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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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『 ラテン語でわかる英単語 』 -校正と編集に甘さを残す-

Posted on 2025年10月9日2025年10月9日 by cool-jupiter

ラテン語でわかる英単語 50点
2025年10月1日 読書開始(読了時期未定)
著者:ラテン語さん
発行元:株式会社ジャパンタイムズ出版

 

折に触れて小説やら新書を紹介しているが、今回はかなり異色の書籍を紹介したい。

 

概要

「本書は、英検®1級レベルの高い語彙力をつけたい方が効率よく英単語を学習できるように作成したものです」(3ページより抜粋)

 

ポジティブ・サイド

Jovianは英検1級に合格しているが、特段、対策はしなかった。なぜなら(と言っていいかどうか分からないが)ラテン語のバックグラウンドがあったからだ。大学3年生のまるまる一年間、〈ラテン語Ⅰ〉、〈ラテン語Ⅱ〉、〈ラテン語購読〉(わが母校は3学期制なのだ)を受講して、平日には2~3時間、ラテン語を勉強していた。もちろん、20年以上経った今ではかなり忘れてしまっているが、X(旧Twitter)界隈で時々見かける「語源がうんぬんかんぬん」と宣う輩よりは、遥かにetymologyの知識はあると自負している。そのJovianの目から見ても、なかなか面白い語がたくさん取り上げられている。

 

たとえば jus = 権利(86ページ)という語がある(個人的には ius と書きたいが)。これが jurisdiction や prejudice、juror や jury の語源であると知れば、一気にそうした方面の語彙が増える、あるいは覚えやすくなるだろう。

 

136ページの via = 道も面白い。ある程度英語力があれば、via Tokyo = 東京経由で、という意味になるのをご存じだろう。あの via である。ここから convey や convoy、また deviate などの語が派生している。

 

140ページの labor も味わい深い。英語でも労働だが、ラテン語でも労働だ。ここから laboratory = 仕事するところ → 実験室 となったり、あるいは elaborate《形容詞》 で「手の込んだ」、中島誠之助風に言うなら「いい仕事をしている」、という意味にもなる。日本語にも定着したコラボ= collaboration にも、しっかりと labor が入っている。

 

179ページの cedere = 行く、もぜひ知っておきたい。これにより exceed = 外に出ていく=超える、precede =(時間的に)先に行く、proceed =(空間的に)先に行く、secede = 脱退・分離独立する、なども容易に把握できる。本書では seccession をアメリカの南部諸州の独立だと紹介しているが、この語は2014年のスコットランド独立住民投票前に英字新聞で盛んに使われていたし、おそらくスペインからのカタルーニャ独立運動などが英語圏で報じられる際にも使われているはず。シネフィル(映画好き)っぽく言わせてもらえば、『 スター・ウォーズ 』の prequel trilogy で戦争が勃発したのは、通商連合が分離主義勢力=secessionist と組んでからだった。

 

語源の知識が英語力を伸ばすかどうかは不明だが、語彙力を伸ばす手助けになるのは間違いない。英検1級を目指す人が、ちょっと目先を変えた単語帳を求めるなら、本書も選択肢に入れていいだろう。

 

ネガティブ・サイド

大きな弱点が2つ。1つは著者の問題で、もう1つは編集・校正の問題。

 

ラテン語由来の英単語の網羅性がやや甘い。gradi を語源とする語としてregress, digress, congress, egress まで挙げておきながら ingress がないのは解せない。

 

manus = 手についても、派生語ではなく語の説明のところに manual = 手引書だと書くだけで、普通の学習者の腹落ち具合はかなり異なってくると思うのだが。なんでもal = 手引書だと書くだけで、普通の学習者の腹落ち具合はかなり異なってくると思うのだが。なんでもかんでも英検1級を基準に考えるべきではないと思う。parare のところで repair を取り上げているのだから、取り上げる英単語の選択が首尾一貫しているとは言い難い。

 

次に編集のミス(それとも著者のミス?)について。255ページのferreについて、「英語のtransfer「輸送する」とtranslate「翻訳する」は、同じ動詞(の違う語幹)が元になっている。つまり、完了形「私は運んだ」はtuli、「運ばれた」という意味になる完了受動分詞はlatusで、どちらもferreと起源が異なる形が使われているのだ」とあるが、起源は両方ともferreで同一である。正しくは『どちらもferreの時制や態が変化してできた異なる語幹(tulやlat)が使われているのだ』となるだろうか。

 

hortusの説明に「226で紹介したcohorsの関連語」とあるが、226とナンバリングされた語のところにも、226ページにもcohorsは記述されていない。これは編集・校正段階のミスだろう。

Jacereのところで、Jacta alea est =「さいは投げられた」としているが、これはAlea iacta est. の間違いではないか。いや、ラテン語は語順には融通無碍だが、歴史的な格言はそのままの語順を保つべきだ。

 

ザーッと軽く流し読みしただけで、これだけ「ん?」という記述が見つかるのだから、熟読するとどうなることやら・・・

 

英語のインデックスはあるが、ラテン語のインデックスがない。何故?

 

総評

英検1級を目指す人には向くかもしれない。あるいは時々存在する英単語マニアには好適か。ラテン語あるいはフランス語学習をある程度済ませた人には向かない。本書がベストセラーあるいはロングセラーになれば、そのうち errata がつくかもしれない。それを期待する意味でも本書を紹介しておく。もっとライトな語源の本がいいという人は GENGOZO でググってみよう。これはかつてのJovianの上司が作った本。たまにメルカリやヤフオクで売られている。間違いがかなり含まれているが、語源と英単語そのものの網羅性は(一応)本書よりも上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

I am now slowly phasing over to https://jovianreviews.com. This site will continue to be updated on a regular basis for the time being.

