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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 海外

『 風が吹くとき 』 -アポカリプス後の世界を描く-

Posted on 2024年8月17日 by cool-jupiter

風が吹くとき 80点
2024年8月15日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:森繫久彌 加藤治子
監督:ジミー・T・ムラカミ

 

8月15日ということで、リバイバル上映されている本作のチケットを購入。本作はたしか小学6年生ぐらいの時に、公民館で無理やり見せられたような記憶がある。

あらすじ

ジェームズ(森繫久彌)とヒルダ(加藤治子)の老夫妻は英国の郊外でのんびり暮らしていた。ある日、国際情勢が急速に悪化し、戦争が不可避となる。ジェームズは政府と州議会が発行している手引きに従って、屋内シェルターを作る。その後、ソ連による核ミサイルが本当に発射され・・・

ポジティブ・サイド

様々な事柄がユーモアたっぷり、皮肉たっぷりに描かれている。たとえばヒルダが食器を洗剤で洗った後、水ですすぐことなく布巾で拭くのは、1980年代や1990年代の国際結婚を特集したテレビ番組などではお馴染みの光景だった。また、ジェームズの恐妻家としての面もたびたび描かれ、日常パートでもサバイバルパートでも、そこだけを見れば既婚者としては面白い。

 

もちろん、本作の眼目はそこではなく核戦争の恐怖こそが主眼。ただ単に核の威力を描くのではなく、核爆発後の社会のありようをリアルに描き出した点こそ本作の特長だ。

普通に考えれば地下ではなく一階に作るシェルターにどれほどの効果があるかは不透明だし、そもそもコンクリートではなく木造のドアでそれを作るのは滑稽ですらある。しかし、ジェームズはそんなことはお構いなし。何故か?一つには先の戦争(第二次世界大戦)を生き残ったという生存者バイアスのせい。もう一つには、最後には政府が何とかしてくれるという楽観主義。しかし、これは単なる楽観主義ではなく、もはや国家主義あるいは全体主義ともいうべき思想に昇華している。国家が危急存亡の秋であれば男性はすべて召集されるというのは、現代のウクライナやロシアをも超えた非常態勢で、それを半ば常識のように語るジェームズには怖気を振るってしまう。妻のヒルダも、戦争を生命や財産の危機ではなく、思い出のように語ってしまう能天気ぶり。「私はスポーツと政治には興味がありません」というのは、地球の反対側の島国にも半分ぐらい当てはまっている。そうした国民を多数要する国の末路は推して知るべし。

 

核爆発後の世界でも、ある意味でのんきに二人だけの完結した世界で暮らすジェームズとヒルダ。その二人が徐々に衰弱していく様子は見るに堪えない。水道、電気、ラジオ、新聞配達に牛乳配達まで止まっているのに、すぐに政府のレスキューチームがやってくると信じるのは、やはりこの世界ではそれだけ国家主義あるいは全体主義が浸透しているからなのか。家の外に出るのはまだしも、放射性物質をたっぷり含んだ雨水を貯水して生活用水にするとは。いや、トイレに使うのは可だが、飲むのはアカンよ・・・

 

国家を頼りにすれども、救助は来ない。衰弱して、どんどん弱気になっていく妻に対してジェームズができることは祈ることだけ。その祈った先に、果たして神はいるのか。

 

一定以上の世代からすれば、漫画『 はだしのゲン 』や絵本『 おこりじぞう 』、アニメ映画『 トビウオのぼうやはびょうきです 』などで核兵器および核爆発後の被害の大きさや悲惨さは周知されていたが、『 はだしのゲン 』が悪書扱いされるようになった現代は相当に剣呑と言うか、本当に戦争前夜、戦争まで十数年という感覚すら覚える。そんな中で本作がリバイバル上映されたことの意味は決して小さくないと考える。ややエロティシズムを感じさせるシーンがあるが、小中学生でも十分に理解できる内容と構成になっている。英国だけでなく、世界中で定期的に上映してほしいと切に願う。

 

ネガティブ・サイド

ジェームズの知識の偏りや欠落具合が気になった。冒頭の図書館で、ジェームズが他者と話す、あるいは新聞以外の雑多な書籍などに目を通しながらも、本当の意味では興味もないし、理解してもいないという描写が欲しかった。

ソ連を途中でロシアを表現するようになっていたが、ソ連結成は1922年なのでジェームズの記憶の混濁?それとも日本側の翻訳ミス?

総評

8月15日は敗戦日。終戦日でも終戦記念日でもない。大学時代、ドイツ人に「ドイツだと敗戦日と言うぞ」と言われて、終戦記念日という表現に違和感を抱き始めたことを今でも覚えている。戦争に巻き込まれることはあっても、戦争を自分から起こしてはいけないし、核を撃たれる前に降伏しないといけない。というか、核を許容してはいけない。テアトル梅田はだいたい五分の入りだった。戦争、就中、核戦争に対する意識を持つ人がそれだけいると見るべきか、それだけしかいないと見るべきか。Jovianは前者だと思いたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

shelter

避難所の意。take shelter =避難する、という形で使われる。しばしば take refuge と混同されるが、take shelter は「安全な場所(文字通りにシェルター)に逃げ込む」という意味であるのに対し、take refuge は危険から逃れて安全な場所まで行くという意味。英検準1級、TOEIC800を目指すなら違いを理解しておくこと。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』
『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1980年代, A Rank, アニメ, イギリス, ヒューマンドラマ, ホラー, 加藤治子, 森繫久彌, 監督:ジミー・T・ムラカミ, 配給会社:チャイルド・フィルムLeave a Comment on 『 風が吹くとき 』 -アポカリプス後の世界を描く-

