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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 海外

『 AVA/エヴァ 』 -続編は難しいか-

Posted on 2021年4月18日2021年4月18日 by cool-jupiter

AVA/エヴァ 40点
2021年4月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェシカ・チャステイン ジョン・マルコヴィッチ コリン・ファレル ダイアナ・シルヴァース
監督:テイト・テイラー

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『 女神の見えざる手 』のジェシカ・チャステイン主演作。定期的に制作される女性エージェントの物語だが、割と最近の『 ANNA アナ 』と比較すると、二枚は落ちるかなという印象。

 

あらすじ

暗殺者エヴァ(ジェシカ・チャステイン)は、標的を殺す前に「あなたはどんな悪いことをしたの?」と問いかけるようになっていた。ある任務で、事前に与えられた情報が誤っていたことからエヴァは組織への不信感を募らせる。そして標的に問いかけるという行動を問題視していた組織も、サイモン(コリン・ファレル)にエヴァを始末させようとして・・・

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ポジティブ・サイド

ジェシカ・チャステインというだけでチケットを購入を購入した人は多いだろう。Jovianもその一人。彼女の演技力は折り紙付きで、実際に鉄面皮の殺し屋から情緒不安定な女性的な面までを2時間足らずの間に幅広く披露した。大将という対象を暗殺した後に現場から逃走する際に、か弱い女性のふりをして兵士を騙す変わり身の早さ。ひらひらのドレスのままに格闘から銃撃戦までをこなすタフさ。複数言語を流暢に操る頭脳明晰さ。いずれにおいても説得力のある演技が堪能できる。

 

アメリカ映画でしばしば大きな柱として描かれる父親=positive male figureとの間に因縁があり、それが組織の上司であり、また父親代わりでもあるジョン・マルコビッチとの複雑な距離感につながっている。そのマルコヴィッチも年齢不相応のアクションで見せ場を作る。エヴァとサイモンの両方の師匠であることから、片方は父親の補完、もう片方は父親殺しを成し遂げるという因縁多きキャラクター。この好々爺を間に挟むことで、エヴァとサイモンの激突がよりドラマチックになっている。

 

ジェシカ・チャステインのファンならばチケットを買おう。

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ネガティブ・サイド

ジェシカ・チャステインの走りの不格好さはハリソン・フォードに通じるものがある。アクションの迫力はまあまあだが、それも細かいカットを巧みに編集したもの。ジェシカ・チャステイン本人の athleticism 自体はあまり高くなさそう。女優の運動能力という点では『 悪女 AKUJO 』や『 The Witch 魔女 』といった韓国映画に余裕で負けている。銃撃戦の方はまだしも、近接格闘戦になると、カットごとのつながりが妙にぎこちなく映る。fight choreographer の指導がイマイチというのもあるかもしれないが、ジェシカのパンチやキックのすべてに「何か違う」感がずっと付きまとっている。元軍人の現暗殺者というキャラ設定が、アクションのせいで弱くなってしまうのは本末転倒である。

 

暗殺者のプライベートな面を描くのは興味深い試みだが、そこでも『 ANNA アナ 』に負けている。あちらは一人の女性が二人の男を手玉に取ったが、こちらは一人の男を二人の女(それも姉妹!)で取り合うという修羅場展開。暗殺者のプライベートにまで闘争の種は要らんやろ・・・ しかも、その相手の男も職業がギャンブラーって何やねん。恋愛および結婚対象にしたらダメな属性ナンバーワン。8年も暗殺稼業をやっているエヴァが、この男に未練たらたらである理由がさっぱり分からなかった。

 

サイモンの最期が残念過ぎる。何故にわざわざ人気の少ない方向へと逃げるのか。組織に家族の護衛を要請するなら、同じその電話で自分に応援または足を寄こすようにと言えばいいではないか。エヴァ相手に「俺のほうが殺しのキャリアは上だ」みたいなことを言っていたが、とてもそうは思えなかった。終わり良ければ総て良しと言うが、終わりが悪ければ総て悪しとも言えてしまう。その典型例のような悪役だった。

 

『 マー サイコパスの狂気の地下室 』や『 ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 』のダイアナ・シルヴァースの出番が足りない。というか、続編作る気満々の終わり方だが、それならサイモンの娘であるカミールの強さがほんの少しでもいいから伝わるシーンが必要だったが、そんなシーンも演出も無し。ダイアナ・シルヴァースの無駄使いだった。

 

総評

ジェシカ・チャステインのファンにはお勧めできるが、それ以外にはやや難しい。聞けば途中で監督が降板して、テイト・テイラーが引き継いだらしい。『 ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー 』などでも分かるが、監督が途中で代わるのはマイナスがあまりにも大きい。野球やサッカーは監督交代が奏功することがあるが、映画でそれはまずない(そういう意味では『 ボヘミアン・ラプソディ 』は例外的)。なので、物語や映像、キャラの深堀具合などではなく、ひたすらジェシカ・チャステインを鑑賞したい人のための作品であると了承してから李チケットを買うべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

do ~ justice

~を正当に評価する、の意。作中では”Pictures don’t do you justice.” =「写真はあなたを正当に評価していない」=写真はあなたの魅力をしっかりと写し出していない、のように使われていた。昔、YouTubeでアメリカのボクシング試合を見あさっていた時に、”TV does this fight no justice!” = 「テレビではこの試合の迫力が伝わらない!」というアナウンサーの絶叫を聞いたことがある。こういう表現がさらっと使えれば英会話の上級者と言える。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, コリン・ファレル, ジェシカ・チャステイン, ジョン・マルコヴィッチ, ダイアナ・シルヴァース, 監督:テイト・テイラー, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 AVA/エヴァ 』 -続編は難しいか-

『 ザ・バッド・ガイズ 』 -悪をもって悪を制す-

Posted on 2021年4月16日2021年4月16日 by cool-jupiter

ザ・バッド・ガイズ 60点
2021年4月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マ・ドンソク キム・アジュン
監督:ソン・ヨンホ

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マ・ドンソク出演作ということで迷わずチケットを購入。それなりに楽しめたが、ところどころよく分からない展開も。後から知ったが、テレビドラマの映画化だった。前もってドラマを予習しておくのが吉だろう。

 

あらすじ

囚人護送車が襲撃され、多くの凶悪犯罪者が逃亡した。警察は腕利きの犯罪者で構成される「特殊犯罪捜査課」を使って事態の収拾に乗り出す。その中には「伝説の拳」と呼ばれたパク・ウンチョル(マ・ドンソク)や天才詐欺師のクァク・ノスン(キム・アジュン)もおり・・・

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ポジティブ・サイド

悪が悪を追うという展開であるが、韓国映画における巨悪とは、企業であったり学校であったり警察であったり銀行であったり政府であったりする。なので、本作を劇場鑑賞するぐらいに韓国映画好きな諸賢はあらためてこのことを意識されたし。本作で描かれる「追われる側の悪」はなかなかに衝撃的だからである。

 