Posted in 国内, 書籍Tagged 2020年代, D Rank, 学術書, 日本, 発行元:株式会社ジャパンタイムズ出版, 著者:ラテン語さんLeave a Comment on 『 ラテン語でわかる英単語 』 -校正と編集に甘さを残す-

『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

Posted on 2025年9月8日2025年9月8日 by cool-jupiter

8番出口 40点
2025年9月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:二宮和也 河内大和 浅沼成
監督:川村元気

 

鑑賞予定はなかったが、本作のモデル駅がJR大阪天満宮駅だという説に興味を惹かれた。なぜならJovianは毎日同駅の8番出口から会社に向かっているから。というわけでチケット購入。

あらすじ

地下鉄で派遣先へ向かっていた男(二宮和也)は、不思議な空間に迷い込み、出られなくなってしまう。異変がなければ進み、異変があれば引き返し、そして8番出口から出ることという謎のルールに従って、男は前へ進んでいくが・・・

ポジティブ・サイド

なんといっても謎のおじさんを演じた河内大和が抜群の存在感を放っている。あの歩き方、曲がり方、表情の作り方、止まり方、そのすべてがリアル。ここでいうリアルとは、こんなおじさんは絶対に存在しないはずなのに存在してしまっているという意味。

 

ゲームに忠実で、異変のあるべき場所もだいたい同じ(だった気がする)。通路の雰囲気も確かに大阪天満宮駅の8番出口脇から伸びて左に曲がっていくやや上りのスロープの場所とよく似ていた。9番出口を出てちょっと北に進むと某専門学校がある。KOTAKE CREATEはこの学校出身なのかもしれない。

ネガティブ・サイド

最初の5分でストーリーの展開と着地点が見えてしまった。ある程度映画を見慣れている人の多くがそう感じたのではないだろうか。そうしたキャラクターの背景を一切抜きにして、理不尽かつ意味不明なゲームの世界をまず最初に提示する。そして通路のポスターなどを、たとえば病院主催のパパママ教室にするなどして、主人公の葛藤を言葉ではなく主人公の表情やたたずまいから感じ取らせる。そういう演出は不可能だったか。

 

主人公のキャラクターがほとんどそのまま『 グーニーズ 』のマイキーだったり、異変とともに出てくるクリーチャーが古今東西でおなじみの姿だったり、異変の一つが『 シャイニング 』のパクリだったり、とにかくオリジナリティがない。

 

そもそも基のゲームに存在した理不尽なゲームオーバーがない。おじさんがいきなり目の前に迫ってくるという異変に対して背を向けることができずにゲームオーバー、そして → 0番出口 の掲示の前からリスタート・・・のような理不尽さがないと、異変の危険度というか、異変をどれくらい真剣に捉えなければならないかといった真剣度が高まらない。

 

異変を見逃さないということは、逆に言えば我々はそれだけ世の中の変化を見逃している、あるいは世の中の変化を拒んでいるとも言える。それを一つのテーマに挙げるのは結構だが、そのことを主人公が悟るのではなく、まったく別のキャラクターの口から語らせるのは、凡百の邦画がやってしまう安易な方法で、本作もその陥穽にはまってしまっている。やたらけばけばしい女子高生キャラクターは不要だった。もっと言えばおじさんのパートも不要だった。

 

本作は二宮やら小松やらの名のある俳優が出てくるが、それがノイズになっているように感じた。『 侍タイムスリッパー 』や『 最後の乗客 』のように、無名だが実力あるキャストをそろえて撮影してほしかった。そうすれば観ている側も感情移入できるし、代り映えのしない駅のコンコースにもより注意を向けられるようになると思うのだが。

総評

Jovianは原作は未プレイ。だが、Jovian妻がHIKAKINの配信動画を観ていたのを時々横から眺めてはいた。映画にするならゲームに忠実に作りつつ、オリジナルなアイデアを盛り込んでほしかった。本作は残念ながら原作の再現度もオリジナル要素もどちらも中途半端。駄作とまでは言わないが、面白いとも言えない。貯まっているポイントを消化して無料鑑賞するのはあり。配信やレンタルを待つのもありだ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

anomaly

異変や異常を指す単語。はじめて知ったのは小説『 星を継ぐもの 』の原著 “Inherit the Stars”でだった。解剖学的異常など、医学の分野で使うことが多いが、同小説では月のレゴリスの放射性同位元素の不均衡な分布を指してアノマリーという言葉を使っていた。調べてみたところ、『 8番出口 』の異変も anomaly と訳されている。英語学習者はこれを機に本単語も覚えてみよう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 蔵のある街 』
『 侵蝕 』
『 ブロークン 復讐者の夜 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, スーパーナチュラル・スリラー, ホラー, 二宮和也, 日本, 河内大和, 浅沼成, 監督:川村元気, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

『 28年後… 』 -ツッコミどころ満載-

Posted on 2025年7月2日 by cool-jupiter

28年後… 30点
2025年6月29日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:アルフィー・ウィリアムズ アーロン・テイラー=ジョンソン ジョディ・カマー レイフ・ファインズ
監督:ダニー・ボイル

 

『 28日後… 』と『 28週後… 』の続編ということでチケット購入。

あらすじ

レイジウィルスによってイギリス全土が隔離されて以来、28年。ある島で細々と生き残っていた人々がいた。ジェイミー(アーロン・テイラー=ジョンソン)は12歳の息子スパイク(アルフィー・ウィリアムズ)を連れて、本土のゾンビ刈りに同行させるが・・・

