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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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月: 2024年1月

『 VESPER ヴェスパー 』 -ディストピアSFの標準的な作品-

Posted on 2024年1月27日 by cool-jupiter

VESPER ヴェスパー 60点
2024年1月21日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:ラフィエラ・チャップマン
監督:クリスティーナ・ブオジーテ ブルーノ・サンペル

 

簡易レビュー。

あらすじ

生態系が破壊され、特権階級のみが城塞都市シタデルに暮らし、それ以外の人間はわずかな資源だけを頼りに生きていた。寝たきりの父と暮らす少女ヴェスパー(ラフィエラ・チャップマン)は、ある日、森の中で倒れている女性カメリアを見つけて・・・

ポジティブ・サイド

全編を覆うおどろおどろしい雰囲気は悪くない。昔のドキュメンタリー番組『 フューチャー・イズ・ワイルド 』的だが、危険な植物が繁茂し、菌類が地を覆い、殺人昆虫が跋扈する世界という意味では『 風の谷のナウシカ 』にも近いと感じた。

 

主人公ヴェスパーを演じたラフィエラ・チャップマンの機智とサバイバル能力、そして子どもゆえのフィジカルな弱さとメンタルの弱さが、平板に感じられる物語への絶妙な味付けになっていた。

 

メカメカしいと思っていたガジェットが、実はクローネンバーグの『 クライムズ・オブ・ザ・フューチャー 』ばりにバイオバイオしていたりと、人造人間やら粘菌が登場する世界観とも一致していて良い感じ。

 

最後のシーンの美しさこそ本作のメッセージ。ぜひ vesper とは何を意味するのか、調べてみよう。

 

ネガティブ・サイド

食用可能な植物の種子の喪失およびその対策としての保存はすでに各国で始められている。その植物の再繁殖を一回に限定するという遺伝子操作も不可能ではないだろう。実際に繁殖不可能な子孫を残す蚊をリリースして、マラリアを撲滅しようという計画も以前からある。分からないのは、ヴェスパーがそれだけのバイオテクノロジーの知識を一体どうやって学んだのかということ。カメリアを疑似的な母親だ思い、色々な鳥や動物の鳴き声を教わるシーンから、生物学の基本的なテキストやデータベースにヴェスパーがアクセスできなかったことは明白。だったらどうやって分子生物学を学んだのか、一切説明がつかない。

 

総評

放っておくとこうなりますよ、という非常にディストピアSFらしいSFを味わえた。どこまでいっても壁、そして階級差を作ってしまう人間と、軛から解き放たれた大自然のコントラストが映える作品。静謐な雰囲気の中にもスリルとサスペンスが織り交ぜられている。評価イマイチのようだが、個人的には面白いと感じた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

unlock

劇中で、とある遺伝子に秘められた秘密を解き放つ際に unlock という表現が使われていた。見ての通り、lock = 鍵をかけるが un によって否定されている。つまり、鍵をかけた状態が解放されるという意味となる。ゲームなどでアイテムや能力がアンロックされる、などのようにカタカナでも定着しつつある。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 みなに幸あれ 』
『 ザ・ガーディアン 守護者 』
『 哀れなるものたち 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, SF, フランス, ベルギー, ラフィエラ・チャップマン, リトアニア, 監督:クリスティーナ・ブオジーテ, 監督:ブルーノ・サンペル, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 VESPER ヴェスパー 』 -ディストピアSFの標準的な作品-

『 僕らの世界が交わるまで 』 -コミュ障家族の再生物語-

Posted on 2024年1月23日 by cool-jupiter

僕らの世界が交わるまで 65点
2024年1月20日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:ジュリアン・ムーア フィン・ウルフハード
監督:ジェシー・アイゼンバーグ

 

ジェシー・アイゼンバーグの監督作品ということでチケット購入。

あらすじ

DV被害者のシェルターを運営する母エヴリン(ジュリアン・ムーア)と、音楽のライブ配信に夢中の息子ジギー(フィン・ウルフハード)は、互いを理解しあえず、すれ違うばかり。そんな中、シェルターに受け入れた女性の息子を第二の我が子のように思い始める。一方でジギーも、政治を知的な同級生女子に惹かれていき・・・

ポジティブ・サイド

コミュ障というのは、単に喋りが下手という意味ではない。中島梓は『 コミュニケーション不全症候群 』で、コミュニケーション不全症候群とはコミュニケーションの対象を人間とそれ以外に分けて、人間以外とのコミュニケーションにより親和性を持つことだと喝破した。本作に引きつけて言うなら、PCのモニターの向こう側のリスナーに夢中なジギーは立派なコミュニケーション不全症候群患者である。その母も、息子のジギーを独立した人格の持ち主ではなく、育成シミュレーションゲームのキャラか何かだと思っている節がある。これも立派なコミュニケーション不全症候群患者だと見なせるだろう。

 

本作は、この困った母と息子が互いに向き合うようになるまでを丹念に描いていく。面白いのは、親子というのは似たもので、エヴリンもジギーもお互いに真摯に向き会えばいいものを、わざわざ代替の対象を見つけ出して、それに執着していく。ジギーは聡明で、政治を語り、集会にも参加するアクティブな同級生女子に惹かれていく。観ながら「おいおい、その娘はお前の母ちゃんの若い頃そっくりなんやぞ?」と思いながら、ある意味でハラハラしながら観ていた。同時並行で、エヴリンはシェルターに転がり込んできた女性の息子がよくできた母思いの孝行息子ということで、彼を疑似息子に見立てて、再度の育成ゲームに乗り出す始末。