韓国版、悪のドリームチームと言うとかなり大げさだが、元警察官の服役囚に暴力団員、詐欺師、それを束ねる老刑事というのは、どことなく『 スーサイド・スクワッド 』的である。または Birds of Prey 的であるとも言える。つまり、より大きな悪が存在するということ。毒を以て毒を制す。悪をもって悪を制す。単純な善悪二元論ではないのだから、ある程度面白いのは保証されている。

 

実際に、マ・ドンソクはいつも通りのマ・ドンソクである。つまり、鉄拳ですべてを解決する男で、殴って殴って殴りまくりである。元警察も女詐欺師も、とにかく自らの肉体を武器にして格闘しまくりである。韓国映画全般に言えることだが、殴ったり蹴ったりの演技、さらにそれを撮影する技術はやはり日本よりもかなり高い。銃撃戦ではなく肉弾戦なので、単純に見ているだけで楽しい。

 

中盤では逃げた囚人の中でもキーマンとなる男を追う展開はナ・ホンジン監督ばりの追跡劇。「逃げる」と「追う」はやはりサスペンスの基本である。『 無双の鉄拳 』で個人的に度肝を抜かれた竜巻旋風脚の(別の)使い手が本作では助っ人で登場。この悪の五人組が大人数を相手に立ち回る様は『 エクストリーム・ジョブ 』の終盤を彷彿とさせた。物語そのものに厚みはないが、爽快感だけは保証できる。

 

もちろん、分かりやすい社会的なメッセージも込められている。老刑事が最後に警察のお偉いさんに言い放つセリフは、そのまま日本の政治屋連中に当てはまる。声のでかさに定評のある韓国人だが、『 暗数殺人 』のキム・ユンソクが切々と訥々と思いを語ったように、肝心なところでは静かに話す。このギャップがいいのである。日本の役者も抑えた演技というものを磨いてほしいと感じる、出色の演技だった。

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ネガティブ・サイド

マ・ドンソクの新たな一面というか、若い女性に戸惑ったりする面というのは新鮮でありながら、あまり面白くは感じなかった。このおっさんは基本的には鉄面皮または朴念仁というのが似合う。キム・アジュンは確かに milfy な女優さんであるが、マ・ドンソクの魅力的な一面を引き出すキャラだったかというと疑問符が付く。

 

元がテレビドラマゆえか、ドラマ未鑑賞者からすれば「この人は誰?」という人が、特に序盤にちらほら出てくる。そういった脇のキャラはばっさり省くか、あるいは映画で初めて本作の世界に触れる人向けに簡単に人間関係を俯瞰できるような描写が欲しかった。

 

秦の黒幕の存在がちょっと・・・ 非現実的というか、お隣さんの韓国は何を思ってこの黒幕を設定したのだろうか。いや、別に誰をどう黒幕に設定してくれても構わんのだが、かの国のかの業界には最早そんな力はないわけで・・・ 『 犯罪都市 』を作った韓国が、韓国を皮切りに大陸にまで続く黄金の道を作ってやろうという気宇壮大な犯罪者集団をかの国から持ってくるという発想がちょっと突飛すぎる。

 

最後のバトルもギャグである。もちろん迫力はあるのだが、凄みのある暴力には見えない。むしろ、「そんなアホな」というのが素直な印象である。だいたいこういう自分の手を汚すタイプの悪役でなおかつ腕っぷしも強い奴というのは『 哀しき獣 』のキム・ユンソクみたいな延辺朝鮮族自治州のワルのような印象しかないが。

 

総評

普通に面白い作品である。ただ面白さの質が少々薄い。エンタメ要素の中にさりげなく、しかし確実に社会批判の要素を組み込んでくるのが韓国映画の様式美だが、本作はそこに至るまでの過程が弱い。ストーリーもマ・ドンソクの、文字通りの意味での剛腕頼みで、マ・ドンソク自身のキャラも他のキャラも立ちそうで立たなかった。まあ、ドラマ未鑑賞者の感想なので、このあたりはドラマをよく知っている人の感想とは大いに異なるだろう。爽快感は保証できるが、黒幕が少々アレなのが玉に瑕か・・・

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ワイロ

まいないの文化や伝統がかなり豊かであると思われる韓国で、まさか賄賂という言葉や概念が日本から逆輸入された、あるいは日本統治時代に根付いたとは考えづらいが、韓国語でも賄賂はワイロと言う。『 マルモイ ことばあつめ 』でも観て勉強しようかな。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アクション, キム・アジュン, マ・ドンソク, 監督:ソン・ヨンホ, 配給会社:エスピーオー, 韓国Leave a Comment on 『 ザ・バッド・ガイズ 』 -悪をもって悪を制す-

『 パーム・スプリングス 』 -結婚について考えよ-

Posted on 2021年4月14日 by cool-jupiter

パーム・スプリングス 70点
2021年4月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アンディ・サムバーグ クリスティン・ミリオティ J・K・シモンズ
監督:マックス・バーバコウ

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無名キャストたちが主演を張りながらも、アメリカではかなりの高評価だったことからチケットを購入。タイムトラベルものやタイムループものは出だしは絶対に面白いのだが、着地に失敗することも多い。本作はちゃんと着地できている。

 

あらすじ

結婚式で出会ったナイルズ(アンディ・サムバーグ)とサラ(クリスティン・ミリオティ)は、二人でロマンチックな雰囲気に。しかし、そこへ謎の老人ロイ(J・K・シモンズ)が現れ、ナイルズにボーガンの矢を放つ。ナイルズは「来るな!」と言い残して、赤い光を放つ洞窟の中に消えていく。ナイルズを追って洞窟に入ったサラは、気が付くとその日の朝に戻っていて・・・

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ポジティブ・サイド

同じ一日を何度も繰り返すという作品には『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』があるが、ある意味ではこちらのナイルズの方があちらのトム・クルーズよりも遥かに深刻で、なおかつ状況を楽しんでいる。冒頭のシークエンスから笑ってしまう。起き抜けにいきなり一戦交えるナイルズとそのガールフレンドのミスティだが、ナイルズはまったく興奮しておらず、ミスティも「時間がないから」と言って、ナイルズに自分で出すように言うが、そのそばで”Shit!”を連発するミスティを見つめるナイルズの表情が様々なことを物語っている。物語の中盤以降にこの顔を思い浮かべれば、アンディ・サムバーグの演技力・表現力の豊かさを称賛できるはずだ。

 

ヒロインのサラは大きな目が特徴的な妙齢の女性。しかし、妹が結婚するというのに本人は独身、家族の態度も何やらよそよそしい。パーティーでも一人で延々と飲むタイプで、社交的には見えない。割とすぐに本人の口から語られることだが、いろいろちょっとアレな人なのだ。この序盤の家族、特に父親の言動をしっかりと覚えておくと、終盤の物語の舞台裏(タイムループ現象の謎ではない)が明らかになる瞬間に役立つ。

 

