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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 日本

『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

Posted on 2025年6月15日2025年6月15日 by cool-jupiter

国宝 80点
2025年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:吉沢亮 横浜流星
監督:李相日

 

李相日監督作品ということでチケット購入。3時間が苦にならない重厚長大なドラマだった。長引く風邪と仕事の突発的な事案のため簡易レビュー。

あらすじ

極道の父親を失った喜久雄(吉沢亮)は、歌舞伎役者の家に引き取られ、そこで兄弟同然の仲となり習性のライバルとなる俊介(横浜流星)と出会う。歌舞伎の道に邁進する二人だったが、やがてある出来事が転機となり、袂を分かつようになり・・・

ポジティブ・サイド

喜久雄が任侠の跡取り息子から国宝に成り上がるまでの50年間は見応え抜群。歌舞伎の良し悪しは判断しかねたが、役者が役者を演じることの重みは十分に伝わってきた。

 

順調にキャリアを積み上げてきた喜久雄が、思いがけず転落していく最中で見せた屋上での踊りは『 ジョーカー 』を髣髴させた。

 

本作のテーマは、芸とは才か血かというもの。もちろん、この命題に絶対の答えなどない。ただ本作は、才の極みが血を残すのかどうかについて興味深い視点を提供したとは言える。

 

劇中劇の中でも特に『 曾根崎心中 』が良かった。Jovianの出身地の尼崎は近松門左衛門と縁が深く、近松公園は散歩コースかつ時々縁台将棋にも参加させてもらっている。また、死ぬことになる遊女のお初は、梅田近辺にオフィスを持つ企業のサラリーマンなら、露天神社で一度は目にしたことがあるはず。舞台も大阪だし、大阪人や大阪近辺の人間こそ鑑賞すべき作品である。

ネガティブ・サイド

時代のせいだと言えばそれまでだが、女性キャラがそろいもそろって物語上のガジェットのようだった。なぜそこでその男に惚れる?なぜそこでその男についていく?そんな疑問だらけ。

 

また糖尿病もある意味で大活躍。確かに1980年代、1990年代は40代以上の男性の10人に1人(100人に1人ではない)は糖尿病予備軍だと言われていたが、糖尿病悪化で吐血?会社員ではないが、お前ら年に一度の健康診断ぐらいは自腹で受けろ、と感じた。

総評

ある意味、顔で生きてきた吉沢亮が、遂に本物の代表作を手に入れた。歌舞伎という誰もが知りながら、誰も知らない世界をこれほど活写した作品はこれまでなかったし、これからも出てこないだろう。『 ハルカの陶 』の国宝はあまり国宝らしくなかったが、本作の描く人間国宝は国宝の輝きを放っている。ぜひとも大画面、大音響の劇場で鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Living National Treasure

ナショナル・トレジャーといえばニコラス・ケイジを思い出すが、これに living をつけることで、生きている国宝、すなわち人間国宝を意味する。Jovianが知っている人間国宝は中村吉右衛門以外では桂米朝、金重陶陽、藤原啓ぐらい。皆さんが思い浮かべる Living National Treasure は誰だろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』
『 JUNK WORLD 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 吉沢亮, 日本, 横浜流星, 監督:李相日, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

Posted on 2025年6月4日2025年6月4日 by cool-jupiter

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』 50点
2025年5月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:奥平大兼 出口夏希
監督:中川駿

 

『 君の膵臓をたべたい 』の住野よる原作、『 カランコエの花 』の中川駿監督ということでチケット購入。期待はやや裏切られた感じ。

あらすじ

大塚京(奥平大兼)は三木直子(出口夏希)に恋心を抱いていた。しかし、一方で単なるクラスメイトの男子としてのポジションにも満足していた。しかし、不登校だったとあるクラスメイトが学校に帰ってきたことで、京の周囲の人間関係が少しずつ動き出し始めて・・・

ポジティブ・サイド

はっきりとは覚えていないが、Jovianは保育園の年長ぐらいまでは、自分の気持ちも他人の気持ちも目に見えていた。より正確に言うと、AがBに怒っていると、AからBに赤い光線が走る、CがDに感謝しているとCからDに白い光線が走る、のように見えていた。まあ、イマジナリーフレンドのようなもので、自分だけに見えて、自分だけにリアルに感じられるものだったのだろう。小学校に入学したとたんに一切見えなくなったが、特にそれでショックを受けたような記憶もない。けれど、そうした見方をする子どもがいて、その子がそのまま成長したら・・・という想像は容易。なので、本作のキャラクターたちの「他人の気持ちが視覚化されて見える」という隠し事には素直に共感できた。

 

単に主人公とヒロイン、じゃなかったヒーローの二人の関係だけを追求する物語ではなく、5人組がアンサンブルキャストになっている点が良かった。若さとは省みないことたが、逆に省みすぎてしまうことでもある。青春時代、好きになってしまった相手に猪突猛進した人もいれば、好きになってしまったがゆえにその相手に対して身動きが取れなくなってしまった、なぜなら自分は相手にまったくふさわしくないから、と信じ込んでしまった人もいるだろう。本作は後者の集まりで出来ている。それが心理的な駆け引きではなく、それぞれの隠し事によるものだという点が興味深かった。