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

新型ゾンビ・・・ではなく感染者が環境に適応しているというのは、それはそれで面白かった。森に生きる感染者と平原で生きる感染者が異なった生態を示していたのは説得力があった。また異種感染しないという『 28週後… 』の設定も引き継がれていたことが確認できた。感染者を生化学的に分析・攻略するシーンもあり、人間が生きるためにはサイエンスが物を言うことを再確認した。

 

アルファというボスゾンビ・・・ではなくボス的感染者はゲーム『 バイオハザード 』のタイラントあるいはネメシスみたいな感じで、割とすんなり受け入れられた。

 

ネガティブ・サイド

いくら前作で米軍が同士討ちもあって壊滅したとはいえ、世界がイギリスをここまで放置するか?いや、本土はいいとして、離島で生き残った人は保護されてしかるべきだろう。それとも、多くのブリティッシュが自認するようにイギリスは嫌われていることを殊更に明示しているのか。

 

島の人々が Tom Jones の Delilah の大合唱をしていたが、いったい時代はいつなのか。仮に2025年だとしても、さすがに60年前の歌を年寄りだけではなくそれなりに若い世代まで歌えるのか?レコードなどの機械はいっさい見当たらなかったが。

 

そもそも何故に安全な島から出て、本土を目指すのか。もちろん医薬品やら衣料品やら日用品やら使える物は色々と見つかるだろうが、28年も経過してしまうとそれも望み薄だろう。だったら男子のイニシエーションなのか?学校はなくても、子どもを軍事教練に駆り出しているシーンがあったが、学校でこそ感染者の実態を教え込むべきだろう。ジェイミーが実地でスパイクに色々と教え込んでいたのは、フィールドワークならありだが、サバイバルでは愚の骨頂。

 

島そのものが天然の要害になっているが、干潮時の防御がなにもないとはこれ如何に。アルファが矢を10本食らっても倒れなかったというデータがあるなら、矢を20本打つとか、あるいはボーガンを作って威力を上げる、トラバサミのような罠を使うなど、色々と対策はあったはず。それが全くなかったというのは28年あれば人間はアホになるということか。

 

感染者の妊娠というのは中盤で明示されていたし、アイデアとしては誰でも思いつく。漫画『 寄生獣 』で似たようなアイデアはすでに出ていたし。問題はその子どもが〇〇〇だということ。胎盤の奇跡とは・・・仮に胎盤がウィルスをシャットアウト(できるわけないが)したとして、普通に分娩時に経産道感染するはず・・・ なので子どもは『 28週後… 』同様に無症候型キャリアで良かった。また、子どもの父親はアルファであると暗示されていたので、それを元に280年後あるいは28世紀後の地球をゾンビ・・・じゃなかった多数の感染者と本当に細々とだけ残った原始人的人類の物語につなげられただろうに。

 

スパイクが医者を求めてドクター・ケルソンのもとを目指すのは分からんでもないが、まともな教育を一切受けていないスパイクがケルソン先生の診察過程や診断内容を理解できたようには到底思えない。にもかかわらず、あの結末を母親だけではなくスパイクが受け入れる?ちょっと考えづらいのだが。

 

というかケルソン先生も感染者に効くモルヒネとかを、どこでどう調達して28年も維持できたのか。医者というよりも薬学者、それも西洋ではなく漢方薬寄りの学者である。トリカブトやらスズランやら、普通に感染者を安全に殺せそうな毒をこの先生なら調合できそうだが、そういうわけでもないらしい。というか、アルファをストップさせたのなら、そこでもっと大量にモルヒネをぶち込んで殺さんかい、と思ってしまう。

 

島民以外の人間の存在も示唆されていたが、それがラストのあいつら?いくらなんでもあの世紀末軍団があんな見せしめ的な行為に走るだろうか。というか、感染者とのバトルで使う武器が貧相で泣けてくる。普通に体液をまき散らす武器および戦い方で、よくこれで生き延びてこれたなと感心した。

 

続編がありそうな雰囲気だが、たとえ制作されても見ない。コレジャナイ感が非常に強い作品だった。

 

総評

当初から各方面のレビューが賛否両論だった。ということは波長が合えば面白く、波長が合わなければ面白くないわけで、こういう丁半を賭けたばくちも時には必要だ。英語レビューでも賞賛はたくさんあるので、本当に監督や脚本家との相性次第だと思う。ひとつ言えるのはデートムービーではないということ。またファミリーで観るのもお勧めできない。カップルあるいはお一人様での鑑賞が無難である。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Memento amare

直訳すると、Remember to love となる。Memento は singular の imperative で、amare は to love という英語のto不定詞的な形。合わせて Remeber to love となる。有名な Memento mori は Remember to die だが、ラテン語には形は受動態しかないが意味は能動態という動詞が、loquor, sequor, morior, utorなど、いくつもある。20年以上前の授業の内容でも結構覚えているもので、自分でもびっくりしている。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 フロントライン 』
『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アーロン・テイラー=ジョンソン, アメリカ, アルフィー・ウィリアムズ, イギリス, ジョディ・カマー, ホラー, レイフ・ファインズ, 監督:ダニー・ボイル, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 28年後… 』 -ツッコミどころ満載-

『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

Posted on 2025年6月21日2025年6月21日 by cool-jupiter

リライト 55点
2025年6月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池田エライザ 阿達慶
監督:松居大悟

