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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: シチュエーション・スリラー

『 #マンホール 』 -邦画スリラーの佳作-

Posted on 2023年2月16日 by cool-jupiter

#マンホール 60点
2023年2月12日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:中島裕翔 奈緒
監督:熊切和嘉

シチュエーション・スリラー。まさか『 CUBE 一度入ったら、最後 』のような超絶クソ駄作ではあるまいと思い、チケット購入。

 

あらすじ

社長令嬢との結婚も決まり、営業として将来を嘱望されていた川村俊介(中島裕翔)。しかし結婚式前夜の同僚たち主催のパーティーで酔ってしまい、帰り道でマンホールに転落してしまう。足を負傷し、自力での脱出ができない川村は、唯一連絡が取れた元カノの工藤舞(奈緒)に渋谷まで助けに来てほしいと頼むが、渋谷のどこにも蓋の開いたマンホールはないと言う。川村はマンホール女というSNSアカウントを作成し、ネット民たちに救出を依頼するが・・・

 

ポジティブ・サイド

日本中に無数に存在するマンホール。その中に落ちてしまう話。そんなことが起こるわけねーだろと思うが、これがなかなかに面白い。まずマンホールの中がかなり汚く、迫真に迫っている。もちろん、マンホールの中に入ったことなどないが、めちゃくちゃ不衛生な環境であることは分かる。最近の邦画だと『 AI崩壊 』で大沢たかおがやたらときれいな下水道を駆け回るシーンがあったが、本作は悪臭漂うマンホールの底という環境をリアルに追求した。ここは評価していい。

 

物語の大部分もマンホールの中で、中島裕翔の一人芝居で進んでいく。足を怪我して動けないが、『 FALL フォール 』のようにありあわせのもので治療したりと、様々な困難を打開していく。極めつけはSNSの利用だろう。男だとネット民に対しての訴求力がないので、#マンホール女なるアカウントを立ち上げる。『 電車男 』という存在が一世を風靡したが、このマンホール女も瞬く間に一つのムーブメントとなる。そしてネット民の中でも特に恐ろしい特定班が動き出す。このあたり、『 白ゆき姫殺人事件 』よりも更に踏み込んだ内容になっているし、回転ずしをはじめとする外食産業を悩ませるクソ迷惑な客の個人情報がどんどん明かされてしまう現実とが絶妙にマッチしている。

 

本作は序盤から結構フェアに伏線が張られているので、鵜の目鷹の目で見ることをお勧めしたい。実際に上映開始前に「ネタバレはやめてください」的な表示も出た。こういうのを見るとすれっからしのJovianは絶対に見破ってやろうと思ってしまう。ある人物についての考察は当たったが、別の人物については見事に裏切られた。うーむ、悔しい。この作品(ネタバレ注意!)を思い浮かべなかったのは痛恨の極みだ。

 

電話で淡々と対応してくれる元カノの奈緒もいい。電話越しの穏やかな声音と口調に独特の味わいがある。他にもアホなネット民を思いっきりコケにするようなシーンもあり、笑わせてくれる。本作を最大限に楽しむには、謎解きに専念せずに、むしろ中島裕翔に感情移入して観るといい。

 

ネガティブ・サイド

サスペンスのビルドアップが下手だなという印象。マンホールの底であれやこれやと苦闘する川村だが、一番の生命線はスマホ。そのスマホの充電が切れそうになる展開が一つもないのはいただけない。

 

波の花も、あれだけ瓦礫があるのなら、水がたらたら流れてくる箇所を埋めてしまえと思うが、それもしない。脚を大けがした状態で果敢に梯子を登ろうとするのだから、瓦礫を少し運ぶぐらいできるだろう。

 

クライマックスのドンデン返しで思いっきり着地に失敗しているのが最大の欠点か。そこに行くまでは主人公にイライラさせられたり、逆に不可解だった行動の意味が分かってきたりと興味深く観ていられるのだが、最後の最後が火曜サスペンス劇場になってしまう。ここをもっとちゃんと締め括ってくれていれば、もう一段階上の評価もできたはずだと思えてならない。

 

総評

全然知らないジャニーズだと思っていたが、『 ピンクとグレー 』に出てたのね。菅田将暉しか印象に残ってなかった。ただ、アイドルがここまで汚れてボロボロになるというのは邦画では珍しい。その点で希少価値はある。ストーリーも着地に失敗しているとはいえ、序盤と中盤は結構楽しめる。デートムービーにはならないだろうが、週末に予定がなければ本作のチケットを購入するのも全然ありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

peck

劇中では Twitter の代わりに pecker なるSNSが登場していた。これは「つつく」の意味。キツツキは woodpecker と言う。ちなみに tweet は「さえずる」の意(「つぶやく」ではない)。北アメリカを旅行した人なら、鳥が「トゥイトゥイ」という感じで鳴くのを聞いたことがあるかもしれない。あれが tweet という擬音語になり、そのまま動詞になったわけである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 対峙 』
『 エゴイスト 』
『 銀平町シネマブルース 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, シチュエーション・スリラー, 中島裕翔, 奈緒, 日本, 監督:熊切和嘉, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 #マンホール 』 -邦画スリラーの佳作-

『 アクセル・フォール 』 -スリラーに徹すべし-

Posted on 2022年7月24日 by cool-jupiter

アクセル・フォール 30点
2022年7月20日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:シャーロット・ベスト
監督:アンティーン・ファーロング

夏と言えばホラーまたはスリラー。『 TUBE チューブ 死の脱出 』のようなシチュエーション・スリラーかなと思い、近所のTSUTAYAでレンタル。

 

あらすじ

アリア(シャーロット・ベスト)が目覚めると、そこは超高層ビルのエレベーター内だった。エレベーターの扉は開かず、急激な下降と上昇を繰り返してアリアを痛めつける。誰が?何のために?謎が謎のままに、エレベーターのモニターにはアリアの父が拷問を受ける映像が映り・・・

 

ポジティブ・サイド

エレベーターは密室でありながら、動くという特徴を持つ。地震の多い日本という国では、エレベーター内に閉じ込められるというのは現実的な恐怖として感じやすい。その意味で、アリアの置かれた状況を我が事のように感じられた。

 

アリアの父の拷問シーンも、観ていて結構痛い。やはり低予算映画が力を入れるべきは、高額な役者や美麗なCGではなく、苦痛の表現だ。アリア自身も結構痛めつけられるが、観ていて本当に自分でも脳震盪を起こしそうに感じた。

 

状況が全く不明なままアリアが痛めつけられ、スマホに残る謎のメッセージや、モニターに映る父の様子など、序盤のミステリ要素とサスペンスの風味はなかなかのもの。シチュエーション・スリラーというジャンルは、序盤だけは面白さは保証されている。

 

ネガティブ・サイド

原題は Rising Wolf = 立ち上がる狼ということで、このタイトルならそもそも借りなかった。やはりアリアに訳の分からない超能力があった、という設定が本作を一気に駄作に落としている。

 

エレベーターの急降下でアリアが気絶するたびに謎の回想シーンが入るが、これが物語のテンポを悪化させている。回想シーンそのものに面白さというか、様々な謎を解く鍵、あるいはさらに謎を膨らませる要素があればよかったが、それも無し。その代わりにアリアには双子の妹ザラがいて、二人そろって謎の超能力があり、父親はCIAのエージェントで・・・って、色々と詰め込みすぎ。

 

