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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:アットエンタテインメント

『 TUBE チューブ 死の脱出 』 -評価の別れるシチュエーション・スリラー-

Posted on 2022年7月17日 by cool-jupiter

TUBE チューブ 死の脱出 50点
2022年7月14日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ガイア・ワイス
監督:マチュー・テュリ

近所のTSUTAYAで発見。準新作だったが、クーポンで安く借りてきた。観る前から駄作臭が漂ってきていたが、どちらかと言うと珍作だった。

 

あらすじ

あてもなく彷徨するリサ(ガイア・ワイス)は、偶然通りかかった車に乗せてもらう。しかし、運転手は殺人罪で逃亡中の男だった。急ブレーキで頭を打ったリサが目覚めると、全身に謎のスーツが着用され、左腕には光るブレスレットが装着されていた。小部屋の扉が開くと、その先は一方通行のダクトになっていた。彼女はこの空間から脱出できるのか・・・

ポジティブ・サイド

原題は フランス語で Meandre、英語なら meander = 曲がりくねる、である。『 CUBE 』の一文字違いで TUBE とは、なかなか凝った邦題である。このタイトルとDVDのジャケットだけで借りてしまった。クソ映画だと分かっていても、観なければならないクソ映画というのもある。本作はその一つである。

 

CUBEが三次元方向に展開する超構造体であったのに対して、こちらは基本的には TUBE という邦題の通り、一方通行である。その時々に左右に道は分岐するが、同方向に進み続けなければならない点は変わらない。ブレスレットによるカウントダウンとチューブ状の構造物という時間と空間の両方の面から追い立てられる演出は上手いと感じた。

 

主演のガイア・ワイスはかなりの演技巧者。序盤で見せる怯え切った表情と、中盤で見せる鬼気迫る表情のコントラストは凄い。数々のトラップや、『 CUBE 』世界に出てこないようなモンスターも登場する。かなりグロい死体描写や、観ているこちらの血圧が一瞬でガクンと下がってしまうような人体破壊描写もあったりする。オチは少々いただけないが、そこにいたるまでの謎とサスペンスを楽しめれば、それで十分だろう。

 

以下、少々ネタバレあり

 

ネガティブ・サイド

冒頭のヒッチハイク的なシーンは必要だったか?もちろん、チューブ内に何らかのお仲間を入れてやらなければならないが、別にそれはリサの〇〇でも△△でも良いわけで、ポッと出の男を無理やり配置する必要はなかったように思う。また、いきなりチューブの中から始まる方が『 CUBE 』同様に、ベタではあるが観る側を「え?え?ここはどこ?」という不安な気持ちにさせられたはず。

 

手首に刻印された謎のマークが、ちょっと misleading すぎる。 ナチュラルに左から読んでいたが、正しい読み方が右から左だったら?あるいは腕を90度真横に倒して、上から、つまり橈骨側から読むのが正しいとしたら?地球ですら、国や文化圏によって数字や文字を読み始める方向は異なるのだから、本作のような世界観を堂々と呈示する作品では、このあたりにもっとリアリティを込めてほしかった。

 

最後の最後に胎内回帰するというオチは悪くないと感じた。問題なのは、そこからさらに別のオチに飛躍したこと。ストーリーは『 アメイジング・ジャーニー 神の小屋より 』から、一気に『 ノウイング 』へと変貌する。最後の最後に投げっぱなしジャーマンスープレックスをかまされた気分である。こんな結末を用意するぐらいなら、『 海底47m 』や『 ゴーストランドの惨劇 』的なオチというか展開で良かったのではないだろうか。

 

総評

雰囲気的にはどことなく『 プラットフォーム 』に近い。訳も分からず謎の空間に投げ出されるというシチュエーション・スリラーの文法に忠実で、少ない登場人物でサスペンスを盛り上げるというフランス文学的なテイストも味わえる。問題は終盤の展開で、終わりよければ全て良し派は本作の hater となるだろう。一方で、手に汗握る展開を数十分間味わわせてくれたので十分だよ派なら、本作を楽しめるだろう。 自分の嗜好を確認の上、視聴するかどうかを決められたし。

 

Jovian先生のワンポイント仏語レッスン

un deux trois quatre

アン ドゥー トロワ カートゥルと読む。意味は、1、2、3、4である。アン・ドゥー・トロワはバレエでお馴染みだろう。4= quatre だが、これが英語の quarterとそっくりだと気付けるだろう。フランス語の meandre = 英語の meander である。余談だが、Jovianが私淑するジョー小泉は、言語を学ぶ際には、まず数字から覚えるという。海外ボクサーの世話役やマネジメントを行う際に、選手の国の言葉で「0722  0900」などど言って、ココだとその場所(ホテルのロビーなど)をジェスチャーで指す。何度か言えば、『 ああ、7月22日の9:00にここで待っていろ、と言っているのか 』と察してくれるらしい。Jovianの好きなジョー小泉のエピソードである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, ガイア・ワイス, シチュエーション・スリラー, フランス, 監督:マチュー・テュリ, 配給会社:アットエンタテインメントLeave a Comment on 『 TUBE チューブ 死の脱出 』 -評価の別れるシチュエーション・スリラー-

『 ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 』 -Rise up against all odds-