法条遥の同名小説の映画化ということでチケット購入。ラストを一捻りしているが、そこに至るまでは割と原作に忠実だった。

あらすじ

2310年の未来からタイムリープしてきた保彦(阿達慶)と偶然にも親密になった美雪(池田エライザ)は、やがて彼に惹かれていく。しかし、ある悲劇が康彦を襲う。彼を救う全てを求めて10年後の自分に出会いに行く美幸だが・・・

ポジティブ・サイド

原作の少しわちゃわちゃしていたところが視覚化されて、分かりやすくなっていた。原作もそうだったが、『 時をかける少女 』へのオマージュが随所にある。〇〇〇〇を読んだ康彦ではないが、尾道に行ってみたくなるような作品になっている。

本作は(原作もそうなのだが)一種のギャルゲーだと思えばいい。ある意味、『 Ever17 -the out of infinity- 』が近いだろうか。これがネタバレにならないことを祈る。

大人の美雪を掘り下げたところが原作との違いで、ここは面白かった。リライト=rewriteが意味するところは、自分の運命や人生の書き換えでもある。曲がりなりにも分泌のプロになったのなら、Verweile doch, du bist so schön! という精神を持ちたいもの。

ネガティブ・サイド

正直、原作のおどろおどろしい執念のようなものが消えてしまっていて残念。それが何であるか気になる人は原作を読んでほしい。康彦の口癖の「何という無駄!」は削る必要はあったのだろうか。

キャスティングも残念ながら減点材料。池田エライザや橋本愛が高校生を演じるのはさすがに無理があるし、その他の同級生たちもかなりしんどかった。

橋本愛の罪ではないが、販促物、とくにポスタービジュアルなどを手がける人はネタバレを避けてほしい。あるいは鑑賞後にそれと分かる作りにしてほしい。原作未読のうちの嫁さん(に限らず普通の感受性と観察力の持ち主)は、すぐに誰がキーパーソンなのか悟ってしまった。

総評

小説の映画化としてはまあまあ。同作家の作品で言えば『 バイロケーション 』よりはマシである。池田エライザのファンなら鑑賞すべし。そうでなければスルー推奨。本当ならアニメ作品にすべきなのだろう。というわけで、タイムリープものとしては本作よりも遥かに面白い高畑京一郎の小説『 タイム・リープ あしたはきのう 』を、誰か105分程度でアニメ化してくれませんかねえ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I wish time stopped now.

時間が止まってほしい、の意。さて、本作ではとあるキャラクターがこれを日本語で言う。どんな場面なのかしっかりと把握して、ここぞというロマンチックな場面でこれをささやいてみよう。それができれば英検1級を超えて英検0級である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 JUNK WORLD 』
『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, SF, 日本, 池田エライザ, 監督:松居大悟, 配給会社:バンダイナムコフィルムワークス, 阿達慶Leave a Comment on 『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

Posted on 2025年6月4日2025年6月4日 by cool-jupiter

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』 50点
2025年5月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:奥平大兼 出口夏希
監督:中川駿

 

『 君の膵臓をたべたい 』の住野よる原作、『 カランコエの花 』の中川駿監督ということでチケット購入。期待はやや裏切られた感じ。

あらすじ

大塚京(奥平大兼)は三木直子(出口夏希)に恋心を抱いていた。しかし、一方で単なるクラスメイトの男子としてのポジションにも満足していた。しかし、不登校だったとあるクラスメイトが学校に帰ってきたことで、京の周囲の人間関係が少しずつ動き出し始めて・・・

ポジティブ・サイド

はっきりとは覚えていないが、Jovianは保育園の年長ぐらいまでは、自分の気持ちも他人の気持ちも目に見えていた。より正確に言うと、AがBに怒っていると、AからBに赤い光線が走る、CがDに感謝しているとCからDに白い光線が走る、のように見えていた。まあ、イマジナリーフレンドのようなもので、自分だけに見えて、自分だけにリアルに感じられるものだったのだろう。小学校に入学したとたんに一切見えなくなったが、特にそれでショックを受けたような記憶もない。けれど、そうした見方をする子どもがいて、その子がそのまま成長したら・・・という想像は容易。なので、本作のキャラクターたちの「他人の気持ちが視覚化されて見える」という隠し事には素直に共感できた。

 

単に主人公とヒロイン、じゃなかったヒーローの二人の関係だけを追求する物語ではなく、5人組がアンサンブルキャストになっている点が良かった。若さとは省みないことたが、逆に省みすぎてしまうことでもある。青春時代、好きになってしまった相手に猪突猛進した人もいれば、好きになってしまったがゆえにその相手に対して身動きが取れなくなってしまった、なぜなら自分は相手にまったくふさわしくないから、と信じ込んでしまった人もいるだろう。本作は後者の集まりで出来ている。それが心理的な駆け引きではなく、それぞれの隠し事によるものだという点が興味深かった。

 

好きという感情もあれば、その反対に嫌いという感情もある。いや、マザー・テレサ風に言えば好きの反対は無関心か。誰かを嫌いになれるのも、それだけ相手を気に掛けているから。あるキャラがやや屈折した考え方(考え方であり、決して感じ方ではない点に注意)から一歩引いたところにいるのだが、これは古典的でありながらも現代的。『 カランコエの花 』のような価値観は本当に遠くのものになってしまったのだとしみじみ実感する。

ネガティブ・サイド

京のしゃべりがボソボソ、モゴモゴで聞き取りにくかった。監督の演出なのだろうか。はっきりとボソボソしゃべってこそ演技と言える。

 

