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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 映画

『 エイリアン:ロムルス 』 -シリーズ作品全部乗せ-

Posted on 2024年9月7日 by cool-jupiter

エイリアン:ロムルス 75点
2024年9月6日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ケイリー・スピーニー デビッド・ジョンソン
監督:フェデ・アルバレス

『 エイリアン 』後、かつ『 エイリアン2 』以前を描く『 エイリアン 』シリーズの最新作。オープニング・デーのレイトショーにて鑑賞。

 

あらすじ

ウェイランド・ユタニ社との契約で辺境の星で働くレイン(ケイリー・スピーニー)と、その弟的な存在のアンドロイド、アンディ(デビッド・ジョンソン)は、仲間が偶然に見つけた廃船で新天地を目指すことに。しかし、その船の研究棟ロムルスでは過去に「完璧な生命体」が研究をされていて・・・

ポジティブ・サイド

冒頭の巨大宇宙船からして第一作目のオマージュ(それ自体も『 2001年宇宙の旅 』へのオマージュだが)。そして映し出される一部が欠けたノストロモ号の表記。『 エイリアン 』の惨劇の舞台に帰ってきたなという感慨が得られる最高の導入部だった。

 

その後に映し出される、どこか『 ブレードランナー 』を髣髴させるジャクソン星は、リドリー・スコット御大への忖度か、それともオマージュか。いずれにせよ、こんな環境からは脱出したくなる。一瞬だけ映し出される炭鉱のカナリヤの姿がレインたちのその後を暗示しているようで、惨劇への期待が高まる。

 

乗り込んだ廃船のプロダクションデザインは完璧に近い。ノストロモ号の油臭さに黴臭さと埃っぽさを加え、2で強烈な印象を残した赤のストロボを本作ではオレンジに変更。似て非なる世界ではあるが、確かにエイリアン世界だった。今では古めかしい文字表示型のコンピューターのマザーも、テキスト生成AIのおかげでより現実感が増している。そしてアンドロイドという存在も、現在のボストン・ダイナミクス社製のロボットなどを見ていると100年後には実在しているように感じられる。色々な意味で本作はリリースのタイミングに恵まれた。

 

ストーリーはとにかく全部乗せ。フェイスハガーにチェストバスター、ゼノモーフに、暴走するアンドロイドに人間を守るアンドロイド。そして人間の果てなき欲望。エイリアンの1、2、3、4への数々のオマージュに加え、『 プロメテウス 』への直接的な言及や『 エイリアン:コヴェナント 』のプロット再現もあるなど、とにかく作り手のシリーズへの愛情愛着がひしひしと感じられるし、伝わってくる。『 エイリアン:コヴェナント 』で示されたエンジニア ⇒ 人類 ⇒ アンドロイド ⇒ エイリアン ⇒ エンジニアという奇妙な連関も、ある意味で本作の中で一気に凝縮されていて、小さな舞台ではあるが、世界観は確実に広かった。

 

クライマックスは凄惨の一語。『 エイリアン2 』や『 プロメテウス 』で特に顕著だったが、エイリアンというフランチャイズは母性の追求であるとも言える。一つには、言うまでもなく女性の生殖能力。もう一つは「女は弱し、されど母は強し」。ここで言う母とは必ずしも生物学的な母ではなく、強烈な母性の持ち主ということ。慈母と鬼子母神の両方を体現するレインは、『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』のデイジー・リドリーのようになアイコニックな役を手に入れた(そのせいで役者として伸び悩むかもしれないが・・・)。

 

あらゆるシーンがオマージュで、あらゆる展開が予想通り。しかし、その展開が期待を超える描写をもってなされるところに本作の価値がある。1、2、プロメテウス、コヴェナントだけをチラッと観たことがあるJovian妻は鑑賞中、常に恐怖と緊張感で細目になっていたとのこと。予備知識なしでも鑑賞可能だが、ぜひ予習を行って(最低でも1、できれば1と2を観て)劇場鑑賞されたい。

 

ネガティブ・サイド

途中で一瞬、『 ドント・ブリーズ 』が混ざったのは個人的にはイマイチだった。もしフェイスハガーが〇〇と■■を捉えているのなら、『 エイリアン2 』でリプリーあるいはニュートは犠牲になってしまっていたはず。

 

重力と無重力が重要なキーになるのだが、終盤のシーンはいくらなんでもご都合主義的過ぎる。また無重力状態でスイスイ動くレインにも違和感。慣れない状態で、ぎこちない動きの方がサスペンスは絶対に増したと思われる。

 

総評

こうした作品は往々にして「ぼくのかんがえたさいきょうのエイリアン」のようになってしまうが、そうならなかったというだけでも素晴らしい。シリーズ全作品へのオマージュを取り入れつつ、予想通りなのに期待以上の作品に仕上げるという職人芸をフェデ・アルバレスは成し遂げた。1と2には及ぶべくもないが、シリーズ中では間違いなく堂々の第3位。往年のファンも納得の出来栄えである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

get away from ~

~から離れる、の意。『 エイリアン2 』のあの台詞が意外なシチュエーションで使われるが、これはファンサービスとして素直に受け取っておこう。繰り返しになるが、本作そのものが大予算の公式同人作品なのである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ポライト・ソサエティ 』
『 愛に乱暴 』
『 ナミビアの砂漠 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, SF, アクション, アメリカ, ケイリー・スピーニー, デビッド・ジョンソン, 監督:フェデ・アルバレス, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 エイリアン:ロムルス 』 -シリーズ作品全部乗せ-

