことの始まり」も意味する。年配のテニスファンなら、松岡修造が引退会見で「これはコメンスメント、終わりであると同時に始まりである」という趣旨の発言をしたことを覚えておられると思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 湯道 』
『 Winny 』
『 シン・仮面ライダー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, 中井友望, 小宮山莉渚, 小野莉奈, 日本, 河合優実, 監督:中川駿, 配給会社:クロックワークス, 青春Leave a Comment on 『 少女は卒業しない 』 -鮮烈な青春の一瞬-

『 マジック・マイク XXL 』 -青春に別れを告げるロードトリップ-

Posted on 2023年3月4日 by cool-jupiter

マジック・マイク XXL 70点}
2023年3月1日 WOWOW録画にて鑑賞
出演:チャニング・テイタム ドナルド・グローヴァー アンバー・ハード
監督:グレゴリー・ジェイコブズ

『 マジック・マイク 』の続編。やはり『 マジック・マイク ラストダンス 』への備えとして再鑑賞。

 

あらすじ

ストリップの世界からは足を洗い、家具職人として慎ましく生活するマイク(チャニング・テイタム)に、かつての仲間から「ダラスが旅立った」と告げられる。通夜に訪れたマイクだが、ダラスはアダムと共に天国ではなく中国に旅立っていた。一同はそれぞれの人生を歩み始めるために、最後にストリップの大会に参加しようと、マートル・ビーチに向けてロードトリップに出るが・・・

 

ポジティブ・サイド

前作のラストで踊ることを拒否したマイクが、今作では自分の職場でBGMに乗せられて不意に踊りだす。家具職人として汗水たらして働きながらも、マイクはやっぱりマジック・マイクだった。ストリッパー、本作の言葉を借りれば男性エンターテイナーとしての残り火が残っていた。夜の世界で1ドル札の雨を降らすのではなく、昼間の世界でこつこつと働く。その姿に我々はホッとすると同時に、ちょっぴりガッカリもさせられる。誰もが大人にならなければならないが、青春と決別するのはなかなかに難しい。本作は、マイクだけではなく、かつての仲間たちすべてが青春に別れを告げる物語である。

 

フローズン・ヨーグルトを売って生計を立てるティトに、芸能プロダクションに履歴書を送りまくるケンなど、前作でそれほどフォーカスされなかった個性豊かなキャラたちの背景が見えてくる。また、ロードトリップの中でマイクと各キャラが個別に話していく中で、彼らの関係についても様々な側面が見えてくる。じっくり話したことはなかったが、実は互いに深くリスペクトしていたことが分かったり、実はわだかまりを抱いていることが判明したりと、陽キャは陽キャで色々あったんだなと感じる。

 

旅の途中で出会う人々も、それぞれにドラマがある。仏頂面のコンビニ店員を「お前のダンスで笑顔にしろ、それができれば新作ダンスだって生み出せる!」というマイクの力強い提案と、それに乗ったリッチーがバックストリートボーイズの ”I Want It That Way.” を背景に披露する渾身のダンスが本作の見どころの一つ。また、一晩泊めてもらうことになる家で、マダム達の様々な悩みに耳を傾け、励ましの言葉を掛けて、自己効力感を与えるシークエンスもハイライトの一つ。ダラスとアダムは金のために中国へ行ってしまったが、マイクをはじめ残された面々は、自分たちが癒しを提供する存在であったことに気付いていく。

 

マートル・ビーチの大会で踊ったからとて、何かが劇的に変わるわけではない。結婚を夢見たり、妻子のいる生活に憧れたり、堅実な職業を得ようとしたり、あるいは華々しい芸能の世界にしがみつこうとしたり、進路は様々だ。そう、進路。つまり、大学生が院に進んだり、あるいは就職したり、ニートになったりと、色々あるが、マイクとその仲間たちは派手なバカ騒ぎをすることで、モラトリアムの終わりを受け入れたのだ。今回のロードトリップは彼らなりの卒業旅行なのだ。

