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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 時代劇

『 侍タイムスリッパ- 』 -時代劇への愛に満ちた傑作-

Posted on 2024年9月23日2024年12月2日 by cool-jupiter

侍タイムスリッパ- 80点
2024年9月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山口馬木也 冨家ノリマサ 沙倉ゆうの
監督:安田淳一

単館上映から全国ヒットした『 カメラを止めるな! 』の再来と聞いてチケット購入。確かに近年まれにみる傑作だった。

あらすじ

時は幕末。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は討幕派の長州藩士との決闘の最中、落雷を受けて標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった・・・

ポジティブ・サイド

現代人が過去、特に戦国時代にタイムスリップする邦画はいくつも製作されてきたが、江戸時代の武士を現代に連れてくるというのは相当に珍しいのではないか。このアイデアだけでも本作には価値がある。

ゴリゴリの会津藩士、すなわち保守派の武士の新左衛門を山口馬木也が好演。話しぶり、立ち居振る舞い、表情、すべてが武士だった。普通ならこんな石頭の守旧派がタイムスリップ、特に未来へのそれに順応できるはずがないのだが、飛んだ先が時代劇の撮影現場で、なおかつ見覚えのある寺が目と鼻の先にあったことが幸いした。なによりも武士の本懐(武士道とは死ぬことと見つけたり)を果たせる仕事としての斬られ役、これに出会えたことが大きい。徳川幕府の世が終わって140年。佐幕派の会津藩士としては斬る側よりも斬られる側になるべきだろう。

新左衛門とその周囲の人間とのドラマも見せる。助監督の優子寺の住職やその妻、さらに剣心会の師範らが、妙な男だと思いながらも新左衛門に親身に接していく様はそれだけで現代人が忘れかけている優しさを思い起こさせて、ほっこりとして気持ちになれた。

タイムスリップものとしてはお約束の展開が中盤に起こるが、この人物を巻き込むことで、コメディ風のドラマが一気にシリアスなものとなる。忘れてはならないが、新左衛門は死に場所を見失った武士なのである。最後の最後の殺陣のシーンは圧巻の一語に尽きる。低予算映画ゆえにスタントやCGなどを使わず、それゆえに生身の迫力を生み出せていた。

時代劇には大道具、小道具、ヘアメイク、メイクアップに、役者の独特の所作(その最たる例はもちろん殺陣)など、映画作りの基本的な要素がふんだんに詰め込まれている。かつての怪獣映画、とくにモスラやキングギドラなどは10人がかりでピアノ線を使って操演していたと言うが、これは今やロスト・テクノロジー。もちろん、古典的、伝統的なものすべてを保存しなければならないとは思わないが、日本映画の土台を維持するためにも時代劇には生き残ってほしいと本作によってより強く思わされた。

映画を作るという映画にハズレなし。このジャンルにまたも傑作が生み出された。ぜひチケットを購入して劇場鑑賞されたし。

ネガティブ・サイド

幕府滅亡から140年ということは2007年。確かにキャラクターたちはガラケーを使っていた。が、冒頭で出てきた看護師さんがナースキャップをかぶっていたのは何故?ナースキャップは2000年頃にはほとんど姿を消していたはず。現代でも時代考証は必要だ。

新左衛門がケーキの美味しさに感涙するシーンでは、説明的なセリフは不要だった。新左衛門の心情を観客の想像力に委ねる作りの方が良かったのではないかと思う。

総評

年間ベスト級の傑作である。役者の演技が際立っていて、脚本にも穴がなく、ストーリーのテンポもよく、軽妙な部分は軽妙に、重厚な部分は重厚に仕上がっている。何よりも人間ドラマとして優れている。NHKの『 歴史探偵 』で「戊辰戦争と会津」を少し前に観たこともあり、新左衛門という人間のバックグラウンドが頭にあったことも大きかった。もちろん、背景知識や時代劇に関する造詣がなくとも本作は楽しめる。時代劇はちょっと・・・という向きにも自信を持ってお勧めできるヒューマンドラマの傑作である。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

choreography

振付の意。映画ではしばしば fight choreography と dance choreography が重要で、その専門家も多数いる。本作の sword action choreography には必見である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 愛に乱暴 』
『 ヒットマン 』
『 シュリ 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 冨家ノリマサ, 山口馬木也, 日本, 時代劇, 沙倉ゆうの, 監督:安田淳一, 配給会社:ギャガ, 配給会社:未来映画社Leave a Comment on 『 侍タイムスリッパ- 』 -時代劇への愛に満ちた傑作-

