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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:KADOKAWA

『 首 』 -北野武の自伝映画-

Posted on 2023年12月6日 by cool-jupiter

首 65点
2023年12月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ビートたけし 西島秀俊 加瀬亮
監督:北野武

 

Jovianはまあまあ歴史好きで、日本史だと八切止夫の悪影響のせいか、明智光秀が好きである。ちなみに本作を鑑賞するにあたって歴史的な考証や学説を背景にして考えてはいけない。あくまでも北野史観、もしくは北野武の自伝として観るべきである。

あらすじ

天正七年。荒木村重は主君・織田信長(加瀬亮)に反旗を翻した。謀反を平定した織田軍では、重臣の明智光秀(西島秀俊)と羽柴秀吉(ビートたけし)が乱の首謀者の村重を捕縛すれば、信長の跡目になれると伝えられて・・・

 

ポジティブ・サイド

観終わって一番の感想は「これはたけしの自伝だな」だった。やることがすべて石原軍団や東京キッズの猿真似だったピートたけしが、やることすべてが信長の猿真似と言われた秀吉を演じているところからも、そのことがうかがわれる。男しか軍団に入れない「たけし軍団」の思想が本作にも色濃く投影されている。一部でBL色が強いという声もあるようだが、衆道や男色は別に安土桃山時代の専売特許ではなく、それこそ足利将軍時代から現代まで連綿と存在してきたわけで、それを指してBLと呼ぶのは少し違う気がする。むしろ、戦国時代の男たちの関係を描くことで、北野武が自らの思想を開陳したと見るべきなのだろう。火事で死亡したたけしの師匠・深見千三郎が本作における織田信長であることは火を見るよりも明らかだ。

 

映像は北野武作品らしいバイオレンスとユーモアに満ちている。それが命があっさりと消えてしまう戦国時代を非常にリアルに映し出していた。個人的に最も笑わせてもらったのが徳川家康と影武者。三方ヶ原の戦いの頃から影武者が何人もいたのは有名な話で、これでもかと刺客に狙われて、そのたびにどんどん影武者が死んでいく。男しか出てこない本作の中で、数少ない例外が柴田理恵か。夜伽の相手に一番の年増を選ぶ家康に笑ってしまうし、鬼の形相で家康に襲い掛からんとする柴田理恵にも笑ってしまう。もう一つ女性が出てくる場面は備中高松城。退陣していく羽柴軍を見て「メシの種が逃げていく」と焦る遊女たちにも笑ってしまう。

 

本作を別の視点から見る重要キャラに曽呂利新左エ門がいる。芸人の祖にあたる人物でカムイさながらの抜け忍。東西冷戦さなかのダブルエージェントのごとく、あちらこちらへ飛び回り、情報を仕入れてくる。また侍大将を夢見る百姓の茂助のキャラもいい。お笑い界の頂点を目指さんと青雲の志を抱き、アホながら一直線に駆け抜けるも・・・という、まさに現代お笑い界の芸人そのままの生きざま。

 

生え抜きだろうが外様だろうが、有能であればどんどん取り立ててきた信長が晩年には自らの息子たちに甘々になっていたのは近代の歴史学が明らかにしたところ。加瀬亮のキレっぷりばかりがフォーカスされているが、魔王としての信長と人間としての信長の両面を描いた作品は他にはなかなか思いつかない。『 利休にたずねよ 』が近いぐらいか。芸人としての師匠と人間としての師匠を重ね合わせていたのだろう。

 

物語を通じてこれでもかというぐらいに人が死ぬが、首にこだわって死んだ茂助と首に執着せず、結果的に天下を取った秀吉。この残酷なコントラストの意味するところは、誰を殺したかではなく何人を殺したかということ。お笑いで天下を取りたければ、審査員を笑わせるのではなく一般大衆を笑わせろ。ビジネスで天下を取りたいなら、特定クライアントではなく世間を喜ばせろ、ということか。

ネガティブ・サイド

秀吉や家康は信長よりかなり若いのだが、本作ではそこがおかしい。秀吉はビートたけしがどうしても演じたかったのだろうが、家康には40歳ぐらいの俳優で適任を探せなかったのか。

 

一部の役者の演技がワンパターン。というか、西島秀俊は誰を演じても西島秀俊。ニコラス・ケイジやハリソン・フォードと同じタイプの俳優やな。案外、椎名桔平あたりが明智光秀に合っていたかも。

 

秀吉、秀永、官兵衛の三人が喋るシーンはかなりの割合でアドリブが入っていなかったか。明らかにおかしな「間」が散見された。これが北野武流の映画作りだと言われれば納得するしかないが、面白さを増していたかと言われれば大いに疑問である。

総評

歴史的・史料的な正確性を過度に求めなければ十分に楽しめるはず。北野作品ということでグロテスクなシーン、暴力的なシーンもあるので、そこは注意のこと。本能寺の変という日本史上の一大ミステリの真相についても一定の答えを提示している点も興味深い。デートムービーには向かないが、時代劇好き・歴史好きな父親を持っていれば、たまにはご尊父を映画館に誘って、親孝行してみるのもいいだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

successor

跡継ぎ、継承者の意味。知っての通り、織田信長の権力基盤を受け継いだのは形の上では織田信雄だが、実質的な権力を継承したのは羽柴秀吉だった。本作ではしきりに跡目という表現が使われるが、英語で最も一般的に使われる跡目、跡継ぎは successor である。successor to the throne =王位継承者、successor to the business =事業承継者のように、前置詞 to を使うことを覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 市子 』
『 エクソシスト 信じる者 』
『 PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ 』

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, C Rank, ビートたけし, 加瀬亮, 日本, 歴史, 監督:北野武, 西島秀俊, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 首 』 -北野武の自伝映画-

『 渇水 』 -この流れは変わるのか-

Posted on 2023年6月17日 by cool-jupiter

渇水 75点
2023年6月11日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:生田斗真 磯村勇人 門脇麦 山崎七海 柚穂
監督:高橋正弥

 

簡易レビュー。

 

あらすじ

水道局員の岩切(生田斗真)は、水道料金未納者の自宅を訪れ、日々黙々と停水を執行していた。ある日、とある母子家庭で見かけた恵子(山崎七海)と久美子(柚穂)の姉妹に、別居して暮らしている我が子の姿を見出した岩切は、生き方の流れを変えたいと徐々に思い始め・・・