『 赤ずきん 』 -童話の再解釈に失敗-

Posted on 2024年9月7日 by cool-jupiter

赤ずきん 30点
2024年9月2日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:アマンダ・セイフライド ゲイリー・オールドマン
監督:キャサリン・ハードウィック

 

近所のTSUTAYAでパッと目についたんのでレンタル。

あらすじ

ヴァレリー(アマンダ・セイフライド)は、幼馴染のピーターと密かに愛をはぐくんでいた。しかし、母親はヴァレリーのあずかり知らぬところで婚約者を決めてしまう。ピーターを駆け落ちしようとしていた矢先に、ヴァレリーの姉が変死を遂げる。それは、20年間生け贄を捧げることでおとなしくしていた狼によるもので・・・

 

ポジティブ・サイド

てっきりフェミニスト・セオリーによって再解釈された赤ずきんちゃんだと思っていたが、さにあらず。そういう視点で鑑賞すると、狼の正体には決してたどり着けない作りになっている点は良いと思う。

 

ゲイリー・オールドマンはクソ映画に出演することはあっても、彼自身がクソであることはめったにない俳優だなと再確認できた。

 

ネガティブ・サイド

赤ずきん世界の20年後はちょっと離れすぎ。その設定だと赤ずきんは30代前半にならないだろうか。10年後の20代前半で良かっただろうに。

 

赤ずきんというよりも人狼ゲーム(観たことはないが)で、ファンタジー世界と調和したプロットとは感じられなかった。そもそも20年前に狼の腹を裂いたことがあるのなら、なぜに生け贄を捧げるようになったのか。

 

中盤に出てくる狼も、2010年代とはいえ、あまりにもCGのクオリティが低い。これなら『 ネバーエンディング・ストーリー 』のグモルクの方が実在感があったし、恐怖感もあった。

 

ミステリーとしての見せ方も稚拙。「瞳」が重要なヒントになるのだが、だったら観る側にはそれ以前に伏線となるショットをそれなり提供してくれないと。観終わってから、別バージョンのエンディングを観る前に序中盤をザーッと見直したが、そんな前振りは無し。

 

別バージョンのエンディングも正直なところ、うーむ・・・ おとぎ話を伝統的に解釈するか、それとも古典的に解釈するか、というものでしかなかった。 

 

総評

『 アクアマン 』の脚本家とは思えない、かなり暗い話。かといって、ダークファンタジーとして成立しているというわけでもない。アマンダ・セイフライドの超ファンでもない限り、鑑賞する必要はない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

werewolf

ゲームなどでウェアウルフという言葉に接したことのある人もいるはず。狼男と訳されるが、別に狼人間でも問題はない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ポライト・ソサエティ 』
『 エイリアン:ロムルス 』
『 愛に乱暴 』

 

赤ずきん [Blu-ray]

赤ずきん [Blu-ray]

  • アマンダ・サイフリッド
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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, アマンダ・セイフライド, アメリカ, ゲイリー・オールドマン, ファンタジー, 監督:キャサリン・ハードウィック, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 赤ずきん 』 -童話の再解釈に失敗-

『 デューン・サバイバー 砂の惑星 』 -羊頭狗肉の岩の惑星-

Posted on 2024年9月3日 by cool-jupiter

デューン・サバイバー 砂の惑星 10点
2024年9月1日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:フィービー・スパロウ
監督:マーク・プライス

 

超鈍足台風のおかげで劇場鑑賞の予定が立てられず、近所のTSUTAYAで目についた作品をいくつか借りてきた。本作はそのうちの一つ。

あらすじ

ジェミニ飛行隊の一員、グレイ6ことアドラー(フィービー・スパロウ)は戦闘宙域で撃墜され、砂の惑星エレボスに不時着する。腐食性の大気を持つエレボスで、生命維持装置のタイムアップも迫る中、アドラーは負傷した僚友のヤレンと共に生存の道を探るが・・・

 

ポジティブ・サイド

腐食性の空気を吸ってしまうとどうなるのかを、逃げずに真正面から描いたのは評価していい。低予算でもグロは撮れる。というか、低予算だからこそグロから逃げてはならない。

 

ネガティブ・サイド

最初のハイパースペースの飛行シーン後にいきなり撃墜されて、そこからいきなり 23 minutes earlier (その23分前)とか、そんな描写いるか?愚にもつかない会話ばかりの冒頭シーンをもう一回やる意味は?尺を稼ぎたかっただけ?