『 ツイスターズ 』  -ドラマも科学も少々弱い-

Posted on 2024年8月15日 by cool-jupiter

ツイスターズ 55点
2024年8月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ グレン・パウエル アンソニー・ラモス
監督:リー・アイザック・チョン

 

『 ツイスター 』の続編。監督は『 ミナリ 』のリー・アイザック・チョン、主演は『 ザリガニの鳴くところ 』のデイジー・エドガー=ジョーンズ。

あらすじ

気象学者のケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は、かつての仲間ハビ(アンソニー・ラモス)を手助けするために、オクラホマの竜巻街道に赴く。そこで彼女は型破りな竜巻チェイサーのタイラー(グレン・パウエル)と出会い・・・

 

ポジティブ・サイド

異常気象(extreme weather)は、もはや日本でもおなじみ。関西でも滋賀県などでは竜巻注意報が出るようになった。もちろんアメリカのような超ド級の竜巻が発生する可能性は極めて低いと思われるが、それでも気象予報の重要性は増すことはあっても減ることはない。

 

YouTuberにも色々ある。瞬間的なインプレ増加を狙うだけの低俗なチャンネルやクリエイターが跋扈しているのも事実だが、その一方で市民科学(citizen science)の大いなるプラットフォームとして役立っているものもある。本作に登場するタイラーのチームは実は前者と後者の両方である。

 

前作並みに竜巻が発生し、それが前作以上の映像で猛威を振るう。特に大気のキャップを割って、竜巻の芽が地上に伸びてくるシーンは圧巻の一語。それをフェイズド・アレイ・レーダーで捉えようという試みも悪くない。

 

最終盤ではまさかの形で古典的名作がスクリーンによみがえる。泉下のボリス・カーロフも喜んでいることだろう。また、このシーンは絵的にも非常に秀逸で、目の前でこれを本当に目撃したら一生モノのトラウマになってもおかしくないと思わされた。『 リング 』のクライマックスの逆バージョンと言ってもいいかもしれない。

 

『 オズの魔法使 』関連ネタや “I’m not back!” など、前作へのオマージュもある。が、別にこれらを知らなくても作品を楽しむ妨げにはならない。迫力は満点なので劇場鑑賞の価値は十分にある。

 

ネガティブ・サイド

警報発令から竜巻到着まで3分という時間を15分にできるという前作の成果はどこに行った?15分前に警報を出しつつも、藤原効果(The Fujiwara Effect)のせいで進路の予想ができない、それぐらい竜巻が街道で多発している、という設定を設けられなかっただろうか。

 

タイラーがケイトのモーテルの部屋を訪ねるのは構わんが、実家にまで訪ねてくるとなると話は別。こうなると storm chaser ではなく skirt-chaser ではないか。

 

竜巻を消滅させるメカニズムもよく分からない。いや、湿度を全部吸い取れば竜巻は消滅するでしょ?という理屈は分かる。問題は、竜巻に勢力を供給する積乱雲にはなんらアプローチできていないこと。ここらへんを似非科学でもいいので、それっぽく説明する必要があったはずだ。

 

土地ビジネスもよく分からない。安く買い上げられるのはその通りだろうが、竜巻の通り道という印象が定着した土地を誰が高値で買うのだろうか。

 

総評

前作に劣らぬジェットコースター的展開なので飽きることはない。しかし、最後の最後の終わり方に難ありと言わざるを得ない。あわよくばグレン・パウエルとデイジー・エドガー=ジョーンズのダブル主演で続編を作りたいという製作者側の思惑も透けて見える。エンディングに不満はあれど、そこに至るまでの展開は十分に面白いのは間違いないので、お盆休みに手持ち無沙汰であれば最寄りの映画館までどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

dandelion

タンポポの意。日本でもなじみの植物なので、その英語名を知っておくのもいいだろう。ちなみに lion は動物のライオンのこと。ちなみに dande の部分は『 恐竜超伝説 劇場版 ダーウィンが来た! 』で紹介したと don=「歯」の派生。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』
『 風が吹くとき 』
『 #スージー・サーチ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アメリカ, アンソニー・ラモス, グレン・パウエル, ディザスター, デイジー・エドガー=ジョーンズ, パニック, 監督:リー・アイザック・チョン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 ツイスターズ 』  -ドラマも科学も少々弱い-

『 ツイスター 』 -1996年以来の再鑑賞-

Posted on 2024年8月11日 by cool-jupiter

ツイスター 70点
2024年8月11日 Amazon Primeにて鑑賞
出演:ヘレン・ハント ビル・パクストン フィリップ・シーモア・ホフマン
監督:ヤン・デ・ボン

 

これは多分、高1の夏休みに父親と一緒に(旧)岡山メルパで観たような記憶がある。が、話の中身はほとんど忘れていたので『 ツイスターズ 』の前に復習鑑賞。

あらすじ

竜巻チェイサーのジョー(ヘレン・ハント)は、元夫のビル(ビル・パクストン)に離婚届けに直ちにサインしてくれと頼まれる。だがジョーに竜巻観測機のドロシーを見せられたジョーは、一日だけ彼女の竜巻観測に付き添うことになり・・・

 

ポジティブ・サイド

かつて大谷の所属チーム・LAエンゼルスの主砲、マイク・トラウトの趣味が気象観測、特に竜巻観測であることを知っている野球ファンは多いことと思う。本作はそうした竜巻チェイサーの物語。単なる好事家ではなく、竜巻を現地で直に観測し、いち早く注意報や警報を出すという使命感で動く人々のストーリーでもある。

 

竜巻の内側から観測するセンサーの名前がドロシーという点にニヤリ。言わずと知れた『 オズの魔法使 』へのオマージュ。それを飛ばしてデータを受け取るというアイデアは、パソコンや携帯電話が爆発的に普及し始める時代の前夜の脚本としては非常に先見の明があったと言える。

