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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 韓国

『 エンドレス 繰り返される悪夢 』 -韓流タイム・ループの佳作-

Posted on 2020年4月13日2020年9月20日 by cool-jupiter

エンドレス 繰り返される悪夢 65点
2020年4月11日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:キム・ミョンミン ピョン・ヨハン チョ・ウニョン
監督:チョ・ソンホ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200413221923j:plain
 

COVID-19の感染爆発の重大局面(というかすでに爆発してるでしょ・・・)により映画館はどこも休業。仕方がない。家のテレビでDVDやAmazon Prime Videoを観るしかないのである。家ではどうしても他に気を取られることがある。なので、軽めのシチュエーション・スリラーでも観るか、と本作を借りてきた。

 

あらすじ

外国帰りの心臓血管外科医のジュニョン(キム・ミョンミン)は娘との待ち合わせ場所に急いでいた。しかし、娘は交通事故により死亡。次の瞬間、ジュニョンはソウル到着前の機上の人に戻っていた。再び、娘の元に向かうジュニョンだが、やはり娘は死んでしまう。ループするたびに何とか手を尽くすがジュニョンはどうしても娘を助けられない。だが、そこのもう一人ループしている男、ミンチョル(ピョン・ヨハン)も加わり・・・

 

ポジティブ・サイド 

タイムループものは、タイムトラベルものや記憶喪失ものと並んで、出だしの面白さが保証されているジャンルである。ただし、話のオチをつけるのが難しい。その意味では、本作はかなり健闘している。『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』と同じような展開、つまりだんだんと主人公がタイムループ現象を理解し、理詰めで少しずつ状況を打開していく流れは、説得力がある。

 

序盤のジュニョンの試行錯誤が、観る側が「ここで、こうしてみたら?」というアイデアとかなり一致するのは非常に心地いい。観ていてストレスになるようなアホな行動をジュニョンがとらないのもポイントが高い。成功しないと分かっていても、ジュニョンを応援したくなるのだ。チョ・ソンホ監督、なかなかの手練れである。

 

謎解き要素だけではなく、適度なアクションやカーチェイスもあり、単純に画面を眺めているだけでもそこそこ楽しめる。またネタバレを極力避けて書くが、本作を動かしていく三人の男たちの熱演は、相当数の男性の共感を得ることだろう。ある者は父親として、ある者は夫として、またある者は高い倫理観を備えたプロフェッショナルとして、彼らの物語を見つめるだろう。ヒューマンドラマとしても、一定の水準に達している。

 

ネガティブ・サイド

タイムループ現象に関して論理的な説明を求める向きには不適な作品である。例えば小林泰三の短編『 酔歩する男 』を読んで、「ふざけるな!」と憤慨するようなSFファンは決して本作を観るべきではない。

 

また一部のキャラクターが常軌を逸した行動をとり続けるが、そうした行動の過激さに眉をひそめるような向きにもお勧めはできない。というか、エクストリームさが特色の韓国映画全般に当てはまることだが、大袈裟な事柄を「大袈裟すぎる」として、現実的・理性的な描写を求めるのはお門違いである。

 

結構なゴア(血みどろ)の描写もあるので、耐性のない人は注意のこと。

 

総評

凡百のタイムループものかと思いきや、意外な掘り出し物である。『 殺人の告白 』からアクションシーンを極力減らして日本風に料理した『 22年目の告白 -私が殺人犯です- 』ように、邦画界にはぜひ本作のリメイクにトライしてほしい。その時は『 ブラインド 』を見事に換骨奪胎して『 見えない目撃者 』を作り上げた森純一監督にメガホンを託したい。コロナで引きこもるなら、本作をウォッチ・リストに加えられたし。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ネガ

韓国語で「私が」「僕が」の意味である。韓流ドラマや韓国映画でしょっちゅう聞こえてくるのでご存じの方も多いことだろう。「ネガ+動詞」のパターンを身に着ければ、動詞のボキャブラリーを増やすだけで表現力も増す。語学学習の王道は、一定のパターンに一つずつ習熟していくことである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, キム・ミョンミン, サスペンス, スリラー, チョ・ウニョン, ピョン・ヨハン, ミステリ, 監督:チョ・ソンホ, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 エンドレス 繰り返される悪夢 』 -韓流タイム・ループの佳作-

『 トガニ 幼き瞳の告発 』 -精神的に削られる傑作-

Posted on 2020年4月11日 by cool-jupiter

トガニ 幼き瞳の告発 80点
2020年4月9日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:コン・ユ チョン・ユミ
監督:ファン・ドンヒョク

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200411141316j:plain
 

心斎橋シネマートに行くことができないので、近所のTSUTAYAでずっと気になっていた作品をレンタル。傑作であったが、鑑賞には精神的なスタミナが必要である。2時間の作品を全て観るのに、三日を要してしまった。

 

あらすじ

恩師の紹介で地方の聴覚障がい者学校に赴任した美術教師カン・イノ(コン・ユ)は、そこで校長や教諭による生徒への性的虐待や暴行が行われていることを知る。人権センターの活動家ユジン(チョン・ユミ)と共に、彼らを告発するが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 岸和田少年愚連隊 』ならば笑い飛ばせるような教師から生徒への暴力も、聴覚障がい者への平手打ち連発やストンピングというのは笑えない。最初こそ憤りを感じたものの、だんだんとそれが恐怖に代わり、最後には吐き気になった。2時間5分の映画なのに、開始35分の時点で、もう観る側の精神はズタボロである。容赦のない体罰、いや暴力、虐待の嵐が吹き荒れている。そんなシーンの直後に挿入される無邪気な天使の笑顔。この落差は何なのだ。ここから勧善懲悪物語が本格的にスタートするのだという予想はしかし、見事に裏切られる。開始54分ちょうどで、ホラー映画的な展開に。初日はここで観るのをいったんストップしてしまった。近所のTSUTAYAで色々と借りてきたのはよいが、観る順番を間違えたようである。

 

それでもカン先生やユジンの尽力もあり、悪徳教師らを一気に逮捕。裁判に持ち込んだまではいいが、ここでも精神を削られる展開が。『 記者たち 衝撃と畏怖の真実 』のオープニングで、車イスの軍人に「起立して右手を上げて宣誓しなさい」と軍事法廷の裁判官が述べ、瞬時に己の愚を悟り、謝罪するシーンがある。対照的に、本作の裁判長(野間口徹によく似ている)は聴覚障がいの傍聴人らに口頭で注意をし、「手話通訳をつけてほしい」と叫ぶユジンを容赦なく退廷させる。公正公平な裁判制度とは何なのか、慨嘆させられる。そして、見た目だけではすぐに分からない障がいの持ち主に対する配慮のあるべき姿についても考えさせられる。『 37セカンズ 』という良作が邦画の世界でも生み出されるようになってきた。今こそ『 レインツリーの国 』のようなファンタジー・ロマンスではなく、聴覚障がい者による骨太の人間ドラマの制作が待ち望まれる。

 

それにしても、暴力シーンにせよレイプシーンにせよ、子ども相手にここまでやるのかと心配になってくる。『 PERFECT BLUE 』の暴行凌辱シーンの撮影では、男優が未麻を気遣うシーンが見られたが、韓国の子役たちのメンタルケアは万全なのだろうか。まあ、万全だからこうして公開されているのだろうが、『 韓国映画 この容赦なき人生 〜骨太コリアンムービー熱狂読本〜 』が言うところの【そこまでやるか、韓国。ついていけるか、日本】である。少女が無理やり手籠めにされるだけではなく、男性が少年を“愛でる”シーンは、凡百のホラーよりもよほど恐ろしいシーンである。観ていて本当に胸が締め付けられるような苦しさを感じる。特にミンス役の子の泣きと嗚咽の演技には魂を持っているかれそうになった。障がいを持つ子どもの演技としては『 ギルバート・グレイプ 』におけるレオナルド・ディカプリオに並ぶと感じた。子役だけではなく大人も見せる。特にユン・ジャエ先生、怖すぎである。日本で同じレベルの狂気の演技にトライしてほしいのは市川実日子か。時にgoing overboardな韓国俳優の演技であるが、本作ではその過剰なまでの演技が物言えぬ子どもらとのコントラストを特に際立たせた。