 

この絶妙なすれ違いが終わり、親子が互いに向き合う過程が、原題 = When You Finish Saving the World(あなたが世界を救ったら)によくよく表れている。マザー・テレサは日本人に「インド人ではなく、まずは家族を気にかけてください」と言った。最近の『 コンクリート・ユートピア 』でも「修身斉家治国平天下」が聞かれた。治国や平天下を語る前に、まずは家族や家庭に向き合うべし。過度に説教臭くなることなく、かといって安易なお涙頂戴になることなく、とある家族の姿を淡々と描いていく。自分もしっかりしなくちゃ、と感じられる人はきっと多いはず。

 

ネガティブ・サイド

エヴリンの妻、ジギーの父親の存在感がイマイチだった。中途半端なインテリで、自分の意見というものがない。これなら別に、エヴリンをシングルマザーに設定しても良かった。

 

ジギーがライラに嫌われてしまう経緯をすべてライラの言葉で説明してしまうのは残念だった。ライラの態度や周囲の視線から、自分で何かを悟るというシークエンスにしてほしかった。

 

エンディングが少し雑。『 スリー・ビルボード 』と同じで、もう1~2分でいいので、その先が欲しかった。

 

総評

コミュ障家族というのは、おそらく先進国あるいは経済が一定程度に発展した国では必然的に発生するはず。職場や学校という家庭以外に属するコミュニティがあり、なおかつ自宅には個室があるという条件がそろえば、本作のような物語は実はそう珍しくないのではないかと思う。Z世代云々という矮小な世代論ではなく、もう少し普遍的な親子像、家族像を模索しようとしているという視点で本作は鑑賞されるべきではないだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sup

これは What’s up? の短縮形。What’s up? → Wassup? → Sup? という具合にどんどん短縮されていく。しばしばネットでは What’s up? に対してどう反応するか?という記事やら解説が出回るが、正しい答えなどない。ただし日常レベル(Jovianの体感)で最もよくあるやりとりは

 

A: Hey dude, sup?
B: Hey!

 

または

 

A: Sup, man?
B: Sup?

 

のようなものである。本作でもそういうシーンがある。Sup? を使えればそれだけで英会話中級者だろう。それだけくだけた感じで話せる友達がいるということだから。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 VESPER ヴェスパー 』
『 みなに幸あれ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, ジュリアン・ムーア, ヒューマンドラマ, フィン・ウルフハード, 監督:ジェシー・アイゼンバーグ, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズLeave a Comment on 『 僕らの世界が交わるまで 』 -コミュ障家族の再生物語-

『 アクアマン/失われた王国 』 -脳みそを空っぽにして鑑賞できる-

Posted on 2024年1月17日 by cool-jupiter

アクアマン/失われた王国 60点
2024年1月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェイソン・モモア
監督:ジェームズ・ワン

 

簡易レビュー。

あらすじ

父親になったアーサー(ジェイソン・モモア)は子育てに奔走する一方で、アトランティス王国の政務にも忙殺されていた。そんな中、ブラックマンタが謎めいた漆黒のトライデントを発見し、邪悪に憑りつかれていき・・・

 

ポジティブ・サイド

ステッペンウルフの “Born To Be Wild”、そしてノーマン・グリーンバウムの “Spirit in the Sky” のイントロだけが延々と流れるオープニングで、アーサーの「人間」パートの描写はほぼ終わり。あとは「ヒーロー」パートの描写に専念するというのは潔い構成。

 

MCUのようにやたらとキャラを増やすのではなく、前作『 アクアマン 』に引き続き弟オームとヴィランのブラックマンタが物語を形作る。なので物語に入っていきやすい。

 

ストーリー展開も前作同様に、アドベンチャーゲーム的。〇〇に行って△△と出会う。△△から情報をゲットしたら、◇◇に向かう。そこでイベントが発生して・・・の繰り返し。テンポが良い。

 

弟の確執と和解という意味では『 マイティ・ソー 』そっくりで、これまで人間社会と隔絶してきた高度文明の物語という点では『 ブラックパンサー 』そっくり。それでもアクアマンがアクアマンらしいと感じられるのは、妙なイデオロギーをまじえず、力こそパワーという物語作りに徹しているからだろう。

ネガティブ・サイド

トポの出番が終盤になかったのは残念。このタコには巨大タツノオトシゴにくっつく以外の活躍の場が与えられてしかるべきだった。

 

イデオロギーの代わりに昆虫食のインフォマーシャル的な場面を挿入するのはどうなのか。いや、別にそれも2030年以降には必要だろうとは思うが、それの前段階として資源を最も食いつぶしているアメリカのファストフードを異文化理解の例に持ってくるのは個人的には( ゚Д゚)ハァ?だった。

 