Posted on 2021年1月11日 by cool-jupiter

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 80点
2021年1月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アクシャイ・クマール ビディヤ・バラン シャルマン・ジョーシー
監督:ジャガン・シャクティ

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昨年2019年夏ごろにNHKの『 地球ドラマチック 』でインドの衛星打ち上げ特集を行っていたのを見て、数学の国がついに天文学にも本腰を入れ出してきたかと感じた。そして本作、インド版『 ドリーム 』がリリース。宇宙開発および映画製作の優等生への仲間入りをさせてもらうぞ、との宣言であるかのようだ。

 

あらすじ

タラ(ビディヤ・バラン)は過程を切り盛りする主婦であり母であり、そしてISRO(インド移駐研究機関)の職員でもある。ロケット発射の際のほんのわずかな確認ミスのために、打ち上げは失敗。それによりタラと責任者のラケーシュ(アクシャイ・クマール)は閑職の火星探査衛星打ち上げプロジェクトに左遷されてしまうのだが・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210111132411j:plain
 

ポジティブ・サイド

文句なく面白い。その最大の理由は、魅力的なキャラクターにある。実話ベースとはいえ、おそらく登場人物たちは相当にデフォルメされているだろう。けれど、その改変具合が絶妙で、キャラクターの性格や行動がストーリーを違和感なく推し進めていく。映画の冒頭でタラが主婦として母親として奮闘する場面がこれでもかと描写されるが、それがあるからこそ家政・・・ではなく火星到達のための一発逆転のアイデアがタラから出てきたことに納得できるし、そのアイデアの中身に我々はたと膝を打つのである。

 

敵役のNASA帰りのプロジェクトマネージャーによって指名され、三々五々やって来る経験の浅い女性スタッフたちも個性豊かだ。収納や節約、裁縫など、とても宇宙開発や宇宙探査に関係があるとは思えない分野の知恵がどんどんと現場で生まれ、応用されていく展開が子気味よい。そして、そのアイデアをしっかりと受け止め、吟味し、ゴーサインを出す責任者のアクシャイ・クマールの存在感よ。この役者は『 KESARI ケサリ 21人の勇者たち 』でも、威厳ある上官でありながら、部下が上げてくる声を丹念に聞き取る耳を持っていた。そうしたキャラを演じさせるとハマる。まさにキャリアの円熟期なのだろう。本作で共演する多くの若い女優たちとも過去に共演歴があることも、アクシャイ・クマールをして演技中でもカメラOFFでも、現場をリーダーたらしめていたのかもしれない。

 

独り者で趣味もないラケーシュが女性たちの献策を容れていくところに、家父長制の色濃いインド社会へのメッセージを感じた。対照的に、妻として母として科学者・技術者としても活躍するタラが、夫や子ども達との距離を模索する姿には複雑な思いを抱かされる。だが、そこに救いもある。これまでのインド映画は、例えば『 シークレット・スーパースター 』や『 あなたの名前を呼べたなら 』のような、女性の耐える姿に美徳を見出すようなものが多かった。しかし本作ではタラは保守的・因習的な夫やイスラム教(いわゆる異教)に改宗する息子、門限を守らない娘たちと理解し、和解し合っていく。「仕事と家庭とどっちが大事なんだ?」という、問うてはいけない質問に、「両方ともに大事だ」という答えを行動で呈示していく。さらに、タラ以外の女性キャラクターたちも呼応。耐えるだけではなく、とある電車内のシーンでは男性モブキャラたちをボコボコにしていく。これは衝撃的だ。『 猟奇的な彼女 』でも、彼女が男性乗客をひっぱたくシーンがあったが、本作はそれを超えている。インドの新時代の幕開けを目の当たりしたように感じる。

 

探査機の打ち上げ前、そして打ち上げ後も、ベタな手法ではあるが、観客のハラハラドキドキを持続させてくれる。もちろん、歴史的に成功したミッションであることは分かっているが、それでも手に汗握ってしまうのは、それだけ感情移入させられているからだ。『 ドリーム 』のクライマックスでも聞こえてきたが、レーダーコンタクトの瞬間、信号受信の瞬間の安堵のため息が、劇場の数か所から漏れ伝わってきた。

 

「ハリウッド映画よりも少ない予算で我々は火星までたどり着いた」という演説に思わずニヤリ。予算も大切だが、もっと大切なのは創意工夫である。今後のインドの宇宙開発にエールを送りたくなると共に、インド映画界からエールを送られたように感じた。

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ネガティブ・サイド

歌と踊りが少な目である。というか、2シーンしかないし、短い。『 きっと、またあえる 』や『 スラムドッグ$ミリオネア 』のように、エンドクレジットで爆発させてくれるのかと思いきや、それもなし。世界的なマーケットを視野に入れているのは分かるが、インド映画の特徴はやはり絢爛豪華な歌と踊りにあるのだから、そこは忘れてほしくなかった。オペレーション・ルームでサリーを着て踊りまくるMOMの面々を是非とも観たかった。

 

ラケーシュが歌うキャラクターという点にもう少し一貫性が欲しかった。最終盤に思わず歓喜の歌でも歌うのかと思ったら、それもなし。そこが少し残念だった。

 

