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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ミステリ

『 神のダイスを見上げて 』 -世界の終末+ヤングアダルト+ミステリ-

Posted on 2020年1月17日 by cool-jupiter

神のダイスを見上げて 50点
2020年1月15~16日にかけて読了
著者:知念実希人
発行元:光文社

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Jovianは世代的に終末ものが好きである。そして、このジャンルでは、佳作は量産されるが、傑作は生まれにくい。当たり前である。世界滅亡を描いて、だれもかれもが喝采を送ることができる作品など、そうそうは生まれない。だからこそチャレンジし甲斐のある分野であるとも言える。

 

あらすじ

直径400kmの超巨大小惑星が、あと5日で地球に最接近する。世界各国の政府は「衝突はしない」と発表しているが、それを疑う人間も多い。そんな中、高校生の亮の姉、圭子が殺害された。ほかに家族のいない亮にとって、圭子は“世界そのもの”だった。ダイス衝突によって一瞬で蒸発などさせない。犯人はこの手で殺してやる。亮はそう、固く決心し犯人を追うが・・・

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ポジティブ・サイド

ミステリにおける常道、すなわち最も犯人っぽくない者が犯人である、というセオリーをちゃんと外してくれている。この著者はわかっている。ミステリファンは、読む前に犯人を当ててやろう、少なくとも犯人の属性を絞り込んでやろう、と意気込む生き物なのである。まず表紙カバーの女の子は除外する。あらすじから、天文学同好会やカルト集団「賽の目」の関係者も除外する。そして読み始めた。序盤から中盤にかけて「まあ、コイツが犯人だな」と感じられた。そして外れた。ミステリとしてはありふれた変化球であるが、Jovianは思いっきり空振りを食らってしまった。

 

クラスの禁忌とされる四元美咲もなかなかに良い感じである。とはいっても、綾辻行人の『 Another 』の見崎鳴のような存在ではない。ちょっとアングラでダークな女子である。物語は亮と美咲の関係性の発展をメインのプロットにしないのは清々しい。こちとら、セカイ系の作品は、ゼロ年代にそれなりに食べ散らかしたのである。

 

世界が滅亡する時、自分はだれの傍らにいたいのかと考えることは重要である。哲学者アルトゥール・ショーペンハウアーは、ヘーゲル的な形而上学世界を批判した。同様に、我々は絶対的な世界を普段は意識することなく、我々自身の属する“生活世界”に生きている。その“世界”とは、人によっては会社であり、家庭であり、学校であり、また一個人でもありうる。だが、そうした“世界”の崩壊は、それこそ世界そのものの終わりに近いインパクトを与えることもある。会社をリストラされても、それを家族に告げられず、毎朝、ちょっと遠くの公園に出勤するオジサンを、誰が笑えるだろうか。

 

星が降ってくる物語としては、『 君の名は。 』よりも『 エンド・オブ・ザ・ワールド 』のテイストに近い。また、“世界”=一個人に押し込めてしまう世界観は『 火口のふたり 』のそれに近い。この辺の作品を楽しめたという人なら、この小説も楽しめるように思う。

 

008ページでの映画『 アルマゲドン 』への言及にニヤリ。本作は、映画化するとしたら105分のアニメーションになるだろう。

 

ネガティブ・サイド

小惑星が落下してくる直前で、警察のマンパワーも治安維持に回されるのも詮無いことであるが、ミステリ要素に関してはもう少しフェアプレーが必要だったと感じられた。検死まではしないにしても、膣に裂傷がないかどうかぐらいはルーペで調べるものだ。その有無で犯人の属性がかなり絞られる。Jovianも帯に「全裸で胸にナイフを突き刺された」とあることから、怨恨?強姦?計画的?などクエスチョンマークをかなり頭に並べた状態で読み始めた。しかし、欲しい情報、あるべき情報はなかった。純粋なミステリ作品ならば、これはアウトである。ジャンル混合作品としても、アンフェアである。

 

主人公の亮というキャラクターの頭が悪すぎる。男子高校生というのはその程度なのかもしれないが、それに付随して刑事たちまで頭が悪すぎる。

大学構内で真夜中に殺人事件発生 → 第一の容疑者は高校生 

いくら無理やりにでも事件を解決したい事情があるにせよ、これは酷過ぎる。どう考えても、その大学の関係者が実行犯だろう。冤罪でもなんでも構わないからホシを挙げたいという気持ちは理解できる。世界が滅亡する瞬間、小さな子どもの側にいてやりたい。親として自然な欲求であり、願望だ。だったら大学の同級生や職員、警備員などを無理やりワッパにかければ済む話で、高校生の亮(いくら死んだ姉の通っていた大学での出来事はいえど)を容疑者にする必然性はない。この刑事の存在で、物語からリアリティが吹っ飛んでしまっている。

 

また2023年を舞台にしているが、直前までダイスが地球に激突するかどうかが判明しないという設定にも無理がある。政府が真実を公表しないという疑念は理解できる。しかし、現実に小惑星が地球との衝突コースに乗ったら、あるいはその可能性が少しでもあれば、天文学者のネットワークが絶対に検知するはずである。ましてやダイスは直径400kmという、準惑星セレスの半分近い大きさ。これほどマクロな天体の動きがシミュレーションできないのはおかしいし、政府が虚偽の発表を繰り返したとしても、どこかの天文学者が絶対に真実を公表するはずである。ところが作中では天文学者は影も形も存在しない。そんなアホな・・・

 

総評

一種のジュブナイル小説として読むのが正しい。純正のミステリや純正のSFだと考えると、ドツボにはまる。ただ、シリアスな考証がほとんどないため、読みやすさは普通のミステリやSFよりも格段に上がっている。まさに高校生、大学生向けの作品だろう。世界の終末をテーマにしたシリアスなSFを読みたい向きには『 僕たちの終末 』をお勧めする。この著者の作品では『 仮面病棟 』が映画としてもうすぐ公開される。Amazonでポチッたので、そちらも読了次第、レビューをしてみたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Laters.

作中で四元美咲が何度か言う「またね」である。普通は“See you later.”と言うが、“Laters.”と later に s をつけるのがミソである。カジュアルな表現で話し言葉としても、メールやチャットなどでも使う。ただ、ビジネスの場では使うのを避けたい。

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2010年代, D Rank, ミステリ, 発行元:光文社, 著者:知念実希人Leave a Comment on 『 神のダイスを見上げて 』 -世界の終末+ヤングアダルト+ミステリ-

『 カイジ ファイナルゲーム 』 -ようこそ、底辺の世界へ-

Posted on 2020年1月15日 by cool-jupiter

カイジ ファイナルゲーム 55点
2020年1月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:藤原竜也 関水渚
監督:佐藤東弥

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原作はほとんど読んでいないが、映画されたカイジは2作とも観ている。比喩的な意味での地下世界と文字通りの意味での地下世界を融合させた独特の世界観は、本作でも健在である。

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あらすじ

2020年の東京五輪終了後、日本の景気は恐ろしく冷え込んだ。円の価値は暴落し、インフレが進行し、日本の産業は外資に次々と買われた。日本は、ごく一部の富裕層と大多数の貧民に分断されてしまった。派遣会社にピンはねを喰らいながら、カイジ(藤原竜也)は貧困の中で生きていた。ある時、多額の賞金もしくは秘密の情報が懸賞として得られる「バベルの塔」というゲームへの参加を促される。それは、日本という国家をも巻き込む壮絶なゲームへの入り口だった・・・

 

ポジティブ・サイド

もはや藤原竜也劇場である。独壇場である。底辺の似合う男とは言い得て妙である。Jovianは原作をほとんど読んでいないが、藤原竜也が漫画のカイジに似ていない(容姿や振る舞いetc)ことは直感で分かる。それでも、漫画のカイジというキャラクターを自らの演技でねじ伏せ、新たなカイジ像を作り上げたのは藤原の演技力の勝利として称えるべきである。