ラスボスをあまりにもアッサリと倒してしまうのも拍子抜け。力こそパワー的に粉砕するにしても、もう少し丁寧な描き方があったはず。

総評

あまり深く考えずに鑑賞できるのが良いところでもあり悪いところでもある。ただMCUのように、ドラマや他作品の鑑賞がほぼ必須といった複雑な前提は無い。極端な話、前作を知らなくても何とかなるぐらいだ。週末に頭を空っぽにしたい時、ポップコーンを食べながら映画を観たいという時に、お勧めの一本。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

astounding

小説『 内なる宇宙 』で、ヴィザーというスーパーコンピュータが “This is astounding!” と言う場面がある。翻訳家の池央耿(2023年10月逝去、合掌)は「驚天動地とはこのことだ!」と訳していた。驚天動地は大袈裟だが、astounding は surprising よりも遥かにインパクトがある表現だということは間違いない。強く感銘を受けたときは “Astounding …” と呟こうではないか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 VESPER ヴェスパー 』
『 みなに幸あれ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アドベンチャー, アメリカ, ジェイソン・モモア, 監督:ジェームズ・ワン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 アクアマン/失われた王国 』 -脳みそを空っぽにして鑑賞できる-

『 Sダイアリー 』 -思い出をいかに昇華させるか-

Posted on 2024年1月16日 by cool-jupiter

Sダイアリー 60点
2024年1月10日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:キム・ソナ コン・ユ イ・ヒョヌ キム・スロ
監督:クォン・ジョングァン

 

簡易レビュー。

あらすじ

ナ・ジニ(キム・ソナ)はボーイフレンドから突然、愛想をつかされた。これまでの彼氏に本当に愛されていたのか確かめろと言われたジニは、自分の恋愛日記を読み返す。そして現在の元カレたちに会いに行こうと思い立って・・・

 

ポジティブ・サイド

過去の恋愛を回想する映画は数多くあるが、本作がユニークなのは恋愛の甘酸っぱい部分、そしてセクシャルな部分を非常にリアルかつ等身大に映し出しているところ。性欲丸出しでジニに襲い掛かる聖職者には笑ったし、大学の先輩とひたすらベッドインし続けたり、イケメンだけれど将来性ゼロの男に自分から合体を促しまくったりと、ジニの恋愛遍歴が赤裸々に開陳される前半から中盤は文句なしに面白い。

 

過去の男たちに復讐を企てる中盤以降では聖職者へのリベンジとイケメンへのリベンジは、ブラックユーモアたっぷりで笑うことができた。

 

過去の恋人を散々かき回したものの、最後はキレイに思い出に決着をつけることができた。本作は2004年公開で、ということは撮影は2002年か2003年だろう。日本では携帯電話やパソコンが急激に普及した時期だが、デジカメはまだまだ高価だったし、写真や動画を日常的に大量に残すことは難しい時代だった。韓国も同じはず。だからこそ可能な結末だったとも言える。Those were the days! 

 

ネガティブ・サイド

警察官になった大学時代の彼氏へのリベンジはちょっとなあ。劇中でも触れられていたように、警察を脅迫するのは重大犯罪を構成する可能性もあるわけで、もうちょっと何か別のプロットは考えられなかったのだろうか。いくら韓国映画=警察をコケにしてナンボ、であっても、それは警察の公の部分の話であって、警察官の私の領域までコケにするのには賛同しかねる。

 

エンドクレジットのシーンは賛否両論ありそう。元カレ連中は実はこうでしたと見せるのではなく、「ん?実は良い奴らだった?」と思わせるぐらいで良かったように思う。

 

総評

主人公のキム・ソナと同世代、つまり1970年代生まれなら、本作を高く評価できるはず。1990年代以降の生まれだと厳しそう。カップルで鑑賞するというよりは、夫婦で鑑賞するのに向いているのかな。性的にオープンな描写がいっぱいあるので、間違ってもファミリーで観ないように。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

サランへ

愛してる、大好きだ、の意。かなり前にペ・ヨンジュンが「サランヘヨ」とつぶやくCMがあったが、これは「愛しています」という丁寧な表現。英語で言うところの I love you. だと思えばいいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 VESPER ヴェスパー 』
『 みなに幸あれ 』

Sダイアリー [DVD]

Sダイアリー [DVD]

  • キム・ソナ
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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, C Rank, イ・ヒョヌ, キム・スロ, キム・ソナ, コン・ユ, ラブコメディ, 監督:クォン・ジョングァン, 配給会社:エスピーオー, 韓国Leave a Comment on 『 Sダイアリー 』 -思い出をいかに昇華させるか-

『 ブルーバック あの海を見ていた 』 -母と娘と海を巡る珠玉のドラマ-

Posted on 2024年1月14日 by cool-jupiter

ブルーバック あの海を見ていた 80点
2024年1月7日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ミア・ワシコウスカ ラダ・ミッチェル
監督:ロバート・コノリー

簡易レビュー。

 

あらすじ

海洋生物学者のアビー(ミア・ワシコウスカ)は母ドラ(ラダ・ミッチェル)が脳卒中で倒れたとの連絡を受け、帰郷する。幸いドラは一命をとりとめたが、言葉を発することができなくなってしまった。母の介護のために実家に滞在することになったアビーは、母と過ごした海、そしてそこで友情をはぐくんだ魚、ブルーバックを思い起こして・・・

 