 

クライマックスの法廷からエンディングまでは『 黒い司法 0%からの奇跡 』的な展開を期待させてくれる。そして我々は地獄に突き落とされるような気分を味わう。このような気持ちになったのは、カトリーヌ・アルレーの小説『 わらの女 』や江戸川乱歩の小説『 陰獣 』を読んで以来・・・というのは大袈裟かもしれない。だが、この報われないエンディングこそが、公開当時の韓国社会を突き動かす原動力となったのだろう。『 殺人の追憶 』もそうだが、優れた映画というのは商業的・芸術的な媒体には留まらないものなのである。

 

ネガティブ・サイド

主人公の動きがとろい。もたもたしすぎである。ネチネチと小言を言う母親との絡みも中途半端であるように思う。カン先生の父性を描写するために、敢えて父性の欠如を描くのは悪いアイデアではない。ただ、子どもを病弱にする必要はなかった。言葉はアレだが、カン先生の子どもは健常な健康優良児に設定すればよかった。

 

またカン先生の恩師の教授に、もっと善人っぽい顔の人をキャスティングできなかったのか。普通っぽい人であるせいで、恩師からのプレッシャーがカン先生にそれほど強く重くのしかからないように見えてしまった。

 

総評

社会性と娯楽性(良い意味でも悪い意味でも)を兼ね備えたコリアン・ムービーの傑作である。この映画の公開を機に、事件の再捜査と法整備がなされ、再審理も行われたという。現実の事件が映画となり、映画が現実に影響を及ぼす。韓国社会における映画がどういったものであるのかを垣間見ることもできる。作品としては、非常に素晴らしい出来であるが、repeat viewingをしたいとは一切思わない。それほど精神的にキツイ映画である。鑑賞前後にメンタルを整える準備をされたし。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語会話レッスン

ペゴパ

「おなか減った」の意である。語尾を上げて、ペゴパ?(⤴)とすれば疑問文にもなる。韓国旅行(2021年以降か)で地元の食堂などに入った時に使ってみようではないか。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, コン・ユ, サスペンス, チョン・ユミ, 監督:ファン・ドンヒョク, 配給会社:CJ Entertainment Japan, 韓国Leave a Comment on 『 トガニ 幼き瞳の告発 』 -精神的に削られる傑作-

『 建築学概論 』 -初恋は実らない-

Posted on 2020年3月18日 by cool-jupiter

建築学概論 75点
2020年3月17日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:オム・テウン ハン・ガイン イ・ジェフン ペ・スジ
監督:イ・ヨンジュ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200318221726j:plain
 

あらすじ

設計事務所に勤めるスンミン(オム・テウン)のもとに、大学時代の初恋の相手、ソヨン(ハン・ガイン)が訪ねてきた。家を建ててほしいというのだ。スンミンは大学時代のソヨンとの出会い、そして恋に落ちていく過程を徐々に思い出していき・・・

 

ポジティブ・サイド

初恋が実る人というのは、いったいどれくらいいるのだろうか。おそらく数パーセントではないだろうか。それぐらい、初恋というのは実らない。この言葉が一種の格言になるのは、それだけ多くの人の実体験に裏付けられているからに他ならない。本作は、その初恋の甘さ、そして酸っぱさ、さらには苦みも思い起こさせてくれる秀作である。

 

邦画の世界は、右を向いても左を向いても高校生のラブストーリーだらけだが、実際に我々が共感しやすいのは大学生のラブストーリーの方である。アルバイトができるのである程度のカネを持っているし、学年にもよるが酒を飲める。夜のクラブで踊り明かすこともできるし、なんならホテルに泊まる(性交目的ではなく)こともできるというのは『 猟奇的な彼女 』が映し出してくれた。大学生の恋愛の方が realistic なのである。日本の、特に少女コミックを原作とする邦画は、総じてファンタジーであり、おとぎ話である。

 

本作は、というか韓国映画というのは女性を必ずしも神格化=romanticizeしない。本作のヒロインのソヨン(大学生パート)はと言えば、「クロヤロー」、「ちくしょう」、「ムカつく」といった卑罵語を使って我々を戦慄させる。まるでゲーム『 ファイナルファンタジーX-2 』でユウナが「ムカつき」と言った時のような衝撃である。ソユンほどの美少女がこれほど口汚く何かを罵るのも韓国映画のパワーだろう。女性に変な幻想を抱かせない。これも重要な教育的役割と言えるかもしれない。さらに凄いのは、とある夜のバス停のシーンだろう。ごく最近、『 犬鳴村 』の冒頭で似たようなシーンがあったが、とにかく落差の激しさが全然違う。ある意味で『 猟奇的な彼女 』の電車内での嘔吐シーンを超えるインパクトをピュアなハートを持った男性に与えてくる。もちろん、ソヨンはがさつなだけの女性ではない。韓国風の指切りげんまんのシーンは、そんじょそこらの邦画のラブストーリーを一発で吹っ飛ばしてしまうほどの破壊力を秘めている。ペ・スジがとにかく可愛すぎるのである。

 

それにしても韓国の俳優の表現力の豊かさよ。「俺はソヨンの幸せだけを祈るよ」と本心とは異なるセリフを吐くときのイ・ジェフンの遠くを見る目の虚ろさ、さらに「僕の目の前から-」という言葉を絞り出したときの目の力は、ジャ〇ーズ事務所のアイドルには出せない表現力だ。街中で怒鳴り合うおばちゃんたちを背景に、ひたすら静の演技を貫く若手俳優。奥が深い。唐田えりかも日本に居場所がないのなら、韓国でオーディションを受けまくればいいのだ。

 

ネガティブ・サイド

ぺ・スジとハン・ガインが似ていない。オム・テウンとイ・ジェフンも顔かたちは全く似ていないが、動いている時、しゃべっている時、表情がある時はびっくりするぐらいに似ている。おそらく『 君の膵臓をたべたい 』の小栗旬と北村匠海のように表情や歩き方などを合わせたのだろう。同じような努力がぺ・スジとハン・ガインの間でなされなかった、あるいはなされてはいたが不十分だったというのは減点材料である。過去と現在を行き来する見せ方においては、キャラクターの同一性・一貫性というものが重要なのである。

 

ある事象を目撃し、聞き耳も立ててしまったスンミンがソヨンに別れを告げるシーンは素晴らしかった。であるならば、スンミンがその事象を起こした人物に一発お見舞いする、あるいは軽蔑の眼差しを向けるでも無視するでもなんでもいい。なんらかのアクションを起こしてほしかった。自分が恋焦がれる女性が、自分以外の男と談笑しているのを見るだけで胸が張り裂けそうになったという男性は、現代日本にも一千万人単位で存在するはずである。そして男、特に童貞は『 君が君で君だ 』の尾崎豊のごとく、きわめてたくましい妄想力の持ち主である。スンミンが現実に行動を起こせないまでも、メガネの先輩に対してなんらかの“恨”の情を抱いてくれれば、観る側はもっとスンミンに感情移入ができたのだが。

 

総評

これこそ日本でリメイクすべきである。過去と現在を行き来する展開といえば『 君の膵臓をたべたい 』が思い起こされる。月川翔監督および月川組のスタッフで是非ともリメイクをしてほしい。『 見えない目撃者 』という成功事例もある。今こそ、韓国映画を解剖し、再構築し、そのエッセンスを吸収する時である。やろうぜ、日本映画界!