敵役のNASA帰りの鼻持ちならない男が司るプロジェクトの進行状況なども描写されていれば良かった。ミッション・マンガルの面々がそれを知って、奮励したり、あるいは落胆したりといった様子が見られれば、より人間ドラマの要素が生々しくなっただろう。

 

最後に、映画の中身とは関係ないが、どうしても言いたい。タイトルは普通に『 ミッション・マンガル 』で良いではないか。一体どこの馬の骨が何の権限をもってどういう根拠に基づいて、このようなアホな副題をつけているのか。「崖っぷち」の部分が耳障りだし、「火星打上げ」に至っては完全なる日本語ミスだ。正しくは「火星探査機打ち上げ」または「火星探査機打上げ」だろう。火星という惑星そのものを打ち上げてどうする?誰もこの誤用に気付かなかったというのか?そんな馬鹿な・・・

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総評

『 パッドマン 5億人の女性を救った男 』の主演アクシャイ・クマールとその監督のR・バールキが脚本で参加した本作は、インド映画の娯楽性とインド人の問題意識、そして現代インド社会を如実に反映している。サイエンスに関する知識も必要ない。カップルで観ても良し、家族で観ても良しの秀作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Those were the days.

 

「あの頃が懐かしい」の意。

Those were the days. There was no such thing as consumption tax.

あの頃は良かったなあ。消費税なんか無かったし。

Those were the days. Hardly anybody wore a mask.

あの頃が懐かしい。マスクを着けている人なんかほとんどいなかった。

自分バージョンを色々と英作文してみよう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アクシャイ・クマール, インド, シャルマン・ジョーシー, ビディヤ・バラン, ヒューマンドラマ, 歴史, 監督:ジャガン・シャクティ, 配給会社:アットエンタテインメントLeave a Comment on 『 ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 』 -Rise up against all odds-

『 建築学概論 』 -初恋は実らない-

Posted on 2020年3月18日 by cool-jupiter

建築学概論 75点
2020年3月17日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:オム・テウン ハン・ガイン イ・ジェフン ペ・スジ
監督:イ・ヨンジュ

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あらすじ

設計事務所に勤めるスンミン(オム・テウン)のもとに、大学時代の初恋の相手、ソヨン(ハン・ガイン)が訪ねてきた。家を建ててほしいというのだ。スンミンは大学時代のソヨンとの出会い、そして恋に落ちていく過程を徐々に思い出していき・・・

 

ポジティブ・サイド

初恋が実る人というのは、いったいどれくらいいるのだろうか。おそらく数パーセントではないだろうか。それぐらい、初恋というのは実らない。この言葉が一種の格言になるのは、それだけ多くの人の実体験に裏付けられているからに他ならない。本作は、その初恋の甘さ、そして酸っぱさ、さらには苦みも思い起こさせてくれる秀作である。

 

邦画の世界は、右を向いても左を向いても高校生のラブストーリーだらけだが、実際に我々が共感しやすいのは大学生のラブストーリーの方である。アルバイトができるのである程度のカネを持っているし、学年にもよるが酒を飲める。夜のクラブで踊り明かすこともできるし、なんならホテルに泊まる(性交目的ではなく)こともできるというのは『 猟奇的な彼女 』が映し出してくれた。大学生の恋愛の方が realistic なのである。日本の、特に少女コミックを原作とする邦画は、総じてファンタジーであり、おとぎ話である。

 

本作は、というか韓国映画というのは女性を必ずしも神格化=romanticizeしない。本作のヒロインのソヨン(大学生パート)はと言えば、「クロヤロー」、「ちくしょう」、「ムカつく」といった卑罵語を使って我々を戦慄させる。まるでゲーム『 ファイナルファンタジーX-2 』でユウナが「ムカつき」と言った時のような衝撃である。ソユンほどの美少女がこれほど口汚く何かを罵るのも韓国映画のパワーだろう。女性に変な幻想を抱かせない。これも重要な教育的役割と言えるかもしれない。さらに凄いのは、とある夜のバス停のシーンだろう。ごく最近、『 犬鳴村 』の冒頭で似たようなシーンがあったが、とにかく落差の激しさが全然違う。ある意味で『 猟奇的な彼女 』の電車内での嘔吐シーンを超えるインパクトをピュアなハートを持った男性に与えてくる。もちろん、ソヨンはがさつなだけの女性ではない。韓国風の指切りげんまんのシーンは、そんじょそこらの邦画のラブストーリーを一発で吹っ飛ばしてしまうほどの破壊力を秘めている。ペ・スジがとにかく可愛すぎるのである。

 

それにしても韓国の俳優の表現力の豊かさよ。「俺はソヨンの幸せだけを祈るよ」と本心とは異なるセリフを吐くときのイ・ジェフンの遠くを見る目の虚ろさ、さらに「僕の目の前から-」という言葉を絞り出したときの目の力は、ジャ〇ーズ事務所のアイドルには出せない表現力だ。街中で怒鳴り合うおばちゃんたちを背景に、ひたすら静の演技を貫く若手俳優。奥が深い。唐田えりかも日本に居場所がないのなら、韓国でオーディションを受けまくればいいのだ。

 

