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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 ボーダー 二つの世界 』 -北欧ダーク・ファンタジーの傑作-

Posted on 2019年11月16日2020年4月20日 by cool-jupiter

ボーダー 二つの世界 80点
2019年11月14日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:エバ・メランデル エーロ・ミロノフ
監督:アリ・アッバシ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20191116013312j:plain
 

Jovianはライトな映画ファンではないが、シリアスな映画ファンとまでは言えない。何故なら、アメリカ映画かぶれだからである。もちろんインド映画も観るし、韓国映画やフランス映画も観る。近年ではレバノン映画にも興味が湧いてきている。しかし、北欧(と一括りにすることの愚は承知しているが)の映画には、あまり積極的に関心を払ってこなかった。その認識は今後改めようと思う。友人に北欧映画好きがいるが、自分もやっと北欧の映画の良さが分かってきた気がする。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20191116013336j:plain

 

あらすじ

特異な容貌の税関職員ティーナ(エバ・メランデル)は、人間の感情を嗅ぎ分けることができる。ある日、港に自分と同じような容貌の人物ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)と邂逅する。それ以来、ティーナは自らのアイデンティティを見つめるようになり・・・

 

ポジティブ・サイド

これは大人の映画である。R-18指定なのだから、アダルトな展開があるんでしょ?と思わせて、実は違う。映画の演出やメッセージが大人向けということである。かといって、その大人というのは年齢で区切れるようなものでもない。ごく簡単に言えば、映像や音からメッセージを汲み取れることができるかどうかが、大人と子どもの境目であると言えるだろう。

 

ティーナの職務への精勤ぶり、自身の特異な能力の活かし方、周囲の人間との近くも遠くもない距離、同居しているローランドとの近くて遠い距離、認知症を患いつつある父親との距離感、森に棲む野生動物との近しさ、そして自分と同じ特異な容貌のヴォーレとの関係が、説明的な台詞がほとんどないままにスクリーンに映し出されていく。この心地好さよ。役者の演技、監督の意とする演出が高次元で融合したからこその成果。素晴らしい。

 

ティーナおよびヴォーレの関係は、最初は警戒から始まり、それがある時に狂おしいまでの激情に身を任せた、まさに言葉そのままの意味での獣のような交わりに至る。このシーンは、とてつもなくグロテスクでエロティックだ。『 The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ 』の冒頭でエル・ファニングがキノコを採取していたが、本作でもティーナがキノコを採集する場面がある。なるほど、これは心憎い演出であり、前振りである。

 

ティーナとヴォーレが二人、裸で森の中を駆け巡るシーンにはえもいわれぬ爽快感がある。本当の自分、そして自分の理解者、そして自分を排除しようとする人間もおらず、自分を優しく包み込んでくれる土壌や木々に囲まれていることの幸せを全身で表現していることが分かる。木々の間を縫って駆けて行く名シーンと言えば、『 七人の侍 』の三船敏郎だろう。ティーナとヴォーレが裸で無邪気に走る様に、何故か世界のミフネが思い起こされた。

 

ティーナのアイデンティティとヴォーレの秘密が交錯する時、世界は引き裂かれる。ボーダーラインがそこに引かれる。このダーク・ファンタジーが意味するものは、単なる人類批判、文明批判にとどまらない。異質な存在を受け入れることの難しさと、それを実行する一つの方法を提示する本作は、『 マレフィセント2 』のラストシーンに通じるものがある。二つの王国が融和するには、王子と王女の結婚が必要である。もっと言えば、王子と王女が子を持つことが求められるだろう。もしくは『 亜人 』を思い浮かべてもよい。迫害する側と迫害される側、その立場は逆転するのか、しないのか。最初のショットと最後のショットのコントラストが、実に複雑な余韻を観る者に残す。人間は寄生虫なのか。生きるとはどういうことなのか。現代的な問いと普遍的な問いを高次元で融合させた傑作映画に仕上がっている。

 

ネガティブ・サイド

ヴォーレとティーナのピロートークだけが物語から浮いている。ここだけが、説明的な台詞のオンパレードで興醒めしてしまった。語るのではなく、見せる。それによって、観客に想像させることが、この監督にはできるはずなのだ。重要なところだけ変に丁寧に説明するのではなく、全体のトーンを保つことを考えてもらいたかった。

 

ローランドの飼っている犬がティーナに吠えるシーンを、もっと丁寧に作っても良かった。大きな声で吠えまくる犬が、ティーナと同じフレームに決して入らないのは、最初は許せても、最後には違和感を覚えるほどになった。動物に演技指導をするのは難しいが、そうした絵作りにもトライをしてほしかったと思う。最初のキツネのシーンも同様である。

 

総評 

何とも形容しがたい作品である。爽快感がある一方で、疲労感や嫌悪感も残してくれるからである。ただし、そうした二律背反するような感想を抱かせる作品はなべて傑作である。優れた作品は、語り=discourseを刺激する。何かを語りたくなる映画の今年のナンバーワンは『 ジョーカー 』だろうが、ナンバーツーは本作ではあるまいか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Why should it be like that?

 

ヴォーレがティーナに語る「誰が決めた?」という台詞の私訳である。いや、正確には『 グーグル ネット覇者の真実: 追われる立場から追う立場へ 』で、グーグル創業者のペイジとブリンの二人の口癖が「誰が決めたんだ?」であるという記述がある。そして、その原書“IN THE PLEX”によると、「誰が決めたんだ?」は“Why should it be like that?”だったのである。逐語訳も大切だが、意訳はもっと大切である。まずはプロの真似から始めよう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, エール・ミロノフ, エバ・メランデル, スウェーデン, デンマーク, ファンタジー, 監督:アリ・アッバシ, 配給会社:キノフィルムズ

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