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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ラブロマンス

『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

Posted on 2025年4月21日2025年4月21日 by cool-jupiter

片思い世界 40点
2025年4月18日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:広瀬すず 杉咲花 清原果耶
監督:土井裕泰

 

『 花束みたいな恋をした 』の土井裕康監督作品ということでチケット購入。事前情報はほとんど仕入れずに臨んだが、思っていた作品ではなかった。

あらすじ

美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)の3人は仕事、大学生活、アルバイトに勤しみながら、共同生活を送っていた。ある日、美咲が心寄せる幼馴染みの男性を見つけたことから、優花とさくらは美咲に告白を促すが・・・

 

以下、わずかなネタバレあり

ポジティブ・サイド

設定自体は割とありふれている。パッと思いつくだけでも



『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』

『 アザーズ 』

『 ザ・メッセージ 』

 

などが思い浮かぶ。本作のユニークなところは、それを3人娘の物語にしたところ。美咲、優花、さくらの三人が異なるパーソナリティを持っていて、それぞれに愛する人、会いたい人、憎むべき人を追っていくというサブプロットも悪くない。

 

魂魄この世にとどまりて怨み晴らさでおくべきかと言うが、生きていればどうしたって未練が残る。それは思慕の念であったり怨念であったりする。それを昇華して生きることの難しさや美しさが本作では存分に描き出される。

 

ストーリーに没入してもいいし、単純に目の保養のためにチケット購入するのもいいだろう。

ネガティブ・サイド

冒頭の回想シーンで「イマジナリーフレンドかな?」と思い、清原果耶の帰宅シーンで「ん、〇〇か?」と予感し、的中。もう少し導入部分を上手く組み立てられなかったか。

 

設定を必要以上に説明しようとするのは完全に蛇足であると感じた。おそらく『 TENET テネット 』にインスパイアされたのだと思われるが、脚本家は量子力学と素粒子物理学を弁別できていない。前者はミクロのレベルでは物理現象は量子化(離散的な値しか取れない)されるという前提に立つ学問で、後者は超ミクロの粒子は様々な力によって相互に作用することを研究する学問。両者は等価ではない。にもかかわらず、他世界解釈的な描写(それ自体が矛盾しているのだが)があったりと釈然としない。また素粒子物理の講義なのにシュレディンガー方程式を扱ったハンドアウトが配布されたりしている。何故だ?

 

また、3人が互いには触れ合えるのに他人に対してそうではないというのは、素粒子物理学で言うところの斥力のように感じられて興味深かったが、そうであれば3人は一定の距離以上には離れられないといった制約があればより説得力があった。

 

ラジオ放送も意味不明。ここのサブプロットは不要だった。もしくはここを追求するのであれば、合唱コンクールを録画あるいは録音した音声に子どもたち以外の声があった、という方がプロット上はより整合性が感じられるのではないだろうか。

 

優花の母の暴走を母の愛以上に描けたはずだが、そうしなかったのか、できなかったのか。「理由を知りたい」というのは実はエゴで、理由ではなく、理由を知ろうとすることそのものが自分の生きる理由になる。『 ゼロ・ダーク・サーティ 』でも、憎むべき敵をついに追い詰めた時、主人公の胸に去来したのは充実感ではなく喪失感だった。人間とは往々にしてそういうもの。もっと人間のドロドロの情念に踏み込んでほしかった。

 

美咲の書いたオペラは美しいのは美しいが、10代前半で可能な描写ではない。

 

総評

不条理な世界の設定を詩や戯曲を通じて語るのはよい。しかし、サイエンスを絡ませるのならそこも徹底すべきである。あるいはサイエンスはすべて排除すべきだった。物語世界の設定は悪くないのだから、そこに生きるキャラを徹底的に描写すべきで、世界がどうなっているのかを追究するのは不要だった。鑑賞する際は、キャラクター達だけに集中のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

relocate

引っ越しする、の意味。moveよりも少しフォーマル。I am scheduled to relocate to Tokyo due to my job transfer. のように使う。語彙力増強のためには類義語を覚えるのが早道だが、その際、レジスター(カジュアルな表現なのかフォーマルな表現なのか)を意識できれば中級者以上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』
『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ラブロマンス, 広瀬すず, 日本, 杉咲花, 清原果耶, 監督:土井裕泰, 配給会社:リトルモア, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

『 大きな玉ねぎの下で 』 -特定の世代に刺さる秀作-

Posted on 2025年2月22日 by cool-jupiter

大きな玉ねぎの下で 70点
2025年2月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:桜田ひより 神尾楓珠
監督:草野翔吾

 

タイトルでピンと来たのでチケット購入。業務繁忙期につき簡易レビュー。

あらすじ

昼はケーキ屋兼カフェ、夜はバーという店で、昼のアルバイトの美優(桜田ひより)と夜のアルバイトの丈流(神尾楓珠)は備品の発注や客の遺失物についてノートに綴るようになる。いつしか二人は互いの業務連絡を超えた内容もやり取りし始め、顔も名前も知らないままに惹かれ合うが・・・

