Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

タグ: D Rank

『 28週後… 』 -初鑑賞-

Posted on 2025年5月12日 by cool-jupiter

28週後… 40点
2025年5月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ロバート・カーライル キャサリン・マコーマック イモージェン・ブーツ ジェレミー・レナー
監督:ファン・カルロス・フレスナディージョ

 

『 28日後… 』の間接的な続編ということでレンタル。今回が初鑑賞となる。

あらすじ

ウィルス発生から28週後。アメリカによるウィルス根絶宣言が出されたロンドンは、一部の街区に住民を呼び戻し始める。そこには子どもとの合流を待つドン(ロバート・カーライル)の姿もあった。しかし、彼はそこにたどり着くまでに妻アリス(キャサリン・マコーマック)を犠牲にしていて・・・

 

ポジティブ・サイド

前作が赤の他人同士の連帯の物語だとすれば、今作は家族の連帯が試されるという物語。それも、細部に注目すれば悲劇だが、巨視的に見ればとんでもないコメディという構成になっている。ここらへんは『 マギー 』などの後発作品にしっかり受け継がれており、新しいテーマを追求できていたと思う。

 

ジェレミー・レナーがスナイパー役だったり、イドリス・エルバが司令官役だったりと、キャストもそれなりに豪華。ドッグアイランドの軍監視の元での日常復帰は、どこかコロナの緊急事態宣言明けを思い起こさせてくれた。

 

『 28日後… 』から『 28週後… 』という流れは、韓国の『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』から『 新 感染半島 ファイナル・ステージ 』とそっくりで、本フランチャイズの影響力を物語っているように思う。

 

ネガティブ・サイド

家族というテーマ以外に、特に目新しいものはなかった。ごく少数の人間が未知の脅威と戦うというプロットが、次作では軍 vs 脅威になるというのは、まんま『 エイリアン 』から『 エイリアン2 』への流れと同じ。

 

前作では明らかにされなかった感染者の餓死までの日数は本作でも明らかにされず。しかし、冒頭の字幕では20週ぐらいかかっていた?ということは、感染者は共食いする?ロンドンが平穏に戻る過程がきわめて不明瞭だった。

 

驚異の感染力のウィルスがなぜか特定の人間には効かないというのは、マイケル・クライトンの古典的小説『 アンドロメダ病原体 』の基本プロットそのまんま。この点でもオリジナリティには欠けていた。

 

イドリス・エルバが「異種間感染しない」と断言していたが、前作でチンパンジーからヒトに移った事実はどこに行った?

 

無症候キャリアが無造作に処置室に放置されていたが、こんな貴重なサンプルはすぐさま厳重に保管されるはずではないか。米軍もコード・レッドを事前に策定しておくのは構わんが、ワクチン研究のためのサンプルの確保のプロトコルを作る必要性は想定できなかったのか。

 

最大の疑問、つまり感染者は何を材料に感染者と非感染者を区別しているのかは本作でも謎のまま。夜間の襲撃等もあったので視覚だけではありえない。聴覚も喧噪の中で非感染者を選択的に襲ったりしているので、これもありえない。では嗅覚か?だとすると香水やら化粧をつけている女性の方が襲われる率は低そうだが、実際そうなっていない。このあたりのヒントになるような情報がないと、28年後の世界、すなわち28年間、人間がかろうじて生存できるという世界につながることが想像しがたいのだが・・・

 

総評

感染封じ込めの失敗はプロットの都合上仕方ないことではあるが、その過程が非現実的すぎる。家族の絆が軍人の使命感に勝るような展開を構想すべきだった。それでこそジェレミー・レナーの行動にも説得力が出たはず。ここから『 28か月後… 』ではなく『 28年後… 』につながるとすれば、日本やインドネシア、フィリピンのような島国が舞台になるか、あるいは英国の片田舎が舞台になるのだろうか。楽しみなような、不安なような・・・

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

be pleasantly surprised

良い意味で驚かされる、の意味。ネイティブ連中が結構よく使う表現。I did a pop quiz today, and some of the students booed me, but I was pleasantly surprised by the test results. 今日は抜き打ちテストをして、何人かの学生がブー垂れたが、テスト結果には良い意味で驚かされた、のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』
『 新世紀ロマンティクス 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, D Rank, イギリス, イモージェン・ブーツ, キャサリン・マコーマック, ジェレミー・レナー, スペイン, ホラー, ロバート・カーライル, 監督:ファン・カルロス・フレスナディージョ, 配給会社:20世紀フォックスLeave a Comment on 『 28週後… 』 -初鑑賞-

『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

Posted on 2025年4月21日2025年4月21日 by cool-jupiter

片思い世界 40点
2025年4月18日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:広瀬すず 杉咲花 清原果耶
監督:土井裕泰

 

『 花束みたいな恋をした 』の土井裕康監督作品ということでチケット購入。事前情報はほとんど仕入れずに臨んだが、思っていた作品ではなかった。

あらすじ

美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)の3人は仕事、大学生活、アルバイトに勤しみながら、共同生活を送っていた。ある日、美咲が心寄せる幼馴染みの男性を見つけたことから、優花とさくらは美咲に告白を促すが・・・

 

以下、わずかなネタバレあり

ポジティブ・サイド

設定自体は割とありふれている。パッと思いつくだけでも



『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』

『 アザーズ 』

『 ザ・メッセージ 』

 