 

好きという感情もあれば、その反対に嫌いという感情もある。いや、マザー・テレサ風に言えば好きの反対は無関心か。誰かを嫌いになれるのも、それだけ相手を気に掛けているから。あるキャラがやや屈折した考え方(考え方であり、決して感じ方ではない点に注意)から一歩引いたところにいるのだが、これは古典的でありながらも現代的。『 カランコエの花 』のような価値観は本当に遠くのものになってしまったのだとしみじみ実感する。

ネガティブ・サイド

京のしゃべりがボソボソ、モゴモゴで聞き取りにくかった。監督の演出なのだろうか。はっきりとボソボソしゃべってこそ演技と言える。

 

ヅカにはパラ相手の見せ場はあったものの、一人だけ掘り下げが圧倒的に少なかったのは、原作がそうだからなのか、それとも脚本でそうなってしまったのか、はたまた編集の都合なのか。

 

主人公二人の特殊能力が、特に何もドラマを生まないのが一番の不満。他人の心理がある程度わかってしまう。だからこそ自分を抑えてしまうというのは、個人的には若さよりも老いを感じさせる。

 

ミッキーと京の距離が縮まるのがあまりにも唐突過ぎ。なんなら、不登校だったエルと京の間のドラマこそ盛り上がるべきだった。というか、女子からしたら男子にシャンプーを変えたことに気付いてもらえるというのは、メチャクチャ嬉しいか、メチャクチャ気持ち悪いかの二択。だからこそ、そこを追求するサブプロットがあってしかるべきだった。

 

全体的に5人が非常に閉じた世界に敢えて引きこもっているという印象を受けた。何の変哲もないクラスメイトの女子または男子が「お前らの両想い、バレバレだぜ?」みたいに一瞬だけ割り込んでくれば、もっとリアルになったように思う。

 

総評

羊頭狗肉は言い過ぎかもしれないが、「君の秘密を知ったとき、純度100%の涙が溢れ出す。」という宣伝文句は、看板に偽りありとの誹りは免れない。原作小説はしっかりしているのだろうか。中川駿監督の得意とするウソが下手な若者の像は描き出せている。ただ住野よるのテイストが出ていたかというと疑問。鑑賞するなら期待しすぎず、普通の青春群像劇でも観るか、ぐらいのノリでいた方が良い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

dry up

干上がるという意味以外にも「言葉が出なくなる」という意味もある。He suddenly dried up in the middle of the presentation. =彼はプレゼンの最中に突然黙ってしまった、のように使う。プレゼン中でも商談中でも授業中でも、dry up は怖いものである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 国宝 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, 出口夏希, 奥平大兼, 日本, 監督:中川駿, 配給会社:松竹, 青春Leave a Comment on 『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』 -青春の痛々しさが爆発する-

Posted on 2025年5月14日2025年5月14日 by cool-jupiter

今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 75点
2025年5月10日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:萩原利久 河合優実 伊東蒼
監督:大九明子

 

『 勝手にふるえてろ 』や『 私をくいとめて 』の大九明子監督の作品ということでチケット購入。

 

あらすじ

友人がほとんどいない大学生の小西徹(萩原利久)は、ふとしたことから気になっていた桜田花(河合優実)に声をかける。二人は瞬く間に意気投合し、仲を深めていくが・・・

 

 

ポジティブ・サイド

全然キラキラしていない大学生を見ると、つい自分を思い出す・・・というわけでもないが、萩原利久演じる小西は非常に感情移入しやすい。おもいっきり乱暴に彼のキャラを例えるなら、『 新世紀エヴァンゲリオン 』の碇シンジと、ゲーム『 ファイナルファンタジーVIII  』のスコールを足したような奴である。

 

そこに同級生の桜田花と、バイト先の仲間であるさっちゃんが絡み、甘酸っぱい青春の始まりを予感させながら、物語は急遽暗転する。ある程度予想通りだが、緩急のつけ方が上手い。

 

大九明子監督の作品の中ででは、『 勝手にふるえてろ 』の松岡茉優然り、『 私をくいとめて 』能年玲奈然り、とことんまで物語る女性キャラが出てくるものが当たりである。そして本作は当たり。今回物語るのは伊東蒼。表情やしぐさがわざとらしすぎる女の子なのだが、あるシーンでは表情を一切見せずに独白しきるシーンは圧巻の一語に尽きる。『 さがす 』や『 世界の終わりから 』で見せた独特の存在感を、本作でもいかんなく発揮している。

 

本作はところどころで不可思議な映像が挿入されるが、数々の伏線と共にその意味が明らかになる展開には唸らされた。これは脚本の勝利。伏線については、ぜひ目だけではなく耳も済ませてほしい。

ネガティブ・サイド

よくわからない点が二つ。1つはさっちゃんの大学。出町柳が最寄り駅ということは京都大学?あの交差点は、あの交差点やし・・・ 偏見かもしれないが、京大生が銭湯でバイトするというのは現実離れしているような。

 