ポジティブ・サイド

同じ桜田ひより主演作の『 交換ウソ日記 』よりもはるかに面白い。丈流との出会いのイベントにも伏線があったり、ノートの連絡相手が誰だか分かってしまうシーンの簡潔さと分かりやすさも良かった。

 

丈流もいつの時代の若者にも見られる一種のニヒリストでリアリティがあった。本人は「全て」という部分を強く否定したが、実態は「全ては偶然だから意味ない」論者。それが偶然の出会いから、少しずつ変わっていく過程も興味深く観ることができた。

 

ちなみに決定論と非決定論は西洋哲学でかつて盛んに論じられたが、このどちらにも意味はない。考え方のヒントになるのは、むしろ仏教の縁起思想だ。と思っていたところ、唐突に回想シーン。そう、本作はまさに仏教的な縁や、一種の輪廻転生思想をも包括した作品になっているのだ。

 

昭和から平成への移り変わりの時代も映し出され、色々なシーンやガジェットにノスタルジーを覚えた。またサンプラザ中野も一瞬だけ登場したりと、爆風スランプへのリスペクトも見せた。今どきの若者向けの作品に見えるが、実際は1970年代生まれに刺さる作品。同世代の男女よ、チケットを買おう。

 

ネガティブ・サイド

看護学校もしくは大学の看護学部に通いながらアルバイトするというのは可能ではあるが現実的ではない。というか実習期間中にもバイトをするなど狂気の沙汰。どんなに優秀でも担当患者の疾病について調べたり、SOAP記録をつけて翌日の看護計画を立てたりするだけで睡眠時間の半分は飛ぶ。美優は実家暮らしで、姉や母も看護師なのか?そうした描写はなかったが・・・

 

総評

こんなに面白いのに興行収入面が現時点でそれほど振るわないというのは残念。いわゆる氷河期世代ならタイトルだけで興味を惹かれるし、内容もガッツリ歌にインスパイアされたもので共感しやすい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

correspond

様々な意味を持つが、文通するという意味は死につつある。ただ業界や業種によってはコレポンという言葉で定着しており、相手と自分の間でなんらかのやり取りをするという意味はそこにもしっかり残っている。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 幻魔大戦 』
『 マルホランド・ドライブ 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, ラブロマンス, 日本, 桜田ひより, 監督:草野翔吾, 神尾楓珠, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 大きな玉ねぎの下で 』 -特定の世代に刺さる秀作-

『 シングル・イン・ソウル 』 -恋愛しても結婚しないという選択-

Posted on 2024年11月18日 by cool-jupiter

シングル・イン・ソウル 65点
2024年11月15日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:イム・スジョン イ・ドンウク
監督:パク・ボムス

 

予告編が面白そうだったのでチケット購入。

あらすじ

小さな出版社勤務のヒョンジン(イム・スジョン)は、大都市でのシングル・ライフに関するエッセイ本を手がけることになる。そこで予備校で小論文指導をして、SNSでもシングル・ライフについて発信するヨンホ(イ・ドンウク)に執筆を依頼するが・・・

ポジティブ・サイド

主人公ヒョンジンは年齢不詳ながら、おそらくアラサー(大学の先輩であるヨンホが飲酒可能な学生時代から数えて11年だったので)。それにしてはメルヘンチックな幻想を抱き続ける姿が面白い。一方でエッセイを執筆することになるヨンホも、独身貴族生活を満喫しつつも、過去の恋愛を引きずっている姿が物悲しくも面白おかしい。二人が距離を縮めていきながらも男女の仲を予感させないストーリーは、一昔前だと考えられない構成。しかし本作はそこにリアリティがある。出版社の同僚たちもキャラが立っていて、それぞれに見せ場がある。

 

本作の見どころの一つは非常にぎこちないキスシーン。『 ロッキー 』で、ロッキーとエイドリアンが玄関でキスするシーンとは一味違った、非常に不器用なキスが描き出される。これはこれでリアルだと感じた。

 

初恋を美化する男の悪癖が今作でも強調されていたのもリアルだった。記憶の美化は、たいてい『 青春18×2 君へと続く道 』のように、印象的な瞬間を忠実に脳裏に焼き付けておくことで起こる。本作は一味違うパターンだが、こうした記憶の仕方を知らず知らず実行してしまっている男性はかなり多いと思われる。

 

ネガティブ・サイド

100分ちょっとという上映時間にして、間延びしているように感じられた。フォーカスがヒョンジンのロマンスなのか、キャリアなのか、家族の関係なのか、色んなところに飛ぶので、それだけ展開のテンポが悪くなってしまっていた。

 

ヨンホ仕事=小論文指導をしているシーンが少なかった。講義の中で彼が「書く」という営為をどのように捉えているのかをもっと語ってくれていれば、エッセイの中身や彼自身のバックグラウンドにさらに深みが生まれたものと思う。

 

総評

韓国には負けるものの、日本もかなりの未婚社会になってきた。お一人様を満喫するのか、それとも伝統的な価値観に抗うことに疲れながら生きるのか。そのあたりのヒントが得られないこともない。さわやかなストーリーではあるが、デートムービーには適しない点には注意が必要。案外、DINKSで鑑賞するのが最も良いのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ソンベ