 

ポジティブ・サイド

生田斗真といえば『 土竜の唄 』シリーズのイメージが強いが、本作のような陰のある男の役も板についてきた。少し年の離れた相棒かつ友人の木田を演じる磯村勇人も等身大の公務員を好演した。

 

日照り続きで給水制限あり、断水も視野に入る中、一軒一軒を停水させていく。規則だからと言えばそれまでだが、手洗い所、風呂場、台所、トイレのすべてが使えなくなるわけで、健康で文化的な最低限度の生活を破壊する行為だろう。もちろんカネさえ払えばOKなのだが、借金の取り立ての方がまだ精神衛生を保てるのではないか。

 

そんな心を無にした公務員が、過酷な家庭環境・社会環境で生きることを余儀なくされる幼い姉妹に心動かされ、行動までも変えていく姿を感動的にではなく悲壮感たっぷりに描くところが独特にして秀逸。

 

門脇麦が出ている作品はだいたい面白いという個人的仮説がまた補強された一作。

 

ネガティブ・サイド

岩切の決定的な変わり目を描く滝のシーンで、ギターのBGMは必要だったか?うるさいだけに感じたが。

 

最後の最後がファンタジー展開。誰もが天気予報にかじりついているであろう状況で、あの展開は白けてしまった。

 

総評

着地に失敗した感は否めないが、そこまでの展開はほぼパーフェクト。姉妹二人で生きようとする姿は『 火垂るの墓 』の清太と節子を思い起こさずにはいられなかった。それを乾いた眼差しで見つめる男が、いつしか人間らしさを取り戻していく様は非常に見応えがある。生田斗真ファンならずともチケット購入を推奨したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

tap water

「水道水」の意。TOEICでもたまに出るかな?昔のTOEFL ITPだと、Listening の Part B で結構よく出ていた気がする。The tap is dripping / The faucet is leaking. = 蛇口から水道水がぽたぽた漏れている、という表現は知っておいていいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 水は海に向かって流れる 』
『 M3GAN/ミーガン 』
『 ザ・フラッシュ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 山崎七海, 日本, 柚穂, 生田斗真, 監督:高橋正弥, 磯村勇人, 配給会社:KADOKAWA, 門脇麦Leave a Comment on 『 渇水 』 -この流れは変わるのか-

『 ヴィレッジ 』 -ムラ社会のダークサイド-

Posted on 2023年4月23日 by cool-jupiter

ヴィレッジ 75点
2023年4月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:横浜流星 黒木華
監督:藤井道人

藤井道人監督ということでチケット購入。

 

あらすじ

片山優(横浜流星)は、死んだ父の犯した罪と母親の借金のために、故郷の霞門村で肩身を狭くして生きていた。ある日、ゴミ処理場で働く優は、東京から帰ってきた昔馴染みの美咲(黒木花)と再会することになり・・・

ポジティブ・サイド

能の場面、そして『 三度目の殺人 』を彷彿させる火から始まるオープニングに、剣呑な空気が充満している。

 

村で生きる優の能面のような表情と、その内に封じ込められた激情の対比が序盤と中盤の分かれ目。霞門村のシステムに取り込まれることで豊かな表情を取り戻していく優の姿に、観る側は非常にアンビバレントな気持ちにさせられる。

 

この「閉鎖社会から出ていこうにも出ていけない」あるいは「出ていったはいいものの、結局帰って来るしかなかった」というジレンマは、大都市の人間には分からないのではないか。過去数十年の日本の行政の地方創生戦略が機能したためしがないのは、都市の人間がムラに関する施策を決定するという構図が原因ではないか。地方に交付金やら補助金やらを恵んでやる一方で、ゴミ処理場や原子力発電所などを押し付けるのは大きな間違いだったということは、過去10年を見れば分かることだ。

 

Jovianは霞門村ほどのド田舎に住んだことはないが、それでも30年以上前に住んでいたO県B市ぐらいの田舎だと、同級生だった市長の孫が中学校でむちゃくちゃデカい面していて、教師も腫れ物に触れるような扱いをしていたものだった。その市長の苗字が、本作の村長と同じで笑ってしまった。こういう閉鎖社会の権力者とその一族あるいは取り巻きは、その依って立つ基盤が砂上の楼閣とはいえども、周囲に多大な影響力を行使することはある。その点を藤井道人はよくよく見抜いている、あるいは取材しているなと感じた。

 

横浜流星以外で目立った役者は一ノ瀬ワタル。『 宮本から君へ 』同様の暴力キャラが良く似合う。「この村にはハラスメントなんか存在しねえ」という台詞はリアルだった。仕事で奈良や滋賀のかなりの田舎の学校にまで教えに行くこともあるが、そうしたところはコロナ禍真っただ中でも隣近所の人間とノーマスクで話していることなどザラだった。中央や都市部があーだこーだ言っても、本当の田舎は大昔から何も変わらないものである。

 

環境センターという昼の顔と不法投棄現場という夜の顔が、そのまま村および村民たちの二面性になっているのが興味深い。エンドロール後のラストショットに仮託されているのは、希望なのか絶望なのか。それは是非、自身の目で確かめて頂きたい。

 

ネガティブ・サイド

中村獅童演じる刑事が無能すぎる。杉本哲太演じるヤクザも無能すぎる。ここら辺のキャラにはリアリティが欠けていた。

 

最大のツッコミどころは「そこにそれを捨てるか?」というものと、「なんでそれを破壊しないの?」というもの。後者はクラウドが云々かんぬんというのがあるかもしれないが、前者についてはお粗末すぎる。『 藁にもすがる獣たち 』を見習えと言いたい。

 

総評

『 デイアンドナイト 』と同工異曲の秀作。共同体の伝統を壊そうとする者は排除するか、あるいは共同体に取り込んでしまうのが日本社会のお家芸。つまりはダイバーシティなどというものはお題目に過ぎないのだ。自国の闇をエンタメに仕上げられるのは、問題意識とクリエイター意識の両方を併せ持った人。藤井道人は邦画界に置ける数少ないそのような作り手の一人、かつ第一人者だろう。ぜひ鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

History repeats itself.