ネガティブ・サイド

ぺ・スジとハン・ガインが似ていない。オム・テウンとイ・ジェフンも顔かたちは全く似ていないが、動いている時、しゃべっている時、表情がある時はびっくりするぐらいに似ている。おそらく『 君の膵臓をたべたい 』の小栗旬と北村匠海のように表情や歩き方などを合わせたのだろう。同じような努力がぺ・スジとハン・ガインの間でなされなかった、あるいはなされてはいたが不十分だったというのは減点材料である。過去と現在を行き来する見せ方においては、キャラクターの同一性・一貫性というものが重要なのである。

 

ある事象を目撃し、聞き耳も立ててしまったスンミンがソヨンに別れを告げるシーンは素晴らしかった。であるならば、スンミンがその事象を起こした人物に一発お見舞いする、あるいは軽蔑の眼差しを向けるでも無視するでもなんでもいい。なんらかのアクションを起こしてほしかった。自分が恋焦がれる女性が、自分以外の男と談笑しているのを見るだけで胸が張り裂けそうになったという男性は、現代日本にも一千万人単位で存在するはずである。そして男、特に童貞は『 君が君で君だ 』の尾崎豊のごとく、きわめてたくましい妄想力の持ち主である。スンミンが現実に行動を起こせないまでも、メガネの先輩に対してなんらかの“恨”の情を抱いてくれれば、観る側はもっとスンミンに感情移入ができたのだが。

 

総評

これこそ日本でリメイクすべきである。過去と現在を行き来する展開といえば『 君の膵臓をたべたい 』が思い起こされる。月川翔監督および月川組のスタッフで是非ともリメイクをしてほしい。『 見えない目撃者 』という成功事例もある。今こそ、韓国映画を解剖し、再構築し、そのエッセンスを吸収する時である。やろうぜ、日本映画界!

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ガンベイ

カタカナで見ると何のことか分からないが、映像を字幕つきで見るとすぐにわかる。すなわち「乾杯」である。それに対して「(ガ)ッチャン」と返すのも、なかなか洒落ていて面白いではないか。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, イ・ジェフン, オム・テウン, ハン・ガイン, ぺ・スジ, ロマンス, 監督:イ・ヨンジュ, 配給会社:アットエンタテインメント, 韓国Leave a Comment on 『 建築学概論 』 -初恋は実らない-

『 テルアビブ・オン・ファイア 』 -秀逸なブラック・コメディ-

Posted on 2020年2月12日2020年9月27日 by cool-jupiter

テルアビブ・オン・ファイア 70点
2020年2月11日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:カイス・ナシェフ
監督:サメフ・ゾアビ

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イスラエル・パレスチナ問題にはそれほど詳しくないものの、基本的な知識さえあれば楽しめるし笑える作品である。『 判決、ふたつの希望 』や『 エンテベ空港の7日間 』のように、中東やイスラエル関連のストーリーにはシリアスなものが多いが、中にはこのような愉快な作品もあるのである。

 

あらすじ

人気ドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」。その制作現場で発音指導をするパレスチナ人青年サラム(カイス・ナシェフ)は、毎日イスラエルの検問所を通っている。ある日、検問所の主任アッシに呼び止められたサラムは、自身を「テルアビブ・オン・ファイア」の脚本家だと偽ってしまう。ところが、ひょんなことからサラムは本当に脚本担当に出世してしまう。困ったサラムは、毎日検問所でアッシからヒントをもらうようになり・・・

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ポジティブ・サイド

Jovianがイスラエル・パレスチナ問題を本当に意識するようになったのは、高校生の時おラビン首相暗殺のニュースだった。確か中3ぐらいの時に『 JFK 』をビデオ2巻で見て、「本能寺の変よりスケールでかいことが、ほんの数十年前に起きてたんだなあ」と呑気な感想を抱いていた後のことだったので、イスラエル首相の暗殺のニュースとその後の識者による解説や新聞記事で、問題の根の深さを知った次第である。前提となる知識にこれぐらいあれば望ましいのだろうが、「片方が片方を占領して揉めている」という理解があれば十分であろう。

 

本作の面白さの第一は、作り手と受け手の温度差である。パレスチナ人制作のドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」のプロットをイスラエルの軍人であるアッシに相談するという逆転の発想である。めちゃくちゃ乱暴に例えると、英国統治下のアメリカが、独立戦争前夜のドラマや戯曲を作るのに、英国軍人にアドバイスを求めているようなものである。そして英国人のアドバイスに従って作ったドラマが、アメリカ人に好評を博すということである。もしくはGHQの統治下にあった日本が、太平洋戦争前夜にアメリカにスパイを送り込むドラマを作り、そしてそのドラマのプロットのアドバイザーにアメリカ人を据える。そして、アメリカ人好みに作られたドラマが日本人に大ウケするということである。この一見するとありえないような馬鹿馬鹿しさが面白い。発想の勝利である。

 