先輩の意。ソンベニム=先輩様という形で使われることもあるが、本作ではソンベだった。先輩後輩を強く意識するのはアジアでは日本と韓国ぐらいだろうか。韓国からの留学生も増えているので。案外今どきの大学生は知っている語彙かもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 オアシス 』
『 他人は地獄だ 』
『 最後の乗客 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, C Rank, イ・ドンウク, イム・スジョン, ラブロマンス, 監督:パク・ボムス, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 シングル・イン・ソウル 』 -恋愛しても結婚しないという選択-

『 狼が羊に恋をするとき 』 -台湾ラブコメの佳作-

Posted on 2024年8月25日 by cool-jupiter

狼が羊に恋をするとき 60点
2024年8月24日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:クー・チェンドン ジエン・マンシュー
監督:ホウ・チーラン

 

『 ソウルの春 』や『 ポライト・ソサエティ 』の鑑賞を考えていたが、妻の「これ観たい」の一言でチケット購入。リクエストがあれば婦唱夫随である。

あらすじ

「予備校に行くね」というメモを残して消えた恋人を追い求めて、タン(クー・チェンドン)予備校が林立する南陽街にやってきた。ひょんなことからコピー店で職と住居を得た彼は、ある時、試験用紙に描かれた羊のイラストを見て・・・

ポジティブ・サイド

クー・チェンドンのダメ男っぷり、世間知らずっぷりがいい。なにより、どこまでも一緒に行きたがる恋人と、ただ一緒にいられれば満足という男の対比があまりにも真実だ。ウィリアム・アイリッシュの昔から、消えた女を追うというのはサスペンスの王道。しかし本作はそれを堂々たるロマコメに仕立て上げた。

 

高校生や大学生同士の恋愛ではなく、予備校スタッフと試験用紙のコピー業者という距離感が絶妙にもどかしい。その二人のコミュニケーションが、試験用紙に描かれる羊と狼の対話というのも、デジタル全盛の2020年代においては新鮮だし、そしてFacebookやTwitter(現X)などが興隆しはじめた2010年代においても新鮮だったはず。そこで real space かつ not real time 形式で行われるタンとシャオヤンのコミュニケーションは、『 交換ウソ日記 』でも感じたことだが、実に微笑ましい。

 

数々のサブプロットを交えながら、二人が最終的にたどることになるであろう道は美しい。その花道を彩る一種の紙吹雪も、非常に cinematic な映像になっている。 まさに台湾ラブコメの佳作である。

 

ネガティブ・サイド

ストーリーのサブプロットが多すぎる。あるいは十分に追求されないまま閉じられていると感じた。特にタンの一日一善と犬探し。そしてシャオヤンの新聞チェック。特にこれは最近でも『 ルックバック 』でも似たようなシーンがあり、漫画家もしくはイラストレーターという人種の習性を表す重要なシーンになったはずではないか。

 

また『 もしも君に恋したら。 』でも感じたことだが、シャオヤンもイラストレーターならペンだこ、あるいはそれに類した手をしていて然るべきではないだろうか。

 

総評

メインの二人の若さとチャーミングさが物語によくマッチしている。コピー屋の店主や牧師などの脇役のオッサン連中も良い感じ。王道ではなく変則的なラブロマンスだが、ありきたりの学園青春ものに飽きている向きには新鮮に映るはず。製作から10年越しでの本邦初公開なので、アジア映画ファンならチケットを購入してみてはどうだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

不是

ブシと発音する。意味は「いいえ」で、本作でも2回ぐらい聞こえた。外国語を学ぶにはまずは数字からというのはジョー小泉の言だが、その前に「はい」と「いいえ」から始めるのが最も基本的なアプローチであると思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 ソウルの春 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, クー・チェンドン, ジエン・マンシュー, ラブロマンス, 台湾, 監督:ホウ・チーラン, 配給会社:台湾映画同好会Leave a Comment on 『 狼が羊に恋をするとき 』 -台湾ラブコメの佳作-

『 青春18×2 君へと続く道 』 -サプライズには欠けるが王道-

Posted on 2024年5月15日 by cool-jupiter

青春18×2 君へと続く道 65点
2024年5月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:シュー・グァンハン 清原果耶
監督:藤井道人

 

『 デイアンドナイト 』、『 宇宙でいちばんあかるい屋根 』に続く藤井道人監督かつ清原果耶出演作ということでチケット購入。

あらすじ

旅行先の台湾のカラオケ屋で働くことになったアミ(清原果耶)は18歳の少年ジミー(シュー・グァンハン)に出会う。親日家のジミーはアミに惹かれていくが・・・

 

ポジティブ

18歳のジミーと36歳のジミーを演じ分けたシュー・グァンハンの演技力に尽きる。もちろん、ヘアスタイリストやメイクアップアーティストの尽力あってこそだが、この役者の目で語る力、表情、計算された佇まいなどはキャリアで築いてきたものなのだろう。彼の過去の出演作も観たくなった。

 