 

爽やかな優男という路線で行き詰っていた福士蒼太も、『 ザ・ファブル 』に続いて、まあまあ良い感じである。大義名分のために弱者を切り捨てることを厭わない姿勢に、今の日本の根本的な政治姿勢に通じる。財政健全化を謳いながら、道路や建設関連にカネをジャブジャブと使い、福祉の拡充を謳って消費増税を断行した直後に、高齢者医療費の自己負担比率の引き上げを検討する(Jovianはその政策自体には賛成であるが、現政権は言っていることとやっていることが違い過ぎるのが大問題である)など、口から出まかせもいいところである。虚偽と欺瞞に満ちた自分に陶酔する木っ端役人が実に似合っていた。福士は爽やか路線を中川大志に譲り、嫌味な奴、もしくはクズ路線を藤原竜也から受け継ぐべし。

 

日本社会全体を巻き込むスケールの壮大さは評価できる。カイジの世界(映画に限っては)について言えることは、クモの糸は常に垂らされているということ。その糸を奪い合うのか、順番に掴むのか。それとも全員が掴める方法を考えるのか。問われているのは、そこである。これは正解を選ぶという問題ではなく、自分の生き方を定義するということである。「こうするしかないんだ!」と絶叫する官僚=上級国民は、物事は白か黒か、正解か不正解かしかないという思考の陥穽に囚われている。「みんなで泥水をすするべきだ!」と力強く宣言するカイジは「みんなで貧困を分かち合うべきだ」と言っているわけではない。困っている人がいれば、手を差し伸べよう。情けは人のためならず。カイジはそう言っている。そして、それが原作者の福本伸行や監督の佐藤東弥のメッセージであろう。少々鼻につくメッセージではあるが、Jovianはこうしたストレートな社会的な主張を行うこと自体を評価したいと思っている。

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ネガティブ・サイド

『 カイジ 』シリーズを観たことがある者ならば、展開が容易に読める。というか、ちょっとしたミステリやサスペンスを見慣れていれば、中盤まではほとんど誰にでも分かるような展開である。愛人がいた。その愛人が子どもを産んだ。愛人は子どもを産んだ直後に死亡した。では、その子どもは?という疑問に思い至らないというのは考えづらい。

 

またストーリーの本筋(ゲーム/ギャンブル)と直接の関連がないので書いてしまうが、旧円を廃止して新円を発行するというトンデモなアイデアが出される。いや、そうしたアイデア自体は突拍子もないわけではない。本作は不景気がますます進行した近未来の日本を舞台にしているわけで、無能な政治家や官僚に打てる手は「徳政令」くらいだろう。本作では預金封鎖で庶民から接収したカネで国の借金をチャラにしてしまおうという気宇壮大なプランが描かれるが、これはリアリティが無さ過ぎる。第一に、減りつつあるとはいえ、日本のタンス預金は数百兆円と見積もられている。貧困が拡大した世界で、物語中のタンス預金がこの10分の1だとしても数十兆円。これらのカネが一気に新円と交換されれば、あっという間に円高となり、日本の生命線の輸出関連産業が吹っ飛ぶ。第二に、政治家や資産家が預金封鎖前に新円をしこたま仕入れておくというのもリアリティに乏しい。環境大臣・小泉進次郎の公開された資産が0円だったというのは記憶に新しいが、こういう連中はとっくにオフショアやタックスヘイヴンで資産を運用しているものなのである。劇中で総理大臣はじめ、有力政治家や資産家が新円の事前入手に血道を上げるのは不自然かつ不可解にも映る。まあ、金持ちの底なしの欲望を表しているのかもしれないが・・・

 

その欲深連中を映すカメラのアングルがおかしい場面がある。カイジ側が食い込んでいたのは造幣局であって、閣僚連中ではなかったはず。どう考えても閣僚・資産家の一人が撮影したとしか思えないショットが映る。これは普通に編集ミスだろう。

 

人間秤というゲームのルールにある3つのF、すなわちFRIEND、FIXER、FAMILYが最初に画面に映し出される時のFIXERの綴りがFIXARになっていた。2度目に表示された時は正しいFIXERになっていたが。この程度の英語はしっかり確認すべきだし、編集やCG作成作業時に誰も気付かなかったというのは、キツイ表現を使えば、恥ずべきことである。

 

関水渚のラッキーガールという設定は何だったのか。ゲームやギャンブルに絡む描写はほとんど無かった。もうちょっとマシな扱いをしてほしかった。また外野のザワザワもなかった。少しさびしいファイナルであった。

 

総評

過去作のキャストも一瞬だけ駆けつけたりしてくるので、いきなり本作を観るというのはお勧めできない。実質的なギャンブル勝負は2回だけなので、そこに物足りなさを感じる向きも多いかもしれないし、一部のキャラクターに仕込まれた設定の読みやすさは明白にマイナスである。しかし、一寸の虫にも五分の魂を感じさせる展開もあり、下剋上のカタルシスもある。シリーズに付き合ってきた人々も、カイジ/藤原竜也にお別れをするために、シリーズ未見の人は過去作をチェックした上で、劇場に向かわれたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

The price has gone up again!

「また値上がりしてやがる」というカイジの台詞の私訳。「上がる」というのは、だいたい go up で表現できる。血糖値や血圧、税率、仕事量、飛行機、風船など、上に行くものなら何でも go up でOKである。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, サスペンス, ミステリ, 日本, 監督:佐藤東弥, 藤原竜也, 配給会社:東宝, 関水渚Leave a Comment on 『 カイジ ファイナルゲーム 』 -ようこそ、底辺の世界へ-

『 魔眼の匣の殺人 』 -ややアンフェアさのあるホワイダニット-

Posted on 2020年1月5日 by cool-jupiter

魔眼の匣の殺人 60点
2020年1月3日から1月4日にかけて読了
著者:今村昌弘
発行元:東京創元社

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『 屍人荘の殺人(小説) 』はそこそこ面白かった。映画化された『 屍人荘の殺人(映画) 』は、とある重要なバックグラウンドの情報を削除してしまっていた。これは、あわよくば映画の続編が製作されれば、そこでその存在を明らかにし、もしも映画が売れなければ一作完結できる形を狙ったのだろう。多分、続編たる本作は映画化されないように思われる。映像化のハードルが相当に高い部分がある。

 

あらすじ

オカルト雑誌の記事から斑目機関の手がかりらしきものを掴んだ葉村譲と剣崎比留子は、真雁という土地を訪れる。そこはサキミという予言を司る老女に支配された土地だった。サキミによると11月の最後の2日の間に、男女二人ずつが真雁で死ぬという。そこに、もう一人、予知能力を持つという十色真理絵という高校生もやって来て・・・

 

ポジティブ・サイド

ホワイダニットととしては、なかなかの力作である。ミステリというジャンルにおいて“ハウダニット”は限界に達しているからである。そのことは『 屍人荘の殺人(小説) 』でも触れた。本作でもハウについては、そこまで追求はしない。やはり“ホワイ”が重要である。その意味では、今回の犯人の犯行動機はよく練られていると感じた。詳述はできないが、こういうタイプの人間は我々の身の回りにたくさんいるはずである。我々がそれに気づいていないだけである。

 

劇中にある人物の手記が挿入されているが、その内容が読ませる。鍛えられたミステリファンならば、日記や手記の類に直接話法が使われているところに最大限の注意を払うのが習慣になっていることだろう。竹本健治や北村薫、または島田荘司の作品の愛好家ならば尚更だろう。そうした意味では本作の手記は非常にフェアで、読み応えもある。

 