本作の面白さの第二は、兎にも角にもアッシというイスラエル軍人のキャラ設定にある。我々は軍人というと、融通の利かない石頭であると考えがちである。しかし、このアッシという男は、軍人の目から見てもリアリティあるドラマに仕上がるようにと、非常に的確でリアリティのあるアドバイスを送る。特に機密文書の在処や、それを保管しておく場所の鍵、その鍵をどうやって手に入れるのかetcについての議論は、漫画『 ゴルゴ13 』的であった。それが本当かどうかは別にして、リアリティが濃厚に感じられるということである。『 シン・ゴジラ 』的であるとも言えるかもしれない。このアッシはまた、家族や恋愛関係においても、非常に有益なアドバイスをサラムに送る。そのサラムはどうやら母子家庭で、父親はどこに?という疑問や、サラム自身のちょっとした特徴に関する疑問が、終盤のシリアスな展開で鮮やかに紐解かれる。そこで初めてアッシという男が、サラムにとっての家父長的な意味での父親、つまりユング心理学的な父親であり、同時に人生における positive male figure の役割も果たしていたことが分かるのである。それはすなわち、イスラムの神アッラーにイスラエルの神ヤハウェに共通する属性である。彼らは同じ神を違う角度から見ている・・・というのは考えすぎか。一つ言えるのは、アッシの言動が物語を強力にドライブするという存在であるということである。彼の言う「愛し合う者たちが行うことは何か?」という問いへの答えは、多くの独身および既婚者の、特に男性(日本では)を頷かせ、また震え上がらせることであろう。既婚男性諸君は今からでも遅くないのでアッシの忠告を実践に移すべし。これから結婚しようかという諸賢には、結婚生活の最初からアッシの中高を実践されたし。恋人がいるという男性は、付き合うまでは必死に彼女を口説いたことと思うが、付き合いがスタートしてしてからは、やはりアッシのアドバイスを忠実に実行せねばならない。余裕があれば『 ハナレイ・ベイ 』の吉田羊のアドバイスも聞いておくべし。アッシの助言と村上春樹の助言に、人類普遍の真理を見ることができるだろう。

 

Back on track. 面白さの第三は、イスラエル側の市民の反応である。もっと言えば、アッシの家族の反応である。アッシの母や妻は当然ごとくイスラエル人であるが、アラブ系の女スパイとイスラエル軍の将軍とのロマンスを手に汗握って見つめる様子である。これも適切ではない例えかもしれないが、日韓関係は歴史の時々で悪化を見てきた。今も関係は決して良くない。だが政治的な関係が良好ではなくても、その他の関係までもが悪化するとは限らない。日本には今日もキムチや焼肉を食べ、韓国映画や韓流ドラマを観て、K-POPを聴いている人が少なくとも数十万人、多ければ数百万人はいるはずである。イスラエルとパレスチナも、市民レベルでは似たような関係であると推察されるし、またそうあって欲しいと願うし、そうあるべきだと信じている。そうした、ある種の能天気とも言える市民レベルのリアクションは、本作のようなブラック・コメディが言葉そのままの意味で悪い冗談にならないためにも必要である。

 

面白さの第四は、主人公サラムのビルドゥングスロマンである。金もない、恋人もいない、借金はあるというダメ男のサラムが、脚本家という職を得て、借金を返し、かつて好いた女性マリアムとの距離を再び縮めては広げ、広げては縮めていく過程は、全世界の男性を勇気づけるはずである。特に日本では、いわゆる氷河期世代の男性の共感を呼びやすいのではないか。サラムがドラマの登場人物の口を借りて、マリアムにメッセージを届けることには二重の意味がある。一つは、彼は決してマリアムのことを諦めたわけではないということ。もう一つは、アッシという良い意味で悪い意味でも父親的存在のアドバイスで仕事をこなしていたはずが、いつの間にか独力で仕事ができるように成長していっているということである。脚本も務めたサメフ・ゾアビ監督が、パレスチナの若い世代にエールを送っているかのようである。パレスチナを離れ、パリやニューヨーク、東京でも仕事ができるかもしれない。そう夢想するサラムと現実路線のマリアムの対話には、インド映画の『 ボンベイ 』のヒンドゥーとイスラムの夫婦のような言い難い難しさがある。

 

現実の人間関係とドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」が不思議にリンクしながらも、結末は文字通りにすべてを吹っ飛ばす。ここに来てストーリーは一気にブラック・コメディからギャグ漫画の域に到達する。ここにもおそらく二つの意味がある。一つは、商業的な理由でイスラエル・パレスチナ関係を終わらせたくないという人々がいることをユーモラスに批判しているということ。もう一つは、映画というフィクションの世界では夢を見てもいいでしょう?ということである。これが果たして結末にふさわしいかどうかは、観る人によって解釈が分かれるだろう。しかし、笑ってしまう結末であることだけは保証する。

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ネガティブ・サイド

冒頭のシーンで、できれば簡単な静止画もしくは映像付きでイスラエル・パレスチナ問題の説明があれば親切であったと思う。ドラマ撮影のシーンをそのまま導入に使うというのも悪いアイデアではないが、メタな展開を見せることそれ自体は観客の大部分はすでに知っているのだから。

 

また個人的な要望になるが、サラムとマリアムの恋愛未満の関係の描写をもう少し見てみたかった。本作は97分であるが、105分ぐらいに拡大しても誰も文句は言わないだろう。サラムの家庭環境やマリアムの実家の店での買い物シーンをもうちょっと拡大もしくは丁寧に描写することは十分に可能だったはずである。

 