 

エレボスに着いてからも話が遅々として進まない。ヤレンの怪我が深刻なのはわかるが、テントの中でうだうだしていても事態はなにも好転しない。さっさと砂の惑星に出ていけ。

 

その砂の惑星もまったくデューンっぽさは感じられず。どこでロケをしたのか知らないが、アメリカのユタ州のモニュメント・バレー的な地形で、砂の惑星というよりも岩の惑星という感じ。

 

そこで戦うことになるドレックも、ただの人間やんけ。しかも意味不明に強いスペーススーツで、撃っても撃っても効かない。『 荒野の用心棒 』へのオマージュにしても、しつこすぎる。

 

アクションもまったく洗練されておらず、カメラワークも悪い。最悪だったのは、ドレックとの格闘シーンの流れの中で、アドラーが斜面を滑り降りるシーン。どう見てもそこだけ土が慣らされており、役者が事前に何度も滑り落ちたことがうかがえる。マーク・プライス監督は『 続・夕陽のガンマン 』の砂漠での数々のシーンを100回見直して欲しい。

 

カバーをよく見ず借りた自分にも責任があるが。デューンを名乗るのなら、サンドウォームを出すべきではないか。原題も Dune Drifiter なのだから、これは不当な要求とは言えないはずだ。羊頭狗肉とは本作を指す。

 

総評

あらゆるシーンが退屈極まりないという駄作。センスの良い美術系・芸術系あるいは映像系の大学の学生が生成系AIをぶん回せば、似たような作品は量産できそう。それぐらいの駄作。配信やレンタルで見かけても、手を出すべからず。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. I want to forget about his awful work ASAP.

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ポライト・ソサエティ 』
『 エイリアン:ロムルス 』
『 愛に乱暴 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, F Rank, SF, イギリス, フィービー・スパロウ, 監督:マーク・プライスLeave a Comment on 『 デューン・サバイバー 砂の惑星 』 -羊頭狗肉の岩の惑星-

『 ソウルの春 』 -勝てば官軍負ければ賊軍-

Posted on 2024年9月1日 by cool-jupiter

ソウルの春 75点
2024年8月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:チョン・ウソン ファン・ジョンミン
監督:キム・ソンス

 

Jovianの生年に実際に韓国で起こった歴史的事件をモチーフにした作品ということでチケット購入。

あらすじ

朴正煕大統領が暗殺された。実行犯を取り調べの責任者に任命されたのは、韓国陸軍内で隠然たる勢力を誇るハナ会のチョン・ドゥグァン(ファン・ジョンミン)。しかし彼は自身の権勢拡大のために陸軍参謀総長を拉致し、クーデターを画策する。首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)はチョンの野望を阻止するために立ち上がるが・・・

 

ポジティブ・サイド

140分超ながら、体感では90分ほど。ひと息つける場面が一切ないままに物語は進行していく。登場人物は多いものの、クーデターを起こして権力を握りたいチョン・ドゥグァン、それを阻止したいイ・テシンの二人の名前だけ押さえておけばよい。

 

クーデターの計画、参謀総長の拉致、大統領からの裁可、指揮下の精兵部隊のソウルへの召喚とそれを阻止するための別の精鋭部隊の召喚と、わずか一夜の中で状況が刻一刻と変化していく。

 

ファン・ジョンミン演じるクーデター首謀者のチョン・ドゥグァンは人間味に溢れており、豪放磊落な一面と繊細な一面を併せ持っている。大人物のようでもあり、小者のようにも映るのだが、かかる魅力が彼をハナ会のトップに、ひいてはクーデター勢力のトップに君臨させている。一度決めたら最後までとことん行く男で、情勢の変化に一喜一憂する仲間や先輩を時に脅迫し、時に一喝し、時に弱みを見せることで取り込んでいく。韓国版の木下藤吉郎とも言うべき人たらしである。

 

対するイ・テシンは職務に忠実で群れることを潔しとしない孤高の軍人。韓国軍の上層部が情勢の変化に一喜一憂し、時に日和見を決め込もうとする中でも、首都防衛に専心する。その高潔さ故に従う者、従えない者があぶり出され、当時の韓国軍の体質や、一枚岩になれない体制がよくよく見て取れる。

 

クライマックスチョン・ドゥグァンとイ・テシンの対峙の迫力には息を呑んだ。そして対決の結末には鳥肌が立った。というか、途中で気付かなかった俺はアホだ。冒頭ではっきり史実を脚色しているという注意書きがあったではないか。クーデター側の首謀者二人の名前をちょっと変えれば・・・ 本作は軍事政権時代を反省・批判している一方で、「この国をなんとかしたい」という強烈な野望を抱く政治家の不在を嘆いているようにも受け取れる。おこぼれに与ろうと権力に群がる小物は不要だという韓国映画界から韓国政治へのメッセージに思える。単なる善悪の対立にとどまらない深みを生み出すのは、キム・ソンス監督の面目躍如といったところか。

 

クーデターというと1991年のソ連崩壊を覚えているが、韓国もよく似た歴史をたどっていたのか。民主主義を自力で得た国と、民主主義を与えられた国。どちらが幸せなのだろうと考えさせられる。

 

ネガティブ・サイド

漢江にかかる橋を封鎖するためにテシンが「市民の力も借りねば」と言うが、そのシーンこそカットせずに盛り込むべきではなかったか。また、警察は何をしていたのだろう。ハナ会の人脈で警察も抑えていたという描写があれば、さらに説得力や緊迫感は増したはず。

 

最後のバリケードを挟んでの対峙シーン前に市民の存在に言及するシーンがあったが、これは不要だったか。もしここで市民に言及するなら、橋の封鎖のシーンで市民の協力を描くべきだし、それを描かなかったのなら、最後の対決シーンでも市民の描写は不要だった。

 