2つには、洗濯機の埃やら何やらを回収するメッシュの袋。あれを好きな女子の前に持って来ることができる感性にドン引き。いや、その気持ちを否定しているのではなく、なぜこのアイテムを原作者はわざわざ選んだのか。キモイにもほどがある。

 

総評

傑作とまではいかないが良作であるのは間違いない。チケット購入時はスカスカだったのに、当日は完売していた。そして観客の大半が若いカップル。おそらくほとんど全員関大生だったのだろう。表情から満足度の高さが読み取れた。実はJovian妻も関西大学の卒業生で、法学部と文学部があるから法文坂というような蘊蓄を色々と教えてもらった。別に関大生である必要はない。若い世代、あるいはかつての青っちょろい自分が嫌いではないという人にお勧めできる作品に仕上がっている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I know you haven’t the slightest interest in me.

直訳すれば「あなたが私に一切興味がないことを知っている」となる。劇中で非常に印象的なセリフの一つ。普通は you don’t have the slightest interest と言うが、ブリティッシュは割とhave動詞を今でも使うし、アメリカ人でもこのような表現を好む者(作家のマイケル・ルイスなど)もいる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 サンダーボルツ* 』
『 金子差入店 』

 

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Posted in テレビ, 国内Tagged 2020年代, B Rank, ラブロマンス, 伊東蒼, 日本, 河合優実, 監督:大九明子, 萩原利久, 配給会社:日活, 青春Leave a Comment on 『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』 -青春の痛々しさが爆発する-

『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

Posted on 2025年5月6日 by cool-jupiter

うぉっしゅ 65点
2025年5月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中尾有伽 研ナオコ
監督:岡﨑育之介

 

『 異端者の家 』を観るはずが、レイトショーがやっておらず、急遽こちらのチケットを購入。意外にしっかりした作りだった。

あらすじ

ソープで働く加那(中尾有伽)は、母の突然の入院治療のため、遠方の祖母、紀江(研ナオコ)の介護を一週間だけ引き受けることになる。しかし紀江は認知症のため加那のことを覚えておらず、毎回初対面のように振る舞う。そうして昼は介護、夜はソープという加那の奇妙な生活が始まって・・・

ポジティブ・サイド

めちゃくちゃ久しぶりに研ナオコを見た気がする。おそらく10年ぶりぐらいか?ナチュラルに老人になっていて、自分自身が年を取ったと実感する。そして研ナオコ演じる紀江の認知症は母方の祖母の認知症とそっくり。祖母も90過ぎてからは会うたびに「誰?どこから来た?仕事は?」と聞いてきたっけか。最初は少なからずショックを受けたが、おふくろからとある話を聞いて納得した。そしてその話とほとんど同じことを劇中でとある人物が語ってくれた。

 

本作で真に迫っていたのは紀江だけではない。他のキャラクター、特に隣家のおばさんと風俗店のボーイは際立っていると感じた。他にもホストに入れ込むソープ嬢仲間や、ソープ業界から足を洗おうという仲間も印象的だった。ああいう業界の人間関係はドライに見えてウェット、ウェットに見えてドライだと想像するが、現実もきっとそうなのだろう。

 

介護の場面でも、入浴介助のシーンだけ生き生きする加那には説得力があったし、介護のあれこれを動画で学ぶのも『 アマチュア 』と同じく現代っぽさを感じさせた。特に薬を飲むことを拒否する高齢者というのは、看護の現場でもあるあるだった。

 

加那がソープ嬢として客に忘れられること、そして孫として祖母に忘れられることの痛みを受け入れる転機は生々しかったし、それだけに説得力があった。会いに来るのを待つというのと、こちらから会いに行くということの違いをこれだけ鮮明に打ち出した作品は、ロマンスものですら珍しいと思う。

 

認知症は認知機能の衰えであって、感情は残るとされている。徘徊老人という言葉は数十年前からあるが、彼ら彼女らがどこに向かっているのかを追究しようとした作品としても本作はユニーク。昔の研ナオコを知っているオールドファンからすれば、一瞬だけだが非常に気分がアゲなショットも用意されている。

 

職業に貴賎なし。スティーブ・ジョブズの言葉を借りれば、Love what you do となるだろうか。自分を肯定できれば、相手も肯定できるのだ。

 

ネガティブ・サイド

ベッドで上半身を持ち上げてからの端座位への移行が、ぶっちゃけ下手くそだった。腕力を使ってはダメ、きゃしゃな女性なら尚更。最初にうまく行かず、そこでプロの指導動画を観る、のような流れであれば自然だった。ちなみに実践的には、自分から遠い方の相手の肩を抱いて少し自分側に引いてやり、その反動で相手を少し押す。そこで生まれた遠心力を使って、相手の尻を起点にサッと回してやるのがコツである。

 

名取さんのご高説は興味深かったものの、介護業が長かったのなら、家族が一番というのは必ずしも現実ではないと分かるはず。たとえば『 博士と彼女のセオリー 』などからも明らかだし、実際にそうだからこそ直接の家族でなくとも介護の貢献が認められた者にも相続権が認められる特別寄与制度も整備された。家族論には色々あるし、それは大いに語られるべきだが、本作のそれは少し的外れに感じられた。

 

総評

ソープと介護という一見して共通点がなさそうなものを見事に結び付けた珍品。だからといって程度が低い作品ではない。サブキャラのサブプロットも無理のない範囲で掘り下げられているし、それが主人公キャラに深みを与えている。セクシーなシーンはあっても、エロいシーンはないので、高校生、大学生のカップルでも鑑賞に支障なし。親が上手に説明できるならという条件付きで、ファミリーで鑑賞するのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Nice to meet you.