冒頭のシーンからずっと不思議に思っていたことだが、テレビドラマの脚本家というのは、通常ならドラマのエンディングのスタッフロールでその名がしっかりと確認できるはずである。別にドラマの放送まで待たずとも、その場でスマホでドラマの公式サイトを検索して調べることもできたはずである。アッシがちょっと間抜けでお茶目な軍人さんという設定であれば、こうしたご都合主義的な展開もありなのかもしれない。しかし、終盤にサラムがイスラエルとパレスチナを隔てる壁の存在に打ちのめされる無言のシーンが存在する。その圧倒的にリアルな壁の存在とずさんなIDチェックが、どうしてもJovianの中では両立しなかった。

 

総評

政治風刺の色が濃いが、専門的な知識はなくても楽しむことは可能である。日本と近隣諸国の関係を投影して鑑賞してもいいし、サラムという主人公に自分の人生を重ね合わせて鑑賞することもできる。と同時に、観終わってすぐにイスラエル・パレスチナ問題について勉強したくもなるだろう。鑑賞後に「あー、面白かった/つまらなかった」という感想だけで終わる作品は多いが、「これはもっと調べてみなければ」という行動変容を起こさせる映画はそんなに多くはない。本作は、その数少ない一本だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I don’t give a shit.

『 アップグレード 』でも紹介した表現。「そんなもん知るか、コノヤロー」のような意味である。この後に5W1H S + Vのような形が続くことが多い。

I don’t give a shit what you think.

あんたがどう思っても私には関係ねーんですよ。

I don’t give a shit where they live.

あいつらがどこに住もうと、どうでもいい。

心の中で“Boss, I don’t give a shit what you think about me.”と思う頻度が高くなってきたら、転職活動を始める時期が近付いていると考えてよいかもしれない。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, イスラエル, カイス・ナシェフ, ブラック・コメディ, フランス, ベルギー, ルクセンブルク, 監督:サメフ・ゾアビ, 配給会社:アットエンタテインメントLeave a Comment on 『 テルアビブ・オン・ファイア 』 -秀逸なブラック・コメディ-

『 アニー・イン・ザ・ターミナル 』 -全てがクリシェのクソ映画-

Posted on 2020年1月5日 by cool-jupiter

アニー・イン・ザ・ターミナル 30点
2019年1月4日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:マーゴット・ロビー サイモン・ペッグ デクスター・フレッチャー
監督:ボーン・ステイン

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前々から気になっていたので、TSUTAYAで準新作になったので早速レンタル。マーゴット・ロビーとサイモン・ペッグに惹かれたが、中身はイマイチであった。

 

あらすじ

ロンドン地下鉄のとあるターミナルの24時間営業カフェで働くアニー(マーゴット・ロビー)は、地下クラブで働くコールガールでもあり、フィクサーの下で街のトラブルを裏で解決する仕事人でもあった。彼女の真の狙いは・・・

 

ポジティブ・サイド

マーゴット・ロビーの怪演とサイモン・ペッグの熟練の演技ぐらいしかい観るべきものはない。赤のストロボライトの明滅の合間に妖しい笑顔と平然とした表情を織り交ぜるのは絵としては良かった。

 

またロンドンは20km離れれば、日本で言えば200km離れたぐらいに違う言葉を話すと言われているが、劇中では確かにそのように感じられた。殺し屋稼業の二人組とサイモン・ペッグ、夜間管理人の男たちは、同じLondonerでも、日本で言えば大阪弁と岡山弁ぐらい違う言葉を話していた。

 

ネガティブ・サイド

クリシェだらけである。

 

時系列を狂わせて物語を見せるのは『 市民ケーン 』以来の一つの型であるが、そのことが結末の驚きにつながってこない。というか、それなりに型破りな見せ方をするのであれば、結末にもっとアッと驚く仕掛けを持ってきてほしい。邦画の『 イニシエーション・ラブ 』の方がはるかに優っている。

 

また『 グッドウィル・ハンティング 』以来、掃除人には何かがあると考える癖が映画ファンにはついてしまった。またはテレビドラマ『 家なき子 』の庭師のじいさんでよいだろう。こうしたjanitorは往々にして見かけ以上の役割を担っている。

 

また、地下世界への案内人が白ウサギという“アリス”以来の伝統にも変化球が必要である。『 マトリックス 』のように、ウサギはウサギでも、ウサギっぽくなさそうなキャラを用意すべきである。うさ耳カチューシャをつけたコールガールというのは、あまりにも下品である。

 

なによりもクリシェなのはアニーそのものに仕込まれたトリックである。まさか2010年代にもなってこのようなネタを使ってくるとは、脚本家は何を考えているのか。せめて『 シンプル・フェイバー 』ぐらいの変化球を放るべきである。このような手垢のついたトリックはもはや害悪である。そういう設定で観る者を驚かせたいなら、邦画『 キサラギ 』や同じく邦画『 アヒルと鴨のコインロッカー 』を参考にすべきだろう。

 