ナイルズがミスティの浮気に傷心して、それを見たサラがナイルズを癒してやりたくなってしまい・・・という部分だけ見ればよくある三文芝居なのだが、ここの作りが非常によく、二人の盛り上がりにリアリティがある。と同時に、実はこのプロット自体が・・・と、これ以上は書いてはいけないんだった。

 

色々あってループ世界を楽しむ二人の様子を観るのはこちらも楽しくなってくる。実際に自分でもこういう行動をとるだろうな、という大胆な行動をとってくれるのだ。だって死んでもリセットされる(一応痛みは感じるらしい)だけで、どんなリスクだって取り放題なのだから。つまり、二人は二人だけの世界で生きているわけだ。というあたりで愚鈍なJovianは、これが恋愛および結婚生活の象徴であることに気が付いた。恋愛をしているときは無敵な感じがする。そして結婚当初もそうである。しかし、だんだんと二人だけの生活を続けていくと、そこに新鮮味を感じられなくなってくる。そうした時にどうすべきなのか。これはある意味で結婚観を問われる映画である。Jovianは結婚とは「その相手と一緒に年を取っていきたいと思えるかどうか」だと考えている。もちろん、「その相手との間に子を持ちたい」だとか「その相手と一緒に子供を育てたい」、「その相手と一緒に笑いたい」、「その相手と一緒に苦労をしたい」など、これは人の数だけ答えがある問いだ。不正解と言える答えはあるだろうが、唯一の正解などというものは存在しない。

 

タイムループもラブコメ要素も普通といえば普通だが、本作のメッセージは「結婚について真剣に考えてほしい」ということなのだろうと受け取った。もしも独身者や「結婚?しねーよ」と言う人は、絵本の『 100万回生きたねこ 』を読んでから、本作を鑑賞されたし。そうすればナイルズの決断について、より深く共感できるようになるはずである。

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ネガティブ・サイド

J・K・シモンズの出番はもっとあってよかった。というか、時々現れて殺しに来ると言いながら、実際にやってくるのは2回だけ。これだけでは拍子抜けだ。もちろん、なぜあんまりやって来ないのかは後から説明されるが、前半で能天気に楽しむナイルズとサラに a change of pace をもたらすために、もう少し高い頻度で殺しに現れてほしい。そうすれば、無意味だと感じてしまうようになる生にも何らかの意味があるはずだと考えるきっかけになったのではないか。

 

素朴な疑問が二つ。一つは、サラがタイムループからの脱出方法を実験するためにヤギを使うのだが、なぜサラはそのヤギがタイムループをしていると知っていたのだろう。あるいは、ヤギを洞窟の赤い光に連れ込んだのだろうか。であれば、その描写はカットしてはいけなかったのではないか。

 

疑問のもう一つは、タイムループの内と外。この終わり方だと、タイムループは実はタイムループではない。あるいは『 アベンジャーズ/エンドゲーム 』のように、時間線=意識線のような時間構造を想定しなければならないが、だとするとサラが独学していた量子力学は・・・まあ、これはタイムトラベルの原理と同じで深く考えてはいけない領域か。

 

総評

余計な登場人物や余計なサブプロットもなく90分でサクッと終わるので非常に観やすい。一部、性的な描写もあるが露骨なものではない(一応、PG12である)ので、高校生ぐらいならデートムービーとして鑑賞することもできそうだし、夫婦で鑑賞すればさらに味わい深くなること間違いなしである。コメディ調でありながら、訴えてくるテーマはシリアス。しかしシリアスさは感じさせず、ライトなノリで最後まで楽しめる。結構な掘り出し物だと思うので、映画ファンならチケットを買われたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

cheat on somebody

日本語でもチートという片仮名で根付いているが、英語ではcheat on somebody = 誰かという相手を裏切って浮気をする、の意味。cheat on Nancyというのはナンシーが浮気相手という意味ではないので注意。この場合、裏切られたのはナンシーである。cheat in an exam=試験でカンニングをする、というのも割と使われる表現である。cheat = 何らかの不正行為を行う、と理解しておこう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, J・K・シモンズ, アメリカ, アンディ・サムバーグ, クリスティン・ミリオティ, ラブコメディ, ラブロマンス, 監督:マックス・バーバコウ, 配給会社:プレシディオ, 香港Leave a Comment on 『 パーム・スプリングス 』 -結婚について考えよ-

『 21ブリッジ 』 -プロットはありきたりだが、迫力は十分-

Posted on 2021年4月11日 by cool-jupiter

21ブリッジ 55点
2021年4月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:チャドウィック・ボーズマン J・K・シモンズ ステファン・ジェームス
監督:ブライアン・カーク

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ブラックパンサーのチャドウィック・ボーズマンの遺作。マンハッタン封鎖という壮大なスケール+話題性に惹かれて鑑賞。エンタメの面だけ見れば上々である。

 

あらすじ

マンハッタンで警察官8人が射殺されるという事件が発生した。警察官殺しの犯人を過去に何度も射殺してきたアンドレ・デイビス(チャドウィック・ボーズマン)刑事が犯人を逮捕するため、マンハッタンを全面封鎖するが・・・

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ポジティブ・サイド

チャドウィック・ボーズマンの雄姿が光る。冒頭の査問シーンから、容赦なく相手を射殺していくタイプかと思いきや、血も涙もある人間だった。認知症の母親をいたわる姿に、Mama’s boyとしての顔と、激務である刑事の仕事に誇りを持っているというプロフェッショナリズムの両方が見えた。これがあるためにラストの言葉による対決が説得力を持っていた。

 

犯人たちを追跡するシークエンスも大迫力。追いかけるデイビスは『 チェイサー 』のキム・ユンソクばりに走る走る、逃げる。犯人の一人であるマイケルも『 哀しき獣 』のハ・ジョンウばりに逃げる逃げる。マンハッタンの街中や道路、地下鉄、住宅などを縦横無尽に駆け巡る追跡&逃走劇は、邦画では描けない臨場感。追う者と追われる者がいつしか自分たちだけの一体感を得ていくというのは、よくある話であるが、それゆえに説得力がある。

 

ハリウッド映画で感じるのは、銃撃のリアリティ。銃撃されたことはないけれど、色々なものが確実に伝わってくる。Jovianは大昔に一度だけアメリカで銃を撃ったことがあるけれど、銃器って重いんだ。それを扱っている人間の体の動きや姿勢、撃った後の反動、それに音響などの迫真性がたまらなく恐ろしい。こればっかりは邦画が逆立ちしても勝てない領域(勝つ必要はないけれど)。

 

チャドウィック・ボーズマンのファンならば、彼の雄姿を目に焼き付けるべし。

 