ポジティブ・サイド

オーストラリアの海の美しさが印象的。『 ブレス あの波の向こうへ 』は海の上だったが、本作は海の中をリアリズムたっぷりに映し出してくれる。映像的には少々薄暗いが、実際の海の中はあんな感じ。逆に『 アクアマン 』がいかにファンタジーなのかが分かる。

 

母と娘が海で育む奇妙な絆と、アビーがダイビングのたびに築いていくブルーグローパーとの奇妙な友情が心地よい。家族の物語が環境保護のメッセージと密接にリンクしている。ブルーバックと名付けられたグローパーが、グロテスクながら実はなかなかキュート。どうもCGではなく人形らしい。もちろんモーションキャプチャーは使っているのだろうが、やはりCGには出せない味があった。

 

石垣島やら、辺野古埋め立てやら、日本の状況もオーストラリアと似たり寄ったり。非常にローカルな物語が、実はグローバルな問題提起にもつながっているのだと実感させてくれる。

 

ネガティブ・サイド

物語の構成に難あり。最初の数日は病院に泊まり込み、あるいは近くのホテルに泊まりながら母親を看病する。そして退院できるとなった時に、はじめて実家を訪れて・・・という見せ方にしないと、アビーが回想する過去の出来事の結末が最初にすべて見えてしまっていた。

 

総評

驚きに欠けるドラマではあるが、そのぶん人間そして大自然との関係が濃密に描かれる。それも言葉ではなく映像と音楽で情感豊かに。同じオーストラリア産でも『 TALK TO ME トーク・トゥ・ミー 』は少し波長が合わなかったが、今作では至福の時間を味わえた。1月にして年間ベスト候補であると断言したくなる出来栄えである。できるだけ多くの人に鑑賞してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

deepest

作中では The sea is deepest here. =「この海はここが一番深い」のような使われ方をしていた。通常、最上級には the がつくが、比較対象が自分自身の場合はその限りではない。

I’m the most energetic in the morning. 
(他にもそういう人はいるが)午前中に一番エネルギーが出せるのは僕だ。

I’m most energetic in the morning. 
僕は(他の時間帯の自分自身に比べて)午前中が一番エネルギーが出せる。

この二つのセンテンスの違いを把握しておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アクアマン/失われた王国 』
『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, オーストラリア, ヒューマンドラマ, ミア・ワシコウスカ, ラダ・ミッチェル, 監督:ロバート・コノリー, 配給会社:エスパース・サロウLeave a Comment on 『 ブルーバック あの海を見ていた 』 -母と娘と海を巡る珠玉のドラマ-

『 コンクリート・ユートピア 』 -人間社会の汚穢を描く-

Posted on 2024年1月12日 by cool-jupiter

コンクリート・ユートピア 70点
2024年1月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:イ・ビョンホン パク・ソジュン パク・ボヨン
監督:オム・テファ

 

簡易レビュー。

あらすじ

突如発生した天変地異により、韓国社会は崩壊した。唯一崩落しなかった皇宮アパートには生存者が押し寄せるが、住民は団結し、彼らを排除することを決定。住民のリーダーとして、冴えない中年のヨンタク(イ・ビョンホン)が選ばれるが・・・

ポジティブ・サイド

韓国の苛烈な経済格差および移民問題を痛烈に皮肉った序盤、そして民主主義の正の面と負の面が露になる中盤、そして閉鎖・孤立したコミュニティが民主主義の負の面から自壊していく終盤と、非常にテンポよく物語が進んでいく。

 

韓国映画あるあるなのだが、まったくもって普通の一般人に見える人が、突如発狂するシーンが何度もあって、緊張感も持続する。男性のほとんどが兵役経験者ということで、住民とその他の争いにもリアリティがある。

 

能登半島地震の被災現場の本当の悲惨さは知るべくもないが、「人間社会はこうあってはならない」という韓国映画のメッセージは、ある意味でこれ以上ないタイミングで届けられたと思う。

 

ネガティブ・サイド

細かいところだが、男性陣の誰もひげが伸びないのは何故?韓国成人男性はもれなくひげの永久脱毛済み?そんなはずはないと思うが・・・

 

ラストは正直なところ、賛否両論あるだろう。自分はやや否かな。最後まで狂気で突っ走ってほしかった。

 

総評

韓国映画の佳作。災害ものでは人間の本性があらわになるが、韓国映画はそこで人間のダーティーな面を映し出すことを恐れないところが素晴らしい。イ・ビョンホン以外のキャストの演技力も申し分なく、いつも同じメンツで映画を作っている邦画界とは役者層の厚さが違うところが羨ましい。2010年代ほどではないにしろ、2024年も韓国映画には期待して良さそうである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

apartment

いわゆるマンション、集合住宅を指す。ちなみに英語の mansion は大邸宅を指す。apartmentは一室を指し、集合住宅全体は apartment house と言う。一応区別して覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』
『 ブルーバック あの海を見ていた 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イ・ビョンホン, サスペンス, パク・ソジュン, パク・ボヨン, パニック, 監督:オム・テファ, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 コンクリート・ユートピア 』 -人間社会の汚穢を描く-

『 エクソシスト 』 -信じる者は救われる-

Posted on 2024年1月8日 by cool-jupiter

エクソシスト 85点
2024年1月7日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:エレン・バースティン リンダ・ブレア ジェイソン・ミラー マックス・フォン・シドー
監督:ウィリアム・フリードキン