総評

はっきり言って観る価値はない。マーゴット・ロビーの熱烈なファン以外に勧めることはできない。といっても、マーゴット・ロビー信者でもこのプロットには腹を立てると思われるが・・・ 中盤まではひたすらに眠くなるような展開なので、一種の睡眠導入剤にはなるのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

have bigger fish to fry

実は今作で初めて耳にした表現である。しかし、ストーリーの文脈から意味はすぐに分かった(アニーは ”We got bigger fish to fry.” と言った)。直訳すれば「揚げるべきもっと大きな魚がいる」だが、その意味は「もっと大事な用事がある」である。調べてみたところイギリス英語らしいが、コンテクストが明らかであればアメリカ人にも通じると思われる。フィッシュ&チップスのお国らしい、面白い表現である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, アメリカ, イギリス, サイモン・ペッグ, ハンガリー, マーゴット・ロビー, ミステリ, 監督:ボーン・ステイン, 配給会社:アットエンタテインメント, 香港Leave a Comment on 『 アニー・イン・ザ・ターミナル 』 -全てがクリシェのクソ映画-

『 エリザベス∞エクスペリメント 』 -ご都合主義が過ぎる凡作スリラー-

Posted on 2019年8月13日2019年8月13日 by cool-jupiter

エリザベス∞エクスペリメント 40点
2019年8月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アビー・リー キアラン・ハインズ
監督:セバスチャン・グティエレス

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確か、未体験ゾーンの映画たちでパンフか何かだけ手に取った記憶がある。地雷臭がプンプン漂っていたが、Again, I was in the mood for garbage. 夏と言えばサメがゾンビのクソ映画祭りなのだが、たまには違うジャンルをば。本作はSFというよりもシチュエーション・スリラーである。しかし、シチュエーション・スリラーと呼ぶには、話があまりにもとっ散らかっているという印象である。期待せずに観た。そして、それで正解であった。

 

あらすじ

エリザベス(アビー・リー)は年の離れた億万長者の夫ヘンリー(キアラン・ハインズ)の自宅へと帰ってくる。そこは山中の湖畔にある豪邸で、室内プールにワインセラー、ブティックかと見紛うほどのドレスに靴まであり、自然に囲まれた別天地だった。しかし、ヘンリーはとある部屋にだけ、エリザベスが入ってはならないと言う。ある時、エリザベスがその部屋で見たものとは、彼女のクローンだった・・・

 

ポジティブ・サイド

ある時点までは万人の予想通りに進む。しかし、そのある時点からはやや予想の斜め上を行く展開になる。屋敷の使用人たちが発する雰囲気が、どこか『 ゲット・アウト 』の屋敷の住人およびゲストたちのそれと似ているのだ。こういう映画は観る者の予想を裏切ってナンボなのである。

 

男女、そして夫婦の仲というのは難しい。『 ゴーン・ガール 』を観るまでもなく、男(夫)と女(妻)が、腹の中に何を抱えているのかは外部の人間からは窺い知れない。夫は妻に何を求めているのか。そのような問いを突き付けられた時、そして本作のヘンリーのような夫に自分がなってしまってはいないかとの不安に襲われる諸賢は多かろうと推測する。いくら天才的科学者であっても、男はその本質においてアホなのではないか。英雄色を好む。古人に言によれば「英雄、色を好む」ということだが、逆に言えば「色を好むから英雄である」とも考えられる。

 

ヘンリーも相当であるが、オリバーもかなり危ない男である。エリザベスが魔性の女だからだと勝手に思い込むことなかれ。この盲目の青年の情念は、正常だとか異常だとかの尺度で測ってはならない。やっていることが、まんま山本弘の小説に出てきそうな無邪気で、それでいて自己中心的な思春期真っ只中の子どもの妄想である。というか、山本弘の小説に、地球が自分の意思で世界を二つに割って、片方に生きていたい生物、もう片方に死にたがっている生物を選り分けるような短編があったが、そこに出てくるアホなガキンチョとオリバーは、本質的に同じ思考、同じ行動原理を持っている。キモイの一言に尽きる。

 

男というのは、どうしようもなくアホな生き物であるということをまざまざと見せつけてくる怪作である。

 

ネガティブ・サイド

いくらなんでもセキュリティが緩過ぎるだろう。本当に見られたくないのなら、厳重に施錠しろ。というか、出入り口を作っては駄目だろう。大富豪にしてノーベル賞受賞者なら、もうちょっと頭を使って欲しい。本作はほぼ全編、邸宅内でストーリーが進行する。つまり、舞台が一つだけなのであるが、このようなご都合主義的なドラマツルギーは創作、演出上の逃げである。こういった部分でサスペンスを生み出し、それを終盤のドンデン返しへの伏線とするような脚本が望まれているのだ。

 

その一方で、家の外に出るためのセキュリティが固すぎる。というか、屋敷の外に通じる道が巧妙にふさがれて、あるいは防弾使用になっていることで、ヘンリーの秘密のクローン保管室への扉がいとも簡単に開いてしまうことに納得ができなくなる。このマッドサイエンティストは頭が良いのか悪いのか、分からなくなってしまう。本作のテーマの大きな部分に、クローンという存在に対してどのような感情を以って接するべきかというものがある。理性と感情は別物である。それは分かっている。だが、それでもヘンリーの行動原理や思考には首を傾げざるを得ないところが多々ある。結婚を「誘拐」に例えるセンスには眉をひそめてしまうし、無数にクローンが存在するならばまだしも、6人しかいない貴重なクローンをいとも簡単に始末してしまうところなど、彼の言う愛は自己と他者の関係のことではなく、性欲のことではないのかとさえ感じられてしまう。底知れないキャラクターに見せかけて、非常に底浅く感じられるのである。