『 みをつくし料理帖 』 -サブプロットをもう少し整理すべし-

Posted on 2020年10月18日2022年9月16日 by cool-jupiter

みをつくし料理帖 70点
2020年10月17日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:松本穂香 奈緒
監督:角川春樹

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201018222131j:plain
 

『 ハルカの陶 』や『 僕の好きな女の子 』の奈緒、『 わたしは光をにぎっている 』や『 君が世界のはじまり 』の松本穂香が出演している。それだけの理由でチケット購入を決定。テレビの時代劇は10数年前に韓流に押し流されたが、銀幕の世界の時代劇はまだまだ踏みとどまっている。

 

あらすじ

享和年間。大坂の地で幼馴染として育った野江(奈緒)と澪(松本穂香)。数奇な運命に翻弄され、野江は花魁に、澪は丁稚の料理人として江戸にあった。互いがそこにいることも知らずに・・・

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ポジティブ・サイド

最初の舞台となる天神橋は、Jovianの職場の文字通り目と鼻の先である。それだけで親近感が湧いてくるのだから現金なものである。

 

本作はまず東西文化論として、話がよくよく練られている。上方は薄味、関東は濃口という特徴を上手く説明している。いまでも大阪、特に天満あたりの乾物屋や包丁研ぎには「日本の庶民の味の原点は昆布なんやで」と言い切る人が多い。Jovianもその意見に賛成である。関西と関東の文化を比較対照しながら、それらをケンカさせずに上手く融和させる澪の手腕は、現代社会に対してもなにがしかを訴えかけてくる。

 

上方と江戸の味を見事に融合させた澪がつるやを繁盛させていく様は爽快である。それまで澪の料理に辛辣だった馴染みの客たちがコロッと手のひら返しをするところは痛快ですらある。江戸っ子というのは関西人、なかんずく京都人に比べると単純ですなあ。大阪人は計算高さがあるが、それをおくびに出さない。そのあたりの澪の葛藤のようなものを、窪塚洋介演じる武士・小松原が適度にガス抜きしてやるのも一種の様式美になっていて心地よい。藤井隆演じる滝沢馬琴的な戯作家も、江戸っ子と関西人を足したようなキャラクターで、映画の空気にマッチしていた。

 

本作は松本穂香のこれまでの出演作の中でベストであろう。特に、一通の簡素な手紙ですべてを悟った澪の表情、そしてその後の剣幕は演技面でも彼女の白眉。野江との再会シーンの「コーンコン」のシャレードは、様々な人に支えられながら気丈に生きている澪が、それでも心の奥底で最も頼りにしていたのは野江だったことを何よりも雄弁に物語っていた。そしてそれは野江にしても同じ。芸妓・遊女の最高峰の太夫となっても、その心の奥底にいるのは常に天満橋の野江ちゃんである。故郷の味、そして幼少期の味が、彼女を現実の世界につなぎとめているのかと思うと、それだけで胸がつぶれそうに思えてくる。

 

料理のビジュアルも美しいし、長屋町や遊廓の再現度も悪くない。主役級の二人の脇を固める俳優たちが、誰も出しゃばってこないのもいい。背景知識が全くなくても、目の前のキャラクターに十分に感情移入できる。時代劇はまだ死んではいない。

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ネガティブ・サイド

細かいツッコミから始めるなら、小松原様の2度目か3度目のつるやからの退場シーン。提灯を持って帰るのを忘れておりますぞ。

 

いくら洪水後の混乱の炊き出しの場とはいえ、いきなり子どもを連れ去るごりょんさん、これでは人さらいと変わらないではないか。実際にそのように連れ去られ売り飛ばされたのが野江なのだろうが、だからこそ澪はしっかりとした人に引き受けられていったというシーンにすべきだった。おそらく小説やドラマ版に慣れ親しんだ人向けにダイジェスト的にまとめたのだろうが、映画から入った人間には、ごりょんさんも人さらいに見えてしまいかねない。幼い澪の名前や素性を尋ねるぐらいはすべきだった。