 

ラストのステージ・パフォーマンスは圧倒的。Jovianが自分の結婚式で使ったブルーノ・マーズの “Marry You” をドナルド・グローヴァーが歌うシーンが個人的には最も盛り上がった。マイクが道中で知り合ったストリッパー仲間と最後に見せるパフォーマンスも圧巻。最後に打ち上げた大きな花火は、彼らの旅の終わりを締め括るにふさわしい。歳をとってから思い起こして、ふっと笑うことができる。そうした瞬間を持つことが青春の醍醐味だし、そうした瞬間を共有できる仲間を戦友と呼ぶのだろう。

 

ネガティブ・サイド

トバイアスが事故で out となってしまったために、急遽、マイクの古い伝手でローマにMCを頼むことになる。そこは良いとして、そのローマのMCがそれほどシャープだとは感じられない。レディをクイーンと言い換えるぐらいで、何か特別にMCの才能があるようには感じられなかった。これなら前作のマシュー・マコノヒー演じるダラスの方が遥かにMCとしては上だろう。”All right, all right, all right.” だけでその場の空気を全て自分色に染め上げるマシュー・マコノヒーのオーラを上回るような決め台詞を用意すべきだった。

 

あとは、ほんの少しでいいのでブルックの出番も欲しかった。ケリー・マクギリスは『 トップガン マーヴェリック 』にとても出演できないと自己判断したそうだが、コディ・ホーンはギャラで揉めたりしたのだろうか。

 

総評

青春との盛大な決別、そのほろ苦さが存分に味わえる。一方で、修学旅行的な楽しさもある。ロードムービーとしても青春映画としても、非常に良い仕上がりになっている。女性のみならず、30代以上の男性も、本作を通じて自分の人生を見つめ直すことができる。もちろん単純に男性ストリッパーが大いに羽目を外す映画として観賞しても構わない。むしろ、若い世代はそういう見方をすべきかもしれない。そこから10年後に本作を観ることで、自らの成長や成熟を感じることもあるだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ride

仮面ライダーのライダーは ride から来ている。意味は「乗る」だが、これは名詞。劇中ではしばしば last ride という形で使われていた。プロレスラーのアンダーテイカーの決め技の一つだが、実際は You’re in for a ride. の ride に「最後の」の last がついたもの。ride には「何か楽しいこと、エキサイティングなこと」という意味もある。 マイクたちの言う our last ride というのは、みんなでやる最後のバカ騒ぎ的な意味なのだ。 

 

次に劇症鑑賞したい映画

『 シャイロックの子供たち 』
『 マジック・マイク ラストダンス 』
『 湯道 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, アンバー・ハード, チャニング・テイタム, ドナルド・グローヴァー, 監督:グレゴリー・ジェイコブズ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画, 青春Leave a Comment on 『 マジック・マイク XXL 』 -青春に別れを告げるロードトリップ-

『 マジック・マイク 』 -自分探しの青春映画-

Posted on 2023年3月2日 by cool-jupiter

マジック・マイク 70点
2023年2月28日 WOWOW録画にて鑑賞
出演:チャニング・テイタム マシュー・マコノヒー アレックス・ペティファー コディ・ホーン
監督:スティーブン・ソダーバーグ

『 マジック・マイク ラストダンス 』の予習のために再鑑賞。

 

あらすじ

日雇いの現場仕事をしているマイク(チャニング・テイタム)は現場でアダム(アレックス・ペティファー)と知り合う。ストリッパーとして働くマイクは、クラブで偶然、アダムと出会い、自分のクラブに引き入れる。アダムはそこで思わぬ才能を見せ、頭角を現わしていく。一方、マイクはアダムの姉のブルック(コディ・ホーン)と知り合い、自分の夢について真剣に考えるようになっていき・・・

 