はじめまして、の意。初対面の相手には、まずはこれを言おう。SlackやZoomで話したことはあっても、直接に合うのは初めてという場合は、Nice to meet you in person. や Nice to meet you face to face. のように言おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』

 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, コメディ, ヒューマンドラマ, 中尾有伽, 日本, 監督:岡崎育之介, 研ナオコ, 配給会社:ナカチカピクチャーズLeave a Comment on 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

Posted on 2025年4月21日2025年4月21日 by cool-jupiter

片思い世界 40点
2025年4月18日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:広瀬すず 杉咲花 清原果耶
監督:土井裕泰

 

『 花束みたいな恋をした 』の土井裕康監督作品ということでチケット購入。事前情報はほとんど仕入れずに臨んだが、思っていた作品ではなかった。

あらすじ

美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)の3人は仕事、大学生活、アルバイトに勤しみながら、共同生活を送っていた。ある日、美咲が心寄せる幼馴染みの男性を見つけたことから、優花とさくらは美咲に告白を促すが・・・

 

以下、わずかなネタバレあり

ポジティブ・サイド

設定自体は割とありふれている。パッと思いつくだけでも



『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』

『 アザーズ 』

『 ザ・メッセージ 』

 

などが思い浮かぶ。本作のユニークなところは、それを3人娘の物語にしたところ。美咲、優花、さくらの三人が異なるパーソナリティを持っていて、それぞれに愛する人、会いたい人、憎むべき人を追っていくというサブプロットも悪くない。

 

魂魄この世にとどまりて怨み晴らさでおくべきかと言うが、生きていればどうしたって未練が残る。それは思慕の念であったり怨念であったりする。それを昇華して生きることの難しさや美しさが本作では存分に描き出される。

 

ストーリーに没入してもいいし、単純に目の保養のためにチケット購入するのもいいだろう。

ネガティブ・サイド

冒頭の回想シーンで「イマジナリーフレンドかな?」と思い、清原果耶の帰宅シーンで「ん、〇〇か?」と予感し、的中。もう少し導入部分を上手く組み立てられなかったか。

 

設定を必要以上に説明しようとするのは完全に蛇足であると感じた。おそらく『 TENET テネット 』にインスパイアされたのだと思われるが、脚本家は量子力学と素粒子物理学を弁別できていない。前者はミクロのレベルでは物理現象は量子化(離散的な値しか取れない)されるという前提に立つ学問で、後者は超ミクロの粒子は様々な力によって相互に作用することを研究する学問。両者は等価ではない。にもかかわらず、他世界解釈的な描写(それ自体が矛盾しているのだが)があったりと釈然としない。また素粒子物理の講義なのにシュレディンガー方程式を扱ったハンドアウトが配布されたりしている。何故だ?

 

また、3人が互いには触れ合えるのに他人に対してそうではないというのは、素粒子物理学で言うところの斥力のように感じられて興味深かったが、そうであれば3人は一定の距離以上には離れられないといった制約があればより説得力があった。

 

ラジオ放送も意味不明。ここのサブプロットは不要だった。もしくはここを追求するのであれば、合唱コンクールを録画あるいは録音した音声に子どもたち以外の声があった、という方がプロット上はより整合性が感じられるのではないだろうか。

 

優花の母の暴走を母の愛以上に描けたはずだが、そうしなかったのか、できなかったのか。「理由を知りたい」というのは実はエゴで、理由ではなく、理由を知ろうとすることそのものが自分の生きる理由になる。『 ゼロ・ダーク・サーティ 』でも、憎むべき敵をついに追い詰めた時、主人公の胸に去来したのは充実感ではなく喪失感だった。人間とは往々にしてそういうもの。もっと人間のドロドロの情念に踏み込んでほしかった。

 

美咲の書いたオペラは美しいのは美しいが、10代前半で可能な描写ではない。

 

総評

不条理な世界の設定を詩や戯曲を通じて語るのはよい。しかし、サイエンスを絡ませるのならそこも徹底すべきである。あるいはサイエンスはすべて排除すべきだった。物語世界の設定は悪くないのだから、そこに生きるキャラを徹底的に描写すべきで、世界がどうなっているのかを追究するのは不要だった。鑑賞する際は、キャラクター達だけに集中のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

relocate

引っ越しする、の意味。moveよりも少しフォーマル。I am scheduled to relocate to Tokyo due to my job transfer. のように使う。語彙力増強のためには類義語を覚えるのが早道だが、その際、レジスター(カジュアルな表現なのかフォーマルな表現なのか)を意識できれば中級者以上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』
『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ラブロマンス, 広瀬すず, 日本, 杉咲花, 清原果耶, 監督:土井裕泰, 配給会社:リトルモア, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