 

元々は大部の小説、そして連続テレビドラマだったものを2時間少しの映画にするのだから、ストーリーの軸をもう少し固めた方が良かった。小松原との師弟関係的な淡いロマンスなのか、源斉との地に足の着いた関係の発展なのか、それとも登龍楼との対決なのか、つるやの継承とさらなる発展なのか。澪と野江との関係は不動のメインプロットで、サブプロットをどのように組み立てるのかに、もう少し脚本および監督は神経を使ってもよかった。

 

総評

『 居眠り磐音 』は世間的な評判は散々だったが、Jovianは面白いと感じた。本作も同じで、テレビドラマ版にあまり馴染みがないので、そのぶん素直に本作を受け止めることができた。確かに粗が見えないわけではないが、江戸の庶民の暮らしぶりや故郷を遠く離れた人間の郷愁の念、なによりも一途な友情がストレートに描かれている。奇をてらった邦画が量産される中、本作のような真っ正直な作品は逆に貴重ではないか。時代劇だからと敬遠せず、多くの映画ファンに観てほしい作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

save one’s life

日本語には「命の恩人」という名詞句が存在するが、英語にはそれにあたる名詞および名詞句は無い(少なくともJovianの知る限りは)。そのように表現したい場合はシンプルにsave one’ lifeを使う。

 

あなたは命の恩人だ。

You saved my life.

 

映画やドラマでかなり頻繁に使われている表現なので、少し意識すればどんどん聞こえてくるだろう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, 奈緒, 日本, 時代劇, 松本穂香, 監督:角川春樹, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 みをつくし料理帖 』 -サブプロットをもう少し整理すべし-

『 決算!忠臣蔵 』 -忠臣蔵をよく知らない人向けのコメディ-

Posted on 2019年11月24日2020年4月20日 by cool-jupiter
『 決算!忠臣蔵 』 -忠臣蔵をよく知らない人向けのコメディ-

決算!忠臣蔵 65点
2019年11月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:堤真一 岡村隆史
監督:中村義洋

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Jovianの出身地、兵庫県は一体感に欠ける地域である。元々、但馬・丹波・播磨・摂津・淡路の五カ国がくっついて生まれた県なので、当然と言えば当然である。神戸は別格としても、全国的に知られているものとして姫路市の姫路城、西宮市の甲子園、宝塚市の宝塚歌劇団、明石市のタコと鯛と子午線、淡路島の玉ねぎ、丹波の黒豆、城崎の温泉などが挙げられる。これらに負けず劣らずの知名度を誇るのが赤穂の塩、そして赤穂浪士たちである。大河ドラマや二時間ドラマとして数限りなく生産されてきた赤穂浪士たちを、ゼニカネの面から描き直す。これは非常にユニークな試みである。

 

あらすじ

赤穂藩主の浅野内匠頭は江戸城にて吉良上野介に刀傷を負わせた咎で、幕府に切腹を申しつけられ、お家断絶、知行召し上げとなった。喧嘩両成敗の原則を無視した幕府に、大石内蔵助(堤真一)ら赤穂浪人たちはお家再興か、仇討ちかで揺れる。しかし、勘定方の矢頭長介(岡村隆史)らの計算では、経済的な余力はとてもなく・・・

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ポジティブ・サイド

今という時代に出るべくして出た作品である。経済格差の拡大がいかんともしがたく、社会の大部分に閉塞感が蔓延している時世に、一服の清涼剤になっている作品である。赤穂の志士たちは、いわゆる「無敵の人」との共通点が多い。しかし、彼らを討ち入りに駆り立てたものは本質的には武士のプライドである。「君に忠」という精神である。自身の尊厳が傷つけられた代償を、自分よりも弱い人間や無関係な人間に求める傾向の強い「無敵の人」とはそこが異なる。

 