ヅカにはパラ相手の見せ場はあったものの、一人だけ掘り下げが圧倒的に少なかったのは、原作がそうだからなのか、それとも脚本でそうなってしまったのか、はたまた編集の都合なのか。

 

主人公二人の特殊能力が、特に何もドラマを生まないのが一番の不満。他人の心理がある程度わかってしまう。だからこそ自分を抑えてしまうというのは、個人的には若さよりも老いを感じさせる。

 

ミッキーと京の距離が縮まるのがあまりにも唐突過ぎ。なんなら、不登校だったエルと京の間のドラマこそ盛り上がるべきだった。というか、女子からしたら男子にシャンプーを変えたことに気付いてもらえるというのは、メチャクチャ嬉しいか、メチャクチャ気持ち悪いかの二択。だからこそ、そこを追求するサブプロットがあってしかるべきだった。

 

全体的に5人が非常に閉じた世界に敢えて引きこもっているという印象を受けた。何の変哲もないクラスメイトの女子または男子が「お前らの両想い、バレバレだぜ?」みたいに一瞬だけ割り込んでくれば、もっとリアルになったように思う。

 

総評

羊頭狗肉は言い過ぎかもしれないが、「君の秘密を知ったとき、純度100%の涙が溢れ出す。」という宣伝文句は、看板に偽りありとの誹りは免れない。原作小説はしっかりしているのだろうか。中川駿監督の得意とするウソが下手な若者の像は描き出せている。ただ住野よるのテイストが出ていたかというと疑問。鑑賞するなら期待しすぎず、普通の青春群像劇でも観るか、ぐらいのノリでいた方が良い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

dry up

干上がるという意味以外にも「言葉が出なくなる」という意味もある。He suddenly dried up in the middle of the presentation. =彼はプレゼンの最中に突然黙ってしまった、のように使う。プレゼン中でも商談中でも授業中でも、dry up は怖いものである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 国宝 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, 出口夏希, 奥平大兼, 日本, 監督:中川駿, 配給会社:松竹, 青春Leave a Comment on 『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

『 サンダーボルツ* 』 -ヒーローとしても人間としてもしょぼい-

Posted on 2025年5月18日2025年5月18日 by cool-jupiter

サンダーボルツ* 40点
2025年5月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:フローレンス・ピュー
監督:ジェイク・シュライアー

 

Friday Nightに何となく鑑賞。かなりビミョーな出来だった。

あらすじ

虚無感に苛まれるエレーナ(フローレンス・ピュー)は、CIA長官ヴァレンティーナから裏稼業に生きていた。足を洗おうと最後の仕事に向かった先で、自分と同じくヒーローではない者たち、そして記憶を失ったボブに出会う。窮地に陥った彼らは団結することを余儀なくされ・・・

ポジティブ・サイド

一応、『 キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド 』の直後の世界らしい。怪物が出現しても、それを食い止めるアベンジャーズはもういない、というところから始まるのは分かりやすい。

 

これまでは正義の対極にあるのは別の正義というテーマを追い求めるところもあったMCUだが、今作は一気に「この世は悪とそれ以上の悪で成り立っている」という命題に振り切った。これは潔い。『 ダークナイト 』では正義の存立のためには悪が不可欠だと喝破されたが、サノス不在、カーンが役者都合により退場となった今、悪の対極に正義を持ってくるのは難しい。なのでヴィランの集団を持ってきたことには必然性が認められる。

 

そのヴィランたちが単なる悪ではなく、それぞれに異なる虚無感やトラウマを抱えているのも、スーパーヒューマンではない人間らしさがある。悪人を作るのは、個人の心性ではなく環境や境遇にある。かつてのスティーブ・ロジャースも、戦争という状況に立ち上がって、キャプテン・アメリカになった。それとある意味同じことがサンダーボルツの面々にも起きていたのである。

 

ネガティブ・サイド

本作には二人のヴィランが存在する。一人はCIA長官のヴァレンティーナ。もう一人は、セントリー計画で生み出されたセントリー。このセントリーの強さがよく分からなかった。サイコキネシスで遠くにあるグラスを割ったと思った次のシーンでは、かつてのアベンジャーズ全員を合わせたよりも強いと称されるのは、さすがに飛躍があり過ぎ。拳の勝負でハルクに打ち勝ったサノスに比べて、全員が生身の人間よりちょっと強い程度のサンダーボルツを圧倒しても、それが脅威だとは思えない。

 

そもそも『 スーサイド・スクワッド 』とコンセプトが同じで、上司が小悪党の女性という点でも同じ。また『 スーサイド・スクワッド 』にはエル・ディアブロが、『 ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結 』ではキング・シャークなど、明らかに人間を超えた強さのキャラがいたが、サンダーボルツにはそうしたキャラはゼロ。この時点でセントリーを倒す方法が精神攻撃しかないことがすぐに分かる。それはそれで各キャラの深掘りというサブプロットとも結びついてはいるものの、爽快感などはまったく無し。エンタメとしては失敗だろう。

 

個人的にはレッド・ガーディアンがうるさすぎて辟易した。元々こういうキャラなのだろうが、単純に不快だった。中心キャラのエレーナの内面もイマイチ。一年間音沙汰のなかった父親に対して不満たらたらだが、だったらほとんど家族として過ごしてこなかった義理の姉の死になぜそれほどの虚無感を抱くのか。キャラに個性はあったが、個性があるからと言ってよいキャラであるとは限らない。

 