まず超能力の設定が不要。なおかつ、その超能力が本当に超がつくようなむちゃくちゃな能力。サスペンス要素を盛り上げたいなら、アリアの能力は通信あるいは何らかの感知・検知能力にすべきだろう。エレベーターという密室で最も必要になるのは、まずは情報。その情報を得るには、外部と通信するか、または自ら感じ取ることが必要。備え付けの電話やスマホが使えなくなった。そこで過去の回想で、ザラや、あるいは両親とテレパシーでコミュニケーションしていた。あるいは、壁の向こう側が見えたり、遠いところの音や声が聞こえたりといった経験が思い出されて・・・という展開なら、まだ分かる。超能力自体が的外れな上に、それがエレベーターという密室と上手にリンクしないのはマイナスである。

 

悪役がロシア人というのはある意味でタイムリーであるが、「エンジニア」なる謎の存在を探すというのがクリシェだし、エレベーター内のモニターが切れている時だけ、アリアが叔父のジャックと通話できるというのも都合が良すぎて、すぐにピンとくる。特にゲームの『 メタルギアソリッド2 』や『 エースコンバット3 エレクトロスフィア 』をプレーしたことがあれば「これはアレか」となるだろう(ジャックが実在するかどうかではなく、ジャックの正体は誰なのか、という点で)。

 

覚醒したアリアはまさに Rising Wolf のタイトルにふさわしいが、何だろうか、この「私の戦いはまだ始まったばかり」感満載の終わり方は・・・ 続編作る気満々に見えるが、今どきのジュブナイル小説でも、もっとちゃんとしたプロットを組み立てるだろう。サイキックパワーやらタイムトラベル、原子分解から原子再構成までやりたい放題やったのだから、いさぎよく一作で完結しておくべきだろう。まあ、これの続編にカネを出そうというスポンサーはいないだろうが。

 

総評

オーストラリア発の珍品である。クオリティとしては、毎年夏になると出てくる珍品ゾンビ映画、あるいは珍品サメ映画と変わらない。超能力ものは嫌いではないが、それは超能力が世界観とマッチするときだ。配信やレンタルショップで目にしても、視聴はお勧めしない。視聴するなら自己責任でどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Rising

いわゆる分詞の形容詞的用法というやつである。意味は「立ち上がる」、「上昇する」など。Rising Star = 人気や知名度が上昇中のスター、The Land of the Rising Sun = 日出ずる国など、多少英語を勉強した人なら馴染み深い分詞だろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, E Rank, オーストラリア, シチュエーション・スリラー, シャーロット・ベスト, ファンタジー, 監督:アンティーン・ファーロング, 配給会社:AMGエンタテインメントLeave a Comment on 『 アクセル・フォール 』 -スリラーに徹すべし-

『 TUBE チューブ 死の脱出 』 -評価の別れるシチュエーション・スリラー-

Posted on 2022年7月17日 by cool-jupiter

TUBE チューブ 死の脱出 50点
2022年7月14日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ガイア・ワイス
監督:マチュー・テュリ

近所のTSUTAYAで発見。準新作だったが、クーポンで安く借りてきた。観る前から駄作臭が漂ってきていたが、どちらかと言うと珍作だった。

 

あらすじ

あてもなく彷徨するリサ(ガイア・ワイス)は、偶然通りかかった車に乗せてもらう。しかし、運転手は殺人罪で逃亡中の男だった。急ブレーキで頭を打ったリサが目覚めると、全身に謎のスーツが着用され、左腕には光るブレスレットが装着されていた。小部屋の扉が開くと、その先は一方通行のダクトになっていた。彼女はこの空間から脱出できるのか・・・

ポジティブ・サイド

原題は フランス語で Meandre、英語なら meander = 曲がりくねる、である。『 CUBE 』の一文字違いで TUBE とは、なかなか凝った邦題である。このタイトルとDVDのジャケットだけで借りてしまった。クソ映画だと分かっていても、観なければならないクソ映画というのもある。本作はその一つである。

 

CUBEが三次元方向に展開する超構造体であったのに対して、こちらは基本的には TUBE という邦題の通り、一方通行である。その時々に左右に道は分岐するが、同方向に進み続けなければならない点は変わらない。ブレスレットによるカウントダウンとチューブ状の構造物という時間と空間の両方の面から追い立てられる演出は上手いと感じた。

 

主演のガイア・ワイスはかなりの演技巧者。序盤で見せる怯え切った表情と、中盤で見せる鬼気迫る表情のコントラストは凄い。数々のトラップや、『 CUBE 』世界に出てこないようなモンスターも登場する。かなりグロい死体描写や、観ているこちらの血圧が一瞬でガクンと下がってしまうような人体破壊描写もあったりする。オチは少々いただけないが、そこにいたるまでの謎とサスペンスを楽しめれば、それで十分だろう。

 

以下、少々ネタバレあり

 

ネガティブ・サイド

冒頭のヒッチハイク的なシーンは必要だったか?もちろん、チューブ内に何らかのお仲間を入れてやらなければならないが、別にそれはリサの〇〇でも△△でも良いわけで、ポッと出の男を無理やり配置する必要はなかったように思う。また、いきなりチューブの中から始まる方が『 CUBE 』同様に、ベタではあるが観る側を「え?え?ここはどこ?」という不安な気持ちにさせられたはず。

 

手首に刻印された謎のマークが、ちょっと misleading すぎる。 ナチュラルに左から読んでいたが、正しい読み方が右から左だったら?あるいは腕を90度真横に倒して、上から、つまり橈骨側から読むのが正しいとしたら?地球ですら、国や文化圏によって数字や文字を読み始める方向は異なるのだから、本作のような世界観を堂々と呈示する作品では、このあたりにもっとリアリティを込めてほしかった。

 

最後の最後に胎内回帰するというオチは悪くないと感じた。問題なのは、そこからさらに別のオチに飛躍したこと。ストーリーは『 アメイジング・ジャーニー 神の小屋より 』から、一気に『 ノウイング 』へと変貌する。最後の最後に投げっぱなしジャーマンスープレックスをかまされた気分である。こんな結末を用意するぐらいなら、『 海底47m 』や『 ゴーストランドの惨劇 』的なオチというか展開で良かったのではないだろうか。

 

総評

雰囲気的にはどことなく『 プラットフォーム 』に近い。訳も分からず謎の空間に投げ出されるというシチュエーション・スリラーの文法に忠実で、少ない登場人物でサスペンスを盛り上げるというフランス文学的なテイストも味わえる。問題は終盤の展開で、終わりよければ全て良し派は本作の hater となるだろう。一方で、手に汗握る展開を数十分間味わわせてくれたので十分だよ派なら、本作を楽しめるだろう。 自分の嗜好を確認の上、視聴するかどうかを決められたし。

 

Jovian先生のワンポイント仏語レッスン

un deux trois quatre

アン ドゥー トロワ カートゥルと読む。意味は、1、2、3、4である。アン・ドゥー・トロワはバレエでお馴染みだろう。4= quatre だが、これが英語の quarterとそっくりだと気付けるだろう。フランス語の meandre = 英語の meander である。余談だが、Jovianが私淑するジョー小泉は、言語を学ぶ際には、まず数字から覚えるという。海外ボクサーの世話役やマネジメントを行う際に、選手の国の言葉で「0722  0900」などど言って、ココだとその場所(ホテルのロビーなど)をジェスチャーで指す。何度か言えば、『 ああ、7月22日の9:00にここで待っていろ、と言っているのか 』と察してくれるらしい。Jovianの好きなジョー小泉のエピソードである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, ガイア・ワイス, シチュエーション・スリラー, フランス, 監督:マチュー・テュリ, 配給会社:アットエンタテインメントLeave a Comment on 『 TUBE チューブ 死の脱出 』 -評価の別れるシチュエーション・スリラー-