などが思い浮かぶ。本作のユニークなところは、それを3人娘の物語にしたところ。美咲、優花、さくらの三人が異なるパーソナリティを持っていて、それぞれに愛する人、会いたい人、憎むべき人を追っていくというサブプロットも悪くない。

 

魂魄この世にとどまりて怨み晴らさでおくべきかと言うが、生きていればどうしたって未練が残る。それは思慕の念であったり怨念であったりする。それを昇華して生きることの難しさや美しさが本作では存分に描き出される。

 

ストーリーに没入してもいいし、単純に目の保養のためにチケット購入するのもいいだろう。

ネガティブ・サイド

冒頭の回想シーンで「イマジナリーフレンドかな?」と思い、清原果耶の帰宅シーンで「ん、〇〇か?」と予感し、的中。もう少し導入部分を上手く組み立てられなかったか。

 

設定を必要以上に説明しようとするのは完全に蛇足であると感じた。おそらく『 TENET テネット 』にインスパイアされたのだと思われるが、脚本家は量子力学と素粒子物理学を弁別できていない。前者はミクロのレベルでは物理現象は量子化(離散的な値しか取れない)されるという前提に立つ学問で、後者は超ミクロの粒子は様々な力によって相互に作用することを研究する学問。両者は等価ではない。にもかかわらず、他世界解釈的な描写(それ自体が矛盾しているのだが)があったりと釈然としない。また素粒子物理の講義なのにシュレディンガー方程式を扱ったハンドアウトが配布されたりしている。何故だ?

 

また、3人が互いには触れ合えるのに他人に対してそうではないというのは、素粒子物理学で言うところの斥力のように感じられて興味深かったが、そうであれば3人は一定の距離以上には離れられないといった制約があればより説得力があった。

 

ラジオ放送も意味不明。ここのサブプロットは不要だった。もしくはここを追求するのであれば、合唱コンクールを録画あるいは録音した音声に子どもたち以外の声があった、という方がプロット上はより整合性が感じられるのではないだろうか。

 

優花の母の暴走を母の愛以上に描けたはずだが、そうしなかったのか、できなかったのか。「理由を知りたい」というのは実はエゴで、理由ではなく、理由を知ろうとすることそのものが自分の生きる理由になる。『 ゼロ・ダーク・サーティ 』でも、憎むべき敵をついに追い詰めた時、主人公の胸に去来したのは充実感ではなく喪失感だった。人間とは往々にしてそういうもの。もっと人間のドロドロの情念に踏み込んでほしかった。

 

美咲の書いたオペラは美しいのは美しいが、10代前半で可能な描写ではない。

 

総評

不条理な世界の設定を詩や戯曲を通じて語るのはよい。しかし、サイエンスを絡ませるのならそこも徹底すべきである。あるいはサイエンスはすべて排除すべきだった。物語世界の設定は悪くないのだから、そこに生きるキャラを徹底的に描写すべきで、世界がどうなっているのかを追究するのは不要だった。鑑賞する際は、キャラクター達だけに集中のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

relocate

引っ越しする、の意味。moveよりも少しフォーマル。I am scheduled to relocate to Tokyo due to my job transfer. のように使う。語彙力増強のためには類義語を覚えるのが早道だが、その際、レジスター(カジュアルな表現なのかフォーマルな表現なのか)を意識できれば中級者以上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』
『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ラブロマンス, 広瀬すず, 日本, 杉咲花, 清原果耶, 監督:土井裕泰, 配給会社:リトルモア, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

『 幻魔大戦 』 -ペーシングに難あり-

Posted on 2025年2月24日 by cool-jupiter

幻魔大戦 40点
2025年2月22日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:小山茉美 江守徹 古谷徹
監督:りんたろう

 

小学校3~4年生の頃、テレビで観た記憶がある。または親父が借りてきたレンタルビデオだったか。久しぶりに鑑賞して、正直なところ少しがっかりさせられた。

あらすじ

宇宙のあらゆる生命を破壊せんとする幻魔大王の魔の手が地球に迫る。トランシルバニア王国のルナ(小山茉美)は、銀河の彼方からのサイボーグ戦士ベガ(江守徹)と共に幻魔一族と戦うため地球のサイオニクス戦士たちを集めようとして・・・

ポジティブ・サイド

世紀末思想華やかなりし1980年代という感じが懐かしかった。また当時はテレビでも普通にイカサマ超能力がもてはやされていた時代で、『 スター・ウォーズ 』の理力(本当に初期はフォース=理力、ライトセイバー=電光剣、ジェダイ=共和騎士などと訳されていた)にいたく感動していたJovian少年は、サイオニクス戦士たちの闘いにハラハラドキドキしたのを覚えている。

 

人間が幻魔に乗っ取られ変態する、というのは漫画『 ゴッドサイダー 』の下級デビルサイダーの描写に影響を与えたように思う。また、アニメーション全般に『 AKIRA 』や『 迷宮物語 』の「ラビリンス*ラビリントス」との共通点や類似点も感じ取れたのが興味深かった。『 ターミネーター2 』製作前の『 アビス 』のような、一種の実験的作品だと感じられた。

 

ネガティブ・サイド

とにかく語り口がもたもたして、テンポが悪すぎる。1時間50分あるいは2時間ちょうどに収めるためにも、丈の恋人やら友人のパートはもっとカットできたはず。その一方で仲間となる地球のサイオニクス戦士たちの描写の量も非常にアンバランス。すべてのキャラに平等に時間を割く必要はない。『 11人いる! 』ぐらいのバランスで各キャラの背景などを描き出すことはできたはず。

 

幻魔の地球侵攻の描写がほぼゼロ。というか幻魔が地震や津波などの天変地異を起こせるなら、それこそサイオニクス戦士はまったく歯が立たないのでは?