ポジティブ・サイド

ダンスシーンがどれもキレッキレ。チャニング・テイタムの athleticism はハリウッドでも随一だろう。『 トップガン マーヴェリック 』のBlu rayを無造作に再生していることが多いが、OneRepublic の ”I Ain’t Worried” をBGMに皆がビーチでフットボールするシーンになると、Jovian妻は「サービスシーン?」と言って、そこだけ観に来る。

 

マシュー・マコノヒーがクラブのオーナーとして圧倒的な存在感を放っている。脳内麻薬ドバドバ状態で、ジムでアダムにストリップのあれこれを指南する様は本作のハイライトの一つ。そのアダムが、何もせず、ただ夢物語にうつつを抜かす若造だったのが、ストリップによって自信をつけて、行動が変わっていく。これも一つの青春だろう。対照的に、アダムを引き入れたマイクは、徐々に自分の本当にやりたい仕事、家具の制作と販売を実現するために、銀行に融資を申し込む。しかし悲しいかな、現金収入しかないために銀行の信用が得られず、融資は得られず。夢を実現させたいのに、現実がそこに立ちはだかる。これも一つの青春の形か。

 

そう、本作は陽キャの男性ストリッパーたちがヒャッハーする青春映画であると同時に、「若く美しい時期は永遠には続かない」という現実と折り合いをつけようとするタイプの青春映画でもある。日本でもモラトリアム期間がどんどん長くなっているが、それはアメリカでも同じらしい。若さは無敵の武器になりうるが、失ってしまうと「ただの人」になってしまう。この事実を受け入れるのは結構難しい。いつまでも自分を「若い」と思い込んで、気が付けば会社の後輩たちから眉を顰められている、というオッサン連中はJovian含め日本に軽く数十万人はいるだろう。

 

それにしてもマイク、良い人すぎるなあ。アダムが若気の無分別で盛大にやらかした後も、兄貴分としてしっかりフォロー。そのことを知らないブルックに厳しいことを言われても、ぐっと飲み込んで反論しない。男やで。

 

マイアミに旅立つ直前に、マイクがブルックに吐露する”It’s what I do, but it’s not who I am.” =「あれは俺の仕事だが、俺の人格じゃない」というのは、『 トップガン マーヴェリック 』でマーヴェリックが”I’m a fighter pilot, a naval aviator. It’s not what I am. It’s who I am.” =「僕は戦闘機パイロットで海軍の飛行機乗りだ。それは職業じゃなくて、僕そのものだ」というセリフと対になっている。マーヴェリックは自己実現を果たしているが、マイクはまだなのだ。この自分になるということ、(英語ではしばしば Be you. と言う)その過程での成功や失敗を描く映画が青春ジャンルに入るのだろうが、本作はそれを男性ストリッパーの視点から描いたところがユニーク。女性はもちろん、男性にも勧められる。オッサンなら更に良し。何者かになろうともがく若者の姿は、それだけで尊く美しい。 

 

ネガティブ・サイド

マイク、アダム、ダラス以外のストリッパー連中の描写がアンバランスだった。ターザンは最初にアダムをからかうところだけ、ケンは自分の奥さんのおっぱいを触らせようとするところぐらいか。せっかくなら個性的な脇役連中にも、もう少しスポットライトを当ててほしかった(だからこそ続編があるのだろうが)。

 

ブルックが病院で働くシーンが少しあっても良かったのではないか。夜のクラブで浮世の憂さを晴らす女性たちがいる一方で、自分の仕事や人生、他者や社会にしっかり向き合っている女性がいる。ブルックは後者である、という描写があれば、マイクの生き方とのコントラストが際立ったものと思う。

 

総評

久しぶりに観たが面白い。一時期、『 ドン・ジョン 』とこれをBGM代わりに再生していた時期もあったが、不惑を過ぎて再鑑賞することで、マイクたちの刹那的な生き方の裏にある、確たる人生を掴めるのかどうか分からないという不安や苦悩により強く共感できるようになった。ジャニーズに忖度せず、とことん追い込んで指導・演出できる監督と良い脚本があれば、ジャニタレでリメイクしても良いのでは?無理か・・・

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

My hands are tied.