ネガティブ・サイド

デイビスのキャラクターをもう少し深堀りすることはできなかったか。警官殺しを容赦なく殺すというのは、なかなか強烈なキャラクターだ。だからこそ、冒頭で描かれる彼の父親の死や、実際に彼が行ってきた容疑者や犯人の射殺に至る経緯をもっと詳しく見せる必要がある。それが中途半端ゆえに「あれ、撃ち殺すんじゃないの?」という疑問がわき、それが「ああ、撃ち殺せないプロット上の理由があるのね」とつながってしまう。このあたりからストーリーの全体像が読めてしまうし、2020年夏の米ウィスコンシン州のジェイコブ・ブレイク事件を彷彿させる、無抵抗な人間を警察が容赦なく射殺・銃撃するシーンを見せられれば、否が応でも黒幕の存在にはピンとくる。韓国映画の警察が無能というのは常識だが、アメリカ映画の警察が味方とは限らないというのもまた常識である。

 

デイビスの孤立無援、孤軍奮闘っぷりばかりが目立つが、「ヨランダ」にもう少し後半に出番があってもよかったのではないか。「ケリー」の方にはあるのだから、ここはバランスをとってほしかった。というか、ヨランダがデイビスにかけてきた電話はいったい・・・

 

総評

警察という仕事の困難さはJovianも義理の親父から何度か聞かされた。しかし、警察という仕事の誇らしさもそれ以上に聞かされた。そういう意味で、マンハッタン封鎖作戦以降は、警察1vs警察の物語として観るべし。ただしデイビスの人間性はうまく描出されていたが、デイビスの警察官としてのバックグラウンドがほとんど描かれなかった点が惜しい。同じようなテーマの『 ブラック アンド ブルー 』の方が面白さは上だと感じた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

be on borrowed time

『 サヨナラまでの30分 』で紹介した live on borrowed time とほぼ同じ意味である。つまり、借り物の時間で存在している=死ぬのは時間の問題、ということ。劇中のアメリカの警察の恐ろしさを実感させてくれるセリフである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, J・K・シモンズ, アクション, アメリカ, ステファン・ジェームス, チャドウィック・ボーズマン, 中国, 監督:ブライアン・カーク, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 21ブリッジ 』 -プロットはありきたりだが、迫力は十分-

『 モンスターハンター 』 -ゲームの世界観は再現されず-

Posted on 2021年4月4日 by cool-jupiter

モンスターハンター 50点
2021年4月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ トニー・ジャー
監督:ポール・W・S・アンダーソン

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実はJovianはモンハンはプレイしたことがない。しかし、モンハン製作者の方の一人と交流があるため、モンハンは応援しているフランチャイズの一つである。USJでモンハンのアトラクションにも行ったし、幸運にもコンサートに招待されたこともある。CDを買って、サインをしてもらったこともある。けれど映画は映画、ゲームはゲーム。批評は公平にせねばならぬと言い聞かせてもいる。

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あらすじ

国連軍所属のアルテミス大尉(ミラ・ジョヴォヴィッチ)は隊と共に砂漠の嵐に飲み込まれた。気が付くとそこは巨大な怪物が跋扈する異世界だった。隊員は巨大蜘蛛に殺されてしまい、アルテミス自身も窮地に陥る。しかし、そこで彼女はハンター(トニー・ジャー)と出会い・・・

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ポジティブ・サイド

ディアブロスやネルスキュラといったモンスターの迫力が素晴らしい。JovianはあまりCGそのものには感動しないのだが、大学生の頃に観た『 ロード・オブ・ザ・リング 』のバルログを心底怖いと思ったが、あの感覚に近い。『 ホビット 竜に奪われた王国 』の邪竜スマウグにも同様の感覚を抱いた。ゴジラやガメラといった怪獣は着ぐるみとの親和性高いし、『 エイリアン 』のゼノモーフなども着ぐるみであるからこその実在感があった。だが、モンハン世界は神話や伝説のファンタジー世界の方に近いのでCGでも問題はなしである。

 

ミラ・ジョヴォヴィッチとカプコンは相性が良いのかな。『 バイオハザード 』と『 バイオハザードⅡ アポカリプス 』は面白かった(シリーズ最後の2つは観ていないが)。本作でも、いわゆる戦う女性としてのアイデンティティを見事に発揮。アリス役で銃を撃ちまくる姿を思わず重ね合わせたファンは多いのではないだろうか。

 

ハンター役のトニー・ジャーはミラ・ジョヴォヴィッチを上回る存在感。ゲーム未プレイのJovianでも「あ、なんかゲームのキャラっぽい」と直感した。格闘能力や弓矢の腕前、ハントの知恵など、本当はもっとたくさんいるはずのハンターたちの属性を一手に引き受けていたように思うが、確かにそれらをすべて体現していた。タイ人ということだが、日本人でもこういう無言・無口で、しかしアクション能力は抜群みたいな役者は、ハリウッドを目指すべきだと思う。トニー・ジャーが今作で見せたパフォーマンスは日本や韓国、インドの役者がハリウッド進出を目指す際の一つの目安になるのではないか。

 

ディアブロスとの戦闘シーンは迫力満点。ゲームのドラクエやFFなど、明らかに自分よりも遥かに巨大なモンスターと戦っている時の自らの脳内イメージに近いものがあったし、ファンタジー世界に浸っているという感覚も十分に味わえた。モンハン未プレイ者としては、それなりに満足できた。

 

ネガティブ・サイド

製作者の方が言っていた「モンハンの魅力はチームワークとコミュニケーション」がきれいさっぱり抜け落ちていた。きれいさっぱりは言い過ぎか。一応、序盤のAチームの面々にはチームワークとコミュニケーションがあった。が、それは単なる死亡フラグやろ・・・

 

タイトルが『 モンスターハンター 』、コンセプトも「モンスターを狩る」ということのはずなのに、そこが弱い。アルテミス大尉とハンターのバトルはそれなりに見どころはあるものの、はっきり言って不要なシークエンスだった。映画自体は続編のありきの作り方とはいえ、人間パート、もっと言えば人間同士のバトルのパートはもっと削って「モンスターを狩る」、「モンスターの皮や角や牙から武器防具やアイテムを作る」というモンハンならではの世界観の構築に時間とエネルギーを費やすべきだった。そしてそうした思考や行動は現代人であるアルテミスにも可能なはず。普通に考えれば、現代兵器が通用しないモンスターの皮なら実用的な防弾ベストが作れると考えるはずだし、そうすべきだった。どこからともなくアルテミスの体のサイズにぴったりの鎧が出てきたのは不可解だし、逆に鎧を着せるなら、その鎧を手に入れる過程こそしっかり描くべきだった。

 

アルテミスというキャラについても疑問に感じられる点が一つ。自分は指輪というアイテムを後生大事に持っている癖に、ハンターが祈りを捧げる人形にまったくリスペクトを払わないというのはこれ如何に。国連軍所属ということは世界のあらゆる地域の紛争に介入する可能性があるということ。つまり、異文化への理解が不可欠なはずなのだ。そうした職業軍人としての背景と行動が矛盾しているし、単純に見ていて気持ちの良いものではない。

 

一点だけ映画のプロットに関係のないネガティブを。それは序盤の字幕。”I got it!”とあるキャラが叫ぶシーンがで字幕が「分かった!」になっていたが、これは間違い。正しくは「(エンジンが)かかった!」である。

 