総評

やはり韓国映画の本領は歴史の闇、社会の闇に迫るスリラー作品だなとつくづく感じる。次にTSUTAYAでレンタルするのは『 KCIA 南山の部長たち 』、その次は『 光州5・18 』かな。この後味の悪さは『 トガニ 幼き瞳の告発 』のそれに比肩する。とことんはじけたアホな映画か、とことん出来の悪い映画を観て気分をリセットしたくなる。そんな韓国映画の怪作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

アンジャ

これも韓国映画やドラマでお馴染みの表現。意味は「座って」で、インフォーマルな表現。しばしばアンジャアンジャのように使われている。日本語でも「座って座って」と二回言うのと同じ感じ。階級や軍人歴の違いはあれど、腹を割って話をしようとする姿勢を常に打ち出すチョン・ドゥグァンが多用していた。そういう意味では政治家向きの軍人だったのかもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 エイリアン:ロムルス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, チョン・ウソン, ファン・ジョンミン, 歴史, 監督:キム・ソンス, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 ソウルの春 』 -勝てば官軍負ければ賊軍-

『 壁越しの彼女 』 -Love is blind-

Posted on 2024年8月28日 by cool-jupiter

壁越しの彼女 60点
2024年8月25日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:イ・ジフン ハン・スンヨン
監督:イ・ウチョル

 

台湾ロマンスの次は韓国ラブコメ。

あらすじ

歌手を夢見るスンジン(イ・ジフン)は安アパートの最上階に引っ越しする。しかし、その隣には住人をあの手この手で追い出してきたラニ(ハン・スンヨン)が住んでいた。互いに譲らない二人は、やがて生活音を出しあう時間帯を取り決めるが・・・

ポジティブ・サイド

序盤のホラー調から一転してコメディ路線に突っ走り、その後は少しシリアスなお仕事ムービーに。最後はちゃんとしたロマンス路線に着地という具合に、短時間の中でかなり物語のトーンが変わる。しかし、そのことに違和感を覚えず、むしろどんどん物語世界に引き込まれるのは、主要キャラクターの魅力と壁を隔てた顔を知らない二人の奇妙なロマンスの行き着く先を見たいという好奇心ゆえ。

 

歌手を目指すと言いながら、どこか本腰を入れられないスンジンと、ユーモラスに、時にシリアスに向き合ってくれる竹馬の友たちが素晴らしい。男の友情かくあるべし。一人黙々と、しかし騒々しく創作に打ち込むラニの過去にあった悲しい裏切り。二人が急速に距離を縮めながらも、スンジンの善意からの行動がすべてをぶち壊してしまう、そのお下劣な方法と、それがもたらす深刻な結果の落差は、さすが韓国映画。邦画では絶対に描けない展開を軽々と描写してくれる。

 

『 her 世界でひとつの彼女 』にリアリティを感じなかった向きも、本作なら受け入れられるのではないか。恋愛に壁はつきものだが、本物の壁で隔てられたラブロマンスというのは、おそらく世界的にも希少価値が高いはず。観ればハラハラドキドキからホンワカまで味わえる、韓国ラブコメの佳作である。

ネガティブ・サイド

ラニの体調不良を匂わせるシーンが序盤から出てくるが、これがかなりの拍子抜け。少しネタバレ気味になるが、邦画の秀作『 夜明けのすべて 』のような描写がほしかったと思う。あるいは、薬を飲むシーンは全カットでも良かったかもしれない。

 

スンジンと竹馬の友たちとの交流は男の友情の極致と言えるものだが、なぜ彼らがそれほどプー太郎状態のスンジンを純粋に応援できるのかが不可解と言えば不可解。少年時代、あるいは大学生時代あたりでスンジンが思いがけない形で優しや、または逞しさを見せた、という短いエピソードがあっても良かった。

 

総評

おそらくコロナ禍の最中に構想された作品。オンライン飲み会ならぬ壁隔て食事会は、一歩間違えばギャグを通り越して意味不明な絵となるが、コロナを経験したことでこのようなシーンも可能になった。このあたりの作劇術が見え隠れするのも面白い。日本だと本作にかなり先行する『 おと・な・り 』がシチュエーション的に近い。が、感情の表出方法が日韓ではまったく異なるので、そのあたりの国民性の違いを微笑ましく思えるかどうかが評価の分かれ目になりそう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

platonic love

古代ギリシャの哲学者プラトン的な愛のこと。人間は元々アンドロギュヌス=両性具有だった。それが男と女に分かれてしまったので、両者は互いを求めあうようになったというもの。これがエロス。プラトニック・ラブはこの感性そのものを指す。すなわち実際に一つになるという行為ではなく、一つになりたいという願望、その心の在りようを「愛」と呼んでいるわけだ。イデアという理想世界を構想したプラトンらしいと言えばプラトンらしい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 ソウルの春 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, イ・ジフン, ハン・スンヨン, ラブコメディ, 監督:イ・ウチョル, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 壁越しの彼女 』 -Love is blind-

『 狼が羊に恋をするとき 』 -台湾ラブコメの佳作-

Posted on 2024年8月25日 by cool-jupiter

狼が羊に恋をするとき 60点
2024年8月24日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:クー・チェンドン ジエン・マンシュー
監督:ホウ・チーラン

 

『 ソウルの春 』や『 ポライト・ソサエティ 』の鑑賞を考えていたが、妻の「これ観たい」の一言でチケット購入。リクエストがあれば婦唱夫随である。

あらすじ

「予備校に行くね」というメモを残して消えた恋人を追い求めて、タン(クー・チェンドン)予備校が林立する南陽街にやってきた。ひょんなことからコピー店で職と住居を得た彼は、ある時、試験用紙に描かれた羊のイラストを見て・・・