『 バンパイアハンターD 』 -孤高の戦士像の頂点-

Posted on 2025年3月4日 by cool-jupiter

バンパイアハンターD 80点
2025年3月2日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:田中秀幸
監督:川尻善昭

 

念願の theatrical re-release ということでチケット購入。

あらすじ

遥かなる未来。科学文明は衰退し、人類は貴族と呼ばれるバンパイアの食料だった。しかし、バンパイアにも種としての寿命が来つつあり、人類はバンパイアを刈るハンターの存在を渇望した。そこにバンパイアと人間の混血児、ダンピールのD(田中秀幸)が現れ・・・

ポジティブ・サイド

たしか小学生ぐらいの頃に最初の映像化作品をテレビで観た記憶がある。Dが気絶していて、左手が地面をザクザク掘って、空中に向かってビームを発射してたかな。その場面の前後だけを見て、後で新聞のテレビ欄で『 吸血鬼ハンターD 』だと知った。ということで、実は本作は今回初めて観たが、素晴らしいクオリティだった。

 

まず天野喜孝のDのデザインのクオリティが高い。青白い顔に全身黒ずくめ、そして漆黒の馬を駆る姿はゴシック的ファッションの一つの極致だ。半人半妖または半人半魔という存在はゲゲゲの鬼太郎からデビルマンまで数多くいるが、そうしたキャラクターの中でもトップクラスに、というかダントツで一番のカッコよさである。また、謎の人面瘡に規制された左手は、寄生獣を想起させるし、悠久の時の中を孤独に彷徨し続けるという点で『 BLAME! 』の霧亥にも影響を与えていてもおかしくない。漫画『 CLAYORE 』の元ネタも本作(というか『 吸血鬼ハンターD 』)なのではないかと個人的に思っている。

 

アニメーションは美麗で、CGなどは当然なし。古いと言えば古いのだが、科学文明の退廃した世界と中世暗黒時代の社会を融合させた世界観は、CGというテクノロジーでは再現できないように思われる。

 

マイエル=リンクとシャーロットの関係も深い。食う側と食われる側で深い友情や愛情が成り立つのか、もっと言えば搾取する側の上級民と搾取される側の下級民が結ばれるのかというテーマを内包していて、今という時代に劇場再公開される意味がここにもある。

 

シャーロット奪還を目指す別のバンパイアハンターのマーカス兄弟も、咬ませ犬と見せかけて相当な実力者。マイエル=リンクやバルバロイの手練れたちの激闘は見応えがあった。Dと闘い、時にはDと共闘関係にもなる中で、レイラとDが絶妙の距離感に落ち着く展開も味わい深い。その伏線も馬を売ってくれる爺さんと言う存在によって巧妙に張られているなど芸が細かい。

 

マイエル=リンクとDの決着も実に興味深かった。ダンピールという半分人間、半分バンパイアが人間と駆け落ちしようとするバンパイアを討とうとする。そこには大きな矛盾があるが、その矛盾を超えた敵の存在と、その矛盾が矛盾ではなくなる筋立てには唸らされた。

 

エンディングも印象深い。死ぬべき人間と半不死のD、交わることはできなくとも、尊重し合う、理解し合うことはできるのだという終わり方は、現代日本社会の在りように対してのメッセージになっているのではないだろうか。

ネガティブ・サイド

Dと馬の関係を見てみたかった。どんな悪路も踏破し、どんな場所でも果敢に突っ込んでいく名驥に育っていくのかという描写がほしかった。

 

黒幕のカーミラがちょっと呆気なかった。もっと重々しいキャラでいてほしかった。

 

総評

ファンタジーとSFのマリアージュにして、ゴシックホラーの傑作。貴族と人間という階級差、そして混血児としてどちらの出自にも完全に属すことができない男という設定は、現代において更に深みを増している。日本語吹き替え版では数々の名優の演技も堪能できる。上映が延長になったというニュースも聞こえてくるほど好評なので、ぜひ多くの方に鑑賞いただきたいと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bounty hunter

賞金稼ぎの意。考えてみれば、仕事を通じて金を得ているという意味では我々はみな賞金稼ぎだと言えるかもしれない。特にITや教育といった分野は独立しやすく、かつ様々な案件を他の同業者たちと奪い合うという意味ではまさに賞金稼ぎと言えるかもしれない。そんな風に働いてみたいと思ったり思わなかったり・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 プロジェクト・サイレンス 』
『 コメント部隊 』
『 ゆきてかへらぬ 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2000年代, A Rank, SF, アニメ, ファンタジー, ホラー, 日本, 田中秀幸, 監督:川尻義昭, 配給会社:日本ヘラルド映画Leave a Comment on 『 バンパイアハンターD 』 -孤高の戦士像の頂点-

『 メイクアガール 』 -娯楽性なし、哲学性なし-

Posted on 2025年2月27日 by cool-jupiter

メイクアガール 20点
2025年2月23日 Tジョイ梅田にて鑑賞
出演:堀江瞬 種﨑敦美
監督:安田現象

 