歴史は繰り返す、の意。優の父の犯した罪や、村長の「そうやってこの村は続いてきたんだ」という発言が印象的。歴史はいつでもどこでも繰り返されるものだが、日本の地方は特にその傾向が強いようである。History has repeated itself. や Will history repeat itself? のようにも使うことがある。英語中級者なら既に知っている表現だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・ホエール 』
『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』
『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, 日本, 横浜流星, 監督:藤井道人, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:スターサンズ, 黒木華Leave a Comment on 『 ヴィレッジ 』 -ムラ社会のダークサイド-

『 貞子DX 』 -社会批評の精神だけは買う-

Posted on 2022年10月29日 by cool-jupiter

貞子DX 10点
2022年10月28日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:小芝風花
監督:木村ひさし

『 仮面病棟 』や『 屍人荘の殺人 』の木村ひさし監督が貞子を料理するという。まったく期待はしていないので、貯まったポイントを使って無料で鑑賞。

 

あらすじ

謎の不審死が全国で頻発。IQ200の天才大学院生・一条文華(小芝風花)は、呪いのビデオと貞子の実在を解く霊能力者・Kenshinにテレビ番組内で反論する。しかし、妹の双葉が呪いのビデオのコピーを観てしまい、文華に助けを求めてくる。文華は呪いの謎を解くことができるのか・・・

ポジティブ・サイド

様々な貞子映画の文法に則りつつも、社会批評のメッセージを込めてきたのは本作だけだろう。短い意味不明の動画ばっかり観てるんじゃねえ!劇場でちゃんとした映画を観ろ!という木村ひさし監督の叫びだけは評価せねばならない。

 

ネガティブ・サイド

主人公の文華がIQ200に見えない。せいぜい母親の行動を言い当てるぐらいだが、これなどもろにシャーロック・ホームズのパクリ。それ自体は否定しないが、呪いを科学で解き明かすと予告編では豪語していたのに、科学的な思考をしているようには見えなかった。なんというか、薄っぺらいのだ。各地で頻発する不審死を急性心不全で片付けようとする文華を、冷静に論破するKenshinを見て「なんや、この小娘は・・・」と思った観客は多かったに違いない。そもそもIQ200の科学信奉者が宿主を「やどぬし」と読むか?そこはサイエンティフィックに「しゅくしゅ」やろ。大学院生という設定だが、院生があんなでかい教室で授業受けるかな?普通はもっと少人数のゼミやろ。大学院の実態をスタッフの誰も知らんかったんかいな。

 

占い王子も演技がクソ下手で、なおかつ訳の分からん決めポーズがひたすらウザい。『 貞子 』の塚本高史を超えるクソキャラの誕生だ。感電ロイドも切れ者に見せかけてアホ。占い王子の撮った動画を観て、まったくもって当たり障りのないコメントしかできない。こいつの神社までの移動手段はいったい何だったのか。モブキャラのたかしもインターネット・ミームをそのまま借用。母ちゃんを困らせる引きこもり=たかしは笑えないこともないが、そういうのは深夜アニメまたは純粋なコメディ映画でやってくれ。

 

貞子はもはやギャグなのか・・・静岡のおじさんって何やねん。この、迫ってくる貞子が自分にしか見えず、なおかつ姿を変えるというのは、どう考えても『 イット・フォローズ 』のパクリ。また誰もかれもが貞子の呪いの対象になるというのも『 シライサン 』から着想を得たとしか思えない。陳腐なパクリより、くだらなくてもオリジナル要素を交えてほしい。這いずり回る貞子の動きも、今作からは不気味さが消えたように感じる。単に我々が貞子に慣れてしまったのか、それとも貞子を演じた女優の体の使い方が下手なのか。いずれにせよ、近年まれに見る糞ホラー、クソ貞子映画であった。

総評

コロナ禍もあり、映画は劇場ではなく端末で鑑賞する時代になりつつある。そんな中、2時間も劇場に座っていられない。オンデマンド授業動画も倍速で視聴するという時代になってきた。さらにSNSを席巻するリール動画の数々。本作がそうした世の流れに異議申し立てをしている点だけは評価できる。逆に言うと、それ以外はまったくもってダメ。そもそもDXの指すものがデラックスなのか、デジタル・トランスフォーメーションなのか。それすらもよく分からない。いや、もう貞子より富江をリバイバルさせたら?

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

go viral

ウィルス的になる、転じてバズるの意。viral は virus の形容詞。コロナ禍で viral infection = ウィルス感染という表現も浸透してきた。一昔前は、virus infection という微妙に間違えた表現を使う人も多かった。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱 』
『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 天間荘の三姉妹 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, ホラー, 小芝風花, 日本, 監督:木村ひさし, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 貞子DX 』 -社会批評の精神だけは買う-

『 マイ・ブロークン・マリコ 』 -遺骨と共に行くリトリート-

Posted on 2022年10月9日2022年10月9日 by cool-jupiter

マイ・ブロークン・マリコ 65点
2022年10月8日 TOHOシネマズ西宮OSにて鑑賞
出演:永野芽郁 奈緒
監督:タナダユキ

ごく最近、お通夜と葬式に参列した。生きること、そして死ぬことについて追究しようとしているのではないかと本作に注目していたので、チケットを購入。

 

あらすじ

トモヨ(永野芽郁)は外回り営業中に、かつての親友マリコ(奈緒)がアパートから転落死したことを知る。幼少の頃から父に苛烈な虐待を受けていたマリコの遺骨を、トモヨはマリコの実家から強奪する。そして、マリコが生前に行きたがっていた「まりがおか岬」を目指すことにして・・・

ポジティブ・サイド

観終わってすぐの感想は「これはロードトリップではなく、リトリートだったな」というもの。リトリートと聞いて「はいはい、リトリートね」と得心できる人は、マインドフルネスにハマっている人、マインドフルネスを大いに実践している人か、または国際基督教大学の現役生か卒業生だろう。リトリートとは、日常から離れて内省することで、まさに本作のトモヨの旅そのものである。

 