ポジティブ・サイド

クー・チェンドンのダメ男っぷり、世間知らずっぷりがいい。なにより、どこまでも一緒に行きたがる恋人と、ただ一緒にいられれば満足という男の対比があまりにも真実だ。ウィリアム・アイリッシュの昔から、消えた女を追うというのはサスペンスの王道。しかし本作はそれを堂々たるロマコメに仕立て上げた。

 

高校生や大学生同士の恋愛ではなく、予備校スタッフと試験用紙のコピー業者という距離感が絶妙にもどかしい。その二人のコミュニケーションが、試験用紙に描かれる羊と狼の対話というのも、デジタル全盛の2020年代においては新鮮だし、そしてFacebookやTwitter(現X)などが興隆しはじめた2010年代においても新鮮だったはず。そこで real space かつ not real time 形式で行われるタンとシャオヤンのコミュニケーションは、『 交換ウソ日記 』でも感じたことだが、実に微笑ましい。

 

数々のサブプロットを交えながら、二人が最終的にたどることになるであろう道は美しい。その花道を彩る一種の紙吹雪も、非常に cinematic な映像になっている。 まさに台湾ラブコメの佳作である。

 

ネガティブ・サイド

ストーリーのサブプロットが多すぎる。あるいは十分に追求されないまま閉じられていると感じた。特にタンの一日一善と犬探し。そしてシャオヤンの新聞チェック。特にこれは最近でも『 ルックバック 』でも似たようなシーンがあり、漫画家もしくはイラストレーターという人種の習性を表す重要なシーンになったはずではないか。

 

また『 もしも君に恋したら。 』でも感じたことだが、シャオヤンもイラストレーターならペンだこ、あるいはそれに類した手をしていて然るべきではないだろうか。

 

総評

メインの二人の若さとチャーミングさが物語によくマッチしている。コピー屋の店主や牧師などの脇役のオッサン連中も良い感じ。王道ではなく変則的なラブロマンスだが、ありきたりの学園青春ものに飽きている向きには新鮮に映るはず。製作から10年越しでの本邦初公開なので、アジア映画ファンならチケットを購入してみてはどうだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

不是

ブシと発音する。意味は「いいえ」で、本作でも2回ぐらい聞こえた。外国語を学ぶにはまずは数字からというのはジョー小泉の言だが、その前に「はい」と「いいえ」から始めるのが最も基本的なアプローチであると思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 ソウルの春 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, クー・チェンドン, ジエン・マンシュー, ラブロマンス, 台湾, 監督:ホウ・チーラン, 配給会社:台湾映画同好会Leave a Comment on 『 狼が羊に恋をするとき 』 -台湾ラブコメの佳作-

『 ニューノーマル 』 -殺しのオムニバス-

Posted on 2024年8月18日 by cool-jupiter

ニューノーマル 60点
2024年8月17日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:チェ・ジウ
監督:チョン・ボムシク

 

コロナによって生まれた新しい生活習慣=New Normalという、このタイトルだけでチケット購入。

あらすじ

ヒョンジョン(チェ・ジウ)のもとに、突然、火災報知器の点検をしにきたという男がやって来る。男は点検の傍ら、不穏な空気を醸し出しながら、最近起きた未解決の殺人事件について語り始め・・・

ポジティブ・サイド

ニューノーマル=衛生習慣の徹底だと理解していたが、人と人の物理的・精神的な距離が日本よりもはるかに近い韓国では、マッチング・アプリやオンラインゲーム、匿名掲示板がさらに勢いを増しているということか。

 

本来ならば出会わない、あるいは関係のない人間と、ちょっとしたことから繋がりが生まれ、それが悲劇につながっていくというオムニバスかつアンソロジー形式のスリラー。

 

Chapter 1: 覚えられなかった・・・

チェ・ジウの住居に怪しげな男が訪ねてきて・・・ オチはすぐに分かるが、チェ・ジウの一種の恍惚とした表情が強く印象に残る。

 

Chapter 2: Do The Right Thing 

塾の仲間や講師にボランティアを呼びかけられた少年が、車椅子の老婆を助けたところ、お礼を上げると申し出られて・・・ 『 バニシング 未解決事件 』でも未解決だった問題は、コロナ禍を経ても、やはり未解決のまま。『 ユージュアル・サスペクツ 』や『 愚行録 』など、足が悪いところが印象的なキャラクターはやはり・・・

 

Chapter 3: Dressed To Kill

第一章の続き。マッチング・アプリで新たな出会いを求める男女を痛烈に皮肉っている。このチャプターで、アプリのアラーム=マッチ度の高い相手が周囲にいるという通知を見るたびに、コロナ禍における本邦のごみアプリCOCOA(これも誹謗中傷にあたる表現だろうか)の接触通知を思い出した人はちらほらいるのではなかろうか。ちなみにこのチャプターのタイトルの kill は「悩殺する」の意味に近い。

 

Chapter 4: Be With You

前章の続き。縁とは何かについての仮説は興味深かった。その縁を感じた男がたどる道筋の先の恐怖とは・・・ どこかで見たタイトルだが、当然 Rod Stewart の “To Be With You” ではなく、邦画の『 Be With You いま、会いにゆきます 』か。まさか竹内結子からインスピレーションを得たのではないと思いたいが。