 

『 怪物の木こり 』の口直しが必要と思い、劇場からの帰り道にTSUTAYAで本作と『 Sダイアリー 』をレンタル。3回目の鑑賞。1回目は多分、小学生ぐらいで、ほとんど覚えていない。2回目は大学4年の頃に仲間数人で観た。なので2001年だったか。

あらすじ

女優クリス・マックニール(エレン・バースティン)の娘リーガン(リンダ・ブレア)は突然、暴力的かつ攻撃的な言動を呈し始める。精神科医に検査・診察させても原因がはっきりしない。途方に暮れるクリスに、医師は悪魔祓いの秘儀を提案して・・・

 

ポジティブ・サイド

『 レイダース 失われたアーク《聖櫃》 』的な発掘現場で見つかる、不思議な像。イラクの古代の遺物を邪教として描くのは時代が時代だからしゃーない。

 

場面変わってアメリカでは、ベトナム戦争末期。『 シカゴ7裁判 』や『 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 』に近い時代。政治や科学に対する不信が広がっていた時期と言える。そこに信仰という宗教的な営為の是非を問おうとしたのは非常にタイムリーであったはずだし、科学がきわめて高度に発達した現代においても、一定のテーマとして在り続けている。そこらへんが本作が古典たる所以だろう。

 

ディレクターズ・カットを観たが、時代や社会をていねいに描いているという印象を受けた。キャラの台詞やナレーションなどは一切使わず、映像でていねいに見せるという手法に好感を抱く。

 

その後のホラー映画の多くが本作にインスパイアされたと言われているが、ホラー以外も本作に触発されたはず。『 ロッキー 』のトレーニング・シーンのモンタージュの一部はカラス神父のジョギングへのオマージュに見えるし、馬車に乗る老婆は『 スター・ウォーズ 』シリーズのパルパティーン皇帝のモデルになったのではないかとも感じる。ラテン語を話す悪魔という設定は『 エミリー・ローズ 』が借用した。クリス邸の前の階段は『 ジョーカー 』でホアキン・フェニックスが踊り狂った階段、こちら側とあちら側を隔てる境界のように見えた。

 

悪魔に憑りつかれたリーガンを丹念に科学・医学の面からアプローチしていくことで、これが単なる疾患ではなく超常現象なのだということが明らかになっていく。一方でクリスの友人でもあるバークが死亡してしまうこと、医学を超えた警察沙汰にもなる。このあたりのバランスの取り方も上手い。ホラーとサスペンスの間を巧みに行ったり来たりすることで、観る側も信仰と理性の間を行ったり来たりすることになる。バークの死の真相についても、カラス神父の壮絶な最後のシーンから、別の可能性が浮かび上がってくる。このあたりの何が真実なのか惑わせる作風、理性的に考えるのか、それとも超常現象を認めるのかというのが本作の一貫したテーゼになっている。

 

本作をホラーの金字塔たらしめる数々の印象的なシーン、たとえばリーガンが緑色の吐しゃ物を吐くシーンや首をぐるりと180度回転させるシーン、さらに空中浮遊するシーンや、劇場公開時にはカットされてしまったスパイダー・ウォークのシーンなどは今見ても十分に怖い。むしろ過剰な効果音やCGが一切使われていないことで不気味さが増しているとすら言える。

 

冒頭のメリン神父の再登場によって、ついにカラス神父も悪魔祓いに参加。二人でリーガンに対峙するも、精神疾患によって息子を認知できなくなった母親の幻影を見せられたカラスが退場、一人残ったメリン神父は死亡。カラス神父の母の旧姓を答えられなかったリーガンが、その母の幻影を見せてくるという精神攻撃、さらに元々持病で服薬が欠かせなかったメリン神父の死因な何かなど、観る側の理性をとことん揺さぶる展開には恐れ入った。

 

最後にカラス神父の同僚のダイアー神父が、例の階段を下りることなく振り返るシーンで物語は締めくくられる。ダイアーは信じたのだろうか?見上げるメリン神父、見下ろすダイアー神父という対比から考えれば信じなかったのだろう。しかし、カラス神父の最後の懺悔を聞いたのもダイアー神父だった。彼が振り返った先にいるのが我々鑑賞者だとすると、ベタな表現ではあるが、解釈は観る側に委ねられたのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド 

ほとんど非の打ち所がない作品だが、リーガンが十字架で局所を思いっきり刺すシーンの後、医者を呼ばなかったのだろうか。精神科ではなく小児科あるいは外科をも巻き込むシーンがあっても良かったのにと思う。

 

総評

人間ドラマとしてもホラーとしても素晴らしい。続編の『 エクソシスト 信じる者 』がホラーよりも人間ドラマを重視したのは、オリジナルへのオマージュと、ホラーとしては勝てないという二つの理由からだったのか。また20年後に鑑賞してみたい。その頃には悪魔は宇宙開発ではなくゲノム編集などを呪っているのだろう。本作はそういう見方ができる、つまり時の経過にも充分に絶えうる作品で、だからこそ古典と呼んで差し支えないと思う。

 

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I beg your pardon?