人工知能+ロボットものということでチケットを購入するも、こんな disastrous な作品だったとは・・・

あらすじ

天才少年科学者の水溜明(堀江瞬)は、研究者としての壁にあたって悩み苦しんでいた。ある時、彼女ができたことでバイト先でのパフォーマンスが2倍になったと友人に聞かされた明は、自分にもガールフレンドがいれば研究者として殻を破れると確信し、人造人間「0号」を生み出すが・・・

 

ポジティブ・サイド

第一人類がいわゆる普通の人類、第二人類が明のようなサイボーグ・・・という表現が適切でなければ、体の一部を機械化した人類ということになるか。そして第三人類は、いわゆるホムンクルスということなのだろう。この設定だけは気に入った。仕事で毎日のように生成系AIをぶん回している身としては機械に意識や知性が宿るとは思えない。うちの上司も「意識や知能は脳またはDNAにしか宿らない」という趣旨のことを言っていて、Jovianも概ね同意する。そうした意味で第三人類という区分だけは興味深かった。



ネガティブ・サイド

いつまでこうしたオタク作品は『 新世紀エヴァンゲリオン 』に阿り続けるのか。綾波レイ的な0号に惣流アスカ的なクラスメイト。これだけでハーっと大きなため息が出てきた。そして『 GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 』のフチコマのパクリとしか思えないソルトというガジェット。オリジナリティはないのか。影響を受けるのは結構だが、それを乗り越えようという気概が微塵も感じられないではないか。

 

また主人公の明も研究者のパフォーマンスを心得違いしている。情報科学的にAIを研究するにしろ、工学的にロボットを開発・改良するにせよ、求められるのは作業効率ではなく一種のブレイクスルーあるいはパラダイムシフトである。そこを完全にはき違えている主人公には呆れるしかなかった。

 

科学的な部分はSFエンタメなので目をつぶれるが、色々とおかしな構図もちらほら存在していた。たとえばバイト先で笑顔を上手に作れないという0号が、ようやく客のもとに給仕するシーン。客に笑顔を見せることに胸をなでおろすバイト仲間たちだが、そこから見えるのは0号の背中。どうやって表情を見たのだろう。そういった不可解な構図のシーンがいくつもあった。

 

キャラクターもぶれている。猫背でシャキシャキと歩けない明が、突如として謎の身体能力を発揮する展開には白けるしかなかった。

 

本作の最大の欠点は、明と0号の関係性の描写が完全に的外れだったところにある。第一にクラスメイトとバイト先の先輩の恋愛模様の描写あるいは説明が圧倒的に不足していた。たとえば二人でカラオケに行った、ボーリングに行った、ショッピングをした。初めて手を握った、初めてハグをした。そうした関わり方一つひとつでバイトだったり、あるいは勉強だったり部活だったりに身が入った。それを見た明が0号と一緒に疑似デートをする。しかし何かが違う。そうした違和感の積み重ねから、自分が本当に必要としていたのはガールフレンドではなく母親、あるいは母性あふれるガールフレンドだったことに気付いた明は・・・という展開なら、ストーリーにもっと説得力やリアリティが生まれていたはず。

 

作品の質とは直接に関係がないが、客層も非常に悪かった。とにかく予告編の前も予告編の最中もずっとしゃべっているオタク集団がいて、本編開始直前に別の客から「うるさいよ」と声を掛けられるまでしゃべり続けていた。彼が注意しなければJovianが注意していたことだろう(座席はだいぶ離れていたが)。さらに帰りのエレベーターでもネタバレお構いなしにしゃべり続けている。『 レディ・プレーヤー1 』の帰りでもオタク客たちがのべつ幕無しに劇場外でもしゃべり続けていたが、オタクにも最低限の社会性は必要だろうと改めて考えさせられた。

 

総評

一人で脚本やら演出やら監督やらで大変という意味では『 侍タイムスリッパ- 』や『 ごはん 』の安田淳一に通じるものがある。しかし、こちらの安田監督には人間に対する考察が少し足りないという印象を持つ。人造人間とまではいかずとも、浅いレベルでなら人間と違和感なくコミュニケーションが可能なAIが出現しているという時代に本作を送り出すというセンスは悪くない。主人公の明と同様、もう少し健全な世俗の歓楽を経験することが必要かもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You can’t make an omelette without breaking (some) eggs.

劇中でとあるキャラが「犠牲なしには成果は出せない」というようなことを言っていたが、英語にはそれにぴったりの表現がある。それが上の「卵を割らずしてオムレツは作れない」という慣用表現。someはあってもなくてもいい。無しで言う方が多いかな?チーム内に不破が生じたものの、目標としていた売り上げを達成できた、というような時に使ってみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 マルホランド・ドライブ 』
『 バンパイアハンターD 』
『 プロジェクト・サイレンス 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, E Rank, SF, アニメ, 堀江瞬, 日本, 監督:安田現象, 種﨑敦美, 配給会社:角川ANIMATIONLeave a Comment on 『 メイクアガール 』 -娯楽性なし、哲学性なし-