総評

本作は結局のところ、次なるヴィラン登場のためのつなぎの作品。MCU的には重要なのだろうが必須とまでは思えない。アクションシーンでも見どころと言えるのはバッキーぐらい。それも一瞬。フライドポテトとゼロのコーラを片手に金曜の夜に鑑賞した。ということは、前々からスケジュールを吟味して土曜や日曜の昼間に見に行くような作品ではないということ。MCUの大ファン以外は配信やレンタルを待つのが吉だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

squeaky clean

手で触るとキュッキュッという音がするほどキレイ、という意味。セサミストリートのエルモが風呂に入って「squeaky clean になった」と言ったり、あるいはコロナ禍にやはりエルモが手洗いをのデモンストレーションをして「手が squeaky clean になった」などとも言っていた。全身が毛でふさふさのエルモがどうやってキュッキュッと音がするほどキレイになれるのか、などと問うてはいけない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 金子差入店 』
『 タイヨウのウタ 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, フローレンス・ピュー, 監督:ジェイク・シュライアー, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 サンダーボルツ* 』 -ヒーローとしても人間としてもしょぼい-

『 28週後… 』 -初鑑賞-

Posted on 2025年5月12日 by cool-jupiter

28週後… 40点
2025年5月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ロバート・カーライル キャサリン・マコーマック イモージェン・ブーツ ジェレミー・レナー
監督:ファン・カルロス・フレスナディージョ

 

『 28日後… 』の間接的な続編ということでレンタル。今回が初鑑賞となる。

あらすじ

ウィルス発生から28週後。アメリカによるウィルス根絶宣言が出されたロンドンは、一部の街区に住民を呼び戻し始める。そこには子どもとの合流を待つドン(ロバート・カーライル)の姿もあった。しかし、彼はそこにたどり着くまでに妻アリス(キャサリン・マコーマック)を犠牲にしていて・・・

 

ポジティブ・サイド

前作が赤の他人同士の連帯の物語だとすれば、今作は家族の連帯が試されるという物語。それも、細部に注目すれば悲劇だが、巨視的に見ればとんでもないコメディという構成になっている。ここらへんは『 マギー 』などの後発作品にしっかり受け継がれており、新しいテーマを追求できていたと思う。

 

ジェレミー・レナーがスナイパー役だったり、イドリス・エルバが司令官役だったりと、キャストもそれなりに豪華。ドッグアイランドの軍監視の元での日常復帰は、どこかコロナの緊急事態宣言明けを思い起こさせてくれた。

 

『 28日後… 』から『 28週後… 』という流れは、韓国の『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』から『 新 感染半島 ファイナル・ステージ 』とそっくりで、本フランチャイズの影響力を物語っているように思う。

 

ネガティブ・サイド

家族というテーマ以外に、特に目新しいものはなかった。ごく少数の人間が未知の脅威と戦うというプロットが、次作では軍 vs 脅威になるというのは、まんま『 エイリアン 』から『 エイリアン2 』への流れと同じ。

 

前作では明らかにされなかった感染者の餓死までの日数は本作でも明らかにされず。しかし、冒頭の字幕では20週ぐらいかかっていた?ということは、感染者は共食いする?ロンドンが平穏に戻る過程がきわめて不明瞭だった。

 

驚異の感染力のウィルスがなぜか特定の人間には効かないというのは、マイケル・クライトンの古典的小説『 アンドロメダ病原体 』の基本プロットそのまんま。この点でもオリジナリティには欠けていた。

 

イドリス・エルバが「異種間感染しない」と断言していたが、前作でチンパンジーからヒトに移った事実はどこに行った?

 

無症候キャリアが無造作に処置室に放置されていたが、こんな貴重なサンプルはすぐさま厳重に保管されるはずではないか。米軍もコード・レッドを事前に策定しておくのは構わんが、ワクチン研究のためのサンプルの確保のプロトコルを作る必要性は想定できなかったのか。

 

最大の疑問、つまり感染者は何を材料に感染者と非感染者を区別しているのかは本作でも謎のまま。夜間の襲撃等もあったので視覚だけではありえない。聴覚も喧噪の中で非感染者を選択的に襲ったりしているので、これもありえない。では嗅覚か?だとすると香水やら化粧をつけている女性の方が襲われる率は低そうだが、実際そうなっていない。このあたりのヒントになるような情報がないと、28年後の世界、すなわち28年間、人間がかろうじて生存できるという世界につながることが想像しがたいのだが・・・

 

総評

感染封じ込めの失敗はプロットの都合上仕方ないことではあるが、その過程が非現実的すぎる。家族の絆が軍人の使命感に勝るような展開を構想すべきだった。それでこそジェレミー・レナーの行動にも説得力が出たはず。ここから『 28か月後… 』ではなく『 28年後… 』につながるとすれば、日本やインドネシア、フィリピンのような島国が舞台になるか、あるいは英国の片田舎が舞台になるのだろうか。楽しみなような、不安なような・・・

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

be pleasantly surprised

良い意味で驚かされる、の意味。ネイティブ連中が結構よく使う表現。I did a pop quiz today, and some of the students booed me, but I was pleasantly surprised by the test results. 今日は抜き打ちテストをして、何人かの学生がブー垂れたが、テスト結果には良い意味で驚かされた、のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』
『 新世紀ロマンティクス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, D Rank, イギリス, イモージェン・ブーツ, キャサリン・マコーマック, ジェレミー・レナー, スペイン, ホラー, ロバート・カーライル, 監督:ファン・カルロス・フレスナディージョ, 配給会社:20世紀フォックスLeave a Comment on 『 28週後… 』 -初鑑賞-