総評

アクション映画、ファンタジー映画として観ればそこそこの出来である。ゲーム『 モンスターハンター 』の映画化として観れば微妙だろう。モンハンのいわゆるテーマソング、あれが少しでも使われていれば、それだけで一部のファンはゲーム世界と映画世界がつながったと感じられたはず。まあ、良くも悪くもゲーム世界と映画世界は別物だと理解して鑑賞するかどうかを決める必要がある。ちなみにMOVIXあまがさきの客入りはさびしいものだった。ゲームファン世代であるべき10代~30代はほとんどおらず、どういうわけか年配の方々ばかり。公開から1週間以上が経過しているとはいえ、土曜の昼にこのありさまと言うことは、ゲームファンからそっぽを向かれた作品なのだろう。

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bait

エサの意。ただし、ペットの犬や金魚にエサをやるという時のエサではなく、獲物などを呼び寄せる時に使うエサのこと。釣りを嗜む人ならベイトやルアーなどの言葉に馴染みがあるだろう。魚をベイトでルアーするわけである。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, トニー・ジャー, ファンタジー, ミラ・ジョヴォヴィッチ, 監督:ポール・W・S・アンダーソン, 配給会社:東和ピクチャーズ, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 モンスターハンター 』 -ゲームの世界観は再現されず-

『 ANNA アナ 』 -スタイリッシュなスパイアクション映画-

Posted on 2021年4月3日 by cool-jupiter

ANNA アナ 70点
2021年3月30日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:サッシャ・ルス ルーク・エヴァンス キリアン・マーフィ ヘレン・ミレン
監督:リュック・ベッソン

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『 ニキータ 』の昔からスタイリッシュな女性キャラクターを描き出すことにご執心のリュック・ベッソン御大の作品。劇場公開時に見逃したこともあるが、ジェシカ・チャステイン主演の『 AVA/エヴァ 』のトレーラーを観て、同工異曲の本作が気になった。ゆえに近所のTSUTAYAでレンタル。

 

あらすじ

1990年のソ連。不遇な環境に生きるアナ(サッシャ・ルス)は、KGBのアレクセイ(ルーク・エヴァンス)からスパイとしてスカウトされる。彼女はエージェントとして頭角を現し、数々の困難なミッションを遂行していくのだが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 レッド・スパロー 』の虚々実々の騙し合いの駆け引きと『 アトミック・ブロンド 』の肉弾バトルと銃撃アクションを見事に融合している。主演のサッシャ・ルスはまさに佳人薄命。ろくでもない恋人のせいでどん底の生活をしていたところを、アレクセイにスカウトされる。その時の台詞がしびれる。「5分前まで未来がなかったのに、今は5年後の心配か?」

 

KGBに属することになったその先で出会う女上司のオルガの存在感がまた抜群だ。『 グッドライアー 偽りのゲーム 』でも貫禄の演技を見せたヘレン・ミレンが、現場上がりの管理職の凄みを見せる。五体満足ではこの稼業はできないんだぞ、ということをアナにも観る側にも伝えてくる迫力は本物。

 

アクションもスタイリッシュかつ、血みどろの泥臭さ。レストランに乗り込んでの大立ち回りは『 悪女 AKUJO 』の冒頭のシークエンスを彷彿とさせた。カッコよくぶっ殺すのだが、返り血もしっかり浴びる。『 アトミック・ブロンド 』と同じく、敵をちぎっては投げるが、本人もゼェゼェハァハァ状態。闘う女性の美しさをフレームに収めてきたリュック・ベッソンが、血糊というメイクアップをふんだんに使ってきた。それだけサッシャ・ルスという素材が魅力的だったのだろう。実際にそうなのだ。ファッションモデルからコールガールまで違和感なく演じ、バイセクシャルでもある。単なるキリング・マシーンになっていないところがいい。ロシア人だとかKGBだとかは、何やら得体の知れない怖さがあるが、アナのヒューマンな部分がそうしたところをうまく中和してくれている。

 

KGBのアレクセイを演じるルーク・エヴァンスのロシア人っぽさが微妙に笑えるし、うさん臭さと軽佻浮薄さを漂わせながら目が笑っていないキリアン・マーフィも良い味を出している。男ならどこか彼らに自分を同一視してしまうのではないだろうか。男は美女に翻弄されてナンボなのだろう。

 

アナが終盤で見せる暗殺劇と脱出も手に汗握るガンアクションの連続。アクションができる女優というのは、魅力が200%増しに見える。実際にルーク・エヴァンスとキリアン・マーフィをある意味で手玉に取ってしまうのだから、魔性の女でもある。頭脳明晰、容姿端麗、それでいて凄腕のエージェント。けれどその中身は、何よりも自由と解放を希求する一人のか弱い乙女というギャップ。リュック・ベッソンの趣味が全部ぶちこまれたキャラクターの爆誕と言える。波長が合う人にとっては大傑作だろう。波長が合わない人にとっても佳作だと言えるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

過去の回想シーンが結構な頻度で挿入されてくるが、それによってストーリーテリングのテンポが悪くなっている。「3年前」の後に「半年後」みたいな構成は混乱の元だろう。もちろん、そうすることで観客を驚かせたい、キャラクターの背景を深掘りしたいという意図があるのは百も承知だが、このあたりの回想をもっとコンパクトにまとめることはできなかったのか。

 

1990年のソ連崩壊前夜、またはその数年前が舞台のはずだが、ノートパソコンが普通にバンバン登場する。いや、ノートパソコンそのものは当時も存在したガジェットだが、もっと小さかったはず。まあ、ソ連の科学の粋だと思うことにしよう。だが決定的におかしいのはメールに動画メッセージを添付して送信できるところ。これにはズッコケた。そんなもん、当時の技術や通信インフラの水準で出来るわけないやろ、と。『 真・鮫島事件 』でも思ったが、動画をカジュアルにやりとりできるようになったのはたゆまぬ技術革新のおかげで、それは2000年代後半以降のこと。時代考証はしっかりとすべし。

 

総評

普通に面白い。スパイ映画に出てくる人物というのは、『 ミッション・インポッシブル 』イーサン・ハントだとか『 007 』のジェームズ・ボンドのようなキャラ以外は、基本的にダブル・エージェントであることがお約束である。つまり、スパイ映画の文法に忠実でありながら、それ以外の部分での面白さも追求できている。本邦でも『 奥様は、取り扱い注意 』なる地雷臭が漂う作品が公開間近だが、土屋太鳳や山本舞香といったアクションができる女優を使ったスパイアクション映画を作ってほしいものだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Trouble never sends a warning.