 

とにかく行く先々で竜巻が発生し、ジョーとビルとその仲間たちが狂喜乱舞して突っ込んでいく。あるいは必死に地下に逃げ込む。その繰り返し。常識人のメリッサの ”You are all crazy, and she is the craziest of all!” という悲痛な叫びは決して届かない。『 エイリアン 』のキャッチコピー、”In space, no one hears you scream” ならぬ “In tornadoes, no one hears you scream” である。

 

車にトラックに牛までが飛ばされるが、そうしたCGも迫力満点。本物らしくないという批判はまっとうだが、竜巻を間近で観たことがある人がどれほどいるのか。これこそ作家の想像力がものを言うところ。現代(2020年代)でも『 デス・ストーム 』のように竜巻ものは製作されているが、そうした作品のCGと比べてもまったく見劣りはしていない(『 デス・ストーム 』が人間ドラマに寄せすぎなのもあるが)。

 

劇中での『 シャイニング 』の使い方も絶妙だ。同作で最も有名なシーンであるジャック・ニコルソンが斧で扉を破壊するシーンは、まさに迫りくる竜巻そのもの。こんな怪物に立ち向かっても仕方ない。しかし観測はできる。人に可能な範囲で最善を尽くそうとするジョーとビルの奮闘っぷりには素直に頭が下がる。1990年代は『 アルマゲドン 』や『 ボルケーノ 』のように、天変地異に立ち向かうヒーロー映画が多かったが、本作もそうした系譜に連なる映画。一般人でもヒーローになれるという幻想を与えてくれる、良くも悪くも9.11以前の映画だった。

 

ネガティブ・サイド

ベトナム戦争やら湾岸戦争を経て、PTSDに対する社会的な理解も浸透していたはずの1990年代とは思えない言動をビルがジョーに対して繰り返す様には正直辟易した。フェミニズムがハリウッドに浸透していない時代とはいえ、トラウマに対して「忘れろ!」は禁句だろう。

 

ドロシーを飛ばす手順がめちゃくちゃ。JovianもICT系の部署に異動になり、外部の業者との連携や情報共有が生じるようになったが、エンジニアという人種は作ることばかり考えて、運用することを考えない。そうした日々のちょっとしたフラストレーションが本作を観て増幅してしまった。ドロシーを本当に飛ばしたいなら凧、あるいは風船を使え。

 

最後の最後のシーンも、うーむ。普通にデブリが飛んできて負傷の一つや二つは負わないと不自然だが・・・

 

総評

色々と突っ込みどころはありつつも、テンポの良いストーリーとシンプルな人間関係で魅せる。日本でも竜巻が発生するようになってしまったが、その注意報や警報は誰かが出してくれている、誰かの発明品によって支えられているということを頭の片隅に置いておこう。なにかと叩かれる本邦の気象庁であるが、本当はもっとリスペクトされるべき団体であると思う。本作を観てそう感じた次第である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bite one’s head off

(人に)食ってかかる、の意。夫婦喧嘩は犬も食わぬと言うが、それは往々にして一方が他方に、あるいは互いが互いに食ってかかるからに違いない。あまり自分から使う表現ではないが、これを使えるということは英語ネイティブの親友もしくは配偶者がいるということだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ツイスターズ 』
『 先生の白い嘘 』
『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』

 

ツイスター [Blu-ray]

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  • ヘレン・ハント
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Posted in 映画, 海外Tagged 1990年代, B Rank, アメリカ, ディザスター, ビル・パクストン, フィリップ・シーモア・ホフマン, ヘレン・ハント, 監督:ヤン・デ・ボン, 配給会社:UIPLeave a Comment on 『 ツイスター 』 -1996年以来の再鑑賞-

『 エベレスト 』 -下りてくるまでが登山-

Posted on 2024年8月10日 by cool-jupiter

エベレスト 40点
2024年8月7日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジェイソン・クラーク ジョシュ・ブローリン
監督:バルタザール・コルマウクル

 

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あらすじ

エベレスト登頂を目指してカトマンズに多くの人間が集まった。その中には腕利きガイドのロブ・ホール(ジェイソン・クラーク)や自信にあふれるベック・ウェザーズ(ジョシュ・ブローリン)の姿もあった。彼ら彼女らはそれぞれの決意を胸にエベレストの征服を目指して歩み出すが・・・

 

ポジティブ・サイド

「なぜエベレストに登る?」「そこにあるからだ」という序盤の登山家たちのやりとりで、「ああ、登山バカの物語だな」と感じられた。ここで聞かれる日本人登山家の難波康子の言葉は大いなる〇〇フラグだったのか、と鑑賞後に感じられた。

 

エベレストという過酷すぎる環境を映像で描くことには成功していた。山は見上げる、人は見降ろすというカメラアングル多数で、常に山が上位という視点が一貫していた。特にクレバスを梯子でわたるシーンは、絶対に落ちないと分かっていてもヒヤッとするシーンだった。

 

ロブ・ホールには不本意ながらも共感した。「金を払っているんだぞ!」という顧客の要望に応えようとする思いと、これ以上の登山は不可能だと判断する理性の葛藤は、たいていのサラリーマンなら経験済みだろう。この遭難事故が彼のプロフェッショナリズムを強化したことは間違いない。

 

ネガティブ・サイド

序盤にガイドやシェルパについてベックが文句を言うシーンが多くあるが、これは事実なのだろうか。登山家よりも、はるかにエベレストのプロであるはずの彼らの言うことを軽視するような輩が主人公一人というのは受け入れがたかった。

 

