ザ・ファブル 65点
2019年6月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:岡田准一 柳楽優弥 安田顕 山本美月
監督:江口カン
岡田准一には雰囲気がある。オーラと言ってもいい。絵になる男である。殺し屋を演じるてもそれは変わらない。あとはヤクザ役と会社員役を待つばかりである。
あらすじ
その殺人の技術の高さから伝説=Fable、ファブル(岡田准一)とまで呼ばれた殺し屋が、ボスから一年間の休業および殺人禁止を言い渡される。普通に平和に暮らすために大阪の地にやってきたファブルは、ひょんなことからミサキ(山本美月)と知り合う。しかし、そのミサキが裏社会の人間に目を付けられ・・・
ポジティブ・サイド
不惑も近い岡田准一が、スタントマン無しで数々のアクションに挑んだことは称賛に値する。Jovian含むアラフォーの男性陣は、全裸で筋トレ・・・をする必要はないが、何らかのワークアウトを日常的に行う必要があるだろう。岡田のアクションをフルに堪能するには、『 散り椿 』のような時代劇よりも、『 図書館戦争 』のような現代のバトルの方が適している。もっと言えば、ガン・アクションと格闘技である。その格闘について言えば、漫画『 CUFFS 〜傷だらけの地図〜 』的なmaneuverが見られる。本作の原作漫画は未読なのだが、南勝久が東條仁並みにB級アクション映画ファンであるならば、是非コミックレンタルを検討しようと思う。
最も印象に残ったのは、殺し屋役としての福士蒼汰。正直なところ、上手い演技だとは毛ほども思わなかったが、主演クラスで出演する作品を個人的にはどれも高く評価できないことから、演技者・表現者として方向転換するべきだと常々感じていた。今回はそれを見せてくれたということで一定の評価をしたい。
同様のことは向井理にも当てはまる。『 君が君で君だ 』で暴力のにおいをぷんぷん漂わせる男を好演したが、優男もしくはイケメン枠の俳優は、ヤクザ役を演じることがキャリアに良い影響を与えるのかもしれない。
しかし、最も高く評価したいのは安田顕である。『 その男、凶暴につき 』の北野武のような狂った警察官を、いつか演じてみてもらいたい。また『 キッズ・リターン 』をリメイクするなら、柳楽優弥のキャスティングはmustであろう。
本作は下敷きに『 ターミネーター2 』があるように感じられる。殺戮マシーンが人間との触れあいを通じて、ジョークを学び、涙を流す気持ちまで理解するのと同じように、浮世離れした殺し屋ファブルが、そのスキルを活かして人助けをするところに面白みがある。また、このファブルは決して木石ではなく、自分の武器に愛着を持っている。車の窓から銃身の部品を投げ捨てる前に銃を凝視するところ、身の回りのものでおもちゃの銃を作ってしまうところに、『 続・夕陽のガンマン 』におけるトゥーコと共通点を見出せる。こうした細かい描写の積み重ねが映画の面白さの土台を形作っていく。
ネガティブ・サイド
冒頭のアクションシーンでの文字解説は不要である。『 ジョン・ウィック 』や『 悪女 AKUJO 』を意識していると思しきシークエンスだったが、であるならば作り手はもっと受け手を信頼すべきだった。ファブルという超絶技巧の殺しの達人の妙技を、映像と音響だけで伝えるように努力すべきだったし、そのようにして観客をエンターテインすべきである。
岡田准一は大阪府枚方市出身にして現・超ひらパー兄さんのCMをよく知っている者として、今作で披露してくれるギャグやスキットは、それほどインパクトのあるものではない。「ワイが、枚方生まれ枚方育ちの、スーパーひらパー兄さんで、おま!」が当時の関西の女子に与えたインパクトを超えるものではなかったように思う。また、枚方市出身の大阪弁ネイティブとは思えないほど、ぎこちない大阪弁であった(兵庫県民のJovianがそこまで言っていいのかどうかは分からないが・・・)。
江口カン監督の東京ジャイアニズム的な感性も鼻についた。JR大阪駅周辺の地図を画面に大写しにした次の瞬間に、通天閣および新世界を映すのはどういう了見なのか。大阪→新今宮→岸和田、または大阪→大阪城→枚方のような撮り方および映し方はできなかったのか。
全体的にシリアスなパートとギャグのパートのバランスが悪く、それが全体のトーンの一貫性を損なっていた。山本美月も変顔を披露してくれたことは称えたいが、それを吹き飛ばすほどの泣き顔もしくは笑顔が見せらないのであれば、ただの道化である。木村文乃も見せ場に乏しかった。ファブルが素人認定したmaneuverで、仮にもプロを倒してしまうというのはどうなんだ?
総評
原作未読者の感想としては、普通に楽しめるアクション映画である。ただ、岡田准一の新たなポテンシャルを呼び覚ました作品ではないし、物語全体のトーンに一貫性がないところも気にかかる。CM畑出身の監督なので、一瞬のインパクトを重視するきらいがあるのだろうが、映画は基本的に90~120分である。江口監督には時間の使い方にもう少し慎重かつ大胆になって頂きたい。最大の見せ場は、本編トレイラーでほぼお披露目済みなので、鑑賞を考えている人はとにかくトレイラーから距離を取るべし。