『 CUBE 一度入ったら、最後 』 -クソ映画・オブ・ザ・イヤー候補-

Posted on 2021年10月25日 by cool-jupiter

CUBE 一度入ったら、最後 10点
2021年10月24日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:菅田将暉
監督:清水康彦

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211025230827j:plain

低予算シチュエーション・スリラーの金字塔『 CUBE 』の日本版リメイク。というよりも世界初のリメイク。類似の作品は当時から今まで陸続と生み出されてきたが、今というタイミングで日本がリメイクするからには、相当凝ったアイデアがひねりだされたのだろうと好意的に解釈して劇場へ。

あらすじ

後藤(菅田将暉)は、目が覚めると謎の部屋の中にいた。そこでは自分と同じように、訳も分からずこの場所に連れてこられた人間たちがいた。彼らは脱出を試みるが、部屋によっては致死的なトラップが仕掛けられいる。果たして生きて脱出できるのか・・・

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ポジティブ・サイド

冒頭の男の死に様は、まあ及第点か。原作ではいきなりサイコロステーキにされていて、その衝撃とおぞましさゆえに、我々は一気にキューブという謎の領域のとりこになった。今作の冒頭シーンを見てJovianは不謹慎にも『 フード・ラック!食運 』や『 THE 焼肉 MOVIE プルコギ 』を思い起こしてしまった。鑑賞後に妻を焼肉に誘ったが、変な目で見られてしまった。

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ネガティブ・サイド

以下、ネタバレあり

何というか、何がしたいのかさっぱり分からない作品。随所に原作の良さを消して、邦画のダメなところが前面に出てしまっている。予告編で語られていた職業年齢が、本編ではほとんど触れられない。原作では職業・肩書とキャラのキューブ内で果たすべき役割がかなりの程度リンクしていたが、こちらのリメイクはその設定を完全無視。なぜか喋らない中学生も、深い設定などなく単なる人見知りって、脚本家はアホなんかな。

岡田将生の内面を表現するのに部屋の色をその都度変えるのも、観る側を馬鹿にしている。オリジナルでは人間関係のいざこざは赤い部屋で起きていて、それがゆえにカザンは青の部屋を好んでいた。人間を状況や背景に合わせるべきなのに、背景や状況を人間に合わせている。「こうすべれば分かりやすいでしょ?」とでも言いたいのだろうが、キューブの魅力の多くは、その意味不明さ、理解不能性から来ている。同時に、いかに人間が状況によってその行動や思考を変えられてしまうかの象徴でもある。そこを敢えて分かりやすくするというのは、ありがた迷惑というやつであるし、キューブという構造の本質を見誤っている。

死のトラップについても大いに不満が残る。特定の人間の感情に反応してトラップが発動したり、発動しなかったというのは、もはや単なるご都合主義にしか見えない。原作の面白さの一つに、素数を含む数字の部屋は罠(だが、実際は素因数の種類が1つなら罠)という、人間の感情を露わにしていくキューブという領域で、理性と論理が大いなる武器として働く、そしてそれが大きな落とし穴になっているということが挙げられる。こうすれば大丈夫だけれど、一歩間違えれば死ぬ。その緊張感があったればこそ、原作のクエンティンは絶対に音や声を出してはいけない部屋の場面で、カザンに対してマジ切れした。トラップを辛くも逃れることはあっても、場合によってはトラップが発動しないなどということは絶対にあってはならないのである。ついでに言うと、音を立ててはいけない部屋でBGMを流すとか、監督はアホなんかな。

他にも気になったのはキャラの死にざま。特に斎藤工。体のその部位に大ダメージを受けたとて、その瞬間に吐血などありえない。それを必要以上にスローモーションかつ顔面アップにする必要性もない。死ぬときは淡々と死んでいく。それが『 CUBE 』の良さであり、低予算ホラーや低予算シチュエーション・スリラーの様式美なのだ。そうすることによって、次に誰が死ぬか分からないという緊張感が生まれるわけだ。『 ザ・ハント 』のエマ・ロバーツがヨーイドンで、しかも何の特別な演出もなく死んだことで、観る側は「一体全体これから何がどうなるのだ?」というスリルとサスペンスを味わえるわけで、キャラの死に特別な演出を施してしまうと、「ああ、ここからはしばらく誰も死なないのね」と、逆に中だるみを作ってしまう、

岡田将生と吉田鋼太郎もギャーギャーうるさいだけ。最初は60代は20~30代を踏みつけて生きているということに内心で激しい憤りを描いているキャラなのかと思うシーンがあったが、それを全部事細かに言葉にしてどうする。世代間格差は確かに日本的なテーマであるが、『 CUBE 』という世界的なネームバリューのある作品のリメイクを、世界ではなく日本に問おうというスケールの小ささが気に入らない。もしそれをやりたいのなら、それこそ日本的な陰湿さや、慇懃丁寧さの中に垣間見える悪意のようなものを際立たせるべきで、単に極限状況に置かれたキャラが発狂してワーキャー言うだけでは、凡百のシチュエーション・

スリラーと何も変わり映えしない。

菅田将暉のキャラに変なバックグラウンドを持たせる必然性も無し。なんでここで超絶駄作『 秘密 THE TOP SECRET 』的な映像を見せられねばならんのか。さらにこれは『 CUBE 』のリメイクのはずが、なぜか『 キューブ2 』の要素まで入り込んでいるではないか。

杏のキャラクターが最後に問いかける対象が見えてしまってはダメだ。ここまで徹底的に日本という特有のマーケット向けに作ったからには、最後の最後に語りかける相手は劇場鑑賞者、あるいは配信やディスクメディアの視聴者であるべきだ。つまりは第四の壁を突破するべきだった。それならこのような中途半端なメッセージにも意味は見いだせる。日本という小さく狭い箱庭に閉じ込められた八方ふさがりなあなたたち。一度の失敗ですべてがダメになる理不尽な社会。皆で協力して生き延びられますか?これなら分かる。しかし、最後の最後の絵では、鑑賞者は当事者ではなくあくまで観測者。これではキューブという領域に観る者を誘いこめない。なぜこんな引きにしたのか、不思議でならない。

星野源の主題歌がローカリゼーションに拍車をかける。誰の要望でこんなテイストの楽曲に?原作観たか?あるいは本作すら観たか?あるいはコンセプト聞いたか?清水監督は観終わった観客にどういう感情を抱いてほしいのか?あるいは、観客のどういった情動を引き出したいのか?星野源は悪いアーティストではないと思うが、エンディング曲は完全に out of place だった。

総評

残念ながらリメイク失敗である。分かってはいたけれども大惨事に仕上がってしまった。少なくともJovianが期待する水準ではなかったし、真新しいアイデアもなかった。『 おとなの事情 スマホをのぞいたら 』のように、各国に特有のアイデアを持ち込める原作ではないし、かといってローカルな社会事情を反映させるには『 ザ・ハント 』のような過激なグロ描写による露骨な格差描写もなかった。総てが中途半端以下。直近で鑑賞した『 ビースト 』や『 殺人鬼から逃げる夜 』が世界のマーケットを意識して作られているのに対し、完全に内向きなオーディエンスしか意識できない邦画という残酷なコントラストが際立ってしまった。原作を知らないなら、鑑賞もありだろう。だが、その場合、極力割引やポイントで鑑賞すべし。Jovianはポイントでタダチケをゲットした。こんな映画に興収を上げさせてはならない。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. I need to forget this steaming load of bullshit ASAP.