 

また愛と勇気が力をもたらすという、ある種のアンパンマン的な思想は時代の反映なので仕方がないにしても、肝心の丈の愛への目覚めが死にそうになっていた動物たちを助けたいという気持ちだったというのは拍子抜け。というか、恋人(の姿をした幻魔)を死なせたり友人(の姿をした幻魔)を死なせたりしているが、実際の恋人や友人はその裏ではかなり高い蓋然性で死んでいるわけで、そうした者たちへの愛情や愛着はなかったのか?

 

どこか噛み合わないBGMに本物のクラシック音楽を使った劇伴が、それほど悪くないはずの作画のクオリティまで低く見せてしまっている。まあ、アニメ監督の大家りんたろうの肥しとなったクソ作品として受け取ろう。

 

総評

リバイバル上映された劇場では50~60代と思しき映画ファンたちが何故か真ん中の列にかたまっていたな。ノスタルジーを感じる目的で鑑賞するならOKだが、面白さを求めてはならない。一種の考古学的な態度で視聴するのが正しいスタイルと言えようか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Absolute zero

絶対零度の意。『 ゴジラ×メカゴジラ 』の機龍の最終兵器の名前もアブソリュート・ゼロ、つまり絶対零度兵器だった。ビデオゲームなどでも絶対零度はよく出てくるが、英語でも日本語でもとにかく中二病感のあふれる字面である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 マルホランド・ドライブ 』
『 バンパイアハンターD 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 未分類Tagged 1980年代, D Rank, SF, アニメ, 古谷徹, 小山茉美, 日本, 江守徹, 監督:りんたろう, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 幻魔大戦 』 -ペーシングに難あり-

『 銀幕の友 』 -朋あり遠方より来る、亦た楽しからずや-

Posted on 2025年2月23日2025年2月23日 by cool-jupiter

銀幕の友 50点
2025年2月22日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:チョウ・シュン ワン・イーボー
監督:チャン・ダーレイ

 

妻が「短編は配信されないので劇場で観たい」というのでチケット購入。

あらすじ

1990年、北京でのアジア競技大会が終わった頃、チョウ(チョウ・シュン)は中国のとある街の工場労働者向けの映画のチケットを配布していた。そこに旅から帰ってきたというリーが友人を訪ねてきて・・・

 

ポジティブ・サイド

北京に集結したアジア各国の代表たちと今度は広島で会おうと誓う歌が、中国各地に散った同胞および同朋との出会いとパラレルになっている。

 

何気ない街の日常を静かに見つめるという点では男女が逆だが『 パターソン 』に似ていると感じた。非日常から日常に回帰する時、同郷の友の訪問を受ける。何気ない営為がとても尊く、愛おしく感じられる瞬間でもある。

 

皆が一つの目的でそこに集い、一つの体験を同時に共有できるという意味で、映画館は同好の士との出会いの場と言える。実際に『 熱烈 』を通じて劇場で意気投合したマダムたちもいたのである。

 

ネガティブ・サイド

24分で1300円は高い。テアトルさん、一律1000円でも良かったのでは?

 

かなりのスローペースで、物語らしい物語はない。背景情報だけは間接的に渡すので、そこから物語を自身で構築してくださいというのは、芸術映画にしても無責任すぎ。

 

もう少しパンパン(パンダの大型模型)の搬送シーンでのチョウの視線などにクローズアップしていれば、無くなっていくものへの寂しさとそれを心に刻みつけることの大切さ、そしてそれを追体験させてくれる映画という媒体の尊さのようなものを観る側に感得させやすくなったのではないかと思う。

 

総評

ワン・イーボーのファン以外にはお勧めしない。逆に言えばワン・イーボーのファンなら観る価値はあると言える。30分に満たない短編だというのに座席は4割以上は埋まっていた。パッと見た限り男性客はJovianと最前列のもう一名だけ。その一名もおそらく妻に引っ張り出されたのだろう、と推測する。同病相憐れむ、か。彼とJovianは言葉も視線も交わさなかったが、友になったのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

再見

ザイヂェンと発音する。アクセントは後半のチェン。読んで字のごとく、再び会おうの意。英語なら Good bye もしくは See you again. となる。おそらくニーハオ、シエシエに次いで知られた中国語ではないだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 マルホランド・ドライブ 』
『 幻魔大戦 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 未分類Tagged 2020年代, D Rank, チョウ・シュン, ヒューマンドラマ, ワン・イーボー, 中国, 監督:チャン・ダーレイ, 配給会社:彩プロLeave a Comment on 『 銀幕の友 』 -朋あり遠方より来る、亦た楽しからずや-

『 ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ 』 -IT要素は極めて薄め-

Posted on 2025年2月22日 by cool-jupiter

ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ 50点
2025年2月15日~2月19日にかけて読了
著者:瀧羽麻子
発行元:集英社

 

最寄り駅の本屋でたまたま目についたので購入した本。

あらすじ

高校生の誠のもとにはネット関連の依頼が寄せられる。しかし、実際に技術的なトラブルシューティングを担当するのは幼馴染の小夜子だった。ある時、学園のマドンナ的存在から秘密の掲示板での誹謗中傷に関して誠は相談を受けるが・・・