危険は決して警告を送ってこない、の意。字幕は忘れたが、このセリフは耳に残った。You can never check too many times because trouble never sends a warning.だと感じる繁忙期の今日この頃である。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, アメリカ, キリアン・マーフィ, サッシャ・ルス, フランス, ヘレン・ミレン, ルーク・エヴァンス, 監督:リュック・ベッソン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 ANNA アナ 』 -スタイリッシュなスパイアクション映画-

『 ノマドランド 』 -現代アメリカの新しい連帯の形-

Posted on 2021年3月28日 by cool-jupiter

ノマドランド 75点
2021年3月27日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:フランシス・マクドーマンド デビッド・ストラザーン
監督:クロエ・ジャオ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210328203003j:plain

様々なメディアによると米アカデミー賞の本命は『 ミナリ 』よりも、こちらだとか。まあ、『 スリー・ビルボード 』のフランシス・マクドーマンド主演なので、話題性がどうであれ観ることには間違いはない。こちらも『 ミナリ 』とは別の角度から人間の生き方に光を当てた良作。

 

あらすじ

長年連れ添った夫のボーを亡くし、勤め先の企業の倒産もあり、住み慣れた家や土地を離れることになったファーン(フランシス・マクドーマンド)。彼女はキャンピング・カーでアメリカ各地を周り、アマゾンの倉庫などで期間限定の仕事をして暮らすノマドになった。そして、行く先々で様々な人々との出会っていき・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210328203026j:plain


ポジティブ・サイド

フランシス・マクドーマンドがその存在感を消して、見事にノマドになっている。いや、ノマドというよりもどこか原始的な人間であるように映る。険のある表情の中に憂いを秘めている。根無し草でありながら、生への執念は消えていない。ノマドという生き方を選ぶことの是非ではなく、どんな形であれ生きることを選択する姿が胸を打つ。ホームレスではなくハウスレスだとファーンが元教え子に伝えるシーンは、衣食住の住には、住まい以上の意味があるのだということを教えてくる。Home is home = 住めば都、という表現があるが、キャンピング・カー、そして思い出の皿など、ホームとは安住できる依り代なのだ。

 

ノマドとしての生活も真に迫っている。原っぱでの排せつや川での行水までも描かれる。しかし、いくら遊牧民とはいえ貨幣経済からは逃れられないし、完全な自給自足も不可能。そこでノマド同士が出会い、寄り添っていく姿がひたすら写実的に描写される。アマゾン倉庫やSAのちょっとしたショップ、ボブ・ウェルズというオーガナイザーの呼びかけるイベントなど、ドラマを盛り上げる要素はいくらでもある。だが、そうはしない。なぜならファーンを始めとしたノマドたちがただ生きる日々それ自体が十分にドラマだからだ。もちろん、他人の善意がファーンを大いに傷つけることもある。だが、それを許すことができるのもまた人だ。作った事件やハプニングがなくとも、人の生き様は充分にドラマチックでありうるのだ。

 

キャンピング・カーの内と外、都市の内と外、家庭の内と外。ノマドは、自分以外の人間と隔絶した世界に生きている。それをするのが広大無辺なアメリカの大地だ。ビルも家も何もない。草原や荒野や岩地が広がるばかりの光景に、朝焼けと夕焼けが映える。まるで一日一日が再生と死を象徴しているかのようだ。そうした情景描写がファーンを始めとしたノマドたちの生き様をよりリアルにしている。実際に本作に登場するノマドたちは本当のノマドによって演じられていることをエンドクレジットで知って驚いた。演出された世界ではなく、現実の世界を観ていた。現実と虚構の境目があやふやになった。ノマド的な生き方に憧れを持つことはいが、ノマドという生き方を現実に選択する人々のことをリスペクトしたいと強く感じるようになった。ファーンやリンダ・メイ、スワンキーのような生き方も今後のニューノーマルの一つになっていくのかもしれない。



ネガティブ・サイド

ピアノのBGMが、ある人物が弾くアコースティック・ギターの音とケンカをしているシーンがあった。数秒だけだったが、非常に jarring に感じた。

 

もう一つ、スワンキーの語るツバメの乱舞する光景のシーン。なぜ水面を映し出さなかったのだろうか。自分も一緒に飛んでいる感覚を観る側が味わうためには、スワンキーが見たのと同じ構図の画を共有させる必要があったのではないだろうか。

 

石膏採掘会社の倒産に翻弄されるファーンだが、アマゾン倉庫での労働の描き方が非常にニュートラルであると感じた。アマゾンの労働環境の過酷さは広く知られているところで、ノマドたちがそこで生き生きと働く姿に少々違和感を覚えた。

総評

一部の地域を除いてコロナ禍が今もって現在進行形の世の中で、人と人との距離感がずっと問い直されている。本作は、ファーンという個人のとてつもない孤独の中の旅路に、新しい形の人間関係を呈示している。格差や分断の中でこのような交流が生まれてくることは、日本の未来を見つめる時の一つのヒントになりうる。生きることの難しさ、そして生きることの尊さを静かに、しかし力強く描く傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

stand for 

作中では”What does RTR stand for?”のように使われていた。意味は「~を意味する」だが、しばしば頭字語について用いられる。

“What does NATO stand for?” / “It stands for North Atlantic Treaty Organization.”

のように使う。meanを使っても問題ないが、stand for ~ も知っておくと、ネイティブに色々と質問もしやすい。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, デビッド・ストラザーン, ヒューマンドラマ, フランシス・マクドーマンド, 監督:クロエ・ジャオ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 ノマドランド 』 -現代アメリカの新しい連帯の形-

『 守護教師 』 -鉄拳は全てを解決する-

Posted on 2021年3月27日 by cool-jupiter

守護教師 55点
2021年3月24日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:マ・ドンソク キム・セロン チン・ソンギュ
監督:イム・ジンスン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210327023940j:plain
 

エヴァの映画やテレビアニメ版ばかりを鑑賞して脳みそが少々疲れた。こういう時は、頭を空っぽにして鑑賞できる映画でリセットしたい。ということで、マ・ドンソクの映画をピックアウト。こちらも『 無双の鉄拳 』と同工異曲のマ・ドンソク映画だった。

 

あらすじ

元ボクシング東洋チャンピオンのギチョル(マ・ドンソク)は、暴力沙汰から連盟から追放されてしまった。そんな彼が見つけた仕事が地方の高校の学生主任。だが、そこは女子高生の家出が異様に多かった。そして教師たち、警察までもがそれを見て見ぬふりをしている。ギチョルは、次第に消えた友人を探すユジン(キム・セロン)と関わっていくことになり・・・

 

ポジティブ・サイド

マ・ドンソクの鉄拳は本作でも健在。けれども、彼の役者としての成長も見える。Jovianの嫁さんが本作のマ・ドンソクを観た瞬間に「これは善人やろ」と一言。ひょうきんなシーンではなかく、ニュートラルな表情をしていたが、確かにそれだけでキャラ属性が伝わってきた。もちろん剛腕もド迫力。普段から絶対ボクシングの練習をしているに違いない。それぐらい重心が低く、また背骨を軸にした左右フックを放っていた。アクションシーンはやられる側と相当綿密に打ち合わせして作っているのだろうなと思わせてくれた。

 