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, F Rank, シチュエーション・スリラー, 監督:清水康彦, 菅田将暉, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 CUBE 一度入ったら、最後 』 -クソ映画・オブ・ザ・イヤー候補-

『 CUBE 』 -シチュエーション・スリラーの極北-

Posted on 2021年10月5日2021年10月5日 by cool-jupiter

CUBE 80点
2021年10月3日 Amazon Prime Videoにて鑑賞
出演:モーリス・ディーン・ウィント ニコール・デ・ボア アンドリュー・ミラー
監督:ビンチェンゾ・ナタリ

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Jovian嫁は本作を観たことがないというので、自宅で鑑賞。コロナ収束の兆しは喜ぶべきだが、映画館およびその周辺での無節操な輩が明らかに増加しているため、逆に映画館通いがしにくくなった。Give me a goddamn break…

 

あらすじ

男は目覚めると謎の立方体の中にいた。周りの部屋の人間も合わせて男女6人だが、なぜ、どのようにして立方体に閉じ込められたのか皆目見当がつかない。そんな中、アッティカの鳥の異名を持つ脱獄王が先導するが、彼はある部屋に仕掛けられた死のトラップにかかって命を落としてしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭いきなり男が死亡する。しかもただの死に方ではなく、鋼線が格子状に張り巡らされたトラップによって一息で人間サイコロステーキにされてしまう。Jovian嫁は「うげ」という言葉を発したが、Jovianも大学生の時にレンタルビデオで借りてきて鑑賞したときに同じような声を発したと記憶している。それほど強烈なシーンで、タイトルにもなっているキューブという立方体の危険さが観る側に一発で伝わってくる。この人間サイコロステーキは映画『 バイオハザード 』でもレーザーの形で登場している。悪く言えばパクリ、上品に言い換えればオマージュだろう。

 

サイコロステーキのシーンという顔に酸のシーンといい、低予算映画ながらどこにカネと手間をかけるべきか、よく分かっている。グロとバイオレンスは忌避されるテーマであるが、そうであるがゆえにそのジャンルの熱心な愛好家というものが存在する。ビンチェンゾ・ナタリ監督はそのことをよく理解している。

 

キャストが無名なのもいい。次に誰が死ぬか分からないからだ。また役者としての知名度や格付けなどを演じる側も観る側も気にする必要がないし、監督も演出を好きなようになれるだろう。『 ディープ・ブルー 』のサミュエル・L・ジャクソンや『 ザ・ハント 』のエマ・ロバーツのような例もあるが、低予算映画は売れていない俳優を起用して、そこから逆にスターを生み出すべきだ。日本でも『 カメラを止めるな! 』という超低予算映画から濱津隆之やどんぐりといった役者が売れるようになった。役者>ストーリーという構図に陥りがちな邦画は、このようなアイデア一発で勝負する映画から学んでほしい。

 

グロとバイオレンスを序盤で強烈に見せつけるが、本作が優れているのは、そうした視覚的な恐怖の演出の軸を、キャラクターの変容へと変えていくところ。特に警察官クエンティンが、法執行官としての意志と責任を忘れ、暴力に物を言わせるように変貌していくのは正にホラーである。怪物の誕生である。精神科医のハロウェイや大学生のレブン、謎の男ワースなどが織りなす奇妙なチームワークと対立の構図は、ミステリでおなじみの吹雪の山荘や絶海の孤島の屋敷に閉じ込められた哀れなモブキャラたちのそれ。ここでの疑心暗鬼の様相は、『 遊星からの物体X 』にも共通するサスペンスがある。

 

数学を武器にしてキューブの謎に迫る過程、その数学が誤っていたと分かった時の絶望、そこに現われる意外な救世主など、最後の最後まで息をつかせぬハラハラドキドキ展開で突っ走る。Jovian嫁は「これって『 インシテミル 』にそっくりやな」という感想を述べたが、エンタメとしては本作が圧勝であろう。日本版リメイクの公開前に多くの方々に復習鑑賞してほしいと思う。

 

ネガティブ・サイド

キューブの中で動く部屋が存在するわけだが、それを可能にするためには立方体の中にかなりの隙間が必要である。クエンティンらのパーティーはかなりあちこちキューブ内を巡っているが、早い段階で「動く部屋」の通り道を発見できなかったのは少し考えづらい。

 

レブンが一の位が2や5の3桁の数字を数秒考えて「素数じゃない」というシーンは、やはり何度見ても奇妙だ。2以外の偶数は絶対に素数ではないし、一の位が5の二桁以上の数字は必ず5の倍数で、すなわち素数ではありえない。

 

デカルト座標も、「動く部屋」には割り振れないだろうし、「動く部屋」の通路=何もない空間や、「動く部屋」を通すために動かされる部屋にも割り振れないだろう。数学はネタに使えばキャラが一気にスマートに見えるが、そこで失敗すると一気にキャラが陳腐化してしまうという諸刃の剣である。

 

総評

観るのは3度目だが、やはりこれは傑作である。謎の密室状の構造に閉じ込められ、理不尽なストーリーが展開するというジャンルを確立し、その影響は公開から20年以上が過ぎた2020年代でも健在。『 プラットフォーム 』などは一例だろう。本作が気に入ったという人は『 CUBE 2 』は華麗にスルーして、『 CUBE ZERO 』を鑑賞しよう。クオリティは落ちるものの、思いがけない連環の物語になっていることにアッと驚くことだろう。日本版のリメイクには正直なところ不安9、期待1であるが、是非ともJovianの予想を裏切ってほしいものである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Let’s face it.

直訳すれば「それに直面しよう」となるが、少し意訳すれば「そのことを直視しよう」となる。なにか都合が悪いが、それでも真実であるということを述べる前に言う。 Let’s face it. He is a good man, but he’s a bad sales rep. = 「現実を見よう。彼は良い人だが、営業マンとしてはダメだ」のように使う。  

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1990年代, A Rank, アンドリュー・ミラー, カナダ, シチュエーション・スリラー, ニコール・デ・ボア, モーリス・ディーン・ウィント, 監督:ビンチェンゾ・ナタリ, 配給会社:クロックワークス, 配給会社:ポニーキャニオンLeave a Comment on 『 CUBE 』 -シチュエーション・スリラーの極北-

『 プラットフォーム 』 -救世主は生まれるのか-

Posted on 2021年9月26日 by cool-jupiter

プラットフォーム 70点
2021年9月23日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:イバン・マサゲ ソリオン・エギレオル
監督:ガルダー・ガステル=ウルティア

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210926204007j:plain

梅田ブルク7での公開時に見逃した作品。現実逃避のお供にTSUTAYAでレンタル。

 

あらすじ

ゴレン(イバン・マサゲ)が目を覚ますと、謎の老人トリマガシ(ソリオン・エギレオル)と共に謎の部屋にいた。そこは48階層で、部屋の中央には巨大な穴があった。その穴を通じて台座が下りてきて、食事が与えられる。食事は上の階層の人間の食べ残しだった。一定期間ごとに眠らされ、ランダムに別の階層に移動させられるというこの場所で、ゴレンは果たして生き延びられるのか・・・