『 神々の山嶺 』でも感じられたが、様々な装備や設備が登場するが、それらがどのような役割を果たしてくれるのかを少しで良いので説明してほしかった。トルコの五輪射撃代表銀メダリストの無課金おじさんが話題だが、普通は装備に投資する。何故それらに投資するのかについては、少しで良いので説明が欲しかった。

 

家族や恋人のやりとりのパートが、あまりにもこれ見よがしというか、くどかった。山のパートにもう少し比重を置くべきではなかったか。

 

白人男性だらけの中、日本人の難波康子にほとんど焦点が当たらない。2010年代前半のハリウッドは良い意味でも悪い意味でも politically correct ではなかったということがうかがい知れる。

 

総評

大自然に挑むといえば聞こえはいいが、本作の残す教訓は「専門家の言うことは聞け」、「自然は乗り越える対象ではなく畏怖する対象」ということだろうか。死に瀕する中で顧みてこなかった家族の姿が浮かんでくることを、感動的と捉えられるかどうかは人による。個人的には「うーむ・・・」だった。乗り越えるべきハードルは無数にあるが、『 神々の山嶺 』の製作スタッフで難波康子物語を作ってほしいと、本作を通じて強く感じた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Why do you climb?
Because it’s there.

「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるからだ」という、よく知られた問答。もともとはジョージ・マロリーの言葉で、おそらく世界中で知られている。こうしたやり取りを実際の会話ですることはないだろうが、知っておくこと自体は損にはならないはず。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ツイスターズ 』
『 先生の白い嘘 』
『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』

 

エベレスト [Blu-ray]

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  • ジェイソン・クラーク
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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, イギリス, ジェイソン・クラーク, ジョシュ・ブローリン, ヒューマンドラマ, 歴史, 監督:バルタザール・コルマウクル, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 エベレスト 』 -下りてくるまでが登山-

『 デッドプール&ウルヴァリン 』 -マルチバースを笑い飛ばす-

Posted on 2024年7月30日 by cool-jupiter

デッドプール&ウルヴァリン 80点
2024年7月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ライアン・レイノルズ ヒュー・ジャックマン
監督:ショーン・レビ

 

普通のヒーローに飽きてない?の惹句通りに、普通のヒーロー映画の文脈を逸脱しまくる快作に仕上がっている。

あらすじ

ヒーロー稼業を辞めて、ガールフレンドと別れてしまったウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)。友人たちに誕生日パーティーを開いてもらっているところに、時間変異取締局が現われて・・・

 

ポジティブ・サイド

デッドプール作品が他のヒーロー映画と明確に一線を画しているのは、

1)暴力描写
2)スラング使用

 

が主たる要因だが、本作でもそれは健在。冒頭から「それはやったらアカンやろ」というアクションを連発。アベンジャーズにもX-MENにも加入できないのもむべなるかな。特に暴力描写は、中盤のとあるスーパーヒーローの登場と見せかけて、「そっちかい」というキャラの死に様がすこぶる惨い。だが一番の見どころは、デッドプールとウルヴァリンのガチンコ対決。お互いに再生能力持ちなので、アホかというほどに斬り合う。これは確かにR指定である。そして終盤のマルチバースでは、某魔法使いをおちょくりつつ、彼の作品の同プロットをはるかに超えるスケールのバトルを繰り広げる。もちろん血みどろ。バイオレンスが好きな映画ファンも満足できる出来栄えだ。

 

もう一つ、アニメの『 サウスパーク 』かというほどに甲高い声とアップテンポでのスラング連発トークもデッドプールの特徴。中盤で悲惨すぎる死を迎える某キャラが最後の最後にプールのお株を奪う猛烈マシンガントークを見せつけてくれるので楽しみにしてほしい。Do you want to build a snowman? がとある隠語になっているのが個人的には驚きだった。

 

それにしても『 LOGAN/ローガン 』であれだけ従容として死んでいったウルヴァリンをあろうことか復活させて、そのうえでこれまでのX-MENシリーズの延長ではなく、一人のスーパーヒーローものとして成立させていることに度肝を抜かれた。ウルヴァリンはほとんど常になりゆきで戦いにその身を投じてきたが、今作では『 LOGAN/ローガン 』同様に自分からその身を戦いに投じていく。なぜ世捨て人同然の彼がデッドプールと共闘することになったのか知りたい人は、ぜひチケットを購入しよう。

 

それにしても、売れるヒーローあれば売れないヒーローあり。その売れないヒーローでチームを作って大暴れするデッドプール達は微笑ましくもあり、またアンチ・ヒーロー的でもある。ヒーローは世界を救うものだが、デッドプールが救いたいのは両手で数え切れるだけの友人たちだけ。世界の危機?マルチバースの危機?そんなものは知ったこっちゃねえという態度がいっそ清々しい。マルチバースの様々な自分と戦う終盤は、お互いに不死身同士で当然決着などつくはずもない。さて、どうオチをつけるのかと思ったら、そう来るとは。

 

本作のヴィランは、トレイラーにも出ていた謎のスキンヘッド女性。素性を知ってびっくり。なるほど、これもウルヴァリンが帰ってくる理由の一つになっていた。世界を救うにはどうすればいいか。ヴィランと戦うのは一つの手だが、異色のヒーローたるデッドプールは我々にも割と簡単に実現可能な方法を提示する。そう、一人ひとりがズッ友を持てれば、それでその人たちの世界は救われるのだ。

ネガティブ・サイド

アライオスという超存在を出す必要はあっただろうか?今後、アライオスがMCUにおける征服者カーンの代わりになる?そんな展開は要らない。

 

第四の壁の突破ネタが1つ、2つしかなかったのは寂しい。

 

字幕に「オズの魔法使い」とあったが、正しくは「オズの魔法使」ね。

総評

スパイダーマン同様に会社関係の権利が色々と整理されたことで、考えられなかったキャラ同士のクロスオーバーが楽しめる良作。普通のヒーロー映画やマルチバース展開に飽きた人にとっては新鮮に感じられる作品のはず。「世界を救う」ためではなく「愛する人/人々」を救うために戦うデッドプールは異色のヒーローではなく、実は我々が最も目標としやすいヒーローだ。チケットを購入して、劇場でこのヒーローを応援しようではないか。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Come again.