劇中で2~3回使われたかな。意味は「もう一度おっしゃっていただけますか?」という、丁寧なもの。しかし、相手に復唱をお願いする意味以外に、文脈によっては「今何て言ったコノヤロー」的なニュアンスにもなるので注意。使うならフォーマルな場に限定しよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』
『 ブルーバック あの海を見ていた 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1970年代, A Rank, アメリカ, エレン・バースティン, ジェイソン・ミラー, ヒューマンドラマ, ホラー, マックス・フォン・シドー, リンダ・ブレア, 監督:ウィリアム・フリードキン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 エクソシスト 』 -信じる者は救われる-

『 怪物の木こり 』 -全体的に低調なエンタメ-

Posted on 2024年1月7日 by cool-jupiter

怪物の木こり 20点
2024年1月4日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:亀梨和也
監督:三池崇史

2024年の一本目は昨年に見そびれた本作をチョイス。貯まっているポイントを使用すべきだった。

 

あらすじ

サイコパス弁護士の二宮(亀梨和也)は、怪物の木こりに扮した正体不明の連続殺人鬼に襲われる。かろうじて命拾いした二宮だったが、殺人鬼が襲ってきた人間にはある共通点があり・・・

ポジティブ・サイド

序盤に問答無用で男を殺害する亀梨、さらに噴水のごとく飛び出る血液に驚き。「いやいや、血液はそんなにビチャビチャではないやろ」と思いつつ、「でも一定時間逆さまにされ限界まで血液が上半身に集まってたらこれぐらい行くか?」と思考も軌道修正。邦画には珍しい、血みどろの物語へ期待が高まった。

サイコパスは業か否かという命題に一つの答えを提示しようという意気込みは評価したい。これは原作小説の作者に向けるべき賛辞か。原作を読んでいないので、本作がどれだけ原作に忠実なのかそうではないのかは分からない。

 

ネガティブ・サイド

まずサイコパスの描き方が残念。監修が中野信子で、この御仁は基本的に TV professor なので専門家ではあっても信用度は高くない。まあ、最終的には脚本家や演出した監督、さらには編集の責に着せられるべきなのだろうが、二宮という弁護士のサイコパシーなところが全然描写されない。無表情に人を傷つけるぐらいで、サイコパスのごく一部の側面しか見せていない。もっと弁護士としての頭脳明晰さや弁舌の上手さを見せたり、クライアントの心を掴むような描写がないと、キャラクターとしての深みが生まれない。

そもそも何故に婚約者の父親を殺す必要があるのか。普通に仕事に励んでいれば事務所を継ぐことができるはず。その理由も「サイコパスだから」というのは描写としては乱暴極まりない。

また脳チップというガジェットもつまらない。いや、つまらないというよりも説得力がない。あんな軽い衝撃で壊れる代物なら、それこそサッカーのヘディングでも壊れるだろうし、レントゲンやCTの放射線でも壊れそう。脳チップが埋め込まれているからサイコパスになるということに説得力がないし、脳チップが壊れたからサイコパスじゃなくなりました、というのも説得力がない。これではストーリーが面白くなるはずがない。

アクションシーンも細かいカットの連続で緊張感が生まれていない。襲撃シーンをもっと緊迫感あるものにするために一回ぐらいはロングのワンカットを入れるべきだった。

そもそもキャラが色々としゃべりすぎ。「猫はもう飽きたんだよね」などはその最たるもの。最後の犯人の語りも回想や目線、表情を駆使すればセリフは半分に減らせたはず。説明しないと観る側が分からないだろうと思っているのだろうか。本当ならそれなりに感動的なシーンになるのだろうが、冗長さが勝ってしまった。

最後の疑問は絵本。これは浦沢直樹の某漫画の中の絵本のパクリ・・・?

 

総評

2023年の映画なので今年のクソ映画オブ・ザ・イヤーの候補とはならないが、それでもこの低クオリティは鑑賞するのがしんどい。残念ながら『 一命 』以降の三池崇史は、それ以前の三池崇史ではない。韓国がリメイクしてくれれば(『 殺人鬼から逃げる夜 』+『 最後まで行く 』)÷2的な作品になりそう。日本はサイコサスペンスでは残念ながら韓国にはもう勝てない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

psyche

サイコパスのサイコ=psycoの名詞。哲学に造詣がある向きならプシュケーだと言えば通じるだろう。意味は精神、心理。The major earthquake left a significant impact on the Japanese psyche. =「大地震は日本人の精神に多大な影響を残した」のように使う。英検準1級以上を目指すなら知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 コンクリート・ユートピア 』
『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, サスペンス, スリラー, 亀梨和也, 日本, 監督:三池崇史, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 怪物の木こり 』 -全体的に低調なエンタメ-

2023年総括と2024年展望

Posted on 2024年1月1日 by cool-jupiter

2023年総括

5月8日を境に映画館運営が旧に復した。しかし、TOHOシネマズの映画鑑賞料金の値上げは当然のように他の映画館にも波及。値上げは現代のトレンドとはいえ、この傾向は決して望ましいものではないと感じる。

邦画で実績を残したのは世界興行収入が高い外国映画か、あるいは国産アニメ。この傾向は変わらなかったし、今後もしばらくは変わりそうにない。映像を構想し、映像を創り上げる力の持ち主が求められる。2023年にそれができたのは、意外(と言っては失礼かも知れないが、この御仁には前科があるから)なことに山崎貴監督だろうか。