 

ポジティブ・サイド

高校に教えに行った経験は数えるほどしかないが、確かに今の世代はネットにどっぷり、というか現実の世界とネットの世界が地続きであると捉えているように感じられる。だからこそ秘密の掲示板での誹謗中傷やら、試験問題へのハッキングなどの各エピソードがリアルに感じられた。

 

恋愛模様も健全で、サブプロットではあるがメインプロットではない。あくまでも小夜子と誠は幼馴染みで、パートナーで、そして共犯関係なのだ。このあたり、読み手によっては恋愛よりも深い人間関係を見出せるはず。

 

具体的な章立てはされていないが、割と明確に毎回の事件とその解決の描写がされているので無理のないペースで読める。

 

ネガティブ・サイド

ハッキングに対するテクニカルな描写はゼロ。別にゴリゴリのIT的な描写を望んでいるわけではない。人間はパスワードをこんな風に設定しやすいだとか、こんな風に使いまわしているのだとか、そんな程度で良いのだがそれも無し。

 

中盤にアノニマスを想起させるハッカー集団の話があるが、連中はねずみ小僧的な義賊ではなく、離合集散型の愉快犯のグループ。ジュブナイル小説っぽい本書の描写は、一部読者を勘違いさせはしまいかと少し心配になった。

 

最後のエピソードはオチというか裏側があまりにもあからさま。『 エンダーのゲーム 』と言えば、ほとんど分かるだろう。この作品自体、多くの先行作品のパロディと言えばパロディなので、まさに古典的なオチだと言えなくもない。見え見えすぎたけど。

 

総評

米澤穂信の小市民シリーズ的なものかと思ったら、もっとライトだった。これをイージーリーディングと取るか、薄っぺらいと取るかで評価がかなり分かれそう。先行する女子、それについて行く男子という構図が好きなら、ちょっと古いが小川一水の『 第六大陸 』がお勧め。こちらは多少のフィクションを交えつつも、ガッツリ技術的なポイントの描写がなされていて読み応えは抜群である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

admire

作中に Hello Sayoko. We respect your skills. という英語が出てくるが、正直なところ respectには敬服するという意味は薄く、どちらかと言うと「大切に思う」という意味が強い。 Can you respect my privacy, please?というのは、Jovian自身が大学の寮で言ったこともあるし、言われたこともある。敬服するに最も近い英語はadmireで、これは驚異の念をもって見るの意。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 幻魔大戦 』
『 マルホランド・ドライブ 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  

Posted in 未分類Tagged 2010年代, D Rank, SF, 日本, 発行元:集英社, 著者:瀧羽麻子, 青春Leave a Comment on 『 ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ 』 -IT要素は極めて薄め-

『 キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド 』 -ドラマ視聴はなしでもOKかも?-

Posted on 2025年2月19日 by cool-jupiter

キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド 50点
2025年2月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アンソニー・マッキー ダニー・ラミレス ハリソン・フォード 平岳大
監督:ジュリアス・オナー

MCUは卒業したつもりだったが、ハリソン・フォードの最後の作品だということで急遽チケットを購入。

 

あらすじ

新たなキャプテン・アメリカとなったサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)は、二代目ファルコンのホアキン・トレス(ダニー・ラミレス)と共にアダマンチウムを奪取しようとするサーペントを撃退。米大統領のロス(ハリソン・フォード)は国際協調の下、アダマンチウムの精製と分配を呼びかける。しかし、その会議の最中、ロスに対する襲撃が行われ・・・

 

ポジティブ・サイド

ファルコンがシールドとキャプテン・アメリカの称号を引き継いだことは『 アベンジャーズ / エンドゲーム 』で明示されていたが、その後のTVドラマはまったく追いかけていない。それでも何となくその世界に入っていけるのは、キャラがそれだけ立っているからだろう。

 

『 トップガン マーヴェリック 』のダニー・ラミレスが二代目ファルコンというのも興味深い。原作の漫画がどうなっているのかは知らないが、彼が3代目のキャプテン・アメリカを襲名する可能性もあると考えると、白人→黒人→ヒスパニックという米国のマジョリティの変遷と重なるようで面白い。

 

冒頭のサムの格闘シーンも、かなりスティーブ・ロジャーズ寄りで、闘い方までキャップに似せている。しかし強敵とのバトルを経て、一種の強化人間であるスティーブと生身のままのサムの違いに、サムは葛藤する。タイムスリッパ-のスティーブの苦悩とは違い、非常に人間的で、このあたりにも現代的なスーパーヒーローらしさを感じる。また、その懊悩に対して思わぬ人物からのアドバイスも。おそらくドラマを観ていないと背景が分からないが、Jovianの隣の席の若い男性がそのキャラの登場に度肝を抜かれた様子だった。

 

融和協調路線の大統領がレッド・ハルクと化すのも、民主党のバイデン政権から共和党のトランプ政権への移行を見ているようで面白かった。サディアス・ロスという人物も、気難しいことで知られるハリソン・フォードの素を見ているようで楽しかった。ハルクとファルコンでは勝負にならないはずだが、二代目キャプテン・アメリカとレッドハルクなのでそれなりの勝負になっていてもそこまで違和感はなかった。

 

