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『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 -心の傷を抱えて生きていく、弱さと強さの物語-

Posted on 2018年9月17日2020年2月14日 by cool-jupiter

マンチェスター・バイ・ザ・シー 70点
2018年9月14日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ケイシー・アフレック ミシェル・ウィリアムズ カイル・チャンドラー ルーカス・ヘッジズ マシュー・ブロデリック
監督:ケネス・ロナーガン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20180917194423j:plain

どうか最初の20分だけで、本作を見切らないでほしい。主人公が、仕事には真面目でも陰気でいけ好かない男で、酒場で酔っているわけでもないのに見ず知らずの男たちに喧嘩を吹っ掛けるような奴でも、物語の進行がやたらとスローでも、鑑賞を続けて欲しい。

ボストンで何でも屋として働くリー(ケイシー・アフレック)は兄ジョー(カイル・チャンドラー)の死によって、望まぬ形で甥のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人となる。故郷のマンチェスターに帰ってきたリーは、過去と現在の狭間に囚われた自分と、孤独になった甥との関係に何を見出すのか・・・

本作のテーマは、罪と罰である。といっても、ラスコーリニコフのそれではない。例え法的には罪に問われなくても、罪は罪である。社会が罰してくれないというのであれば、自分で自分を罰し続ける。そうした覚悟を持ち続けることが、貴方にはできるか?本作はそうした強烈な問いを観る者に投げかけてくる。

甥のパトリックはホッケーでラフプレーをし、同級生の女子に二股をかけ、彼女の家でセックスに及ぼうとし、免許も金もないのにボートを自分のものにしようとし、葬儀屋の丁寧なお悔やみの言葉を「毎日言っている定型文だ」と切って捨てる。はっきり言って嫌なガキンチョとして描かれているのだが、そのパトリックが思わぬ形で心の傷の深さを露呈するシーンがある。普通は自室のベッドではらりと涙をこぼすであったり、シャワーを浴びながら嗚咽を漏らすなどの、ありきたりな手=クリシェ=clichéを使うことが考えられるが、本作は全く異なるアプローチを取る。このアナロジーは見事と思わず唸った。

本作は過去と現在を頻繁に行き来する。凡百の作品にみられるような、キャラクターがゆっくりと目を閉じたところで暗転、そこから過去の回想が始まる、などという手法は一切使われない。その代わりに、何の前触れもなく、いきなり過去の回想シーンが挿入される。本作が映画の技法の面で最も優れているのは、実はこういうところである。画面に、「5年前/Five years ago」とスーパーインポーズすれば確実なところを、本作は観客/視聴者を信頼している。我々の見る目に全幅の信頼を置いている。説明が全く無かったとしても、映し出されるシーンが過去なのか、現在なのかをすぐに分かるように配慮してくれているもの(例えば兄のジョーがいる、など)もあるが、そうではないシーンでも即座にこれは過去の回想なのだと分かってしまう。編集の勝利だと言えばそれまでだが、これほどBGMやナレーションの力を使うことなく、映像と役者の存在感をもってして語らしめる作品にはなかなか出会えない。なぜ自分は公開当時、劇場に行かなかったのだろう?思い出せない。

物語の終盤、リーが元妻のランディ(ミシェル・ウィリアムズ)と再会するシーンは、涙腺決壊必定である。それはリーが救われるからではない。リーは赦しを求めておらず、救いも求めておらず、癒しも求めていない。にもかかわらず、不意に相手からそれらを与えられた時、受け入れられなかった。それほど彼の悲しみは深いのだ。凍てつくような風を吹かせるマンチェスターの海に、抗うように飛ぶカモメの群れと、水面にただ一羽佇むように留まるカモメ。その残酷なコントラストが、しかし、美しさを感じさせる。心に傷を持つ人に観て欲しいなどとは思わない。しかし、心に傷を抱える人の死のうとする弱さと、それでも生きていこうとする強さに、観る者の心が揺さぶられるのだけは間違いない。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, カイル・チャンドラー, ケイシー・アフレック, ヒューマンドラマ, ミシェル・ウィリアムズ, ルーカス・ヘッジズ, 監督:ケネス・ロナーガン, 配給会社:パルコ, 配給会社:ビターズ・エンド

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