比留子と葉村の関係も健全な形で発展中のようである。前作のような「ちゅー」とかいった描写ではなく、人間的に深みが生まれたということである。死者を悼む心を持つ。生きていくことに困難さを見出す。まるで『 マンチェスター・バイ・ザ・シー 』のようである。かといってラノベのような萌え描写もないわけではない。十色と茎村という二人の高校生ペアは、間接的にではあるが比留子と葉村の関係を映し出している。かかあ天下的なカップル、あるいはJovianのところのような婦唱夫随の夫婦は大いに納得させられることだろう。

 

今作もやはりホワイダニットものである。しかし、ハウの部分にも新しいアイデアが込められている。詳しくは書けないが、古いネタ同士をくっつけるという、ある意味でこの著者が前作で行ったような手法がここでも繰り返されている。一つはフレドリック・ブラウンの有名な小説であり、もう一つは『 アニー・イン・ザ・ターミナル 』のレビューで白字で記した、とある小説および邦画のトリックである。これはかなり刺激的で上手いと感じた。

 

ネガティブ・サイド

予知や予言という超自然的な能力をモチーフに使うのは構わない。前作はゾンビ祭りだったのだから。しかし、予言の自己成就的な展開を持ち出すというのはフェアではない。自己言及矛盾に陥る。また、比留子というキャラクターの重要な構成要素である、“事件を呼び寄せてしまう体質”が本作では薄まってしまった。呼び寄せるのではなく、自分から出向いているからだ。

 

古典的なミステリで最も重要なものとは何か。それは死体である。だが、本作では最初の犠牲者の死体があがらない。というか埋まって掘り起こせない。もちろん状況的にはほぼ間違いなく死亡しているのだろうが、ミステリの大原則はとにかく死体なのである。その死体の存在を確定的に描かないことで、絶対に外れないとされるサキミの予言の説得力が弱まる。少なくとも自分にはそのように感じられた。また、このご都合主義的描写によって、後半の比留子の消失(ネタばれでもなんでもない、目次に【 第四章 消えた比留子 】とある)にサスペンスが生まれてこない。

 

また、ポジティブ・サイドで触れた犯人のとある心的特徴であるが、(→犯人に関するネタばれ)そこまで強い思いを抱いているのであれば、Jovianであれば絶対にバイクから降りる時にお守りを手放さない。うっかりミスは誰にでもあるが、「ド田舎だから置き引きにあう心配はない」と言われた程度で安心するというのは、どう考えてもおかしい。これもご都合主義である。心理的に~~~である、という条件設定の不条理さについては『 屍人荘の殺人(小説)』レビューでも述べた通りである。描写の巧みさは認めるが、設定の一貫性の無さは評価できない。

 

総評

第三作の刊行も明示されているが、どのようなスーパーナチュラル要素と本格要素を組み合わせてくるのだろうか。過去の大量殺人にまつわる何かになりそうだが、条件付きテレポーテーションやらテレキネシスだろうか。それとも強烈な催眠、マインド・コントロールあたりか。そして本作は果たして映像化できるだろうか。『 ビブリア古書堂の事件手帖 』みたいになりそうで少々不安である。『 屍人荘の殺人 』を面白いと感じた人なら、読んでも損はしないだろう。

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2010年代, C Rank, ミステリ, 発行元:東京創元社, 著者:今村昌弘Leave a Comment on 『 魔眼の匣の殺人 』 -ややアンフェアさのあるホワイダニット-

『 アニー・イン・ザ・ターミナル 』 -全てがクリシェのクソ映画-

Posted on 2020年1月5日 by cool-jupiter

アニー・イン・ザ・ターミナル 30点
2019年1月4日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:マーゴット・ロビー サイモン・ペッグ デクスター・フレッチャー
監督:ボーン・ステイン

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前々から気になっていたので、TSUTAYAで準新作になったので早速レンタル。マーゴット・ロビーとサイモン・ペッグに惹かれたが、中身はイマイチであった。

 

あらすじ

ロンドン地下鉄のとあるターミナルの24時間営業カフェで働くアニー(マーゴット・ロビー)は、地下クラブで働くコールガールでもあり、フィクサーの下で街のトラブルを裏で解決する仕事人でもあった。彼女の真の狙いは・・・

 

ポジティブ・サイド

マーゴット・ロビーの怪演とサイモン・ペッグの熟練の演技ぐらいしかい観るべきものはない。赤のストロボライトの明滅の合間に妖しい笑顔と平然とした表情を織り交ぜるのは絵としては良かった。

 

またロンドンは20km離れれば、日本で言えば200km離れたぐらいに違う言葉を話すと言われているが、劇中では確かにそのように感じられた。殺し屋稼業の二人組とサイモン・ペッグ、夜間管理人の男たちは、同じLondonerでも、日本で言えば大阪弁と岡山弁ぐらい違う言葉を話していた。

 

ネガティブ・サイド

クリシェだらけである。

 

時系列を狂わせて物語を見せるのは『 市民ケーン 』以来の一つの型であるが、そのことが結末の驚きにつながってこない。というか、それなりに型破りな見せ方をするのであれば、結末にもっとアッと驚く仕掛けを持ってきてほしい。邦画の『 イニシエーション・ラブ 』の方がはるかに優っている。

 

また『 グッドウィル・ハンティング 』以来、掃除人には何かがあると考える癖が映画ファンにはついてしまった。またはテレビドラマ『 家なき子 』の庭師のじいさんでよいだろう。こうしたjanitorは往々にして見かけ以上の役割を担っている。

 

また、地下世界への案内人が白ウサギという“アリス”以来の伝統にも変化球が必要である。『 マトリックス 』のように、ウサギはウサギでも、ウサギっぽくなさそうなキャラを用意すべきである。うさ耳カチューシャをつけたコールガールというのは、あまりにも下品である。

 

なによりもクリシェなのはアニーそのものに仕込まれたトリックである。まさか2010年代にもなってこのようなネタを使ってくるとは、脚本家は何を考えているのか。せめて『 シンプル・フェイバー 』ぐらいの変化球を放るべきである。このような手垢のついたトリックはもはや害悪である。そういう設定で観る者を驚かせたいなら、邦画『 キサラギ 』や同じく邦画『 アヒルと鴨のコインロッカー 』を参考にすべきだろう。

 

総評

はっきり言って観る価値はない。マーゴット・ロビーの熱烈なファン以外に勧めることはできない。といっても、マーゴット・ロビー信者でもこのプロットには腹を立てると思われるが・・・ 中盤まではひたすらに眠くなるような展開なので、一種の睡眠導入剤にはなるのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

have bigger fish to fry

実は今作で初めて耳にした表現である。しかし、ストーリーの文脈から意味はすぐに分かった(アニーは ”We got bigger fish to fry.” と言った)。直訳すれば「揚げるべきもっと大きな魚がいる」だが、その意味は「もっと大事な用事がある」である。調べてみたところイギリス英語らしいが、コンテクストが明らかであればアメリカ人にも通じると思われる。フィッシュ&チップスのお国らしい、面白い表現である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, アメリカ, イギリス, サイモン・ペッグ, ハンガリー, マーゴット・ロビー, ミステリ, 監督:ボーン・ステイン, 配給会社:アットエンタテインメント, 香港Leave a Comment on 『 アニー・イン・ザ・ターミナル 』 -全てがクリシェのクソ映画-

『 屍人荘の殺人(映画) 』 -原作をさらにライトに仕上げた映像作品-

Posted on 2019年12月15日2020年4月20日 by cool-jupiter

屍人荘の殺人 50点
2019年12月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:神木隆之介 浜辺美波 中村倫也
監督:木村ひさし

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『 屍人荘の殺人(小説) 』の映画化である。しかし、原作小説の忠実な映像化ではなく、一応ちょっとした変化を織り交ぜている。なので原作を読んだ人も、興味があれば映画館に足を運んでもよいだろう。それなりに面白い出来に仕上がっている。