ネガティブ・サイド

『 エターナルズ 』の続きものということで、生まれそうになっていたセレスティアルが石化してそのまま、という世界。そこでヴィブラニウムを超えるアダマンチウムを発見・・・と、ワカンダの超技術を否定するような導入には眉を顰めざるを得ない。キャップから受け継いだ盾よりも強い武器や防具が出てくる?世界観をぶち壊しではないか。

 

平岳大演じる尾崎首相があまりにもファンタジー。流ちょうに英語を操る政治家はちらほらいるが、アメリカ大統領に毅然と立ち向かえる政治家はいない。ロンヤス以降、小泉とブッシュ、安倍とトランプのような蜜月はあったが、決して対等な関係ではなかったし、強気に物申したこともない。加えて日本の自衛隊がアメリカの誤射(と言っていいのかどうか)に対して即座に反撃を決断。艦に防衛大臣が乗っていたとでもいうのか。日本の描かれ方が、いつもとは違う意味でリアリティに欠けていて、はっきり言ってつまらなかった。

 

アベンジャーズの再結成の機運を盛り上げたいのは分かるが、そこでは政治的な意思決定の下で動くべきなのか、それとも自らの正義を執行するために動くのかがテーマになる。それはそのまま『 シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ 』のテーマだった。経営者で現代人であるトニー・スタークとは対照的に、独ソ不可侵条約がドイツによって一方的に破られたり、あるいはポツダム宣言が時の日本の内閣によって無視されたりといったことをリアルタイムに目撃し、それらが更なる悲劇につながったこともリアルタイムで経験したスティーブの対立だった。サムにはそうした体験や正義感がないし、対立軸も存在しない。正直なところ、キャプテン・アメリカとしては力不足に感じられて仕方なかった。また、エターナルズという「サノスなんか俺らにかかれば余裕」という連中の後の世界を引き継いだというのも、そうした印象をより強めている。

 

総評

つまらないことはないが、面白くもない。そういう作品である。サム・ウィルソンに欠けている対立軸は、今後登場がほぼ確定のマルチバースの世界のヒーローたちになるのだろうが、マルチバースはもう十分。やるとすればヴィランとの対立ではなく自分との対立ということになるのだろうが、それは『 デッドプール&ウルヴァリン 』でデッドプールが先にやった。続編は見ない可能性の方が高いかな。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pull the strings

「~について裏で糸を引く」ということ。日本語の慣用表現とそっくりなのは、どちらかがどちらかを訳して取り入れたからか、それとも共通の由来を持つのか。映画やドラマ、小説で ”It was her. She’s been pulling all the strings from the beginning.”  のような感じで普通に使われる表現だが、検定試験には出なさそう。英検準1級または1級の大問1にひょっとしたら出題されるかも?

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 Welcome Back 』
『 大きな玉ねぎの下で 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 未分類Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, アンソニー・マッキー, ダニー・ラミレス, ハリソン・フォード, 平岳大, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド 』 -ドラマ視聴はなしでもOKかも?-

『 怪獣ヤロウ! 』 -終わり悪ければ何とやら-

Posted on 2025年2月12日 by cool-jupiter

怪獣ヤロウ! 40点
2025年2月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ぐんぴぃ
監督:八木順一朗

 

好物の怪獣ものと思いきや、何やら一杯食わされたような気分に・・・

あらすじ

岐阜県関市の観光課は市長からご当地映画の製作を命じられる。かつて怪獣映画の監督を志していた山田(ぐんぴぃ)は監督に立候補。関市の魅力をアピールするための映画作りに邁進するが・・・

ポジティブ・サイド

特撮がロストテクノロジーになりつつある、というかなってしまった時代に怪獣映画を作ろうという心意気や善し。(本多猪四郎+円谷英二)÷2というキャラまで出してしまうのには笑った。地場産業の仕事場から映像やら音声やらを頂戴して、それらを映画作りに生かすのはご当地ムービーとしてもお仕事ムービーとしても見応えがあった。

 

また、近年では都道府県あるいは市町村の長のパワハラがニュースになっているが、本作での関市長はそうした自治体の長としての姿を非常にユーモラスに描き出している。また、手塚とおるを久々に見た気がするが、この男はどうしても『 ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 』を思い起こさせる。そういった意味ではナイスなキャスティングだ。『 ハルカの陶 』で偏屈職人を演じた平山浩行が本作では刀鍛冶に。備前長船の物語を作ることがあれば、彼のキャスティングを見てみたい。B級の帝王・田中要次や、個人的に江田島平八のイメージの強い麿赤兒など、B級コメディ的なキャスティングは全体的に成功であったと思う。

 

伊福部ゴジラサウンドのオマージュもなかなか。無理やり感は否めないが、ご当地映画として様々なガジェットを盛り込んだ映画を最終的に作り出した点は賞賛に値する。

 

ネガティブ・サイド

 

実際に出来上がった映画の冒頭のスーパーインポーズで、伝統至上主義を掲げるの「掲げる」が「揚げる」になっていなかったか。同じ「かかげる」でも意味が違う。

 

雨の中、市長が映画製作基地に尋ねてくるが、落ちていたという本部の半紙がまったく濡れていなかったのは何故なのか。

 

誘雷針(避雷針)の働きがおかしい。普通に火薬の分量間違いで良かったのでは?