『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

Posted on 2025年4月21日2025年4月21日 by cool-jupiter

片思い世界 40点
2025年4月18日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:広瀬すず 杉咲花 清原果耶
監督:土井裕泰

 

『 花束みたいな恋をした 』の土井裕康監督作品ということでチケット購入。事前情報はほとんど仕入れずに臨んだが、思っていた作品ではなかった。

あらすじ

美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)の3人は仕事、大学生活、アルバイトに勤しみながら、共同生活を送っていた。ある日、美咲が心寄せる幼馴染みの男性を見つけたことから、優花とさくらは美咲に告白を促すが・・・

 

以下、わずかなネタバレあり

ポジティブ・サイド

設定自体は割とありふれている。パッと思いつくだけでも



『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』

『 アザーズ 』

『 ザ・メッセージ 』

 

などが思い浮かぶ。本作のユニークなところは、それを3人娘の物語にしたところ。美咲、優花、さくらの三人が異なるパーソナリティを持っていて、それぞれに愛する人、会いたい人、憎むべき人を追っていくというサブプロットも悪くない。

 

魂魄この世にとどまりて怨み晴らさでおくべきかと言うが、生きていればどうしたって未練が残る。それは思慕の念であったり怨念であったりする。それを昇華して生きることの難しさや美しさが本作では存分に描き出される。

 

ストーリーに没入してもいいし、単純に目の保養のためにチケット購入するのもいいだろう。

ネガティブ・サイド

冒頭の回想シーンで「イマジナリーフレンドかな?」と思い、清原果耶の帰宅シーンで「ん、〇〇か?」と予感し、的中。もう少し導入部分を上手く組み立てられなかったか。

 

設定を必要以上に説明しようとするのは完全に蛇足であると感じた。おそらく『 TENET テネット 』にインスパイアされたのだと思われるが、脚本家は量子力学と素粒子物理学を弁別できていない。前者はミクロのレベルでは物理現象は量子化(離散的な値しか取れない)されるという前提に立つ学問で、後者は超ミクロの粒子は様々な力によって相互に作用することを研究する学問。両者は等価ではない。にもかかわらず、他世界解釈的な描写(それ自体が矛盾しているのだが)があったりと釈然としない。また素粒子物理の講義なのにシュレディンガー方程式を扱ったハンドアウトが配布されたりしている。何故だ?

 

また、3人が互いには触れ合えるのに他人に対してそうではないというのは、素粒子物理学で言うところの斥力のように感じられて興味深かったが、そうであれば3人は一定の距離以上には離れられないといった制約があればより説得力があった。

 

ラジオ放送も意味不明。ここのサブプロットは不要だった。もしくはここを追求するのであれば、合唱コンクールを録画あるいは録音した音声に子どもたち以外の声があった、という方がプロット上はより整合性が感じられるのではないだろうか。

 

優花の母の暴走を母の愛以上に描けたはずだが、そうしなかったのか、できなかったのか。「理由を知りたい」というのは実はエゴで、理由ではなく、理由を知ろうとすることそのものが自分の生きる理由になる。『 ゼロ・ダーク・サーティ 』でも、憎むべき敵をついに追い詰めた時、主人公の胸に去来したのは充実感ではなく喪失感だった。人間とは往々にしてそういうもの。もっと人間のドロドロの情念に踏み込んでほしかった。

 

美咲の書いたオペラは美しいのは美しいが、10代前半で可能な描写ではない。

 

総評

不条理な世界の設定を詩や戯曲を通じて語るのはよい。しかし、サイエンスを絡ませるのならそこも徹底すべきである。あるいはサイエンスはすべて排除すべきだった。物語世界の設定は悪くないのだから、そこに生きるキャラを徹底的に描写すべきで、世界がどうなっているのかを追究するのは不要だった。鑑賞する際は、キャラクター達だけに集中のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

relocate

引っ越しする、の意味。moveよりも少しフォーマル。I am scheduled to relocate to Tokyo due to my job transfer. のように使う。語彙力増強のためには類義語を覚えるのが早道だが、その際、レジスター(カジュアルな表現なのかフォーマルな表現なのか)を意識できれば中級者以上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』
『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ラブロマンス, 広瀬すず, 日本, 杉咲花, 清原果耶, 監督:土井裕泰, 配給会社:リトルモア, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

『 幻魔大戦 』 -ペーシングに難あり-

Posted on 2025年2月24日 by cool-jupiter

幻魔大戦 40点
2025年2月22日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:小山茉美 江守徹 古谷徹
監督:りんたろう

 

小学校3~4年生の頃、テレビで観た記憶がある。または親父が借りてきたレンタルビデオだったか。久しぶりに鑑賞して、正直なところ少しがっかりさせられた。

あらすじ

宇宙のあらゆる生命を破壊せんとする幻魔大王の魔の手が地球に迫る。トランシルバニア王国のルナ(小山茉美)は、銀河の彼方からのサイボーグ戦士ベガ(江守徹)と共に幻魔一族と戦うため地球のサイオニクス戦士たちを集めようとして・・・

ポジティブ・サイド

世紀末思想華やかなりし1980年代という感じが懐かしかった。また当時はテレビでも普通にイカサマ超能力がもてはやされていた時代で、『 スター・ウォーズ 』の理力(本当に初期はフォース=理力、ライトセイバー=電光剣、ジェダイ=共和騎士などと訳されていた)にいたく感動していたJovian少年は、サイオニクス戦士たちの闘いにハラハラドキドキしたのを覚えている。

 