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あらすじ

大学のミステリ愛好会の明智恭介(中村倫也)と葉村譲(神木隆之介)は、同じ大学の探偵少女・剣崎比留子(浜辺美波)の誘いで、ロックフェス研究会の夏合宿に参加することとなった。宿泊先は紫湛荘。しかし、その別荘が屍人荘に変貌。外部の人間も数人交えて閉じこもるメンバーたち。そこで密室殺人が起きてしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

『 センセイ君主 』で強く感じたことだが、浜辺美波の真骨頂はコメディエンヌを演じることかもしれない。本作でも非常に理知的な探偵を演じながらも、本質的には普通のお茶目なところもある女子大生になれていた。

 

中村倫也は顔芸で、神木隆之介も心の声でコメディを盛り上げる。特にサノスばりの指パッチンは明智恭介というキャラの切れ者ぶりと間抜けっぷりの両方を描き出す効果的な演出となった。言わずと知れた明智小五郎の明智の名前を冠しているだけあり、高等遊民の雰囲気を醸し出している。そしてワトソン役の葉村は、心の声がダダ漏れの、ある意味では非常に等身大のミステリ愛好会員であった。ミステリの世界に浸り過ぎたせいで、可愛いあの子との距離の縮め方が分からないという、『 桐島、部活やめるってよ 』で橋本愛にドギマギしていたあの姿が思い起こされた。

 

原作小説からのキャラも、映画オリジナルのキャラも、本作ではとにかくユーモアを前面に押し出している。それはやはりとある「舞台装置」とのバランスの為なのだが、それが効果的に機能している要因に、昨年公開の邦画『 カメラを止めるな! 』が挙げられる。また韓国映画の『新感染 ファイナル・エクスプレス 』や『 ゾンビランド:ダブルタップ 』など、このジャンルは常に新しいアイデアが投入されるものだ。ここでもどういうわけか、とあるプロレスラーが参戦してくる。非常に滑稽であり、恐怖でもある。その比率は9:1で、もちろん滑稽が9で恐怖が1である。そこかしこで笑えるのが本作の大いなる特徴である。

 

グロいはずの描写もレントゲン写真的に処理され、グロ耐性の無い人への配慮がされている。これはありがたい。おかげでデートムービーに使うこともできる。推理を楽しみたいという向きにも、それなりにフェアな材料提示がされている。ライトなミステリ好きにとってもそこそこ楽しめるように作られている。

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ネガティブ・サイド

原作小説もそうであったが、ハードコアなミステリファンを唸らせるような出来にはなっていない。序盤でこれ見よがしに、とある人物の不在をアピールしたり、マスターキーを濫用したりと、少々過剰サービスとも思える描写や演出が気になった。また原作にはない明智の台詞、「事件はまだ起きてはいないが、犯人は分かった」という台詞は、原作を読んだ者にとっては完全なるノイズである。原作未読者でも、すれっからしの人であれば、すぐにピンと来たことだろう。ライトなファンへの配慮かもしれないが、ハードなファンには雑音である。このあたりのバランス感覚にもう少し敏感になることが木村ひさし監督には求められる。

 

また、ギャグの面で滑っているものもあった。「迷宮太郎」はその最たるものだろう。キャラクターにしても、原作ではマニアか学者かというキャラが、映画では『 ショーン・オブ・ザ・デッド 』を鑑賞しながらニヤニヤしているだけ。また、このキャラの分析によって推理が進み、またサスペンスも生まれるのだが、そうした要素をほぼ全カット。ユーモアを前面に押し出してきたのは、サスペンス路線を放棄したからだという見方も成り立つ。事実、本作の「舞台装置」に対してのキャラクター達の対策はお粗末もいいところである。

 

また映画オリジナルの要素に関しては、現実的な感覚が欠けている。一番に思うのは、「スマホの画面ロックをしないのか?」である。この映画の一番の客層あたりは、この点だけで真相はともかくも犯人を当ててしまってもおかしくない。

 

原作にあったちょっとしたお色気どぎまぎ要素をキスに置き換えているにもかかわらず、肝心のキスシーンもなし。そこは比留子に大真面目な顔で『 覚悟はいいかそこの女子。 』の小池徹平と同じで投げキッスさせれば良かったのだ。そういうサービスシーンすら思いつかなかったのか。

 

最終盤に明智と比留子が再対決。そんなアホな。原作のマイナス要素だったシリーズ化への野望が、映画本編ではかなり薄まっていたにもかかわらず、ここでそれをやるか?しかも、自分が葉村ならば、この展開で比留子についていこうとは決して思わないだろう。続編(『魔眼の匣の殺人 』)も映画化するなら、少なくとも監督は変えてもらいたい。

 

総評 

浜辺と神木の掛け合いを楽しむ作品である。推理についてはライトなファン向け、○○○要素についてもライトなファン(このジャンルにそんな層が存在するのか疑問だが)向け。結局のところ、高校生や大学生カップルが一番の客層になるだろうか。悪い作品ではない。しかし手放しで褒められる作品でもない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話

Awesome!

劇中の「すごい!」である。ただし、Awesomeは「すごい」、「素晴らしい」といった意味以外にも、リアクションで使われることも多い。

A: Can you get this job done by the end of the day?

B: Sure. No problem.

A: Awesome.

などのようにも使える。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, コメディ, ミステリ, 中村倫也, 日本, 浜辺美波, 監督:木村ひさし, 神木隆之介, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 屍人荘の殺人(映画) 』 -原作をさらにライトに仕上げた映像作品-

『 屍人荘の殺人(小説) 』 -ホワイダニットの秀作-

Posted on 2019年12月12日2019年12月15日 by cool-jupiter

屍人荘の殺人 65点
2019年12月9日~11日にかけて読了
著者:今村昌弘
発行元:東京創元社

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JovianはCinephileでもあるが、同じくbibliophileでもある。『 ゴジラ映画考および私的ランキング 』でも触れたが、Jovianの本好きの始まりは江戸川乱歩の『 少年探偵団 』シリーズである。それ以来、読む本のおそらく7~8割はミステリか、ミステリ色の強いサスペンスやホラーであった。仕事をするようになると、いつの間にか活字のエンターテインメントから離れてしまったが、それでも細々とミステリは読んでいた。そこに映画化もされる本作である。たまには書評も悪くないだろう。

 

あらすじ

大学のミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、同じ大学の探偵少女・剣崎比留子とともに、映研の夏合宿に参加することとなった。宿泊先は紫湛荘。しかし、その別荘が屍人荘に変貌。閉じめられるメンバーたち。そこで密室殺人が起きてしまい・・・

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ポジティブ・サイド

ミステリというのは、ふたつの意味で非常に難しいジャンルである。ひとつには、「理論的に実行可能」な犯罪トリックと「実際に実行可能」な犯罪トリックの境界線を、意図的に分かりにくくしなければならないからである。この分野で個人的に大失敗したのは小説およびTVドラマの『 謎解きはディナーのあとで 』だろう。北川景子の穴だらけの推理を、櫻井翔が「おそらく、こういうことでございましょう」と訂正していくが、その推理も完全に穴だらけ、というよりも、理論的に可能であっても、実際にそれをするのは不可能という類のものだった。Jovianはキャラものミステリも嫌いではない。だが、アホな推理しかできないミステリは断固お断りである。

 

ミステリが困難になりつつあるもう一つの理由は、テクノロジーの進化である。それこそジョン・ディクソン・カーやヴァン・ダイン、江戸川乱歩の時代であれば、機械的に成立する密室や殺人トリックが受け入れられた。そうした機械的なトリックが技術の進展により陳腐化していくと、クローズド・サークル(吹雪の山荘や絶海の孤島など)が舞台に設定されるようになった。それも携帯電話の普及により過去の遺物となったら、次には心理的な密室が作られるようになった。だが、それも「動機は○○です。なぜなら犯人はサイコパスだからです」式の異常心理ものと共に消えて行った。「心理的に~~~である」という説明は、当時は新鮮で説得力もあったが、今では単なるご都合主義である。