 

最後の最後、絵的にまったく美しくなかった。『 シン・ウルトラマン 』の長澤まさみですら批判されまくっていたのを、本作の作り手たちはまったく知らなかったのか、それとも意に介さなかったのか。そんなはずはないと思うが。そもそも怪獣のミニチュアで色々と撮影していたのは何だったのか。

 

本作の最大の問題は、劇中作がご当地映画の本質を外してしまっているところ。ご当地映画を契機に観光客を呼び込みたい、外部の人間に関市を知ってほしいというなら、映画の主人公は関市出身者であってはおかしい。Jovianが酷評した『 しあわせのマスカット 』も、佳作だと評した『 ハルカの陶 』も、主人公はご当地(岡山県)の外部からやって来た。それは当地の産物に惹かれたからだ。地方出身の若者が東京に行って帰ってくるのは、

 

1)本当に故郷が良い街だから

2)東京で夢破れたから

 

のどちらか。そして理由は往々にして2)である。商店街がシャッター街になるのは不景気と後継者不足が原因。後継者不足=若者の不在、あるいは若者の事業継承の拒否。それは地元愛、郷土愛の否定とは言わないまでも不足を意味している。そこを打破するような映画ではなかった。

 

もうひとつ、怪獣をある感情の謂いだと某キャラが述べていたが、これにも違和感を覚えた。映画に感情をぶつけ、映画で感情を表現するのは『 息もできない 』などの例があるが、怪獣は違うだろう。いや、子どもが「ぼくのかんがえたさいきょうのかいじゅう」をやるのはいいが、大人はそうあるべきではない。だからこそ本多猪四郎・・・じゃなかった某キャラは業界および世間から干されたのではなかったか。

 

総評

怪獣映画としてもご当地映画としても本筋を外している感は否めない。ただし、コメディとしてはそれなりにまとまっている。妙なロマンス要素などは一切排除されているので、案外『 県庁おもてなし課 』をつまらないと感じた向きは、本作を役所のお仕事ムービーとして楽しめるかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Tourism Division

観光課の意。実際の関市のホームページで確認した。観光とだけ辞書で引くと sightseeing と出てくるが、これは読んで字のごとく、光景を見るということ。なので旅行者側のアクションを指す。Tourismは余暇や文化体験などを目的とした旅のこと。「市役所職員として地元の観光を盛り上げたい」というような場合は promote local tourism と言う。promote local sightseeing は文法的に問題はなくても変な英語である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 メイクアガール 』
『 Welcome Back 』
『 大きな玉ねぎの下で 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 未分類Tagged 2020年代, D Rank, ぐんぴぃ, コメディ, 日本, 監督:八木順一朗, 配給会社:彩プロLeave a Comment on 『 怪獣ヤロウ! 』 -終わり悪ければ何とやら-

『 ペナルティループ 』 -タイムループものの珍品-

Posted on 2025年2月8日 by cool-jupiter

ペナルティループ 55点
2025年2月3日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:若葉竜也 伊勢谷友介 山下リオ
監督:荒木伸二

 

劇場公開時に見逃してしまったので、近所のTSUTAYAで借りてきて鑑賞。

あらすじ

岩森(若葉竜也)は恋人の唯(山下リオ)を謎の男、溝口(伊勢谷友介)に殺害されてしまう。復讐に燃える岩森は綿密な計画の元、首尾よく溝口を殺害し、死体を遺棄する。しかし、翌朝目が覚めるとなぜか日付が戻っていて溝口も生きている。岩森は謎のタイムループの中、溝口を殺し続けるが・・・

 

ポジティブ・サイド

ネタバレ防止のために白字にするが、

 

『 マトリックス 』

『 エンドレス 繰り返される悪夢 』

『 神回 』

『 レミニセンス 』

『 アーカイヴ 』

『 本心 』

 

のような映画を邦画でやってみました、という感じ。面白いのは『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』のように少しずつ先に進んでいくのではなく、とても奇妙な camaaderie が生まれるところ。これもネタバレ要素なので、敢えて英語で書く。また『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』ではトム・クルーズが殺されまくるが、本作では主人公の側が殺しまくる。これは結構斬新な設定であるように思う。ループの仕組みもタイムリーと言うか、数十年後には実現できそうとは感じる。

 

若葉竜也は『 市子 』や『 嗤う蟲 』と似たような設定ながら、狂気に囚われるそれらの作品とは異なり、ある意味でとてもユーモラスに達観する、諦念する人物を好演。また久しぶりに見る伊勢谷友介も、シリアスさとコミカルさを同居させた演技が光った。

 

ネガティブ・サイド

単純な疑問として、どうやって溝口が下手人だと分かったのか。というか、下手人だと設定できたのかと言うべきか。

 

さらに根本的な疑問として、唯の本心とされている願望が果たして本当なのかどうか。また溝口が主人公と同じようなステータスを与えられているのも疑問。まあ、設定だと言われればそれまでだが。

 

ゲーテの『 ファウスト 』よろしく、今この生を享受せよというメッセージがあるのだろうが、それを言いたいがための最終盤のシーンはかなり強引かつ絵的にも美しいものではなかった。こういう作品は社会性など求めず、『 CUBE 』のようなスパっとした切れ味で終わるべき。具体的には unplug するシーンでエンドロールになだれ込むべきだった。

 