 

Chapter 5: Peeping Tom

江戸川乱歩やアルフレッド・ヒッチコックの昔から、覗きは人間の習性であったようだ。ましてカメラが普及した現代、盗撮はいともたやすい。美しき隣人に恋焦がれるニート(?)の男性の気持ち悪さが爆発する。その一方で、美しいバラにはとげがあるとの格言通りに・・・

 

Chapter 6: My Life As A Dog

このチャプターが最も面白い。Chapter 2 を除く(?)他の章がほんの少しずつ絡んでくる。ミュージシャンを目指しつつコンビニ店員で糊口をしのぐヨンジンが迷惑客や苦情客に盛大に、ささやかにリベンジしていく。その一方で、彼女の内なるストレスはネット掲示板とオンラインゲームで発散され・・・ 自分も時々コンビニ店員さんに無愛想に接することがないとは言い切れない。そこを反省すると共に、ネットへの書き込み(映画のレビュー含む)について、大いに考えさせられるチャプターでもあった。

 

ネガティブ・サイド

各チャプターごとに時系列がバラバラで、それは製作者が意図してのことだろうが、このような構成にするのなら、素直に各章を時系列に並べても良かったのでは?

 

つながっている章とつながっていない章があるのは何故?それともこちらの見落としか?

 

Chapter 4: Be With You では、もっと写真をじっくりと見せてほしかった。そもそも、あのキャラはもしや〇〇〇〇?

 

総評

雰囲気としては邦画の『 クリーピー 偽りの隣人 』に少し似ている。スリラー/ホラーでありながら、どことなくコミカルな面が感じられる。それは、ニューノーマルという新たな社会規範を脚本家や監督が嗤っているからだろう。少しモタモタした印象を与える中盤のストレスについては最終チャプターのヨンジンが大爆発させてくれる。そこまではしっかりと鑑賞しよう。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

イーセッキ

韓国映画を観るたびに聞こえてくる。意味は「この野郎」。使用することが推奨されない韓国語の一つ。本作の Chapter 6 で頻繁に使われるFワードを人間相手に言いたくなったら、こちらを心の中で唱えるのもありかもしれない。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 エア・ロック 海底緊急避難所 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, スリラー, チェ・ジウ, 監督:チョン・ボムシク, 配給会社:AMGエンタテインメント, 韓国Leave a Comment on 『 ニューノーマル 』 -殺しのオムニバス-

『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』 -学園系ジャーナリスト物語-

Posted on 2024年8月17日 by cool-jupiter

新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 55点
2024年8月16日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:藤吉夏鈴 髙石あかり 
監督:小林啓一

 

『 殺さない彼と死なない彼女 』の小林啓一監督の作品ということで食指が動き、チケット購入。

あらすじ

文学少女の所結衣(藤吉夏鈴)は、あこがれの作家・緑町このはが在籍する櫻葉学園高校に入学する。しかし緑町このはは覆面作家で、かつ入部試験中のアクシデントで結衣は文芸部に入部できなくなった。しかし、このはの情報を持つという新聞部への入部と捜査を文系部部長は提案してきて・・・

ポジティブ・サイド

誰でも文章を書けて、手軽に写真や動画を撮影し、それらをネットで発表できる時代に、記事は足で拾うというタイプの古き良きジャーナリスト精神を感じさせる新聞部。ホームページやメルマガ形式ではなくザラ紙にこだわる点も買い。

 

結衣あらためトロッ子のこのは探しと新聞部の活動がパラレルに進んでいく中、新聞部は順調に教師のスキャンダルをスクープし、やがて学園の最深部の闇に近づいていくという構成もテンポが良い。

 

学生間の対立もありながら、巨悪を大人にすることで青春映画としても成立している。一方で、子どもに味方をしてくれる大人も設定されており、そのバランス感覚も良い。

 

子どもが大人を権力の座から追い落とすのに必要なのは「正義」ではなく「真実」という信念が貫かれている。正義は往々にして独りよがりになりがちだが、真実は見る方向さえ誤らなければ万人に届くものだ。軽い気持ちで鑑賞したが、硬骨なジャーナリズムを感じ取ることができた。

 

ネガティブ・サイド

主演の藤吉夏鈴のしゃべりがかなりボソボソかつ平板。演技力の無さなのか、それともそういう演出なのか。共演の髙石あかりとの差が目立った。

 

とある小道具があまりにこれ見よがしだったので、すぐに先が読めてしまった。また、肝心の緑町このはの正体もすぐに分かってしまった。

 

学園の文系部に関する諸問題のひとつに特進科と普通科の格差があるというが、そうしたところをもっと描写すべきだった。たとえば茶道部の主体は普通科なのに文芸部の一声で茶室を明け渡さざるを得ない、のような場面がほしかった。

 