 

『 屍人荘の殺人 』は、その舞台設定の巧みさと、技術の進歩によって陳腐化してしまわないプロットで成り立っている。見事な作品である。また本作は、探偵役の剣崎比留子も言う通り、フーダニットやハウダニットではなく、ホワイダニットが謎の焦点となる。そして、その「何故?」という問いの対象と、真相はなかなかに意表を突くものであった。とはいうものの、ある特定のジャンルに詳しいマニア(それは作中にも登場する)で、なおかつnecrophile(念のため白字にしているが、それでも見たいという方は意味は自己責任で調べて欲しい)な人なら、案外あっさりとこの「ホワイ?」の答えにたどり着ける、もしくは思い当たるかもしれない。それでもこの真相の衝撃が薄まることは少しもないだろうが。

 

大学生とひよっこ社会人たちの集まり、つまり警察や特定の職業人が出てこないので、視点が常に一般的である。つまり読みやすい。イージー・リーディングである。またキャラの語り口も軽妙で、しばしば衒学的になってしまうJovianも、このような書き方をせねばならないと反省を促される。島田荘司ばりの本格推理のファンも、浦賀和宏のようなジャンル横断的な変則ミステリファンも満足させるような、新時代の本格推理小説に仕上がっている。綾辻行人の『 館 』シリーズのファンなら、必読と言えるだろう。

 

ネガティブ・サイド

「俄然、うどん」という謎の日本語には参った。「断然、うどん」の間違いだと思われるが、著者のみならず編集者や校正担当も気がつかなかったと言うのか。日本人の国語力低下が叫ばれているが、出版に携わる方々にはもっとプロフェッショナリズムを以って仕事をしてもらいたい。

 

最初からシリーズ化を狙っていたとしか思えない比留子のキャラ造形はいかがなものか。特に文庫の110ページの11~12行目、258ページの8行目の描写は、いたいけな青少年読者に取り入ろうとしているのか。なお、映画で比留子を演じる浜辺美波は、小説版の比留子のこれらの部分の描写に合致しない。そのかわり、キス(本編では“ちゅー”となっている)で神木隆之介を籠絡しようというのか。どちらにせよ、こうした描写はラノベ向きであって、本格ミステリ向きではない。泉下のヴァン・ダイン師も呆れていることだろう。また、売れてきたら前日譚を書いてやろうという著者の魂胆が透けて見える。こうした描写はもっと控え目にできたはずである。

 

また、驚愕の真相に比して、トリックに少々弱点がある。密室を成立させるトリックがかなり手垢のついたものであるし、鍵開けトリックは『 影踏み 』のようなコソ泥の技だろう。それが実行可能であるということと、そのトリックをマスターして実地に行うことの間には大きな開きがある。なお、『 影踏み 』にこのような鍵開けトリックは出てこないので安心してほしい。

 

最後に、文庫版を買う人はカバーをじっと見つめてみよう。それによって、真相はまだしも、犯人が見えてくるはずである。これは出版社や作者の、犯人当てではなく、何故こうした犯行方法を採用したのかを当てる小説ですよ、というメッセージなのかもしれないが、もうちょっと異なるカバーにはできなかったのだろうかとも感じる。

 

総評

少しケチをつけてしまう部分もあるが、これは本邦ミステリの新境地かもしれない。古い革袋に新しい酒が入っている。小説も映画も、とある「舞台装置」の存在を明らかにしながらも明らかにしていない。これは賢い戦略である。これを明かしてしまうだけで、「うげっ、だったら読まねー、観ねえ」となる人間が一定数出てくるからである。しかし、そうした人こそ、映像よりも先に活字を味わうべきだろう。心底そう思う。同時に、本作の映画化への期待も膨らんできた。原作にはいないキャラクターが加えられており、一捻りしてあることが期待されているからである。また、また小説を読んだ人は、映画の主題歌に「ニヤリ」とすること請け合いである。日本映画界よ、少女漫画ばかりでなく、小説の映画化をもっと考えてくれたまえ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I will give you a smooch.

キスはkissである。ちゅーはsmoochである。give 人 a smoochで、「人にちゅーしてあげる」である。こうした会話を英語で出来るようになれば、英会話スクール卒業である。というか、英会話を教える側に回ってもよいだろう。

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2010年代, C Rank, ミステリ, 日本, 発行元:東京創元社, 著者:今村昌弘Leave a Comment on 『 屍人荘の殺人(小説) 』 -ホワイダニットの秀作-

『 ルパン三世 THE FIRST 』 -Lupin is back in action!-

Posted on 2019年12月11日2020年4月20日 by cool-jupiter

ルパン三世 THE FIRST 65点
2019年12月8日 東宝シネマズなんばMX4Dにて鑑賞
出演:栗田貫一 小林清志 浪川大輔 沢城みゆき 山寺宏一 吉田鋼太郎 藤原竜也 広瀬すず
監督:山崎貴

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フランスのアルセーヌ・ルパンに、日本の和のテイストと鼠小僧のエッセンスを加えてルパン三世が帰ってきた。小栗旬バージョンの実写はどのキャストも頑張っていたものの、峰不二子役の黒木メイサが残念ながらノイズだった。ならばと3DCGアニメでルパンたちを蘇らせた。この判断は正解である。『 ドラゴン・クエスト ユア・ストーリー 』の傷も少しは癒された。

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あらすじ

時は第二次大戦。稀代の考古学者ブレッソンは、ある宝のありかを示した日記、“ブレッソン・ダイアリー”をナチスに狙われていた。時は流れ、パリにてお披露目されるそのダイアリーをルパン三世(栗田貫一)が狙って現れる。レティシア(広瀬すず)という考古学者の卵の少女と共に、ルパンは宝の謎解きに乗り出すが・・・

 

ポジティブ・サイド

ルパン三世とは何か。それは大泥棒にして義賊、犯罪者にして正義漢、破廉恥にして紳士、そうした非常に矛盾に満ちたキャラクターである。かかる複雑な属性がルパンの大いなる魅力になっていて、そのことは本作でもいかんなく発揮されている。例えば不二子に対しては「報酬は俺の体で」と下品なオファーをする一方で、レティシアには「いい女になれ」と優しく諭す。元々の漫画では、割とすぐにすっぽんぽんになって不二子に襲いかかっていたが、一般大衆アニメになるにつれて、そうしたエロ要素が薄れてきた。本作はルパンのそうしたスケベ属性を残している。山崎監督のルパン三世へのリスペクトは本物だと思える。

 

他のキャラも立っている。常にルパンに先んじて、しかし途中でルパン一味に合流しながらも、最後には美味しいところを奪っていく峰不二子。今回はつまらないものを斬らずに、斬るべきものを一刀両断に斬る石川五ェ門。超絶ドライブ・テクニックと超絶射撃テクニックを披露する次元大介。そして、おそらくララ・クロフトよりも強くてセクシーな峰不二子。まさに役者がそろっている。彼ら彼女らが生き生きと銀幕上を動くだけで、実に楽しく感じられる。

 

ストーリーも悪くない。ナチス第三帝国の復活ネタは古くは小説では『 ブラジルから来た少年 』、近年の映画でも『 アイアン・スカイ 』や『 帰ってきたヒトラー 』など、いつの時代でも掘り起こされるテーマだ。それこそ、ヒムラーやゲッベルスが映画化される日も近いはずである。また戦後70数年になんなんとする今、ナチス・ドイツは日本の若い世代にはファンタジー的な存在になりつつもある。そうした世界でルパンという架空のキャラクターを活躍させることで、かえってリアリティを増しているようにすら感じられた。

 