本作がいわゆるバディ・ムービーともロード・トリップとも異なるところは、トモヨの相方であるマリコが死んでいるということである。マリコの願いを叶えようと旅に出るトモヨだが、実は癒やしや赦しを求めているのはマリコではなくトモヨの方なのだ。無造作なご飯の食べ方、明らかにニコチン依存症をうかがわせるタバコの吸い方、そして勤め先の絵にかいたようなブラック企業っぷりから、それは明らかである。

 

永野芽郁は『 地獄の花園 』での武闘派OL役が無駄ではなかったと思わせる演技。単純にギャーギャー言うだけなら素人でもできる。遺骨を強奪するシーンでの慟哭と咆哮は素晴らしかったし、居酒屋での切れっぷりも迫力十分。安藤サクラ路線に行けるか?と期待させてくれた。Jovian一押しの奈緒も、壊れてしまった女性を怪演。筆舌に尽くしがたい虐待を受けてきたことで感覚が麻痺してしまっている女性像を如実に提示してきた、DV被害に遭った女性が、再婚相手にまたもDV男を選んでしまうかのように、暴力男と付き合い始め、やっと別れたかと思ったら、またも相手は暴力男という具合。その自分の感性の狂いっぷりを淡々と語る喫茶店のシーンは素晴らしかった。駄作確定の『 貞子 』映画を作るくらいなら、奈緒や永野芽郁を使った『 富江 』映画が観たい。

 

一種の共依存であるトモヨとマリコの旅路の途中に現れる窪田正孝演じる男の飾らなさ、絶妙な距離感の取り方も良い。どうにもならなくなっても、ちょっとしたことで生きていける。そのことをさり気なく気付かせてくれる男で、だからこそトモヨは旅の後に日常に帰っていくことができた。『 レインマン 』のように旅で何かが大きく変わったのではなく、トモヨは日常から数日逃避したわけだ。最後のシーンの解釈は分かれることだろう。Jovianはトモヨが読み取ったのはマリコの感謝であると感じた。何が正解かは分からない。人生、そして人間関係はそんなものだろう。

 

ネガティブ・サイド

原作の漫画がどうなっているのは分からないが、あまりにも展開がご都合主義すぎる。まず引ったくりに遭うタイミングも出来過ぎだし、その引ったくり男が最後の最後で絶妙なタイミングで現れてくるのも「何だかなあ」である。85分という短い尺を95分にして、その10分間でもう少しストーリー展開にリアリティを持たせられたのではないか。

 

マリコの家庭および男性遍歴についても掘り下げられたのではないかと思う。特に付き合う男全てがハズレの暴力男というのはリアリティがある。だからこそ、それを映像でも示すべきだった。そうすることで窪田正孝演じる男と、その他の男どもとのコントラストがより際立ったと思う。

 

これは個人の感想だが、エンドクレジットに流れる曲がストーリーとマッチしていなかった。

 

総評

永野芽郁が『 地獄の花園 』に続いて殻を割ろうとしている作品。かつ、『 ハルカの陶 』の奈緒が新境地を開拓した作品でもある。男同士の恋愛物語が輸入されたり、あるいは邦画でも作られつつあるが、女同士のちょっと普通ではない依存関係、それも故人とのそれを描いた作品はかなり異色だろう。それでも西宮ガーデンズにはかなり多くの、それも若い観客が来ていた。若い人の心をとらえる何かが本作にあるのは間違いない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

child abuse

児童虐待の意。日常では決して使いたくない表現。せいぜい新聞やニュース番組でしか触れたくない。けれど児童虐待は現実に存在する。見かけたらバンバン通報するしかない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ドライビング・バニー 』
『 ソングバード 』
『 千夜、一夜 』

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, C Rank, アドベンチャー, ヒューマンドラマ, 奈緒, 日本, 永野芽郁, 監督:タナダユキ, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 マイ・ブロークン・マリコ 』 -遺骨と共に行くリトリート-

『 四畳半タイムマシンブルース 』 -Back to the 四畳半-

Posted on 2022年10月2日 by cool-jupiter

四畳半タイムマシンブルース 75点
2022年10月1日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:浅沼晋太郎 坂本真綾 吉野裕行
監督:夏目真悟

戯曲『 サマータイムマシン・ブルース 』を、そのまま『 四畳半神話大系 』のキャラクターで再構築。見事なスピンオフ作品に仕上がっている。

 

あらすじ

「私」(浅沼晋太郎)のエアコンのリモコンが、悪友・小津(吉野裕行)によって壊されてしまった。これにより部屋は灼熱地獄に。映画サークルの明石さん(坂本真綾)が撮影に邁進するなか、アパートの下鴨幽水荘からどういうわけかタイムマシンが見つかる。これで一日前に戻って、壊れる前のリモコンを持って帰ってくれば、と一同は考えて・・・

ポジティブ・サイド

四畳半主義者および四畳半世界をビジュアル化するにあたって、しっかりと湯浅政明のテイストを受け継いでくれている。奇妙な色彩の使い方と、「私」の青春そのままのようなくすんだ灰色とが織り成すコントラストは、それだけで観る者を癒やす。

 

キャラの中身も恋、いや濃い。10年以上ぶりに浅沼晋太郎が「私」を演じるが、まさに森見登美彦風のダメダメ大学生をそのまま演じている。この「私」のまるで成長していない加減が絶妙で、おっさんは自らの青春時代を回顧せざるを得ない。肉体的な鍛錬や学問的な精進から逃避するのみならず、恋からも逃げまくる。いや、追いかけまくる。この情けなさに笑いと涙の両方が喚起される。

 

悪友・小津と「私」の「セクシャルな営み」も映像化してみると面白いし、それをクールに眺める明石さんも美しい。いつもの四畳半の面々が、ふとしたことから手に入れるタイムマシンを使って、ドタバタ劇を繰り広げる。タイムトラベルものはシリアス路線かコメディ路線に行くのが常で、本作はもちろんコメディ。行き先が一日前なのだから、これほどスケールの小さいタイムトラベルは珍しい。しかし京都市の片隅だけの限られた人間関係の中で過去改変を阻止せねばならないという独自のシチュエーションは、笑いだけではなくハラハラドキドキ感も生み出している。

 