『 アジョシ 』の天才子役ソミを演じたキム・セロンが等身大の女子高生になっていた。多分、『 建築学概論 』のぺ・スジのように、正統派の美少女でありながら我々が怖気をふるうような罵り言葉を口にするコリアン・ビューティーになるのだろう。実際にその片鱗を序盤のヤンキー女子たち相手に発揮していた。つくづく思うが、韓国女子のたくましさには頭が下がる。本邦の女性たちがいわゆる「女性らしさ」から脱却できるのはいつなのか。その意味では『 地獄の花園 』にはちょっとだけ期待している。

 

ストーリーは単純明快だが、社会の闇、権力の闇を描くことを忘れないのが韓国映画の基本的文法である。悪い人間が存在する、ということではなく、悪い人間を生み出す土壌が存在する。それを国の恥、社会の恥だと言って無視する、あるいは隠すことは容易い。だが、それをエンターテインメントの種にして、世界に発信してしまうことには感心する。

 

本作は『 アジョシ 』が本来想定していた中年オヤジによる少女の救出劇の亜種だとして観るとなかなか興味深い。美女と野獣ではないが、美男子が美少女を救うのではなく、むさくるしいオッサンが美少女を救う。そこに教師と生徒という関係を持ってくることで違和感を中和している点も見事だ。マ・ドンソクがサラリーマン社会の論理で縛られてしまうところ、そうしたしがらみを全部振り切っていく終盤の流れはベタながら、誰にとってもそこそこ楽しめるものであることは間違いない。



ネガティブ・サイド

マ・ドンソクのキャラクターがはっきりしない。体育教師なのか、債権回収担当なのか。キャラの面白さはギャップにあるのだから、体育の授業で女子の扱いに手を焼くマ・ドンソクや、取り立ての際に女子高生にマシンガントークをかまされて言い負かされるマ・ドンソクを観てみたかった。そうすれば、その拳を振るう時のギャップがより大きくなる=意外性(我々にとってのではなくユジンら女子高生らにとっての)が大きくなり、物語をもっとダイナミックに動かしやすくなっただろう。

 

遅咲きのスター、チン・ソンギュもやや拍子抜け。『 犯罪都市 』での朝鮮族ギャングのNo.2という役で恐るべき存在感を発揮したのだから、それと同じくらいの迫力を出す役に仕上げるべきだった。あるいは監督がそのように演出するべきだった

 

最後の最後に巨悪をぶん殴れない展開というのもいかがなものか。この黒幕、『 トガニ 幼き瞳の告発 』の黒幕と同じく、めちゃくちゃ気持ち悪い御仁。そして『 トガニ 幼き瞳の告発 』でも、physical punishmentは受けなかった。マ・ドンソクの一番の魅力はその剛腕にあるのだから、ブッ飛ばせる相手はブッ飛ばしてほしいと切に願う。

 

総評

マ・ドンソクの映画である。それだけで分かる人は分かるだろうし、観たくなる人は観たくなるだろう。ただ、個人的には『 無双の鉄拳 』の方が面白かったかな。頭を空っぽにしたいときに向いている作品である。どちらかと言うと、マ・ドンソクのファンよりもキム・セロンのファン向けの作品かもしれない。コリアン・ビューティーはいつ見てもいいものである。

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

オッパ

お兄さん、の意。ただし血縁関係がなくても年上の親しみのある男性に使える語。そこらへんは日本語でも同じである。『 悪人伝 』でヒョン=兄と紹介したが、男性→年上の親しい男性の時はヒョン、女性→年上の親しい男性の時はオッパという具合に体系的に理解したい。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アクション, キム・セロン, チン・ソンギュ, マ・ドンソク, 監督:イム・ジンスン, 配給会社:アルバトロス・フィルム, 韓国Leave a Comment on 『 守護教師 』 -鉄拳は全てを解決する-

『 ミナリ 』 -落地生根の物語-

Posted on 2021年3月20日 by cool-jupiter

ミナリ 75点
2021年3月19日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:スティーブン・ユアン ハン・イェリ アラン・キム ノエル・ケイト・チョー ユン・ヨジョン
監督:リー・アイザック・チョン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210320220806j:plain
 

アカデミー賞に複数部門にノミネートされている話題作。『 パラサイト 半地下の家族 』に続いての快挙なるか。

 

あらすじ

ジェイコブ(スティーブン・ユアン)は農業での成功を夢見て、韓国から米アーカンソー州に家族を連れて移住する。しかし、新天地での孤独からジェイコブと妻モニカの関係に亀裂が生じる。そこで、モニカの母スンジャ(ユン・ヨジョン)を米国に呼び寄せることになり・・・

 

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210320220827j:plain

ポジティブ・サイド 

まず映像の美しさに目を奪われる。米アーカンソー州のwildernessに近い自然が、豊かさ予感と厳しさの予感、両方を感じさせる。あまりにもだだっ広い風景の中にぽつねんと佇立するトレイラーハウスが、広大な新天地の中で家族の置かれた孤独を象徴している。

 

移民の悲哀というものは、親世代と子世代の断絶が生じてしまうところにあると思う。英語が流暢で、感性もアメリカナイズされている娘アンや心疾患持ちの息子デビッドと、何かあるたびにケンカをしてしまう父ジェイコブと母モニカの姿に、「家族」というものの紐帯がどこにあるのかが分からなくなってしまう。祖母スンジャが、家族の形をまとめるのかというタイミングで颯爽と登場するが、デビッドは韓国っぽさ全開でお祖母ちゃんらしさがないお祖母ちゃんのことを好きになれない。そうした家族がどのように「家族」になっていくのか。

 

はっきり言って普通の人の普通の人生にもこうした困難や苦難はつきものだというイベントだらけである。しかし、忘れてはならないのはジェイコブたちは異邦人であり、祖国での生きづらさを抱えていたのだ。そのことを吐露する夫婦のシーンが二つあるが、いずれも静かなシーンでありながら、言葉では言い表せない感慨をもたらしてくれる。

 

またデビッドとスンジャが築くことになる奇妙な信頼と愛情には、時代の背景がそれぞれ反映されているように思う。ジェイコブを手伝うポールは朝鮮戦争への出征経験があり、スンジャは当然、その当事者だった。戦争、および80年代終わりまで続いた韓国の軍事政権=非民主的政権下での生活から逃げ出してきた一家およびその周辺の人々の物語として本作を観れば、どんなにバラバラになりそうでも、まるでミナリ(=セリ)のように、ひとつの家族として再生できるという希望を暗示している。最後のショットは、家族の渡米初日の夜の父の台詞を思い起こせば、非常に味わい深いものとして鑑賞できるだろう。

 

ネガティブ・サイド 

花札にもう少しフォーカスしても良かったのにと思う。『 ジョイ・ラック・クラブ 』における麻雀のようなシンボルになる可能性を秘めていたと思う。

 

ジェイコブの父親としての、夫としてのエゴが少々大きすぎた。序盤に性別で仕分けられた雄鶏の雛が廃棄されているのを指して、「俺たち男は有用でないといけない」とデビッドに語るのは、少々身勝手すぎやしないか。食用にも向かず卵も産まない雄鶏に自分を重ねるのは構わないが、それは人間にとっての見方。アメリカ社会では有用でないと選別されてしまうという移民の悲哀は充分に伝わったが、それを家族内にまで持ち込むのはどうかと思う。そのことが祖母スンジャの中盤以降の生活にも反映されてしまったのではないか。だが、であるからこそ、最終ショットの美しさが際立つのか・・・

 

総評 

これは21世紀の韓国版『 ジョイ・ラック・クラブ 』になるかもしれない。静かな展開で、決してジェットコースター的な物語ではない。そうした意味では一般向きではないかもしれない。『 焼肉ドラゴン 』のようなひとつの異邦人家族の人生の物語を、自分の人生の物語として読み替えられるかどうかが鍵になる。このように書くと大袈裟だが、『 喜劇 愛妻物語 』を観て、なんだかんだあっても家族はやっぱり家族だよなあ、と思える人なら、本作の真価を味わえるはずだ。『 フェアウェル 』に続く、お祖母ちゃんの物語の傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

アラッチ?