総評

『 人数の町 』同様に、どこかにあるかもしれない世界という設定にはリアリティがあったし、その世界の中身もそれなりにしっかり構築されていた。ただ、その世界の中でキャラを巧みに動かせていたかというと疑問が残る。ただ、タイムループというジャンルに新しい視点を持ち込んだことは確か。伊勢谷友介のファンなら(ショッキングかもしれないが)鑑賞をされたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

keep sb in the loop

人をループの中に保つ、転じて「情報のやり取りの輪の中に誰それを入れる」の意。前の部署では頻繁に使っていたし、聞こえてもいた。まずは職場やクライアントに、”Keep me in the loop, please.” と伝えるところから始めてみようではないか。そういえば、Why am I not in the loop? と定期的に営業スタッフに激怒していた前の部署の中年ブリティッシュは元気にしているだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 未分類Tagged 2020年代, D Rank, SF, 伊勢谷友介, 山下リオ, 日本, 監督:荒木伸二, 若葉竜也, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 ペナルティループ 』 -タイムループものの珍品-

『 ライオン・キング:ムファサ 』 -凡庸な前日譚-

Posted on 2024年12月30日 by cool-jupiter

ライオン・キング:ムファサ 50点
2024年12月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アーロン・ピエール ケルビン・ハリソン・Jr
監督:バリー・ジェンキンス

 

『 ライオンキング(2019) 』前日譚ということでチケット購入。

あらすじ

シンバは息子キアラの世話を旧知のラフィキ、ティロン、プンバァに託す。ラフィキはそこで、偉大な王ムファサの物語をキアラに語り掛けて・・・

ポジティブ・サイド

CGの美しさは言わずもがな。風景に至っては、最早一部は実写と見分けがつかない。水のシーンは『 ゴジラ-1.0 』の海のクオリティにも決して劣らない。

 

前日譚ではあるが、前作のキャラも大量に登場。やはりプンバァとティロンが出るだけで『 ライオンキング 』の世界という感じがする。ザズーとムファサの出会いが描かれていたのも個人的にはポイントが高い。

 

ライオンの習性というか、オスの旅立ちとはぐれライオンによるプライドの乗っ取り、まったく赤の他人のオス同士が広大なサバンナでたまたま出会い、パートナーになっていくなど、近年の調査で明らかになりつつあるライオンの実像を盛り込んだストーリー構成も悪くない。

 

随所に「おお、これがあれにつながるのか」というシーンが盛り込まれていて、前作ファンへのサービスも忘れていない。

 

命の輪のつながりを実感させるエンディングは予想通りではあるものの、非常にきれいにまとまった大団円だった。

ネガティブ・サイド

楽曲がどれも弱かった。”He lives in you.” や “Can you feel the love tonight?” は再利用不可能だとしても、せめて “Circle of Life” は聞きたかった。命の輪について劇中で何度も触れるのだから、なおさらそう感じた。

 

若き日のスカーであるタカが色々な意味で可哀そう。Like father, like son.という言葉があるが、父親のオバシのある意味で過保護と歪な愛情がタカを作ったわけで、タカそのものは悪戯好きな、よくいる子どもに過ぎない。また母のエシェもムファサに向ける愛情のいくらかを実子のタカに向けられなかったのか。子どもにとって親から信頼されることと親から愛されることは似て非なるもので、前者よりも後者の方が必要なはず。

 

ムファサもタカに命を救ってもらい、プライドにも(中途半端ながら)加入させてもらったことに一度もありがとうと言っていないところも気になった。タカの傷にしても、なにか辻褄合わせのように見えた。Let’s get in trouble もっと幼少期のムファサとの遊びの中で、ムファサの不注意で、あるいはムファサをかばったことで負った傷という設定にはできなかったか。

 

総評

鑑賞後のJovian妻の第一声は「タカが可哀そう」だった。Jovianもこれに同意する。詳しくは鑑賞してもらうしかないが、このストーリーは賛否の両方を呼ぶと思われる。ただし誰にとっても楽しい場面はあるし、楽曲のレベルも低いわけではない。家族で見に行くにはちょうどいい塩梅の物語とも言える。チケット代を損したという気分にはならないはずだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

steal one’s thunder

直訳すれば雷を盗むだが、実際は「お株を奪う」、「出し抜く」の意。

You’re closing deals with companies A, B, and even C? You’re stealing my thunder!
A社、B社、さらにC社とも契約を結べそうだって?俺の出番を奪わないでくれよ!

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ 』
『 #彼女が死んだ 』
『 アット・ザ・ベンチ 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アーロン・ピエール, アメリカ, ケルビン・ハリソン・Jr., ミュージカル, 監督:バリー・ジェンキンス, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 ライオン・キング:ムファサ 』 -凡庸な前日譚-

『 はたらく細胞 』 -安易なお涙ちょうだい物語-

Posted on 2024年12月24日 by cool-jupiter

はたらく細胞 45点
2024年12月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:阿部サダヲ 芦田愛菜 永野芽郁 佐藤健
監督:武内英樹

 

かつて医療従事者を志した者として興味本位でチケット購入。

あらすじ

漆崎日胡(芦田愛菜)は、父の茂(阿部サダヲ)と2人暮らし。日胡の献身的な料理などにも関わらず、茂は不摂生を繰り返す。そんな茂の体内の細胞たちは労働環境の悪さに不平不満を募らせており・・・

ポジティブ・サイド

『 テルマエ・ロマエ 』や『 翔んで埼玉 』で見られた武内監督のコメディとパロディの卓越した感覚は本作でもいかんなく発揮されている。USJやディズニーランド的なキラキラな日胡の体内世界と、大阪の新世界をとことん薄暗くしたような茂の体内世界のコントラストが映える。コレステロールで閉塞した血管が昔の大阪の新世界あたりの薄暗い、チープな飲み屋街に重なって見えたところは笑えた。