明石さんを追いかける「私」を追いかける「私」と小津という構図にはドキドキしながらも、笑うしかない。これも活字とは異なり映像で観ることで独特のユーモアと緊張感が生まれている。昨日と今日だけのタイムトラベルかと見せかけて、ストーリーは突如大規模に展開していく。そこで序盤からの数々の伏線が鮮やかに回収されていく。タイムトラベルものの王道で、実に清々しい。

 

京大に落ちてICUに行き、木造のボロボロ男子寮(ヴォーリズ建築!)で怠惰な四年間を過ごした身としては、下鴨幽水荘=男子寮に感じられてしまう。タイムマシンはおそらく理論上でしか存在できないが、思い出というタイムカプセルは誰でも持つことができる。未来は自らで切り拓くもの。そしてその未来が、いつか美しい思い出になる。

ネガティブ・サイド

森見登美彦の小説版『 四畳半タイムマシンブルース 』と少々異なるところがいくつかある。序盤で「私」が裸踊りをする直前の明石さんの「本当にやるんですか?」はもっと色っぽい雰囲気だったはず。他にも小説版との違うなと感じられるところがちらほら。まあ、このへんは森見登美彦と上田誠、どちらの波長が自分に近いかということだと思うが。

 

田村の行動が、「私」たちが必死に阻止しようとした過去改変の原理をあっさりと破っているところだけは気になった。これもタイムトラベルもののお約束か。

 

総評

梅田ブルク7は老若男女で9割の入りだった。森見登美彦の fanbase 恐るべし。仮にこれが何の話か分からなくても、ぜひ高校生や大学生にはデートムービーとして劇場鑑賞してほしい。本作から小説やアニメの『 四畳半神話大系 』や『 バック・トゥ・ザ・フューチャー 』を知って、それらにも触れてほしい。究極的にはゲーテの『 ファウスト 』にまでたどり着いてほしいと思う。今目の前にある「時」を誠実に生きること。若い人ほど、それを実践してほしいと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

space-time 

「時空」の意。SF小説やSF映画では頻繁に出てくる表現。英語の順番どおりに訳せば空時となるが、これでは少々おさまりが悪い。ちなみに space = 宇宙の意味もあるが、古代中国語では 宇=空間、宙=時間だったとされる。言葉は違っても、概念・観念レベルでは人間はだいたい同じなのかもしれない。 

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, B Rank, アニメ, 吉野裕行, 坂本真綾, 日本, 浅沼晋太郎, 監督:夏目真悟, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:アスミック・エース, 青春Leave a Comment on 『 四畳半タイムマシンブルース 』 -Back to the 四畳半-

『 パーフェクト・ケア 』 -高齢化社会の闇ビジネスを活写する-

Posted on 2021年12月10日 by cool-jupiter

パーフェクト・ケア 75点
2021年12月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ロザムンド・パイク ピーター・ディンクレイジ エイザ・ゴンザレス 
監督:J・ブレイクソン

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『 ゴーン・ガール 』で一気にトップスターに昇りつめたロザムンド・パイクの最新作。介護ビジネスを悪用するやり手の話というのは、世界随一の高齢社会である日本にとっても非常に興味深いものがある。

 

あらすじ

マーラ(ロザムンド・パイク)は、高齢者をケアホームで保護しつつ、実はクライアントの財産を食い物にする悪徳後見人だった。独り身の高齢者ジェニファーの財産に目をつけるが、彼女をホームに送り込むが、彼女の背後にはロシア系マフィアの存在があり・・・

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ポジティブ・サイド

日本はもはや多死社会だが、アメリカも相当な高齢社会である。畢竟、介護の需要が高まるが、行政と民間の二軸でサポートする日本と違い、彼の国では司法が民間業者に一般人の保護を命じることが当たり前のようにあるらしい。この制度を上手く利用して儲けてやろうと目論むところが痛快・・・もといプラグマティックである。

 

『 ゴーン・ガール 』で世間の目を見事に欺いたロザムンド・パイクが本作でも魅せる。法廷で高齢者の家族から「勝手に財産を処分して、その金を自分の懐に入れている」と糾弾されても、「高齢者の保護が私の仕事で、仕事であるからには報酬を受け取る」といけしゃあしゃあと言ってのける。そして判事も納得させる。何という女傑だろうか。

 

こうして高齢者家族を煙に巻き、裁判所を味方につけ、友人の医師に株とのトレードで資産家高齢者の情報と診断書を得ていくマーラだが、次の獲物のジェニファーが曲者。詳しくは鑑賞してもらうしかないが、背後にいるマフィア(ピーター・ディンクレイジ)が登場してくるあたりから、悪 vs 悪の図式となり、一挙にストーリーが加速する。

 

ハイライトは2つ。一つはマフィアに拉致されたマーラが、その親玉であるピーター・ディンクレイジに交渉を持ちかける場面。どれだけ狂った人生を送ったら、このような言葉を実際に口に出せるようになるのだろうか。『 女神の見えざる手 』のジェシカ・チャステイン演じるスローン女史と並ぶ、強烈な女性キャラクターの誕生を目撃した気分になった。二つ目は、マフィアへのリベンジを果たすマーラが、ピーター・ディンクレイジから交渉を受けるところ。こちらもアメリカ社会の闇を感じさせるが、それはある意味で日本社会にもそっくりそのまま当てはまる。

 

平成の初期から、独居老人のもとに足繁く通って話し相手になり、信頼を得たところで高額な羽毛布団を売りつけるセールスマンというのは、全国津々浦々にいたのである。今後は高齢者向けにビジネスをするのではなく、高齢者そのものをビジネスにしようとする動きが、先進国で加速していくだろう。それがどういう結末になるのか、本作は一定の示唆を与えて終わっていく。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211210222451j:plain

ネガティブ・サイド

エイザ・ゴンザレスの存在感が今一つだった。マーラとビジネスパートナーであり、セックスのパートナーでもあったが、さらにもう一歩踏み込んだ関係性を構築できていなかったように思う。もしもマーラがこのキャラに介護ビジネスの帝王学を伝授しているようなシーンがあれば、終幕のその先にもっと色々な想像が広がるのだが。

 