ストーリーはテンポよく進むし、スリルとサスペンスとユーモアの配分も見事である。ルパン三世とその仲間たちは見事に復活したと言えるだろう。なによりも名曲“ルパン三世のテーマ”が流れてくるだけで、少年時代が蘇ってくる。“ゴジラのテーマ”や“ロッキーのテーマ”と並んで、それが聞こえてくるだけで物語世界に一気に引き込まれるように感じる。THE FIRSTと副題にあることから、THE SECONDやTHE THIRDへの期待もふくらむ。

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ネガティブ・サイド

アクションシーンやプロットのあまりにも多くの部分がクリシェである。クリシェという言葉が辛辣に過ぎるなら、過去の名作へのオマージュが多過ぎると言い換えればよいだろうか。パッと思い浮かぶだけでも

 

映画『 インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 』

映画『 ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル 』

映画『 ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション 』

映画『 天空の城ラピュタ 』

映画『 ルパン三世 』(実写版)

TVアニメ『 未来少年コナン 』

TVアニメ『 ふしぎの海のナディア 』

 

などが挙げられる。特にお宝の封印は、びっくりするほど『 インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 』のそれにそっくりである。正直なところ、本作にはオリジナリティは認められない。

 

またヒロインであるレティシアの年齢はいったいどうなっているのだ?物語冒頭では赤ん坊で、その後十年だか十二年が経過したところで、美術館のキュレーター的ポジションについているというのか。大学への進学を夢にしているところからも10代後半であると思われるが、それでもやはりこのヒロインは年齢不詳である。

 

総評

個人的にはアクションに胸が躍り、ユーモアには笑顔にさせられたが、ストーリーそのものには驚きはなかった。劇場鑑賞後、Jovianの嫁さんは「サイコー!」と言っていた。そこまで良かったか?と思ったが、同じく観客にいた6人組アラサー女子たちが滂沱の涙を流しながら、シアター内でも劇場ロビーでも称賛の言葉を次々に述べていた。観る人によって異なる感想を抱くということの好例である。ルパン三世のファンであってもそうでなくても、チケット代に見合うエンターテインメント作品にはなっている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

If you are an archaeologist, you have got to be a romanticist.

レティシアの「考古学者ならロマンチストじゃないと」という台詞である。ロマンチストは英語ではromanticist=ロマンティシストである。このように一般論を語る時は、しばしば主語をyouに設定するのが英語の特徴である。Jovianがアメリカ人の友人から聞いたこれと同じ構文として“If you don’t know about Harriet Tubman, you are not American.”というものがある。ここでは彼はyouを使ったが、これがJovianを指すものではないことは明らかである。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, アドベンチャー, ミステリ, 小林清志, 広瀬すず, 日本, 栗田貫一, 浪川大輔, 監督:山崎貴, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 ルパン三世 THE FIRST 』 -Lupin is back in action!-

『 影踏み 』 -演出に課題を残す変則探偵もの-

Posted on 2019年11月19日2020年4月20日 by cool-jupiter

影踏み 55点
2019年11月17日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山崎まさよし 尾野真千子 北村匠海 滝藤賢一 中村ゆり
監督:篠原哲雄

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ミステリやクライムドラマにおいて事件を解決するのはかつては警察や探偵の仕事だった。時代を経るごとに、その役目を担う存在は変遷し、今では医師や法医学者、看護師、そして弁護士などがそれにあたる。そこへ、泥棒が事件を解決するという物語である。もちろん、『 羊たちの沈黙 』のように犯罪者が犯罪者を推理で追い詰めるような傑作もあるが、泥棒というのはなかなか新鮮だ。漫画『 ドロ刑 』は無念にも打ち切られたが、泥棒が探偵というジャンルを開拓できるか。

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あらすじ

ノビカベの異名を持つ凄腕の泥棒、真壁修一(山崎まさよし)は、県議の邸宅に忍び込んだ時、県議の妻の葉子が放火しようとしているのを阻止して御用となった。刑期を終えて出てきた修一は啓二(北村匠海)と共に当時の事件の真相を探るために動き出す。それは修一の過去のトラウマに向き合うことでもあった・・・

 

ポジティブ・サイド

最も印象に残ったのはBGMである。主演の山崎がそのまま音作りにも関わったということで、エドガー・ライトやスコット・スピア、ジェレミー・ジャスパーなど映画を作りつつ、音楽も作れる、あるいは既存の音楽を映像に合わせられる人材がシーンで台頭しつつある。主演俳優が音楽を手掛けるというのは邦画では異例のこと。しかし、(東芝的な意味ではない)チャレンジは素直に歓迎しようではないか。

 

俳優陣で最も印象に残ったのは放火未遂の中村ゆり。『 町田くんの世界 』の関水渚の20年後のようであり、『 記憶にございません! 』の石田ゆりの15年前のようである。つまり、美人であると言いたいわけである。10代、20代の男子に告ぐ。女性というのは25~45歳ぐらいが美のピークである。心しておきたまえ。

 

ノビカベこと修一が過去の事件および現在の殺人事件の真相解明に乗り出していく、その暗さが魅せる。陽の光の当たらない社会の一隅にひっそりと、しかし力強く根付いている地下世界の住人たちとの接点や闇社会の人間関係に怯むことなく進んでいく覇気をも感じさせる執念が、基本的に無表情で、それでいて険のある顔つきをした山崎まさよしによって巧みに体現されている。山崎は、存在感だけならキャスティングの勝利と言える仕事をした。

 

本作は日の当たる世界の住人と闇の世界の住人を必ずしも綺麗に区別しているわけではない。人間には誰しも二面性のようなものがある。善人と悪人がいるのではなく、ある人は時に善人であり、時に悪人であるという世界観を提示している。警察が法を犯し、泥棒が正義と真実を追求する。一部の主要な登場人物たちには、綾辻行人の小説『 殺人鬼 』に仕込まれているトリックと同じ設定がなされている。その事件の解決が、修一自身の抱える闇を晴らすことにもつながっている。この構造は秀逸である。

 

ネガティブ・サイド

大筋では楽しめる作品であるが、残念ながら粗もかなり目に付く。

 

まず修一と啓二の関係がすぐに見えてしまう。『 イソップの思うツボ 』はこの点でかなりアンフェアであったが、『 ブルーアワーにぶっ飛ばす 』はフェアであった。本作も一応フェアである。ただし作りがフェアだからといって、見せ方まで上手いわけではない。冒頭の瞬間から強烈な違和感が漂っている。ちょっと映画を見慣れた人、あるいは倒叙ものの小説をいくらか読んだ経験のある人なら、すぐに気付いてしまうことだろう。やはり『 シックス・センス 』は名作だったと再認識。むしろ、『 シックス・センス 』のおかげですれっからしの映画ファンが増加したのかもしれない。ならばなおのこと、後発作品の監督は知恵を絞らなければならない。

 

大竹しのぶがある人物の首を絞めるシーンも酷い。腕にも手にも力が入っていないのが一目瞭然である。何故こんな中途半端な絵で妥協してしまうのか。篠原哲雄監督は首絞めに何らかのトラウマでも抱えているのか。

 

修一が真相を追う中で、とある通帳を手に入れ、クリーンではないカネのやり取りが明らかになるシーンがあるが、ここもリアリティを欠いている。地下世界、暗黒街の大物のような男が馬鹿正直に自分の名義の口座から送金するだろうか。原作小説の描写がそうなっているのかもしれないが、映画化に際してより現実に即した形に改変することは認められてしかるべきだ。

 

本作最大の弱点は、修一の忍び込みの技術の凄さが全く伝わらないところにある。窓ガラスを如何に音を立てずに割るか。ふすまやドアの開閉時の音を如何に抑えるか。抜き足差し足忍び足を如何に実行するか。そうした伝説のノビ師の仕事人っぷりが画面を通じて伝わってこない。この点は大いに不満が残った。

 

本作のキーとなる概念に「 双子 」が挙げられる。珍しい存在ではあるが、天然記念物ではない。なので尾野真千子の務める園にいても全く不思議はない。いや、むしろいるべきだった。自我が発育しきっていない段階での「 双子 」の関係性を描いておけば、その後の展開により説得力と迫真性が与えられたことだろう。

 

総評

野心的な作品である。それは間違いない。しかし、演出面で数々の課題を残している。高校生ぐらいではプロットを追いかけるのにも難儀するかもしれない。2名ほど、恐ろしく低レベルの演技を見せる役者がいることにも注意したい。主人公やそれを取り巻く人間模様を理解する、あるいは主人公らに共感するのが難しい作品であるが、中村ゆり演じる葉子に狂わされる男の気持ちが分かれば、それはそれで本作を楽しむ一助になる。アラフォーのおっさん映画ファンには自信を持ってお勧めできる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Snap out of it already.