国外に目を向けるとアメリカの俳優組合のストライキのニュースを意識せざるを得ない。特にストリーミングに関するあれやこれやは、俳優だけの問題だけではない。ストリーミングの更なる普及は、大画面に映像を映し出して大勢で鑑賞するというマスの映画鑑賞スタイルを、キネトスコープを覗き込むというごく初期の個人の映画鑑賞スタイルに回帰させていくかもしれない。これは飲食物やパンフレット、各種のマーチャンダイズ販売という確立されたビジネスモデルの変容にもつながる変化をもたらすはず。

生成AIは、映画業界のみならず一般社会にも影響が大きい。テキスト生成AI、音楽生成AI、動画生成AIなどを駆使すれば、個人あるいは極めて少人数でも映画(クオリティは別にして)が作れる時代はすぐそこまで来ている。俳優のみならず、脚本家や作曲家、フォーリー・アーティストがラダイト運動に走ることはないと誰が断言できるだろうか。

色々と懸念は尽きないが、それはそれとして措いておこう。それでは個人的な各賞の発表をば。

 

2023年最優秀海外映画

『 ザ・ホエール 』

人間ドラマの極致。限られた空間、限られた時間、そして限られた人間のみで展開されるドラマでありながら、これほど人の胸を打つのは何故か。ベタな表現だが、人生の真実がそこに確かにあるからだろう。エリザベス・キューブラー=ロスの言葉を借りれば、死とは生の完成である。死にゆく鯨がその死の先に残すものを体験する最上の人間ドラマだった。

 

次点

『 キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 』

こちらはサスペンスの極北。やはり限られた時間と空間、そしてごく少人数だけで繰り広げられる物語。凡庸な悪の発生の機序が見られ、それが緊張と恐怖を生んでいる。ロシア-ウクライナ、イスラエル-パレスチナなど、戦争が当たり前と感じられる世界情勢になっているが、すぐそこにいる人間は誰なのかという当たり前の想像力を持つことが、いま最も求められているのではないだろうか。

 

次々点

『 告白、あるいは完璧な弁護 』

ひところの勢いは感じられないが、それもコロナの影響だったか。しかし本作は韓流サスペンスかつミステリの一級品。韓国の映画は良くも悪くもハリウッド作品の亜流の面を持つが、本作はフランス産のサスペンスやミステリの雰囲気をふんだんに漂わせつつも、韓国らしい人間の情念の強さや深さを感じさせる逸品。

 

2023年最優秀国内映画

『 世界の終わりから 』

数少ない映画オリジナル作品。まさに映像を構想して、そのビジョンのままに創り上げた作品という印象を受けた。過去、現在、未来を夢を媒介にして行き来する壮大なストーリーを、これまたごく少数のキャラクターだけで描き切った監督の手腕は見事。主演に助演、そして脚本と演出、すべてが高い次元で噛み合った逸品。

 

次点

『 658km、陽子の旅 』

ロードムービーの傑作。一人の中年女性のビルドゥングスロマンを、人間の残酷さと優しさの両方を通じて虚飾なく描いていく。終盤の車中での菊地凛子の訥々とした語りは2023年の邦画の名シーンの中の白眉である。

 

次々点

『 福田村事件 』

100年前の事件を描いたものであるにもかかわらず、そこから得られる教訓が全く生かされていないように思える。ネトウヨなどは短絡的に「朝鮮人をテーマにするのはけしからん」と主張するのだろうが、問われているのは特定の国籍や民族ではない。目の前の人間は、人間であるという意味において自分と何ら変わることがないのだ、という当たり前の事実を意識できない者がまだまだ多い。本作が穿つのはその意識の間隙である。

 

2023年最優秀海外俳優

ホン・チャウ

『 ザ・ホエール 』のブレンダン・フレイザーではなく、敢えてその親友かつ看護師のリズを演じたホン・チャウを推したい。チャーリーの友であり疑似的な姉であり母であり恋人でもありながら、最後に一歩引くという選択のできる深みのあるキャラを完璧に演じきったのは見事としか言いようがない。

 

次点

アン・ダウド

『 対峙 』と『 エクソシスト 信じる者 』での演技を評価する。どこにでもいる中年女性が自分の中の弱さに向き合うことで勇気を出すことができる、という彼女の表現力は評価されなければならない。

 

次々点

コリン・ファレル 
ブレンダン・グリーソン

『 イニシェリン島の精霊 』での共演を評価したい。本作の鑑賞はロシアによるウクライナ侵攻開始の約1年後だったが、まさかそこからイスラエルがパレスチナを本格的に攻める日が来るとは思わなかった。国と国が分断されても個人の交流は可能だが、国と国が分断されることで個人の交流もこのように途切れてしまうこともある。本作が個々人の想像力を喚起して、戦禍が個々人を分断しないようになることを望む。

 

2023年最優秀国内俳優

菊地凛子

『 658km、陽子の旅 』での演技で最優秀俳優の選出に異論なし。

 

次点

片岡愛之助

『 翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~ 』で見事なまでに悪一色の大阪府知事像を打ち出した演技を評価したい。世評がどうなっているのかよく分からないが、大阪府知事・吉村洋文の政治的な思想信条は嘉祥寺晃のそれと大差ないと思ってもらって結構だ。