 

ポジティブ・サイド

あきれるほどに直接的なメッセージに嗤ってしまう。これはつまりトリクルダウン理論を可視化したものである。上層は豪勢な食事を好きなだけ食べ、下層に行くほどそのおこぼれにあずかるしかないというのは、まさに現代世界の経済の縮図である。世界は残酷な場所であるという現実が、ゴレンの視点を通じて観る側に一発で伝わる。

 

2030年に起きるとされる食糧問題を考えるまでもなく、このコロナ禍において、必要な支援が必要なところに届かないという事実を我々はこれでもかと突きつけられた。マスクの買占め、ワクチンの偏在、自宅療養という名をつけられた医療資源の不平等な分配など、世界は上層と中層と下層に分かれているという身もふたもない現実があらわになった。ついでに言えばオリンピックもだろう。アホのように弁当を注文して、それがボランティアにも行き渡らず、生活困窮者にも行き渡らず、ひっそりと廃棄される。日本はある意味、本作の描くプラットフォームすら存在しない社会の位相にあると言える。

 

「人は人に狼」=Homo homini lupus と言うが、本作は本当に狼になってしまう。各階層をめぐって次々と相手を殺していく者もいるし、食べるものがないなら、普段食べないものを食べればいいという展開もある。以下、白字。

『 羊たちの沈黙 』
『 ハンニバル 』
『 タイタス・アンドロニカス 』
『 ソイレント・グリーン 』

こうした系列の映画である。他にも『 悪魔を見た 』のように脱糞シーンが収められている。そちら方面の嗜好の持ち主も満足できるだろう。ことほどさようにショッキングなシーンが満載である。

 

持てる者と持たざる者の対比以外にも、本作はあからさまにキリスト教的な概念を随所に挿入してくる。ワインとパンを体内に取り入れることの意味は『 ジーザス・クライスト・スーパースター 』を観るまでもなく明らかであるし、333階層×2人=666人というのは「ヨハネの黙示録」の獣の数字として知られている。リンゴと言えばアップル、アップルと言えばPC、ニュートン、知恵の実というのはシリコンバレーのジョークだが、リンゴを食べて自分が本当になすべきことを悟るという展開には笑ってしまった。Jovianは宗教学専攻だったのだ。

 

コロナ禍で世界中の中産階級とされる層が、大きな経済的ダメージを受けた。一方で、世界の富の大部分を独占する層は、さらにその資産を増やしたとされる。そんな不条理な現実世界を下敷きに本作を鑑賞されたし。

 

ネガティブ・サイド

モザイク不要。アダルトビデオではないのだ。人間に対する残酷描写、ゴア描写は映さないのに、それが人間以外になるとOKになるというのは何故なのか。

 

いくら文明から隔絶された空間とはいえ、あそこまで行儀悪く食事をするだろうか?いや、コロナの脅威がアジアと欧米で異なる理由に食事マナーが挙げられることも多いが、あんな手づかみで食べまくっていたら、服がめちゃくちゃ汚れるだろうと。洗濯機があるわけでもない環境で、トリマガシたちの服が割と清潔を保っていたところが不自然に感じられた。

 

総評

カルト映画『 キューブ 』同様、シチュエーション・スリラーの醍醐味が凝縮された作品。トマ・ピケティの経済理論をさらに補強するかのような現実世界の事実を別の角度から見つめ直したかのような世界。人間の弱さと尊さを、流血&グロ描写で見せてくれる。心臓の弱い人やそっち方面に耐性がない人は観るべからず。逆にそっち方面は全然平気だという映画ファンにが自身を持ってお勧めができる。

 

Jovian先生のワンポイントスペイン語レッスン

obvio

英語でいうところの obvious、つまり「明らか」の意。劇中で何度も何度も使われるので、とても印象に残った。英語の idiot が idiota だったり、やはり英語とスペイン語は言語間距離が短い。というよりも、スペイン語はJovianが勉強していたラテン語の直系の子孫で、英語はさらにその親戚であると言った方が歴史的、言語学的には正しいか。  

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, イバン・マサゲ, シチュエーション・スリラー, スペイン, ソリオン・エギレオル, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 プラットフォーム 』 -救世主は生まれるのか-

『 海底47m 』 -二兎を追うべからず-

Posted on 2020年8月3日 by cool-jupiter

海底47m 50点
2020年8月1日 Amazon Prime Videoにて鑑賞 
出演:マンディ・ムーア クレア・ホルト
監督:ヨハネス・ロバーツ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200803000349j:plain
 

夏と言えば海、海と言えばサメ。映画ファンにとってはサメ、そしてゾンビの季節が到来した。アメリカでの評判がイマイチ、というか賛否両論あって劇場公開時にスルーしてしまった作品。続編からC級パニックスリラーの臭いしか漂ってこないので、これは見るしかないと思い、本作を予習鑑賞。

 

あらすじ

リサ(マンディ・ムーア)とケイト(クレア・ホルト)は仲の良い姉妹。メキシコでリサのボーイフレンドであるステュを交えて楽しいバカンスを過ごすはずが、リサはすでにフラれてしまったことを言い出せずにいたのだった。傷心のリサを「つまらない女じゃない」と分からせてやろう、と励ますケイト。二人は遊びに出かけたクラブで会った男たちから勧められたシャーク・ケイジ・ダイビングに挑戦することになったのだが・・・

 

ポジティブ・サイド

パニックものは大きく二つに分けられる。未知の生物あるいは現象によって人々がパニックになるもの、そして状況そのものによって人々がパニックになるもの。COVID-19は未知のウィルスであるが、コロナウィルスに属する、または類するという点では既知とも言える。だからこそ人々はそこまでパニックに陥ってはいないし、どこか現実感も薄い。相手が目に見えないからだ。もう一つの状況型だが、これの良いところは、その怖さをたいてい体験したことがある、あるいはありありと想像できるところにある。その意味では本作の「海の底に沈められる」というのは、とてつもなく怖いシチュエーションである。窒息および溺死の恐怖が常にそこにあるからだ。

 

そこにサメ、しかも狂暴なホオジロザメを放り込んでくるのだから豪勢だ。サメ映画とはすなわち、人間がホオジロザメに襲われる、または喰われる。これである。サメなんか見たことないよ、という人も古典的名作『 ジョーズ 』のタイトルは聞いたことぐらいはあるだろうし、ジョーズのテーマ曲は絶対に聞いたことがあるはずだ。殺されるよりも怖いことの一つに、生きたまま喰われるというものが挙げられるだろう。ホオジロザメはその恐怖を味わわせてくれる数少ない生き物である。

 

海中および海底で酸素が徐々に尽きていくという恐怖。そしてどこにいるか分からない、いつ襲ってくるか分からないホオジロザメの恐怖。これらが二重に組み合わさった本作は、夏の風物詩であるB級サメ映画として、近年ではなかなかの掘り出し物である。オチも適度にひねりが効いている。#StayHomeしてレンタルやストリーミングで楽しむには充分だろう。

 