マフィアのピーター・ディンクレイジがチト弱いし、詰めも甘い。普通なら即死させて終わり。死体は、それこそ手慣れた始末方法があるはず。『 ベイビー・ドライバー 』のケビン・スペイシーはそういうキャラだった。拉致するまでの手際があまりに見事なせいで、その相手を事故死に見せかけて殺すところで下手を打つところに、どうにもリアリティがない。

 

ストーリー上のコントラストのために、介護の現場で甲斐甲斐しく働くケアワーカーの姿が必要だったが、それが一切なかった。もちろん現場で働く人たちはいたが、フォーカスは警備員や経営者であった。正しい意味で介護をビジネスとしている人々の姿編集でカットされていたとしたら残念である。

 

総評

一言、傑作である。弱点はあるが、それを補って余りある展開の良さとキャラクターの濃さがある。現代社会の闇にフォーカスしながら、単なるヒューマンドラマではなく極上のエンタメに仕上げている。介護の現場にパワードスーツやロボットが導入されるなど、その営為は様変わりしつつあるが、介護のニーズが減じることは、今後数十年はない。その数十年の中で、本作のような出来事は必ず起こる。それを是とするのか非とするのか、それは鑑賞後にじっくりと考えられたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bona fide

ラテン語の「ボナーフィデー」で、bona = good, fides = faithの奪格である・・・と言っても何のこっちゃ抹茶に紅茶であろう。英語では「ボウナファイド」と発音し、意味は「本物の」や「真正の」となる。奪格=副詞句的には使われず、形容詞として使われることがほとんど。This is a bona fide autograph of Muhammad Ali. = これは本物のモハメド・アリのサインだ、のように使う。英検1級以上を目指すなら、同じラテン語のbona由来の pro bono = 無料で、も知っておきたい。こちらは副詞句として使うが、慣れるまでは on a pro bono basis を使うといい。 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, エイザ・ゴンザレス, クライムドラマ, ピーター・ディンクレイジ, ロザムンド・パイク, 監督:J・ブレイクソン, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 パーフェクト・ケア 』 -高齢化社会の闇ビジネスを活写する-

『 空白 』 -心の空白は埋められるのか-

Posted on 2021年9月30日 by cool-jupiter

空白 75点
2021年9月25日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:古田新太 松坂桃李
監督:吉田恵輔

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邦画が不得意とする人間の心の闇、暴走のようなものを描く作品ということで、期待してチケットを購入。なかなかの作品であると感じた。

 

あらすじ

女子中学生の花音は万引を店長の青柳(松坂桃李)に見つかってしまう。逃げる花音だが、道路に飛び出したところで事故に遭い、死んでしまう。花音が万引きなどするわけがない信じる父・充(古田新太)は、深層を明らかにすべく、青柳を激しく追及していき・・・

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ポジティブ・サイド

何の変哲もない街の何の変哲もない人間たちに、恐るべきドラマが待っていた。トレイラーで散々交通事故のシーンが流れていくが、あれは実は露払い。その後のシーンと、その結果を渾身の演技で説明・描写する古田新太が光る。

 

この物語で特に強く感銘を受けたのは、善人もおらず、さらには悪人もいないところ。いるのは、それぞれに弱さや欠点を抱えた人間。例えば松坂桃李演じる青柳は、父の死に際にパチンコに興じていて、死に瀕していた父に「電話するなら俺じゃなくて119番だろ」的なことを言い放つ。もちろん、心からそう思っているわけではない。しかし、いくらかは本音だろうし、Jovianもそう思う。古田新太演じるモンスター親父の充は、粗野な性格が災いして、妻には去られ、娘とは没交渉。他にも花音の学校の、人間の弱さや醜さをそのまま体現したような校長や男性教師など、善良な人間というものが見当たらない。それがドラマを非常に生々しくしている。

 

一方、一人だけ異彩を放つ寺島しのぶ演じるスーパーのパートのおばちゃんは、これこそ善意のモンスターで、仕事熱心でボランティア活動にも精を出す。窮地にあるスーパーの危機に、非番の日でもビラ配り。ここまで大げさではなくとも、誰しもこのようなおせっかい好き、世話焼き大好きな人間に出会ったことがあるだろう。そしてこう思ったはずだ、「うざい奴だな」と。まさに『 図書館戦争 』で岡田准一が言う「正論は正しい。しかし正論を武器にするのは正しくない」を地で行くキャラである。寺島しのぶは欠点や弱さを持つ小市民でいっぱいの本作の中で、一人だけで善悪スペクトルの対極を体現し、物語全体のバランスを保っているのはさすがである。

 

本作はメディアの報道についても問題提起をしているところが異色である。ニュースは報じられるだけではなく、作ることもできる。そしてニュースバリューは善良な人間よりも悪人の方が生み出しやすい。『 私は確信する 』や『 ミセス・ノイズィ 』は、メディアがいかに人物像を歪めてしまうのかを描いた作品であるが、本作もそうした社会的なメッセージを放っている。

 

追い詰める充と追い詰められる青柳。二人の関係はどこまでも歪だが、二人が花音の死を悼んでいるということに変わりはない。心に生まれた空白は埋めようにも埋められない。しかし、埋めようと努力することはできる。または埋めるためのピースを探し求めることはできる。それは新しい命かもしれないし、故人の遺品かもしれない。『 スリー・ビルボード 』とまではいかずとも、人は人を赦せるし、人は変わることもできるだと思わせてくれる。間違いなく良作であろう。

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ネガティブ・サイド

花音の死に関わった人物の一人がとんでもないことになるが、その母親の言葉に多大なる違和感を覚えた。謝罪根性とでも言うのだろうか、「悪いのはこちらでございます」的な態度は潔くありながらも、本作の世界観には合わない。小市民だらけの世界に一人だけ聖人君子がいるというのはどうなのか。

 

藤原季節演じるキャラがどうにも中途半端だった。充を腕のいい漁師だが偏屈な職人気質の船乗りで、人付き合いが苦手なタイプであると描きたいのだろうが、これだと人付き合いが苦手というよりも、単なるコミュ障中年である。海では仕事ができる男、狙った獲物は逃がさない頑固一徹タイプの人間だと描写できれば、青柳店長を執拗に追いかける様にも、分かる人にだけ分かる人間味が感じられだろうに。

 