もう一度来い、ではない。これは「もう一度言ってくれ」の意味。文脈次第では「もう一回言ってみろ、テメー!」という意味にもなる。よっぽど仲の良い相手以外には使わない方がいい。映画やドラマでは結構聞こえてくるので、英語の中級者は耳を澄ませてみるのも良いだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 大いなる不在 』
『 ツイスターズ 』
『 先生の白い嘘 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アクション, アメリカ, ヒュー・ジャックマン, ライアン・レイノルズ, 監督:ショーン・レビ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 デッドプール&ウルヴァリン 』 -マルチバースを笑い飛ばす-

『 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 』 -陰謀論を呵々と笑う-

Posted on 2024年7月29日 by cool-jupiter

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 65点
2024年7月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:スカーレット・ジョハンソン チャニング・テイタム ウッディ・ハレルソン
監督:グレッグ・バーランティ

『 THE MOON 』のエンディングで流れた “Fly Me To The Moon” と原題を同じくする映画。アポロの月面着陸はなかったという陰謀論を笑い飛ばす一作になっている。 

 

あらすじ

敏腕マーケターのケリー(スカーレット・ジョハンソン)は、政府筋で働いているという謎の男モー(ウッディ・ハレルソン)にスカウトされ、NASAで働くことになる。NASA職員のインタビューや宇宙飛行士の企業タイアップなどでNASAのイメージ改善に邁進するケリーだが、ロケット発射のディレクターであるコール(チャニング・テイタム)は彼女の手法を快く思わず・・・

ポジティブ・サイド

アポロ11号の月面着陸は真実かフェイクかというのは、Jovianが子どもの頃からあった。というか、おそらくリアルタイムであった話なのだろう。本作はそこを主眼にしつつも、それ以外の面でストーリーを作り上げていく。

 

最初に面白いと感じたのは、主役の一人ケリー・ジョーンズ。NASAと言えば『 ドリーム 』や『 アポロ13 』のような技術部門の職員の奮闘を描く作品が多いが、本作はそこにビジネス要素を盛り込んできたところが極めて新鮮。すなわち、NASAのポスターボーイたちを商品のコマーシャルに起用したり、NASA職員(のふりをした役者)に美辞麗句溢れるインタビューへの受け答えをさせたりという、非常に現代的なマーケティングが1960年代にすでに行われていた、そしてそれを仕切っていたのが才気煥発の女性マーケターだという点がユニーク。しかもケリー・ジョーンズには実際のモデル(当然ながら女性)がいたというのだから、さらに驚く。

 

そのケリーのやり方を苦々しく思いながらも、着実に成果を上げる彼女に対して徐々に素直になっていく発射ディレクターのコールの描き方も独特。往々にしてこうしたキャラは『 ドリーム 』のケビン・コスナーよろしく堅物でありながら徐々に人間性を滲ませてくるものだが、彼はケリーとの初対面でいきなり愛のポエムを献上してしまうようなキャラクター。この描写があることで、彼の奥底にあるプロフェッショナリズムが引き立ち、さらにケリーに対するアンビバレントな感情が観客にも共有されやすくなっている。

 

月面着陸がフェイクだったのかどうか、そのフェイクをどのように撮影したのか。そこについて本作はかなりコミカルに描いている。フィクサー然として振る舞うウッディ・ハレルソン演じるモーの胡散臭さが、そのまま陰謀論に対する胡散臭さに見える。映画はこの点に触れないが、NASAの敷地内で立ち入り禁止の棟が突如現れ、正体不明の人員(フェイク映像の撮影部隊)と正体不明の小道具大道具が常に出入りしているという状況を当時のメディアや他のNASA職員が見逃す、あるいは黙認するかどうか。

 

少しネタバレになるが、ケリーの助手の ”This is what happens when you vote for Nixon” という台詞が本作の政治的な主張であると思われる。ニクソン=ウォーターゲート=盗聴、ということはやはり月面着陸もでっち上げ?と早まるなかれ。今年(2024年)は米大統領選挙イヤー。スカーレット・ヨハンソンが主演だけではなくプロデューサーも努めたということは、これは彼女なりの選挙キャンペーンなのだろう。そういう見方も本作はできるのだ。ぜひ鑑賞して、自分なりの真実を見つけようではないか。

 

ネガティブ・サイド

ケリーとコールのロマンスの部分は不要だったと感じた。互いが互いのプロフェッショナリズムを一定の距離を置きつつ尊重するような関係の方がこの二人には似合っていたのでは?コールが不幸にも亡くなってしまった宇宙飛行士たちへの追慕を忘れない男でありながら、女に現を抜かすキャラクターというのは、やや不自然に見えた。

 

本作では発射直前にトンデモ行動が取られる。そして実際の月面映像とスタジオのフェイク映像の見分けがつかなくなるシーンがあるが、果たしてそんなことがありうるだろうか。アポロ11号は常に地球と電波でつながっているわけで、音声は宇宙船から受信しているが、映像は別のところから受信していて、それをNASAや関係基地局の誰も気が付かないなどということはありうるのだろうか。ここらへんの説明を(フェイクでいいので)入れておいてほしかった。

 