マイクが融資を頼んだ銀行員の台詞。直訳すれば「私の両手は縛られている」だが、実際の意味は「私には何もできない」、「私にできることはない」のような感じか。『 グレイテスト・ショーマン 』の “Rewrite The Stars” の歌詞の最後はこれである。 仕事などで自分にできることがなくなってしまった時、My hands are tied. と言ってみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』
『 マジック・マイク ラストダンス 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, アレックス・ペティファー, コディ・ホーン, チャニング・テイタム, マシュー・マコノヒー, 監督:スティーブン・ソダーバーグ, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ, 配給会社:ブロードメディア・スタジオ, 青春Leave a Comment on 『 マジック・マイク 』 -自分探しの青春映画-

『 別れる決心 』 -歪んだ純愛-

Posted on 2023年2月23日 by cool-jupiter

別れる決心 70点
2023年2月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:パク・ヘイル タン・ウェイ
監督:パク・チャヌク

大学の追試や試験代替課題の採点と新年度の準備と研修ラッシュ。ここから1か月半はまさに繁忙期。しばらく簡易レビュー続きになるか。

 

あらすじ

刑事ヘジュン(パク・ヘイル)は、ある男性が山頂から転落死した事件を捜査していた。殺人の可能性を見出したヘジュンは、男性の妻ソレ(タン・ウェイ)に疑惑の眼差しを向ける。しかし彼女にはアリバイがあった。捜査を進めるうちに、強くしなやかに生きるソレに、ヘジュンは徐々に惹かれていき・・・

ポジティブ・サイド

タン・ウェイの妖艶さに尽きる。別にきわどい露出や激しいラブシーンがあるわけではないが(ヘジュンと奥さんのセックスシーンはある)、その femme fatal ぶりには魅了されざるを得ない。理解したいのに理解できない。いや、理解できるが間接的にしか理解できないという刑事ヘジュンと容疑者ソレの距離感が絶妙。時に使用されるスマホの翻訳機能が二人の間の越えがたい、しかし超えられないことはないという壁を象徴している。

 

パク・チャヌクといえば『 オールド・ボーイ 』のようなエロスとバイオレンスが持ち味。しかし、本作のエロスは実に控えめ。バイオレンスなシーンもあるにはあるが、青あざと流血に彩られるようなものでもない。ヘジュンが捜査のために一方的に室内のソレを覗くシーンの演出は見事だった。こうやって、いつの間にか容疑者に同化してしまう、というのは実際にありえそうに感じた。

 

誰かが死ねば、あの刑事がやって来る。あるいは、何らかの謎さえあれば、あの男はやってくる。これをサイコパスの思考と見るか、それとも究極の愛情と見るか。セックスする相手を愛しているのか、それとも愛しているからこそセックスしないのか。様々な問いが渦巻く中、女たちは別れる決心をする。なんとも苦みと深みのある作品だった。

 

ネガティブ・サイド

実質的に二部作的な構成になっているが、これをもうちょっと縮めて2時間ちょうどにはできなかったか。

 

殺人事件そのものの捜査の描写が弱い。ヘジュンが捜査に憑りつかれているのは分かるが、客観的に見て「警部、ちょっとおかしいですよ」と言ってくれるキャラが後半になってはじめて現れるのには違和感を覚えた。

 

総評

韓国映画らしいと言えば韓国映画らしいが、パク・チャヌク映画らしいかと言われれば、あまりそうではない。それでも、巨匠の新境地と言うか、見せないことで想像力を刺激する、あるいは直接的にではなくシンボルを通じて見せるという手法に唸らされることが多かった。もう少しコンパクトにまとめられていれば、韓国映画ファン以外にも勧められる。逆に言えば、韓国映画ファンならばチケット代の価値は十分に得られる。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヨボ

韓国映画ではしばしば夫婦が互いに「ヨボ」と言って呼びかける。日本語で言うところの「あなた」や「なあ」などに当たるらしい。劇中のヘジュンが時々発する言葉だが、この言葉ひとつで距離感が近くなったり遠くなったり感じるのだから、人間関係、就中、夫婦の関係というものは難しい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エゴイスト 』
『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, タン・ウェイ, パク・ヘイル, ラブロマンス, 監督:パク・チャヌク, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオ, 韓国Leave a Comment on 『 別れる決心 』 -歪んだ純愛-

『 対峙 』 -緊迫の対話劇-

Posted on 2023年2月20日 by cool-jupiter

対峙 75点
2023年2月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェイソン・アイザックス マーサ・プリンプトン リード・バーニー アン・ダウド
監督:フラン・クランツ

日本は犯罪者だけではなく、その家族にも異様に厳しいが、犯罪大国アメリカはそのあたりどうなのか。本作は非常に緊迫感のある対話劇であった。

 

あらすじ

高校生による銃乱射事件が発生。多くの生徒が死亡し、犯人も図書室で自らを撃って死亡した。事件から数年後、被害者の息子の父ジェイ(ジェイソン・アイザックス)と母ゲイル(マーサ・プリンプトン)はセラピストの勧めにより、とある教会で加害者の父リチャード(リード・バーニー)と母リンダ(アン・ダウド)と出会い、対話を持つことに・・・

ポジティブ・サイド

4人の親たちの台詞のみが部屋に響く。そこに派手な効果音や観る側の情緒を揺さぶるようなBGMは一切ない。これにより、ドキュメンタリー的な作品とは一味違うリアリティのある作品に仕上がっている。カメラワークも、序盤はひたすら定点カメラからの映像で、ここはドキュメンタリー的に感じる。しかし、終盤からは手振れのあるカメラワークとなり、まるで観ている自分もその場にいるかのように感じさせられた。

 

肝心のストーリーはどうか。非常に珍しい。低予算映画ほど台詞だらけになりがちだが、本作は演じる役者たちが、言葉に魂を乗せている。愛する者を失った者の悲嘆や、理不尽な死に対する怒りなどが、観客に存分に伝わってくる。

 

本作の特徴として「見せない」ということが挙げられる。数々の写真のやりとりがなされるが、どれ一枚として映されることはない。また、悲惨極まりない銃乱射事件やその余波についても大いに語られるが、回想シーンも全くない。本作は観る側の想像力を信頼している。それは、そのまま「あなたが被害者の親になったとしたら?」、「あなたが加害者の親になったとしたら?」という問いにつながっている。

 

この被害者の両親と加害者の両親が出会い、言葉を交わすことの意味とは何か。ここで対峙する彼ら彼女らの言葉について語るのは無粋だろう。なので、ちょっと違う角度から。本作の原題は Mass である。これは日本語で「ミサ」の意。Jovianは一応、国際基督教大学で宗教学(といってもキリスト教ではなく古代東洋思想史だったが)を専攻していたし、先輩後輩同級生にはキリスト者がたくさんいたし、そんな学生やOYRと呼ばれる留学生たちとミサに出たこともある。ミサとはめちゃくちゃ分かりやすく言うと、人間関係の完成である。

 

キリスト教の教えの一つに「汝の敵を愛せ」というものがある(余談だが、国際基督教大学から割りと近い府中市には「酒は人類の敵である。汝の敵を愛せ」という看板を掲げた酒屋があった)。もちろん、劇中で誰かが Love your enemies などと言うわけではない。しかし、舞台が教会でタイトルが「ミサ」ということは、本作が提示するひとつの結論は融和であると言える。馴染みのある人は多くないかもしれないが、本作を鑑賞する際はキリスト教的価値観を少しだけ意識してみてほしい。