総評

邦画もやればできるじゃないかとという感じである。一方で、トレイラーの作り方に課題を感じた。これから鑑賞される方は、あまり販促物や予告編を観ずに、なるべくまっさらな状態で鑑賞されたし。世の中というものは安易に白と黒に分けられないものだが、善悪や正邪の彼岸にこそ人間らしさがあるのだということを物語る、最近の邦画とは思えない力作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

do the right thing

「正しいことをする」の意。do what is right という表現もよく使われるが、こちらは少々抽象的。親が子に「正しいことをしなさい」とアドバイスするような時には do the right thing と言う。ただし、自分で自分の行いを the right thing だと盲目的に信じるようになっては棄権である。 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ヒューマンドラマ, 古田新太, 日本, 松坂桃李, 監督:吉田恵輔, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:スターサンズLeave a Comment on 『 空白 』 -心の空白は埋められるのか-

『 宇宙でいちばんあかるい屋根 』 -家族を照らす優しい光-

Posted on 2021年5月9日 by cool-jupiter

宇宙でいちばんあかるい屋根 70点
2021年5月6日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:清原果耶 桃井かおり 伊藤健太郎
監督:藤井道人

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MOVIXあまがさきで上映していたが、当時は華麗にスルーしてしまった。『 新聞記者 』と『 ヤクザと家族 The Family 』の藤井道人監督作だと知っていれば、劇場で鑑賞したはずなのだが。ちゃんとリサーチをせなアカンなと反省しつつ、レンタルしてきた。

 

あらすじ

つばめ(清原果耶)は、隣人大学生への恋心や、父と母の間にできる新しい子どもへの思いなどから、どこか満たされない日々を送っていた。しかし、ある日書道教室の屋上で星ばあ(桃井かおり)に「キックボードの乗り方を教えろ」と言われ、乗り方を教えたところ、星ばあがキックボードに乗って空を飛んだ。そんな星ばあにつばめは思わず、恋愛相談をして・・・

 

ポジティブ・サイド

オープニングの Establishing shot が印象的である。夜、上空から家々を見下ろす視点は穏やかで優しい。窓辺から漏れる光に各家庭の日常が垣間見えてくる。さて、これは誰の視線なのか。そして、そして「宇宙でいちばんあかるい屋根」とは何か、この冒頭の1分程度だけで物語世界に引き込まれてしまった。

 

そして朝、起き抜けの清原果耶がくしゃくしゃに丸められた手紙と思しき紙を確認し、そしてバンジョーを弾く隣の家の大学生をカーテンの隙間から覗き見る。まさに思春期の女子という感じがする。その一方で、幸せそうな父と母の仲睦まじい様子からは、少し距離を置いているかのような朝食風景。ちょうど年齢的に子どもと大人の中間に差し掛かるあたりで、自分というものの在り方や居場所を模索する時期で、そうしたものがほんのわずかな描写だけで見えてくる。非常に映画らしい演出だと感じた。

 

星ばあとの出会いも面白い。そんなところにばあさんがいるわけないだろうという場所にばあさんがいて、つばめと色々と話していくようになる過程は、どこか非現実的で幻想的だ。現実と非現実の境目という感じで、屋上という建物の一部であり、かつ屋外でもあるという空間が、その感覚を強化する。この星ばあなる存在、イマジナリーフレンドかと思わせる要素が満載なのだが「えんじ色の屋根」という物語の一つのキーとなる要素が語られるところから、その正体が俄然気になってくる。そして、そのえんじ色の屋根の家探しが、つばめの自分の居場所探し、つまり自分が好きな男との関係、自分を好きな男との関係、そして自分と家族の関係を見つめ直すことにもつながってくる。このプロットの組み立て方は見事だ。

 

星ばあと屋上以上以外の場所で出会い、街を探索していくシークエンスを通じて、観る側にとって「星ばあとはいったい何なのか」との疑問が深まっていく。同時に、星ばあの存在が、つばめに前に進む力を与えていることをより強く実感できるようにもなる。つばめが好きな大学生、そしてつばめを好きな(元)同級生との意外とも必然的ともいえるつながりが見えてきて、物語が加速する。そして、つばめが本当に求めていた居場所を自ら掴み取りにいくシーンは大きな感動をもたらしてくれる。

 

藤井道人監督の作風は多岐にわたるが、いずれの作品にも流れている通奏低音は、現実のちょっとした危うさであるように感じる。現実は見る角度によってその様相を大きく変えることがあるし、人間関係も同じである。けれど、つらく苦しい世界にも救いはある。人と人とは、分かり合えるし、つながっていける。そのように感じさせてくれる。

 

ネガティブ・サイド

つばめが階段を駆け下りるシーンが惜しかったと思う。『 ジョーカー 』みたいに踊れ、とは思わないが、階段というのはある位相と別の位相をつなぐシンボルだ。それは『 パラサイト 半地下の家族 』で非常に象徴的だった。つばめの足取りの軽やかさと星ばあの足取りの重さを対比する非常に良い機会が活かしきれていなかったように思う。

 

本作は本来的にはファンタジー映画なのだが、その部分の演出が弱いと感じた。そこを強調させられるはずなのに、それをしなかったと感じられたのは、水族館と糸電話。たとえば魚やクラゲたちが星ばあに不思議に引き寄せられるなどのシーンがあれば、物語の神秘性はより増しただろう。また、糸電話のシーンでも、つばめだけがそれを使っているのではなく、街を眺めてみれば、あちらこちらに糸電話の糸が見える、というシーンがあれば良かったのにと感じた。

 

総評

どことなく、えんどコイチの読み切り漫画『 ひとりぼっちの風小僧 』を思わせる内容である。ユーモラスでありながらシリアスであり、しかしつらい境遇の中にも救いの光は差し込んでくる。清原果耶のくるくる変わる表情が印象的で、脇を固めるベテラン俳優陣の演技も堅実。あらゆる年齢層にお勧めできる佳作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You’ll regret the things you didn’t do more than the ones you did.