またサラリーマンの悲哀とも重なる描写が多い。前線の営業部隊は「もっとこっちにカネ回せよ、こっちは体を張って仕事をしてるんだ」と言い、後方の管理運営部門は「後先考えず湯水のようにカネ使ってんじゃねー、てめーらの足りねー脳みそをこっちが補ってるんだ」と言っている。現実にそこまでギスギスした会社は少ないだろう。だが、程度の差こそあれ、似たような対立の構図はどこの会社や組織にも見られるだろう。番方と役方、どちらの側に肩入れして観ても楽しめる。

 

限られた予算がどんどんと吹っ飛び、徐々に人=コストに見えてくるのは滑稽であり、虚しくもあり、悲しくもある。大石内蔵助に共感することで、経営者の視点をシミュレートできると言ってもいい。雇用者にとっても被用者にとってもリストラは苦しいものである。しかし、赤穂浪士たちはすでに幕府によってリストラされた存在。そうした者たちがさらにリストラをされるということの悲哀を、本作はユーモアたっぷりに描き出す。不謹慎にも笑ってしまった。

 

終盤の評定(ひょうじょう)は、集団心理の危うさを端的に示している。当初7000億円とされていた某国のオリンピック開催費用は、いつの間にやら3兆円とも4兆円とも囁かれるまでになっている。何故このような馬鹿げた事態が起きてしまうのか、その舞台裏では赤穂の浪人たちのような盛り上がり優先の空気があったからではないか。随所で現代をユーモラスに批評する時代劇コメディの佳作に仕上がっている。

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ネガティブ・サイド

残念ながら忠臣蔵のストーリーをある程度知っている人ならば、オチというか経費削減のための逆転ネタに驚きが感じられない。例えば、大坂夏の陣の真田幸村およびその部隊が赤備えであったことはよく知られている。同じように赤穂浪士たちの討ち入りの装束についても知識があれば、大逆転のアイデアのインパクトが弱まってしまう。

 

部屋住みの子どもたちが堀部安兵衛に駆け寄るシーンがあるが、この時の子どもたちが露骨にカメラを避けるように動いていた。目の前に何も障害物が無い場所で、いきなりひょいっと脇に動いていく動きは不自然極まりない。編集で何とかならなかったのだろうか。

 

冒頭で阿部サダヲが登場しているせいか、後半の大石内蔵助の遊廓通いが『 舞妓Haaaan!!! 』に見えてしまった。実際、和装の舞妓をバックハグするシーンは、同作にそっくりの構図が見られた。オマージュのつもりかもしれないが、オリジナリティの欠如に見えた。

 

討ち入りに直接は関わらない赤穂浪士の数が多く、キャラクター間の人間関係や上下関係を把握するのに少し苦労する。また、序盤以降はコメディのほとんどを大石内蔵助の関西弁と顔芸に頼っており、その他キャストが輝きを放てていない。

 

エンドクレジットのシーンで絵巻などでもよいので、見事に吉良を討ち取ったことを伝える画が欲しかった。本作が最もエンターテインできる観客は、赤穂事件を名前ぐらいしか知らないというライトな層なのだから、その結末までしっかりと伝える義務があると思う。

 

 

総評

財務面から赤穂事件を再構築するのは文句なしに面白い試みである。そして実際に本作は面白い。サラリーマンであれ、経営者であれ、それぞれの視点で楽しめることだろう。ただし、時代劇や歴史そのものに詳しい映画ファンを唸らせる作りにはなっていない。本格的な赤穂事件の前日譚を期待しているような人はその点をよくよく注意されたし。案外と高校生や大学生カップルのデートムービーに適しているかもしれない。

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Why should I let them kick sand in our faces?

 

大石内蔵助の言う「何でここまでコケされなアカンねん」という台詞の私訳である。UsingEnglish.comに秀逸な説明があったので引用する。

 

sand kicked in your face means to be insulted by someone or something you are powerless to fight back against.

 

顔面に砂を蹴り込まれる=誰か、もしくは何かに、反撃する力を持っていないとして侮辱されること、の意である。この表現は『 ボヘミアン・ラプソディ 』でも歌われた“We are the champions”の歌詞にも出てくる。英語学習の上級者ならば知っておいても損はない慣用表現である。

おまけ

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矢頭長介の墓

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大阪市内の淨祐寺

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, コメディ, 堤真一, 岡村隆史, 日本, 時代劇, 監督:中村義洋, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 決算!忠臣蔵 』 -忠臣蔵をよく知らない人向けのコメディ-

『 居眠り磐音 』 -“陽炎の辻”前日譚、または坂崎磐音は如何にして脱藩して浪々の身になったか-

Posted on 2019年5月19日2020年10月18日 by cool-jupiter

居眠り磐音 75点
2019年5月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:松坂桃李 芳根京子 南沙良
監督:本木克英

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山本耕史から松坂桃李へと確かにバトンは受け渡された。長谷川平蔵や水戸光圀など、役者を変えながらシリーズを存続させていく、あるいはリメイクし、あるいはリブートするというのは古今東西で用いられてきた手法である。それが奏功する場合もあれば、盛大に失敗することもある。テレビドラマから銀幕へと移ってきた本作はどうか。成功である。

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あらすじ

江戸勤番を終えた坂崎磐音(松坂桃李)とその仲間達。幼馴染であり、これからは祝言を挙げて義理の兄弟にもなろうという時に、ちょっとした行き違いから互いに斬り合うことに。親友を斬ってしまった磐音は、妻となるべき奈緒(芳根京子)の元をも去り、江戸で浪々の身になっていた。そんな時、磐音に両替屋の用心棒にならないかとの誘いがあり・・・

 

ポジティブ・サイド

まずは何をおいても、ピエール瀧の代役を務めた、というよりも取り直しによって作品の質をさらに高めてくれた(勝手にそう断言させてもらう)奥田瑛二に満腔の敬意を表したい。『 ゲティ家の身代金 』で、ケビン・スペイシーの代役を務めたクリストファー・プラマーと同じく、彼の仕事は本作の骨格をより太くしてくれた。

 

そして芳根京子と奥田瑛二が相対するシーンでの彼女の涙。喜怒哀楽は演技の基本にして究極だが、芳根がこのロングのワンカットで流す涙は、『 君の膵臓をたべたい 』で北村匠海が桜良の家で流す涙のドラマチックさに匹敵する。芳根には、今後はあまり女子高生役などは引き受けることなく、本格路線を目指してほしい。その時は、Joviam一押しの南沙良も一緒に連れて行ってあげて欲しい。

 

そして山本耕史からのバトンを見事に受け継いだ松坂桃李も称えたい。ドラマ版では柄の部分をシャキーンと持ち変えて開眼するスタイルだったのを、剣をまるで杖であるかのように扱う様が妙にシネマティックで銀幕に映えたのは、松坂の雰囲気と撮影監督の手腕であろう。また磐音が強すぎないのも良い。ドラマ版を毎回欠かさず観ていたわけではないが、昼行灯の磐音の描写は映画版の本作の方がより説得力があった。鰻を黙々と捌く手つきに職人気質がありありと感じられながら、長屋暮らしには生活感が欠けており、生活力がありそうなのに無い、しかし仕事はきっちりやるという、磐音の本質が見事に描写されていた。そんな磐音のチャンバラでも、適度に負傷するのも良い。何食わぬ顔で「浅手じゃ」と、おこんに告げるところでも、実はこの男が木刀剣術、道場剣術のみの男ではないことを間接的に告げており、心憎い演出。今、日本映画における侍ヒーローと言えば、坂崎磐音か緋村剣心だろう。

 

監督は『 空飛ぶタイヤ 』で、巨大な組織と個人との関わりについて非常に大きな示唆を残した本木克英。今作では江戸幕府や豊後藩という巨大な体制と、江戸の町人連中の中に生きる浪々の侍を活写した。会社勤めのサラリーマンが思わぬ形で同期を危地に追いやってしまい、それを苦にした本人も退職。フリーター生活を送るうちに、大企業や政府の巨大な陰謀を巡る、一般庶民の代理権力闘争に巻き込まれていくという具合に読み替えていくこともできた。それもこれも、磐音の剣の実力と、実直さ、誠実さ、勤勉さといった人間力に依るところが大きい。腕は立つが決して無敵ではなく、頭は切れるが、決して利得のみを計算することはしない。この新時代のヒーローは、社畜サラリーマンの心にかなりの確率で突き刺さるだろう。

 

ネガティブ・サイド

まずはトレーラーや予告編がよろしくない。ほとんど全部、話の筋がばれてしまっているではないか。特に奈緒を花魁にするシーンなどは、予告編には無用だろう。また、その奈緒が豊後の国家老の宍戸文六の“援助交際”の申し出を断るシーンは剣劇さならがの迫力だったが、全体を通して見ればノイズだったのかもしれない。

 

銭の妖怪と化した柄本明も凄みを見せつけるが、断末魔が間延びしすぎだ。磐音のトラウマを抉るような発言などしなくとも、観る側は人を斬るたびに磐音がトラウマを呼び起こされることなど百も承知である。受け手をもっと信頼した作りにしてもらいたい。熱演すればするほど、ストーリーテリングを壊してしまっていた。

 

また磐音と幼馴染たちの一人称が一定していないところも少し気になった。冒頭では「オレ」なのに、その後は「ワシ」になっていた。

 

総評

細かい部分に不満はあるものの、素晴らしい作品に仕上がっている。奈緒とおこんを巡る続編も観てみたいし、その時はパラレルワールドな展開を夢想したいと思う。芳根京子に奥田瑛二と来ると、どうしても『 散り椿 』を思い出されるが、侍のパトスとエートスについては本作の方が上質な描写をしている。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 南沙良, 日本, 時代劇, 松坂桃李, 監督:本木克英, 芳根京子, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 居眠り磐音 』 -“陽炎の辻”前日譚、または坂崎磐音は如何にして脱藩して浪々の身になったか-

『 散り椿 』 -傑作に成り切れなかった作品-

Posted on 2018年10月16日2019年11月1日 by cool-jupiter

散り椿 50点
2018年10月13日 大阪ステーションシネマにて鑑賞
出演:岡田准一 西島秀俊 麻生久美子
監督:木村大作

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散り椿

すっかりアイドル路線から俳優路線にシフトした岡田准一である。しかし、出身地である大阪府枚方市ではご当地ひらパー園長を務め、大真面目に面白おかしいひょうきん兄さんを演じる好漢でもある。ヒット作品もイマイチな作品も、岡田准一なのだからと妙に納得できる力をつけてきている。そして、出番こそ少ないものの麻生久美子である。『 ぼくたちと駐在さんの700日戦争 』では男子高校生の欲情を微妙に、絶妙にそそる駐在妻を演じ、『 シーサイドモーテル 』では娼婦を、『 モテキ 』、『ニシノユキヒコの恋と冒険』、『 ラブ&ピース 』あたりでは幸薄い大人の女を演じるなど、常にそこはかとない色気を振りまいてきた麻生久美子である。これだけで映画の成功は半分は約束されていたはず、だったが・・・

 

あらすじ

剣の達人にして清廉の武士、瓜生新兵衛(岡田准一)は、藩の上層部の不正を届け出た。しかし調査の最中、ある藩士が殺害された。その下手人としての疑いが新兵衛にかけられたことで、新兵衛は、妻の篠(麻生久美子)と共に出奔。それから八年、篠の死を看取った新兵衛は、藩政の正道化を目指すかつての仲間にして出奔の原因ともなった榊原采女(西島秀俊)のいる国もとを訪れる。藩政の行方が懸かった権力闘争に、新兵衛も巻き込まれていく・・・

 

ポジティブ・サイド

殺陣の迫力と、その長回しでの収録には恐れ入った。西部劇にドンパチ対決がなくてはならないように、時代劇には必ず殺陣がなくてはならない。その殺陣を、編集の力を極力借りることなく一気に描き切り、撮り切ったことに、役者、照明、音声収録、カメラオペレーターらの苦労を思い知る。武士を描く、もしくはチャンバラを描く映画は定期的に生み出されるが、これほどしっかりとした時代劇は『 一命 』以来である。

 

岡田准一の存在感は相変わらず高いレベルで安定している。本来ならば馬を称えるべきなのだろうが、暴れ馬を一瞬で御してしまうシーンを冒頭に持ってくることで、新兵衛は単なる剣術馬鹿なのではなく、一廉の武士であることを明示した。これがあることで悪代官の権化のような石田玄蕃(奥田瑛二)と対峙しても、その格を保っていられる。また悪役側の雄たるべき新井浩文の役に対しても格上であることを観客に一瞬で知らしめた。これこそが映画の技法である。