 

また、盲目のオリバーについても疑念が残る。というよりも不可解さが残る。盲目であっても、信じられない能力や技能というのは身につくものだ。フィクションの世界では座頭市しかり、実在の人物では石田検校しかり。だからオリバーが銃をぶっ放すぐらいは気にしない。しかし、注射器を巧みに操るというのは一体全体どういうことだ?どの瓶に入っているのがどの薬品で、その薬品の有効期限はいつまでで、なおかつその薬品の適切な投与量がどれくらいなのかを、盲目でありながらどのようにして把握したというのか。合理的な説明が見当たらないし、思いつかない。

 

総評

扱っているテーマは面白い。しかし、邦題がまずい。∞マークは完全なるミスリード材料だ。同じようなSFチックなシチュエーション・スリラーなら、『 トライアングル 』(2009年 クリストファー・スミス監督作)や『 月に囚われた男 』をお勧めしたい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, アビー・リー, アメリカ, キアラン・ハインズ, シチュエーション・スリラー, 監督:セバスチャン・グティエレス, 配給会社:アットエンタテインメントLeave a Comment on 『 エリザベス∞エクスペリメント 』 -ご都合主義が過ぎる凡作スリラー-

『(r)adius』 -ひとひねりは効いているが、着地に失敗したSFスリラー-

Posted on 2018年7月30日2020年1月10日 by cool-jupiter

(r)adius 40点

2018年7月28日 レンタルDVDにて観賞
出演:ディエゴ・クラテンホフ シャーロット・サリバン
監督:キャロライン・ラブレシュ スティーブ・レナード

リアム(ディエゴ・クラテンホフ)は交通事故に遭い、負傷していた。気がついた時には見知らぬ土地にいて、記憶を失っていた。そして、自分の半径15mに近づいてきた動物(植物や微生物は無事らしい)は、白目をむいて即死することに気づいた。そんな中、自分に近づいても死なない女性ジェーン(シャーロット・サリバン)と出会う。ジェーンもまた記憶を失っていたが、2人は元々一緒に行動していたらしいことが分かる。一緒にいれば、謎の即死現象が中和されることに気づいた2人は、警察その他から逃れるべく、逃亡を開始するが・・・

どこかジョニー・デップとシャーリーズ・セロンの『ノイズ』を思わせる雰囲気があったりと、予備知識ほぼゼロの状態で観ていたため、序盤の展開にはスッと入っていくことができた。記憶喪失物というのは、小説であっても映画であっても、始まりはたいてい面白いと決まっているのである。問題は、記憶を取り戻す方法とタイミングだ。もちろん、そこにも『ジェイソン・ボーン』式のきっかけとともに小出しで思い出していく方式、『メメント』式の終盤一気の思い出し方(というか説明の仕方か)、装置を使って思い出す『トータル・リコール』方式など、こちらも記憶喪失ジャンルと同様にある意味で確立されていると言える。残念なのは本作の記憶喪失とその記憶の取り戻し方が、あまりにもご都合主義過ぎるところ。良かったところは、失われた記憶が蘇ったことで分かるリアムとジェーンの本当の関係の意外性。しかし、この映画の最も残念な点は、テーマを絞り切れなかったところであろう。主題は分かりやすい。半径15m以内の生物を問答無用で即死させてしまう謎の現象だ。しかし、テーマが薄い。というか分散させすぎである。ジャンル分けするとすれば、SFであり、スリラーであり、記憶喪失物であり、ロードムービー的要素もあり、ロマンス要素もある。敢えて絞るとすると、良心への目覚めということになるのだろうか。しかし、タイトルにもある(r)adius=半径について、もっともっと深掘りするべきだし、観る側はそれを期待する。エレベーターのシーンはサスペンス感があったが、他にも例えば、リアム一人でボートで湖にこぎ出してたんまり魚をゲットしてくるなど、二人の逃避行にもっとほのぼのとした要素を入れてくれないと、オチとの落差があまり感じられず、結果的に着地で失敗したとの印象だけが強めに残った。誰も漫画の『B-SHOCK!』みたいなのは期待していないのだから。

もともと梅田のシネリーブルの未体験ゾーンの映画たちの一つとして公開されていた当時、都合がつけられず劇場鑑賞ができなかった。まあ、レンタルで観て、それなりに満足したということで、良しとしようではないか。ちなみに本作のジェーンは、ジェーン・ドウ=Jane Doeから来ている。身元不明の女性はジェーン・ドウなのだ。ちなみに男になるとジョン・ドウ=John Doeとなる。『マイノリティ・レポート』でトム・クルーズが一瞬言及するシーンがあるので、熱心なトム様ファンは見返してみてもいいかもしれない。直近では『ジェーン・ドウの解剖』、近年だと『ブラック・ダリア』がジェーン・ドウものの秀作かな。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, カナダ, シャーロット・サリバン, ディエゴ・クラテンホフ, 監督:キャロライン・ラブレシュ, 監督:スティーブ・レナード, 配給会社:アットエンタテインメントLeave a Comment on 『(r)adius』 -ひとひねりは効いているが、着地に失敗したSFスリラー-

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