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ガンベイ

カタカナで見ると何のことか分からないが、映像を字幕つきで見るとすぐにわかる。すなわち「乾杯」である。それに対して「(ガ)ッチャン」と返すのも、なかなか洒落ていて面白いではないか。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, イ・ジェフン, オム・テウン, ハン・ガイン, ぺ・スジ, ロマンス, 監督:イ・ヨンジュ, 配給会社:アットエンタテインメント, 韓国Leave a Comment on 『 建築学概論 』 -初恋は実らない-

『 殺人の追憶 』 -人間の内面を鋭く抉る秀作-

Posted on 2020年3月17日2020年9月26日 by cool-jupiter

殺人の追憶 80点
2020年3月15日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:ソン・ガンホ
監督:ポン・ジュノ

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シネマート心斎橋がポン・ジュノ特集を再開してくれたおかげで、本作を劇場鑑賞することができた。ポン・ジュノは異才・異能の持ち主である。人間の内面をこれほど透徹した目で見つめられるのは、映画監督というよりも哲学者、芸術家気質だからではないだろうか。

 

あらすじ

時は1986年、場所はソウルのはずれの田舎町。同じ手口による女性の連続殺人事件が起こる。捜査を担当するパク刑事(ソン・ガンホ)は、ソウル市内から派遣されてきたソ・テユン刑事と対立しながらも捜査を進めていく。だが、それでも殺人事件は起こり続け・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200315141612j:plain
 

ポジティブ・サイド

韓国映画のごく大雑把な特徴は、描写のリアリティとエネルギーである。特に暴力に関しては、全く逃げることなく容赦のない演出を繰り出してくる。ただ単にバイオレンスを映し出しているわけではない。一方が他方に無条件に暴力をふるうことができるのは、そこに力の不均衡があるからである。それは例えば警察という国家権力の後ろ盾を持った組織に属していることであったり、あるいは相手が知的障がい者であったりするからである。ポン・ジュノが本作(そして彼の作品に通底するテーマとして)を通じて描き出し批判するのは、暴力の発生を触媒する理不尽な社会的および心理的なメカニズムである。

 

そのことはソン・ガンホ演じるパク刑事とソ・テユン刑事のほとんどと言っていいほど噛み合わないコンビネーションによって表現されている。根拠がまったくないにも関わらず観相術の達人を自称するパク刑事は、初対面のソ・テユン刑事に勘違いからドロップキックを浴びせ、しこたまパンチも食らわせた。つまりは人を見る目もなく、人の話も聞かないダメ警察官である。一方でソ・テユン刑事は冷静沈着かつ理知的で、「書類は嘘をつかない」を信条に、科学的に、理性的に捜査を進めていく。模範的な刑事と言えよう。だが、ある時点から、この二人の属性のバランスが逆転していく。どんどんと冷静になっていくパク刑事、どんどんと理性を失い暴力に走り出すソン刑事という具合に。その過程が、お互いの捜査の進捗によって可視化されている点が非常にユニークだ。特にパク刑事は「犯人には陰毛が生えていない」という仮説に基づいて、銭湯をはしごする様は滑稽である。だが本人はいたって真面目なのだ。同時に、老若男女に丁寧に聞き込みをし、ほんのわずかな手がかりも逃さず、着実に事件の真相に迫っていくソ刑事は、まっとうな捜査を進めていくほどに暴力への衝動に抗えなくなっていく。この対比が実によく描けている。暴力を食い止めるために暴力が必要なのか。暴力を食い止めるためには非暴力をもってせねばならないのか。ポン・ジュノが投げかける問いに答えは出せない。

 

本作は映画の技法の面でも粋を凝らしている。特に冒頭、現場保全をしようと大声で周囲に注意しまくるパク刑事のロングのワンカットや、スナックでの口論から所長の嘔吐までのワンカットが印象的だ。また、犯人と思しき男との路地裏の追跡劇、そして犬の遠吠えまでのサスペンスあふれるシークエンスは岩代太郎の音楽の力も大きい。犯行がしばしば灯火管制の夜に行われるというのも興味深い。町の暗さに感化されて、人間の内面の闇が暴れだすのか、それとも人が住居にこもるのをチャンスとばかりに犯行に走るのか。

 

ミステリ作品としても秀逸。日本語とも共通する韓国語のとある言語的特性を巧みに使った伏線は見事(Jovian嫁は即座に見破っていたようだが・・・)。被疑者の身体的な特徴と犯行に使われた道具との間の矛盾を的確に指摘するソ刑事の味がいい。また、とある条件のそろった日に殺人を重ねるというのは映画『 ミュージアム 』の元ネタになったのではないかとも感じた。

 

最後の最後にソン・ガンホが見せる表情。すべてはこれに尽きる。後悔に驚愕、そして疑惑と確信を両立させる渾身の顔面の演技である。これによって我々はパク刑事やソ刑事の経験した内面の変化、すなわち暴力衝動が劇中のキャラクターたちだけのものではなく、自身の内面に潜む闇として確かに存在するものであるという真実を突きつけられるのである。このような形で第四の壁を突き破って来るとは、ポン・ジュノというのはつくづく稀有なクリエイターである。

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ネガティブ・サイド

ソ刑事が寝落ちしてしまうシーン、そしてその後に車のエンジンがかからずに、被疑者を乗せたバスを追跡できなかったというシーンが、かなりご都合主義的に見えた。交代制で見張っている言われていたし、刑事は基本的に単独行動はしないものだ。車のエンジンがかからないというのも、それ以前になんらかのそうした前振りとなる描写が必要だった。

 

犯行のパターンが解析できたところで、なぜラジオ局に働きかけないのか。特定の手紙を受け取ったら警察に連絡するように言えるはずだ。Jovianが警察署長あるいは担当の刑事なら絶対にそうする。頭脳明晰なソ・テユンの考えがそこに至らなかったというのは少々信じがたい。

 

最後に、チョ刑事の足はどうなった?

 

総評

『 パラサイト 半地下の家族 』以上、『 母なる証明 』に並ぶ大傑作である。重ねてシネマート心斎橋に感謝。劇場支配人の鑑賞眼の鋭さと商売人として機を見るに敏なところ、その両方のおかげで本作を大スクリーンで鑑賞できた。このレベルの邦画は、黒澤明とは言わないまでも小津安二郎まで遡らなくてはならないのではないか。邦画は10年前の時点で既に韓国映画に抜かれていたようである。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

チョンマリヤ?

「本当か?」の意である。これも劇中で何度も出てくるので、把握しやすい。チョンマル=本当、となるようだ。関西弁の「ホンマ」と音がそっくりである。ヤというのは中国語・漢文で言うところの「也」だろう。これをつけて語尾をrising toneにすれば疑問文の出来上がりである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, A Rank, サスペンス, ソン・ガンホ, ヒューマンドラマ, ミステリ, 監督:ポン・ジュノ, 配給会社:シネカノン, 韓国Leave a Comment on 『 殺人の追憶 』 -人間の内面を鋭く抉る秀作-

『 PMC ザ・バンカー 』 -無国籍軍のUnsung War-

Posted on 2020年3月4日2020年9月26日 by cool-jupiter

PMC ザ・バンカー 70点
2020年3月1日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:ハ・ジョンウ イ・ソンギュン
監督:キム・ビョンウ

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原題はTake Point、つまり「最前線に行く」である。韓国と北朝鮮を隔てる38度線の地下で繰り広げられる戦闘を描いている。面白いなと思うのは、米朝首脳会談、その先の米大統領選がストーリーの下敷きになっているところ。2018年制作ということは、企画はその数年前だろう。制作者に先見の明があったのかもしれない。

