あんのこと 75点
2024年6月15日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:河合優実 佐藤二朗 稲垣吾郎
監督:入江悠
旧シネ・リーブル梅田の頃にパンフレットを見て興味を抱いたのでチケットを購入。
あらすじ
学校にも六に通えず、母親から虐待されて育った香川杏(河合優実)は、売春と薬物使用の疑いで警察に逮捕される。しかし、そこで人情味あふれる刑事、多々羅(佐藤二朗)やジャーナリストの桐野(稲垣吾郎)と出会い、更生への道を歩み始めるが・・・
ポジティブ・サイド
よくもここまで暗い話を描けたものだと感心する。まるでよくできたた社会派の韓国映画を観ているようだった。それを可能にしたのは第一に脚本の力、次に役者の力だろう。
まず、2020年6月の朝日新聞の記事だが、これは無料登録すれば読めるので、ぜひ多くの人に(映画鑑賞後に)読んでほしい(読み終わったら、すぐに登録解除のこと)。コロナによって日本社会のセーフティネットの脆さが浮き彫りになったと言われるが、問題はそもそもセーフティネットにかからない人々が最初から一定数存在するということ。劇中でも小学校にすらまともに行けなかったという人が役所で体よく生活保護申請を却下されそうになるが、そもそも不登校の時点で登校を両親に促さない行政の怠慢があったはずなのだ。杏にしても同じこと。「自己責任」(小泉政権)やら「自助・共助・公助」(菅政権)という一種のスローガンで切って捨てるのではなく、言葉の本当の意味でのインクルージョンについて考えるべきではないのか。
ハナさんの人生の壮絶さは想像するしかないが、虐待、性被害、薬物使用など一人で現代社会の諸問題の総合商社をやっている杏というキャラクターの内面は想像すらできない。実際に、杏の心中がナレーションや字幕などで物語られることも一切ない。すべては杏の表情や立ち居振る舞いから推測するしかないが、河合優実は見事に演じきった。ネタバレになるので書けないが、親に愛されなかった自分を、自分自身で取り戻す機会などそうそうあるものではない。それを奪われた。絶望するには充分だ。この絶望感は観る側に間違いなく感染するだろう。
ネガティブ・サイド
ラストシーンが意味深。新たな家族の再生なのか。それとも新たな虐待親子関係の始まりなのか。どちらとも判断しかねるが、ここはどちらなのかを入江監督にはっきりと映し出してほしかった。『 MOTHER マザー 』のラストシーンもそうだったが、解釈を観る側にゆだねるのではなく、作家としてのメッセージを明確に示してほしかったと思う。
総評
鑑賞後、『 トガニ 幼き瞳の告発 』を観終わった時のような虚無感を覚えた。それだけ見る者の心に澱みを残す作品だと言える。『 ギャングース 』でも見られた入江監督の社会の底辺で生きる者たちへの眼差しは、本作でさらに透徹したものになったと評していいだろう。杏というキャラクター、そしてそのモデルとなった人物にどれだけ思いを馳せられるのか。想像力を試される作品だと言える。メンタルの調子を整えてから鑑賞されたし。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
abuse
アビューズと発音する。本作には三つの abuse が描かれている。一つは drug abuse = 薬物乱用、もう一つは child abuse = 児童虐待、最後に power abuse = 職権乱用である。いずれも全く良い意味ではないが、現代のニュースを英語で見聞きする際には、悲しいかな、必要な語彙である。
次に劇場鑑賞したい映画
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『 チャレンジャーズ 』
『 ザ・ウォッチャーズ 』