 

ネガティブ・サイド

オチが弱いというか、アメリカ人的な死生観というか人生観というか、そういったものは結局『 ウインド・リバー 』で開陳されたものと何一つ変わらない。結局のところ、アメリカ人の精神に刻まれた陰影の濃さは、昔も今もあまり変わらないということなのだろう。

 

序盤のジェイとゲイルの車内の会話はカットしてよかった。同様に最後の最後にリンダによって語られるエピソードも不要であると感じた。見せないことで想像させる手法を貫いたのだから、語らないことで想像させる手法も貫くべきだった。

 

総評

非常にユニークな作品。ひたすら語りで進んでいくが、その言葉の一つひとつが非常に重い。まるで舞台劇を観ているかのように感じられる。日本をはじめとする東洋では、個人の罪によって三族皆殺しがありうる。過激極まりない考え方だが、この思想は現代にも残っている。高畑淳子がとっくに成人した息子の犯罪でコテンパンに叩かれたのは記憶に新しい。家族が犯罪加害者になってしまった、あるいは犯罪被害者になってしまった時、自分は何に、どのように向き合うべきなのか。それを示唆する、非常に現代的な作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

in hindsight

「今にして思えば」、「後から思い起こしてみると」のような意味。ほぼ同じ意味の表現として in retrospect もあるが、こちらの方が少しフォーマルな印象がある。英語中級者なら知っておきたい表現。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エゴイスト 』
『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, アン・ダウド, サスペンス, ジェイソン・アイザックス, ヒューマンドラマ, マーサ・プリンプトン, リード・バーニー, 監督:フラン・クランツ, 配給会社:トランスフォーマーLeave a Comment on 『 対峙 』 -緊迫の対話劇-

『 イニシェリン島の精霊 』 -内戦の擬人化劇-

Posted on 2023年2月13日 by cool-jupiter

イニシェリン島の精霊 75点
2023年2月11日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:コリン・ファレル ブレンダン・グリーソン ケリー・コンドン バリー・コーガン
監督:マーティン・マクドナー

カナダ人元同僚が絶賛していたのでチケットを購入。『 スリー・ビルボード 』には及ばないが、佳作であると言える。

 

あらすじ

1923年、イニシェリン島。パードリック(コリン・ファレル)は親友コルム(ブレンダン・グリーソン)から一方的に絶交を宣言される。パードリックは自分に何か至らぬことがあっただろうと真摯にコルムに謝罪するが、コルムは「これ以上関わるなら自分の指を切り落とす」とまで宣言して・・・

ポジティブ・サイド

イギリス映画の特徴である乾いた空気感は本作でも健在。対照的に人間関係は非常にウェットである。田舎の特徴と言ってしまえばそれまでだが、この島に登場する人々は老いも若きも他人との距離が近い。というか距離がない。プライベートな領域に遠慮会釈なく踏み込んでくる。こうした島だからこそ、コルムの突然の絶交宣言にはパードリックのみならず周囲の人間も困惑させられる。

 

絶交とはいうものの、パードリックとコルムはそれなりに言葉を交わせる。絶交とは?と観ている側が疑問に思い始める頃に、コルムは有言実行、自らの指を切り落とす。まさに衝撃の展開となるわけだが、パードリックはそこで怯まない。それでもコルムとの友情を取り戻そうともがく。だがコルムは全く応えない。当てつけのように、島を訪れた音大生たちと夜な夜なパブで交流を持つ。このあたりからパードリックも変わり始めていく。コルムとの友情ではなく対立を選んでいく。その過程で、コルムが音大生と交流し始めたように、パードリックも横暴な経験の息子ドミニク(バリー・コーガン)と奇妙な交流を持っていたが、その関係も壊れていく。妹のシボーン(ケリー・コンドン)もやがて島から去っていく。

 