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あらすじ

傭兵エイハブ(ハ・ジョンウ)は仲間と共に38度線地下のバンカーから北朝鮮の要人を拉致、護送する任務をCIAより受ける。だが現場に現れたのは最高指導者、通称キング。それでも作戦は結構され、簡単に成功・・・したかに見えた。しかし、米中の二超大国の政治的思惑に翻弄され、エイハブは一転、キング暗殺犯に仕立て上げられてしまう。唯一の挽回策は敵だらけのバンカーから生きてキングを脱出させることだけ・・・

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ポジティブ・サイド

大阪ステーションシティシネマで見逃した『 神と共に 』の穴埋めとばかりに、ハ・ジョンウ主演の本作を鑑賞したが、何と渋い役者であることか。太々しさの内に優しさを内包しつつ、それでいて容赦のない傭兵のリーダーを見事に体現した。英語も普通に堪能である。というか、日本の役者でここまで出来るのは平岳大ぐらいか?『 決闘の大地で 』のチャン・ドンゴン、『 マグニフィセント・セブン 』のイ・ビョンホンの100倍ぐらい英語のセリフをしゃべっている。1~2年の学習ではないはず。『 リンダ リンダ リンダ 』のぺ・ドゥナや『 新聞記者  』や『 ブルーアワーにぶっ飛ばす 』のシム・ウンギョン、『 焼肉ドラゴン 』のキム・サンホのように、韓国の役者は日本語も流暢に操る。つまりは、韓国エンタメ界は外国志向なのだ。『 パラサイト 半地下の家族 』は、そのトレンドの一つの帰結であった。日本も続かなければならない。

 

Back on track. 英語が飛び交う本作であるが、韓国映画お得意の血と硝煙と土埃のリアリティは本作でも健在である。日本のガン・アクションというと『 Diner ダイナー 』みたいな周回遅れの演出になったりするが、さすがに(今でも厳密な意味では戦時下の)韓国の作る映画である。本作は銃撃戦の激しさに加えて、独特のカメラアングルも冴える。具体的には小さなボール状の移動式スパイカメラ視点の映像。床にへばりついた視点から壁を這う視点、天井の梁の上からの視点など、通常ではありえないアングルからの映像がスリリングだ。

 

主人公の名前がエイハブだというのも面白い。言わずと知れたメルヴィルの『 白鯨 』のキャプテン・エイハブである。グレゴリー・ペックが不気味に手招きするエンディングが印象的だった。Jovianと同世代なら、漫画『 魁!!男塾 』のキャプテン鱏破布を思い出す人もいるかもしれない。軍人が義手や義足、義眼だったりするのは珍しいことではないが、エイハブが義足になった経緯がクライマックスにしっかりと関連してくる演出が心憎い。このラストのアクションシーンは非常にリアルである。空気抵抗が確かにそこにはあった。韓国の空挺部隊所属軍人がアドバイザーにいるのだろうか。

 

『 パラサイト 半地下の家族 』の金持ち父さんを演じたイ・ソンギュンも医師を熱演。インテリ役が似合うが、それだけではない。泥臭さや汗臭さを放つ演技を全く厭わない本格派でもある。エイハブと互いを「韓国人」、「北朝鮮人」と呼び合う様が滑稽であると同時に、同じ言語を話すにもかかわらず分断された民族であることの悲哀をも表している。朝鮮半島が超大国の代理戦争の舞台となったことは『 スウィング・キッズ 』でも描かれていた。そこで戦う傭兵たちがアメリカへの不法移民たちであるという対比がいい。無国籍軍の男たちが、超大国の兵隊相手に必死の抵抗を見せる。そうした姿に自分を重ね合わせてしまう観客も多いのではないだろうか。

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ネガティブ・サイド

エイハブと奥さんのやりとりは正直なところ不要だった。カネにしか興味がないはずの傭兵が、実は誰よりも熱く仲間思いであるという設定だけで充分である。続編はないはずだが、万が一にも制作されれば、悪役はエイハブの家族を人質にする、あるいはターゲットにするはずである。『 エクスペンダブルズ 』のように、チームのメンバーが家族であるという作りで充分である。

 

序盤のもたもたした展開もマイナスである。特にエイハブが序盤で動けなくなるのが痛い。アクション映画なのに、主人公がアクションをしない。もちろん、エイハブはエイハブで奮闘するのだが、我々が見たいのは銃撃戦や格闘なのである。

 

序盤のポリティカルなあれやこれやの説明もくどかった。CIAエージェントのマックとエイハブの対話も、本当なら緊張感あふれるものであるはずだが、このパートもだらだらしたものに映った。序盤の様々な要素を引き締め、無国籍な傭兵たちとエイハブの関係をもう少し深めておけば、エイハブがユン医師を“仲間”と見なすようになる過程により一層のリアリティと説得力が生まれたと思うのだが。

 

総評

韓国映画の真骨頂である激しいアクションは本作でも健在である。同時に時代を先読みしたかのような導入に、大国・隣国に翻弄される近現代史の悲哀を脚本に上手く落とし込んだ作りになっている。セリフの7割ほどが英語であるのも、アメリカ市場、英語圏市場を見据えてのことだろう。邦画もこれに負けてはならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

It’s every man for himself.

「(この状況では)自分の身は自分で守れ」の意である。英語音声の戦争ゲームやWWEのRoyal Rumbleでよく聞こえてくる決まり文句である。おそらく戦争映画でもバンバン使われてきたフレーズであるし、これからもドンドン使われるフレーズのはずである。たしか『 レザボア・ドッグス 』のセリフで聞こえてきた気がする。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, イ・ソンギュン, ハ・ジョンウ, 監督:キム・ビョンウ, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 PMC ザ・バンカー 』 -無国籍軍のUnsung War-

『 スウィング・キッズ 』 -Your memory never fades away-

Posted on 2020年2月24日2020年9月27日 by cool-jupiter

スウィング・キッズ 80点
2020年2月22日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:D・O ジャレッド・グライムス
監督:カン・ヒョンチョル

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シネ・リーブル梅田ではたびたび予告編が流れていて、気になっていた作品。タップダンスは兵庫県立芸術文化センターで一度、live performanceを見たことがある。『 サニー 永遠の仲間たち 』の監督がダンスをどう料理してくるのか興味津々だったが、『 ダンス ウィズ ミー 』の矢口史靖監督は本作を観て、『 スウィングガールズ 』の頃に立ち返るべきであろう。

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あらすじ

1951年、米中二大国の代理戦争の場となった南北朝鮮戦争時、韓国の捕虜収容所の米国人所長は、対外的イメージアップおよび北朝鮮人の思想軟化と懐柔のために、タップダンスのチームを下士官のジャクソン(ジャレッド・グライムス)に作らせる。人民共和国軍の英雄の弟ロ・ギス(D・O)らは衝突しながらも練習を積み重ねていくが・・・

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ポジティブ・サイド

ジャクソンが一人で踊るタップダンスに見入ってしまったロ・ギスが、それから目にするもの耳にするもの全てがタップダンスのリズムで捉えられてしまうようになってしまうシークエンスが素晴らしく良かった。歌や踊りというのは、往々にして言葉で表現することが難しい感情や衝動の発露である。有り余ったエネルギーをタップダンスに注ぎ込むようになるロ・ギスだが、そこに至るまでの内面の葛藤および外部からの視線が良いバランスで描けている。変顔で踊れる喜びを表現するシーン、そして屋外での練習を何事もなかったかのように誤魔化すシーンは白眉である。

 