台湾パートと日本パート、過去の回想シーンと現在を行き来する中で、ジミーの過去と現在、そしてアミの過去と現在も徐々に明かされていく。ジミーが日本を訪れ、あてどなく各地を巡る旅を通じて、18年前のアミの旅をある意味で追体験していくという構成は秀逸。旅の目的を自分探しではなく、自分のたどってきた足跡を確かめるものというのも、ラルフ・ワルド・エマーソン的で得心がいく。ジミーが自らの青春時代を顧みて、それによって自分がどういう大人になったのかを再発見していく。それによって、ジミーがアミと過ごした18歳のひと時の重さが如実に浮かび上がってくる。

 

あまり書くとネタバレになるのだが、アミのとある振る舞いというか姿勢というか、それが非常にリアルだった。またアミがジミーに告げる次の旅の行き先も非常に意味深。医療従事者、あるいは海堂尊の小説をよく読むような人なら、ハッとしたことだろう。

 

ジミーの心の旅路とも言うべき日本旅行に一菊の涙を禁じ得ない人は多いはずだ。

ネガティブ

ちょっとあまりにもテンプレ化した物語ではないだろうか。まるで20年前の韓国ドラマを観るようだった。

 

またジミーの受験結果もひとつのサブプロットになっていたが、必要だっただろうか。冒頭の現在パートでジミーとリュウが大学で出会ったとすでに語られていた。もちろん浪人の可能性もあるのだが、ここはさっさと飛ばして、せっせとアルバイトに精を出し、その中で日本から来た旅人に心惹かれるジミーという描写をもう少し増やせたように思う。

総評

台湾映画独特の温もりが日本の冬景色にうまく溶け込んでいる。そのことが過去と現在の交錯に不思議な上巻を生み出してもいる。清原果耶目当てでチケットを買ったはずが、シュー・グァンハンに終始魅了されっぱなしの2時間だった。彼の演技だけでチケット代の元は十分に取れる。ぜひ劇場で鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

シィエシィエ

漢字で書くと「謝謝」、ありがとうの意である。劇中で何度も聞こえてくる。韓国語のカムサハムニダのカムサも漢字で書けば感謝。日本語(や韓国語)は中国語に負うところ大だなとつくづく感じる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 不死身ラヴァーズ 』
『 関心領域 』
『 バジーノイズ 』

 

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Posted in 国内, 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, シュー・グァンハン, ラブロマンス, 台湾, 日本, 清原果耶, 監督:藤井道人, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 青春18×2 君へと続く道 』 -サプライズには欠けるが王道-

『 マリの話 』 -Boys be romanticists-

Posted on 2024年3月11日 by cool-jupiter

マリの話 75点
2024年3月9日 シネ・ヌーヴォにて鑑賞
出演:成田結美 ピエール瀧 松田弘子
監督:高野徹

アソシエイト・プロデューサーの一人が大学の卒論ゼミの仲間という本作。その同級生は『 Bird Woman 』にもエキストラで出演していたりする。彼女から鑑賞を依頼されチケット購入。

 

あらすじ

映画監督の杉田(ピエール瀧)は夢の中で理想の女性に出会う。ある夜、自分の夢の中の女性が目の前に現れた。意を決した杉田はその女性マリ(成田結美)に自身の映画への出演を依頼するが・・・

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

本作は上映時間60分という異色のオムニバス構成。そのエピソードの一つ一つが絶妙なバランスで結びついている。上映後の監督あいさつで最初に第4章を独立した一つの作品として仕上げたものの、それだけでは背景が不足するということから、残りの1~3章を作り上げたとのこと。

 

第1章「夢の中の人」ではスランプの映画監督が、夢に見た理想の女優が目の前に現れたところから始まる。監督と女優という距離感が徐々に男と女のそれへと縮まっていくペースが絶妙。高野監督自身「ホン・サンスはかなり意識した」と言っていた通りに、インテリ男が酒の席で美女を口説くシーンはまさにホン・サンス調。ピエール瀧が仕事に行き詰った中年男性のパトスを見事に表現していた。

 

第2章「女優を辞める日」では、女優として活動し始めたマリが監督と本格的な男女の仲になっていく過程が描かれる。といっても生々しいシーンなどはなく、ロマンチックなシーンは海辺のキスぐらい。この章で上手いなと感じたのは、夢か現か幻かを判然とさせない描き方。冴えない中年オヤジが妙齢の美女とベッドインできるか?これもまた夢なのでは?と観る側に思わせるところ。

 

第3章「猫のダンス」はかなり異色。フミコという老女がいなくなった猫を探しているところに、通りかかったマリが手助けをするというもの。そこからいつしか二人は互いの心情を赤裸々に語り始める。この章のラストで描かれるマリとフミコの触れ合いは、まさに二匹の猫のじゃれあい。言葉よりも雄弁に心情を物語る名シーンだった。

 

第4章「マリの映画」は、マリ自身が作成した短編映画。これがマリから杉田への一種のビデオレターになっている。フランスの森で詩を交えて語り合う恋人たち。即物的あるいは身体的にしか女性とつながれない男に比べて、想像力の翼をはためかせる女性という構図のコントラストが映える。

 