『 幻魔大戦 』 -ペーシングに難あり-

Posted on 2025年2月24日 by cool-jupiter

幻魔大戦 40点
2025年2月22日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:小山茉美 江守徹 古谷徹
監督:りんたろう

 

小学校3~4年生の頃、テレビで観た記憶がある。または親父が借りてきたレンタルビデオだったか。久しぶりに鑑賞して、正直なところ少しがっかりさせられた。

あらすじ

宇宙のあらゆる生命を破壊せんとする幻魔大王の魔の手が地球に迫る。トランシルバニア王国のルナ(小山茉美)は、銀河の彼方からのサイボーグ戦士ベガ(江守徹)と共に幻魔一族と戦うため地球のサイオニクス戦士たちを集めようとして・・・

ポジティブ・サイド

世紀末思想華やかなりし1980年代という感じが懐かしかった。また当時はテレビでも普通にイカサマ超能力がもてはやされていた時代で、『 スター・ウォーズ 』の理力(本当に初期はフォース=理力、ライトセイバー=電光剣、ジェダイ=共和騎士などと訳されていた)にいたく感動していたJovian少年は、サイオニクス戦士たちの闘いにハラハラドキドキしたのを覚えている。

 

人間が幻魔に乗っ取られ変態する、というのは漫画『 ゴッドサイダー 』の下級デビルサイダーの描写に影響を与えたように思う。また、アニメーション全般に『 AKIRA 』や『 迷宮物語 』の「ラビリンス*ラビリントス」との共通点や類似点も感じ取れたのが興味深かった。『 ターミネーター2 』製作前の『 アビス 』のような、一種の実験的作品だと感じられた。

 

ネガティブ・サイド

とにかく語り口がもたもたして、テンポが悪すぎる。1時間50分あるいは2時間ちょうどに収めるためにも、丈の恋人やら友人のパートはもっとカットできたはず。その一方で仲間となる地球のサイオニクス戦士たちの描写の量も非常にアンバランス。すべてのキャラに平等に時間を割く必要はない。『 11人いる! 』ぐらいのバランスで各キャラの背景などを描き出すことはできたはず。

 

幻魔の地球侵攻の描写がほぼゼロ。というか幻魔が地震や津波などの天変地異を起こせるなら、それこそサイオニクス戦士はまったく歯が立たないのでは?

 

また愛と勇気が力をもたらすという、ある種のアンパンマン的な思想は時代の反映なので仕方がないにしても、肝心の丈の愛への目覚めが死にそうになっていた動物たちを助けたいという気持ちだったというのは拍子抜け。というか、恋人(の姿をした幻魔)を死なせたり友人(の姿をした幻魔)を死なせたりしているが、実際の恋人や友人はその裏ではかなり高い蓋然性で死んでいるわけで、そうした者たちへの愛情や愛着はなかったのか?

 

どこか噛み合わないBGMに本物のクラシック音楽を使った劇伴が、それほど悪くないはずの作画のクオリティまで低く見せてしまっている。まあ、アニメ監督の大家りんたろうの肥しとなったクソ作品として受け取ろう。

 

総評

リバイバル上映された劇場では50~60代と思しき映画ファンたちが何故か真ん中の列にかたまっていたな。ノスタルジーを感じる目的で鑑賞するならOKだが、面白さを求めてはならない。一種の考古学的な態度で視聴するのが正しいスタイルと言えようか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Absolute zero

絶対零度の意。『 ゴジラ×メカゴジラ 』の機龍の最終兵器の名前もアブソリュート・ゼロ、つまり絶対零度兵器だった。ビデオゲームなどでも絶対零度はよく出てくるが、英語でも日本語でもとにかく中二病感のあふれる字面である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 マルホランド・ドライブ 』
『 バンパイアハンターD 』

 

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Posted in 未分類Tagged 1980年代, D Rank, SF, アニメ, 古谷徹, 小山茉美, 日本, 江守徹, 監督:りんたろう, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 幻魔大戦 』 -ペーシングに難あり-

『 ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ 』 -IT要素は極めて薄め-

Posted on 2025年2月22日 by cool-jupiter

ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ 50点
2025年2月15日~2月19日にかけて読了
著者:瀧羽麻子
発行元:集英社

 

最寄り駅の本屋でたまたま目についたので購入した本。

あらすじ

高校生の誠のもとにはネット関連の依頼が寄せられる。しかし、実際に技術的なトラブルシューティングを担当するのは幼馴染の小夜子だった。ある時、学園のマドンナ的存在から秘密の掲示板での誹謗中傷に関して誠は相談を受けるが・・・

 

ポジティブ・サイド

高校に教えに行った経験は数えるほどしかないが、確かに今の世代はネットにどっぷり、というか現実の世界とネットの世界が地続きであると捉えているように感じられる。だからこそ秘密の掲示板での誹謗中傷やら、試験問題へのハッキングなどの各エピソードがリアルに感じられた。

 

恋愛模様も健全で、サブプロットではあるがメインプロットではない。あくまでも小夜子と誠は幼馴染みで、パートナーで、そして共犯関係なのだ。このあたり、読み手によっては恋愛よりも深い人間関係を見出せるはず。

 

具体的な章立てはされていないが、割と明確に毎回の事件とその解決の描写がされているので無理のないペースで読める。

 