コルムとパードリックの対立は、最後には『 スリー・ビルボード 』並みの惨事につながっていく。おかしなもので、人間同士がどこまでも対立しても、それに巻き込まれる動物に対しては、コルムもパードリックもお互いに人間らしさというか優しさを見せる。人間らしさとは何なのかと考えさせられる。Homo homini lupus. 人は人に狼という言葉を思い出した。また、パブの男たちが「昔は敵と言えばイングランド人だったが、今ではIRAだか政府軍だかで、意味が分からない」と言っていた。何のことはない台詞かもしれないが、当事者ではない者だと、昔も今も洋の東西を問わず、人間の意識はこの程度であるということを痛烈に皮肉っていると感じた。たとえばタリバンと聞いて、2001年以前にどれだけの人が認識できただろうか。Bellum omnium contra omnes. 万人の万人に対する闘争と言うが、人間は常に争うものなのか。そしてその争いには周囲は無関心なのか。そして争っている者同士の関係はいったん変質してしまえば、元には戻らない。コルムが指をなくしても、コルムはコルムである。たとえパードリックの良き友であったコルムではなくなってもコルムはコルムなのだ。国民を多少戦争で死なせても、国家の政体は変わらないのか。昔のアイルランドではなく今日のロシアを見ているとそう思えてくる。

 

コリン・ファレルの演技が絶品。100年前のアイルランドの片田舎の退屈な男をまさに体現した。対峙するブレンダン・グリーソンも偏屈ジジイを怪演。憎悪とは異なる感情から絶交するという難しい役どころを見事に解釈したと感じる。他に演技面で光ったのはバリー・コーガン。ここ数年で急激に頭角を現しつつある。本作のちょっとおかしな青年という役は、『 母なる証明 』のウォンビンのそれに匹敵するほどに感じた。

 

『 スリー・ビルボード 』が個人の赦しの物語であったとするなら、本作はその反対、つまり国家の対立を擬人化したものと言えるかもしれない。ロシアとウクライナの戦争開始から一年になんなんとし、台湾有事やら防衛費倍増やらと日本を取り巻く環境も激変している。イニシェリン島の精霊は世界のどこにでもいるのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

ドミニクのたどる運命というか、彼の結末が物悲しい。事故なのか、それとも自分の意志なのか。そこをあいまいにしたところに不満を感じる。ドミニクは、とある自分の行動の結果にとことん絶望したというシーンを入れてほしかった。そうすればイニシェリン島という場所の閉塞感が更に強調されたものと思う。

 

イニシェリン島のバンシーを体現していたと思われる黒衣の老婆のキャラは不要だったように感じた。

 

総評

内戦と聞くと、職業柄か個人的な嗜好からか、どうしてもアメリカ南北戦争が思い浮かぶ。が、アメリカが The United States of America であるように、英国も The United Kingdom である。『 二人の女王 メアリーとエリザベス 』から歴史が分かるように、彼の国はバラバラの国が一つにまとまっているのだ。鑑賞時にはそうした背景を知っておく必要がある。『 ウルフウォーカー 』は、ローマやイングランドに攻め込まれるアイルランドの謂いになっていたが、本作のコルムとパードリックの関係は、単なる個人同士の諍いではなく、内戦や国家間の戦争の愚かしさを傍観するしかないという無力感を味わわせてくれる。なんとも疲れる映画である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

There goes ~

~がなくなる、~がダメになる、の意。劇中では There goes that theory. = その理論はダメだ、のように使われていた。

There goes my PC. = PCが壊れた
There goes my money. = カネがなくなった

のように、結構なんにでも使える表現。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エンドロールの続き 』
『 日本列島生きもの超伝説 劇場版ダーウィンが来た! 』
『 対峙 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イギリス, ケリー・コンドン, コリン・ファレル, バリー・コーガン, ヒューマンドラマ, ブレンダン・グリーソン, 監督:マーティン・マクドナー, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 イニシェリン島の精霊 』 -内戦の擬人化劇-

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