 

白血球が繰り広げる各種のバトルや、キラーT細胞やNK細胞との働きの違いの描写もエンタメ作品としては十分に合格。赤血球が道に迷ったり、クッパー細胞に食われるところも笑える。

 

ある意味、一番の見どころは肛門の括約筋と便のせめぎ合い。トレーラーでもガッツリ映っていたのでネタバレでもなんでもないだろう。このシークエンスを下品と思うことなかれ。便意との戦いを経験したことのない人間などいないのだから。ここは大いに笑わせてもらった。

 

終盤のとある治療のシーンの映像表現には唸った。たしかに見方によっては cosmic ray に見えないこともない。着想としては素晴らしいと思う。

 

佐藤健が終始るろうに剣心のセルフ・パロディをしているのも楽しめた。

ネガティブ・サイド

色々と誤解を生みかねない、危うい表現があった。茂が便潜血陽性に対して「ただの痔だ」と返すが、その血が痔のみに由来するのか、それとも消化管からの出血を含むのか、それは詳しく検査しないと分からない。医学部志望の日胡ならそれぐらいの反論はできそうだがそれもなし。中年サラリーマンが便潜血陽性=痔だと勘違いしなければいいのだが。

 

新米赤血球と先輩赤血球のやりとりはユーモラスだったが、痔からの出血(?)と共に大便と運命を共にした赤血球の台詞には???だった。便の色はビリルビンの色で、ビリルビンの材料は分解された赤血球だ。「脾臓送りにされちまう」みたいな台詞も聞こえたが、赤血球は何をどうやっても最後はほとんど便と一緒に流される運命なのだ。

 

白血球が赤血球から酸素を受け取るシーンも、それが実際に体内で起きている反応だと受け取る人間もいるかもしれない。事実を大袈裟にカリカチュアライズするのは構わないが、事実ではないことをカリカチュアライズするのには細心の注意が必要だ。後述するが、本作の製作者はそのあたりを特に意識せず、取材や考証を綿密には行っていない。

 

好中球やキラーT細胞にヘルパーT細胞、NK細胞まで出てくるのに、ある意味で免疫の主役とも言えるB細胞が一切出てこなかったのは何故?B細胞の産生する「抗体」こそ、ワクチン接種を経験した多くの人々に最もなじみ深い生体防御能力ではないか。それとも、抗体=一種のミサイルという比喩を、別の物に使ってしまったために、B細胞の出番をすべてカットしたとでも言うのか。

 

ある治療後に患者が帽子をかぶっている。それはいい。ただ、特徴的な眉毛が全部残っているのには頭を抱えた。剃れとは言わん。メイクで何とかできるし、そうすべき。問題は、監督その他のスタッフがこの病気の患者に取材も何もしていないと感じられるところ。

 

最後にあまり言いたくはないが、邦画のダメなところが出てしまった。病気で死にそうになるとか、そういう安易なプロットはいらない。最初は「お、特発性血小板減少性紫斑病か?」と思ったが、まさか leukimia とは・・・ いや、別にそれならそれでいい、リアリティさえしっかりしていれば。そのリアリティがお粗末だったのは大きな減点材料。

 

総評

コロナ以降、免疫に関する一般の知識は確実に向上している。法改正以降、どこか緩んでいた人々の意識も、最近のインフルやコロナの流行で少し引き締まっているのではないか。そんな時期に封切りとなったのは配給側の周到な読みが当たったと言えるのかもしれない。観終わって自分の体内の細胞たちに思いを馳せるきっかけにするには良い映画。ただし、本作で描かれている内容が科学的・生物学的に概ね正しいとは決して受け取ってはならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

neutrophil

ニュートロフィル、つまり好中球を指す。cinephile(発音はシネファイル)が映画好きを指すように中性を好むという意味である。白血球には他にも好酸球や好塩基球があるが、一般に感染症に対して働くのは好中球だと思っておいてよい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 レッド・ワン 』
『 ライオン・キング:ムファサ 』
『 I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, コメディ, 佐藤健, 日本, 永野芽郁, 監督:武内英樹, 芦田愛菜, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画, 阿部サダヲLeave a Comment on 『 はたらく細胞 』 -安易なお涙ちょうだい物語-

投稿ナビゲーション

過去の投稿

最近の投稿

  • 『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』 -青春の痛々しさが爆発する-
  • 『 28週後… 』 -初鑑賞-
  • 『 28日後… 』 -復習再鑑賞-
  • 『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-
  • 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

最近のコメント

  • 『 i 』 -この世界にアイは存在するのか- に 岡潔数学体験館見守りタイ(ヒフミヨ巡礼道) より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に cool-jupiter より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に 匿名 より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に cool-jupiter より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に イワイリツコ より

アーカイブ

  • 2025年5月
  • 2025年4月
  • 2025年3月
  • 2025年2月
  • 2025年1月
  • 2024年12月
  • 2024年11月
  • 2024年10月
  • 2024年9月
  • 2024年8月
  • 2024年7月
  • 2024年6月
  • 2024年5月
  • 2024年4月
  • 2024年3月
  • 2024年2月
  • 2024年1月
  • 2023年12月
  • 2023年11月
  • 2023年10月
  • 2023年9月
  • 2023年8月
  • 2023年7月
  • 2023年6月
  • 2023年5月
  • 2023年4月
  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme