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『空飛ぶタイヤ』 -奇跡でもなく、ジャイアント・キリングでもなく-

Posted on 2018年6月18日2020年2月13日 by cool-jupiter

空飛ぶタイヤ 70点

2018年6月17日 MOVIXあまがさきにて観賞
出演:長瀬智也 ディーン・フジオカ 岸部一徳 笹野高史 寺脇康文
監督:本木克英

 

『 TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ 』以来の久しぶりの長瀬智也である。あの「マザァファッカァァーーーーーーッ!!!!」の長瀬智也である。我々はもっとはっちゃけた長瀬を観たいのだが、この作品で長瀬は、演技力という技術ではなく、リアリティというか存在感で大いに魅せる。それは中小企業の赤松運送の社長ながらホープ自動車という大企業を相手に一歩も引かず、最後には勧善懲悪的に勝利を収めるからではない。むしろ、長瀬の人間としての至らなさや苦悩を今作は冒頭の5分である意味描き切っている。長瀬は決して超人的な体力、知力、精神力、リーダーシップを持った人間ではなく、本当にそこかしこにいるような中小企業の社長なのだ。そこには先入観もあり、誤りもあり、逡巡もあり、後悔もある。つまり、極めて人間的なのだ。今作が描こうとしたのは、人間の強さは、弱さに飲み込まれないところにあるということでもあるはずだ。

また『 坂道のアポロン 』で何故か妙に浮いていたディーン・フジオカは本作ではスーツとネクタイの力を借り、若くして大企業の課長職を務めることで説得力ある存在感を発揮した。大企業では往々にして血も涙もないようなタイプが上に行きやすいが、観る者にあっさりと「ああ、コイツもその類か」と思わせる職場での所作は見事。芝居がかった演技も、ムロツヨシと並ぶことで中和されていた。この男は多分、スーツ以外の衣装を着こなすことはまだできない。が、ポテンシャルはまだまだ十分に秘めているし、良い脚本や監督との出会いでいくらでも上に行けるに違いない。

それにしても、これは元々の題材となった事件があまりにも有名すぎて、WOWOWでドラマ化までは出来ても、銀幕に映し出されるようになることは予想していなかった。本作で思い出すことがある。Jovian自身、とある信販会社で働いていた頃、〇菱〇そ〇の会社員から「不良品作りやがって、このヤローー!!」と電話口で怒鳴られたことがある。一瞬カチンと来たが、すぐに冷静さを取り戻し、「ああ、この人もきっと全く関係ない人にこうした言葉を浴びせかけられたのだろうな」と分析したことを覚えている。組織の中では、個の意思は時に無用の長物にさえなってしまう。その個の意思を貫こうとすることで、思いっきり冷や飯を喰らわされることもありうる。超巨大企業などは特にそうだろう。かといってそれは中小企業でもありうることだということは、佐々木蔵之介の役を見て痛切に感じさせられた。

これは中小企業と大企業の闘い、というよりもゲマインシャフトとゲゼルシャフトの闘い、と言い表すべきなのかもしれない。なぜなら長瀬演じる赤松社長は資金繰りに奔走し、カネの誘惑に溺れかけてしまうところもあるし、長年一緒に戦ってきた戦友に去られてしまう場面すらある。一方でディーン・フジオカ演じる沢田は、実は濃密な人間関係を社内に持っていて、彼らと共闘もするからだ。我々は何を軸に人間関係を構築し、何を信念に行動していくのか。問われているのは、大企業や中小企業の在り方だけではなく、個の生きる指針でもあったように思う。

今作はエンドクレジットが微妙に短く感じられたが、気のせいだったのだろうか?それにしてもつくづく凄いなと唸らされるのは、映画製作に関わる人間の数とその職種の多様さ。このキャスティングが長瀬ではなく山口だったらと思うとぞっとする。そんなことさえ思えてしまうほどの、大作であり力作である。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, ディーン・フジオカ, ヒューマンドラマ, 日本, 監督:本木克英, 配給会社:松竹, 長瀬智也

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