 

次々点

北村有起哉

『 終末の探偵 』のしがない探偵役が大ハマりしていた。情けない中年オヤジが敏腕の探偵に、そして最後は腕っぷしでも魅せるという展開で、まさに男が惚れる男というキャラを好演。また同じキャラを演じる北村を見たい。

 

2023年最優秀海外監督 

ダーレン・アロノフスキー

変化球的な作品を世に送り出すことが多い監督だが、『 ザ・ホエール 』がド直球のヒューマンドラマ。CGではなく襦袢やメイクで巨体を作り上げるという作劇姿勢も当然評価の対象としている。

 

次点

スコット・マン

『 FALL フォール 』でシチュエーション・スリラーに新風を吹き込んだ。高所恐怖症があってもなくても、地上600メートルという極限環境は怖いに決まっている。三部作になるらしいが、ぜひ二作目、三作目でもメガホンを取ってもらいたい。

 

次々点

アリ・アッバシ

『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』の、狂信者が女性を殺していく淡々としたプロセスの演出を評価する。『 福田村事件 』を日本ローカルの事象と受け取るのではなく人間性の否定という普遍的な問題であると受け止められれば、本作もイスラム社会、イラン社会特有の病理ではなく、様々な文化や社会は何らかの病理を内包するものだという監督のメッセージを受け取れるはずだ。

 

2023年最優秀国内監督

松永大司

決して易しくはないテーマを扱った『 エゴイスト 』を傑作に仕上げた手腕を評価する。鈴木亮平という40歳前後の日本の役者の中ではトップの実力者の魅力を『 孤狼の血 LEVEL2 』とは全く異なる方向に十全に引き出すことができていた。

 

次点

山崎貴

はっきり言って不安しかなかった『 ゴジラ-1.0 』をまっとうなゴジラ作品に作り上げたくれた点は評価しないわけにはいかない。人間ドラマが陳腐であるという評価は変わらないが、主役はあくまでもゴジラである。

 

次々点

高橋正弥

『 渇水 』の人間ドラマを評価したい。『 正欲 』の岸善幸監督と争ったが、セクシャル・オリエンテーションよりも、職務に忠実であろうとすることが善にはならないというテーゼを打ち出した高橋監督の炯眼を称えたい。

 

2023年海外クソ映画オブ・ザ・イヤー

『 アントマン&ワスプ クアントマニア 』

サノスを失ったMCUの迷走を顕著に表す一作。Jovianは本作を観てMCUから離脱することができた。『 マーベルズ 』もかなり酷い出来らしいが、観ていないものは評価できない。カーン役のジョナサン・メジャースがクビになったことも本作=クソ映画の印象をより一層強めている。

 

次点

『 グランツーリスモ 』

やたらと世間の評価は高かったが、個人的にはクソ映画だった。主人公の成長よりもゲームと音楽のインフォマーシャルにしか感じられなかった。

 

次々点

『 MEG ザ・モンスターズ2 』

夏の風物詩とも言えるサメ映画だが、ジェイソン・ステイサムをもってしてもクソ映画はやはりクソ映画。飼育メグと野生メグの対決を描けばいいものを、恐竜だのタコだのの妙なクリーチャーを増やすからダメなのだ。

 

2023年国内クソ映画オブ・ザ・イヤー

『 火の鳥 エデンの花 』

手塚治虫の『 火の鳥 』のテーマは生命の壮大さと矮小さ。一寸の虫にも五分の魂と言うが、有限の命の中で懸命に生きて死んでいく様にドラマがある。その序盤のロミのドラマパートをバッサリとカットするというのは、もはや犯罪的な再解釈だと思うのだが、どうだろう。

 

次点

『 忌怪島 きかいじま 』

登場人物がどいつもこいつもアホすぎて話にならなかった。脚本が大学の映画同好会レベルだったのか、それとも現場で役者と監督がちょっとずつ微修正を重ねてこうなったのかは知る由もないが、いずれにしても痛々しいまでに低レベルだった。

 

次々点

『 聖闘士星矢 The Beginning 』

『 リボルバー・リリー 』との対決を僅差で制した本作をクソ映画オブ・ザ・イヤーの次々点に選出したい。とにかくクロスが原作と違い過ぎ、かつダサい上に、神話の世界観に完全に反するメカが次々と登場する展開に頭を抱えざるを得なかった。

 

2024年展望

2024年に楽しみにしている作品は何といっても『  オッペンハイマー』だ。日本の配給会社はどこにどう忖度して、本作を2023年中に公開できなかったのだろうか。MCU映画だと『 デッドプール3 』だけは少し期待している。邦画だと『 みなに幸あれ 』と『 一月の声に歓びを刻め 』の期待値が高い。

2023年はインド映画をあまり鑑賞できなかったので、2024年はパワフルなインド映画をもっと劇場で観たいと思う。またもはやトレーディングカード・ゲーマーの社交場と化した近所のTSUTAYAでDVDやBlu rayをレンタルしようと思う。時代はストリーミング全盛だが、古いビジネスにお付き合いする人間が少しぐらいはいてもいいではないか。

『 リバー、流れないでよ 』に触発されて久しぶりに聖地巡礼をしてみたが、2024年は映画ゆかりの地を訪れる機会を増やす年にしたいなと思う。

 

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