 

篠の妹の里美(黒木華)や、新兵衛や采女の盟友の娘、美鈴(芳根京子)らの女優陣も作品に落ち着きと生活感をもたらしている。『 クレイジー・リッチ! 』でも顕著であったが、ある特定の地域や時代、もしくは家庭や生活の背景を物語る際に、家政のシーンを描写するというのは非常に効果的である。もしくは『 万引き家族 』を思い出しても良いだろう。あのごちゃごちゃした空間は、生活レベルの低さ、貧しさを言葉ではなく映像で如実に説明した。本作も里美が忙しなく動き回るシーンをいくつか挿入することで、新兵衛が帰ってきた藩、そして家に生活感があることが感じられる。最愛の妻を亡くした新兵衛が、落ち着いて逗留できる場所を見つけられたことの新兵衛の安堵の気持ちを、縁側のシーンで鮮やかに描き切った。これもまた映画の技法である。

 

ネガティブ・サイド

一方で、指摘しておかねばならない弱点もある。物語が余りにも特定の人物の周辺だけで展開されている。農民のために新田を開墾するというのなら、武家の坂下家だけではなく、ほんの数ショット、時間にして20秒で良いので藩の農民の生活ぶりを映し出す必要があったと思う。それがあれば、後半の殿の江戸からの帰還の重みと采女の心情と信条の強さがより際立ったであろうと思う。

 

もう一つ残念なのは、後半に颯爽と登場する殿がデウス・エクス・マキナになるのかと期待させながら、狂言回しにすらならないことだ。また石田玄蕃の終盤での行動の必然性が分からない。何故あそこで、このキャラクターを狙ったのか。それは玄蕃の思惑というよりも作者の思惑だ。物語を進め、ドラマを盛り上げたい以上の意図が読み取れない事件が発生するのである。ここから本作は一挙に陳腐化する。水戸黄門であれば印籠を出して最後にシャンシャンで済むわけであるが、本作はテレビドラマではなく、小説を基にした映画である。殺陣の迫力のみでクライマックスを押し切ってしまうのは大したものと言えなくもないが、悪役の玄蕃の言動や行動原理が首尾一貫せず、また死に様にも美しさが無い。もっと陳腐な死に方でよいのだ。結局は小物だったのだから。もしくは福本清三や、あるいは斬られ侍の藤本長史が決して出来ない(してはならない)顔芸で死んでいっても良かった。クライマックスに至る過程とその決着の必然性と美しさの欠如が、本作から大きく減点しなくてはならない要素になってしまっている。

 

最後にもう一つ細かい点を追加するなら、雪のシーンは何とかならなかったのだろうか。黒と白のコントラストは映画館では特に映えるものだが、そこに映像美以外のものが込められていなければ、それは製作者の自慰に過ぎない。手を血で染め、愛する人もなくし、友を支えることもできずに悶々とした日々を過ごして新兵衛と、前途に洋々たる希望を抱く若武者の坂下藤吾(池松壮亮)が対比されるシーンがあったが、これで良いのだ。逆にオープニング早々の雪がしんしんと降るシーンは画としては美しくとも、映画としては失敗であると断じさせていただく。

 

総評

時代劇というのは年々難しくなっているジャンルである。水戸黄門すら打ち切られて久しい。今後も戦国時代をパロディ化した原作を基に映画を作るというトレンドは続くと思われるが、本格的な時代劇映画の再興は遠いと思われる。が、岡田准一、西島英俊というキャスティングからも、製作者たちは本作をカジュアルな女性ファンにも届けたいと願っているのは明白である。そうした層に向けてのヘビーな絵作り、ライトな物語というのであれば、納得できないことはない出来である。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, 岡田准一, 日本, 時代劇, 監督:木村大作, 西島秀俊, 配給会社:東宝, 麻生久美子Leave a Comment on 『 散り椿 』 -傑作に成り切れなかった作品-

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  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に 匿名 より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に cool-jupiter より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に イワイリツコ より

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