そのタップダンスのシーンも圧倒的である。特にダンサー兼教官役のジャクソンには、俳優ではなく本職のタップダンサーを起用。これは正しい判断だろう。『 はじまりのうた 』でも歌手役にMaroon 5のアダム・レヴィーンを起用したが、俳優に歌わせるよりも歌手に演技させた方が良いことも多い。ジャクソンのタップダンスが圧倒的にハイクオリティであるため、それに応戦する、何とかして食らいつこうとするロ・ギスの奮闘がさらに際立つ。チームの他のメンバーも踊れるデブに伝統舞踊の男、4か国語を操る女子パンネなど多士済々。特に、最後の女子は何かと話題の唐田えりかにどこか似ている。唐田も本格的に韓国語+ダンスを習得して、韓国芸能界でサバイバルをしてみてはどうか。あちらで5~10年戦って、大谷亮平のように凱旋帰国すればよい。また語学学習者、特に英語学習者はパンネのしゃべりを参考にされたい。KISSの法則、すなわちKeep it simple and shortである。一定以上の長さの外国語を話すときには、直訳はご法度である。正確に話すのではなく、通じるように話すことを心掛けたし。

 

Back on track. 前半はとにかく陽気にダンス・ダンス・ダンスである。米兵と北朝鮮捕虜の間のいざこざすらもダンスバトルで解決(?)したりする。だが本作の監督はカン・ヒョンチョルである。輝かしい瞬間の背後にはどす黒い社会的背景が存在することを骨の髄まで知っている、そしてそれを表現することを恐れない映画人である。米国、特に収容所所長がタップダンスチームの結成とその成功に血道を上げるのと同様に、北朝鮮捕虜たちも策謀をもって暗躍し始める。ダンスという芸術で理解し合える異国人たちも、政治体制やイデオロギーによって簡単に引き裂かれる。逆に言えば、政治的・思想的な差異は言葉では乗り越えられないということでもあり、政治的・思想的なイデオロギーは言葉でもって強化されるということでもある。序盤でもロ・ギスの戦友的なポジションの男が米兵相手にびっくりするような流暢さで卑罵語を繰り出し、中盤以降では戦争で片腕と片足をなくした男が恐るべき無表情で息つく間もなく共産主義への傾倒と自由主義・資本主義への憎悪を語る。その迫力に、時は戦時、場は捕虜収容所であるという容赦のない現実を思い知らされる。正気では戦争などできはしない。そうした戦争の狂気にあてられた人民共和国軍闘士の暗躍とクリスマスの公演会、その両方が頂点に達するクライマックスのカタルシスとカオスに、観る者は呼吸を忘れる。このクライマックスの衝撃は、2020年はまだ2か月しか経過していないが、年間トップクラスだろう。

 

朝鮮戦争という同じ民族同士の殺し合い最中、異国人同士がタップダンスで語らい、争い、相互理解を果たしたというフィクションがこれほどのリアリティをもって迫ってくるのは何故か。分断と融和が同時進行する世界に対しての、本作は一つのメッセージである。

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ネガティブ・サイド

CGの使い方に不満が残る。民族舞踊男が帽子に長い白帯をつけて舞うシーンは、できればCG処理せずにオーガニックに見せてほしかった。やろうと思えばできたはずだし、それこそ役者ではなく本物の民族舞踊の踊り手にそこだけ踊ってもらうという選択肢もあったのではないか。

 

同じくロ・ギスのコサックダンスのシーンも滑稽に映った。あれほどスピーディーに両足をばたつかせることができるなら、ジャクソンとのタップダンスバトルでも圧勝できたのではないかと思わされてしまった。前半のコミカルなトーンとは合っていたが、ストーリー全体を通してみた時には違和感の方が強く感じられた。

 

所長からサムシクへのクリスマスプレゼントもやや奇異に映った。サムシクに男の子がいる、あるいはサムシクが野球好きという描写が一切ないままにグローブとボールを渡されても、観る側の心にそれほど響かない。所長が意外にも人間味のある男であることは伝わったし、サムシクが鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしたのもよかった。だが、このシーンにはもうちょっと事前の説明が不可欠だったように思う。

 

総評

これまた韓国映画の傑作である。鑑賞前に『 サニー 永遠の仲間たち 』を観ておけば、カン・ヒョンチョル監督の問題意識や美意識がより深く見えてくるだろう。朝鮮戦争の歴史に通暁しておくことが望ましいが、必須ではない。異国人同士が言葉以外の方法でコミュニケーションを取ることの難しさと易しさ、その両方を描いているのだということが分かれば、本作のメッセージを受け取ることはできる。邦画がこの域に達するのは、もう無理なのだろうか。そう思わされてしまうほどの完成度である。劇場鑑賞を強くお勧めする。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ミアナムニダ

『 国家が破産する日 』でミアネ=ごめん、を紹介したが、このミアナムニダは「申し訳ない」というような意味である。韓国旅行で万が一粗相をやらかしてしまったら、上のように言ってみよう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, D・O, ジャレッド・グライムス, ヒューマンドラマ, 歴史, 監督:カン・ヒョンチョル, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 スウィング・キッズ 』 -Your memory never fades away-

『 母なる証明 』 -女は弱し、されど母は強し-

Posted on 2020年2月17日2020年9月27日 by cool-jupiter

母なる証明 90点
2020年2月16日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:キム・ヘジャ ウォンビン
監督:ポン・ジュノ

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『 スノーピアサー 』に続いて、シネマート心斎橋にて鑑賞。これも以前にWOWOWで観たんだったか。しかし、再度の鑑賞をしてみると違った風景が見えてくる。これが再鑑賞の面白いところ。

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あらすじ

軽度の知的障がいを持つトジュン(ウォンビン)は、近所の女子高生の殺害容疑で警察に逮捕されてしまった。母(キム・ヘジャ)は息子の無実を証明すべく、独りきりで事件を調査していくが・・・

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ポジティブ・サイド

冒頭のEstablishing Shotの美しさよ。乾いた空気の草原に木が一本だけ佇立している。その向こうには林があり、外界の視線からは完全に遮断されている。その場で踊り始める母の姿は『 ジョーカー 』のトイレでダンス・シーンを思い起こさせた。『 ジョジョ・ラビット 』のエルサの言葉を借りるまでもなく、ダンスとは自己表現である。無表情で踊る母の姿に、我々は虚無感と歓喜の両方を見出す。非常に美しく、そして示唆的なオープニングである。

 

母親が息子のために孤軍奮闘、奔走する様は『 ベン・イズ・バック 』のジュリア・ロバーツが神がかり的な演技を見せたが、本作のキム・ヘジャはそれに勝るとも劣らないパフォーマンスを披露してくれた。この母親、名前がない。いや、あるはずだが、それが劇中で呼ばれることは一切ない。名前が呼ばれないキャラクターは時々いる。『 用心棒 』の三船敏郎や『 荒野の用心棒 』、『 夕陽のガンマン 』、『 続・夕陽のガンマン 』のクリント・イーストウッドらがそれである。彼らにも名前はあるが、それらは便宜上のもので、そこに本質的な意味はない。「名は体を表す」と言うが、名が無い者は行動で体を表すしかない。その恐るべき行動力で、役立たずの警察や弁護士を振り切り、韓国社会の一種の闇に切り込んでいく。キム・ヘジャ演じる“母”が『 ベン・イズ・バック 』のジュリア・ロバーツに勝ると思われる点は、母なき者に涙を流すことができるところである。ジュリア・ロバーツは我が子ではない他人を容赦なく、躊躇なく地獄に落とすような真似をするが、この母は母親としての普遍的な情を持っている。それが良いか悪いかは別にして、「女は弱し、されは母は強し」を実現し、そして実践している。

 