 

「もういい加減に止めろよ」という北村匠海の台詞(うろ覚えだが)。Snap out of it. というのはそれ自体が成句で、習慣をスパッとやめる、気分を入れ替える、という意味がある。この表現は高校一年生の時にRod Stewartの“Sweetheart like you”で学んだことを今でも覚えている。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, サスペンス, ミステリ, 中村ゆり, 北村匠海, 尾野真千子, 山崎まさよし, 日本, 滝藤賢一, 監督:篠原哲雄, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 影踏み 』 -演出に課題を残す変則探偵もの-

『 見えない目撃者 』 -韓国映画のリメイク成功例-

Posted on 2019年9月29日2020年4月11日 by cool-jupiter

見えない目撃者 75点
2019年9月23日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:吉岡里帆 高杉真宙 大倉孝二
監督:森淳一

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吉岡里帆主演の『 パラレルワールド・ラブストーリー  』は文句なしに駄作だった。なので『 音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!! 』はスルーさせてもらった。今回もスルー予定だったが、結果的にチケットを買ってよかった。

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あらすじ

浜中なつめ(吉岡里帆)は配属直前の警察官。しかし弟を補導した帰りに、事故を起こして、弟は死亡、自身も視力を失ってしまう。それから3年。とある車の接触事故の場に居合わせたなつめは、車内から助けを求める少女の声を聞く。だが警察は視覚障害者のなつめの言うことをまともに取り合わない。なつめは独自に接触被害にあったスケボー少年の春馬(高杉真宙)に会うが・・・

 

ポジティブ・サイド

これは近年の邦画(韓国映画のリメイクだが)サスペンスの中では出色の出来映えである。現代日本社会の闇を浮かび上がらせつつも、単なる社会派としてだけではなくミステリ要素あり、スリラー要素ありと、非常に野心的な作品に仕上がっている。

 

個人的には事件を追う刑事たちと夏目と春馬の民間人ペアのチームワークが見どころだった。暇があれば靴磨きに余念がない定年間近でやる気のないベテランと、メンドクセーという空気を醸し出す中年刑事が、徐々に吉岡演じる盲目女性とスケボー少年ペアと chemistry を起こしていく展開の見せ方が上手い。特に非行少年の春馬が成り行きから捜査に加わり、犯人に狙われ、これ以上は深入りするなと言われながらも警察となつめに協力していく様は、物語のサブプロットでありながらも、最終的には春馬自身のビルドゥングスロマンにつながっていく。この脚本は見事である。

 

このリメイクはオリジナルよりもミステリ要素が強めである。というよりも、オリジナルは完全なるサイコ・サスペンスだが、森淳一監督は松本清張的な社会派ミステリ要素を加えてきた。そして、それが奏功している。例えば『 チワワちゃん 』は本作のようなストーリーをたどって、本作のような犯人に殺されたとしても不思議はなかったのである。そして、そのことが単なるニュースとして消費されるような社会に我々は現に生きている。日本という国の近現代の歴史の大きな一面は都市化だった。綾辻行人がしばしば指摘することであるが、都市という空間では人間は基本的に他者に無関心である。より正確に言えば、社会の規範から外れた者に無関心である。それは時に家出少女であり、非行少年であり、障がい者であり、特殊な嗜好の持ち主である。本作が社会派たり得ている理由はこれだけでもお分かり頂けよう。

 

だがエンターテインメント性も忘れてはならない。本作はサスペンス要素がてんこ盛りである。過剰とも思えるほどに主人公およびそのパーティーメンバーに危機が訪れる。そして物語の中で、上手く小道具を使い、危機をくぐりぬけていく。特にクライマックスのシークエンスは見事の一語に尽きる。このアイテムを使って何かをするだろうな、ということは観ている時からすぐに分かるが、その使い方が素晴らしい。

 

本作で主演を張った吉岡里帆はJovianの中では redeem された。Shawshank Redemption and Rita HayworthならぬShawshank Redemption and Riho Yoshiokaである。光を失いながらも、その他の感覚研ぎ澄ませ、警察官ではなくともその身は軽く、頭脳も明晰。そして、一度は失ってしまった弟を再び失うことはすまいと、自らの信じる正義に愚直なまでにその身を投じていく様に、女優としての階段を着実に一歩上ったという印象を受けた。満腔の敬意を表したいと思う。

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ネガティブ・サイド

盲導犬パムとなつめの触れあいの描写が不足している。原作と違い、失明後も母親と暮らしているにもかかわらず、犯人に襲われ、病院で目覚めた後に真っ先にパムを気遣うのがやや腑に落ちなかった。もちろん、失明している人間には盲導犬が最高のパートナーであることは分かるが、その間に培われてきた絆の描写がもう少し欲しかった。

 

そして、上の流れにつながる流れ、トレイラーにもあった電車のシークエンスはサスペンスフルではあるが、論理的に考えればご都合主義以外の何物でもない。なつめがどこの駅で降りるかなど、分かりようがないのだから。サスペンスが途切れないのが本作の最大の長所であるが、この点だけは劇場鑑賞中に???となってしまった。

 

クライマックスのとある豪邸でのシークエンスでも、オリジナルではライターが小道具として有効に機能していたが、今作ではスマホのライト機能を使っていた。これも時代に合わせた変更であろうが、それにしても本来光で照らされているべき箇所が、とてもそのようには見えなかった。また、実際に強烈な光を対象に浴びせてしまうと、ある小道具の存在がばれてしまうということもあったのだろう。だが、このような盲目のキャラクターが登場する作品こそ、光の扱いに注意してもらいたい。文字通りの意味での光と闇のコントラストが本作最大のクライマックスで、そこに至る過程は座頭市の決闘さながらのサスペンスを生み出したが、実際とは異なる演出のせいで、またもご都合主義を感じさせてしまった。

 

ポスターについても一言。『 マスカレードホテル 』でも指摘したが、ハードコアな映画ファンやミステリファンの中には、あらゆる角度から情報を収集・分析して、鑑賞に臨む者もいるのである。販促物で犯人を暗示することはご法度である。劇中でも不自然なさりげなさを醸し出すシーンがあるが、一部の販促物と合わせて考えれば、物語の中盤前に犯人にピンと来てしまう。実際にJovianはピンと来た。うーむ・・・

 

総評

弱点・欠陥を抱えた作品であることは間違いないが、劇場の大画面、大音響で鑑賞すれば、そんなものは一瞬で吹っ飛ぶほどの緊迫感溢れるシーンの連続である。『 SUNNY 強い気持ち・強い愛 』が原作韓国映画の換骨奪胎に失敗した轍を、本作は踏まなかった。『 クリーピー 偽りの隣人 』や『 ミュージアム 』よりも面白いと勝手に断言させてもらう。ただ、グロいシーンもいくつかあるので、それに耐性のない人だけは注意を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Whatever you do, don’t cause me trouble.

 

「何をしようと勝手だが、俺に迷惑だけはかけるな」とは、スケボー少年の春馬の教師の面談の場での発言である。異物排除の論理が日本社会、特に大人の価値観を支配していることを端的に表す言葉である。「何をしてもかまわんが、~~~だけはするな」と言う場合には “Whatever you do, don’t V.”というのが公式のようなものである。

 

Whatever you do, don’t borrow money from him.