総評

NASA、メディア、そして米政府に関するお仕事ムービーでありながら、シリアスさとコミカルさを併せ持った良作。フェイク映像やフェイク投稿が横行する現代だからこそインパクトが大きい。本作の持つ政治的なメッセージに思いを馳せながら観るのもいいだろうし、単純に科学と歴史を題材にしたロマンティック・コメディとして鑑賞するのもいいだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a feast for the eyes

feast とは「ごちそう」の意。目にとってのごちそう=目の保養となる。劇中ではテイタム演じるコールがハンサムだということで He is feast for the eyes. と言われていたが、人間だけではなく景色や絵画についても使うことができる表現である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 デッドプール&ウルヴァリン 』
『 大いなる不在 』
『 ツイスターズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, スカーレット・ジョハンソン, チャニング・テイタム, ラブコメディ, 歴史, 監督:グレッグ・バーランティ, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 』 -陰謀論を呵々と笑う-

『 YOLO 百元の恋 』 -オリジナル越えの傑作-

Posted on 2024年7月17日 by cool-jupiter

YOLO 百元の恋 80点
2024年7月16日 Tジョイ梅田にて鑑賞
出演:ジア・リン ライ・チァイン
監督:ジア・リン

 

『 百円の恋 』の中国リメイク。『 ソウルメイト 七月と安生 』が『 ソウルメイト 』としてリメイクされたのと同じくらいの、リメイク成功と言える。

あらすじ

ドゥ・ローイン(ジア・リン)は一度は就職したものの、すぐに離職。以来10年間、実家で親のすねかじりをしていたが、妹と大ゲンカしたことでローインは衝動的に家を出る。ある時、ひょんなことから知り合ったボクサーのハオ・クン(ライ・チァイン)への思慕から、ローインはボクシングジムに通い始め・・・

ポジティブ・サイド

『 百円の恋 』の安藤サクラも痛々しいキャラ設定だったが、本作のローインはそれに加えて100キロの巨体。恋人も親友もいるが、実はその二人が自分に隠れて付き合っているという、笑うに笑えない状況で物語は始まる。このあたりはオリジナルに上手く「肉付け」しているだけだが、中盤でローインが妹の提案に乗って、とある仕事を引き受けたあたりから「呆れるほどに痛く」なる。

 

そして突如として鳴り響く、あの楽曲!そして、春夏秋冬、トレーニングを通じてみるみる痩せてゆくローインをこれでもかと映し出す。これまでのボクシング映画が実はほとんどフォーカスしてこなかった、文字通りの意味での迫真の減量である。壮絶とはまさにこのこと。ロバート・デ・ニーロもこれは称賛するに違いない。

 

そしてローインの初の試合。ここでは『 クリード チャンプを継ぐ男 』にもあった、1ランドすべてをワンカットで見せる手法を採用。ジア・リンは監督としても相当に先行作品をリスペクトしているようである。

 

最後は『 プラダを着た悪魔 』のアン・ハサウェイよろしく、颯爽と去っていくローイン。このあたりもオリジナルと同じではあるが、カタルシスの度合いはこちらの方が上。奔放の駄作『 レッドシューズ 』も、せめてこのような絵作りが出来ていれば評価ももう少し上がっただろうにと思わされた。

 

エンドクレジットでは、ジア・リンがローインになっていくシーンが克明に映し出される。『 百円の恋 』の試合前の入場シーンは安藤サクラの悲壮感と決意が前面に出ていて印象的だったが、本作ではそこ「生まれ変わり」のシーンだったのだなということが、より鮮烈な印象を伴って想起された。

 

ネガティブ・サイド

あの彼氏と親友には最終盤にもう一度だけ出てきてほしかった。

 

総評

傑作。『 百円の恋 』を観ていなくても楽しめるし、鑑賞済みであればもっと楽しめる。「あの音楽」を聞いて自動的にアドレナリンが出るような人は、今すぐにでもチケットを購入して劇場鑑賞してほしい。中国映画界はハリウッドや邦画からも学ぶ姿勢が見られるが、それは「近いうちに追い抜いてやる」という意思表示に他ならない。韓国映画に抜かれて久しい日本の映画業界だが、中国映画界に本格的に

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

姐

ジエと発音する。「姉」の意。劇中で何度かローインがこう呼ばれる。日本語でも姉の「し」と読むので、なんとなく音も近く感じる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 朽ちないサクラ 』
『 キングダム 大将軍の帰還 』
『 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, ジア・リン, スポーツ, ヒューマンドラマ, ボクシング, ライ・チァイン, 中国, 監督:ジア・リン, 配給会社:東映ビデオLeave a Comment on 『 YOLO 百元の恋 』 -オリジナル越えの傑作-

『 密輸 1970 』 -虚々実々の密輸ドラマ-

Posted on 2024年7月15日 by cool-jupiter

密輸 1970 70点
2024年7月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヨム・ジョンア キム・ヘス
監督:リュ・スンワン

 

『 モガディシュ 脱出までの14日間 』のリュ・スンワン監督作品ということでチケット購入。

 

あらすじ

港町クンチョンは工場排水により漁が成り立たなくなりつつあった。そんな中、海女のリーダーのジンスク(ヨム・ジョンア)は生活のために密輸に協力することを決断する。ある時、税関によってジンスクは現行犯逮捕され、親友チュンジャ(キム・ヘス)だけがその場から逃亡するが・・・

ポジティブ・サイド

1970年代の韓国と言えば民主化前=軍事政権下ということぐらいしか知らないが、工業化による公害が問題になるところは日本と同じか。海女たちが自発的にではなく、生活の糧を売るためにやむなく密輸に協力するというプロットには説得力があった。

 

その海女たちが一度は摘発され、刑務所で過ごし、娑婆に戻ってからも汚れた海で生きるしかないという描き方が痛切。腐った海藻でスープを作って幼い子どもに与えざるを得ないシーンには胸が痛んだ。こうした背景があるため、密輸という犯罪に従事する海女たちを一方的に断罪することができない。