総評

『 新聞記者 』をもっとライトに、かつ巨悪を打倒して大団円で締めくくる学園系・・・と言うと語弊があるが、ストーリーとしてはそんな感じである。Jovianはつい最近まで大学の語学系クラスの教務スタッフだったので、大学と出版社の固い結びつきというものは肌で感じてきた。本作のような不正の構図は決して荒唐無稽ではないと感じた。政治とカネの問題がまたもや有耶無耶にされようとしているが、教育とカネは有耶無耶にしてほしくない。その意味で本作には大いにカタルシスを感じた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

cross the line

特定の線を横切る=一線を越えるの意。なにかをやりすぎてしまった時、言動などが許容範囲を超えてしまった時に使われる表現。Take a step back before you cross the line. のように使う。割とよく出てくる表現なので知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 ニューノーマル 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ミステリ, 日本, 監督:小林啓一, 藤吉夏鈴, 配給会社:SPOTTED PRODUCTIONS, 配給会社:東映ビデオ, 青春, 髙石あかりLeave a Comment on 『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』 -学園系ジャーナリスト物語-

『 風が吹くとき 』 -アポカリプス後の世界を描く-

Posted on 2024年8月17日 by cool-jupiter

風が吹くとき 80点
2024年8月15日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:森繫久彌 加藤治子
監督:ジミー・T・ムラカミ

 

8月15日ということで、リバイバル上映されている本作のチケットを購入。本作はたしか小学6年生ぐらいの時に、公民館で無理やり見せられたような記憶がある。

あらすじ

ジェームズ(森繫久彌)とヒルダ(加藤治子)の老夫妻は英国の郊外でのんびり暮らしていた。ある日、国際情勢が急速に悪化し、戦争が不可避となる。ジェームズは政府と州議会が発行している手引きに従って、屋内シェルターを作る。その後、ソ連による核ミサイルが本当に発射され・・・

ポジティブ・サイド

様々な事柄がユーモアたっぷり、皮肉たっぷりに描かれている。たとえばヒルダが食器を洗剤で洗った後、水ですすぐことなく布巾で拭くのは、1980年代や1990年代の国際結婚を特集したテレビ番組などではお馴染みの光景だった。また、ジェームズの恐妻家としての面もたびたび描かれ、日常パートでもサバイバルパートでも、そこだけを見れば既婚者としては面白い。

 

もちろん、本作の眼目はそこではなく核戦争の恐怖こそが主眼。ただ単に核の威力を描くのではなく、核爆発後の社会のありようをリアルに描き出した点こそ本作の特長だ。

普通に考えれば地下ではなく一階に作るシェルターにどれほどの効果があるかは不透明だし、そもそもコンクリートではなく木造のドアでそれを作るのは滑稽ですらある。しかし、ジェームズはそんなことはお構いなし。何故か?一つには先の戦争(第二次世界大戦)を生き残ったという生存者バイアスのせい。もう一つには、最後には政府が何とかしてくれるという楽観主義。しかし、これは単なる楽観主義ではなく、もはや国家主義あるいは全体主義ともいうべき思想に昇華している。国家が危急存亡の秋であれば男性はすべて召集されるというのは、現代のウクライナやロシアをも超えた非常態勢で、それを半ば常識のように語るジェームズには怖気を振るってしまう。妻のヒルダも、戦争を生命や財産の危機ではなく、思い出のように語ってしまう能天気ぶり。「私はスポーツと政治には興味がありません」というのは、地球の反対側の島国にも半分ぐらい当てはまっている。そうした国民を多数要する国の末路は推して知るべし。

 

核爆発後の世界でも、ある意味でのんきに二人だけの完結した世界で暮らすジェームズとヒルダ。その二人が徐々に衰弱していく様子は見るに堪えない。水道、電気、ラジオ、新聞配達に牛乳配達まで止まっているのに、すぐに政府のレスキューチームがやってくると信じるのは、やはりこの世界ではそれだけ国家主義あるいは全体主義が浸透しているからなのか。家の外に出るのはまだしも、放射性物質をたっぷり含んだ雨水を貯水して生活用水にするとは。いや、トイレに使うのは可だが、飲むのはアカンよ・・・

 

国家を頼りにすれども、救助は来ない。衰弱して、どんどん弱気になっていく妻に対してジェームズができることは祈ることだけ。その祈った先に、果たして神はいるのか。

 

一定以上の世代からすれば、漫画『 はだしのゲン 』や絵本『 おこりじぞう 』、アニメ映画『 トビウオのぼうやはびょうきです 』などで核兵器および核爆発後の被害の大きさや悲惨さは周知されていたが、『 はだしのゲン 』が悪書扱いされるようになった現代は相当に剣呑と言うか、本当に戦争前夜、戦争まで十数年という感覚すら覚える。そんな中で本作がリバイバル上映されたことの意味は決して小さくないと考える。ややエロティシズムを感じさせるシーンがあるが、小中学生でも十分に理解できる内容と構成になっている。英国だけでなく、世界中で定期的に上映してほしいと切に願う。

 

ネガティブ・サイド

ジェームズの知識の偏りや欠落具合が気になった。冒頭の図書館で、ジェームズが他者と話す、あるいは新聞以外の雑多な書籍などに目を通しながらも、本当の意味では興味もないし、理解してもいないという描写が欲しかった。

ソ連を途中でロシアを表現するようになっていたが、ソ連結成は1922年なのでジェームズの記憶の混濁?それとも日本側の翻訳ミス?