本作は様々なシーンが伏線であり、重要な前振りとなっている。特に冒頭のダンス・シーンの直後の「血」は、単純ではあるが、強力な伏線である。ミステリ要素が強く、まるで邦画『 二重生活 』のようなシーンもある(というか、『 二重生活 』の一部シーンが本作にインスパイアされた可能性があると言うべきか)。非常に基本的なことであるが、伏線にはインパクトが必要で、ポン・ジュノ監督はそれを反復という形で表現する。本作における「血」に代表される一連のモチーフは、さりげなく、しかし周到に張り巡らされている。ミステリ愛好家も納得させうる構成になっていると感じる。

 

『 パラサイト 半地下の家族 』と同じく、本作も途中でトーンがガラリと変わる。ミステリ/サスペンスだったはずが、ある瞬間がホラーなのである。特にトジュンとアジョンの遭遇シーンの闇。闇とは不思議なもので、実体がない、単に光が欠如した空間であるにも関わらず、圧倒的な存在感を持つことがある。『 パラサイト 半地下の家族 』でも、壁の向こうには闇が広がっていた。同じく、懐中電灯に照らし出される老婆のシーンもホラーである。2019年に邦画は『 貞子 』を送り出し、訳の分からん老婆をガジェットとして配置するだけの一方で、韓国映画界はそのさらに10年前に、ホラー映画ではないのに並みのホラー映画以上に怖い演出を生み出している。いつも間にどうやってこのような差がついたのか。

 

ポン・ジュノ監督の特徴に中盤で映画の様相がガラッと変わるというものがあるが、同時にこの監督は自らの作品の随所に社会的なメッセージを込めてくるという特徴もある。10年以上前の映画なので同時代的なレビューはできないが、それでもトジュンや母が暮らす街がアーバン・スプロール化現象の先端部にあることは分かる。トジュンの悪友ジンテや廃品回収業者の男の住居などは、その最先端部だろう。まるで『 ボーダーライン 』のとあるメキシコの町のように、無秩序が支配する空間である。殺害された少女アジョンを巡る人間関係の混沌が、居住空間の混沌と不可思議なフラクタルを形成している。ポン・ジュノ監督の社会への透徹した眼差しを、ここに見て取ることができる。

 

『 ジョーカー 』に通じる(というか、『 ジョーカー 』が受け継いだ)ダンスで始まり、さらにダンスで終わるこのエンディングは、善悪の彼岸を超越した境地に母という存在があることを示しているかのようだ。夕陽に照らされ、踊り狂う数々の黒のシルエットを通じて見えてくるのは、個としての母ではなく、象徴としての母なのか。英語に“Like father, like son.”という諺があるが、“Like mother, like son.”とも言えそうである。母とは、子を産んでこそ母で、トジュンという、これまた善悪の彼岸にあるかのような、ある意味でとても純粋無垢な存在の無邪気さに、我々は怖気を震うのである。母はあの鍼で何を忘れようとし、そして忘れたのか。本作を観る者は、等しくその思考の陥穽に落ちることだろう。何と気持ち悪く、そして心地よい感覚であることか!

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ネガティブ・サイド

真相の描写がややアンフェアであると感じた。「あのシーン、実はこうだったんです」と後から言われても、納得しがたい。もっとボカした描写も追求できたのではないだろうか。

 

ジンテとミナのセックスシーンは眼福だったが、あれは母の位置から見たものだったのだろうか?カメラアングルを母の目線のそれに合わせれば、よりスリリングで背徳感のある絵が取れたと思うのだが。

 

トジュンの元同級生の刑事が、どこまでもうざったい。最後に「真犯人を捕まえた」と母に報告に来るシーンでも、普通ならもっと神妙になってしかるべきではないか。我が国の警察の人権意識や冤罪への注意の度合いはこんなに低いですよ、というポン・ジュノ監督のメッセージなのかもしれない。だが、シリアスさを増していくばかりの終盤の展開ではノイズのように感じられた。

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総評

これは大傑作である。『 パラサイト 半地下の家族 』よりも面白さでは上であると感じる。細部の記憶があいまいになった状態で再鑑賞したことで、ところどころでトジュン的な気分も味わうことができた。ポン・ジュノ監督は、そこまで計算して本作を作り上げたのだろうか。二度目に鑑賞することで、印象がガラリと変わる作品というのは稀にしか巡り合えない。本作は間違いなくその稀な一本である。

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Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン 

チンチャ

本当、の意である。劇中で何度か「チンチャ」と聞こえてきた。日本語と同じように形容詞や副詞として使われているのだろうか。最近の10代の間では「チンチャそれな」というような日韓チャンポンの言葉も使われているらしい。日本も「もったいない」、「カイゼン」に続く言葉の輸出に本腰を入れるべきだ。そのためには韓国に負けないような音楽やダンス、テレビドラマ、映画などのコンテンツを作り、世界に届ける仕組み作りが必要だ。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, S Rank, ウォンビン, キム・ヘジャ, サスペンス, ヒューマンドラマ, ミステリ, 監督:ポン・ジュノ, 配給会社:ビターズ・エンド, 韓国Leave a Comment on 『 母なる証明 』 -女は弱し、されど母は強し-

『 スノーピアサー 』 -階級社会の打破と脱出-

Posted on 2020年2月14日2020年4月20日 by cool-jupiter

スノーピアサー 65点
2020年2月11日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:クリス・エヴァンス ソン・ガンホ
監督:ポン・ジュノ

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『 パラサイト 半地下の家族 』がアカデミー賞を席捲したのには、びっくりした。確かに相当に面白い作品だと感じた(75点をつけた)が、自分としては大穴的に『 ジョーカー 』が作品賞まで獲ると勝手に思っていた。この快挙を祝福すべく、シネマート心斎橋へ。ここは韓国映画推しの劇場で、2019年11月か12月の時点でポン・ジュノ特集を決めていた。劇場支配人の慧眼、恐るべしである。

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あらすじ

地球温暖化を止めるために人類は大気中にCW-7という薬品を散布した。結果として、予想以上に気温が低下し、地表は氷に覆われた。人類はスノーピアサーと呼ばれる列車の中でかろうじて生き延びていた。その列車の前方には上流階級が住み、後方には下層社会が形成されていた。後方車両の住人カーティス(クリス・エヴァンス)は仲間と共に前方車両へ反旗を翻すが・・・

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ポジティブ・サイド

WOWOWで放映されていたのを観たことがあったので、二度目の鑑賞になる。アカデミー賞受賞監督の作品という先入観を持って鑑賞しているわけだが、なかなかに凝った作りであると感じる。

 

まず、絶滅寸前の人類が、地下や海底、あるいはスペース・ステーションなどではなく、列車に暮らしているというのが面白い。我々も日頃から電車には乗るわけだが、電車には優等列車や優等車両というものがある。新幹線のグリーン車に日常的に乗るという人は、決してマジョリティではあるまい。一般庶民にして勤め人である我々は、満員電車で押し合いへし合いしながら奇妙な連帯感を育む。そうした我々の生活の究極の延長線上にあるのが、スノーピアサーの世界である。何をどうしたって、クリス・エヴァンス演じるカーティスを応援したくなるではないか。

 

こうしたディストピアもので思い出されるのは『 ソイレント・グリーン 』である。人口が爆発した世界とは対照的に、こちらの世界では人口が数百のオーダーにまで減ってしまっているが、いずれにしても頭を悩ませるのは食糧生産と管理である。『 ソイレント・グリーン 』もなかなか衝撃的であったが、こちらもかなりショッキングである。だが、見方を変えれば非常にリアリティのある設定とも言える。昆虫食は人類の人口爆発を支えるポテンシャルを秘めているし、あるいは人口が極限的に減ってしまった時にも、手間が家畜ほどにはかからないとも考えられる。似たような極限状態を描いた作品には『 白鯨との闘い 』がある。どこまで行っても人間の本質は、Homo homini lupusなのかもしれない。

 