 

その海女の中心人物ジンスクを演じたヨム・ジョンアと、裏切り疑惑のチュンジャの再会。そこから動き出すヒューマンドラマとクライムドラマの両方が、非常にテンポよく展開される。随所で挿入される韓国版懐メロも映像とストーリーにマッチしていて、それもストーリーテリングに一役買っている。

 

ソウルの密輸王、クォン軍曹と彼の片腕がアメリカのグリーンベレーかと思うほど強すぎるが、ベトナム戦争帰りだという設定によって、荒唐無稽なアクションシーンにもリアリティが感じられた。終盤の水中での大立ち回りは非常に新鮮に映った。水連達者の海女が男たちを一人また一人と始末していくのは痛快だった。

 

最後はすべての悪を華麗に打ち倒して、ハツラツとしている海女たち。密輸や殺人に関わっておきながらそれはないだろうとも思うが、「まあ、そんなことはええか」と思わせるだけのデタラメなパワーを持った作品でもある。韓国映画は邦画が絶対に作れない作品を時々軽々と作ってくれるが、本作は間違いなくそうした一品である。

 

ネガティブ・サイド

海女たちの集合写真がまんま『 セックス・アンド・ザ・シティ 』なのは時代が合わないし、オリジナリティにも欠けると感じた。

 

チュンジャがクォン軍曹の信用を得る過程の描き方が弱かった。軍人上がりでソウルの地下社会・密輸業の実力者たるクォン軍曹の片腕的なポジションに成り上がるまでに、クンチョン以外の舞台でのチュンジャの活躍を2~3分挿入しても良かったのではないかと思う。

 

韓国(映画)では警察=無能、役人=悪人という等式が成立するが、本作でもそれは例外ではない。そういう意味では本作の真相にはあまりサプライズを感じられなかった。

 

総評

50年前の韓国でこんなに生き生きと女性が活躍していたとは思えないが、それでも「ひょっとしたらこんな人たちがいたのかも・・・」と思わせるだけの妙なパワーが本作にはある。実話ベースということだが、おそらく海女さんが密輸に協力していたことがあっただけで、ヤクザや税関相手に大立ち回りをしていたはずはない。ただ、そうした荒唐無稽な想像を実際に映画に仕立て上げてしまうリュ・スンワン監督の手腕は見事。子供向けとは言えないが、40代以上なら男女を問わずに楽しめるはずの作品だ。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

セグァン

税関の意。言わずと知れた輸出入に関わるレギュレーションを担当するお役所。本作で最も多く聞こえてくる語彙の一つ。今学期、Jovianは薬学部で英語を教えていたが、受講者の中には「将来は麻薬取締官になりたい」という者も毎年ちらほらいる。彼ら彼女らは将来、税関と連携して、水際で禁輸や密輸を食い止めてくれることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 朽ちないサクラ 』
『 キングダム 大将軍の帰還 』
『 YOLO 百元の恋 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, キム・ヘス, ヨム・ジョンア, 歴史, 監督:リュ・スンワン, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 密輸 1970 』 -虚々実々の密輸ドラマ-

『 クワイエット・プレイス:DAY 1 』 -少々ネタ切れ気味-

Posted on 2024年7月11日 by cool-jupiter

クワイエット・プレイス:DAY 1 50点
2024年7月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ルピタ・ニョンゴ ジョセフ・クィン
監督:マイケル・サルノスキ

 

『 クワイエット・プレイス 』、『 クワイエット・プレイス 破られた沈黙 』に続くシリーズ第三作。

あらすじ

末期癌のためホスピスで暮らすサミラ(ルピタ・ニョンゴ)は、マンハッタンでショーを観る。その後に思い出のピザを食べようと思っていたが、突如街に隕石が降り注ぎ、音を立てるものを何であれ襲う謎の攻撃者が現われる。介助猫のフロドと、偶然に知り合ったエリック(ジョセフ・クィン)と共に、サミラは死ぬ前に思い出のピザを食べたいとピザ屋を目指すが・・・

ポジティブ・サイド

前二作のエミリー・ブラントは「これ以上失うことができない」というキャラだったが、今回のルピタ・ニョンゴは「もはや失うものがない」というキャラ。甲斐甲斐しい男性ナースに対しても「友達ではない」と言い切ってしまう。そんな一種の厭世家が、介助猫のフロドにだけは気を許す。『 マトリックス レザレクションズ 』ではないが、我々は愚かなことに猫には弱い。そしてこの猫が『 落下の解剖学 』の犬のスヌープに優るとも劣らない存在感を放つ。

 

サミラの目的が「生き残る」、「生き延びる」ではなく、「生きたことを実感する」である点がユニーク。”I wanna get pizza” という彼女の欲求は、どこか『 パルプ・フィクション 』のユマ・サーマンの ”I wanna dance, I wanna win, I want that trophy” に通じるものがあった。続編の予感を漂わせた完結の仕方に、ハリウッドの商魂たくましさを垣間見た。

 

ネガティブ・サイド

「音を立てたら超即死」という設定の妙味も、さすがに三作目となると薄れてくる。というわけで、『 ロード・オブ・ザ・リング 』よろしくお供を連れての旅路というプロット自体は悪くないが、そのおかげで緊張感が薄れてしまった。

 

また全二作の主人公が白人女性だった反動か、サミラが道々で白人男子および白人男性を助けて行くという筋立ては、かなり不自然に感じられた。ストーリーを面白くするのに、そんなポリコレ要素は不要だと思うのだが。

 

あとは攻撃者の神秘性を剥ぎ取るような、とあるシーンは蛇足だった。生物なのか、それとも生物型の兵器なのか、という謎は謎のままにしておくべきだったのではないだろうか。