ネガティブ・サイド 

まずシャーク・ケイジ・ダイビングをやろうとする動機が不純である。というか、つまらない。男にフラれた。その男に振り向いてもらいたい、自分は退屈な女じゃないと証明したい・・・って、リサ、お前はアホかーーーー!!!何故そこでサメが出てくるのか?元カレを振り向かせたいのなら、色々な男と遊びまくって、それでもステディは誰にも決めていないということをアピールせえよ!姉妹で遊ぶのもいいけど、普通の男友達数人と普通に遊べよ。その方がよっぽどアピールになるはず。まず、シャーク・ケイジ・ダイビングをするまでのプロットに無理があり過ぎる。おそらく元カレ役の俳優を出すと、それだけギャラが生じて、映画全体の budget を圧迫したのだろう。

 

海中でも、サメは思ったほどは出てこない。これも低予算ゆえか。観る側はサメ映画だと期待しているわけだが、サメの登場頻度が高くなく、なおかつこのサメ、目は見えているにも関わらず、次から次へと目標を外す。サメの登場シーンを作るためだけのシーンで、真に迫ったスリルと恐怖が生み出せていない。観る側にハラハラドキドキを起こさせたいのなら、その対象を一つに明確に絞るべきだった。サメを優先するなら、救助に来たダイバーたちを次々に食い殺すといった展開が考えられるし、酸素ボンベの残量を優先するなら、起死回生の頭脳プレー、例えば海中に不法投棄されたゴミやら何やらを使って酸素を作る、あるいは海上と連絡をつけるなどの展開も考えられる。本作は贅沢にも両方の展開を盛り込もうとして、サメの方が疎かになってしまった。本末転倒である。

 

Jovianはダイビングをしたことがないが、本作にはツッコミどころが山ほどある。テイラーやハビエルはシャーク・ケイジ・ダイビングでビジネスをする許可を当局から得ているのか?また、ケイジの底が板や網ではなく、目の大きい格子になっているのもおかしい。あれだと足がハマって動けなくなったり、もしくは飛び出た足をサメに食いつかれたりするかもしれないではないか。体長1メートルぐらいのサイズのサメなら、飛び出た足や腕をガブリとやることも十分に考えられる。

 

また、リサとケイトは顔の前面だけをマスクで覆っているが、あれで耳は聞こえるのか?いくら水の方が空気よりも音の伝導効率が高いとはいえ、マスクの中の空気の振動は水にまでは伝わらないだろう。本作の水中での会話シーンは何から何まで不可解だ。海上の船とも無線で交信するが、骨伝導型の無線でも使っているというのか。監修にプロのダイバーを起用しなかったのは、これも低予算ゆえか。

 

最大のツッコミどころは、ストーリーのオチだろうか。これはこれでアリだとは思うが、『 ゴーストランドの惨劇 』のように、そこからもう一波乱を生み出せれば、“ちょっと面白いサメ映画”から“かなり面白いサメ映画”になれただろうにと感じる。

 

総評

ちょっと面白いサメ映画であり、ツッコミどころ満載のシチュエーション・スリラーである。細かいストーリーや様々なガジェットのディテールを気にしては負けである。ハラハラドキドキを期待して、そしてハラハラドキドキできる場面を最大限に味わうのが本作の正しい鑑賞法である。90分とコンパクトにまとまっているので、#StayHomeに最適だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

break up with ~

~と別れる、の意である。しばしば romantic relationships の文脈で使われる。同じような表現に、split up with ~やpart ways with ~があるが、恋愛のパートナーと別れるという時の最も一般的な表現といえば、break up with ~で決まりである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, イギリス, クレア・ホルト, シチュエーション・スリラー, パニック, マンディ・ムーア, 監督:ヨハネス・ロバーツ, 配給会社:ギャガ・プラスLeave a Comment on 『 海底47m 』 -二兎を追うべからず-

『 エスケープ・ルーム 』 -現代的シチュエーション・スリラー-

Posted on 2020年3月15日2020年9月26日 by cool-jupiter

エスケープ・ルーム 55点
2020年3月14日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:テイラー・ラッセル
監督:アダム・ロビテル

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200314142948j:plain
 

2016年だったか、JovianはMOVIXあまがさきでリアル脱出ゲーム「ある映画館からの脱出」にトライしたことがある。結果は、本の半分くらいまでしか進められなかった。あと1時間半あれば、もしかしたら全部解けた・・・かもしれない。そういうわけで、ある意味でリベンジを期して本作に臨んだが、頭脳系というよりはアクションとサスペンスの風味が強めだった。

 

あらすじ

このエスケープ・ルームを最初に攻略した者には賞金1万ドル。各地から集まってきたゾーイ(テイラー・ラッセル)ら6人は、シカゴのビルの一室でゲーム開始を待っていた。だが、部屋のドアノブが外れたのを合図に脱出ゲームがいきなり開始された。この脱出ゲーム、エンターテイメントというにはあまりにもシリアスで過酷なもので・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200314143308j:plain
 

ポジティブ・サイド

冒頭からただなぬら雰囲気である。足を怪我していると思しき男が、上階から天井を突き破って落下してきた。そしてドアに取り付けられた暗号鍵のヒントを探す。だが、そうする間にも部屋はみるみると縮まっていき、調度品を押しつぶしていく・・・

 

まるでスペインの怪作『 キューブ■RED 』(ちなみにこれは『 キューブ:ホワイト 』と同じで、いわゆる『 CUBE 』の名を模しただけの作品である)のクライマックスにそっくりである。色々な部屋に恐ろしい趣向が凝らしてあるというのは、まさに『 CUBE 』の精神を受け継いでいる。

 

一つ一つの部屋も、しっかりと作りこまれている。このあたりも『 CUBE 』的である。また、一見して建物の中とは思えない部屋も存在する。扉が開くごとに異世界に放り込まれる感覚は、『 キラー・メイズ 』を格段にシリアスにしたようにも感じられた。『 ジュマンジ 』はゲームのキャラになる話だが、こちらはリアル脱出ゲーム。どこかコミカルな前者と違い、全編に緊張感・緊迫感があふれている。

 

集められてきた面々にも「ある要素」が仕込まれており、そのことが物語の早い段階でフェアな形で暗示されている。このあたりは巧みな構成であると感じた。また、彼ら彼女らは集められてきたわけであるが、では集めた側はどうなっているのか。このあたりは米澤穂信の小説および映画化もされた『 インシテミル 』の経済格差社会バージョン。我々が昔、TBSのスポーツエンタメ番組『 SASUKE 』を見ているようなものか。構造は『 インシテミル 』と似ていても、観る側がスーパーリッチ(その姿は当然見えない)であるというところは現代的であると感じた。

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ネガティブ・サイド

キャラクターがほとんど全員立っていない。優等生で内気な少女やゲームヲタクの少年などはその最たる例だろう。死んでいく順番も手に取るように分かってしまう。このあたりにもう少し意外性を期待したかった。

 

ゲームの主催者がビルから一切合切の痕跡を残さず去ってしまうのも、相当に無理がある。現実にゲーム参加者ではない者の死体、それも銃殺されたものがある以上、本腰を入れて捜査せざるを得ないはずだ。なので、捜査は行われるも一切進展せず。警察はあてにならない。という流れの方が説得力があったと思われる。

 

また用意されていた各参加者の死亡新聞記事も、つじつま合わせとしては少々苦しい。特にゲーオタ少年などはほぼ100%、ネット上で活発に発言し、行動するナードだろう。「これから最難関の脱出ゲームに行ってきます!」のようなブログ記事やオンラインメッセージ、メールや友人知人への吹聴などがあったに決まっている。そういったもの全てを消し去る、あるいは歪曲するのは、不可能に思える。

 

総評

続編作る気満々で、実際に早々に続編制作をも決まったらしいが、どうなることやら。こういう作品は単体では面白いが、シリーズ化されてしまうと途端に陳腐になってしまう。それは『 CUBE 』や『 ソウ 』の証明するところである(特にJovianは開始10~15分で『 ソウ 』の仕込みを見破ったから猶更そう感じる)。あまり深く考えず、遊園地のアトラクション的なノリで鑑賞するのが正解かもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

work

劇中で何度か“It didn’t work.”というセリフが使われたが、「働く」という意味ではない。「上手くいく」という意味である。“It didn’t work.”は「(入力したパスコードが)ダメだった」ということである。日常生活でも

“Your advice worked.”