人類最後の砦となるものが塔だとか迷宮だとか地下の要塞であれば、爆破するなどの破壊的な強硬手段も考えられるが、半永久的に走り続ける列車なので、爆破してしまうと先頭車両に置いて行かれてしまう。なので、一車両ごとに律義に攻略していかねばならない。これも設定の妙である。その扉を一つ一つ開けていくソン・ガンホ演じるナムグン・ミンスが良い味を出している。これほど美味そうに、かつ気だるい感じで煙草を吸うのは、石原裕次郎ぐらいしか他には思いつかない。また、眼の奥にただならぬ力を感じさせる顔面の表現力はアジア随一であろう。

 

反乱は成功するのか。先頭車両には何が待ち受けているのか。『 Vフォー・ヴェンデッタ 』のジョン・ハートは、やはり正義を標榜した悪役が似合う。

 

本当は60点だが、ご祝儀で5点オマケしておく。

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ネガティブ・サイド

スノーボール・アースとなってしまった説明はそれなりに納得がいくものの、何故スノーピアサーという列車が走っているのか。そもそも何故そんな列車の建造が計画され、世界を一周するような線路が敷設されたのか。そのあたりの説明が不足していた。ましてやスノーピアサーが運行を開始して、たった17年である。これが走り始めて100年も経っていたなら、もはや何故、どのようにしてスノーピアサーが走り始めたのかは歴史以前のこととして受け止められるが、17年というのはいかにも短い。このあたりはキャラクター同士の人間関係というものもあり、なかなか設定が難しかったのかもしれないが、何らかの説明が必要であるとは感じた。

 

COVID-19が収束を見ない状況だからかもしれないが、後方車両の人間たちはあの衛生状態では長く生きられないだろうと思われる。一度でも何らかの感染症がアウトブレイクしてしまえば一網打尽だろう。閉鎖環境であっても病人は発生するし、異所性感染のリスクも常に存在するのである。

 

後は仏像にこだわる日本人というのが面白くなかった。もちろん、日本は朝鮮半島を植民地にして多くの文物を奪っていったわけだが、グローバルな視点からジャパン・バッシングをしたいのなら、妙な精神世界を持っているという特徴よりも、徹底的な集団同調主義かつ日和見主義に描いた方が面白くなったはずである。

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総評

祝日ということを差し引いても、いつも以上の客の入りだった。シネマート心斎橋の席が8割以上埋まっているというのは初めて見たように思う。それだけアカデミー賞4冠のインパクトは大きいのだろう。本作も標準以上の面白さを備えた佳作であり、ポン・ジュノ監督の問題意識の萌芽が色濃く反映された痛烈な現実批判映画でもある。格差に対しては二通りの対処がある。1つには、格差を生む構造そのものをぶち壊すこと。もう1つには、自分が「持たざる者」から「持てる者」にとって代わること。本作の結末が示唆するのは何か。それは、レンタルや配信でお確かめ頂きたい。

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

How’s it hanging?

How is it hanging?とは言わない。必ずHow’s it hanging?という短縮形で使われる。Hello. や What’s up? と同じ意味で、よりカジュアルな言い方である。ほぼ男同士のしゃべりでしか使われない。その意味はこのフレーズを直訳してみた時に、itが何を指すかを考えてみれば分かるはずである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, SF, アクション, アメリカ, クリス・エヴァンス, ソン・ガンホ, フランス, 監督:ポン・ジュノ, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:ビターズ・エンド, 韓国Leave a Comment on 『 スノーピアサー 』 -階級社会の打破と脱出-

『 エクストリーム・ジョブ 』 -会心の韓流コメディ-

Posted on 2020年1月6日2020年1月6日 by cool-jupiter

エクストリーム・ジョブ 80点
2020年1月5日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:リュ・スンリョン チン・ソンギュ
監督:イ・ビョンホン

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イ・ビョンホンが監督だと知って、「テレビドラマ『 美しき日々 』や映画『 マグニフィセント・セブン 』の俳優イ・ビョンホンが監督デビューしたのか」と思ったら、さにあらず。同姓同名の別人だった。だが、そんなことは全く関係なく本作は面白い。

 

あらすじ

コ班長(リュ・スンリョン)は、マ刑事(チン・ソンギュ)ら個性的過ぎる面々を率いて麻薬捜査を行っていたが、成果が上がらない。後輩には先に出世され、チームも解散の危機に。そんな時に、裏社会の大物が関わる麻薬取引を捜査することになる。張り込みの為にチキン屋を買い取るが、マ刑事がとっさに考案したカルビ用のタレとフライドチキンを合わせたメニューが大ヒットしてしまい・・・

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ポジティブ・サイド

『 パラサイト 半地下の家族 』のような、笑いの中にシリアスさがあり、シリアスさの中に笑いがあるような作品ではない。本作は徹頭徹尾、笑いを取りにきている。刑事が勤務中に副業にいそしむコメディとしてはハリソン・フォード主演の『 ハリウッド的殺人事件 』(このタイトルは誤訳。正しくは『 ハリウッド殺人捜査課 』か『 ハリウッド殺人課 』だろう)があるが、そちらのスラップスティック具合よりも遥かに突き出て面白い。

 

オープニングのシークエンスから笑わせてくれる。麻薬をやっているちゃちなチンピラを捕まえるために颯爽と登場・・・しないのである。それだけではなく、相手を取り逃がし、捕まえたと思ったら、またも取り逃がし・・・ 『 ベイビー・ドライバー 』の冒頭のシークエンスと真逆の進行であると言えば、その間抜けっぷりが伝わるだろうか。人の見た目や街並みが日本にそっくりでも、そこは厳然たる外国。日本人のような「武士は食わねど高楊枝」とはならない。メシをおごると言われれば、コ班長は後輩にだってホイホイとついていく。チームの面々も彼に続くことは言うまでもない。鶏料理屋を始めたあたりからマ刑事とジェフンのコミック・リリーフっぷりはさらに加速していく。そしてコ班長の家庭人としての顔。泣かせると同時に笑わせてくれる。『 国家が破産する日 』の町工場のガプス負債・・・ではなく夫妻のような心暖まるベテラン夫婦でありながら、そこからも容赦のない笑いを生み出してくる。このユーモアは独身者には分かるまい。既婚者は、笑いながら、背筋がうすら寒くなること請け合いである。また愛娘とも素晴らしい関係を築いているが、娘の小さい頃の夢にも爆笑必至である。とにかく班長がこうなのだから、その班のメンバーも推して知るべしである。どいつもこいつも一級のコメディアンである。

 

こんなダメダメな連中がどうやって大捕物を成し遂げようというのか。そこには絶妙の仕掛けがある。鶏肉を揚げているだけでは、連中が来店してくれるのをひたすら待つだけになる。しかし、宅配サービスをすれば、連中のアジトにすんなりと入り込めるではないか。その時に、あれをこうして、これをああして・・・という作戦会議に、やっと真面目に仕事をするのかと思いきや、ここでもストーリーは意外な方向へ。いったいどうやって収拾をつけるのかと考え込んだが、ここまでの全ての描写や演出に意味があったのである。そう、相手が麻薬取引の大物であることも、フライドチキンの味付けがカルビ用のタレであることも、その店がデリバリーを行うことも、全ては周到に計算された必然的な設定だったのである。Jovianはこの展開に、はたと膝を打った。脚本のムン・チュンイルの何という手練手管か。

 

クライマックスのアクションシーンは圧倒的である。中盤にも部屋住みのような連中同士のバトルがあったりするが、格闘の一瞬一瞬がかなり痛そうである。つまり、それだけ迫真の演技になっている。また敵方に女格闘家がいるが、フルコン空手を本気でやったらこうなるのかという圧倒的な強さ。土屋太鳳や山本舞香もなかなかのアクションスターだと思っているが、いかんせん手足の長さが・・・ まるでキム・ヨナと浅田真央の関係のようである。技術的に大きな差は無くても、すらりと伸びた四肢の分だけキム・ヨナの方がどうしても見映えがよかった。日本でもスレンダーでありながら、ハードな格闘アクションをこなしてくれる女優の登場を期待したい。