 

総評

話もコンパクトにまとまっていて、サクサク進む。攻撃者がなぜ音にこだわるのか、どこから来たのか、何を狙っているのかはどうでもいい。とにかくハラハラドキドキする設定の中で必死に生きる人々の姿を見守る作品だと思えばいい。続編が製作されればある程度の収益は見込めそう。同時に franchise fatigue =シリーズ疲れも見て取れる。続編の可能性は、結局は観客動員と売上だろう。 

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

service cat

劇中では「介助猫」と訳されていた。そんな猫が存在するのかどうかは寡聞にして知らないが、介助犬は service dog と言う。その中でも最もポピュラーな盲導犬は seeing-eye dog と言う。英検準1級以上を目指すなら知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 朽ちないサクラ 』
『 密輸 1970 』
『 キングダム 大将軍の帰還 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アメリカ, ジョセフ・クィン, スリラー, ルピタ・ニョンゴ, 監督:マイケル・サルノスキ, 配給会社:東和ピクチャーズLeave a Comment on 『 クワイエット・プレイス:DAY 1 』 -少々ネタ切れ気味-

『 THE MOON 』 -韓国産の国威発揚映画-

Posted on 2024年7月9日2024年7月9日 by cool-jupiter

THE MOON 60点
2024年7月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ド・ギョンス ソル・ギョング
監督:キム・ヨンファ

 

怪作『 ミスターGO! 』の監督で、傑作『 モガディシュ 脱出までの14日間 』の製作を務めたキム・ヨンファが監督/脚本を努めた作品ということでチケット購入。

あらすじ

韓国のロケット「ウリ号」は米国に次ぐ月面有人探査を実行するため、3人のクルーを乗せて月軌道を目指していた。しかし太陽風の影響で通信が途絶、修理のためEVAに従事していたクルー2名も命を落としてしまう。ひとり残されたソヌ(ド・ギョンス)を救出するため、前ミッションのフライト・ディレクターだったジェグク(ソル・ギョング)が呼び戻されるが・・・

ポジティブ・サイド

『 アポロ13 』や『 ゼロ・グラビティ 』、『 ライトスタッフ 』、『 オデッセイ 』などの先行ハリウッド作品を意識していることが伺える。ハラハラドキドキが最優先。そしてその期待にしっかり応えてくれている。韓国映画の「とにかくエンタメ路線に徹しよう。社会的なメッセージはその後だ」という割り切った姿勢は買いである。

 

地球側ではほぼすべて会話劇、宇宙および月ではほぼすべてアクションと、非常にメリハリが効いている。シリアス一辺倒にならないのは、政治家キャラが韓国特有の selfish な論理を振りかざしまくるから。政治は科学をサポートこそすれ、コントロールしてはならないという製作者の意図は十分に伝わった。

 

月面のCGは『 アド・アストラ 』並みに美麗で、そこで起きる事象のスリルと恐怖は『 アド・アストラ 』の月面上での小競り合いをはるかに超えていた。つくづくハリウッド作品の亜種をうまく作るものだと感心する。

 

名優ソル・ギョングの重厚な存在感と、若きアイドルのド・ギョンスの演出された未熟さが、一挙に逆転する終盤の展開は(その論理的・倫理的な意味合いはともかく)衝撃的だった。

 

中国映画『 ボーン・トゥ・フライ 』でも無人機が登場したが、時代は有人から無人へと移行しつつある。実際に本作でもドローンのマルが good job を見せてくれる(『 インターステラー 』のTARSを意識していたように思う)。それでも人が宇宙に向かうことについて、資源調査以上の意義があることを本作は示している。宇宙からは地球の国境は見えない。そして、宇宙に国境はないのだ。

 

ネガティブ・サイド

普通に考えて強烈な太陽風が吹き付けたり、あるいは流星雨が来ているというタイミングで、友人ロケットは打ち上げないだろうと思う。特に太陽風は普通に地上にも影響を及ぼすし、月に降り注ぐ極小天体もテレビで「月の謎の発光現象」と取り上げられるくらいにはメジャーな現象だ。ここらへんを無視してロケット打ち上げを強行するような背景が無かったのはリアリティの面で大きなマイナス。

 

目指すのが永久影のある月の南極だというのが気になった。月の極は航法的にそう簡単にたどり着ける場所ではない。月周回軌道に乗ってから、月の極を目指すというプロセスが大胆に省かれてしまったのが気になった。事細かに描写する必要はないが、月の極に着地できる軌道までどのように移動するのかについて言及だけはしてほしかった。

 

また、最終盤に驚きの告白が主要キャラクターによって連続でなされるが、これは普通に警察や検察が捜査して、事実ならば逮捕されるような内容。韓国の警察は無能だが、検察は有能。ポリティカル・ドラマの一面も有する作品だけに、この点も大いに気になった。

 

総評

『 ボーン・トゥ・フライ 』に続く、アジア発の国威発揚映画。日本もハヤブサが帰って来た時には立て続けに関連映画が3本公開されていたが、もはやそういう映画は作れないのだろうか。最後に流れる Fly Me to the Moon がハリウッドの『 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 』の壮大なCMソングに聞こえた。韓国映画は良くも悪くもハリウッド映画の亜種というか後追いなのだ。単なる後追いではなく、いつか追い越してやるという気概が感じられる。そこは素直に凄いと思う。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ソンベ

先輩の意。過去にも書いたと思うが、韓国は日本と同じく役職や肩書を非常に重視し、それで相手に呼びかける文化を持っている。軍隊では当たり前のことだが、これは世界的にはかなり珍しい文化なのではないだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 THIS IS LIFE スマホから見る中国人の人生 』
『 クワイエット・プレイス:DAY 1 』
『 朽ちないサクラ 』

 

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