人間が幻魔に乗っ取られ変態する、というのは漫画『 ゴッドサイダー 』の下級デビルサイダーの描写に影響を与えたように思う。また、アニメーション全般に『 AKIRA 』や『 迷宮物語 』の「ラビリンス*ラビリントス」との共通点や類似点も感じ取れたのが興味深かった。『 ターミネーター2 』製作前の『 アビス 』のような、一種の実験的作品だと感じられた。

 

ネガティブ・サイド

とにかく語り口がもたもたして、テンポが悪すぎる。1時間50分あるいは2時間ちょうどに収めるためにも、丈の恋人やら友人のパートはもっとカットできたはず。その一方で仲間となる地球のサイオニクス戦士たちの描写の量も非常にアンバランス。すべてのキャラに平等に時間を割く必要はない。『 11人いる! 』ぐらいのバランスで各キャラの背景などを描き出すことはできたはず。

 

幻魔の地球侵攻の描写がほぼゼロ。というか幻魔が地震や津波などの天変地異を起こせるなら、それこそサイオニクス戦士はまったく歯が立たないのでは?

 

また愛と勇気が力をもたらすという、ある種のアンパンマン的な思想は時代の反映なので仕方がないにしても、肝心の丈の愛への目覚めが死にそうになっていた動物たちを助けたいという気持ちだったというのは拍子抜け。というか、恋人(の姿をした幻魔)を死なせたり友人(の姿をした幻魔)を死なせたりしているが、実際の恋人や友人はその裏ではかなり高い蓋然性で死んでいるわけで、そうした者たちへの愛情や愛着はなかったのか?

 

どこか噛み合わないBGMに本物のクラシック音楽を使った劇伴が、それほど悪くないはずの作画のクオリティまで低く見せてしまっている。まあ、アニメ監督の大家りんたろうの肥しとなったクソ作品として受け取ろう。

 

総評

リバイバル上映された劇場では50~60代と思しき映画ファンたちが何故か真ん中の列にかたまっていたな。ノスタルジーを感じる目的で鑑賞するならOKだが、面白さを求めてはならない。一種の考古学的な態度で視聴するのが正しいスタイルと言えようか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Absolute zero

絶対零度の意。『 ゴジラ×メカゴジラ 』の機龍の最終兵器の名前もアブソリュート・ゼロ、つまり絶対零度兵器だった。ビデオゲームなどでも絶対零度はよく出てくるが、英語でも日本語でもとにかく中二病感のあふれる字面である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 マルホランド・ドライブ 』
『 バンパイアハンターD 』

 

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Posted in 未分類Tagged 1980年代, D Rank, SF, アニメ, 古谷徹, 小山茉美, 日本, 江守徹, 監督:りんたろう, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 幻魔大戦 』 -ペーシングに難あり-

『 銀幕の友 』 -朋あり遠方より来る、亦た楽しからずや-

Posted on 2025年2月23日2025年2月23日 by cool-jupiter

銀幕の友 50点
2025年2月22日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:チョウ・シュン ワン・イーボー
監督:チャン・ダーレイ

 

妻が「短編は配信されないので劇場で観たい」というのでチケット購入。

あらすじ

1990年、北京でのアジア競技大会が終わった頃、チョウ(チョウ・シュン)は中国のとある街の工場労働者向けの映画のチケットを配布していた。そこに旅から帰ってきたというリーが友人を訪ねてきて・・・

 

ポジティブ・サイド

北京に集結したアジア各国の代表たちと今度は広島で会おうと誓う歌が、中国各地に散った同胞および同朋との出会いとパラレルになっている。

 

何気ない街の日常を静かに見つめるという点では男女が逆だが『 パターソン 』に似ていると感じた。非日常から日常に回帰する時、同郷の友の訪問を受ける。何気ない営為がとても尊く、愛おしく感じられる瞬間でもある。

 

皆が一つの目的でそこに集い、一つの体験を同時に共有できるという意味で、映画館は同好の士との出会いの場と言える。実際に『 熱烈 』を通じて劇場で意気投合したマダムたちもいたのである。

 

ネガティブ・サイド

24分で1300円は高い。テアトルさん、一律1000円でも良かったのでは?

 

かなりのスローペースで、物語らしい物語はない。背景情報だけは間接的に渡すので、そこから物語を自身で構築してくださいというのは、芸術映画にしても無責任すぎ。

 

もう少しパンパン(パンダの大型模型)の搬送シーンでのチョウの視線などにクローズアップしていれば、無くなっていくものへの寂しさとそれを心に刻みつけることの大切さ、そしてそれを追体験させてくれる映画という媒体の尊さのようなものを観る側に感得させやすくなったのではないかと思う。

 

総評

ワン・イーボーのファン以外にはお勧めしない。逆に言えばワン・イーボーのファンなら観る価値はあると言える。30分に満たない短編だというのに座席は4割以上は埋まっていた。パッと見た限り男性客はJovianと最前列のもう一名だけ。その一名もおそらく妻に引っ張り出されたのだろう、と推測する。同病相憐れむ、か。彼とJovianは言葉も視線も交わさなかったが、友になったのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

再見

ザイヂェンと発音する。アクセントは後半のチェン。読んで字のごとく、再び会おうの意。英語なら Good bye もしくは See you again. となる。おそらくニーハオ、シエシエに次いで知られた中国語ではないだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 マルホランド・ドライブ 』
『 幻魔大戦 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, D Rank, チョウ・シュン, ヒューマンドラマ, ワン・イーボー, 中国, 監督:チャン・ダーレイ, 配給会社:彩プロLeave a Comment on 『 銀幕の友 』 -朋あり遠方より来る、亦た楽しからずや-

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