 

ダメダメだった班のメンバーがやっと本領を発揮する。面白いことに班の面々にテコンドー使いがいない。日本やタイの国技を披露してくれる。それは本作が自国の外のマーケットを意識しているからだろう。事実、非常に流暢な日本語が聞こえてくるシーンもあるし、アメリカや中国を軽くおちょくるようなシーンもある。素晴らしいサービス精神であり、フロンティア精神である。韓国で記録的な興行収入を揚げた・・・ではなく上げたのも納得である。

 

鶴橋で焼肉も良いが、鶏料理も捨てがたい。今度、サムゲタンを食べられる店にでも繰り出すとしようか。

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ネガティブ・サイド

警察署長がムン・ジェイン大統領に似ているのは偶然なのか、何か政治的な風刺なのだろうか。その割りには大した見せ場を作れていなかった。やるならきっちり政治も笑いに昇華してほしいものである。

 

全体を通して、BGMの音量が通常の映画よりもかなり大きかったように感じた。韓国映画だとこんなものだろうか。いや、世界的なマーケットを視野に入れているのであれば、BGMの音量などもグローバル・スタンダードを意識して調節すべきであると思う。本作はかなり耳を消耗させる。

 

総評

笑いに国境はないのだと感じる。同時に、コ班長の生き様にも痺れる。家庭人としても職業人としても、一人の中年男性としても、このような人間でありたいとほんの少しだけ憧れた。夫婦で観ても良し、カップルで観ても良し。新春から大いに笑おうではないか。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

クレド

「けれど」、「だけど」、「しかし」などの逆接の接続詞。韓国ドラマや韓国映画でも最頻出の言葉である。日本語の「けれど」に発音がそっくりなので覚えやすい。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, コメディ, チン・ソンギュ, リュ・スンリョン, 監督:イ・ビョンホン, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 エクストリーム・ジョブ 』 -会心の韓流コメディ-

『 パラサイト 半地下の家族 』 -韓国社会の分断を象徴的に描く-

Posted on 2019年12月31日2020年9月26日 by cool-jupiter

パラサイト 半地下の家族 75点
2019年12月30日 東宝シネマズ梅田にて鑑賞
出演:ソン・ガンホ チェ・ウシク パク・ソダム
監督:ポン・ジュノ

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半地下とは面白い構造である。『 怪しい彼女 』でも、バンド名に半地下=パン・ジハとつけられていた。韓国・ソウルは坂の街なので、半地下を持つ家、もしくは半地下に存在する家があることは珍しいことではない。しかし、本作の言う半地下の家族には、それ以上の意味がある。

 

あらすじ

半地下の家に暮らすキム一家は、家族そろって失業者。しかし長男ギウが友人の伝手で富裕家族の娘の家庭教師職を得たところから、妹ギジョンも家庭教師として、そして父も母もその一家から仕事を得るようになる。富裕家族に寄生するキム一家は、しかし、悲劇に巻き込まれて行く・・・

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ポジティブ・サイド

2019年の日本を読み解くキーワードの一つに、間違いなく「上級国民」が挙げられるだろう。その対義語はもちろん、「下級国民」である。かつての日本は一億総中流などと言われていたが、そんな時代は過ぎ去って久しい。上級国民=富裕層、特権階級だとすれば、下級国民=貧民層、社会的セーフティネットからの落伍者となろうか。トマ・ピケティの『 21世紀の資本 』を読むまでもなく、バブル崩壊以後の日本では、富める者がますます富み、中流とされた層がどんどん下層化していった。そして、『 国家が破産する日 』でも描かれていたように、韓国社会の経済的な分断は日本の20年先を行っている。つまり、日本においても本作で描かれているような上流階級と下層貧民の分断の進行、そして下層民が上層民に“寄生”して生きていくような社会の到来はほぼ確実であろう。そしてそれはジョーダン・ピールが『 アス 』で描き出そうとしたテーマ、すなわち「我々の敵は我々自身」というものと共通する。ありうべき自分と実際の自分の隔たりが大きくなる。それが、韓国でも日本でも、そしておそらく全ての先進国で進行している事態である。それを本作はコミカルに、さらにサスペンスフルに描いた。

 

キム一家は富裕な家族にうまく取り入り、元いた家政婦も追い出し、経済的な危地も脱する。それは爽快ですらある。やっていることは犯罪すれすれ、というか犯罪だが、そうでもしなければ抜け出せない負のスパイラルというものがある。自分たちが汚泥に塗れたことが、金持ちにとっては僥倖になる。これは決して比喩でも何でもなく、資本主義社会における極まった搾取の構造の一つである。これは韓国版の『 万引き家族 』ならぬ『 寄生家族 』であり、下剋上でもある。

 

ポン・ジュノ監督の要請に従ってネタばれは避けるが、中盤と終盤に素晴らしいドンデン返しが待っている。特に終盤のとあるキャラの豹変の理由を、とある感覚に求めたところは秀逸であると思う。映画は基本的に映像で見せるものであり、時に音声を聴かせるものでもある。見た目や話し方をどれだけ取り繕っても、存在そのものが放つものはごまかしようがない。それは行動や言動の否定ではなく、存在の否定である。耐えがたい屈辱である。『 ジョーカー 』、『 ボーダー 二つの世界 』に続く、虐げられた者にフォーカスした傑作外国映画がここに誕生した。

 

ネガティブ・サイド

富裕一家の長男の“解読作業”はどうなったのだろう。また、あれだけの金持ちがセンサーの不良と疑われるものをあれだけ長く放置するだろうか。そのあたりに上手い説明がなかったのが気になった。

 

序盤のミニョクとギウの友情はニセモノだったのか。ミニョクを裏切るにしても、もう少しギウに葛藤が欲しかった。『 ジョーカー 』のアーサー・フレックは、環境や状況によって道を踏み外さざるを得ないところに追い詰められた。もちろん本人の病気の問題もあったが、それは本人の人間性とは関係がない。ギウの人間性に疑問符がつくような描き方は、本作が目指す「社会構造の欺瞞を撃つ」というテーマを薄めてしまっている。

 

総評

お隣の韓国もなかなかに大変なようである。というか、放っておくと日本もこうなるのは火を見るよりも明らかである。家族という共同体の強固さと社会的な連帯の弱体化は比例するのか反比例するのか。貧富の格差が固定化された身分として定着してしまった時、第二の「フランス革命」が起きることすら予感させる。韓国発のこのサスペンスは、先進国にとって非常に示唆的な作品になっている。2020年、必見だろう。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

スポイラー

映画の冒頭で監督から「ネタばれ厳禁」のお願い、キャストから「劇場マナー守ってね」メッセージがあったのだが、ポン・ジュノ監督は「ネタばれ」を「スポイラー」と言っていた。つまり、英語のspoilerである。韓国語にはネタばれにあたる語がないのかもしれない。そういう時には、外来語をそのまま使うのが賢いのだろう。劇中でも日本語が最低2回出てくる。一つはとあるガジェットの文字、もう一つは日本発の特定のタイプの人間を指すinternational languageである。といってもsamuraiやninjaではない。詳しくは劇場でどうぞ。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, サスペンス, ソン・ガンホ, チェ・ウシク, パク・ソダム, 監督:ポン・ジュノ, 配給会社:ビターズ・エンド, 韓国Leave a Comment on 『 パラサイト 半地下の家族 』 -韓国社会の分断を象徴的に描く-

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