“This medicine will work.”

などという具合に使ってみるべし。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アメリカ, シチュエーション・スリラー, テイラー・ラッセル, 監督:アダム・ロビテル, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 エスケープ・ルーム 』 -現代的シチュエーション・スリラー-

『 仮面病棟 』 -面白さは小説 > 映画-

Posted on 2020年3月10日2020年9月26日 by cool-jupiter
『 仮面病棟 』 -面白さは小説 > 映画-

仮面病棟 45点
2020年3月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:坂口健太郎 永野芽郁
監督:木村ひさし

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200308124839j:plain
 

小説『 仮面病棟 』の映画化である。小説=活字であれば上手く誤魔化せていた部分の粗が映像では目立ったという印象。さらに、映画化に際して加えたちょっとした改変が、リアリティを損なってしまっているシーンもある。脚本には原作者の知念実希人の名もあったが、彼が関与できたのはどの程度なのだろうか。

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あらすじ

速水(坂口健太郎)は、先輩医師の代打で急遽、当直医のバイトを引き受ける。だが、出向いた病院にピエロの仮面をかぶった銃を持つコンビニ強盗が押し入って、負傷した若い女性を治療しろと強要してきた。女性・川崎ひとみ(永野芽郁)をなんとか治療した速水だったが、ピエロは病院を立ち去らない。事態を打開しようとする速水だが、院長も看護師も病院そのものも、どこか不審な点ばかりでで・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200307194801j:plain
 

  • 以下、ネタバレに類する記述あり

 

ポジティブ・サイド

本作はミステリ風味の脱出系シチュエーション・スリラーに分類されるのだろうか。病院まるごとを一種の密室にして、そこに『 エスケープ・ルーム 』(近く観たい)と『 パニック・ルーム 』の要素を混ぜてきた。ミステリ要素がサスペンスを呼び、サスペンス要素がミステリを盛り上げる。原作小説の持っている面白さを損なうことなく映像化した点は、間違いなく加点対象である。

 

大根役者だと思っていた坂口健太郎が、いつの間にか普通の役者になっている。『 人魚の眠る家 』では、まだ少しぎこちなさがあったが、本作ではピエロに怯えながらも知力と胆力で堂々と渡り合う若い医師を見事に演じきった。坂口よ、3年間みっちり英語を勉強して英語圏の映画に出ることを目標にしてみないか?その気になったら、Jovianが学習プランを立てて、コーチングして、時々実際のレッスンも提供しようではないか。

 

Back on track. 小説にあった病院の秘密を、映画化に際してはさらにパワーアップ。社会的なメッセージを放り込んできた。小説の出版は2014年12月。当時と今とで、日本の何が異なったのか。一つには、経済格差がさらに進んだこと。一億総中流というのはもはや幻想にすぎない。ごく一部の富裕層(それを上級国民と言い換えても良いのかもしれない)と、マジョリティである中の下クラスの庶民、そして貧困層が固定化されつつあるのが日本のみならず、いわゆる先進国に共通する現象である。そうした中、若さや命をカネで買おうとする者が現れるのは、理の当然と言える。

 

松竹系の劇場だけだろうか。最近、頻繁にドナーカードのCMが予告編前に流れるが、なかなかに意味深で趣がある。『 AI崩壊 』も、AIが命の選別をしてしまうというプロットだったが、命の価値についての問題提起をフィクション、そしてエンターテインメントの形で行ったことには一定の意義を認めたい。

 

ネガティブ・サイド

銃創がいくらなんでも不自然すぎる。というか、服の上をほぼ真横から撃たれたというのに、服は一切損傷しておらず、腹に傷を負わせるとは、いったいどんな擦過射創なのだ。『 JFK 』で言及された“魔法の銃弾”なのか。

 

小説のレビューで期待交じりに書いた「映画化に際して、永野芽郁の下着姿が拝めるかもしれない」という部分は実現せず。なんじゃそりゃ・・・

 

もしもJovianが速水と同じ状況になったら、病院にあるカネを全てピエロに渡し、全員が二階に上がったところで階段の鉄格子を鎖と鍵で封印してもらい、なおかつピエロに一回のエレベーターにソファを突っ込んで(『 十二人の死にたい子どもたち 』

の仕掛けの一つ)、扉を閉められなくなる=他の階から一階に移動できなくなるようにするということを提案する(その上で院長が5階のエレベーターに同じ細工を施せばいい)。金目当てなら、乗ってくるだろう。この提案を飲まないのなら、それは目的がカネ以外にあるということになる。だが、普通に考えれば、互いが互いを隔離できる上のような提案が生まれなかったというのは、やや不自然にも感じられた。

 

セリフのつながりがおかしいところがある。ずばり、トレーラーの「あいつだけじゃない」の部分である。坂口演じる速水は、小説版では即座にピエロの仲間、もしくはピエロが二人いる可能性に思考を巡らせるが、映画の速水はさにあらず。なにやら頓珍漢な応答をする。あの状況で「あいつ」と言われて、それが誰を指すのか分からないというのは無理がある。説得力ゼロである。

 

ズバリ書いてしまうが、上のセリフを言う看護師もおかしい。普通は院長に言うだろう。もしくは速水に言うべきだ。なぜ永野に耳打ちするのか。いや、普段から羊しかいない牧場に、ふらりと狼がやってきたら絶対に警戒するだろう。ましてや女、それも同性。さらに勘が鋭い(はずの)看護師。一発で気が付かないとおかしい。活字では誤魔化せるだろうが、映像では無理だ。粗が目立ちすぎである。

 

警察の対応も間抜けの一言である。普通は監禁された人間の安否をまずは確認する。それはいい。だが次に確認すべきは位置だろう。犯人および人質が1階なら「はい」、2階なら「いえ」、3階なら「ええと、まあ」などと符丁を使ってやり取りすべきだ。元警察官のJovianの義父がこれを観たら、頭を抱えることだろう。また、SITも機動力が無さすぎるし、突入前に病院の間取りを確認したのかどうか怪しい挙動をする者もいる。なぜ特殊事件捜査係をことさらに無能に描くのか。

 

無能なのはマスコミも同じである。『 ホテル・ムンバイ 』でも米メディアがリアルタイムで軍の突入を報じたことで、ホテル内部のテロリストが一般人を殺傷するというシーンがあったが、同じことをここでも繰り返している。アホなリポーターがリアルタイムで警察の突入の様子をテレビで報じている。ご丁寧に、警察の配置なども丸見えの絶好のポジションを映している。マスコミは警察の味方なのか、ピエロの味方なのか。2020年1月に島根で立てこもり事件があったが、その時もマスコミは建物は遠くからだけ映し、警察官などは映り込まないように配慮していた。木村ひさし監督よ、リアリティというものを学んでくれ・・・