ネガティブ・サイド

ハッキングに対するテクニカルな描写はゼロ。別にゴリゴリのIT的な描写を望んでいるわけではない。人間はパスワードをこんな風に設定しやすいだとか、こんな風に使いまわしているのだとか、そんな程度で良いのだがそれも無し。

 

中盤にアノニマスを想起させるハッカー集団の話があるが、連中はねずみ小僧的な義賊ではなく、離合集散型の愉快犯のグループ。ジュブナイル小説っぽい本書の描写は、一部読者を勘違いさせはしまいかと少し心配になった。

 

最後のエピソードはオチというか裏側があまりにもあからさま。『 エンダーのゲーム 』と言えば、ほとんど分かるだろう。この作品自体、多くの先行作品のパロディと言えばパロディなので、まさに古典的なオチだと言えなくもない。見え見えすぎたけど。

 

総評

米澤穂信の小市民シリーズ的なものかと思ったら、もっとライトだった。これをイージーリーディングと取るか、薄っぺらいと取るかで評価がかなり分かれそう。先行する女子、それについて行く男子という構図が好きなら、ちょっと古いが小川一水の『 第六大陸 』がお勧め。こちらは多少のフィクションを交えつつも、ガッツリ技術的なポイントの描写がなされていて読み応えは抜群である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

admire

作中に Hello Sayoko. We respect your skills. という英語が出てくるが、正直なところ respectには敬服するという意味は薄く、どちらかと言うと「大切に思う」という意味が強い。 Can you respect my privacy, please?というのは、Jovian自身が大学の寮で言ったこともあるし、言われたこともある。敬服するに最も近い英語はadmireで、これは驚異の念をもって見るの意。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 幻魔大戦 』
『 マルホランド・ドライブ 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2010年代, D Rank, SF, 日本, 発行元:集英社, 著者:瀧羽麻子, 青春Leave a Comment on 『 ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ 』 -IT要素は極めて薄め-

『 大きな玉ねぎの下で 』 -特定の世代に刺さる秀作-

Posted on 2025年2月22日 by cool-jupiter

大きな玉ねぎの下で 70点
2025年2月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:桜田ひより 神尾楓珠
監督:草野翔吾

 

タイトルでピンと来たのでチケット購入。業務繁忙期につき簡易レビュー。

あらすじ

昼はケーキ屋兼カフェ、夜はバーという店で、昼のアルバイトの美優(桜田ひより)と夜のアルバイトの丈流(神尾楓珠)は備品の発注や客の遺失物についてノートに綴るようになる。いつしか二人は互いの業務連絡を超えた内容もやり取りし始め、顔も名前も知らないままに惹かれ合うが・・・

ポジティブ・サイド

同じ桜田ひより主演作の『 交換ウソ日記 』よりもはるかに面白い。丈流との出会いのイベントにも伏線があったり、ノートの連絡相手が誰だか分かってしまうシーンの簡潔さと分かりやすさも良かった。

 

丈流もいつの時代の若者にも見られる一種のニヒリストでリアリティがあった。本人は「全て」という部分を強く否定したが、実態は「全ては偶然だから意味ない」論者。それが偶然の出会いから、少しずつ変わっていく過程も興味深く観ることができた。

 

ちなみに決定論と非決定論は西洋哲学でかつて盛んに論じられたが、このどちらにも意味はない。考え方のヒントになるのは、むしろ仏教の縁起思想だ。と思っていたところ、唐突に回想シーン。そう、本作はまさに仏教的な縁や、一種の輪廻転生思想をも包括した作品になっているのだ。

 

昭和から平成への移り変わりの時代も映し出され、色々なシーンやガジェットにノスタルジーを覚えた。またサンプラザ中野も一瞬だけ登場したりと、爆風スランプへのリスペクトも見せた。今どきの若者向けの作品に見えるが、実際は1970年代生まれに刺さる作品。同世代の男女よ、チケットを買おう。

 

ネガティブ・サイド

看護学校もしくは大学の看護学部に通いながらアルバイトするというのは可能ではあるが現実的ではない。というか実習期間中にもバイトをするなど狂気の沙汰。どんなに優秀でも担当患者の疾病について調べたり、SOAP記録をつけて翌日の看護計画を立てたりするだけで睡眠時間の半分は飛ぶ。美優は実家暮らしで、姉や母も看護師なのか?そうした描写はなかったが・・・

 

総評

こんなに面白いのに興行収入面が現時点でそれほど振るわないというのは残念。いわゆる氷河期世代ならタイトルだけで興味を惹かれるし、内容もガッツリ歌にインスパイアされたもので共感しやすい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

correspond

様々な意味を持つが、文通するという意味は死につつある。ただ業界や業種によってはコレポンという言葉で定着しており、相手と自分の間でなんらかのやり取りをするという意味はそこにもしっかり残っている。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 幻魔大戦 』
『 マルホランド・ドライブ 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, ラブロマンス, 日本, 桜田ひより, 監督:草野翔吾, 神尾楓珠, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 大きな玉ねぎの下で 』 -特定の世代に刺さる秀作-

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