Whatever you do, don’t touch my computer.

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, サスペンス, スリラー, ミステリ, 吉岡里帆, 大倉孝二, 日本, 監督:森淳一, 配給会社:東映, 高杉真宙Leave a Comment on 『 見えない目撃者 』 -韓国映画のリメイク成功例-

『 イソップの思うツボ 』 -このようなアンフェアな演出や伏線を許すな-

Posted on 2019年8月19日2020年4月11日 by cool-jupiter

イソップの思うツボ 45点
2019年8月16日 東宝シネマズ梅田にて鑑賞
出演:石川瑠華 井桁弘恵 紅甘
監督:浅沼直也 上田慎一郎 中泉裕矢

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『 カメラを止めるな! 』や『 お米とおっぱい。 』の上田慎一郎が満を持して(かどうかは分からないが)世に送り出す作品ということで、期待はあった。一方で、上田監督の才能を最も活かせるのは、こじんまりとした映画であるという印象を抱いているのも事実である。果たして本作はどうか。上田監督らしさはあるものの、フェアかアンフェアかで、かなり意見が割れるところであろう。

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あらすじ

内気な女子大生の亀田美羽(石川瑠華)は、学校で独りだった。一方でクラスメイトの兎草早織(井桁弘恵)は家族そろって芸能人。仕事も順風満帆で、恋愛にも積極的だった。接点のなさそうな二人であったが、ある日、新任講師が講座を担当することがきっかけて・・・

 

以下、ネタばれや他作品に関する記述あり

 

ポジティブ・サイド

石川瑠華という役者のポテンシャル、それをまずは評価したい。はっきり言って演技が上手いかどうかで言えば、「下手ではない」というレベル。けれど、母親が心配そうに、それでいてどこか嬉しそうに見つめるのは、この娘の表面に見える弱さや脆さ、儚さの奥深くに芯の強さが潜んでいることを見抜いているからだろう。そう感じられる母娘のやりとりは、非常に説得力のあるものだった。彼女のハンドラーは少女漫画の映画化作品に端役で登場させてやって欲しい。浜辺美波や森川葵らから、何かを学び、才能を開花させるかもしれない。頑張れ~!

 

井桁弘恵。かわいい。以上。

 

紅甘。2017年にシネ・リーブル梅田で鑑賞した『 光 』に出ていた。島の少年がじいさんからコンドームを手に入れ、猿のようにセックスに耽る相手。山中でおっさん相手に立位でセックスしながら、カメラ(少年)に向かってアンニュイな表情を見せるシーンが印象的だった(芸術的な意味で)。

 

ネガティブ・サイド

【予測不能!】、【騙されてほしい!!】などの惹句は逆効果である。というよりも、一部のハードコアな映画ファンやミステリファンにとっては有害ですらある。『 マスカレードホテル 』のレビューでも指摘したが、ミステリファンという生き物は、あらゆる媒体から情報を引き出し、事前に推理を組み立てるのである。ましてやカメ止めの上田慎一郎。ドンデン返しの存在を予想するのは容易い。我々の興味関心は、どのようにしてひっくり返すのかである。その意味で、本作は終盤のドンデン返しが弱い。というよりも、それほどひっくり返らなかった。まあ、初打席で場外ホームランを飛ばしてしまうと、二打席がきれいなセンター前ヒットでも、物足りなく感じてしまうようなものである。

 

本作にはフェアな伏線とそうではない伏線がある。アンフェアな伏線の最たるものは、『 シックス・センス 』的な演出を使わなかったことである。具体的に言えば、母と娘がしっかりと会話を交わしながらも、母親は何にも触れない、何も動かさないという描写をしなかったことである。これは酷い。ここから何かを読み取れというのは無理だし、アンフェアである。Misleadingを誘うのは別に構わない。というか、『 ユージュアル・サスペクツ 』以降、我々は足を引きずって歩くキャラを見るたびに身構えるようになってしまった。『愚行録 』の妻夫木聡然り、『 ブレス あの波の向こうに 』のエリザベス・デビッキ然り。だから、観る側が勝手に早合点したり読み違えたりするような思わせぶりな描写は許容できるのだ。しかし、終盤の種明かしで「あのシーンの真相はこれで御座い」と言われても、このようなアンフェアな描写ではブーイングしか飛ばせない。「好きな人、できた?」という母の台詞に、「お母さん、大好きだよ」ぐらいの台詞を返しておけば、まだ許せた。このような演出や描写は心底から許せないと思う。観る側をびっくりさせたい、予想を裏切ってやりたいという思いが完全に空回りしたとしか判断できない。

 

一応、フェアな伏線にも触れておくと、美羽の行動の全てである。特に、兎草早織たちと新任講師の会話を淡々と撮影し続ける美羽にかなりの人が違和感を覚えた/覚えることだろう。また、イソップと聞けばたいていの人は「ウサギとカメ」の寓話を思い浮かべるはずだ。だから美羽が早織を追い越すというか出し抜くプロットであることは観る前から分かる。そして、カメ、ウサギ、イヌがロープで縛られているショット。誰かが彼女らを罠にかけることが示唆されている。ウサギとカメ(とイヌ?)の競争をだが、中途半端にフェアな伏線が張られていることで、アンフェアな伏線、さらには非現実的な要素がかえって目立ってしまう。以下、特に気になった点を箇条書きにする。

 

・芸能人のマネージャーになるに際して、身辺調査はないのか。

・兄が大学講師であるにしても、どのようにしてドンピシャのタイミングでドンピシャの講座をゲットしたのか。

・医師が袖の下をもらってトリアージの判断を変えるか。得られるカネよりも、医療訴訟のリスクの方が遥かに大きいだろう。

・そもそも売れっ子芸能人と、どのようにして不倫関係となり、ベッドインしたのか。それがマスコミに一切すっぱ抜かれなかったのはご都合主義でないか。

・亀田家はいつ、どこで、どのようにして銃の扱いに習熟したのか。

 

その他、とっくに『 インシテミル 』で使われたネタをドンデン返しの一部にしてしまうなど、新鮮味にも欠けたし、あるキャラの関西弁の不自然さには辟易させられた。方言が下手なのは許せる。しかし、変であることは許されない。総じて、リアリティに欠けるし、2パート目と3パート目もつながりが著しく弱い。本当に観る者の度肝を抜きたかったのであれば、似非関西弁のヤクザの下に濱津隆之演じる日暮隆之監督を連れてくればよかったのだ。そうすれば劇場のボルテージは一瞬で最高潮に達したことだろう。

 

総評

劇場鑑賞するに当たって最も重要なことは、過度な期待を抱かないことである。一部に「ほほう」と感じられるtwistもあることはあるが、アンフェアな伏線の張り方、演出の方が遥かに多い。兎にも角にも、期待に胸躍らせないように。本作を何らかの形で堪能できたという向きには、サウンドノベルの『 街 運命の交差点 』と『 428 封鎖された渋谷で 』をお勧めしておきたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

 

「 復讐・・・完了 」

Mission … complete.

 

これ以外に思いつかない。

 

「マジ最低!!!」

You really do suck!!!

 

suckは定番。人でも物でも出来事でも、貶してやりたい時はまずはsuckでOK。

 

「好きな人、できた?」

Did you fall for someone?

 

fall for 誰それ = 誰それを好きになる。何でもかんでもloveを使うと少々重いし、バリエーションにも欠ける。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, ミステリ, 井桁弘恵, 日本, 監督:上田慎一郎, 監督:中泉裕矢, 監督:浅沼直也, 石川瑠華, 紅甘, 配給会社:アスミック・エースLeave a Comment on 『 イソップの思うツボ 』 -このようなアンフェアな演出や伏線を許すな-

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