「分かった?」の意。姉が弟によく言っている。かなりフランクな表現なので使いどころには注意が必要である。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, アラン・キム, スティーブン・ユアン, ノエル・ケイト・チョー, ハン・イェリ, ヒューマンドラマ, ユン・ヨジョン, 監督:リー・アイザック・チョン, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 ミナリ 』 -落地生根の物語-

『 アウトポスト 』 -戦争の最前線の現実-

Posted on 2021年3月15日 by cool-jupiter

アウトポスト 70点
2021年3月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:スコット・イーストウッド ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ オーランド・ブルーム
監督:ロッド・ルーリー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210315013834j:plain
 

米トランプ政権で唯一の肯定的評価と言えば、アフガニスタンとイラクからの米兵の撤退方針だろうか。2001年9月11日に端を発する戦争/派兵/駐留が、2021年の今も続いているのは異常である。また、日本はと言えば自衛隊の日報問題の総括もされぬままである。「戦争」とは何なのか。「戦闘」とは何なのか。本作のような硬質な作品を通じて、あらためて考えてみるのも良いかもしれない。

 

あらすじ

2009年6月、アフガニスタンの山麓に位置するキーティング前哨基地。そこは四方を絶壁に囲まれた圧倒的不利な陣地だった。ロメシャ二等軍曹(スコット・イーストウッド)らは、いつタリバン兵から銃撃を受けるか分からない恐怖と緊張の中、日々の任務にあたっていた。そして、いよいよ基地からの撤退の日が迫ってきた時、タリバン兵の総攻撃が始まろうとしていた・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210315013848j:plain
 

ポジティブ・サイド

戦争の経緯も兵士たちの背景情報も何もないまま、観る側はいきなりキーティング前哨基地に連れて来られる。そして、いつどこから撃たれるか分からない恐怖の現場を体験する。その意味では『 ダンケルク 』によく似ているし、実際に銃撃を浴びる際の恐怖感は『 ハクソー・リッジ 』や『 プライベート・ウォー 』のそれに近いものがある。しかも味方陣地が『 KESARI ケサリ 21人の勇者たち 』とは全く逆の低地、というか谷底的なロケーション。関ケ原の戦いでも、実際は高地の要所を抑えた西軍有利をメッケル参謀が一目で断言したという逸話(おそらく創作)がある通り、高地と低地では地の利が違い過ぎる、この絶望感がたまらない。

 

戦闘シーンのカメラワークでも魅せる。『 1917 命をかけた伝令 』のようなロングのワンカットを多用し、それが戦闘の極限の臨場感をさらに高めている。特に終盤には、いったいどうやって撮影したのか分からないアングルからのショットがいくつかあり、非常に興味深かった。特に足を負傷したメイスの救出シーンはワンカット(に見せる編集だと思うが)は印象的だった。

 

傑作戦争映画の例に漏れず、本作でも華美なBGMは流れない。戦闘シーンでは銃火器の発射音、着弾音、爆発音がBGMである。まさに耳を襲撃されているかのような戦闘音の奔流に、否応なく臨場感を感じた。従軍記者をしていた先輩が言っていた「俺はもう花火を見に行けない」という台詞の意味が分かる。

 

タリバンの総攻撃シーンにたどり着くまでに、何度かチャプターが変わるが、それが現場指揮官の交代とリンクしているところが興味深い。勇猛な指揮官が不慮の事故で退場し、臆病な指揮官が着任すると現場の士気が下がる。まるで企業のようである。サラリーマンとして実感できるところが多数あった。特に面白いなと感じたのは、ブロワード大尉に対する下士官の態度と、それを厳しくたしなめるロメシャの図。中間管理職という立場は、会社でも軍でも一番しんどいのだろうな。

 

そうそう、エンドロール後にも重要なシーンが続くので席を立ってはならない。

 

ネガティブ・サイド

戦闘シーンでは素晴らしいカメラワークの本作であるが、それ以外のシーンでは???である。なにか場面と場面のつなぎがスムーズではなかったり、唐突だったり、あるいはあまりにも作為的だったり。特に橋のシーンはイマイチだった。あのタイミング、あの角度でズームアウトしたら、そりゃそうなるでしょ、と。さらにあの場面、あの爆発で橋が無傷というのも解せなかった。

 

エンドロール後の兵士たちのインタビューで気になったのが、「本作を観て、アメリカの国防について考えてほしい」という趣旨のことを語っていた。英語では for the greater good of the United States’ security. と言っていたかな。Jovianは軍事については素人に毛の生えた程度の知識しかないが、それでもキーティング基地を見たら、それがどれほど不利な場所に作られているかはすぐにわかるし、実際に劇中の兵士たちも同様に感じていた。自分たちの流した血、そして仲間たちの流した血を思えば、当事者たちが上のように言ってしまうのは充分に理解できる。けれど映画の作り手たちは「こんなアホな場所に若い兵士たちを送り込んだ軍上層部は何を考えていたのか」とは考えなかったのだろうか。よく出来た映画であるが、届けようとしているメッセージがなにやらチグハグであると感じた。

 

総評 

戦争映画の傑作である。というよりも戦闘映画の傑作である。こういう作品に接すると、戦争の是非はともかく(そもそも戦争はすべて非だが)、実際の戦闘で命懸けで戦った兵士には敬意を払うしかない。生き残った者には尚更だ。似非医者の高須某がかつて水木しげるを「落伍兵」と侮辱したことがあったが、水木しげるはこういう現場から離脱することなく帰国しているのだ。一般人がこうした戦闘の現実を知ることが、戦争の一番の抑止力となると思えてならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

have the high ground

高い場所を有する、の意。転じて「有利な立場に立つ」、「優位な状況にある」ということを意味する。これは『 スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐 』で、オビ=ワンがアナキンに対して放つセリフで有名かもしれない。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, アメリカ, オーランド・ブルーム, ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ, スコット・イーストウッド, 伝記, 歴史, 監督:ロッド・ルーリー, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 アウトポスト 』 -戦争の最前線の現実-

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