上映終了後に監督に「映画監督は、キャラクターを先に考えるのか、それともストーリーを先に考えるのか」と質問させてもらったところ、『今作は第4章から先に作って、そこから残りの章を作った。キャラクターから先に作るかどうかは作家による』という趣旨の答えだった。その後、高野監督のインタビュー記事を見つけたので読んでみると、しっかり「夢の中の人」から構想してるやんけ(笑)と思ってしまった。

 

ロングのワンカットが非常に多く、役者だけではなく録音や撮影のスタッフも相当に監督のわがままに振り回されただろうが、それでもこれだけのクオリティのものが出来上がったのなら納得するだろう。ヨーロッパ風のテイストを前面に出しながら、韓国風でもありつつ。しっかりと日本映画にもなっている。

ネガティブ・サイド

ぶっちゃけキスシーンがイマイチだった。Jovianは『 ロッキー 』で、ロッキーがエイドリアンを自宅に招き入れた時に玄関でするキスのシーンと、『 スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲 』で、ミレニアムファルコン修理時のハン・ソロとレイアのキスシーンが all time best だと思っている。そこまでのインパクトは求めないが、杉田とマリのキスも、もう少しロマンチックにできなかっただろうか。

 

総評

本作を鑑賞してつくづく感じたのは「映画とは自分の美意識」という『 カランコエの花 』の中川駿監督の言葉は本当なのだなということ。高野監督のロマンス観が見事に開陳されている。コンテンツとフォームの両面で非常に上質なので、関西周辺の方は是非シネ・ヌーヴォまでご足労を。TOHOシネマズのような大手はこういう映画こそ一日一回で良いので上映してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

imagination

英語とつづりは同じだが、フランス語の発音はイマジナスィオンに近い。想像力は創造の基本。映画を観て、脚本家や監督がどこからどのように inspiration = アンスピラスィオンを得たのか考察するのも面白いはず。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 デューン 砂の惑星 PART2 』
『 梟ーフクロウー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ピエール瀧, ラブロマンス, 成田結美, 日本, 松田弘子, 監督:高野徹, 配給会社:ドゥヴィネットLeave a Comment on 『 マリの話 』 -Boys be romanticists-

『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

Posted on 2024年2月29日 by cool-jupiter

ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 75点
2024年2月25日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:マイウェン ジョニー・デップ バンジャマン・ラベルネ
監督:マイウェン

ルイ15世の公妾ジャンヌ・デュ・バリーを描く。『 ナポレオン 』でも、ジョセフィーヌという女性との関係からナポレオンを描出したが、映画の世界にも文学に続いて本格的な feminist theory による再解釈の波が到来しているのだろうか。

 

あらすじ

ジャンヌ(マイウェン)は美貌と才覚で娼婦として台頭し、ついには国王ルイ15世の公妾としてヴェルサイユ宮殿に入っていく。しかし、国王の寵愛を受けるジャンヌを快く思わぬ宮廷の勢力もおり・・・

ポジティブ・サイド

まずはプロダクションデザインが素晴らしいの一語に尽きる。というか、本作の撮影のために本物のヴェルサイユ宮殿を使ったというのだから、それは素晴らしいに決まっている。

 

キャスティングも当たり。ローティーンの可憐なジャンヌが天使と見まがうハイティーンに成長、そこからベテラン娼婦のマイウェンになった時には一瞬「アレ?」と感じたが、その熟女ジャンヌが宮廷に召し出され、公妾として宮殿に現われた時には、まさに国王最後の愛人という輝きを放っていた。メイクアップアーティストやヘアドレッサーは本当に素晴らしい仕事をしたと思う。

 

ジョニー・デップもすべてフランス語で好演。このベテラン俳優は濃い化粧の時はヒット、素に近い顔だとハズレというイメージが強いが、今作は『 ギルバート・グレイプ 』以来の当たり役・・・は流石に言い過ぎだが、『 ナポレオン 』を演じたホアキン・フェニックスと同等かそれ以上のフランス為政者としてインパクトを残した。

 

ただ、何といっても本作はルイ15世の最側近、そしてジャンヌの戦友とも言うべき羅・ボルドに尽きる。ジャンヌの教育に余念なく、宮廷内の権力闘争や権謀術数からは距離を置き、ただひたむきに王に忠実であり続ける。『 銀河英雄伝説 』のローエングラムになる前のラインハルトをルイ15世とするなら、ラ・ボルドは間違いなくキルヒアイス。この感じ、分かる人には分かるはず。

 

絢爛豪華なヴェルサイユ宮殿を舞台に少人数での濃密なドラマが繰り広げられる、あっという間の2時間。フランス史に詳しければ歴史や伝記として楽しめるし、仮に詳しくなくともロマンスやヒューマンドラマを堪能できるだろう。ぜひ劇場にて鑑賞してほしい。

 

ネガティブ・サイド

閨房の様子がまったく描かれなかったのは何故だろう。別に行為を映せと言っているのではない。王がジャンヌにどのような類の癒しを求めたのかを純粋に知りたいと感じた次第である。たとえばルイ15世がジャンヌを自分から抱きしめるのか、それともジャンヌに膝枕(フランスでもやるのかね?)をしてもらうのかで、王の抱えているストレスや苦悩が見えてくる。そういうシーンをほんの少しでいいので見たかった。