星ばあの至言、「後悔はやってからしろ」を聞いて、思わず上の格言を思い出した。アメリカの作家、H. Jackson Brown. Jrの言で「君は、やったことよりもやらなかったことの方をより後悔するだろう」という意味。Jovianもこの格言を自作の教材に取り入れたことがある。格言は丸暗記してしまうのが結局は早道なところがある。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ファンタジー, 伊藤健太郎, 日本, 桃井かおり, 清原果耶, 監督:藤井道人, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 宇宙でいちばんあかるい屋根 』 -家族を照らす優しい光-

『 ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 』 -怪獣は敵か味方か-

Posted on 2021年4月24日 by cool-jupiter

ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 80点
2021年4月17日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:中山忍 藤谷文子 前田愛 螢雪次朗
監督:金子修介

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平成ガメラ三部作のフィナーレ。梅田ブルク7は good job である。単なる特撮怪獣映画としてだけではなく、怪獣が存在することの意義、怪獣が人類にとってどのような存在なのかにまで踏み込んだ作品として、邦画史に残るべき作品だろう。

 

あらすじ

比良坂綾奈(前田愛)はガメラとギャオスの戦いのせいで両親を亡くして以来、ガメラを憎んでいた。引っ越した先の奈良の洞窟で見つけた謎の生物に「イリス」という名前をつけた彼女は、イリスにガメラを倒してほしいと願うようになる。しかし、イリスは実はギャオスの変異体で、綾奈と融合しようとして・・・

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ポジティブ・サイド

ゴジラであれウルトラマンであれ、街中で大暴れはするものの、人的被害について直接的に描かれることは、非常に稀だった。だからこそ初代『 ゴジラ 』や『 ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃 』は傑作だと言える。特に『 ゴジラ 』で母親が娘に「もうすぐお父さんに会えるのよ」と語りかけ、建物の崩落とともに従容として死んでいく様はトラウマものである。怪獣が大暴れすることによって遺児になってしまった綾奈の姿は、阪神大震災や東日本大震災を下敷きに見ると、また新たな感慨をもたらす。

 

公開当時も今もすごいと感じたのは、渋谷のガメラ。昭和ガメラも平成ガメラも、どこか穏やかさを湛えた顔つきだったガメラが、ギャオスへの憎悪や闘争心を隠そうともしない形相になっていたのは、劇場公開時に大学生だったJovianの心胆を寒からしめた。このガメラの顔つきは個人的にはガメラ史上ナンバーワンで、GMKの白目ゴジラに次ぐ怖さであると確信している。

 

人間パートも悪くない。飼い猫のイリスの名前を謎の卵からかえった生物につけてしまうあたり、陰影のある綾奈というキャラの小女性や孤独、さみしさを間接的に描けている。田舎の閉鎖性も妙にリアルだ。地味に奈良vs京都、つまり仏教vs神道の構図にもなっている。ギャオス/イリスは外来の異種で、ガメラは産土神の謂いなのかもしれない。このあたり、GMKの護国聖獣が日本人を殺しながら日本の国土を守ろうとしたように、怪獣は生物個々の守護者/破壊者ではなく、生態系のバランスを取る存在という解釈にスムーズにつながっていくように思う。

 

倉田と朝倉の世界観/怪獣観にもなかなか考えさせられる。地球の意思が、増えすぎた人間の数を減らそうとしているという考え方はコロナ禍の今を見越していたようにすら感じられる。世界各地で大量発生するコロナと世界各地で大量発生するギャオスが重なって感じられた人は多いことだろう。イリスがギャオスの変異体であるというのも、変異株によって大打撃を受けている兵庫・大阪地域のJovianには、考えさせられるものがある。

 

そのイリスの造形の荘厳さは『 ガメラ2 レギオン襲来 』のレギオンを超えると思う。やはり同時代の『 新世紀エヴァンゲリオン 』に使徒として出現してもおかしくない造形美である。ふわりと雲の上に姿を現すイリスの姿は禍々しく、同時に神々しい。ウネウネ系の触手で年端もいかない少女と融合しようとするところは、当時は特に何も感じなかったように記憶しているが、今の目で見ると気持ち悪いことこの上ない。そんな邪神イリスがガメラと激闘を繰り広げ、京都駅ビルという伝統と進歩の象徴を破壊するシーンは、『 モスラ 』における国会議事堂を彷彿させる。ガメラという子どもの味方であったはずの怪獣の破壊者としての側面にフォーカスし、シリアスなドラマでありながらも特撮怪獣映画の醍醐味も保っている。前作では緑色の血しぶきをまき散らしながら飛んでいく様が衝撃的だったが、今作ではそれを上回るグロ描写もあり、小片少女向けの作品には仕上がっていない。怪獣映画としてだけではなく邦画というジャンルにおいても、平成ではかなり上位の作品でありシリーズであると感じる。

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ネガティブ・サイド

人間パートが綾奈の物語に集中しすぎで、中山忍、藤谷文子らの出番というか存在意義が少々弱い。中山忍は鳥類学者・生物学者としての見識を披瀝して倉田や朝倉に対抗すべきだったし、藤谷文子も怪獣と心通わせることがどういったものなのかについて、眠っている綾奈に切々と語りかけるようなシーンが欲しかったと思う。螢雪次朗の見せ場も少なかった。

 

前作、前々作と比べて、ポリティカル・サスペンスとしての要素が薄れてしまった。嫌味な審議官がコミック・リリーフになってしまったのは少々残念だった。

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総評

『 ゴジラvsコング 』が無事に国内でオンタイムに公開されるのかどうか怪しくなってきたが、怪獣映画の人気やその需要は間違いなく高まっている。本作では玄武(ガメラ)と朱雀(イリス)の戦いが描かれた。白虎と青龍はいずこ。敵としても味方としても登場できる余地が残っている。『 ゴジラvsガメラ 』を実現させる制作者及びスポンサーは現れてくれないものか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a natural enemy

天敵の意。増えすぎた人口を減らすためにギャオスが存在するという仮説は、なかなかに示唆的である。2020年、コロナ対策に社会経済活動を停止させた結果、インドや中国、ロシアやアメリカで空気や水が一時的にせよ浄化されたという報道があったことは記憶に新しい。コロナは地球が生み出した人類の natural enemy なのかもしれない。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 1990年代, A Rank, 中山忍, 前田愛, 怪獣映画, 日本, 監督:金子修介, 藤谷文子, 螢雪次朗, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 』 -怪獣は敵か味方か-

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