総評

8月15日は敗戦日。終戦日でも終戦記念日でもない。大学時代、ドイツ人に「ドイツだと敗戦日と言うぞ」と言われて、終戦記念日という表現に違和感を抱き始めたことを今でも覚えている。戦争に巻き込まれることはあっても、戦争を自分から起こしてはいけないし、核を撃たれる前に降伏しないといけない。というか、核を許容してはいけない。テアトル梅田はだいたい五分の入りだった。戦争、就中、核戦争に対する意識を持つ人がそれだけいると見るべきか、それだけしかいないと見るべきか。Jovianは前者だと思いたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

shelter

避難所の意。take shelter =避難する、という形で使われる。しばしば take refuge と混同されるが、take shelter は「安全な場所(文字通りにシェルター)に逃げ込む」という意味であるのに対し、take refuge は危険から逃れて安全な場所まで行くという意味。英検準1級、TOEIC800を目指すなら違いを理解しておくこと。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』
『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1980年代, A Rank, アニメ, イギリス, ヒューマンドラマ, ホラー, 加藤治子, 森繫久彌, 監督:ジミー・T・ムラカミ, 配給会社:チャイルド・フィルムLeave a Comment on 『 風が吹くとき 』 -アポカリプス後の世界を描く-

『 ツイスターズ 』  -ドラマも科学も少々弱い-

Posted on 2024年8月15日 by cool-jupiter

ツイスターズ 55点
2024年8月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ グレン・パウエル アンソニー・ラモス
監督:リー・アイザック・チョン

 

『 ツイスター 』の続編。監督は『 ミナリ 』のリー・アイザック・チョン、主演は『 ザリガニの鳴くところ 』のデイジー・エドガー=ジョーンズ。

あらすじ

気象学者のケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は、かつての仲間ハビ(アンソニー・ラモス)を手助けするために、オクラホマの竜巻街道に赴く。そこで彼女は型破りな竜巻チェイサーのタイラー(グレン・パウエル)と出会い・・・

 

ポジティブ・サイド

異常気象(extreme weather)は、もはや日本でもおなじみ。関西でも滋賀県などでは竜巻注意報が出るようになった。もちろんアメリカのような超ド級の竜巻が発生する可能性は極めて低いと思われるが、それでも気象予報の重要性は増すことはあっても減ることはない。

 

YouTuberにも色々ある。瞬間的なインプレ増加を狙うだけの低俗なチャンネルやクリエイターが跋扈しているのも事実だが、その一方で市民科学(citizen science)の大いなるプラットフォームとして役立っているものもある。本作に登場するタイラーのチームは実は前者と後者の両方である。

 

前作並みに竜巻が発生し、それが前作以上の映像で猛威を振るう。特に大気のキャップを割って、竜巻の芽が地上に伸びてくるシーンは圧巻の一語。それをフェイズド・アレイ・レーダーで捉えようという試みも悪くない。

 

最終盤ではまさかの形で古典的名作がスクリーンによみがえる。泉下のボリス・カーロフも喜んでいることだろう。また、このシーンは絵的にも非常に秀逸で、目の前でこれを本当に目撃したら一生モノのトラウマになってもおかしくないと思わされた。『 リング 』のクライマックスの逆バージョンと言ってもいいかもしれない。

 

『 オズの魔法使 』関連ネタや “I’m not back!” など、前作へのオマージュもある。が、別にこれらを知らなくても作品を楽しむ妨げにはならない。迫力は満点なので劇場鑑賞の価値は十分にある。

 

ネガティブ・サイド

警報発令から竜巻到着まで3分という時間を15分にできるという前作の成果はどこに行った?15分前に警報を出しつつも、藤原効果(The Fujiwara Effect)のせいで進路の予想ができない、それぐらい竜巻が街道で多発している、という設定を設けられなかっただろうか。

 

タイラーがケイトのモーテルの部屋を訪ねるのは構わんが、実家にまで訪ねてくるとなると話は別。こうなると storm chaser ではなく skirt-chaser ではないか。

 

竜巻を消滅させるメカニズムもよく分からない。いや、湿度を全部吸い取れば竜巻は消滅するでしょ?という理屈は分かる。問題は、竜巻に勢力を供給する積乱雲にはなんらアプローチできていないこと。ここらへんを似非科学でもいいので、それっぽく説明する必要があったはずだ。

 

土地ビジネスもよく分からない。安く買い上げられるのはその通りだろうが、竜巻の通り道という印象が定着した土地を誰が高値で買うのだろうか。

 

総評

前作に劣らぬジェットコースター的展開なので飽きることはない。しかし、最後の最後の終わり方に難ありと言わざるを得ない。あわよくばグレン・パウエルとデイジー・エドガー=ジョーンズのダブル主演で続編を作りたいという製作者側の思惑も透けて見える。エンディングに不満はあれど、そこに至るまでの展開は十分に面白いのは間違いないので、お盆休みに手持ち無沙汰であれば最寄りの映画館までどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

dandelion

タンポポの意。日本でもなじみの植物なので、その英語名を知っておくのもいいだろう。ちなみに lion は動物のライオンのこと。ちなみに dande の部分は『 恐竜超伝説 劇場版 ダーウィンが来た! 』で紹介したと don=「歯」の派生。

 

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『 #スージー・サーチ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アメリカ, アンソニー・ラモス, グレン・パウエル, ディザスター, デイジー・エドガー=ジョーンズ, パニック, 監督:リー・アイザック・チョン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 ツイスターズ 』  -ドラマも科学も少々弱い-

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