 

総評

一言、良作。歴史・伝記ジャンルの作品であるが、背景知識がなくても充分に楽しめる作りになっている。全編フランス語(一瞬だけラテン語もあるが)なので、フランスらしさを味わうなら『 ナポレオン 』よりも本作だろう。とにかく多くの人に本作を観て、そしてラ・ボルドと彼を演じたバンジャマン・ラベルネのファンになってほしい。

 

Jovian先生のワンポイント仏語レッスン

N’ayez pas peur

発音としては ネ・エ・パ・プー のような感じ。英語にすれば Don’t be afraid = 怖がらないで、である。劇中で2~3回聞こえたかな。20年ぐらい前に熱心にWWEを観ていた頃、フランス人設定のレスラーがデビュー前にCMでしきりに “N’ayez pas peur.” と言っていて、そこに字幕で Don’t be afraid. と出ていたので、それで覚えていた。あの頃はなんでも、いくらでも頭に入ったのだが・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜明けのすべて 』
『 ソウルメイト 』
『 落下の解剖学 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, ジョニー・デップ, フランス, マイウェン, ラブロマンス, 伝記, 歴史, 監督:マイウェン, 配給会社:ロングライドLeave a Comment on 『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

『 まなみ100% 』 -単純一途な男の恋心-

Posted on 2023年10月10日2023年10月10日 by cool-jupiter

まなみ100% 65点
2023年10月8日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:青木柚 中村守里 
監督:川北ゆめき

 

世間は三連休でもJovianは仕事であった。ゆえに簡易レビュー。

あらすじ

バク転ができれば女の子にモテると思ったボク(青木柚)は、高校で器械体操部に入部する。そこで出会ったまなみ(中村守里)に恋をしたボクは、ことあるごとにまなみちゃんに求婚するのだが・・・

 

ポジティブ・サイド

アホな高校生がアホな浪人生になりアホな大学生になりアホな社会人になる。その間、ボクは様々な女性遍歴を重ねていく。もうこの時点で凡百の邦画とは一線を画している。まなみちゃんがずっと心にありながら、他の女を平気で口説き、抱いていく。実にリアルだ。事実、どれだけの人間が中学高校の頃のような純粋な恋心に忠実なままでいられようか。本作はそういう意味では『 僕の好きな女の子 』や『 神回 』とは真逆に見えて、実は同じ系列に連なる作品なのである。

 

青木柚は『 終末の探偵 』の時と同じく、どこにでもいそうな少年~青年を好演。特徴のない顔立ちのおかげで、純粋に演技力でキャラを立たせることができている。Jovianも小学生の頃だけ器械体操をやっていたが、バク転はできなかったな。飛び込み前転とかはやっていたけど。

 

ヒロインのまなみも、クラスで2番目ぐらいに可愛いと感じられるところがリアル。『 アルプススタンドのはしの方 』のメガネっ子が、器械体操選手に化けるのだから、まさに女優という感じ。ルックスだけで同じような役ばかり演じて、それでいて全然上達しない女優も多い中、中村守里は本物の女優の卵という印象を受ける。

 

大好きな女の子との距離感に悩む男性、あるいはその逆でもいい。大好きな男との距離感に悩む女性が観ても楽しめるはず。夢見る少年でいられるのは幸せなこと。けれど青春の終わりを自覚できるのは、もっと幸せなことだと思う。

 

ネガティブ・サイド

ボクの高校の時のガールフレンド(菊地姫奈)と大学の時の彼女?セフレ?(宮崎優)と社会人になってからの彼女?セフレ?(新谷姫加)の顔の系統が似すぎている。全員を同系統の顔にするなら、まなみ系の顔にできなかったのだろうか。『 町田くんの世界 』の日比美思とか、『 交換ウソ日記 』の茅島みずきとか、色々候補はいたはずだ。もしくは、全員違う系統の顔にするとか。俺が年とって、若い子の顔の区別ができないだけ?いや、そんなはずはない(一応、教え子の大学生たちの顔の見分けはつく)。

 

ボクが作る映画の中身をもっと知りたかった。どう見ても監督自身の体験を映画にした本作をさらに映画にするという入れ子構造なのだから、それによってあまり見えてこないボクの内面を逆に一気にそこに吐き出すという作りにはできなかったのだろうか。夜の校舎でホラーっぽい絵面も悪くはないが、ボクの内面に迫る映像世界を見たかった。

 

総評

劇場の入りはまあまあ。客層も10代後半ぐらいから結構な中年層まで幅広くいた。映画監督は自分の中の語りたいという衝動や欲求を美意識をもって作品に反映させるものだと思うが、本作は衝動や欲求を映画に吐き出したい、この想いを昇華させたいという川北ゆめき監督の思いが画面に溢れている。私小説を読むつもりでチケットを購入するとよい。壮大なドラマを期待するとガッカリするかもしれないので、ちょっとユニークな小市民の青春物語だと思って鑑賞のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Will you marry me?

『 ちょっと思い出しただけ 』と『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』でも紹介した表現。普通は falling tone で言うのだが、今作でのボクの求婚はどれも rising tone であるように感じた。本気度が感じられないのだ。英語話者に本気でプロポーズするなら、下がり調子で言うこと!!!