 

またラスト近くの絵が非常にシュールである。どうやって手術台に乗せたのだろうか。というか、一般人がオペ室に入れてしまうのは何故なのか。病院のセキュリティが緩すぎる。

 

記者会見での魂の叫びもシュールである。現実にこんなやつはいないだろうということ。そして、原作にあったロマンス要素を取っ払い、代わりに婚約者を交通事故で死なせてしまったという背景を速水にくっつけたのは悪いアイデアではなかった。だが、この映画版の背景と上述の叫び声が必ずしもリンクしない。原作通りに、患者に惚れる医師で良かった。その上で「生きてくれ!」と叫ぶのなら、まあ分からんでもない。医者が私的に告発するというのは、ダイヤモンド・プリンセス号に乗りこんだドクター岩田がやってくれた。そのおかげで、記者会見のくだりだけはそれなりに説得力があった。

 

総評

端的に言って、映画化失敗である。映画単独で観ればそれなりに面白いのかもしれないが、原作のスパッとした切れ味がなくなり、冗長性ばかりが目立つ作りになってしまった。1時間30分~1時間40分にまとめることもできたはずだ。原作を読んだ人なら、劇場鑑賞する意味はない。キャストに惹かれる、あるいは予告編に何かを感じたという人は劇場にどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

clown around

『 仮面病棟(小説) 』でも紹介したが、clown around=(道化師のごとく)ふざけた真似をする、の意である。トレーらーにもある「ふざけるな」というセリフはいかようにも訳しうるが、せっかくピエロが出ているのだから、それに絡めた訳をしてみた。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, サスペンス, シチュエーション・スリラー, ミステリ, 坂口健太郎, 日本, 永野芽郁, 監督:木村ひさし, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 仮面病棟 』 -面白さは小説 > 映画-

『 シグナル100 』 -2020年の国内クソ映画オブ・ザ・イヤー候補-

Posted on 2020年1月25日 by cool-jupiter

シグナル100 15点
2020年1月24日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:橋本環奈 小関裕太
監督:竹葉リサ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200125003201j:plain
 

土橋真二郎の小説『 扉の外 』のような設定か?とトレイラーで感じた。地雷臭がプンプン漂ってきていたが、そこに突っ込むのも時には乙なものである。There are times when you dare to go into a mine field.

 

あらすじ

文化の日の特別授業で、樫村怜奈(橋本環奈)、榊蒼汰(小関裕太)ら同じクラスの36名は催眠によって、特定のシグナルにより自殺をしてしまうという強力な暗示を受けてしまう。半信半疑の生徒たちだが、一部の生徒が携帯を使うと、彼ら彼女らは自殺をしてしまった・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200125003233j:plain
 

以下、ネタバレに類する記述あり

 

ポジティブ・サイド

教師が生徒に暗示をかけるという視点は面白い。大人と子どもという関係以上に、教師と生徒というのは支配-被支配の関係にあり、前者は後者に暗示をかけやすいからである。

 

導入部は非常にスピーディーである。早く催眠にかかる部分を観たいという観客の欲求と、早く生徒たちがバタバタと死んでいく場面を見せたい監督の思惑が、ぴったりとシンクロする。変にキャピキャピした序盤を長引かせなかった竹葉監督の、その部分は評価したい。

 

あとは白熱電球で死ぬ男子生徒が個人的にはツボだった。彼には大いに笑わせてもらった。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200125003251j:plain
 

ネガティブ・サイド

まずシグナル100の基準があまりにも曖昧過ぎる。他者への暴力を禁じるといっても、どの程度の行為が暴力なのか判然としない。序盤の金髪ヤンキー風の生徒は教師の胸倉を掴んで自殺に追い込まれたが、その後も生徒同士で胸倉を掴むぐらいの行為は頻繁に行われる。が、それが引き金で死んだ生徒はいない。

 

他にも不可解なシグナルはいくらでもある。自分だけは生き延びようと他人を次々に自殺に追い込もうとする奴が当然のように出てくるわけだが、あまりにも不用心だ。たとえば、「他人の血液を飲む」というシグナルがあるにもかかわらず、女子と濃厚なディープキスを交わすのは何故だ?相手がたまたま歯槽膿漏か何かで口内で微量でも出血していたらどうするのだ?

 

酒を飲む、あるいは酒を浴びるというシグナルも意味不明だ。もちろん酒が何かを知らない高校生など存在しないだろうが、このような類の暗示は未就学児童には効くのだろうか。もしくは、認知症の持ち主には?日本語を解さない相手には?そもそも、なぜ学校に缶ビールがあるのだ?

 

10秒以上見つめ合うというシグナルも頻発しているように見えるが、なぜ自殺が励起されない?7人以上に指差されるというシグナルも、ディスカリキュア(算数障害)の持ち主には通じるのか?そもそも、7人以上に指差されたとしても目をつぶればどうなるのだ?朝の定義も何なのだ?空が白むことか?朝日が地平線や水平線から昇ることか?朝日を直接見ることなのか?それとも時刻を認識することなのか?

 

だいたい高校生にしては頭が悪すぎる奴らが多すぎる。図書館に行くのはグッジョブと言えるが、事の発端である教師の死体を調べようとしないのは何故だ?職員室のデスクなどを調べるのも重要だが、なぜ遺体のところに行かない?衣服のポケットを漁ろうとは思わいのか?教師がまだ生きていて、何かを聞き出せるかもしれないとは誰一人として思わなかったのか?サバイバルに必要なのは、食料ではなく情報だという大原則を誰も知らないのか・・・

 

また催眠の小道具であるDVDそのものを調べることに、誰も思い至らないのは何故だ?あの世界では誰も小説『 リング 』を読んで、あるいは映画『 リング 』を観ていないのか?催眠を解く方法が実質的に無いというのなら、その催眠をさらに別の催眠で上書きしてみようということは誰も思いつかないのか?ひょっとしたら、高校生というのはそんなものなのかもしれない。しかし、「今あいつに一人で出会うのは危険だ。みんなで手分けして探そう!」というシーンは、さすがに脚本や監督の罪だろう。一人で出くわしたら危険な相手を、なぜ個別に散らばって探そうというのか。冷静な判断力を欠いていたという言い訳では済まない。とにかく登場人物がどいつもこいつもアホすぎる。観ていてイライラしてくるため、みんなに生き残ってほしいと思えないのである。

 

総評

はっきり言ってクソつまらない。これを観るぐらいなら、『 催眠 』や『 神様の言うとおり 』、『 不能犯 』をレンタルや配信で観た方がはるかに有意義である。または野崎まどの小説『 [映]アムリタ 』を読むべきだ。原作の漫画を読んでいないので何とも言えないが、かなり大部の物語を無理やり1時間30分に詰め込んだのだろうか。だとしたら完全な脚本レベルでの失敗である。こうしたシチュエーション・スリラー、デス・ゲームは不可解な死と、それを裏付ける/説明する合理的な仕組みの解明の両輪でストーリーを前進させなければならない。本作には後者が欠けている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. I can’t seem to remember anything that’s worth a lesson.

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, シチュエーション・スリラー, 小関裕太, 日本, 橋本環奈, 監督:竹葉リサ, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 シグナル100 』 -2020年の国内クソ映画オブ・ザ・イヤー候補-

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