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 オクス駅お化け 』
『 リゾート・バイト 』
『 沈黙の艦隊 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ラブロマンス, 中村守里, 日本, 監督:川北ゆめき, 配給会社:SPOTTED PRODUCTIONS, 青木柚Leave a Comment on 『 まなみ100% 』 -単純一途な男の恋心-

『 アリスとテレスのまぼろし工場 』 -世界観の構築が弱い-

Posted on 2023年10月3日 by cool-jupiter

アリスとテレスのまぼろし工場 45点
2023年9月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:榎木淳弥 上田麗奈 久野美咲
監督:岡田麿里

 

『 空の青さを知る人よ 』の脚本を務めた岡田麿里の監督作品ということでチケットを購入。

あらすじ

製鉄の町、見伏は製鉄所の爆発事故によって外部から遮断され、時間も経過しなくなってしまった。元の世界に戻った時に矛盾を生じさせないために、いつしか町では「変化してはならない」というルールが課されるようになった。そんな中で淡々と日々を過ごしていた正宗(榎木淳弥)は、同級生の睦実(上田麗奈)に製鉄所内に幽閉されている謎の少女(久野美咲)の世話を手伝うように頼まれ・・・

 

ポジティブ・サイド

アニメーションは恐ろしく美麗。実写をそのままCG化したかのように錯覚させられるシーンも多数。ここ10年でアニメーションの技術は恐ろしく進歩しているなと実感。

 

ストーリーも悪くない。中学生の男女があーだこーだするのは王道。本作はそこに外界から分離され、時間も経過しない(というか、人間も事物も経時変化しない)という見伏という共同体を設定した。その中心にあるのは製鉄所。日本のお家芸だったモノづくりの象徴だ。そこが爆発したのは1991年。バブル崩壊の前夜で、ゲーテの『 ファウスト 』ならずとも「時よ止まれ」と言いたくなる時代だ。

 

その止まってしまった世界を止めたままにしようとする勢力と、その止まった世界の中で唯一成長する五実の存在にインスパイアされる若者たちという本作の構図は、そのまま近代日本の世代間闘争のパロディあるいは痛烈な皮肉だろう。世界に入った亀裂を製鉄所が吐き出す煙、神機狼がふさいでいくのも、ひび割れたコンクリートを必死に補修するゼネコンに見えてくるから面白い。

 

そうした諸々の社会批判のメッセージを恋に煩悶する中学生男女という、ある意味でお約束なキャラクターに仮託したのが本作。非常に観やすいし、中高生あたりでも楽しめるはず。実際に劇場に来ていたのは(レイトショーだったこともあるだろうが)中年以上の層だったように、大人でも楽しめるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

空間的にも時間的にも外界から隔絶されていて、時間は経過するものの事物も生物も変化しないという特殊な設定を、もっと序盤で見せるべきだった。いつまでも妊娠し続けたままの妊婦だけではなく、毎日病院で苦しむ人や、あるいは認知症で毎日を毎日と認識できない人など、無常とは逆の苦悩を描くことで、セカイ系の延長あるいは亜種のような世界観をもっと深めることができたはず。

 

観ていて???となったのは、見伏の経済。人々はどうやってガソリンやら食料やらを調達しているのか。貨幣は流通しているのか。しているとすれば、誰がその価値を担保しているのか。電気や水道などのインフラは?通信は?疑問が次々に湧いてきてしまった。

 

また時間は経過しないものの、記憶は持続するという点を深掘りしない点も残念極まりない。五実の成長から見伏では10年以上が経過しているはずであり、中学生の主人公たちも中身は20代の半ばから後半。この肉体と精神のギャップ、つまりプエル・アエテルナス(永遠の少年)であることについての苦悩が正宗から感じられなかった。というか正宗の叔父が精神的に退行したとしか思えない言動をとったりと、掘り下げるべきところが掘り下げられず、妙なサブプロットを追求するというアンバランスさを生んでしまっている。

 

世界観の構築が貧弱であることに加えて、本作はシークエンスごとのつながりにもあまり説得力がない。ストーリーが先に構想されて、それに合わせてストーリーボードを描いたように感じられた。もちろん印象的なシーンを先に構想して、そこからストーリーを構築する作家もいるが、それは編集や脚本も兼ねているか、あるいはそうしたスタッフと緻密にコミュニケーションが取れている場合だろう。本作は先に撮りたいシーンや使いたい主題歌があり、それに合わせてシーンをつないでシークエンスにした、そのシークエンスをつないでストーリーにした、のような印象をぬぐえない。

 

クライマックスが露骨な演出に感じられた。胎内回帰ならぬ胎外排出か。もっとなにか、お約束ではないドラマチックなシーンが描けなかったのだろうか。

 

総評

個々のシーンは面白いが、全体を通して見るとイマイチという、やや残念な作品。主人公二人のキャラも特に立っていないので、感情移入するのも難しい。アリスとテレスは古代ギリシャのアリストテレス由来なのは間違いないが、まぼろし工場というのがよく分からない。「希望とは、目覚めている人間が見る夢である」というのは、見伏が夢なのか、それともひび割れの向こうの世界が夢なのか。アリストテレス的には前者なのだろうが、Jovianは胡蝶之夢という線もあるのではないか、などと邪推してしまう。ただ、アリストテレスの幸福論を追求していけば、恋する気持ちは幸福の構成要素であっても、恋する相手はそうではない。詳しくは『 二コマコス倫理学 』を読まれたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

steelworks factory

製鉄所の意。こんな語彙はTOEICでは100%出ない。英検1級ならまれに出るかも。TOEFLやIELTS(アカデミック・モジュール)なら時々出てくるかもしれない。まぼろし工場も英訳するなら illusion factory となるのだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ハント 』
『 ほつれる 』
『 オクス駅お化け 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, アニメ, ファンタジー, ラブロマンス, 上田麗奈, 久野美咲, 日本, 榎木淳弥, 監督:岡田麿里, 配給会社:MAPPA, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 アリスとテレスのまぼろし工場 』 -世界観の構築が弱い-

『 神回 』 -男の習性を捉えた逸品-

Posted on 2023年9月1日 by cool-jupiter

神回 75点
2023年8月27日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:青木柚 坂ノ上茜
監督:中村貴一朗

 

『 MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない 』、『 リバー、流れないでよ 』に続く邦画のタイムループもの。本作もなかなかの秀作だった。

あらすじ

沖芝樹(青木柚)と加藤恵那(坂ノ上茜)は夏休みの教室で文化祭の出し物についての打ち合わせを始める。しかし樹は突如意識を失ってしまう。気が付くと目の前には恵那の姿。そして彼女は打ち合わせを始める前と寸分たがわぬ言動を見せる。樹はまたも意識を失い、気が付くと時が打ち合わせ直前に戻っていた。このタイムループを抜け出すために樹はあらゆる手段を講じるが・・・

以下、多少のネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

 

鑑賞直後、Jovian妻は「何これ、キモイ」という端的にも程がある感想を述べてくれた。その通り、本作はキモイ。グロ描写やゴア描写がドギツイわけではない(流血や暴力シーンはほんのちょっとある)。男の子側にも女の子側に性的な描写があるが、はっきり映ったり、あるいは思いっきり触っていたりするわけではないので、そこは安心してほしい。

ここでいうキモさとはずばり、男のとある習性のこと。

 

『 アンダー・ユア・ベッド 』

『 レミニセンス 』

 

このあたりの作品に

 

世にも奇妙な物語の『 バーチャル・リアリティ 』

 

のプロットを足して、それを青春映画っぽく仕立て上げたのが本作だ。というとずいぶんと安っぽく聞こえてしまうが、実際はさにあらず。まず本作は青春映画ではない。ジャンル分けするのは難しいが、敢えて言えばファンタジーだろうか。

 

主役の樹は『 よだかの片想い 』でアイコのゼミ仲間や『 終末の探偵 』のボランティア少年などで印象的だった青木柚。まったく特徴のない顔つきながら、出演作では必ず一定以上のインパクトを残している。故障したテレビを買い替えたら、彼のその他の出演作もチェックしてみたい。

 

ヒロインの恵那を演じた坂ノ上茜は『 きみの瞳が問いかけている 』の明香里の店のスタッフを演じていた。登場時間は多くなかったが、パッと見た瞬間に「あ、見たことある」と感じさせるぐらいには印象に残っていた。

 

この若い二人の織り成す無限にも思えるタイムループものが、何故に青春映画ではないのか。それは、女性が率直にキモイと感じてしまう男の習性によるものだ。ある程度年齢のいった男性(10代や20代はダメ、できれば不惑過ぎ)なら、分かるはず。『 僕の好きな女の子 』を楽しめた、あるいは某魔法使いシリーズの某キャラに激しく共感できるようならさらに良し。

ネガティブ・サイド

一番最初のショットは不要。学校の校門をくぐる描写すら不要だったかも。

 

最後、何故に教室は暗くなった?

 

謎解きパートというか、ネタ晴らしパートはもっと短くていい。全体を75分から80分でまとめられれば、それこそ神映画になれたかもしれない。

総評

男のアホな習性だけで一つの物語として成立させた力業はたいしたもの。男には忘れられない夜や忘れられない瞬間、忘れられない匂いや感触というものがある。Jovian妻を含め、女性全般はそれをキモイと感じるわけだが、それが男の性(さが)なのだからしゃーない。むしろ男の内面のダークサイドや鬱ルートを真っ向から描写し、ハッピーエンドを潔く否定した中村貴一朗監督の作劇術に満腔の敬意を表したいと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You with me?

劇中で何度も何度も聞こえてくる「聞いてる?」の私訳。会話ではこうした時、Are you listening to me? とは普通は言わずに、Are you with me? または You with me? と言う。『 トップガン マーヴェリック 』でも、出撃前に一瞬上の空になっていたマーヴェリックに向かってホンドーが “Hey, you with me?” と言っていた。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 福田村事件 』
『 ヴァチカンのエクソシスト 』
『 MEG ザ・モンスターズ2 』

 

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